説明

カチオン電着塗料組成物及び塗装物品

【課題】 無処理鋼板上の耐食性、特に、耐温塩水浸漬性に優れるカチオン電着塗料組成物及び皮膜形成方法を提供すること。
【解決手段】
特定のアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、水溶性ジルコニウム化合物(C)及びスルファミン酸を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、水溶性ジルコニウム化合物(C)をジルコニウム元素の質量で10〜10,000ppm含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物上へのジルコニウム析出量に優れ、無処理鋼板上においても耐食性、特に、耐温塩水浸漬性に優れるカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、つきまわり性に優れ、環境汚染も少ないことから自動車下塗り用を始め幅広い用途に使用されている。従来からクロム酸鉛、塩基性ケイ酸鉛、クロム酸ストロンチウムなどの鉛化合物やクロム化合物を配合したカチオン電着塗料組成物が提案されている。
【0003】
しかし近年、環境問題の点から、鉛化合物やクロム化合物のような重金属化合物の使用は制限されており、そのような重金属化合物を配合しなくても防食性に優れ、環境問題のない防錆顔料を用いたカチオン電着塗料が開発され、実用化に至っている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定のエポキシ基含有官能基を1分子中に少なくとも2個有するエポキシ樹脂(b)とアミノ化合物(b)及び/又はフェノール化合物(b)とを反応させてなる樹脂成分(A)、特定の構造式単位を有する樹脂成分(B)、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)、並びにジルコニウム、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン及びモリブデンから選ばれる金属のイオン、該金属のオキシ金属イオン及び該金属のフルオロ金属イオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の防錆成分(D)を含有することを特徴とする電着塗料を用いた、多段通電による電着塗装方法が開示されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、金属基材に、皮膜形成剤を多段通電方式で塗装することによって皮膜を形成する方法であって、皮膜形成剤が、ジルコニウム化合物と、必要に応じて、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、亜鉛、インジウム、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する化合物と、樹脂成分とを含む表面処理皮膜の形成方法が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1又は特許文献2に開示の塗料、皮膜形成剤は、被塗物上へジルコニウムの析出量が不十分であり、無処理鋼板上の耐食性、特に、耐温塩水浸漬性が劣っていた。
【0007】
このような背景から、被塗物上へジルコニウムの析出量に優れ、無処理鋼板上においても耐食性、特に、耐温塩水浸漬性に優れるカチオン電着塗料組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−257268号公報
【特許文献2】特開2008−274392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、被塗物上へジルコニウムの析出量に優れ、無処理鋼板上においても形成された皮膜の耐食性、特に、耐温塩水浸漬性に優れるカチオン電着塗料組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、水溶性ジルコニウム化合物(C)及びスルファミン酸を含有するカチオン電着塗料組成物であって、該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、水溶性ジルコニウム化合物(C)をジルコニウム元素の質量で10〜10,000ppm含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物によって、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
1.アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、水溶性ジルコニウム化合物(C)及びスルファミン酸を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、水溶性ジルコニウム化合物(C)をジルコニウム元素の質量で10〜10,000ppm含有し、かつ
該アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)が
下記式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式(1)中、nは1〜50の整数を示す)
で示されるジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を反応させてなるエポキシ樹脂(A1)と、アミノ基含有化合物(a4)とを反応させてなる樹脂である、
カチオン電着塗料組成物。
【0014】
2.1項に記載のカチオン電着塗料組成物を浴として、該浴中に被塗物を浸漬し、電着塗装して得られた塗装物品、に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のカチオン電着塗料組成物によれば、鉛化合物やクロム化合物等の重金属を含有することなく、無処理鋼板上に形成された皮膜においても耐食性、特に耐温塩水浸漬性に優れ、仕上り性に優れた塗装物品を得ることができる。
【0016】
理由として、被塗物を本発明のカチオン電着塗料組成物に浸漬すると、被塗物上でエッチングがおこり、無機成分を主体とする緻密な難溶性皮膜(下層)が形成され、次いで、該下層皮膜上に、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂成分が析出し、有機成分を主体とする上層皮膜が形成されることが挙げられる。
【0017】
これら下層皮膜と上層皮膜との複合膜によって、無処理鋼板上の耐食性、特に高温下での耐温塩水浸漬性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、特定のアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、水溶性ジルコニウム化合物(C)、及びスルファミン酸を含有するカチオン電着塗料組成物であって、該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、水溶性ジルコニウム化合物(C)をジルコニウム元素の質量で10〜10,000ppm含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物である。以下、詳細に述べる。
[アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)]
基体樹脂として使用されるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、特定のジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を反応させてなるエポキシ樹脂(A1)と、アミノ基含有化合物(a4)とを反応させることにより得られる樹脂である。
【0019】
エポキシド化合物(a1):
ジエポキシド化合物(a1)は、下記式(1)
【0020】
【化2】

【0021】
(式(1)中、nは1〜50、好ましくは2〜24、さらに好ましくは3〜14の整数を示す)
で表わされる化合物を示す。
【0022】
水性皮膜形成剤(I)の安定性や得られた皮膜の耐水密着性等の面から、170〜2,400、好ましくは340〜1,200、さらに好ましくは430〜800の範囲内の分子量を有することが好ましい。
【0023】
かかるジエポキシド化合物(a1)の市販品としては、例えば、デナコールEX−810、デナコールEX−821、デナコールEX−832、デナコールEX−841、デナコールEX−851、デナコールEX−861(以上、いずれもナガセケムテックス株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0024】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2):
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造に使用されるビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)には、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られる樹脂が包含され、一般に340〜2,000、特に340〜1,000の範囲内の数平均分子量、及び一般に170〜1,500、特に170〜800の範囲内のエポキシ当量を有するものが適している。
【0025】
なお、本明細書において数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフ装置として、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」及び「TSKgel G−2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、検出器として、示差屈折率計を使用し、移動相:テトラヒドロフラン測定温度:40℃、流速:1mL/minの条件下で測定することができる。
【0026】
該ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)の製造に用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0027】
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式(2)
【0028】
【化3】

【0029】
[式中、mは0〜8、好ましくは1〜5、さらに好ましくは2〜4の整数を示す]で示されるエポキシ樹脂が好適である。
【0030】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、jER828EL、jER1002、jER1004(以上、いずれもジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0031】
ビスフェノール化合物(a3):
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造に使用されるビスフェノール化合物(a3)には、下記一般式(3)
【0032】
【化4】

【0033】
[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びR10はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。]
で示される化合物が包含される。上記一般式中のR、R、R、R、R、R、R、R、R及びR10で示される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ペンチル、ヘキシル基等の炭素数1〜6、好ましくは1〜3の直鎖又は分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。
ビスフェノール化合物(a3)としては、具体的には、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]等が挙げられる。
【0034】
エポキシ樹脂(A1):
エポキシ樹脂(A1)は、以上に述べたジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を付加反応させることにより製造することができる。この付加反応はそれ自体既知の方法で行うことができる。
【0035】
具体的には、例えば、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタン等のチタン化合物;オクチル酸錫、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ラウレート等の有機錫化合物;塩化第1錫等の金属化合物のような触媒の存在下に、ジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を混合し、約100〜約250℃の温度で約1〜約15時間加熱することによってエポキシ樹脂(A1)を得ることができる。
【0036】
上記触媒は、ジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)の合計量を基準にして、一般に0.5〜1,000ppmの量で使用することができる。
【0037】
ジエポキシド化合物(a1)は、電着塗装性や安定性等の面からジエポキシド化合物(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)の合計固形分を基準にして、20〜70質量%、特に25〜68質量%、さらに特に30〜65質量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0038】
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)は、電着塗装性や安定性等の面からジエポキシド化合物(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)の合計固形分を基準にして、一般に11〜53質量%、特に13〜48質量%、さらに特に16〜42質量%の範囲内で使用することができる。
【0039】
上記付加反応は通常溶媒中で行われ、使用し得る溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル系溶媒;あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0040】
アミノ基含有化合物(a4):
エポキシ樹脂(A1)と反応させるアミノ基含有化合物(a4)は、エポキシ基と反応する活性水素を少なくとも1個含有し且つエポキシ樹脂(a)にアミノ基を導入してカチオン化することができるものであればその種類には特に制限はなく、従来からエポキシ樹脂のカチオン化に用いられるものを同様に使用することができ、具体的には、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のケチミン化物;ジエタノールアミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0041】
アミノ基含有化合物(a4)の配合割合は、水分散性と耐食性の面から、ジエポキシド化合物(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)とアミノ基含有化合物(a4)の合計固形分を基準にして、5〜25質量%、好ましくは6〜20質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
以上に述べたエポキシ樹脂(A1)とアミノ基含有化合物(a4)を、それ自体既知の方法により付加反応させることによりアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)を得ることができる。上記付加反応は、適当な溶媒中で、約80〜約170℃、好ましくは約90〜約150℃の温度で1〜6時間、好ましくは1〜5時間行うことができる。
【0043】
このようにして得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、一般に600〜3,000、特に1,000〜2,500の範囲内の数平均分子量を有することが好ましい。
【0044】
上記のアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、カチオン化可能な基としてアミノ基を有し、スルファミン酸によって中和することにより水溶化ないしは水分散化することができる。
【0045】
本発明の特徴として、水溶性ジルコニウム化合物(C)とスルファミン酸を組合せることにより、被塗物上にジルコニウムの析出量が増し、無処理鋼板上における耐食性の向上効果が高くなる。
[ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)]
本発明のカチオン電着塗料組成物は、前述のアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を組合せて使用することにより、熱硬化性のカチオン電着塗料とすることができる。
【0046】
上記ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)は、ポリイソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤とのほぼ化学理論量での付加反応生成物である。ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)で使用されるポリイソシアネート化合物は、公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI[ポリメチレンポリフェニルイソシアネート]、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物の環化重合体又はビゥレット体;又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0047】
特に、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI等の芳香族ポリイソシアネート化合物が防食性の点でより好ましい。
【0048】
一方、前記イソシアネートブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温において安定であるが、皮膜の焼付け温度(通常100〜200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生することが望ましい。
【0049】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)で使用されるブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム系化合物;マロン酸ジエチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物;等が挙げられる。
【0050】
また、ジエポキシド化合物(a1)の割合は、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)の固形分合計を基準にして10〜35質量%、好ましくは15〜30質量%であることが、皮膜形成剤安定性の点で好ましい。
[水溶性ジルコニウム化合物(C)]
本発明のカチオン電着塗料組成物は、水溶性ジルコニウム化合物(C)を含むことを特徴とする。ここで、水溶性ジルコニウム化合物(C)は、塩化ジルコニウム、塩化ジルコニル、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、ジルコニウムフッ化水素酸、臭化ジルコニル、酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニルなどが挙げられる。
【0051】
なお本発明に用いられる水溶性ジルコニウム化合物(C)の濃度は、無処理鋼板上の防食性向上の為に、カチオン電着塗料組成物の浴の質量に対して、金属元素の質量で10〜10,000ppm、好ましくは150〜8,000ppm、さらに好ましくは250〜3,000ppmである。
【0052】
前記水溶性ジルコニウム化合物(C)に基づく上記ジルコニウム元素の質量を上記下限値以上とすることが、無処理鋼板上に形成された皮膜の耐食性、特に耐温塩水浸漬性を向上させる観点から、好ましい。また、カチオン電着塗料組成物の質量に対して、ジルコニウム元素の質量を上記の上限値以下とすることが、塗料安定性の点から好ましい。
【0053】
上記水溶性ジルコニウム化合物(C)の中でも、ジルコニウムフッ化水素酸を、スルファミン酸と組合せることにより、無処理鋼板においても耐食性の向上効果が高く好適である。
【0054】
[スルファミン酸]
本発明カチオン電着塗料組成物は、スルファミン酸を含有することによって、ジルコニウムの析出量を増大させることができ、下層のジルコニウム酸化皮膜を緻密にかつ厚くできる。これにより、無処理鋼板においても耐食性を向上することができる。
【0055】
ここでカチオン電着塗料組成物におけるスルファミン酸の配合量は、スルファミン酸からの酸濃度(MEQ)が8〜120の範囲、好ましくは10〜50の範囲に調整できるようスルファミン酸の配合量を決めることが望ましい。ここで、酸濃度(MEQ)を上記の下限値以上とすることは、皮膜の析出不良を抑制する観点から好ましい。一方、酸濃度(MEQ)を上記の上限値以下とすることは、通電時のガス発生量の増加及びそれによる仕上り性の低下を抑制する観点から好ましい。
【0056】
ここでMEQとは、mg equivalentの略であり、塗料の固形分100g当たりの中和剤(酸)のミリ・グラム当量である。電着塗料組成物を約10g精秤し、約50mlの溶剤(THF)に溶解した後、1/10NのNaOH溶液を用いて電位差滴定を行うことによって、電着塗料組成物中の含有酸量を定量し、下記式によって算出される。
MEQ=[1/10NのNaOH滴定量(ml)×10]/試料の固形分(g)]
さらに、本発明のカチオン電着塗料組成物には、必要に応じて、その他の中和剤、例えば、酢酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸等;その他の添加剤、例えば、顔料、触媒、有機溶剤、顔料分散剤、表面調整剤、界面活性剤などを塗料分野で通常使用されている配合量で含有することができる。
なお、上記の顔料や触媒としては、例えば、チタン白、カーボンブラックなどの着色顔料;クレー、タルク、バリタなどの体質顔料;トリポリリン酸二水素アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料;酸化ビスマス、水酸化ビスマス、乳酸ビスマスなどのビスマス化合物;ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイドなどの有機錫化合物;ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジベンゾエート、ジブチル錫ジベンゾエートなどのジアルキル錫の脂肪族もしくは芳香族カルボン酸塩などの錫化合物等が挙げられる。
【0057】
本発明のカチオン電着塗料組成物の調製は、例えばアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、及び場合によりその他の添加剤を一緒にし、十分に混ぜ合わせて溶解ワニスを作製し、スルファミン酸を添加し水分散化してなるエマルション中に、水溶性ジルコニウム化合物(C)を配合したエマルションと、顔料分散ペーストを配合する方法が挙げられる。
【0058】
カチオン電着塗料組成物の製造において、脱イオン水などで調整して、浴固形分濃度が通常5〜40質量%、好ましくは8〜25質量%、pHが1.5〜7.0、好ましくは2.0〜6.5の範囲内となるように行うことができる。
【0059】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いた塗膜形成は、特に制限なく従来公知の方法で行うことができ、具体的には被塗物をカチオン電着塗料の浴に浸漬した後に通電して、塗膜を形成する方法(所謂、「1工程による方法」)、または、被塗物をカチオン電着塗料の浴に一定時間浸漬し、次いで電着塗装することによって、塗膜を形成する方法(所謂、「2工程による方法」)が挙げられる。
【0060】
本発明において被塗物として使用される基材としては、例えば、冷延鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−鉄二層めっき鋼板、有機複合めっき鋼板などの鋼板やこれら鋼板から成形された自動車ボディ、2輪車部品、家庭用機器、その他の機器などが挙げられる。
【0061】
上記「2工程による方法」において、具体的には、カチオン電着塗料組成物を槽に入れて浴とし、浴温15〜55℃、好ましくは20〜50℃で、金属被塗物を浸漬して皮膜を形成できる。なお浸漬時間として、被塗物を10〜600秒間、好ましくは30〜480秒間浸漬することによって、被塗物上に緻密な不働体化皮膜を形成する(工程1)。
【0062】
次いで、上記工程1を経た被塗物を陰極として塗装電圧50〜400V、好ましくは75〜370Vで、60〜600秒間、好ましくは80〜400秒間通電することによって(工程2)、被塗物に皮膜を析出することができる。
【0063】
なお、カチオン電着塗料組成物の浴温としては、通常10〜55℃、好ましくは20〜50℃の範囲内が、欠陥の少ない析出膜を均一に形成させることができる。
【0064】
このようにして得られた複層皮膜の焼き付け温度は、被塗物表面で100〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲内の温度が適しており、焼き付け時間は5〜90分間、好ましくは10〜50分間とすることができる。
【実施例】
【0065】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0066】
アミン変性エポキシ樹脂(A)の製造
製造例1 アミノ基含有エポキシ樹脂No.1溶液の製造
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)638.9部(固形分配合量)、デナコールEX821(注2)300.0部(固形分配合量)、ビスフェノールA 404.2部及びジメチルベンジルアミン0.2部を仕込み、130℃でエポキシ当量900になるまで反応させた。
【0067】
次に、ジエタノールアミン156.9部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル375.0部を加え、樹脂固形分80質量%のアミノ基含有エポキシ樹脂No.1溶液を得た。
【0068】
アミノ基含有エポキシ樹脂No.1は、アミン価が56mgKOH/g、数平均分子量が2,000、ジエポキシド化合物(a)の割合(%)が20質量%であった。
(注1)jER828EL:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ樹脂、エポキシ当量190、数平均分子量380
(注2)デナコールEX−821: ナガセケムテックス(株)製、商品名、エポキシ当量185(一般式(1)において、n=4である化合物に相当)
【0069】
製造例2〜4 アミノ基含有エポキシ樹脂No.2〜No.4溶液の製造
下記表1の組成及び配合内容とする以外は、製造例1と同様にしてアミノ基含有エポキシ樹脂No.2〜No.4溶液を得た。尚、表1において、jER828EL、デナコールEX821及びデナコールEX−841の配合量は、固形分の配合量を示す。
【0070】
【表1】

【0071】
(注3)デナコールEX−841: ナガセケムテックス(株)製、商品名、エポキシ当量372(一般式(1)において、n=13である化合物に相当)
【0072】
製造例5 アミノ基含有エポキシ樹脂No.5溶液
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)1,230部(固形分配合量)、ビスフェノールA 520部及びジメチルベンジルアミン0.2部を仕込み、130℃でエポキシ当量700になるまで反応させた。
【0073】
次に、ジエタノールアミン175部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物65部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル355部を加え、樹脂固形分80質量%のアミノ基含有エポキシ樹脂No.5溶液は、アミン価が56mgKOH/g、数平均分子量が2,000であった。
【0074】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)の製造
製造例6 硬化剤の製造例
反応容器中に、コスモネートM−200(注4)270部及びメチルイソブチルケトン127部を加え70℃に昇温した。この中にエチレングリコールモノブチルエーテル236部を1時間かけて滴下して加え、その後、100℃に昇温し、この温度を保ちながら経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分80%の硬化剤を得た。
(注4)コスモネートM−200:商品名、三井化学社製、クルードMDI
【0075】
製造例7 顔料分散用樹脂の製造例
jER828EL(注1参照)1,010部(固形分配合量)に、ビスフェノールAを390部、プラクセル212(注5)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1,090になるまで反応させた。
【0076】
次に、ジメチルエタノールアミン134部及び90%の乳酸水溶液150部を加え、120℃で4時間反応させた。次いで、メチルイソブチルケトンを加えて固形分を調整し、固形分60%の顔料分散用樹脂を得た。
(注5)プラクセル212:ポリカプロラクトンジオール、ダイセル化学工業株式会社、商品名、重量平均分子量約1,250
【0077】
製造例8 顔料分散ペーストの製造例
製造例7で得た固形分60%の顔料分散用樹脂8.3部(固形分5部)、酸化チタン14.5部、精製クレー7.0部、カーボンブラック0.3部、ジオクチル錫オキサイド1部、水酸化ビスマス1部及び脱イオン水20.3部を加え、ボールミルにて20時間分散し、固形分55%の顔料分散ペーストを得た。
【0078】
エマルションの製造
製造例9 エマルションNo.1の製造例
製造例1で得られたアミン付加エポキシ樹脂No.1溶液を87.5部(固形分70部)、製造例6で得られた硬化剤を37.5部(固形分30部)を混合し、さらに10%スルファミン酸34.6部を配合して均一に攪拌した後、脱イオン水134.4部を強く攪拌しながら約15分間を要して滴下して、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0079】
製造例10〜16 エマルションNo.2〜No.8の製造
表2の配合内容とする以外は、製造例9と同様にして、エマルションNo.2〜No.8を得た。
【0080】
【表2】

【0081】
カチオン電着塗料の製造
実施例1
エマルションNo.1を312.5部(固形分100部)、製造例8で得た55%顔料分散ペーストを52.4部(固形分28.8部)、脱イオン水635.1部を加えて1,000部の浴とした。次いで、10%のジルコニウムフッ化水素酸14.0部を加えてカチオン電着塗料No.1を得た。
【0082】
実施例2〜5
下記表3に示す配合とする以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料No.2〜No.5を得た。
【0083】
【表3】

【0084】
比較例1〜6
下記表4に示す配合とする以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料No.6〜No.11を得た。
【0085】
【表4】

【0086】
被塗物について
化成処理を施していない冷延鋼板(70mm×150mm×0.8mm)を、トルエンを入れた超音波洗浄器に浸漬して超音波脱脂を30分間施して「被塗物」とした。
【0087】
試験板作成と評価
上記「被塗物」を、40℃に調整した各々のカチオン電着塗料No.1〜No.11の浴に120秒間浸漬(工程1)し、次いで200Vで通電時間を調整して電着塗装(工程2)して、下層皮膜と上層皮膜の総合乾燥膜厚が15μmとなるように通電を行った。
【0088】
その後、170℃で20分間焼付けして各試験板とした。各試験板の評価は、下記の条件に従って行い、実施例の結果を表5に、比較例の結果を表6に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
【表6】

【0091】
(注6) 耐ソルトスプレー性:
各試験板の素地に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて840時間耐塩水噴霧試験を行い、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した;
◎は、錆、フクレの最大幅がカット部より2.0mm未満(片側)
○は、錆、フクレの最大幅がカット部より2.0mm以上でかつ3.0mm未満(片側)
△は、錆、フクレの最大幅がカット部より3.0mm以上でかつ4.0mm未満(片側)
×は、錆、フクレの最大幅がカット部より4.0mm以上(片側)。
【0092】
(注7)耐温塩水浸漬性:
試験板を、50℃の5質量%の塩水に840時間浸漬し、セロテープ(登録商標)剥離試験を行って剥がれた割合(%)を評価した;
◎は、剥がれた割合(%)が5%未満、
〇は、剥がれた割合(%)が5%以上、10%未満、
△は、剥がれた割合(%)が10%以上、20%未満、
×は、剥がれた割合(%)が20%以上、を表す。
【0093】
(注8)皮膜状態:
試験板を切断して下層皮膜と上層皮膜の皮膜状態を、HF−2000(日立製作所製、商品名、電界放出型透過型電子顕微鏡)及びJXA−8100(日本電子製、商品名、電子線プローブマイクロアナライザー)を用いて観察した。皮膜状態の評価は以下の基準に従って行った;
○:層分離がはっきり認められる;
△:下層皮膜と上層皮膜境界がはっきりしないが、層分離が多少認められる;
×:層分離は認められない。
【0094】
(注9)ジルコニウムの金属量(%):
下層皮膜中の金属量(質量%)を、JY−5000RF(堀場製作所製、商品名、グロー放電発光分析計)及びRIX−3100(株式会社リガク製、商品名、蛍光X線分光分析装置)を用いて測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、水溶性ジルコニウム化合物(C)及びスルファミン酸を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、水溶性ジルコニウム化合物(C)をジルコニウム元素の質量で10〜10,000ppm含有し、かつ
該アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)が
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、nは1〜50の整数を示す)
で示されるジエポキシド化合物(a1)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を反応させてなるエポキシ樹脂(A1)と、アミノ基含有化合物(a4)とを反応させてなる樹脂である、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物を浴として、該浴中に被塗物を浸漬し、電着塗装して得られた塗装物品。

【公開番号】特開2012−233054(P2012−233054A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101644(P2011−101644)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】