説明

カチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法、汚泥用脱水剤及び製紙用歩留り向上剤

【課題】
カチオン性又は両性の水溶性の高分子重合体の製造方法において、高分子量であって、且つ水溶性に優れる高分子重合体を効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】
カチオン性単量体とノニオン性単量体とを含む単量体混合物、又はカチオン性単量体とノニオン性単量体とアニオン性単量体とを含む単量体混合物を水溶液重合して得られるゲル状重合体を、ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩の存在下で乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法に関する。詳しくは、不溶解物が少ない粉末状の高分子重合体の製造方法に関する。この高分子重合体は、汚泥用脱水剤等の凝集剤や、抄紙用粘剤、歩留り向上剤等の製紙工程用薬剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミド又はメタクリルアミド(以下、これらを合わせて「(メタ)アクリルアミド」と表記する。以下、他の化合物についても同様に表記する。)とジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩、(メタ)アクリル酸などとの共重合体に代表されるカチオン性又は両性の水溶性重合体は、高分子凝集剤、製紙工程用薬剤などとして各種産業で広く使用されている。これらの用途においては、一般的に分子量が高いほど性能がよい場合が多く、数百万を超える非常に高い分子量の重合体が要求される。また、性能向上のために架橋剤を添加して重合を行う場合もある。
【0003】
このような高分子量の重合体は、使用時に0.05〜0.5%程度の濃度に溶解して使用される。しかし、高分子量化に伴い、得られる高分子重合体中には、完全に溶解しないゲル状又はゾル状の不溶解物が副生しやすくなる。特に、単量体として、(メタ)アクリルアミドを多く含む場合は、重合の際にイミド化反応による架橋が起こりやすいとされる。さらに、両性の高分子量の重合体は、(メタ)アクリルアミドとアニオン性基とがイミド結合したり、カチオン性基とアニオン性基とが多点でイオン結合したりすることによって不溶化しやすい傾向がある。高分子重合体に不溶解物が多く生成すると、高分子重合体の水溶液を各種用途に使用する際に、これを扱うポンプやストレーナー等のトラブルの原因となる。例えば、この高分子重合体が製紙用薬剤として使用される場合、不溶解物が抄紙工程で紙に漉き込まれ、欠点を生じさせる原因になることがある。
【0004】
ストレーナー等を用いて不溶解物を除去する試みも多くされているが、不溶解物が多い場合には、ストレーナーが閉塞しやすく、保守の負担が増える。また、ストレーナー等をすり抜けた不溶解物が紙料に混入することもある。したがって、製紙用薬剤の用途においては、高分子重合体中に不溶解物が実質的に存在しないことが必要である。一般に、高分子重合体に不溶解物が生成することを防ぐためには、得られる高分子重合体の分子量を低くする必要がある。また、高分子重合体を粒子化する場合には、低い温度で乾燥し、且つ緩和された条件下で粉砕を行う必要がある。そのため、生産効率が悪い。
【0005】
また、高分子量であり、且つ不溶解物の少ない高分子重合体を得るには、単量体濃度を下げて重合し、且つ得られる高分子重合体を低い温度で乾燥する方法が採られている。この方法は、乾燥時間が長くなるため、生産効率が悪い。
【0006】
特許文献1には、主としてアクリルアミドより成る単量体を水性溶媒中で重合させるに当たり、重合開始剤とアスコルビン酸誘導体とを共存させるアクリルアミド系重合体の製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、乾燥工程において生成する水不溶解物が少ない高分子量のアクリルアミド系重合体の製造方法に関して、含水アクリルアミド系重合体を乾燥させるに際し、乾燥工程以前の工程で2−メルカプトペンダベンズイミダゾールを共存させることが開示されている。
【0008】
しかしながら、いずれの方法で製造される高分子重合体についても、水溶解性に関して十分満足できるものではない。
【0009】
以上のように、水溶解性が優れるカチオン性又は両性の高分子重合体の効率的な製造方法として、満足する方法がないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−247136号公報
【特許文献2】特開昭55−165906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、カチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法において、高分子量であって且つ水溶性に優れる高分子重合体を効率良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、カチオン性単量体とノニオン性単量体とを含む、又はカチオン性単量体とノニオン性単量体とアニオン性単量体とを含む単量体混合物を水溶液重合して得られるゲル状重合体を、ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩の存在下で乾燥することにより、高分子量であって、且つ不溶解物の生成が高度に抑制された高分子重合体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0014】
〔1〕 カチオン性単量体とノニオン性単量体とを含む単量体混合物、
又は
カチオン性単量体とノニオン性単量体とアニオン性単量体とを含む単量体混合物
の水溶液を重合してゲル状重合体を得、前記ゲル状重合体を乾燥するカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法であって、
前記乾燥時における前記ゲル状重合体にヒドロキシカルボン酸及びその塩、又はヒドロキシカルボン酸若しくはその塩が存在することを特徴とするカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0015】
〔2〕
前記ゲル状重合体の乾燥温度が、70℃以上である〔1〕に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0016】
〔3〕 前記ヒドロキシカルボン酸及びその塩、又は前記ヒドロキシカルボン酸若しくはその塩が、前記単量体混合物の水溶液に存在する〔1〕に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0017】
〔4〕 前記ヒドロキシカルボン酸及びその塩、又は前記ヒドロキシカルボン酸若しくはその塩の合計添加量が、前記単量体混合物100質量部に対して0.05〜5.0質量部である〔1〕に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0018】
〔5〕 前記ヒドロキシカルボン酸が、脂肪族ヒドロキシカルボン酸である〔1〕に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0019】
〔6〕 前記ヒドロキシカルボン酸が、クエン酸、リンゴ酸又は酒石酸のいずれかである〔1〕に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0020】
〔7〕 前記カチオン性単量体が、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート若しくはジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの3級塩又は4級塩
から選択される1種以上である〔1〕に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0021】
〔8〕 前記重合が、熱開始、レドックス開始又は光開始によって開始される〔1〕に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0022】
〔9〕 前記単量体混合物の水溶液のpHが2.0〜4.5である〔2〕に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【0023】
〔10〕 〔1〕に記載の製造方法により得られる高分子重合体を含む汚泥用脱水剤。
【0024】
〔11〕 〔1〕に記載の製造方法により得られる高分子重合体を含む製紙用歩留り向上剤。
【発明の効果】
【0025】
本製造方法によれば、高分子量であり、且つ不溶解物が非常に少ない高分子重合体を製造できる。また、本製造方法によれば、高分子重合体の乾燥温度や粉砕速度を高くしても不溶解物の生成が非常に少ない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の高分子重合体の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう)を詳細に説明する。
【0027】
先ず、カチオン性単量体とノニオン性単量体とを含む単量体混合物、又はカチオン性単量体とノニオン性単量体とアニオン性単量体とを含む単量体混合物が、水溶液重合法によって重合され、ゲル状重合体が製造される。その後、このゲル状重合体が乾燥及び粉砕されて、粉末状の高分子重合体が製造される。本製造方法においては、前記ゲル状重合体の乾燥は、ヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩の存在下で行われる。
【0028】
(1)カチオン性単量体
本発明において使用されるカチオン性単量体は、下記式(1)で表されるジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、下記式(2)で表されるジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド及びそれらの3級塩や4級塩が好ましい。
【0029】
【化1】

【0030】
式1中、Rは水素原子又はメチル基を示す。Rは炭素数が2〜8のアルキレン基を示す。R及びRは、炭素数1〜8のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し、それぞれは同一であっても異なっていても良い。
【0031】
【化2】

【0032】
式2中、Rは水素原子又はメチル基を示す。Rは炭素数が2〜8のアルキレン基を示す。R及びRは、炭素数1〜8のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し、それぞれは同一であっても異なっていても良い。
【0033】
具体的には、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド及びそれらの3級塩や4級塩が例示される。3級塩や4級塩としては、塩酸塩、硫酸塩、メチルクロライド第4級塩、ジメチル硫酸第4級塩、ベンジルクロライド第4級塩が挙げられる。これらは単独で又は2種以上が組み合わされて使用される。
【0034】
(2)ノニオン性単量体
本発明において使用されるノニオン性単量体は、アクリルアミド、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルフォルムアミド、N-ビニルアセトアミドが例示される。特に、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミド(以下、「(メタ)アクリルアミド」と記載する)が好ましく使用される。
【0035】
(3)アニオン性単量体
本発明において使用されるアニオン性単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の1個のビニル基を有する一塩基酸や二塩基酸が例示される。特に、アクリル酸及び/又はメタクリル酸(以下、「(メタ)アクリル酸」と記載する)が好ましく使用される。これらは単独で又は2種以上が組み合わされて使用される。
【0036】
(4)単量体混合物
単量体混合物は、前述のカチオン性単量体とノニオン性単量体とを必須成分とし、アニオン性単量体を所望成分とする。この単量体混合物は共重合されてゲル状重合体となる(後述)。
【0037】
単量体混合物中におけるカチオン性単量体、ノニオン性単量体及びアニオン性単量体のモル比は、カチオン性単量体:ノニオン性単量体:アニオン性単量体=2〜70:20〜98:0〜45が好ましく、2〜60:28〜98:0〜40が特に好ましい。
【0038】
単量体混合物は水溶液とされる(以下、単に「単量体水溶液」ともいう)。単量体水溶液の調整方法は特に制限されない。各単量体の水溶液を混合しても良いし、各単量体を予め混合してから水溶液としても良い。
【0039】
また、単量体混合物及び得られる高分子重合体の水溶性を損ねない程度であれば、他の単量体、例えば、スチレン、アクリルニトリル、(メタ)アクリル酸エステル等が適宜配合されていてもよい。
【0040】
(5)ヒドロキシカルボン酸類
本発明においては、上記単量体混合物を重合して得られるゲル状重合体(後述)の乾燥工程において、ゲル状重合体とヒドロキシカルボン酸類とが共存することを特徴とする。
【0041】
ヒドロキシカルボン酸類としては、ヒドロキシカルボン酸及びその塩が使用できる。ヒドロキシカルボン酸類は、水溶性であって、且つゲル状重合体の乾燥時に揮発、分解し難いものが好ましい。
【0042】
ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、α−オキシイソ酪酸、ジメチロールプロピオン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、γ−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、シトラマル酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸が例示される。
【0043】
これらの内、脂肪族のα−ヒドロキシカルボン酸であることが好ましい。ヒドロキシカルボン酸の炭素数は10以下であることが好ましく、炭素数3〜6であることが特に好ましい。
【0044】
ヒドロキシカルボン酸中のヒドロキシル基は4個以下が好ましく、1〜2個が特に好ましい。ヒドロキシカルボン酸中のカルボキシル基は4個以下が好ましく、1〜2個が特に好ましい。
【0045】
特に好ましいヒドロキシカルボン酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸である。
【0046】
ヒドロキシカルボン酸塩としては、上記ヒドロキシカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩が例示される。
【0047】
ヒドロキシカルボン酸類は単独で又は2種以上が組み合わされて使用される。
【0048】
ゲル状重合体に共存させるヒドロキシカルボン酸類の量は、ゲル状重合体100質量部に対して0.05〜5.0質量部であり、0.10〜4.0質量部が好ましい。0.05質量部未満では、不溶解物の生成を抑制する効果が見られない。単量体水溶液に当初からヒドロキシカルボン酸類を添加して重合する場合において、ヒドロキシカルボン酸類の量が5.0質量部を超えると、得られる高分子重合体の分子量が低下する。
【0049】
ゲル状重合体の乾燥時にヒドロキシカルボン酸類を共存させる方法としては、特に制限されない。乾燥を開始する前であれば、任意の時にヒドロキシカルボン酸類を添加できる。ゲル状重合体の原料となる上記単量体水溶液に予めヒドロキシカルボン酸類を添加しておくことが好ましい。
【0050】
ヒドロキシカルボン酸類を単量体水溶液に添加するにあたっては、ヒドロキシカルボン酸類を固体状のまま添加しても良いし、予め水溶液としてから添加しても良い。ヒドロキシカルボン酸類は後述する単量体水溶液のpH緩衝剤としての機能も有する。
【0051】
(6)単量体混合物の重合
上記単量体混合物は、溶液重合法によって重合される。溶液重合法とは、単量体混合物と、該単量体混合物を重合させて得られる高分子重合体とがともに溶解する溶媒中で前記単量体混合物を重合させる方法である。本発明においては、溶媒として水が使用される。なお、重合過程において不可避的に加えられる少量の有機溶媒の存在を否定するものではない。
【0052】
本発明における溶液重合法には、いわゆる乳化重合法が含まれない。溶液重合法により得られる重合体中には、高分子重合体、少量の未反応の単量体、溶媒(水)、少量の重合開始剤のみが存在する。一方、乳化重合法により得られる重合体中には、上記に加えて油脂や界面活性剤等が残存する。溶液重合法によって製造される高分子重合体は、油脂や界面活性剤等を含まないので汚泥用脱水剤や製紙用歩留り向上剤として好適に用いることができる。
【0053】
また、本発明における溶液重合法は、断熱的重合法であることが好ましい。断熱的重合法とは、溶液重合法のうち、重合反応中に外部からの人為的な加熱や除熱を行わずに重合反応を進行させる方法である。重合容器が断熱処理されているか否か、又は重合容器が温度制御されているか否かを表すものではない。断熱的重合法においては、重合反応の進行に伴い、反応熱により反応温度(反応液の温度)は上昇する。重合反応がほぼ完結すると温度上昇は停止し、最高温度に達する。断熱的重合法においては、重合反応中に温度が制御されない。そのため、重合温度は広い範囲で変化する。
【0054】
以下に本製造方法をより具体的に説明する。
【0055】
先ず、カチオン性単量体、ノニオン性単量体、及び必要によりアニオン性単量体を水に溶解して、単量体水溶液を調製する。
【0056】
単量体水溶液中における全単量体の濃度は、20〜70質量%であり、30〜60質量%が好ましい。単量体の濃度が20質量%未満である場合は、重合反応の進行が遅くなり、重合反応終了後に残存する未反応の単量体量が増加する。単量体の濃度が70質量%を超える場合は、重合反応が急速に進行するとともに、水の蒸発により単量体水溶液が発泡する。その結果、設備トラブルを引き起こす場合がある。
【0057】
単量体水溶液はどのような方法で調製してもよいが、例えば、上記単量体を単に水に溶解させることによって調製できる。
【0058】
また、カチオン性単量体及びノニオン性単量体と、酸基が中和される前のアニオン性単量体とを混合して水溶液を調製しておき、ここに所定量のアルカリ性物質を加えることにより、単量体水溶液を調製することもできる。水溶液にアルカリ性物質が加えられると、前記アニオン性単量体の酸基が中和される。アニオン性単量体としてアクリル酸が使用される場合には、アルカリ性物質を用いて水溶液のpHを4.0〜4.9に調整することにより、アクリル酸の酸基の35〜80モル%が前記アルカリ性物質により中和される。
【0059】
ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの塩酸塩や硫酸塩、メチルクロライド第4級塩、ジメチル硫酸第4級塩、ベンジルクロライド第4級塩などのカチオン性単量体は、エステル基構造を有する。これらエステル基構造を有するカチオン性単量体は、アルカリ性物質によって加水分解される恐れがある。加水分解を避けるため、これらのカチオン性単量体を含む水溶液にアルカリ性物質を加える場合には、この水溶液をできるだけ低温としておくことが好ましい。また、水溶液にアルカリ性物質を添加する際には、水溶液を強く撹拌しながらゆっくりと添加することにより、添加するアルカリ性物質を迅速に水溶液中に拡散させることが好ましい。
【0060】
次いで、上記単量体水溶液にヒドロキシカルボン酸及び/又はその塩を添加する。
【0061】
重合開始前の単量体水溶液のpHは2.0〜4.5の範囲であることが好ましい。pHがこの範囲外である場合、pH調整剤により調整する。pH調整剤としては、塩酸や硫酸等の無機酸、ギ酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、アンモニア等の塩基が例示される。
【0062】
次に、窒素ガス等を用いて単量体水溶液中の溶存酸素を除去後、重合反応を開始させる。重合反応の開始は、上記方法で調製した単量体水溶液に重合開始剤を添加することにより行う。重合開始温度、即ち重合開始時における単量体水溶液の温度は−5〜30℃が好ましい。単量体濃度が高い場合には重合開始温度は低めにし、単量体濃度が低い場合には重合開始温度は高めに設定する。重合開始剤としては、レドックス重合開始剤や光重合開始剤が好ましい。
【0063】
レドックス開始剤は、公知の酸化剤と還元剤とを組み合わせることにより調製できる。酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドが例示される。還元剤としては、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミンが例示される。レドックス開始剤の添加量は、酸化剤、還元剤ともに単量体水溶液の質量に対して1〜200ppmが好ましい。酸化剤、還元剤の各水溶液を重合開始の直前に単量体水溶液に加えることにより重合を開始させることができる。
【0064】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、アンスラキノン、アシルホスフィンオキサイド化合物、アゾ化合物が例示される。光重合開始剤の添加量は、単量体水溶液の質量に対して200〜5000ppmが好ましい。光重合開始剤を単量体水溶液に加え、光重合開始剤の最大吸収波長の光を含む光を照射することにより重合を開始させることができる。光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯等が挙げられる。
【0065】
レドックス重合の場合には、重合反応後半の高温時における重合を促進させる目的で、予め単量体水溶液にアゾ系重合開始剤を添加しても良い。
【0066】
アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシルエチル]−プロピオンアミド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]が例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0067】
アゾ系重合開始剤の添加量は、単量体水溶液の質量に対して合計で100ppm以上が好ましく、200〜10000ppmが特に好ましい。アゾ系重合開始剤が水溶性である場合は、アゾ系重合開始剤を単量体水溶液に直接添加してもよいし、アゾ系重合開始剤を予め水溶液としてから単量体水溶液に添加してもよい。アゾ系重合開始剤が非水溶性である場合には、アゾ系重合開始剤を単量体水溶液に直接添加しても重合が開始し難い場合がある。この場合には、連鎖移動性が比較的小さく、かつ水に混合されやすいメタノール等の極性有機溶剤にアゾ系重合開始剤を溶解してから単量体混合物の水溶液に添加すればよい。
【0068】
単量体混合物の水溶液には、前述の各単量体、重合開始剤の他、必要に応じて連鎖移動剤、pH調整剤等が添加されていても良い。なお、前述のヒドロキシカルボン酸類は単量体水溶液のpH緩衝剤としても作用する。
【0069】
重合反応は断熱的に行う。この場合、通常、重合反応は重合開始後30分〜5時間で50〜100℃の最高温度に達し、ほぼ完結する。重合反応によって得られる高分子重合体を含む水溶液は、常温でゲル状である(以下、これを「ゲル状重合体」ともいう)。
【0070】
重合反応は、適当な反応容器中で回分的に行うこともできるし、ベルトコンベア等のベルトの上に単量体水溶液を連続的に流し込み、連続的に重合反応を行うこともできる。
【0071】
上記重合反応によって得られるゲル状重合体は、残留しているアクリルアミド等の単量体の含有量の低減を目的として、熱処理を行ってもよい。熱処理は、反応容器内やベルトコンベア上でゲル状重合体を加熱することにより行う。又は、ゲル状重合体を適当な大きさに切断してビニル袋などで密封後、湯浴等の加熱浴中で加熱することにより行う。熱処理条件は70〜100℃で、1〜5時間が好ましい。
【0072】
(7)ゲル状重合体の乾燥
ゲル状重合体を、公知の方法で乾燥及び粉砕することにより、粉末状の高分子重合体を得ることができる。乾燥温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上が特に好ましい。乾燥温度が70℃以上である場合、乾燥時間を短くできるため、製造効率が良い。
【0073】
高分子重合体の粉末の粒度が大き過ぎると、高分子重合体を水に溶解させるのに時間がかかる。一方、粉末の粒度が細か過ぎると、高分子重合体を水に添加する際に、表面がゲル化した粒子状のいわゆる継粉を形成して溶解し難い。高分子重合体の粒度は、20〜80メッシュの範囲内の粒子が全体の50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0074】
(8)高分子重合体
上記のようにして得られる高分子重合体は、該高分子重合体を0.5質量%含む4%塩化ナトリウム水溶液の25℃における粘度(以下、この粘度を「0.5%塩粘度」ともいう)が10〜100mPa・sとなり、好ましくは15〜90mPa・sとなる。粘度が10mPa・s未満の場合は、汚泥を十分に脱水させるのに必要な高分子重合体の添加量が多くなり経済的でない。粘度が100mPa・sを超える場合は、形成される汚泥のフロックに粘性が生じて汚泥の脱水性能が低下する。
【0075】
(9)その他
上記(6)〜(8)で説明した高分子重合体の製造例は、単量体水溶液中にヒドロキシカルボン酸類を添加した場合について説明したが、ヒドロキシカルボン酸類はゲル状重合体を乾燥させる前に添加されていればよい。すなわち、重合反応中に添加しても良いし、重合反応終了後のゲル状重合体に添加しても良い。ゲル状重合体にヒドロキシカルボン酸を存在させる方法としては、ゲル状重合体を細かく切断して粒子状にしてからヒドロキシカルボン酸類を添加する方法がある。しかし、この方法は多少困難を伴う。従って、ヒドロキシカルボン酸類は、予め単量体水溶液に添加しておくことが好ましい。
【0076】
(10)汚泥用脱水剤
本発明の製造方法によって製造されるカチオン性又は両性の高分子重合体は、汚泥用脱水剤として使用することができる。この汚泥用脱水剤には、カチオン性又は両性の高分子重合体の他、本発明の効果を奏する範囲において他の成分、例えば、硫酸バンドやポリ硫酸鉄などの凝集剤が配合されていても良い。また、高分子重合体の溶解液を安定に維持するために、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム及びスルファミン酸等の添加物が配合されていても良い。
【0077】
本発明の製造方法によって製造されるカチオン性又は両性の高分子重合体を汚泥用脱水剤として使用する場合、汚泥の処理は以下のように行われる。
【0078】
先ず、高分子重合体の0.2〜1.0質量%水溶液を調製する(以下、この水溶液を「汚泥用脱水剤水溶液」ともいう)。次に、この汚泥用脱水剤水溶液を処理対象の汚泥に添加して汚泥のフロック形成を促進させる。汚泥用脱水剤の添加量は、汚泥の固形分質量に対し、高分子重合体として0.1〜5質量%が好ましく、0.3〜2質量%が特に好ましい。
【0079】
上記のようにして形成された汚泥のフロックは、ベルトプレス、スクリュウプレス、フィルタープレス等の圧搾脱水機や、遠心分離機、真空ろ過機等の圧力脱水機等を用いて脱水処理される。汚泥用脱水剤が添加された汚泥は、粗大なフロックが形成されている。そのため、汚泥が脱水されやすくなり、脱水ケーキの含水率が低減される。また、上記脱水機の脱水効率が上がり、単位時間当たりの汚泥処理量が増大する。
【0080】
本発明の汚泥用脱水剤は、一般産業廃水処理場や下水処理場、し尿処理場から排出される汚泥や、有機性産業廃水の処理工程から排出される汚泥の処理に好適である。有機性産業廃水は、有機物を多量に含み、BOD値が高く、微生物により浄化される廃水である。パン製造工場、清涼飲料水製造工場、ハム製造工場等の食品工場から排出される廃水や、屠場から排出される廃水、石油化学工場から排出される廃水等が例示される。汚泥としては、生汚泥、余剰活性汚泥、余剰活性汚泥と初沈生汚泥との混合汚泥、及びそれらを消化した消化汚泥が例示される。また、一般産業廃水処理で生じる生物性汚泥、凝集汚泥を含む混合汚泥等には特に効果がある。
【0081】
上記汚泥用脱水剤は、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、ポリ鉄(ポリ硫酸鉄、ポリ塩化鉄)、アルミン酸ソーダ等の無機凝結剤と併用することもできる。汚泥用脱水剤と前記無機凝結剤とを併用する場合、汚泥に添加する順序を問わない。
【0082】
(11)製紙用工程薬剤
本発明の製造方法によって製造されるカチオン性又は両性の高分子重合体は、製紙工程用薬剤、特に歩留り向上剤として好適に使用することができる。
【0083】
本発明の製造方法によって製造されるカチオン性又は両性の高分子重合体を歩留り向上剤として使用する場合、抄造は以下のように行われる。
【0084】
先ず、高分子重合体の0.02〜0.3質量%水溶液が調製される(以下、この水溶液を「歩留り向上剤水溶液」ともいう)。この歩留り向上剤水溶液は、抄紙マシン内でパルプ懸濁液に添加される。その後、歩留り向上剤が添加されたパルプ懸濁液は、抄紙マシンを用いて抄造される。
【0085】
歩留り向上剤の添加量は、パルプの乾燥固形分当たり10〜2000ppmが好ましく、50〜1000ppmが特に好ましい。パルプ懸濁液におけるパルプ濃度は、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.05〜1.0質量%が特に好ましい。
【0086】
歩留りの向上効果は、歩留り向上剤水溶液が抄紙マシン内の如何なる場所でパルプ懸濁液に添加されるかにより影響を受ける。一般に、歩留り向上剤水溶液をパルプ懸濁液に添加する場所が、パルプ懸濁液が抄紙ワイヤ上に噴出される場所に近いほど歩留りは向上する。但し、あまりに近い場合、抄造される紙の地合が悪化することがある。したがって、抄造される紙の地合を勘案しながら、適宜添加場所は定められる。例えば、白水ポンプの出口や、その後に配置されているスクリーンの入口又は出口が好ましい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
〔0.5%塩粘度の測定方法〕
純水500mLに塩化ナトリウム20.8g、及び評価用サンプル(高分子重合体)を0.50質量%となる量を加えて十分に溶解し、試料溶液を調製した。B型回転粘度計を用いて、この試料溶液の25℃における粘度を測定した。
【0089】
〔不溶解分の測定方法〕
表1に示す組成により、模擬工業用水を作製した。5Lの容器に5kgの模擬工業用水を入れ、温度を20〜25℃に調整した後、直径約7cmの傾斜4枚翼型撹拌翼を500rpmで撹拌しながら、評価用サンプル(高分子重合体)9.0g及びpH調整剤としてクエン酸無水塩1.0gを徐々に添加した。添加終了後、60分間撹拌してこれらを溶解させた。この溶液を直径20cmの60メッシュ標準ふるいに自然重力で通した。液滴が切れた後、ふるい上の残留物の数を未溶解物として計数し、以下の評価基準によって評価した。
【0090】
評価基準
◎:ふるい上の未溶解物の数が10個以下
○:ふるい上の未溶解物の数が11個〜20個
△:ふるい上の未溶解物の数が21個〜100個
×:ふるい上の未溶解物の数が101個以上
【0091】
【表1】

【0092】
(実施例1)
50質量%アクリルアミド(AM)水溶液259g、79質量%のジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロライド4級塩(DAC)水溶液310g、80質量%のアクリル酸(AA)水溶液31g、及び蒸留水400gを混合して単量体水溶液を調製した。この単量体水溶液の全単量体濃度は40質量%である。この単量体水溶液に溶解する単量体の組成(モル比)は、DAC/AM/AA=38/52/10である。
【0093】
単量体水溶液の液温が5℃となるように調整しながら、単量体水溶液に窒素を導入して約30分間脱酸素した。その後、単量体水溶液にクエン酸無水塩8.0g(全単量体に対して2.0質量%)を添加し、アンモニア水を用いてpH(5℃)を2.4に調整した。次いで、この単量体水溶液に光重合開始剤として、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(以下、「V−50」と略記する。)の10質量%水溶液を4.0mL添加し、0.40mW/cmの紫外線ランプ下で重合を開始した。
【0094】
重合液の温度は13分30秒後に最高値の82.3℃となった。その後、さらに1時間紫外線照射を続けた。これにより、ゲル状重合体を得た。このゲル状重合体を反応容器から取り出し、ゲル状重合体の中心部を孔径6mmのミートチョッパーを用いて裁断した。その後、この裁断されたゲル状重合体を80℃の通風乾燥機内で10時間乾燥し、回転式ミル型粉砕機を用いて粉砕して高分子重合体の粉状物を得た。高分子重合体の粉状物は標準ふるいを用いて分級し、18〜83メッシュの分画のものを採取して評価用サンプルとした。この評価用サンプルを用いて測定した0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表2に示した。
【0095】
(実施例2〜11)
各単量体の組成比、ヒドロキシカルボン酸の種類及び添加量、反応開始温度、pHを表2に示す値とした以外は、実施例1と同じ条件で重合及び乾燥操作を行い、高分子重合体を得た。なお、pHの調整には、希塩酸又はアンモニア水を用いた。0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表2に示した。
【0096】
(比較例1〜6)
ヒドロキシカルボン酸に替えて表2に記載の物質を添加した以外は、実施例1と同じ条件で重合及び乾燥操作を行い、高分子重合体を得た。なお、pHの調整には、希塩酸又はアンモニア水を用いた。0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表2に示した。
【0097】
【表2】

【0098】
(実施例12)
50質量%アクリルアミド(AM)水溶液524g、79質量%のジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロライド4級塩(DAC)水溶液48g、及び蒸留水428gを混合して単量体水溶液を調製した。この単量体水溶液の全単量体濃度は30質量%である。この単量体水溶液に溶解する単量体の組成(モル比)は、DAC/AM=5/95である。
【0099】
単量体水溶液の液温が5℃となるように調整しながら、単量体水溶液に窒素を導入して約30分間脱酸素した。その後、単量体水溶液にクエン酸無水塩6.0g(全単量体に対して2.0質量%)を添加し、アンモニア水を用いてpH(5℃)を4.0に調整した。次いで、この単量体水溶液に光重合開始剤として、V−50の10質量%水溶液を4.5mL添加し、0.40mW/cmの紫外線ランプ下で重合を開始した。
【0100】
重合液の温度は12分00秒後に最高値の83.1℃となった。その後、さらに1時間紫外線照射を続けた。これにより、ゲル状重合体を得た。このゲル状重合体を反応容器から取り出し、ゲル状重合体の中心部を孔径6mmのミートチョッパーを用いて裁断した。その後、この裁断されたゲル状重合体を80℃の通風乾燥機内で10時間乾燥し、回転式ミル型粉砕機を用いて粉砕して高分子重合体の粉状物を得た。高分子重合体の粉状物は標準ふるいを用いて分級し、18〜83メッシュの分画のものを採取して評価用サンプルとした。この評価用サンプルを用いて測定した0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表3に示した。
【0101】
(実施例13〜15)
各単量体の組成比、ヒドロキシカルボン酸の種類及び添加量、反応開始温度、pHを表3に示す値とした以外は、実施例12と同じ条件で重合及び乾燥操作を行い、高分子重合体を得た。なお、pHの調整には、希塩酸又はアンモニア水を用いた。0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表3に示した。
【0102】
(比較例7〜10)
クエン酸(無水塩)を添加しなかった以外は実施例12と同じ条件で重合及び乾燥操作を行い、高分子重合体を得た。なお、pHの調整には、希塩酸又はアンモニア水を用いた。0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表3に示した。
【0103】
【表3】

【0104】
(実施例16)
79質量%ジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロライド4級化(DAC)水溶液、79質量%ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド4級化(DMC)水溶液、80質量%アクリル酸(AA)水溶液、50質量%アクリルアミド(AM)水溶液を表4に示す割合で混合し、全単量体濃度が38質量%となるように水を加えて単量体水溶液を調製した。この単量体水溶液のpH(25℃)は2.4であった。この単量体水溶液1400gに、アクリル酸の中和率が35モル%になるまで20質量%水酸化ナトリウム水溶液を攪拌下に添加した。添加後の単量体水溶液のpH(25℃)は4.0であった。また、20質量%水酸化ナトリウム水溶液の添加量は、55.8gであった。
【0105】
次いで、クエン酸10.6g(全単量体に対して2.0質量%)、V−50を2.3g含む水溶液50gを単量体水溶液中に添加し、0℃まで冷却した。この単量体水溶液をステンレス製のジュワー瓶に投入した。その後、ジュワー瓶内の単量体水溶液に窒素を5L/minの速度で導入して十分に脱酸素した。
【0106】
過硫酸アンモニウム(1質量%水溶液として用いた)を全単量体質量に対して25ppm量と、重亜硫酸ナトリウム(1質量%水溶液として用いた)を全単量体質量に対して25ppm量とを、それぞれシリンジに取り、これらを同時にジュワー瓶に投入し、素早く攪拌して重合反応を開始させた。
【0107】
重合反応開始後、3時間放置して断熱的に重合反応を継続させた。これにより、ゲル状重合体を得た。その後、このゲル状重合体をジュワー瓶内から取り出し、ゲル状重合体の中心部を孔径6mmのミートチョッパーを用いて裁断した。その後、この裁断されたゲル状重合体50gを70℃の温風循環式乾燥機内で2時間乾燥し、高速回転刃式粉砕機を用いて1分間粉砕して高分子重合体の粉状物を得た。高分子重合体の粉状物は標準ふるいを用いて分級し、20〜60メッシュの分画のものを採取して評価用サンプルとした。この評価用サンプルを用いて測定した0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表4に示した。
【0108】
(実施例17〜18)
ヒドロキシカルボン酸の種類及び添加量、反応開始温度、及びpHを表4に示す値とした以外は、実施例16と同じ条件で重合及び乾燥操作を行い、高分子重合体を得た。pHの調整には、希塩酸又はアンモニア水を用いた。なお、実施例18では、過硫酸アンモニウム及び重亜硫酸ナトリウムの添加量を全単量体質量に対してそれぞれ21ppmとした。0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表4に示した。
【0109】
(比較例11)
ヒドロキシカルボン酸を添加しなかった以外は実施例16と同じ条件で重合及び乾燥操作を行い、高分子重合体を得た。なお、pHの調整には、希塩酸又はアンモニア水を用いた。0.5%塩粘度、不溶解分の測定結果は表4に示した。
【0110】
【表4】

【0111】
ゲル状重合体の乾燥温度と不溶解物の発生量との関係について検討した。実施例1及び比較例1で得られたゲル状重合体をそれぞれチョッピングし、通風乾燥機を用いて乾燥させた。乾燥温度及び乾燥時間は表5に示す通りである。その後、この乾燥した重合体を回転式ミル型粉砕機を用いて粉砕して高分子重合体の粉状物を得た。高分子重合体の粉状物は標準ふるいを用いて分級し、18〜83メッシュの分画のものを採取して評価用サンプルとした。この評価用サンプルを用いて不溶解分を測定し、結果を表5に示した。なお、表5に示した乾燥時間は、ゲル状重合体の固形分が93%に達する時間である。
【0112】
実施例1で得られたゲル状重合体は、比較例1で得られたゲル状重合体と比べて乾燥温度を高くしても不溶解物の発生が少ない。そのため、乾燥時間を大幅に短縮できる。
【0113】
【表5】

【0114】
(汚泥用脱水剤の試験例)
実施例1、実施例15、比較例1及び比較例6で得られたそれぞれの高分子重合体粉末95質量部とスルファミン酸5質量部とを混合して汚泥用脱水剤を得た。イオン交換水にこの汚泥用脱水剤0.20質量%をそれぞれ溶解して汚泥用脱水剤水溶液を得た。この汚泥用脱水剤水溶液を下記性状の下水汚泥500mLに添加し、撹拌した。汚泥用脱水剤の添加量は、下水汚泥の乾燥固形分に対して固形分換算で1.2質量%とした。
【0115】
〔下水汚泥の性状〕
pH:6.2
TS:23,400mg/L
VTS:83.6%TS
SS:19,500mg/L
VSS:83.0%SS
粗浮遊物:35.2%SS(60mesh法)
m−アルカリ度:140(CaCOmg/L)
【0116】
汚泥用脱水剤を添加することにより、下水汚泥にはフロックが形成された。下水汚泥に形成されたフロックの大きさを観察して凝集性を評価した。その後、この下水汚泥が80メッシュの金網を通過する時間を測定して、ろ過速度を測定した。また、金網上に残存したケーキを小型ベルトプレス機(0.2Mpa,敷島カンバス製杉綾織ろ布使用)を用いて脱水し、得られた脱水ケーキの含水率を測定した。これらの結果は表6に示した。
【0117】
実施例1及び実施例15で得られた高分子重合体は、ヒドロキシカルボン酸を使用していない比較例1及び比較例6と比較して、凝集性能、ろ過性及び脱水性は同等以上であり、性能の低下は見られなかった。
【0118】
【表6】

【0119】
(製紙用歩留り向上剤の試験例)
実施例1及び比較例1で得られたそれぞれの高分子重合体粉末90質量部とクエン酸無水塩10質量部とを混合して製紙用歩留り向上剤を得た。イオン交換水にこの製紙用歩留り向上剤0.10質量%を溶解して歩留り向上剤水溶液を得た。この歩留り向上剤水溶液を下記性状を有する試験用パルプスラリーに添加して下記の試験条件で歩留率及び地合指数を測定した。その結果を表7に示した。地合指数は、歩留性能試験条件と同じ条件でパルプスラリーを得、角型シートマシンを用いて希釈水に静かに分散させ、抄紙したもので評価した。製紙用歩留り向上剤の添加量は、パルプ乾燥固形分に対して固形分換算で0.025質量%とした。
【0120】
試験例では、ヒドロキシカルボン酸を使用していない比較例に対し、ヒドロキシカルボン酸を添加している実施例では、全歩留率、ファイン歩留率とも同等以上であり、性能の低下は見られなかった。
【0121】
〔製紙原料に対する歩留性能試験条件〕
抄紙種類 上質紙−中性抄紙モデル
紙料:広葉樹系漂白クラフトパルプ/1.0質量%
紙中填量率:沈降性(軽質)炭酸カルシウム/20質量%対パルプ
試験使用水:模擬工業用水 (表1)
試験装置:ラボ試験機 BTG-Mutec社製DFR−04
試験条件
撹拌速度:800rpm
ろ過面:60mesh
〔地合指数測定条件〕
目標坪量 : 70g/m
測定装置 : M/K Systems製 3Dシートアナライザー
【0122】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性単量体とノニオン性単量体とを含む単量体混合物、
又は
カチオン性単量体とノニオン性単量体とアニオン性単量体とを含む単量体混合物
の水溶液を重合してゲル状重合体を得、前記ゲル状重合体を乾燥するカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法であって、
前記乾燥時における前記ゲル状重合体にヒドロキシカルボン酸及びその塩、又はヒドロキシカルボン酸若しくはその塩が存在することを特徴とするカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項2】
前記ゲル状重合体の乾燥温度が、70℃以上である請求項1に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ヒドロキシカルボン酸及びその塩、又は前記ヒドロキシカルボン酸若しくはその塩が、前記単量体混合物の水溶液に存在する請求項1に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項4】
前記ヒドロキシカルボン酸及びその塩、又は前記ヒドロキシカルボン酸若しくはその塩の合計添加量が、前記単量体混合物100質量部に対して0.05〜5.0質量部である請求項1に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシカルボン酸の炭素数が、3〜6である請求項1に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシカルボン酸が、クエン酸、リンゴ酸又は酒石酸のいずれかである請求項1に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項7】
前記カチオン性単量体が、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート若しくはジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの3級塩又は4級塩
から選択される1種以上である請求項1に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項8】
前記重合が、熱開始、レドックス開始又は光開始によって開始される請求項1に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項9】
前記単量体混合物の水溶液のpHが2.0〜4.5である請求項2に記載のカチオン性又は両性の高分子重合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の製造方法により得られる高分子重合体を含む汚泥用脱水剤。
【請求項11】
請求項1に記載の製造方法により得られる高分子重合体を含む製紙用歩留り向上剤。

【公開番号】特開2013−23520(P2013−23520A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157598(P2011−157598)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(306048535)MTアクアポリマー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】