説明

カチオン電着塗装方法

【課題】 塗装膜厚を被塗物の素材によらず一定にすることができるカチオン電着塗装方法を提供する。
【解決手段】 スルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物を使用するカチオン電着塗装方法であって、上記カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られる塗膜中に、電着される上記カチオン電着塗料組成物中に含有されるスルホニウム基の40%未満が残存するするように、上記カチオン電着塗料組成物を電着塗装するカチオン電着塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塗装膜厚を被塗物の素材によらず一定にすることができるカチオン電着塗装方法に関する。
【0002】
【従来の技術】カチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、自動車車体等の大型で複雑な形状を有し、高い防錆性が要求される被塗物の下塗り塗装方法として汎用されている。また、他の塗装方法と比較して、塗料の使用効率が極めて高いことから経済的であり、工業的な塗装方法として広く普及している。
【0003】このようなカチオン電着塗装においては、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等を骨格したポリアミン化樹脂を主成分とする電着塗料組成物の使用が一般的であり、通常、ポリアミン化樹脂は有機酸で中和され正に荷電している。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる。この塗装の過程における被膜の析出は電気化学的な反応によるものであり、被塗物表面に析出した被膜は絶縁性を有するので、塗装過程において、被膜の析出が進行して析出膜の膜厚が増加するのに従い、膜厚の増加に比例して被膜の電気抵抗は大きくなる。その結果、当該部位への塗料の析出は低下し、代わって未析出部位への被膜の析出が始まる。このようにして、順次未被着部分に塗料エマルション粒子が被着して塗装を完成させる。本明細書中、被塗物の未被着部位に被膜が順次形成されることをつきまわり性という。
【0004】しかしながら、このような中和アミノ基を水和基とするカチオン電着塗料組成物は、析出性が塗装浴の温度等の条件によって敏感に変化するうえ、つきまわり性が不充分で、膜厚のムラを生じていた。例えば、従来のカチオン電着塗料組成物のつきまわり性を、いわゆる4枚ボックス法により評価すると、比較的つきまわり性が良好であるとされているぎ酸中和型の塗料組成物であっても、G/A値が48%程度にすぎない。
【0005】WO98/03701号公報には、従来の中和アミノ基を水和基とする電着塗料組成物とは異なるカチオン電着塗料組成物が開示され、このものは、分子内にスルホニウム基とエチニル基やニトリル基等の三重結合を含有する基体樹脂からなる。このカチオン電着塗料組成物は、つきまわり性にすぐれており、従来のカチオン電着塗料組成物に比べて一層均一な膜厚の塗膜を形成することができる。
【0006】一方、被塗物の素材の違いによっても、電着塗膜の形成は影響を受ける。例えば、冷間圧延鋼板とりん酸亜鉛処理等の表面処理を施した冷間圧延鋼板とでは、同一電着条件において形成される塗膜の膜厚が一般には異なる。従って、形成される塗膜を一定に保つためには、被塗物の素材によって電着条件を設定する必要があり、このため、複数種類の素材をライン処理する場合等に困難をきたすことがあった。また、例えば、りん酸亜鉛処理鋼板を被塗物とする場合に、りん酸亜鉛処理が不充分な部分に電着塗膜が多量に析出してしまい、塗膜の均一化を維持できないおそれがあった。
【0007】この問題は、従来のつきまわり性改善のための技術のみによって解決することは困難であった。すなわち、上述の技術は、いずれも、上述の意味におけるつきまわり性の改善を課題とするものであったとしても、被塗物の素材の違いによる電着塗膜の析出性の相違に着目し、これに対する制御手段を提供するものではなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述の現状に鑑みて、塗装膜厚を被塗物の素材によらず一定にすることができるカチオン電着塗装方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、スルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物を使用するカチオン電着塗装方法であって、上記カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られる塗膜中に、電着される上記カチオン電着塗料組成物中に含有されるスルホニウム基の40%未満が残存するするように、上記カチオン電着塗料組成物を電着塗装するカチオン電着塗装方法である。
【0010】本発明の好ましい一態様においては、カチオン電着塗料組成物として、樹脂固形分100gあたりスルホニウム基10〜300mmol及び炭素−炭素不飽和結合50〜2000mmolを含有する基体樹脂に、アミン化合物を、上記基体樹脂固形分100gあたり1〜50mmolであって、かつ、上記基体樹脂に含有されるスルホニウム基の含有量の5mol%以上配合してなるものを使用する。
【0011】本発明の好ましい態様においては、上記炭素−炭素不飽和結合の少なくとも15%は、プロパルギル基の炭素−炭素三重結合である。以下に本発明を詳述する。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明のカチオン電着塗装方法は、スルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物を使用する。上記カチオン電着塗料組成物としては水和基としてスルホニウム基を含有してなるものであれば特に限定されない。
【0013】上記スルホニウム基は、上記カチオン電着塗料組成物の水和官能基である。スルホニウム基は、電着塗装過程で一定以上の電圧又は電流が与えられると、以下に示すように電極上で電解還元反応をうけてイオン性基が消失し、スルフィドとなって不可逆的に不導体化することができる。上記カチオン電着塗料組成物が高度のつきまわり性を発揮することができるのは、このためであると考えられる。
【0014】
【化1】


【0015】また、この電着塗装過程においては、電極反応が引き起こされ、生じた水酸化物イオンをスルホニウム基が保持することにより電解発生塩基が電着被膜中に発生するものと考えられる。この電解発生塩基は、電着被膜中に存在する熱による反応性の低いプロパルギル基を熱による反応性の高いアレン結合に変換することができる。
【0016】本発明のカチオン電着塗装方法に使用する上記スルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物としては、例えば、樹脂固形分100gあたりスルホニウム基10〜300mmol及び炭素−炭素不飽和結合50〜2000mmolを含有する基体樹脂に、アミン化合物を、上記基体樹脂固形分100gあたり1〜50mmolであって、かつ、上記基体樹脂に含有されるスルホニウム基の含有量の5mol%以上配合してなるものを好適に使用することができる。以下、このものを「スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物」という。
【0017】上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物において、スルホニウム基の含有量は、上記基体樹脂固形分100gあたり10〜300mmolであることが好ましい。10mmol/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。300mmol/100gを超えると、被塗物表面への被膜の析出が悪くなる。より好ましくは、基体樹脂固形分100gあたり10〜250mmolであり、10〜150mmolが更に好ましい。
【0018】上記炭素−炭素不飽和結合は、炭素−炭素間の不飽和二重結合又は不飽和三重結合である。上記基体樹脂において、上記炭素−炭素不飽和結合は、上記基体樹脂の分子末端に存在してもよく、又は、上記基体樹脂の骨格を形成する分子鎖中の一部に存在していてもよい。上記炭素−炭素不飽和結合は、硬化官能基として機能するとともに、理由は不明であるが、スルホニウム基と併存することにより、樹脂組成物のつきまわり性を一層向上させることができる。
【0019】上記炭素−炭素不飽和結合の含有量は、上記基体樹脂固形分100gあたり50〜2000mmolであることが好ましい。50mmol/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができない。2000mmol/100gを超えると、カチオン電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼし、被塗物表面への被膜の析出が悪くなる。より好ましくは、基体樹脂固形分100gあたり80〜1000mmolであり、80〜500mmolが更に好ましい。
【0020】上記基体樹脂において、上記炭素−炭素不飽和結合は、数において少なくとも15%がプロパルギル基の炭素−炭素三重結合であることが硬化性の観点から好ましい。
【0021】なお、上記炭素−炭素不飽和結合の含有量は、例えば、長鎖不飽和脂肪酸等の分子内に複数個の炭素−炭素二重結合をもつ分子が導入された場合であっても、導入された、分子内に複数個の炭素−炭素二重結合をもつ分子自体の含有量をもって表すものとする。これは、複数個の炭素−炭素二重結合をもつ分子が導入されても、硬化反応に関与するのは、実質的にそのうちの一つの炭素−炭素二重結合のみであると考えられるからである。
【0022】上記基体樹脂としては、上述のスルホニウム基及び上記炭素−炭素不飽和結合を含有するものである限り特に限定されるものではなく、アクリル樹脂やエポキシ樹脂を使用可能であるが、樹脂骨格中にスルホニウム基や上記炭素−炭素不飽和結合を容易に導入することができるように、エポキシ基を1分子中に少なくとも2個有するポリエポキシドが好ましい。上記ポリエポキシドとしては特に限定されず、例えば、エピビスエポキシ樹脂、これをジオール、ジカルボン酸、ジアミン等により鎖延長したもの;エポキシ化ポリブタジエン;ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂;ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂;ポリグリシジルアクリレート;脂肪族ポリオール又はポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル;多塩基性カルボン酸のポリグリシジルエステル等を挙げることができる。これらのうち、硬化性を高めるための多官能基化が容易であるノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂、ポリグリシジルアクリレートが好ましい。
【0023】上記ポリエポキシドの数平均分子量は、500〜20000が好ましい。数平均分子量が500未満であると、カチオン電着塗装の塗装効率が悪くなり、20000を超えると被塗物表面で良好な被膜を形成することができない。樹脂骨格に応じてより好ましい数平均分子量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、700〜5000であることがより好ましい。
【0024】上記基体樹脂が上記ポリエポキシドを骨格とするものである場合、上記ポリエポキシドのエポキシ基を介してスルホニウム基及び上記炭素−炭素不飽和結合が導入されている。上記基体樹脂は、一分子中にスルホニウム基及び上記炭素−炭素不飽和結合を共に含有していることが好ましいが、必ずしもその必要はなく、例えば、一分子中にスルホニウム基又は上記炭素−炭素不飽和結合のいずれかを含有していてもよい。この後者の場合にあっては、基体樹脂を構成する樹脂分子全体として、これら2種の官能基の全てを含有している。すなわち、上記基体樹脂は、一般には、スルホニウム基又は上記炭素−炭素不飽和結合のうちのいずれか一つ又は二つ以上を有する複数の樹脂分子からなるものであってよい。本明細書中、上記基体樹脂は、上述の意味においてスルホニウム基及び上記炭素−炭素不飽和結合を含有する。
【0025】上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物の第二の成分は、アミン化合物である。上記アミン化合物の添加により、電着過程における電解還元によるスルホニウム基のスルフィドへの変換率が増大する。上記アミン化合物としては特に限定されず、例えば、1級〜3級の単官能及び多官能の脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等のアミン化合物を挙げることができる。これらのうち、水溶性又は水分散性のものが好ましく、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の炭素数2〜8のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジメタノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾリン、イミダゾール等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、水分散安定性が優れているので、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のヒドロキシアミンが好ましい。
【0026】上記アミン化合物は、直接、上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物中に配合することができる。従来の中和型アミン系のカチオン電着塗料組成物では、遊離のアミンを添加すると、樹脂中の中和酸を奪うことになり、電着溶液の安定性が著しく悪化するが、上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物においては、このような浴安定性の阻害が生じることはない。
【0027】上記アミン化合物の配合量は、上記基体樹脂固形分100gあたり1〜50mmolであることが好ましい。配合量が1mmol/100g未満であると化合物を添加することによる効果が発揮できず、50mmol/100gを超えると配合量に応じた効果が期待できず不経済である。より好ましくは、1〜30mmol/100gである。上記アミン化合物の配合量は、また、上述の条件を充たした上で、上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物に含まれる上記基体樹脂に含有されるスルホニウム基の含有量の5mol%以上であることが好ましい。配合量が上記条件を充たしても、上記基体樹脂に含有されるスルホニウム基の含有量の5mol%以上でない場合は、スルホニウム基のスルフィドへの変換率の向上に充分寄与することがない。より好ましくは、7mol%以上である。
【0028】上記基体樹脂の製造方法を、エポキシ樹脂を使用する場合を典型例として以下に説明する。エポキシ樹脂以外の樹脂を使用する場合にも、以下の方法を適宜変更することにより、実施可能である。上記基体樹脂は、例えば、一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、エポキシ基と反応する官能基及び炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を反応させて、炭素−炭素不飽和結合を含有するエポキシ樹脂を得る工程(1)、及び、工程(1)で得られた炭素−炭素不飽和結合を含有するエポキシ樹脂中の残存エポキシ基に、スルホニウム基を導入する工程(2)からなる工程によって好適に製造することができる。
【0029】上記一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、上述したポリエポキシ樹脂等を好適に使用することができる。
【0030】上記エポキシ基と反応する官能基及び炭素−炭素不飽和結合を有する化合物としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基と炭素−炭素不飽和結合とをともに含有する化合物であってよく、具体的には、プロパルギルアルコールやプロパルギル酸等の水酸基又はカルボキシル基と炭素−炭素三重結合とを有する化合物;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール等の水酸基と炭素−炭素不飽和二重結合とを有する化合物;アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のカルボキシル基と炭素−炭素不飽和二重結合とを有する化合物;マレイン酸エチルエステル、フマル酸エチルエステル、イタコン酸エチルエステル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル等のハーフエステル類;オレイン酸、リシノール酸等の合成不飽和脂肪酸;アマニ油、大豆油等の天然不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0031】工程(1)における反応条件は、通常、室温又は80〜140℃にて数時間である。また、必要に応じて触媒や溶媒等の反応を進行させるために必要な公知の成分を使用することができる。反応の終了は、エポキシ当量の測定により確認することができ、得られた樹脂の不揮発分測定や機器分析により、導入された官能基を確認することができる。
【0032】なお、炭素−炭素不飽和結合を含有するエポキシ樹脂を得る工程としては、上記工程(1)以外に、炭素−炭素不飽和結合を分子内に有するモノマー、例えば、グリシジルメタクリレートにプロパルギルアルコールを付加したモノマー等を、その他のモノマーと共重合することによっても行うことができる。上記その他のモノマーとしては上記モノマーと共重合可能なものであれば特に限定されず、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル等のエステル;プラクセルFM(商品名)シリーズ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチルとカプロラクトンとの付加物、ダイセル工業社製);アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のその誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル等を挙げることができる。
【0033】工程(2)においては、上記工程(1)、又は、該当する場合には、上述の炭素−炭素不飽和結合を分子内に有するモノマーとその他のモノマーとを共重合する方法で得られた炭素−炭素不飽和結合を含有するエポキシ樹脂の残存エポキシ基に、スルホニウム基を導入する。スルホニウム基の導入は、スルフィド/酸混合物とエポキシ基を反応させてスルフィドの導入及びスルホニウム化を行う方法や、スルフィドを導入した後、更に、酸又はアルキルハライド等により、導入したスルフィドのスルホニウム化反応を行い、必要によりアニオン交換を行う方法等により行うことができる。反応原料の入手容易性の観点からは、スルフィド/酸混合物を使用する方法が好ましい。
【0034】上記スルフィドとしては特に限定されず、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、環状スルフィド等を挙げることができる。具体的には、例えば、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、ジフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノール等を挙げることができる。
【0035】上記酸としてはスルホニウム基の対アニオンとなりうるものであれば特に限定されず、例えば、ぎ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、ほう酸、酪酸、ジメチロールプロピオン酸、塩酸、硫酸、りん酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−β−アラニン等を挙げることができる。
【0036】上記スルフィド/酸混合物における上記スルフィドと上記酸との混合比率は、通常、モル比率でスルフィド/酸=100/60〜100/100程度が好ましい。
【0037】上記アルキルハライドとしては特に限定されず、例えば、フッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化イソプロピル等を挙げることができる。
【0038】上記工程(2)の反応は、例えば、上記工程(1)で得られた炭素−炭素不飽和結合を含有するエポキシ樹脂と、例えば、上述のスルホニウム基含量になるように設定された所定量の上記スルフィド及び上記酸との混合物とを、使用するスルフィドの5〜10倍モルの水と混合し、通常、50〜90℃で数時間攪拌して行うことができる。反応の終了点は、残存酸価が5以下となることを目安とすればよい。得られた樹脂中のスルホニウム基導入の確認は、電位差滴定法により行うことができる。
【0039】スルフィドの導入後にスルホニウム化反応を行う場合も、上記に準じて行うことができる。
【0040】上述のように、スルホニウム基の導入を、炭素−炭素不飽和結合の導入の後に行うことにより、加熱によるスルホニウム基の分解を防止することができる。
【0041】こうして得られた基体樹脂に、アミン化合物を所定量配合することにより、上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物を好適に製造することができる。
【0042】上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物には、上述の基体樹脂自体が硬化性を有するので、硬化剤の使用は必ずしも必要ない。しかし、硬化性の更なる向上のために使用してもよい。このような硬化剤としては、例えば、プロパルギル基及び不飽和二重結合のうち少なくとも1種を複数個有する化合物、例えば、ノボラックフェノール等のポリエポキシドやペンタエリスリットテトラグリシジルエーテル等に、プロパルギルアルコール等のプロパルギル基を有する化合物や(メタ)アクリル酸やアリルアルコール等の不飽和二重結合を有する化合物を付加反応させて得た化合物等を挙げることができる。
【0043】上記硬化剤は、残存するグリシジル基にスルホニウム基を導入し、自己乳化型エマルションとしたものであってもよい。上記スルホニウム基を導入する方法としては特に限定されず、例えば、上記基体樹脂の製造方法で述べた方法を挙げることができる。また、全てのグリシジル基に不飽和結合を導入したものをコアとし、不飽和結合及びスルホニウム基を併せ持つものをシェルとして乳化させたものであってもよい。
【0044】上記硬化剤の使用量は、上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物中、樹脂固形分として80重量%以下であることが好ましい。上記硬化剤を使用する場合、硬化剤中の不飽和結合の量及びスルホニウム基の量は、上述のスルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物における含有量の範囲内であるように調節して使用されることが好ましい。
【0045】上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物には、不飽和結合間の硬化反応を進行させるために、硬化触媒を使用することができる。このような硬化触媒としては特に限定されず、例えば、ニッケル、コバルト、銅、マンガン、パラジウム、ロジウム等の遷移金属に対して、シクロペンタジエンやアセチルアセトン等の配位子や酢酸等のカルボン酸等が結合したもの等を挙げることができる。これらのうち、銅のアセチルアセトン錯体、酢酸銅が好ましい。上記硬化触媒の配合量は、カチオン電着塗料組成物樹脂固形分100gあたり0.1〜20mmolであることが好ましい。
【0046】上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物は、必要に応じて、通常のカチオン電着塗料組成物に用いられるその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては特に限定されず、例えば、顔料、顔料分散樹脂、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の塗料用添加剤等を挙げることができる。
【0047】上記顔料としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;塩基性けい酸鉛、りんモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料;カオリン、クレー、タルク等の体質顔料等の一般にカチオン電着塗料組成物に使用されるもの等を挙げることができる。上記顔料の配合量は、カチオン電着塗料組成物中、固形分として0〜50重量%であることが好ましい。
【0048】上記顔料分散樹脂としては特に限定されず、一般に使用されている顔料分散樹脂を使用することができる。また、樹脂中にスルホニウム基と炭素−炭素不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂を使用してもよい。このようなスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂とハーフブロック化イソシアネートとを反応させて得られる疎水性エポキシ樹脂に、スルフィド化合物を反応させるか、又は、上記樹脂に、一塩基酸及び水酸基含有二塩基酸の存在下でスルフィド化合物を反応させる方法等により得ることができる。
【0049】上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物は、上記基体樹脂、アミン化合物に、必要に応じて、上述のその他の各成分を混合し、水に溶解又は分散すること等により得ることができる。カチオン電着塗装に用いる場合には、不揮発分が10〜30%の浴液となるように調製されることが好ましい。また、カチオン電着塗料組成物中の炭素−炭素不飽和結合及びスルホニウム基の含有量が、上述の範囲を逸脱しないように調製されることが好ましい。
【0050】本発明のカチオン電着塗装方法においては、上記スルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物、好ましくは、上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物を、これらの塗料組成物を電着塗装して得られる塗膜中に、電着される上記カチオン電着塗料組成物中に含有されるスルホニウム基の40%未満が残存するように電着塗装する。電着される上記スルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物、好ましくは、上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物中に含有されるスルホニウム基の40%以上が電着塗装して得られる塗膜中に残存するならば、換言すれば、電着される上記スルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物中に電着される前に含有されているスルホニウム基のうち、スルフィド基に変換されずに電着塗装して得られる塗膜中に残存するスルホニウム基が40%以上であると、析出性や平滑性に対する浴温度の影響が大きく、浴管理が難しくなる。
【0051】この条件は、上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物を使用する場合にあっては、以下に説明する電着塗装の電極印加電圧、電着時間の条件を充たすとともに、上記アミン化合物の含有量を上述の範囲に設定することによって達成することができる。
【0052】すなわち、電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜500Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、500Vを超えると、消費電力が大きくなり、不経済である。本発明の組成物を使用して上述の範囲内で電圧を印加すると、電着過程における急激な膜厚の上昇を生じることなく、被塗物全体に均一な被膜を形成することができ、高いつきまわり性を発揮する。
【0053】上記被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、例えば、冷間圧延鋼板、りん酸亜鉛処理した冷間圧延鋼板、溶融合金亜鉛メッキ鋼板、りん酸亜鉛処理した溶融合金亜鉛メッキ鋼板、これらの成型物等を挙げることができる。
【0054】上記電圧を印加する場合のカチオン電着塗料組成物の浴液温度は、通常、10〜45℃の範囲で設定可能であり、例えば、30℃等の温度に適宜設定することができる。上記スルホニウム基及び炭素−炭素不飽和結合含有カチオン電着塗料組成物中を使用する場合においては、上記浴液温度は、設定温度の、例えば、±10℃以内に制御すればよく、30℃を設定温度とする場合は、浴液温度を20〜40℃の範囲に制御すれば、所望の電着塗膜を得ることができる。
【0055】本発明のカチオン電着塗装方法において、電着過程は、(i)カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、(ii)上記被塗物を陰極して、陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、(iii)析出させた上記被膜に、電圧を更に印加することにより、上記被膜の単位体積あたりの電気抵抗値を増加させる過程、から構成されることが好ましい。電圧を印加する時間は、一般には、2〜4分とすることができる。
【0056】上述のようにして得られる電着被膜は、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは160〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化させて、塗装を完了する。
【0057】本発明のカチオン電着塗装方法においては、硬化後の電着塗膜の膜厚は10〜25μmが好ましい。10μm未満であると、防錆性が不充分であり、25μmを超えると、塗料の浪費につながる。本発明のカチオン電着塗装方法においては、上述の電解還元反応により、電着によって被塗物表面に析出した被膜が不導体化し、結果として、つきまわり性が飛躍的に向上することになる。従って、塗膜の膜厚が上述の範囲であっても、被塗物全体に均一な塗膜を形成することができるので、充分な防錆性を発揮することができる。
【0058】また、このようにして形成された電着塗膜中の残存スルホニウム基量は、電着に供されるスルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物中のスルホニウム基量の40%未満に減少しており、従って、電着されるカチオン電着塗料組成物中のスルホニウム基の60%以上がスルフィド基に変換されているものと考えられる。
【0059】本発明のカチオン電着塗装方法は、被塗物の素材が異なっても、電着条件を一定にしたまま、電着塗装して得られる塗膜の膜厚の素材間による相違を小さくすることができる。これは、以下の事実が貢献しているものと考えられる。すなわち、本発明のカチオン電着塗装方法においては、水和官能基であるスルホニウム基が電極反応によってスルフィド基に変換されることによる不導体化、これに伴う膜の電気抵抗の増加とその結果である析出停止を通じて、順次つきまわり性が発揮されていくものと考えられる。従って、析出過程の進行に重要なのは、スルホニウム基のスルフィド基への変換である。この変換を、スルホニウム基のスルフィド基への変換率を60%以上、すなわち、電着塗装により得られる塗膜中に残存する電着されるカチオン電着塗料中のスルホニウム基を40%未満とすることによって、析出した塗膜の電気抵抗値は大幅に増大し、被塗物である素材がそれぞれ異なる電気抵抗値を有するものであっても、この析出塗膜の電気抵抗値の大幅な増加が支配要因となって、その析出膜厚差が小さくなるものと考えられる。
【0060】このようにして得られる塗膜が形成された被塗物は、目的に応じて必要な中塗り及び/又は上塗りが更に施される。例えば、自動車用外板の場合には、一般に、耐チッピング性を付与するための溶剤型、水性又は粉体の中塗り塗料を塗布し焼き付けた後、更に、ベース塗料を塗布し、これを硬化させずにクリア塗料を塗布する、いわゆるウェットオンウェット方法で塗装され、その後これらの塗膜を同時に焼き付ける2コート1ベーク塗装方法が適用される。その際、上記ベース塗料としては水性塗料を使用し、上記クリア塗料としては、粉体塗料を使用することが、環境問題に対する配慮として好ましい。もちろんこの他に、1コート塗装方法が用いられるソリッド系にも適用が可能である。
【0061】
【実施例】以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】製造例1 スルホニウム基、プロパルギル基及びビニル基を含有するカチオン電着塗料用樹脂の製エポキシ当量200.4のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポトートYDCN−701(商品名)、東都化成社製)100.0gにプロパルギルアルコール13.5g、アリルアルコール10.5g、ハイドロキノン0.05g、ジメチルベンジルアミン0.3gを攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、3時間反応させ、エポキシ当量1590のプロパルギル基とビニル基とを含有する樹脂を得た。このものに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6g、氷酢酸4.7g、脱イオン水7.0gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させ、残存酸価が5以下であることを確認した後、脱イオン水45.6gを加え、目的の樹脂溶液を得た。このものの固形物濃度は、70.9重量%、スルホニウム価は27.6mmol/100gワニスであった。
【0063】製造例2 スルホニウム基、プロパルギル基及び銅アセチリド基を含有するカチオン電着塗料用樹脂の製造エポキシ当量200.4のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポトートYDCN−701(商品名)、東都化成社製)100.0gにプロパルギルアルコール23.6g、ジメチルベンジルアミン0.3gを攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、3時間反応させ、エポキシ当量が1580のプロパルギル基を含有する樹脂を得た。このものに、銅アセチルアセトナート2.5gを加え、90℃で1.5時間反応させた。プロトン(1H)NMRで付加プロパルギル基末端水素の一部が消失していることを確認した(14mmol/100g樹脂固形分相当量)。このものに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6g、氷酢酸4.7g、脱イオン水7.0gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させ、残存酸価が5以下であることを確認した後、脱イオン水43.8gを加え、目的の樹脂溶液を得た。このものの固形物濃度は、70.0重量%、スルホニウム価は28.0mmol/100gワニスであった。
【0064】製造例3 スルホニウム基、プロパルギル基、長鎖不飽和脂肪酸残基及び銅アセチリド基を含有するカチオン電着塗料用樹脂の製造エポキシ当量200.4のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポトートYDCN−701(商品名)、東都化成社製)100.0gにプロパルギルアルコール13.5g、ジメチルベンジルアミン0.2gを攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、1時間反応させ、エポキシ当量が445のプロパルギル基を含有する樹脂を得た。このものに、リノール酸50.6g、追加のジメチルベンジルアミン0.1gを加え、更に同温度にて3時間反応を継続し、エポキシ当量が2100のプロパルギル基と長鎖不飽和脂肪酸残基を含有する樹脂を得た。このものに、銅アセチルアセトナート3.2gを加え、90℃で1.5時間反応させ、プロパルギル基の一部を銅アセチリド化した樹脂を得た。プロトン(1H)NMRでこのものの付加プロパルギル基末端水素の一部が消失していることを確認した(14mmol/100g樹脂固形分相当量)。このものに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6g、氷酢酸4.7g、脱イオン水7.0gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させ、残存酸価が5以下であることを確認した後、脱イオン水60.8gを加え、目的の樹脂溶液を得た。このものの固形物濃度は、70.6重量%、スルホニウム価は23.1mmol/100gワニスであった。
【0065】実施例1基体樹脂として、製造例1で得られたスルホニウム基、プロパルギル基及びビニル基を含有するカチオン電着塗料用樹脂141.0gを使用し、これにニッケルアセチルアセトナート1.0g、モノエタノールアミン0.5g、脱イオン水157.5gを加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に、脱イオン水373.3gを加え、固形分濃度が15重量%となるように水溶液を調製して電着塗料とした。
【0066】評価(1)乾燥膜厚の計測被塗物として以下の鋼板を陰極にし、得られた電着塗料を浴温度25℃にて、ステンレス容器を陽極として、カチオン電着塗装を行った。電着条件は、250V×3分間であった。被塗物を電着浴から引き上げ、水洗し、160℃×25分間焼き付けて電着塗膜を得た。こうして得られた電着塗膜を電磁膜厚計により膜厚測定した。結果を表1に示した。
鋼板素材1:冷間圧延鋼板(JIS G 3141 SPCC−SD)
素材2:りん酸亜鉛処理した冷間圧延鋼板(JIS G 3141 SPCC−SD、サーフダインSD−5000(商品名、日本ペイント社製)処理)
素材3:溶融合金亜鉛メッキ鋼板(シルバーアロイ(商品名)、新日本製鉄社製)
素材4:りん酸亜鉛処理した溶融合金亜鉛メッキ鋼板(シルバーアロイ(商品名)、新日本製鉄社製をサーフダインSD−5000(商品名、日本ペイント社製)処理)
【0067】(2)電着塗膜中のスルホニウム基残存率の測定塗料中のスルホニウム官能基濃度を電位差滴定器で、0.1NのHCl水溶液を用いて計測することにより、得られた電着塗料樹脂固形分100gあたりのスルホニウム基含量aを求めた。次いで、上述の電着条件で電着塗装された塗膜を焼き付け乾燥させることなくテトラヒドロフランで溶出させ、溶液中のスルホニウム官能基濃度を同様の方法で計測することにより、得られた電着塗料を使用した電着塗膜の樹脂固形分100gあたりのスルホニウム基含量bを求めた。電着塗膜中のスルホニウム基残存率(%)を、(b/a)×100(%)
として算出した。結果を表1に示した。
【0068】実施例2基体樹脂として製造例2で得られたスルホニウム基、プロパルギル基及び銅アセチリド基を含有するカチオン電着塗料用樹脂142.9gを使用し、これにモノエタノールアミン0.5g、脱イオン水156.6gを加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に、脱イオン水373.3gを加え、固形分濃度が15重量%となるように水溶液を調製して電着塗料とした。得られた電着塗料を使用して、実施例1と同様にして電着塗装を行い、評価した。結果を表1に示した。
【0069】実施例3基体樹脂として、製造例3で得られたスルホニウム基、プロパルギル基、長鎖不飽和脂肪酸残基及び銅アセチリド基を含有するカチオン電着塗料用樹脂141.6gを使用し、これにモノエタノールアミン0.5g、脱イオン水157.9gを加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に、脱イオン水373.3gを加え、固形分濃度が15重量%となるように水溶液を調製して電着塗料とした。得られた電着塗料を使用して、実施例1と同様にして電着塗装を行い、評価した。結果を表1に示した。
【0070】比較例1基体樹脂として、製造例1で得られたスルホニウム基、プロパルギル基及びビニル基を含有するカチオン電着塗料用樹脂141.0gを使用し、これにニッケルアセチルアセトナート1.0g、脱イオン水158.0gを加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に、脱イオン水373.3gを加え、固形分濃度が15重量%となるように水溶液を調製して電着塗料とした。得られた電着塗料を使用して、実施例1と同様にして電着塗装を行い、評価した。結果を表1に示した。
【0071】比較例2基体樹脂として、製造例2で得られたスルホニウム基、プロパルギル基及び銅アセチリド基を含有するカチオン電着塗料用樹脂142.9gを使用し、これに脱イオン水157.1gを加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に、脱イオン水373.3gを加え、固形分濃度が15重量%となるように水溶液を調製して電着塗料とした。得られた電着塗料を使用して、実施例1と同様にして電着塗装を行い、評価した。結果を表1に示した。
【0072】比較例3基体樹脂として、製造例3で得られたスルホニウム基、プロパルギル基、長鎖不飽和脂肪酸残基及び銅アセチリド基を含有するカチオン電着塗料用樹脂141.6gを使用し、これに脱イオン水158.4gを加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に、脱イオン水373.3gを加え、固形分濃度が15重量%となるように水溶液を調製して電着塗料とした。得られた電着塗料を使用して、実施例1と同様にして電着塗装を行い、評価した。結果を表1に示した。
【0073】
【表1】


【0074】
【発明の効果】本発明のカチオン電着塗装方法は、上述の構成よりなるので、被塗物の素材が異なっても電着塗装で得られる塗膜の膜厚の差が、素材間で小さい。従って、被塗物素材の表面処理の状態による影響を抑えて均一な電着塗膜を形成することがてきる。また、異なる素材を同一ラインで電着塗装して同一品質の塗膜を形成することが可能となり、工業上極めて有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 スルホニウム基を水和基として含有するカチオン電着塗料組成物を使用するカチオン電着塗装方法であって、前記カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られる塗膜中に、電着される前記カチオン電着塗料組成物中に含有されるスルホニウム基の40%未満が残存するするように、前記カチオン電着塗料組成物を電着塗装することを特徴とするカチオン電着塗装方法。
【請求項2】 カチオン電着塗料組成物は、樹脂固形分100gあたりスルホニウム基10〜300mmol及び炭素−炭素不飽和結合50〜2000mmolを含有する基体樹脂に、アミン化合物を、前記基体樹脂固形分100gあたり1〜50mmolであって、かつ、前記基体樹脂に含有されるスルホニウム基の含有量の5mol%以上配合してなるものである請求項1記載のカチオン電着塗装方法。
【請求項3】 炭素−炭素不飽和結合の少なくとも15%は、プロパルギル基の炭素−炭素三重結合である請求項2記載のカチオン電着塗装方法。
【請求項4】 基体樹脂は、エポキシ樹脂を骨格とする樹脂である請求項3記載のカチオン電着塗装方法。
【請求項5】 エポキシ樹脂は、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂及びノボラックフェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択された少なくとも1種である請求項4記載のカチオン電着塗装方法。

【公開番号】特開2000−38697(P2000−38697A)
【公開日】平成12年2月8日(2000.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−206520
【出願日】平成10年7月22日(1998.7.22)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】