説明

カップリング因子発現促進剤及び骨代謝改善剤並びに骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤

【課題】骨のカップリング因子発現促進剤及び骨代謝改善剤、並びに骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤の提供。
【解決手段】下記式等で表される化合物、又はその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つを有効成分として含有するカップリング因子発現促進剤、及び当該促進剤を含有する骨代謝改善剤、並びに当該改善剤を含有する骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤。


(式中、ハロゲン原子を意味する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨のカップリング因子であるCthrc1の発現促進剤及び骨代謝改善剤並びに骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨の代謝は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成から成っているが、従来、骨代謝の異常に起因する疾患の治療剤としては、破骨細胞や骨芽細胞のいずれか一方の増殖を制御する方法が一般的であった。
【0003】
しかし、近年、骨代謝については、「破骨細胞による骨吸収が先行することで、骨芽細胞による骨形成が誘導される」というメカニズム(カップリング機構)が分かってきており、破骨細胞と骨芽細胞の一方のみを制御しても、根本的な骨代謝の改善にはならないことが分かってきており、カップリング因子として、Cthrc1が知られている(特許文献1等)。
【0004】
しかしながら、Cthrc1の制御作用を利用した具体的な骨代謝改善剤は、未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO/2007/123010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、カップリング因子であるCthrc1のプロモータ領域にレポーター遺伝子を連結したDNAコンストラクトを前破骨細胞株に導入し、培養液中のレポーター活性を測定することにより簡易にCthrc1の産生を増強する化合物をスクリーニングする系を樹立し、これを利用することによって、Cthrc1の発現を促進する物質を短期間で複数抽出することに成功し、本発明に到達したものであって、その目的とするところは、Cthrc1発現促進剤及び、Cthrc1の発現促進を通じて骨代謝の異常を改善できる骨代謝改善剤,並びに、骨代謝の異常に起因する疾患を根本的に予防又は治療することのできる予防又は治療剤を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的は、下記第一の発明から第三の発明によって、達成される。
【0008】
<第一の発明>
下記式(I)乃至(IX)のいずれかの化学式で表される化合物又はその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つを、有効成分として含有することを特徴とする、Cthrc1発現促進剤。
【0009】
(尚、下記式において、R乃至R13は、水素又は、置換又は非置換の、直鎖状,分枝状,もしくは環状の炭素数1乃至6のアルキル基,アルケニル基,アルコキシ基を意味し、Xは、ハロゲン原子を意味する。また、一分子内にXが複数ある場合には、同じハロゲンであっても、異なるハロゲンであっても良い。)
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
<第二の発明>
第一の発明記載のCthrc1発現促進剤を有効成分として含有することを特徴とする、骨代謝改善剤。
【0020】
<第三の発明>
第二の発明記載の骨代謝改善剤を含有することを特徴とする、骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明のCthrc1発現促進剤,及び骨代謝改善剤,並びに骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤は、カップリング因子であるCthrc1の発現促進を通じて、骨代謝の異常に起因する疾患を根本的に予防又は治療することができる。
また、本発明のCthrc1発現促進剤及び骨代謝改善剤は、実験室内における実験試薬や再生医療用の材料等としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤による、Cthrc1発現量の増加率を測定した結果を示す図である。
【図2】本発明において、Cthrc1発現促進剤をスクリーニングする際に用いたDNAコンストラクトを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
[本発明のCthrc1発現促進剤]
本発明のCthrc1発現促進剤は、下記化1乃至化9のいずれかの化学式で表される化合物又はその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つを、有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0025】
(尚、下記式において、R乃至R13は、水素又は、置換又は非置換の、直鎖状,分枝状,もしくは環状の炭素数1乃至6のアルキル基,アルケニル基,アルコキシ基を意味し、Xは、ハロゲン原子を意味する。また、一分子内にXが複数ある場合には、同じハロゲンであっても、異なるハロゲンであっても良い。)
【0026】
【化10】

【0027】
【化11】

【0028】
【化12】

【0029】
【化13】

【0030】
【化14】

【0031】
【化15】

【0032】
【化16】

【0033】
【化17】

【0034】
【化18】

【0035】
本発明のCthrc1発現促進剤は、後述する、骨代謝改善剤や、骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤の有効成分として用いることができる他、実験室内における、実験試薬や、生体外において、骨芽細胞等とともに用いて再生医療用の骨を人工的に製造する際の材料等としても利用価値の高いものである。
【0036】
[本発明の骨代謝改善剤]
本発明の骨代謝改善剤は、上述の本発明のCthrc1発現促進剤を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0037】
尚、本発明の骨代謝改善剤は、後述する、骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤の有効成分として用いることができる他、実験室内において、破骨細胞や骨芽細胞の代謝を確認するための実験試薬や、生体外において、骨芽細胞等とともに用いて再生医療用の骨を人工的に製造する際の材料等としても利用価値の高いものである。
【0038】
骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤の有効成分としての含有量は、後述の予防又は治療剤のところに示した通りである。
【0039】
実験試薬や、再生医療用の添加剤として用いる場合の使用量も、公知の骨代謝改善剤の場合に倣って、適宜決定すれば良いが、一般的には、下記の、予防又は治療剤で用いる量よりも少量で効果が得られると考えられる。
実際の予防又は治療剤の際の様に、患部に届くまでに生体内で分解又は排除されるリスクが無いからである。
【0040】
[本発明の骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤]
本発明の骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤は、上述の本発明の骨代謝改善剤を含むことを特徴とするものである。
【0041】
(その他の成分)
本発明の予防又は治療剤には、有効成分である上述の「骨代謝改善剤」の他、本発明の目的を阻害しない範囲で、他の成分を含有させることができ、例えば、以下のようなものが挙げられる。
【0042】
賦形剤,滑沢剤,結合剤,崩壊剤,安定剤,矯味矯臭剤,希釈剤,界面活性剤,乳化剤,可溶化剤,吸収促進剤,保湿剤,吸着剤,充填剤,増量剤,付湿剤,防腐剤等。
賦形剤としては、有機系賦形剤及び無機系賦形剤等が挙げられる。
【0043】
(剤形)
本発明の予防又は治療剤の剤形は、例えば錠剤,カプセル剤,顆粒剤,散剤,丸剤,トローチ,もしくはシロップ剤,注射剤等の形態が挙げられる。
【0044】
(有効成分の含有量)
本発明の予防又は治療剤中の、「骨代謝改善剤」の含有量は、剤形によって様々であり、一概に限定できず、各種剤形化が可能な範囲で、投与量との関係で適宜選択すれば良いが、例えば液剤の場合、「骨代謝改善剤」の有効成分である「化1乃至化9等の化合物」の量として、好ましくは0.0001〜10(w/v%),より好ましくは0.001〜5(w/v%),特に注射剤の場合、好ましくは0.0002〜0.2(w/v%),より好ましくは0.001〜0.1(w/v%),固形剤の場合、好ましくは0.01〜50(w/w%),より好ましくは0.02〜20(w/w%)等として調製できるが、必ずしもこの範囲に限定されるものでは無い。
【0045】
(製造方法)
本発明の予防又は治療剤は、上記の成分を用いて、周知の方法で製剤化することができる。
【0046】
《その他の合剤》
本発明の予防又は治療剤は、他の公知の骨代謝改善剤との合剤として用いることができる。
【0047】
公知の骨代謝改善剤としては、例えば、ビスフォスフォネート,エストロゲン薬,ラロキシフェン等のSERM(選択的エストロゲン受容体修飾薬),ヒト型RANKL抗体,PTH(副甲状腺ホルモン)等が挙げられる。
【0048】
(投与経路)
本発明の予防又は治療剤の投与経路としては、全身投与と局所投与があり、いずれでも良く、具体的には、経口投与,骨折部への直接注入,静注等の静脈投与,筋注等の筋肉内投与, 経皮投与,経鼻投与,皮内投与,皮下投与,腹腔内投与,直腸内投与,粘膜投与,吸入,関節腔内投与等が挙げられ、治療目的の疾患,症状等に応じて、適宜選択することができるが、特に、経口投与,骨折部への直接注入等が好ましい。
【0049】
(投与量)
本発明の予防又は治療剤の投与量は、投与経路,症状,年齢,体重,予防又は治療剤の形態等によって異なるが、例えば、予防又は治療剤中の有効成分の量が、処置を必要としている対象体重1kg当たり好ましくは0.005〜500mg,より好ましくは、0.1〜100mg,但し、成人に対して1日あたり、下限として好ましくは0.01mg(より好ましくは0.1mg),上限として、好ましくは20g(より好ましくは2000mg,更に好ましくは500mg,特に好ましくは100mg)となるように、1回又は数回に分けて、症状に応じて投与することが望ましい。
【0050】
《対象疾患》
本発明の骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤の適用対象疾患である、「骨代謝の異常に起因する疾患」としては、骨粗鬆症をはじめとする骨代謝疾患,パジェット病,癌に合併する骨・カルシウム代謝異常,関節リウマチ,歯周病等が挙げられる。
【0051】
《スクリーニング方法》
尚、本発明者等の樹立した、Cthrc1発現促進剤をスクリーニングする方法について説明する。
【0052】
骨のカップリングに関わるCthrc1の遺伝子に対応するプロモータ領域(転写開始点から-1.3 kb)の下流に、ALP(アルカリフォスファターゼ)等の検出用遺伝子のcDNA,及びポリAを発現する遺伝子をつなげた二本鎖コンストラクトを作成する(図2参照)。
【0053】
次に、破骨細胞への分化能を有する細胞(マクロファージ)等にトランスフェクト,もしくはレトロウイルスによって感染させる。
【0054】
被験物の投与前後それぞれについて、Cthrc1遺伝子のプロモータ活性によって産生され、培養液中に分泌されたALPの活性を測定する。
その投与によってALP活性の増強した被験物が、Cthrc1発現促進剤としてスクリーニングされる。
【0055】
ALPの活性は、例えばP−ニトロフェニルリン酸等のALPの基質を加えた後、分光光度計(吸光度:405nm)を用いて測定することができる。
【0056】
この方法を用いることで、実際に破骨細胞に投与しなくとも、簡便に、Cthrc1の発現を促進する物質(すなわち骨代謝改善剤,骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤)を抽出することができる。
従って、この方法は、Cthrc1発現促進剤,骨代謝改善剤,骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤の一次スクリーニングに特に有用である。
【0057】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限られるものでは無い。
【実施例】
【0058】
実施例に先だって、本発明の骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤の効果を確認するために用いた試験方法を記載する。
【0059】
[試験方法]
実施例の各「骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤」を破骨細胞に投与して、カップリング因子であるCthrc1の発現(mRNAレベルをRT-PCRによって定量)を上昇させる程度を測定した。
【0060】
具体的には、マウス骨髄細胞を、マクロファージコロニー刺激因子であるM-CSF(Macrophage−Colony Stimulating Factor:100ng/ml)を含む培地で3日間培養(37℃)してマクロファージを調整した。
そして、このマクロファージを用いて、M-CSF(50ng/ml)と、破骨細胞分化因子であるRANKL(receptor activator of NF-kappaB ligand/NFκB活性化受容体リガンド:100ng/ml)を含む培地で培養(37℃)し、成熟破骨細胞を得た。
この成熟破骨細胞に、実施例の「骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤」(10μM)を各々添加し、さらに1日間培養(37℃)し、RNAを抽出した。
このRNAから常法に従ってcDNAを調整し、Cthrc1及びGAPDHのプライマーを用いてreal time PCR法によりCthrc1の発現量を定量した。
【0061】
PCR法に用いたプライマーは、それぞれ以下の通りである。
【0062】
カップリング因子Cthrc1のプライマー
配列番号1:5'-AAGCAAAAAGCGCTGATCC-3'(フォワードプライマー)
及び
配列番号2:5'-CCTGCTGGTCCTTGTAGACAC-3'(リバースプライマー)
【0063】
GAPDHのプライマー
配列番号3:5'-AGCTTGTCATCAACGGGAAG-3'(フォワードプライマー)
配列番号4:5'-TTTGATGTTAGTGGGGTCTCG-3'(リバースプライマー)
【0064】
[実施例1〜9]
下記の式(Ia)乃至(IXa)で表される化合物からなる、骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤(実施例1〜9)を作製した。
【0065】
これら実施例1〜9について、上記の試験を行った結果を、図1に示す。
【0066】
図1から、本発明の骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤が、Cthrc1の発現をmRNAレベルで有意に増加させていることが確認できた。
中でも、実施例2,6,9の化合物について、その効果が顕著であった。
【0067】
【化19】

【0068】
【化20】

【0069】
【化21】

【0070】
【化22】

【0071】
【化23】

【0072】
【化24】

【0073】
【化25】

【0074】
【化26】

【0075】
【化27】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のCthrc1発現促進剤,及び骨代謝改善剤,並びに骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤は、骨代謝の異常に起因する疾患を根本的に予防又は治療することができる。また本発明のCthrc1発現促進剤及び骨代謝改善剤は、実験室内における実験試薬や、再生医療用の材料等としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)乃至(IX)のいずれかの化学式で表される化合物又はその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つを、有効成分として含有することを特徴とする、Cthrc1発現促進剤。
(尚、下記式において、R乃至R13は、水素又は、置換又は非置換の、直鎖状,分枝状,もしくは環状の炭素数1乃至6のアルキル基,アルケニル基,アルコキシ基を意味し、Xは、ハロゲン原子を意味する。また、一分子内にXが複数ある場合には、同じハロゲンであっても、異なるハロゲンであっても良い。)
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


【化9】

【請求項2】
請求項1記載のCthrc1発現促進剤を有効成分として含有することを特徴とする、骨代謝改善剤。
【請求項3】
請求項2記載の骨代謝改善剤を含有することを特徴とする、骨代謝の異常に起因する疾患の予防又は治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−195467(P2011−195467A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61030(P2010−61030)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】