説明

カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維及びその製造方法

【課題】カチオン化された新規なミクロフィブリル化植物繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】四級アンモニウム基を含有する化合物でカチオン変性された繊維径の平均値が4〜200nmであるカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物等の繊維(例えば木材のパルプ等)をミクロフィブリル化して、繊維径がナノオーダーにまで微細化されたミクロフィブリル化植物繊維(ナノファイバー)を得る方法は、種々の方法が知られている。例えば、特許文献1には、特定の繊維長を有するセルロース繊維をミクロフィブリル化して、繊維径が小さくても繊維長が長く、保水性等に優れた微小繊維状セルロースが得られることが開示されている。また、特許文献2には、繊維原料を蒸煮処理することによって、セルロース系の繊維原料に含まれる不要なリグニン、ヘミセルロース等の接着力を弱め、ナノファイバー化を促進する方法が提案されている。さらに、ナノファイバー化を促進して、リグノセルロースから直接セルロースナノファイバーを製造する方法として、ニトロキシラジカル誘導体、臭化アルカリ及び酸化剤を含む水系媒体中でリグノセルロースを処理する方法も提案されている(特許文献3)。
【0003】
一方、セルロース系繊維にアニオン性、カチオン性、ノニオン性界面活性剤等の疎水化薬品を添加した後に機械的攪拌処理を施して、セルロース系物質に高い空隙を与え、紙おむつ等に使用される繊維の吸水力を向上させる方法が開示されている(特許文献4)。また、特許文献4と同様、ミクロフィブリル化植物繊維(ナノファイバー)ほどの微小繊維の製造を対象とするものではないが、セルロース系繊維の表面にカチオン基を導入し、繊維表面をカチオン帯電させてアニオン性染料との親和性を高めたり、より微細化してセルロース粒子としての機能を保持しつつ、その保水性、保形性、分散性を改善することも提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−231438号公報
【特許文献2】特開2008−75214号公報
【特許文献3】特開2008−308802号公報
【特許文献4】特開平8−10284号公報
【特許文献5】特開2002−226501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カチオン化された新規なミクロフィブリル化植物繊維及びその製造方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の通り、木材パルプ等の植物繊維からミクロフィブリル化植物繊維を製造するに際して、出発原料や解繊方法を工夫してナノファイバー化を促進したり、原料繊維に化学処理を施して保水性を高めたりすることが知られている。しかしながら、ミクロフィブリル化植物繊維ほどに高度に微細化した繊維の場合、解繊方法や化学処理の方法によって、繊維の分散性や表面の損傷程度等が異なり、これらがミクロフィブリル化植物繊維のシートや樹脂複合体とした時の強度等の物性に大きな違いを与える。本発明者は、植物繊維を含む材料からミクロフィブリル化植物繊維が容易に得られ、かつ、得られたミクロフィブリル化植物繊維の強度の点でも優れる製造方法について、鋭意検討を重ねてきた。その結果、(1)セルロース繊維を含有する材料中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤とを反応させて、該セルロース繊維を含有する材料をカチオン変性する工程、(2)得られたカチオン変性繊維を水の存在下に解繊する工程を備えた製造方法を採用することにより、植物繊維の解繊が容易になるだけでなく、シートや樹脂との複合体にしたときの強度の点で特に優れたミクロフィブリル化植物繊維が得られることを見出した。
【0007】
ミクロフィブリル化植物繊維は、通常、還元末端が一部酸化される等の理由により、微量ではあるがアニオン性に帯電している。この為、植物繊維をカチオン変性するだけでも静電相互作用により繊維間の結合形成が促進され、強度が向上することがある。しかしながら、植物繊維に含まれるアニオン性基はごく微量であるため、その効果は僅かである。ところが、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、植物繊維をカチオン変性させた後、機械的せん断応力を加えることでミクロフィブリル化が著しく進行することを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねて完成した発明である。すなわち、本発明は下記項1〜7に示すミクロフィブリル化植物繊維、その製造方法、該植物繊維からなるシート、及び該植物繊維を含む熱硬化性樹脂複合体を提供する。
【0009】
項1.四級アンモニウム基を含有する化合物でカチオン変性された繊維径の平均値が4〜200nmであるカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維。
【0010】
項2.無水グルコース単位当たりの四級アンモニウム基の置換度が0.03以上0.4未満であり、繊維径の平均値が4〜200nmであるカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維。
【0011】
項3.項1又は項2に記載のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法であって、下
記工程(1)及び(2):
(1)セルロース繊維を含有する材料中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤とを反応させて、該セルロース繊維を含有する材料をカチオン変性する工程、及び
(2)得られたカチオン変性繊維を水の存在下に繊維径の平均値が4〜200nmになるまで解繊する工程
を備えたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【0012】
項4.項1又は項2に記載のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維からなるシート。
【0013】
項5.項1又は項2に記載のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維を含有する熱硬化性樹脂複合体。
【0014】
項6.熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル樹脂又はフェノール樹脂である項5に記載の熱硬化性樹脂複合体。
【0015】
項7.項1又は項2に記載のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維と熱硬化性樹脂とを混合する工程を備えた、熱硬化性樹脂複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、(1)セルロース繊維を含有する材料中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤とを反応させて、該セルロース繊維を含有する材料をカチオン変性する工程、(2)得られたカチオン変性繊維を水の存在下に解繊する工程を備えた製造方法を採用することにより、原料の解繊処理がしやすく、かつ、得られるミクロフィブリル化植物繊維をシートや樹脂複合体にしたときの強度の点で特に優れるという効果が奏される。また、本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、繊維径の平均値が4〜200nm程度と極めて細く、強度の点で極めて優れている。よって、本発明は、輸送機器の内装材、外装材、構造材;電化製品等の筺体、構造材、内部部品;移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等の幅広い分野で使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例3で得られたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の電子顕微鏡写真(10000倍)
【図2】実施例3で得られたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の電子顕微鏡写真(20000倍)
【図3】実施例4で得られたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の電子顕微鏡写真(50000倍)
【図4】比較例1で得られたカチオン性植物繊維の電子顕微鏡写真(10000倍)
【図5】比較例3で得られたカチオン性植物繊維の電子顕微鏡写真(250倍)
【0018】
以下、本願発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維、その製造方法、該植物繊維から得られるシート及び熱硬化性樹脂複合体について、詳述する。
【0019】
本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維は、繊維径の平均値が4〜200nm程度と極めて細く、該ミクロフィブリル化植物繊維が四級アンモニウム基を有する化合物でカチオン変性されていることを特徴とする。
【0020】
植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在する。これが、植物の基本骨格物質(基本エレメント)である。そして、このセルロースミクロフィブリルが集まって、植物の骨格を形成している。本発明において、ミクロフィブリル化植物繊維とは、植物繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)をその繊維をナノサイズレベルまで解きほぐしたものである。
【0021】
本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の繊維径は、平均値が通常4〜200nm程度、好ましくは4〜150nm程度、特に好ましくは4〜100nm程度である。なお、本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の繊維径の平均値は、電子顕微鏡の視野内のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。
【0022】
本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、例えば、下記工程(1)及び(2)を備えた方法により製造することができる。
【0023】
工程(1):セルロース繊維を含有する材料中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤とを反応させて、該セルロース繊維を含有する材料をカチオン変性する工程、及び
工程(2):得られたカチオン変性繊維を水の存在下に繊維径の平均値が4〜200nm程度になるまで解繊する工程。
【0024】
工程(1)において、原料となるセルロース繊維を含有する材料(セルロース繊維含有材料)としては、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布と言った天然セルロース原料から得られるパルプ、マーセル化を施したセルロース繊維、レーヨンやセロファンなどの再生セルロース繊維などが挙げられる。特に、パルプが好ましい原材料として挙げられる。
【0025】
前記パルプとしては、植物原料を化学的、又は機械的に、または両者を併用してパルプ化することで得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、セミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、及びこれらの植物繊維を主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプが好ましいものとして挙げられる。これらの原材料は、必要に応じ、脱リグニン、又は漂白を行い、当該植物繊維中のリグニン量を調整することができる。
【0026】
これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(以下、NUKPということがある)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(以下、NOKPということがある)、針葉樹漂白クラフトパルプ(以下、NBKPということがある))が特に好ましい。
【0027】
原料となるセルロース繊維含有材料中のリグニン含有量は、通常0〜40重量%程度、好ましくは0〜10重量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定した値である。
【0028】
工程(1)におけるカチオン変性反応(セルロース繊維を含有する材料中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤との反応)は、公知の方法により行うことができる。セルロース繊維を含有する材料は、無水グルコース単位が多数結合して形成されており、各無水グルコース単位には、水酸基が複数存在する。例えば、グリシジルトリアルキルアンモニウムハライドをカチオン化剤に用いる場合、原料となるセルロース繊維を含有する材料にカチオン化剤と触媒である水酸化アルカリ金属を作用させることにより行われる。
【0029】
前記セルロース繊維含有材料に作用(反応)させる、四級アンモニウム基を有するカチオン化剤は、セルロース繊維含有材料の水酸基と反応する基及び四級アンモニウム基を有する化合物である。セルロース繊維含有材料の水酸基と反応する基としては、その水酸基と反応して共有結合を形成する反応基であれば特に限定はない。例えば、エポキシ基又はそれを形成し得るハロヒドリン基等、活性ハロゲン基、活性ビニル基、メチロール基等が挙げられる。これらの内、反応性の点からエポキシ基又はそれを形成し得るハロヒドリン基が好ましい。また、四級アンモニウム基は−N(R)(但し、式中のRは置換基を有しても良いアルキル基、アリール基又は複素環基である)なる構造を有する。このようなカチオン化剤は公知のものが多数存在し、本発明においても、公知のカチオン化剤を使用できる。
【0030】
本発明において、四級アンモニウム基を有するカチオン化剤の分子量は、通常150〜10000程度、好ましくは150〜5000程度、より好ましくは150〜1000程度である。カチオン化剤の分子量が1000以下であると、セルロース繊維を含む材料の解繊が進行しやすく好ましい。これは、セルロースの内部にまでカチオン化剤が浸透し、セルロース繊維を含む材料の内部まで十分にカチオン化され、カチオン同士の電気的な反発効果が大きくなるために、解繊が進行しやすくなるものと考えられる。
【0031】
本発明において使用できる四級アンモニウム基を有するカチオン化剤の具体例としては、例えば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等のグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド又はそのハロヒドリン型等が挙げられる。
【0032】
前記セルロース繊維含有材料と前記四級アンモニウム基を有するカチオン化剤との反応は、水酸化アルカリ金属、並びに水及び/又は炭素数1〜4のアルコールの存在下に行ことが好ましい。触媒となる水酸化アルカリ金属としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用できる。また、水は、水道水、精製水、イオン交換水、純水、工業用水等を使用すればよい。さらに、炭素数1〜4のアルコールとしては、具体的にはメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等が挙げられる。水と炭素数1〜4のアルコールは、それぞれ単独で使用でき、混合して使用してもよい。水と炭素数1〜4のアルコールとを混合して使用する場合、その組成比は適宜調整されるが、得られるカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の無水グルコース単位当たりの四級アンモニウム基の置換度が0.03以上0.4未満になるように調整することが望ましい。
【0033】
工程(1)において、セルロース繊維を含有する材料と前記カチオン化剤の使用割合は、セルロース繊維含有材料を100重量部として、前記カチオン化剤を通常10〜1000重量部程度、好ましくは10〜800重量部程度、より好ましくは10〜500重量部程度使用すればよい。
【0034】
また、前記水酸化アルカリ金属の使用割合は、セルロース繊維含有材料を100重量部として、通常1〜7重量部程度、好ましくは1〜5重量部程度、より好ましくは1〜3重量部程度である。さらに、水及び/又は炭素数1〜4のアルコールの使用割合は、セルロース繊維を含有する材料を100重量部として、通常100〜50000重量部程度、好ましくは100〜10000重量部程度、より好ましくは100〜500重量部程度である。
【0035】
工程(1)において、セルロース繊維を含有する材料と前記カチオン化剤とを作用(反応)させる温度は、通常10〜90℃程度、好ましくは30〜90℃程度、より好ましくは50〜80℃程度である。また、セルロース繊維を含有する材料と前記カチオン化剤とを作用(反応)させる時間は、通常10分〜10時間程度、好ましくは30分〜5時間程度、より好ましくは1〜3時間程度である。なお、工程(1)を行う圧力については、特に制限がなく、大気圧下で行えばよい。
【0036】
また、工程(1)で得られたカチオン変性されたセルロース繊維含有材料をそのまま工程(2)に供してもよいが、前記工程(1)でカチオン変性を行った後、反応系中に残存する水酸化アルカリ金属塩等の成分を鉱酸、有機酸等により中和してから工程(2)に供するのが好ましい。さらに、当該中和工程の他に、常法により洗浄、精製を行っても良い。また、引き続く工程(2)の解繊処理に適切な繊維濃度となるように水の量を増減させてもよい。
【0037】
ただし、本発明においては、工程(1)と工程(2)との間には、カチオン変性されたセルロース繊維含有材料の乾燥工程を設けるべきではない。工程(1)でカチオン変性されたセルロース繊維含有材料を乾燥させると、続く工程(2)で乾燥物を解繊処理しても、本発明のようなナノレベルまで解繊された、高強度を有するミクロフィブリル化植物繊維を得ることは困難である。セルロース分子は多数の水酸基を有するために、一旦乾燥工程を経たセルロース繊維含有材料は隣り合う繊維同士が強固な水素結合でつながりあってしまい強力に凝集する(例えば、紙、パルプでは、このような乾燥時の繊維の凝集をHornificationと呼称する)。一度凝集した繊維を機械的な力で解繊することは、非常に困難である。例えば、特許文献5においては、カチオン化処理の後に乾燥工程を経ているため、Hornificationが生じる。よって、これを機械的にいかに粉砕しても、ミクロンオーダーの粒子のみが形成されることになる。
【0038】
よって、本発明においては、工程(1)でカチオン変性されたセルロース繊維含有材料は、工程(2)において、水の存在下に解繊される。セルロース繊維含有材料の解繊処理の方法は、公知の方法が採用でき、例えば、前記セルロース繊維含有材料の水懸濁液、スラリーをリファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機等により機械的に摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、リファイナー処理後に一軸又は多軸混練機処理を行うといったように、上記の解繊方法を組み合わせて処理することが好ましい。
【0039】
工程(2)においては、前記工程(1)でカチオン変性されたセルロース繊維含有材料を一軸又は多軸混練機(以下、単に「混練機」ということがある)で解繊することが好ましい。混練機(混練押出機)には、一軸混練機、二軸以上の多軸混練機があり、本発明においては、何れを使用してもよい。多軸混練機を用いた場合、ミクロフィブリル化植物繊維の分散性をより向上させることができるので好ましい。多軸混練機の中でも、入手のしやすさ等の観点から、二軸混練機が好ましい。
【0040】
前記一軸又は多軸混練機のスクリューの周速の下限値は、通常45m/分程度である。スクリューの周速の下限値は60m/分程度が好ましく、90m/分程度が特に好ましい。また、スクリューの周速の上限値は通常200m/分程度である。スクリューの周速の上限値は150m/分程度が好ましく、100m/分程度が特に好ましい。
【0041】
本発明において使用される混練機のL/D(スクリュー径Dと混練部の長さLの比)は、通常15〜60程度、好ましくは30〜60程度である。
【0042】
一軸又は多軸混練機による解繊時間は、セルロース繊維含有材料の種類、前記混練機のL/D等によっても異なるが、前記のL/Dの範囲内であれば、通常30〜60分程度、好ましくは30〜45分程度である。
【0043】
混練機による解繊に供する回数(パス)は、目的とするミクロフィブリル化植物繊維の繊維径、繊維長、また、前記混練機のL/D等によっても変化するが、通常1〜8回程度、好ましくは1〜4回程度である。パルプを前記混練機による解繊に供する回数(パス)があまりに多くなりすぎると、解繊はより進行するものの、同時に発熱も生じるため、セルロースが着色したり、熱ダメージ(シート強度の低下)につながる。
【0044】
混練機には、スクリューの存在する混練部は1カ所であってもよいし、2カ所以上存在してもよい。
【0045】
また、混練部が2カ所以上存在する場合、各混練部の間に1個又は2個以上のせき止め構造(返し)を有していてもよい。なお、本発明においては、スクリューの周速が45m/分以上と従来のスクリューの周速よりもかなり大きいので、混練機への負荷を軽減するためには、せき止め構造を有しない方がより好ましい。
【0046】
二軸混練機を構成する二本のスクリューの回転方向は異方向、同方向のどちらでもよい。また、二軸混練機を構成する二本のスクリューの噛み合いは、完全噛み合い型、不完全噛み合い型、非噛み合い型があるが、本発明の解繊に用いるものとしては、完全噛み合い型が好ましい。
【0047】
スクリュー長さとスクリュー直径の比(スクリュー長さ/スクリュー直径)は20〜150程度であればよい。具体的な二軸混練機としては、テクノベル社製「KZW」、日本製鋼所製「TEX」、東芝機械社製「TEM」、コペリオン社製「ZSK」などを用いることができる。
【0048】
解繊に供する原料パルプと水との混合物中の原料パルプの割合は、通常10〜70重量%程度、好ましくは20〜50重量%程度である。
【0049】
また、混練時の温度には特別の制約はないが、通常10〜160℃で行うことが可能であり、特に好ましい温度は20〜140℃である。
【0050】
前記の通り、本発明においては、工程(2)による解繊に供する前に、カチオン化された植物繊維含有材料をリファイナー等による予備解繊に供しても良い。リファイナー等による予備解繊の方法は、従来公知の方法が採用できる。リファイナーによる予備解繊を行うことにより、前記混練機にかかる負荷を低減することができ、生産効率の点からも好ましい。
【0051】
本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維は、上記のような製造方法によって得られ、無水グルコース単位当たりの四級アンモニウム基の置換度は0.03以上0.4未満、セルロースI型の結晶化度は通常60%以上である。無水グルコース単位当たりの四級アンモニウム基の置換度の下限値は、0.03程度が好ましく、0.05程度がより好ましい。また、当該置換度の上限値は、0.3程度が好ましく、0.2程度がより好ましい。なお、置換度は解繊処理の方法によって変化し、前記の置換度の範囲とするために前述した解繊方法を用いることができるが、その中でも混練機、とりわけ二軸混練機を用いることが、前記所望の置換度の数値範囲とする点において特に好ましい。なお、四級アンモニウム基(カチオン基)の置換度は、実施例に記載の方法により測定した値である。
【0052】
本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維中のリグニン含有量は、前記原料セルロース繊維含有材料のリグニン含有量と同じく、通常0〜40重量%程度、好ましくは0〜10重量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定した値である。
【0053】
また、本発明において、高強度、高弾性率を有するミクロフィブリル化植物繊維を得るためには、ミクロフィブリル化植物繊維を構成するセルロースは、最も高強度化・高弾性率化されているセルロースI型結晶構造を有することが好ましい。
【0054】
本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維は、シート状に成形した成形体とすることができる。成形方法は特に限定されないが、例えば、前記工程(1)及び(2)によって得られた、ミクロフィブリル化植物繊維と水の混合液(スラリー)を吸引ろ過し、フィルター上にシート状になったミクロフィブリル化植物繊維を乾燥、加熱圧縮等することによって、ミクロフィブリル化植物繊維をシートに成形することができる。
【0055】
カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維をシートに成形する場合、前記スラリー中のミクロフィブリル化植物繊維の濃度は、特に限定されない。通常は、0.1〜2.0重量%程度、好ましくは0.2〜0.5重量%程度である。
【0056】
また、吸引ろ過の減圧度は、通常10〜60kPa程度、好ましくは10〜30kPa程度である。吸引ろ過時の温度は、通常10℃〜40℃程度、好ましくは20℃〜25℃程度である。
【0057】
フィルターとしては、ワイヤメッシュクロス、ろ紙等を使用することができる。
【0058】
上記の吸引ろ過によって、カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の脱水シート(ウェットウェブ)を得ることができる。そして、得られた脱水シートを必要に応じて溶媒浴に浸漬させた後、加熱圧縮することによって、ミクロフィブリル化植物繊維の乾燥シートを得ることができる。
【0059】
加熱圧縮の際の加熱温度は、通常50〜150℃程度、好ましくは90〜120℃程度である。また、圧力は、通常0.0001〜0.05MPa程度、好ましくは0.001〜0.01MPa程度である。加熱圧縮時間は、通常1〜60分程度、好ましくは10〜30分程度である。
【0060】
本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維から得られるシートの引っ張り強度は、通常90〜200MPa程度、好ましくは120〜200MPa程度である。本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維から得られるシートの引っ張り強度は、シートの坪量や密度等によって異なることがある。本発明では、坪量100g/mのシートを作成し、密度が0.8〜1.0g/cmのカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維から得られるシートの引っ張り強度を測定した。
【0061】
なお、引っ張り強度は、以下の方法により測定した値である。坪量100g/mに調製し乾燥カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維を裁断して10mm×50mmの長方形シートを作成し、試験片を得る。試験片を引っ張り試験機に取り付け、荷重を加えながら試験片にかかる応力とひずみを測定する。試験片が破断した際の、試験片単位断面積当たりにかかった荷重を引っ張り強度とする。
【0062】
また、本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維から得られるシートの引っ張り弾性率は、通常6.0〜8.0GPa程度、好ましくは7.0〜8.0GPa程度である。本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維から得られるシートの引っ張り弾性率は、シートの坪量や密度等によって異なることがある。本発明では、坪量100g/mのシートを作成し、密度が0.8〜1.0g/cmのカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維から得られるシートの引っ張り弾性率を測定した。なお、引っ張り強度は、以下の方法により測定した値である。
【0063】
また、本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維は、種々の樹脂と混合して樹脂複合体とすることができる。
【0064】
樹脂の種類は特に限定されず、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂等が使用できる。樹脂は、一種単独又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましくは、フェノール樹脂;エポキシ樹脂;不飽和ポリエステル樹脂である。
【0065】
カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維と樹脂とを複合化する方法は特に限定されず、通常のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維を樹脂と複合化する方法を採用できる。例えば、カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維より構成されるシート又は成形体に樹脂モノマー液を十分に含浸させて、熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維にポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液を十分に含浸させて乾燥する方法、カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維を樹脂モノマー液中に十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維をポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液に十分に分散させて乾燥する方法等が挙げられる。
【0066】
複合化にあたっては、界面活性剤、でんぷん類、アルギン酸等の多糖類、ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物、着色剤、可塑剤、香料、顔料、流動調整剤、レベリング剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、紫外線分散剤、消臭剤の添加剤を配合してもよい。
【0067】
以上のようにして本発明の樹脂複合体を製造することができる。本発明のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維は、強度が高いので、強度の高い樹脂複合体を得ることができる。この複合化樹脂は他の成形可能な樹脂と同様に成形可能であり、例えば金型成形による加熱圧縮等により成形することができる。成形の条件は樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すればよい。
【0068】
本発明の樹脂複合体は、高い機械強度を有しているので、例えば、従来ミクロフィブリル化植物繊維の成形体、ミクロフィブリル化植物繊維含有樹脂成形体が使用されていた分野に加え、より高い機械強度(引っ張り強度等)が要求される分野にも使用できる。例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等として有効に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
実施例1
針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)のスラリー(パルプスラリー濃度2重量%の水懸濁液)をシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値が100mL以下になるまで、繰返しリファイナー処理を行った。得られたスラリーを遠心脱水機(株式会社コクサン製)を用いて2000rpm、15分の条件で脱液し、パルプ濃度を25重量%にまで濃縮した。次に、回転数を800rpmに調節したIKA攪拌機に上記パルプを乾燥重量で60重量部、水酸化ナトリウムを30重量部、水2790重量部を仕込み、30℃で30分混合攪拌した後に80℃まで昇温し、カチオン化剤として3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(CTA)を有効分換算で375重量部添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄、濃縮して25重量%濃度のカチオン変性パルプを得た。カチオン変性パルプのカチオンの置換度を表1に示す。
【0071】
なお、カチオン基の置換度は、Klason法により試料中のリグニン含量(重量%)を測定した後に、元素分析法により試料の窒素含有量(重量%)を測定し、次式により算出して求めた。ここで言う置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値を表している。
【0072】
カチオン基の置換度=(162×N)/{(1400−151.6×N)×(1−0.01×L)}
N:窒素含有量(重量%)
L:リグニン含有量(重量%)
得られたカチオン変性パルプを二軸混練機(テクノベル社製のKZW)に投入し、解繊処理を行った。二軸混練機による解繊条件は以下の通りである。
【0073】
[解繊条件]
スクリュー直径:15mm
スクリュー回転数:2000rpm(スクリュー周速:94.2m/分)
解繊時間:150gのカチオン変性パルプを500g/hr〜600g/hrの処理条件で解繊した。原料を投入してからミクロフィブリル化植物繊維が得られる迄の時間は15分間であった。
【0074】
L/D: 45
解繊処理に供した回数:1回(1パス)
せき止め構造:0個。
【0075】
次に、解繊によって得られたカチオン性ミクロフィブリル植物繊維スラリーに水を加え、カチオン変性ミクロフィブリル植物繊維の濃度を0.33重量%に調製した。スラリーの温度は20℃とした。次に、スラリー600mLをジャー入れ、攪拌棒で攪拌後、素早く減圧ろ過(アドバンテック東洋株式会社製の5Aろ紙を使用した)を開始した。得られたウェットウェブを110℃、圧力0.003MPaで10分間加熱圧縮し、100g/mのカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維シートを得た。得られたシートの引っ張り強度を測定した。リグニン含量、カチオン基の置換度及び乾燥シートの各物性値を表1に示す。なお、引っ張り強度の測定方法は前記の通りである。
【0076】
実施例2
パルプとして針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)を用いた点、CTAの添加量を180重量部で用いた点、水の添加量を2730重量部とした以外は実施例1と同様にしてカチオン変性を行い、乾燥シートを作成した。リグニン含量、カチオン基の置換度及び乾燥シートの各物性値を表1に示す。
【0077】
実施例3
カチオン化剤としてCTAの変わりにグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド(GTA)を用いた以外は実施例2と同様にしてカチオン変性を行い、乾燥シートを作成した。リグニン含量、カチオン基の置換度及び乾燥シートの各物性値を表1に示す。
【0078】
また、図1、2に実施例3で得られたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の電子顕微鏡写真を示す。図1で示される10000倍のSEM画像より任意のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維100本の繊維径を実測したところ、数平均繊維径は87.02nmであった。また、図2で示される20000倍のSEM画像より任意のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維50本の繊維径を実測したところ、数平均繊維径は96.83nmであった。
【0079】
実施例4
水酸化ナトリウムを7重量部、GTAの添加量を120重量部、IPAの添加量を2352部、水の添加量を588部で用いた点以外は実施例2と同様にしてカチオン変性を行い、カチオン基の置換度が0.185のカチオン変性ミクロフィブリル化植物繊維を得た。
【0080】
また、図3に実施例4で得られたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の電子顕微鏡写真を示す。図3で示される50000倍のSEM画像より任意のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維100本の繊維径を実測したところ、数平均繊維径は57.79nmであった。
【0081】
比較例1
カチオン変性時にCTAの添加量を60重量部、水の添加量を2850重量部とした以外は実施例3と同様にしてカチオン変性を行い、乾燥シートを作成した。リグニン含量、カチオン基の置換度及び乾燥シートの各物性値を表1に示す。
【0082】
図4に比較例1で得られたカチオン性植物繊維の電子顕微鏡写真を示す。図4で示される10000倍のSEM画像より任意のカチオン性植物繊維50本の繊維径を実測したところ、数平均繊維径は354.3nmであり、本発明のように繊維径の平均値が4〜200nm程度のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維にはなっていなかった。
【0083】
比較例2
カチオン変性を行わないこと以外は実施例1と同様にして乾燥シートを作成した。リグニン含量、乾燥シートの各物性値を表1に示す。
【0084】
比較例3
カチオン変性後に二軸解繊処理を行わないこと以外は実施例3と同様にして、カチオン変性植物繊維を得た。リグニン含量、カチオン基の置換度及び乾燥シートの各物性値を表1に示す。
【0085】
比較例4
市販の粉末セルロース(KCフロックW−100G,平均粒子径37μm、日本製紙ケミカル株式会社製)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてカチオン変性を行い、中和・脱液・乾燥した。乾燥物をハンマーミルで解砕し、カチオン基の置換度が0.052であり且つ平均粒子径が35μmのカチオン変性植物繊維を得た。図4に比較例4の電子顕微鏡写真を示す。図4で示される250倍のSEM画像より任意の50本のカチオン性植物繊維径を実測したところ、カチオン性植物繊維の平均径は13.31μmであり、本願発明のように繊維径の平均値が4〜200nm程度のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維にはなっていなかった。なお、比較例4は、特開2002−226501の実施例を再現したものである。
【0086】
【表1】

【0087】
比較例3の結果から明らかなように、GTA300%処理後に二軸解繊を行わないで得たカチオン変性植物繊維シートの強度・弾性率は、各々79MPa.5GPaと、未処理品と略同等であった。実施例3、比較例2、3の比較より、パルプ(NBKP)をGTA処理しただけではシートの引っ張り強度は向上しないが、GTA処理後に二軸解繊することにより、シートの引っ張り強度が大幅に向上することが確認された。
【0088】
実施例5
実施例2で作成したカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の水懸濁液をろ過してカチオン変性ミクロフィブリル化植物繊維のウェットウェブを得た。このウェットウェブをエタノール浴に1時間浸漬させた後、110℃、圧力0.003MPaで10分間加熱圧縮し、カチオン変性ミクロフィブリル化植物繊維の嵩高シートを得た。なお、ろ過条件は、ろ過面積:約200cm、減圧度:−30kPa、ろ紙:アドバンテック東洋株式会社製の5Aとした。
【0089】
次に、得られたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の嵩高シートを幅30mm×長さ40mmにカットして105℃で1時間乾燥させ、重量を測定した。さらに、不飽和ポリエステル樹脂(ディーエイチ・マテリアル株式会社製「サンドマーFG283」)100重量部にベンゾイルパーオキサイド(日油株式会社製「ナイパーFF」)1重量部を加えた樹脂液に該シートを浸漬させた。浸漬は減圧下(真空度0.01MPa、時間30分)で行い、不飽和ポリエステル樹脂含浸シートを得た。次に、該不飽和ポリエステル樹脂含浸シートを、成形体の厚さが約1mmとなるようそれぞれ同じものを数枚重ねた。余分な樹脂をはき出した後、金型に入れ、加熱プレス(温度:90℃、時間:30分)を行って、カチオン変性ミクロフィブリル化植物繊維の不飽和ポリエステル複合体の成形物を得た。なお、得られた成形物の重量を測定し、前記シートの乾燥重量との差から繊維含有率(重量%)を算出した。
【0090】
前記成形物の長さ、幅をノギス(株式会社ミツトヨ製)で正確に測定した。厚さを数か所マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製)で測定し、成形物の体積を計算した。別途成形物の重量を測定した。得られた重量、体積より密度を算出した。
【0091】
前記成形物から厚さ1.2mm、幅7mm、長さ40mmのサンプルを作成し、変形速度5mm/分で曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した(ロードセル5kN)。測定機として万能材料試験機インストロン3365型(インストロンジャパンカンパニイリミテッド製)を用いた。得られた樹脂複合体の繊維含有率、曲げ弾性率及び曲げ強度を表2に示す。
【0092】
実施例6及び比較例5〜7
実施例3で得られたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維、比較例1、3で得られたカチオン変性パルプ、又は比較例2で作製したカチオン変性していないミクロフィブリル化植物繊維をそれぞれ用いた以外は、実施例5と同様の方法で、実施例6と比較例5〜7の成形物を得た。実施例6、比較例5〜7で得られた樹脂複合体の繊維含有率、曲げ弾性率及び曲げ強度を表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
実施例7及び比較例8
実施例3で作成したカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維、及び比較例2で作製したミクロフィブリル化植物繊維の乾燥シートをそれぞれ105℃で1時間乾燥させ、重量を測定した。
【0095】
次に、これらの乾燥シートをフェノール樹脂(DIC株式会社製「フェノライトIG―1002」)のメタノール溶液(10重量%)に浸漬(0.3MPa)させた後、室温で予備乾燥し、更に50℃で6時間減圧乾燥してフェノール樹脂含浸乾燥シートを得るとともに重量測定を行った。樹脂含浸前後の乾燥重量の差から繊維含有率(重量%)を算出した。
【0096】
得られたフェノール樹脂含浸乾燥シートを幅30mm×長さ40mmにカットし、それぞれ同じものを数枚重ねて金型に入れ、加熱プレス(温度:160℃時間:30分、プレス圧:100MPa)を行い、カチオン性ミクロフィブリル化植物繊維とフェノール樹脂からなる複合体の成形物、及びカチオン化していないミクロフィブリル化植物繊維とフェノール樹脂からなる複合体の成形物をそれぞれ得た。
【0097】
前記成形物の長さ、幅をノギス(株式会社ミツトヨ製)で正確に測定した。厚さを数か所マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製)で測定し、成形物の体積を計算した。別途成形物の重量を測定した。得られた重量、体積より密度を算出した。
【0098】
前記成形物から厚さ約1.6mm、幅7mm、長さ40mmのサンプルを作成し、変形速度5mm/分で曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した(ロードセル5kN)。測定機として万能材料試験機インストロン3365型(インストロンジャパンカンパニイリミテッド製)を用いた。得られた樹脂複合体の繊維含有率、曲げ弾性率及び曲げ強度を表3に示す。
【0099】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
四級アンモニウム基を含有する化合物でカチオン変性された繊維径の平均値が4〜200nmであるカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項2】
無水グルコース単位当たりの四級アンモニウム基の置換度が0.03以上0.4未満であり、繊維径の平均値が4〜200nmであるカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法であって、下記工程(1)及び(2):
(1)セルロース繊維を含有する材料中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤とを反応させて、該セルロース繊維を含有する材料をカチオン変性する工程、及び
(2)得られたカチオン変性繊維を水の存在下に繊維径の平均値が4〜200nmになるまで解繊する工程
を備えたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維からなるシート。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維を含有する熱硬化性樹脂複合体。
【請求項6】
熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル樹脂又はフェノール樹脂である請求項5に記載の熱硬化性樹脂複合体。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維と熱硬化性樹脂とを混合する工程を備えた、熱硬化性樹脂複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162608(P2011−162608A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24482(P2010−24482)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(596053068)京都市 (26)
【出願人】(394024411)
【出願人】(502085053)
【出願人】(510080646)
【Fターム(参考)】