カチオン性ナノゲルを用いる粘膜ワクチン
【課題】粘膜アジュバントを添加することなく、生体にワクチン抗原特異的な免疫応答を誘導し得る、経鼻又は経口投与用粘膜ワクチンの提供。
【解決手段】カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原との複合体を含み、粘膜を介して投与される、微生物感染症の予防又は治療用粘膜ワクチン製剤。
【解決手段】カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原との複合体を含み、粘膜を介して投与される、微生物感染症の予防又は治療用粘膜ワクチン製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経鼻投与又は経口投与により投与されるワクチン抗原とカチオン性ナノゲルの複合体を含む粘膜ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
注射によらない粘膜ワクチンは安全かつ簡便で次世代ワクチンと目されている。粘膜ワクチンを用いて効果的な抗原特異的免疫応答を誘導するには、粘膜ワクチンを粘膜アジュバントと同時に投与する必要があった。粘膜アジュバントとして、コレラ毒素CTや無毒化コレラ毒素mCT等の毒素関連タンパク質が知られている。粘膜ワクチンにこれらの粘膜アジュバントを加えることで経鼻ワクチンに抗原特異的な全身系IgGのみならず、粘膜IgAを誘導することができる。しかしながら、上記の粘膜アジュバントは脳内に移行するおそれがあり、生体への安全性に問題があった。
【0003】
本発明者らは、DDSの基材として親水性の多糖に、側鎖として疎水性のコレステロールを付加した、cholesterol-bearing pulullan(CHP)などの分子からなるナノゲルを開発した(特許文献1から6及び非特許文献1を参照)。すなわち、CHPは水環境下で自己組織化し、直径20〜30nmのコロイド(ナノゲル)となり、その内部に各種の物質を内包することが可能である。またCHPの持つ優れた特徴の一つとして、「分子シャペロン効果」が挙げられる。これはたんぱく質のような分子をCHPナノゲルの内部に内包したのち、放出させると、放出の際にリフォールディングが起こり、生理的な3次元構造を獲得し、正常な活性を発揮するというものである。
【0004】
上記のナノゲルをワクチン製剤に利用することが報告されていたが(特許文献7を参照)、細胞障害性T細胞(CTL)の活性化により抗癌用、抗ウイルス用、自己免疫疾患用として用いられるものであり、必ずしも粘膜ワクチンとして効果を発揮するとは言えなかった。
【0005】
また、糖脂質と燐脂質を含む脂質膜構造を有するリポソームを経口ワクチンのデリバリーに利用することが報告されていた(特許文献8を参照)。
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO00/12564号パンフレット
【特許文献2】特開2005-298644号公報
【特許文献3】国際公開第WO2006/049032号パンフレット
【特許文献4】特開2006-143808号公報
【特許文献5】国際公開第WO2007/083643号パンフレット
【特許文献6】特開2007-252304号公報
【特許文献7】特許第4033497号公報
【特許文献8】特開平5-339169号公報
【非特許文献1】長谷川他、細胞工学Vol.26、No.6、2007、p679-685
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、毒素関連タンパク質(コレラ毒素CT、無毒化コレラ毒素mCT等)等の粘膜アジュバントを添加することなく、生体にワクチン抗原特異的な免疫応答を誘導し得る、経鼻又は経口投与用粘膜ワクチンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、先に生理活性タンパク質等の物質のデリバリーに用い得る親水性の多糖に、側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルを開発した。
【0009】
本発明者等は、粘膜ワクチン製造へ前記ナノゲルを応用できないか鋭意検討を行った。その結果、アミノ基等のカチオン性官能基を付加したナノゲルをウイルスや細菌のタンパク質であるワクチン抗原と複合化し、鼻腔粘膜や腸管粘膜を介して投与することにより、リポソームを用いた場合よりも効果的に全身免疫反応及び粘膜免疫反応を引き起こし、ウイルスや細菌の感染症の予防又は治療に役立つことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原との複合体を含み、粘膜を介して投与される、微生物感染症の予防又は治療用粘膜ワクチン製剤。
[2] カチオン性の官能基がアミノ基である、[1]の粘膜ワクチン製剤。
[3] ナノゲルがコレステロール置換プルランである、[1]又は[2]の粘膜ワクチン製剤。
【0011】
[4] ワクチン抗原が微生物由来抗原である、[1]〜[3]のいずれかの粘膜ワクチン製剤。
[5] 微生物がウイルス、細菌、原虫及び真菌からなる群から選択される、[4]の粘膜ワクチン製剤。
[6] ワクチン抗原がボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域、破傷風トキソイド及びエイズウイルスの膜抗原分子gag p24からなる群から選択される、[5]の粘膜ワクチン製剤。
[7] ワクチン抗原とナノゲルが1:1〜1:10のモル比で複合化される、[1]〜[6]のいずれかの粘膜ワクチン製剤。
[8] 経鼻投与製剤である、[1]〜[7]のいずれかの粘膜ワクチン製剤。
[9] 経口投与製剤である、[1]〜[7]のいずれかの粘膜ワクチン製剤。
【0012】
[10] カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原を4〜37℃で2〜48時間混合することを含む、ワクチン抗原と前記ナノゲルの複合体を含む粘膜ワクチン製剤の製造方法。
[11] カチオン性の官能基がアミノ基である、[10]の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
[12] ナノゲルがコレステロール置換プルランである、[10]又は[11]の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
[13] ワクチン抗原が微生物由来抗原である、[10]〜[13]のいずれかの粘膜ワクチン製剤の製造方法。
[14] 微生物がウイルス、細菌、原虫及び真菌からなる群から選択される、[13]の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のワクチン抗原とカチオン性ナノゲルを複合化させて作製した粘膜ワクチンは、経鼻又は経口による粘膜投与により、動物に効果的に全身的及び粘膜免疫応答を引き起こす。本発明の粘膜ワクチンは、カチオン性のナノゲルを用いているがゆえに、ワクチン抗原を効率的に免疫系へデリバリーし、カチオン性でないナノゲルやカチオン性リポソームを用いた場合よりもより効果的な免疫応答を誘導する。本発明の粘膜ワクチンは、動物のウイルスや細菌感染症の予防又は治療に効果的に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において「ナノゲル」とは親水性の多糖に、側鎖として疎水性のコレステロールを付加した構造を有する疎水化高分子ゲルナノ粒子をいう。用いるナノゲルは、例えば国際公開第WO00/12564号パンフレット(高純度疎水性基含有多糖類及びその製造方法)に記載の方法で製造することができる。
【0015】
最初に、炭素数12〜50の水酸基含有炭化水素又はステロールと、0CN-R1 NCO(式中、R1は炭素数1〜50の炭化水素基である。)で表されるジイソシアナート化合物を反応させて、炭素数12〜50の水酸基含有炭化水素又はステロールが1分子反応したイソシアナート基含有疎水性化合物を製造する。次いで、得られたイソシアナート基含有疎水性化合物と多糖類とをさらに反応させて、疎水性基として炭素数12〜50の炭化水素基又はステリル基を含有する疎水性基含有多糖類を製造する。得られた反応生成物をケトン系溶媒で精製して高純度疎水性基含有多糖類の製造が可能である。多糖類としては、プルラン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカン及び水溶性セルロース等が挙げられる。
【0016】
本発明において好適に用い得るナノゲルとしてはコレステロール置換プルラン(以下、CHPと称する)及びCHP誘導体が例示される。CHPは、分子量3万から20万、例えば分子量100,000のプルランに100単糖あたりコレステロールが1〜10個、好ましくは1〜数個置換された構造を有する。CHPの性状は、タンパク質のサイズや疎水性の程度により、コレステロール置換量を変え変更可能である。CHPの疎水性をコントロールするためには、炭素数10〜30、好ましくは炭素数12〜20程度のアルキル基を導入してもよい。本発明で用いるナノゲルは、粒径10〜40nm、好ましくは20〜30nmである。ナノゲルは既に広く市販されており、本発明では、これら市販品を広く利用可能である。
【0017】
本発明においては、粘膜ワクチンは、正電荷を有する官能基、例えばアミノ基を導入したナノゲルを用いる。ナノゲルへのアミノ基の導入率はCHPのグルコース100単糖あたり1〜50、より好ましくは5〜30である。ナノゲルへのアミノ基の導入方法としては、以下のように、アミノ基を付加したコレステロールプルラン(CHPNH2)を用いる手法が好適に挙げられる。
【0018】
減圧乾燥したCHP 0.15 gをジメチルスルホキシドDMSO溶媒15mlに溶解し、これに1-1’カルボニルジイミダゾール75mgを窒素気流下に加え4時間室温で反応させる。その反応溶液にエチレンジアミン300mgをゆっくり添加し24時間攪拌する。この反応溶液を蒸留水により6日間透析する。これを凍結乾燥し、乳白色の固体を得る。エチレンジアミンの置換度は元素分析やH-NMRにより求められる。導入する置換基の数は適宜変えることができ、導入する置換基の数を変えることにより正電荷の大きさを制御し、ワクチン抗原−カチオン性ナノゲル複合体からのワクチン抗原のデリバリー効率を制御することが可能である。
【0019】
本発明の粘膜ワクチン製剤は他の粘膜アジュバントを添加することなく、効率的に動物に対してワクチン抗原に特異的な全身的及び粘膜免疫応答を誘導し得る。
【0020】
本発明の粘膜ワクチンに使用するワクチン抗原としては、動物に感染症を引き起こす細菌、ウイルス、真菌、原虫類等の微生物の抗原が挙げられる。該抗原は、動物にその抗原に対する特異的免疫反応を誘導する抗原であり、ワクチンとして用いることができ、ワクチン抗原と呼ぶ。
【0021】
具体的には、微生物の抗原としては、インフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、C型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、ロタウイルス、サイトメガロウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、HIV、水痘帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス1型・2型、ATL(成人型T細胞白血病)ウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、突発性発疹ウイルス(HHV-6)、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプス(おたふくかぜ)ウイルス、ポリオウイルス、日本脳炎ウイルス、狂犬病ウイルス、C型肝炎ウイルス、ノーウオーク(ノロ)ウイルス、狂犬病ウイルス、RSウイルス、サイトメガロウイルス、口蹄疫ウイルス、伝染性胃腸炎ウイルス、風疹ウイルス、ATLウイルス、アデノウイルス、エコーウイルス、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、テング熱ウイルス、黄熱ウイルス、西ナイルウイルス、SARS(コロナウイルス)、エボラ出血熱ウイルス(フィロウイルス)、マールブルグウイルス(フィロウイルス)、ラッサ熱ウイルス、ハンタウイルス、ニパウイルス等の病原性ウイルス等のウイルス類;腸管出血性大腸菌等の病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌などのブドウ球菌、髄膜炎菌、緑膿菌、虫歯連鎖球菌、コレラ菌、チフス菌、クラミジア赤痢菌、肺炎球菌、百日咳菌、ジフテリア菌、破傷風菌、インフルエンザ菌、ペスト菌、ボツリヌス菌、炭ソ菌、野兎病菌、サルモネラ菌、VRE(腸球菌)、結核菌、赤痢菌、腸チフス菌、パラチフス菌、クラミジア菌、アメーバ赤痢、レジオネラ菌、ライム病ボレリア菌、ブルセラ病(波状熱)菌等の病原性細菌;Q熱リケッチャ、クラミジア等のリケッチャ;マラリア病原虫、クリプトスポリジウム等の原虫類;クリプトコッカス・アスペルギルス等の真菌等の微生物のタンパク質抗原を挙げることができる。病原性微生物に由来するタンパク質としては、病原性微生物を構成するタンパク質又はペプチド(例えば、表面タンパク質、カプシドタンパク質、繊毛タンパク質等)、病原性微生物が産生するタンパク質又はペプチド(例えば、毒素、酵素、ホルモン、免疫調節物質、受容体及びそのリガンド等)、それらの断片又はドメイン等が挙げられる。またタンパク質抗原は、コレラの微生物を攻撃中和し得る抗体産生を誘起し得るものを用いればよい。タンパク質抗原は1種類に限定されず、本発明の粘膜ワクチンは、複数の同種微生物又は異種微生物由来のワクチン抗原を含んでいてもよい。例えば、インフルエンザウイルスの場合に、受容体であるヘマグルチニン(HA)やノイラミニダーゼ(NA)等を単独又は混合物して、カチオン性ナノゲルと複合化した粘膜ワクチンを製造することができる。ワクチン抗原は、微生物からプロセッシングしたり、精製したりすることにより得ることができる。また、化学合成することもでき、遺伝子工学的手法によってリコンビナントタンパク質として得ることもできる。本発明の粘膜ワクチン製剤に含まれるワクチン抗原の分子量は、限定されないが、例えば、500〜1000,000、好ましくは1,000〜200,000程度である。
【0022】
ワクチン抗原と上記カチオン性ナノゲルとの複合体は、カチオン性ナノゲルとワクチン抗原を共存させ、相互作用させ、ワクチン抗原をカチオン性ナノゲル内に取り込むことにより作製することができる。複合体を作製することを複合化という。ワクチン抗原とカチオン性ナノゲルの混合比は、用いるワクチン抗原及びカチオン性ナノゲルの種類に応じて適宜決定することができる。例えば、ワクチン抗原に対しCHPNH2を1:1〜1:100、好ましくは1:1〜1:10のモル比で混合すればよい。
【0023】
ワクチン抗原とカチオン性ナノゲルの複合体を形成するには、例えば、ワクチン抗原とカチオン性ナノゲルをバッファー中において混合し、4〜37℃で2〜48時間、好ましくは20〜30時間静置により混合すればよい。ワクチン抗原−カチオン性ナノゲル複合体の形成に用いるバッファーは、タンパク質とナノゲルの種類により適宜調製することができ、バッファーとして例えばTris-HCl緩衝液(50mM、pH7.6)が挙げられる。調製したワクチン抗原−ナノゲル複合体は、公知の方法により解析することが可能である。例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)、原子間力顕微鏡(atomic force microscope、AFM)、蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー蛍光顕微鏡により解析できる。
【0024】
本発明の粘膜ワクチン製剤は、粘膜を介して投与する。粘膜を介しての投与は、好適には鼻腔粘膜又は腸管粘膜を介して行われる。前者の場合は、経鼻ワクチン製剤として経鼻投与され、後者の場合は経口ワクチン製剤として経口投与される。経鼻ワクチン製剤は経鼻投与によって鼻腔内で免疫応答を誘導する。すなわち、ウイルス等の感染症を引き起こす微生物の感染ルートである気道(特に上気道)の局所粘膜における免疫機構を誘導し得る。経鼻ワクチン製剤は噴霧、塗布、滴下等により鼻腔に投与すればよい。経口ワクチン製剤は経口投与によって腸管で免疫応答を誘導する。粘膜ワクチン製剤は投与した粘膜や鼻腔関連リンパ組織(NALT)や腸管関連リンパ組織(GALT)に留まり、ワクチン抗原を徐放する。経鼻ワクチン製剤も経口ワクチン製剤も全身免疫を引き起こし、生体内にウイルス等に特異的なIgGが産生されるとともに、粘膜免疫を引き起こし、粘膜においてIgA抗体が産生され、全身免疫機構、粘膜免疫機構の両方の機構で感染を防御し、感染症を治療し得る。
【0025】
粘膜ワクチン製剤には、薬学的に許容できる公知の安定剤、防腐剤、酸化防止剤等を含ませても良い。安定剤としてはゼラチン、デキストラン、ソルビトール等が挙げられる。防腐剤としてはチメロサール、βプロピオラクトン等が挙げられる。酸化防止剤としてはαトコフェロール等が挙げられる。
【0026】
本発明の粘膜ワクチン製剤の投与対象としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、ウシ、イヌ、ウマ、ヤギ等の哺乳動物、及びニワトリ等の鳥類が挙げられる。
【0027】
粘膜ワクチン製剤の投与量は、免疫原の種類、投与対象の年齢や体重等により適宜決定することができるが、薬学的に有効な量のワクチン抗原を含む。薬学的に有効な量とは、そのワクチン抗原に対する免疫反応を誘導するのに必要な抗原量をいう。例えば、1回のワクチン抗原投与量数μg〜数十mgで1日1回〜数回投与し、1〜数週間間隔でトータル数回、例えば1〜5回投与すればよい。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0029】
実施例1 粘膜ワクチンの作製
カチオン性ナノゲル(カチオン性CHP)は100単糖あたりコレステロールが1.4及びエチレンジアミンが18置換されているものを使用した(CHPNH2ナノゲル)。CHP誘導体又はカチオン性プルランを1mg/mlのリン酸緩衝溶液(PBS)に溶かした。CHPNH2ナノゲルに15分間のソニケーションを行った後、フィルター(0.22 mm)に通した。
【0030】
大腸菌で発現させ、精製したボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域(Hc、分子量45000)、破傷風トキソイド(TT、分子量150000)、又はエイズウイルス膜抗原分子(gag p24、分子量24000)を、等モル量の上記のようにして調製したカチオン性ナノゲルと混和し、45℃で5時間反応させることで複合化した。得られた抗原とカチオン性ナノゲルとの複合体をカチオン性ナノゲル粘膜ワクチンとして用いた。精製したボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域は、GST融合タンパク発現ベクターであるpGEX-6P3(GE healthcare)内にその遺伝子を挿入し、大腸菌Rossetta2(Novagen)に形質導入後、0.1mMのIPTGを添加することで発現誘導させた。Hcは、PBSに懸濁させた菌体を超音波破砕後、遠心しその上清を陰イオン交換クロマトグラフィー(DAEA Sepharose; GE Healthcare)、アフィニティークロマトグラフィー(Glutathione Sepharose; GE healthcare)、ゲル濾過クロマトグラフィー(Sephacryl S-100; GE healthcare)に供することで精製した。HcのN末端に融合されたGSTは、アフィニティークロマトグラフィーを実施後、カラム内にPreScission Protease(GE herthcare)を添加することで切断除去した。また、破傷風トキソイドは(財)大阪大学微生物病研究会より、またgag p24は国立感染症研究所免疫部の横田恭子室長より入手した。
【0031】
実施例2 経鼻免疫
実施例1で作製したカチオン性ナノゲル粘膜ワクチン又は抗原単独を、6〜8週齢のBalb/cマウス(雌)に1匹あたりHc 10μg(ナノゲル88.9μg)、TT 30μg(ナノゲル80.0μg)、又はgag p24 10μg(ナノゲル 166.7μg)を、週1回(計3回)鼻腔内に投与することで、経鼻免疫を行った。投与抗原量(液量)はすべての実験区において15μlになるように調整し、片鼻当たり7.5μlを投与した。この際、コントロールとしてPBSを投与した。
【0032】
免疫前及び各免疫1週間後に血液を採取し、血清中のボツリヌス毒素、TT、又はgag p24に対するIgG抗体価を測定することにより、全身系の免疫応答を評価した。また、最終免疫1週間後に200μlのPBSを用いて鼻腔を洗浄し、鼻腔洗浄液中のIgA抗体価を測定することにより粘膜系での免疫応答を評価した。抗体価の評価は、ELISA法で行った。血清中IgGに関しては、IgG1, IgG2a, IgG2b及びIgG3の各サブクラスの抗体価を測定し、サブクラスレベルでの抗体産生パターンも評価することで、免疫後のTh1/Th2の免疫バランスを推測した。さらに、最終免疫1週間後の鼻腔組織中の抗原特異的IgA産生細胞(形質細胞)数を、ELISPOT法で評価した。
【0033】
血清中のボツリヌス毒素に対するトータルIgG抗体価を図1に示す。また、図2に3回免疫後に採取した血清中のボツリヌス毒素に対するIgG1、IgG2a、IgG2b及びIg3の抗体価を示す。さらに、図3に血清中のTTに対するトータルIgG抗体価を示し、図4に3回免疫後に採取した血清中のTTに対するIgG1、IgG2a、IgG2b及びIg3の抗体価を示す。図5に3回免疫後のgag p24特異的IgG抗体価を示す。
【0034】
図6に3回免疫後の鼻腔洗浄液中のボツリヌス毒素に対するIgA抗体価を示し、図7に3回免疫後の鼻腔洗浄液中のTTに対するIgA抗体価を示す。
【0035】
図1、3及び5に示すように、Hc、TT、又はgag p24をカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合にHc、TT、又はgag p24を単独で投与した場合に比べボツリヌス毒素、TT、又はgag p24に対するトータルIgG抗体価が著しく高かった。このことは、Hc、TT、又はgag p24を単独で投与した場合と比較して、Hc、TT、又はgag p24をカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合により強力な全身性免疫反応を引き起こすことを示す。また、図2及び図4に示すように、抗原特異的IgGの大半がIgG1タイプのサブクラスであり、IgG2aレベルは顕著に低かった。以上の結果から、ワクチン抗原をカチオン性ナノゲルとの複合体として経鼻投与することで、Th2型の液性免疫応答が効果的に誘導されていることが推測された。
【0036】
図6及び図7に示すように、Hc又はTTを単独で投与した場合は、IgA抗体価は殆ど認められなかったが、Hc又はTTをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合にボツリヌス毒素又はTTに対する高いIgA抗体価が認められた。このことは、抗原とカチオン性ナノゲルの複合体からなる本発明の粘膜ワクチンを経鼻投与した場合のみに、鼻粘膜において、粘膜免疫反応を引き起こしたことを示す。
【0037】
図8に鼻腔粘膜組織中のボツリヌス毒素抗原特異的IgA産生細胞の数の比較を示す。図8に示すように、Hc単独で投与した場合は、IgA産生細胞は全く産生されないが、Hcとカチオン性ナノゲルの複合体を投与した場合は、IgA産生細胞が産生された。
【0038】
実施例3 ナノゲル粘膜ワクチンを用いた経鼻免疫後の中和効果
実施例1で作製したボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域(Hc、分子量45000)を抗原とするカチオン性ナノゲルワクチン又はHc単独を実施例2と同様の方法でそれぞれマウス5匹に経鼻免疫した。陰性コントロールとしてPBSを投与した。3回の免疫後、腹腔投与致死量の25000倍(500ng)のボツリヌス毒素(大阪府立大学生命環境科学研究科獣医学専攻、小崎俊司教授により入手した)を腹腔内投与することで、その生存効果を解析した。また、鼻腔組織中に誘導されたHc特異的IgAの中和効果を解析する目的で、10μgのボツリヌスプロジェニター毒素(和光純薬より入手した)を経鼻投与し、その後の生存効果も解析した。
【0039】
図9にボツリヌス毒素を腹腔内投与した後のマウスの経時的な生存率を示す。図9に示すように、Hc単独で免疫したマウスでは1日以内に全数が死亡したが、Hcをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与したマウスでは、1週間後も全数が生存していた。この結果は、Hcとカチオン性ナノゲルとの複合体を経鼻投与することで、強力な全身系での中和免疫を誘導可能であることを示している。
【0040】
図10にボツリヌスプロジェニター毒素を経鼻投与した場合の経時的な生存率を示す。図10に示すように、Hc単独で免疫したマウスでは1日以内に全数が死亡したが、Hcをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与したマウスでは、1週間後も全数が生存していた。この結果は、Hcとカチオン性ナノゲルとの複合体を経鼻投与することで誘導されたボツリヌス毒素特異的粘膜IgAにより、ボツリヌス粘膜感染が効果的に阻止されたことを示している。
【0041】
実施例4 カチオン性リポソームワクチンと比較したカチオン性ナノゲルワクチンの免疫誘導効果
実施例1で作製したボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域(Hc、分子量45000)を抗原とするカチオン性ナノゲルワクチン又は、同一抗原を同量複合化させたカチオン性リポソーム(Pro-ject)を実施例2と同様の方法でそれぞれマウス5匹に経鼻免疫した。なお、Pro-jectはPIERCEより入手した。
【0042】
図11に3回免疫後のボツリヌス毒素に対するトータルIgG抗体価を示す。
図11に示すように、Hcをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合に、Hcをカチオン性リポソームとの複合体で投与した場合に比べ、ボツリヌス毒素に対するトータルIgG抗体価が著しく高かった。
【0043】
図12に3回免疫後のボツリヌス毒素に対するトータルIgA抗体価を示す。
図12に示すように、Hcをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合に、Hcをカチオン性リポソームとの複合体で投与した場合に比べ、ボツリヌス毒素に対するトータルIgA抗体価が著しく高かった。
【0044】
実施例5 カチオン性ナノゲルワクチンの鼻腔組織内での抗原貯留効果と、脳神経系への移行の有無
ボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域(Hc、分子量45000)にDTPA anhydrideを用いて111In(インジウム)を公知の方法で標識した。標識効率は、728.3233±115.3543 CPM/ngであった。その後、標識Hcをナノゲルに複合化させた。1,000,000 CPM量の標識Hcを複合化させたナノゲル粘膜ワクチン又は標識Hc単独をマウスに経鼻投与した。その後の体内動態(脳、嗅球、鼻腔、鼻腔関連リンパ組織(NALT)、頸部リンパ節及び脾臓)をガンマカウンターで追跡評価した。具体的には、経鼻投与の0.17、1、6、12、24及び48時間後に、マウスから脳、嗅球、鼻腔、鼻腔関連リンパ組織(NALT)、頸部リンパ節及び脾臓を採取し、試料重量を測定後、試料からのガンマ線をガンマカウンターで測定した。
【0045】
図13に、脳(A)、嗅球(B)、鼻腔組織(C)、鼻腔関連リンパ組織(NALT)(D)、頸部リンパ節(E)及び脾臓(F)中のガンマ線測定の結果を示す。
【0046】
図13に示すように、特に鼻腔組織(C)において、ナノゲル粘膜ワクチンが長時間貯留していたが、脳及び嗅球への移行は確認されなかった。この結果は、本発明のカチオン性ナノゲルを含む粘膜ワクチンを鼻腔投与した場合、粘膜ワクチン単体で投与した場合と比較して、鼻腔内における抗原貯留効果が高く、一方で、一部のアジュバントのような中枢神経系へ移行しない、安全かつ効果に優れた鼻腔投与用性剤として応用可能であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】経鼻免疫したマウスの血清中のHcに対するトータルIgG抗体価を示す図である。
【図2】経鼻免疫したマウスの血清中のHcに対するIgG1、IgG2a、IgG2b及びIg3の抗体価を示す図である。
【図3】経鼻免疫したマウスの血清中のTTに対するトータルIgG抗体価を示す図である。
【図4】経鼻免疫したマウスの血清中のTTに対するIgG1、IgG2a、IgG2b及びIg3の抗体価を示す図である。
【図5】経鼻免疫したマウスの血清中のgag p24に対するトータルIgG抗体価を示す図である。
【図6】経鼻免疫したマウスの鼻腔洗浄液中のHcに対するIgA抗体価を示す図である。
【図7】経鼻免疫したマウスの鼻腔洗浄液中のTTに対するIgA抗体価を示す図である。
【図8】経鼻免疫したマウスの鼻腔洗浄液中のHc抗原特異的IgA産生細胞の数を示す図である。
【図9】Hcで経鼻免疫したマウスのボツリヌス毒素を腹腔内投与した後のマウスの経時的な生存率を示す図である。
【図10】Hcで経鼻免疫したマウスのボツリヌスプロジェニター毒素を経鼻腹腔内投与した後のマウスの経時的な生存率を示す図である。
【図11】カチオン性ナノゲル又はカチオン性リポゾームを経鼻免疫したマウスの血清中のボツリヌス毒素に対するトータルIgG抗体価を示す。
【図12】カチオン性ナノゲル又はカチオン性リポゾームを経鼻免疫したマウスの鼻腔洗浄液中のgag p24に対する、IgA抗体価を示す図である。
【図13】カチオン性ナノゲルワクチンの鼻腔組織内での抗原貯留効果と、脳神経系への移行の有無を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は経鼻投与又は経口投与により投与されるワクチン抗原とカチオン性ナノゲルの複合体を含む粘膜ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
注射によらない粘膜ワクチンは安全かつ簡便で次世代ワクチンと目されている。粘膜ワクチンを用いて効果的な抗原特異的免疫応答を誘導するには、粘膜ワクチンを粘膜アジュバントと同時に投与する必要があった。粘膜アジュバントとして、コレラ毒素CTや無毒化コレラ毒素mCT等の毒素関連タンパク質が知られている。粘膜ワクチンにこれらの粘膜アジュバントを加えることで経鼻ワクチンに抗原特異的な全身系IgGのみならず、粘膜IgAを誘導することができる。しかしながら、上記の粘膜アジュバントは脳内に移行するおそれがあり、生体への安全性に問題があった。
【0003】
本発明者らは、DDSの基材として親水性の多糖に、側鎖として疎水性のコレステロールを付加した、cholesterol-bearing pulullan(CHP)などの分子からなるナノゲルを開発した(特許文献1から6及び非特許文献1を参照)。すなわち、CHPは水環境下で自己組織化し、直径20〜30nmのコロイド(ナノゲル)となり、その内部に各種の物質を内包することが可能である。またCHPの持つ優れた特徴の一つとして、「分子シャペロン効果」が挙げられる。これはたんぱく質のような分子をCHPナノゲルの内部に内包したのち、放出させると、放出の際にリフォールディングが起こり、生理的な3次元構造を獲得し、正常な活性を発揮するというものである。
【0004】
上記のナノゲルをワクチン製剤に利用することが報告されていたが(特許文献7を参照)、細胞障害性T細胞(CTL)の活性化により抗癌用、抗ウイルス用、自己免疫疾患用として用いられるものであり、必ずしも粘膜ワクチンとして効果を発揮するとは言えなかった。
【0005】
また、糖脂質と燐脂質を含む脂質膜構造を有するリポソームを経口ワクチンのデリバリーに利用することが報告されていた(特許文献8を参照)。
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO00/12564号パンフレット
【特許文献2】特開2005-298644号公報
【特許文献3】国際公開第WO2006/049032号パンフレット
【特許文献4】特開2006-143808号公報
【特許文献5】国際公開第WO2007/083643号パンフレット
【特許文献6】特開2007-252304号公報
【特許文献7】特許第4033497号公報
【特許文献8】特開平5-339169号公報
【非特許文献1】長谷川他、細胞工学Vol.26、No.6、2007、p679-685
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、毒素関連タンパク質(コレラ毒素CT、無毒化コレラ毒素mCT等)等の粘膜アジュバントを添加することなく、生体にワクチン抗原特異的な免疫応答を誘導し得る、経鼻又は経口投与用粘膜ワクチンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、先に生理活性タンパク質等の物質のデリバリーに用い得る親水性の多糖に、側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルを開発した。
【0009】
本発明者等は、粘膜ワクチン製造へ前記ナノゲルを応用できないか鋭意検討を行った。その結果、アミノ基等のカチオン性官能基を付加したナノゲルをウイルスや細菌のタンパク質であるワクチン抗原と複合化し、鼻腔粘膜や腸管粘膜を介して投与することにより、リポソームを用いた場合よりも効果的に全身免疫反応及び粘膜免疫反応を引き起こし、ウイルスや細菌の感染症の予防又は治療に役立つことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原との複合体を含み、粘膜を介して投与される、微生物感染症の予防又は治療用粘膜ワクチン製剤。
[2] カチオン性の官能基がアミノ基である、[1]の粘膜ワクチン製剤。
[3] ナノゲルがコレステロール置換プルランである、[1]又は[2]の粘膜ワクチン製剤。
【0011】
[4] ワクチン抗原が微生物由来抗原である、[1]〜[3]のいずれかの粘膜ワクチン製剤。
[5] 微生物がウイルス、細菌、原虫及び真菌からなる群から選択される、[4]の粘膜ワクチン製剤。
[6] ワクチン抗原がボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域、破傷風トキソイド及びエイズウイルスの膜抗原分子gag p24からなる群から選択される、[5]の粘膜ワクチン製剤。
[7] ワクチン抗原とナノゲルが1:1〜1:10のモル比で複合化される、[1]〜[6]のいずれかの粘膜ワクチン製剤。
[8] 経鼻投与製剤である、[1]〜[7]のいずれかの粘膜ワクチン製剤。
[9] 経口投与製剤である、[1]〜[7]のいずれかの粘膜ワクチン製剤。
【0012】
[10] カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原を4〜37℃で2〜48時間混合することを含む、ワクチン抗原と前記ナノゲルの複合体を含む粘膜ワクチン製剤の製造方法。
[11] カチオン性の官能基がアミノ基である、[10]の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
[12] ナノゲルがコレステロール置換プルランである、[10]又は[11]の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
[13] ワクチン抗原が微生物由来抗原である、[10]〜[13]のいずれかの粘膜ワクチン製剤の製造方法。
[14] 微生物がウイルス、細菌、原虫及び真菌からなる群から選択される、[13]の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のワクチン抗原とカチオン性ナノゲルを複合化させて作製した粘膜ワクチンは、経鼻又は経口による粘膜投与により、動物に効果的に全身的及び粘膜免疫応答を引き起こす。本発明の粘膜ワクチンは、カチオン性のナノゲルを用いているがゆえに、ワクチン抗原を効率的に免疫系へデリバリーし、カチオン性でないナノゲルやカチオン性リポソームを用いた場合よりもより効果的な免疫応答を誘導する。本発明の粘膜ワクチンは、動物のウイルスや細菌感染症の予防又は治療に効果的に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において「ナノゲル」とは親水性の多糖に、側鎖として疎水性のコレステロールを付加した構造を有する疎水化高分子ゲルナノ粒子をいう。用いるナノゲルは、例えば国際公開第WO00/12564号パンフレット(高純度疎水性基含有多糖類及びその製造方法)に記載の方法で製造することができる。
【0015】
最初に、炭素数12〜50の水酸基含有炭化水素又はステロールと、0CN-R1 NCO(式中、R1は炭素数1〜50の炭化水素基である。)で表されるジイソシアナート化合物を反応させて、炭素数12〜50の水酸基含有炭化水素又はステロールが1分子反応したイソシアナート基含有疎水性化合物を製造する。次いで、得られたイソシアナート基含有疎水性化合物と多糖類とをさらに反応させて、疎水性基として炭素数12〜50の炭化水素基又はステリル基を含有する疎水性基含有多糖類を製造する。得られた反応生成物をケトン系溶媒で精製して高純度疎水性基含有多糖類の製造が可能である。多糖類としては、プルラン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカン及び水溶性セルロース等が挙げられる。
【0016】
本発明において好適に用い得るナノゲルとしてはコレステロール置換プルラン(以下、CHPと称する)及びCHP誘導体が例示される。CHPは、分子量3万から20万、例えば分子量100,000のプルランに100単糖あたりコレステロールが1〜10個、好ましくは1〜数個置換された構造を有する。CHPの性状は、タンパク質のサイズや疎水性の程度により、コレステロール置換量を変え変更可能である。CHPの疎水性をコントロールするためには、炭素数10〜30、好ましくは炭素数12〜20程度のアルキル基を導入してもよい。本発明で用いるナノゲルは、粒径10〜40nm、好ましくは20〜30nmである。ナノゲルは既に広く市販されており、本発明では、これら市販品を広く利用可能である。
【0017】
本発明においては、粘膜ワクチンは、正電荷を有する官能基、例えばアミノ基を導入したナノゲルを用いる。ナノゲルへのアミノ基の導入率はCHPのグルコース100単糖あたり1〜50、より好ましくは5〜30である。ナノゲルへのアミノ基の導入方法としては、以下のように、アミノ基を付加したコレステロールプルラン(CHPNH2)を用いる手法が好適に挙げられる。
【0018】
減圧乾燥したCHP 0.15 gをジメチルスルホキシドDMSO溶媒15mlに溶解し、これに1-1’カルボニルジイミダゾール75mgを窒素気流下に加え4時間室温で反応させる。その反応溶液にエチレンジアミン300mgをゆっくり添加し24時間攪拌する。この反応溶液を蒸留水により6日間透析する。これを凍結乾燥し、乳白色の固体を得る。エチレンジアミンの置換度は元素分析やH-NMRにより求められる。導入する置換基の数は適宜変えることができ、導入する置換基の数を変えることにより正電荷の大きさを制御し、ワクチン抗原−カチオン性ナノゲル複合体からのワクチン抗原のデリバリー効率を制御することが可能である。
【0019】
本発明の粘膜ワクチン製剤は他の粘膜アジュバントを添加することなく、効率的に動物に対してワクチン抗原に特異的な全身的及び粘膜免疫応答を誘導し得る。
【0020】
本発明の粘膜ワクチンに使用するワクチン抗原としては、動物に感染症を引き起こす細菌、ウイルス、真菌、原虫類等の微生物の抗原が挙げられる。該抗原は、動物にその抗原に対する特異的免疫反応を誘導する抗原であり、ワクチンとして用いることができ、ワクチン抗原と呼ぶ。
【0021】
具体的には、微生物の抗原としては、インフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、C型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、ロタウイルス、サイトメガロウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、HIV、水痘帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス1型・2型、ATL(成人型T細胞白血病)ウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、突発性発疹ウイルス(HHV-6)、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプス(おたふくかぜ)ウイルス、ポリオウイルス、日本脳炎ウイルス、狂犬病ウイルス、C型肝炎ウイルス、ノーウオーク(ノロ)ウイルス、狂犬病ウイルス、RSウイルス、サイトメガロウイルス、口蹄疫ウイルス、伝染性胃腸炎ウイルス、風疹ウイルス、ATLウイルス、アデノウイルス、エコーウイルス、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、テング熱ウイルス、黄熱ウイルス、西ナイルウイルス、SARS(コロナウイルス)、エボラ出血熱ウイルス(フィロウイルス)、マールブルグウイルス(フィロウイルス)、ラッサ熱ウイルス、ハンタウイルス、ニパウイルス等の病原性ウイルス等のウイルス類;腸管出血性大腸菌等の病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌などのブドウ球菌、髄膜炎菌、緑膿菌、虫歯連鎖球菌、コレラ菌、チフス菌、クラミジア赤痢菌、肺炎球菌、百日咳菌、ジフテリア菌、破傷風菌、インフルエンザ菌、ペスト菌、ボツリヌス菌、炭ソ菌、野兎病菌、サルモネラ菌、VRE(腸球菌)、結核菌、赤痢菌、腸チフス菌、パラチフス菌、クラミジア菌、アメーバ赤痢、レジオネラ菌、ライム病ボレリア菌、ブルセラ病(波状熱)菌等の病原性細菌;Q熱リケッチャ、クラミジア等のリケッチャ;マラリア病原虫、クリプトスポリジウム等の原虫類;クリプトコッカス・アスペルギルス等の真菌等の微生物のタンパク質抗原を挙げることができる。病原性微生物に由来するタンパク質としては、病原性微生物を構成するタンパク質又はペプチド(例えば、表面タンパク質、カプシドタンパク質、繊毛タンパク質等)、病原性微生物が産生するタンパク質又はペプチド(例えば、毒素、酵素、ホルモン、免疫調節物質、受容体及びそのリガンド等)、それらの断片又はドメイン等が挙げられる。またタンパク質抗原は、コレラの微生物を攻撃中和し得る抗体産生を誘起し得るものを用いればよい。タンパク質抗原は1種類に限定されず、本発明の粘膜ワクチンは、複数の同種微生物又は異種微生物由来のワクチン抗原を含んでいてもよい。例えば、インフルエンザウイルスの場合に、受容体であるヘマグルチニン(HA)やノイラミニダーゼ(NA)等を単独又は混合物して、カチオン性ナノゲルと複合化した粘膜ワクチンを製造することができる。ワクチン抗原は、微生物からプロセッシングしたり、精製したりすることにより得ることができる。また、化学合成することもでき、遺伝子工学的手法によってリコンビナントタンパク質として得ることもできる。本発明の粘膜ワクチン製剤に含まれるワクチン抗原の分子量は、限定されないが、例えば、500〜1000,000、好ましくは1,000〜200,000程度である。
【0022】
ワクチン抗原と上記カチオン性ナノゲルとの複合体は、カチオン性ナノゲルとワクチン抗原を共存させ、相互作用させ、ワクチン抗原をカチオン性ナノゲル内に取り込むことにより作製することができる。複合体を作製することを複合化という。ワクチン抗原とカチオン性ナノゲルの混合比は、用いるワクチン抗原及びカチオン性ナノゲルの種類に応じて適宜決定することができる。例えば、ワクチン抗原に対しCHPNH2を1:1〜1:100、好ましくは1:1〜1:10のモル比で混合すればよい。
【0023】
ワクチン抗原とカチオン性ナノゲルの複合体を形成するには、例えば、ワクチン抗原とカチオン性ナノゲルをバッファー中において混合し、4〜37℃で2〜48時間、好ましくは20〜30時間静置により混合すればよい。ワクチン抗原−カチオン性ナノゲル複合体の形成に用いるバッファーは、タンパク質とナノゲルの種類により適宜調製することができ、バッファーとして例えばTris-HCl緩衝液(50mM、pH7.6)が挙げられる。調製したワクチン抗原−ナノゲル複合体は、公知の方法により解析することが可能である。例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)、原子間力顕微鏡(atomic force microscope、AFM)、蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー蛍光顕微鏡により解析できる。
【0024】
本発明の粘膜ワクチン製剤は、粘膜を介して投与する。粘膜を介しての投与は、好適には鼻腔粘膜又は腸管粘膜を介して行われる。前者の場合は、経鼻ワクチン製剤として経鼻投与され、後者の場合は経口ワクチン製剤として経口投与される。経鼻ワクチン製剤は経鼻投与によって鼻腔内で免疫応答を誘導する。すなわち、ウイルス等の感染症を引き起こす微生物の感染ルートである気道(特に上気道)の局所粘膜における免疫機構を誘導し得る。経鼻ワクチン製剤は噴霧、塗布、滴下等により鼻腔に投与すればよい。経口ワクチン製剤は経口投与によって腸管で免疫応答を誘導する。粘膜ワクチン製剤は投与した粘膜や鼻腔関連リンパ組織(NALT)や腸管関連リンパ組織(GALT)に留まり、ワクチン抗原を徐放する。経鼻ワクチン製剤も経口ワクチン製剤も全身免疫を引き起こし、生体内にウイルス等に特異的なIgGが産生されるとともに、粘膜免疫を引き起こし、粘膜においてIgA抗体が産生され、全身免疫機構、粘膜免疫機構の両方の機構で感染を防御し、感染症を治療し得る。
【0025】
粘膜ワクチン製剤には、薬学的に許容できる公知の安定剤、防腐剤、酸化防止剤等を含ませても良い。安定剤としてはゼラチン、デキストラン、ソルビトール等が挙げられる。防腐剤としてはチメロサール、βプロピオラクトン等が挙げられる。酸化防止剤としてはαトコフェロール等が挙げられる。
【0026】
本発明の粘膜ワクチン製剤の投与対象としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、ウシ、イヌ、ウマ、ヤギ等の哺乳動物、及びニワトリ等の鳥類が挙げられる。
【0027】
粘膜ワクチン製剤の投与量は、免疫原の種類、投与対象の年齢や体重等により適宜決定することができるが、薬学的に有効な量のワクチン抗原を含む。薬学的に有効な量とは、そのワクチン抗原に対する免疫反応を誘導するのに必要な抗原量をいう。例えば、1回のワクチン抗原投与量数μg〜数十mgで1日1回〜数回投与し、1〜数週間間隔でトータル数回、例えば1〜5回投与すればよい。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0029】
実施例1 粘膜ワクチンの作製
カチオン性ナノゲル(カチオン性CHP)は100単糖あたりコレステロールが1.4及びエチレンジアミンが18置換されているものを使用した(CHPNH2ナノゲル)。CHP誘導体又はカチオン性プルランを1mg/mlのリン酸緩衝溶液(PBS)に溶かした。CHPNH2ナノゲルに15分間のソニケーションを行った後、フィルター(0.22 mm)に通した。
【0030】
大腸菌で発現させ、精製したボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域(Hc、分子量45000)、破傷風トキソイド(TT、分子量150000)、又はエイズウイルス膜抗原分子(gag p24、分子量24000)を、等モル量の上記のようにして調製したカチオン性ナノゲルと混和し、45℃で5時間反応させることで複合化した。得られた抗原とカチオン性ナノゲルとの複合体をカチオン性ナノゲル粘膜ワクチンとして用いた。精製したボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域は、GST融合タンパク発現ベクターであるpGEX-6P3(GE healthcare)内にその遺伝子を挿入し、大腸菌Rossetta2(Novagen)に形質導入後、0.1mMのIPTGを添加することで発現誘導させた。Hcは、PBSに懸濁させた菌体を超音波破砕後、遠心しその上清を陰イオン交換クロマトグラフィー(DAEA Sepharose; GE Healthcare)、アフィニティークロマトグラフィー(Glutathione Sepharose; GE healthcare)、ゲル濾過クロマトグラフィー(Sephacryl S-100; GE healthcare)に供することで精製した。HcのN末端に融合されたGSTは、アフィニティークロマトグラフィーを実施後、カラム内にPreScission Protease(GE herthcare)を添加することで切断除去した。また、破傷風トキソイドは(財)大阪大学微生物病研究会より、またgag p24は国立感染症研究所免疫部の横田恭子室長より入手した。
【0031】
実施例2 経鼻免疫
実施例1で作製したカチオン性ナノゲル粘膜ワクチン又は抗原単独を、6〜8週齢のBalb/cマウス(雌)に1匹あたりHc 10μg(ナノゲル88.9μg)、TT 30μg(ナノゲル80.0μg)、又はgag p24 10μg(ナノゲル 166.7μg)を、週1回(計3回)鼻腔内に投与することで、経鼻免疫を行った。投与抗原量(液量)はすべての実験区において15μlになるように調整し、片鼻当たり7.5μlを投与した。この際、コントロールとしてPBSを投与した。
【0032】
免疫前及び各免疫1週間後に血液を採取し、血清中のボツリヌス毒素、TT、又はgag p24に対するIgG抗体価を測定することにより、全身系の免疫応答を評価した。また、最終免疫1週間後に200μlのPBSを用いて鼻腔を洗浄し、鼻腔洗浄液中のIgA抗体価を測定することにより粘膜系での免疫応答を評価した。抗体価の評価は、ELISA法で行った。血清中IgGに関しては、IgG1, IgG2a, IgG2b及びIgG3の各サブクラスの抗体価を測定し、サブクラスレベルでの抗体産生パターンも評価することで、免疫後のTh1/Th2の免疫バランスを推測した。さらに、最終免疫1週間後の鼻腔組織中の抗原特異的IgA産生細胞(形質細胞)数を、ELISPOT法で評価した。
【0033】
血清中のボツリヌス毒素に対するトータルIgG抗体価を図1に示す。また、図2に3回免疫後に採取した血清中のボツリヌス毒素に対するIgG1、IgG2a、IgG2b及びIg3の抗体価を示す。さらに、図3に血清中のTTに対するトータルIgG抗体価を示し、図4に3回免疫後に採取した血清中のTTに対するIgG1、IgG2a、IgG2b及びIg3の抗体価を示す。図5に3回免疫後のgag p24特異的IgG抗体価を示す。
【0034】
図6に3回免疫後の鼻腔洗浄液中のボツリヌス毒素に対するIgA抗体価を示し、図7に3回免疫後の鼻腔洗浄液中のTTに対するIgA抗体価を示す。
【0035】
図1、3及び5に示すように、Hc、TT、又はgag p24をカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合にHc、TT、又はgag p24を単独で投与した場合に比べボツリヌス毒素、TT、又はgag p24に対するトータルIgG抗体価が著しく高かった。このことは、Hc、TT、又はgag p24を単独で投与した場合と比較して、Hc、TT、又はgag p24をカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合により強力な全身性免疫反応を引き起こすことを示す。また、図2及び図4に示すように、抗原特異的IgGの大半がIgG1タイプのサブクラスであり、IgG2aレベルは顕著に低かった。以上の結果から、ワクチン抗原をカチオン性ナノゲルとの複合体として経鼻投与することで、Th2型の液性免疫応答が効果的に誘導されていることが推測された。
【0036】
図6及び図7に示すように、Hc又はTTを単独で投与した場合は、IgA抗体価は殆ど認められなかったが、Hc又はTTをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合にボツリヌス毒素又はTTに対する高いIgA抗体価が認められた。このことは、抗原とカチオン性ナノゲルの複合体からなる本発明の粘膜ワクチンを経鼻投与した場合のみに、鼻粘膜において、粘膜免疫反応を引き起こしたことを示す。
【0037】
図8に鼻腔粘膜組織中のボツリヌス毒素抗原特異的IgA産生細胞の数の比較を示す。図8に示すように、Hc単独で投与した場合は、IgA産生細胞は全く産生されないが、Hcとカチオン性ナノゲルの複合体を投与した場合は、IgA産生細胞が産生された。
【0038】
実施例3 ナノゲル粘膜ワクチンを用いた経鼻免疫後の中和効果
実施例1で作製したボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域(Hc、分子量45000)を抗原とするカチオン性ナノゲルワクチン又はHc単独を実施例2と同様の方法でそれぞれマウス5匹に経鼻免疫した。陰性コントロールとしてPBSを投与した。3回の免疫後、腹腔投与致死量の25000倍(500ng)のボツリヌス毒素(大阪府立大学生命環境科学研究科獣医学専攻、小崎俊司教授により入手した)を腹腔内投与することで、その生存効果を解析した。また、鼻腔組織中に誘導されたHc特異的IgAの中和効果を解析する目的で、10μgのボツリヌスプロジェニター毒素(和光純薬より入手した)を経鼻投与し、その後の生存効果も解析した。
【0039】
図9にボツリヌス毒素を腹腔内投与した後のマウスの経時的な生存率を示す。図9に示すように、Hc単独で免疫したマウスでは1日以内に全数が死亡したが、Hcをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与したマウスでは、1週間後も全数が生存していた。この結果は、Hcとカチオン性ナノゲルとの複合体を経鼻投与することで、強力な全身系での中和免疫を誘導可能であることを示している。
【0040】
図10にボツリヌスプロジェニター毒素を経鼻投与した場合の経時的な生存率を示す。図10に示すように、Hc単独で免疫したマウスでは1日以内に全数が死亡したが、Hcをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与したマウスでは、1週間後も全数が生存していた。この結果は、Hcとカチオン性ナノゲルとの複合体を経鼻投与することで誘導されたボツリヌス毒素特異的粘膜IgAにより、ボツリヌス粘膜感染が効果的に阻止されたことを示している。
【0041】
実施例4 カチオン性リポソームワクチンと比較したカチオン性ナノゲルワクチンの免疫誘導効果
実施例1で作製したボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域(Hc、分子量45000)を抗原とするカチオン性ナノゲルワクチン又は、同一抗原を同量複合化させたカチオン性リポソーム(Pro-ject)を実施例2と同様の方法でそれぞれマウス5匹に経鼻免疫した。なお、Pro-jectはPIERCEより入手した。
【0042】
図11に3回免疫後のボツリヌス毒素に対するトータルIgG抗体価を示す。
図11に示すように、Hcをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合に、Hcをカチオン性リポソームとの複合体で投与した場合に比べ、ボツリヌス毒素に対するトータルIgG抗体価が著しく高かった。
【0043】
図12に3回免疫後のボツリヌス毒素に対するトータルIgA抗体価を示す。
図12に示すように、Hcをカチオン性ナノゲルとの複合体として投与した場合に、Hcをカチオン性リポソームとの複合体で投与した場合に比べ、ボツリヌス毒素に対するトータルIgA抗体価が著しく高かった。
【0044】
実施例5 カチオン性ナノゲルワクチンの鼻腔組織内での抗原貯留効果と、脳神経系への移行の有無
ボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域(Hc、分子量45000)にDTPA anhydrideを用いて111In(インジウム)を公知の方法で標識した。標識効率は、728.3233±115.3543 CPM/ngであった。その後、標識Hcをナノゲルに複合化させた。1,000,000 CPM量の標識Hcを複合化させたナノゲル粘膜ワクチン又は標識Hc単独をマウスに経鼻投与した。その後の体内動態(脳、嗅球、鼻腔、鼻腔関連リンパ組織(NALT)、頸部リンパ節及び脾臓)をガンマカウンターで追跡評価した。具体的には、経鼻投与の0.17、1、6、12、24及び48時間後に、マウスから脳、嗅球、鼻腔、鼻腔関連リンパ組織(NALT)、頸部リンパ節及び脾臓を採取し、試料重量を測定後、試料からのガンマ線をガンマカウンターで測定した。
【0045】
図13に、脳(A)、嗅球(B)、鼻腔組織(C)、鼻腔関連リンパ組織(NALT)(D)、頸部リンパ節(E)及び脾臓(F)中のガンマ線測定の結果を示す。
【0046】
図13に示すように、特に鼻腔組織(C)において、ナノゲル粘膜ワクチンが長時間貯留していたが、脳及び嗅球への移行は確認されなかった。この結果は、本発明のカチオン性ナノゲルを含む粘膜ワクチンを鼻腔投与した場合、粘膜ワクチン単体で投与した場合と比較して、鼻腔内における抗原貯留効果が高く、一方で、一部のアジュバントのような中枢神経系へ移行しない、安全かつ効果に優れた鼻腔投与用性剤として応用可能であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】経鼻免疫したマウスの血清中のHcに対するトータルIgG抗体価を示す図である。
【図2】経鼻免疫したマウスの血清中のHcに対するIgG1、IgG2a、IgG2b及びIg3の抗体価を示す図である。
【図3】経鼻免疫したマウスの血清中のTTに対するトータルIgG抗体価を示す図である。
【図4】経鼻免疫したマウスの血清中のTTに対するIgG1、IgG2a、IgG2b及びIg3の抗体価を示す図である。
【図5】経鼻免疫したマウスの血清中のgag p24に対するトータルIgG抗体価を示す図である。
【図6】経鼻免疫したマウスの鼻腔洗浄液中のHcに対するIgA抗体価を示す図である。
【図7】経鼻免疫したマウスの鼻腔洗浄液中のTTに対するIgA抗体価を示す図である。
【図8】経鼻免疫したマウスの鼻腔洗浄液中のHc抗原特異的IgA産生細胞の数を示す図である。
【図9】Hcで経鼻免疫したマウスのボツリヌス毒素を腹腔内投与した後のマウスの経時的な生存率を示す図である。
【図10】Hcで経鼻免疫したマウスのボツリヌスプロジェニター毒素を経鼻腹腔内投与した後のマウスの経時的な生存率を示す図である。
【図11】カチオン性ナノゲル又はカチオン性リポゾームを経鼻免疫したマウスの血清中のボツリヌス毒素に対するトータルIgG抗体価を示す。
【図12】カチオン性ナノゲル又はカチオン性リポゾームを経鼻免疫したマウスの鼻腔洗浄液中のgag p24に対する、IgA抗体価を示す図である。
【図13】カチオン性ナノゲルワクチンの鼻腔組織内での抗原貯留効果と、脳神経系への移行の有無を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原との複合体を含み、粘膜を介して投与される、微生物感染症の予防又は治療用粘膜ワクチン製剤。
【請求項2】
カチオン性の官能基がアミノ基である、請求項1記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項3】
ナノゲルがコレステロール置換プルランである、請求項1又は2に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項4】
ワクチン抗原が微生物由来抗原である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項5】
微生物がウイルス、細菌、原虫及び真菌からなる群から選択される、請求項4記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項6】
ワクチン抗原がボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域、破傷風トキソイド及びエイズウイルス膜抗原分子gag p24からなる群から選択される、請求項5記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項7】
ワクチン抗原とナノゲルが1:1〜1:10のモル比で複合化される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項8】
経鼻投与製剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項9】
経口投与製剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項10】
カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原を4〜37℃で2〜48時間混合することを含む、ワクチン抗原と前記ナノゲルの複合体を含む粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項11】
カチオン性の官能基がアミノ基である、請求項10記載の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項12】
ナノゲルがコレステロール置換プルランである、請求項10又は11に記載の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項13】
ワクチン抗原が微生物由来抗原である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項14】
微生物がウイルス、細菌、原虫及び真菌からなる群から選択される、請求項13記載の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項1】
カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原との複合体を含み、粘膜を介して投与される、微生物感染症の予防又は治療用粘膜ワクチン製剤。
【請求項2】
カチオン性の官能基がアミノ基である、請求項1記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項3】
ナノゲルがコレステロール置換プルランである、請求項1又は2に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項4】
ワクチン抗原が微生物由来抗原である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項5】
微生物がウイルス、細菌、原虫及び真菌からなる群から選択される、請求項4記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項6】
ワクチン抗原がボツリヌス毒素の重鎖C末端無毒領域、破傷風トキソイド及びエイズウイルス膜抗原分子gag p24からなる群から選択される、請求項5記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項7】
ワクチン抗原とナノゲルが1:1〜1:10のモル比で複合化される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項8】
経鼻投与製剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項9】
経口投与製剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤。
【請求項10】
カチオン性の官能基を有する親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールを付加したナノゲルとワクチン抗原を4〜37℃で2〜48時間混合することを含む、ワクチン抗原と前記ナノゲルの複合体を含む粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項11】
カチオン性の官能基がアミノ基である、請求項10記載の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項12】
ナノゲルがコレステロール置換プルランである、請求項10又は11に記載の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項13】
ワクチン抗原が微生物由来抗原である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【請求項14】
微生物がウイルス、細菌、原虫及び真菌からなる群から選択される、請求項13記載の粘膜ワクチン製剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−105968(P2010−105968A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281065(P2008−281065)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
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