説明

カチオン非依存性マンノース6−リン酸受容体を標的とする化合物

本発明は、対象生成物及びカチオン非依存性マンノース6−リン酸受容体を高い親和性で標的とする化合物の複合体に関する。本発明はまた、それらの適用、例えば酵素補充療法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、カチオン非依存性マンノース6−リン酸受容体を標的とする化合物に関する。
【0002】
発明の背景
300kDaの膜貫通糖タンパク質であるカチオン非依存性マンノース6−リン酸受容体(CI−M6PR)は、多くの生物学的過程において非常に重要な役割を果たす。CI−M6PRの主要な役割は、構造中にマンノース6−リン酸(M6P)認識標識を含むリソソーム酵素を、トランスゴルジネットワークからリソソームまで輸送すること及び選別することである。CI−M6PRはまた、細胞外M6P含有リガンドのエンドサイトーシスを媒介する。M6P含有タンパク質(リソソーム酵素と異なり、CI−M6PR輸送で内在化される)は、細胞毒性T細胞によって誘発されたアポトーシスに関係しているプロテアーゼであるグランザイムB;単純ヘルペスウイルス(HSV);ならびにニューロン、血小板及び骨形成において重要な役割を果たす多機能性タンパク質である白血病抑制因子(LIF)をも含む。レニンもまたCI−M6PRによって内在化され、そのクリアランスを可能にする。CI−M6PRはまた、トランスフォーミング成長因子β(L−TGFβ)の不顕性前駆体、細胞成長を調整するホルモンのプレフォームのような細胞に深く入りこまない分子にも作用し、L−TGFβ活性化、セリンプロテアーゼによるプラスミノーゲン/プラスミン転換、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)に関与する他の過程に作用する。プロuPAは、タンパク分解的に切断され、その結果CI−M6PRに対する親和性を示す特定のuPA受容体(uPAR)に細胞表面で結合したときに活性化される。更に、CI−M6PRが、マイトジェンインスリン様成長因子II(IGF2)の局所レベルを調整するにつれて腫瘍サプレッサーとして作用しうること、及びCI−M6PR機能の喪失は肝癌の大部分の進行と関係していることを、研究は示唆している。CI−M6PRは、IGF2をリソソームコンパートメントで分解するためにそれと結合して取り込むため、この受容体はまた、M6P/IGF2受容体とも呼ばれている。この受容体の他のリガンドはレチノイン酸であり、これはアポトーシス及び成長抑制に関与している。これら3種のリガンド(M6P、IGF2、レチノイン酸)は、CI−M6PRに位置する異なる細胞外結合部位によって認識され、これらは15の繰り返し領域を含む。M6Pのマンノピラノシド環上のホスファート部分及びヒドロキシル基は、CI−M6PRの領域3及び9にある2個の結合部位との水素結合ネットワークに寄与する。2個のM6P残基を認識するこの能力は、CI−M6PRがリソソーム酵素と高い親和性(Kd=2nM)で結合することを可能にする。
【0003】
M6PとCI−M6PR間のこの強い親和性の使用は、特にリソソーム酵素欠乏症の、酵素補充療法を開発するために提案されてきた。
【0004】
しかしながら、必要な酵素の供給は制限され、そして、治療投与のための充分な量の酵素の大規模製造は困難である。加えて、組換え発現系から精製されるリソソーム酵素はしばしばかなりリン酸化されず、そしてM6Pリン酸化の程度は異なる酵素によって相当に変化する。M6Pリン酸化が不足しているリソソーム酵素は、標的細胞により受容体が媒介するエンドサイトーシスの取り込みを十分に競争せず、したがって酵素補充療法における有効性は限られている。
【0005】
Zhu(米国特許第7,001,994号)は、それらの生物活性を保持しながら、M6Pを含有する高度にリン酸化されたマンノピラノシルオリゴ糖を、リソソーム酵素のグリコシド部分に発生するカルボニル基に導入する方法を提案している。M6Pを含有するこれらのマンノピラノシルオリゴ糖は、典型的にはホスホペンタマンノースであり、そして化学的に処理されて、糖骨格のヒドロキシル基の代わりにカルボニル反応性基を含む。次に、このカルボニル反応性基は、酸化した糖タンパク質と反応して、M6P−糖タンパク質を形成する。米国特許第7,001,994号の実験の項に示されているように、これらの化合物は、良好な酵素活性を保存する一方、CI−M6PRに対する親和性は低い。Zhuによれば、この低い親和性は、近接のアルデヒド基の立体障害に起因する。
【0006】
したがって、これらの化合物は、満足な酵素補充療法に適しておらず、そして、CI−M6PRに高親和性を有し(その結果、化合物のリソソームへの特定のアドレシングを可能にする)、かつ良好な生物活性を保全している新しい化合物の必要がある。
【0007】
発明の概要
本発明は、高い親和性を有する、対象生成物及びカチオン非依存性マンノース6−リン酸受容体を標的としている化合物の接合体に関する。これらの対象生成物、例えば糖タンパク質及びナノ粒子はしたがって、特にリソソームを対象にする。本発明による接合体は、したがって、診断及び治療の分野の、及び特にヒト又は動物の体のリソソーム貯蔵障害を処置するための酵素補充療法の多数の適用を有する。
【0008】
発明の詳細な説明
本発明は、接合体に関し、該接合体は、リンカーLを介して式(1):
【化1】


[式中、
− 破線は、存在するか又は存在しない結合を表し、
− Xは、ホスファート基の類似体を表し、
− Rは、H及びOHからなる群より選択され、
− Aは、O、S及びCHからなる群より選択される]を有する化合物と接合している、糖タンパク質、ナノ粒子及び医用画像のための標識からなる群より選択される、対象Yの生成物であり、
そしてここで、
− 該式(1)を有する化合物は、A部分を介してリンカーと結合しており、
− 該リンカーLは、4〜15個の連続した原子鎖によりA及びYを分離しており、
− 該破線により表される結合が存在しない場合、Xは、下記:
式(X):
【化2】


を有する飽和ホスホナート基、
式(X):
【化3】


を有するビス−フルオロホスホナート基、
式(X):
【化4】


を有するフルオロホスホナート基、
式(X):
【化5】


を有する飽和カルボキシラート基、及び
式(X):
【化6】


を有するマロナート基からなる群より選択され、
− 該破線により表される結合が存在する場合、Xは、下記:
式(X):
【化7】


を有する不飽和ホスホナート基、及び
式(X):
【化8】


を有する不飽和カルボキシラート基からなる群より選択される、接合体である。
【0009】
本明細書で使用する「接合体」は、互いに共有結合的に結合した、2個の生成物/化合物を指す。
【0010】
本明細書で使用する「接合する」は、2種の生成物/化合物が互いに結合することを意味する。
【0011】
本明細書で使用する「M6P」は、マンノース6−リン酸を意味する。
【0012】
本明細書で使用する「CI−M6PR」は、カチオン非依存性マンノース6−リン酸受容体を意味する。
【0013】
本発明によれば、「連続した原子」の数は、リンカーの第一の原子からリンカーの最後の原子まで連続した原子のより短い鎖に従って算出されなければならない。実際に、リンカーが環式又はヘテロ環式系を含むとき、原子の数は、A及びYの間の、より短い鎖に従い算出されなければならない。
【0014】
本発明による数え方の例は、以下の式:
【化9】


で与えられる。この式に示されるように、このリンカーはA及びYを6個の連続した原子で分離する。
【0015】
特定の末端M6P類似体を含む本発明による接合体は、現在まで決して得られていない、高い親和性でCI−M6PRを特に標的とする。
【0016】
加えて、それらの研究を通じて、本発明者らはまた、M6P類似体とリソソームに向けられるべき対象生成物の間に特定の長さを有するリンカーを導入することによって、CI−M6PRに対する末端M6P類似体を含有する生成物の親和性を増加させることができることを示した。理論に束縛されることなく、例えば、US7,001,994に開示されている生成物のような、現在知られているM6P含有生成物は、CI−M6PRに対する親和性は悪く、そしてしたがって、CI−M6PRのM6P結合部位に近接した生成物自体により誘発される立体障害のため、アドレシング特性に劣る。本発明によるリンカーのため、CI−M6PRのM6P結合部位周辺の立体障害は減少するか又は抹消され(本発明の図1を参照されたい)、したがって、従来技術における公知の生成物と比較して、本発明による接合体のCI−M6PRに対する親和性の劇的な増加を説明する。
【0017】
よって、本発明の接合体は、リソソーム疾患の酵素補充療法に対する非常に有望な候補となる。
【0018】
上記したように、本発明による接合体は、CI−M6PRに対する高い親和性(IC50)を有する。特に、本発明による接合体は、Jeanjean A. et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry, 14(2006) 3575-3582に記載されている受容体結合アッセイによって測定されたものとして、100μMの最低限のIC50、すなわち多くても100μMのIC50を有する。
【0019】
本発明によれば、本発明による化合物に結合されるM6P類似体部分と生成物の間の充分な間隔を保障する任意のタイプのリンカーLが適切である。本発明者らは、リンカーが4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個の連続した原子によって、A及びYを分離するときに、M6P類似体部分と生成物間の「充分な間隔」が得られることを明らかにした。リンカーのこの長さが、CI−M6PRの結合ポケットへのM6P類似体の最適な浸透を可能にすることが明らかとなり、それによって、本発明による化合物のCI−M6PRとの最大の親和性を確実にした。
【0020】
本発明によれば、リンカーの選択は、式(1)の化合物と接合される、対象生成物の性質に依存するであろう。実際、当業者は、リンカーの長さは結合される生成物と関連する立体障害によって増加することを容易に理解する。例えば、生成物がCI−M6PRのM6P結合部位の近傍で重大な立体障害を生じないタンパク質である場合、4個の連続した原子のリンカーはCI−M6PRとタンパク質に申し分のない親和性を確実にするのに十分である。対照的に、生成物がCI−M6PRのM6P結合部位の近傍で重大な立体障害を生じさせる、タンパク質、ナノ粒子又は任意の対象の生成物である場合、4個超の連続的な原子のリンカーが、CI−M6PRと生成物の申し分のない親和性を確実にするのに必要である。
【0021】
典型的には、本発明による化合物において、前記リンカーLの前記原子鎖は、置換又は非置換の、直鎖状又は分枝鎖状のアルキル又はアルケニル鎖、特に置換されているか非置換の、直鎖状又は分枝鎖状のC−C30アルキル又はアルケニル鎖であり、ここで前記鎖の1個以上の炭素原子は、場合により、エーテル(−O−)、アミン(−NH)、チオエーテル(−S−)、アミド(−CO−NH−)、ウレア(−NH−CO−NH−)、カルバマート(−NH−CO−O−)及び環式又はヘテロ環式系からなる群より選択される化学基により置き換えられており、前記環式又はヘテロ環式系は飽和又は不飽和であり、そして置換又は非置換であり、ただし前記鎖は、少なくとも4個の連続的な原子によってA及びY部分を分離している。
【0022】
典型的には、本発明による前記C−C30アルキル又はアルケニル鎖は、C−C25アルキル又はアルケニル鎖、特にC−C20アルキル又はアルケニル鎖、更に特にはC−C15アルキル又はアルケニル鎖である。前記C−C15アルキル又はアルケニル鎖は、典型的には、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C10、C11、C12、C13、C14又はC15アルキル又はアルケニル鎖である。
【0023】
特定の実施態様において、前記環式又はヘテロ環式系は、アゼチジン、オキセタン、チエタン、ピロール、ピラノース、フラノース、フラン、ピロリン、テトラヒドロフラン、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピラゾリン、イミダゾリン、ピラゾリジン、イミダゾリジン、ジオキソラン、チアゾール、イソチアゾール、チアゾリジン、イソオキサゾリジン、トリアゾール、オキサジアゾール、フラザン、チアジアゾール、テトラゾール、ピリジン、ナフチリジン、ピラン、ジヒドロピラン、ピペリジン、ピリダジン、ピリミジン、プリン、ピラジン、プテリジン、オキサジン、ジオキシン、ピペラジン、モルホリン、ジオキサン、チアジン、チオモルホリン、オキサチアン、ジチアン、トリアジン、トリオキサン、チアジアジン、ジチアジン、トリチアン、シクロブタン、シクロブテン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘプタン、シクロヘプテン及びベンゼンならびにその誘導体を含む群より選択される。
【0024】
前述のように、前記アルキル又はアルケニル鎖及び前記環式又はヘテロ環式系は、例えばC−C10アルキル(すなわち、C、C、C、C、C、C、C、C、C又はC10アルキル)により、例えばメチル、エチル、プロピル又はイソプロピルにより、又は例えばアルコール、アミン、アミド、ケトン、エステル、エーテル又は酸官能基などのような官能基により、置換されていてもよい。
【0025】
本発明による、置換されている環式系の特定の例は、シクロブタ−3−エン−1,2−ジオンである。
【0026】
ベンゼンの誘導体の例は、インデン、インダン、インドリジン、インドール、ベンゾフラン、インドリン、ベンゾチオフェン、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ナフタレン、テトラリン、キノリン、クロメン、クロマン、シンノリン、キナゾリン、キノキサリン及びフタラジンである。
【0027】
特定の実施態様において、本発明によるリンカーLは、下記:
【化10】


[式中、
「−−−−−Y」は、
(a)−Y、又は
(b)−T−Y(ここでTは、リンカーの部分であり、下記:
【化11】


からなる群より選択される化学部分を表す)のいずれかを表し、そして
「A−」は、式(1)で定義されたとおりの、本発明による化合物の残りを表す]からなる群より選択される化学構造を有する。
【0028】
本発明の接合体において、Yは、式(1)を有する化合物の少なくとも1個と接合する。特定の実施態様において、本発明による接合体において、Yは、式(1)を有する化合物の1個以上と接合する。典型的には、前記対象Yの生成物は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、100、1000又はそれ以上の本発明による式(1)を有する化合物と、本発明によるリンカーLを介して接合する。この数は、接合する生成物Yの特性に依存するであろう。例えば、この生成物Yがナノ粒子である場合、前記ナノ粒子は、式(1)を有する1000超の化合物と、特に式(1)を有する200,000〜400,000の化合物と、本発明によるリンカーLを介して接合しうる。
【0029】
本発明によれば、Yが1個超の式(1)の化合物と接合するとき、各々の化合物は、同一であるか又は異なることができるリンカーLを介してYに結合する(換言すれば、例えばYが式(1)を有する5個の化合物と接合する場合、各々の式(1)を有する化合物は、リンカーLを介してYに接合され、各々のリンカーLは、同一であるか又は異なることができる)。
【0030】
加えて、CI−M6PRはM6Pに対する2個の結合部位を含むので、前記CI−M6PRの両方の結合部位が同じ接合体の2個のM6P類似体によって占められる場合、本発明による接合体のCI−M6PRに対する親和性は、50〜100倍のオーダーでより良好である。同様に、2個のCI−M6PRが二量体形であるとき、前記CI−M6PRダイマーの4個の結合部位の少なくとも2個の結合部位が接合体のM6P類似体によって占められる場合、本発明による接合体のCI−M6PRダイマーに対する親和性はより良好である。
【0031】
したがって、一つの実施態様において、本発明による接合体は、少なくとも2個の式(1)を有する化合物とリンカーLを介して接合される対象Yの生成物であり、ここで、前記少なくとも2個の化合物の2個のM6P類似体は、同じCI−M6PRの2個のM6P結合部位によって、又はCI−M6PRダイマーの2個のM6P結合部位によって認識可能である。
【0032】
更に他の実施態様において、本発明による接合体は、式(1)を有する少なくとも4個の化合物とリンカーLを介して接合される対象Yの生成物であり、ここで、前記少なくとも4個の化合物の4個のM6P類似体は、CI−M6PRダイマーの4個のM6P結合部位によって認識可能である。
【0033】
当業者は、Yと接合してCI−M6PRに対する高い親和性を有する化合物を得るために必要である、式(1)を有する化合物の数を算出することが可能である。当業者には容易に理解できるように、同じCI−M6PRの2個の結合部位又はCI−M6PRダイマーの2個の結合部位により、それらの認識を可能にする方法で空間的に配置される、2個のM6P類似体を有する確率は、化合物Yに結合する、式(1)を有する化合物の数に伴い増加する。Yと接合する式(1)を有する化合物の数が大きくなるにつれ、CI−M6PRに対する高い親和性を有する接合体を有する確率は高くなる。選択されたYの構造に従い、当業者は、CI−M6PRに対する高い親和性に到達し、式(1)の化合物の間の近接近による立体障害を回避するための、式(1)の化合物の最適濃度を算出することが可能である。
【0034】
それ故、本発明による接合体の親和性は概して、Yと接合する式(1)を有する化合物の数によって増加する。したがって、接合体の少なくとも2個の化合物の2個のM6P類似体が、同じCI−M6PRの2個のM6P結合部位で認識可能であるとき、又は接合体の少なくとも2個の化合物の2個のM6P類似体が、CI−M6PRダイマーの2個のM6P結合部位で認識可能であるとき、又は接合体の少なくとも4個の化合物の4個のM6P類似体が、CI−M6PRダイマーの4個のM6P結合部位で認識可能であるとき、本発明による接合体は、多くても100nMの、特に多くても50nMの、より特には多くても25nMの、最も特には多くても2nMのIC50を有する。
【0035】
もう一つの実施態様では、前記本発明の接合体において、前記式(1)の化合物は、式(1):[式中、
− 破線で表される結合は、存在せず、そして
− Xは、式:
【化12】


を有する飽和ホスホナート基であり、そして
− Aは、先に定義されたとおりである]を有する。
【0036】
特定の実施態様において、本発明は、接合体に関し、ここで該接合体は、
− リンカーLを介して、式(1):
【化13】


[式中、
− 破線は、存在するか又は存在しない結合を表し、
− 前記結合が存在しないとき、Xは、X、X、X、X及びXからなる群より選択され、
− 前記結合が存在するとき、Xは、X及びXからなる群より選択され、
− Rは、H及びOHからなる群より選択され、
− Aは、Oである]を有する化合物と接合している、糖タンパク質、ナノ粒子及び医用画像のための標識からなる群より選択される対象Yの生成物であり、
そしてここで、
− 該式(1)を有する化合物は、A部分を介してリンカーと結合しており、そして
− 該リンカーLは、4〜15個の連続した原子鎖によりA及びYを分離し、前記リンカーLは、L、L、L、L、L及びLからなる群より選択される式を有するか又は含む、生成物である。
【0037】
本発明の特定の実施態様において、本発明の接合体は、下記:
【化14】




[式中、「−−−−−Y」は、
(a)−Y、又は
(b)−T−Y(ここでTは、リンカーの部分であり、下記:
【化15】


からなる群より選択される化学部分を表す)のいずれかを表す]からなる群より選択される。
【0038】
本発明による対象生成物は、糖タンパク質、ナノ粒子及び医用画像のための標識(例えば放射性同位元素、蛍光標識など)からなる群より選択される。
【0039】
ナノ粒子は、異なる種類でありえる:ナノ粒子の例は、デンドリマーナノ粒子、ミセルナノ粒子、リポソームナノ粒子、メソポーラスシリカナノ粒子及び磁気ナノ粒子である。これらのナノ粒子は、例えばLiong M. et al., ACS Nano. 2: 889-96, 2008に記載されているように、例えばドラッグデリバリー(治療的又は細胞毒性薬)、癌治療、磁気共鳴、蛍光イメージング、磁気操作又は細胞ターゲティングのための、さまざまな適用を有する。
【0040】
一つの実施態様において、前記対象Yの生成物は、糖タンパク質である。
【0041】
したがって、一つの実施態様において、本発明は接合体に関し、前記接合体は、本発明によるリンカーLを介して、本発明による式(1)を有する化合物と接合している糖タンパク質である。
【0042】
典型的には、糖タンパク質は、リンカーLを介して本発明による式(1)を有する化合物に接合し、該リンカーは、前記糖タンパク質のオリゴサッカライド鎖を式(1)を有する化合物に結合している。換言すれば、M6Pの類似体は、リンカーLを介して糖タンパク質のオリゴサッカライド鎖と接合する。
【0043】
したがって、特定の実施態様において、本発明は接合体に関し、ここで、前記接合体は、少なくとも2個の本発明による式(1)を有する化合物と、本発明によるリンカーLを介して接合する糖タンパク質であり、前記化合物は、前記糖タンパク質の同じオリゴサッカライド鎖又は2個の異なるオリゴサッカライド鎖と結合しており、そして前記少なくとも2個の化合物の2個のM6P類似体は、同じCI−M6PRの2個のM6P結合部位によって、又はCI−M6PRダイマーの2個のM6P結合部位によって認識可能である。
【0044】
更に他の実施態様において、本発明は接合体に関し、ここで、前記接合体は、少なくとも4個の本発明による式(1)を有する化合物と、本発明によるリンカーLを介して接合する糖タンパク質であり、前記化合物は、前記糖タンパク質の同じオリゴサッカライド鎖又は2個の異なるオリゴサッカライド鎖と結合しており、そして前記少なくとも2個の化合物の4個のM6P類似体は、CI−M6PRダイマーの4個のM6P結合部位で認識可能である。
【0045】
本発明によれば、前記糖タンパク質が1個超の式(1)の化合物と接合するとき、各々の化合物は同一であるか又は異なることができるリンカーLを介して、前記糖タンパク質に結合する。
【0046】
典型的には、Yが糖タンパク質である本発明による接合体は、Jeanjean et al Bioorg Med Chem (2006) 14:3575-82に記載されている方法で測定される、最大で100nMのCI−M6PRに対する結合親和性(IC50)を有する。特に、本発明による前記接合体は、最大で50nMのCI−M6PRに対する結合親和性(IC50)を有する。より具体的には、本発明による前記接合体は、多くても25nMのCI−M6PRに対する結合親和性(IC50)を有する。最も特には、本発明による前記接合体は、多くても2nMのCI−M6PRに対する結合親和性(IC50)を有する。
【0047】
一つの実施態様において、前記糖タンパク質は、リソソーム酵素である。
【0048】
特定の実施態様において、前記リソソーム酵素は、酸性β−ガラクトシダーゼ−1、酸性スフィンゴミエリナーゼ、α−D−マンノシダーゼ、α−フコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、α−グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ、α−グルコシダーゼ、α−L−イズロニダーゼ、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−n−アセチルグルコサミニダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、アリールスルファターゼA、アリールスルファターゼB、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、β−マンノシダーゼ、カテプシンD、カテプシンK、セラミダーゼ、シスチノシン、ガラクトセレブロシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、GM2 ガングリオシドアクチベーター、ヘパランスルファターゼ、ヘキソサミニダーゼA及びヘキソサミニダーゼB、ヒアルロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、LAMP2、リンクリン(Linclin)、リソソーム酸性リパーゼ、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、N−アセチルガラクトサミン6−スルファターゼ、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−硫酸スルファターゼ、N−アスパルチル−β−グルコサミニダーゼ、パルミトイル−プロテインチオエステラーゼ−1、保護タンパク質/カテプシンA(PPCA)、シアリン、TPP1酵素からなる群より選択される。
【0049】
典型的には、本発明による化合物に結合する糖タンパク質は、組み替え発現システムを用いた遺伝子工学によって製造される。典型的には、前記糖タンパク質は、適切に翻訳後修飾(折りたたみ、ジスルフィド結合形成、オリゴマー形成、グリコシル化、アシル化、タンパク質分解切断)され、生物学的に活性かつ機能的な組み換え型タンパク質の、高水準(最高1000mg/L)での生産を可能にする、発現系を用いて製造される。本発明による典型的な発現システムは、バキュロウイルス発現ベクターシステムである。バキュロウイルス発現ベクターシステムは、標的遺伝子を含む導入ベクターでの相同組み換えを介しての、ウイルス複製に非本質的なゲノム領域への外部遺伝子の導入に基づく。得られる組み換えバキュロウイルスは、異種タンパク質をコード化している外部遺伝子と置き換えられる非本質的な遺伝子(例えばpolh、v-cath、chiAなど)の1つを欠いている。前記タンパク質、典型的には糖タンパク質は、培養昆虫細胞及び昆虫の幼虫において発現することができる。典型的には、糖タンパク質の発現は昆虫細胞において実施され、それはタンパク質の満足なグリコシル化に至る。より具体的には、発現は細胞株Sf9(Spodoptera frugiperda)の細胞において実施され、それはタンパク質の満足なグリコシル化を可能にし、前記グリコシル化は、ヒトの免疫原であるα−1,3−フコース残基を含まない。
【0050】
本発明の他の目的は、ヒト又は動物の体に行われる診断法に使用するための、本発明による接合体に関する。実際、本発明による接合体はCI−M6PRに対する高い親和性を有するので、それらはCI−M6PR発現の増加又は減少と関連した疾患又は病状の診断に役立つことができる。
【0051】
本発明の別の目的は、ヒト又は動物の体の処置の方法に使用するための、本発明による接合体に関する。実際、本発明による接合体は、医学の分野において多数の適用を有する。
【0052】
例えば、一部の前立腺癌において、CI−M6PRが過剰発現し、そして抗CI−M6PR自己抗体が血液循環に放出されることが示された(Huang YY, et al. Clinical Immunology 2004;111 (2):202-9):例えば蛍光標識又は放射性標識を含む本発明による接合体を用いることにより、CI−M6PRが過剰発現している体の領域を識別して、その結果非常に正確に、処置を必要とする領域においてだけ患者を照射することができる。
【0053】
本発明による接合体で処置することができる疾患の他の例は、リソソーム中の生成物Yの欠乏によって生じる疾患である。この欠乏症は本発明による接合体の投与によって補うことができ、それは特に不十分な生成物Yをリソソームに供給することができる。
【0054】
本発明はまた特に、ヒト又は動物の体のリソソーム貯蔵障害の処置のための方法に用いるための、本発明による接合体にも関する。実際、Yがリソソーム酵素であるとき、本発明による接合体は、前記リソソーム酵素Yが失われているか欠乏しているリソソーム貯蔵障害の処置のための方法に用いることができる。
【0055】
本発明はまた、リソソーム貯蔵障害を患っている患者を処置する方法に関し、前記方法は、Yが前記リソソーム貯蔵障害において失われているか欠乏しているリソソーム酵素である、治療有効量の本発明による接合体を前記患者に投与する工程を含む。
【0056】
本明細書において、「失われている」とは、前記リソソーム疾患を患っている患者によって、前記リソソーム酵素が生産されないことを意味する。
【0057】
本明細書において、「欠乏している」とは、前記リソソーム疾患を患っている前記患者によって、前記リソソーム酵素が充分でない量か又は不活性型で生産されることを意味する。
【0058】
治療されるリソソーム貯蔵障害ごとに、当業者は前記疾患の処置のために投与される適切なリソソーム酵素を選択することが可能である。実際、リソソーム貯蔵障害の分子基盤は周知であり、例えばWinchester Bらにより、Biochem Soc Trans. 2000 Feb;28(2):150-4に開示されている。
【0059】
本発明により処置されるリソソーム貯蔵障害の例は、非限定的に、アクチベータ欠乏症/GM2 ガングリオシドーシス、α−マンノシドーシス、アスパルチルグルコサミン尿症、コレステリルエステル貯蔵障害、慢性ヘキソサミニダーゼA欠乏症、シスチン貯蔵障害、ダノン病、ファブリ病、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、ゴーシェ病(I型、II型及びIII型)、GM1 ガングリオシドーシス(小児性、遅発型小児性/若年性、成人型/慢性)、I−細胞病/ムコリピドーシスII、小児性遊離シアル酸貯蔵障害/ISSD、若年性ヘキソサミニダーゼA欠乏症、クラッベ病(小児期発症、遅発性発症)、異染性白質ジストロフィー、ムコ多糖症障害(擬ハーラー多発性ジストロフィー/ムコリピドーシスIIIA、MPS Iハーラー症候群、MPS Iシャイエ症候群、MPS Iハーラー−シャイエ症候群、MPS IIハンター症候群、サンフィリポ症候群A型/MPS IIIA、サンフィリポ症候群B型/MPS IIIB、サンフィリポ症候群C型/MPS IIIC、サンフィリポ症候群D型/MPS IIID、モルキオA型/MPS IVA、モルキオB型/MPS IVB、MPS IXヒアルロニダーゼ欠乏症、MPS VIマロトー−ラミー、MPS VIIスライ症候群、ムコリピドーシスI/シアリドーシス、ムコリピドーシスIIIC、ムコリピドーシスIV型)、多種スルファターゼ欠損症、ニーマン−ピック病(A、B、C型)、神経セロイドリポフスチノーシス(CLN6病−非定型遅発型小児性、遅発性発症異形、早期若年性−、バッテン−シュピーレマイヤー−フォクト/若年性NCL/CLN3病、フィンランド型遅発型小児性CLN5、ヤンスキー−ビールショースキー病/遅発型若年性CLN2/TPP1病、クッフス/成人発症NCL/CLN4病、ノーザンエピレプシー/遅発型小児性型CLN8、サンタヴォリ−ハルティア/小児性CLN1/PPT病、β−マンノシドーシス)、ポンペ病/グリコーゲン貯蔵症II型、濃縮性骨異形成症(Pycnodysostosis)、サンドホフ病/成人発症/GM2 ガングリオシドーシス、サンドホフ病/GM2 ガングリオシドーシス−小児性、サンドホフ病/GM2 ガングリオシドーシス−若年性、シンドラー病、サラ病/シアル酸貯蔵障害、テイ−サックス/GM2 ガングリオシドーシス及びウォルマン病である。
【0060】
本発明の文脈において、本明細書で用いられる用語「処置すること」又は「処置」は、そのような用語があてはまる障害又は状態の進行を逆転させ、軽減させ、抑制するか、又は予防することを意味する。
【0061】
本明細書で用いられる、「対象」又は「患者」は、本明細書において参照された生成物の投与から利益を得ることができる、ヒト又は動物を表す。
【0062】
上記したとおりの生成物の「治療上有効量」は、任意の医療に適用できる妥当な便益/危険率で、疾患を処置するために十分な量を意味する。
【0063】
本発明の他の態様は、式(I):
【化16】


[式中、
− 破線は、存在するか又は存在しない結合を表し、
− Xは、ホスファート基の類似体を表し、
− Rは、H及びOHからなる群より選択され、
− Aは、O、S及びCHからなる群より選択され、
− Lは、対象Yの生成物と反応することができ、接合体を形成する末端の化学反応性基Zを含むリンカーを表し、ここで、A及びY部分は、4〜15個の連続した原子により分離されており、
そしてここで、
− 前記破線により表される結合が存在しない場合、Xは、下記:
式(X):
【化17】


を有する飽和ホスホナート基、
式(X):
【化18】


を有するビス−フルオロホスホナート基、
式(X):
【化19】


を有するフルオロホスホナート基、
式(X):
【化20】


を有する飽和カルボキシラート基、及び
式(X):
【化21】


を有するマロナート基からなる群より選択され、
− 前記破線により表される結合が存在する場合、Xは、下記:
式(X):
【化22】


を有する不飽和ホスホナート基、及び
式(X):
【化23】


を有する不飽和カルボキシラート酸基からなる群より選択される]を有する化合物に関する。
【0064】
式(1)として先に開示された全ての特定の実施態様は式(I)に準用され、従って、本明細書において繰り返されない。
【0065】
特に、前記リンカーLは、式(1)にて先に定義されたとおりであり、そして更に末端の化学反応基Zを含む。
【0066】
典型的には、前記化学反応性基Zは、Y上に自然に存在するか又は人為的に導入された少なくとも一つの官能基に、直接又は活性化後に共有結合により結合することができる、任意の官能基からなる群より選択される。本発明の目的に適した反応性官能基の非限定的な例として、特に、カルボン酸及びその塩、スルホン酸及びその塩、酸無水物、酸クロリド、エステル(アルキルエステル、p−ニトロフェニルエステル、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステルなど)、アジド(アシルアジド、アジドニトロフェニルなど)、ヒドラジド、3−アシル−1,3−チアゾリジン−2−チオン、アミン、置換アミン、O−アルキルヒドロキシルアミン、第四級アンモニウム、イソシアナート、イソチオシアナート、ヒドラジン、フタルイミド、マレイミド、ハロアセトアミド、モノクロロトリアジン、ジクロロトリアジン、モノ−又はジハロゲン化ピリジン、モノ−又はジハロゲン化ジアジン、アジリジン、チオール、スルホニルクロリド、ビニルスルホン、ジスルフィド、メタンチオスルホナート、ヒドロキシル、ホスホラミダイト、エポキシ、アルデヒド、カルボナート、グリオキサル、イミダゾリル官能基を挙げることができる。
【0067】
特定の実施態様において、前記化学反応性基Zは、カルボニル反応性基である。より具体的には、前記カルボニル反応性基は、ヒドラジド及びO−アルキルヒドロキシルアミンからなる群より選択される。前記ヒドラジド又はO−アルキルヒドロキシルアミン基とYのカルボニル基との反応は、それぞれアシルヒドラゾン又はオキシム結合を形成する。この種の化学基は、糖タンパク質を結合することに典型的に有用である:糖タンパク質のオリゴサッカライド部分で利用可能なカルボニル基(自然に存在するか又は糖タンパク質のグリコシル鎖のヒドロキシ基の酸化により誘導されるかのいずれか)は、本発明による化合物のカルボニル反応性基と反応する。
【0068】
本発明の特定の実施態様において、本発明による式(I)の化合物は、下記:
【化24】




からなる群より選択される。
【0069】
本発明の他の目的は、本発明による接合体を製造する方法に関し、前記方法は、糖タンパク質、ナノ粒子及び医用画像のための標識からなる群より選択される対象Yの生成物を式(I):
【化25】


[ここで、式(I)を有する前記化合物は先に定義されたとおりである]を有する化合物と反応させる工程を含む。
【0070】
一旦Y及び式(I)を有する化合物が一緒に反応すると、本発明による接合体が形成され、ここで前記接合体は、本発明によるリンカーLを介して式(I)の前記化合物と接合した対象Yの生成物であり、前記リンカーLは、Yと反応した化学反応性基の残りを含む。この化学反応性基Zの残りは、典型的には本発明によるT部分である。
【0071】
特定の実施態様において、本発明による接合体を製造するための前記方法は更に、前記反応させる工程の前に、Yの化学官能基を活性化させる工程を含み、前記活性化の工程は、リンカーLの化学反応性基ZがYの化学反応性基と反応できるようにする。例えば、糖タンパク質の化学官能基の活性化は、グリコシル鎖のヒドロキシ官能基を酸化してカルボニル基を得ること(例えば、糖タンパク質をNaIOで処理することによる)からなってもよい。
【0072】
本発明は更に、本発明による接合体を製造する方法によって得ることができる接合体、及び先に記載されたとおりのそれらの応用に関する。
【0073】
本発明の、及び分子の表現を単純化するための説明の全体にわたって、M6P及びM6P類似体のリン酸基の類似体は、それらの水素添加した形において表される。しかしながら、本発明はこれらの分子の塩にも関する。
【0074】
本発明の更なる態様及び利点は、以下の図及び実施例において開示され、それは例示であり本出願の範囲を制限しないと考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】M6P類似体の分子構造。
【図2】CI−M6PRリガンド結合ポケットにドッキングしたM6Pの潜在的な水素結合。
【図3】ヒト血清中におけるM6P及びホスホナート1の低下の動力学。
【図4】ヒトの正常な細胞株中における、M6P及びホスホナート1の特異的な結合。
【図5】ヒトの正常な線維芽細胞IMR−90細胞株(A)及び2種の乳癌細胞株(B)における、M6P及びホスホナート1の非細胞毒性。
【図6】CI−M6PR結合ポケットにドッキングした、リンカーを伴うか又は伴わないマロナート3の分子モデリング。
【図7】スペーサーアームのグラフト後のカルボキシラート4の結合親和性の向上。
【図8】ホスホナート1にグラフトしたスペーサーアームの例(AMFA−1、AMFA−2)。
【図9】AMFA−1の合成。
【図10】AMFA−2の合成。
【図11】AMFA−3の合成。
【図12】AMFA−5の合成。
【図13】M6P−ヘキサンヒドラジドの合成。
【図14】AMFA−1の薬理特性の解析。(A)IC50;(B)ヒト血清中でのCI−M6PRの結合親和性及び安定性、(C)ヒト線維芽細胞中での毒性。
【図15】M6P及びM6P−ヘキサンヒドラジドと比較した、AMFA−1、AMFA−2、AMFA−3及びAMFA−5の薬理特性の解析:20℃(A)及びヒト血清(B)でのCI−M6PRの結合親和性。
【図16】ヒト組み換え酵素のオリゴマンノシド鎖上にグラフトしたAMFA−1の効果。(A)結合親和性;(B)触媒活性。
【図17】シャイエ及びハーラー線維芽細胞中における、イズロニダーゼ(IDUA)精製(A)、ネオIDUAの免疫組織化学的取り込み検出(B〜E)及び細胞内ネオIDUAのSDSポリアクリルアミドゲル検出(F)。
【図18】異なる投与量のネオIDUAで処置したハーラー線維芽細胞の生存度。
【0076】
実施例
1.1. 極めて強力なM6P類似体の合成及び特性評価
極めて強力なM6P類似体(M6Pa)の合成及び特性評価は、ホスファート基をホスホナート、マロナート又はカルボキシラート基により置き換えることにより実現した[Vidal S et al., Bioorg Med Chem. 10, 4051, 2002;Jeanjean A et al., Bioorg Med Chem. 14, 2575, 2006;Jeanjean A et al., Bioorg Med Chem Lett. 18, 6240, 2008]。
【0077】
1.2. M6P類似体のCI−M6PRへの結合アッセイ
M6Paの結合アッセイは、ビオチン化CI−M6PRを用いて実施した。端的に言うと、ホスホマンナン−セファロースアフィニティカラムで精製したCI−M6PRを、N−ヒドロキシスクシンイミドビオチンによりビオチン化した。ビオチン化CI−M6PR(CI−M6PRb)の、先にマイクロタイタープレートに吸着したペンタマンノース6−リン酸(PMP)への結合は、M6Paの濃度の増加により置き換えた。結合したCI−M6PRbは、次にストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ対及びOPD基質を用いて、光学密度測定により測定した。対照実験において、該方法は、マイクロタイタープレートに吸着されるPMPの最大濃度及び吸着PMPを飽和させることを必要とするCI−M6PRb濃度を決定することによって標準化された[Jeanjean A et al., Bioorg Med Chem 14: 3575-82, 2006]。
【0078】
図1は、M6Pの2種の等電子性類似体であるホスホナート1及びマロナート3が、天然のM6Pのそれより高いCI−M6PRに対する結合親和性を有することを示している。対照的に、ホスホナート2のような非等電子性類似体は、CI−M6PRによっては認識されない。一方、カルボキシラート4は、マロナート3より低い、CI−M6PRに対する結合親和性を示した。これらの結果は、ホスホナート1及びマロナート3がCI−M6PRを発現する標的細胞に対して高いポテンシャルを示すことを明らかにしている。
【0079】
1.3. CI−M6PR結合ポケットにドッキングしたM6P類似体のモデリング
対応する天然のリガンドとのCI−M6PRの複合体の結晶構造は、結晶学データファイル(タンパク質構造データバンク、http://www.rcsb.org/、IDコード1SZ0)から得た。本発明者らは、リガンド設計モジュールソフトウェアを用いて、重M6P構造(ヘテロ原子M6P500)に基づいてM6P類似体を構築した。リガンドのドッキングは、まず初めにM6Pアゴニスト構造上へのM6P類似体構造の重ね合わせで行われた。複合体を平衡化するために、リガンド−受容体複合体は次に、300°Kで2000工程の複合勾配を用いたエネルギー極小化に付され、そして、最大の誘導体が0.07kcal/Åより小さくなるまで、調和ポテンシャルを結合エネルギーに対して用いた。ディスカバーモジュールを使用している分子動的シミュレーションを次に実施した。本発明者らは、25Åのカット−オフ距離を用いて、一定の力場及び複合勾配アルゴリズムを適用した。範囲の制約は、受容体骨格に適用された[Jeanjean A. et al. Curr Med Chem. 14: 2945-53, 2007]。
【0080】
図2は、天然のM6Pが11個の潜在的水素結合及び6つのみの異なる固定位置を示すのに対して、ホスホナート1類似体はリガンド結合領域に主要残基を有する12個の潜在的水素結合を呈し、そして8つの異なる位置でCI−M6PRに固定されることを示している。加えて、ホスファート部分の代わりに2個のカルボキシラート部分によって特徴づけられるマロナート3は、13個の潜在的水素結合を形成して、8つの固定位置を有する(データは示されていない)。
【0081】
対照的に、M6P対照より低い結合親和性を示すカルボキシラート4について、残基Y324及びマンノースの直接的な相互作用は失われていた。先の研究[Hancock, M. K. et al, J Biol Chem, 277, 11255-64, 2002]もまた、単一アミノ酸置換がリガンド安定性に関係していることを示した。
【0082】
1.4. 極めて強力なM6P類似体の生物学的特性
極めて強力な類似体、ホスホナート1の薬理学的性質をM6Pと比較した。
− 第一に、本発明者らは、75%(v/v)のヒト血清中でのホスホナート1の安定性を分析した。結果は、ホスホナート1が血清において天然のM6Pより10倍安定であることを示している(図3)。
− 第二に、CI−M6PRを介してエンドサイトーシスに影響するホスホナート1を、天然のM6Pのそれと比較した。先の結果は、複合カテプシンD/抗カテプシンD抗体が通常のヒト線維芽細胞のCI−M6PRによって特に内在化されたことを示した[Laurent-Matha V et al., J Cell Sci. 111: 2539-49, 1998]。複合体は、ここで免疫蛍光染色によって検出された。
図4Aは、対照細胞の80%がカテプシンD/抗カテプシンD抗体複合体を内在化した一方、10mMのM6P又はホスホナート1とプレインキュベートした細胞はそれぞれわずか30%及び10%を内在化したことを示す。この結果は、ホスホナート1がM6Pのそれより高い結合親和性を有することを示している。図4Bは、細胞の染色強度がM6Pの存在下よりホスホナート1の存在下の方が低いことを示している。これら全ての結果は、ターゲティングCI−M6PRにおけるホスホナート1の高いポテンシャルを示す。
− 第三に、本発明者らは、インビトロでのホスホナート1の細胞毒性を研究した。正常の又は癌細胞株を、ホスホナート1の用量の増加と共に、4日間処理した。棒グラフは、ヒトの正常な線維芽細胞の細胞株(図5A)のみでなく、MCF7又はMDA−MB−231のような乳癌細胞株(図5B)上でも、高い濃度(0.1mM)でさえ、この化合物が全く細胞毒性を誘発しなかったことを示す。
【0083】
1.5. リンカー(ヘキサンヒドラジド)との結合前(図6A)及び結合後(図6B)の、CI−M6PRの結合ポケットにおけるM6Pのマロナート3類似体の分子モデリング
M6P類似体への巨大分子上のグラフトを原因とする、CI−M6PRの結合ポケットの近傍の立体障害を排除するか又は減らすために、分離リンカーの付加が提案された。図6は、ヘキサノイルヒドラジドリンカーが、CI−M6PRのM6Pに対する結合部位及びヒドラジド基に結合しなければならない生成物の間に、充分な間隔を可能にすることを示している。分子モデリングの研究は、6〜7Åのスペーサーが、M6P類似体とグラフトされる巨大分子間のCI−M6PRの結合ポケットにおいて必要であることを示している。スペーサーアームは、Y324、E323、K350、Q356のようなリガンド結合ポケットのいくつかの残基と水素結合を形成することができる窒素又は酸素原子によって、異なる位置で置換することができる。このリンカーは、置換フェニル又はトリアゾールのような脂肪族の鎖又は環でありえる。したがって、この方法によって、M6P類似体のCI−M6PRに対する結合親和性は、リソソーム酵素のような巨大分子のグラフトによっては変化しない。
【0084】
1.6. リンカーの合成及び特性解析
図7は、CI−M6PRに対するカルボキシラート4(A)の結合親和性において、OPhNHのアグリコン位置のグラフト後1.7倍(B)への、及びクロランブシルの付加的なグラフト後2倍(C)への向上を示している。
【0085】
図8は、異なるリンカー、ヘキサンヒドラジド(AMFA−1)、トリアゾール(AMFA−2)及びアミノキシ(AMFA−3)に結合したホスホナート1の構造を記載している。これらの化合物(AMFA、アグリコン上でのM6P官能基化類似体)は、本発明による式(I)を有する化合物の例である。ヘキサンヒドラジドアームに結合するマロナート3(AMFA−5)及びM6Pの構造はまた、図8においても与えられる。
【0086】
1.7 AMFA−1、AMFA−2、AMFA−3、AMFA−5及びM6P−ヘキサンヒドラジドの合成(図9〜13)
1.7.1. AMFA−1の合成(図9)
5−エトキシカルボニルペンチル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシド 1:
CHCl 60mLに溶解したマンノース五酢酸(10.00g、25.64mmol)に、6−ヒドロキシヘキサン酸エチル(8.3mL、51.28mmol)を室温で、そして次にBF.EtOを0℃で加えた。室温で4日間撹拌した後、反応混合物を、NaHCO(2×20mL)で2回、そして次にブライン(20mL)で洗浄した。有機層を乾燥させ(MgSO)、そして減圧下で濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt;6:4)の後、化合物1(7.14g、57%)を得た。
Rf = 0.58 [ヘキサン /AcOEt (6:4)]
SM, ESI+m/z: 513 [M+Na]+, 529 [M+K]+
【0087】
5−メトキシカルボニルペンチル α−D−マンノピラノシド 2:
無水メタノール35mLに溶解した化合物1(3.7g、7.55mmol)に、ナトリウムメトキシド(1.6g、30.20mmol)を加えた。撹拌下30分後、陽イオン交換樹脂(Dowex(登録商標)50WX2、H形、13g)を加えた。1時間後、樹脂を濾過し、そしてメタノールで洗浄した。濾液を減圧下で濃縮して、2(2.1g、100%)を得た。
Rf = 0.35 [AcOEt / MeOH (9:1)]
MS, ESI+m/z: 331 [M+ Na] +, 347 [M+ K]+
【0088】
5−メトキシカルボニルペンチル 2,3,4,6−テトラ−O−トリメチルシリル−α−D−マンノピラノシド 3:
EtN(8.85mL、63.40mmol)、次にトリメチルシリルクロリド(7.1mL、54.48mmol)及び触媒量のDMAPを、THF 30mLに溶解した化合物2(2.10g、6.81mmol)に、0℃で連続して加えた。反応混合物を30時間撹拌し、次に溶媒を蒸発させ、そして粗製物をCHCl150mLに溶解した。有機層をブライン(100mL)で洗浄し、MgSOで乾燥させ、濾過し、そして減圧下で蒸発させて、3(1.62g、40%)を得た。
Rf = 0.7 [EP/Et2O (9:1)]
MS, ESI+m/z: 619 [M+Na] +, 635 [M+K]
【0089】
5−メトキシカルボニルペンチル 2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−α−D−マンノピラノシド 4:
メタノール2mL中の3(2.45g、4.11mmol)に、KCOのメタノール溶液(36mL、0.11mM)を0℃で加えた。0℃で30分間撹拌した後、反応混合物をCHCl170mLで希釈した。有機層をブライン170mLで洗浄した。水層をCHCl150mLで抽出した。有機層を合わせ、次にMgSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮し、そしてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して(ヘキサン/EtO、8:2+EtN(1%))、4(1.29g、60%)を得た。
Rf = 0.37 [EP/Et2O (7:3)]
MS, ESI+m/z: 547 [M+Na] +, 563 [M+K]+
【0090】
5−メトキシカルボニルペンチル(E)−2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−6−デオキシ−6−ジエトキシホスフィニルメチレン−α−D−マンノピラノシド 6:
THF 1mLに希釈した塩化オキサリル(73 10−3mL、0.84mmol)に、DMSO(135 10−3mL、1.9mmol)を−78℃で加えた。10分後、THF 2mL中の4(0.400g、0.76mmol)を−78℃で滴下した。20分後、EtN(533 10−3mL、3.8mmol)を加えた。反応混合物を−78℃で10分間撹拌し、次に室温で30分間静置した。溶媒を蒸発させることで除去し、そして残留物をCHCl(20mL)に溶解した。有機層をブライン(20mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、濾過し、そして減圧下で濃縮した。粗製のアルデヒド5を、次の工程に更に精製しないで用いた。
THF 10mLに懸濁させたNaH(80%、0.045g、1.55mmol)に、メチレンジホスホン酸テトラエチル(385 10−3mL、1.55mmol)を室温で滴下した。撹拌下で1時間後、粗製のアルデヒド5のTHF(5mL)溶液を室温で加えた。1h15後、THFを蒸発させ、そして残留物をCHCl(40mL)に溶解した。有機層をブライン(2×10mL)で洗浄し、MgSOで乾燥させ、減圧下で蒸発させ、そしてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して(AcOEt/PE、8:2)、6(0.130g、30%)を得た。
Rf = 0.72 [AcOEt/EP, (8:2)]
MS, ESI+m/z: 657 [M+H]+, 679 [M+Na] +, 695 [M+K]+
【0091】
5−メトキシカルボニルペンチル(E)−6−デオキシ−6−ジヒドロキシホスフィニルメチレン−α−D−マンノピラノシド 7:
CHCN(3mL)に溶解した化合物6(0.29g、0.44mmol)に、ピリジン(89 10−3mL、1.1mmol)そして次にトリメチルシリルブロミド(700 10−3mL、4.4mmol)を加えた。反応混合物を室温で6時間撹拌し、そして溶媒を蒸発させた。残留物をMeOHに溶解し、そして過剰量のピリジニウム塩を濾過により除去した。濾液を陽イオン交換樹脂(Dowex(登録商標)50WX2、H形、0.5g)で処理し、そして次にシリカゲル100 C18−逆相(Fluka)でのカラムクロマトグラフィーにより精製して(溶離剤:水、次にメタノール)、化合物7(0.10g、59%)を得た。
Rf = 0.33 [AcOEt/MeOH, (6:4)]
SM, ESI+m/z: 385 [M +H]+, 407 [M+Na] +
【0092】
5−メトキシカルボニルペンチル 6−デオキシ−6−ジヒドロキシホスフィニルメチル−α−D−マンノピラノシド 8:
メタノール/HO(2:1)3mL中の7(0.048g、0.124mmol)を、水素雰囲気下、Pd/C(10%、8mg)の存在下で18時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し、そして減圧下で蒸発させて、8(0.046g、100%)を得た。
Rf = 0.51 [AcOEt/MeOH, (9:1)]
MS, ESI+m/z: 387 [M +H]+, 409 [M+Na] +, 425 [M+K]+
【0093】
5−ヒドラジノカルボニルペンチル 6−デオキシ−6−ジヒドロキシホスフィニルメチル−α−D−マンノピラノシドジナトリウム塩 9又はAMFA−1
MeOH 2mL中の8(0.045g、0.12mmol)に、ヒドラジン一水和物(28 10−3mL、0.58mmol)を加えた。18時間後、溶媒を蒸発させ、そして残留ヒドラジンを、エタノールで4回共蒸発させた。粗製物をシリカゲル100 C18−逆相(Fluka)でのクロマトグラフィーにより精製し(溶離剤:HO)、そして次に陽イオン交換樹脂(Dowex(登録商標)50WX2、Na形、0.200g)により処理した。樹脂を濾過して、凍結乾燥の後、9(0.035g、68%)を得た。
Rf = 0.44 [MeOH]
[α] D20 = + 69,12° (c1 / D2O)
MS, ESI- m/z: 385 [M - 2Na++ H]+
【0094】
1.7.2. AMFA−2の合成(図10)
プロパルギル2,3,4,6−テトラ−O−トリメチルシリル−α−D−マンノピラノシド 10
10を、3についてと同様の手順に従って調製した。
Rf = 0.95 [EP/Et2O (7:3)]
収率= 95%
MS, ESI+m/z: 529 [M+Na] +
【0095】
プロパルギル2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−α−D−マンノピラノシド 11
化合物11を、4についてと同様の手順に従って調製した。
Rf = 0.37 [EP/Et2O (9:1)]
収率= 57 %
MS, ESI+ m/z: 457 [M+Na]+
【0096】
プロパルギル(E)−2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−6,7−ジデオキシ−7−ジベンジルオキシホスフィニル−α−D−マンノ−ヘプタ−6−エノピラノシド 13
ホスホナート13を、6についてと同様の手順に従って調製したアルデヒド12の調製を介して、7についてと同様の手順に従って調製した。ジベンジルホスホナート13を得るために、メチレンジホスホン酸テトラベンジルを、メチレンジホスホン酸テトラエチルに代えて用いた。
Rf = 0.83 [Et2O/EP (8:2)]
収率= 63 %
MS, ESI+m/z: 691 [M+H] +, 713 [M+Na] +
【0097】
(メトキシカルボニルエチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル−メチル (E)−2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−6,7−ジデオキシ−7−ジベンジルオキシホスフィニル−α−D−マンノ−ヘプタ−6−エノピラノシド 14
CHCl(2mL)中のホスホナート13(250mg、0.362mmol)及び3−アジドプロピオン酸メチル(37μL、0.435mmol)に、Cu(CHCN)PF(135mg、0.362mmol)及び2,6−ルチジン(5μL、0.0362mmol)を連続して加えた。混合物を室温で20時間撹拌した。溶媒を蒸発させた後、粗製物を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して(溶離剤:CHCl、次にCHCl/MeOH、99:1及び98:2)、14(236mg、80%)を得た。
Rf = 0.65 [CH2Cl2/MeOH, (98:2)]
MS, ESI+m/z: 820 [M+H] +
【0098】
(メトキシカルボニルエチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル−メチル 6−デオキシ−6−ジヒドロキシホスフィニルメチレン−α−D−マンノピラノシド 15
EtOH/HO(5:1)6mL中のホスホナート14(130mg、0.159mmol)及びPd/C(10%)20mgの混合物を、水素雰囲気下(20bars)で撹拌した。16時間後、触媒をセライトパッド上での濾過により除去し、そして濾液を減圧下で濃縮して、15(65mg、96%)を得た。
Rf = 0.17 [AcOEt/MeOH, (7:3)]
MS, ESI- m/z: 424 [M-H] -
【0099】
(ヒドラジノカルボニルエチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル−メチル 6−デオキシ−6−ジヒドロキシホスフィニルメチレン−α−D−マンノピラノシドのジナトリウム塩 16又はAMFA−2
AMFA−2を、AMFA−1に適用した手順に従って調製した。
Rf = 0.23 [MeOH/AcOEt, (7:3)]
収率 = 30%
MS, ESI- m/z: 424 [M- 2Na + H] -
【0100】
1.7.3. AMFA−3の合成(図11)
2−ブロモエチル 2,3,4,6−テトラ−O−トリメチルシリル−α−D−マンノピラノシド 17
17を、3についてと同様の手順に従って調製した。
Rf = 0.88 [EP/Et2O (9:1)]
収率 = 87%
MS, ESI+m/z: 597 [M+Na] +
【0101】
2−ブロモエチル 2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−α−D−マンノピラノシド 18
化合物18を、4についてと同様の手順に従って調製した。
Rf = 0.46 [EP/Et2O (6:4)]
収率 = 48%
MS, ESI+ m/z: 525 [M+Na]+
【0102】
2−ブロモエチル (E)−2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−6,7−ジデオキシ−7−ジエチルオキシホスフィニル−α−D−マンノ−ヘプタ−6−エノピラノシド 20
ホスホナート20を、6についてと同様の手順に従って調製したアルデヒド19の調製を介して、7についてと同様の手順に従って調製した。
Rf = 0.53 [Et2O]
収率 = 60 %
MS, ESI+m/z: 635 [M+H] +
【0103】
2−(フタルイミドキシ)エチル (E)−2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−6,7−ジデオキシ−7−ジエチルオキシホスフィニル−α−D−マンノ−ヘプタ−6−エノピラノシド 21
N−ヒドロキシフタルイミド(468mg、2.9mmol)を、無水DMF 50mL中のNaH(109mg、3.3mmol)に加えた。撹拌下1時間後、DMF 10mLに溶解したホスホナート20(1.21g、1.9mmol)を、前記溶液に滴下した。赤色溶液を26時間40℃で撹拌し、次にEtO(300mL)でクエンチした。有機層をブライン(150mL)で洗浄し、次に乾燥させ(MgSO)、減圧下で濃縮し、そしてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して(EtO/EP 8/2、9/1、次にEtO)、21(835mg、61%)を得た。
Rf = 0.55 [AcOEt/MeOH, (8:2)]
収率 = 61 %
MS, ESI+m/z: 718 [M+H] + , 740 [M+Na] +
【0104】
2−(フタルイミドキシ)エチル (E)−6,7−ジデオキシ−7−ジエチルオキシホスフィニル−α−D−マンノ−ヘプタ−6−エノピラノシド 22
22を、7についてと同様の手順に従って調製した。
Rf = 0.63 [AcOEt/MeOH, (5:5)]
収率 = 45 %
MS, ESI- m/z: 444 [M-H]-
【0105】
2−(フタルイミドキシ)エチル 6−デオキシ−6−ジヒドロキシホスフィニルメチレン−α−D−マンノピラノシド 23
8についてと同様の条件下で、22の二重結合の還元を行った。
Rf = 0.61 [AcOEt/MeOH, (5:5)]
収率 = 98%
MS, ESI- m/z: 446 [M-H]-
【0106】
2−(アミノキシ)エチル 6−デオキシ−6−ジヒドロキシホスフィニルメチレン−α−D−マンノピラノシドのジナトリウム塩 24又はAMFA−3
MeOH/HO(1:1)5mL中の23(0.065g、0.145mmol)に、ヒドラジン一水和物(21.2 10−3mL、0.436mmol)を加えた。3時間後、溶媒を蒸発させた。粗製物をシリカゲル100 C18−逆相(Fluka)でのクロマトグラフィー(溶離剤:HO)により精製し、そして次に陽イオン交換樹脂(Dowex(登録商標)50WX2、Na形、0.200g)により処理した。樹脂を濾過し、凍結乾燥の後、24(0.035g、40%)を得た。
Rf = 0.42 [MeOH]
収率 = 40%
MS, ESI- m/z: 316 [M- 2Na + H]-
【0107】
1.7.4. AMFA−5の合成(図12)
[5−メトキシカルボニルペンチル 6,7−ジデオキシ−7−(ベンジルオキシカルボニル)−α−D−マンノ−オクトピラノシド]ベンジルウロナート 37
トリフルオロメタンスルホン酸無水物(106 10−3mL、0.697mmol)を、CHCl(3mL)中に溶解した4(300mg、0.57mmol)及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルピリジン(153mg、0.744mmol)に−40℃で滴下した。混合物を30分間撹拌し、次にCHClで希釈し、そして有機層を水で洗浄し、MgSOで乾燥させ、そして減圧下で濃縮した。過剰量の2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルピリジンをヘキサン中での沈殿反応により除去した。粗製のトリフラート35を、次の工程に更に精製しないで用いた。
THF(3mL)中のトリフラート35(328mg、0.50mmol)の溶液に、THF(15mL)中で希釈したマロン酸ジベンジルのナトリウム塩(0.720mmol)を室温で加えた。反応の完了後、マロナート36を脱シリル化するために、36を含む混合物をHCl 1Nで処理した。10分後、混合物をNaHCO水溶液により中和した。水層をCHClで2回抽出した。有機層をMgSOで乾燥させ、濾過し、そして減圧下で濃縮した。粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して(CHCl、次にCHCl/MeOH、9:1)37(0.075g、23%)を得た。
Rf = 0.52 [CH2Cl2/MeOH, (9:1)]
SM, ESI+ m/z : 597 [M+Na] +
【0108】
[5−メトキシカルボニルペンチル 6,7−ジデオキシ−7−(カルボキシ)−α−D−マンノ−オクトピラノシド]ウロン酸 38
ホスホナート15の調製についてと同様の手順に従って、37の脱ベンジル化を達成した。
Rf = 0.34 [AcOEt/MeOH, (8:2)]
収率 = 93%
SM, ESI+ m/z : 395 [M+H] +
SM, ESI+ m/z : 393 [M-H] -
【0109】
[5−メトキシカルボニルペンチル 6,7−ジデオキシ−7−(カルボキシ)−α−D−マンノ−オクトピラノシド]ウロン酸ジナトリウム塩 39又はAMFA−5
38から出発して、マロナート39をAMFA−1に適用した手順に従って調製した。
Rf = 0.55 [MeOH]
収率= 56%
MS, ESI- m/z: 393 [M- 2Na + H]-
【0110】
1.7.5. M6P−ヘキサンヒドラジド(すなわち化合物34)の合成(図13)
5−メトキシカルボニルペンチル 2,3,4−トリ−O−トリメチルシリル−6−ジフェノキシホスフィニル−α−D−マンノピラノシド 32
クロロリン酸ジフェニル(143 10−3mL、0.69mmol)、EtN(112 10−3mL、0.8mmol)及び触媒量のDMAPを、CHCl(5mL)に溶解した4(300mg、0.57mmol)に加えた。混合物を5時間撹拌し、次に溶媒を蒸発させ、粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して(PE/EtO、6:4次に5:5)、6(0.42g、95%)を得た。
Rf = 0.63 [ヘキサン/AcOEt, (5:5)]
SM, ESI+ m/z : 779[M+Na] +
【0111】
5−メトキシカルボニルペンチル 6−ホスファート−α−D−マンノピラノシド 33
PtO(70mg)を、エタノール(15mL)に溶解した32(0.410g、0.54mmol)に加え、そして反応混合物をH雰囲気下、室温で6時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し、そして減圧下で蒸発させて、33(0.207g、97%)を得た。
Rf = 0,12 [AcOEt/MeOH (8:2)]
SM, ESI- m/z : 387 [M-H]- , 775 [2M-H] -
【0112】
5−ヒドラジノカルボニルペンチル 6−ホスファート−α−D−マンノピラノシド ジナトリウム塩 34
33から出発して、ホスファート34を、AMFA−1に適用した手順に従って調製した。
Rf = 0.28 [イソプロパノール/NH4OH, (5:5)]
収率 = 25%
MS, ESI- m/z: 387 [M- 2Na + H]-
【0113】
1.8. AMFA−1の薬理学的性質解析
図14に示すように、AMFA−1の結合親和性、75%(v/v)のヒト血清中での安定性及びヒト線維芽細胞中での毒性の欠如は、ホスホナート1単独でのそれらと同等であった。同様に、AMFA−1は、ヒト乳癌細胞株、MCF7及びMDAに毒性を示さなかった(データは示していない)。これは、アノマー位におけるヘキサンヒドラジドリンカーの添加がM6P−類似体の薬理学的性質を変えないことを示す。
【0114】
1.9. AMFA−1、AMFA−2、AMFA−3、AMFA−5、M6P及びM6P−ヘキサンヒドラジドの薬理学的性質
AMFA−1、AMFA−2、AMFA−3及びAMFA−5の、CI−M6PRへの結合親和性を、20℃で(A)又は37℃、75%ヒト血清の存在下(B)で測定し、M6P及びM6P−ヘキサンヒドラジドと比較した。方法は1.8節と同一である。AMFA−1、AMFA−2、AMFA−3及びAMFA−5は、CI−M6PRと高い結合親和性で結合するため、標的CI−M6PRに対して高いポテンシャルを示し、かつ血液培養中で安定である(図15)。M6P−ヘキサンヒドラジド及びM6Pは、緩衝液中では安定した親和性を示したが、ヒト血清中では加水分解され、それぞれ7〜8時間後には〜50%、そして16時間後には84〜100%の、親和性の減少を伴った。AMFA−1、AMFA−2、AMFA−3及びAMFA−5は、ヒト血清中での16時間の培養後85%を凌ぐ結合能を保持しているように見える。これは、血清中でのより高い安定性及びCI−M6PR親和性が、一部のM6P類似体によってのみ得られることを示す。
【0115】
1.10. cathD−AMFA−1(本発明による接合体)の合成
AMFA−1カップリングの実施例は、ヒトリソソーム酵素、カテプシンDで実施された。カテプシンD−KDEL変異体は、cDNA誘導された突然変異生成によるC末端KDEL拡張子(小胞体保持のための)を加えることによって得られ、それからラット癌細胞中での安定発現の後精製した[Liaudet E. et al., Oncogene 9: 1145-54, 1994]。事実、KDELシグナルは、ゴルジ装置のM6Pシグナルの添加を部分的に防止する。このタンパク質が、バキュロウイルス/昆虫細胞系により生産されるそれらと類似のそのオリゴマンノシド鎖であるモデルとして用いられた[Liaudet E. et al., Oncogene 9: 1145-54, 1994]。
【0116】
AMFAとリソソーム酵素間のカップリングを達成するために、本発明者らは実験プロトコルを作成した:
−第一に、ホスホナート類似体−1は、AMFA−1を得るために、ヒドラジド基を含むヘキサンヒドラジドスペーサーアームによってアノマー位で官能化される。
−第二に、グラフト化を実施するために、0.5mg/mlのヒト組み換え酵素(ここではcathD−KDEL)及び10mMのメタ過ヨウ素酸ナトリウム溶液(NaIO)を、暗所、4℃で30分間、0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中で反応させる。グリセロール(最終濃度15mM)を0℃で5分間加え、反応を停止し、そしてサンプルを、0.1M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に対して終夜透析する。
−第三に、AMFA−1を加え、室温で2時間、撹拌下で反応する。最後に、サンプルをPBS緩衝液に対して終夜透析する。このプロトコルは、バキュロウイルスから極めて強力なAMFAにわたるヒト組み換え酵素のグラフトに容易に適応することができる。さまざまなリソソーム酵素の糖側鎖の数は異なっているため、各酵素が高いCI−M6PR親和性及び新糖酵素活性に達成するために、タンパク質/AMFA相対比及び反応条件(時間、温度、pH)は、各々の酵素に対して最適化されなければならない。
【0117】
この種の反応は、オリゴマンノシド部分の酸化を誘導し、古典的アシルヒドラゾン官能基を形成するための共有結合方式におけるAMFA−1のヒドラジド官能基と反応するアルデヒド官能基を得ることを可能にする。ヒドラジドは、副生成物又は潜在的に有毒な試薬を含まないため、アルデヒドと選択的に反応して、痕跡量のない接合条件によるアシルヒドラゾンを形成する。同様に、アミノキシ基(AMFA−3を参照されたい)は、アルデヒドと反応して、オキシム官能基を形成する。更に、オリゴマンノシド部分のみが再構築され、そして、酵素のペプチド部分はAMFAのグラフトに使用する条件には影響を受けない。
ここで、酵素はアシルヒドラゾン又はオキシム結合を介してAMFAにグラフトする。
【0118】
1.11. cathD−AMFA−1の結合アッセイ及び触媒活性
1.2節において詳述したように、cathD−AMFA−1の結合アッセイは、AMFA−1結合アッセイに使用したものと同じプロトコルにビオチン化CI−M6PRを使用して実施された。
【0119】
AMFA−1修飾カテプシンD−KDELのCI−M6PRに対する親和性(Kd=3nM)は、天然のカテプシンD−KDELのもの(Kd=30nM)より10倍高い(図16A)。興味深いことに、その親和性は、受容体の2個のM6P結合部位を占めることが可能なビスホスホリル化鎖の存在のため、CI−M6PRに対する高親和性の配位子である天然カテプシンD(Kd=15nM)のそれと比較して5倍増加している。これらのデータは、CI−M6PRに対する最も高い親和性を示している天然鎖であるビスホスホリル化鎖(Kd=2nM)のそれに、AMFA−1接合鎖の親和性が非常に近いことを示す[Tong PY et al., J Biol Chem. 264, 7962-9, 1989]。
【0120】
同時に、天然カテプシンD、カテプシンD−KDEL及びAMFA−1にグラフトされたカテプシンD−KDELの触媒活性を、UMR5247により合成される消光蛍光基質Edans-Arg-Pro-Ile-Leu-Phe-Phe-Arg-Leu-Gln-Dabcylを使用して測定した(図16B)。ペプチド主鎖のタンパク質分解切断の後、放出されたEdansは、光励起(励起355nm;蛍光538nm)の下で、その蛍光特性を回復する。カテプシンD−KDELの活性は、AMFA−1カップリングの後完全に維持されることが見出され、炭水化物を再構築する反応がその触媒部位の構造に影響を及ぼさないことを示した。
【0121】
したがって、本発明者らは、CI−M6PRに対する高い親和性を有し、触媒活性を維持している新糖酵素を得るための再現可能なプロトコルを定めた。
【0122】
1.12 シャイエ又はハーラー リソソーム障害患者の線維芽細胞中のイズロニダーゼ−AMFA−1のインビボのターゲティング及びグリコサミノグリカン分泌の活性
この研究のために選択される酵素は、ムコ多糖貯蔵障害であるムコ多糖体症I(MPSI)に関係するα−L−イズロニダーゼ(IDUA)[EC 3.2.1.76]である(Neufeld, E.F. and Muenzer, J. 1995, In The metabolic basis of inherited disease, Scriver, C.R., Beaudet, A.L., Sly, W.S. and Valle, D., eds., 7th ed. New York: McGraw-Hill, pp. 2465-2494)。IDUA活性の減少又は欠如は、異なる組織において酵素基質、グリコサミノグリカン(GAG)の蓄積をもたらす。MPSIは多臓器障害で、外観、精神発達及び可動性に影響を及ぼす場合があり、その臨床症状は最も穏やかな形、すなわちシャイエのものから最も重篤なもの、ハーラーまで変化する(Kakkis, N Engl J Med 2001, 344, 3:182-188)。ヨーロッパでの有病率は、10,000人あたり約0.025である。
【0123】
IDUAは6個のNで結合したオリゴ糖によってグリコシル化され、74kDaの前駆体分子を生産する653AAタンパク質であり、それは成熟形態に処理される。
【0124】
酵素IDUAの製造及び精製は、バキュロウイルス/鱗翅類細胞発現系において実施された。簡潔には、フラグシークエンス(Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys)はIDUA cDNAのN末端基に導入され、そして、これらのシークエンスは最後期P10プロモータの下流である、特定のバキュロウイルス導入ベクターに挿入された。組み換えウイルスは、精製されたウイルスDNA及び酵素cDNAを運んでいる導入ベクターを用いてSf9細胞をコトランスフェクトすることによって発生する。その後で、バキュロウイルスは、プラークアッセイによってクローニングされる。10種の単離されたウイルスクローンは増幅され、そして、タンパク質の発現は抗FLAG抗体を用いたELISA及びウエスタンブロッティングによって制御される。酵素産生のための1種のクローンを選択した後、Sf9細胞は、2PFU(プラーク形成ユニット)/細胞の感染多重度で、選択された組み換えウイルスに感染していた。28℃で4日のインキュベーションの後、上澄みを集め、透析濾過(diafiltrated)し、そしてコンカナバリンAアフィニティーカラム(ConAセファロース、GE Healthcare)に付した。タンパク質は、α−メチルマンノースによって溶出される。続いて、組み換えIDUAは、(i)His選択的ニッケルアフィニティークロマトグラフィ(Sigma)によって精製され、His選択的溶離緩衝剤(Sigma、イミダゾール250mM)によって溶出された。一旦溶出し、酵素をNaCl 100mM、酢酸100mMの緩衝液(pH5.8)によって透析した。
【0125】
ネオIDUAは、SDSポリアクリルアミドゲルによって分析され、銀染色によってその純度を決定した(図17A)。酵素の識別は、特定のモノクローナル抗IDUA抗体(R&D Systems)を用いたウエスタンブロッティングによって得られた。
【0126】
1.10節にて説明したようにAMFA−1に連結した後に、ネオIDUA細胞内在化、毒性及び基質還元をMPSI線維芽細胞において評価した。光学顕微鏡で観察されるように、100ng/mLのネオIDUAは既に3時間の培養の後シャイエ患者からのMPSI線維芽細胞によって内在化されていた(図17B〜E)。細胞によるネオIDUAの取り込みは、10mMのM6Pを用いたプレインキュベーションによって強く減少し(図17D)、10mMのAMFA−1によって、完全に防止された(図17E)。これらのデータは、ネオIDUA取り込みがCI−M6PRに関与することを示している。更に、ネオIDUAの内在化は、24時間の培養の後、細胞抽出物のウエスタンブロットによっても示された(図17F)。グリセルアルデヒド 3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の免疫検出は、総タンパク質導入の内部制御として用いた。
【0127】
Blyscanキット(Tebu-Bio)でハーラー患者線維芽細胞の培地において分泌される酵素の基質(GAG)のレベルを測定することによって、neoIDUAは、24〜72時間で最高50%のGAG分泌を有意に減らすことが認められた(表1)。これは、neoIDUAが細胞中で72時間まで、依然として活性であったことを示している。
【0128】
【表1】

【0129】
図18に示すように、100〜500ng/mLのネオIDUAによるハーラー線維芽細胞の処置は、72時間で有毒ではなく、かつ細胞生存度を幾分強化する。細胞生存度は、MTTアッセイによって評価した[Maynadier et al. FASEB J, 22: 671-81, 2008]。
【0130】
1.13. ムコ多糖体症I(MPSI)マウスモデルにおけるIDUA−AMFA−1の治療有効性
ホモ接合性IDUA −/− マウス(6〜8週齢)を、ビヒクル単独(対照)又は0.16mgネオIDUA/kg体重/週によって6週間、静注で処置した。分泌されたGAGは、6回の注射の後で尿においてアッセイし、先に述べた方法[Barbosa et al., Glycobiology Adv. Access 13: 647-53, 2003]を用いて尿クレアチニン濃度に正規化した。
【0131】
分泌されたGAG濃度は、この処置によって、尿中で59.8%まで有意に低下した(表2を参照されたい)。これは、MPS−I治療に対するIDUA−MFA−1の有効性を示す。このデータは、バキュロウイルス発現系での製造及び続いてのCI−M6PRターゲティングのためのAMFAグラフトによって得られるIDUA−AMFA−1酵素の治療有効性を示す。
【0132】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合体であって、
リンカーLを介して式(1):
【化26】


[式中、
− 破線は、存在するか又は存在しない結合を表し、
− Xは、ホスファート基の類似体を表し、
− Rは、H及びOHからなる群より選択され、
− Aは、O、S及びCHからなる群より選択される]を有する化合物と接合している、糖タンパク質、ナノ粒子及び医用画像のための標識からなる群より選択される、対象Yの生成物であり、
そしてここで、
− 該式(1)を有する化合物は、A部分を介してリンカーと結合しており、
− 該リンカーLは、4〜15個の連続した原子鎖によりA及びYを分離しており、
該破線により表される結合が存在しない場合、Xは、下記:
式(X):
【化27】


を有する飽和ホスホナート基、
式(X):
【化28】


を有するビス−フルオロホスホナート基、
式(X):
【化29】


を有するフルオロホスホナート基、
式(X):
【化30】


を有する飽和カルボキシラート基、及び
式(X):
【化31】


を有するマロナート基からなる群より選択され、
− 該破線により表される結合が存在する場合、Xは、下記:
式(X):
【化32】


を有する不飽和ホスホナート基、及び
式(X):
【化33】


を有する不飽和カルボキシラート基からなる群より選択される、
接合体。
【請求項2】
前記接合体が、多くても100μMの、カチオン非依存性マンノース6−リン酸受容体(CI−M6PR)に対するIC50を有する、請求項1記載の接合体。
【請求項3】
Yが、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、100、1000又はそれ以上の、式(1)を有する化合物とリンカーLを介して接合している、請求項1又は2記載の接合体。
【請求項4】
前記接合体が、少なくとも2個の式(1)を有する化合物とリンカーLを介して接合している、対象Yの生成物であり、前記少なくとも2個の化合物の2個のマンノース−6−リン酸の類似体が、同じCI−M6PRの2個のマンノース6−リン酸結合部位によるか、又はCI−M6PRダイマーの2個のマンノース6−リン酸結合部位により認識することができる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項5】
前記接合体が、多くても100nM、特に多くても50nM、より特には多くても25nM、最も特には多くても2nMの、カチオン非依存性マンノース6−リン酸受容体に対するIC50を有する、請求項4に記載の接合体。
【請求項6】
前記リンカーLの前記原子鎖が、置換されているか又は非置換の、直鎖状又は分枝鎖状のC−C30アルキル又はアルケニル鎖であり、ここで該鎖の1個以上の炭素原子は、場合により、エーテル(−O−)、アミン(−NH)、チオエーテル(−S−)、アミド(−CO−NH−)、ウレア(−NH−CO−NH−)、カルバマート(−NH−CO−O−)及び環式又はヘテロ環式の系からなる群より選択される化学基で置き換えられており、該環式又はヘテロ環式系は、飽和又は不飽和であり、そして置換又は非置換であり、ただし該鎖は、A及びY部分を4〜15個の連続した原子で分離している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項7】
前記リンカーLが、下記:
【化34】


[式中、
「−−−−−Y」は、
(a)−Y、又は
(b)−T−Y(ここでTは、リンカーの部分であり、下記:
【化35】


からなる群より選択される化学部分を表す)のいずれかを表し、そして
「A−」は、式(1)で定義されたとおりの、本発明による化合物の残りを表す]を含む群より選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項8】
Yが、リソソーム酵素である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項9】
ヒト又は動物の体を処置するための方法に使用するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項10】
ヒト又は動物の体のリソソーム貯蔵障害の処置のための方法に使用するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項11】
ヒト又は動物の体に実施される診断法に使用するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項12】
式(I):
【化36】


[式中、
− 破線は、存在するか又は存在しない結合を表し、
− Xは、ホスホファート基の類似体を表し、
− Rは、H及びOHからなる群より選択され、
− Aは、O、S及びCHからなる群より選択され、
− Lは、対象Yの生成物と反応することができ、接合体を形成する、末端の化学反応性基Zを含むリンカーを表し、ここで、A及びY部分は、4〜15個の連続した原子により分離されており、
そしてここで、
−前記破線により表される結合が存在しない場合、Xは、下記:
式(X):
【化37】


を有する飽和ホスホナート基、
式(X):
【化38】


を有するビス−フルオロホスホナート基、
式(X):
【化39】


を有するフルオロホスホナート基、
式(X):
【化40】


を有する飽和カルボキシラート基、及び
式(X):
【化41】


を有するマロナート基からなる群より選択され、
−前記破線により表される結合が存在する場合、Xは、下記:
式(X):
【化42】


を有する不飽和ホスホナート基、及び
式(X):
【化43】


を有する不飽和カルボキシラート基からなる群より選択される]を有する化合物。
【請求項13】
接合体を製造するための方法であって、該方法が、糖タンパク質、ナノ粒子及び医用画像のための標識からなる群より選択される対象Yの生成物を、式(I):
【化44】


[式中、
− 破線は、存在するか又は存在しない結合を表し、
− Xは、ホスファート基の類似体を表し、
− Rは、H及びOHからなる群より選択され、
− Aは、O、S及びCHからなる群より選択され、
Lは、対象Yの生成物と反応することができ、接合体を形成する、末端の化学反応性基Zを含むリンカーを表し、ここで、A及びY部分は、4〜15個の連続した原子により分離されており、
そしてここで、
− 前記破線により表される結合が存在しないとき、Xは、下記:
式(X):
【化45】


を有する飽和ホスホナート基、
式(X):
【化46】


を有するビス−フルオロホスホナート基、
式(X):
【化47】


を有するフルオロホスホナート基、
式(X):
【化48】


を有する飽和カルボキシラート基、及び
式(X):
【化49】


を有するマロナート基からなる群より選択され、
− 前記破線により表される結合が存在するとき、Xは、下記:
式(X):
【化50】


を有する不飽和ホスホナート基、及び
式(X):
【化51】


を有する不飽和カルボキシラート基からなる群より選択される]を有する化合物とを反応させる工程を含む方法。

【図2】
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【図6A】
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【図6B】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2012−531458(P2012−531458A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518097(P2012−518097)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059507
【国際公開番号】WO2011/000958
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(512002415)ユニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ・アン (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE MONTPELLIER I
【出願人】(509211099)ユニベルシテ・モンペリエ・2・シアンス・エ・テクニク (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE MONTPELLIER 2 SCIENCES ET TECHNIQUES
【Fターム(参考)】