説明

カチオン電着塗料組成物、塗膜の形成方法及び塗膜

【課題】得られる硬化膜の熱伝導性が高いカチオン電着塗料組成物を実現する。
【解決手段】本発明のカチオン電着塗料組成物は、ダイヤモンド粉とエポキシ樹脂とを含有し、上記ダイヤモンド粉の体積平均粒子径が0.1μm以上1.5μm以下の範囲内であり、上記エポキシ樹脂は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有し、上記エポキシ樹脂は、ノボラッククレゾール型骨格及びノボラックフェノール型骨格からなる群から選択される少なくとも1つの骨格を有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物、及び当該カチオン電着塗料組成物を用いた塗膜の形成方法、並びに当該方法により得られる塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電着塗装方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても均一に塗装することができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、大型で複雑な形状を有し、高い防錆性が要求される被塗物の下塗り塗装方法として汎用されている。また、他の塗装方法と比較して、塗料の使用効率が極めて高いため、経済的であり、工業的な塗装方法として広く普及している。
【0003】
このような電着塗装方法として、特定の構造を有するエポキシ樹脂を含むカチオン電着塗料組成物を用いることにより、浴安定性に優れ、得られる硬化膜の硬化性を高めることができる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、近年の電気電子分野での小型及び高密度化が進みこれらの機器の発熱量が増加しているため、熱伝導性に優れた塗膜を形成し得るカチオン電着塗料組成物が求められている。
【0005】
一方、エポキシ樹脂と、熱伝導性セラミック粉末としてダイヤモンド粉末とを含んだ熱硬化性接着性組成物が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これは電子回路の封止剤に用いられるものであり、複雑な形状を有する被塗物に対して均一に塗装できるものではない。
【特許文献1】国際公開第98/03595号パンフレット(1998年1月29日公開)
【特許文献2】特表2002−512278号公報(2002年4月23日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、得られる硬化膜の熱伝導性が高いカチオン電着塗料組成物、及び当該カチオン電着塗料組成物を用いた塗膜の形成方法、並びに当該方法により得られる塗膜を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。具体的には、本発明者は、従来、ダイヤモンドが有する固さのために困難と考えられていた、ダイヤモンド粉をエポキシ樹脂に分散混合させることについて検討した。
【0008】
その結果、驚くべきことに、特定のエポキシ樹脂に、特定の粒径を有するダイヤモンド粉を含有させることにより、得られるカチオン電着塗料組成物から形成される硬化膜の熱伝導性が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
更には、上記ダイヤモンド粉の濃度を特定の濃度範囲内にすることにより、得られる硬化膜の熱伝導性が高くなることに加え、浴安定性に優れ、得られる硬化膜の絶縁性及び硬化性が高いカチオン電着塗料組成物を実現できることも見出した。
【0010】
即ち、本発明に係るカチオン電着塗料組成物は、上記課題を解決するために、ダイヤモンド粉とエポキシ樹脂とを含有するカチオン電着塗料組成物であり、上記ダイヤモンド粉の体積平均粒子径が0.1μm以上1.5μm以下の範囲内であり、上記エポキシ樹脂は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有し、上記エポキシ樹脂は、ノボラッククレゾール型骨格及びノボラックフェノール型骨格からなる群から選択される少なくとも1つの骨格を有することを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、上記所定の粒子径を有するダイヤモンド粉を所定のエポキシ樹脂中に均一に分散して含有しているため、電着塗装後の塗膜は熱伝導性に優れる。従って、得られる硬化膜の熱伝導性が高いカチオン電着塗料組成物を提供することができるという効果を奏する。
【0012】
本発明に係るカチオン電着塗料組成物では、上記ダイヤモンド粉の含有量が0.5質量%以上50質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、得られる硬化膜の熱伝導性が高いことに加え、浴安定性に優れ、得られる硬化膜の絶縁性及び硬化性が高いカチオン電着塗料組成物を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0014】
本発明に係るカチオン電着塗料組成物では、上記ダイヤモンド粉の含有量が10質量%以上40質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、得られる硬化膜の熱伝導性が高く、より浴安定性に優れ、得られる硬化膜の絶縁性及び硬化性がより高いカチオン電着塗料組成物を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0016】
本発明に係る塗膜の形成方法は、上記課題を解決するために、上記本発明に係るカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装することにより電着塗膜を形成する工程を含むことを特徴としている。
【0017】
上記方法によれば、上記本発明に係るカチオン電着塗料組成物を用いるため、熱伝導性が高い塗膜を形成することができるという効果を奏する。
【0018】
本発明に係る塗膜は、上記課題を解決するために、上記本発明に係る形成方法により得られることを特徴としている。
【0019】
上記構成によれば、熱伝導性が高い塗膜を提供することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るカチオン電着塗料組成物は、以上のように、ダイヤモンド粉とエポキシ樹脂とを含有するカチオン電着塗料組成物であり、上記ダイヤモンド粉の体積平均粒子径が0.1μm以上1.5μm以下の範囲内であり、上記エポキシ樹脂は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有し、上記エポキシ樹脂は、ノボラッククレゾール型骨格及びノボラックフェノール型骨格からなる群から選択される少なくとも1つの骨格を有することを特徴としている。
【0021】
このため、得られる硬化膜の熱伝導性が高いカチオン電着塗料組成物を提供することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係る塗膜の形成方法は、以上のように、上記本発明に係るカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装することにより電着塗膜を形成する工程を含むことを特徴としている。
【0023】
このため、熱伝導性が高い塗膜を形成することができるという効果を奏する。
【0024】
本発明に係る塗膜は、以上のように、上記本発明に係る形成方法により得られることを特徴としている。
【0025】
このため、熱伝導性が高い塗膜を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。
【0027】
尚、本明細書では、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを意味する。また、本明細書で挙げられている各種物性は、特に断りの無い限り後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
【0028】
本実施の形態に係るカチオン電着塗料組成物は、ダイヤモンド粉とエポキシ樹脂とを含有する。
【0029】
(I)エポキシ樹脂
上記エポキシ樹脂は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有し、ノボラッククレゾール型骨格及びノボラックフェノール型骨格からなる群から選択される少なくとも1つの骨格を有する。
【0030】
上記エポキシ樹脂は、一分子中にスルホニウム基及びプロパルギル基の両者を有していてもよいが、必ずしもその必要はなく、例えば、一分子中にスルホニウム基又はプロパルギル基の何れか一方のみを有していてもよい。後者の場合には、樹脂組成物全体として、これら2種の硬化性官能基の全てを有していればよい。
【0031】
上記スルホニウム基は、上記カチオン性樹脂組成物における水和官能基である。スルホニウム基は、電着工程で一定以上の電圧又は電流を与えられると、電極上で電解還元反応をうけてイオン性基が消失し、不可逆的に不導体化される。上記カチオン電着塗料組成物は、このことにより高度のつきまわり性を発揮することができていると考えられる。
【0032】
また、上記電着工程においては、電極反応が引き起こされ、生じた水酸化物イオンをスルホニウム基が保持することにより電解発生塩基がカチオン電着塗料組成物中に発生すると考えられる。この電解発生塩基は、カチオン電着塗料組成物中に存在する、加熱による反応性の低いプロパルギル基を、加熱による反応性の高いアレン結合に変換することができる。
【0033】
上記エポキシ樹脂としては、硬化性を高めるための多官能基化が容易であるので、ノボラッククレゾール型骨格及びノボラックフェノール型骨格からなる群から選択される少なくとも1つの骨格を有する、ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂、及び/又はノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂が用いられる。
【0034】
上記エポキシ樹脂の数平均分子量は、下限700、上限5,000であることが好ましい。
【0035】
上記エポキシ樹脂中のスルホニウム基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を満たした上で、上記エポキシ樹脂の固形分100gあたり、下限5ミリモル、上限400ミリモルである。5ミリモル/100g以上であれば、つきまわり性や硬化性を充分に発揮することができ、また、水和性、浴安定性により優れる。400ミリモル/100g以下であれば、被塗物への樹脂層の析出がより良好となる。
【0036】
エポキシ樹脂の固形分100gあたりの上記下限は、5ミリモルであることがより好ましく、10ミリモルであることが更に好ましい。また、上記上限は、250ミリモルであることがより好ましく、150ミリモルであることが更に好ましい。
【0037】
上記エポキシ樹脂の有するプロパルギル基は、上記カチオン電着塗料組成物において、硬化官能基として作用する。また、理由は不明であるが、スルホニウム基と併存させることにより、カチオン電着塗料組成物のつきまわり性をより向上させることができる。
【0038】
上記エポキシ樹脂の有するプロパルギル基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を満たした上で、上記エポキシ樹脂の固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限495ミリモルである。10ミリモル/100g以上であれば、つきまわり性や硬化性を充分に発揮することができ、495ミリモル/100g以下であれば、水和安定性により優れる。エポキシ樹脂の固形分100gあたりの上記下限は、20ミリモルであることがより好ましく、上記上限は、395ミリモルであることが更に好ましい。
【0039】
尚、本明細書における「プロパルギル基の含有量」は、エポキシ樹脂を製造する際の各原料の仕込み量から計算した値を意味する。
【0040】
上記エポキシ樹脂の有するスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100g以下であれば、熱伝導性に優れた塗膜が得られるカチオン電着塗料のための樹脂をより安定して得ることができる。上記エポキシ樹脂の有するスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0041】
上記エポキシ樹脂中のプロパルギル基の一部は、アセチリド化されていてもよい。アセチリドは、塩類似の金属アセチレン化物である。上記エポキシ樹脂中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、下限0.1ミリモル、上限40ミリモルであることが好ましい。0.1ミリモル以上であれば、アセチリド化による効果が充分発揮され、40ミリモル以下であれば、アセチリド化を安定して行うことができる。この含有量は、使用する金属に応じてより好ましい範囲を設定することが可能である。
【0042】
上記アセチリド化されたプロパルギル基に含まれる金属としては、触媒作用を発揮する金属であれば特に限定されず、例えば、銅、銀、バリウム等の遷移金属が挙げられる。これらの中では、環境適合性を考慮するならば、銅、銀が好ましく、入手容易性から、銅がより好ましい。
【0043】
銅を使用する場合、上記エポキシ樹脂中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり0.1〜20ミリモルであることがより好ましい。
【0044】
上記エポキシ樹脂中のプロパルギル基の一部をアセチリド化することにより、硬化触媒を樹脂中に導入することができる。このようにすれば、一般に、有機溶媒や水に溶解又は分散しにくい有機遷移金属錯体を使用する必要がなく、遷移金属であっても容易にアセチリド化して導入可能であるため、難溶性の遷移金属化合物であっても自由に使用可能である。また、遷移金属有機酸塩を使用する場合のように、有機酸塩がアニオンとして電着浴中に存在することを回避でき、更に、金属イオンが限外ろ過によって除去されることはなく、浴管理や電着塗膜の設計が容易となる。
【0045】
また、上記エポキシ樹脂は、炭素−炭素二重結合を含有していてもよい。上記炭素−炭素二重結合は、反応性が高いので硬化性をより向上させることができる。
【0046】
上記炭素−炭素二重結合の含有量は、後述するプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の含有量の条件を満たした上で、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限485ミリモルが好ましい。10ミリモル/100g以上であれば、添加により充分な硬化性を発揮させることができ、485ミリモル/100g以下であれば、水和安定性がより良好となる。
【0047】
上記炭素−炭素二重結合の含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、下限20ミリモル、上限375ミリモルであることがより好ましい。
【0048】
上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、下限80ミリモル、上限450ミリモルの範囲内であることが好ましい。80ミリモル/100g以上であれば、硬化性がより良好となり、450ミリモル/100g以下であれば、つきまわり性がより良好となる。
【0049】
上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、下限100ミリモル、上限395ミリモルであることがより好ましい。
【0050】
また、上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100g以下であれば、目的とする性能の樹脂を安定して得ることができる。
【0051】
上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、エポキシ樹脂の固形分100gあたり、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0052】
上記エポキシ樹脂は、例えば、特表2005−538872号公報に記載されている方法により製造することができる。具体的には、一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物を反応させて、プロパルギル基を有するエポキシ樹脂を得る工程(i)と、工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する工程(ii)とにより好適に製造することができる。
【0053】
上記エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物(以下、「化合物(A)」と称する)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基とプロパルギル基とを共に含有する化合物が挙げられ、具体的には、プロパルギルアルコール、プロパルギル酸等が挙げられる。これらの中では、入手の容易性及び反応の容易性から、プロパルギルアルコールが好ましい。
【0054】
上記エポキシ樹脂に、炭素−炭素二重結合を持たせる場合には、上記工程(i)において、エポキシ基と反応する官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、「化合物(B)」と称する)を、上記化合物(A)と併用すればよい。
【0055】
上記化合物(B)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基と炭素−炭素二重結合とを共に含有する化合物が挙げられる。
【0056】
具体的には、エポキシ基と反応する基が水酸基である場合、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール等が挙げられる。
【0057】
エポキシ基と反応する基がカルボキシル基である場合、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸;マレイン酸エチルエステル、フマル酸エチルエステル、イタコン酸エチルエステル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル等のハーフエステル類;オレイン酸、リノール酸、リシノール酸等の合成不飽和脂肪酸;アマニ油、大豆油等の天然不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0058】
上記工程(i)においては、上記一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に上記化合物(A)を反応させて、プロパルギル基を有するエポキシ樹脂を得るか、又は、上記化合物(A)と、必要に応じて、上記化合物(B)とを反応させてプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を有するエポキシ樹脂を得る。
【0059】
この後者の場合、工程(i)においては、上記化合物(A)と上記化合物(B)とは、両者を予め混合してから反応に用いてもよく、又は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを別々に反応に用いてもよい。
【0060】
尚、上記化合物(A)が有するエポキシ基と反応する官能基と、上記化合物(B)が有するエポキシ基と反応する官能基とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0061】
上記工程(i)において、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを反応させる場合の両者の配合比率は、所望の官能基含有量となるように設定すればよく、例えば、上述したプロパルギル基と炭素−炭素二重結合の含有量となるように設定すればよい。
【0062】
上記工程(i)の反応条件は、通常、室温又は80〜140℃にて数時間である。また、必要に応じて触媒や溶媒等の反応を進行させるために必要な公知の成分を使用することができる。
【0063】
反応の終了は、エポキシ当量の測定により確認することができ、得られた反応生成物の不揮発分測定や機器分析により、導入された官能基を確認することができる。
【0064】
このようにして得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基を1つ又は複数有するエポキシ樹脂の混合物であるか、又は、プロパルギル基と炭素−炭素二重結合とを1つ又は複数有するエポキシ樹脂の混合物である。つまり、上記工程(i)によりプロパルギル基、又は、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を有するエポキシ樹脂が得られる。
【0065】
上記工程(ii)においては、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する。
【0066】
スルホニウム基の導入は、スルフィド/酸混合物とエポキシ基とを反応させてスルフィドの導入及びスルホニウム化を行う方法や、スルフィドを導入した後、更に、酸又はフッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル等のアルキルハライド等により、導入したスルフィドのスルホニウム化反応を行い、必要によりアニオン交換を行う方法等により行うことができる。反応原料の入手容易性の観点からは、スルフィド/酸混合物を使用する方法が好ましい。
【0067】
上記スルフィドとしては特に限定されず、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、環状スルフィド等が挙げられる。具体的には、例えば、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、ジフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノール等が挙げられる。
【0068】
上記酸としては特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、ホウ酸、酪酸、ジメチロールプロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−β−アラニン等が挙げられる。
【0069】
上記スルフィド/酸混合物における上記スルフィドと上記酸との混合比率は、通常、モル比率でスルフィド/酸=100/40〜100/100程度が好ましい。
【0070】
上記工程(ii)の反応は、例えば、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂と、例えば、上述のスルホニウム基含有量になるように設定された所定量の上記スルフィド及び上記酸との混合物とを、使用するスルフィドの5〜10倍モルの水と混合し、通常、50〜90℃で数時間攪拌して行うことができる。反応の終了点は、残存酸価が5以下となることを目安とすればよい。得られた樹脂中のスルホニウム基導入の確認は、電位差滴定法により行うことができる。
【0071】
スルフィドの導入後にスルホニウム化反応を行う場合も、上記に準じて行うことができる。上述のように、スルホニウム基の導入を、プロパルギル基の導入の後に行うことにより、加熱によるスルホニウム基の分解を防止することができる。
【0072】
上記エポキシ樹脂の有するプロパルギル基の一部をアセチリド化する場合は、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂に、金属化合物を反応させて、上記エポキシ樹脂中の一部のプロパルギル基をアセチリド化する工程によって行うことができる。
【0073】
上記金属化合物としては、アセチリド化が可能な遷移金属化合物であることが好ましく、例えば、銅、銀又はバリウム等の遷移金属の錯体又は塩が挙げられる。具体的には、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸銅、アセチルアセトン銀、酢酸銀、硝酸銀、アセチルアセトンバリウム、酢酸バリウム等が挙げられる。これらの中では、環境適合性の観点から、銅又は銀の化合物が好ましく、入手容易性の観点から、銅の化合物がより好ましく、例えば、アセチルアセトン銅が、浴管理の容易性に鑑み好適である。
【0074】
プロパルギル基の一部をアセチリド化する反応条件は、通常、40〜70℃にて数時間である。反応の進行は、得られたカチオン性樹脂組成物が着色することや、核磁気共鳴スペクトルによるメチンプロトンの消失等により確認することができる。このようにして、エポキシ樹脂中のプロパルギル基が所望の割合でアセチリド化する反応時点を確認して、反応を終了させる。
【0075】
得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基の1つ又は複数がアセチリド化されたエポキシ樹脂の混合物である。このようにして得られたプロパルギル基の一部をアセチリド化したエポキシ樹脂に対して、上記工程(ii)によってスルホニウム基を導入することができる。
【0076】
尚、エポキシ樹脂の有するプロパルギル基の一部をアセチリド化する工程と上記工程(ii)とは、反応条件を共通に設定可能であるので、両工程を同時に行うことも可能である。両工程を同時に行う方法は、製造プロセスを簡素化することができるので有利である。
【0077】
このようにして、プロパルギル基及びスルホニウム基、必要に応じて、炭素−炭素二重結合、プロパルギル基の一部がアセチリド化したものを有するエポキシ樹脂を、スルホニウム基の分解を抑制しつつ、製造することができる。
【0078】
(II)ダイヤモンド粉
上記ダイヤモンド粉の体積平均粒子径は0.1μm以上1.5μm以下の範囲内であり、好ましくは0.2μm以上1.0μm以下の範囲内であり、更に好ましくは0.3μm以上1.0μm以下の範囲内である。
【0079】
上記体積平均粒子径が0.1μm未満であると、ダイヤモンド粉の熱伝導効果が不十分になり硬化膜の熱伝導性が不十分となる。一方、上記体積平均粒子径が1.5μmを超えると、ダイヤモンド粉の分散安定性が低下したり、ダイヤモンド粉が得られる硬化膜内に収まりきれずに膜をはみ出してしまうため、均一な硬化膜を形成することが困難となる。
【0080】
本実施の形態で用いられるダイヤモンドの形状は、特には限定されず、例えば、球状、楕円体、ブロッキー形状(塊状)等が挙げられる。
【0081】
上記ダイヤモンド粉としては市販されているダイヤモンド粉を用いることができ、例えば、Diamond Innovation社から販売されているGMMシリーズ(商品名)等を用いることができる。
【0082】
(III)カチオン電着塗料組成物
カチオン電着塗料組成物における上記ダイヤモンド粉の含有量は特には限定されないが、0.5質量%以上50質量%以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは5質量%以上50質量%以下の範囲内である。上記ダイヤモンド粉の含有量が上記範囲内であれば、得られる硬化膜の熱伝導性が高いことに加え、浴安定性に優れ、得られる硬化膜の絶縁性及び硬化性が高いカチオン電着塗料組成物を提供することができる。上記ダイヤモンド粉の含有量は、更に好ましくは、10質量%以上40質量%以下の範囲内である。
【0083】
カチオン電着塗料組成物における上記エポキシ樹脂の含有量は50質量%以上99.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0084】
上記カチオン電着塗料組成物は、上述のエポキシ樹脂を含有しているため、カチオン性樹脂組成物自体が硬化性を有する。このため、上記カチオン電着塗料組成物において、硬化剤の使用は必ずしも必要ないが、硬化性の更なる向上のために使用してもよい。
【0085】
このような硬化剤としては、例えば、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合のうち少なくとも1種を複数個有する化合物、例えば、ノボラックフェノール等のポリエポキシドやペンタエリスリットテトラグリシジルエーテル等に、プロパルギルアルコール等のプロパルギル基を有する化合物やアクリル酸等の炭素−炭素二重結合を有する化合物を付加反応させて得た化合物等が挙げられる。
【0086】
また、上記カチオン電着塗料組成物には、硬化触媒を必ずしも使用する必要はない。しかし、硬化反応条件により、更に硬化性を向上させる必要がある場合には、必要に応じて、通常用いられる遷移金属化合物等を適宜添加してもよい。
【0087】
このような硬化触媒として用いることができる化合物としては特に限定されず、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウム、ロジウム等の遷移金属に対して、シクロペンタジエンやアセチルアセトン等の配位子や酢酸等のカルボン酸等が結合したもの等が挙げられる。上記硬化触媒の配合量は、カチオン電着塗料組成物中の樹脂固形分100gあたり、下限0.1ミリモル、上限20ミリモルであることが好ましい。
【0088】
上記カチオン電着塗料組成物には、アミンを配合することができる。上記アミンの配合により、電着過程における電解還元によるスルホニウム基のスルフィドへの変換率が増大する。上記アミンとしては特に限定されず、例えば、1級〜3級の単官能及び多官能の脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等のアミン化合物が挙げられる。
【0089】
これらの中では、水溶性又は水分散性のものが好ましく、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の炭素数2〜8のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジメタノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾリン、イミダゾール等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水分散安定性が優れているため、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のヒドロキシアミンが好ましい。
【0090】
上記アミンは、直接、上記カチオン電着塗料組成物中に配合することができる。
【0091】
上記アミンの配合量は、カチオン電着塗料組成物中の樹脂固形分100gあたり、下限0.3meq、上限25meqが好ましい。0.3meq/100g以上であれば、つきまわり性に対して充分な効果が得られ、25meq/100g以下であれば、添加量に応じた効果を得ることができ、経済的である。上記下限は、1meq/100gであることがより好ましく、上記上限は、15meq/100gであることがより好ましい。
【0092】
上記カチオン電着塗料組成物には、脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物を配合することができる。上記脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物の配合により、硬化後の塗膜の耐衝撃性が向上する。
【0093】
上記脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物としては、(i)当該樹脂組成物の固形分100gあたりスルホニウム基5〜400ミリモルと、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基80〜135ミリモルと、炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基のうち少なくとも1種10〜315ミリモルとを含有し、かつ、(ii)スルホニウム基と、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基と、炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基と、プロパルギル基との合計含有量が当該樹脂組成物の固形分100gあたり500ミリモル以下であるものが挙げられる。
【0094】
上記カチオン電着塗料組成物に対して、脂肪族炭化水素基を有する上記樹脂組成物を配合する場合、(i)カチオン電着塗料組成物中の樹脂固形分100gあたり、スルホニウム基5〜400ミリモルと、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基10〜300ミリモルと、プロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計10〜485ミリモルとを含有し、かつ、(ii)スルホニウム基と、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基と、プロパルギル基と、炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基との合計含有量が、カチオン電着塗料組成物中の樹脂固形分100gあたり500ミリモル以下であり、(iii)上記炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基の含有割合が、カチオン電着塗料組成物中の樹脂固形分の3〜30質量%であることが好ましい。
【0095】
上記カチオン電着塗料組成物に対して、脂肪族炭化水素基を有する上記樹脂組成物を配合する場合、スルホニウム基が、上記カチオン電着塗料組成物の固形分100gあたり5ミリモル以上であれば、つきまわり性や硬化性を充分に発揮することができ、また、水和性、浴安定性により優れる。上記カチオン電着塗料組成物の固形分100gあたり400ミリモル以下であれば、被塗物への析出がより良好となる。
【0096】
また、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい上記脂肪族炭化水素基が、上記カチオン電着塗料組成物の固形分100gあたり80ミリモル以上であれば、耐衝撃性がより良好に改善され、上記カチオン電着塗料組成物の固形分100gあたり350ミリモル以下であれば、樹脂組成物の取扱性が容易となる。
【0097】
プロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計が、上記カチオン電着塗料組成物の固形分100gあたり10ミリモル以上であれば、硬化性を充分に発揮することができ、上記カチオン電着塗料組成物の固形分100gあたり315ミリモル以下であれば、耐衝撃性がより良好に改善される。
【0098】
スルホニウム基と、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基と、プロパルギル基と、炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基との合計含有量は、カチオン性樹脂組成物の固形分100gあたり500ミリモル以下である。500ミリモル以下であれば、目的とする性能の樹脂を安定して得ることができる。
【0099】
上記カチオン電着塗料組成物は、例えば、上記カチオン性樹脂組成物に、必要に応じて、上述の各成分を混合し、水に溶解又は分散すること等により得ることができる。電着工程に使用する際には、不揮発分が下限10質量%、上限30質量%の浴液となるように調製されることが好ましい。また、カチオン電着塗料組成物中のプロパルギル基、炭素−炭素二重結合及びスルホニウム基の含有量が、上述した範囲を逸脱しないように調製されることが好ましい。
【0100】
本実施の形態において、ダイヤモンド粉をエポキシ樹脂中に分散するには、通常のサンドグラインダーミル等の分散機による混合分散ではなく、ダイヤモンドと分散媒とを衝突混合させて分散させる方法を用いることができる。
【0101】
本実施の形態に係るカチオン電着塗料組成物は、高濃度でダイヤモンドを含んでいた場合であってもダイヤモンドの分散安定性が高い。これは、本実施の形態に係るカチオン電着塗料組成物では、上述したような所定の構造を有するエポキシ樹脂を含んでいるからである。具体的には、ダイヤモンドを構成する炭素とエポキシ樹脂におけるノボラッククレゾール型骨格やノボラックフェノール型骨格における芳香族環構造との親和性が高いために、疎水性相互作用(ファン・デル・ワールス力)によって分散性が高まっていることが推測される。
【0102】
(IV)カチオン電着塗膜の形成方法
本実施の形態に係る塗膜は、上述した電着塗料組成物を用いて、国際公開第98/03595号パンフレットに記載の方法に準じて形成することができる。
【0103】
具体的には、本実施の形態に係るカチオン電着塗膜の形成方法は、上述した電着塗料組成物中に浸漬した被塗物を陰極とし、対極との間に電圧を印加して上記被塗物の表面に電着塗料組成物からなる被膜を形成する電着工程と、上記電着工程において得られた上記被膜を加熱することにより硬化膜を得る加熱工程とからなる。
【0104】
上記被塗物としては、電着工程を行うことが可能な導電性を示す基材であり、板状又はフィルム状のものであれば特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、スズ、亜鉛、チタン、タングステン等及びこれらの金属を含む合金による板、成形物等の金属成形品が挙げられる。
【0105】
上記電着塗料組成物の濃度は、特に限定されないが、良好に電着塗装を行う観点から、不揮発分が15〜25質量%となるように調製することが好ましい。
【0106】
上記印加される電圧の大きさは、通常印加される被膜の電気抵抗値により決定され、一般に5〜500V、より好ましくは50〜350Vの直流電圧が印加される。
【0107】
上記電圧を印加する際の浴液温度は、本実施の形態に係る電着塗料組成物が高温であっても浴安定性を保つことができるため、0〜100℃の範囲内で適宜設定することができる。電着塗料組成物の機械的安定性や熱安定性、硬化官能基の反応性を考慮して、5〜50℃がより好ましく、15〜35℃が更に好ましい。
【0108】
上記電着工程の処理時間は、一般に所定印加電圧まで昇圧させるまでの時間と上記所定電圧で保持させる時間との合計である総電圧印加時間が0.5〜30分間となるように設定されることが好ましく、より好ましくは1〜10分間である。0.5分以上の時間であれば、電極反応によって活性化される化学種が十分な量発生し、被膜の硬化性を高めることができる。一方、30分以下の時間であれば消費電力を抑制することができる。
【0109】
上記被塗物は、上記電着工程を経た後、そのまま加熱工程に送られてもよく、表面を水洗して、不要な水溶性物質を除去した後に加熱工程に送ってもよい。
【0110】
上記水洗は純水で行うことが好ましく、洗浄後は上記被塗物を約10分間室温で放置することが好ましい。
【0111】
上記加熱工程は、電気乾燥炉、ガス乾燥炉等の加熱炉において行われる。上記被塗物の焼付けは100〜240℃、好ましくは140〜200℃で、5〜60分間、好ましくは10〜30分間行うことが好ましい。
【0112】
(V)塗膜
本実施の形態に係る塗膜は、上述した形成方法により得られるものである。
【0113】
本実施の形態に係る塗膜は、上述した形成方法により得られるため、当該塗膜中にはダイヤモンドが均一に分散されており、膜厚が20μmの場合の平滑性は、例えばRaが0.2〜0.4μmとなる。
【0114】
また、本実施の形態に係る塗膜では、上述した形成方法により得られるため、例えば、熱伝導係数を約0.20〜0.35W/m・K、耐電圧を約1.5〜2.5kVとすることができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
〔熱伝導性〕
既知の熱伝導係数κ’を有する厚さd’の基材上に、熱伝導係数κを有し、既知の膜厚dの硬化した塗膜を形成した。合計膜厚がd(d=d’+d)であり熱伝導係数がκである測定試料に対して、一定熱量qを与えた後、定常状態になり一定になった温度差ΔTを測定し、
q/2=κ・ΔT/d
からκを求めた後、
/κ=d/κ+d’/κ’
からκを算出した。
【0117】
尚、硬化した塗膜の膜厚が薄い場合は、誤差をできる限り小さくするために、測定試料を数枚から10枚程度重ねたものを測定試料とした。このような測定試料を複数枚重ねる場合は、各測定試料間に空気が入らないように(空気層が形成されないように)減圧等の操作を行い、各測定試料間を密着させることが必要である。
【0118】
〔ダイヤモンド粉の体積平均粒子径〕
ダイヤモンド粉の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定を行った。測定機器として、粒度分布測定装置(商品名:MICROTRACK−X100、日機装社製)を用いた。
【0119】
〔エポキシ樹脂の数平均分子量〕
エポキシ樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定(ポリスチレン換算)により求めた。
【0120】
〔スルホニウム基の含有量〕
スルホニウム基の含有量は、電位差測定装置を用い、電位差滴定により求めた。
【0121】
〔炭素−炭素二重結合の含有量〕
炭素−炭素二重結合の含有量は、ヨウ素価滴定により求めた。
【0122】
〔アミンの含有量〕
アミンの含有量は、電位差測定装置を用い、電位差滴定により求めた。
【0123】
〔実施例1〕
エポキシ当量200.4のノボラッククレゾール型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYDCN−701、東都化成社製)100gに、プロパルギルアルコール13.5g、ジメチルベンジルアミン0.2gを、攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、1時間反応させてプロパルギルアルコール基を含有し、エポキシ当量が445のエポキシ樹脂を得た。
【0124】
これに、リノール酸50.6g、追加のジメチルベンジルアミン0.1gを加え、更に同温度にて3時間反応を継続し、プロパルギルアルコール基と長鎖不飽和脂肪酸残基とを含有し、エポキシ当量が2100であるエポキシ樹脂を得た。
【0125】
これに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6g、氷酢酸4.7g、脱イオン水7.0gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させて残存酸価が5以下であることを確認した後、ダイヤモンド粉(商品名:「GMM−0−1」、Diamond Innovations製、体積平均粒子径:0.5μm)を、最終的に得られるカチオン電着塗料組成物における含有量が20質量%となるように加え、充分に攪拌混合した。更に、脱イオン水60.8gを加え、カチオン電着塗料組成物を作製した。
【0126】
得られたカチオン電着塗料組成物における、エポキシ樹脂固形分中のスルホニウム基の含有量(スルホニウム価)は23.1mmol/100gであった。
【0127】
続いて、上記カチオン電着塗料組成物を用いて、被塗物を陰極、ステンレス板を陽極として電着塗装を行った。
【0128】
被塗物を電着浴から引き上げ水洗し、190℃の温度で25分間加熱硬化させ、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。尚、熱伝導性の測定の再は、塗膜を10枚程度重ねた後、減圧して密着させたものを測定試料とした。
【0129】
〔実施例2〕
使用するダイヤモンド粉をダイヤモンド粉(商品名:「GMM−0−2」、Diamond Innovations製、体積平均粒子径:1.0μm)としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。
【0130】
〔実施例3〕
使用するダイヤモンド粉をダイヤモンド粉(商品名:「GMM−0−0.5」、Diamond Innovations製、体積平均粒子径:0.25μm)としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。
【0131】
〔実施例4〕
カチオン電着塗料組成物中のダイヤモンド粉の含有量を10質量%としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。
【0132】
〔実施例5〕
カチオン電着塗料組成物中のダイヤモンド粉の含有量を40質量%としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。
【0133】
〔実施例6〕
カチオン電着塗料組成物中のダイヤモンド粉の含有量を60質量%としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。
【0134】
〔比較例1〕
カチオン電着塗料組成物にダイヤモンド粉を加えないこと以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。
【0135】
〔比較例2〕
使用するダイヤモンド粉をダイヤモンド粉(商品名:「GMM−2−4」、Diamond Innovations製、体積平均粒子径:3μm)としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。
【0136】
〔比較例3〕
使用するダイヤモンド粉をダイヤモンド粉(商品名:「GMM−4−6」、Diamond Innovations製、体積平均粒子径:5μm)としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚20μmの塗膜を得た。得られた塗膜の各種測定結果を表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、高絶縁性で耐薬品性のみならず熱伝導性に優れた塗膜を形成することができる。このため、電気電子部品等の絶縁膜等の用途に好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド粉とエポキシ樹脂とを含有するカチオン電着塗料組成物であり、
上記ダイヤモンド粉の体積平均粒子径が0.1μm以上1.5μm以下の範囲内であり、
上記エポキシ樹脂は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有し、
上記エポキシ樹脂は、ノボラッククレゾール型骨格及びノボラックフェノール型骨格からなる群から選択される少なくとも1つの骨格を有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
上記ダイヤモンド粉の含有量が0.5質量%以上50質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
上記ダイヤモンド粉の含有量が10質量%以上40質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のカチオン電着塗料組成物を用いてカチオン電着塗装することにより電着塗膜を形成する工程を含むことを特徴とする塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項4に記載の形成方法により得られることを特徴とする塗膜。

【公開番号】特開2009−263491(P2009−263491A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114446(P2008−114446)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】