説明

カチオン性樹脂変性シリカ分散液

【課題】 湿式シリカを原料として、シリカ濃度が22重量%以上であり、且つ、透明性が高く、保存安定性に優れたカチオン性樹脂変性シリカ分散液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 極性溶媒中に22重量%以上の濃度となるように、BET比表面積170〜230m/gの湿式シリカを添加したシリカスラリーを、該湿式シリカ粒子の平均粒子径が1μm以下となるように、平均粒子径0.2mmφ未満のセラミック製ビーズをメディアとして使用した湿式メディア型粉砕機で微粒化した後、平均分子量が5万未満であり、且つ、コロイド当量値が4.0meq/g以上である環状アンモニウム塩型のカチオン性樹脂と混合し、高圧ホモジナイザーにより分散処理することによって得られたシリカ粒子の平均粒子径が300nm以下のカチオン性樹脂変性シリカ分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用記録紙をはじめ、フィルム・樹脂・ガラス・金属等にガスバリヤ性、耐食性、親水性、光沢性、吸液性、絶縁性等を付与するための各種コーティング剤や半導体ウェハーやIC研磨剤、エマルジョンの安定化剤等の調製に有用な新規の湿式シリカ分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用記録紙は、紙などの支持体の片面又は両面に、インク吸収を目的としたインク吸収層である塗工層が形成されており、その塗工層を形成するための材料(以下、塗工層形成材料ともいう。)として湿式シリカ及び乾式シリカなどが使用されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0003】
一般に、インクジェット用のインクとしては、アニオン性の化合物が使われることが多く、上記の塗工層はカチオン性を呈している方が、インクジェット用記録紙に該インクを印刷した場合の画像濃度及び耐水性向上のために有利である。ところが、塗工層形成材料として用いるシリカは、粒子がアニオン性を呈するため、上記印刷時の画像濃度や耐水性の低下を招くことが懸念される。そのための改善策として、シリカと第4級アンモニウム塩基等のカチオン性基を含むカチオン性樹脂を含む塗工液を塗布する塗工層が提案されている(例えば、特許文献4、5参照)。
【0004】
しかし、近年、パソコンとデジタルカメラの一般家庭への普及に伴い、写真並みの画質が得られるインクジェット用記録紙が求められるようになり、前述の耐水性、インク吸収性に加え、光沢性にも優れた塗工層を得ることができる塗工液の要求が高まりつつある。
【0005】
一方、塗工層形成材料として使用されているシリカの中で、珪酸ソーダと鉱酸の反応で析出させて得られる湿式シリカは、一次粒子内に内部細孔を有しており、一次粒子内に内部細孔を有していない乾式シリカと比較して、吸液性が高いという塗工層形成材料としての利点を有している。
【0006】
しかしながら、湿式シリカ粒子は、一次粒子同士の凝集性が強いため、塗工液中において、大きな凝集粒子を形成し易く、平均粒子径が大きくなる傾向にある。そのため、湿式シリカを含んだ塗工液を塗布した塗工層は、光沢性が低いという問題を有している。
【0007】
上記問題の改善策として、湿式シリカを極性溶媒中に分散したシリカスラリーとカチオン性樹脂を混合し、シリカ表面をカチオン化した後、分散液中のシリカ粒子の凝集粒子を高圧ホモジナイザーや湿式メディア式粉砕機を用いて機械的にサブミクロンオーダーまで微粒化し、平均粒子径の小さなカチオン性樹脂変性シリカ分散液を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献6、7、8参照)。
【0008】
一方、近年、輸送コストの低減や、塗工液濃度の高濃度化などにより高濃度の分散液の供給が望まれているが、前記の従来技術により得られたカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、シリカ濃度が高濃度、特に、22重量%以上となったとき、保存安定性が著しく低下するという問題があった。
【0009】
また、上記高濃度のシリカ分散液は、透明性に関しても十分ではなく、上記濃度に近づくにつれて透明性が低下する。その結果、かかるシリカ分散液を使用して形成される塗工層の透明性も低くなる。この塗工層の透明性が低くなると、シートに印刷されたインク濃度の濃淡の鮮明度が低下し、得られた画像に色の深みを出すことができなくなり、写真並みの画質を実現することが困難となる。
【0010】
【特許文献1】特開昭55−51583号公報
【特許文献2】特開昭56−148583号公報
【特許文献3】特開昭60−204390号公報
【特許文献4】特開昭61−43593号公報
【特許文献5】特開昭62−268682号公報
【特許文献6】特開平10−181190号公報
【特許文献7】特開2004−50811号公報
【特許文献8】特開2004−174810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、極性溶媒に22重量%以上の高濃度で湿式シリカを分散させたカチオン性樹脂変性シリカ分散液であって、透明性が高く、且つ、保存安定性にも優れたカチオン性樹脂変性シリカ分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のBET比表面積範囲の湿式シリカを極性溶媒中で特定の粉砕機を使用して特定の微粒化処理した後に、特定のカチオン性樹脂と混合して分散処理することにより、前記目的を達成したカチオン性樹脂変性シリカ分散液が得られることを見出し、本発明を完成することに至った。
【0013】
即ち、本発明は、極性溶媒に22重量%以上の濃度で、BET比表面積170〜230m/gの湿式シリカを添加したシリカスラリーを、平均粒子径0.2mmφ未満のセラミック製ビーズをメディアとして使用した湿式メディア型粉砕機により該湿式シリカ粒子の平均粒子径が1μm以下となるように微粒化した後、平均分子量が5万未満であり、且つ、コロイド当量値が4.0meq/g以上である環状アンモニウム塩型のカチオン性樹脂の存在下に分散処理することによって得られた、シリカ粒子の平均粒子径が300nm以下のカチオン性樹脂変性シリカ分散液である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、高シリカ濃度でも、透明性が高く、且つ、保存安定性に優れているため、インクジェット用記録紙の塗工層形成材料をはじめ、各種のコーティング剤の原料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(湿式シリカ)
本発明に用いられる湿式シリカは、珪酸ソーダを鉱酸で中和することによって溶液中で析出させて得られる、「ホワイトカーボン」とも称されるものである。また、上記中和反応により析出した湿式シリカは、ろ過や洗浄後に乾燥を施さないで、湿式シリカケークの状態で使用することが、乾燥粉を使用する場合と比較してシリカ粒子の凝集力が小さいため、分散性が良く、好ましく使用される。
【0016】
また、湿式シリカをケークで使用する場合、湿式シリカケークはシリカの比表面積が高くなると水分含有率が高くなり濃度が低下するので、シリカ分散液中のシリカ濃度を高め、且つ、分散性も良くするためには、湿式シリカケークと湿式シリカ粉(乾燥物)とを混合し、シリカ濃度を高めて使用することが好ましい。
【0017】
勿論、本発明において、湿式シリカは乾燥粉のみで使用することも可能である。
【0018】
本発明に用いられる湿式シリカは、BET比表面積が170〜230m/g、好ましくは180〜220m/gの範囲であることが、透明性が高く、且つ、保存安定性に優れたカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得るために必要である。
【0019】
即ち、上記BET比表面積が230m/gを超える湿式シリカは、一次粒子が小さいため、極性溶媒中において凝集し易い。特に、この現象はシリカ濃度が高くなるほど顕著になる傾向がある。従って、BET比表面積230m/g以上の湿式シリカを用いて、本発明の目的とする高濃度カチオン性樹脂変性シリカ分散液を製造した場合、保存安定性が悪くなり、経時的に該分散液粘度が上昇し、場合によっては、該分散液全体がゲル化し易くなる傾向がある。
【0020】
また、上記BET比表面積が170m/g未満である湿式シリカは、一次粒子径が大きいため、これを用いたカチオン性樹脂変性シリカ分散液の透明性が低下する傾向にある。
【0021】
尚、上記BET比表面積とは、多分子層吸着理論を応用して測定される比表面積であり、シリカの平均一次粒径に相当すると考えられている(J.Am.Chem.Soc. 60,P309(1938)参照)。また、粉体物性図説(粉体工学研究会、日本粉体工業協会編,P85(1975))に記載されているように、一次粒子を球形であると仮定すれば、比表面積と一次粒子の平均径には下記数式(1)の関係があり、比表面積が大きいほど平均一次粒径は微小となる。
【0022】
D=6/(S・ρ) (1)
(ここで、Dは平均一次粒子径、Sは比表面積、ρは粒子の密度を示す。)。
【0023】
(極性溶媒)
本発明において用いられる極性溶媒は、湿式シリカ及びカチオン性樹脂が分散し易い極性溶媒であれば特に制限はない。かかる極性溶媒としては、水が最も好ましい。勿論、水以外にもメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エーテル類、ケトン類などの極性溶媒が使用でき、また、水と上記極性溶媒との混合溶媒も好適に使用できる。
【0024】
尚、シリカ粒子の保存安定性や分散性を向上させるために、本発明の効果を損なわない範囲で、シランカップリング剤等の界面活性剤や防黴剤等を少量添加しても良い。
【0025】
(シリカ分散液)
本発明において、前記湿式シリカを極性溶媒に22重量%以上、特に、24〜35重量%の濃度となるように添加してシリカスラリーが調製される、その結果、得られるカチオン性樹脂変性シリカ分散液中のシリカ濃度は、22重量%以上となる。
【0026】
このように、最終的に得られるカチオン性樹脂変性シリカ分散液のシリカ濃度を22重量%以上とすることによって、塗工層形成材料として使用する際の塗工液中のシリカ濃度を高めることができるので下記の効果がある。
(1)塗工液に添加する他の添加剤の濃度が低くても、ある程度の塗工液濃度を維持することができるので、使用可能な添加剤の選択肢が広がる。
(2)塗工液調製後の塗工において一回の塗工で十分な厚みの塗工層を形成することが可能となる。
(3)塗工後乾燥する際のエネルギー効率が高い。
(4)カチオン性樹脂変性シリカ分散液中のシリカ濃度が高いと物流コストの面から有利である。
【0027】
但し、従来提案されているシリカ分散液においては、上記高濃度に湿式シリカを分散させた状態で、安定性を示すカチオン性樹脂変性シリカ分散液は存在しなかった。これに対して、本発明は、上記特定のBET比表面積を有する湿式シリカを用いたシリカスラリーを、平均粒子径0.2mmφ未満のセラミック製ビーズをメディアとした湿式メディア型粉砕機を使用して、シリカ粒子を1μm以下となるように微粒子化すること、及びその後特定のカチオン性樹脂と混合することによって得られるカチオン性樹脂変性シリカ分散液の安定化を達成したのである。
【0028】
極性溶媒中の湿式シリカ粒子の平均粒子径を1μm以下に微粒化するのに使用できる微粒化装置としては、粉砕メディア相互と被粉砕物との衝撃作用で微粒化粉砕する原理を採用している湿式メディア型粉砕機を使用する。
【0029】
一般に湿式メディア型粉砕機とは、平均粒子径0.01〜3mmφ程度のビーズをメディアとして用いる粉砕機であるが、本発明者らの知見によれば、使用するビーズは、平均粒子径が大きいほど、ビーズの磨耗による不純物の混入が多くなる傾向にある。そして、ビーズ由来による不純物の混入は、微粒化処理後のシリカ分散液の透明性を低下する原因となることが判明した。
したがって、本発明で使用される湿式メディア型粉砕機のメディアは、0.2mmφ未満のビーズであることが必要である。また、上記湿式メディア型粉砕機に使用するビーズは、硬度の観点から、セラミック製であることが必要である。中でも、ジルコニア製であることが好ましい。
湿式メディア型粉砕機の代表例を具体的に例示すると、井上製作所製の商品名;マイティーミル、アイメックス製の商品名;ビスコミル、アシザワ製の商品名;アジテータミル、コトブキ技研工業製の商品名;スーパーアペックスミル、ウルトラアペックスミル及びウィリー・エ・バッコーフェン製の商品名;ダイノーミルなどを挙げることができる。
【0030】
また、湿式メディア型粉砕機の接液部には、ジルコニア又はアルミナを主成分とするセラミック、或いはポリウレタン系又はポリエチレン系の樹脂などシリカに対して磨耗性の高い素材が好ましい。
【0031】
尚、湿式シリカを微粒化する装置としては、湿式メディア型粉砕機の他にも、超音波分散機や高圧ホモジナイザーなどがあるが、実用的ではなく、本発明のシリカ分散液の調製において使用することができない。
【0032】
また、上記シリカ分散液の調製において、シリカ濃度22重量%以上のカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得る途中での増粘・ゲル化を効果的に防止するためには、湿式メディア型粉砕機による微粒化に先立って、シリカスラリーのpHを5未満になるように調整することが好ましい。
【0033】
シリカスラリーのpHを5未満に調整する方法としては、極性溶媒に予め硫酸等の鉱酸を添加してpH調整を行った後、該極性溶媒に湿式シリカを分散する方法、又は湿式シリカと硫酸等の鉱酸を同時に添加して、pH調整を行いながら、極性溶媒に湿式シリカを分散してシリカスラリーを調製する方法が好ましい。
【0034】
上記シリカスラリーのpHを5未満に調整するために使用する分散機は、特に制限されないが、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼等を有する一般攪拌機、ディスパーミキサー等の高速回転遠心放射型攪拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、ウルトラミキサー等の高速回転せん断型攪拌機、コロイドミル、プラネタリーミキサー、吸引式分散機などの分散機、更に、上記の高速回転せん断型撹拌機とプロペラ羽根及びパドル翼を組み合わせた複合型分散機、プラネタリーミキサーと高速回転遠心放射型撹拌機又は高速せん断型撹拌機を組み合わせた複合分散機等が挙げられる。
【0035】
上記シリカ粒子の平均粒子径とは、シリカスラリーを湿式メディア型粉砕機で微粒化処理を行い、シリカ分散液を調製直後(調製後10分以内)に測定した平均粒子径のことである。
【0036】
また、微粒化処理後10分以上の時間が経過すると、シリカ分散液中のシリカ粒子が再凝集し、シリカ粒子の平均粒子径は、見かけ上1μm以上となることもあるが、このような再凝集した場合でも、本発明において使用可能である。
【0037】
尚、本発明において、平均粒子径とは、シリカ分散液中のシリカ凝集粒子の平均粒子径を指しており、光散乱回折式の粒度分布計で測定した時の体積基準算術平均径D50のことである。
【0038】
(カチオン性樹脂)
本発明において、用いられるカチオン性樹脂は、平均分子量が5万未満であり、且つ、コロイド当量値が4.0meq/g以上である環状アンモニウム塩型のカチオン性樹脂であることが保存安定性に優れたカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得るために必要である。
【0039】
上記環状アンモニウム塩型のカチオン性樹脂は、ジアリルアンモニウム塩及びその誘導体を重合して得られる環状アンモニウム塩型のカチオン性樹脂であり、具体例としては、下記の構造式(1)又は構造式(2)で示される繰り返し単位を有するジアリルアンモニウム塩及びその重合体、構造式(1)又は構造式(2)で示される繰り返し単位10〜90モル%とジアリルアンモニウム塩及びその誘導体と共重合可能なモノマーに基づく繰り返し単位90〜10モル%とを有する共重合体を挙げることができる。
【0040】
【化1】

構造式(1)、構造式(2)において、R及びRは、水素原子又はメチル基、エチル基を表す。ジアリルアンモニウム塩及びその誘導体と共重合可能なモノマーに基づく繰り返し単位としては、好ましくは、アクリルアミド、モノアリルアミン塩酸塩に基づく繰り返し単位が挙げられる。
【0041】
本発明において、環状アンモニウム塩型カチオン性樹脂の平均分子量は、5万未満であることが必要である。カチオン性樹脂の平均分子量が5万以上である場合、前述同様、分散液中のシリカ濃度が22重量%以上のカチオン性樹脂変性シリカ分散液を製造すると保存安定性が悪くなる傾向にある。環状アンモニウム塩型カチオン性樹脂の平均分子量は、好ましくは1,000〜45,000、更に好ましくは1,000〜25,000である。
【0042】
尚、本発明において、平均分子量とは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーから求めたポリエチレン換算値である。
【0043】
本発明において、環状アンモニウム塩型カチオン性樹脂のコロイド当量値は、4.0meq/g以上である。カチオン性樹脂のコロイド当量値が4.0meq/g未満であると、前述同様、分散液中のシリカ濃度が22重量%以上のカチオン性樹脂変性シリカ分散液を製造すると保存安定性が悪くなる。環状アンモニウム塩型カチオン性樹脂のコロイド当量値は、好ましくは4.5meq/g以上、更に好ましくは5.0meq/g以上である。
【0044】
尚、本発明において、コロイド当量値とは、コロイド滴定法により求めたカチオン性のコロイド当量値である。
【0045】
本発明において、特に好適なカチオン性樹脂は、平均分子量1,000〜25,000であり、且つ、コロイド当量値が5.0meq/g以上である、上記の構造式(1)又は構造式(2)で示される繰り返し単位を有するジアリルアンモニウム塩及びその誘導体の重合体、構造式(1)又は構造式(2)で示される繰り返し単位10〜90モル%とジアリルアンモニウム塩及びその誘導体と共重合可能なモノマーに基づく繰り返し単位90〜10モル%とを有する共重合体から選定した1種類のカチオン性樹脂、或いは2種類以上を混合したカチオン性樹脂である。
【0046】
(カチオン性樹脂変性シリカ分散液)
前記の方法で得られたシリカ分散液は、次いで、カチオン性樹脂の存在下に分散処理してカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得る。
【0047】
上記シリカ分散液とカチオン性樹脂との混合方法は、特に限定されないが、カチオン性樹脂の水溶液にシリカ分散液を添加して混合する方法が好ましい。また、シリカ分散液とカチオン性樹脂とを混合・分散する手段も特に制限されず、公知の分散機、例えば、高速回転遠心放射型撹拌機、高速回転せん断型撹拌機、コロイドミル、プラネタリーミキサー、吸引式分散機などの一般分散機、高圧ホモジナイザー等の特殊分散機などや、更にこれらの分散機を組み合わせた複合型分散機を使用することができるが、得られるカチオン性樹脂変性シリカ分散液において、シリカ粒子表面にカチオン性樹脂を均一に付着せしめ、より安定性の優れた分散液とするためには、カチオン性樹脂をシリカ表面にメカノケミカル的に均一に付着させることが可能な高圧ホモジナイザーを用いることが推奨される。
【0048】
かかる高圧ホモジナイザーの代表例を具体的に例示すると、ナノマイザー製の商品名;ナノマイザー、マイクロフルイディクス製の商品名;マイクロフルイダイザー、及びスギノマシン製のアルティマイザーなどを挙げることができる。
【0049】
好ましい分散方法を具体的に示せば、シリカスラリーとカチオン性樹脂との混合を前記の一般分散機にて行い、次いで、高圧ホモジナイザーで高分散を行う方法である。この場合、高圧ホモジナイザーの処理圧力は30MPa以上、特に、50〜250MPaで対向衝突させるか、或いはオリフィスの入口側と出口側の差圧が30MPa以上特に、50〜250MPaとなる条件でオリフィスを通過させることが好ましい。
【0050】
一般に、シリカ粒子の平均粒子径が1μm以下のシリカ分散液とカチオン性樹脂との混合液中では、シリカ粒子の再凝集が起こるケースがあり、これを更に強分散しようとすると急激に粘度が上昇した後に、粘度が下降する傾向がある。このように急激に粘性が変化する液に対して、高圧ホモジナイザーは非常に適している。
【0051】
本発明において、カチオン性樹脂変性シリカ分散液におけるカチオン性樹脂の使用量は、カチオン性樹脂変性シリカ分散液が製造途中で増粘・ゲル化することなく安定に製造でき、且つ、得られたカチオン性樹脂変性シリカ分散液の粘度を低くし、且つ、該分散液の保存安定性を良くするために、シリカ100重量部に対して、2〜20重量部、特に2〜15重量部とすることが好ましい。
【0052】
カチオン性樹脂の添加量に対するカチオン性樹脂変性シリカ分散液の粘度及び保存安定性は、添加するカチオン性樹脂の種類により異なるため、予め実験により、該分散液の粘度が低くなり、且つ、保存安定性が一番良くなる最適な添加量を前記添加量の範囲より選択することが好ましい。
【0053】
(その他の条件)
本発明において、カチオン性樹脂変性シリカ分散液の製造途中で増粘・ゲル化などを起こすことなくより安定的に製造するために、いずれの場合も45℃以下、特に20〜40℃の温度範囲に制御することが好ましい。
【0054】
上記温度範囲に制御する方式は特に限定されず、液の組成に影響を与えない公知の冷却手段が特に制限なく採用される。例えば、各分散槽外部へのジャケット式冷却器の設置、各分散槽内部への冷却配管設置、各機器入口又は出口配管部への熱交換器の設置、等の冷却手段を、適宜選択して適用すればよい。
【0055】
(カチオン性樹脂変性シリカ分散液の特徴)
本発明のカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、前術の方法でシリカ分散液を調製し、これを更にカチオン性樹脂の存在下に分散処理することにより、分散した湿式シリカの平均粒子径が300nm以下を達成することができる。これに対して、シリカの平均粒子径が300nmを超える場合、特に、インクジェット用記録紙の塗工層形成材料とした場合、塗工層表面の平滑性が得られず、光沢が不足するといった問題が生じる。即ち、シリカの平均粒子径が300nm以下のカチオン性樹脂変性シリカ分散液をインクジェット用記録紙の塗工層形成材料とした場合、塗工層表面に平滑性が得られ、光沢性が高くなる。
【0056】
カチオン性樹脂変性シリカ分散液のシリカの平均粒子径は、光沢性とインク吸収性を高いレベルで両立させるために、好ましくは60nm〜250nm、より好ましくは60nm〜200nmとなるように前記微粒子化、分散の条件を選択することが好ましい。
【0057】
尚、本発明において、平均粒子径とは、カチオン性樹脂変性シリカ分散液中のシリカ凝集粒子の平均粒子径を指しており、光散乱回折式の粒度分布計で測定した時の体積基準算術平均径D50のことである。
【0058】
このように、カチオン性樹脂変性シリカ分散液中の湿式シリカが、平均粒子径300nm以下に微分散した状態で安定に存在する系は、本発明によって開示された前記一連の方法によって初めて達成されるものである。
【0059】
このように、本発明によって得られたカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、湿式シリカを使用したシリカ分散液において、シリカ濃度が22重量%以上であるのにも関わらず、従来に無い、高い透明性と保存安定性を有している。
【0060】
本発明のカチオン性樹脂変性シリカ分散液の透過率は、20%以上を達成することができ、該分散液を用いて製造した塗工液の透明性が高く、塗工層の透明性を向上することができる。そして、塗工層の透明性が高くなると、塗工層に打ち込まれたインクの濃淡が鮮明となり、得られた画像の色に深みが出て、写真並みの画質を実現することができる。
【0061】
尚、本発明において、透過率とは、カチオン性樹脂変性シリカ分散液と同種の極性溶媒を使用してシリカ濃度が1.5重量%となるように希釈した該液の測定波長700nmの吸光度(τ)を分光光度計により測定し、下記数式(2)により透過率(T)を求めた値である。
【0062】
T(%)=10(2−τ) (2)
また、本発明のカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、高い保存安定性を示すが、保存安定指数は、1.5未満を達成することができる。この高い保存安定性により、本発明のカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、下記のメリットを有する。
(1)カチオン性樹脂変性シリカ分散液を充填した容器、タンク等からの該分散液排出時のハンドリング性が向上する。
(2)カチオン性樹脂変性シリカ分散液の配管輸送等の条件設定が安定して行える。
(3)カチオン性樹脂変性シリカ分散液を用いた塗工液の高粘度化による塗工液の物性変化及び塗工条件の設定が容易となる。
【0063】
本発明において、上記の保存安定性指数は、製造直後のカチオン性樹脂変性シリカ分散液製造の粘度(A(mPa・s)及び室内、25℃の環境下で10日間静置保存した該分散液の粘度(B(mPa・s)を測定し、下記数式(3)によって、保存安定性指数(Δμ)を求めた値である。
【0064】
Δμ=B/A (3)
数式(3)によって算出したΔμが1に近いほど、カチオン性樹脂変性シリカ分散液の粘度変化が少なく、保存安定性が高いといえる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0066】
なお、以下の方法によって、カチオン性樹脂変性シリカ分散液の物性測定を行った。
(1)粘度測定
カチオン性樹脂変性シリカ分散液300gを500ml容器に採取し、30℃の恒温槽に10分間つけた後、B型粘度計(トキメック製、BL)を用いて60rpmの条件でカチオン性樹脂変性シリカ分散液の粘度を測定した。
(2)pH測定
シリカスラリー又はカチオン性樹脂変性シリカ分散液300gを500ml容器に採取し、30℃の恒温槽に10分間つけた後、pHメーター(堀場製作所、F−22)を用いて、シリカスラリー及びカチオン性樹脂変性シリカ分散液のpHを測定した。
(3)平均粒子径の測定
シリカ分散液又はカチオン性樹脂変性シリカ分散液のシリカ濃度が10重量%となるように、該分散液をイオン交換水で希釈した後、光散乱回折式の粒度分布測定装置(コールター製、コールターLS−230)を用いて、体積基準算術平均径D50を測定し、この値を平均粒子径として採用した。
【0067】
但し、シリカ分散液の平均粒子径は、シリカ分散液調製直後(調製後10分以内)に測定した。
【0068】
尚、測定に際しては、水(分散媒)の屈折率1.332及びシリカの屈折率1.458をパラメーターとして入力した。
(4)透過率の測定
カチオン性樹脂変性シリカ分散液のシリカ濃度が1.5重量%となるように、該分散液をイオン交換水で希釈した後、この希釈液の吸光度(τ)を分光光度計(日本分光製、Ubest−35型)を用いて測定し、前述した式(2)により透過率(T)を算出した。本測定において、光路長は10mm、測定波長は700nmとした。
【0069】
実施例1
BET比表面積205m/gの湿式シリカ粉をpH調整剤として2N硫酸を添加したイオン交換水に分散し、シリカ濃度25重量%のシリカスラリーを得た。このシリカスラリーを湿式メディア型粉砕機(コトブキ技研工業製、スーパーアペックスミルSAM−1)を用いて、ビーズ径0.1mmφ、ビーズ充填率85%、ローター周速9.2m/sec、液温度30℃の条件で微粒化処理することにより、シリカ分散液を得た。このシリカ分散液とカチオン性樹脂として平均分子量10,000、コロイド当量値6.0meq/gのジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物水溶液をシリカ100重量部に対してカチオン性樹脂が4重量部となるように混合・分散し、予備混合液を得た。この予備混合液を高圧ホモジナイザー(ナノマイザー製、ナノマイザーLA−31)を用いて処理圧力80MPa、液温度30℃の条件で強分散処理を行うことにより、カチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0070】
実施例2
湿式シリカ粉として、比表面積190m/gの湿式シリカ粉を用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0071】
実施例3
湿式シリカ粉として、比表面積215m/gの湿式シリカ粉を用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0072】
実施例4
カチオン性樹脂として、平均分子量9,000、コロイド当量値6.0meq/gのジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0073】
実施例5
カチオン性樹脂として、平均分子量20,000、コロイド当量値7.1meq/gのジアリルメチルアミン塩酸塩重合物水溶液用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0074】
実施例6
カチオン性樹脂として、平均分子量20,000、コロイド当量値5.9meq/gのジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物水溶液用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0075】
実施例7
カチオン性樹脂として、平均分子量20,000、コロイド当量値6.0meq/gのジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物水溶液用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0076】
実施例8
カチオン性樹脂として、平均分子量40,000、コロイド当量値6.4meq/gのジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物水溶液用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0077】
実施例9
BET比表面積205m/gの湿式シリカ粉と前記湿式シリカ粉の乾燥工程を施す前の水分84%を含む湿式シリカケークをpH調整剤として2N硫酸を添加したイオン交換水に分散し、シリカ濃度25重量%のシリカスラリーを得た。尚、湿式シリカ粉と湿式シリカケークの混合比は、シリカ換算重量比で1:1とした。このシリカスラリーを用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0078】
比較例1
湿式シリカ粉として、BET比表面積280m/gの湿式シリカ粉を用いて、カチオン性樹脂の混合量をシリカ100重量部に対して10重量部とする以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0079】
比較例2
湿式シリカ粉として、BET比表面積130m/gの湿式シリカ粉を用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0080】
比較例3
カチオン性樹脂として、平均分子量52,000、コロイド当量値5.8meq/gのジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0081】
比較例4
カチオン性樹脂として、平均分子量10,000、コロイド当量値2.8meq/gのジアリルジメチルアンモニウムクロライド−マレイン酸共重合物水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0082】
比較例5
カチオン性樹脂として、平均分子量13,000、コロイド当量値14.8meq/gのポリアリルアミン塩酸塩重合物水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0083】
比較例6
カチオン性樹脂として、平均分子量16,000、コロイド当量値2.9meq/gのメタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル−メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド共重合物水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0084】
比較例7
湿式メディア型分散機を用いるシリカスラリーの微粒化条件において、ビーズ径0.3mmφ、ビーズ充填率65%とする以外は、実施例1と同様にしてカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0085】
比較例8
シリカスラリーの微粒化処理によるシリカ分散液の調製を、処理圧力80MPa、液温度30℃の条件で高圧ホモジナイザーを用いて行う以外は、実施例1と同様にしてカチオン変性シリカ分散液を得た。
【0086】
以上の実施例及び比較例で使用した湿式シリカ、及び微粒化処理して得られたシリカ分散液の物性等を表1に、実施例及び比較例で使用したカチオン性樹脂を表2に、実施例及び比較例で得られたカチオン性樹脂変性シリカ分散液の物性を表3に示した。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

実施例1〜9で得られたカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、いずれも平均粒子径が300nm以下であり、シリカ濃度も22重量%以上でありながら、粘度的にも良好な保存安定性を有しており、透明性も高いことがわかる。
【0090】
これに対し、比較例1及び3〜6で得られたカチオン性樹脂変性シリカ分散液は保存安定性が悪く、中にはゲル化するものもあった。また、比較例2及び7、8で得られたカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、透明性が低く、又は平均粒子径も大きなことから、カチオン性樹脂変性シリカ分散液として、性能が不十分であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、インクジェット用記録紙をはじめ、フィルム・樹脂・ガラス・金属等にガスバリヤ性、耐食性、親水性、光沢性、吸液性、絶縁性等を付与するための各種コーティング剤や半導体ウェハーやIC研磨剤、エマルジョンの安定化剤等の材料として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶媒に22重量%以上の濃度で、BET比表面積170〜230m/gの湿式シリカを添加したシリカスラリーを、平均粒子径0.2mmφ未満のセラミック製ビーズをメディアとして使用した湿式メディア型粉砕機により該湿式シリカ粒子の平均粒子径が1μm以下となるように微粒化した後、平均分子量が5万未満であり、且つ、コロイド当量値が4.0meq/g以上である環状アンモニウム塩型のカチオン性樹脂の存在下に分散処理することによって得られた、シリカ粒子の平均粒子径が300nm以下のカチオン性樹脂変性シリカ分散液。
【請求項2】
分散処理が、高圧ホモジナイザーを使用することによって行われる請求項1記載のカチオン性樹脂変性シリカ分散液。
【請求項3】
シリカスラリーが、そのpHが5未満となるように、予め極性溶媒のpHを調整した後、該極性溶媒中に湿式シリカを分散して得られたものである請求項1又は2のいずれか一項に記載のカチオン性樹脂変性シリカ分散液。
【請求項4】
極性溶媒への湿式シリカの添加が、湿式シリカケークを添加した後に、湿式シリカ粉を添加することによって行われる請求項1〜3のいずれか一項に記載のカチオン性樹脂変性シリカ分散液。

【公開番号】特開2006−69870(P2006−69870A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258136(P2004−258136)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】