説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】 耐食性、特に、無処理鋼板上での耐食性と耐湿密着性に優れるカチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 カチオン性樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、水溶性ジルコニウム化合物及び水溶性チタン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物(C)、並びにインジウム化合物(D)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、金属化合物(C)における金属元素の質量で10〜5,000ppm、インジウム化合物(D)をInの質量で10〜5,000ppm含有し、かつ金属化合物(C)とインジウム化合物(D)の質量比が、金属化合物(C)における金属元素の質量/Inの質量=1〜70であるカチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性、特に、無処理鋼板上での耐食性と耐湿密着性に優れるカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、つきまわり性に優れ、環境汚染も少ないことから自動車下塗り用を始め幅広い用途に使用されている。従来からクロム酸鉛、塩基性ケイ酸鉛、クロム酸ストロンチウム等の鉛化合物、クロム化合物等を配合したカチオン電着塗料組成物が提案されている。
【0003】
しかし近年、公害問題の点から、鉛化合物、クロム化合物等のような有害性のある化合物の使用は制限されており、そのような有害性化合物を配合しなくても防食性に優れる無毒性ないしは低毒性の防錆顔料を用いたカチオン電着塗料が開発され、実用化に至っている。
【0004】
一方、上記カチオン電着塗料は化成処理を施した場合には優れた耐食性を示すが、化成処理を施していない部分についての耐食性は不十分であった。特に近年、車体形状が複雑になってきたため、化成処理が十分施されない部分が生じており、その部分における耐食性の向上が求められてきた。
【0005】
また、防錆工程の短縮化を目的に化成処理を行わず、無処理鋼板の上に電着塗装することが試みられているが、化成処理になっていた鋼板と有機成分の間の密着性が不足し、耐食性は不十分であった。
【0006】
例えば、特許文献1には、(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂、(B)ブロック化ポリイソシアネート、(C)亜リン酸の2価あるいは3価の金属塩を含有し、鉛フリーでの耐食性の向上を目的としたカチオン電着塗料組成物が開示されている。
【0007】
他に、特許文献2には、ジルコニウム化合物を含み鉛フリーで防食性に優れるカチオン電着塗料が開示されている。また、特許文献3には、エポキシ当量が180〜2500のエポキシ樹脂(A)に、キシレンホルムアルデヒド樹脂(B)及びアミノ基含有化合物(C)を反応させてなるキシレンホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂を含有し、得られた塗膜が、鉛フリーで耐食性を向上させることを目的としたカチオン性塗料組成物が開示されている。
【0008】
しかし特許文献1〜3に記載の発明では、化成処理を施した鋼板上に形成された塗膜が、鉛化合物、クロム化合物等の有害物質を含有せずとも防食性が得られるものの、化成処理を施していない無処理鋼板上に形成された電着塗膜においては、防食性及び耐湿密着性が不十分であった。
【0009】
また、カチオン電着塗料の前処理として化成処理する場合に用いる表面処理液として、InとZrと他の金属を含有し、かつIn/Zrと他の金属との比率を規定した、pHが3.0〜4.4の表面処理液が開示されている(特許文献4)。しかし、本表面処理液のみの皮膜では、化成処理を施していない無処理鋼板上に形成したとしても防食性及び耐湿密着性が不十分であった。
このような背景から、無処理鋼板上の耐食性、耐湿密着性に優れたカチオン電着塗料組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−241546号公報
【特許文献2】特開2000−290542号公報
【特許文献3】特開2003−221547号公報
【特許文献4】国際公開第2008/105052号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、耐食性、特に、無処理鋼板上での耐食性と耐湿密着性に優れるカチオン電着塗料組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カチオン性樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート(B)、水溶性ジルコニウム化合物及び水溶性チタン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物(C)、並びにインジウム化合物(D)を含有するカチオン電着塗料組成物によって、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、
1.カチオン性樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、水溶性ジルコニウム化合物及び水溶性チタン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物(C)、並びにインジウム化合物(D)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、金属化合物(C)における金属元素の質量で10〜5,000ppm、インジウム化合物(D)をInの質量で10〜5,000ppm含有し、かつ金属化合物(C)とインジウム化合物(D)の質量比が、金属化合物(C)における金属元素の質量/Inの質量=1〜70であるカチオン電着塗料組成物。
【0014】
2.メタンスルホン酸を含有する1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0015】
3.カチオン電着塗料組成物の浴のpHが2.3〜5.0である1項又は2項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0016】
4.1〜3項のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗料浴として、これに金属被塗物を浸漬し、電着塗装して得られた塗装物品、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカチオン電着塗料組成物によれば、鉛化合物、クロム化合物等の有害金属を含有することなく、無処理鋼板上の耐食性、及び耐湿密着性に優れた電着塗膜の塗装物品を得ることができる。
【0018】
理由としては、上記カチオン電着塗料組成物を用いた電着塗装によって、素材表面に、ジルコニウムとチタンから選ばれる少なくとも1種の金属化合物(C)とインジウム化合物(D)が析出した析出層を形成することができる。この析出層が、その後に析出する有機皮膜との密着性を向上させる。
本発明によって、従来からジルコニウムとチタンから選ばれる少なくとも1種の金属化合物(C)だけでも素材表面に析出層を形成できるが、インジウム化合物(D)を配合することによって皮膜の均質性が不十分であることに起因する耐食性及び耐湿密着性の不十分さを解消できた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、カチオン性樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート(B)、水溶性ジルコニウム化合物及び水溶性チタン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物(C)、並びにインジウム化合物(D)を含有するカチオン電着塗料組成物である。以下、詳細に述べる。
【0020】
カチオン性樹脂(A)
本発明に用いるカチオン性樹脂(A)は、分子中にアミノ基、アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ホスホニウム塩基等のカチオン化可能な基を有する樹脂であり、樹脂種としては、電着塗料の基体樹脂として通常使用されているもの、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。特に、エポキシ樹脂にアミノ基含有化合物を付加反応させて得られるアミン付加エポキシ樹脂が、耐食性と合金化溶融メッキ鋼板上の電着塗装適性との両立の面から好適である。
【0021】
上記のアミン付加エポキシ樹脂としては、例えば、
(1)エポキシ樹脂と第1級モノ−及びポリアミン、第2級モノ−及びポリアミン又は第1、2級混合ポリアミンとの付加物(例えば、米国特許第3,984,299号明細書参照);
(2)エポキシ樹脂とケチミン化された第1級アミノ基を有する第2級モノ−及びポリアミンとの付加物(例えば、米国特許第4,017,438号 明細書参照);
(3)エポキシ樹脂とケチミン化された第1級アミノ基を有するヒドロキシ化合物とのエーテル化により得られる反応物(例えば、特開昭59−43013号公報参照)等を挙げることができる。
【0022】
上記のアミン付加エポキシ樹脂の製造に使用されるエポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物であり、少なくとも200、好ましくは400〜4,000、さらに好ましくは800〜2,500の範囲内の[数平均分子量]及び少なくとも160、好ましくは180〜2,500、さらに好ましくは400〜1,500の範囲内のエポキシ当量を有するものが適しており、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるものが好ましい。
【0023】
ここで「数平均分子量」は、JIS K 0124−83に記載の方法に準じ、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0024】
該エポキシ樹脂の形成のために用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。上記ポリフェノール化合物は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0025】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式(1)
【0026】
【化1】

【0027】
[n=0〜8]
で示されるものが好適である。
【0028】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からjER828EL、jER1002、jER1004、jER1007なる商品名で販売されているものが挙げられる。上記エポキシ樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0029】
また、アミン付加エポキシ樹脂の製造に使用されるエポキシ樹脂としては、上記式(1)で表されるエポキシ樹脂、下記式(2)で表わされるエポキシ化合物、及び前述のポリフェノール化合物を反応させることにより得られるエポキシ樹脂を挙げることができる:
【0030】
【化2】

【0031】
[式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは1〜9となる整数を示し、Yは1〜50となる整数を表す]。
【0032】
上記式(2)で表わされるジエポキシ化合物としては、例えば、デナコールEX−850、EX−821、EX−830、EX−841、EX−861、EX−941、EX−920、EX−931(ナガセケムテックス株式会社)なる商品名で販売されているものが挙げられる。上記ジエポキシ化合物は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0033】
式(1)のエポキシ樹脂及び式(2)のジエポキシ化合物と反応させるポリフェノール化合物としては、前述したエポキシ樹脂の形成のために用いられるポリフェノール化合物を挙げることができ、好ましくは、ビスフェノールAを用いることができる。
【0034】
当該実施形態において、式(1)で表されるエポキシ樹脂、式(2)で表されるジエポキシ化合物及びポリフェノール化合物の各成分の配合割合は特に限定されないが、例えば、これら3成分の固形分合計質量を基準にして、式(1)で表されるエポキシ樹脂(固形分)が10〜80質量%、好ましくは15〜75質量%、式(2)で表されるジエポキシ化合物(固形分)が1〜35質量%、好ましくは2〜30質量%、ビスフェノール化合物が10〜60質量%、好ましくは15〜50質量%であることが、好ましい。
【0035】
該エポキシ樹脂は、ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアミドアミン、ポリカルボン酸、ポリイソシアネート化合物等と部分的に反応させたものであってもよく、さらにまた、ε−カプロラクトン等のラクトン類、アクリルモノマー等をグラフト重合させたものであってもよい。
【0036】
上記(1)のアミン付加エポキシ樹脂の製造に使用される第1級モノ−及びポリアミン、第2級モノ−及びポリアミン又は第1、2級混合ポリアミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン等のモノ−もしくはジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン等を挙げることができる。
【0037】
上記(2)のアミン付加エポキシ樹脂の製造に使用されるケチミン化された第1級アミノ基を有する第2級モノ−及びポリアミンとしては、例えば、上記(1)のアミン付加エポキシ樹脂の製造に使用される第1、2級混合ポリアミンのうち、例えば、ジエチレントリアミン等にケトン化合物を反応させてなるケチミン化物を挙げることができる。
【0038】
上記(3)のアミン付加エポキシ樹脂の製造に使用されるケチミン化された第1級アミノ基を有するヒドロキシ化合物としては、例えば、上記(1)のアミン付加エポキシ樹脂の製造に使用される第1級モノ−及びポリアミン、第2級モノ−及びポリアミン又は第1、2級混合ポリアミンのうち、第1級アミノ基とヒドロキシル基を有する化合物、例えば、モノエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン等にケトン化合物を反応させてなるヒドロキシル基含有ケチミン化物を挙げることができる。上記ヒドロキシ化合物は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0039】
上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、80〜170℃、好ましくは90〜150℃の温度で1〜6時間、好ましくは1〜5時間行うことができる。上記の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系溶媒;あるいはこれらの混合物等が挙げられる。上記溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0040】
上記のカチオン性エポキシ樹脂は、カチオン化可能な基としてアミノ基を有する場合には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸等の有機カルボン酸;メタンスルホン酸等のスルホン酸化合物によって、中和することにより水溶化ないしは水分散化することができる。
【0041】
特に、中和剤として、メタンスルホン酸等のスルホン酸化合物を含有することによって、下層の金属酸化皮膜を均一性に析出させることができる。これにより、無処理鋼板の耐食性を向上することができる。
【0042】
このようなスルホン酸化合物の具体例は、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等のアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、スルファニル酸(p−アミノベンゼンスルホン酸)、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸(タウリン)、スルホ酢酸、スルホ安息香酸等のスルホカルボン酸、スルホシュウ酸ヒドロキシ、2−ヒドロキシエタンスルホン酸(イセチオン酸)が挙げられる。これらの中でもメタンスルホン酸は、塗料の経時安定性の点から好適である。上記スルホン酸化合物は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0043】
カチオン性樹脂(A)の配合割合は、特に限定されないが、固形分比で、本発明のカチオン電着塗料組成物の質量に対し、例えば、50〜90質量%、好ましくは60〜85質量%の範囲で設定できる。
【0044】
ブロック化ポリイソシアネート(B)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、前述のカチオン性樹脂(A)及びブロック化ポリイソシアネート(B)を組合せて使用することにより、熱硬化性のカチオン電着塗料とすることができる。
【0045】
上記のブロック化ポリイソシアネート(B)は、ポリイソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤とのほぼ化学理論量での付加反応生成物である。ブロック化ポリイソシアネート(B)で使用されるポリイソシアネート化合物は、公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI[ポリメチレンポリフェニルイソシアネート]、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物の環化重合体又はビゥレット体;又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0046】
特に、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI等の芳香族ポリイソシアネート化合物が防食性の為により好ましい。
【0047】
一方、前記イソシアネートブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温において安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常100〜200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生することが望ましい。
【0048】
ブロック化ポリイソシアネート(B)で使用されるブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム系化合物;等が挙げられる。上記ブロック剤は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0049】
ブロック化ポリイソシアネート(B)の配合割合は、特に限定されないが、固形分比で、本発明のカチオン電着塗料組成物の質量に対し、例えば、10〜50質量%、好ましくは15〜40質量%の範囲で設定できる。
【0050】
金属化合物(C)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、水溶性ジルコニウム化合物と水溶性チ
タン化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(C)を含有する。
【0051】
ここで、水溶性ジルコニウム化合物は、塩化ジルコニウム、塩化ジルコニル、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、ジルコニウムフッ化水素酸、フッ化ジルコン酸の塩、臭化ジルコニル、酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニル等が挙げられる。上記水溶性ジルコニウム化合物は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0052】
また水溶性チタニウム化合物としては、塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタン、硝酸チタニル、チタンフッ化水素酸、フッ化チタン酸の塩等が挙げられる。上記水溶性チタニウム化合物は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0053】
この中でも、ジルコニウムフッ化水素酸、フッ化ジルコン酸の塩は、スルホン酸化合物と共に配合することにより、無処理鋼板における耐食性の向上効果が高く、好適である。
【0054】
なお本発明に用いられる金属化合物(C)の濃度は、無処理鋼板上の防食性向上の為に、カチオン電着塗料組成物の質量(水分も含む)に対して、金属元素の質量で10〜5,000ppm、好ましくは150〜4,000ppmである。
【0055】
前記金属化合物(C)における金属元素の質量が10ppmよりも小さいと、無処理鋼板上に形成された電着塗膜の耐食性、特に、無処理鋼板上での耐食性と耐湿密着性を向上させることが困難となる。また、カチオン電着塗料組成物の質量に対して、金属元素の質量が5,000ppmよりも大きい場合は、塗装作業性及び/又は塗料安定性を損なうことがあり好ましくない。
【0056】
インジウム化合物(D)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、インジウム化合物(D)を含有する。
インジウム化合物(D)としては、硝酸インジウム、硫酸インジウム、メタンスルホン酸インジウム、スルファミン酸インジウム、フッ化インジウム、酸化インジウム及び水酸化インジウム等が挙げられる。上記硝酸インジウムは、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0057】
なお本発明に用いられるインジウム化合物(D)の濃度は、無処理鋼板上の防食性向上の為に、カチオン電着塗料組成物の質量(水分も含む)に対して、金属元素の質量で10〜5,000ppm、好ましくは30〜4,000ppmである。
【0058】
前記インジウム化合物(D)における金属元素の質量が10ppmよりも小さいと、無処理鋼板上に形成された電着塗膜の耐食性、特に、無処理鋼板上での耐食性と耐湿密着性を向上させることが困難となる。
【0059】
また、カチオン電着塗料組成物の質量に対して、金属元素の質量が5,000ppmよりも大きい場合は、塗装作業性及び/又は塗料安定性を損なうことがあり好ましくない。
【0060】
さらに、金属化合物(C)とインジウム化合物(D)は、金属化合物(C)における金属元素の質量/インジウム金属元素の質量=1〜70、好ましくは2〜50である。
【0061】
この範囲を外れると、被塗物上に、金属化合物(C)とインジウム化合物(D)の析出層を容易に形成することができず、耐食性、特に、無処理鋼板上での耐食性と耐湿密着性のいずれかが不十分となる。
【0062】
また、本発明のカチオン電着塗料組成物は、必要に応じて窒素酸化物イオンを含有することができる。窒素酸化物イオンは、硝酸イオン、亜硝酸イオン等の総称であり、窒素酸化物イオンを生成又は含有する化合物をカチオン電着塗料中に配合することによって、窒素酸化物イオンをカチオン電着塗料中に含有させることができる、硝酸、金属硝酸塩、金属亜硝酸塩等が挙げられる。
【0063】
硝酸、金属硝酸塩及び金属亜硝酸塩としては、具体的には、硝酸、亜硝酸、硝酸亜鉛、硝酸インジウム、硝酸アルミニウム、硝酸イッテリビウム、硝酸イットリウム、硝酸インジウム、硝酸塩化モリブデン、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸銀、硝酸コバルト、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸セリウム、硝酸チタニル、硝酸チタン、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸サマリウム、硝酸ネオジウム、硝酸プラセオジウム、硝酸ルテニウム、硝酸ランタン、硝酸ルテニウム、硝酸コバルト、硝酸銅、硝酸ビスマス、硝酸マグネシウム、亜硝酸亜鉛、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸セリウム、亜硝酸第二銅、亜硝酸銅、亜硝酸バリウム、亜硝酸ニッケル、亜硝酸マグネシウム等が挙げられる。上記硝酸、金属硝酸塩及び金属亜硝酸塩は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0064】
上記の硝酸及び/又は金属硝酸塩を少なくとも1種 配合することによって、カチオン電着塗料中に窒素酸化物イオンを含有することができる。なお本発明のカチオン電着塗料組成物の浴における窒素酸化物イオンの含有量は、カチオン電着塗料組成物(浴)の質量を基準にして、窒素酸化物イオンを0〜10,000ppm、好ましくは50〜8,000ppmであることが望ましい。この範囲が、被塗物と皮膜との界面(被塗物側)に、金属化合物(C)とインジウム化合物(D)が析出することを促進でき、緻密な皮膜を形成することができる。この為、無処理鋼板上に形成された電着塗膜の耐食性、特に高温下での耐温塩水浸漬性を向上させることができる。
【0065】
さらに、本発明のカチオン電着塗料組成物には、必要に応じて、その他の添加剤、例えば、顔料、触媒、有機溶剤、顔料分散剤、表面調整剤、界面活性剤等を塗料分野で通常使用されている配合量で含有することができる。
【0066】
なお、上記の顔料及び触媒としては、例えば、チタン白、カーボンブラック等の着色顔料;クレー、タルク、バリタ等の体質顔料;トリポリリン酸二水素アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料;酸化ビスマス、水酸化ビスマス、乳酸ビスマス等のビスマス化合物;ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド等の有機錫化合物;ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジベンゾエート、ジブチル錫ジベンゾエート等のジアルキル錫の脂肪族もしくは芳香族カルボン酸塩等の錫化合物が挙げられる。上記顔料及び触媒は、1種単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0067】
本発明のカチオン電着塗料組成物の調整は、具体的には以下に述べる方法(1)〜方法(3)等の方法により行うことができる。
【0068】
方法(1):カチオン性樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート(B)、及び場合によりその他の添加剤を一緒にし、十分に混ぜ合わせて溶解ワニスを作製し、中和剤を添加して水分散化してなるエマルション中に、金属化合物(C)、インジウム化合物(D)、必要に応じて窒素酸化物イオンを配合したエマルションと、顔料分散ペーストを配合する方法。
【0069】
方法(2):金属化合物(C)、インジウム化合物(D)、必要に応じて窒素酸化物イオンを配合して、顔料成分、中和剤、触媒、その他の添加剤、水を加え分散して顔料分散ペーストを調製し、その顔料分散ペーストと、カチオン性樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート(B)とを含むエマルションに配合する方法。
【0070】
方法(3):あらかじめ作製したカチオン電着塗料の浴(カチオン性樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート(B))に金属化合物(C)、インジウム化合物(D)、中和剤、必要に応じて、窒素酸化物イオンを配合する方法が挙げられる。
【0071】
上記の方法(1)〜方法(3)から選ばれる少なくとも1種の方法によってカチオン電着塗料組成物を製造することができる。
【0072】
カチオン電着塗料組成物の製造は、エマルションと顔料分散ペーストを、脱イオン水等で調整して、浴固形分濃度が通常5〜40質量%、好ましくは8〜25質量%、pHが2.0〜7.0、好ましくは2.3〜5.0の範囲内となるように行うことができる。
【0073】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いた塗膜形成は、特に制限なく従来公知の方法で行うことができ、具体的には被塗物をカチオン電着塗料の浴に浸漬した直後に通電して、塗膜を形成する方法(所謂、「1工程による方法」)、または、被塗物をカチオン電着塗料の浴に一定時間浸漬あるいは電析(低電圧で電着塗装を行うこと)し、次いで電着塗装することによって、塗膜を形成する方法(所謂、「2工程による方法」)が挙げられる。
【0074】
被塗物としては、自動車ボディ、2輪車部品、家庭用機器、その他の機器等が挙げられ、金属であれば特に制限はない。被塗物としての金属鋼板としては、冷延鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−鉄二層めっき鋼板、有機複合めっき鋼板、Al素材、Mg素材等、並びにこれらの金属板を必要に応じてアルカリ脱脂等の表面を洗浄化した後、リン酸塩化成処理等の表面処理を行ったものが挙げられる。
【0075】
上記の2種類の方法において、被塗物をカチオン電着塗料の浴に一定時間浸漬し(工程1)、次いで電着塗装する(工程2)ことが、被塗物上に緻密な不働体化皮膜を形成することができる為、防食性向上の面からより好ましい。
【0076】
上記、「2工程による方法」において、具体的には、カチオン電着塗料組成物を槽に入れて浴とし、浴温15〜55℃、好ましくは20〜50℃で、金属被塗物を浸漬して皮膜を形成できる。なお浸漬時間として、被塗物を10〜600秒間、好ましくは30〜480秒間浸漬することによって、被塗物上に緻密な不働態化皮膜を形成することができる(工程1)。
【0077】
次いで、金属基材を陰極として塗装電圧を50〜400V、好ましくは75〜370Vで、60〜600秒間、好ましくは80〜400秒間通電すること(工程2)によって、被塗物に皮膜を析出することができる。
【0078】
なお、カチオン電着塗料組成物の浴温としては、通常10〜55℃、好ましくは20〜50℃の範囲内が、欠陥の少ない析出膜を均一に形成させることができる。また、金属被塗物を浸漬した被塗物を槽から出し、さらにもう一度金属被塗物を浸漬し、電着塗装することも可能である。
【0079】
上記した2工程による塗膜形成方法によって、1層目の皮膜(下層)上に、樹脂成分及び顔料を主成分とした組成が大きく異なる2層目の皮膜(上層)を連続的に形成することができ、それによって、いっそう防食性と仕上り性が良好な複層皮膜構造を形成することができる。
【0080】
なお、カチオン電着塗料を用いた皮膜の析出機構は、前記工程1を浸漬で行う場合、まず金属被塗物が、カチオン電着塗料組成物中に含まれる酸及び窒素酸化物イオンのエッチング作用によって被塗物近傍のpHが上昇し、次に金属イオン種等(例えば、6フッ化ジルコニウムイオン、インジウムイオン)が加水分解反応を受けて、難溶性の1層目の皮膜(下層)(主に、例えば、酸化ジルコニウム、酸化インジウム)が被塗物上に析出する。その後、2層目の皮膜(上層)が析出する。
【0081】
このようにして得られた皮膜の焼き付け温度は、被塗物表面で100〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲内の温度が適しており、焼き付け時間は5〜90分間、好ましくは10〜50分間とすることができる。
【実施例】
【0082】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0083】
アミン変性エポキシ樹脂(A)の製造
製造例1 アミノ基含有エポキシ樹脂溶液の製造例
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(注1)638.9部(固形分638.9部)、デナコールEX821(注2)300.0部(固形分300.0部)、ビスフェノールA 404.2部(固形分404.2部)及びジメチルベンジルアミン0.2部を仕込み、130℃でエポキシ当量900になるまで反応させた。
【0084】
次に、ジエタノールアミン156.9部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル375.0部を加え、樹脂固形分80質量%のアミノ基含有エポキシ樹脂溶液を得た。
【0085】
アミノ基含有エポキシ樹脂は、アミン価が56mgKOH/g、数平均分子量が2,000であった。
(注1)jER828EL:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ樹脂、エポキシ当量190、数平均分子量380
(注2)デナコールEX821: ナガセケムテックス(株)製、商品名、エポキシ樹脂、エポキシ当量185。前述の式(2)で表わされるジエポキシ化合物に相当(R2=水素原子、X=1、Y=4)
ブロック化ポリイソシアネート(B)の製造
製造例2 硬化剤の製造例
反応容器中に、コスモネートM−200(注3)270部及びメチルイソブチルケトン127部を加え70℃に昇温した。この中にエチレングリコールモノブチルエーテル236部を1時間かけて滴下して加え、その後、100℃に昇温し、この温度を保ちながら経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分80%の硬化剤を得た。
(注3)コスモネートM−200:商品名、三井化学社製、クルードMDI。
【0086】
製造例3 顔料分散用樹脂の製造例
jER828EL(注1参照)1,010部に、ビスフェノールAを390部、プラクセル212(注4)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1,090になるまで反応させた。
【0087】
次に、ジメチルエタノールアミン134部及び90%の乳酸水溶液150部を加え、120℃で4時間反応させた。次いで、メチルイソブチルケトンを加えて固形分を調整し、固形分60%のアンモニウム塩型樹脂系の顔料分散用樹脂を得た。上記分散用樹脂のアンモニウム塩濃度は、0.78mmol/gであった。
(注4)プラクセル212:ポリカプロラクトンジオール、ダイセル化学工業株式会社、商品名、重量平均分子量約1,250。
【0088】
製造例4 顔料分散ペーストの製造例
製造例3で得た固形分60%の顔料分散用樹脂8.3部(固形分5部)、酸化チタン14.5部、精製クレー7.0部、カーボンブラック0.3部、ジオクチル錫オキサイド1部、水酸化ビスマス1部及び脱イオン水20.3部を加え、ボールミルにて20時間分散し、固形分55%の顔料分散ペーストを得た。
【0089】
エマルションの製造
製造例5 エマルションNo.1の製造例
製造例1で得られたアミノ基含有エポキシ樹脂を87.5部(固形分70部)、製造例2で得られた硬化剤を37.5部(固形分30部)を混合し、さらに10%メタンスルホン酸30.8部を配合して均一に攪拌した後、脱イオン水138.2部を強く攪拌しながら約15分間を要して滴下して、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0090】
製造例6〜7 エマルションNo.2〜No.3製造例
表1の配合内容とする以外は、製造例5と同様にして、エマルションNo.2〜No.3を得た。
【0091】
【表1】

【0092】
カチオン電着塗料の製造
実施例1
エマルションNo.1を294部(固形分100部)、製造例4で得た55%顔料分散ペーストを52.4部(固形分28.8部)、脱イオン水653.6部を加えて1,000部の浴とした。次いで、10%のジルコニウムフッ化水素酸14.0部(固形分1.4部)、10%硝酸インジウム3.0部(0.3部)を加えてカチオン電着塗料No.1を得た。
【0093】
実施例2〜7
下記表2に示す配合とする以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料No.2〜No.7を得た。
【0094】
【表2】

【0095】
比較例1〜6
下記表3に示す配合とする以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料No.8〜No.13を得た。
【0096】
【表3】

【0097】
被塗物について
化成処理を施していない冷延鋼板(70mm×150mm×0.8mm)を、トルエンを入れた超音波洗浄器に浸漬して超音波脱脂を30分間施して「被塗物」とした。
【0098】
カチオン電着塗装板の作成と評価
各カチオン電着塗料No.1〜No.13の浴を30℃に調整し、「被塗物」を120秒間浸漬(工程1)し、次いで200Vで通電時間を調整して電着塗装(工程2)して、170℃で20分間焼付けし、乾燥膜厚15μmの各試験板とした。各試験板の評価は、下記の条件に従って行った。実施例の結果を表4に、比較例の結果を表5に示す。
【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
(注5)耐ソルトスプレー性:
各実施例、比較例の工程1で得た電着塗膜の素地に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて840時間耐塩水噴霧試験を行い、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した;
◎は、錆、フクレの最大幅がカット部より1.5mm未満(片側)
○は、錆、フクレの最大幅がカット部より1.5mm以上でかつ2.5mm未満(片側)
△は、錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm以上でかつ3.5mm未満(片側)
×は、錆、フクレの最大幅がカット部より3.5mm以上(片側)。
【0102】
(注6)耐湿密着性:
試験板に、WP−300(関西ペイント株式会社製、商品名、水性中塗り塗料)を、硬化膜厚が25μmとなるようにスプレー塗装した後、電気熱風乾燥器で、140℃で30分焼き付けを行なった。さらに、上記中塗塗膜上に、ネオアミラック6000(関西ペイント株式会社製、商品名、上塗り塗料)を、硬化膜厚が35μmとなるようにスプレー塗装した後、電気熱風乾燥器で140℃にて30分間焼き付け、試験板を作製した。
【0103】
次いで、50℃ブリスターボックスに240時間入れた後、素地に達するようにカッターで切り込み2mm幅のゴバン目100個作り、その表面に粘着テープを粘着し、20℃において急激に剥離した後のゴバン目塗膜の残存数を観察した;
◎は、残存個数/全体個数=100個/100個で縁欠けなし
○は、残存個数/全体個数=100個/100個で縁欠けあり
△は、残存個数/全体個数=99個〜90個/100個
×は、残存個数/全体個数=89個以下/100個。
【0104】
総合評価
本発明が属する金属被塗物の電着塗装の分野においては、耐食性及び耐湿密着性が共に高い塗膜を形成することが重要である。従って、以下の基準にて、総合評価を行った;
◎:耐ソルトスプレー性及び耐湿密着性が共に◎である、
○:上記2つの試験結果が◎又は○であり、かつ少なくとも一方が○である、
△:上記2つの試験結果が◎、○又は△であり、かつ少なくとも一方が△である、
×:上記2つの試験結果のうち、少なくとも一方が×である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
無処理鋼板上の耐食性、特に、高温下での耐温塩水浸漬性と合金化溶融亜鉛メッキ鋼板における電着塗装適性に優れる塗装物品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、水溶性ジルコニウム化合物及び水溶性チタン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物(C)、並びにインジウム化合物(D)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物の質量に対して、金属化合物(C)における金属元素の質量で10〜5,000ppm、インジウム化合物(D)をInの質量で10〜5,000ppm含有し、かつ金属化合物(C)とインジウム化合物(D)の質量比が、金属化合物(C)における金属元素の質量/Inの質量=1〜70であるカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
メタンスルホン酸を含有する請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
カチオン電着塗料組成物の浴のpHが2.3〜5.0である請求項1又は2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗料浴として、これに金属被塗物を浸漬し、電着塗装して得られた塗装物品。

【公開番号】特開2013−43961(P2013−43961A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184344(P2011−184344)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】