説明

カチオン電着塗料用補給塗料およびそれを用いる補給方法

【課題】カチオン電着塗料の補給塗料の成分を検討し、ワンパックで供給可能にすることを目的とする。
【解決手段】カチオン電着塗料浴槽へ補給される補給塗料において、補給塗料のE型粘度計による25℃で5rpmでの粘度が100〜500mPa・Sであり、チクソトロピーインデックス(Ti値)が2〜4の範囲であることを特徴とするカチオン電着塗料用補給塗料およびそれを用いてワンパックでカチオン電着塗料浴に補給する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料に補給する高濃度の樹脂を含有する補給塗料およびそれを用いるカチオン電着塗料への補給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行なわれる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体などの大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。
【0003】
カチオン電着塗装は自動車の組立工場などの広い工場に据付けられた電着浴中で電着塗装処理された後、焼付られて、硬化した下塗塗膜を形成する。カチオン電着塗料浴は水性の粘度の低い塗料液であり、前述のように電圧を印加することにより被塗物上に塗料成分が析出して塗膜を形成するのであるが、塗装をしている間に顔料や樹脂成分が被塗物と共に持ち出されて、カチオン電着塗料浴中に塗料の被膜形成成分が少なくなる。したがって、一般にカチオン電着塗料浴には、補給塗料と呼ばれる濃度の高い塗料が塗料会社から自動車の組立工場に運ばれて、カチオン電着塗料浴に補給される。
【0004】
繰り返し使用され、固形分濃度が少なくなったカチオン電着塗料浴槽に適用する補給塗料の場合、補給塗料の固形分濃度が高く、かつ配合される顔料の比重が大きいことが一般的である。さらに補給塗料の粘度が低いために、配合されている顔料の沈降が起こりやすい。顔料が沈降した補給塗料は、カチオン電着塗料浴槽に補給されるときに、十分に撹拌を施し、沈降した顔料を再分散する必要がある。しかし、再分散する際に、多大なエネルギーが消費されるだけでなく、顔料の再分散が不十分な場合、有効成分の設計通りの補給ができず、その結果カチオン電着塗料浴槽内の構成成分が設計から外れたものとなり、種々の不具合を引き起こす恐れがある。この原因は、カチオン電着塗料樹脂補給液(硬化剤を含む樹脂エマルション)の粘度が非常に低いことによる。従って、顔料分散ペーストとカチオン電着塗料樹脂補給液を分けて取り扱えば(ツーパック化)、もともと粘度の高い顔料分散ペーストは沈降が緩和されるために、比較的安定な状態を保つことができる。その一方で、上記カチオン電着用補給塗料のツーパック化は、輸送コストの増大を引き起こし、塗料のユーザーからは補給塗料を再度1液化し、なおかつ上記の不具合を解消した補給塗料の開発が望まれていた。
【0005】
カチオン電着塗料の補給塗料という概念が考察されている従来技術は非常に少ないが、たとえば特開2005−126749号公報(特許文献1)には、補給塗料の貯蔵スペースや貯蔵にかかるメンテナンスを削減するために、配送用容器を備えた移動体に補給塗料を入れることを記載する。この特許文献1は、単に補給塗料の置き場所を使用者(顧客)において削減する方法を記載しているのみであって、補給塗料の成分に関する特許ではない。
【0006】
特開2002−256495号公報(特許文献2)には、一つのカチオン電着塗料の色相を、別の色相に移行する際に、補給剤の色相を変えることにより徐々に移行することが記載されている。この補給塗料は単に色が違うだけであって、補給塗料の成分自体を検討したものではない。
【0007】
特開平7−188987号公報(特許文献3)には、カチオン電着塗料の補給液中にジメチルラウリルアミンの有機酸塩を配合したものが開示されている。これは電着浴の酸成分/塩基成分の構成比をコントロールするために、ジメチルラウリルアミンの有機酸塩を添加したものにすぎず、これも補給塗料の成分をコントロールしたものではない。
【0008】
以上述べたように、カチオン電着塗料の補給塗料について検討した例は非常に少ない。
【特許文献1】特開2005−126749号公報
【特許文献2】特開2002−256495号公報
【特許文献3】特開平7−188987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術では殆ど検討されなかったカチオン電着塗料の補給塗料の成分の検討を行い、補給塗料をツーパックからワンパックにすると同時に、塗料成分の沈降を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カチオン電着塗料浴槽へ補給される補給塗料において、補給塗料のE型粘度計による25℃で5rpmでの粘度が100〜500mPa・Sであり、チクソトロピーインデックス(Ti値)が2〜4の範囲であることを特徴とするカチオン電着塗料用補給塗料を提供する。
【0011】
また、本発明は固形分濃度が30質量%以上であるカチオン電着塗料用補給塗料を提供する。
【0012】
さらに本発明は、前記補給塗料は粘度調整剤を配合することにより粘度調節をおこなうことを提供する。
【0013】
さらにまた、本発明は、粘度調整剤が塗料中の樹脂固形分に対して0.1〜0.5質量%の量で含有するカチオン電着塗料用補給塗料を提供する。
【0014】
また本発明は、カチオン電着塗料浴槽へ塗料を補給する場合に、顔料分散ペーストと高濃度カチオン電着塗料樹脂補給液とのツーパックで補給する方法に代えて、顔料分散ペーストと高濃度カチオン電着塗料樹脂補給液を含むワンパック補給塗料をE型粘度計による25℃で5rpmでの粘度100〜500mPa・Sおよびチクソトロピーインデックス(Ti値)2〜4の範囲にすることを特徴とするカチオン電着塗料への補給塗料の補給方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、カチオン電着塗料の補給塗料中に粘度調整剤を単に配合することにより、これまで顔料分散ペーストと高濃度カチオン電着塗料樹脂補給液とのツーパックで補給していたが、それをワンパックにすることが可能になったのである。粘度調整剤を配合して、E型粘度計による25℃で5rpmでの粘度を100〜500mPa・Sかつチクソトロピーインデックス(Ti値)を2〜4の範囲に調整すれば、顔料の沈降が抑制され、再分散することが必要なくそのまま補給することができるので、補給塗料の作成が一液ですむということ、および顧客へ一液で配送できるということなどの大きな利点が存在する。
【0016】
粘度調整剤は一般の粘性のある塗料には通常配合されるものであるが、カチオン電着塗料には粘度調整剤は通常必要ない。なぜならば、電着塗料は前述のように粘度の低い、いわゆるしゃぶしゃぶ状態の塗料であるので、粘度の調整は必要なかった。また、粘度調整剤を電着塗料に配合することは、塗着時に固形分が90重量%ぐらいに上昇するのであるが、その際に粘度調整剤の存在により、塗膜のフロー性が悪くなり、そのため仕上がり肌が悪くなる。本発明によれば、これまでカチオン電着塗料組成物には配合されなかった粘度調整剤を電着塗料の補給塗料に配合することにより、ツーパックの塗料をワンパックにすることができるのであり、産業的な貢献は図り知れない。粘度調整剤は補給塗料に配合される場合、電着槽本槽において希釈されることにより粘度調整作用が大きく低下する。また、粘度調整剤として塗着した塗膜に濃縮されないものを選択することにより、粘度調整剤がもたらす悪影響(フロー性の悪化)は低くすることができる。
【0017】
電着塗料の粘度が低くなるのは、前述したように、硬化剤を含むエマルションの粘度が低いために電着塗料全体の粘度が低くなるためである。この塗料に補給する場合、従来の電着塗料を高濃度化したワンパック化した補給用塗料としても、チクソ性を付与するなどの粘性設計がなされていないために、従来の補給用塗料をそのままワンパック化しても補給塗料に含まれている顔料成分が沈降するという不具合が発生するおそれがある。この不具合を解消するために、従来は補給用塗料の成分を顔料分散ペーストと、電着塗料樹脂補給液とからなるツーパック化するかあるいは、ワンパック化された補給用塗料を撹拌し続けるなどの措置を施す必要があった。ツーパック化した場合、前記顔料分散ペーストでは、比較的粘度が高いために、静置状態でも顔料が沈降することが少なく、また電着樹脂補給液は沈降のおそれのある顔料成分を含有しておらず、従って上記の不具合が解消されていたものであるが、前述の通り輸送コストの問題が生じていた。本発明では、ツーパック化などの手段を用いないで、補給塗料の粘度調整を行うだけで問題を解消することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のカチオン電着塗料用補給塗料組成物中には、粘度調整剤が配合される。粘度調整剤としては、種々の市販品が使用できる。粘度制御剤が配合されたカチオン電着用補給塗料組成物の固形分濃度は、30質量%以上であることが望ましい。当該補給塗料組成物の固形分濃度が望ましい下限を下回ると、繰り返し使用され、固形分濃度が少なくなったカチオン電着塗料浴槽に十分な固形分の補給ができず好ましくないためである。
【0019】
従来、ツーパックであったカチオン電着塗料用補給塗料の配合をワンパック化しても、補給等塗料全体の粘度が低いために、補給塗料に含まれている顔料成分が沈降するという不具合が発生するおそれがある。
【0020】
本発明に用いることができる粘性調整剤は、有機系あるいは無機系のいずれのものであってもよく、特に補給塗料のE型粘度計による25℃で5rpmでの粘度が100〜500mPa・Sでありなおかつ、Ti値が2〜4の範囲にすることができればよい。具体的な例としては、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系のもの(楠本化成社製 ディスパロンシリーズなど)、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系のもの(ズードケミー触媒社製 チクソゲルシリーズなど)、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料(竹原化学社製など)、顔料の形状により粘性が発現する扁平顔料、ポリエステル変性ウレタンエマルション、ポリエーテル変性ウレタンエマルション等の各種変性ウレタン化合物(ビックケミー社製 BYKシリーズなど)、等を挙げることができる。
【0021】
これらの中で好ましいものとしては各種変性ウレタンが挙げられる。
【0022】
本明細書中で、チクソトロピーインデックス(Ti値)とは、揺変性を示す指標であり、チクソトロピー性とは温度一定下で攪拌するとゾル状になり、これを放置すると再びゲル状に戻る性質を意味する。顔料粒子の特性やビヒクルにもよるが、分散系でよく見られる性質である。これは、外力によってゲルの内部構造が破壊されて流動性が増すが、静置すると粒子間の結合が再現するためである。一般に、ペーストのような分散系では回転速度に応じて粘度値が低下するが、異なる回転速度aとb(a>b)における粘度値の比を取ったものがチクソトロピーインデックスである。本発明では、E型粘度計を用いて5rpmおよび50rpmで測定し、その粘度の比、η5/η50をTi値とする(測定温度:25℃)。
【0023】
粘度調整剤は、カチオン電着塗料用補給塗料組成物の補給塗料樹脂固形分に対し0.1〜0.5質量%の量、好ましくは0.1〜0.3質量%、より好ましくは0.15〜0.25質量%の量で配合する。0.1質量%よりも少ないと、粘度調整の効果が得られず、補給塗料をワンパック型にすることがむずかしくなる。0.5質量%を越える量を配合しても、粘度調整の効果が得られず、逆に高粘度による不具合、例えば洗浄性や表面乾きなどの欠点を有する。
【0024】
本発明では、カチオン電着塗料用補給塗料の粘度が、E型粘度計の5rpm(25℃)において100〜500mPa・S、好ましくは200〜400mPa・S、さらに好ましくは300〜400mPa・Sの範囲に調整することである。この粘度はE型粘度計による測定される。100mPa・Sよりも少ないと、補給塗料の粘度が足りず、顔料の沈降が生じる。500mPa・Sよりも高いと、粘度が高すぎて、洗浄性や表面乾きなどの欠点を有する。
【0025】
更に、本発明では、カチオン電着塗料用補給塗料のTi値が、2〜4、好ましくは3〜4に調製する必要がある。Ti値が2を下回ると、顔料の沈降安定性が悪化し、4を上回ると、塗料の粘度が上昇しすぎて、貯蔵安定性に悪影響を及ぼし、その結果塗膜外観が悪化して好ましくない。
【0026】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料用補給塗料に用いられるカチオン電着塗料組成物は、補給塗料ということで高濃度であるが、一般のカチオン電着塗料組成物に用いられる組成と同じ物であってよい。以下それぞれの成分について説明する。
【0027】
カチオン性エポキシ樹脂
本発明のカチオン電着塗料用補給塗料に用いられるカチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0028】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0029】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0030】
【化1】

【0031】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0032】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0033】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0034】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0035】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0036】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0037】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0038】
硬化剤
本発明で使用する硬化剤は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートが好ましく、ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0039】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0040】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーも硬化剤として使用してよい。
【0041】
ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートであることが好ましい。形成される塗膜が耐候性に優れるからである。
【0042】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0043】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0044】
ブロック剤としては、低温硬化(160℃以下)を望む場合には、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤、及びホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤を使用するのが良い。
【0045】
カチオン性エポキシ樹脂と硬化剤との合計量は、一般に、カチオン電着塗料用補給塗料の全固形分の25〜85質量%、好ましくは40〜70質量%であってよい。
【0046】
顔料
本発明で用いられる補給塗料は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0047】
顔料は、一般に、補給塗料の全固形分の1〜35質量%、好ましくは3〜25質量%を占める量で補給塗料に含有される。
【0048】
顔料分散ペースト
顔料を補給塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0049】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂ワニスとしては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0050】
上記顔料分散用樹脂ワニスおよび顔料を、顔料100質量部に対し固形分比20〜100質量部混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0051】
補給塗料組成物の調製
補給塗料は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤、及び顔料分散ペーストを水性媒体中に分散することによって調製される。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂の分散性を向上させるために中和剤を含有させる。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0052】
硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分質量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0053】
補給塗料は、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物や、通常のウレタン開裂触媒を含むことができる。鉛を実質的に含まないものが好ましいため、その量は硬化剤であるブロックポリイソシアネート化合物の0.1〜5質量%とすることが好ましい。
【0054】
補給塗料組成物は、水混和性有機溶剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤、などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0055】
本発明によれば、カチオン電着塗料浴槽へ塗料を補給する方法において、その補給塗料中に粘度調整剤を配合することによりツーパック(顔料分散ペーストと固形分濃度が30質量%以上である高濃度カチオン電着塗料樹脂補給液)をワンパックにする塗料の補給方法を提供する。これにより、この塗料をカチオン電着塗料浴槽に補給した場合には、通常の粘度に戻り、なおかつ希釈効果により粘度制御剤の影響はほとんど存在しなくなる。また、補給塗料が補給されたカチオン電着塗料は従来のカチオン電着塗料の成分と全く同一であるので外観や不具合などは全く存在せず、電着塗装が可能である。上記ワンパック化された補給塗料の固形分濃度は30質量%以上である一方、カチオン電着塗料浴槽内の固形分濃度の初期設定は20質量%程度である。このため、繰り返し使用されて固形分濃度が20質量%を下回ったとしても、上記ワンパック化された補給塗料を補給することで、カチオン電着塗料浴槽内の固形分濃度は、初期設定の値を回復することができる。
【実施例】
【0056】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものと解してはならない。
【0057】
製造例1 ブロックイソシアネート硬化剤の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(コロネートHX:日本ポリウレタン(株)製)199部とメチルイソブチルケトン32部、およびジブチルスズジラウレート0.03部を秤りとり、攪拌、窒素をバブリングしながら、メチルエチルケトオキシム87.0部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃からはじめ70℃まで昇温した。そのあと1時間反応を継続し、赤外線分光計によりNCO基の吸収が消失するまで反応させた。その後n−ブタノール0.74部、メチルイソブチルケトン39.93部を加え、不揮発分80%とした。
【0058】
製造例2 カチオン性エポキシ樹脂およびカチオン性エポキシ樹脂と硬化剤からなるエマルションの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、2,4/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20wt%)71.34部と、メチルイソブチルケトン111.98部と、ジブチルスズジラウレート0.02部を秤り取り、攪拌、窒素バブリングしながらメタノール14.24部を滴下ロートより30分かけて滴下した。温度は室温から発熱により60℃まで昇温した。その後30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル46.98部を滴下ロートより30分かけて滴下した。発熱により70〜75℃へ昇温した。30分間反応を継続した後、ビスフェノールAプロピレンオキシド(5モル)付加体(三洋化成工業(株)製BP−5P)41.25部を加え、90℃まで昇温し、IRスペクトルを測定しながらNCO基が消失するまで反応を継続した。
【0059】
続いてエポキシ当量475のビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製YD−7011R)475.0部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、MIBKとの共沸により反応系から水を除去した。125℃まで冷却した後、ベンジルジメチルアミン1.107部を加え、脱メタノール反応によるオキサゾリドン環形成反応を行った。反応はエポキシ当量1140になるまで継続した。
【0060】
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン24.56部,ジエタノールアミン11.46部およびアミノエチルエタノールアミンケチミン(78.8%メチルイソブチルケトン溶液)26.08部を加え、110℃で2時間反応させた。その後エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル20.74部とメチルイソブチルケトン12.85部を加えて希釈し、不揮発物82%に調節した。数平均分子量(GPC法)1380、アミン当量94.5meq/100gであった。
【0061】
別の容器にイオン交換水145.11部と酢酸5.04部を秤り取り、70℃まで加温した上記カチオン性エポキシ樹脂320.11部(固形分として75.0部)および製造例1のブロックイソシアネート硬化剤190.38部(固形分として25.0部)の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。そのあとイオン交換水を加え固形分36%に調整した。
【0062】
製造例3 顔料分散樹脂ワニスの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J)382.20部と、ビスフェノールA111.98部を秤り取り、80℃まで昇温し、均一に溶解した後、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1.53部を加え、170℃で2時間反応させた。140℃まで冷却した後、これに2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート(不揮発分90%)196.50部を加え、NCO基が消失するまで反応させた。これにジプロピレングリコールモノブチルエーテル205.00部を加え、続いて1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.00部、ジメチロールプロピオン酸134.00部を添加し、イオン交換水144.00部を加え、70℃で反応させた。反応は酸価が5以下になるまで継続した。得られた樹脂ワニスはイオン交換1150.50部で不揮発分35%に希釈した。
【0063】
製造例4 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散樹脂ワニスを238部、二酸化チタン100部およびイオン交換水44部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分48.0%)。
【0064】
実施例1〜4および比較例1〜3
カチオン電着塗料用補給塗料の調製
製造例2で得られたカチオン性エポキシ樹脂と硬化剤からなるエマルションと製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤とを固形分比で80/20で均一になるように混合した。これに樹脂固形分100g当たりの酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去する事により、固形分が40%のエマルションを得た。
【0065】
このエマルション1370部および製造例4で得られた顔料分散ペースト67部と、イオン交換水13部とジブチル錫オキサイド8部とを混合して、撹拌後、下記の表1に記載する増粘剤(粘度調整剤)を配合し(配合量は対固形分比0.15〜0.5重量%)、固形分40%、灰分3%のカチオン電着塗料用補給塗料を作成した。この補給塗料の粘度をE型粘度計により測定した。尚、基準は増粘剤がない例であり、比較例1〜3は粘度調整剤を配合するが、E型粘度計で25℃で5rpmで測定した粘度が100〜500mPa・Sの範囲内に入らないものである。
【0066】
また、その塗料について一週間後の堆積量および灰分変化、さらには電着塗装を行った後の外観(表面粗度)を測定した。
【0067】
測定方法は以下の通りであった。
(1)粘度測定
E型粘度、5rpm、50rpm(それぞれの粘度をη、η50とする。)、測定温度:25℃
(2)Ti値
上記粘度測定で求めた粘度のη5/η50の値で表した。
(3)沈降試験
試験管(350mm×直径20mm)に上記補給液を入れ、一週間40℃で静置後、顔料沈降量(目視)および灰分量(試験管上層部および下層部)を測定する。
(4)外観評価
上記補給液を脱イオン水で固形分7%に希釈後、電着塗装を電圧200ボルトで30℃で3分行い、160℃で15分間焼き付けし、得られた電着塗膜のRa値を、JIS−B0601に準拠し、評価型表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、SURFTEST SJ−201P)を用いて測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりRa値を得た。結果を表1に示す。このRa値が小さい程、凹凸が少なく、塗膜外観が良好であるといえる。
【0068】
【表1】

基準は増粘剤がない例である。
【0069】
増粘剤Aはズードケミー触媒社製の非ウレタン系の会合性増粘剤、Optiflo L100、増粘剤Bは同Optiflo L150である。増粘剤Cは伊藤製油社製のウレタン変性ポリエーテル、Additol VXW6388である。増粘剤Dはアクゾノーベル社製のBermodol PUR2150(ウレタン変性ポリエーテル)である。増粘剤Eはビックケミー社製のウレア変性ウレタン型の増粘剤であるBYK−425である。増粘剤Fはエレメンティス社から市販のRheolate 288(ウレア変性ウレタン系会合性増粘剤)である。
【0070】
以上述べたように、粘度調整剤を配合したカチオン電着塗料用補給塗料は、沈降性が粘度調整剤ないものよりも大きく改善されている。E型粘度計による25℃で5rpmでの粘度ηが100〜500mPa・Sである実施例1〜4のものは、顔料の堆積量がなく、灰分の変化もほとんどないので、優れたものということができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料浴槽へ補給される補給塗料において、補給塗料のE型粘度計による25℃で5rpmでの粘度が100〜500mPa・Sであり、チクソトロピーインデックス(Ti値)が2〜4の範囲であることを特徴とするカチオン電着塗料用補給塗料。
【請求項2】
固形分濃度が30質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のカチオン電着塗料用補給塗料。
【請求項3】
前記補給塗料は粘度調整剤を配合することにより粘度調節をおこなう請求項1記載のカチオン電着塗料用補給塗料。
【請求項4】
粘度調整剤が前記補給塗料中の樹脂固形分に対して0.1〜0.5質量%の量で含有する請求項1記載のカチオン電着塗料用補給塗料。
【請求項5】
カチオン電着塗料浴槽へ塗料を補給する方法において、顔料分散ペーストと高濃度カチオン電着塗料樹脂補給液とのツーパックで補給する方法に代えて、顔料分散ペーストと高濃度カチオン電着塗料樹脂補給液を含むワンパック補給塗料をE型粘度計による25℃で5rpmでの粘度100〜500mPa・Sおよびチクソトロピーインデックス(Ti値)2〜4の範囲にすることを特徴とするカチオン電着塗料浴槽への補給塗料の補給方法。
【請求項6】
請求項5記載の補給方法で補給塗料を補給したカチオン電着塗料浴槽を用いて、電着塗装する方法。