説明

カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物

(a)エポキシ樹脂成分、(b)光カチオン開始剤、(c)熱カチオン開始剤、および(d)元素の長周期表中の2族元素を含む酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群より選ばれる充填剤を含有する光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物が開示される。この組成物は、本質的には光硬化樹脂の作業性の良さを有しながら、特にガラスに対する接着力に優れると共に、耐リフロー特性、耐湿性、耐水性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射の照射および加熱によって、カチオン重合により硬化し得るエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着剤には熱硬化型(アニオン硬化型)のエポキシ樹脂などが用いられることが一般的であったが、種々の用途に対応するため、光の照射によってエポキシ樹脂をカチオン重合させて硬化する光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物が開発されてきた。この樹脂組成物は、熱硬化型(アニオン硬化型)とほぼ同等の硬化物性が得られる利点があり、またラジカルUV硬化型樹脂に比べて酸素阻害を受けないこと、ラジカルUV硬化型樹脂に比べて収縮率が小さいこと等の利点があり、液晶ディスプレイ用途、ディジタルビデオディスクの貼り合わせ用途、デバイスパッケージのシール用途等での使用が知られている。
【0003】
例えば、CMOS等のデバイス中空パッケージでは、樹脂またはセラミックなどのパッケージ内にデバイスを固定し、上部にガラスを紫外線硬化型接着剤で封をする方式がとられている。これらの接着剤はガラスと密着性との接着性に加え、リフロー炉等において半導体装置が受ける熱サイクル、熱ショック、長期信頼性の点から耐湿性、耐水性および高温低温における保存性に対していずれも優れた特性が求められる。
【0004】
光カチオン硬化型エポキシ樹脂として、本発明者らは、特開2003−327785号公報(特許文献1)において、脂環式エポキシ樹脂と、芳香環を有するエポキシ樹脂とを含有するエポキシ樹脂成分、光カチオン開始剤成分、および長周期表中の2族元素を含む酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群より選ばれる充填剤を含む樹脂組成物を提案した。しかし、デバイスパッケージ用途に対してより特性の適したものが求められている。
【0005】
ところで、熱カチオン開始剤を使用して、加熱によりエポキシ樹脂をカチオン重合させて硬化する熱カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物も開発されている。例えば、特開2003−238770号公報(特許文献2)の請求項1には、「エポキシ樹脂として脂環式エポキシ樹脂及び/又はビスフェノール型エポキシ樹脂、硬化剤として光カチオン重合開始剤及び/又は熱カチオン重合開始剤、添加剤として有機ケイ素化合物を少なくとも含有し、該有機ケイ素化合物が光照射及び/又は加熱及び/又は加水分解によってシラノール基を生成する化合物であることすることを特徴とするインクジェットヘッド製造用エポキシ樹脂組成物」と記載されている。しかし、光カチオン重合開始剤と熱カチオン重合開始剤の両方を同時に用いた実施例はなく、また、特定の有機ケイ素化合物を使用して耐インクを高めた特定用途向けの組成物と考えられる。
【特許文献1】特開2003−327785号公報
【特許文献2】特開2003−238770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、本質的には光硬化樹脂の作業性の良さを有しながら、特にガラスに対する接着力に優れると共に、耐リフロー特性、耐湿性、耐水性に優れたカチオン硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、 (a)エポキシ樹脂成分、(b)光カチオン開始剤、(c)熱カチオン開始剤、および(d)元素の長周期表中の2族元素を含む酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群より選ばれる充填剤を含有する光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
光カチオン開始剤も熱カチオン開始剤も重合活性種のカチオンを発生させるものであり、従来は両者を併用するという考えは存在しなかった。しかし、これらを併用し、さらに2族元素を含む無機化合物、特に酸化物、水酸化物および炭酸塩を充填剤として含有させることにより、耐水性、ヒートサイクル性等の特性が驚くほど向上した。
【0009】
本発明のカチオン硬化型エポキシ樹脂は、少なくとも被接着物の一方が、ガラスである場合の接着剤として、とくにCMOS、CCD等の半導体デバイスパッケージ用の接着剤として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のカチオン樹脂組成物は、前述のとおり、(a)エポキシ樹脂成分、(b)光カチオン開始剤、(c)熱カチオン開始剤、および(d)元素の長周期表中の2族元素を含む酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群より選ばれる充填剤を少なくとも含む。
【0011】
エポキシ樹脂成分として、芳香環を有するエポキシ樹脂を主成分とし、必要により脂環式エポキシ樹脂を含有してもよい。また、エポキシ樹脂成分中に含まれる各エポキシ樹脂として、フッ素化されたエポキシ樹脂を用いることを妨げるものではないが、特にフッ素化樹脂を用いる必要もない。本発明のある態様においては、フッ素化されていないエポキシ樹脂を主成分(エポキシ樹脂成分中の60重量%以上、好ましくは80重量%以上)として用いる。特に、芳香環を有するエポキシ樹脂に関してフッ素化されていない樹脂を60重量%以上、さらに80重量%以上とすることも好ましい。最も好ましい態様では、各エポキシ樹脂は、全てフッ素化されていない樹脂である。
【0012】
芳香環を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂およびクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン(株)製商品名YX4000といったビフェニル型エポキシ樹脂等を挙げることができる。芳香環を有するエポキシ樹脂は、通常分子内に1個以上のエポキシ基を有し、エポキシ当量は、適宜選ぶことができる。
【0013】
脂環式エポキシ樹脂は、必要により芳香環を有するエポキシ樹脂と併用される成分である。分子内にシクロヘキセンオキサイド構造およびシクロペンテンオキサイド構造のような環ひずみのあるエポキシ基を有するものを挙げることができる。特にこのようなエポキシ基を1分子内に2個以上有するものが好ましい。脂環式エポキシ樹脂の代表的な例として、次の式(1)〜(5)で示される化合物を挙げることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
さらに本発明の1態様においては、エポキシ樹脂成分として、水素化ビスフェノール型エポキシ樹脂およびジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれるエポキシ樹脂(以下、本出願において、速硬化エポキシ樹脂という。)の少なくとも1種を使用する。これらのエポキシ樹脂は、本発明の樹脂システムにおいて使用すると、硬化速度が著しく上昇し、少ないUV照射時間にて硬化できる効果があることが判明した。従来、通常の脂環式のエポキシ樹脂を使用すると、UVカチオン系において硬化速度が速くなることは知られていたが、接着性の劣る問題があった。しかし、ここで定義する速硬化エポキシ樹脂を使用すると、良好な接着性を有したまま硬化速度が向上する。
【0016】
これらの速硬化エポキシ樹脂は、それらのみによりエポキシ樹脂成分の全てを構成してもよいし、上述の通常の芳香環を有するエポキシ樹脂(必要により脂環式エポキシ樹脂が含有される。)と共に混合して使用することもできる。UV照射量が少なくてすむ速硬化の効果を示すためには、エポキシ樹脂成分全体の10重量%以上、特に30重量%以上とすることが好ましい。
【0017】
水素化ビスフェノール樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂のベンゼン環が水素化されたものであり、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂は次の構造を有する。
【0018】
【化2】

【0019】
これは、通常nが異なる化合物の混合物として得られ、平均のnは0〜5程度、0〜2程度、特に0〜1の間である。
【0020】
また、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、次式:
【0021】
【化3】

【0022】
で表され、通常nが異なる化合物の混合物として得られ、平均のnは0〜5程度、0〜2程度、特に0〜1の間である。
【0023】
また、エポキシ樹脂成分中には、その他に公知の希釈剤が含まれていてもよく、エポキシ基を有する化合物、ビニルエーテル類、オキセタン化合物、ポリオール類等を適宜使用することができる。
【0024】
希釈剤として使用するエポキシ基を有する化合物としては、具体的には、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(cyclohexanedimethanol diglycidyl ether)、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の脂肪族アルキル−モノまたはジ−グリシジルエーテル;グリシジルメタクリレート、3級カルボン酸グリシジルエステル等のアルキルグリシジルエステル;スチレンオキサイド;フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−s−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル等の芳香族アルキルモノグリシジルエーテル;テトラヒドロフルフリルアルコールグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0025】
ビニルエーテル類としては、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(cyclohexanedimethanol
divinyl ether)、トリエチレングリコールジビニルエーテル(triethleneglycol divinyl ether)、ヒドロキシブチルビニルエーテル
(hydorxybutyl vinyl ether)等のモノまたは多官能ビニールエーテル類を挙げることができる。
【0026】
オキセタン化合物としては、例えば下記式(6)で表されるを挙げることができる。
【0027】
【化4】

【0028】
またポリオール類は、希釈剤としての機能に加えて本発明の樹脂系において接着性を向上させる働きもある。例えばアルキルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、フェノリックポリオール等が挙げられる。中でも、アルキルポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールが好ましく、特にポリエーテルポリオールが好ましい。接着性を向上させるために用いるときは、ポリオールを除いたその他のエポキシ樹脂成分100重量部に対してポリオールを0.1〜40重量部、好ましくは2〜15重量部で配合する。
【0029】
アルキルポリオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0030】
ポリエステルポリオールとしては、縮合型ポリエステルポリオール、付加重合ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。縮合型ポリエステルポリオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,4−ヘキサンジメタノール、ダイマー酸ジオール、ポリエチレングリコール等のジオール化合物と、アジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸等の有機多塩基酸との縮合反応によって得られ、分子量は100〜100,000が好ましい。付加重合ポリエステルポリオールとしては、ポリカプロラクトンが挙げられ、分子量は100〜100,000が好ましい。ポリカーボネートポリオールはポリオールの直接ホスゲン化、ジフェニルカーボネートによるエステル交換法などによって合成され、分子量は100〜100,000が好ましい。
【0031】
ポリエーテルポリオールとしては、PEG系、PPG系、PTG系ポリオール等が挙げられる。PEG系ポリオールは、活性水素を有する化合物を反応開始剤として、エチレンオキサイドを付加重合させたもので、分子量は100〜100,000が好ましい。PPG系ポリオールは、活性水素を有する化合物を反応開始剤として、プロピレンオキサイドを付加重合させたもので、分子量は100〜100,000が好ましい。PTG系ポリオールは、テトラヒドロフランのカチオン重合によって合成され、分子量は100〜100,000が好ましい。
【0032】
光カチオン開始剤は、光照射によってカチオン活性種を発生するAで表される塩である。ここで、カチオンAは、芳香族ヨードニウムイオン、芳香族スルホニウムイオンが好ましい。芳香族ヨードニウムイオンは、式:
Ar−I−Ar
で表されるように、Iに結合している基ArおよびArが独立して2つとも芳香族基が好ましく、特に置換基を有していてもよいフェニル基が好ましい。
【0033】
また、芳香族スルホニウムイオンは、式:
【0034】
【化5】

【0035】
で表されるように、Sを中心に結合しているAr、ArおよびArがそれぞれ独立してアリール基、特に置換基を有していてもよいフェニル基が好ましい。
【0036】
また、アニオンB-が、SbF6-、またはB(C654-のようなB(アリール)4-イオンである開始剤(以下、第1の開始剤ともいう。)を少なくとも含むことが好ましい。B(アリール)4-としては、B(C654-の他に、例えばB(C64OCF34-、B(C64CF34-等を挙げることができる。具体的には、例えば下記式で表される化合物を挙げることができる。
【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
【化8】

【0040】
アニオンB-が、SbF6-、またはB(アリール)4-イオンである開始剤は、硬化速度が速い。これらの開始剤に加えて、接着性をより向上させるためには、アニオンB-がSbF6-およびB(アリール)4-イオン以外のアニオンを有する開始剤を含んでいてもよい。これらは硬化速度は遅いが接着強度が上がる利点があり、BがSbF6-およびB(アリール)4-イオンである開始剤と合わせて用いることができる。アニオンB-としては、PF6-、AsF6-、BF4-等を挙げることができる。具体的な化合物としては、前述の化合物でSbF6-をPF6-、AsF6-、BF4-等に置き換えた塩を挙げることができる。
【0041】
光カチオン開始剤は、エポキシ樹脂成分100重量部に対して、例えば0.1重量部〜10重量部、好ましくは0.5重量部〜5重量部で添加することが好ましい。また、必要に応じて、チオキサントン等の光増感剤を添加することも好ましい。
【0042】
熱カチオン開始剤は、熱によってカチオン活性種を発生し、光照射によっては実用的な量のカチオン活性種を発生し得ない化合物であり、これもAで表される塩である。カチオン活性種を発生する温度は、60℃〜180℃、好ましくは80℃〜150℃である。ここで、カチオンA+はSに結合している3つの基のうち少なくとも1つがアルキル基であるスルホニウムイオンが好ましい。この場合2つの基が一緒になってアルキレン基となってSと共に環を形成していてもよい。残りの基は、置換基を有していてもよいアリール、アリールで置換されていてもよいアルキル基およびアルケニル基等であることが好ましい。
【0043】
具体的には、式:
【0044】
【化9】

【0045】
で表したときに、Sに結合しているR、RおよびRのうち、少なくとも1つはアルキル基である。
【0046】
好ましいカチオンAは、式H−1において、Rは置換されていてもよいフェニル基又はナフチル基を、Rは炭素数1〜8のアルキル基を、Rは置換されていてもよいフェニル基又はナフチル基、置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基又は2−インダニル基を表す。
【0047】
具体的にはRは、置換されていてもよいフェニル基又はナフチル基であって、置換基としてメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等の炭素数1〜18程度のアルキル基、メトキシ、エトキシ、プロピル、ブトキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ等の炭素数1〜18程度のアルコキシ基、アセトキシ、プロピオニルオキシ、デシルカルボニルオキシ、ドデシルカルボニルオキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ベンゾイルオキシ等のカルボニル基、フェニルチオ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基等を有していてもよい。
【0048】
は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル等の炭素数1〜8のアルキル基を表す。
【0049】
が置換されていてもよいフェニル基又はナフチル基であるときは、その置換基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等の炭素数1〜18程度のアルキル基、メトキシ、エトキシ、プロピル、ブトキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ等の炭素数1〜18程度のアルコキシ基、アセトキシ、プロピオニルオキシ、デシルカルボニルオキシ、ドデシルカルボニルオキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ベンゾイルオキシ等のカルボニル基、フェニルチオ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基等を挙げることができる。
【0050】
が置換されていてもよいアルキル基であるときは、アルキル鎖の炭素数は1〜18が好ましく、さらに好ましくは1〜12、最も好ましくは1〜6である。置換基として、メトキシ、エトキシ、プロピル、ブトキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ等のアルコキシ基、アセトキシ、プロピオニルオキシ、デシルカルボニルオキシ、ドデシルカルボニルオキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ベンゾイルオキシ等カルボニル基、フェニルチオ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、フェニル基等で置換されていてもよい。
【0051】
がシクロアルキル基であるときは、炭素数3〜12のものが好ましく、シクロヘキシル基、シクロヘキサノニル基、シクロペンチル基、1−アセナフテニル基、ビシクロノニル基、ノルボルニル基、クマリニル基、ジヒドロベンゾフラニル基、カンファー基等を挙げることができる。
【0052】
が置換されていてもよいアルケニル基のときは、アルケニル鎖の炭素数は1〜18が好ましく、さらに好ましくは1〜12、最も好ましくは1〜6である。置換基として、メトキシ、エトキシ、プロピル、ブトキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ等のアルコキシ基、アセトキシ、プロピオニルオキシ、デシルカルボニルオキシ、ドデシルカルボニルオキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ベンゾイルオキシ等カルボニル基、フェニルチオ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、フェニル基等で置換されていてもよい。特に、2−アルケン−1−イル型のアルケニルが好ましい。
【0053】
その他に好ましいカチオンAは、下式H−2:
【0054】
【化10】

【0055】
で示される化合物であり、nは1〜3であり、2が最も好ましい。Rは、置換されていてもよいフェニル基又はナフチル基、置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基又は2−インダニル基を表す。具体的には式H−1のRで挙げた基を挙げることができる。
【0056】
熱カチオン開始剤のアニオンBは、SbF6-、PF6-、AsF6-、BF4-、B(アリール)4-イオン等を挙げることができるが、好ましくはSbF6-、PF6-、およびBF4-であり、最も好ましくはSbF6-である。
【0057】
熱カチオン開始剤の具体例を以下に示す。式中XはアニオンBを表す。
【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
熱カチオン開始剤は、エポキシ樹脂成分100重量部に対して、例えば0.01重量部〜5重量部、好ましくは0.1重量部〜3重量部で添加することが好ましい。
【0062】
本発明で用いられる充填剤は、元素の長周期表中で2族に含まれる元素を含み、酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群より選ばれるものが好ましい。これらの充填剤を添加することで接着強度が向上する理由については不明であるが、充填剤に用いられる材料には、適度なアルカリ性を有するものが好ましいと考えられる。
【0063】
元素の長周期表中の2族は、それぞれ旧2A族に属し、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムが好ましい。2族元素と共にアルミニウムおよびシリコン等の他の元素との複合酸化物、複合水酸化物の形態(形式上、複合酸化物または複合水酸化物として表現できるものを含む。)であってもよい。以下、ここで定義された充填剤を、「本発明で定義された充填剤」というものとする。
【0064】
例えば、マグネシウムの場合は、MgO、Mg(OH)2、タルク(talc:2MgO・SiO2(OH)magnesium silicate hydroxide)、コージェライト(cordierite:2MgO・2Al23)、メタケイ酸マグネシウム(マグネシウムメタシリケート)、オルトケイ酸マグネシウム等を挙げることができる。これらの中でも、特にタルクおよびコージェライトが好ましい。
【0065】
カルシウムおよびバリウムの場合は、炭酸カルシウム、および炭酸バリウム等の炭酸塩が好ましい。
【0066】
本発明で定義された充填剤の粒径は、通常0.5〜15μm、好ましくは、5μm以下である。
【0067】
本発明で定義された充填剤は、組成物中に少しでも存在すればそれだけ接着強度が向上する。従って、その含有量は、エポキシ樹脂成分100重量部に対して、0より多ければよく、好ましくは1重量部以上、特に5重量以上、最も好ましくは10重量部以上である。また、含有量の上限は、取り扱い性、物性等を考慮して決められるが、通常200重量部以下、好ましくは100重量部以下、特に50重量部以下である。
【0068】
また本発明では、必要に応じて、例えばシリカ、アルミナ等のその他の充填剤を任意成分として含むことができる。一般には、本発明で定義された充填剤とその他の充填剤の合計が、エポキシ樹脂成分100重量部に対して、200重量部以下、好ましくは100重量部以下となるように配合する。
【0069】
本発明の組成物は、さらに必要によりシランカップリング剤、着色剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、消泡剤、レベリング剤等を含んでもよい。
【0070】
例えば、シランカップリング剤としては、特に制限はないが、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、SH6062、SZ6030(以上、東レ・ダウ コーニング・シリコーン(株))、KBE903、KBM803(以上、信越シリコーン(株))などが挙げられる。
【0071】
以上のような本発明のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を硬化させるには、まず紫外光を適当な時間(例えば5秒〜5分間)だけ照射して硬化させ、さらに60℃〜180℃、好ましくは80℃〜150℃の間で適当な時間(例えば10分〜4時間)加熱して後硬化させる。本発明の組成物では、光照射により硬化しほぼ実用的な特性が得られるが。さらに熱処理を加えることに、密着性、耐水性等の耐久性が著しく向上する。このため、従来の光硬化型接着剤の作業性の良さを有しながら、耐久性等に優れた組成物になるのである。
【0072】
本発明のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物は、接着対象の少なくとも1つがアルカリガラス、ノンアルカリガラスである用途の接着剤として好ましく用いることができる。具体的なものとしては、CMOS等の半導体装置のパッケージ用の接着剤として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0073】
<材料>
実施例および比較例で用いた各材料は次の通りである。
【0074】
エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日本化薬(株)製、RE−310S、25℃において液状(粘度13000〜17000mPa・s)、エポキシ当量175〜190g/eq;
エポキシ樹脂2:脂環式エポキシ樹脂、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート(UnionCarbide社UVR−6128);
エポキシ樹脂3:脂環式エポキシ樹脂、UCB Chemical社CAT002;
エポキシ樹脂4:水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、大日本インキ(株)Epiclon EXA7015、エポキシ当量210g/eq;
エポキシ樹脂5:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、日本化薬(株)製、XD−1000、エポキシ当量240〜260g/eq;
シランカップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;
ポリオール:ポリエーテルポリオール、住化バイエルウレタン(株)製スミフェンTM(SUMIPHEN TM);
シリカ:比重2.635、平均粒径1.5μm;
タルク:比重2.70、平均粒径5〜6μm;
光カチオン開始剤:式(C−5)と式(C−6)の混合物(ユニオンカーバイドCYRACURE(TM) Photoinitiator UVI−6976);
熱光カチオン開始剤:下式:
【0075】
【化14】

【0076】
で示される化合物(R’、R”はアルキル基等)、三新化学(株)製SI−60L。
【0077】
<実施例1、比較例1〜4>
表1に示す成分を混合して樹脂組成物を得た。各樹脂組成物をノンアルカリガラス基板に厚さ1mmに塗布し、表面から光を照射した。照射光源は、中圧水銀灯(Eyegraphics Co. H015-L312)を用いて365nmにおける光強度が150mW/cmとなるように調節した(UVメーター:ウシオ
UIT101 @365nmで測定)。30秒間UV照射した。トータルの照射エネルギーは3600mJ/cmである。その後120℃にて1時間熱処理を行った。このようにして得たサンプルを、ASTM D3359に従うごばん目テスト(10×10カット;Cross Hatch Tape test)により耐水性を評価した。その結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例1と比較例2の組成物を用いて、CMOSパッケージにカバーガラスを接着してCMOSアセンブリを製造した。硬化条件は表1と同じトータルの照射エネルギーが3600mJ/cmである。得られたCMOSサンプルにより、表2に示すCMOSの典型的な評価試験を行った。
【0080】
【表2】

【0081】
表2中、グロスリークテストでは、125℃の液体中30秒浸漬したときの気体リークを測定した。グロスリークテスト以外は、いずれも試験条件に曝した後の外観を観察し、クラック、剥がれ等の発生の有無により評価した。
【0082】
<実施例2〜4>
エポキシ樹脂を変更し、表3に示す成分を混合して樹脂組成物を得た。硬化条件は実施例1と同様であるが、UV照射条件に関しては、照射強度150mW/cmにて、樹脂組成物表面のべとつき(タック)がなくなるまでの光照射し、それを硬化に必要なUVエネルギーとして、表3に示した。このエネルギーが小さいほど速く硬化したことを示す。得られたサンプルを実施例1と同様にごばん目テストにより耐水性を評価した。その結果を表3に示す。また、実施例1の結果も同時に示した。このように水素化ビスフェノール型エポキシ樹脂およびジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂から選ばれるエポキシ樹脂を使用することにより、接着性が低下することなく硬化速度が速くなる。
【0083】
【表3】

【0084】
以上から明らかなように、硬化樹脂成分に関して本発明の要旨を外れない限りにおいて、種々の変更が可能である。従って、ここに説明した形態は、例であって、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲がこれに限定されるものでない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のカチオン硬化型エポキシ樹脂は、少なくとも被接着物の一方が、ガラスである場合の接着剤として、とくにCMOS、CCD等の半導体デバイスパッケージ用の接着剤、として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エポキシ樹脂成分、
(b)光カチオン開始剤、
(c)熱カチオン開始剤、および
(d)元素の長周期表中の2族元素を含む酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群より選ばれる充填剤を含有するカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂成分100重量部に対して、前記光カチオン開始剤が0.1重量部〜10重量部、前記熱カチオン開始剤が0.01重量部〜5重量部および前記充填剤が1〜100重量部で含有されることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂成分が、芳香環を有するエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂成分が、水素化ビスフェノール型エポキシ樹脂およびジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれるエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
水素化ビスフェノール型エポキシ樹脂およびジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれるエポキシ樹脂がエポキシ樹脂成分全体の10重量%以上含まれる請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記光カチオン開始剤が、光照射によってカチオン活性種を発生するAで表される塩であって、このカチオンAが、芳香族ヨードニウムイオンおよび芳香族スルホニウムイオンからなる群より選ばれる請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記熱カチオン開始剤が、熱によってカチオン活性種を発生するAで表される塩であって、このカチオンA+が、Sに結合している3つの基のうち少なくとも1つがアルキル基であるスルホニウムイオン、およびSに結合している3つの基のうち2つの基が一緒になってアルキレン基となってSと共に環を形成しているスルホニウムイオンからなる群より選ばれる請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記光カチオン開始剤のアニオンBが、SbF6-、PF6-、AsF6-、BF4-およびB(アリール)4-イオンからなる群より選ばれる請求項6記載の組成物。
【請求項9】
前記熱カチオン開始剤のアニオンBが、SbF6-、PF6-、AsF6-、BF4-およびB(アリール)4-イオンからなる群より選ばれる請求項7記載の組成物。
【請求項10】
(e)ポリオール化合物をさらに含有する請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記(c)充填剤に含まれる2族元素が、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記(c)充填剤に含まれる2族元素が、マグネシウムであることを特徴とする請求項11記載の組成物。
【請求項13】
前記(c)充填剤が、MgO、Mg(OH)、タルク、コージェライト、メタケイ酸マグネシウムおよびオルトケイ酸マグネシウムからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項11記載の組成物。

【国際公開番号】WO2005/059002
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516330(P2005−516330)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018790
【国際出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(500538520)ヘンケル コーポレイション (99)
【氏名又は名称原語表記】HENKEL CORPORATION
【Fターム(参考)】