説明

カチオン重合性樹脂組成物

【課題】 少量の陰イオン交換体にて腐食性陰イオンを十分、捕捉でき、その結果、重合性樹脂の硬化性低下防止と金属の腐食防止とが両立されたカチオン重合性樹脂組成物を提供することを、目的とする。
【解決手段】 少なくとも陰イオンを交換するイオン交換物質2、充填剤1及びカチオン重合開始剤が含有されるカチオン重合性樹脂組成物において、充填剤1の平均粒径がイオン交換物質2のそれより大きく、イオン交換物質2がカチオン重合開始剤1重量部に対し0.5〜4重量部含有されることを特徴とするカチオン重合性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、液晶シール材又はカメラモジュール用接着剤等に有用なカチオン重合性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン重合性樹脂組成物は、接着性、ポットライフ及び作業性等の観点から、従来、半導体封止材料に用いられている。
しかし、カチオン重合性樹脂組成物は、カチオン重合開始剤中の陰イオン(PF、SbF等)の存在に因り、金属部(ITO電極部、ワイヤーボンド接合部等)を腐食することがある。そのため、液晶シール材やカメラモジュール用接着剤等として用いるには、問題があった。
【0003】
そこで、金属の腐食を抑えたカチオン重合性樹脂組成物として、特許文献1には、陰イオン交換体を配合した液晶シール材用接着剤が提案されている。この接着剤においては、陰イオン交換体は、カチオン重合開始剤中の腐食因子である陰イオン(腐食性陰イオン)の捕捉(吸着)剤として用いられている。
【0004】
しかし、上記接着剤においては、腐食性陰イオンを十分、捕捉するためには陰イオン交換体を多量に使用しなければならず、その結果、接着剤の硬化性が低下する、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−43866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本願発明は、少量の陰イオン交換体にて腐食性陰イオンを十分、捕捉でき、その結果、重合性樹脂の硬化性低下防止と金属の腐食防止とが両立されたカチオン重合性樹脂組成物を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願発明者が鋭意、検討した結果、以下の本願発明を成すに到った。
即ち、本願第1発明は、少なくとも陰イオンを交換するイオン交換物質、充填剤及びカチオン重合開始剤が含有されるカチオン重合性樹脂組成物において、充填剤の平均粒径がイオン交換物質のそれより大きく、イオン交換物質がカチオン重合開始剤1重量部に対し0.5〜4重量部含有されることを特徴とするカチオン重合性樹脂組成物、を提供する。
【0008】
本願第2発明は、充填剤の平均粒径が5〜50μmであることを特徴とする本願第1発明のカチオン重合性樹脂組成物、を提供する。
【0009】
本願第3発明は、カチオン重合性樹脂組成物が液晶シール材又はカメラモジュール用接着剤であることを特徴とする本願第1発明又は第2発明のカチオン重合性樹脂組成物、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本願発明により、少量の陰イオン交換体にて腐食性陰イオンを十分、捕捉でき、その結果、重合性樹脂の硬化性低下防止と金属の腐食防止とが両立されたカチオン重合性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】カチオン重合樹脂硬化膜(液晶シール材)にて被覆された金属電極(配線)部分の拡大縦断面図である。A及びBは、それぞれ本願発明及び従来の各カチオン重合樹脂硬化膜中における水分の浸透経路の概念図である。
【0012】
【図2】櫛形電極基板の平面図である。A及びBは、それぞれカチオン重合性樹脂組成物の塗布前及び後を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明を実施形態に基づき詳述する。
本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物においては、少なくとも陰イオンを交換するイオン交換物質を含有する。このイオン交換物質は、少なくともカチオン重合開始剤中の陰イオンを捕捉(吸着)する機能を有する。
【0014】
「少なくとも陰イオンを交換する」イオン交換物質としては、陰イオン交換物質及び両(陰及び陽)イオン交換物質が挙げられる。「イオン交換物質」としては、イオン交換体及びイオン交換樹脂が挙げられ、イオン交換体が好ましい。尚、重合性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、イオン交換体としては、これを水に分散し、本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物におけるイオン交換体濃度と同じ濃度の水性スラリーを調製したとき、そのpHが8以下となるものが好ましい。
【0015】
イオン交換物質は、粒子状であり、形状は限定されず例えば破砕状(不定形)である。イオン交換物質の平均粒径は、通常1〜10(典型的には1〜5)μmである。
イオン交換物質としては、具体的には、Bi系陰イオン交換体、Zr系陰イオン交換体、Sb,Bi系両イオン交換体等の1種以上が挙げられる。
【0016】
本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物においては、充填剤を含有する。充填剤は、硬化樹脂中における水分の浸透経路(流路)を制御する機能を有する。
充填剤は、粒子状であり、形状は限定されないが球状が好ましい。充填剤の平均粒径は、イオン交換物質の平均粒径より大きく、例えばイオン交換物質の平均粒径の2〜100(典型的には5〜50)倍である。具体的には、充填剤の平均粒径は、5〜50(特に10〜30)μmが好ましい。充填剤の平均粒径が小さ過ぎると水分の浸透経路の制御が不十分となることがあり、逆に大き過ぎるとイオン交換能力を超える局部的な水分量の増加が発生するとなることがある。
【0017】
充填剤としては、無機充填剤及び/又は有機充填剤が挙げられる。具体的には、無機充填剤としては、ガラス、シリカ類[シリコーンパウダー、酸化ケイ素粉、アモルファスシリカ、溶融シリカ、無定形シリカ、結晶シリカ等]、酸化物[酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム等]、バリウム化合物[硫酸バリウム、チタン酸バリウム等]、カルシウム化合物[炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等]、マグネシウム化合物[炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等]、亜鉛化合物[水酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等]、ジルコニウム化合物[ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム等]、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、窒化物[窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等]、炭化物[炭化ケイ素等]、金属[銅、銀、半田等]、ダイヤモンド、クレー、タルク、マイカ、雲母、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等製の各充填剤の1種以上が挙げられる。
【0018】
有機充填剤としては、具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂)、架橋(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等製の各充填剤の1種以上が挙げられる。
充填剤としては、樹脂の硬化性及び耐熱性の観点から、ガラス製充填剤やアクリル樹脂製充填剤が好ましい。
【0019】
本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物においては、カチオン重合開始剤を含有する。カチオン重合開始剤としては、光カチオン重合開始剤が挙げられる。光カチオン重合開始剤としては、例えばオニウム塩(芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩等)、ボレ−ト塩、トリアジン化合物、アゾ化合物、過酸化物、有機金属錯体類[メタロセン塩アリールシラノール−アルミニウム錯体等(鉄−アレン錯体、チタノセン錯体)]等の1種以上が挙げられる。
【0020】
光カチオン重合開始剤中の陰イオンとしては、具体的には、PF、SbF、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサクロロアンチモネート等の1種以上が挙げられる。
【0021】
具体的には、光カチオン重合開始剤としては、トリアリールスルホニウム塩、ベンジルスルホニウム塩、トリフェニルスルホニウム塩、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム塩、トリアリールヨードニウム塩,ジアリールヨードニウム塩、ジフェニルヨードニウム塩、4−メトキシジフェニルヨードニウム塩、ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム塩、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム塩、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム塩、1,3−ジケト−2−ジアゾ化合物、ジアゾベンゾキノン化合物、ジアゾナフトキノン化合物、ヘキサクロロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヘキサフルオロアンチモネート(4,4´−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルフォニオ]フェニルスルフィド、ビス〔4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル〕スルフィド、η5−2,4−(シクロペンタジェニル)〔1,2,3,4,5,6−η−(メチルエチル)ベンゼン〕−鉄(1+)等の1種以上が挙げられる。
【0022】
他のカチオン重合開始剤としては、熱カチオン重合開始剤が挙げられる。具体的には、熱カチオン重合開始剤としては、トリフェニルスルホニウム四フッ化ホウ素、トリフェニルスルホニウム六フッ化アンチモン、トリフェニルスルホニウム六フッ化ヒ素、トリ(4−メトキシフェニル)スルホニウム六フッ化ヒ素、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム六フッ化ヒ素、p−t−ブチルベンジルテトラヒドロチオフェニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウム四フッ化ホウ素、N,N−ジメチル−N−(4−クロロベンジル)アニリニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジメチル−N−(1−フェニルエチル)アニリニウム六フッ化アンチモン、N−ベンジル−4−ジメチルアミノピリジニウム六フッ化アンチモン、N−ベンジル−4−ジエチルアミノピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸、N−(4−メトキシベンジル)−4−ジメチルアミノピリジニウム六フッ化アンチモン、N−(4−メトキシベンジル)−4−ジエチルアミノピリジニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジメチル−N−(4−メトキシベンジル)トルイジニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジエチル−N−(4−メトキシベンジル)トルイジニウム六フッ化アンチモン、エチルトリフェニルホスホニウム六フッ化アンチモン、テトラブチルホスホニウム六フッ化アンチモン、ジフェニルヨードニウム六フッ化ヒ素、ジ−4−クロロフェニルヨードニウム六フッ化ヒ素、ジ−4−ブロムフェニルヨードニウム六フッ化ヒ素、ジ−p−トリルヨードニウム六フッ化ヒ素、フェニル(4−メトキシフェニル)ヨードニウム六フッ化ヒ素等の1種以上が挙げられる。
【0023】
本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物においては、重合性樹脂を含有する。重合性樹脂は、常温で液状又は固体状のものが挙げられ、液状のものが好ましい。重合性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、テトラヒドロフラン化合物、オキソラン化合物、環状エステル化合物、ビニルエーテル化合物、プロペニルエーテル化合物等の1種以上が挙げられ、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂が好ましい。
【0024】
具体的には、エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A型、AD型、F型、及びS型等)、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、多価フェノールのグリシジルエーテル、脂環式エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フルオレイン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ポリプロピレンジグリシジルエーテル、ポリブタジエン又はポリスルフィドの両末端ジグリシジルエーテル修飾物、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等の1種以上が挙げられる。
【0025】
オキセタン樹脂としては、具体的には、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス−{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3−エチル3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニル−シルセスキオキサン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、3−シクロヘキシルメチルー3−エチル−オキセタン、ビス{〔(1−エチル)3−オキセタニル〕メチル}エーテル、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ベンゼン、1,3−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ベンゼン、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、1,2−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕エタン、1,2−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等の1種以上が挙げられる。
【0026】
本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物においては、その他、陽イオン交換物質(陽イオン交換体等)、カップリング剤(シランカップリング剤等)、着色剤、粘度調節剤、チキソトロピー剤、消泡剤(ポリジメチルシロキサン、変性シリコーン系、フッ素系、高分子系、界面活性剤、エマルジョンタイプ等)、レベリング剤、光増感剤、有機充填剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、可塑剤、抗菌剤、防黴剤、安定剤、酸化防止剤、及び蛍光体等を含有してよい。
【0027】
好ましくは、本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、少なくとも陰イオンを交換するイオン交換物質、充填剤及び光カチオン重合開始剤が含有される光カチオン重合性樹脂組成物である。
【0028】
本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物の組成において、イオン交換物質は、カチオン重合開始剤1重量部に対し、0.5〜4(特に1〜2)重量部含有するのが好ましい。イオン交換物質の含有量が多過ぎると、重合性樹脂組成物の硬化性が低下することがある。また、重合性樹脂100重量部に対しそれぞれ、充填剤は10〜100(特に20〜50)重量部及びカチオン重合開始剤は1〜5(特に2〜4)重量部含有するのが好ましい。充填剤の含有量が多過ぎると、塗布性や接着力等の接着剤としての機能が低下することがある。
【0029】
本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、硬化性低下防止と金属の腐食防止とが両立されるため、液晶シール材又はカメラモジュール用接着剤等に特に好適である。
【実施例】
【0030】
以下、本願発明を実施例に基づき具体的に説明する。
<カチオン重合性樹脂組成物の調製>
・実施例1
各配合成分を均一に混合し、更にロールミルにて均一分散させ、下記配合組成の光カチオン重合性樹脂組成物を調製した。「平均粒径」は、レーザー光回折法を用いた散乱式粒度分布測定装置により求めた累積重量平均値D50(又はメジアン径)である。
光カチオン重合性樹脂組成物(配合組成);
エポキシ樹脂[三井化学(株)製、「エポミックR−140」]100重量部、芳香族スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤[ADEKA(株)製、「アデカオプトマーSP−170」]2重量部、Sb,Bi系両イオン交換体[東亜合成(株)製、「IXE−600」、平均粒径1.5μm]4重量部、球状ガラス粒子[ポッターズ・バロティーニ(株)製、「GB210」、平均粒径18μm]40重量部。
【0031】
・実施例2
球状ガラス粒子40重量部を球状架橋アクリル樹脂粒子[綜研化学(株)製、「MR−30G」、平均粒径30μm]20重量部に替えた以外は、実施例1と同様にして、光カチオン重合性樹脂組成物を調製した。
【0032】
・実施例3
Sb,Bi系両イオン交換体の配合量4重量部を2重量部に替えた以外は、実施例1と同様にして、光カチオン重合性樹脂組成物を調製した。
【0033】
・実施例4
芳香族スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤を芳香族スルホニウム塩系熱カチオン重合開始剤[三新化学工業(株)製、「サンエイドSI−100L」]に替えた以外は、実施例1と同様にして、熱カチオン重合性樹脂組成物を調製した。
【0034】
・比較例1
球状ガラス粒子を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、光カチオン重合性樹脂組成物を調製した。
【0035】
・比較例2
球状ガラス粒子を球状シリカ[タツモリ(株)製、「アダマファインSO−C3」、平均粒径1μm]に替えた以外は、実施例1と同様にして、光カチオン重合性樹脂組成物を調製した。
【0036】
・比較例3
Sb,Bi系両イオン交換体の配合量4重量部を10重量部に替えた以外は、実施例1と同様にして、光カチオン重合性樹脂組成物を調製した。
【0037】
<カチオン重合性樹脂組成物の評価試験>
カチオン重合性樹脂組成物(各実施例1〜4、及び比較例1〜3)の金属腐食性及び硬化性を、下記櫛形電極を用い、試験した。
【0038】
図2,Aに示すとおり、ガラス基板7上にアルミ配線5(回路幅100μm、回路間100μm、回路厚10μm)を配し、その中央部を残し周縁部だけをソルダーレジスト8にて封止し、櫛形電極基板を作製した。
【0039】
次いで、図2,Bに示すとおり、この櫛形電極基板の中央(開口)部上に、カチオン重合性樹脂組成物4(各実施例1〜4、及び比較例1〜3)をバーコートにて塗布した(塗布厚100μm)。
次いで、塗布樹脂4(各実施例1〜3、及び比較例1〜3)については、7kW高圧水銀灯にて紫外線照射(波長365nm、照射量3J/cm)し、光硬化させた。
また、塗布樹脂4(実施例4)については、加熱(120℃にて1時間、更に180℃にて1時間)硬化させた。
【0040】
次いで、この櫛形電極基板を、印加電圧24V下、環境試験機(温度85℃、湿度85%)内に入れ、168時間、放置した。その後、櫛形電極基板を環境試験機から取り出し、ガラス基板7側から電子顕微鏡(50倍)にて観察し、アルミ配線5の腐食状態を調べた。更に、櫛形電極基板を切断し、その断面を電子顕微鏡(50倍)にて観察し、塗布樹脂4の硬化状態を調べた。結果は、以下のとおりであった。
【0041】
実施例1のカチオン重合性樹脂組成物を用いた場合、アルミ配線上に約10μm長の腐食が1か所、確認された。塗布樹脂は、全厚に亘って、完全に硬化していた。
実施例2のカチオン重合性樹脂組成物を用いた場合、アルミ配線上に腐食は全く確認されなかった。塗布樹脂は、全厚に亘って、完全に硬化していた。
【0042】
実施例3のカチオン重合性樹脂組成物を用いた場合、アルミ配線上に約10μm長の腐食が1か所、及び約5μmの斑点状腐食が1か所、確認された。塗布樹脂は、全厚に亘って、完全に硬化していた。
実施例4のカチオン重合性樹脂組成物を用いた場合、アルミ配線上に約5μmの斑点状腐食が1か所、確認された。塗布樹脂は、全厚に亘って、完全に硬化していた。
【0043】
比較例1のカチオン重合性樹脂組成物を用いた場合、アルミ配線上に20〜50μmの斑点状の腐食が多数(20か所以上)、確認された。塗布樹脂は、全厚に亘って、完全に硬化していた。
【0044】
比較例2のカチオン重合性樹脂組成物を用いた場合、アルミ配線上に30〜50μmの斑点状腐食が12か所、約10μmの斑点状腐食が20か所以上、確認された。
塗布樹脂は、全厚に亘って、完全に硬化していた。
【0045】
比較例3のカチオン重合性樹脂組成物を用いた場合、アルミ配線上に腐食は確認されなかった。塗布樹脂は、塗布表面から数十μmまでの表層部しか硬化しておらず、それより下の深層部は未硬化であった。
【作用・機序】
【0046】
本願発明の作用・機序は、以下のように考えられる。
一般に、陰イオン交換体は、完全には総ての陰イオンを補足(イオン交換)できる訳ではない。そのため、陰イオン交換体が配合されたカチオン重合樹脂硬化物であっても、僅かに遊離の腐食性陰イオンが残存する。
【0047】
図1に示すとおり、そのようなカチオン重合樹脂硬化膜4(液晶シール材)にて金属(アルミ、ITO、銅等)電極5が被覆された場合、以下のような機序によって金属電極5は腐食する。即ち、先ず、樹脂硬化膜4表面から水分3(大気中の湿気等)が吸収される。その水分3が、樹脂硬化物4中を浸透・移動し、その途中、遊離の腐食性陰イオンを取り込む。腐食性陰イオンを取り込んだ水分3(腐食性水分)は、通常、酸性水となり、やがて金属電極5表面まで浸透・到達する。こうして、金属電極5が、腐食性水分3により侵され腐食する。
【0048】
従って、金属電極5の腐食を防ぐには、腐食性水分3を、これが金属電極5表面に到達する前に、陰イオン交換体粒子2と接触させ、それにより腐食性陰イオンを陰イオン交換体粒子2にて補足・取り除くことで、水分3の腐食性を消失させればよい。
【0049】
しかし、図1,Bに示すとおり、従来のカチオン重合樹脂硬化物においては、水分3は、陰イオン交換体粒子2同士の間隙を擦り抜け、陰イオン交換体粒子2と接触することは少なかった。その結果、腐食性水分3中の腐食性陰イオンを、陰イオン交換体2にて効率的に補足することはできなかった。
【0050】
一方、図1,Aに示すとおり、本願発明に係るカチオン重合樹脂硬化物においては、陰イオン交換体粒子2同士の間隙が、充填剤1にて予め塞がれている。そのため、水分3が、陰イオン交換体粒子2同士の間隙を擦り抜けることは難しく、強制的に陰イオン交換体粒子2の方向に向けられるようになっている。即ち、充填剤1により、水分3が陰イオン交換体粒子2と接触するよう、水分3の浸透経路(流路)6が制御されている。
【0051】
以上の理由に因り、本願発明に係るカチオン重合性樹脂組成物においては、従来に比し、陰イオン交換体による腐食性陰イオンの補足効率(陰イオン交換効率)が極めて高い。そのため、陰イオン交換体を大幅に減量することができる。その結果、重合性樹脂の硬化性低下防止と金属の腐食防止とを、両立することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 充填剤
2 陰イオン交換体
3 水分
4 カチオン重合性樹脂組成物又はカチオン重合樹脂硬化膜
5 アルミ配線又は金属電極
6 水分の浸透経路(流路)
7 ガラス基板
8 ソルダーレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも陰イオンを交換するイオン交換物質、充填剤及びカチオン重合開始剤が含有されるカチオン重合性樹脂組成物において、充填剤の平均粒径がイオン交換物質のそれより大きく、イオン交換物質がカチオン重合開始剤1重量部に対し0.5〜4重量部含有されることを特徴とするカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項2】
充填剤の平均粒径が5〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項3】
カチオン重合性樹脂組成物が液晶シール材又はカメラモジュール用接着剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカチオン重合性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−87282(P2012−87282A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251256(P2010−251256)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(591028980)山栄化学株式会社 (45)
【Fターム(参考)】