説明

カップ部を有する衣類

【課題】カップワイヤーの肌当たりをソフトにし、着用感を良好にする。
【解決手段】左右カップ部A、Aの下側縁に沿ってワイヤー20を取り付けた外側布11と、少なくとも左右カップ部A、Aの内側から土台部Bへと連続する内側布12を備え、内側布12はワイヤー20の取付位置Eに接する位置では外側布11と縫着せずに、該ワイヤー20と遊離させていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラジャー等のカップ部を有する衣類に関し、特に、カップワイヤー入りの衣類において、着用時のワイヤーの肌あたりを改善するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラジャーやボディスーツ等のカップ部を有する衣類は、バストの下方や脇側への肉流れを防いで美しいバストラインを形成するために、カップ部の下側縁に沿ってワイヤーを取り付けたものが広く知られている。
しかしながら、そのワイヤーによって、着用時に痛みや圧迫感を感じたり、肌にワイヤー跡が残ることで、不快感を感じる人もいるため、従来より、ワイヤーの肌あたりを改善する対策が種々講じられている。
【0003】
例えば、特開2006−138056号(特許文献1)では、図10に示すように、バストカップ部を肌側カップ部2aと表側カップ部2bで構成すると共に、土台部も肌側土台部3aと表側土台部3bとで構成し、肌側カップ部2aと表側カップ部2bとの間に、バストカップ下辺縁に沿ってワイヤー部4を設置するが、該ワイヤー部4を肌側カップ部2aには縫着しないブラジャー1が提案されている。
【0004】
また、特開2000−160406号(特許文献2)では、図11に示すように、バストカップ部を肌側布6と中布7と表布8で構成し、ワイヤー部9を中布7に縫着h1し、該中布7と肌側布6とを下側縁で縫着h2するが、該肌側布6にはワイヤー部9を縫着しないブラジャー5が提案されている。
【0005】
これらのブラジャー1、5はいずれも、ワイヤー部4、9を肌側カップ部2a、肌側布6に縫着していないため、ワイヤー部4、9の取付位置に縫い目が重ならず、着用時の肌あたりを良くすることができるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のブラジャー1は、ワイヤー部4の外円周、またはワイヤー部4に近接した位置で肌側カップ部2aと表側カップ部2bが縫着h3されており、この縫着部h3とワイヤー部4とが近すぎるために、縫着部h3の縫い目がワイヤー部4に引っ張られて肌に押し付けられることに因る圧迫感や擦れ感を解消しきれない点に問題がある。
【0007】
また、特許文献2のブラジャー5も、中布7と肌側布6との縫着部h2と、ワイヤー部9の取付位置(縫着部h1)とが近接しているため、ワイヤー部9の肌への密着力が前記縫着部h2にも影響することを排除できないと認められる。従って、着用時には、縫着部h2の縫い目はワイヤー部9と共に肌側に押し付けられることになり、やはり圧迫感や痛みを生じる恐れが多い。
【0008】
【特許文献1】特開2006−138056号公報
【特許文献2】特開2000−160406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、カップワイヤーの肌あたりが良好なカップ部を有する衣類の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、カップ部の下側縁に沿ってワイヤーを取り付けた外側布と、少なくともカップ部の内側から土台部へと連続する内側布を備え、
前記内側布は前記ワイヤーの取付位置に接する位置では外側布と縫着せずに、該ワイヤーと遊離させていることを特徴とするカップ部を有する衣類を提供している。
【0011】
前記衣類は、ワイヤーの取付位置に接する内側布のカップ部下側縁に、カップ部と土台部との接ぎ目がないうえ、外側布との縫着部も無く、これら縫着箇所とワイヤー取付位置とが重なりも接触もしない構成となっている。従って、着用時に、前記縫着箇所がワイヤーによって上から押し付けられる、あるいは、ワイヤーの肌への密着力に引っ張られて肌側に押し付けられることを防止できるため、ワイヤー取付箇所の肌あたりを良好にし、ワイヤーによる圧迫感や擦れ感を緩和することができる。
【0012】
前記内側布は、伸縮性素材からなり、下側縁、左右両側縁、左右カップ部間の前中央部の上側縁および少なくともカップ部の肩紐取付位置から脇側に達する上側縁は前記外側布と縫着し、前記端縁以外は前記外側布と縫着せずに遊離させていることが好ましい。
【0013】
このように、内側布を伸縮性素材で形成すると共に、該内側布と外側布との縫着箇所を外周縁部に限定することにより、内側布独自の運動追従性を高めることができる。これにより、身体運動時にバストが動いても、ワイヤーをズリ上げることなく内側布をバストにフィットさせることができ、運動時も良好な着用感を実現することができる。
【0014】
なお、内側布の端縁には別体の縁取りテープを取り付けないことが好ましい。これにより、着用感が一層ソフトとなり、肌にテープ跡が残ることも防止できる。
【0015】
前記内側布は、前記ワイヤー取付位置から少なくとも0.5cm〜2.0cm隔てた下側位置で前記外側布と縫着していることが好ましい。
これは、0.5cm未満では、内側布と外側布との縫着箇所とワイヤー取付位置とが近接して、着用時に前記縫着箇所がワイヤーに引っ張られて肌に押し付けられてしまい、圧迫感や擦れ感を解消できないことに因る。
【0016】
前記内側布は、前面側において下記の(1)〜(3)の形状とし、かつ、左右背面部を一体的に連続し、あるいは左右背面部を前記内側布と同一素材で形成して縫着している。
(1)左右カップ部と、該左右カップ部間の前中央部と、左右カップ部の土台部を連続した1枚の布;
(2)前記(1)の1枚の布を前中央部で分割した2枚の布;
(3)左右カップ部の中央側部と該左右カップ部間の前中央部と左右カップ部の土台部を連続した中央部の1枚の布と、左右カップ部の脇側部と土台部とを連続する左右2枚の布とからなる合計3枚の布:
【発明の効果】
【0017】
上述したように、本発明によれば、ワイヤー取付位置と重なる箇所や近接する箇所には、内側布と外側布との縫着部も、内側布のカップ部と土台部との接ぎ目も設けないため、着用時にワイヤーと重なって、あるいは、ワイヤーに引っ張られて前記縫着箇所が肌に押し付けられることを防止できる。これにより、着用時の肌あたりが良好となり、ワイヤーによる圧迫感や擦れ感を緩和できる。
【0018】
また、前記内側布を伸縮性素材で形成し、外側布との縫着箇所を外周縁部に限定することにより、内側布独自の運動追従性を高めることができ、運動時においても、ワイヤーをズリ上げることなく良好なフィット感を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4は、本発明の第一実施形態にかかるブラジャー10を示す。
ブラジャー10は、左右のバストを覆う左右カップ部A、Aと、該左右カップ部A、Aの下部を覆う土台部Bと、カップ部Aの脇側から連続する左右背面部C、C、および左右肩紐部D、Dとで構成されている。
【0020】
前記左右カップ部A、Aおよび土台部Bは、外側布11と内側布12とで構成されている。外側布11にはカップ部の下側縁に沿ってU状に湾曲したワイヤー20を取り付け、内側布12はワイヤー20の取付位置に接する位置では外側布11と縫着せずに、ワイヤー20と遊離させている。
【0021】
前記内側布12は、図2に示すように、乳頭近傍を通る左右境界線L4、L4で左右カップ部A、Aから土台部Bにかけて分割し、左右境界線L4、L4に挟まれた中央部12aと、該左右境界線L4、L4より脇側の左側部12bおよび右側部12cの計3枚の生地からなる。
すなわち、前記中央部12aは、左右カップ部A、Aに挟まれた前中央部と、左右カップ部A、Aの中央側部と、土台部Bとを連続してなる。
前記左側部12bと右側部12cは、左右カップ部A、Aの脇側部と土台部B、さらに左右背面部C、Cまで連続し、左右背面布17、17を連続一体に形成している。
この内側布12は、端始末不要で伸縮性を備えたダブルトリコットからなる。
【0022】
外側布11は、図1および図4に示すように、左右カップ部A、Aの外側を覆う外側カップ布13と、土台部Bの外側を構成する外側土台布14とからなり、外側カップ布13は、表布15とクッション材16とを重ね合わせている。
【0023】
前記表布15は、図1に示すように、左右のカップ部A、Aを覆う形状よりなり、バストトップ位置近傍を通る左右境界線L1よりも中央側を覆う中央側布15aと、前記左右境界線L1よりも脇側を覆う脇側布15bとを互いに縫着してなる。この表布15は、トリコットからなる。
【0024】
前記表布15の内側には、前記クッション材16を重ねて縫着している。
該クッション材16は、図3に示すように、バストトップ位置近傍を通る上下境界線L2よりも上側を覆う上側クッション材16aと、前記バストトップ位置近傍から下辺の下端点まで延びる左右境界線L3よりも中央側を覆う中央側クッション材16bと、該左右境界線L3よりも脇側を覆う脇側クッション材16cとを、スリーステッチで互いに縫着して形成している。
前記表布15とクッション材16とを重ね合わせて外周縁を縫着し、図4に示すように、一体の外側カップ布13を形成している。該外側カップ布13の肌側には、下側縁13aに沿って、U状に湾曲した樹脂ワイヤー20を封入した封入布21を縫着している。
【0025】
前記外側土台布14は、図1に示すように、バージスラインに沿って左右カップ部A、Aの下部を円弧状に覆い、図4にも示すように、前記内側布12の下側部と重ね合わせて前記土台部Bを形成している。
詳しくは、外側土台布14は、左右カップ部A、A間の前中央部を略三角形状とし、この三角状部14aから左右に延在して、バージスラインに沿ってカップ部Aの下部を脇側端14cまで覆う円弧状部14bを形成している。
前記外側土台布14は、ダブルトリコットとマーキゼットをラミネート加工した加工生地で形成しており、図4に示すように、前記外側カップ布13の下側縁13aに沿って、前記ワイヤー20の取付位置Eの外側に重ねて一体に縫着されている。
前記左右肩紐部D、Dを構成する左右一対の肩紐18、18は、前記左右カップ部A、Aの上端から左右背面布17、17の上側縁17a、17aにかけて取り付けている。
【0026】
前記外側布11と内側布12を下記のように縫製して形成している。
まず、外側布11は、前記外側カップ布13の下側縁13aに沿って、外側カップ布13とワイヤー封入布21と外側土台布14とを一体に縫着している。
前記内側布12は、前記中央部12a、左側部12b、右側部12cを、前記左右境界線L4、L4で縫着し、1枚に連続している。
【0027】
前記外側布11と内側布12とは、下側縁、左右両側縁、左右カップ部間の前中央部の上側縁および少なくともカップ部の肩紐取付位置から脇側に達する上側縁は前記外側布と縫着し、前記端縁以外は前記外側布と縫着せずに遊離させている。
詳細には、内側布12は、図2に示すように、肩紐18の取付位置である上端12dから前中央側に達する上側縁12eと、前記上端12dから脇側に達する上側縁12fと、左右カップ部A、A間の上側縁12gと、外側土台布14の脇側端14cと、該外側土台布14の湾曲した下側縁14dとで、前記外側布11と縫着し、その他の箇所では外側布11と縫着していない。
【0028】
また、外側土台布14の下側縁14dでの内側布12との縫着部H1は、ワイヤー封入布21と外側カップ布13および外側土台布14との縫着部のうち外周側(下側)の縫着部H2から0.5cm〜2.0cm離隔した下側位置としている。
【0029】
前記構成のブラジャー10は、内側布12が左右カップ部A、Aから土台部Bまで縫い目なく連続しているうえ、該内側布12に、ワイヤー20を封入したワイヤー封入布21を縫着していないため、肌に直接接する内側布12には、ワイヤー取付位置Eと重なる位置に縫い目や生地の折り重ね等による隆起部が存在しない。
また、ワイヤー封入布21が取り付けられている外側布11と内側布12との下側縁での縫着部H1は、外側布11へのワイヤー封入布21の縫着部H2と接することなく、この縫着部H1、H2間に0.5cm〜1.7cmの幅W2を確保している。すなわち、内側布12には、ワイヤー取付位置Eの近接箇所にも、縫い目等の隆起部が存在しない。
従って、着用時に、ワイヤー20によって、あるいはワイヤー20の肌への密着力に引っ張られて、縫い目等の隆起部が肌に直接強く押し付けられることを防止できるため、ワイヤー取付位置Eの肌当たりがソフトとなり、圧迫感や擦れ感を軽減することができる。
【0030】
さらに、内側布12と外側布11とは、外側布11の外周縁に沿って縫着されているが、それ以外の箇所では縫着せず、内側布12を外側布11から遊離させている。従って、伸縮性の高い内側布12の運動追従性を有効に機能させることができるため、運動時にバストが大きく動いても、ワイヤー20の位置をズリ上げることなく、内側布12をバストにフィットさせることができる。
【0031】
図5および図6に、前記内側布12の形状を異ならせた第一実施形態の変形例を示す。
内側布12は、図5に示す変形例1のように、前中央線L5で分割した左右一対の生地で形成してもよい。
また、図6に示す変形例2のように、前中央線L5で分割せず、左右カップ部A、Aから土台部B、左右背面部C、Cにかけて連続する一枚布で形成してもよい。
【0032】
図7および図8に本発明の第二実施形態を示す。
第二実施形態では、内側布12’を左右背面部C、Cまで延在せず、左右背面部C、Cには別体の左右背面布17’、17’を取り付けている。
【0033】
前記背面布17’は、内側布12’と同一素材から形成し、端始末不要であると共に、高い伸縮性を備えている。
外側土台布14’は、バージスラインに沿って左右カップ部A、Aの間および下部を覆い、左右脇線L6、L6まで延在している。
前記左右背面布17’は、前記左右脇線L6、L6で、内側布12’と外側土台布14’の間に挟んで縫着している。
その他の構成および作用は第一実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0034】
図9に本発明の第三実施形態を示す。
第三実施形態では、第一実施形態の変形例2と同様、内側布32を前中央線L5で分割せず、左右カップ部A、Aから土台部B、左右背面部C、Cにかけて連続する一枚布で形成している。
本実施形態の内側布32は、端始末不要で伸縮性を備えた丸編のメリアス編地から形成しており、左右カップ部A,Aに相当する部分は凹み部を有する立体形状となるよう、立体編地として編成している。
その他の構成および作用は第一実施形態と同様であるため説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第一実施形態に係るブラジャーの表側平面図である。
【図2】図1に示すブラジャーの裏側平面図である。
【図3】図1に示すブラジャーのクッション材の表側平面図である。
【図4】図1のIV−IV線概略断面図である。
【図5】第一実施形態の変形例1を示す裏側平面図である。
【図6】第一実施形態の変形例2を示す裏側平面図である。
【図7】第二実施形態に係るブラジャーの表側平面図である。
【図8】図7に示すブラジャーの裏側平面図である。
【図9】第三実施形態に係るブラジャーの裏側平面図である。
【図10】従来例の図である。
【図11】他の従来例の図である。
【符号の説明】
【0036】
10 ブラジャー
11 外側布
12、12’、32 内側布
13 外側カップ布
14、14’ 外側土台布
17、17’ 背面布
20 ワイヤー
A カップ部
B 土台部
C 背面部
E ワイヤー取付位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ部の下側縁に沿ってワイヤーを取り付けた外側布と、
少なくともカップ部の内側から土台部へと連続する内側布を備え、
前記内側布は前記ワイヤーの取付位置に接する位置では外側布と縫着せずに、該ワイヤーと遊離させていることを特徴とするカップ部を有する衣類。
【請求項2】
前記内側布は、伸縮性素材からなり、下側縁、左右両側縁、左右カップ部間の前中央部の上側縁および少なくともカップ部の肩紐取付位置から脇側に達する上側縁は前記外側布と縫着し、前記端縁以外は前記外側布と縫着せずに遊離させている請求項1に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項3】
前記内側布は、前記ワイヤー取付位置から少なくとも0.5cm〜2.0cm隔てた下側位置で前記外側布と縫着している請求項1乃至請求項2に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項4】
前記内側布は、前面側において下記の(1)〜(3)の形状とし、かつ、左右背面部を一体的に連続し、あるいは左右背面部を前記内側布と同一素材で形成して縫着している請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のカップ部を有する衣類。
(1)左右カップ部と、該左右カップ部間の前中央部と、左右カップ部の土台部を連続した1枚の布;
(2)前記(1)の1枚の布を前中央部で分割した2枚の布;
(3)左右カップ部の中央側部と該左右カップ部間の前中央部と左右カップ部の土台部を連続した中央部の1枚の布と、左右カップ部の脇側部と土台部とを連続する左右2枚の布とからなる合計3枚の布:

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−240191(P2008−240191A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81845(P2007−81845)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(306033379)株式会社ワコール (116)
【Fターム(参考)】