説明

カップ部を有する衣類

【課題】 身頃部を有しているにもかかわらず、着用者の動作に追随した安定した良好な着用感のあるカップ部を有しているカップ部を有する衣類を提供する。
【解決手段】 本発明のカップ部を有する衣類は、一対のカップ部11と、土台部12と、ストラップ13と、前身頃14aおよび後身頃14bから形成される身頃部14とを備えたカップ部を有する衣類であって、前記ストラップ13は、前記一対のカップ部11の上部と前記後身頃14bとをそれぞれ繋ぐように取り付けられ、または、前記一対のカップ部11の上部同士を互いに繋ぐように取り付けられ、前記一対のカップ部11と前記身頃部14の左右の脇側部分とは、前記土台部12を介して、前記カップ部11が前記前身頃14aに対して相対的に上下方向に変位するように繋がれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップ部を有する衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
カップ部を有する衣類としては、ボディスーツやハーフトップのようにカップ部を有するとともに身頃部を備えた衣類がある。前記身頃部は締め付ける構成にすることで、体型補正等の機能を備えるものが多数ある。これらの衣類は、カップ部が身頃部と一体化されているため、手を上げたり伸び上がったりすると、身頃部に引っ張られることで、カップ部がバスト部分からずれてしまうことがあった。そこで、カップ部の下部に連なる身頃部の脇から下胸部近傍の領域を、他の部分より容易に伸縮する易伸縮性生地で構成するという試みがなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3076694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、易伸縮性の生地を設けた身頃部においては、体型補正の効果は十分に得ることができない。すなわち、カップ部のバストとの追従性と身頃部の締め付けの度合いとを両立させることは困難である。
【0005】
そこで、本発明は、身頃部を有しているにもかかわらず、着用者の動作に追随した安定した良好な着用感のあるカップ部を有しているカップ部を有する衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のカップ部を有する衣類は、一対のカップ部と、土台部と、ストラップと、前身頃および後身頃から形成される身頃部とを備えている。前記ストラップは、前記一対のカップ部の上部と後身頃とをそれぞれ繋ぐように取り付けられ、または、前記一対のカップ部の上部同士を互いに繋ぐように取り付けられている。前記一対のカップ部と前記身頃部の左右の脇側部分とは、前記土台部を介して、前記カップ部が前記前身頃に対して相対的に上下方向に変位するように繋がれている。
【0007】
また、本発明の好ましい態様としては、前記一対のカップ部が、前記前身頃の肌側面と反対側の面と摺接しつつ上下方向に変位するように取り付けられている。
【0008】
さらに、本発明の好ましい態様としては、前記ストラップは、前記一対のカップ部の上部に設けられたストラップの取り付け位置から前記一対のカップ部の左右両脇部分までそれぞれ延設されている。前記前身頃の上辺は、前記取り付け位置から前記左右両脇部分までの領域の少なくとも一部において前記ストラップおよび前記カップ部に連結されている。なお、前記前身頃の上辺を、前記取り付け位置から前記左右両脇部分までの領域の少なくとも一部において前記ストラップまたは前記カップ部に取り付けるものとしても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカップ部を有する衣類は、着用時に身体が伸び縮みした場合であっても、身頃部に引っ張られることなくバストの変位に追随してカップ部を変位させることができ、安定した良好な着用感を得ることができる。
また、本発明のカップ部を有する衣類の好ましい態様においては、カップ部と身体との間に身頃部が配置され、カップ部が変位するときに着用者の肌を擦るのを防止することができる。したがって、運動時等の動きが激しい場合であっても、擦れによる肌へのダメージを防ぐことも可能である。
本発明の好ましいさらなる態様においては、カップ部がバストの動作に追従して変位するときに前身頃がずり下がるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明のカップ部を有する衣類の一例のボディスーツを示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、本発明のカップ部を有する衣類において土台部が係止された状態、図2(b)は土台部が開いた状態を示す図である。
【図3】図3(a)は、本発明のカップ部を有する衣類の着用時に、裏側から見た状態のカップ部付近の拡大図の一例である。図3(b)は、本発明の他の例のカップ部を有する衣類の着用時に、裏側から見た状態のカップ部付近の拡大図である。
【図4】図4(a)は、本発明のカップ部を有する衣類の一例であるボディスーツを着用し腕を下げたときの状態を模式的に示す図である。図4(b)は、本発明のカップ部を有する衣類の一例であるボディスーツを着用し腕を上げたときの状態を模式的に示す図である。
【図5】図5(a)は、従来のボディスーツを着用し腕を下げたときの状態を模式的に示す図である。図5(b)は、従来のボディスーツを着用し腕を上げたときの状態を模式的に示す図である。
【図6】図6(a)は、本発明のカップ部を有する衣類のカップ部付近を示す図である。図6(b)は、本発明のカップ部を有する衣類のその他の例のカップ部付近を示す図である。
【図7】図7は、着用評価における脇および背中の状態を示す図である。(a)は本実施形態に係るボディスーツ着用時、(b)は従来品のフロントホックブラジャー着用時、(c)は従来品のワイヤー入りボディスーツ着用時である。
【図8】図8は、着用評価におけるバストの形状を示す図であり、(a)に本実施形態に係るボディスーツ着用時の胸を上から撮影した断面形状を、(b)に従来品のフロントホックブラジャー着用時の胸を上から撮影した断面形状を、(c)に従来品のワイヤー入りボディスーツ着用時の胸を上から撮影した断面形状を示す。
【図9】図9は、本発明のカップ部を有する衣類の他の一例のボディスーツを示す斜視図である。
【図10】図10は、本発明のカップ部を有する衣類のブラスリップの一例を示す図である。
【図11】図11は、本発明のカップ部を有する衣類のブラスリップの他の一例を示す図である。
【図12】図12は、本発明のカップ部を有する衣類のブラスリップのさらに他の一例を示す図である。
【図13】図13は、本発明のカップ部を有する衣類のカップ付きキャミソールの一例を示す図である。
【図14】図14は、本発明のカップ部を有する衣類のカップ付きニットの一例を示す図である。
【図15】図15は、本発明のカップ部を有する衣類のミドリフ丈のブラジャーの一例を示す図である。
【図16】図16は、本発明のカップ部を有する衣類のボディウェアの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカップ部を有する衣類について、例をあげて説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されない。
【0012】
図1に、本発明のカップ部を有する衣類の一例としてボディスーツを示す。図示のように、本例のカップ部を有する衣類10(ボディスーツ)は、一対のカップ部11、一対の土台部12、一対のストラップ13、および前身頃14aおよび後身頃14bから形成される身頃部14を主要構成要素とする。本例において、前記カップ部11には、その上部にストラップ13の一端が取り付けられ、脇側下縁部分から着用時の前中心にあたる部分にかけて土台部12が取り付けられている。土台部12は、前中心部に係止具15が取り付けられており、相互に係止可能な左右一対の部材からなっている。ストラップ13の他端は、後身頃14bに取り付けられている。前記ストラップ13は、前記一対のカップ部11の上部と前記後身頃14bとを繋ぐように取り付けられることで、前記一対のカップ部を引き上げている。前記ストラップ13の前記カップ部11との取り付け部分付近には、補強布18が設けられている。また、身頃部14の下部にはクロッチ部16が設けられている。
【0013】
図2には、本発明のカップ部を有する衣類の一例において、係止具15を外す前後の状態を示す。図2(a)は土台部12が係止された状態、図2(b)は係止具15を外して土台部12を開いた状態である。図において、他の部分で隠れている前身頃14aの上辺は破線で、後身頃14bの上辺は1点鎖線で示している。図示のように、本例では、カップ部11は土台部12を介して左右それぞれが身頃部14の脇部分に取り付けられている。そして、前身頃部14aの上辺は、前中心部において土台部12と重なるとともに、ストラップ13がカップ部11に取り付けられた位置まで延在している。このようにカップ部11または土台部12が、身頃部14と脇部分で取り付けられる態様であり、従来のボディスーツのように全体的に連結されていないことが本発明の特徴の一つである。この構成により、着用時には、前記取り付け部分以外で、カップ部11が前身頃14aに対して上下方向に変位可能となる。前身頃14aは、少なくとも前記カップ部11の下縁部Pの変位範囲を覆うように設けることで、カップ部11が動くことによる前身頃14aのはみ出しや、カップ部11や土台部12が前身頃の上辺に乗り上げてしまうのを防止することができる。なお、前記カップ部11の下縁部Pは、土台部12との境界線のうち最下端部およびその近傍の領域である。図2(a)では、向かって左側のカップ部11の下縁部のみ符号Pを付して図示している。
【0014】
前記前身頃14aは、バストの少なくとも一部を被覆するように形成されていることが好ましく、前記カップ部11のストラップ13取り付け位置、バストトップ近傍、前中心部分の上端部を結ぶ曲線の下側領域を被覆するように設けることが、より好ましい。このように前身頃14aの上辺がバストを被覆するように設けることにより、バストをリフトアップする機能を持たせることができる。また、前身頃14aを前記領域で形成することにより、装着時にバストをカップ内にスムーズに納めるという効果も得ることができる。この場合、前身頃14aは、前記領域の全部または一部において、低伸度の身頃素材で形成されていることが好ましい。前記領域は、切断箇所のほつれ防止処理が不要である、「フリーカット素材」を用いることも好ましい。前身頃14a上辺部はカップ部11と重なるように着用されるので、折り返し等のほつれ防止処理が不要であれば、肌当たりを良好なものとすることができる。
【0015】
本発明のカップ部を有する衣類においては、カップ部11が前身頃14aに対して変位可能であるので、従来のボディスーツ等の衣類に比べて、着用がしやすい。従来のボディスーツ等の衣類においては、「ステップイン」(穿き込むこと)、または「かぶり」で着用する際に、身頃部の着脱をスムーズに行うためには、アンダーバスト部分の周長は、着用者の胴回りと比べて、あまり短くすることはできず、かつ、アンダーバスト部分を単独で締め付け調整することは困難であった。そのため、身頃部とは分離されたブラジャー単体に比べ、バスト部分の造形性が充分であるとはいえなかった。さらに、本例に示すように、一対のカップ部11が前中心部において相互に係止可能であると、カップ部11は身頃部14を着用後に係止可能であるため、身頃部14が長く被覆範囲が広範な態様であっても、より着用が容易である。また、着用の容易性とは別にアンダーバスト部分の締め付けなどを調整することも可能であるので、バストの造形性にも優れたカップ部を有する衣類を得ることができる。
【0016】
図3(a)は、本発明のカップ部を有する衣類の着用時(係止具で係止されている状態)に、裏側(着用者側)から見た状態のカップ部付近の拡大図の一例である。本例では、ストラップ13は、前身頃14aの左右両脇近傍の上辺部分Qを間に挟み込むようにしてカップ部11の左右両脇側の縁部分にそれぞれ取り付けられている。ここで、前記上辺部分Qは、後身頃14b側に向かって下方に傾斜するように形成されている。これにより、前記上辺部分Qを水平に設けた場合よりもストラップ13と前記上辺部分Qが接続される部分の面積を大きくすることができる。このため、前身頃14aをしっかりと引き上げて、前身頃14aのずり下がりを防止することができるという利点もある。前記上辺部分Qを除く前身頃14aの上辺は、前記カップ11の左右両脇側の上端に位置するストラップ13の取り付け部分を頂点とし、前中心近傍の上下方向の位置が最も低くなるように湾曲している。本例では、前記前身頃14aは、前記上辺部分Qの全域で前記カップ部11および前記ストラップ13と縫着されて連結しているが、連結部分はこの領域の全体であってもよいし一部であってもよく、前記カップ部11および前記ストラップ13のいずれか一方に取り付けられていてもよい。また、縫着に限定されず、接着等の手段を用いてもよい。前身頃14aがこの領域の少なくとも一部でカップ部11またはストラップ13と連結されていると、前身頃14aのずり下がりを防止することができる。また、着用者が腕を上げる動作を行ってバストが上方に変位しても、カップ部11の上部でのストラップ13との連結を有することで、カップ部11も上方に変位しやすく、運動追随性をより好適なものとすることができる。図3(a)の例においては、ストラップ13の取り付け部分は補強布18により補強されているが、図3(b)に示すように補強布18を設けない態様であってもよい。なお、前記補強布18としては、メッシュ状の素材、パワーネット等を好適に用いることができ、また、ストラップ13と同一の素材を用いてもよい。
【0017】
ここで、ストラップ13は、カップ部11および前身頃14aを肩から吊り下げるものであればよい。紐や布テープであってもよいし、タンクトップのような幅の広い、いわゆるラウンドタイプのストラップであってもよい。ラウンドタイプの場合は、身頃部と同じ素材でストラップが形成されてもよい。テープ状のストラップの場合、ストラップ13は、後身頃14bの上辺に取り付けられた円環の係止具17aを通って反転し、エイト環からなる長さ調節具17bに導入されることによって、ストラップの長さ調整が可能な状態で、ストラップ13の他端側が、後身頃14bの上辺に取り付けられてもよい。ストラップの態様は一対のカップ部に対応して一対のストラップをそれぞれカップ部上部と後身頃に取り付ける態様に限定されず、例えば、スポーツタイプのブラジャーの肩ストラップのように、背中側で2本のストラップが一体となり後身頃に取り付けられる態様であってもよい。また、カップ部のみにストラップが取り付けられている、いわゆる「ホルターネック」タイプであってもよい。この場合、ストラップ13はカップ部11の上部同士を互いに繋ぐように取り付けられる。ストラップ13の取り付け位置は、カップ部11の形状やカップ部を有する衣類のデザインによって決定することができる。
【0018】
係止具15としては、ホック(例えば、フック・アンド・アイ(鈎ホック))、グリッパー、ボタン、紐、面ファスナーなどを、デザインや用途に応じて適宜選択して使用することができる。なお、上記のフック・アンド・アイやグリッパー、ボタンを用いる場合には、複数の留め位置を予め設けておくことにより、締め付け具合を微調整できるようにしておくことも好ましい。なお、上記以外の他の種類の係止具を使用してもよい。
【0019】
前記カップ部11は、そのストラップ取り付け位置とバストトップ点とを結ぶラインよりも脇側の領域の全部または一部(図2(b)に示す領域20参照)において、カップ部の他の部分に比べ低伸度の素材が上記取り付け位置に連結されるように設けられていることが好ましい。前記低伸度の素材とは、例えばメッシュ状の素材、パワーネット等である。前記脇側領域の全部または一部において低伸度の素材を含むことにより、バストのサイド部分を覆うカップ部に張りやこしを付与し、バストの前中心側に寄せ上げることができ、良好な造形性や安定感を得ることができる。前記低伸度の素材は、カップ部の表生地と肌側の生地との間に挟み込んで縫着されることが好ましい。このような構成とすることで、前記低伸度の素材が、直接肌に接するよりは、着用感を良くすることができる。
【0020】
図4に、本発明のカップ部を有する衣類の一例であるボディスーツを着用し腕を上げ下げしたときの状態を模式的に示す。図4(a)は腕を下げた状態を示し、図4(b)は腕を上げた状態を示している。また、前身頃14aの同じ位置を示す基準線を図4(a)、(b)にそれぞれ2点鎖線で示し、前記基準線とカップ部11の下縁部Pとの間の距離を符号L1、L2を付してそれぞれ図示している。図4(a)、(b)に示すように、腕の上げ下げによりバストの位置が上下方向に変位するのに伴って、カップ部11が前身頃14aに対して相対的に変位する。このため、身頃部14を引っ張ることなくバストの変位に追従するようにカップ部11を変位させることができる。なお、本例では、図4(b)に示すように、着用者が腕を上げたときに、係止具15およびカップ部11の前中心近傍の縁部分が、一部を残して前身頃14aの上辺から上方に突き出す程度の位置となるように、前身頃14aが形成されている。
【0021】
図5には、従来のボディスーツを着用し、同様に腕を上げ下げしたときの状態を模式的に示す。図5(a)は、腕を下げた状態を示している。図5(b)は、腕を上げた状態を示している。図5においては、腕を上げたときに、図5(b)に矢印で示すように、カップ部が前身頃に引っ張られ、伸びてしまっている。また、バストは腕を上げる動作に伴い引き上げられるが、ボディスーツのバージス部分はバストに追随していない。それに対して、図4においては、カップ部11は前身頃14aに引っ張られることなく、ボディスーツのバージス部分はバストに追随していることがわかる。本発明のカップ部を有する衣類においては、カップ部11および土台部12が、前身頃14aに摺接しつつ上下方向に変位可能となるように、前記身頃部14の脇部分に取り付けられているので、腕を上げる動作をした場合、カップ部11および土台部12が前身頃14aに対して上方に変位する(図4(a)L1→図4(b)L2)。そして、腕を下ろすと、カップ部11および土台部12は元の位置に戻る(図4(b)L2→図4(a)L1)。本発明のカップ部を有する衣類が図1に示すようなクロッチ部16を有するボディスーツの場合、カップ部11が上方に変位しても、クロッチ部16が引っ張られることの抑制が可能である。
【0022】
本発明においては、前記前身頃14aの前記カップ部11または前記土台部12の変位範囲、および、前記カップ部11または前記土台部12の前記前身頃14aに摺接する部分の少なくとも一方が、摺動性の素材を含んでいることが好ましい。摺動性の素材を含むことにより、着用時の運動追随性をより高めることができる。前記摺動性の素材としては、フッ素繊維、ポリウレタン系樹脂および繊維等の摺動性材料を含んだ素材を用いてもよいし、前記変位範囲や摺接する部分の生地にフッ素樹脂やシリコーン樹脂を塗布するなどの表面処理を施したものを用いてもよい。
【0023】
図6(a)は、本発明のカップ部を有する衣類の一例のカップ部付近を示す模式図であり、カップ部11を連結する係止具15周辺の構成を示している。図6(a)に示す例は、土台部12が左右両脇側から着用時の前中心にあたる部分まで設けられ、前中心側の端部に係止具15が設けられている。図6(b)は、カップ部11を連結する係止具15周辺の構成の変形例を示す模式図である。図6(b)に示すように、本発明のカップ部を有する衣類は、土台部12が着用時の前中心にあたる部分まで延設される代わりにカップ部11の左右の脇部でそれぞれ連結されるような形態であってもよい。この場合、係止具15は、カップ部11に直接取り付けてもよい。なお、本例では、係止具15によって前中心部で相互に係止可能な態様を示しているが、本発明はこれらに限定されず、係止具15を有しないものであってもよい。
【0024】
本発明において、前身頃14aは、カップ部11下縁部Pの変位範囲には少なくとも延在している。従って、カップ部11および土台部12は、着用者の肌との間に前身頃14aを挟んで上下に変位する。これにより、変位部分が着用者の肌を直接擦り難くしている。なお、本例では、前身頃14aはカップ部11下縁部Pの変位範囲を覆うように形成されている例を挙げているが、カップ部11の肌当たりが少ない場合には、前身頃14aがカップ部11下縁部Pの変位範囲を完全に覆うように設けなくとも良い。
【0025】
前記身頃部14は、上記態様のボディスーツにおけるものに限定されず、胴体の少なくとも一部を被覆するように形成されていればよい。また、前記身頃部14が、着用者の胴体の少なくとも一部を締め付けるように形成されていることも好ましい。着用者の胴体の少なくとも一部を締め付けるためには、締め付けたい部分の布地の伸度を、隣接する部分の布地の伸度よりも低くなるように、伸度を切り替えて形成してもよい。
【0026】
後身頃14bは、折り返し(ワサ)始末がされていることも好ましい。本発明のカップ部を有する衣類においては、特にカップ部を前中心で係止する態様の場合、着用後にしっかりと係止することができる。そのため、従来のブラジャーやボディスーツのように、背中部分にテープ材を設けることなく、身頃部の上端部をテープ材よりも幅が大きくなるように折り返し始末をすることでも身頃のずり下がりを防ぐことができ、十分な着用安定感を得ることができる。広幅での折り返し始末であると、後身頃上辺における身体への食い込みを低減することができる。これにより、着用時に背中や脇部に段差が生じることなく、すっきりとしたシルエットとすることが可能となる。
【0027】
図7は、着用評価における脇および背中の状態を示す図である。(a)は本実施形態に係るボディスーツ着用時、(b)は従来品のフロントホックブラジャー着用時、(c)は従来品のワイヤー入りボディスーツ着用時である。本実施形態に係るボディスーツ着用時には、身頃部の上端部での段差が生じていないことがわかる。従来品では、テープ材が後身頃の上端部に設けられており、テープ材の部分で脇および背中に食い込みが生じている。従来品では、カップ部が身頃部と一体に形成されているため、後身頃での係止によって締め付けて装着する必要がある。従来品では、テープ材を使用せずに折り返し(ワサ)始末を使用すると、着用時のバスト部分の固定感が乏しく、カップ部の安定感も十分得られないため、テープ材を使用する必要があった。そのため、食い込みの解消は困難であった。
【0028】
図8は、着用評価におけるバストの形状を示す図であり、(a)に本実施形態に係るボディスーツ着用時の胸を上から撮影した断面形状を、(b)に従来品のフロントホックブラジャー着用時の胸を上から撮影した断面形状を、(c)に従来品のワイヤー入りボディスーツ着用時の胸を上から撮影した断面形状を示す。従来品のボディスーツと従来品のブラジャーとを比較すると、従来品のボディスーツでは、バストの寄せ感、谷間感、突出感が十分ではないことがわかる。従来品のボディスーツでは、カップ部は身頃部に一体に形成されているため、バストの前方への突出量を、ブラジャーのように大きくとることはできなかった。これに対して、本実施形態に係るボディスーツ着用時には、従来品のブラジャーと同程度のバストの寄せ感、谷間感、突出感が得られていることがわかる。本実施形態に係るボディスーツでは、土台部12は左右の両脇部分でのみ身頃部14に連結されており、土台部12は係止具15(フロントホック)を留めるのに伴って多少伸縮させることができる。このため、従来のボディスーツと比較して、装着時のバストの前方への突き出し長さが長くなるという効果が得られるのである。
【0029】
図9に、本発明のカップ部を有する衣類であるボディスーツの他の一例を示す。本例のボディスーツは、図1で示したボディスーツと比べ、前身頃14aの上辺の刳りが浅くなっている。バストサイズが比較的小さいため着用時のバストの収まり具合が問題とならない場合には、このような態様とすることも考えられる。この態様では、前身頃14aによってバスト周りがしっかり覆われるため、バスト周りの保温性や吸汗性をより高めることができる。なお、本例では、前身頃14aの上辺が刳られるように湾曲して形成されているが、例えば、上辺がV字状やU字状を呈するように設けられていても良いし、直線状を呈するように設けられるものとしても良い。
【0030】
図10に、本発明のカップ部を有する衣類であるブラスリップの一例を示す。この態様は、クロッチ部16を有していないものである。このブラスリップのブラジャー相当部分の態様は、図1で示したボディスーツのブラジャー相当部分と同一概念のもとに設計されている。本例においては、前身頃14aの腹部を被覆する部分21は、隣接する部分の布地の伸度よりも低くなるように、伸度を切り替えて形成されている。この構成とすると、腹部の前方への膨らみを、身頃部を着用することの押圧力で低減することができる。前記腹部を被覆する部分21は、ブラスリップの斜め方向および縦方向に伸縮性を有するとともに、横方向には非伸縮または難伸縮であることが好ましく、緊締力を有する素材により構成されることが好ましい。このような素材としては、例えば、ワンウェイパワーネット、パワーネット、ツーウェイトリコットなどがある。伸度を切り替える構成は、本例のブラスリップに限定されず、本発明の他の態様のカップ部を有する衣類にも適用することができる。このような構成とすると、着用中の身頃部のずり下がりを防ぐことができる点でも好ましい。身頃部の布地の切り替えに代えてまたは併用して、ベルトを身頃部に設けてもよい。また、伸度を切り替える構成を採用しなくてもよい。
【0031】
図11に、クロッチ部16を有していない本発明のカップ部を有する衣類であるブラスリップの他の一例を示す。この態様は、前身頃14aが、着用時にカップ部11を覆うように形成されている。したがって、着用者の腕の上げ下げ等の動作時には、一対のカップ部11は前身頃14aの肌側の面と摺接しつつ上下方向に変位する。本例の構成にすることにより、カップ部11のデザインにかかわらず、着用時の外観のバリエーションを多様にすることができる。また、カップ部11を、よりアウターにひびかなくすることもできる。
【0032】
図12に、図11に示したような前身頃14aが着用時にカップ部11を覆うように形成されているブラスリップの他の例を示す。本例では、前身頃14aの上辺がV字状に形成されており、フロントホック(係止具15)が前記V字状に形成された前身頃14aから露出している。このような構成にすることにより、着脱をより容易とすることができる。
【0033】
図13は、本発明のカップ部を有する衣類のカップ付きキャミソールの一例を示す図である。このキャミソールのブラジャー相当部分の態様は、図1で示したボディスーツのブラジャー相当部分と同一概念のもとに設計されている。本態様のように、本発明は、身頃部14が胴体の少なくとも一部を被覆するように形成することができるので、身頃部14の長さを用途に応じて調整することが可能である。
【0034】
図14は、本発明のカップ部を有する衣類のカップ付きニットの一例を示す図である。このカップ付きニットのブラジャー相当部分の態様は、図1で示したボディスーツのブラジャー相当部分と同一概念のもとに設計されている。本態様では、身頃部14はニット素材を用いて形成されている。身頃部14にニット素材を用いる場合には、胴回りを締め付けるためのベルトや紐を身頃部に設けてもよい。また、身頃部に腹巻部22を含む構成としてもよく、保温機能を付与することも可能である。
【0035】
図15は、本発明のカップ部を有する衣類のミドリフ丈のブラジャーの一例を示す図である。このミドリフ丈のブラジャーのブラジャー相当部分の態様は、図1で示したボディスーツのブラジャー相当部分と同一概念のもとに設計されている。本態様では、ブラジャー着用時において、先に身頃部14によってバスト下部を被覆するので、装着時にバストをカップ部11内にスムーズに収めることでき、従来のブラジャーに比べて係止がしやすいという効果を得ることもできる。なお、本例に示すミドリフ丈のブラジャーは、具体的な適用例として、例えば、スポーツブラに適用することもできる。
【0036】
図16は、本発明のカップ部を有する衣類であるボディウェアの一例を示す図である。このボディウェアのブラジャー相当部分の態様は、図1で示したボディスーツのブラジャー相当部分と同一概念のもとに設計されているが、本態様では、主として運動時に着用することを想定した、いわゆるスポーツブラに見られる構成を備えている点で異なっている。具体的には、カップ部11をノンワイヤータイプとし、前中心部を開閉するための係止具15としてファスナーを使用している。また、左右の肩ストラップ13が背面側の首の下方近傍で一本に纏まるようなY字状に形成されている。本態様では、従来のスポーツブラのように、運動時の肩ストラップ13のズレや落下を防止することができ、また、ワイヤーによる乳房の違和感が生じない。本態様では、さらに運動時にも安定感があり、肌への擦れも防ぐことができる。本態様では、背面のストラップ部分(Y字状の部分)にメッシュ素材を用いることも好ましい。また、前身頃部分もファスナーによって開閉可能としてもよい。
【0037】
以上、実施の形態の具体例として、ボディスーツ、ブラスリップ、カップ付きキャミソール、カップ付きニット、身頃付きブラジャー、ボディウェアをあげて本発明を説明したが、本発明のカップ部を有する衣類は、これらの具体例で記載されたもののみに限定されるものではなく、ハーフトップ、ワンピースタイプやセパレートタイプの水着、レオタード、その他各種のカップ部を有する衣類に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のカップ部を有する衣類は、種々の態様が可能である。例えば、上記の実施形態のようなファンデーション衣類以外にも、スポーツ衣類、アウターなど、各種のカップ部を有する衣類に適用できる。
【符号の説明】
【0039】
10 カップ部を有する衣類
11 カップ部
12 土台部
13 ストラップ
14 身頃部
14a 前身頃
14b 後身頃
15 係止具
16 クロッチ部
17a 円環係止具
17b 長さ調節具
18 補強布
20 低伸度素材を含む領域
21 腹部を被覆する部分
22 腹巻部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のカップ部と、土台部と、ストラップと、前身頃および後身頃から形成される身頃部とを備えたカップ部を有する衣類であって、
前記ストラップは、前記一対のカップ部の上部と前記後身頃とをそれぞれ繋ぐように取り付けられ、または、前記一対のカップ部の上部同士を互いに繋ぐように取り付けられ、
前記一対のカップ部と前記身頃部の左右の脇側部分とは、前記土台部を介して、前記カップ部が前記前身頃に対して相対的に上下方向に変位するように繋がれている、カップ部を有する衣類。
【請求項2】
前記一対のカップ部が、前記前身頃の肌側面と反対側の面と摺接しつつ上下方向に変位するように取り付けられている、請求項1に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項3】
前記一対のカップ部は、前中心部において相互に係止可能に設けられている、請求項1または2に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項4】
前記土台部は、前中心部において相互に係止可能に形成された左右一対の部材から成る、請求項1から3のいずれか一項に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項5】
前記前身頃は、バストの少なくとも一部を被覆するように形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項6】
前記ストラップは、前記一対のカップ部の上部に設けられた取り付け位置から前記一対のカップ部の左右両脇部分までそれぞれ延設され、
前記前身頃の上辺は、前記取り付け位置から前記左右両脇部分までの領域の少なくとも一部において前記ストラップおよび/または前記カップ部に連結されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項7】
前記一対のカップ部が前記前身頃の肌側面と摺接しつつ上下方向に変位するように取り付けられている、請求項1に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項8】
前記身頃部が、着用者の胴体の少なくとも一部を締め付けるように形成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項9】
衣類がボディスーツである、請求項1から8のいずれか一項に記載のカップ部を有する衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144469(P2011−144469A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5169(P2010−5169)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(306033379)株式会社ワコール (116)
【Fターム(参考)】