説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】つきまわり性、薄膜の仕上り性(熱フロー性)と薄膜の防食性に優れるカチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 1分子中に1個以上のエポキシ基を有しエポキシ当量180〜500であるエポキシ樹脂(a1)と1分子中に1個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール性水酸基含有化合物(a2)とを、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)中のフェノール性水酸基のモル数=2.0〜1.3の割合で反応させることにより得られ、かつカテコール骨格単位(a)を分子中の一部に有するエポキシ樹脂(A1)とアミノ基含有化合物(A2)を反応させてなるカチオン性エポキシ樹脂(A)、並びにブロック化ポリイソシアネート(B)を含有するカチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2011年3月4日に出願された、日本国特許出願第2011−047061号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、つきまわり性、薄膜(特に、乾燥膜厚10μm)の仕上り性(熱フロー性)と防食性に優れるカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
カチオン電着塗料を用いた電着塗装は、袋部や隙間部等の内板膜厚を維持して防食性を確保し、さらに外板膜厚の適正化・均一化(例えば、仕上り性や防食性が重視される部位の膜厚を確保する)を図ることによって、自動車ボディの品質向上や低コスト化につなげることが試みられている。
しかし、従来からのカチオン電着塗料を電着塗装して得られた塗膜は、膜厚が低下すると下地の凹凸や、熱フロー性の低下に伴って仕上り性が低下することがあった。また、塗膜中の可塑成分を多量に使用して加熱乾燥時の熱フロー性を上げて仕上り性を向上させると、分極抵抗が低下することから「つきまわり性」が低下したり、塗膜の防食性が低下する傾向があった。
【0004】
このような背景から、つきまわり性が良好で、かつ薄膜(特に、乾燥膜厚10μm)の仕上り性(熱フロー性)と防食性に優れるカチオン電着塗料が求められていた。
これに対し、特許文献1には、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、フェノール性水酸基含有樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を含むカチオン電着塗料組成物を用いた場合、つきまわり性、仕上り性、特に乾燥膜厚15μmの仕上り性及び防食性に優れることが開示されている。しかし、つきまわり性が良好で、かつ従来求められていたよりさらに薄膜(特に、乾燥膜厚10μm)での仕上り性(熱フロー性)及び防食性の全てを満足することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特開2011−6655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、つきまわり性、薄膜(特に、乾燥膜厚10μm)の仕上り性(熱フロー性)及び防食性に優れるカチオン電着塗料組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カテコール骨格単位(a)を分子中の一部に有するエポキシ樹脂(A1)とアミノ基含有化合物(A2)を反応させてなるカチオン性エポキシ樹脂(A)、並びにブロック化ポリイソシアネート(B)を含有するカチオン電着塗料組成物によって、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の項に関する:
1.下記一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す]
で示されるカテコール骨格単位(a)を分子中の一部に有するエポキシ樹脂(A1)と、アミノ基含有化合物(A2)を反応させてなるカチオン性エポキシ樹脂(A)、並びに
ブロック化ポリイソシアネート(B)
を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該エポキシ樹脂(A1)が1分子中に1個以上のエポキシ基を有しエポキシ当量180〜500であるエポキシ樹脂(a1)と1分子中に1個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール性水酸基含有化合物(a2)を、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)中のフェノール性水酸基のモル数=1.3〜2.0の割合で反応させて得られるものである、
カチオン電着塗料組成物。
【0011】
2.エポキシ樹脂(a1)が、カテコール及びアルキルカテコールから選ばれる少なくとも1種とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂を含むものである1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0012】
3.フェノール性水酸基含有化合物(a2)が、カテコール及びアルキルカテコールから選ばれる少なくとも1種を含むものである1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0013】
4.カチオン性エポキシ樹脂(A)が、該樹脂(A)の固形分あたりカテコール骨格単位(a)を3〜65質量%含有する1〜3項のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0014】
5.カチオン性エポキシ樹脂(A)が、該樹脂(A)の固形分あたりカテコール骨格単位(a)を5〜40質量%含有する1〜3項のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0015】
6.一般式(1)におけるRが、炭素数4〜6のアルキル基である1〜5項のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0016】
7.1〜6項のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物を電着浴として用い、当該電着浴に被塗物を浸漬する工程、及び
被塗物を陰極として通電する工程
を含む、電着塗装方法。
【0017】
8.被塗物を7項に記載の方法で電着塗装することにより得られる塗装物品
【発明の効果】
【0018】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂(A)中にカテコール骨格単位(a)を導入することによって、電着塗膜の析出開始が早く、かつ塗膜の融着性が良好なため高電圧を印加することが可能となるので「つきまわり性」が良好である。さらに塗膜の可塑性及び熱フロー性が良好となるので「薄膜の仕上り性」に優れ、かつ「薄膜(乾燥膜厚10μm)の防食性」が良好な塗装物品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】つきまわり性試験に用いる「4枚ボックスつきまわり性試験用治具」のモデル図である。
【図2】つきまわり性試験における電着塗装用の配線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、カテコール骨格単位(a)を分子中の一部に有するエポキシ樹脂(A1)とアミノ基含有化合物(A2)とを反応させてなるカチオン性エポキシ樹脂(A)、並びにブロック化ポリイソシアネート(B)を含有するカチオン電着塗料組成物である。以下、詳細に述べる。
【0021】
[カチオン性エポキシ樹脂(A)]
本発明においてカチオン性エポキシ樹脂(A)は、下記一般式(1)で示されるカテコール骨格単位(a)を分子中の一部に有するエポキシ樹脂(A1)と、アミノ基含有化合物(A2)とを反応させて得られる。
【0022】
【化2】

【0023】
(式(1)におけるRは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す)。
【0024】
なお上記一般式(1)で示されるカテコール骨格単位におけるRが炭素数4〜6のアルキル基である場合には、塗膜を形成した時に融着性が良好となるため、より好ましい。
【0025】
カテコール骨格単位(a)を分子中の一部に有するエポキシ樹脂(A1)
エポキシ樹脂(A1)は、1分子中に1個以上のエポキシ基を有しエポキシ当量180〜500であるエポキシ樹脂(a1)と1分子中に1個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール性水酸基含有化合物(a2)を、エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=2.0〜1.3の割合で反応させて得られる。
【0026】
カテコール骨格単位(a)は、通常、エポキシ樹脂(a1)及び/又は化合物(a2)に由来してエポキシ樹脂(A1)に導入される。例えば、樹脂(a1)がカテコール及びアルキルカテコールから選ばれる少なくとも1種とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂を含む場合が挙げられ、これによってエポキシ樹脂(A1)の樹脂骨格にカテコール骨格単位(a)を導入することができる。
【0027】
このようなエポキシ樹脂(a1)として、具体的には、EPICLON HP−820(DIC株式会社)を例示することができる。なお前記のアルキルカテコールとしては、4−tert−ブチルカテコール、4−メチルカテコール、2−メチルカテコール等を挙げることができる。
【0028】
さらに上記以外のエポキシ樹脂(a1)としては、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。
【0029】
該エポキシ樹脂(a1)の形成のために用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0030】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式(2)
【0031】
【化3】

【0032】
(式(2)中、qは、0〜2を示す)
で示されるものが好適である。
【0033】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からjER828EL、jER1001なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0034】
これらのエポキシ樹脂(a1)は、1種単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0035】
また、フェノール性水酸基含有化合物(a2)がカテコール及びアルキルカテコールから選ばれる少なくとも1種を含む場合にも、エポキシ樹脂(A1)の樹脂骨格にカテコール骨格単位(a)を導入することができる。前記のアルキルカテコールとしては、4−tert−ブチルカテコール、4−メチルカテコール、2−メチルカテコール等を挙げることができる。
【0036】
さらに上記以外のフェノール性水酸基含有化合物(a2)としては、1分子中に1個以上のフェノール性水酸基を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0037】
これらのフェノール性水酸基含有化合物(a2)は、1種単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0038】
上記のエポキシ樹脂(A1)の製造における各成分の配合割合としては、通常、エポキシ樹脂(a1)とフェノール性水酸基含有化合物(a2)を、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)中のフェノール性水酸基のモル数=2.0〜1.3、好ましくは2.0〜1.35の割合で混合する。エポキシ樹脂(a1)とフェノール性水酸基含有化合物(a2)とを上記範囲の割合で配合することにより、得られる塗膜の耐食性及び仕上り性が高くなるため好ましい。
【0039】
エポキシ基(a1)とフェノール性水酸基含有化合物(a2)の反応は、通常、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミンのような3級アミン、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドのような4級アンモニウム塩等の反応触媒の存在下、反応温度としては80〜200℃、好ましくは90〜180℃、反応時間として1〜6時間、好ましくは1〜5時間行うことによって、上記一般式(1)のカテコール骨格単位(a)を分子中の一部に有するエポキシ樹脂(A1)を得ることができる。
【0040】
上記エポキシ樹脂(A1)は、エポキシ樹脂(a1)とフェノール性水酸基含有化合物(a2)に加え、必要に応じて、ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアミドアミン、ポリカルボン酸、ポリイソシアネート化合物等と部分的に反応させたものであってもよく、さらにまた、ε−カプロラクトン等のラクトン類、アクリルモノマー等をグラフト重合させたものであってもよい。
【0041】
上記のエポキシ樹脂(A1)の製造には、適宜、有機溶剤を用いることができ、該有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0042】
アミン化合物(A2)
本発明に使用するカチオン性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂(A1)にアミン化合物(A2)を付加反応させることにより製造することができる。アミン化合物(A2)は、エポキシ樹脂にアミノ基を導入して、エポキシ樹脂をカチオン化するためのカチオン性付与成分であり、エポキシ基と反応する活性水素を少なくとも1個含有するものが用いられる。
【0043】
そのような目的で使用されるアミン化合物(A2)としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン等のモノ−、もしくはジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノール等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン及びこれらのポリアミンのケチミン化物;エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピラジン等の環状アミン等が挙げられる。上記アミン化合物としては、1級アミンをケチミン化したものも併せて用いることができる。
これらのアミン化合物(A2)は、1種単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0044】
ここで、エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)との付加反応における各成分の使用割合は、厳密に制限されるものではなく、電着塗料組成物の用途等に応じて適宜変えることができるが、エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)の合計固形分質量を基準にして、エポキシ樹脂(A1)が通常70〜98質量%、好ましくは75〜96質量%、アミン化合物(A2)が通常2〜30質量%、好ましくは4〜25質量%である。
【0045】
なお上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、80〜170℃、好ましくは90〜150℃の温度で1〜6時間、好ましくは1〜5時間行われる。上記反応における溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0046】
カチオン性エポキシ樹脂(A)は、樹脂(A)の固形分あたりカテコール骨格単位(a)を3〜65質量%、好ましくは5〜40質量%含有することがよい。カチオン性エポキシ樹脂(A)として、固形分あたりカテコール骨格単位(a)を上記範囲含有するものを用いることによって、析出した塗膜の融着性、つきまわり性、及び水分散性の低下が抑制できるため好ましい。
【0047】
ブロック化ポリイソシアネート(B)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、前述のカチオン性エポキシ樹脂(A)及びブロック化ポリイソシアネート(B)を組合せて使用することにより、熱硬化性のカチオン電着塗料とすることができる。
【0048】
上記のブロック化ポリイソシアネート(B)は、ポリイソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤とのほぼ化学理論量での付加反応生成物である。ブロック化ポリイソシアネート(B)で使用されるポリイソシアネート化合物は、公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI[ポリメチレンポリフェニルイソシアネート]、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物の環化重合体又はビゥレット体;又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0049】
特に、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI等の芳香族ポリイソシアネート化合物が防食性の為により好ましい。
【0050】
一方、前記イソシアネートブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温において安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常100〜200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生することが望ましい。
【0051】
ブロック化ポリイソシアネート(B)で使用されるブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム系化合物;等が挙げられる。
【0052】
本発明のカチオン電着塗料組成物におけるカチオン性エポキシ樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート(B)の配合割合としては、上記成分(A)及び(B)の固形分合計質量を基準にして、成分(A)を、通常50〜90質量%、好ましくは60〜85質量%、成分(B)を、通常10〜50質量%、好ましくは15〜40質量%の範囲内である。
【0053】
この範囲が、塗料特性として塗料安定性が良好で、かつ合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性が良好で、仕上り性や防食性、特に、乾燥膜厚10μmの仕上り性や防食性に優れた塗装物品を得る為にも好ましい。
【0054】
なお本発明のカチオン電着塗料の製造は、カチオン性エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート(B)のほかに、必要に応じて、界面活性剤、表面調整剤等の各種添加剤、有機溶剤等を十分に混合して調合樹脂とした後、上記調合樹脂を有機カルボン酸等で水溶化又は水分散化してエマルションを得る。
【0055】
なお調合樹脂の中和には、一般的には、公知の有機カルボン酸を用いることができるが、中でも酢酸、ギ酸、乳酸又はこれらの混合物が好適である。次いで、カチオン電着塗料組成物の製造は、上記エマルションに顔料分散ペーストを配合し、脱イオン水等で希釈して、浴固形分濃度が通常5〜40質量%、好ましくは8〜25質量%、pHが1.5〜9.0、好ましくはpHが2.0〜6.5の範囲内となるように調整して製造することができる。
【0056】
上記の顔料分散ペーストは、着色顔料、防錆顔料、体質顔料等をあらかじめ微細粒子に分散したものであって、例えば、顔料分散用樹脂、中和剤、顔料等を配合し、ボールミル、サンドミル、ペブルミル等の分散混合機中で分散処理して、顔料分散ペーストを調製できる。
【0057】
上記顔料分散用樹脂としては、公知のものが使用でき、例えば水酸基及びカチオン性基を有する基体樹脂、3級アミン型エポキシ樹脂、4級アンモニウム塩型エポキシ樹脂、3級スルホニウム塩型エポキシ樹脂等の樹脂を使用できる。
【0058】
上記顔料としては、特に制限なく使用でき、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;クレー、マイカ、バリタ、炭酸カルシウム、シリカ等の体質顔料;リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、酸化亜鉛(亜鉛華)等の防錆顔料;を添加することができる。
【0059】
さらに、腐食抑制又は防錆を目的として、ビスマス化合物を含有させることができる。上記ビスマス化合物としては、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス、有機酸ビスマス等を用いることができる。
【0060】
また、塗膜硬化性の向上を目的として、ジブチル錫ジベンゾエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイド等の有機錫化合物を用いることができる。前記酸化亜鉛(亜鉛華)等の防錆顔料及び/又はビスマス化合物を適用(増量)及び/又は微細化して用いることによって、これらの有機錫化合物を含有せずに、塗膜硬化性の向上を図ることもできる。これらの顔料化合物の配合量は、基体樹脂及び硬化剤との合計固形分100質量部あたり1〜100質量部、特に10〜50質量部の範囲内が好ましい。
【0061】
本発明のカチオン電着塗料組成物の被塗物としては、自動車ボディ、2輪車部品、家庭用機器、その他の機器等が挙げられ、金属であれば特に制限はない。
被塗物としての金属鋼板としては、冷延鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−鉄二層めっき鋼板、有機複合めっき鋼板、Al素材、Mg素材等、並びにこれらの金属板を必要に応じてアルカリ脱脂等の表面を洗浄化した後、リン酸塩化成処理、クロメート処理等の表面処理を行ったものが挙げられる。
【0062】
カチオン電着塗料組成物は、電着塗装によって所望の基材表面に塗装することができる。従って、本発明は、前記カチオン電着塗料組成物を電着浴として用い、当該電着浴に被塗物を浸漬する工程、及び被塗物を陰極として通電する工程を含む、電着塗装方法を提供する。
【0063】
より具体的には、カチオン電着塗装は、一般的には、脱イオン水等で希釈して固形分濃度が約5〜40質量%とし、さらにpHを5.5〜9.0の範囲内に調整した電着塗料組成物からなる電着浴を、通常、浴温15〜35℃に調整し、負荷電圧100〜400Vの条件で被塗物を陰極として通電することによって行うことができる。電着塗装後、通常、被塗物に余分に付着したカチオン電着塗料を落とすために、限外濾過液(UF濾液)、逆浸透透過水(RO水)、工業用水、純水等で十分に水洗する。
【0064】
電着塗膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、一般的には、乾燥塗膜に基づいて5〜40μm、好ましくは7〜30μmの範囲内とすることができる。また、塗膜の焼き付け乾燥は、電着塗膜を電気熱風乾燥機、ガス熱風乾燥機等の乾燥設備を用いて、塗装物表面の温度で、通常110℃〜200℃、好ましくは140〜180℃にて、時間としては、通常10分間〜180分間、好ましくは20分間〜50分間、電着塗膜を加熱して行う。上記焼付け乾燥により硬化塗膜を得ることができる。
【0065】
上記の焼付け乾燥によって得られたカチオン電着塗膜は、特に、乾燥膜厚10μmにおいて、JIS B 601に定義される粗さ曲線における中心線平均粗さ(Ra)が0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満(以上、カットオフ値0.8mm)で、仕上り性に優れた塗膜を得ることができる。
【実施例】
【0066】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0067】
カチオン性エポキシ樹脂(A)の製造
製造例1 基体樹脂No.1溶液の製造例 (実施例用)
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)760部、EPICLON HP−820(注2)450部、ビスフェノールA 456部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、120℃でエポキシ当量833になるまで反応させた。次にエチレングリコールモノブチルエーテル110部を加え、反応温度を100℃にした。
【0068】
次に、ジエタノールアミン158部及びジエチレントリアミンのケチミン化物95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル289部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂No.1溶液を得た。基体樹脂No.1は、アミン価64mgKOH/g、数平均分子量1900であった。カテコール骨格単位は18%である。
エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=1.5である。
(注1)jER828EL:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ
樹脂、エポキシ当量190、数平均分子量380
(注2)EPICLON HP−820:DIC社製、商品名、カテコール及びアルキルカテコールから選ばれる少なくとも1種とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂、エポキシ当量225、数平均分子量450。
【0069】
製造例2 基体樹脂No.2溶液の製造例 (実施例用)
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)1140部、カテコール220部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、120℃でエポキシ当量680になるまで反応させた。次にエチレングリコールモノブチルエーテル110部を加え、反応温度を100℃にした。次に、ジエタノールアミン158部及びジエチレントリアミンのケチミン化物95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル211部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂No.2溶液を得た。基体樹脂No.2は、アミン価76mgKOH/g、数平均分子量1500、カテコール骨格単位は14%である。
エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=1.5である。
【0070】
製造例3 基体樹脂No.3溶液の製造例(実施例用)
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)1140部、tert−ブチルカテコール332部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、120℃でエポキシ当量736になるまで反応させた。次にエチレングリコールモノブチルエーテル110部を加え、反応温度を100℃にした。
次に、ジエタノールアミン158部及びジエチレントリアミンのケチミン化物95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル241部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂No.3溶液を得た。基体樹脂No.3は、アミン価71mgKOH/g、数平均分子量1700、カテコール骨格単位は20%である。
エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=1.5である。
【0071】
製造例4 基体樹脂No.4溶液の製造例(実施例用)
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)1634部、tert−ブチルカテコール548部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、120℃でエポキシ当量798になるまで反応させた。次にエチレングリコールモノブチルエーテル110部を加え、反応温度を100℃にした。
次に、ジエタノールアミン158部及びジエチレントリアミンのケチミン化物95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル419部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂No.4溶液を得た。
基体樹脂No.4は、アミン価50mgKOH/g、数平均分子量2300、カテコール骨格単位は23%である。エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=1.3である。
【0072】
製造例5 基体樹脂No.5溶液の製造例(実施例用)
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)760部、tert−ブチルカテコール166部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、120℃でエポキシ当量418になるまで反応させた。次にエチレングリコールモノブチルエーテル110部を加え、反応温度を100℃にした。
【0073】
次に、ジエタノールアミン200部及びジエチレントリアミンのケチミン化物95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル104部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂No.5溶液を得た。基体樹脂No.5は、アミン価106mgKOH/g、数平均分子量1,200、カテコール骨格単位は15%である。
エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=2.0である。
【0074】
製造例6 基体樹脂No.6溶液の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)1140部、ビスフェノールA 456部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、120℃でエポキシ当量1965になるまで反応させた。次にエチレングリコールモノブチルエーテル110部を加え、反応温度を100℃にした。
次に、ジエタノールアミン158部及びジエチレントリアミンのケチミン化物95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル211部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂No.6溶液を得た。基体樹脂No.6は、アミン価66mgKOH/g、数平均分子量1,800、カテコール骨格単位は0%である。
エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=1.5である。
【0075】
製造例7 基体樹脂No.7溶液の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)684部、tert−ブチルカテコール133部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、120℃でエポキシ当量418になるまで反応させた。次にエチレングリコールモノブチルエーテル110部を加え、反応温度を100℃にした。 次に、ジエタノールアミン158部及びジエチレントリアミンのケチミン化物95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル78部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂No.7溶液を得た。基体樹脂No.7は、アミン価117mgKOH/g、数平均分子量1,200、カテコール骨格単位は13%である。 エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=2.3である。
【0076】
製造例8 基体樹脂No.8溶液の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)2280部、tert−ブチルカテコール580部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、120℃でエポキシ当量1965になるまで反応させた。次にエチレングリコールモノブチルエーテル110部を加え、反応温度を100℃にした。 次に、ジエタノールアミン158部及びジエチレントリアミンのケチミン化物95部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル588部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂No.8溶液を得た。基体樹脂No.8は、アミン価39mgKOH/g、数平均分子量2,500、カテコール骨格単位は19%である。 エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)のフェノール性水酸基のモル数=1.2である。
【0077】
製造例1〜8の内容について、下記表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
ブロック化ポリイソシアネート(B)の製造
製造例9 硬化剤の製造例
反応容器中に、コスモネートM−200(注3)270部及びメチルイソブチルケトン127部を加え70℃に昇温した。この中にエチレングリコールモノブチルエーテル236部を1時間かけて滴下して加え、その後、100℃に昇温し、この温度を保ちながら経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分80%の硬化剤を得た。
(注3)コスモネートM−200:商品名、三井化学社製、クルードMDI。
【0080】
製造例10 顔料分散用樹脂の製造例
jER828EL(注1参照)1,010部に、ビスフェノールAを390部、プラクセル212(注4)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1,090になるまで反応させた。
次に、ジメチルエタノールアミン134部及び90%の乳酸水溶液150部を加え、120℃で4時間反応させた。次いで、メチルイソブチルケトンを加えて固形分を調整し、固形分60%のアンモニウム塩型樹脂系の顔料分散用樹脂を得た。上記分散用樹脂のアンモニウム塩濃度は、0.78mmol/gであった。
(注4)プラクセル212:ポリカプロラクトンジオール、ダイセル化学工業株式会社製、商品名、重量平均分子量約1,250。
【0081】
製造例11 顔料分散ペーストの製造例
製造例10で得た固形分60%の顔料分散用樹脂8.3部(固形分5部)、酸化チタン14.5部、精製クレー7.0部、カーボンブラック0.3部、ジオクチル錫オキサイド1部、水酸化ビスマス1部及び脱イオン水20.3部を加え、ボールミルにて20時間分散し、固形分55%の顔料分散ペーストを得た。
【0082】
エマルションの製造
製造例12 エマルションNo.1の製造例
製造例1で得られた基体樹脂No.1を87.5部(固形分70部)、製造例9で得られた硬化剤を37.5部(固形分30部)を混合し、さらに10%蟻酸12.1部を配合して均一に攪拌した後、脱イオン水156.9部を強く攪拌しながら約15分間を要して滴下して、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0083】
製造例13〜19 エマルションNo.2〜No.8製造例
表2の配合内容とする以外は、製造例12と同様にして、エマルションNo.2〜No.8を得た。
【0084】
【表2】

【0085】
カチオン電着塗料組成物の製造
実施例1
製造例12で得たエマルションNo.1を294部(固形分100部)、製造例11で得た55%の顔料分散ペーストを52.4部(固形分28.8部)、脱イオン水297.6部を加え、固形分20%のカチオン電着塗料No.1を製造した。
【0086】
実施例2〜5、比較例1〜3
実施例1と同様にして、表3で示されるような配合内容にて、カチオン電着塗料No.2〜No.8を製造した。
【0087】
【表3】

【0088】
カチオン電着塗装板の作成
化成処理を施した冷延鋼板(70mm×150mm×0.8mm)を「被塗物」として、各カチオン電着塗料No.1〜No.8の浴を28℃に調整し、250Vで通電時間を調整して電着塗装し、その後170℃で20分間焼付けして、乾燥膜厚10μm、及び乾燥膜厚20μmの各試験板を得た。各試験板の評価は、下記の条件に従って行った。結果を表4に結果を示す。
【0089】
【表4】

【0090】
(注5)つきまわり性:直径8mmの穴を空け、4枚の鋼板を2cm間隔で設置した「4枚ボックス法つきまわり性試験の治具」(図1参照)を、図2のように配線した。図2の4枚の鋼板のうち、最も左側の鋼板に向かって左側の面を「A面」、向かって右側の面を「B面」とする。同様に、左から2番目の鋼板左右の面を、それぞれ、「C面」及び「D面」、左から3番目の鋼板左右の面を、それぞれ、「E面」及び「F面」、そして最も右側の鋼板左右の面が、それぞれ、「G面」と「H面」となる。この中で、A面が「外板」であり、G面が「内板」となる。
【0091】
図2の装置において、塗装浴温28℃、A面と電極との極間距離10cm、通電時間3分間にて、外板乾燥膜厚15μmとなる電圧にて電着塗装した。つきまわり性は、外板乾燥膜厚、内板乾燥膜厚及びつきまわり性(%)(=内板乾燥膜厚/外板乾燥膜厚×100)で評価した。
【0092】
(注6) 仕上り性:各実施例、比較例で得た電着塗膜(乾燥膜厚10μm、乾燥膜厚20μm)を、JIS B 0601(表面粗さの定義と表示、1982年)に基づいて、サーフコム301(株式会社 ミツトヨ社製、商品名、表面粗さ測定機)を用いて中心線平均粗さ(Ra)を測定した。なお電着塗膜の「中心線平均粗さ(Ra)」については、
Sは、Ra値が0.25未満
Aは、Ra値が0.25以上で、かつ0.30未満
Bは、Ra値が0.30以上で、かつ0.40未満
Cは、Ra値が0.40以上、をそれぞれ示す。
【0093】
(注7)防食性:各実施例、比較例で得た乾燥膜厚10μm、及び乾燥膜厚20μmのカチオン電着塗膜の素地に達するように、塗膜にカッターナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて、35℃ソルトスプレー試験を480時間(乾燥膜厚10μm)、及び840時間(乾燥膜厚20μm)行い、カット部からの傷、フクレ幅によって以下の基準で評価した:
Sは、錆、フクレの最大幅がカット部より2.0mm以下(片側)
Aは、錆、フクレの最大幅がカット部より2.0mmを超え、かつ3.0mm以下(片側)
Bは、錆、フクレの最大幅がカット部より3.0mmを超え、かつ3.5mm以下(片側)
Cは、錆、フクレの最大幅がカット部より3.5mmを超える。
【0094】
(注8)総合評価
本発明が属するカチオン電着塗装の分野においては、つきまわり性、ならびに得られる塗膜の仕上り性及び防食性がいずれも優れていることが所望される。従って、以下の基準に従い、カチオン電着塗料の総合評価を行った:
S:付きまわり性が60%以上であり、かつ仕上り性(乾燥膜厚10μm)、仕上り性(乾燥膜厚20μm)、防食性(乾燥膜厚10μm)及び防食性(乾燥膜厚20μm)が全てS又はAであり、かつ少なくとも1つがSである
A:付きまわり性が60%以上であり、かつ仕上り性(乾燥膜厚10μm)、仕上り性(乾燥膜厚20μm)、防食性(乾燥膜厚10μm)及び防食性(乾燥膜厚20μm)が全てAである
B:付きまわり性が60%以上であり、かつ仕上り性(乾燥膜厚10μm)、仕上り性(乾燥膜厚20μm)、防食性(乾燥膜厚10μm)及び防食性(乾燥膜厚20μm)が全てS、A又はBであり、かつ少なくとも1つがBである
C:付きまわり性が60%未満であるか、又は仕上り性(乾燥膜厚10μm)、仕上り性(乾燥膜厚20μm)、防食性(乾燥膜厚10μm)及び防食性(乾燥膜厚20μm)のうち少なくとも1つがCである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
つきまわり性、薄膜の仕上り性と薄膜の防食性に優れる塗装物品を提供できる。
【符号の説明】
【0096】
1.穴(直径8mm)
2.4枚ボックス法のつきまわり性試験用治具における外板(A面)
3.4枚ボックス法のつきまわり性試験用治具における内板(G面)
4.電着塗料浴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す]
で示されるカテコール骨格単位(a)を分子中の一部に有するエポキシ樹脂(A1)と、アミノ基含有化合物(A2)を反応させてなるカチオン性エポキシ樹脂(A)、並びに
ブロック化ポリイソシアネート(B)
を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該エポキシ樹脂(A1)が1分子中に1個以上のエポキシ基を有しエポキシ当量180〜500であるエポキシ樹脂(a1)と1分子中に1個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール性水酸基含有化合物(a2)を、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基のモル数/フェノール性水酸基含有化合物(a2)中のフェノール性水酸基のモル数=1.3〜2.0の割合で反応させて得られるものである、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂(a1)が、カテコール及びアルキルカテコールから選ばれる少なくとも1種とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂を含むものである請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
フェノール性水酸基含有化合物(a2)が、カテコール及びアルキルカテコールから選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
カチオン性エポキシ樹脂(A)が、樹脂(A)の固形分あたりカテコール骨格単位(a)を3〜65質量%含有する請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
カチオン性エポキシ樹脂(A)が、樹脂(A)の固形分あたりカテコール骨格単位(a)を5〜40質量%含有する請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
一般式(1)におけるRが、炭素数4〜6のアルキル基である請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物を電着浴として用い、当該電着浴に被塗物を浸漬する工程、及び
被塗物を陰極として通電する工程
を含む、電着塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197431(P2012−197431A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45067(P2012−45067)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】