説明

カチオン染料可染性ポリエステル繊維およびその製造方法

【課題】十分なストレッチ性と膨らみ感のあるカチオン可染性ポリエステル繊維。
【解決手段】カチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維、及び溶融粘度Via≧8.3×102poiseのカチオン染料可染性ポリエステルポリマーと、粘度Vib≦8.0×102poise(Via、VibはそれぞれA、Bポリマーの温度280℃、シェアレート2.43×103(秒-1)のときの溶融粘度)のポリエステルポリマーを、2500m/分以下の引取速度で紡糸した接合型複合繊維を、特定条件下で加熱ローラー延伸して得られる、繊維軸方向に太細斑を有し、任意の断面における最も太い単繊維と最も細い単繊維の単繊維径の比が1.2〜2.4であり、強度が2.0cN/dtex以上であるカチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織編物にした場合ストレッチ性と良好な膨らみ感を与えるカチオン染料可染性ポリエステル複合繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1、特許文献2において、溶融粘度の異なる2種の熱可塑性ポリマーを同一吐出孔より吐出する複合紡糸により接合型複合繊維糸とし、熱処理によりスパイラル型クリンプを発現させ捲縮型ストレッチ糸とすることが知られており、高捲縮を得るために、用いる2種の熱可塑性ポリマーの溶融粘度差を大きくすること、また高溶融粘度成分として高収縮性のポリエステルを用いることなどにより、ポリエステル系潜在捲縮製複合繊維が提案され、該繊維による布帛はストレッチ性、深みのある色彩を得ることが知られている。しかしながら、該繊維によると、スパイラル型クリンプを有するが、繊維長手方向に均一であるため、布帛を形成した際にフラットな表面感となるため嵩高性、膨らみ感に欠けるものとなる。
【0003】
一方、特許文献3、特許文献4には、繊維製品の風合改善の方法として繊維の長手方向に繊度が変化する太細繊維があり、糸条としたときに部分的に異収縮混繊となることから太細繊維から得られる布帛は特異な風合を呈することが開示されている。しかしながら、該繊維によると部分的な異収縮混繊とし、太細繊維から得られた布帛は膨らみ感を有するが、ストレッチ性に劣るといった問題があり、機能性などに一層の向上が求められている。
かかる課題に対しては、例えば、布帛にストレッチ性を付与する手段としては、ポリウレタン系弾性繊維を使用する方法があるが、工程が増えるなどによるコストが高くなる問題を呈している。
【0004】
また、特許文献5、特許文献6には、布帛にしたときにストレッチ性と、スパン調風合または太細スラブ調外観を呈する複合繊維糸が開示されているが、該特許文献5によると太細スラブ調の外観を呈するため繊維糸条長手方向に局在化した高配向部と低配向部が存在する構造のため、染色により局在化した構造に起因した濃色部と淡色部を呈し、スラブ調の外観を得るには良いが、ナチュラルな外観を得ることは困難であり、また、ストレッチ性も太細スラブ調外観を有しないものに比べ劣る傾向にある。
更に特許文献7、特許文献8においては、良好な脹らみ感を有し、ナチュラルな外観を有するストレッチ性の複合繊維が開示されているが、これら特許文献によると分散染料染色時は良好な染色性が得られるが、カチオン染色の際に実用的な強度を得ることが困難である。
【0005】
【特許文献1】特開平5−295670号公報
【特許文献2】特開平11−81069号公報
【特許文献3】特開平5−239714号公報
【特許文献4】特開平10−102318号公報
【特許文献5】特開2000−160443号公報
【特許文献6】特開2001−115344号公報
【特許文献7】特開2004−124271号公報
【特許文献8】特開2004−183141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、布帛としたときに十分なストレッチ性の付与と膨らみを呈するカチオン染料可染性複合ポリエステル繊維に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記問題点を解決するために、カチオン染料可染性複合ポリエステルマルチフィラメント繊維で、各マルチフィラメント繊維を構成する単繊維の繊維軸方向の太細斑と単繊維径のバラツキとストレッチ性、さらには、製造工程の通過安定性等について、詳細に研究を重ねた結果本発明に到達した。
すなわち、本発明は、溶融粘度の異なる2種のポリエステルポリマーを接合した複合マルチフィラメントからなる繊維であって、マルチフィラメント繊維を構成する単繊維が繊維軸方向に太細斑を有し、マルチフィラメント繊維中の任意の断面における最も太い単繊維と最も細い単繊維の単繊維径の比が1.2〜2.4であり、強度が2.0cN/dtex以上であることを特徴とするカチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維にある。
また本発明は、マルチフィラメント繊維としての太さ斑の変動係数が0.30〜1.20、捲縮率(cc)が20〜45%である上記カチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメントにある。
【0008】
さらに本発明は、溶融粘度Via≧8.3×102poiseのカチオン染料可染性ポリエステルポリマーと、粘度Vib≦8.0×102poise(Via、VibはそれぞれA、Bポリマーの温度280℃、シェアレート2.43×103(秒-1)のときの溶融粘度を示す。)のポリエステルポリマーを、2500m/分以下の引取速度で紡糸した接合型複合繊維の未延伸糸を、下記の式(2)〜(6)を満足する条件下で加熱ローラー延伸することを特徴とするカチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維の製造方法にある。
Via−Vib>3.0×102poise (1)
MDR×0.45≦DR1≦MDR×0.65 (2)
1.000≦DR2≦1.300 (3)
DR1>DR2 (4)
Tg≦TDR1≦Tc (5)
Tg+20℃≦TDR2≦Tc (6)
(但し、式中、Via、Vibは前記に同じ、MDRは延伸温度85℃における未延伸糸の最大延伸倍率を表す。DR1は1段目延伸倍率、DR2は2段目延伸倍率、TDR1は1段目延伸におけるローラー温度、TDR2は2段目延伸における熱セット温度、Tgは未延伸糸のガラス転移温度(℃)、Tcは未延伸糸の結晶化温度(℃)を示す。なお、複合繊維の未延伸糸の結晶化温度、ガラス転移温度がそれぞれ2点測定される場合は、低い方の温度を結晶化温度、高い方の温度をガラス転移温度とする。)
【0009】
さらに本発明は、前記のカチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメントからなる繊維を含み、織編物収縮率(LC)が20〜40%であることを特徴とする織編物にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維は、布帛としたときに濃色部と淡色部が局在化せずにナチュラルな外観を呈するばかりでなく十分な膨らみ感とストレッチ性があり、また、衣料用途分野において実用上の十分な強力を有する織編物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について具体的に説明する。
本発明においてカチオン可染性ポリエステルポリマーは、主としてエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位としカチオン染料に易染性または可染性のポリエステルをいう。
カチオン染料可染性ポリエステルとしては、エチレンテレフタレートにナトリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸等の金属塩、スルホネート基等の酸基含有エステル形成性化合物を共重合した変性ポリエステル、好ましくはエチレンテレフタレートに5−ナトリウムスルホイソフタ−ル酸を1.3〜3.5モル%共重合した変性ポリエステルが挙げられる。
【0012】
さらに、カチオン染料可染性ポリエステルは、カチオン染料に対する易染色性を向上させる目的で、エチレンテレフタレートに上記ナトリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸等の金属塩、スルホネート基等の酸基含有エステル形成性化合物以外の、その他の共重合成分を共重合させた共重合ポリエステル、及びポリアルキレングリコール、アルキルスルホン酸、無機物等、少量のブレンド成分を含有するポリエステル混合物であってもよい。他の共重合成分としては、芳香族ジカルボン酸類、脂肪族ジカルボン酸類、脂肪族ジオール類、脂環式ジオール類、芳香族ジオール類を用いることができ、具体的にはイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物等を挙げることができる。
【0013】
本発明のカチオン染料可染性ポリエステルマルチフィラメント繊維は、ストレッチ性を発現させるために、溶融粘度の異なる2種のポリエステルポリマーを接合した複合マルチフィラメント繊維であることが必要である。複合繊維としたときに良好なストレッチ性を得るためには溶融粘度の異なる組合せであれば、少なくとも片側にカチオン染料の染着座席を有するものであれば、どのような組合せでもよく、また、両ポリマーが同一のカチオン染料可染性のポリマーで低粘度品と高粘度品の組合せでもよい。この場合、溶融粘度の異なる一方の成分であるポリエステルポリマー(A)は高粘度で高収縮成分として作用し、他方の成分であるポリエステルポリマー(B)は低粘度で低収縮成分として作用する。
【0014】
本発明において溶融粘度の異なる(A)、(B)2種のポリエステルポリマーの接合は、複合繊維としたときに良好なストレッチ性が発現する接合であればいかなる接合形式でもよい。好ましくはサイドバイサイド型または偏心芯鞘型であり、より好ましくは高度なストレッチ性を得るためにサイドバイサイド型がよい。
また本発明では、マルチフィラメント繊維を構成する単繊維が繊維軸方向に太細斑を有し、マルチフィラメント繊維中の任意の断面における最も太い単繊維と最も細い単繊維の単繊維径の比が1.2〜2.4であり、強度が2.0cN/dtex以上であることが必要である。マルチフィラメント繊維を構成している単繊維の繊維軸方向に太部と細部が混在することにより、単繊維の長手方向に繊維の配向差が生じ、仮撚、混繊、染色など公知の後加工時に熱処理を施した際に単繊維内に収縮差を生じ、布帛とした場合膨らみ感が得られる。さらに、衣料用ポリエステル繊維として、延伸糸の強度が、2.0cN/dtex未満であると実用上の強度が得られないため衣料用としては適さない。
【0015】
また、本発明のカチオン染料可染性複合ポリエステルマルチフィラメント繊維は、マルチフィラメント繊維としての太さ斑の変動係数(CV)が0.30〜1.20、捲縮率(CC)が20〜45%であることが好ましい。これにより、単繊維の繊維軸方向に太部と細部が適度に分散することにより、実用上の強度が得られる。太部と細部が局在化すると、太部の配向が低いことにより単繊維強度が弱い部分が繊維糸条として集中し、衣料用としての実用上の強度が得られない。
マルチフィラメント繊維中の任意の断面における最も太い単繊維と最も細い単繊維の単繊維径の比は1.2〜2.4であることが必要である。太細比の下限は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上がよい。上限は好ましくは2.4以下、より好ましくは1.8以下である。単繊維軸方向に太部と細部が混在することにより、単繊維長手方向に繊維の配向差が生じる。繊維の配向差により、仮撚、混繊、染色など公知の後加工時に熱処理を施した際に単繊維内に収縮差を生じ、繊維に膨らみを持たせることが知られている。
太細比の下限が1.2未満であると単繊維の繊維軸長手方向に、太部と細部の単繊維繊度差が小さいため太部、細部の繊維配向による構造斑に起因した捲縮形態差が得難く、布帛にした際のふくらみ感が不足する。また、上限が2.4を超えると単繊維の太部と細部の繊維配向差が大きいため、太部と細部の伸度差が大きくなり、製糸する際に糸切れなど工程安定性上の問題がある。
【0016】
マルチフィラメント繊維全体としての太さ斑の変動係数(CV)は、下限が好ましくは0.30以上、より好ましくは0.35以上、上限が好ましくは1.20以下、より好ましくは1.0以下である。下限が0.3未満であると、マルチフィラメント繊維内の単繊維径の太細差が小さくなるため、単繊維間での捲縮形態差が小さくなり本発明の目的とする膨らみ感を得ることができなくなる。一方、上限が1.20を超えると仮撚、混繊、染色など公知の後加工時に熱処理を施した際に、マルチフィラメント繊維として、繊維糸条軸方向に太部と細部が局在化し、マルチフィラメント繊維の太部の収縮が著しく粗野な繊維になるばかりか、太部と細部の伸度差が大きいため製糸する際に糸切れなど工程安定性上の問題が発生する。さらに、染色した際にスラブ調外観を呈した太細が発生する。さらにまた、太部と細部が局在化することで収縮部が集中するため染色後に本発明の目的とする自然な外観と膨らみを呈する繊維を得ることができない。
さらに本発明では、捲縮率(CC)が20〜45%が必要である。CCが20%未満では十分なストレッチ性を得ることができない。45%を超えると織編物とした際の形態が安定しない。
【0017】
また、本発明のポリエステル複合マルチフィラメント繊維は、好ましくは伸度(DE)の下限が30%以上、より好ましくは35%以上、上限は70%以下、より好ましくは60%以下が望ましい。伸度が70%を超えると、織編物としたときに十分な捲縮が発現しにくく、満足すべきストレッチ性能を得ることができにくい。また30%未満では、単繊維の繊維軸方向に太細斑の発現が不足しやすく、満足すべき目的とする膨らみ効果を得ることが困難となりがちである。
【0018】
次に本発明の、カチオン可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維の製造法について詳細に説明する。
本発明では、温度280℃、シェアレート2.43×103(秒-1)のときの粘度Via≧8.3×102poise(ポリマーAの溶融粘度)のカチオン染料可染性ポリマーと、粘度Vib≦8.0×102poise(ポリマーBの溶融粘度)のポリエステルポリマーを、下記の式(1)と同時に満足するポリエステルポリマー(A)とポリエステルポリマー(B)とを、2500m/分以下の引取速度で紡糸した接合型複合繊維の未延伸糸を、下記の式(2)〜(6)を満足する条件下で加熱ローラー延伸することが必要である。
Via−Vib>3.0×102poise (1)
MDR×0.45≦DR1≦MDR×0.65 (2)
1.000≦DR2≦1.300 (3)
DR1>DR2 (4)
Tg≦TDR1≦Tc (5)
Tg+20℃≦TDR2≦Tc (6)
(但し、式中、Via、Vibは上記に同じ、MDRは延伸温度85℃における未延伸糸の最大延伸倍率を表す。DR1は1段目延伸倍率、DR2は2段目延伸倍率、TDR1は1段目延伸におけるローラー温度、TDR2は2段目延伸における熱セット温度、Tgは未延伸糸のガラス転移温度(℃)、Tcは未延伸糸の結晶化温度(℃)を示す。なお、複合繊維の未延伸糸の結晶化温度、ガラス転移温度がそれぞれ2点測定される場合は、低い方の温度を結晶化温度、高い方の温度をガラス転移温度とする。)
ポリエステルポリマー(A)とポリエステルポリマー(B)の温度280℃、シェアレート2.43×10-3(秒-1)のときの溶融粘度差は3.0×10-1poiseより大きいことが必要である。粘度の異なる一方の成分であるポリエステルポリマー(A)は高粘度で高収縮成分として作用し、他方の成分であるポリエステルポリマー(B)は低粘度で低収縮成分として作用する。固有粘度の差が0.145以下の場合、ポリエステルポリマー(A)とポリエステルポリマー(B)の収縮差が小さく、捲縮の発現が不足しストレッチ性能が得られない。
【0019】
また、溶融粘度の異なる2種のポリエステルポリマーのうち高粘度成分が第三成分を5〜15モル%共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
第三成分が5モル%未満では捲縮発現力が十分得られにくく、15モル%を超えると融点低下が著しく複合紡糸自体が困難になるだけでなく、捲縮発現力も不十分となりやすい。
第三成分としては、テレフタル酸成分以外の芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等の酸成分、エチレングリコール成分以外の脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオール等のジオール成分が挙げられ、具体的には、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、スルホイソフタル酸金属塩、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン等が挙げられ、特にイソフタル酸、アジピン酸、スルホイソフタル酸金属塩、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンが好ましい。これらの第三成分は単独或いは2種以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
ポリエステル(A)、ポリエステル(B)より複合繊維を形成するには、好ましくは高粘度側が、カチオン可染ポリエステルであることがよい。カチオン可染性成分としては、エチレンテレフタレートにナトリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸等の金属塩スルホネート基等の酸基含有エステル形成性化合物を共重合した変性ポリエステル、より好ましくはエチレンテレフタレートに5−ナトリウムスルホイソフタ−ル酸を1.3〜3.5モル%共重合した変性ポリエステルが挙げられる。
【0021】
本発明の溶融粘度の異なる2種のポリエステルポリマーの接合は、複合繊維としたときに良好なストレッチ性が発現する接合であればいかなる接合でもよい。好ましくはサイドバイサイド型または偏心芯鞘型などが用いられ、より好ましくはサイドバイサイド型が高度なストレッチ性を得るために用いられる。
複合紡糸に際してのポリエステルポリマー(A)/ポリエステルポリマー(B)の接合比(質量比)Wは、複合繊維の形態下で捲縮発現力を与えるうえで4/6<W<6/4が好ましい。接合比が上記範囲外では製糸性が低下しやすく、複合繊維の形態下での捲縮発現力も不足しがちである。
【0022】
また本発明では、ポリエステルポリマー(A)とポリエステルポリマー(B)を複合紡糸するときの紡糸時の引取速度は、未延伸糸の配向度を比較的低く抑え、延伸での繊維軸方向での太細斑の形成を容易にするために2500m/分以下とすることが必要である。引取速度が2500m/分を超えると、未延伸糸の配向度が高くなり、太細斑の形成が困難となる。未延伸糸の延伸は、前記式(2)〜(6)を満足する条件で、加熱ローラーで2段延伸することが必要である。
前記式(2)において、DR1がMDR×0.45未満では、十分な捲縮発現力が得られず、MDR×0.65を超えると、マルチフィラメント繊維の単繊維間に太細斑の形成が困難となり、本発明の目的とする膨らみ感を得ることが困難となる。
また、前記式(3)において、DR2が1.000未満であると、DR1で形成された単繊維間の太細斑が局在化されスラブ調の外観になり、また、1.300を超えても同様に太細斑が局在化するため単繊維間に太細斑が分散せず、目的とする膨らみが得られない。このため、前記式(4)にあるように、DR1>DR2であることが必要である。DR2がDR1を超える場合DR1で形成された単繊維間の太細斑が延伸により局在化するため、スラブ調の外観となり、単繊維間に太細斑を分散させて膨らみを発現させることが困難となる。
【0023】
二次転移点は前記式(5)にあるように、TDR1はTg≦TDR1≦Tcであり、かつ、前述の式(2)の条件により未延伸糸の延伸のネック点発生が1段目延伸ローラー上に存在することでネック点が分散し単繊維間で太細のバラツキを発生させることができる。TDR1がTg未満、またはTcを超えると延伸のネック点発生の分散性不良となり、得られる太細糸はスラブ調の外観となるため本発明の目的とする糸が得られない。
また、前記式(6)にあるように、TDR2がTg+20℃未満では、得られる繊維の配向度が低く強度不十分となり、Tcを超えると単繊維の太部と細部が局在化し、マルチフィラメント繊維として太部と細部が局在化したスラブ調の繊維になる。
さらに本発明では、延伸は加熱ローラーで行うことが必要であり、熱ピンによる延伸では延伸点が熱ピン上に固定され、単繊維の太部と細部が局在化するため、マルチフィラメント繊維として太部と細部が局在化したスラブ調の繊維となる。
【0024】
また、本発明のカチオン可染性ポリエステル繊維またはこれを含む繊維からなる織編物は、ポリエステル複合マルチフィラメント繊維を含み、織物収縮率(LC)が20〜40%であることが必要である。LCが20%未満であると十分なストレッチ性を得ることができない。40%を超えると織編物とした際の形態が安定しない。
なお、これらの織編物は、例えば、上記本発明で得られたポリエステル複合マルチフィラメント繊維を、例えば該繊維を単独及び/または混繊した後、公知の方法により織編物とし、染色処理することによって得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明する。なお、実施例における特性値の評価は次の方法によって拠った。
(単繊維径の比(太細比))
マルチフィラメント繊維の長手方向の任意の位置で、光学顕微鏡により断面を観察、単繊維径を測定し、単繊維径の最も太い部分と最も細い部分の単繊維径の比を求めた。
(糸全体としての太さ斑の変動係数(CV))
計測器工業(株)製糸斑試験機KET80Cを用い、糸速15m/分、レンジ±12.5%、ノーマルモードの条件で糸の太さの変動係数CV(%)を測定した。
【0026】
(捲縮率CC)
サンプル原糸を枠周1mで巻き数10回の綛を作成し、綛が乱れないように2ヶ所を束ねてくくり、8の字状にして2つ折に重ねて輪にすることを2回繰り返し、ガーゼに包み水浴に浸したときに浮かないように金網箱に入れ、90℃に調整した恒温槽に20分間浸漬する。恒温槽から金網箱を取り出し、水を切り綛が乱れない様に濾紙の上に並べる。20時間以上放置し、自然乾燥した後に捲縮を引き伸ばさない様に注意しながら、余分な絡まりをほぐす。表示デシテックス(1.1dtex)当り49/25000cN×20の初荷重を掛け1分後の長さ(L0)を測る。初荷重を除重後に表示デシテックス当りの49/500cN×20の測定荷重を掛けて1分後の長さ(L1)を測り、除重後2分間放置して再び初荷重を掛けて1分後の長さ(L2)を測る。捲縮率CCは下記式により算出する。
捲縮率CC(%)=(L1−L2)/L1×100
【0027】
(伸度(DE))
島津製作所(株)製オートグラフシステムSD−100−Cを用い、サンプル長20cm、引張速度20m/分の条件で測定した。
(織物収縮率(LC))
サンプル原糸を撚係数K=100(T=K×√D Tは1m当りの撚数、Dはサンプル原糸の繊度)の条件で加撚を施し、温度70℃、湿度90%RHの条件下で40分間セットした糸を緯糸として、該サンプル糸の繊度(D)から打ち込み本数(本/cm)=311.1/√Dで算出される打込み本数で、縦糸密度39.6本/cmに設定された56dtex18フィラメントの原糸を経糸として製織した後、織物緯糸方向に長さ1mの間隔で印を付け(L0)緯糸に平行に10cm幅のサンプル布を切り出し、130度℃×30分間、熱水処理する。熱水処理したサンプル布を風乾後、片端を固定して垂直に垂らし、下方の他端に0.45g/dtexの荷重をかけ、先に付けた印の間隔(L1)を測定し、織物収縮率(LC)=(L0−L1)/L0×100で算出した。
【0028】
(溶融粘度(Vi))
ポリマーを120℃で8時間、真空乾燥した後に、キャピログラフ(東洋精機製 1−B型)を用い、キャピラリー長10mm、直径1.0mmのキャピラリーにて、温度280℃、シェアレート2.432×10-3(秒-1)にて溶融粘度Vi(poise)を測定した。
(織物風合)
織物収縮率の測定に用いた湿熱処理後のサンプル布の引張り弾性を触感による官能テストにより次の基準で評価した。
○:伸長、反発弾性が共に非常に良好。
△:伸長、反発弾性が共に良好。
×:伸長、反発弾性が共に不十分。
(織物外観)
織物収縮率の測定に用いた湿熱処理後のサンプル布を分散染料Color.Index Basic Blue 117を1.0 o.w.f%、染色温度130℃にて染色し、織物の外観を目視で次の基準にて評価した。
○:スラブ外観が無く、織物としてプレーンな外観。
×:スラブ調の外観、太部、細部に起因した濃淡が発生。
【0029】
(実施例1)
5−ナトリウムスルホイソフタル酸(DMS)1.5モル%、アジピン酸10モル%をポリエチレンテレフタレートに共重合した溶融粘度Via=1.10×10-3poiseの共重合ポリエチレンテレフタレートをポリマー(A)、Vib=7.44×10-3poiseのポリエチレンテレフタレートをポリマー(B)とし、紡糸温度を280℃とし、紡糸吐出孔の上流で2種のポリマー流を面対称に合流させ、接合比(重量比)5/5で、孔径0.3mm、長さ1.5mmの細孔の吐出孔を36個有する複合紡糸口金より紡出した。この紡出糸条を冷却、オイリング後、1800m/分の引取速度で巻き取り、102dtex/36フィラメントの複合繊維の未延伸糸を得た。
得られた未延伸糸を表1に示す条件で延伸して63dtex/36フィラメントのポリエステル複合マルチフィラメント繊維の延伸糸を得た。表1に得られたカチオン可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維の評価結果を示した。
【0030】
(実施例2)
実施例1において用いたものと同様のポリマーを用い、同様の紡糸条件で、吐出孔を48個有する複合紡糸口金で、117dtex/48フィラメントの未延伸糸を得た。
得られた未延伸糸を、表1に示す条件で延伸して82dtex/48フィラメントのポリエステル複合マルチフィラメント繊維を得た。表1に得られたカチオン可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維延伸糸の評価結果を示した。
【0031】
(比較例1)
実施例1において未延伸糸繊度を115dtex/36フィラメントと変更した外は実施例1と同様の紡糸条件で未延伸糸を得た。
得られた未延伸糸を、表1に示す条件で延伸して62dtex/36フィラメントのポリエステル複合マルチフィラメント繊維を得た。表1に得られたカチオン可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維の評価結果を示した。得られたポリエステル複合マルチフィラメント繊維はCVが大きく、織物にスラブ外観があり、スラブの太部と細部で収縮差があり、膨らみ感に欠け、衣料用として強度が劣るものとなった。
【0032】
(比較例2)
表1に示した延伸条件に変えた外は実施例2と同様にして、カチオン可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維を得た。スラブ調の外観は無いが、最も太い単繊維と最も細い単繊維の単繊維径の比が小さく、膨らみ感に欠ける風合となった。
【0033】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融粘度の異なる2種のポリエステルポリマーを接合した複合マルチフィラメントからなる繊維であって、マルチフィラメント繊維を構成する単繊維が繊維軸方向に太細斑を有し、マルチフィラメント繊維中の任意の断面における最も太い単繊維と最も細い単繊維の単繊維径の比が1.2〜2.4であり、強度が2.0cN/dtex以上であることを特徴とするカチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維。
【請求項2】
マルチフィラメント繊維としての太さ斑の変動係数(CV)が0.30〜1.20、捲縮率(CC)が20〜45%である請求項1記載のカチオン染料可染性ポリエステル繊維。
【請求項3】
溶融粘度Via≧8.3×102poiseのカチオン染料可染性ポリエステルポリマーと、粘度Vib≦8.0×102poise(Via、VibはそれぞれA、Bポリマーの温度280℃、シェアレート2.43×103(秒-1)のときの溶融粘度を示す。)のポリエステルポリマーを、2500m/分以下の引取速度で紡糸した接合型複合繊維の未延伸糸を、下記の式(2)〜(6)を満足する条件下で加熱ローラー延伸することを特徴とするカチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維の製造方法。
Via−Vib>3.0×102poise (1)
MDR×0.45≦DR1≦MDR×0.65 (2)
1.000≦DR2≦1.300 (3)
DR1>DR2 (4)
Tg≦TDR1≦Tc (5)
Tg+20℃≦TDR2≦Tc (6)
(但し、式中、Via、Vibは前記に同じ、MDRは延伸温度85℃における未延伸糸の最大延伸倍率を表す。DR1は1段目延伸倍率、DR2は2段目延伸倍率、TDR1は1段目延伸におけるローラー温度、TDR2は2段目延伸における熱セット温度、Tgは未延伸糸のガラス転移温度(℃)、Tcは未延伸糸の結晶化温度(℃)を示す。なお、複合繊維の未延伸糸の結晶化温度、ガラス転移温度がそれぞれ2点測定される場合は、低い方の温度を結晶化温度、高い方の温度をガラス転移温度とする。)
【請求項4】
請求項1記載のカチオン染料可染性ポリエステル複合マルチフィラメント繊維を含み、織編物収縮率(LC)が20〜40%であることを特徴とする織編物。

【公開番号】特開2006−169649(P2006−169649A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360445(P2004−360445)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】