説明

カチオン性電着塗料組成物

【課題】
環境負荷およびコスト低減型の非リン酸塩系処理皮膜上において、電着塗装作業性は維持したまま、従来のリン酸塩化成処理皮膜上への電着塗装と同等のつきまわり性を確保し、さらには優れた防錆性を発揮するカチオン性電着塗料組成物を提供する。
【解決手段】
(A)エポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)乳酸と遷移金属から得られる金属塩を含有することを特徴とするカチオン性電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷、コスト負荷の少ない自動車鋼板処理の一つである金属酸化皮膜に代表される非リン酸塩の処理皮膜上において、優れたつきまわり性および防錆性を発揮しうるカチオン性電着塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、自動車車体およびその部品、電気器具等の袋部構造を有する部材に対して、エアースプレー塗装や静電スプレー塗装と比較して、つきまわり性に優れ、また環境汚染も少ないことから、プライマー塗装として広く実用化されるに至っている。この電着塗料の優れたつきまわり性、防錆性を発揮させるために、鋼板の下地処理としてリン酸塩化成処理を施すことが一般的に行われている。
【0003】
一方で、リン酸塩化成処理は、その処理前において、脱脂工程、水洗工程、表面調整工程が、処理後において、水洗工程、乾燥工程などが必要であり、その工程数は非常に多く、煩雑でコスト負担となっている。また、リン酸塩化成処理には処理液の継続的管理が必要であるばかりでなく、スラッジ処理、排水処理などの環境負荷の大きさも問題とされている。
【0004】
そこで、近年、環境負荷低減、前処理工程数削減を主目的に自動車鋼板におけるリン酸塩化成処理の代替処理皮膜検討が行われてきている。例えば、特許文献1および2には、ジルコニウムイオン、チタンイオンおよびフッ素イオンを含む金属化成処理剤によって鋼板表面を処理する方法が提案されている。また、特許文献3には、ジルコニウム化合物、チタン化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物およびストロンチウム化合物を含む水系表面処理液にて電解処理する表面処理方法が提案されている。また、特許文献4には、希土類金属化合物の硝酸塩を含む処理組成物中で電解処理することにより連続皮膜を形成する方法が提案されている。さらに、特許文献5には、チタン化合物を含む下地処理剤が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの特許文献の表面処理皮膜上においては、従来からのリン酸塩化成処理と比較して、電着塗装時に膜抵抗がつきにくく、その結果、自動車車体外板の膜厚が増大することで、内板の膜厚が低下し、つきまわり性が低下するという問題がある。特許文献1および5には、エポキシ系カチオン電着塗装の記述があるが、つきまわり性向上に関する特別な工夫はなく、そのため、現在までに一部の部品用にしか採用されておらず、複雑な形状を持つ自動車車体等への展開を阻む一因となっている。
【0006】
また、特許文献6には、化学式ZrO(C2n−1で表される有機酸のジルコニウム塩を含有する電着塗料組成物が提案されているが、これはひとえに防錆性の向上、特に無処理鋼板の防錆性を向上させる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−43913号公報
【特許文献2】特開2006−219691号公報
【特許文献3】特開2004−190121号公報
【特許文献4】特開2007−238998号公報
【特許文献5】特開2002−275691号公報
【特許文献6】特開2009−46628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題を解消するために創案されたものであり、その目的は、環境負荷およびコスト低減型の非リン酸塩系処理皮膜上において、電着塗装作業性は維持したまま、従来のリン酸塩化成処理皮膜上への電着塗装と同等のつきまわり性を確保し、さらには優れた防錆性を発揮するカチオン性電着塗料組成物を提供することにある。
【0009】
電着塗装時におけるつきまわり性を支配する大きな因子の一つに、析出塗膜の速やかな膜抵抗上昇が挙げられる。従来のリン酸塩化成処理皮膜上では、素材上に緻密に配列される非導電性のリン酸塩の結晶粒子の整流効果により通電点が細分化されることで、析出塗膜の素材被覆が速やかに進行し、塗膜抵抗を発現する。一方、そのような無機結晶粒子のない非リン酸塩系表面処理皮膜上では、整流効果が働かないために、通電点が疎らになり、塗膜抵抗の発現が遅れることになる。その結果、外板部分の膜厚が増大し、そこに電流が集中することで内板部分への電流到達が遅れ、内板部は逆に膜厚が減少することになる。本発明は、このような問題を克服し、非リン酸塩系処理皮膜上において、つきまわり性を向上させることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(3)の構成を有するものである。
(1)(A)エポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)乳酸と遷移金属から得られる金属塩を含有することを特徴とするカチオン性電着塗料組成物。
(2)(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)のエポキシ樹脂が、ポリオールのグリシジルエーテルと2価フェノールのグリシジルエーテルと2価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂であることを特徴とする(1)に記載のカチオン性電着塗料組成物。
(3)(C)金属塩を構成する遷移金属が、ジルコニウムまたはチタンであることを特徴とする(1)または(2)に記載のカチオン性電着塗料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカチオン性電着塗料組成物によれば、従来のリン酸塩化成処理皮膜上だけでなく、環境およびコスト負荷低減効果の高い非リン酸塩系処理皮膜上においても良好なつきまわり性を発現させることができる。従って、自動車車体のような複雑な袋構造部を有する形状のものに関しても、この非リン酸塩系表面処理を実施することが可能となる。
【0012】
上記のような効果が得られる理由は、塗膜抵抗が発現しにくい非リン酸塩系処理皮膜上においても、乳酸と遷移金属から得られる金属塩の作用で、析出した電着塗膜を緻密化させ、塗膜抵抗の発現を促進し、外板部の塗膜形成を早め、袋構造内板部まで電流を素早く到達させることで達成できたためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】つきまわり性評価用の箱状構造物を組み立てるパネルである。
【図2】つきまわり性評価用の箱状構造物の一例を示す斜視図である。
【図3】つきまわり性評価用の箱状構造物の一例を示す側面図である。
【図4】つきまわり性評価のための塗装方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)乳酸と遷移金属から得られる金属塩を含有することを特徴とする。
【0015】
[(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)]
本発明における(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)は、1分子中にエポキシ基を少なくとも1個、好ましくは2個以上有するエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したものである。
【0016】
アミンを反応させる前のエポキシ樹脂については、好ましくは平均して1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であり、そのエポキシ当量は400〜3000、特に500〜1500が好ましい。エポキシ樹脂を構成する主成分は、2価フェノールのグリシジルエーテルである。2価フェノールとしては、レゾルシン、ハイドロキノン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニール等を挙げることができるが、特に好ましくは2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、いわゆるビスフェノールAである。
【0017】
また、より好ましくは、ポリオール、ポリアルキレンポリオール、ポリアルキルフェノール等のグリシジルエーテルを可撓性変性剤として加えることもでき、その変性率は好ましくは1〜50%、さらに好ましくは5〜35%である。その導入方法としては、これら可撓性グリシジルエーテルを過剰の上記2価フェノールと反応させて初期縮合物を得た後、2価フェノールのグリシジルエーテルとの反応により、目標とする分子量まで鎖長延長する方法が、反応効率のよいものとして例示されるが、これに限定されるものではない。
【0018】
上記ポリオールのグリシジルエーテルとしては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0019】
また、上記2価フェノールのグリシジルエーテルとしては、レゾルシンジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタンジグリシジルエーテル、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニールジグリシジルエーテル等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0020】
また、上記2価フェノールとしては、レゾルシン、ハイドロキノン、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−(2,4’−ジヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニール等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0021】
また、エポキシ樹脂と反応させるアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。エポキシ樹脂とアミンの反応は、1級アミノ基をあらかじめケトンと反応させてブロック化した後、残りの活性水素とエポキシ基を反応させてもよい。
【0022】
ポリオールのジグリシジルエーテルと2価フェノールのジグリシジルエーテルと2価フェノールとの反応は、溶剤なしの溶融体中で行うことができるが、少量の溶剤を添加した系で行うことも可能である。溶剤としては、エポキシ基と反応しない溶剤であれば特に限定されない。反応温度は、80〜180℃が適当である。エポキシ基にアミンを反応させるアミノ化は、溶剤中または溶剤なしの溶融体中で行うことができ、反応温度は50〜150℃が適当である。
【0023】
また、アミン変性エポキシ樹脂のカチオン化の具体的な方法としては、アミノ基をプロトン酸で中和することにより行うことができ、特に好ましい酸としては、ギ酸、乳酸、酢酸、メタンスルホン酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸等あるいはこれらの混合物がある。
【0024】
[(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)]
本発明における(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)は、ポリイソシアネートとブロック剤との反応物であり、ポリイソシアネートとしては、芳香族あるいは脂肪族(脂環式を含む)のポリイソシアネートである。例示すると、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートおよびこれらの混合物、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3あるいは1,4−ビス−(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ビス−(イソシアネートメチル)−ノルボルナン、3あるいは4−イソシアネートメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート、m−あるいはp−キシリレンジイソシアネート、m−あるいはp−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、さらには上記イソシアネートのビュレット変性体あるいはイソシアヌレート変性体、あるいは上記イソシアネートのイソシアネート基の一部を、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等の低分子ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリラクトンジオール等のオリゴマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオールで連結したポリイソシアネートあるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
ブロック剤としては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール化合物、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等のセロソルブ系化合物、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のカルビトール系化合物、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、ε−カプロラクタム等のラクタム化合物、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系化合物、アセト酢酸エチルエステル、マロン酸ジエチルエステル等の活性メチレン基含有化合物を挙げることができる。
【0026】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、溶剤中あるいは溶融体中で実施することができる。反応に使用する溶剤としては、ポリイソシアネートと反応しない溶剤、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサン、イソホロン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素を挙げることができる。反応温度については特に限定されないが、好ましくは30〜150℃である。
【0027】
[(C)乳酸と遷移金属から得られる金属塩]
本発明における(C)乳酸と遷移金属から得られる金属塩に使用される遷移金属の例としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどがあり、特にチタンとジルコニウムが好ましく、より好ましいのはジルコニウムである。チタンの乳酸塩は市販品を使用でき、具体例としては、マツモトファインケミカル(株)製のオルガチックスTC−310またはTC−315が挙げられる。
【0028】
ジルコニウムの乳酸塩の作製に用いられるジルコニウム化合物としては、炭酸ジルコニウムが好ましい。炭酸ジルコニウムと乳酸との反応比率は、種々選択可能であり、例えば炭酸ジルコニウム1モルに対して、乳酸を1〜5モル、より好ましくは1〜3モルの比率で混合し、(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)とともに混練、反応させて得られたペーストを、ジルコニウムの乳酸塩として使用するのが好ましい。乳酸が1モル未満では、つきまわり性向上効果が十分でなく、5モルを超えると、過剰に入る酸により、電着塗装作業性の悪化を招くおそれがある。
【0029】
本発明のカチオン性電着塗料組成物に用いる(C)乳酸と遷移金属から得られる金属塩の含有量は特に限定されないが、好ましくは塗料組成物中の全樹脂固形分100重量部に対して0.1〜5.0重量部である。塗料組成物中の(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)と(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)の含有割合は、固形分重量比で90〜40/10〜60であり、好ましくは85〜40/15〜60、より好ましくは80〜55/20〜45である。
【0030】
本発明のカチオン性電着塗料組成物には、上記の(A),(B)および(C)成分以外に、さらに必要に応じて通常の塗料添加物、例えばチタンホワイト、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料、カオリン、タルク、珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカ等の体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ビスマス化合物等の防錆顔料、消泡剤、ハジキ防止剤等の添加剤、水性溶剤あるいは硬化触媒等を含有することができる。また、その他の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂等を含有することができる。
【0031】
[電着塗料組成物の調製]
本発明のカチオン性電着塗料組成物の調製方法は、特に限定されないが、例えば、(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)と(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)を反応容器に仕込み、撹拌を行って十分に混合した後、酸を加えてアミン変性エポキシ樹脂のアミノ基をカチオン化し、これに水を加えて樹脂水分散液を作製し、一方、(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)に酸と水を加えて水溶性ビヒクルを作製し、これに(C)乳酸と遷移金属から得られる金属塩、必要に応じて着色顔料、体質顔料や添加剤を加えた後、サンドミル等の分散機にて必要な粒度まで分散を行って顔料ペーストを作製し、このようにしてそれぞれ得られた樹脂水分散液と顔料ペーストを水とともに混合することによって調製することができる。
【0032】
[電着塗装方法]
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、通常、水に分散した状態で既知のカチオン電着塗装によって所望の素材表面に塗装することができる。具体的には塗料の固形分濃度は、好ましくは約5〜40重量%、さらに好ましくは15〜25重量%、pHは5〜8に調整し、浴温15〜35℃、負荷電圧100〜450Vの条件で、被塗物を陰極として塗装することができる。塗装された被塗物を水洗した後、焼付け炉中で100〜200℃で10〜30分焼き付けることによって硬化塗膜を得ることができる。本発明のカチオン性電着塗料組成物から得られる塗膜の膜厚は特に制限されないが、硬化塗膜において5〜60μm、好ましくは10〜40μmが適当である。
【実施例】
【0033】
本発明のカチオン性電着塗料組成物の優れた効果を以下に実施例により示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
[アミン変性エポキシ樹脂A1の製造]
表1に示す原料を用い、下記に示す方法によりアミン変性エポキシ樹脂A1を作製した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)を仕込み、攪拌、加熱を行って150℃まで昇温した。150℃で3時間保持した後、原料(5)を徐々に投入し、80℃まで冷却した。次いで原料(6)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたアミン変性エポキシ樹脂A1は、固形分70%であった。
【0035】
【表1】

【0036】
[アミン変性エポキシ樹脂A2の製造]
表2に示す原料を用い、下記に示す方法により本発明のアミン変性エポキシ樹脂A2を作製した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)を仕込み、攪拌、加熱を行って150℃まで昇温した。150℃で3時間保持した後、原料(4)を徐々に投入し、80℃まで冷却した。次いで原料(5)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたアミン変性エポキシ樹脂A2は、固形分70%であった。
【0037】
【表2】

【0038】
[ブロック化ポリイソシアネートBの製造]
表3に示す原料を用い、下記に示す方法によりブロック化イソシアネートBを作製した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)を仕込み、攪拌、加熱を行って100℃まで昇温した。その後フラスコ内温度を100℃に保ちながら予め原料(3)に溶解した原料(4)の溶液を1時間かけて仕込み、100℃で2時間反応させた。次いで同温度を保持して原料(5)を1時間かけて滴下し、滴下後さらに100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたブロック化ポリイソシアネートBは、固形分75%であった。
【0039】
【表3】

【0040】
[ジルコニウムの乳酸塩含有ペーストCの製造]
表4に示す原料を用い、下記に示す方法によりジルコニウムの乳酸塩含有ペーストCを作製した。原料(1)、(2)、(3)、(4)をディゾルバーで充分攪拌した後、温度35〜50℃を保ちながら横型サンドミルで2時間分散し、粒ゲージ粒度10μm以下のジルコニウムの乳酸塩含有ペーストCを得た。
【0041】
【表4】

【0042】
[樹脂水分散液の調製]
アミン変性エポキシ樹脂A1またはA2、ブロック化ポリイソシアネートB、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ギ酸、脱イオン水を、攪拌機、温度計、冷却器および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。これらを十分に撹拌混合した後、−300〜−600mmHg(ゲージ圧)の減圧下で脱溶剤を実施し、その後脱イオン水を加えて、実施例1〜6、比較例1,2で使用する樹脂水分散液を得た。各樹脂水分散液の成分の配合量を表5に示す。
【0043】
[顔料ペーストの調製]
アミン変性エポキシ樹脂A1、ギ酸、脱イオン水、カーボンブラック、酸化チタン、カオリン、水酸化ビスマスをそれぞれ表5の量で配合し、ディゾルバーで充分攪拌した後、横型サンドミルで粒ゲージ粒度10μm以下になるまで分散し、実施例1〜6、比較例1,2で使用する顔料ペーストを得た。
【0044】
[電着塗料の調製]
上記樹脂水分散液、顔料ペースト、および金属塩として表5に記載のチタンの乳酸塩またはジルコニウムの乳酸塩含有ペーストCを表5の量で配合して実施例1〜6、比較例1,2の電着塗料を得た。
【0045】
【表5】

【0046】
[塗膜性能評価]
上記で調製した実施例1〜6、比較例1,2の電着塗料を使用し、下記に示す試験板の作製方法に従い、それぞれの試験板を作製し、下記の評価方法に従って塗料、塗膜の性能評価を行った。
【0047】
[試験板の作製方法]
上記で得られた電着塗料を用いて、ステンレス鋼板を陽極とし、非リン酸塩系処理であるジルコニウム系金属酸化膜処理を施した冷延鋼板(日本パーカライジング(株)製、0.8×70×150mm)、あるいはリン酸亜鉛処理を施した冷延鋼板((株)パルテック製、0.8×70×150mm)を陰極とし、焼付け後の塗装膜厚が15μmになるように塗料温度30℃、塗装電圧150〜300Vで電着塗装を行い、水洗後、170℃で20分間焼付けを行った。なお、つきまわり性評価の試験板作製の詳細については、下記の(2)つきまわり性の項に記載する。
【0048】
[評価方法]
(1)塗膜抵抗値
非リン酸塩系処理皮膜としてジルコニウム系金属酸化膜処理、あるいはリン酸亜鉛処理をそれぞれ施した上記の冷延鋼板パネル(SPCC−SD)を用いて、裏面を布粘着テープなどでマスキングし、15μmの膜厚が得られるような一定の塗装電圧、塗装時間で電着塗装を行い、下記数式1から塗膜抵抗値を求めた。
R=V×S×(1/Af−1/Ai)
式中、R :塗膜抵抗(kΩ・cm
V :極間電圧(V)
Ai:初期電流値(A)
Af:最終電流値(A)
S :被塗面積(cm
【0049】
(2)つきまわり性
つきまわり性は、4枚のパネルを用いて作製した箱状構造物への塗装により評価した。即ち、図1に示すように、パネル底部から50mm、両側から35mmの位置に8mm径の貫通穴が設けてあるパネル(a)と、穴のないパネル(b)に、非リン酸塩系処理皮膜としてジルコニウム系金属酸化膜処理、あるいはリン酸亜鉛処理を施した上記の冷延鋼板パネル(SPCC−SD)を用いて、図2、図3に示すように組合せた箱状構造物を作製した(対極面側から順にA〜G面、非対極面側をH面と称する)。この箱状構造物を図4に示すように電着塗装容器に浸漬し、箱状構造物を陰極、対極板を陽極とし、A面に180秒間で15μmの塗膜を形成せしめる電圧で電着塗装を行った。塗装後、箱状構造物を分解した後各パネルを水洗し、170℃で20分間焼付け、A面からH面までの膜厚を測定した。つきまわり性は、A面膜厚に対するG面膜厚の割合(G/A)により評価し、この値が大きいほどつきまわり性が良い。
【0050】
(3)耐塩水噴霧性
非リン酸塩系処理の試験板に電着塗膜に素地に達する傷をカッターナイフで入れ、35℃、5重量%塩水噴霧下で840時間後の錆幅を測定した。錆幅の小さい方が性能が良好である。
【0051】
(4)塩水浸漬試験
非リン酸塩系処理の試験板を50℃、5重量%塩水に840時間浸漬した後、水洗、風乾して、試験面全体にセロハン粘着テープを気泡を含まないように貼った後、テープを引き剥がして、試験面全体に対する塗膜剥離面積の割合を測定した。剥離面積が小さい方が性能が良好である。
【0052】
実施例1〜6、比較例1,2の塗膜性能評価結果を表6に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
表6の結果から明らかなように、乳酸とジルコニウムあるいはチタンの金属塩を使用した実施例1〜6は、ジルコニウム系金属酸化膜(非リン酸塩系)処理皮膜上あるいはリン酸亜鉛処理皮膜上のいずれにおいても比較例1,2よりつきまわり性および防錆性が優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、従来からのリン酸塩処理皮膜上だけでなく、非リン酸塩系処理皮膜上でも、塗料つきまわり性、防錆性に優れた塗膜品質を提供することが可能であり、従って複雑な袋構造部が多い自動車部材用塗料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)乳酸と遷移金属から得られる金属塩を含有することを特徴とするカチオン性電着塗料組成物。
【請求項2】
(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤)のエポキシ樹脂が、ポリオールのグリシジルエーテルと2価フェノールのグリシジルエーテルと2価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のカチオン性電着塗料組成物。
【請求項3】
(C)金属塩を構成する遷移金属が、ジルコニウムまたはチタンであることを特徴とする請求項1または2に記載のカチオン性電着塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−57034(P2012−57034A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200938(P2010−200938)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(397068528)デュポン神東・オートモティブ・システムズ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】