説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】無処理鋼板上の耐食性、特に、55℃での耐温塩水浸漬性、無処理鋼板上に形成された電着塗膜上の3コート1ベーク塗装方式における複層塗膜上の複合腐食サイクル試験による耐食性に優れる塗装物品を提供すること。
【解決手段】本発明は、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、及び金属化合物(C)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、金属化合物(C)を金属元素の質量で10〜10,000ppm含有し、かつ窒素酸化物イオン(E)を50〜10,000ppm含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無処理鋼板上の耐食性に優れるカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、つきまわり性に優れ、環境汚染も少ないことから自動車下塗り用を始め幅広い用途に使用されている。従来からクロム酸鉛、塩基性ケイ酸鉛、クロム酸ストロンチウム等の鉛化合物及び/又はクロム化合物を配合したカチオン電着塗料組成物が提案されている。
【0003】
しかし近年、公害問題の点から、鉛化合物及びクロム化合物のような有害性のある化合物の使用は制限されており、そのような有害性化合物を配合しなくても防食性に優れる無毒性ないしは低毒性の防錆顔料を用いたカチオン電着塗料が開発され、実用化に至っている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂、(B)ブロック化ポリイソシアネート、(C)亜リン酸の2価あるいは3価の金属塩を含有し、鉛フリーでの防食性の向上を目的としたカチオン電着塗料組成物が開示されている。他に、特許文献2には、ジルコニウム化合物を含み鉛フリーで防食性に優れるカチオン電着塗料が開示されている。
【0005】
上記特許文献1〜2には、表面処理を施した鋼板上に形成された塗膜が鉛化合物、クロム化合物等の有害物質を含有せずとも防食性に優れることが記載されている。しかし、表面処理を施していない無処理鋼板上に形成された電着塗膜においては、防食性が不十分であった。
【0006】
また、特許文献3には、カチオン性アミン変性エポキシ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート、ジルコニウム塩を含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物で、限界の防錆性向上を目的とした塗料が開示されており、表面処理を施していない無処理鋼板上に形成された塗膜において、鉛化合物、クロム化合物等の有害物質を含有せずとも防食性に優れる電着塗膜を得ることが記載されている。
しかし、上記の電着塗膜であっても厳しい腐食条件下となると、表面処理を施していない無処理鋼板上に形成された電着塗膜の防食性に問題があり、特に、高温下での耐温塩水浸漬性、無処理鋼板上に形成された電着塗膜上の3コート1ベーク塗装方式における複層塗膜を複合腐食サイクル試験に供した場合の耐食性は不十分であり、さらなる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−241546号公報
【特許文献2】特開2000−290542号公報
【特許文献3】特開2009−46628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、無処理鋼板上に形成された電着塗膜の耐食性、特に、高温下での耐温塩水浸漬性、無処理鋼板上に形成された電着塗膜上の3コート1ベーク塗装方式における複層塗膜において複合腐食サイクル試験による耐食性に優れるカチオン電着塗料組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、金属化合物(C)、及び窒素酸化物イオン(E)を含むカチオン電着塗料組成物によって、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の項を提供する:
項1.アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、金属化合物(C)及び窒素酸化物イオン(E)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物は、該金属化合物(C)を、カチオン電着塗料組成物の質量に対し、金属元素の質量として、10〜10,000ppm含有し、かつ窒素酸化物イオン(E)を50〜10,000ppm含有し、
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ当量500〜2500の変性エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)とを反応させることにより得られる樹脂であり、
変性エポキシ樹脂(A1)は、ジエポキシ化合物(a1)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を反応させて得られる樹脂であり、
ジエポキシ化合物(a1)は、下記一般式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数であるm及びnは、m+n=1〜20となる整数を示す。]
で表わされる化合物(1)及び/又は下記一般式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは1〜9の整数を示し、Yは1〜50の整数を示す。Yが2以上の場合、繰り返し単位中の各Rは、同一であっても異なってもよい。]
で表わされる化合物(2)であり、かつ、
金属化合物(C)が、ジルコニウム、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属(c)の化合物である、カチオン電着塗料組成物。
【0015】
項2.金属化合物(C)が、ジルコニウム化合物からなるか、又は
ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物のうち少なくとも1種の化合物を含有し、かつコバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物を含有するものである項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0016】
項3.金属化合物(C)が、ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物のうち少なくとも1種の化合物を含有し、かつコバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属(c)の化合物を含有する項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0017】
項4.カチオン電着塗料組成物の固形分が5〜40質量%である項1〜3のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0018】
項5.項1〜4のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗料浴として、これに金属被塗物を浸漬し、電着塗装して得られた塗装物品。
【発明の効果】
【0019】
本発明のカチオン電着塗料組成物によれば、鉛化合物、クロム化合物等の有害金属を含有することなく、無処理鋼板上の耐食性、特に、高温下での耐温塩水浸漬性に優れ、さらには無処理鋼板上に形成された電着塗膜上の3コート1ベーク塗装方式における複層塗膜において複合腐食サイクル試験による耐食性に優れる塗装物品を得ることができる。
【0020】
また、カチオン電着塗料組成物を用いた塗膜形成は特に制限なく従来公知の方法で行うことができ、特に浸漬/電着の2工程をとった場合には、まず金属化合物(C)を選択的に被塗物上に析出させて、無機成分を主体とする皮膜(下層)を形成し、次いで皮膜(下層)上に、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂成分等を析出させて有機成分を主体とする皮膜(上層)を形成することができる。このことから無処理鋼板等の金属被塗物の表面に不働体化能を有する金属酸化物を下層に形成でき、皮膜下腐食の抑制に貢献できる。この為、耐食性、特に高温下での耐温塩水浸漬性に優れた塗膜が得られる。
さらに、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)に使用されるジエポキシ化合物(a1)によって、カチオン電着塗料組成物が金属化合物(C)及び窒素酸化物イオン(E)を含有しても浴(液)安定性に優れ、かつ塗膜に応力緩和能を付与できる為、無処理鋼板上に形成された電着塗膜上の3コート1ベーク塗装方式における複層塗膜においても、複合腐食サイクル試験による耐食性に優れた効果を得ることができるものと考える。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、金属化合物(C)及び窒素酸化物イオン(E)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、
金属化合物(C)を金属元素の質量で10〜10,000ppm含有し、かつ窒素酸化物イオン(E)を50〜10,000ppm含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物である。以下、詳細に述べる。
【0022】
[アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)]
本発明に用いるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ当量500〜2,500の変性エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)とを反応させることにより得られる樹脂である。
【0023】
上記変性エポキシ樹脂(A1)は、
前述の一般式(1)で表される化合物(1)及び/又は前述の一般式(2)で表される化合物(2)であるジエポキシ化合物(a1);
エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2);及び
ビスフェノール化合物(a3)
を反応させて得られる樹脂である。
【0024】
エポキシ当量500〜2500の変性エポキシ樹脂(A1)
上記変性エポキシ樹脂(A1)は、特定のジエポキシ化合物(a1)とエポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)とを反応させて得られるエポキシ当量500〜2500の変性エポキシ樹脂である。
【0025】
ジエポキシ化合物(a1)
ジエポキシ化合物(a1)としては、一般式(1)で表される化合物(1)を用いることができる。
【0026】
化合物(1)
【0027】
【化3】

【0028】
[一般式(1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数であるm及びnはm+n=1〜20となる整数を示す。]
一般式(1)において、m及びnの少なくとも一方が2以上の場合、m個の繰返し単位中の各R及びn個の繰返し単位中の各Rはそれぞれ同一であっても異なってもよい。
【0029】
化合物(1)は、ビスフェノールA、ビスフェノールF等に、下記一般式(3)
【0030】
【化4】

【0031】
[一般式(3)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す]
で表されるアルキレンオキシドを付加させてヒドロキシル末端のポリエーテル化合物を得た後、
該ポリエーテル化合物とエピハロヒドリンとを反応させてジエポキシ化することにより製造することができる。
【0032】
ここで上記式(3)のアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、ヘキシレンオキシド、オクチレノキシド等の炭素数2〜8のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0033】
この中でも、エチレンオキシド(式(3)のRが水素原子である化合物)、プロピレンオキシド(式(3)のRがメチル基である化合物)が好適である。
【0034】
化合物(2)
また、ジエポキシ化合物(a1)として、一般式(2)で表される化合物(2)を用いることができる。
【0035】
【化5】

【0036】
[一般式(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは1〜9を示し、Yは1〜50となる整数を示す。Yが2以上の場合、繰り返し単位中の各Rは、同一であっても異なってもよい。]
化合物(2)の製造方法としては、例えば、アルキレングリコールを出発原料として、前記一般式(2)のアルキレンオキシドを開環重合させることによりヒドロキシル末端のポリアルキレンオキシドを得た後、次いで、該ポリアルキレンオキシドにエピハロヒドリンを反応させてジエポキシ化する方法(1)が挙げられる。
【0037】
又は、下記一般式(4)
【0038】
【化6】

【0039】
[一般式(4)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは1〜9の整数を示す]
で示されるアルキレングリコール又は該アルキレングリコール分子2個以上を脱水縮合させることにより得られるポリエーテルジオールに、エピハロヒドリンを反応させてジエポキシ化することによる方法(2);が挙げられる。
【0040】
ここで使用される上記一般式(4)のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の炭素数2〜10のアルキレングリコールが挙げられる。
【0041】
上記一般式(1)又は一般式(2)で表されるジエポキシ化合物(a1)としては、デナコールEX−850、EX−821、EX−830、EX−841、EX−861、EX−941、EX−920、EX−931(ナガセケムテックス株式会社)、グリシエールPP−300P、BPP−350(三洋化成工業株式会社)等が挙げられる。また、ジエポキシド化合物(a1)として、化合物(1)と化合物(2)を混合して用いることもできる。
【0042】
エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)
本発明において、エポキシ当量500〜2500の変性エポキシ樹脂(A1)の製造に用いるエポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)(以下、単にエポキシ樹脂(a2)と示すことがある)とは、一般式(1)で表される化合物(1)又は一般式(2)で表される化合物(2)のジエポキシド化合物(a1)以外の、1分子中にエポキシ基を2個以上し、かつ170〜500、さらに好ましくは170〜400の「エポキシ当量」を有する化合物を示す。エポキシ樹脂(a2)としては、340〜1,500、さらに好ましくは340〜1,000の「数平均分子量」を有するものが適しており、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるものが好ましい。
【0043】
ここで「数平均分子量」は、JIS K 0124−83に記載の方法に準じ、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0044】
該エポキシ樹脂の形成のために用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2又は3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0045】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記一般式(5)
【0046】
【化7】

【0047】
[一般式(5)中、n=0〜2を示す]
で示されるものが好適である。
【0048】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からjER828EL及びjER1001なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0049】
ビスフェノール化合物(a3)
ビスフェノール化合物(a3)には、下記一般式(6)
【0050】
【化8】

【0051】
[一般式(6)中、R及びRはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、R、R、R10、R11、R12、R13、R14及びR15は、同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す]
で示される化合物が包含される。具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]等が挙げられる。
【0052】
なおエポキシ当量500〜2,500の変性エポキシ樹脂(A1)の製造は、通常、適宜、反応触媒として、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミン等のような3級アミン;テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等のような4級アンモニウム塩等の存在下、ジエポキシ化合物(a1)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を混合し、反応温度としては80〜200℃、好ましくは90〜180℃、反応時間として1〜6時間、好ましくは1〜5時間、反応させることにより行うことができる。
【0053】
上記の変性エポキシ樹脂(A1)の製造方法としては、例えば、以下の1〜3の方法が挙げられる。
【0054】
方法1.ジエポキシ化合物(a1)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)をすべて混合し反応させてエポキシ当量500〜2,500の変性エポキシ樹脂(A1)を得る方法;
方法2.ジエポキシ化合物(a1)とビスフェノール化合物(a3)とを反応させて反応物を得た後、次に該反応物にエポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)を混合し、反応させてエポキシ当量500〜2,500の変性エポキシ樹脂(A1)を得る方法;
方法3.エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)とを反応させて反応物を得た後、次に該反応物にジエポキシ化合物(a1)を混合し、反応させてエポキシ当量500〜2,500の変性エポキシ樹脂(A1)を得る方法。なお反応状態は、エポキシ価によって追跡することができる。
【0055】
上記の変性エポキシ樹脂(A1)の製造における各成分の配合割合としては、該変性エポキシ樹脂(A1)の構成成分であるジエポキシ化合物(a1)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)の固形分合計質量を基準にして、ジエポキシ化合物(a1)を1〜35質量%、好ましくは2〜30質量%含有することが、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の水分散性に優れ、かつカチオン電着塗料中に金属化合物(C)及び窒素酸化物イオン(E)を含有しても浴(液)安定性に優れ、かつ無処理鋼板上の防食性、特に、形成塗膜が乾燥膜厚15μm以下の薄膜であっても無処理鋼板上の防食性を向上させるため好ましい。
【0056】
さらに、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)が10〜80質量%、好ましくは15〜75質量%、ビスフェノール化合物(a3)が10〜60質量%、好ましくは15〜50質量%であることが、無処理鋼板上の防食性、特に、形成塗膜が乾燥膜厚15μm以下での無処理鋼板上の塗膜防食性に優れた塗膜を得る為にも好ましい。
【0057】
上記の製造に適宜、有機溶剤を用いることができ、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系溶剤;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール系溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0058】
アミン化合物(A2)
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、変性エポキシ樹脂(A1)にアミン化合物(A2)を付加反応させることにより製造することができる。アミン化合物(A2)は、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン等のモノ−、又はジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノール、モノエチルアミノブタノール等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン及びこれらのポリアミンのケチミン化物;エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピラジン等の環状アミン等が挙げられる。アミン化合物(A2)として、これら上記のアミンのうち、1級アミンをケチミン化したアミン(例えば、ジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物等)を用いることができる。当該1級アミンをケチミン化したアミンは、例えば、上記列挙したアミンと共に用いることができる。
【0059】
ここで、変性エポキシ樹脂(A1)にアミン化合物(A2)との付加反応における各成分の使用割合は、厳密に制限されるものではなく、カチオン電着塗料組成物の用途等に応じて適宜変えることができるが、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造における変性エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)の合計固形分質量を基準にして、変性エポキシ樹脂(A1)が70〜98質量%、好ましくは75〜96質量%、アミン化合物(A2)が2〜30質量%、好ましくは4〜25質量%である。
【0060】
なお上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、80〜170℃、好ましくは90〜150℃の温度で1〜6時間、好ましくは1〜5時間行う。上記反応における溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系溶媒;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系溶媒あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0061】
[ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)]
本発明のカチオン電着塗料組成物は、前述のアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を組合せて使用することにより、熱硬化性のカチオン電着塗料とすることができる。
【0062】
上記のブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)は、ポリイソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤とのほぼ化学理論量での付加反応生成物である。ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)で使用されるポリイソシアネート化合物は、公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI[ポリメチレンポリフェニルイソシアネート]、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物の環化重合体又はビゥレット体;又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0063】
特に、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI等の芳香族ポリイソシアネート化合物が防食性の為により好ましい。
【0064】
一方、前記イソシアネートブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温において安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常約100〜約200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生することが望ましい。
【0065】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)で使用されるブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール系化合物;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール系化合物;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム系化合物;等が挙げられる。
【0066】
[金属化合物(C)]
本発明のカチオン電着塗料組成物は、金属化合物(C)を含むことを特徴とする。金属化合物(C)は、ジルコニウム、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属(c)の化合物である。金属化合物(C)の中でも水溶性を示すものが好ましい。
【0067】
また、金属化合物(C)の中でも金属硝酸塩は、カチオン電着塗料組成物中において、金属(c)と窒素酸化物イオン(E)の両方を添加することができる。一方、金属硝酸塩以外の金属化合物(C)を用いた場合は、窒素酸化物イオンを塗料中に配合することが必要である。
【0068】
ここで、ジルコニウム化合物としては、例えば、塩化ジルコニウム、塩化ジルコニル、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、ジルコニウムフッ化水素酸、フッ化ジルコン酸の塩、酸化ジルコニウム、臭化ジルコニル、酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニル、及びフッ化ジルコニウム等が挙げられる。
【0069】
またチタニウム化合物としては、例えば、塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタン、硝酸チタニル、チタンフッ化水素酸、フッ化チタン酸の塩、酸化チタン、及びフッ化チタン等が挙げられる。
【0070】
コバルト合物としては、例えば、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルト、硫酸コバルトアンモニウム等が挙げられる。これらのうち、特に、硝酸コバルトが好適である。
【0071】
バナジウム化合物としては、例えば、オルソバナジン酸リチウム、オルソバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸リチウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸アンモニウム、ピロバナジン酸ナトリウム、塩化バナジル、硫酸バナジル等が挙げられる。
【0072】
タングステン化合物としては、例えば、タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸ナトリウム、ペンタタングステン酸アンモニウム、ヘプタタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸ナトリウム、ホウタングステン酸バリウム等が挙げられる。
【0073】
モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸ストロンチウム、モリブデン酸バリウム、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸亜鉛等が挙げられる。
【0074】
銅化合物としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅(II)三水和物、硫酸銅(II)アンモニウム六水和物、酸化第二銅、リン酸銅等が挙げられる。インジウム化合物としては、例えば、硝酸インジウムアンモニウム等が挙げられる。亜鉛化合物としては、例えば、酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛等が挙げられる。
【0075】
アルミニウム化合物としては、例えば、硝酸アルミニウムが挙げられる。
【0076】
ビスマス化合物としては、例えば、塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、臭化ビスマス、ケイ酸ビスマス、水酸化ビスマス、三酸化ビスマス、硝酸ビスマス、亜硝酸ビスマス、オキシ炭酸ビスマス等の無機系ビスマス含有化合物;乳酸ビスマス、トリフェニルビスマス、没食子酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、メトキシ酢酸ビスマス、酢酸ビスマス、蟻酸ビスマス、2,2−ジメチロールプロピオン酸ビスマス等が挙げられる。
【0077】
イットリウム化合物としては、例えば、硝酸イットリウム、蟻酸イットリウム、酢酸イットリウム、塩化イットリウム、スルファミン酸イットリウム、乳酸イットリウム、次亜リン酸イットリウム等が挙げられる。
【0078】
また、ランタノイド金属化合物としては、例えば、硝酸ランタン、フッ化ランタン、酢酸ランタン、ホウ化ランタン、リン酸ランタン、炭酸ランタン等のランタン化合物;硝酸セリウム、塩化セリウム、酢酸セリウム、蟻酸セリウム、乳酸セリウム、シュウ酸セリウム、硝酸アンモニウムセリウム、スルファミン酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、次亜リン酸セリウム等のセリウム化合物;硝酸プラセオジム、硫酸プラセオジム、蟻酸プラセオジム、酢酸プラセオジム、スルファミン酸プラセオジム、シュウ酸プラセオジム、次亜リン酸プラセオジム等のプラセオジム化合物;硝酸ネオジム、蟻酸ネオジム、酢酸ネオジム、乳酸ネオジム、スルファミン酸ネオジム、酸化ネオジウム、次亜リン酸ネオジム等のネオジム化合物;酢酸サマリウム、蟻酸サマリウム、スルファミン酸サマリウム等のサマリウム化合物等が挙げられる。
【0079】
アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属)の化合物としては、例えば、タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウムが挙げられる。
【0080】
アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の化合物としては、例えば、上記のモリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸ストロンチウム、モリブデン酸バリウム等が挙げられる。
【0081】
好ましい実施形態において、本発明のカチオン電着塗料組成物に配合される金属化合物(C)としては、例えば、下記(1)〜(3)が挙げられる。
【0082】
(1):ジルコニウム、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物;
(2):ジルコニウム化合物からなるか、又はジルコニウム化合物とチタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属(c)の化合物との両者からなる組合せ;
(3):ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物のうち少なくとも1種の化合物を含有し、かつコバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物からなる組合せ。
【0083】
なお本発明に用いられる金属化合物(C)の濃度は、無処理鋼板上の防食性向上の観点から、カチオン電着塗料組成物の質量に対して、金属元素の質量で10〜10,000ppm、好ましくは150〜8,000ppm、さらに好ましくは250〜5,000ppmである。
【0084】
前記金属化合物(C)を、金属元素の質量が上記範囲内となるように配合することにより、電着塗膜の耐食性、特に高温下での耐温塩水浸漬性、及び3コート1ベーク塗装方式における複層塗膜における複合腐食サイクル試験による耐食性を向上させることが可能となり、かつ塗料安定性を損なうことが少ないため好ましい。
【0085】
また、金属化合物(C)のうち金属硝酸塩を用いる場合、本発明のカチオン電着塗料組成物には、溶剤等に金属化合物(C)を配合したものだけでなく、金属(c)及び窒素酸化物イオン(E)を配合したものも包含される。
【0086】
[窒素酸化物イオン(E)]
本発明のカチオン電着塗料組成物は、窒素酸化物イオン(E)を含有することを特徴とする。窒素酸化物イオン(E)は、硝酸イオン、亜硝酸イオン等の総称である。本発明のカチオン電着塗料組成物には、溶剤等に、窒素酸化物イオンを配合したものだけでなく、窒素酸化物イオンをカチオン電着塗料中に含有させたものも包含される。窒素酸化物イオンを生成又は含有する化合物としては、例えば、硝酸、金属硝酸塩、金属亜硝酸塩等が挙げられる。
【0087】
硝酸、金属硝酸塩及び金属亜硝酸塩としては、具体的には、硝酸、亜硝酸、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、硝酸イッテリビウム、硝酸イットリウム、硝酸インジウム、硝酸塩化モリブデン、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸銀、硝酸コバルト、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸セリウム、硝酸チタニル、硝酸チタン、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸サマリウム、硝酸ネオジウム、硝酸プラセオジム、硝酸ルテニウム、硝酸ランタン、硝酸ビスマス、硝酸マグネシウム、亜硝酸亜鉛、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸セリウム、亜硝酸第二銅、亜硝酸銅、亜硝酸バリウム、亜硝酸ニッケル、亜硝酸マグネシウム等が挙げられる。
【0088】
上記の硝酸、金属硝酸塩、金属亜硝酸塩等を少なくとも1種を配合することによって、カチオン電着塗料中に窒素酸化物イオン(E)を含有することができる。なお本発明のカチオン電着塗料組成物の浴における窒素酸化物イオン(E)の含有量は、カチオン電着塗料組成物(浴)の質量を基準にして、窒素酸化物イオン(E)を50〜10,000ppm、好ましくは100〜8,000ppmである。この範囲に設定することによって、被塗物と皮膜との界面(被塗物側)に、金属化合物(C)が析出することを促進でき、かつ塗料安定性が損なわれないため、好ましい。この為、無処理鋼板上に形成された電着塗膜の耐食性、特に高温下での耐温塩水浸漬性及び無処理鋼板上に形成された電着塗膜上の3コート1ベーク塗装方式における複層塗膜上の複合腐食サイクル試験による耐食性を向上させることができる。
【0089】
また本発明のカチオン電着塗料組成物には、必要に応じて、その他の添加剤、例えば、顔料、触媒、有機溶剤、顔料分散剤、表面調整剤、界面活性剤等を塗料分野で通常使用されている配合量で含有することができる。なお、上記の顔料及び触媒としては、例えば、チタン白、カーボンブラック等の着色顔料;クレー、タルク、バリタ等の体質顔料;トリポリリン酸二水素アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料;酸化ビスマス、水酸化ビスマス、乳酸ビスマス等のビスマス化合物;ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド等の有機錫化合物;ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジベンゾエート、ジブチル錫ジベンゾエート等のジアルキル錫の脂肪族又は芳香族カルボン酸塩等の錫化合物が挙げられる。
【0090】
本発明のカチオン電着塗料組成物の調製は、例えば、以下に述べる方法(1)〜方法(3)の方法により行うことができる。
【0091】
方法(1):アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、及び場合によりその他の添加剤を一緒にし、十分に混ぜ合わせて溶解ワニスを作製する。それに水性媒体中で、例えば、蟻酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸及びこれらの2種又はそれ以上の混合物等から選ばれる中和剤を添加して水分散化し、エマルションを調製する。当該エマルション中に、金属化合物(C)、及び窒素酸化物イオン(E)を配合し、さらに顔料分散ペーストを配合する方法。
【0092】
方法(2):金属化合物(C)及び窒素酸化物イオン(E)を混合する。当該混合物に、顔料成分、触媒、その他の添加剤、水等を加え分散して顔料分散ペーストを調製する。その顔料分散ペーストを、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)とを含むエマルションに配合する方法。
【0093】
方法(3):あらかじめ作製したカチオン電着塗料の浴(アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を含む)に、金属化合物(C)及び窒素酸化物イオン(E)を配合して、水で希釈して配合する方法が挙げられる。
【0094】
上記の方法(1)〜方法(3)又はこれに準ずる方法によってカチオン電着塗料組成物を製造することができる。
【0095】
カチオン電着塗料組成物の製造は、上記エマルションと顔料分散ペーストを、脱イオン水等で調整して、浴固形分濃度が通常5〜40質量%、好ましくは8〜25質量%、pHが1.0〜9.0、好ましくは3.0〜6.5の範囲内となるように行うことができる。
【0096】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いた塗膜形成は、特に制限なく従来公知の方法で行うことができ、具体的には被塗物をカチオン電着塗料組成物の浴に浸漬した直後に通電して、塗膜を形成する方法(所謂、「1工程による方法」)、又は被塗物をカチオン電着塗料組成物の浴に一定時間浸漬あるいは電析(低電圧で電着塗装を行うこと)し、次いで電着塗装することによって、塗膜を形成する方法(所謂、「2工程による方法」)が挙げられる。
【0097】
上記の2種類の方法において、被塗物をカチオン電着塗料組成物の浴に一定時間浸漬し(工程1)、次いで電着塗装する(工程2)ことが、被塗物上に緻密な不働体化皮膜を形成することができる為、防食性向上の面からより好ましい。
【0098】
上記、「2工程による方法」において、具体的には、カチオン電着塗料組成物を槽に入れて浴とし、浴温15〜55℃、好ましくは20〜50℃で、金属被塗物を浸漬して皮膜を形成できる。なお浸漬時間として、被塗物を10〜600秒間、好ましくは30〜480秒間、さらに好ましくは40〜300秒間浸漬することによって、被塗物上に緻密な不働体化皮膜を形成することができる(工程1)。
【0099】
次いで、金属基材を陰極として塗装電圧を50〜400V、好ましくは75〜370Vで、60〜600秒間、好ましくは80〜400秒間通電すること(工程2)によって、被塗物に皮膜を析出することができる。
【0100】
なお、カチオン電着塗料組成物の浴温としては、通常10〜55℃、好ましくは20〜50℃の範囲内が、欠陥の少ない析出膜を均一に形成させるため好ましい。また、金属被塗物を電着塗装浴に浸漬し、その後、電着塗装浴から出し、さらにもう一度この金属被塗物を浸漬し、電着塗装することも可能である。
【0101】
上記した2工程による塗膜形成方法によって、1層目の皮膜(下層)上に、樹脂成分、顔料等を主成分とした組成が大きく異なる2層目の皮膜(上層)を連続的に形成することができ、それによって、いっそう防食性及び仕上り性が良好な複層皮膜構造を形成することができる。
【0102】
なお、カチオン電着塗料を用いた皮膜の析出機構は、前記工程1を浸漬で行う場合、まずカチオン電着塗料に含まれる硝酸根のエッチング作用によって被塗物近傍のpHが上昇し、次に金属イオン種等(例えば、6フッ化ジルコニウムイオン等)が加水分解反応を受けて、難溶性の皮膜(下層)(主に、例えば、酸化ジルコニウム)が被塗物上に析出する。
【0103】
このようにして得られた皮膜の焼き付け温度は、被塗物表面で、通常、100〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲内の温度が適しており、焼き付け時間は、通常、5〜90分間、好ましくは10〜50分間とすることができる。
【0104】
電着塗膜上の複層塗膜について
さらに本発明のカチオン電着塗料組成物による電着塗膜上には、例えば、以下の方法による複層塗膜を形成が挙げられる。
【0105】
例えば、第1着色塗料の塗膜の硬化塗膜上に、第2着色塗料(ソリッド色)をエアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装等の方法によって乾燥膜厚が約10〜50μmとなるように塗装し、焼き付け温度として約100〜180℃で約10〜90分間加熱してなる2コート2ベーク塗装方式(2C2B)。第1着色塗料のウェット塗膜上に、ウェットオンウエットにて、第2着色塗料(ソリッド色)を塗り重ねてなる2コート1ベーク塗装方式(2C1B);が挙げられる。
【0106】
他に、第1着色塗料のウェット塗膜上に、ウェットオンウエットにて、第2着色塗料をエアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装等の方法によって乾燥膜厚が約10〜50μmとなるように塗装し、ウェットオンウエットにて、又は硬化して、クリア塗料を膜厚が硬化膜厚で約10〜70μmになるように塗装し、焼き付け温度で約60〜160℃で約10〜90分間加熱してなる3コート1ベーク塗装方式(以下、「3C1B」と略する場合がある)、3コート2ベーク塗装方式(3C2B);等が挙げられる。
【0107】
他に、第1着色塗料の塗膜の硬化塗膜上に、第2着色塗料をエアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装等の方法によって乾燥膜厚が約10〜50μmとなるように塗装し、ウェットオンウエットにて、又は硬化し、クリア塗料を膜厚が硬化膜厚で約10〜70μmになるように塗装し、焼き付け温度で約60〜160℃で約10〜90分間加熱してなる3コート2ベーク塗装方式(3C2B)、3コート3ベーク塗装方式(3C3B)が挙げられる。
【0108】
上記の方法の中でも特に、本発明のカチオン電着塗料組成物は、無処理鋼板上に形成された電着塗膜上の3コート1ベーク塗装方式(3C1B)における複層塗膜において、複合腐食サイクル試験による耐食性に優れた効果を得ることもできる為、省工程化及び厳しい腐食試験条件においても有利である。また、低揮発性有機溶剤(低VOC)の面からも水性塗料を用いることが好ましく、水性着色塗料を用いた3C1Bについて述べる。
【0109】
第1着色水性塗料に用いる基体樹脂は、樹脂を水溶性化又は水分散化するのに十分な量の親水性基(例えば、カルボキシル基、水酸基、メチロール基、アミノ基、スルホン酸基、ポリオキシエチレン結合等)及び架橋剤と架橋反応しうる官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基)を有する、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0110】
これらの基体樹脂は、存在する親水性基の種類に依存して、例えば、塩基性物質又は酸で中和することにより水溶化又は水分散化することができる。また、基体樹脂の重合による製造に際して、モノマー成分を界面活性剤及び/又は水溶性高分子物質の存在下に乳化重合することによっても基体樹脂を水分散化することができる。また、第1着色水性塗料に使用する架橋剤は、例えば、メラミン樹脂、ブロック化ポリイソシアネート化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0111】
さらに、第1着色水性塗料には、必要に応じて、有機溶剤、増粘剤、着色顔料、光干渉性顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、ウレタン化反応促進用触媒(例えば、有機錫化合物等)、基体樹脂の水酸基とメラミン樹脂との架橋反応促進用触媒(例えば、酸触媒)、消泡剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤等を適宜配合することができる。第1着色水性塗料は、水を適量加えて、塗料の固形分を通常30〜70質量%、好ましくは固形分を40〜55質量%に調整し、塗装に供する。
【0112】
第1着色水性塗料は、以上に述べた各成分を、それ自体既知の方法で、水性媒体中に溶解ないし分散させることにより調製することができ、例えば、フォードカップNo.4、20℃で50秒間の粘度及び20〜70質量%、好ましくは35〜60質量%の範囲内の固形分濃度に調整した後、前記電着塗膜上に塗装することができる。
【0113】
第1着色水性塗料は、それ自体既知の方法、例えば、エアースプレー、エアレススプレー、静電塗装等により塗装することができ、塗装膜厚は、通常、乾燥塗膜で10〜100μm、好ましくは10〜35μmとなる範囲内とすることができる。
【0114】
塗装後の塗膜は、通常、塗装された被塗物を乾燥炉内で60〜120℃、好ましくは70〜110℃の温度で1〜60分間程度直接的又は間接的に予備加熱(プレヒート)するか、或いは被塗物の塗装面を常温又は25℃〜70℃未満の温度雰囲気下でセッティングを行うことができる。
【0115】
3C1Bによる複層塗膜の形成方法は、第1着色水性塗料の未硬化塗膜上に、第2着色水性塗料が塗装される。第2着色水性塗料としては、揮発性有機化合物を低減する(低VOC化)の面から水性の着色塗料を使用する。
【0116】
次いで、第2着色水性塗料は、例えば、第1着色水性塗料について前述したと同様のカルボキシル基、水酸基、カルボニル基、アミノ基等の架橋性官能基を有するポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の基体樹脂と、第1着色水性塗料について前述したと同様のブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、カルボジイミド化合物、ヒドラジド、セミカルバジド、エポキシ樹脂等の架橋剤を含んでなり、必要に応じて、さらに、顔料、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤等を適宜配合してなるものを使用することができる。
【0117】
第2着色水性塗料は、水を適量加えて、塗料の固形分を通常5〜50質量%、好ましくは固形分を15〜30質量%に調整し、塗装に供する。なお第2着色水性塗料の塗装は、それ自体既知の方法、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、静電塗装機等で行うことができ、膜厚は、乾燥膜厚で5〜40μm、好ましくは10〜30μmの範囲内とすることができる。
【0118】
塗装後の塗膜は、適宜、予備加熱及び/又はセッティングを行うことができる。予備加熱は、通常、塗装された被塗物を乾燥炉内で60〜120℃、好ましくは70〜120℃の温度で1〜60分間程度直接的又は間接的に加熱することにより行うことができ、また、セッティングは、通常、被塗物の塗装面を、常温又は25℃〜70℃未満の温度に加熱された雰囲気下で行うことができる。
【0119】
上記のように形成される第2着色塗料の未硬化塗膜上には、クリヤ塗料が塗装される。クリヤ塗料としては、例えば、自動車ボディの塗装において通常使用されている有機溶剤型又は水性のクリヤ塗料を使用することができる。
【0120】
基体樹脂には、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等と、架橋剤として、メラミン樹脂、尿素樹脂、ブロックされてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、エポキシ基含有化合物又は樹脂等を含有する(例えば、酸/エポキシ樹脂硬化系クリヤ塗料)、有機溶剤型塗料又は水性塗料を使用することができる。
【0121】
クリヤ塗料には、必要に応じて、塗膜の透明性を阻害しない程度に着色顔料及び/又は光干渉性顔料を含有させることができ、さらに、体質顔料、紫外線吸収剤等を適宜含有せしめることもできる。クリヤ塗料は、第2着色水性塗料の塗膜面に、それ自体既知の方法、例えば、静電塗装、エアレススプレー、エアスプレー等により、乾燥膜厚で10〜60μm、好ましくは25〜50μmの範囲内になるように塗装することができる。
【0122】
以上に述べた如くして形成される第1着色塗料の塗膜、第2着色塗料の塗膜及びクリヤ塗料の塗膜の3層の未硬化塗膜からなる複層塗膜は、通常の塗膜の焼付け手段により、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等により、80〜170℃、好ましくは120〜160℃の温度で20〜40分間程度加熱して同時に硬化させることによって、仕上り性、耐食性に優れた複層塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0123】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0124】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造
製造例1 基体樹脂No.1の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)296部、jER828EL(注4)1330部、ビスフェノールAを684部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.0部を加え、160℃でエポキシ当量1,150になるまで反応させた。
【0125】
次に、反応生成物に、メチルイソブチルケトンを611部加え、次いで、モノメチルアミノエタノール137部を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.1溶液を得た。基体樹脂No.1は、アミン価41mgKOH/g、数平均分子量2,700であった。
【0126】
製造例2 基体樹脂No.2の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、デナコールEX−821(注2)185部、jER828EL(注4)950部、ビスフェノールAを456部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.8部を加え、160℃でエポキシ当量795になるまで反応させた。
【0127】
次に、反応生成物に、メチルイソブチルケトンを368部加え、次いで、ジエチルアミンを110部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物を95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.2溶液を得た。基体樹脂No.2は、アミン価68mgKOH/g、数平均分子量2,000であった。
【0128】
製造例3 基体樹脂No.3の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールBPP−350(注3)340部、jER828EL(注4)950部、ビスフェノールAを456部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.8部を加え、160℃でエポキシ当量873になるまで反応させた。
【0129】
次に、反応生成物に、メチルイソブチルケトンを407部加え、次いで、モノメチルアミノエタノール113部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物を95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.3溶液を得た。基体樹脂No.3は、アミン価62mgKOH/g、数平均分子量2,200であった。
【0130】
製造例4 基体樹脂No.4の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールPP−300P(注1)296部、jER828EL(注4)1330部、ビスフェノールAを684部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド1.0部を加え、160℃でエポキシ当量1,150になるまで反応させた。
【0131】
次に、反応生成物に、プロピレングリコールモノメチルエーテルを611部加え、次いで、ジエチルアミノプロピルアミン20部、モノメチルアミノエタノール114部を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.4溶液を得た。基体樹脂No.4は、アミン価41mgKOH/g、数平均分子量2,700であった。
【0132】
表1に、製造例1〜4の基体樹脂No.1〜No.4の配合内容及び特数を示す。
【0133】
【表1】

【0134】
(注1)グリシエールPP−300P:三洋化成工業社製、商品名、エポキシ
樹脂 (ジエポキシ化合物(a1))、エポキシ当量296、化合物(2)に相当(R=CH基、X=1、Y=7)
(注2)デナコールEX−821:ナガセケムテックス社製、商品名、エポキシ樹脂(ジエポキシ化合物(a1))、エポキシ当量185、化合物(2)に相当(R=水素原子、X=1、Y=4)
(注3)グリシエールBPP−350:三洋化成工業社製、商品名、エポキシ樹脂 (ジエポキシ化合物(a1))、エポキシ当量340、化合物(1)に相当(R=CH基、R=CH、m+n=3)
(注4)jER828EL:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ樹脂(a2)、エポキシ当量190、数平均分子量380
合成例1 キシレンホルムアルデヒド樹脂の製造
温度計、還流冷却器及び撹拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに50%ホルマリン480部、フェノール110部、98%工業用硫酸202部及びメタキシレン424部を仕込み、84〜88℃で4時間反応させた。 反応終了後、静置して樹脂相と硫酸水相とを分離した後、樹脂相を3回水洗し、20〜30mmHg/120〜130℃の条件で20分間未反応メタキシレンをストリッピングして、粘度1,050mPa・s(25℃)のフェノール変性されたキシレンホルムアルデヒド樹脂480部を得た。
【0135】
製造例5 基体樹脂No.5の製造例
フラスコに、jER828EL(注4)1,140部、ビスフェノールA 456部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量820になるまで反応させた。
【0136】
次に、反応生成物に、メチルイソブチルケトンを420部加え、次いで、合成例1で得たキシレンホルムアルデヒド樹脂300部を加え、次いで、ジエタノールアミンを95部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物を127部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.5溶液を得た。基体樹脂No.5は、アミン価47mgKOH/g、数平均分子量2,500であった。
【0137】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)の製造
製造例6 硬化剤の製造例
反応容器中に、コスモネートM−200(商品名、三井化学社製、クルードMDI)270部及びメチルイソブチルケトン127部を加え70℃に昇温した。この中にエチレングリコールモノブチルエーテル236部を1時間かけて滴下して加え、その後、100℃に昇温し、この温度を保ちながら経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分80%の硬化剤を得た。
【0138】
製造例7 顔料分散用樹脂の製造例
jER828EL(注4参照)1,010部に、ビスフェノールAを390部、プラクセル212(ポリカプロラクトンジオール、ダイセル化学工業株式会社、商品名、重量平均分子量約1,250)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1,090になるまで反応させた。
【0139】
次に、反応生成物に、ジメチルエタノールアミン134部及び90%の乳酸水溶液150部を加え、120℃で4時間反応させた。次いで、得られた反応生成物に、メチルイソブチルケトンを加えて固形分を調整し、固形分60%のアンモニウム塩型樹脂系の顔料分散用樹脂を得た。上記分散用樹脂のアンモニウム塩濃度は、0.78mmol/gであった。
【0140】
製造例8 顔料分散ペーストの製造例
製造例7で得た固形分60%の顔料分散用樹脂8.3部(固形分5部)、酸化チタン14.5部、精製クレー7.0部、カーボンブラック0.3部、ジオクチル錫オキサイド1部、水酸化ビスマス1部及び脱イオン水20.3部を混合して、ボールミルにて20時間分散し、固形分55%の顔料分散ペーストを得た。
【0141】
エマルションの製造
製造例9 エマルションNo.1の製造例
製造例1で得られた基体樹脂No.1 81.3部(固形分65部)と、製造例5で得られた硬化剤37.5部(固形分30部)とを混合し、さらに10%酢酸15.0部を配合して均一に攪拌した後、脱イオン水155.2部を強く攪拌しながら約15分間を要して滴下して、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0142】
製造例10〜16 エマルションNo.2〜No.8の製造例
表2の配合内容とする以外は、製造例9と同様にして、エマルションNo.2〜No.8を得た。
【0143】
【表2】

【0144】
カチオン電着塗料の製造
実施例1
エマルションNo.1を294部(固形分100部)、製造例8で得た55%顔料分散ペーストを52.4部(固形分28.8部)及び脱イオン水653.6部を混合して1,000部の浴とした。次いで、当該浴に、10%のジルコニウムフッ化水素酸14.0部及び10%硝酸10部を加えてカチオン電着塗料No.1を得た。
【0145】
実施例2〜28
下記表3〜5に示す配合とする以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料No.2〜No.28を得た。
【0146】
【表3】

【0147】
【表4】

【0148】
【表5】

【0149】
比較例1〜6
下記表6に示す配合とする以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料No.29〜No.34を得た。
【0150】
【表6】

【0151】
被塗物について
化成処理を施していない冷延鋼板(70mm×150mm×0.8mm)を、トルエンを入れた超音波洗浄器に浸漬して超音波脱脂を30分間施して「被塗物」とした。
【0152】
カチオン電着塗膜の試験板の作成と評価
各カチオン電着塗料No.1〜No.34の浴を40℃に調整し、「被塗物」を120秒間浸漬(工程1)し、次いで200Vで180秒間の条件にて電着塗装(工程2)して、170℃で20分間焼付けし、乾燥膜厚15μmの各試験板とした。各試験板の評価は、下記の条件に従って行った。実施例の結果を表7〜9に、比較例の結果を表10に示す。
【0153】
【表7】

【0154】
【表8】

【0155】
【表9】

【0156】
【表10】

【0157】
(注5)仕上り性(塗膜状態):試験板を切断して塗膜(下層)と塗膜(上層)の塗膜状態を、HF−2000(日立製作所製、電界放出型透過型電子顕微鏡)を用いて観察した。塗膜状態の評価は、下記の基準に従って行った:
「○」は、塗膜(下層)と塗膜(上層)境界がはっきりしないが、層分離が多少認められる;
「−」は、層分離は認められない。
【0158】
(注6)耐温塩水浸漬性:試験板にクロスカットを入れ、55℃の5質量%の塩水に240時間浸漬し、セロテープ(登録商標)剥離試験を行って、塗膜が剥がれた領域のうち、カット部からの距離が最も長い部分の距離を評価した:
◎は、カット部から片側2mm未満;
〇は、カット部から片側2mm以上、3mm未満;
△は、カット部から片側3mm以上、4mm未満;
×は、カット部から片側4mm以上、を表す。
【0159】
(注7)複合腐食サイクル試験:
試験板に、WP−306(関西ペイント株式会社製、商品名、第1着色水性塗料)を硬化膜厚が25μmとなるようにスプレー塗装した後、2分間放置し、80℃で5分間プレヒートを行った。次いで、上記第1着色水性塗膜上に、WBC−710(白)(関西ペイント株式会社製、商品名、第2着色水性塗料)を硬化膜厚が15μmとなるようにスプレー塗装した後、2分間放置し、80℃で5分間プレヒートを行った。さらに、KINO#1200(関西ペイント株式会社製、商品名、クリヤ塗料)を硬化膜厚35μmとなるように塗装し、7分間放置した。次いで、電気熱風乾燥器で140℃にて30分間焼き付け、複合腐食サイクル試験用の試験板を作製した。
【0160】
得られた上記の試験板上に、素地に達するようにナイフでクロスカットキズを入れ、以下の条件を1サイクルとして100サイクル行ったとき試験板の評価を行った。(サイクル条件 : 熱風乾燥(50℃) 3時間 − 塩水噴霧 6時間 − 冷気送風(R.T)1時間 − 湿潤(50℃ RH95%) 14時間)
各試験板の評価については、錆又はフクレの最大幅が、
◎はカット部から片側2mm未満;
〇はカット部から片側2mm以上、3mm未満;
△はカット部から片側3mm以上、4mm未満;
×はカット部から片側4mm以上、を表す。
(注8)塗料安定性:
各々の皮膜形成剤を30℃にて30日間容器を密閉して攪拌した。その後、皮膜形成剤を400メッシュ濾過網を用いて全量濾過し、残さ量(mg/L)を測定した:
○は、10mg/L未満;
△は、10mg/L以上で、かつ15mg/L未満;
×は、15mg/L以上、を示す。
【0161】
(注9)総合評価:本発明の属するカチオン電着塗装の分野においては、カチオン電着塗装用塗料は、仕上り性、耐温塩水浸漬性、複合的な腐食に対する耐性(熱風、冷風及び塩)及び塗料安定性の全てに優れていることが望ましい。また、上記4項目がいずれも最高評価(耐温塩水浸漬性及び複合腐食サイクル試験については◎;仕上り性及び塗料安定性については○)であることが最も望ましい。従って、下記の基準に従い、総合評価を行った:
◎:耐温塩水浸漬性及び複合腐食サイクル試験が◎であり、かつ仕上り性及び塗料安定性が○である;
○:上記4項目が◎又は○であり、かつ◎が1個以下である;
△:上記4項目が◎、○又は△であり、少なくとも1個△がある。
【0162】
×:上記4項目のうち、少なくとも1つ×または「−」がある。
【産業上の利用可能性】
【0163】
無処理鋼板でも防食性に優れる塗装物品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、金属化合物(C)及び窒素酸化物イオン(E)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物は、該金属化合物(C)を、カチオン電着塗料組成物の質量に対し、金属元素の質量として、10〜10,000ppm含有し、かつ窒素酸化物イオン(E)を50〜10,000ppm含有し、
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ当量500〜2500の変性エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)とを反応させることにより得られる樹脂であり、
変性エポキシ樹脂(A1)は、ジエポキシ化合物(a1)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を反応させて得られる樹脂であり、
ジエポキシ化合物(a1)は、下記一般式(1):
【化1】

[式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数であるm及びnは、m+n=1〜20となる整数を示す。]
で表わされる化合物(1)及び/又は下記一般式(2):
【化2】

[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは1〜9の整数を示し、Yは1〜50の整数を示す。Yが2以上の場合、繰り返し単位中の各Rは、同一であっても異なってもよい。]
で表わされる化合物(2)であり、かつ、
金属化合物(C)が、ジルコニウム、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属(c)の化合物である、カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
金属化合物(C)が、ジルコニウム化合物からなるか、又は
ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物のうち少なくとも1種の化合物を含有し、かつコバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物を含有するものである請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
カチオン電着塗料組成物の固形分が5〜40質量%である請求項1又は2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗料浴として、これに金属被塗物を浸漬し、電着塗装して得られた塗装物品。

【公開番号】特開2011−84729(P2011−84729A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182729(P2010−182729)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】