説明

カチオン性基及び疎水性基により官能基化したポリグルタミン酸及びその応用、特にはその治療への応用

本発明は、特には一種又は複数種の有効成分(AP)をベクター化する際に有用な変性ポリアミノ酸をベースとした新規生分解性材料に関するものである。また、本発明は、これらポリアミノ酸をベースとした新規な薬剤、化粧品、健康食品又は植物防疫品組成物を対象とする。
本発明の目的は、APのベクター化に用いることができ、また、生体適合性、生分解性、多くの有効成分と容易に会合又は多くの有効成分を溶解させる能力、及び生体内でこれら有効成分を放出する能力、といった全ての要件を満たす新規なポリマー出発原料を提供することである。この目標は、脱プロトン化された場合に7又は7より大きなpKaを示すカチオン性基並びに8〜30個の炭素原子を含む疎水性基によって変性された新規なポリグルタミン酸塩に関する本発明によって達成される。
これらカチオン性基によって変性されたポリグルタミン酸塩は、有効成分のベクター化のための粒子に容易かつ経済的に変換され、これら粒子はそれ自体安定な水性コロイド懸濁液を形成することができる。これら変性ポリグルタミン酸塩は、インスリン等のタンパク質に会合する能力を保持しながら、他の類似ポリマーよりも粘性が低いという利点を示す。いくつかは酸性のpHで水に可溶であり、生理的pH(7.4)で水に不溶となり、そのため、皮下注射の際に注射位置で沈殿を生じるはずである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特には、一種又は複数種の有効成分(AP)をベクター化する際に有用なアミノ酸コポリマーを含む新規な生分解性材料に関するものである。
【0002】
また、本発明は、これら変性ポリアミノ酸を含む新規な薬剤、化粧品、健康食品もしくは植物防疫組成物を対象とする。これら組成物は、APのベクター化を可能にするタイプのものとすることができ、好ましくはエマルション、ミセル、ナノ粒子、マイクロ粒子、ゲル、インプラント、又はフィルムの形態で提供される。
【0003】
好適なAPは、経口、非経口、経鼻、経膣、経眼、皮下、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、脳内、口腔ルート等を用いて、動物や人間の組織に投与できる、有益な生理活性化合物である。
【0004】
本発明が特に関連する有効成分は、特に限定されるものではないが、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、オリゴ又はポリヌクレオチド、及び有機分子である。しかしながら、化粧品、又は、除草剤、殺虫剤、殺菌剤等の植物防疫品も想定される。
【背景技術】
【0005】
有効成分、特には、医薬の有効成分のベクター化の分野では、
それらの分解(加水分解、酵素による消化など)を防ぎ、
及び/又は一定期間に渡って治療レベルを維持するために、それらの放出速度を制御し、
及び/又はそれらを(それらを保護しながら)作用部位まで運搬する
必要性がある。
【0006】
何種類かのポリマーがこれらの目的のために研究され、中には市販されているものすらある。かかるポリマーの例としては、ポリ乳酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸、ポリオキシエチレン/オキシプロピレン、ポリアミノ酸、又は多糖ポリマーが挙げられる。これらのポリマーは、例えば、インプラント、マイクロ粒子、ナノ粒子、ベシクル、ミセル又はゲルを大量生産する際に出発原料として用いられる。これらのポリマーはかかる系の生産に適さなくてはならない一方、生体適合性、非毒性、非免疫応答性及び経済性を有さなければならず、また、体内から容易に排出され、及び/又は生分解性でなければならない。後者の側面に関しては、更に、体内で生分解されて非毒性の生成物を発生することが必須である。
【0007】
APのベクター化系の調製のための出発原料として用いられるポリマーに関する先行技術の説明のために、以下に、様々な特許、特許出願及び科学文献を挙げる。
【0008】
米国特許第4,652,441号には、ホルモンLH−RHをカプセル化するポリラクチドマイクロカプセルが記載されている。これらのマイクロカプセルは、水中油中水型のエマルションを調製することによって作製され、該エマルションは、ホルモンを含む水性の内部層、後者を固定化する物質(ゼラチン)、油性のポリラクチド層、及び水性の外部層(ポリビニルアルコール)を有する。APの放出は、皮下注射の後2週間より長い期間に渡って生じ得る。
【0009】
米国特許第6,153,193号には、ドキソルビシン等の抗癌剤のベクター化用のポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)の両親媒性ミセルをベースとした組成物が記載されている。
【0010】
Akiyoshiら(J.Controlled Release,1998,54,313−320)は、コレステロールをグラフト化することで疎水性を高め、また水中でナノ粒子を形成する、プルランを記載している。これらのナノ粒子は、インスリンと可逆的に錯体を形成することができ、安定なコロイド懸濁液を形成する。
【0011】
米国特許第4,351,337号には、有効成分の放出量を制御するためにインプラントやマイクロ粒子の形態で用いることができる、ロイシン及びグルタミン酸塩をベースとした両親媒性のアミノ酸コポリマーが記載されている。有効成分の放出は、ポリマーの分解速度に依存して、非常に長期間に渡って生じ得る。
【0012】
米国特許第4,888,398号には、ポリグルタミン酸塩又はポリアスパラギン酸塩、及び任意選択的にアルコキシカルボニルメチル基をポリアミノ酸鎖にランダムに導入したポリロイシンをベースとするポリマーが記載されている。例えば、メトキシカルボニルメチル基等の側鎖でグラフト化されたポリアミノ酸を、持続的な放出のために、APを含む生分解性インプラントの形態で用いることができる。
【0013】
米国特許第5,904,936号には、ポリロイシン/ポリグルタミン酸塩ブロックポリマーから得られるナノ粒子が記載されており、該ブロックポリマーは、安定なコロイド懸濁液を形成することができ、生理活性タンパク質を変性させることなく生理活性タンパク質と自発的に結合することができる。その後、該活性タンパク質を生体内において長期間に渡って制御した態様で放出させることができる。
【0014】
米国特許第5,449,513号には、ポリオキシエチレンブロック、及び、例えばポリ(β−ベンジル−L−アスパラギン酸塩)のようなポリアミノ酸ブロックを有する、両親媒性ブロックコポリマーが記載されている。これらのポリオキシエチレン/ポリベンジルアスパラギン酸塩ポリマーは、ドキソルビシン又はインドメタシン等の疎水性活性分子をカプセル化可能なミセルを形成する。
【0015】
国際公開第99/61512号には、疎水性基(ポリリジン又は−オルニチンと結合させたパルミチン酸)及び親水性基(ポリオキシエチレン)で官能基化した、ポリリジン及びポリオルニチンが記載されている。これらのポリマー、例えばポリオキシエチレン及びパルミトイル鎖でグラフト化されたポリリジンは、コレステロールの存在下では、ドキソルビシン又はDNAをカプセル化可能なベシクルを形成する。これらのポリリジンをベースとしたポリマーは、生理的媒体中においてカチオン性である。
【0016】
欧州特許出願公開第963 758号には、カチオン性基によって官能基化されたポリアミノ酸が記載されている。これらのポリマーは、核酸と錯体を形成することができ、遺伝子治療に用いることができる。該カチオン性基はアミノ酸に由来しないアミン誘導基であり、ポリアミノ酸は疎水性基を含まない。
【0017】
Yangら(Biotechnology Letters,2005,27,977−982)は、直鎖アルキル基及びオリゴアルギニンによって官能基化したポリアスパラギン酸塩を記載している。これらのポリマーは、水中で8〜40nmの大きさのナノ粒子を形成し、また細胞に吸収され得る。これらの粒子は、疎水性分子をベクター化するのに使用できることが示唆されている。
【0018】
同分野において、本出願人は、いくつかの特許出願において、関連した概念をもってポリグルタミン酸塩(アニオン性ポリマー)をベースとしたポリマーを記載している。
【0019】
国際公開第03/104303号には、α−トコフェロールによって官能基化したアニオン性ポリアミノ酸が記載されている。
【0020】
国際公開第2004/013206号には、複数の疎水性基を有し、これらの基が2つのアミド官能基を含む結合部を介して、特には、リシン又はオルニチンのスペーサーを介してポリマーに結合したアニオン性のポリアミノ酸が記載されている。
【0021】
国際公開第2004/060968号には、ロイシン、イソロイシン、バリン、及び/又はフェニルアラニンをベースとしたオリゴアミノ酸の少なくとも一種によって官能基化したポリアミノ酸が記載されている。
【0022】
W.C.Shenによる論文、“Acid−sensitive dissociation between poly(lysine) and histamine−modified poly(glutamate) as a model for drug−releasing from carriers in endosome”,Biochim.Biophys.Acta,1034(1),122−124,1990には、ヒスタミンによって40%官能基化されたポリグルタミン酸塩が記載されている。しかしながら、この文献は、疎水化されたポリグルタミン酸塩骨格について全く述べていない。更には、記載されているポリマーは、pH4と5の間において沈殿し、生理的pHでは溶解する。開発されている唯一の用途は、pH−感受性のポリリシンでの錯体の形成を対象としている。これらの錯体は、静電的相互作用によって形成される。特に、生理的pHでは、ポリグルタミン酸塩−ヒスタミン/ポリリシン錯体が形成され、pH4〜5というエンドソーム内でのpHで分解する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第4,652,441号
【特許文献2】米国特許第6,153,193号
【特許文献3】米国特許第4,351,337号
【特許文献4】米国特許第4,888,398号
【特許文献5】米国特許第5,904,936号
【特許文献6】米国特許第5,449,513号
【特許文献7】国際公開第99/61512号
【特許文献8】欧州特許出願公開第963 758号
【特許文献9】国際公開第03/104303号
【特許文献10】国際公開第2004/013206号
【特許文献11】国際公開第2004/060968号
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】J.Controlled Release,1998,54,313−320
【非特許文献2】Biotechnology Letters,2005,27,977−982
【非特許文献3】“Acid−sensitive dissociation between poly(lysine) and histamine−modified poly(glutamate) as a model for drug−releasing from carriers in endosome”,Biochim.Biophys.Acta,1034(1),122−124,1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
このように、医薬の活性成分をベクター化する従来技術において、多くの技術的解決策が開発され発表されてきたが、すべての要望に応えることは難しく、改良の余地が残っている。より具体的には、本発明は、有効成分と可逆的に会合され得るベクター化用のコロイド状のナノ粒子又はマイクロ粒子に変換されることが可能な生分解性ポリアミノ酸に関するものである。
【0026】
ここで、本発明の本質的な目的の1つは、中性のpH又は中性に近いpHにおける正電荷と、ペンダント(乃至垂れ下がった)基としての疎水性基との両方を有する新規な両親媒性のグルタミン酸塩コポリマーを提供することである。
【0027】
これらのポリマーは、上述の特許若しくは特許出願に記載されているポリマーに対し、治療用のペプチド若しくはタンパク質、DNA、RNA又は小分子等の有効成分のベクター化の点で、改良点を示す。
【0028】
本発明のもう1つの目的は、これらのポリマーを有効成分(AP)のベクター化に有用にすること、また、総ての要件、即ち、具体的には、
安定な水性のコロイド懸濁液を容易かつ経済的に形成する能力、
多くの有効成分と容易に会合する能力、
これら有効成分を生体内において放出する能力、
生体適合性、
生分解性、
加水分解に対する安定性
といった全ての要件の仕様を最適に満たすようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
他の目的の中でも、この目的は本発明によって達成され、本発明は、グルタミン酸残基を含む、ポリアミノ酸又はその薬学的に許容可能な塩に関するものであり、前記グルタミン酸残基のいくつかは、脱プロトン化された場合に7若しくは7を超えるpKaを示すカチオン性ペンダント基をそれぞれ有し、該カチオン性基は互いに同一もしくは異なり、また、他のグルタミン酸残基はそれぞれ疎水性ペンダント基(GH)を有し、該疎水性基(GH)は互いに同一もしくは異なる。
【0030】
以下の記述において、特に断りのないときは、「カチオン性基」という語句は、一般的に脱プロトン化できないカチオン性基及び脱プロトン化できて7以上のpKaを示すカチオン性基を意味する。
【0031】
本発明によるポリアミノ酸の「薬学的に許容可能な塩」という語句は、ポリマーのイオン化作用によって会合した対イオンを有する全てのポリアミノ酸を包含するものと解される。
【0032】
以下の記述において、「小分子」という語句は、分子量が1kDaより小さな分子を意味するものと解される。
【0033】
特に断りのないときは、アルキル基は1〜10個の炭素原子を含む。
【0034】
上に述べたように、本発明による各ポリグルタミン酸を、互いに同一もしくは異なる多重のカチオン性ペンダント基、および互いに同一もしくは異なる疎水性ペンダント基(GH)によって官能基化する。
【0035】
本発明の意義において、「多重」との語句は、ポリグルタミン酸塩が、
少なくとも1%且つ多くとも99%のカチオン性基(グルタミン酸残基についてのモル%)によって、
平均して、1分子当り少なくとも2つの疎水性ペンダント基(GH)によって
官能基化されていることを意味する。本発明によれば、ポリグルタミン酸は、疎水性ペンダント基(GH)に加え、コポリマー鎖の少なくとも一つの末端に結合している疎水性基(GH)を含むことができる。
【0036】
本発明の意義において、「有する」との表現は、有されている基がペンダントである、即ち、該基がグルタミン酸残基に対して側基であって、該基を有するグルタミン酸残基のγ位において官能性カルボニル基の置換基であることを意味する。
【0037】
また、本発明のポリグルタミン酸塩は、カチオン性基を有する。これらの基は、好ましくはアミド又はエステル結合を介してグルタミン酸残基に結合している。
【0038】
本発明の他の実施態様によれば、他のグルタミン酸残基は、疎水性基(GH)とは異なる非イオン性ペンダント基をそれぞれ有することができ、該非イオン性基は互いに同一もしくは異なる。かかる非イオン性ペンダント基は、例えばヒドロキシエチルアミノ基とすることができる。
【0039】
本発明の更に他の実施態様によれば、他のグルタミン酸残基は、カルボニルに対してγ位に、疎水性基(GH)とは異なる中性のpHでイオン化しない基をそれぞれ有することができ、該中性のpHでイオン化しない基は互いに同一もしくは異なる。例えば、かかる基は、下記式:
【化1】

[式中、−R10は、−H、−CO2H、アルキルエステル(好ましくは−COOMeもしくは−COOEt)、−CH2OH、−C(=O)−NH2、−C(=O)−NH−CH3又は−C(=O)−N(CH32である]で表わされてもよい。
【0040】
また、同時にカチオン性基、疎水性基、及び任意に非イオン性基(イオン化できない又は中性のpHでイオン化されない)を有するポリグルタミン酸塩は、官能基化されていないポリグルタミン酸のペンダント基のイオン化によって生じた(中性のpHで)負電荷を有することもできる。
【発明の効果】
【0041】
本出願人は、カチオン性基を有し、多重の疎水性基によって官能基化され、安定なコロイド系を形成することが可能なポリグルタミン酸塩をベースとした新規なポリマー群を開発した。官能基化の割合の関数としてポリマーの充填量を調整することが可能であることは、
製剤段階において注入を容易にする又は使用を容易にするために、ポリマーの粘度を低減すること、
中性、アニオン性もしくはカチオン性の有効成分に対して良好な会合をもたらすこと
において、非常に有効であることを証明できる。
【0042】
従って、本発明のポリマーは、
アニオン性、カチオン性もしくは中性であって、帯電した又は帯電していない有効成分と会合でき、
中程度の酸性(pH=4〜5)においてカチオン性であって、中性のpHにおいて中性又は弱く帯電することができる。この場合、このpH依存性により、pH=4〜5の溶液中でそれらを有効成分と会合させた後、生理的媒体中で沈殿物を生じさせることができる。
【0043】
更に、本発明におけるポリマーは、酵素存在下において容易に分解され、無害な異化生成物/代謝生成物(アミノ酸)を生成する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の意義において、及び本書類を通じて、「会合」もしくは「会合する」との語句は、一種又は複数種の有効成分と変性ポリグルタミン酸塩との間の関係を特徴付けるのに用いられ、一種又は複数種の有効成分が、特には疎水性相互作用を介してポリグルタミン酸塩に結合もしくは連結させていること、並びに/或いは、ポリグルタミン酸塩によりカプセル化されていることを意味する。
【0045】
有利なことに、本発明のポリアミノ酸は、L−グルタミン酸塩もしくはL-グルタミン酸ホモポリマーであり、好ましくは、ポリアミノ酸中で、これら残基はそれらのα位のカルボキシル基で連結されている。
【0046】
グルタミン酸塩単位の官能基化に用いることが可能なカチオン性基は、互いに同一もしくは異なり、下記一般式:
【化2】

[式中、X=O、NH、
Y=それぞれ独立してH又はCH3
-=クロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテート、
L=官能性カルボキシル基又はその誘導基で任意に置換された直鎖(C2〜C6)アルキレン]で表わされる。
【0047】
好適な実施態様によれば、カチオン性基は、リシン、オルニチン、アルギニン及びそれらの誘導体、コリン、(酸素原子を介して連結させた)エタノールアミン、プトレッシン並びにアグマチンからなる群から選択される化合物から得られる。
【0048】
リシン、オルニチン及びアルギニン誘導体は、例えば、エチルエステル及びメチルエステル、アミド並びにメチル化アミドであってもよい。
【0049】
従って、本発明で用いることが可能なカチオン性基は、以下の基:
【化3】

[式中、Raは、ヒドロキシル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基であり、好ましくは−OMe、−OEt、−NH2、−NHCH3又は−NH(CH32であり、Z-は、クロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテートであって、好ましくはクロライドである]
或いは、
−NH−(CH24−NH3+,Z-
−NH−(CH24−NH−C(=NH)−NH3+,Z-
−O−(CH22−N+(CH33,Z-
−O−(CH22−NH3+,Z-
[式中、Z-は、クロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテートであって、好ましくはクロライドである]
から選択することができる。
【0050】
例えば、本発明で用いることができるカチオン性基は、以下の構造式(式中、前駆体の名前をそれぞれの基の下に示す):
【化4】

[式中、Raは、ヒドロキシル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基であり、好ましくは−OMe基、−OEt基、−NH2基、−NHCH3基又は−N(CH32基である]で表わすことができる。
【0051】
好適な実施態様によれば、本発明のポリアミノ酸は、ポリマー鎖1つ当たり平均して少なくとも3つの疎水性基(GH)を有する。
【0052】
有利なことに、疎水性基GHの少なくとも1つは、少なくとも1つのスペーシング結合部(又は単位)(スペーサー)を有する疎水性のグラフト中に含まれ、該スペーサーは、疎水性基GHがポリグルタミン酸塩鎖(例えば、ポリグルタミン酸塩の主鎖)に連結するのを可能とする。この結合部は、例えば少なくとも1つの直接的な共有結合及び/又は少なくとも1つのアミド結合及び/又は少なくとも1つのエステル結合を有することができる。例えば、結合部は、特には、ポリグルタミン酸塩の構成モノマー単位以外の「アミノ酸」残基、アミノアルコール誘導基、ポリアミン(例えばジアミン)誘導基、ポリオール(例えばジオール)誘導基及びヒドロキシ酸誘導基からなる群に属することができる。
【0053】
ポリグルタミン酸塩鎖への複数のGHのグラフト化には、ポリグルタミン酸塩鎖に結合させることが可能なGH前駆体の使用が含まれ得る。
【0054】
複数のGH前駆体は、実際には、特に限定されるものではないが、アルコール及びアミンからなる群から選択することができ、これらの化合物は当業者によって容易に官能基化される。複数のGH基のグラフト化については、以下の本発明に従って変性ポリアミノ酸を得るための方法の説明において、より詳細に開示する。
【0055】
好適な実施態様によれば、疎水性グラフト基の疎水性基(GH)は、8〜30個の炭素原子を含む。
【0056】
これらの疎水性基(GH)を、有利にかつ注意深く:
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子を任意に含むことができる直鎖もしくは分岐鎖のC8〜C30のアルキル、
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子を任意に含むことができるC8〜C30のアルキルアリール又はアリールアルキル、
並びに、少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子を任意に含むことができるC8〜C30の(ポリ)環状化合物
からなる群から選択する。
【0057】
GHと結合部を形成する疎水性のグラフトは、2価、3価若しくは4価の結合部とすることができる(実際は5価以上ですらあり得る)。2価の結合部の場合、疎水性グラフトは1つのGH基を含み、一方、3価の結合部は二分の性質を疎水性グラフトに付与し、即ち、グラフトは2つのGHの「腕」を示す。3価の結合部の例としては、特に限定されるものではないが、例えば「グルタミン酸」等の「アミノ酸」残基、または、例えばグリセロール等のポリオール残基が挙げられる。従って、二分のGHを含む有利で非限定的な2つの例は、ジアルキルグリセロールおよびジアルキルグルタミン酸塩である。
【0058】
疎水性基GHは、例えば、オクタノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、オレイルアルコール、トコフェロールおよびコレステロールからなる群から選択される基から誘導することができる。
【0059】
他の実施態様によれば、本発明のポリグルタミン酸塩は、グルタミン酸残基に結合したポリアルキレン(好ましくはポリエチレン)グリコール型のグラフトを少なくとも1つ有することもできる。
【0060】
好ましくは、本発明のポリグルタミン酸塩の骨格は、α−L−グルタミン酸塩及び/又はα−L−グルタミン酸単位を含む。
【0061】
より好ましくは、本発明のポリグルタミン酸塩は、下記式(I):
【化5】


[式中、Aは、それぞれ独立して、
RNH−(ここで、RはH、C2〜C10の直鎖若しくはC3〜C10の分岐鎖アルキル基又はベンジル基である)、
式:
【化6】

(式中、−R7は−OH、−OR9又は−NHR10であり、
8、R9及びR10は、それぞれ独立してH、C2〜C10の直鎖若しくはC3〜C10の分岐鎖アルキル基又はベンジル基である)で表される末端アミノ酸残基であり、
Bは、直接的な結合、又は、好ましくは以下の基:
−O−、−NH−、−N(C1〜C5のアルキル)−、1〜6個の炭素原子を含むアミノ酸(好ましくは天然アミノ酸)の、ジオールの、トリオールの、ジアミンの、トリアミンの、アミノアルコールの又はヒドロキシ酸の残基から選択される2価、3価若しくは4価の結合基であり、、
Dは、H、C2〜C10の直鎖若しくはC3〜C10の分岐鎖アシル基又はピログルタメートであり、
疎水性基(GH)は、それぞれ互いに独立して、
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子(好ましくはO及び/又はN及び/又はS)を任意に含むことができる直鎖若しくは分岐鎖のC8〜C30のアルキル、又は
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子(好ましくはO及び/又はN及び/又はS)を任意に含むことができるC8〜C30のアルキルアリール若しくはアリールアルキル、又は
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子(好ましくはO及び/又はN及び/又はS)を任意に含むことができるC8〜C30の(ポリ)環状化合物から選択される基であり、
好ましくは、この基は、オクタノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、オレイルアルコール、トコフェロールおよびコレステロールからなる群から選択され、Bを直接結合とし、
は、下記式:
−NH−(CH2w−NH3+,Z-(ここで、wは2〜6の間、好ましくは4である)、
−NH−(CH24−NH−C(=NH)−NH3+,Z-
−O−(CH22−NH3+,Z-
−O−(CH22−N+(CH33,Z-
の一つで表わされる基、
式:
【化7】

{式中、Xは、酸素原子又は−NH−であり、
12は、H、C2〜C10の直鎖若しくはC3〜C10の分岐鎖アルキル又はベンジルであり、
13は、−(CH24−NH3+,Z-、−(CH33−NH−C(=NH)−NH3+,Z-、−(CH23−NH3+,Z-(ここで、対アニオンZ-は、クロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテートであり、好ましくはクロライドである)である}で表されるアミノ酸残基もしくはアミノ酸誘導基であり、
3は、ヒドロキシエチルアミノ−、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、又は式:
【化8】

{式中、−R10は、−H、−CO2H、アルキルエステル(好ましくは−COOMe又は−COOEt)、−CH2OH、−C(=O)−NH2、−C(=O)−NH−CH3又は−C(=O)−N(CH32である}で表される基であり、
p、q、r及びsは、正の整数であり、
(p)/(p+q+r+s)は、疎水性基GHのモルでのグラフト度合で定義され、2〜99モル%、好ましくは5〜50モル%の間で変化し、但し、各コポリマー鎖は平均して少なくとも3つの疎水性のグラフトを有し、
(q)/(p+q+r+s)は、カチオン性基のモルでのグラフト度合で定義され、1〜99モル%で変化し、
(p+q+r+s)は、10〜1000、好ましくは30から500の間で変化し、
(r)/(p+q+r+s)は、0〜98モル%で変化し、
(s)/(p+q+r+s)は、0〜98モル%で変化する]で表わされるもの、及びその薬学的に許容可能な塩である。
【0062】
好ましくは、疎水性基GH及びカチオン性基は、ペンダンント基としてランダムに配置される。
【0063】
一般的に、上記の式(I)は、ブロックコポリマーのみを表わすだけでなく、ランダムコポリマーやマルチブロックコポリマーも表わすと解すべきである。
【0064】
更に、本発明のポリグルタミン酸塩の疎水性単位のモルでのグラフト度合は、2〜99%の間が好ましく、好ましくは5〜50%の間であり、但し、各ポリマー鎖は平均して少なくとも3つの疎水性グラフトを有する。
【0065】
本発明のポリグルタミン酸塩の(q)/(p+q+r+s)比は、ポリグルタミン酸塩が正電荷を有する官能基を1〜約97モル%含むことができることを意味する。
【0066】
本発明のポリグルタミン酸塩の(s)/(p+q+r+s)比は、ポリグルタミン酸塩が中性のpHで、アニオン性、中性又はカチオン性となり得ることを意味する。
【0067】
本発明の他の実施態様によれば、本発明のポリマーは、2 000〜200 000g/mol、好ましくは5 000〜100 000g/molの間のモル質量を有する。
【0068】
また、本発明は、上に定義した変性ポリアミノ酸の混合物を包含することは明らかである。
【0069】
本発明のポリグルタミン酸塩が、ポリグルタミン酸塩が有する電荷およびその重合度と同様に、疎水性基とカチオン性基の性質に依存して、さまざまな様式で用いることができることは注目に値することである。本発明により想定される様々な形態で有効成分をカプセル化するためのポリマーの形成方法は、当業者に公知である。更なる詳細については、例えば、これら幾つかの特に関連する文献を参照されたい:
“Microspheres, Microcapsules and Liposomes;第1巻、Preparation and chemical applications”,R.Arshady編,Citus Books,1999.ISBN:0−9532187−1−6.
“Sustained−Release Injectable Products”,J.Senior及びM.Radomsky編,Interpharm Press,2000.ISBN:1−57491−101−5.
“Colloidal Drug Delivery Systems”,J.Kreuter編,Marcel Dekker,Inc.,1994.ISBN:0−8247−9214−9.
“Handbook of Pharmaceutical Controlled Release Technology”,D.L.Wise編,Marcel Dekker,Inc.,2000.ISBN:0−8247−0369−3.
【0070】
本発明のポリグルタミン酸塩(粒子又は粒子でない形状)は、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA又は小分子等の有効成分と容易に会合、或いは容易にそれらをカプセル化することができる。好適な形成方法は、出願人に交付された米国特許第6,630,171号に記載されたものであり、コポリマーを水中に分散させ、有効成分(AP)の存在下において溶液をインキュベートすることを本質とするものである。本発明のポルグルタミン酸塩からなるベクター化粒子のコロイド状溶液を、続いて0.2μmのフィルターを用いて濾過し、その後、直接患者に注射することができる。
【0071】
ポリマーがカチオン性であって過剰な正電荷に起因して酸性のpHで溶解し、かつその正電荷が中性のpHで部分的にもしくは完全に中性化される場合、そのようなポリマーはpH依存性であると言われる。従って、このタイプのポリマーを用いて、例えば、皮下組織に投与した後に、沈殿物を形成することができる。
【0072】
変性ポリグルタミン酸塩の残留官能性カルボキシル基は、pH及び組成に依存して、中性(COOHの形態)もしくはイオン性(COO-アニオン)のいずれかであることを理解すべきである。故に、i)グルタミン酸塩の残基もしくはグルタミン酸残基、ii)ポリグルタミン酸もしくはポリグルタミン酸塩の、という語句は、相互変換できるものとして使用する。水溶液中において、対カチオンは、ナトリウム、カルシウムもしくはマグネシウム等の金属カチオン、又はトリエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の有機カチオン、又はポリエチレンイミン等のポリアミンとすることができる。対カチオンが2価の場合、該対カチオンは、2つの閉じた1価のアニオン性基と塩を形成することができる。
【0073】
カチオン性基の対アニオンは、好ましくはクロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテートを含む群から選択される。対アニオンが2価の場合、該対アニオンは、2つの閉じた1価のカチオン性基と塩を形成することができる。従って、本明細書において、ポリマーの「薬学的に許容可能な塩類」という語句は、ポリマーのイオン化作用によって会合した対イオンを有する全てのポリマーを包含する。また、電荷の全て又は部分的な中和を、正電荷と負電荷が共存するある種の構造において想定することができる。正電荷と負電荷を等しい数有する(等電点の)ポリマーは、対アニオン又は対カチオンの存在しない条件において存在し得る。
【0074】
本発明のコポリマーは、当業者に公知の方法を用いて得られる。まず始めに、αタイプのポリアミノ酸を得るのに最も広く用いられている技術は、N−カルボキシアミノ酸無水物(NCA)の重合反応に基づくものであって、例えば、“Biopolymers,1976,15,1869”及びH.R.Kricheldorf による研究、“alpha−amino acid N−carboxy anhydrides and related Heterocycles”,Springer Verlag(1987)に記載されている。NCA誘導体は、好ましくはNCA−Glu−O−R3(R3=メチル、エチル又はベンジル)である。ポリマーを、引き続き、その酸の形態で得るために適した条件下において加水分解する。これらの方法は、出願人に交付された仏国出願公開第2 801 226号にある記載をヒントにしている。
【0075】
本発明に従って使用可能な何種類かのポリマー、例えば、種々の分子量のポリ(α−L−グルタミン酸)、ポリ(α−D−グルタミン酸)、ポリ(α−D,L−グルタミン酸塩)およびポリ(γ−L−グルタミン酸)は、市販されている。
【0076】
好ましくは、本発明のコポリマーは、2つのルートに従って合成してもよい。1つ目では、最初にカチオン性基(例えばアルギニンアミド)及びB−GH基(例えばドデシルアミン)を同時に又は逐次的にポリ(L−グルタミン酸)にグラフト化させる。この反応は以下のような反応スキームに従って、DMF、DMSO又はNMP等の溶媒中で起こり得る。
【化9】

【0077】
上記機構において、qが0でないときは、窒素を介して結合したエタノールアミン等のR基の前駆体は、カチオン性基と同時に合成中において導入される。
【0078】
カチオン性基が、2つの化学的に差のない(例えば直鎖ジアミン)アミン官能基を有する場合、2つの官能基のうち1つを保護した形で導入することができる。その後、保護基の開裂の最終段階を上記反応スキームに加える。
【0079】
ポリ(L−グルタミン酸)は、仏国出願公開第2 801 226号に記載されたルートに従って合成することができる。HB−GH基がエステル官能基を介して結合している場合には、カチオン性基をグラフト化する前に、初めに、カルボジイミドを用いた標準的なカップリング反応によってB−GH基をグラフト化するのがより容易である。
【化10】

【0080】
上記機構において、qが0でないときは、窒素を介して結合したエタノールアミン等のR基の前駆体は、カチオン性基と同時に合成中において導入される。
【0081】
カチオン性基が、2つの化学的に差のない(例えば直鎖ジアミン)アミノ官能基を有する場合、2つの官能基のうち1つを保護した形で導入することができる。その後、保護基の開裂の最終段階を上記反応スキームに加える。
【0082】
重合化学と、基をカップリングする反応は、当業者に周知の標準的な方法である(例えば上述した出願人の特許又は特許出願を参照)。
【0083】
これらの方法は実施例の記載を通じて、より良く理解されるであろう。
【0084】
重合度は、開始剤の単量体に対するモル比によって定義されるとみなすべきである。
【0085】
疎水性グラフト(GH)とポリマーの酸基とのカップリングは、カップリング剤としてのカルボジイミド、任意で4−ジメチルアミノピリジン等の触媒の存在下、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリジン(NMP)又はジメチルスルホキシド(DMSO)等の適切な溶媒中において、ポリアミノ酸の反応によって容易に実行できる。カルボジイミドは、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドである。また、クロロギ酸エステル等のカップリング剤も、アミド結合を形成するのに使用することができる(例えば、カップリング剤の例については、Bodanskyの研究“Principles of Peptide Synthesis”,Springer Verlag,1984参照)。グラフト度合は、構成成分と反応剤との化学量論、又は反応時間によって化学的に制御する。ポリマーのアミノ酸以外のアミノ酸によって官能基化された疎水性グラフトは、標準的なペプチドカップリング反応又は酸触媒による直接的な縮合によって得られる。これらの技術は当業者に周知である。
【0086】
その他の側面によると、本発明は、薬剤、化粧品、健康食品もしくは植物保護剤の組成物にも及ぶものであり、少なくとも1種の上記に定義したポリグルタミン酸塩と、任意で治療、化粧品、健康食品又は植物防疫の有効成分となり得る少なくとも1種の有効成分とを含む薬剤、化粧品、健康食品又は植物防疫組成物を対象とする。
【0087】
本発明の有利な実施態様によれば、有効成分を、共有結合以外の1つ又は2つ以上の結合を用いてカチオン性基によって変性されたポリアミノ酸と会合させる。
【0088】
1種又は2種以上のAPを本発明の変性ポリアミノ酸と会合させる技術は、米国特許第6,630,171号に具体的に記載されている。該技術は、1種又は2種以上の有効成分APを投入した又は会合させたベクター化粒子(VP)のコロイド懸濁液を得るために、ベクター化粒子(VP)を含む液状媒体中に少なくとも1種の有効成分を組み込むことを本質とする。VPによってAPを捕捉することとなる該組み込みは、以下の方法:
APを水へ溶解させ、次に、コロイド懸濁液の形態又は単離されたVP(凍結乾燥物若しくは沈殿物)の形態のいずれかで、VPを添加すること、
或いは、溶液又は純粋状態若しくは予備調合状態のいずれかで、APを、任意で水等の適切な溶媒の中で乾燥したVPを分散させて使用時に調製したVP粒子のコロイド懸濁液に加えること、
で実行することができる。
【0089】
有効成分は、好ましくは、タンパク質、糖タンパク質、2以上のポリアクキレングリコール鎖[好ましくはポリエチレングリコール(PEG)]に結合しているタンンパク質[“PEG変性タンパク質”]、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、及びそれらの混合物からなる群から選択され、
更により好ましくは、エポエチンアルファ、エポエチンベータ、ダーベポエチン、ヘモグロビンラフィマー、それらの類似物若しくは誘導体等のエリスロポエチンの下位群;オキシトシン、バソプレッシン、副腎皮質刺激ホルモン、表皮増殖因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、造血刺激因子、及びそれらの混合物、アルテプラーゼ、テネクテプラーゼ、因子VII(a)若しくは因子VII等の血液因子;ヘモグロビン、シトクロム、アルブミン、プロラクチン、ルリベリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、及びリュープロリド、ゴセレリン、トリプトレリン、ブセレリン若しくはナファレリン等の類似物;LHRH拮抗薬、LHRH競合物、ヒト、ブタ、仔ウシ成長ホルモン(GH)、成長ホルモン放出因子、インシュリン、ソマトスタチン、グルカゴン、インターロイキン又はそれらの混合物(IL−2、IL−11、IL−12)、インターフェロンα、α−2b、β、β−1aまたはγ等のインターフェロン;ガストリン、テトラガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン、セクレチン、カルシトニン、エンケファリン、エンドモルフィン、アンジオテンシン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、腫瘍壊死因子(TNF)、神経成長因子(NGF)、ベクラペルミン、トラフェルミン、アンセスチム又はケラチノサイト成長因子等の増殖因子、顆粒球−コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージ−コロニー刺激因子(M−CSF)、ヘパリナーゼ、骨形成タン白質(BMP)、hANP、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)、VEG−F、組換B型肝炎ウイルス表面抗原(rHBsAg)、レニン、サイトカイン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、エタネルセプト、イミグルセラーゼ、ドロトレコギンα、シクロスポリン及び合成類似物、酵素の、サイトカインの、抗体の、抗原の及びワクチンの薬学的活性を有する変性物及び断片、リツキシマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、アダリムマブ、オマリズマブ、トシツモマブ、エファリツマブ及びセツキシマブ等の抗体からなる群から選択される。
【0090】
他の適した有効成分は、多糖類(例えばヘパリン)及びオリゴ若しくはポリヌクレオチド、DNA、RNA、iRNA、抗生物質及び生細胞である。
【0091】
適切な有効成分の他の分類は、中枢神経系に働く薬剤物質、例えば、リスペリドン、ズクロペンチロール、フルフェナジン、ペルフェナジン、フルペンチキソール、ハロペリドール、フルスピリレン、クエチアピン、クロザピン、アミスルプリド、スルピリド、ジプラシドン等を含む。
【0092】
別の形態によると、有効成分は、疎水性、親水性又は両親媒性の有機小分子である。本明細書の意味において、「小」分子は、特には非タンパク質の小分子である。
【0093】
本発明のポリアミノ酸と会合できる有効成分の例としては、(ナノ又はマイクロ)粒子の形態であるかないかに関わらず、特に限定されるものではないが、
インスリン、インターフェロン、成長ホルモン、インターロイキン、エリスロポエチン又はサイトカイン等のタンパク質、
ロイプロリド又はシクロスポリン等のペプチド、
アントラサイクリン、タキソイド又はカンプトセシンの部類に属するもの等の小分子、
及びそれらの混合物
が挙げられる。
【0094】
有利には、有効成分は、以下の部類の活性物質:
アルコール中毒治療のための薬剤、アルツハイマー病治療のための薬剤、麻酔薬、末端肥大症の治療のための薬剤、鎮痛剤、抗喘息薬、アレルギー治療薬、制ガン剤、抗炎症薬、抗凝血剤及び抗血栓剤、抗痙攣薬、抗てんかん薬、抗糖尿病薬、鎮吐薬、抗緑内障薬、抗ヒスタミン薬、抗感染薬、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス薬、抗パーキンソン病薬、抗コリン作動薬、鎮咳薬、炭酸脱水酵素阻害薬、心血管治療薬、抗高脂血症薬、抗不整脈薬、血管拡張剤、狭心症薬、抗高血圧薬、血管保護薬、コリンエステラーゼ阻害薬、中枢神経系疾患の治療薬、中枢神経系の興奮剤、避妊薬、妊娠促進薬、子宮運動の誘引剤及び阻害剤、嚢胞性繊維症の治療薬、ドーパミン受容体作用薬、子宮内膜症の治療薬、勃起障害の治療薬、不妊治療薬、消化器疾患の治療薬、免疫調節薬及び免疫抑制薬、記憶障害の治療薬、抗片頭痛薬、筋弛緩剤、ヌクレオシド類似体、骨粗鬆症の治療薬、副交感神経刺激薬、プロスタグランジン、精神病治療薬、鎮静剤、催眠薬及び精神安定剤、神経弛緩薬、抗不安剤、精神刺激薬、抗うつ剤、皮膚病治療薬、ステロイド及びホルモン、アンフェタミン、食欲減退薬、非無痛鎮痛剤、バルビツール酸塩、ベンゾジアゼピン、下剤、向精神薬、及びこれら製品の任意の組み合わせ
の少なくとも1種から選択される。
【0095】
一実施態様によれば、本発明の組成物は、ゲル、溶液、エマルション、ミセル、ナノ粒子、マイクロ粒子、インプラント、粉末、懸濁液、又はフィルムの形状である。
【0096】
特に好ましい形状の1つによれば、組成物は、有効成分が充填されているか否かに関わらず、水相若しくは油相中におけるポリアミノ酸のナノ粒子及び/又はマイクロ粒子及び/又はミセルの安定なコロイド懸濁液である。
【0097】
マイクロ粒子は、凝集剤(2価若しくは3価のイオン又は多価電解質)の存在下における液滴形成、pHの又はイオン強度の変化による沈殿、抽出/蒸発又は噴霧等の種々の方法で得ることができる。
【0098】
特には、本発明の組成物は、生理的pHで沈殿を生じ、酸性のpHで水相においてナノ粒子のコロイド懸濁液とすることができる。
【0099】
有利には、過剰な正電荷を帯びている本発明のポリアミノ酸は、DNA、DNA断片、RNA、オリゴRNA等のアニオン性の有効成分をナノ若しくはマイクロ粒子の形態で濃縮することができ、そして、これらの粒子を細胞に取り込ませることができる。
【0100】
他の実施態様においては、本発明の組成物は、生体適合性を有する溶媒の溶液の形態にあり、皮下又は筋肉注射する、或いは腫瘍に注射することができる。
【0101】
本発明の組成物は、薬剤の組成物であるため、経口、非経口、経鼻、経膣、経眼、皮下、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、大脳内、又は口腔内、或いは肺ルートにより投与できる。
【0102】
また、組成物を、皮下に若しくは筋肉内に又は腫瘍中に注射できる生体適合性を有する溶媒又は生体適合性を有する溶媒の混合物の溶液の形態とすることも意図できる。
【0103】
他の実施態様によれば、組成物は、任意に、pHの及び/又はオスモル濃度の調整のための、並びに/或いは安定性向上(酸化防止剤)のための、並びに/或いは抗菌物質としての、賦形剤を含むことができる。これらの賦形剤は、当業者に周知である(“Injectable Drug Development”,P.K.Gupta他、Interpharm Press,Denver,Colorado,1999との研究を参考文献とする)。
【0104】
また、本発明は、
特には、経口投与、経鼻投与、経膣投与、経眼投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、又は大脳内投与のための薬物であって、これら薬物の有効成分が特にはタンパク質、糖タンパク質、1つ又は複数のポリアルキレングリコール鎖{例えばポリエチレングリコール(PEG)}と結合したタンパク質{この場合、使用される語句は「PEG変性」タンパク質である}、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、及び疎水性、親水性若しくは両親媒性の有機小分子とすることができる薬剤、
及び/又は栄養物、
及び/又は化粧品もしくは植物防疫品
の調製方法も対象とし、
該方法は、上記で定義したポリアミノ酸の少なくとも1種、及び/又は前記組成物を使用することを本質的に特徴とする。
【0105】
また、本発明は、本明細書に記されている組成物を、経口、非経口、経鼻、経膣、経眼、皮下、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、大脳内、又は口腔内、或いは肺ルートによって、投与することを本質的に特徴とする処置の治療方法に関するものでもある。
【0106】
本発明の特定の別の形態によれば、該処置の治療方法は、生体適合性を有する溶媒の溶液の形態にある前記組成物を用い、次に、好ましくは注射位置において沈殿物を形成するように、皮下に若しくは筋肉内に又は腫瘍中に注射することを本質的に特徴とする。
【0107】
本発明は、以下の本発明のポリマーの合成、APのベクター化系(安定な水性コロイド懸濁液液)への変換、かかる系をタンパク質と結合させ医薬組成物を作製できることの実証を記載する例によって、よく理解されることとなり、また、本発明の利点及び別の実施態様が明らかになるであろう。
【実施例】
【0108】
実施例1:ポリマー(1)の合成
【化11】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=s=11、q=198
【0109】
5%のα−トコフェノールのラセミ体でランダムにグラフト化された、重合度(DP)220のポリ(グルタミン酸)10gを125mlのNMPに80℃で溶解させる。この溶液を0℃に冷やし、8.7mlのクロロギ酸イソブチルを加え、次に7.35mlのN−メチルモルホリンを加える。この反応混合物を0℃で15分間撹拌する。同時に、24.67gのアルギニンアミド二塩酸塩を308mlのNMP中に懸濁させ、14.7mlのトリエチルアミンを加える。得られた懸濁液を20℃で数分間撹拌し、その後0℃に冷やす。次に、活性化されたポリマーの乳濁液をこの懸濁液に加え、反応混合物を0℃で2時間撹拌した後に20℃で終夜撹拌する。35%のHCl溶液2.1mlを加えた後に、100mlの水を加え、反応混合物を1.6Lの水に滴下する。得られた溶液を、8倍量の生理食塩水(0.9%)に対して、次いで4倍量の水に対してダイアフィルターにかけ、約250mlの容量になるまで濃縮する。グラフト化されたアルギニンアミドの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、90%である。
【0110】
実施例2:ポリマー(2)の合成
【化12】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=s=6、q=108
【0111】
5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された、重合度(DP)120のポリ(グルタミン酸)3.5gを70mlのNMPに80℃で溶解させる。この溶液を0℃に冷却し、3.2gのクロロギ酸イソブチルを加え、2.37gのN-メチルモルホリンを加える。この反応混合物を0℃で10分間撹拌する。同時に、4.62gのN−tert−ブチルオキシカルボニル−1,4−ブタンジアミン(BOC−プトレッシン)を9mlのNMPに溶解させた後、0℃に冷却する。次に、活性化されたポリマーの乳濁液をこの反応溶液に加え、反応混合物を0℃で2時間撹拌し、その後20℃で終夜撹拌する。35%のHCl溶液0.7mlを加えた後に、反応混合物を317mlの水に滴下する。得られた溶液を1Nの水酸化ナトリウム溶液によりpH=7.4に調整した後、生理食塩水(0.9%)に対して、次いで水に対して透析を行う。得られた懸濁液を凍結乾燥すると、4.1gの白色粉末が得られる。この粉末をTFAに再度溶解させ、溶液を20℃で2時間撹拌した後、1Nの水酸化ナトリウム溶液でpHを約7に調整しつつ水中に滴下する。得られた溶液を、8倍量の生理食塩水(0.9%)に対して、次いで4倍量の水に対してダイアフィルターにかけ、約50mlの容量になるまで濃縮する。グラフト化されたBOC−プトレッシンの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、90%である。
【0112】
実施例3:ポリマー(3)の合成
【化13】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=11、q=88、r=99、s=22
【0113】
5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された、重合度(DP)220のポリ(グルタミン酸)10gを125mlのNMPに80℃で溶解させる。この溶液を0℃に冷却し、9.1mlのクロロギ酸イソブチルを加え、次に、7.71mlのN−メチルモルホリンを加える。この反応混合物を0℃で15分間撹拌する。同時に、8.2gのアルギニンアミド二塩酸塩を103mlのNMPに懸濁させ、9.31mlのトリエチルアミンを加える。また、1.6mlのエタノールアミンも加え、得られた懸濁液を20℃で数分間撹拌した後、0℃に冷却する。次に、活性化されたポリマーの乳濁液をこの反応溶液に加え、反応混合物を0℃で2時間撹拌する。1.2mlのエタノールアミンを加えた後、20℃で終夜撹拌する。35%のHCl溶液2.1mlを加えた後に、200mlの水を加え、pHを約7.4に調整しながら、反応混合物を700mlの水中に滴下する。得られた溶液を、8倍量の生理食塩水(0.9%)に対して、次いで4倍量の水に対してダイアフィルターにかけ、約250mlの容量になるまで濃縮する。グラフト化されたアルギニンアミド及びグラフト化されたエタノールアミンの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、それぞれ40%及び45%である。
【0114】
実施例4:ポリマー(4)の合成
【化14】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=6、q=59、r=52、s=3
【0115】
5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された、重合度(DP)120のポリ(グルタミン酸)5gを63mlのNMPに80℃で溶解させる。この溶液を0℃に冷却し、4.3gのクロロギ酸イソブチルを加え、次に、3.7gのN−メチルモルホリンを加える。この反応混合物を0℃で10分間撹拌する。同時に、3.15gのN−tert−ブチルオキシカルボニル−1,4−ブタンジアミン(BOC−プトレッシン)を39mlのNMPに溶解させた後、0℃に冷却する。この溶液を活性化されたポリマーの乳濁液に加え、反応混合物を0℃で2時間撹拌する。2mlのエタノールアミンを加えた後、室温で終夜撹拌する。35%のHCl溶液1.04mlを加えた後に、反応混合物を407mlの水中に滴下する。得られた懸濁液を1Nの水酸化ナトリウム溶液によりpH=7.4に調節した後、生理食塩水に対して、その後、水に対して(1kDのカットオフ閾値で)透析する。得られた懸濁液を凍結乾燥させると白色粉末が得られる。この粉末を100mlのTFAに再度溶解させ、溶液を20℃で1時間15分撹拌し、その後1Nの水酸化ナトリウム溶液でpHを約7に調整しつつ、水(500ml)中に滴下する。600mlのエタノールを加えた後、得られた溶液を8倍量の生理食塩水(0.9%)に対して、次いで4倍量の水に対してダイアフィルターにかけ、約100mlの容量になるまで濃縮する。グラフト化されたBOC−プトレッシンとグラフト化されたエタノールアミンの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、それぞれ49%及び43%である。
【0116】
実施例5:ポリマー(5)の合成
【化15】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=5、q=83、s=12
【0117】
ポリマー(1)の合成に用いたのと同様の方法によって、5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された重合度(DP)100のポリ(グルタミン酸)10gから出発し、9.6gのクロロギ酸イソブチル、7.7mlのN−メチルモルホリン、24.7gのアルギニンアミド二塩酸塩、及び14.7mlのトリエチルアミンから、濃度48mg/gの溶液を約300ml得る。アルギニンアミドの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、83%である。
【0118】
実施例6:ポリマー(6)の合成
【化16】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=11、q=62、s=147
【0119】
ポリマー(1)の合成に用いたのと同様の方法によって、5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された重合度(DP)220のポリ(グルタミン酸)10gから出発し、2.9gのクロロギ酸イソブチル、2.2mlのN−メチルモルホリン、4.93gのアルギニンアミド二塩酸塩、及び3.3mlのトリエチルアミンから、濃度43mg/gの溶液を約250ml得る。アルギニンアミドの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、28%である。
【0120】
実施例7:ポリマー(7)の合成
【化17】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=5、q=40、r=48、s=7
【0121】
ポリマー(3)の合成に用いたのと同様の方法によって、5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された重合度(DP)100のポリ(グルタミン酸)10gから出発し、9.58gのクロロギ酸イソブチル、7.7mlのN−メチルモルホリン、8.22gのアルギニンアミド二塩酸塩、2.86gのエタノールアミン及び5.1mlのトリエチルアミンから、濃度41mg/gの溶液を約200ml得る。アルギニンアミド及びエタノールアミンの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、それぞれ40%及び48%である。
【0122】
実施例8:ポリマー(8)の合成
【化18】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=11、q=139、s=70
【0123】
ポリマー(1)の合成に用いたのと同様の方法によって、5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された重合度(DP)220のポリ(グルタミン酸)10gから出発し、6.39gのクロロギ酸イソブチル、5.1mlのN−メチルモルホリン、13.16gのアルギニンアミド二塩酸塩、及び7.5mlのトリエチルアミンから、濃度51mg/gの溶液を約200ml得る。アルギニンアミドの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、63%である。
【0124】
実施例9:ポリマー(9)の合成
【化19】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=11、q=121、s=88
【0125】
5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された、重合度(DP)220のポリ(グルタミン酸)5gを63mlのNMPに80℃で溶解させる。この溶液を0℃に冷却し、2.38mlのクロロギ酸イソブチルを加え、次に、2.02mlのN−メチルモルホリンを加える。この反応混合物を0℃で15分間撹拌する。同時に、4.93gのアルギニンアミド二塩酸塩を62mlのNMPに懸濁させ、2.8mlのトリエタノールアミンを加える。得られた懸濁液を20℃で数分間撹拌した後、0℃に冷却する。次に、この懸濁液に活性化されたポリマーの乳濁液を加え、反応混合物を0℃で2時間、その後20℃で4時間撹拌する。35%のHCl溶液1.04mlを加えた後、50mlの水を加え、反応混合物を、1NのHCl溶液でpHを約3〜4に維持しつつ500mlの酸性水溶液(pH=3)中に滴下する。得られた溶液を8倍量の生理食塩水(0.9%)に対して、次いで4倍量の水に対してダイアフィルターにかけ、約250mlの容量になるまで濃縮する。グラフト化されたアルギニンアミドの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、55%である。
【0126】
実施例10:ポリマー(10)の合成
【化20】

指数及び基:T=D,L−α−トコフェロール、p=11、q=88、r=48、s=73
【0127】
5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された、重合度(DP)220のポリ(グルタミン酸)10gを125mlのNMPに80℃で溶解させる。この溶液を0℃に冷却し、5.6mlのクロロギ酸イソブチルを加えた後、4.8mlのN−メチルモルホリンを加える。この反応混合物を0℃で15分間撹拌する。同時に、7.4gのアルギニンアミド二塩酸塩を93mlのNMPに懸濁させ、次に、4.7mlのトリエチルアミンと1.2mlのエタノールアミンを加える。得られた懸濁液を20℃で数分間撹拌した後、0℃に冷却する。次に、この懸濁液に、活性化されたポリマーの乳濁液を加え、反応混合物を0℃で2時間、その後20℃で終夜撹拌する。35%のHCl溶液2.07mlを加え、次に、水200mlを加えた後、反応混合物を、HClでpH=3に酸性化した水670ml中に、1NのHCl溶液でpHを約3に維持しつつ滴下する。得られた溶液を8倍量の生理食塩水(0.9%)に対して、次いで4倍量の水に対してダイアフィルターにかけ、約250mlの容量になるまで濃縮する。グラフト化されたアルギニンアミドとグラフト化されたエタノールアミンの割合は、D2O中でのプロトンNMRで決定したところ、それぞれ40%及び22%である。
【0128】
比較例11:カチオン性基で官能基化されていない化合物C1
比較対象化合物C1は、カチオン性基で変性されたポリグルタミン酸塩、即ち、5%のα−トコフェロールのラセミ体でランダムにグラフト化された重合度(DP)220のポリグルタミン酸塩の前駆体(アニオン性の形態)である。この化合物は、国際公開第03/104303号に記載されている方法によって得られる。
【0129】
実施例12:インスリンの会合の検討
pH=7.4で、1mlあたり10mgのポリマーと200IUのインスリン(7.4mg)を含む水溶液を調製する。該溶液を室温で2時間インキュベートし、遊離のインスリンを限外濾過(閾値100kDa、10 000G、18℃で15分間)により、会合したインスリンから分離する。濾液から回収した遊離のインスリンを、HPLC(高速液体クロマトグフィー)により分析し、会合したインスリンの量を推定する。その結果を下記の表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
本結果は、本発明のポリマーがインスリンと強く会合して100kDaよりも大きなサイズのコロイド懸濁液を形成でき、また、インスリンの会合度が非常に高いことを示している。ポリマーC1と比較すると、触媒的な電荷の存在によってインスリンの会合レベルが減少しないことが分かる。
【0132】
実施例13:29mg/gの水溶液の速度勾配10s-1における剪断粘度(mPa・s)の測定
【0133】
【表2】

【0134】
本結果は、本発明のポリマーが対照となるカチオン性ペンダント基を含まないC1よりも粘度が顕著に低いことを示している。
【0135】
実施例14:pHの関数としての溶解性の検討
結果は、本発明のポリマー(実施例9及び10)がpHに依存した溶解性を示し、化合物C1とは対照的に、中程度の酸性pH(pH=4)で有効成分と共に製剤化でき、かつ生理的なpH(pH7付近)では沈殿を生ず得ることを示している。
【0136】
【表3】

【0137】
実施例15:治療用RNAの会合の検討
水溶液中において、一定量の1433−ヌクレオチドの治療用RNAに対してポリマー(1)、(3)(pH=7.4において全体的にカチオン性である本発明に従うポリマーの2つの例)又はC1の量を増やしながら、ポリマー/RNAの会合を実行する。これらの混合物を37℃で2時間インキュベートした後、変性条件下、1%のアガロースゲルの電気泳動(RNAをエチジウムブロマイドで検出)によって分析する。RNAのみのものを完全性のポジティブコントロールとして用いる。市販のRNA分解酵素でインキュベートしたRNAを分解したRNAのコントロールとして用いる。
【0138】
結果は、検討したRNAをポリマー(1)又は(3)でインキュベートしたときには、電気泳動において予想のサイズに移動するRNAの量が、会合に用いたポリマーの量に従って徐々に減少し、一定値を超えると他のバンドが現れることなく消失することを示している。
【0139】
対照的に、成分C1を含む混合物中では、大過剰量のポリマーでも、移動するRNAの量に変化はない。
【0140】
第2に、多量のポリマー(1)又は(3)をRNAに加え、RNAの完全な会合が可能となる(RNAがゲルの予想サイズで見えなくなる条件)ようにし、これら混合物を37℃で2時間インキュベートする。37℃で2時間後、化合物C1の量を増加させながらこれら混合物に加え、37℃で更に16時間インキュベートする。
【0141】
得られた混合物を、変性条件下、1%のアガロースゲルの電気泳動(RNAをエチジウムブロマイドで検出)によって分析する。
【0142】
結果は、予想のサイズにおいて、RNA/ポリマー(1)又はポリマー(3)の混合物に添加されるポリマーC1の量に関してRNAの量が増加することを示している。
【0143】
これらの結果は、pH=7.4において全体的にカチオン性であり本発明に従うあるポリマーがモデルの1433ヌクレオチオのRNAと会合でき、また、この会合が全体的にアニオン性のポリマーで元に戻せることを示している。更に、調合されたRNAは分解しない。
【0144】
実施例16:モデルオリゴヌクレオチドの細胞膜透過の検討
ウシ胎仔血清を含まないOpti−MEM(登録商標)培地中で、Cy3により標識化した30塩基のRNAオリゴヌクレオチドと、該オリゴヌクレオチドと完全に会合させるのに必要な最低限量に近い量のポリマー(3)又は(7)とを混合する。この混合物を、25 000細胞/ウェルで、24ウェルプレートに生育したヒト肝細胞がん細胞Huh−7に接触させる。37℃、5%のCO2で、4時間、細胞を培養した後、20%ウシ胎仔血清(FCS)を含むD−MEM培地を、FCSの最終濃度が10%になるように加える。オリゴヌクレオチド/ポリマー混合物で、24時間培養した後、細胞を洗浄し、その細胞膜をビオチニル化コンカナバリンによって標識化した後、3.7%パラホルムアルデヒドで3分間細胞を固定する。
【0145】
PBS緩衝液で2回洗浄した後、細胞をDAPI(核DNA)で10分間培養し、PBSで3回洗浄した後、ビオチニル化コンカナバリンを露呈させるAlexaFluor(登録商標)488で標識されたストレプトアビジンで培養する。
【0146】
細胞を共焦点顕微鏡により分析する。
【0147】
細胞の所在は、ビオチニル化コンカナバリンを露呈させるAlexaFluor(登録商標)488で染色されたストレプトアビジンを観察することで可能である。
【0148】
細胞を共焦点顕微鏡により分析する。
【0149】
細胞の所在は、AlexaFluor(登録商標)488で染色された膜、及びDAPIで染色された核を観察することで可能である。
【0150】
Cy3で標識化したオリゴヌクレオチドの細胞による摂取を、Cy3の蛍光(550nmで励起、570nmで発光)によって可視化する。
【0151】
本結果は、細胞をオリゴヌクレオチドとポリマー(3)又は(7)の存在下で培養したとき、Cy3で標識化されたオリゴヌクレオチドがHuh−7細胞の細胞質中で観測されることを示している。比較として、オリゴヌクレオチドを単独で、又はポリマーC1と共に培養したところ、Cy3で標識されたオリゴヌクレオチドは細胞中で観測されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸残基を含む、ポリアミノ酸又はその薬学的に許容可能な塩であって、
前記グルタミン酸残基のいくつかは脱プロトン化された場合に7又は7より大きなpKaを示すカチオン性ペンダント基を有し、該カチオン性基は互いに同一もしくは異なり、
他のグルタミン酸残基は疎水性ペンダント基(GH)を有し、該疎水性基(GH)は互いに同一もしくは異なり、
前記カチオン性基が下記式:
【化1】

[式中、X=O、NH、
Y=それぞれ独立してH又はCH3
-=クロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテート、
L=官能性カルボキシル基又はその誘導基で任意に置換された直鎖(C2〜C6)アルキレン]で表わされ、
前記疎水性基(GH)が、
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子を任意に含むことができる直鎖もしくは分岐鎖のC8〜C30のアルキル、
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子を任意に含むことができるC8〜C30のアルキルアリール又はアリールアルキル、及び
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子を任意に含むことができるC8〜C30の(ポリ)環状化合物
からなる群から選択される、
ことを特徴とするポリアミノ酸又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
前記カチオン性ペンダント基がアミド又はエステル結合を介して前記グルタミン酸残基にグラフト化されている、請求項1に記載のポリアミノ酸。
【請求項3】
前記ポリアミノ酸が、α位のカルボキシル基でポリアミノ酸に結合しているL−グルタミン酸塩又はL−グルタミン酸のホモポリマーからなる、請求項1又は請求項2に記載のポリアミノ酸。
【請求項4】
前記カチオン性ペンダント基が、
【化2】

[式中、Raは、ヒドロキシル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基であり、好ましくは−OMe基、−OEt基、−NH2基、−NHCH3基又は−NH(CH32基であり、Z-は、クロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテートであり、好ましくはクロライドである]からなる群から選択されるか、
或いは、
−NH−(CH24−NH3+,Z-
−NH−(CH24−NH−C(=NH)−NH3+,Z-
−O−(CH22−N+(CH33,Z-
−O−(CH22−NH3+,Z-
[式中、Z-は、クロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテートであり、好ましくはクロライドである]である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアミノ酸。
【請求項5】
前記ポリアミノ酸が、ポリマー鎖1つ当り平均で少なくとも3つの疎水性基(GH)を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアミノ酸。
【請求項6】
更に他のグルタミン残基が前記疎水性基(GH)以外の非イオン性ペンダント基を有し、該非イオン性基が互いに同一もしくは異なる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリアミノ酸。
【請求項7】
前記非イオン性ペンダント基がヒドロキシエチルアミノである、請求項6に記載のポリアミノ酸。
【請求項8】
更にその他のグルタミン酸残基が、前記疎水性基(GH)とは異なる中性のpHでイオン化しない基を有し、該中性のpHでイオン化しない基が互いに同一もしくは異なる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリアミノ酸。
【請求項9】
前記中性のpHでイオン化しない基が、下記式:
【化3】

[式中、−R10は、−H、−CO2H、アルキルエステル(好ましくは−COOMe又は−COOEt)、−CH2OH、−C(=O)−NH2、−C(=O)−NH−CH3又は−C(=O)−N(CH32である]で表わされる、請求項8に記載のポリアミノ酸。
【請求項10】
前記ポリアミノ酸が、グルタミン酸塩残基に結合したポリアルキレン(好ましくはポリエチレン)グリコールタイプのグラフトを少なくとも1つ有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリアミノ酸。
【請求項11】
前記ポリアミノ酸が、下記式(I):
【化4】


[式中、Aは、それぞれ独立して、
RNH−(ここで、Rは、H、C2〜C10の直鎖若しくはC3〜C10の分岐鎖アルキル基又はベンジル基である)、又は
式:
【化5】

(式中、−R7は、−OH、−OR9又は−NHR10であり、
8、R9及びR10は、それぞれ独立してH、C2〜C10の直鎖若しくはC3〜C10の分岐鎖アルキル基又はベンジル基である)で表わされる末端アミノ酸残基であり、
Bは、直接的な結合、又は、好ましくは以下の基:
−O−、−NH−、−N(C1〜C5のアルキル)−、1〜6個の炭素原子を含むアミノ酸(好ましくは天然アミノ酸)の、ジオールの、トリオールの、ジアミンの、トリアミンの、アミノアルコールの又はヒドロキシ酸の残基から選択される2価、3価若しくは4価の結合基であり、
Dは、H、C2〜C10の直鎖若しくはC3〜C10の分岐鎖アシル基又はピログルタメートであり、
疎水性基(GH)は、それぞれ互いに独立して、
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子(好ましくはO及び/又はN及び/又はS)を任意に含むことができる直鎖若しくは分岐鎖のC8〜C30のアルキル、又は
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子(好ましくはO及び/又はN及び/又はS)を任意に含むことができるC8〜C30のアルキルアリール若しくはアリールアルキル、又は
少なくとも1つの不飽和結合及び/又は少なくとも1つのヘテロ原子(好ましくはO及び/又はN及び/又はS)を任意に含むことができるC8〜C30の(ポリ)環状化合物から選択される基であり、
1は、下記式:
−NH−(CH2w−NH3+,Z-(ここで、wは2〜6の間、好ましくは4である)、
−NH−(CH24−NH−C(=NH)−NH3+,Z-
−O−(CH22−NH3+,Z-
−O−(CH22−N+(CH33,Z-
の一つで表わされる基、
式:
【化6】

{式中、Xは、酸素原子又は−NH−であり、
12は、H、C2〜C10の直鎖若しくはC3〜C10の分岐鎖アルキル或いはベンジルであり、
13は、−(CH24−NH3+,Z-、−(CH33−NH−C(=NH)−NH3+,Z-、−(CH23−NH3+,Z-(ここで、対アニオンZ-は、クロライド、スルフェート、ホスフェート又はアセテートであり、好ましくはクロライドである)である}で表されるアミノ酸残基若しくはアミノ酸誘導基であり、
3は、ヒドロキシエチルアミノ、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール基、又は式:
【化7】

{式中、−R10は、−H、−CO2H、アルキルエステル(好ましくは−COOMe又は−COOEt)、−CH2OH、−C(=O)−NH2、−C(=O)−NH−CH3又は−C(=O)−N(CH32である}で表される基であり、
p、q、r及びsは、正の整数であり、
(p)/(p+q+r+s)は、疎水性基GHのモルでのグラフト度合で定義され、2〜99モル%、好ましくは5〜50モル%の間で変化し、但し、各コポリマー鎖は平均して少なくとも3つの疎水性のグラフトを有し、
(q)/(p+q+r+s)は、カチオン性基のモルでのグラフト度合で定義され、1〜99モル%で変化し、
(p+q+r+s)は、10〜1000、好ましくは30から500の間で変化し、
(r)/(p+q+r+s)は、0〜98モル%で変化し、
(s)/(p+q+r+s)は、0〜98モル%で変化する]で表わされる、請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリアミノ酸又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のポリアミノ酸を少なくとも1種含む、薬剤、化粧品、健康食品又は植物防疫組成物。
【請求項13】
更に有効成分を少なくとも1種含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記有効成分が、共有化学結合以外の一つ又は複数の結合により前記ポリアミノ酸と会合している、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記有効成分が、DNA、DNA断片、RNA及びオリゴRNAからなる群から選択される、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、水相若しくは油相中でのポリアミノ酸のナノ粒子及び/又はマイクロ粒子及び/又はミセルのコロイド懸濁液を含む、請求項12〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記懸濁液が、酸性のpHでは水相中においてナノ粒子のコロイド溶液であり、生理的pHでは沈殿を生じる、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
薬剤、特には、経口投与、経鼻投与、経肺投与、経膣投与、経眼投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、腹腔内投与又は大脳内投与のための薬剤の調製方法あって、
該方法が、請求項1〜11のいずれか一項に記載のポリアミノ酸の少なくとも一種及び/又は請求項12〜17のいずれか一項に記載の組成物を使用することを本質的に特徴とし、
前記薬剤の有効成分が、タンパク質、糖タンパク質、一つ又は複数のポリアルキレングリコール鎖に結合したタンパク質、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、疎水性、親水性及び両親媒性の有機小分子、栄養分、化粧品及び植物防疫品からなる群から選択される
薬剤の調製方法。

【公表番号】特表2010−529214(P2010−529214A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504757(P2010−504757)
【出願日】平成20年5月5日(2008.5.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055507
【国際公開番号】WO2008/135563
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(505437321)フラメル・テクノロジーズ (14)
【Fターム(参考)】