説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】つきまわり性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、カチオン電着塗膜の仕上り性、防食性に優れ、さらには、該カチオン電着塗膜上の3C1B方式における複層塗膜の仕上り性に優れる塗装物品を提供する。
【解決手段】エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)と、下記一般式(I):


[式(I)中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基を示す。Rは、水酸基を有することのある炭素数2〜8のアルキル基を示す。]で表されるアミン化合物(A2)とを反応させてなるアミノ基含有エポキシ樹脂(A)、並びにブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を含むことを特徴とするカチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、つきまわり性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、カチオン電着塗膜の仕上り性、特に、乾燥膜厚15μmの仕上り性、防食性に優れ、さらには、該カチオン電着塗膜上に形成される3コート1ベーク方式における複層塗膜の仕上り性にも優れるカチオン電着塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、塗装作業性が優れ、形成した塗膜の防食性が良好なことから、これらの性能が要求される自動車ボディ等の導電性金属製品の下塗り塗料として広く使用されている。しかし近年、衝突安全性向上の面から自動車ボディの強度アップが図られ、スポット溶接によって溶接した部材にさらに補強材を加えることから、複雑な袋部や隙間部を有する構造の被塗物が多くなってきた。このような構造は、電着塗装時に電流密度(mA/cm)が低下することから塗膜が析出し難く、袋部や隙間部が未塗装となることから防食性が低下することがあった。
【0003】
このため袋部や隙間部の膜厚(μm)を確保するため塗装条件の工夫がなされているが、電着塗装時の塗装電圧を上げて塗装するだけでは、隙間構造の開口部を塞いでしまい、複雑な袋部や隙間部におけるつきまわり性を得ることが困難であった。また塗装電圧を上げて塗装すると「合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性」が低下したり、被塗物の外板膜厚(μm)が厚くなり塗料使用量が増える等の問題があった。
【0004】
また、つきまわり性を向上させる為に、例えば、塗料の分極抵抗値を上げる手法を採ると、塗膜の熱フロー性が低下することから、得られた塗膜の仕上り性が低下する傾向があった。
【0005】
袋部や隙間部等の内板膜厚を維持して防食性を確保し、さらに外板膜厚の適正化・均一化(例えば、仕上り性や防食性が重視される部位の膜厚を確保する)を図ることによって、自動車ボディの品質向上や低コスト化につなげることが試みられている。
【0006】
しかし、従来からの電着塗料による塗膜では、膜厚が低下すると下地の凹凸や熱フロー性の低下に伴って仕上り性が低下し、さらには電着塗膜上に形成される複層塗膜の仕上り性が低下することが問題となっていた。また、防食性が低下する傾向があった。
【0007】
従来からの自動車車体の塗装は、通常、電着塗料を塗装し、焼付け乾燥した電着塗膜上に、中塗り塗料を塗装して焼付け、次に着色水性塗料を塗装して予備加熱(プレヒート)を施し、次いでクリヤ塗料を塗装し、焼付け乾燥して複層塗膜を形成する(所謂、「3C2B方式」による塗膜形成方法)。このように焼付けによって塗膜の凹凸を平準化して、防食性と仕上り性が良好な複層塗膜を得ることができる。
【0008】
上記のように、各塗料の塗装後に焼付け乾燥を行うと、焼付け乾燥のために多大のエネルギーコストがかかるのみならず、焼付け設備の稼動やメンテナンスのためにも多大の手間と費用を要する。また、塗料中の低揮発性有機化合物の低減(低VOC化)を目的として、有機溶剤型塗料から水性塗料に移行してきている。
【0009】
また、低コスト化を目的として、電着塗膜の乾燥膜厚を低下させることが行なわれており、例えば従来20μmであった膜厚を15μmとすると下地の凹凸や熱フロー性の低下に伴って電着塗膜の仕上り性が低下し、さらには電着塗膜上に形成される複層塗膜の仕上り性が低下することが問題となっていた。また、防食性が低下する傾向があった。
【0010】
このような省エネルギー、省工程及び低VOC化を目的として、電着塗膜上に、第1着色水性塗料と第2着色水性塗料及びクリヤ塗料を順次塗装し、3層を同時に加熱硬化する塗膜形成方法(以下、「3C1B方式による複層塗膜」と略称することがある)によって、防食性と仕上り性が良好な複層塗膜を得ることが求められている。
【0011】
このような背景から複雑な袋部や隙間部を有する被塗物において、つきまわり性が良好で、かつ合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、カチオン電着塗膜の仕上り性、特に、電着塗膜の乾燥膜厚15μmの仕上り性、防食性に優れ、3C1B方式による複層塗膜においても仕上り性に優れる、カチオン電着塗料を見い出すことが求められていた。
【0012】
これに対し、特許文献1では、カチオン電着塗料の電着塗装時において、塗膜の析出開始に必要な電気量が100〜400C/mであること、単位膜厚当たりの分極抵抗値が50〜300kΩ・cm/μmであることを特徴とする塗膜形成方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献2には、基材上に、カチオン電着塗料により塗膜形成した硬化電着塗膜のガラス転移温度が、110℃以上であり、かつ表面粗度(Ra)が0.3μm以下である電着塗膜面に、中塗り塗料、上塗りベース塗料さらに上塗りクリヤ塗料を順次塗装し、未硬化の中塗り塗膜、上塗りベース塗膜さらに上塗りクリヤ塗膜の3層塗膜を形成した後、上記3層塗膜を同時に加熱して硬化させる複層塗膜形成方法が開示されている。
これら特許文献1、特許文献2に開示の手法では、電着塗膜の仕上り性、特に、電着塗膜の乾燥膜厚15μmの仕上り性を確保し、3C1B方式による複層塗膜の仕上り性を得ることは不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−306796号公報
【特許文献2】特開2002−224613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明が解決しようとする課題は、つきまわり性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、カチオン電着塗膜の仕上り性、特に、電着塗膜の乾燥膜厚15μmの仕上り性に優れ、さらには、該カチオン電着塗膜上の3C1B方式による複層塗膜の仕上り性が良好となる塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)と特定のアミン化合物(A2)とを反応させてなるアミノ基含有エポキシ樹脂(A)、並びにブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を含むカチオン電着塗料組成物によって、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、以下の項を提供する:
項1.エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)と、下記一般式(I):
【0018】
【化1】

【0019】
[式(I)中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基を示す。
は、水酸基を有することのある炭素数2〜8のアルキル基を示す。]
で表されるアミン化合物(A2)とを反応させてなるアミノ基含有エポキシ樹脂(A)、並びに
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)
を含むことを特徴とするカチオン電着塗料組成物。
【0020】
項2.前記一般式において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、かつ
が水酸基を有する炭素数2〜8のアルキル基であるか、又は
及びRが同一もしくは異なって炭素数2〜8のアルキル基である、項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0021】
項3.前記一般式において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、かつRが水酸基を有する炭素数2〜8のアルキル基である、項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0022】
項4.アミノ基含有エポキシ樹脂(A)が、エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)とを、[アミン化合物(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基]の当量比0.6〜0.95の割合で反応させることにより得られる項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0023】
項5.エポキシ樹脂(A1)が、下記(a11)、(a12)及び(a13)を反応させて得られる樹脂である項1〜3のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物:
(a11)一般式(1)
【0024】
【化2】

【0025】
[一般式(1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数である、m及びnはm+n=1〜20となる整数を表す]
で表される化合物(1)及び/又は
一般式(2)
【0026】
【化3】

【0027】
[式(2)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
Xは1〜9の整数を示す。
Yは1〜50の整数を示す]
で表される化合物(2)である、
ジエポキシ化合物
(a12)エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂、
(a13)ビスフェノール化合物。
【0028】
項6.エポキシ樹脂(A1)が、前記ジエポキシ化合物(a11)、前記エポキシ樹脂(a12)及びビスフェノール化合物(a13)を、これらの固形分合計質量を基準にして、ジエポキシ化合物(a11)を1〜35質量%、エポキシ樹脂(a12)を10〜80質量%、ビスフェノール化合物(a13)を10〜60質量%の割合で反応させることにより得られる、項5に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0029】
項7.ジエポキシ化合物(a11)が、一般式(1)又は一般式(2)におけるRがメチル基又は水素原子の化合物である項5又は6に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0030】
項8.項1に記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗料浴とし、これに合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を含む金属被塗物を浸漬し、電着塗装して得られた塗装物品。
【発明の効果】
【0031】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、つきまわり性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、カチオン電着塗膜の仕上り性、特に、電着塗膜の乾燥膜厚15μmの仕上り性、及び防食性に優れ、さらには、該カチオン電着塗膜上の3C1B方式における複層塗膜において仕上り性が良好な塗装物品を提供できる。
【0032】
理由は、1.アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)に用いているアミン化合物(A2)が疎水性であるために、電着塗装時に低電流密度(mA/cm)で塗膜が袋部に析出し易く、つきまわり性が良好となる。
【0033】
さらに、上記アミン化合物(A2)は、水素結合力が小さいことから、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)を含む析出塗膜は、焼付け乾燥時の熱フロー性が良好であり、仕上り性に優れる塗膜を得ることができる。
【0034】
2.アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の構成成分としてジエポキシ化合物(a11)を用いた場合には、可塑性をエポキシ樹脂骨格に付与できる為、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性とカチオン電着塗膜の平滑性を向上できる。さらには、該カチオン電着塗膜上の3C1Bによる複層塗膜での仕上り性をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】つきまわり性試験に用いる「4枚ボックスつきまわり性試験用治具」のモデル図である。
【図2】つきまわり性試験における電着塗装状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)と、アミン化合物(A2)とを反応させてなるアミノ基含有エポキシ樹脂(A)、並びにブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を含むものである。
【0037】
以下、詳細に述べる。
【0038】
[アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)]
本発明のカチオン電着塗料組成物におけるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)(本明細書中において、単にアミノ基含有エポキシ樹脂(A)と示すこともある)は、エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)と、アミン化合物(A2)とを反応させてなる樹脂である。
【0039】
エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1):
エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)は、ポリフェノール化合物又はポリアルコール化合物とエピハロヒドリン、例えば、エピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が用いられる。中でも耐食性の点からポリフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。
【0040】
該エポキシ樹脂の形成のために用い得るポリフェノール化合物としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0041】
特に、アミン化合物(A2)が疎水性であるため、得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の水分散性が乏しくなる恐れがあり、水分散性向上の観点から一般式(1)で表される化合物(1)及び/又は一般式(2)で表される化合物(2)からなるジエポキシ化合物(a11)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a12)及びビスフェノール化合物(a13)を反応させて得られる樹脂がより好適である。
【0042】
ジエポキシ化合物(a11):
ジエポキシ化合物(a11)として、一般式(1)で表される化合物(1)を用いることができる。
【0043】
化合物(1)
【0044】
【化4】

【0045】
[式(1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数である、m及びnはm+n=1〜20、となる整数を示す。]
化合物(1)の製造は、ビスフェノールAに、下記一般式(3)で示されるアルキレンオキシドを付加させてヒドロキシル末端のポリエーテル化合物を得た後、
【0046】
【化5】

【0047】
[一般式(3)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す]
該ポリエーテル化合物とエピハロヒドリンと反応させてジエポキシ化することにより製造することができる。
【0048】
ここで上記式(3)におけるアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜8のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0049】
この中でも、エチレンオキシド(一般式(3)においてRが水素原子である化合物)、プロピレンオキシド(一般式(3)においてRがメチルである化合物)が好適である。
【0050】
化合物(2):
また、ジエポキシ化合物(a11)として、一般式(2)で表される化合物(2)を用いることができる。
【0051】
【化6】

【0052】
[一般式(2)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
Xは1〜9を示す。
Yは1〜50の整数を示す。]
【0053】
化合物(2)の製造方法としては、アルキレングリコールを出発原料として、前記一般式(3)のアルキレンオキシドを開環重合させることによりヒドロキシル末端のポリアルキレンオキシドを得た後、次いで、該ポリアルキレンオキシドにエピハロヒドリンを反応させてジエポキシ化する方法(1);が挙げられる。
【0054】
化合物(2)の別の製造方法としては、下記一般式(4)
【0055】
【化7】

【0056】
[一般式(4)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
Xは1〜9の整数を示す。]
で示されるアルキレングリコール又は該アルキレングリコール分子2個以上を脱水縮合させることにより得られるポリエーテルジオールに、エピハロヒドリンを反応させてジエポキシ化することによる方法(2);が挙げられる。
【0057】
ここで使用される上記一般式(4)で表されるアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の炭素数2〜10のアルキレングリコールが挙げられる。
【0058】
上記一般式(1)又は一般式(2)で表されるジエポキシ化合物(a11)としては、デナコールEX−850、EX−821、EX−830、EX−841、EX−861、EX−941、EX−920、EX−931(ナガセケムテックス株式会社)、グリシエールPP−300P、BPP−350(三洋化成工業株式会社)等が挙げられる。また、ジエポキシド化合物(a11)として、化合物(1)と化合物(2)を混合して用いることもできる。
【0059】
エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a12):
エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)の製造に用いるエポキシ樹脂(a12)は、一般式(1)で表される化合物(1)又は一般式(2)で表される化合物(2)のジエポキシド化合物(a11)以外の1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であり、340〜1,500、さらに好ましくは340〜1,000の「数平均分子量」、及び170〜500、さらに好ましくは170〜400の範囲内の「エポキシ当量」を有するものが適しており、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるものが好ましい。
【0060】
ここで「数平均分子量」は、JIS K 0124−83に記載の方法に準じ、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0061】
該エポキシ樹脂の形成のために用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0062】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記一般式(5)
【0063】
【化8】

【0064】
[一般式(5)中、n=0〜2で示されるものが好適である。]
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からjER828EL、jER1001なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0065】
ビスフェノール化合物(a13):
ビスフェノール化合物(a13)には、下記一般式(6)
【0066】
【化9】

【0067】
[一般式(6)中、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、R、R、R、R10、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す]
で示される化合物が包含される。具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]が挙げられる。
【0068】
なおエポキシ当量500〜2,500のエポキシ樹脂(A1)の製造は、通常、ジエポキシ化合物(a11)とエポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a12)とビスフェノール化合物(a13)を混合し、適宜、反応触媒として、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミンのような3級アミン、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドのような4級アンモニウム塩等の存在下、反応温度としては80〜200℃、好ましくは90〜180℃、反応時間として1〜6時間、好ましくは1〜5時間行うことができる。
【0069】
上記のエポキシ樹脂(A1)の製造方法としては、以下の1〜3の方法が挙げられる。
【0070】
方法1.ジエポキシ化合物(a11)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a12)、及びビスフェノール化合物(a13)をすべて混合し反応させてエポキシ当量500〜2,500のエポキシ樹脂(A1)を得る方法;
方法2.ジエポキシ化合物(a11)とビスフェノール化合物(a13)を反応させて反応物を得た後、次に該反応物にエポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a12)を混合し、反応させてエポキシ当量500〜2,500のエポキシ樹脂(A1)を得る方法;
方法3.エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a12)とビスフェノール化合物(a13)を反応させて反応物を得た後、次に該反応物にジエポキシ化合物(a11)を混合し、反応させてエポキシ当量500〜2,500のエポキシ樹脂(A1)を得る方法;等が挙げられる。なお反応状態は、エポキシ価によって追跡することができる。
【0071】
上記のエポキシ樹脂(A1)の製造における各成分の配合割合としては、該エポキシ樹脂(A1)の構成成分であるジエポキシ化合物(a11)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a12)及びビスフェノール化合物(a13)の固形分合計質量を基準にして、ジエポキシ化合物(a11)を1〜35質量%、好ましくは2〜30質量%含有することが、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の水分散性に優れ、かつつきまわり性、カチオン電着塗膜の仕上り性、特に、乾燥膜厚が15μmでの仕上り性向上の為に好ましい。
【0072】
さらに、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a12)が10〜80質量%、好ましくは15〜75質量%、ビスフェノール化合物(a13)が10〜60質量%、好ましくは15〜50質量%であることが、つきまわり性、カチオン電着塗膜の仕上り性(特に、乾燥膜厚が15μm)、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、及び防食性に優れ、さらには3C1B方式における複層塗膜の仕上り性向上の為に好ましい。
【0073】
上記の製造に適宜、有機溶剤を用いることができ、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0074】
アミン化合物(A2):
本発明のカチオン電着塗料組成物は、エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)を、カチオン化するためのカチオン性付与成分に下記一般式(I)で表されるアミン化合物(A2)を用いることを特徴とする。
【0075】
【化10】

【0076】
[式(I)中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基を示す。
は、水酸基を有することのある炭素数2〜8のアルキル基を示す。]
本発明の好ましい一実施形態においては、Rは、炭素数1〜6、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3のアルキル基を示し、かつRは、水酸基を有する炭素数2〜8、好ましくは2〜4のアルキル基を示す。
【0077】
即ち、当該実施形態においては、アミン化合物(A2)は、下記の一般式により表すことができる:
【0078】
【化11】

【0079】
[一般式(7)中、pは1〜6の整数を示す。
qは2〜8の整数を示す。]
上記一般式(7)で表される化合物の具体例としては、2−メチルアミノ−1−エタノール、2−エチルアミノ−1−エタノール、2−イソプロピルアミノ−1−エタノール、2−n−ブチルアミノ−1−エタノール、2−ヘキシルアミノ−1−エタノール、3−メチルアミノ−1−プロパノール、3−エチルアミノ−1−プロパノール、3−n−ブチルアミノ−1−プロパノール、4−メチルアミノ−1−ブタノール、4−エチルアミノ−1−ブタノール、4−n−ブチルアミノ−1−ブタノール、4−n−ヘキシルアミノ−1−ブタノール、6−エチルアミノ−1−ヘキサノール、6−n−ブチルアミノ−1−ヘキサノール、8−エチルアミノ−1−オクタノール等が挙げられる。
【0080】
これらの中でも、2−メチルアミノ−1−エタノール、4−エチルアミノ−1−ブタノール、2−エチルアミノ−1−エタノールが、本願の課題を達成する上で好ましい。
【0081】
本発明の別の好ましい実施形態においては、R及びRは、同一もしくは異なって炭素数2〜8、好ましくは2〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。すなわち、当該実施形態においては、アミン化合物(A2)としては、アルキル部分の炭素数がそれぞれ2〜8、好ましくは2〜4である、ジアルキルアミンが用いられる。そのようなジアルキルアミンの具体例としては、例えば、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、N−エチルプロピルアミン、N−エチルイソプロピルアミン、N−エチルヘキシルアミン、N−エチルイソアリルアミン等が挙げられる。特に好ましいジアルキルアミンとして、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、N−エチルプロピルアミン等が挙げられる。
【0082】
本発明のカチオン電着塗料組成物において使用されるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)に、アミン化合物(A2)を付加反応させることにより製造することができる。
【0083】
上記付加反応における各成分の使用割合は、厳密に制限されるものではなく、電着塗料組成物の用途等に応じて適宜変えることができるが、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造に使用されるエポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)との合計固形分質量を基準にして、エポキシ樹脂(A1)が75〜98質量%、好ましくは78〜96質量%、アミン化合物(A2)が2〜25質量%、好ましくは4〜22質量%である。
【0084】
アミノ基含有エポキシ樹脂(A)における、[アミン化合物(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基]の当量比が0.6〜0.95、好ましくは0.65〜0.93、さらに好ましくは0.78〜0.93であることが、つきまわり性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、カチオン電着塗膜の仕上り性、特に、乾燥膜厚15μmの仕上り性を得るためにも好ましい。
【0085】
なお上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、80〜170℃、好ましくは90〜150℃の温度で1〜6時間、好ましくは1〜5時間行うことができる。上記反応における溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0086】
[ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)]
本発明のカチオン電着塗料組成物に用いるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)と組合せて使用することにより、熱硬化性のカチオン電着塗料を調製することができる。
【0087】
上記のブロックポリイソシアネート硬化剤(B)は、ポリイソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤とのほぼ化学理論量での付加反応生成物である。ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)で使用されるポリイソシアネート化合物としては、公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI[ポリメチレンポリフェニルイソシアネート]、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物の環化重合体又はビゥレット体;又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0088】
特に、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI等の芳香族ポリイソシアネート化合物が防食性の為により好ましい。
【0089】
一方、前記イソシアネートブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温において安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常約100〜約200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生することが望ましい。
【0090】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)で使用されるブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム系化合物;等が挙げられる。
【0091】
本発明のカチオン電着塗料組成物におけるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)の配合割合としては、上記成分(A)及び(B)の固形分合計質量を基準にして、成分(A)を60〜90質量%、好ましくは65〜85質量%、そして成分(B)を10〜40質量%、好ましくは15〜35質量%の範囲内である。この範囲が、塗料特性として塗料安定性が良好で、かつカチオン電着塗料中においてつきまわり性に優れ、仕上り性特に、カチオン電着塗膜が15μmでの仕上り性に優れ、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、防食性の向上や、3C1B方法における複層塗膜の仕上り性に優れる塗装物品を得る為にも好ましい。
【0092】
なおアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)を樹脂成分として含むカチオン電着塗料の製造においては、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を、必要に応じて、界面活性剤、表面調整剤等の各種添加剤、有機溶剤等と共に十分に混合して調合樹脂とした後、上記調合樹脂を有機カルボン酸等で水溶化又は水分散化して、エマルションを得ることができる。
【0093】
なお調合樹脂の中和には、一般的には、公知の有機カルボン酸を用いることができるが、中でも酢酸、ギ酸、乳酸又はこれらの混合物が好適である。次いで、エマルションに顔料分散ペーストを加え、水で調整することによってカチオン電着塗料組成物を調整することができる。
【0094】
上記の顔料分散ペーストは、着色顔料、防錆顔料、体質顔料等をあらかじめ微細粒子に分散したものであって、例えば、顔料分散用樹脂、中和剤及び顔料類を配合し、ボールミル、サンドミル、ペブルミル等の分散混合機中で分散処理することにより調製できる。
【0095】
上記顔料分散用樹脂としては、公知のものが使用でき、例えば水酸基及びカチオン性基を有する基体樹脂、界面活性剤等、又は3級アミン型エポキシ樹脂、4級アンモニウム塩型エポキシ樹脂、3級スルホニウム塩型エポキシ樹脂等の樹脂を使用できる。上記顔料分散剤の使用量は、顔料及び有機錫化合物100質量部あたり1〜150質量部、特に10〜100質量部の範囲内が好適である。
【0096】
上記顔料には、特に制限なく使用でき、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;クレー、マイカ、バリタ、炭酸カルシウム、シリカ等の体質顔料;リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、酸化亜鉛(亜鉛華)等の防錆顔料を添加することができる。
【0097】
さらに、腐食抑制又は防錆を目的として、ビスマス化合物を含有させることができる。上記ビスマス化合物としては、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス及び有機酸ビスマス等を用いることができる。
【0098】
また、塗膜硬化性の向上を目的として、ジブチル錫ジベンゾエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイト゛等の有機錫化合物を用いることができるが、前記酸化亜鉛(亜鉛華)等の防錆顔料及び/又はビスマス化合物を、適用(増量)及び/又は微細化して用いることによって、これらの有機錫化合物を含有せずに、塗膜硬化性の向上を図ることもできる。これらの顔料類の配合量は、基体樹脂及び硬化剤の合計固形分100質量部あたり1〜100質量部、特に10〜50質量部の範囲内が好ましい。
【0099】
本発明のカチオン電着塗料組成物の被塗物としては、自動車ボディ、2輪車部品、家庭用機器、その他の機器等が挙げられ、金属であれば特に制限はない。
被塗物としての金属鋼板としては、冷延鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−鉄二層めっき鋼板、有機複合めっき鋼板、Al素材、Mg素材等、並びにこれらの金属板を必要に応じてアルカリ脱脂等の表面を洗浄化した後、リン酸塩化成処理、クロメート処理等の表面処理を行ったものが挙げられる。
【0100】
カチオン電着塗料組成物は、電着塗装によって所望の基材表面に塗装することができる。カチオン電着塗装は、一般的には、脱イオン水等で希釈して固形分濃度が約5〜40質量%とし、さらにpHを5.5〜9.0の範囲内に調整した電着塗料組成物からなる電着浴を、通常、浴温15〜35℃に調整し、負荷電圧100〜400Vの条件で被塗物を陰極として通電することによって行うことができる。電着塗装後、通常、被塗物に余分に付着したカチオン電着塗料を落とすために、限外濾過液(UF濾液)、逆浸透透過水(RO水)、工業用水、純水等で十分に水洗する。
【0101】
電着塗膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、一般的には、乾燥塗膜に基づいて5〜40μm、好ましくは12〜30μmの範囲内とすることができる。また、塗膜の焼き付け乾燥は、電着塗膜を電気熱風乾燥機、ガス熱風乾燥機等の乾燥設備を用いて、塗装物表面の温度で110℃〜200℃、好ましくは140〜180℃にて、時間としては10分間〜180分間、好ましくは20分間〜50分間、電着塗膜を加熱して行う。上記焼付け乾燥により硬化塗膜を得ることができる。
【0102】
上記の焼付け乾燥によって得られたカチオン電着塗膜は、特に、乾燥膜厚15μmにおいて、JIS B 601に定義される粗さ曲線における中心線平均粗さ(Ra)が0.20μm以下、好ましくは0.05〜0.18μm(以上、カットオフ値0.8mm)で、仕上り性に優れた塗膜を得ることができる。
さらに、上記のカチオン電着硬化塗膜上に、第1着色水性塗料、第2着色水性塗料及びクリヤ塗料を塗装し、3層の未硬化塗膜を同時に加熱乾燥する3C1B方式における複層塗膜の仕上り性に優れた塗装物品を提供できる。
【実施例】
【0103】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0104】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造
製造例1 基体樹脂No.1の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)162部、jER828EL(注3)1000部、ビスフェノールAを440部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.6部を加え、160℃でエポキシ当量800になるまで反応させた。
【0105】
次に、メチルイソブチルケトンを430部加え、次いで、2−メチルアミノ−1−エタノール130部を加えて100℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.1溶液を得た。
【0106】
エポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は、10質量%、当量比([アミン化合物(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基])=0.9であり、得られた基体樹脂No.1のアミン価58mgKOH/g、数平均分子量2,200であった。
【0107】
製造例2 基体樹脂No.2の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)162部、jER828EL(注3)1000部、ビスフェノールAを440部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.6部を加え、160℃でエポキシ当量800になるまで反応させた。
【0108】
次に、メチルイソブチルケトンを450部加え、次いで、4−エチルアミノ−1−ブタノール210部を加えて100℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.2溶液を得た。
【0109】
エポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は、10質量%、当量比([アミン化合物(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基])=0.9であり、得られた基体樹脂No.2のアミン価56mgKOH/g、数平均分子量2,200であった。
【0110】
製造例3 基体樹脂No.3の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)162部、jER828EL(注3)1000部、ビスフェノールAを440部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.6部を加え、160℃でエポキシ当量800になるまで反応させた。
【0111】
次に、メチルイソブチルケトンを440部加え、次いで、2−エチルアミノ−1−エタノール158部を加えて100℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.3溶液を得た。
【0112】
エポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は、10質量%、当量比([アミン化合物(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基])=0.88であり、得られた基体樹脂No.3のアミン価56mgKOH/g、数平均分子量2,200であった。
【0113】
製造例4 基体樹脂No.4の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールBPP−350(注2)340部、jER828EL(注4)950部、ビスフェノールAを456部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.7部を加え、160℃でエポキシ当量875になるまで反応させた。
【0114】
次に、メチルイソブチルケトンを469部加え、次いで、2−メチルアミノ−1−エタノール130部を加えて100℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.4溶液を得た。
【0115】
エポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は、19質量%、当量比([アミン化合物(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基])=0.9であり、得られた基体樹脂No.4のアミン価54mgKOH/g、数平均分子量2,400であった。
【0116】
製造例5 基体樹脂No.5の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)162部、jER828EL(注3)1,000部、ビスフェノールAを440部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.6部を加え、160℃でエポキシ当量800になるまで反応させた。
【0117】
次に、メチルイソブチルケトンを400部加え、次いで、ジエタノールアミンを158部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物を64部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.5溶液を得た。基体樹脂No.5は、アミン価60mgKOH/g、数平均分子量2,300であった。なおエポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は10質量%である。
【0118】
表1に、製造例1〜5の基体樹脂No.1〜No.5の配合内容及び特数を示す。
【0119】
【表1】

【0120】
(注1)グリシエールPP−300P:三洋化成工業社製、商品名、エポキシ樹脂 (ジエポキシ化合物(a11))、エポキシ当量296、化合物(2)に相当
(注2)グリシエールBPP−350:三洋化成工業社製、商品名、エポキシ樹脂 (ジエポキシ化合物(a11))、エポキシ当量340、化合物(1)に相当
(注3)jER828EL:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ樹脂(a12)、エポキシ当量190、数平均分子量380。
【0121】
合成例1 キシレンホルムアルデヒド樹脂の製造
温度計、還流冷却器及び撹拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに50%ホルマリン480部、フェノール110部、98%工業用硫酸202部及びメタキシレン424部を仕込み、84〜88℃で4時間反応させた。 反応終了後、静置して樹脂相と硫酸水相とを分離した後、樹脂相を3回水洗し、20〜30mmHg/120〜130℃の条件で20分間未反応メタキシレンをストリッピングして、粘度1,050mPa・s(25℃)のフェノール変性されたキシレンホルムアルデヒド樹脂480部を得た。
【0122】
製造例6 基体樹脂No.6の製造例
フラスコに、jER828EL(注3)1140部、ビスフェノールA 456部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量820になるまで反応させた。
【0123】
次に、メチルイソブチルケトンを420部加え、次いで、合成例1で得たキシレンホルムアルデヒド樹脂300部を加え、次いで、ジエタノールアミンを95部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物を127部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.6溶液を得た。基体樹脂No.6は、アミン価47mgKOH/g、数平均分子量2,500であった。
【0124】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)の製造
製造例7 硬化剤の製造例
反応容器中に、コスモネートM−200(商品名、三井化学社製、クルードMDI)270部及びメチルイソブチルケトン127部を加え70℃に昇温した。この中にエチレングリコールモノブチルエーテル236部を1時間かけて滴下して加え、その後、100℃に昇温し、この温度を保ちながら、経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分80%の硬化剤を得た。
【0125】
エマルションの製造
製造例8 エマルションNo.1の製造例
製造例1で得られた基体樹脂No.1を87.5部(固形分70部)、製造例7で得られた硬化剤を37.5部(固形分30部)を混合し、さらに10%酢酸13部を配合して均一に攪拌した後、脱イオン水156部を強く攪拌しながら約15分間を要して滴下して、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0126】
製造例9〜13 エマルションNo.2〜No.6の製造例
表2の配合内容とする以外は、製造例8と同様にして、エマルションNo.2〜No.6を得た。
【0127】
【表2】

【0128】
製造例14 顔料分散用樹脂の製造例
jER828EL(注3参照)1010部に、ビスフェノールAを390部、プラクセル212(ポリカプロラクトンジオール、ダイセル化学工業株式会社、商品名、重量平均分子量約1,250)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1,090になるまで反応させた。
【0129】
次に、ジメチルエタノールアミン134部及び90%の乳酸水溶液150部を加え、120℃で4時間反応させた。次いで、メチルイソブチルケトンを加えて固形分を調整し、固形分60%のアンモニウム塩型樹脂系の顔料分散用樹脂を得た。上記分散用樹脂のアンモニウム塩濃度は、0.78mmol/gであった。
【0130】
製造例15 顔料分散ペーストの製造例
製造例14で得た固形分60%の顔料分散用樹脂8.3部(固形分5部)、酸化チタン14.5部、精製クレー7.0部、カーボンブラック0.3部、ジオクチル錫オキサイド1部、水酸化ビスマス1部及び脱イオン水20.3部を加え、ボールミルにて20時間分散し、固形分55%の顔料分散ペーストを得た。
【0131】
[水性第1着色塗料の製造]
製造例16 ポリエステル樹脂溶液(PE1)の製造
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器及び水分離器を備えた反応容器に、アジピン酸88部、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物536部、イソフタル酸199部、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール288部、ネオペンチルグリコール95部、1,4−シクロヘキサンジメタノール173部及びトリメチロールプロパン287部を仕込み、160℃から230℃まで3時間かけて昇温させた後、縮合水を水分離器により留去させながら230℃で保持し、酸価が5mgKOH/g以下となるまで反応させた。
【0132】
この反応生成物に、無水トリメリット酸86部を添加し、170℃で30分間付加反応を行った後、50℃以下に冷却し、2−(ジメチルアミノ)エタノールを酸基に対して0.9当量添加し中和してから、脱イオン水を徐々に添加することにより、固形分45%のポリエステル樹脂溶液(PE1)を得た。ポリエステル樹脂(PE1)は、数平均分子量2,050、水酸基価110mgKOH/g、酸価33.0mgKOH/gであった。
【0133】
製造例17 第1水性着色塗料の製造
顔料分散用樹脂(注4)37.5部に、カーボンMA100(カーボンブラック、三菱化学社製)1部、JR806(チタン白、テイカ社製)70部及びMICRO ACE S−3(微粉タルク、日本タルク社製)10部を順次加えながら混合し、ペイントシェーカーで30分間分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0134】
得られた顔料分散ペースト118.5部に、攪拌しながら順に、製造例16で得たポリエステル樹脂(PE1)114.6部(固形分55部)、メラミン樹脂MF−1(メトキシ・ブトキシ混合アルキル化メラミン樹脂、固形分80%)37.5部(固形分30部)及び「n−ブチルアルコール」7部を加えて混合攪拌し、さらに、脱イオン水、ジメチルエタノールアミンを加えて、pH8.5、フォードカップNo.4で20℃にて、40秒の粘度に調整して第1水性着色塗料を得た。
【0135】
(注4)顔料分散用樹脂:カージュラE10P(HEXION Specialty Chemicals社製、合成高分岐飽和脂肪酸のグリシジルエステル)30.4部/トリメチロールプロパン41.5部/無水イソフタル酸80.7部/アジピン酸79.9部/ネオペンチルグリコール83.0部/無水トリメリット酸19.6部からなる単量体を反応して得た、固形分40%の顔料分散用樹脂。顔料分散用樹脂は、酸価が40mgKOH/g、水酸基価が108mgKOH/g、数平均分子量が1,500であった。
【0136】
[水性第2着色塗料の製造]
製造例18 アクリル樹脂エマルション(AC)の製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器、窒素導入管および滴下装置を備えた反応容器に脱イオン水130部、アクアロンKH−10(注5)0.52部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、80℃に昇温した。
【0137】
次いで下記のモノマー乳化物(1)のうちの全量の1%量および6%過硫酸アンモニウム水溶液5.3部を反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。その後、残りのモノマー乳化物(1)を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下した。滴下終了後、1時間熟成を行なった。
【0138】
次いで、下記のモノマー乳化物(2)を1時間かけて滴下した。1時間熟成した後、5%ジメチルエタノールアミン水溶液40部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過することにより、固形分濃度30%のアクリル樹脂エマルション(AC)を得た。得られたアクリル樹脂は、酸価が33mgKOH/g、水酸基価が25mgKOH/gであった。
【0139】
(注5)アクアロンKH−10:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩エステルアンモニウム塩、第一工業製薬株式会社製、有効成分97%。
【0140】
モノマー乳化物(1):脱イオン水42部/アクアロンKH−10 0.72部/メチレンビスアクリルアミド2.1部/スチレン2.8部/メチルメタクリレート16.1部/エチルアクリレート28部/n−ブチルアクリレート21部の乳化物
モノマー乳化物(2):脱イオン水18部/アクアロンKH−10 0.31部/過硫酸アンモニウム0.03部/メタクリル酸5.1部/2−ヒドロキシエチルアクリレート5.1部/スチレン3部/メチルメタクリレート6部/エチルアクリレート1.8部/n−ブチルアクリレート9部の乳化物。
【0141】
製造例19 ポリエステル樹脂溶液(PE2)の製造
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器および水分離器を備えた反応容器に、トリメチロールプロパン109部、1,6−ヘキサンジオール141部、ヘキサヒドロ無水フタル酸126部およびアジピン酸120部を仕込み、160℃〜230℃の間を3時間かけて昇温させた後、230℃で4時間縮合反応させた。次いで、得られた縮合反応生成物にカルボキシル基を付加するために、さらに無水トリメリット酸38.3部を加え、170℃で30分間反応させた後、2−エチル−1−ヘキサノールで希釈し、固形分濃度70%であるポリエステル樹脂溶液(PE2)を得た。得られたポリエステル樹脂は、酸価が46mgKOH/g、水酸基価が150mgKOH/g、重量平均分子量が6,400であった。
【0142】
製造例20 光輝性顔料分散液(P1)の製造例
攪拌混合容器内において、アルミニウム顔料ペースト(商品名「GX−180A」旭化成メタルズ株式会社製、金属含有量74%)19部、2−エチル−1−ヘキサノール35部、リン酸基含有樹脂溶液(注6)8部および2−(ジメチルアミノ)エタノール0.2部を均一に混合して、光輝性顔料分散液(P1)を得た。
【0143】
(注6)リン酸基含有樹脂溶液:スチレン25部/n−ブチルメタクリレート27.5部/分岐高級アルキルアクリレート(商品名「イソステアリルアクリレート」大阪有機化学工業株式会社製)20部/4−ヒドロキシブチルアクリレート7.5部/リン酸基含有重合性モノマー(注7)15部/2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート12.5部を反応して得られた固形分濃度50%のリン酸基含有樹脂溶液。リン酸基含有樹脂のリン酸基による酸価は83mgKOH/g、水酸基価は29mgKOH/g、重量平均分子量は10,000であった。
【0144】
(注7)リン酸基含有重合性モノマー:モノブチルリン酸57.5部/グリシジルメタクリレート42.5部を反応して得られた、固形分濃度50%のリン酸基含有重合性モノマー溶液を得た。
【0145】
製造例21 第2水性着色塗料の製造
製造例18で得たアクリル樹脂エマルション(AC)100部、製造例19で得たポリエステル樹脂溶液(PE2)57部、製造例20で得た光輝性顔料分散液(P1)62部およびサイメル325(イミノ基含有メチル化メラミン樹脂、商品名、日本サイテック社製、固形分80%)37.5部を均一に混合し、更に、ポリアクリル酸系増粘剤(商品名「プライマルASE−60」ロームアンドハース社製)、2−エチル−1−ヘキサノール10部、および脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の第2水性着色塗料を得た。
【0146】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造
製造例22 基体樹脂No.7の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)162部、jER828EL(注3)1000部、ビスフェノールAを440部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.6部を加え、160℃でエポキシ当量800になるまで反応させた。
【0147】
次に、メチルイソブチルケトンを375部加え、次いで、ジエチルアミン124部を加えて100℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.7溶液を得た。
【0148】
エポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は、10質量%、当量比([ジアルキルアミン(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基])=0.85であり、得られた基体樹脂No.7のアミン価55mgKOH/g、数平均分子量2,100であった。
【0149】
製造例23 基体樹脂No.8の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールBPP−350(注2)340部、jER828EL(注3)950部、ビスフェノールAを456部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.7部を加え、160℃でエポキシ当量875になるまで反応させた。
【0150】
次に、メチルイソブチルケトンを470部加え、次いで、ジエチルアミン124部を加えて100℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.8溶液を得た。
【0151】
エポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は、19質量%、当量比([ジアルキルアミン(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基])=0.85であり、得られた基体樹脂No.8のアミン価51mgKOH/g、数平均分子量2,300であった。
【0152】
製造例24 基体樹脂No.9の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)162部、jER828EL(注3)1000部、ビスフェノールAを440部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.6部を加え、160℃でエポキシ当量800になるまで反応させた。
【0153】
次に、メチルイソブチルケトンを375部加え、次いで、ジエチルアミン110部を加えて100℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.9溶液を得た。
【0154】
エポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は、9質量%、当量比([ジアルキルアミン(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基])=0.75であり、得られた基体樹脂No.9のアミン価49mgKOH/g、数平均分子量2,300であった。
【0155】
製造例25 基体樹脂No.10の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)162部、jER828EL(注3)1,000部、ビスフェノールAを440部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.6部を加え、160℃でエポキシ当量800になるまで反応させた。
【0156】
次に、メチルイソブチルケトンを445部加え、次いで、ジイソプロピルアミン175部を加えて100℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.10溶液を得た。
エポキシ樹脂(A1)の構成成分に対するジエポキシ化合物(a11)の割合は、10質量%、当量比([ジアルキルアミン(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基])=0.88であり、得られた基体樹脂No.10のアミン価55mgKOH/g、数平均分子量2,200であった。
【0157】
表3に、製造例22〜25の基体樹脂No.7〜No.10の配合内容及び特数を示す。
【0158】
【表3】

【0159】
(注1)グリシエールPP−300P:三洋化成工業社製、商品名、エポキシ樹脂 (ジエポキシ化合物(a11))、エポキシ当量296、化合物(2)に相当
(注2)グリシエールBPP−350:三洋化成工業社製、商品名、エポキシ樹脂 (ジエポキシ化合物(a11))、エポキシ当量340、化合物(1)に相当
(注3)jER828EL:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ樹脂(a12)、エポキシ当量190、数平均分子量380。
【0160】
エマルションの製造
製造例26 エマルションNo.7の製造例
製造例22で得られた基体樹脂No.7を87.5部(固形分70部)、製造例7で得られた硬化剤を37.5部(固形分30部)を混合し、さらに10%酢酸13部を配合して均一に攪拌した後、脱イオン水156部を強く攪拌しながら約15分間を要して滴下して、固形分34%のエマルションNo.7を得た。
【0161】
製造例27〜29 エマルションNo.8〜No.10の製造例
表4の配合内容とする以外は、製造例26と同様にして、エマルションNo.8〜No.10を得た。
【0162】
【表4】

【0163】
[カチオン電着塗料の製造]
実施例1
製造例8で得たエマルションNo.1を294部(固形分100部)、製造例15で得た55%の顔料分散ペーストを52.4部(固形分28.8部)、脱イオン水294部を加え、固形分20%のカチオン電着塗料No.1を製造した。
【0164】
実施例2〜8、比較例1〜2
実施例1と同様にして、表5及び6で示されるような配合内容にて、カチオン電着塗料No.2〜No.10を製造した。
【0165】
【表5】

【0166】
【表6】

【0167】
[カチオン電着塗膜試験板の作成]
実施例及び比較例で得た各カチオン電着塗料を用い、化成処理(パルボンド#3020、日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)を施した冷延鋼板(150mm(縦)×70mm(横)×0.8mm(厚)、中心線平均粗さ(Ra)=0.8)を被塗物として、各々のカチオン電着塗料を用いて乾燥膜厚15μmとなるように電着塗装してカチオン電着塗膜試験板を得た。
【0168】
[3C1B方式による複層塗膜試験板の作成]
化成処理(パルボンド#3020、日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)を施した冷延鋼板(150mm(縦)×70mm(横)×0.8mm(厚)、中心線平均粗さ(Ra)=0.8に、各々のカチオン電着塗料を用いて電着塗装し、得られた塗膜を170℃で20分加熱して硬化膜厚で20μmの硬化電着塗膜を得た。
【0169】
製造例17で得た第1着色水性塗料を用いて、硬化膜厚25μmとなるように静電塗装し、2分間放置後、80℃で5分間プレヒートを行なった。
【0170】
次いで、該未硬化の第1着色塗膜上に、製造例21で得た第2着色水性塗料を回転霧化型の静電塗装機を用いて、硬化膜厚15μmとなるように静電塗装し、2分間放置後、80℃で5分間プレヒートを行なった。
【0171】
次いで、第2着色水性塗膜上に、KNOW1200T(関西ペイント社製、商品名、クリヤ塗料)を硬化膜厚35μmとなるように静電塗装し、7分間放置した。次いで、140℃で30分間加熱して、第1着色水性塗膜、第2着色水性塗膜及びクリヤ塗膜を硬化させて、3C1B方式による複層塗膜試験板を得た。
【0172】
得られた各々の「カチオン電着塗膜試験板」及び各々の「3C1B方式による複層塗膜試験板」を用いて、実施した試験結果を表7及び8に示す。
【0173】
【表7】

【0174】
【表8】

【0175】
(注8)つきまわり性:直径8mmの穴を空け、4枚の鋼板を2cm間隔で設置した「4枚ボックス法つきまわり性試験の治具」(図1参照)に、図2のように配線した。図2の4枚の鋼板のうち、最も左側の鋼板に向かって左側の面を「A面」、向かって右側の面を「B面」とする。同様に、左から2番目の鋼板左右の面を、それぞれ、「C面」及び「D面」、左から3番目の鋼板左右の面を、それぞれ、「E面」及び「F面」、そして最も右側の鋼板左右の面が、それぞれ、「G面」と「H面」となる。この中で、A面が「外板」であり、G面が「内板」となる。
図2の装置において、塗装浴温30℃、A面と電極との極間距離10cm、通電時間3分間にて、外板乾燥膜厚15μmとなる電圧にて電着塗装した。つきまわり性は、外板乾燥膜厚、内板乾燥膜厚及びつきまわり性(%)(=内板乾燥膜厚/外板乾燥膜厚×100)で評価した。
【0176】
(注9)合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の電着塗装適性:パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した0.8mm×150mm×70mmの合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を電着塗料浴(30℃)の陰極として浸漬し、210Vにて通電時間を調整して電着塗装して15μmの塗膜を得た。得られた塗膜を170℃で20分間焼付け硬化を行った後のテストピースについて、10cm×10cm中のピンホールの数を数える。合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の電着塗装適性を下記の基準で評価した:
◎:ピンホールの発生なし、
○:小さいピンホール(ガスヘコ)1個の発生が認められるが、中塗り塗膜にて隠蔽できる程度で問題なし、
△:ピンホールが2〜5個発生、
×:ピンホールが10個以上発生を示す。
【0177】
(注10) 電着塗膜の表面粗度:各実施例、比較例で得た電着塗膜(乾燥膜厚15μm)を、JIS B 0601(表面粗さの定義と表示、1982年)に基づいて、サーフコム301(株式会社ミツトヨ社製、商品名、表面粗さ測定機)を用いて中心線平均粗さ(Ra)を測定した。なお電着塗膜の表面粗度を「中心線平均粗さ(Ra)」に基づき、下記の基準で評価した:
◎:Ra値は0.20未満
○:Ra値が0.20以上で、かつ0.50未満
△:Ra値が0.50以上で、かつ0.70未満
×:Ra値が0.70以上。
【0178】
(注11)防食性:パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した0.8mm×150mm×70mmの冷延鋼板を各カチオン電着塗料に浸漬して電着塗装を行った。
次いで、熱風乾燥機によって170℃で20分間焼き付けて乾燥膜厚15μmの試験板を得た。試験板の素地に達するように塗膜にカッターナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて、35℃ソルトスプレー試験を840時間行い、カット部からの錆及びフクレ幅によって以下の基準で防食性を評価した:
◎:錆、フクレの最大幅がカット部より2.0mm以下(片側)
○:錆、フクレの最大幅がカット部より2.0を超え、かつ3.0mm以下(片側)
△:錆、フクレの最大幅がカット部より3.0mmを超え、かつ3.5mm以下(片側)
×:錆、フクレの最大幅がカット部より3.5mmを超える(片側)。
【0179】
(注12) 3C1B方式による複層塗膜の仕上り性:前述の[3C1B方式による複層塗膜試験板の作成]で得た複層塗膜を、商品名「Wave Scan DOI」(BYK Gardner社製)によって測定されるWbの値を用いて評価した。測定値が小さいほど塗面の平滑性が高いことを示す。複層塗膜の仕上り性を下記の基準で評価した:
◎:Wbの値が15未満
○:Wbが15以上、かつ20未満
△:Wbが20以上、かつ25未満
×:Wbが25以上。
【0180】
総合評価:本発明が属するカチオン電着塗料組成物の分野においては、上記つきまわり性;合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の電着塗装適性;電着塗膜の表面粗度;防食性;及び複層塗膜の仕上り性の5項目全てに優れていることが非常に重要である。従って、下記の基準で各カチオン電着塗料の総合評価を行った:
◎:つきまわり性が60%以上であり、残り4項目が全て◎又は○であり、かつ少なくとも1つ◎がある
○:つきまわり性が60%以上であり、かつ残り4項目が全て○である
△:つきまわり性が50%以上、60%未満であり、かつそれ以外の4項目が全て◎、○もしくは△であるか、又は残り4項目が全て◎、○もしくは△でありかつ少なくとも1つ△がある
×:つきまわり性が50%未満であるか、又は残り4項目中、少なくとも1つ×がある。
【産業上の利用可能性】
【0181】
つきまわり性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、カチオン電着塗膜の仕上り性に優れ、さらには、該カチオン電着塗膜上に、3C1B方式による複層塗膜の仕上り性に優れる塗装物品を提供できる。
【符号の説明】
【0182】
1.4枚ボックス法つきまわり性試験の治具の外板(A面)における穴(直径8mm)を示す。
2.4枚ボックス法のつきまわり性試験用治具における外板(A面)を示す。
3.4枚ボックス法のつきまわり性試験用治具における内板(G面)を示す。
4.電着塗料浴を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ当量500〜2500のエポキシ樹脂(A1)と、下記一般式(I):
【化1】

[式(I)中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基を示す。
は、水酸基を有することのある炭素数2〜8のアルキル基を示す。]
で表されるアミン化合物(A2)とを反応させてなるアミノ基含有エポキシ樹脂(A)、並びに
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)
を含むことを特徴とするカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記一般式において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、かつ
が水酸基を有する炭素数2〜8のアルキル基であるか、又は
及びRが同一もしくは異なって炭素数2〜8のアルキル基である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記一般式において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、かつRが水酸基を有する炭素数2〜8のアルキル基である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
アミノ基含有エポキシ樹脂(A)が、エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)とを、[アミン化合物(A2)におけるアミノ基]/[エポキシ樹脂(A1)のエポキシ基]の当量比0.6〜0.95の割合で反応させることにより得られる請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂(A1)が、下記(a11)、(a12)及び(a13)を反応させて得られる樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物:
(a11)一般式(1)
【化2】

[一般式(1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数である、m及びnはm+n=1〜20となる整数を表す]
で表される化合物(1)及び/又は
一般式(2)
【化3】

[式(2)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
Xは1〜9の整数を示す。
Yは1〜50の整数を示す]
で表される化合物(2)である、
ジエポキシ化合物
(a12)エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂、
(a13)ビスフェノール化合物。
【請求項6】
エポキシ樹脂(A1)が、前記ジエポキシ化合物(a11)、前記エポキシ樹脂(a12)及びビスフェノール化合物(a13)を、これらの固形分合計質量を基準にして、ジエポキシ化合物(a11)を1〜35質量%、エポキシ樹脂(a12)を10〜80質量%、ビスフェノール化合物(a13)を10〜60質量%の割合で反応させることにより得られる、請求項5に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
ジエポキシ化合物(a11)が、一般式(1)又は一般式(2)におけるRがメチル基又は水素原子の化合物である請求項5に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗料浴とし、これに合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を含む金属被塗物を浸漬し、電着塗装して得られた塗装物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−275530(P2010−275530A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85308(P2010−85308)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】