説明

カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法

【課題】 カチオン性樹脂と混合して変性された乾式シリカ分散液にあって、他の添加物、特に、高分子バインダーとの混合時の安定性に優れたカチオン性樹脂変性乾式シリカを工業的に有利な短期間での製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 乾式シリカとカチオン性樹脂の水を媒体とする分散液を得た後、熟成を行い、次いで、該分散液にアルコールを添加することを特徴とするカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法であり、ポリビニルアルコールを添加した前後の粘度の増大比が、極めて小さいカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得ることが可能であり、特に、塗工液として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液に関する。詳しくは、カチオン性樹脂と混合して変性された乾式シリカ分散液にあって、他の添加物、特に、高分子バインダーとの混合時の安定性に優れたカチオン性樹脂変性乾式シリカの製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
シリカ分散液は、インクジェット用記録紙におけるインクの受容のための塗工層の形成用材料として、また、フィルム・樹脂・ガラス・金属等の表面にガスバリヤ性、耐食性、親水性、光沢性、吸液性、絶縁性等を付与するための各種コーティング剤や半導体ウェハーやIC研磨剤、エマルジョンの安定化剤等の調製に使用されている。
【0003】
特に、インクジェット用記録紙における塗工層形成用材料としてシリカ分散液を使用することについては多くの研究が行われており、湿式シリカや乾式シリカなどのシリカを使用したシリカ分散液が提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0004】
上記用途において、インクジェット用のインクとしては、一般に、アニオン性の化合物が使われることが多いため、インクジェット用記録紙では、上記の塗工層を形成するための材料である塗工液は、カチオン性を呈している方が、該インクを印刷した場合の画像濃度及び耐水性向上のために有利である。
【0005】
従って、上記塗工液としての用途に使用するシリカ分散液は、シリカの表面を第4級アンモニウム塩基等のカチオン性基を含むカチオン性樹脂によって処理したものが使用されている(例えば、特許文献4、5参照)。
【0006】
また、近年では、パソコンとデジタルカメラの一般家庭への普及に伴い、写真並みの画質が得られるインクジェット用記録紙が求められるようになり、前述の耐水性、インク吸収性に加えて、光沢性においても、改良の要求が高まりつつある。
【0007】
このような背景下において、四塩化珪素などのシラン系ガスを酸水素炎中で燃焼して得られる乾式シリカは、前記分散液において微細な分散が容易であるため、塗工層表面の平滑性を向上して、優れた光沢性を目的とし、上記乾式シリカ分散液を使用した塗工液が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【0008】
ところが、乾式シリカを水中に分散した直後の乾式シリカスラリーとポリビニルアルコールとを混合して得られた塗工液の場合、調製後の塗工液の粘度が著しく上昇することにより、ハンドリング性が極端に低下し、塗工に支障を来たすという問題を有する。
【0009】
上記粘度の上昇を回避するための手段として、その機構は明らかではないが、乾式シリカスラリーを放置する処理、いわゆる「熟成」を行う方法が提案されている(例えば、特許文献7、8参照)。
【0010】
しかしながら、上記乾式シリカが、特に150m/g以上という比較的高い比表面積を有する場合、或いは、有機バインダーとして、重合度が高く、且つ、ケン化度が低いポリビニルアルコールを使用した場合、上記「熟成」により粘度の上昇を効果的に抑えるためには、1カ月以上という長期間の熟成を必要とし、工業的でないばかりか、十分な効果は得られず、また、工業的に有利な短期間の熟成を実行しようとした場合には、有機バインダーとの混合後の塗工液の粘度が著しく上昇するといった問題を有する。
【0011】
【特許文献1】特開昭55−51583号公報
【特許文献2】特開昭56−148583号公報
【特許文献3】特開昭60−204390号公報
【特許文献4】特開昭61−43593号公報
【特許文献5】特開昭62−268682号公報
【特許文献6】特開昭59−185690号公報
【特許文献7】特開2004−67912号公報
【特許文献8】特開2004−255596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、乾式シリカとカチオン性樹脂を水に分散したシリカ分散液において、他の添加物、特に、高分子バインダーとの混合時の安定性に優れたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法において、カチオン性樹脂と乾式シリカとの分散液の熟成が進行した後に、アルコールを添加することによって、分散液の熟成時間が短くても、他の添加物、特に、高分子バインダーとの混合時の安定性に優れた分散液を得ることができ、かかる課題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、乾式シリカとカチオン性樹脂の水を媒体とする分散液を得た後、熟成を行い、次いで、該分散液にアルコールを添加することを特徴とするカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、上記方法によって得られたカチオン性樹脂変性シリカ分散液であって、ケン化度88.0mol%、重合度2000のポリビニルアルコールを、シリカ100重量部に対して25重量部添加した直後と24時間後との粘度増大比が、2倍以下であるカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を提供する。
【0016】
更に、本発明は、上記カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液と有機バインダーとからなることを特徴とするインクジェット記録シート用塗工液をも提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法によれば、カチオン性樹脂とシリカとの分散液の熟成を行い、次いで、アルコールを添加することにより、有機バインダーのような添加剤と混合しても粘度の著しい増大の無い、安定したカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を、短時間で得ることができるため、インクジェット用記録紙の塗工液を調製するための原料として好適に使用することができる。
【0018】
また、上記安定性を活用して、フィルム・樹脂・ガラス・金属等の表面にガスバリヤ性、耐食性、親水性、光沢性、吸液性、絶縁性等を付与するための各種コーティング剤や半導体ウェハーやIC研磨剤、エマルジョンの安定化剤等の用途にも幅広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(乾式シリカ)
本発明に用いられる乾式シリカは、四塩化珪素などのシラン系ガスを酸水素炎中で燃焼させて得られるものであり、「ヒュームドシリカ」とも称されている。一般に、乾式シリカは、比表面積が30〜500m/gの範囲のものが入手可能であり、特に制限なく使用される。
【0020】
後述の分散液を使用して本発明の方法によって得られるカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液は、原料として使用する乾式シリカの比表面積が高いほど効果が顕著であり、かかる乾式シリカの比表面積は、150〜400m/gの範囲にあるものに対して効果的である。
【0021】
(カチオン性樹脂)
本発明において用いられるカチオン性樹脂は、公知のカチオン性樹脂であって、水に溶解したときに解離してカチオン性を呈する樹脂であれば特に制限されない。
【0022】
具体的なものを例示すると、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリアミンスルホン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合物、ジシアンジアミドポリアルキル−ポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の化合物及びこれらの塩酸塩、更にポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミド等との共重合物、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、ポリメタクリル酸エステルメチルクロライド4級塩等を挙げることができる。その中でも、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液中のシリカ粒子の分散性及び保存安定性の観点から、第1〜3級アミン基又は第4級アンモニウム塩基を有する樹脂が好ましく、更に好ましくはジアリルアミン誘導体の環状アンモニウム塩型のカチオン性樹脂である。
【0023】
本発明において、カチオン性樹脂の平均分子量は、得られるカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の保存安定性の観点から、50000以下が好ましく、更に好ましくは、1000〜45000である。
【0024】
尚、上記平均分子量とは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーから求めたポリエチレン換算値である。
【0025】
(分散液)
本発明において、熟成前の分散液のシリカの平均粒子径は、500nm未満であることが好ましい。即ち、シリカの平均粒径が500nm以上の場合、インクジェット用記録紙の塗工液の原料とした場合、塗工層の表面の平滑性が得られず、光沢が不足する傾向がある。
【0026】
上記分散液中のシリカの平均粒子径は、得られるカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を使用して形成される塗工層において、光沢性とインク吸収性を高いレベルで両立させるため、特に、50nm〜400nm、好ましくは50nm〜200nmが推奨される。上記粒径は、熟成後においても、殆んど変化しない。
【0027】
尚、本発明において、分散液の保存安定性や分散性を向上させるために、本発明の効果を損なわない範囲で、シランカップリング剤等の界面活性剤や防カビ剤等を少量添加しても良い。
【0028】
(分散液の製造方法)
本発明において、分散液は、水媒体中に、乾式シリカとカチオン性樹脂とが均一に分散していれば良いが、乾式シリカをできるだけ高分散させるために、下記の工程によって得られたものが好適に使用される。
【0029】
即ち、水媒体中に乾式シリカ及びカチオン性樹脂を予備分散させた後、該予備分散液を微粒化する方法が好ましい。具体的には、予備分散液の調製は、水媒体中にカチオン性樹脂を混合した溶液に、乾式シリカ粉を直接添加し、混合・分散する方法、水媒体中に乾式シリカ粉を添加し、分散した後に、カチオン性樹脂を混合・分散する方法、シリカ粒子及びカチオン性樹脂をそれぞれ水媒体に分散した液を混合・分散する方法などが挙げられる。
【0030】
上記の予備分散に用いる分散機は特に制限されないが、具体的には、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼等を有する一般攪拌機、ディスパーミキサー等の高速回転遠心放射型攪拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、ウルトラミキサー等の高速回転せん断型攪拌機、コロイドミル、プラネタリーミキサー、吸引式分散機などの分散機、更に、上記高速回転せん断型撹拌機とプロペラ羽根及びパドル翼を組み合わせた複合型分散機、プラネタリーミキサーと高速回転遠心放射型撹拌機又は高速せん断型撹拌機を組み合わせた複合型分散機等が挙げられる。
【0031】
また、上記の方法によって得られた予備混合液を微粒化する方法は、特に制限されず、公知の微粒化装置を使用した方法が採用される。具体的には、サンドミル、ビーズミル等の湿式メディア型分散機、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を使用した微粒化方法が挙げられる。
(分散液中の乾式シリカの添加量)
本発明において、分散液中の好適な乾式シリカの濃度は、10〜30重量%、好ましくは、18〜30重量%である。即ち、乾式シリカの濃度が上記範囲より低すぎる場合は、本発明の効果を顕著に確認することが困難となり、また、上記範囲を超える場合は、相対的な粘度が高くなり過ぎることにより、工業的に使用することが困難となる。
【0032】
(分散液中のカチオン性樹脂の添加量)
本発明において、カチオン性樹脂の添加量は、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液が、増粘・ゲル化することなく安定に製造でき、且つ、得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の粘度を低くし、且つ、該分散液の保存安定性を良くするために、シリカ100重量部に対して、2〜20重量部、特に2〜15重量部とすることが好ましい。
【0033】
カチオン性樹脂の添加量に対するカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の粘度及び保存安定性は、添加するカチオン性樹脂の種類により多少異なるため、予め実験により、前記添加量の範囲より最適な添加量を選択することが好ましい。
【0034】
(熟成)
本発明において、前記乾式シリカとカチオン性樹脂の水を媒体とする分散液の熟成は、該分散液を放置する処理を全て包含するが、好適な方法としては、20〜100℃の温度範囲で放置する方法を挙げることができる。
【0035】
即ち、熟成温度を20℃以上とすることによって、熟成を短時間で終了させることができ、製造効率が向上する。一方、熟成温度を100℃以下にすることによって、乾式シリカの部分的な乾燥による粗粒の発生を防止することができ、シリカ粒子が微分散したカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得ることが容易となる。
【0036】
尚、上記放置は、特別な装置を使用する必要はなく、室内温度を上記温度に維持した保管庫内で保存することによって行うことができる。
【0037】
また、貯蔵用容器中で、上記温度に保持することによっても行うことができる。大型容器で保存する場合には、保存容器内のカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の温度を均一にするため、攪拌可能にしておくことが好ましい。
【0038】
更に、高温で熟成する場合には、乾式シリカの部分的な乾燥による粗粒の発生を防止するため、水の気化による気散を防止する対策、例えば、密封容器・加圧容器の使用や容器へのコンデンサーを採用することが好ましい。
【0039】
(アルコールの添加)
本発明において、上記の分散により得られた分散液に対して熟成を行い、その後に、アルコールと混合することが極めて重要である。
【0040】
即ち、従来、乾式シリカを高濃度で水に分散させる際、分散液の粘度を低下させる目的で、アルコールを添加することは実施されていたが、後述する比較例より明らかなように、有機バインダーの添加における粘度の上昇を防止する効果は発揮されず、得られた分散液を前記有機バインダーと混合した際に、粘度が著しく上昇する。これに対して、本発明の方法は、熟成を経た分散液に対してアルコールを添加することによって、前記有機バインダーと混合した際の粘度の上昇を極めて効果的に防止することができる。
【0041】
尚、本発明において、アルコールの添加は、熟成が進行した後に実施することが重要であり、分散液を製造する当初からアルコールを添加することを妨げるものではない。即ち、このように当初からアルコールが存在する場合においても、熟成が進行してからアルコールを添加すれば、本発明の効果を享受することができ、本発明は、かかる態様も包含するものである。
【0042】
但し、分散液を製造する当初からアルコールを添加した場合、熟成の効果が得られるまでの時間が延長され、製造時間の延長を招く傾向がある。
【0043】
本発明において、前記熟成を行い、次いで、アルコールの添加が行われるが、かかる分散液へのアルコールの添加は、下記の最短熟成時間(t:時間)を経た後に行うことが、熟成とアルコール添加による効果とが相乗的に作用し、短時間で且つ安定したカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得ることができ好ましい。
【0044】
t=680S/T (1)
(式中、Tは熟成温度(℃)、Sは原料乾式シリカの比表面積(m/g)を表す。) また、上記熟成時間に上限は無く、熟成時間を長くするほど本発明の効果は増大する。しかしながら、本発明の目的である熟成時間の短縮、及びそれによる製造効率の観点から、熟成時間を上記最短熟成時間の10倍以下、特に5倍以下とすることが好ましい。
【0045】
勿論、上記アルコールの添加後に、更に熟成を行っても構わない。
【0046】
(アルコール)
本発明において用いられるアルコールは、炭化水素の水素原子を水酸基で置換した公知の第1〜3級アルコールであれば特に制限されない。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール、及び飲用に転用されることを防止するために、エチルアルコールに変性剤を添加した変性エタノール等を挙げることができる。
【0047】
上記アルコールは炭素数が多いほど、塗工液粘度低減効果が高い傾向にあるが、炭素数5以上のアルコールは、水に溶けにくくなるか、水に不溶となるので好ましくない。
【0048】
(アルコールの添加方法)
熟成したシリカ分散液とアルコールを混合する方法は特に制限なく、公知の混合装置を使用して混合する方法が挙げられる。具体的には、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼等を有する一般攪拌機、ディスパーミキサー等の高速回転遠心放射型攪拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、ウルトラミキサー等の高速回転せん断型攪拌機、コロイドミル、プラネタリーミキサー、吸引式分散機などの分散機、更に、上記の高速回転せん断型撹拌機とプロペラ羽根及びパドル翼を組み合わせた複合型分散機、プラネタリーミキサーと高速回転遠心放射型撹拌機又は高速せん断型撹拌機を組み合わせた複合分散機等が挙げられる。
【0049】
本発明において、アルコールの添加量は、アルコール添加による塗工液安定性及び、製造コストの観点から、アルコール添加前のシリカ分散液100重量部に対して2〜10重量部が好ましく、更に好ましくは3〜6重量部である。
【0050】
(その他の条件)
本発明において、変性乾式シリカ分散液の製造途中で増粘・ゲル化などを起こすことなくより安定的に製造するために、熟成工程を除き、45℃以下、特に20〜40℃の温度範囲に制御することが好ましい。
【0051】
上記温度範囲に制御する方式は特に限定されず、液の組成に影響を与えない公知の冷却手段が特に制限なく採用される。例えば、各分散槽外部へのジャケット式冷却器の設置、各分散槽内部への冷却配管設置、各機器入口又は出口配管部への熱交換器の設置、等の冷却手段を、適宜選択して適用すればよい。
【0052】
(インクジェット記録シート用塗工液)
本発明のインクジェット記録シート用塗工液は、上記カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液と有機バインダーを混合することにより得ることができる。本発明において使用する有機バインダーは、塗工液の調製に使用される公知の各種のバインダーを用いることができる。代表的なバインダーを具体的に示せば、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ガゼイン、でんぷん、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。また、上記バインダーを2種類以上混合したバインダーも使用可能である。
【0053】
上記の有機バインダーのうち、分散適性、塗料安定性の観点からポリビニルアルコール又はその誘導体が最も有効である。上記のポリビニルアルコール誘導体としては、カチオン変性ポリビニルアルコール、ノニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0054】
本発明の方法によって得られるカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液は、後述の塗工液の形成において、有機バインダーとして、重合度が1500以上、且つ、ケン化度が90モル%以下の部分ケン化ポリビニルアルコールを使用した場合、その効果が顕著となる。
【0055】
本発明のカチオン性樹脂変性シリカ分散液において、乾式シリカに対する有機バインダーの配合割合は、公知の塗工液において一般に採用される割合が特に制限なく採用される。例えば、配合割合は、乾式シリカ100重量部に対して5〜100重量部、好ましくは、10〜50重量部である。
【0056】
(その他の添加剤)
本発明のインクジェット記録シート用塗工液は、本発明の効果を著しく低下させない範囲で、公知の任意の添加剤を配合することができる。代表的な添加剤を例示すれば、インク定着剤、硬膜剤、蛍光増白剤、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防カビ剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。尚、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性測定は以下の方法によって行った。
【0058】
(1)粘度測定
カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液、及び塗工液300gを500ml容器に採取し、30℃の恒温槽に10分間つけた後、B型粘度計(トキメック製、BL)を用いて60rpmの条件でカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液及び塗工液の粘度を測定した。
【0059】
(2)平均粒子径の測定
カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液のシリカ濃度が10重量%となるように、該分散液をイオン交換水で希釈した後、光散乱回折式の粒度分布測定装置(コールター製、コールターLS−230)を用いて、体積基準算術平均径D50を測定し、この値を平均粒子径として採用した。
【0060】
尚、測定に際しては、水(分散媒)の屈折率1.332及びシリカの屈折率1.458をパラメーターとして入力した。
【0061】
(シリカ分散液Aの調製)
比表面積が300m/gのヒュームドシリカ(トクヤマ製、レオロシールQS−30)を純水に徐々に添加しながら、液温度を30℃に維持して、ウルトラミキサー(みづほ工業製、ウルトラミキサーLR−2)で分散することにより、シリカ濃度21重量%の乾式シリカスラリーを得た。この乾式シリカスラリーと分子量1万のジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物水溶液をシリカ100重量部に対してカチオン性樹脂が5重量部となるように混合・分散し、予備混合液を得た。尚、予備混合中の液温度は30℃を維持した。この予備混合液を高圧ホモジナイザー(ナノマイザー製、ナノマイザー、LA−31)を用いて処理圧力80MPaの条件で微粒化処理することによりシリカ分散液を得た。以下、シリカ分散液Aと表現する。
【0062】
(シリカ分散液Bの調製)
比表面積が220m/gのヒュームドシリカ(トクヤマ製、レオロシールQS−20)を純水に徐々に添加しながら、液温度を30℃に維持して、ウルトラミキサー(みづほ工業製、ウルトラミキサーLR−2)で分散することにより、シリカ濃度21重量%の乾式シリカスラリーを得た。この乾式シリカスラリーと分子量1万のジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物水溶液をシリカ100重量部に対してカチオン性樹脂が5重量部となるように混合・分散し、予備混合液を得た。尚、予備混合中の液温度は30℃を維持した。この予備混合液を高圧ホモジナイザー(ナノマイザー製、ナノマイザー、LA−31)を用いて処理圧力80MPaの条件で微粒化処理することによりシリカ分散液を得た。以下、シリカ分散液Bと表現する。
【0063】
(シリカ分散液Cの調製)
比表面積が220m/gのヒュームドシリカ(トクヤマ製、レオロシールQS−20)を純水に徐々に添加しながら、液温度を30℃に維持して、ウルトラミキサー(みづほ工業製、ウルトラミキサーLR−2)で分散することにより、シリカ濃度26重量%の乾式シリカスラリーを得た。この乾式シリカスラリーと分子量1万のジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物水溶液をシリカ100重量部に対してカチオン性樹脂が5重量部となるように混合・分散し、予備混合液を得た。尚、予備混合中の液温度は30℃を維持した。この予備混合液を高圧ホモジナイザー(ナノマイザー製、ナノマイザー、LA−31)を用いて処理圧力80MPaの条件で微粒化処理することによりシリカ分散液を得た。以下、シリカ分散液Cと表現する。
【0064】
(シリカ分散液Dの調製)
比表面積が140m/gのヒュームドシリカ(トクヤマ製、レオロシールQS−10)を純水に徐々に添加しながら、液温度を30℃に維持して、ウルトラミキサー(みづほ工業製、ウルトラミキサーLR−2)で分散することにより、シリカ濃度21重量%の乾式シリカスラリーを得た。この乾式シリカスラリーと分子量1万のジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物水溶液をシリカ100重量部に対してカチオン性樹脂が5重量部となるように混合・分散し、予備混合液を得た。尚、予備混合中の液温度は30℃を維持した。この予備混合液を高圧ホモジナイザー(ナノマイザー製、ナノマイザー、LA−31)を用いて処理圧力80MPaの条件で微粒化処理することによりシリカ分散液を得た。以下、シリカ分散液Dと表現する。
【0065】
(シリカ分散液Eの調製)
比表面積が90m/gのヒュームドシリカ(トクヤマ製、レオロシールQS−09)を純水に徐々に添加しながら、液温度を30℃に維持して、ウルトラミキサー(みづほ工業製、ウルトラミキサーLR−2)で分散することにより、シリカ濃度21重量%の乾式シリカスラリーを得た。この乾式シリカスラリーと分子量1万のジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合物水溶液をシリカ100重量部に対してカチオン性樹脂が5重量部となるように混合・分散し、予備混合液を得た。尚、予備混合中の液温度は30℃を維持した。この予備混合液を高圧ホモジナイザー(ナノマイザー製、ナノマイザー、LA−31)を用いて処理圧力80MPaの条件で微粒化処理することによりシリカ分散液を得た。以下、シリカ分散液Eと表現する。
【0066】
(シリカ分散液Fの調製)
カチオン性樹脂として、分子量5,000のジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物水溶液を用いる以外は、シリカ分散液Aの調製方法と同様にして、シリカ分散液Fを得た。
【0067】
(シリカ分散液Gの調製)
ヒュームドシリカとして、比表面積が90m/gのヒュームドシリカ(トクヤマ製、レオロシールQS−09)を用いる以外は、シリカ分散液Fの調製方法と同様にして、シリカ分散液Gを得た。
【0068】
(シリカ分散液Hの調製)
乾式シリカスラリー中のシリカ濃度を26重量%とする以外は、シリカ分散液Fの調製方法と同様にして、シリカ分散液Hを得た。
【0069】
(シリカ分散液Iの調製)
乾式シリカスラリー中のシリカ濃度を26重量%とする以外は、シリカ分散液Gの調製方法と同様にして、シリカ分散液Iを得た。
【0070】
(塗工液の調製)
実施例及び比較例で得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液と重合度2000、ケン化度88.0mol%のポリビニルアルコール(クラレ製、PVA220)をシリカ100重量部に対してポリビニルアルコールが25重量部となるように混合し、塗工液を得た。
【0071】
実施例1〜6、比較例1〜2
シリカ分散液A〜Eを表1に示す熟成条件で熟成したシリカ分散液と変性エタノール(エタノール85.5重量%、メタノール4.9重量%、n−プロパノール9.6重量%)をシリカ分散液100重量部に対して5重量部となるように混合し、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表1に示した。
【0072】
比較例3〜4
調製直後のシリカ分散液A〜Bと純水をシリカ分散液100重量部に対して5重量部となるように混合してカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表1に示した。
【0073】
比較例5〜8
シリカ分散液A〜Cを表1に示す熟成条件で熟成したシリカ分散液と純水をシリカ分散液100重量部に対して5重量部となるように混合し、変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表1に示した。
【0074】
比較例9〜11
調製直後のシリカ分散液A、Cと変性エタノール(エタノール85.5重量%、メタノール4.9重量%、n−プロパノール9.6重量%)を、シリカ分散液100重量部に対して5重量部となるように混合した後、表1に示す熟成条件で熟成し、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表1に示した。
【0075】
実施例7
調製直後のシリカ分散液Aと変性エタノール(エタノール85.5重量%、メタノール4.9重量%、n−プロパノール9.6重量%)を、シリカ分散液100重量部に対して2.5重量部となるように混合した後、表1に示す熟成条件で熟成し、更に変性エタノールを2.5重量部混合してカチオン性樹脂変性シリカ分散液を得た。
【0076】
実施例8〜11
シリカ分散液F〜Iを表2に示す熟成条件で熟成したシリカ分散液と変性エタノール(エタノール85.5重量%、メタノール4.9重量%、n−プロパノール9.6重量%)をシリカ分散液100重量部に対して5重量部となるように混合し、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表2に示した。
【0077】
実施例12〜15
シリカ分散液A、B、D、Eを表2に示す熟成条件で熟成したシリカ分散液と変性エタノール(エタノール85.5重量%、メタノール4.9重量%、n−プロパノール9.6重量%)をシリカ分散液100重量部に対して5重量部となるように混合し、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表2に示した。
【0078】
比較例12〜14
シリカ分散液A、F、Hを表2に示す熟成条件で熟成したシリカ分散液と純水をシリカ分散液100重量部に対して5重量部となるように混合し、カチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表2に示した。
【0079】
実施例16
シリカ分散液Aを表2に示す熟成条件で熟成したシリカ分散液とエチルアルコールをシリカ分散液100重量部に対して5重量部となるように混合し、カチオン樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表2に示した。
【0080】
実施例17
アルコールをn−プロピルアルコールとする以外は、実施例16と同様にして、カチオン樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表2に示した。
【0081】
実施例18
アルコールをn−ブチルアルコールとする以外は、実施例16と同様にして、カチオン樹脂変性乾式シリカ分散液を得た。得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の物性を表2に示した。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
実施例で得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を用いた塗工液は、比較例で得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を用いた塗工液と比較して、塗工液粘度低減効果が大きいことがわかる。また、原料シリカの比表面積が大きいほど、及びシリカ分散液中のシリカ濃度が高いほど、塗工液粘度低減効果が大きいこともわかる。更に、実施例で得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液を用いた塗工液は、何れも粘度の増大比が2以下に抑えられており、安定性の高い塗工液であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式シリカとカチオン性樹脂の水を媒体とする分散液を得た後、熟成を行い、次いで、該分散液にアルコールを添加することを特徴とするカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法。
【請求項2】
乾式シリカ濃度が、10〜30重量%である請求項1記載のカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法。
【請求項3】
乾式シリカの比表面積が、150〜400m/gである請求項1記載のカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法。
【請求項4】
乾式シリカとカチオン性樹脂の水を媒体とする分散液へのアルコールの添加を、少なくとも下記式(1)より算出される最短熟成時間(t:時間)を経た後に行う請求項1記載のカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液の製造方法。
t=680S/T (1)
(式中、Tは熟成温度(℃)、Sは原料乾式シリカの比表面積(m/g)を表す。)
【請求項5】
請求項1記載の方法によって得られたカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液であって、ケン化度88.0mol%、重合度2000のポリビニルアルコールを、シリカ100重量部に対して25重量部添加した直後と24時間後との粘度増大比が、2倍以下であるカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液。
【請求項6】
請求項5記載のカチオン性樹脂変性乾式シリカ分散液と有機バインダーとからなることを特徴とするインクジェット記録シート用塗工液。
【請求項7】
有機バインダーが、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項6記載のインクジェット記録シート用塗工液。

【公開番号】特開2007−56240(P2007−56240A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84675(P2006−84675)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】