説明

カテキンおよびカテキン誘導体で処理された被覆金属

【課題】近年の環境問題からクロムに関する規制が大幅に強化されつつあり、最近では6価クロムを含まないノンクロメート化成処理、ノンクロメート塗料被膜に対する要望が高まってきている。本発明は、非クロム系であり、環境にやさしい、天然植物由来のカテキン類組成物で被覆処理することで得られた防錆性及び耐食性に優れる被覆金属を提供することを目的とする。
【解決手段】固形分として非重合体カテキン含量が40%以上であり、(A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類との含量比[(A)/(B)]が0.7以上であるカテキン類組成物で処理することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
カテキン類組成物を含む溶液で表面処理された環境にやさしく、防錆、耐食性に優れた被覆金属に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に防錆、耐食を目的として、幅広い分野で金属の表面処理がおこなわれている。これらの表面処理した金属は一般的に自動車、建材、家電等に用いられており、主にクロメート処理及び6価クロムを含む表面処理技術が利用されてきた。クロム酸を含む化合物を用いた表面処理であるクロメート処理は、金属の耐食性が良好であり、塗料との密着性においても良好な特性を示す。しかし、近年の環境問題からクロムに関する規制が大幅に強化されつつあり、最近では6価クロムを含まないノンクロメート化成処理、ノンクロメート塗料被膜に対する要望が高まってきている。更には、これらの表面処理剤として、安全な植物等の天然物由来の物質を使用する要望が高まってきている。
【0003】
天然物由来の金属の表面処理法としては縮合型タンニン酸、有機リン化合物、シラン系皮膜、界面活性剤等を使用した例がある。不飽和カルボン酸を共重合したもの(例えば、特許文献1参照。)、グリシジル基含有不飽和単量体−アクリル酸エステルの共重合体(例えば、特許文献2参照。)等が挙げられる。また、クロメート処理の替わりに縮合型タンニン及びタンニン酸、シランカップリング剤、及び微粒シリカを同時に含む化成処理を用いることで加工部密着性と耐食性に優れるプレコート金属板を提供する技術(例えば、特許文献3参照。)が挙げられる。
特にアルミニウム材料の表面処理剤としてはアルミニウムの表面を鉄塩で被覆し、更にその上に縮合型タンニン又はタンニン酸により被覆する方法が挙げられる。(例えば、特許文献4参照。)しかし、タンニン酸及び縮合型タンニン、有機リン化合物、シラン系皮膜、界面活性剤やその複合物で金属を表面処理した場合、不溶性の皮膜の厚さが不十分であるだけでなく、長期間使用した場合皮膜がはがれてしまう等、耐久性能に問題点がある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−222324号公報
【特許文献2】特開平3−192166号公報
【特許文献3】特開2001−89868号公報
【特許文献4】特開昭53−120644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の様に、表面処理剤として、安全な植物等の天然物由来の物質を使用すると、満足のいく防錆性、耐食性が得られず、現実に実用化が難しかった。
【0006】
そこで、本発明においては、非クロム系であり、環境にやさしい、天然植物由来のカテキン類組成物で被覆処理することで得られた防錆性及び耐食性に優れる被覆金属を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
防錆効果に充分な厚さの皮膜を金属表面に形成させるべく、検討した結果、固形分として非重合体カテキン含量が40%以上であり、(A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類との含量比[(A)/(B)]が0.7以上であるカテキン類組成物で処理することで、強度の高い皮膜を作るだけでなく、従来の縮合型タンニンを使用した金属処理では実現できなかった厚みのある皮膜を形成することができる。そのため耐食性・防食性にすぐれた被覆金属を提供することができる。
更に、カテキン類と金属の反応物である皮膜が固着しやすくなるようにアミン処理や硫黄を含む化合物で前処理工程を行うことによって、皮膜の強度を強め、長期にわたって、防錆性及び耐食性を示す被覆金属を提供する。
【0008】
すなわち本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 固形分として非重合体カテキン含量が40%以上であり、(A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類との含量比[(A)/(B)]が0.7以上であるカテキン類組成物で処理することによって得られた被覆金属。
(2) 金属をアミン処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)記載の被覆金属。
(3) 金属を硫黄を含む化合物で処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の被覆金属。
(4) 金属を有機酸を含む化合物で処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする請求項(1)〜(3)いずれか記載の被覆金属。
(5) 金属をカテキン類組成物で処理した後、焼成処理することを特徴とする請求項(1)〜(4)いずれか記載の被覆金属。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、金属表面を固形分として非重合体カテキン含量が40%以上であり、(A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類との含量比[(A)/(B)]が0.7以上であるカテキン類組成物を含む水溶液で処理することにより、従来のクロメート処理皮膜に優るとも劣らない防錆能を発揮するばかりでなく、天然植物由来のノンクロメート系表面処理方法を提供することができ、自然にやさしく、安全な被覆金属を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する金属は特に限定するものではなく、鉄、銅、亜鉛、アルミ、チタン、銀、マグネシウム、スズ、コバルト、ニッケル、マンガン及び、これらの金属から選ばれる1種又は2種以上の合金が挙げられる。
【0011】
これらの金属は、被覆効果を高めるため、あらかじめ、金属表面を洗浄溶媒や湯水やアルカリによって脱脂したもの、又は、市販の脱脂剤を用いて脱脂したものを使用することが好ましい。
また、表面を研磨して表面の酸化物を除去した金属、特に、研磨加工した直後の金属を用いることが好ましい。
【0012】
本願発明におけるカテキン類組成物とは、(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(−)−ガロカテキン、(−)−カテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキン及びこれらの誘導体、立体異性体等の非重合体カテキン及びそれらの重合体から選ばれる1種又は2種以上の混合物が挙げられる。
【0013】
カテキン類組成物の由来としては、天然の植物であり、その具体例として、チャ等のツバキ科植物、ブドウ等のブドウ科植物、コーヒー等のアカネ科植物、カカオ等のアオギリ科植物、ソバ等のタデ科植物、グーズベリー、クロフサスグリ、アカスグリ等のユキノシタ科植物、ブルーベリー、ホワートルベリー、ブラックハクルベリー、クランベリー、コケモモ等のツツジ科植物、赤米、ムラサキトウモロコシ等のイネ科植物、マルベリー等のクワ科植物、エルダーベリー、クロミノウグイスカグラ等のスイカズラ科植物、プラム、ヨーロッパブラックベリー、ローガンベリー、サーモンベリー、エゾイチゴ、セイヨウキイチゴ、オオナワシロイチゴ、オランダイチゴ、クロミキイチゴ、モレロチェリー、ソメイヨシノ、セイヨウミザクラ、甜茶、リンゴ等のバラ科植物、エンジュ、小豆、大豆、タマリンド、ミモザ、ペグアセンヤク等のマメ科植物が挙げられ、これらの植物に応じて果実、果皮、花、葉、茎、樹皮、根、塊根、種子、種皮等の部位が任意に選ばれる。
カテキン類組成物は、上記の植物より、公知の方法、例えば、熱水、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール等から選ばれる1種又は2種以上の溶媒により抽出することができる。
中でも、効果の点より、ツバキ科植物であるチャより抽出して得られるカテキン類組成物が好ましい。チャは大別して、不発酵茶と半発酵茶と発酵茶に分類される。
不発酵茶は、煎茶、玉露、抹茶、玉緑茶、番茶等の蒸し茶や、玉緑茶や中国緑茶等の釜炒り茶があげられ、半発酵茶には、例えばウーロン茶等があげられ、発酵茶には、例えば紅茶等が挙げられる。特に限定するものではないが、半発酵茶と発酵茶は、非重合体カテキンの割合が小さく、効果が弱くなるため、不発酵茶が好ましく、中でも、緑茶より抽出して得られたカテキン類組成物が更に好ましい。
【0014】
カテキン類組成物を得る方法しては、特に限定するものではなく、例えば、チャを粉砕したものを、水又は熱水もしくはグリセリンやエタノール等のアルコールにより抽出した画分、あるいは、水又は熱水もしくはグリセリンやエタノール等のアルコールにより抽出した画分に酢酸エチルやアセトンを加えて分画したときの酢酸エチルやアセトン画分より得ることができる。好ましくは、茶葉又は茶葉を粉砕したものを、水又は熱水より抽出した画分に酢酸エチル又はアセトンを加えて分画したときの酢酸エチルやアセトン画分より得る方法である。
また、サンフェノン(太陽化学株式会社製)、テアフラン(株式会社伊藤園製)、ポリフェノン(東京フードテクノ株式会社製)等、市販のカテキン含有素材も使用できる。
カテキン類組成物の非重合体カテキン含量については40%以上であればよく、効果の点より、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。
カテキン類組成物の(A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類の含有重量比[(A)/(B)]は、0.7以上であり、好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上である。
カテキン類組成物の総ポリフェノール類に対する非重合体カテキン類の比率が低すぎると、被覆金属の処理過程において非重合体カテキン類以外の成分等が多く含まれてしまい、防錆に必要な十分な厚さの皮膜を金属表面に形成することができなくなるという問題がある。
【0015】
ここで総ポリフェノール類とは、酒石酸鉄法により、標準液として没食子酸エチルを用い、没食子酸エチルの換算量として求める方法(既存添加物第3版 チャ抽出物中のポリフェノール含量測定法)によって定量される成分のことをいう。
【0016】
本発明に係る金属表面被覆に用いる、カテキン類組成物溶液のカテキン濃度は、特に限定するものではないが、好ましくは0.001%〜40%であり、より好ましくは0.05〜20%、更に好ましくは0.05〜10%である。この範囲未満では、皮膜の形成が十分でない場合があり、この範囲を超えるとカテキン類組成物が十分に溶解せず、皮膜の形成能の低下がおこり、耐食性が劣ることがある。
溶媒はコストや操業性、環境汚染防止性等を総合的に考慮して水が一般的であるが、必要によっては、アルコール類等の有機溶剤を適使用することができる。
この時のアルコール類としては、一価アルコール、多価アルコールが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0017】
金属への被覆方法は、特に限定するものではなく、一般に公知の方法、例えば、ロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、ディッピング、カーテンフローコーター、刷毛塗り、静電気塗装、浸漬等が採用でき、好ましくはスプレー又は浸漬処理であり、より好ましくは浸漬処理である。
浸漬時間は特に限定するものではないが、24時間以内の浸漬時間を確保すれば十分に目的を果たすことができるが、好ましくは1〜12時間であり、より好ましくは1〜3時間である。時間が短いと被覆が十分でない場合があり、これ以上に時間が長くなっても被覆量はあまり増加しない。
【0018】
その後、熱風、誘導加熱、近赤外、遠赤外等の加熱又は自然乾燥によって乾燥・硬化される、金属の乾燥・硬化温度は、特に限定するものではないが、常温以上の温度を確保すれば充分に目的を果たすことができる。好ましくは常温から180℃以下、より好ましくは80℃〜120℃である。
【0019】
更に本発明では、カテキン類をより強固に固着する方法として、カテキン処理を行う前処理としてアミン処理を行うことができる。これらの処理は、金属とカテキン類をいっそう結合しやすくするだけではなく、固着性がよくなり金属と皮膜との密着性を付与する効果がある。
処理する順序としては、まずアミン処理を行い、乾燥後、カテキン被膜処理を行い、再度乾燥工程をとればよい。
アミン処理に用いる成分としては特に限定するものではないが、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等のほか、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、エチレンジアミンジグルタル酸(EDGA)、2−ヒドロキシプロピレンジアミン二コハク酸(HPDS)、グリシンアミド−N,N’−二コハク酸(GADS)、エチレンジアミン−N,N’−ジグルタル酸(EDDG)、2−ヒドロキシプロピレンジアミン−N,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなポリアミノカルボン酸類、それらの塩、並びにそれらの誘導体が挙げられるが、特にエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)が好ましい。
【0020】
前処理としてアミン処理を行う場合に用いるアミン溶液のアミン類の濃度は、特に限定するものではないが、好ましくは0.001%〜40%であり、より好ましくは0.05〜20%、更に好ましくは0.05〜10%である。
溶剤はコストや操業性、環境汚染防止性等を総合的に考慮して水が一般的であるが、必要によっては、アルコール類等の有機溶剤を適使用することができる。
この時のアルコール類としては、一価アルコール、多価アルコールが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0021】
金属へのアミン処理方法は、特に限定するものではないが、一般に公知の方法、例えば、ロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、ディッピング、カーテンフローコーター、刷毛塗り、静電気塗装、浸漬等が採用できるが、浸漬処理が最適である。
浸漬時間は特に限定するものではないが、24時間以内の浸漬時間を確保すれば十分に目的を果たすことができるが、好ましくは1〜12時間であり、より好ましくは1〜3時間である。時間が短いと処理が十分でない場合があり、これ以上に時間が長くなっても効果はあまり変化しない。
【0022】
その後、熱風、誘導加熱、近赤外、遠赤外等の加熱又は自然乾燥によって乾燥・硬化される、金属の乾燥・硬化温度は、特に限定するものではないが、常温以上の温度を確保すれば充分に目的を果たすことができる。好ましくは常温から180℃以下更に好ましくは80℃〜120℃である。
【0023】
また、本発明では、カテキン類をより強固に固着する方法として、硫黄を含む化合物処理を行うことができる。
処理する順序としては、まず硫黄処理を行い、乾燥後、カテキン被膜処理を行い、再度乾燥工程をとればよい。
硫黄を含む化合物処理に用いる成分としては、特に限定するものではないが、二酸化硫黄、硫化水素、硫化カルボニル、チオ硫酸、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、硫化ナトリウム、硫化アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、チオ尿素、システイン及びシステイン誘導体等の含硫アミノ酸、イソチアネート等が挙げられる。
【0024】
前処理として硫黄を含む化合物処理を行う場合に用いる硫黄を含む化合物溶液の硫黄を含む化合物の濃度は、特に限定するものではないが、好ましくは0.001%〜40%であり、より好ましくは0.05〜20%、更に好ましくは0.05〜10%である。
溶剤はコストや操業性、環境汚染防止性等を総合的に考慮して水が一般的であるが、必要によっては、アルコール系、エステル系、エーテル系、ケトン系等の他の有機溶剤を適量併用した水性液として使用することが有効である。
【0025】
金属への被覆方法は、特に限定されず、一般に公知の方法、例えば、ロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、ディッピング、カーテンフローコーター、刷毛塗り、静電気塗装、浸漬等が採用できるが、エアースプレー処理が最適であり、スプレーで金属表面に均一になるように塗装すればよい。
【0026】
その後、熱風、誘導加熱、近赤外、遠赤外等の加熱又は自然乾燥によって乾燥・硬化される、金属の乾燥・硬化温度は、特に限定されないが、常温以上の温度を確保すれば充分に目的を果たすことができる。好ましくは常温から180℃以下更に好ましくは80℃〜120℃である。
【0027】
更に本発明では、カテキン類をより強固に固着する方法として、カテキン処理を行う前処理として有機酸処理を行うこともできる。これらの処理は、金属とカテキン類をいっそう結合しやすくし、カテキン皮膜の形成速度を促進する効果がある。
処理する順序としては、まず有機酸処理を行い、乾燥後、カテキン被膜処理を行い、再度乾燥工程をとればよい。
有機酸処理に用いる成分としては特に限定するものではないが、シュウ酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、安息香酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸、タンニン酸、キナ酸、没食子酸、エラグ酸等が挙げられるが、特にシュウ酸が好ましい。
エラグ酸、没食子酸、キナ酸等はカテキン誘導体の中に含有していてもよいし、添加してもよい。
【0028】
前処理として有機酸処理を行う場合に用いる有機酸溶液濃度は、特に限定するものではないが、好ましくは0.001%〜40%であり、より好ましくは0.05〜20%、更に好ましくは0.05〜10%である。
溶剤はコストや操業性、環境汚染防止性等を総合的に考慮して水が一般的であるが、必要によっては、アルコール類等の有機溶剤を適使用することができる。
この時のアルコール類としては、一価アルコール、多価アルコールが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0029】
金属への有機酸処理方法は、特に限定するものではないが、一般に公知の方法、例えば、ロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、ディッピング、カーテンフローコーター、刷毛塗り、静電気塗装、浸漬等が採用できるが、浸漬処理が最適である。
浸漬時間は特に限定するものではないが、24時間以内の浸漬時間を確保すれば十分に目的を果たすことができるが、好ましくは1〜12時間であり、より好ましくは1〜3時間である。時間が短いと処理が十分でない場合があり、これ以上に時間が長くなっても効果はあまり変化しない。
【0030】
その後、熱風、誘導加熱、近赤外、遠赤外等の加熱又は自然乾燥によって乾燥・硬化される、金属の乾燥・硬化温度は、特に限定するものではないが、常温以上の温度を確保すれば充分に目的を果たすことができる。好ましくは常温から180℃以下更に好ましくは80℃〜120℃である。
【0031】
本発明は、上記成分のほかに、本発明の効果を阻害しない程度に、必要に応じて他の添加剤、例えば分散剤、増粘剤、界面活性剤、防カビ剤、殺菌剤等を添加してもよい。また、金属とカテキン誘導体との反応を促進する、反応促進剤として、pH調整剤等を適量含有させることも可能である。pH調製剤としては、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の塩類、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類、等が挙げられる。
また、金属とカテキン誘導体の密着性を向上させる目的でキレート剤を適量含有させることも可能である。キレート剤としては、例えばクエン酸、エチレンジアミン酢酸、エチレンジアミン酢酸二ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシルエチレンジアミン三酢酸等が挙げられる。
【0032】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
以下に例示した実施例及び比較例では、次の試料を使用した。
本発明のカテキン類組成物の一例として、緑茶抽出物(太陽化学製「サンフェノン」)を使用した。比較としてタンニン(大杉型紙工業製「柿渋」)及びタンニン酸(富士化学工業社製「タンニン酸AL」)溶液及びウーロン茶エキス(太陽化学製「カメリアエキスOT」)を使用した。
鉄試験片には、幅1cm、長さ3cm、厚み1.2mm、重さ1.7gの軟鋼(SS40)を用い被覆金属を作成した。
【0034】
なお、本実施例で使用した茶抽出物、タンニン、タンニン酸の非重合体カテキン類及び総ポリフェノール含量は以下の方法で行った。
<非重合体カテキン類の測定>
茶抽出物溶液、タンニン溶液、タンニン酸溶液をフィルター(0.45μm)でろ過し、島津製作所製、高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP)を用い、Cep−pakC18カラム(4.6mm×10mm:資生堂製)を装着し、カラム温度40℃で分析した。移動相はメタノール/水/リン酸=17/83/0.5溶液とし、試料注入量は10μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った。
ここで検出された(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(−)−ガロカテキン、(−)−カテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキン等、非重合体成分の含量を合計し、非重合体カテキン含量とした。
【0035】
<総ポリフェノール含量の測定>
総ポリフェノール含量の測定は酒石酸鉄法により、標準液として没食子酸エチルを用い、没食子酸エチルの換算量として求める。(既存添加物第3版 チャ抽出物中のポリフェノール含量測定法)試料5mLを酒石酸鉄標準溶液(硫酸第一鉄・7水和物100mg、酒石酸ナトリウム・カリウム500mgを蒸留水で100mLとする)5mLで発色させ、リン酸緩衝液(1/15Mリン酸水素二ナトリウム溶液と1/15Mリン酸二水素ナトリウム溶液を混合しpH7.5に調整する)で25mLに定容したものを、540nmで吸光度を測定し、没食子酸エチルによる検量線から総ポリフェノール含量を求めた。
【0036】
実施例1. 本願発明品の被覆金属の調製
0.05%サンフェノン60H(非重合体カテキン類含量41.0%、総ポリフェノール含量51.0%、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類=0.80、太陽化学製)水溶液200mLを調製し、鉄試験片1.7gを室温で2時間浸漬させた。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0037】
実施例2. 本願発明品の被覆金属の調製
0.05%サンフェノン70H(非重合体カテキン類含量60.2%、総ポリフェノール含量70.2%、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類=0.85、太陽化学製)水溶液200mLを調製し、鉄試験片1.7gを室温で2時間浸漬させた。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0038】
実施例3. 本願発明品の被覆金属の調製
0.05%サンフェノン100S(非重合体カテキン類含量75.3%、総ポリフェノール含量94.0%、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類=0.80、太陽化学製)水溶液200mLを調製し、鉄試験片1.7gを室温で2時間浸漬させた。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0039】
実施例4. 本願発明品の被覆金属の調製
0.05%サンフェノン100S水溶液200mLを調製し、鉄試験片1.7gにスプレーで吹き付け処理を行った。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0040】
実施例5. 本願発明品の被覆金属の調製
0.05%サンフェノンBG(非重合体カテキン類含量82.3%、総ポリフェノール含量94.0%、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類=0.87、太陽化学製)水溶液200mLを調製し、鉄試験片1.7gを室温で2時間浸漬させた。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0041】
実施例6. 本願発明品の被覆金属の調製
0.05%サンフェノンEGCg(非重合体カテキン類含量96.2%、総ポリフェノール含量>99%、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類=0.96、太陽化学製)水溶液200mLを調製し、鉄試験片1.7gを室温で2時間浸漬させた。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0042】
実施例7. 本願発明品の被覆金属の調製
0.05%サンフェノン100S水溶液200mLを調製し、あらかじめ研磨しておいた鉄試験片1.7gを室温で2時間浸漬させ、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0043】
実施例8. 本願発明品の被覆金属の調製(アミン処理)
1%EDTA・2Na水溶液を調製し、鉄試験片を室温で2時間浸漬し、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させる前処理を行った。次に0.05%サンフェノン100S水溶液200mLを調製し、鉄試験片1.7gを室温で2時間浸漬させ、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0044】
実施例9. 本願発明品の被覆金属の調製(硫黄を含む化合物で処理)
1%二酸化硫黄水溶液を調製し、鉄試験片にエアースプレーでふきつけ、ヘアードライアーで熱風乾燥を行った。次に0.05%サンフェノン100S水溶液200mLを調製し、鉄試験片1.7gを室温で2時間浸漬させ、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0045】
実施例10. 本願発明品の被覆金属の調製(有機酸で処理)
1%シュウ酸水溶液を調製し、鉄試験片に塗布し、ヘアードライアーで熱風乾燥を行った。
次に1%サンフェノン100S水溶液200mLを調製し、鉄試験片(1.7g)表面に塗布しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0046】
実施例11. 本願発明品の被覆金属の調製(焼成処理)
1%サンフェノン100S水溶液を調製し、鉄試験片(1.7g)表面に塗布し、恒温器(150℃)に入れて、高温加熱乾燥を行った。
【0047】
実施例12. 本願発明品の被覆金属の調製(有機酸で処理した後、焼成処理)
1%シュウ酸水溶液を調製し、鉄試験片に塗布し、恒温器(150℃)に入れて、高温加熱乾燥を行った。
次に1%サンフェノン100S水溶液を調製し、鉄試験片(1.7g)表面に塗布し、恒温器(150℃)に入れて、高温加熱乾燥を行った。
【0048】
比較例1. 比較品の被覆金属の調製(クロメート処理)
本発明の比較として、市販の塗布クロメート処理である日本パーカライジング社製「ZM−1300AN」を用い、鉄試験片にZM1300ANをロールコースターにて金属板の両面に塗布し、ヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0049】
比較例2. 比較品の被覆金属の調製(縮合型タンニン)
本発明の比較としてタンニンを用いた。0.05%タンニン水溶液(非重合体カテキン類含量0%、総ポリフェノール含量>99%、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類=0、大杉型紙工業製)を調製し、鉄試験片を室温で2時間浸漬させた。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0050】
比較例3. 比較品の被覆金属の調製(タンニン酸)
本発明の比較としてタンニン酸を用いた。0.05%タンニン酸(非重合体カテキン類含量0%、総ポリフェノール含量46.7%、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類=0、富士化学工業製)水溶液を調製し、鉄試験片を室温で2時間浸漬させた。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0051】
比較例4. 比較品の被覆金属の調製(ウーロン茶エキス)
本発明の比較としてウーロン茶エキスを用いた。0.05%ウーロン茶エキス(非重合体カテキン類含量4.3%、総ポリフェノール含量8.7%、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類=0.49、太陽化学製)水溶液を調製し、鉄試験片を室温で2時間浸漬させた。その後、取り出しヘアードライアーを使って熱風乾燥させた。
【0052】
これら実施例及び比較例で得られた被覆金属を用いて以下の試験を行った。
【0053】
(試験1)皮膜厚さの測定
電磁誘導式膜厚計(株式会社 テックジャム製)を用い、各表面被覆金属片について皮膜厚の測定を行った。
【0054】
(試験2)防錆試験(塩水噴霧試験)
各表面被覆金属片について、JIS Z 2231(塩水噴霧試験法)に準じて、3時間、9時間、24時間における被覆金属片表面の白錆発生量を測定し、下記の基準で評価する。
(評価基準)
◎ :さび全くなし
○:さび5%以下
△:30%以上さび
×:50%以上さび
××:全面さび
【0055】
(試験3)耐食性試験
耐食性試験は以下の方法で行った。真空ポリカデシケーター(アズワン製)中に飽和塩化カリウム溶液を入れ、そのデシケーターを恒温器(40℃)に入れることで湿度90%の状態を再現した。湿度90%の環境中に実施例1〜9、及び比較例1〜3にしたがって処理した鉄試験片及び未処理の鉄試験片をいれて1週間サビを発生させた。
腐食後の試験片の重量から腐食前の重量を差し引いた値を腐食減量とした。学振法(V−NaSO合成塗布高温腐食試験学振法)に従って、18%NaOH−3%KMnO溶液及び10%クエン酸アンモニウム溶液による脱スケール後の試験片重量を測定した。この値を腐食前の試験片重量から差し引いた値を腐食減量とした。
【0056】
上記試験1〜3の結果を表1にまとめて示した。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1,2,3,5,6を比較すると、非重合体カテキン含量が多い程、非重合体カテキン類/総ポリフェノール類の比が高い程、皮膜厚が厚く、錆発生が少なく、耐食性が向上することがわかる。
実施例3,4を比較すると、浸漬処理とスプレーの差はほとんど無いことがわかる。
実施例3,7,8,9,10を比較すると、試験片が未処理のものよりも、研磨処理や、アミン処理、硫黄を含む化合物,有機酸で処理することにより、皮膜厚が厚く、錆発生が少なく、耐食性が向上することがわかる。
また、実施例3,11,12を比較すると、高温で焼成処理することによって耐食性の向上がみられ、有機酸処理を併用することによってさらに耐食性の向上がみられた。
比較例1のクロメート処理は、優れた防食性能を有しており、実施例6,7,8,9の非重合体カテキン含量が多く非重合体カテキン類/総ポリフェノール類の比が高いもので処理したものや、研磨処理、アミン処理、有機酸処理、硫黄を含む化合物で処理したもの、加熱処理したものは、それと同等の防錆、耐食性を有することがわかる。
また比較例3、5のタンニン酸を使用した例では、防錆皮膜の形成はみられるが、耐食性が悪く商品価値に欠ける。また、比較例2,4のように重合型カテキンを多く含むタンニンやウーロン茶エキスで処理した場合、防錆皮膜の形成が少なく、防錆効果があまりないことがわかる。
【0059】
以上の結果より、本発明品は、天然の植物由来でありながら、従来のクロメート処理と同等の防錆、耐食性を有していることがわかる。
【0060】
本発明の実施態様ならびに目的生成物を挙げれば以下の通りである。
(1) 固形分として非重合体カテキン含量が40%以上であり、(A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類との含量比[(A)/(B)]が0.7以上であるカテキン類組成物で処理することによって得られた被覆金属。
(2) 金属をアミン処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)記載の被覆金属。
(3) 金属を硫黄を含む化合物で処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の被覆金属。
(4) 金属を有機酸処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)〜(3)いずれか記載の被覆金属。
(5) 金属をカテキン類組成物で処理した後、焼成処理することを特徴とする前記(1)〜(4)いずれか記載の被覆金属。
(6) アミン処理、有機酸処理、硫黄を含む化合物のいずれかで処理した金属を、カテキン類組成物で処理した後、焼成処理することを特徴とする前記(1)〜(5)いずれか記載の被覆金属。
(7) 金属表面を脱脂後、処理することを特徴とする前記(1)〜(6)いずれか記載の被覆金属。
(8) 表面を研磨して表面の酸化物を除去した金属を処理することを特徴とする前記(1)〜(7)いずれか記載の被覆金属。
(9) 表面を研磨して表面の酸化物を除去した直後の金属を処理することを特徴とする前記(1)〜(7)記載の被覆金属。
(10) カテキン類組成物がツバキ科植物であるチャより抽出して得られるカテキン類組成物であることを特徴とする前記(1)〜(9)いずれか記載の被覆金属。
(11) カテキン類組成物が緑茶より抽出して得られるカテキン類組成物であることを特徴とする前記(1)〜(9)いずれか記載の被覆金属。
(12) 固形分として非重合体カテキン含量が60%以上であるカテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)〜(11)いずれか記載の被覆金属。
(13) 固形分として非重合体カテキン含量が80%以上であるカテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)〜(11)いずれか記載の被覆金属。
(14) 固形分として非重合体カテキン含量が90%以上であるカテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)〜(11)いずれか記載の被覆金属。
(15) (A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類の含有重量比[(A)/(B)]が0.8以上あるカテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)〜(14)いずれか記載の被覆金属。
(16) (A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類の含有重量比[(A)/(B)]が0.9以上あるカテキン類組成物で処理することを特徴とする前記(1)〜(14)いずれか記載の被覆金属。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分として非重合体カテキン含量が40%以上であり、(A)非重合体カテキン類と(B)総ポリフェノール類との含量比[(A)/(B)]が0.7以上であるカテキン類組成物で処理することによって得られた被覆金属。
【請求項2】
金属をアミン処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする請求項1記載の被覆金属。
【請求項3】
金属を硫黄を含む化合物で処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする請求項1又は2記載の被覆金属。
【請求項4】
金属を有機酸を含む化合物で処理した後、カテキン類組成物で処理することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の被覆金属。
【請求項5】
金属をカテキン類組成物で処理した後、焼成処理することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の被覆金属。

【公開番号】特開2007−39776(P2007−39776A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227999(P2005−227999)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】