説明

カチオン可染ポリエステル中空断面糸

【課題】汎用ポリエステル瀬絵にはない染色鮮明性と、従来のカチオン可染ポリエステル繊維よりも強度、耐磨耗性に優れ、かつポリエステル繊維の欠点である軽量感に優れた新規なカチオン可染性ポリエステル中空断面糸並びに該中空断面糸を含む、膨らみの良好な優れた風合の織編物となし得る新規なポリエステル混繊糸を提供する。
【解決手段】特定のスルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜0.6モル%共重合した極限粘度0.6以上の改質ポリエステルからなる、単糸横断面形状が中空形状でその単糸中空率が5%以上のポリエステル中空断面糸によって上記課題を達成する。このポリエステル中空断面糸と沸水収縮率差が4〜45%のポリエステル糸とを混繊した複合糸は良好な風合いの織編物となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン染料により染色可能で優れた染色鮮明性をもち、かつ衣料用途での軽量感を改善することを可能とした新規なポリエステル中空断面糸並びにそれを用いた混繊糸及びそれらを用いた織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、効率的生産・加工に適した機械的強度や製品化後の発色性、製造特性の良さなどから広く生産され、今や合成繊維の代表的存在となるまでに発展した。しかしながら、しばしば合成繊維の目標とされた、絹、麻、羊毛、綿に代表される天然繊維やその他の合成繊維に比べ、ポリエステル繊維のもつ欠点ともいえる原料比重の重さに起因して、特に衣料用途では合成繊維の劣悪な代表的質感とされる重量感があり、その改良のために見掛け比重(嵩当たりの重さ)を小さくするため、種々の検討がなされてきた。
【0003】
ポリエステル繊維の見掛け比重を小さくする方法としては多くの方法が提案されているが、その代表的方法として単糸断面形状を中空化する方法がある。単糸断面形状の中空化の際に重要になるのは、ポリエステル原料特性、特に紡糸時に影響する溶融粘性と、布帛形成時の機械的強度と染色加工時の加熱による中空割れを低減可能な材料強度を有することであり、かかる特性はポリエステルポリマー製造時の固有粘度に代表される数値で表すことができる。
【0004】
一方、繊維製品の質的向上を狙って、ポリエステル繊維の染色性の改善が従来から検討されてきた。ポリエステルは繊維単体での白度、透明性などに優れていることから、他の合成繊維に比べ染色時の発色性が比較的良いことは広く知られている。しかしながら、その染色工程においては、優れた繊維の機械特性と相反して常圧下での分散染色では十分な発色性が得難く、高圧染色することが平常化している。また、ポリエステル繊維製品の多用途化に伴い、テキスタイル及び/又は繊維製品段階で、先染め以外での多色化が求められ、これらの問題を解決する方法としてポリエステルポリマーのカチオン染料による可染化が提案されている(下記特許文献1及び2参照)。
【0005】
これらの方法によると、後の染色加工工程にてカチオン染料による染色が可能となり、分散染料による染色に比べ優れた発色性と鮮明性をもつ染色物を得ることができる。また染色性の異なる繊維を含む繊維製品をカチオン染料と分散染料と同浴に用いて異色に染め分けることも可能となる。
【0006】
しかしながら、カチオン染料で染色可能(本発明では「カチオン可染」という)なポリエステルは、ポリマーの重合段階でカチオン可染成分を共重合するために、その共重合物のイオン架橋により溶融粘性が高くなりやすく、ポリマー重合度を上げることが難しくなる。このため、増粘効果と設備的許容限界の問題で、汎用ポリエステルポリマーに対して重合度が低い状態で重合を終了し吐出する必要がある。そしてこれらのカチオン可染ポリマーから得られるポリエステルフィラメントは、その低い重合度により汎用ポリエステルフィラメント並みの強力を得ることが難しく、衣料用途のなかでも限られた範囲でしか使用できないという欠点があった。
【0007】
一方、アパレル分野におけるファッションの多様化は、消費者の個性表現としての役割を増し、特に活動的な場面では消費者が個性の主張を求めるようになった。具体的にアウトドアやスポーツ衣料といった分野では、鮮明色による個性の表現がファッション性として重要視されるようになり、一般衣料とは違った鮮明色が要求されるようになった。
【0008】
以上のような背景のなかで、スポーツ用途などで運動の妨げにならない、優れた軽量感と風合いを兼ね備え、かつ機械的特性としても布帛や繊維製品での引張り強度や耐磨耗性に優れ、かつ防水、防汚やUVカット加工などの高温加熱を伴う厳しい加工条件の加工に耐え得るカチオン可染ポリエステル中空フィラメント糸の開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特公平3−79450号公報
【特許文献2】特公昭58−38550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記背景技術に鑑みなされたもので、その第1の目的は、汎用ポリエステルにはない染色鮮明性と、従来のカチオン可染ポリエステル繊維よりも強度、耐磨耗性に優れ、かつポリエステル繊維の欠点である軽量感も改善された新規なカチオン可染ポリエステル中空断面糸を提供することにある。また、本発明のさらなる目的は、かかるカチオン可染ポリエステル中空断面糸と高収縮ポリエステルフラメント糸とを組み合わせた、膨らみの良好な織編物となし得る混繊糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記課題は、以下のカチオン可染ポリエステル中空断面糸及びそれを用いた混繊糸、並びにそれらを用いた織編物よって達成される。
【0012】
[1]下記一般式(I)によって表されるスルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜0.6モル%共重合した極限粘度0.6以上の改質ポリエステルからなるカチオン可染ポリエステル糸であって、該繊維単糸横断面形状が中空形状でその単糸中空率が5%以上であることを特徴とするカチオン可染ポリエステル中空断面糸。
【化1】

[2]上記[1]のカチオン可染ポリエステル中空断面糸と該中空断面糸との沸水収縮率差が4〜45%のポリエステルフィラメントとを引き揃え、混繊してなることを特徴とするカチオン可染ポリエステル混繊糸。
[3]上記[1]のカチオン可染ポリエステル中空断面糸及び/又は上記[2]のポリエステル混繊糸を構成糸として含むことを特徴とする織編物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカチオン可染性を有する中空断面ポリエステルフィラメント糸によれば、優れた染色発色性と強度を併せ持ち、かつ単糸断面形状の中空化による布帛状態での軽量感を改善することができ、しかも引き裂き強度や耐磨耗性に優れた鮮明色を呈する布帛を提供することができる。また、本発明の混繊糸によれば、上記の効果に加え、膨らみに富んだ良好な風合いの織編物を得ることが出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明におけるポリエステルは、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルを主たる対象とする。かかるポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲内であれば、他の成分、例えばフタル酸、アジピン酸、セバチン酸、ブチレングリコール、トリメチレングリコール、ナフタレンジカルボン酸などを共重合してもよい。また、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増泊剤、艶消剤、整色剤、消泡剤その他の添加剤を配合してもかまわない。
【0015】
本発明のカチオン可染中空断面ポリエステルフィラメント糸は、下記一般式(I)によって表されるスルホン酸4級ホスホニウム塩が共重合されたカチオン染料で染色可能な改質ポリエステルで構成される。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明における改質ポリエステルは、上記一般式(I)で表されるスルホン酸4級ホスホニウム塩が0.1〜6.0モル%、好ましくは0.5〜4.5モル%共重合されていることが必要である。
【0018】
かかるスルホン酸4級ホスホニウム塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、4−ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、α−テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸などをあげることができる。上記スルホン酸ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0019】
上記スルホン酸4級ホスホニウム塩をポリエステルに共重合するには、既に述べたポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で、好ましくは第1段の反応が終了する以前の任意の段階で添加すればよい。
【0020】
スルホン酸4級ホスホニウム塩をポリエステルに共重合させる割合は、ポリエステルを構成する二官能性カルボン酸成分(スルホン酸塩を除く)に対して0.1〜6.0モル%の範囲が適当であり、特に0.5〜4.5モル%の範囲が好ましい。共重合割合が0.1モル%より少いと、得られる共重合ポリエステルのカチオン染料に対する染色性が不充分になる傾向があり、6.0モル%より多くなるとカチオン染料による染色性はもはや著しい向上を示さず、かえってポリエステル繊維の物性が低下するため、良好な中空断面糸の製造が困難で、本発明の目的を達成し難くなる。
【0021】
本発明では、上記改質ポリエステルを製造する際に、上記一般式(I)で表わされるスルホン酸4級ホスホニウム塩と共に少量の下記一般式(II)で表わされるスルホン酸3級ホスホニウム塩を併用すると、その重合過程における分解反応が抑制され、得られる改質ポリエステル及びそれよりなる繊維の色調が極めて良好になるので、好ましい。
【0022】
【化3】

【0023】
上記一般式(II)式中、Bは上記一般式(I)におけるAと同様に定義され、3価の芳香族基又は脂肪族基を示し、なかでも芳香族基が好ましい。X3は上記一般式(I)におけるX1と同様に、エステル形成性官能基を示し、その具体例としてカルボキシル基又はその誘導体などをあげることができる。X4は上記一般式(I)におけるX2と同様に、X3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を示し、なかでもエステル形成性官能基であることが好ましい。また、R5、R6及びR7は、上記一般式(I)におけるR1、R2及びR3と同様に、それぞれアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一もしくは異なる基を示す。そして、nは正の整数である。
【0024】
かかるスルホン酸3級ホスホニウム塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリエチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリプロピルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリベンジルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリヘキシルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリオクチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリシクロヘキシルホスホニウム塩などをあげることができる。
【0025】
上記スルホン酸3級ホスホニウム塩の使用量は、あまりに少ないと改質ポリエステルが黄褐色に着色することを防止する効果が不十分になり、あまりに多くても、着色防止効果は飽和し、かえって物性特に耐熱性を悪化させることがあるので、上記スルホン酸4級ホスホニウム塩に対して0.5〜10モル%の範囲が適当であり、特に1〜4モル%の範囲が好ましい。このスルホン酸3級ホスホニウム塩の添加時期はスルホン酸4級ホスホニウム塩と同様に、ポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で添加すればよく、スルホン酸4級ホスホニウム塩と同時に添加しても、別々に添加してもよい。また、上記スルホン酸4級ホスホニウム塩の製造段階において、スルホン酸3級ホスホニウム塩が副生して、生成スルホン酸4級ホスホニウム塩の中に一部残存することがある。この場合精製条件を制御して残存するスルホン酸3級ホスホニウム塩の量を上記範囲にすれば、別に添加しなくてもよい。
【0026】
本発明では、さらに上記改質ポリエステルを製造するに当って、第4級オニウム塩を添加するのが好ましい。かかる第4級オニウム塩としては第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩などがあり、具体的には第4級アンモニウム塩としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、沃化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトライソプロピルアンモニウム、塩化テトライソプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラフェニルアンモニウム、塩化テトラフェニルアンモニウムなどが例示される。また、第4級ホスホニウム塩としては、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドなどが例示される。
【0027】
上記第4級オニウム塩の使用量はあまりに少ないと耐熱性を改善する効果が不十分になり、逆にあまりに多くなると、かえって耐熱性が悪化するようになり、その上生成ポリエステルや成形物が黄褐色に着色する傾向がある。このため第4級オニウム塩の使用量は、上記スルホン酸ホスホニウム塩の合計量に対して0.1〜20モル%の範囲が好ましく、なかでも1〜10モル%の範囲が特に好ましい。
【0028】
かかる第4級オニウム塩の添加時期は上記ポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階でよく、例えばポリエステルの原料中に添加しても、第1段階の反応中に添加しても、第1段階の反応終了後から第2段階の反応開始までの間に添加しても、第2段階の反応中に添加してもよい。
【0029】
第4級オニウム塩と上記スルホン酸ホスホニウム塩との添加順序は任意でよく、両者を予め混合した後に添加することもできる。また、スルホン酸ホスホニウム塩の製造に際して、第4級ホスホニウムハライドなどの第4級ホスホニウム塩とスルホン酸金属塩との反応による合成方法を採用することがあり、その場合原料の第4級ホスホニウム塩が反応生成物であるスルホン酸ホスホニウム塩の中に残存することがある。かかる場合にはあらためて第4級ホスホニウム塩を添加することを要さず、この残存第4級ホスホニウム塩を利用することもできる。
【0030】
また、本発明では、上記改質ポリエステルの極限粘度(25℃オルソクロロフェノール溶液で測定)は0.60以上、好ましくは0.64〜0.80であることが望まれる。特に極限粘度は、中空断面フィラメント糸の強度に影響し、0.60未満では、十分な糸強度を得ることができない。スポーツ衣料用を含めた汎用用途として十分な耐磨耗性や、引き裂き強力を発現するレベルのフィラメント強度を得るためには、製糸原料のポリマー段階で極限粘度が0.64以上である必要がある。特に、極限粘度が0.64以上であれば、製糸、製織後の加工工程において、染色により優れた鮮明性と染色による中空割れなどのない加工安定性を発現し、同時に耐磨耗性と引き裂き強力に優れた布帛を得ることができる。
【0031】
本発明のカチオン可染ポリエステル中空断面糸の、中空断面については単糸横断面が中空形状でその単糸中空率が5%以上であることを満足すればよい。なかでも単糸中空率は20〜45%程度の範囲が好ましいが、原糸の強度、軽量性又は布帛での耐磨耗性、引き裂き強力を損なわない範囲であれば、5%以上の範囲内で適宜選択可能である。
【0032】
本発明のカチオン可染ポリエステル中空断面糸は、それ単独で使用することもできるが、特に、該中空断面糸と沸水収縮率の異なる高収縮ポリエステル糸と引き揃えて混繊糸を製造するのに有用である。
【0033】
本発明のカチオン可染ポリエステル中空断面糸と沸水収縮率が異なる高収縮糸と引き揃えて混繊糸を製造する場合、高収縮糸と本発明のカチオン可染中空断面ポリエステルフィラメントとの沸水収縮率差は4〜45%、好ましくは8〜35%であることが好ましい。該沸水収縮率差が4%未満では、目的とする風合い、特に膨らみ感を十分に発現することが難しく、特に本発明のカチオン可染ポリエステル中空断面糸の曲げ剛性の高さにより、布帛形成後に十分な糸足差を発現することができない。一方、沸水収縮率差45%を超えると、高収縮糸の加工途中の急激な収縮により布帛表面に収縮斑を発現し、著しく布帛品位を低下させることがある。これは後の生機形成後の後加工工程での条件調整を含めての技術的課題となる。
【0034】
本発明では混繊比は特に制限されず、カチオン可染中空断面糸/高収縮ポリエステル糸の総繊度比は混繊複合糸の用途に応じて適宜選定される。
上記条件を満たしさえすれば、混繊糸の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法が任意に採用できる。例えば、図1に示される一般的な混繊装置を用い、引き揃えられた両糸条を、空気交絡処理装置を用いてそれらの構成フィラメント同士を混繊交絡させればよい。
【0035】
すなわち、図1は、本発明のカチオン可染中空断面糸を用いた混繊糸の製造方法の例を説明する図であり、図中のAは混繊糸で鞘糸となるカチオン可染中空断面糸であり、Bは芯糸となる高収縮ポリエステル糸である。これらの糸はともに原糸供給ローラー1及び予熱ローラー2を経て圧縮空気交絡装置3により繊維間の交絡が付与された後、セットヒーター5で熱セットされ、引き取りローラー4によって引き取られ、製品の混繊糸パッケージ6となる。
【0036】
このように製造された混繊糸は織編物として例えば染色などで熱が加えられると、適度な軽量感を有しながら、耐磨耗性と引き裂き強力に優れ、しかも膨らみ感のある、かつ鮮明色を呈する軽量な織編物となる。この織編物は、特に運動機能を妨げないという利点もあるので、アウトドアやスポーツ衣料に適したものとなる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各例における各評価項目は下記の方法で測定した。
【0038】
<沸水収縮率>
JIS L1013「化学繊維フィラメント試験方法」収縮率測の熱水収縮率A法にしたがった。
<軽量感>
カチオン可染ポリエステルフィラメントを用いて、経糸、緯糸共に同じ原糸を用いて平織り組織の織物を作製し、90℃、30分間リラックス後の生地について、50cm四方の正方形に布帛を切り取り、膨らみ感を含めてその重量感について、5名のパネラーによる官能検査の平均的評価を、優、可、不可の3段階で表した。
<中空率>
製糸後のカチオン可染ポリエステルフィラメントについて、原糸横切断面の顕微鏡観察を行い、その際の単糸外接円面積に占める中空部分の面積割合を百分率で表した。なお、測定に際しては、同一条件の原糸10本について各5回原糸横断面顕微鏡観察を行い、1回の観察で任意に単糸10本を選択抽出して中空率を求め、合計500点の平均値を中空率とした。
【0039】
[実施例1〜6]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸マンガン4水塩0.03部(テレフタル酸ジメチルに対して0.024モル%)、整色剤として酢酸コバルト4水塩0.009部(テレフタル酸ジメチルに対して0.007モル%)、テレフタル酸ジメチルに対して2.0モル%の量の3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラ−n−ブチルホスホニウム塩及びテレフタル酸ジメチルに対して0.050モル%の量のテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドをエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下3時間かけて140℃から220℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応させた。続いて得られた生成物に安定剤として正リン酸の56%水溶液0.03部(テレフタル酸ジメチルに対して0.003モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールの昇温追出しを開始した。10分後重縮合触媒として三酸化アンチモン0.04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加した。内温が240℃に達した時点でエチレングリコールの追出しを終了し、反応生成物を重合缶に移した。
【0040】
次いで、昇温しながら内温が260℃に達するまで常圧反応させた後、1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧し、同時に1時間4.5分かけて内温を280℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度280℃でさらに2時間重合した時点で窒素ガスで真空を破って重合反応を終了し、窒素ガス加圧下に280℃のポリマー吐出を行った。
得られたポリマーの軟化点(SP)は253.5℃、ジエチレングリコール含有量(DEG含量)は1.68、吐出10分後の極限粘度([η]10)は0.672、吐出60分後([η]60)は0.648であった。
【0041】
実施例1〜4では、このポリマーを常法に従ってチップ化し、乾燥後、中空単糸断面形状になるように口金の形状を変更して、引取り速度1200m/minで紡糸して、約210dtex(デシテックス)/24fil(フィラメント)の未延伸糸を得た。該未延伸糸を最適な延伸倍率過熱延伸し、熱セットして固定化して目的とするカチオン可染性を有する中空断面ポリエステルフィラメント糸を得た。
得られたカチオン可染中空断面ポリエステルフィラメント糸の製糸性、物性などは後掲の表1に示す通りであった。
【0042】
また、実施例5〜6では、実施例1及び実施例2の中空断面ポリエステルフィラメント糸を沸水収縮率が33%の33dtex/12filのポリエチレンテレフタレート糸と引き揃え、図1に示す方法で空気交絡装置を用いて混繊を行った。得られた混繊複合糸の結果は表1に示す通りであった。なお、表1に示す実施例5〜6の中空率は、混繊複合糸中のカチオン可染中空断面ポリエステルフィラメント糸の中空率である。
【0043】
これらカチオン可染中空断面ポリエステルフィラメント糸又は混繊糸よりなる布帛(平織物)を、カチオン染料 Catilon CD-FRLH/Catilon Blue CD-FBLH=1/1(保土谷化学(株)製)を2%owf含む染浴(助剤として芒硝3g/L、酢酸0.3g/Lを含む)で120℃にて60分間染色した。
得られた染色布帛の鮮明性、軽量感、風合いなどを評価した。その結果は後掲の表1に示す通りであった。
【0044】
[比較例1〜2]
実施例1の方法において、比較例1では、紡糸する際に単糸断面形状を丸断面となし、比較例2では、重合工程で3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラ−n−ブチルホスホニウム塩及びテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドの代わりに、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム塩及びナトリウムブロマイドを用いる以外は、実施例1と同様の方法を実施した。
【0045】
その結果を表1に併記する。比較例1では問題なく目的とするカチオン可染糸及び布帛を得たが、その風合いは人工的で重さがあり、軽量感の全く感じられないものとなった。一方、比較例2では他の実施例と同様に布帛形成することはできたが、原糸強度が旧来からあるカチオン可染中空断面糸と同じものとなり、布帛の耐磨耗性、引き裂き強力は実施例に比べると著しく劣ったものとなった。また、軽量感も不十分であった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のカチオン可染ポリエステル中空断面糸は、単独であるいは高収縮ポリエステル糸と混繊することにより、適度な軽量感を有しながら、耐磨耗性と引き裂き強力に優れた、アウトドアやスポーツ衣料に適した運動機能を妨げず、かつ鮮明色を呈する軽量な織編物を安定して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明によるカチオン可染ポリエステル中空断面糸の混繊糸の、製造方法に関する説明図。
【符号の説明】
【0049】
1:原糸供給ローラー
2:予熱ローラー
3:圧縮空気交絡装置
4:引き取りローラー
5:セットヒーター
6:製品
A:鞘糸(カチオン可染中空断面糸)
B:芯糸(高収縮糸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)によって表されるスルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜0.6モル%共重合した極限粘度0.6以上の改質ポリエステルからなるカチオン可染ポリエステル糸であって、その単糸横断面形状が中空形状で単糸中空率が5%以上であることを特徴とするカチオン可染ポリエステル中空断面糸。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載のカチオン可染ポリエステル中空断面糸と該中空断面糸との沸水収縮率差が4〜45%のポリエステルフィラメントとを引き揃え混繊してなることを特徴とするカチオン可染ポリエステル混繊糸。
【請求項3】
請求項1記載のカチオン可染ポリエステル中空断面糸及び/又は請求項2記載のポリエステル混繊糸を構成糸として含むことを特徴とする織編物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−231599(P2008−231599A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70383(P2007−70383)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】