説明

カテキン代謝物の製造方法

【課題】微生物変換による簡便な5−フェニル―4―ハイドロキシ吉草酸および/または5−フェニルγ−バレロラクトンの新規な製造方法の提供。
【解決手段】出発原料であるカテキン類あるいはカテキン誘導体を、選択的に5−フェニル―4―ハイドロキシ吉草酸および/または5−フェニルγ−バレロラクトンに変換できる微生物の培養菌体またはその培養菌体の調製物の存在下、出発原料を嫌気的にインキュベーション処理し、目的の化合物を極めて簡便に製造する方法。尚、出発原料としてカテキン誘導体を使用する場合は微生物としてはユウバクテリウム属あるいはクロストリジウム属のいずれかに属するものを挙げることが出来る。出発原料としてカテキン類を使用する場合はこれらの微生物に加え、さらにエガーテラ属あるいはアドラークルーツィア属に属する微生物を使用する必要がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症作用やがん抑制作用が期待されるカテキン類の代謝産物であるフェニル−4−ハイドロキシ吉草酸およびフェニルγ−バレロラクトンの生物学的変換による製造方法、該製造方法で得られる組成物、該組成物を含有する口腔適用対象物及び上記化合物に変換する微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
式(II)及び式(III)で表される化合物は、カテキン類を経口摂取したときに尿から検出されるカテキン類の代謝産物として知られている。最近、茶カテキン類の代謝産物である式(III)に示される化合物の一つである5−(3’,4’,5’−トリハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトンに抗炎症作用やがん抑制作用が期待できるという報告がなされている(非特許文献1)。このようなことから、主要なカテキン類の代謝物である式(II)及び式(III)に示される化合物の生理活性機能が注目されている。
【0003】
従来、式(II)及び式(III)に示される化合物は、カテキン類の代謝産物として同定されているだけであったため、その製造方法に関する知見はほとんどなく、先に示した非特許文献1に、式(III)に示される化合物である5−(3’,4’,5’−トリハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトンおよび5−(3’,4’−ジハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトンの化学合成法が開示されているに過ぎない。しかし、この化学合成法では合成のステップが多く煩雑であるばかりでなく、合成した化合物がラセミ体であるという欠点を有していた。
【0004】
【非特許文献1】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,15, 873−876,2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、下記式(I)に示すカテキン誘導体を選択的に下記式(II)および/または式(III)の化合物に変換できる微生物を見出すとともに、該微生物を用いて極めて簡便に式(II)及び式(III)の化合物を製造する方法を見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、請求項1記載の本発明は、
式(I)
【化5】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素(H)を表す)
に示すカテキン誘導体を資化して
式(II)
【化6】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素(H)を表す)
に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または
式(III)
【化7】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素(H)を表す)で表される5−フェニルγーバレロラクトンを生成する微生物を、式(I)に示すカテキン誘導体含有物に作用させることを特徴とする式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法を提供するものである。なお本発明においては式(II)で示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸は、その塩をも包含し、例えば式(II)化合物のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などを挙げることが出来る。
【0007】
また、請求項2記載の本発明は、式(I)に示す化合物を資化して、式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成する微生物を、式(I)に示すカテキン誘導体含有物の存在下嫌気性条件で培養することを特徴とする式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法である。
【0008】
請求項3記載の本願発明は、式(I)に示す化合物を資化して、式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成する微生物が、ユウバクテリウム(Eubacterium) 属あるいはクロストリジウム(Clostridium)属細菌から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至2記載の製造方法である。
【0009】
請求項4記載の本発明は、式(I)に示す化合物を資化して式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成する微生物が、ユウバクテリウム・プラウティATCC29863(Eubacterium plautii ATCC29863)、ユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42,FERM P−21765)あるいはクロストリジウム・オルビシンデンスATCC49531(Clostridium orbiscindens ATCC49531)から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至3記載の製造方法である。
【0010】
請求項5記載の本発明は、
式(IV)
【化8】

(式中、Rは水酸基(OH)または水素(H)を表す)に示すカテキン類を資化して、式(I)に示すカテキン誘導体を生成する能力を有するエガーテラ(Eggerthella)属および/またはアドラークルーツィア(Adlercreutzia)属の微生物を、式(IV)に示すカテキン類に作用させて、式(I)に示すカテキン誘導体を生成させることを特徴とする請求項1乃至4記載の式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法である。
【0011】
請求項6記載の本発明は、式(IV)に示すカテキン類を資化して、式(I)に示すカテキン誘導体を生成する能力を有する微生物が、エガーテラ・レンタJCM9979(Eggerthella lenta JCM9979)およびアドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s―5(Adlercreutzia equolifaciens MT4s−5,FERM P−21738)である請求項1乃至5記載の式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法である。
尚、アドラークルーツィア・エクオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)は新規微生物であり、現在、MT4s−5株と16SrRNA遺伝子の相同性が99.9%あるアドラークルーツィア・エクオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)と同様に、MT4s−5と16SrRNA遺伝子の相同性が99.9%あるアサッカロバクター・セラタス(Asaccharobactore celatus)が別々に新種提案されている。従って、アドラークルーツィア・エクオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)とアサッカロバクター・セラタス(Asaccharobactore celatus)を同一菌種とみなす。
【0012】
請求項7記載の本発明は、請求項1乃至6記載の製造方法によって得られる式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸含有物のpHを3以下に調整することによって、式(II)の化合物を式(III)に示す5−フェニルγ−バレロラクトンに変換することを特徴とする式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法である。
【0013】
請求項8記載の本発明は、請求項1乃至6記載の製造方法によって得られる式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物のpHを8以上に調整することあるいは式(III)の化合物のラクトン環を開環する微生物によって、式(III)の化合物を式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸に変換することを特徴とする式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸含有物の製造方法である。
【0014】
請求項9記載の本発明は、請求項1乃至8記載の製造方法で得られる式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸あるいは式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンの少なくとも一つを必須成分として含有することを特徴とする組成物を提供するものである。
【0015】
請求項10記載の本発明は、請求項9記載の組成物を含有してなる口腔適用対象物を提供するものである。
【0016】
請求項11記載の本発明は、式(I)に示すカテキン誘導体を資化して式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成するユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42,FERM P−21765)を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、式(I)で示されるカテキン誘導体を、微生物の作用により簡単に式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンに変換できる。また、式(IV)で示されるカテキン類を式(I)のカテキン誘導体に変換する微生物を併用することで、該カテキン類から容易に上記に示した5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または5−フェニルγ−バレロラクトンを得ることができる。これらの化合物は、抗炎症作用やがん抑制作用のほか、他の生理活性作用も期待できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の生物学的変換方法では、前記式(I)で示されるカテキン誘導体を前記式(II)で示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または前記式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンへ変換する能力を有する微生物であれば、微生物の種類を問うことなく使用することができる。そのような微生物の好ましい例としては、ユウバクテリウム属細菌およびクロスリジウム属細菌を上げることができ、さらに好ましくは、ユウバクテリウム・プラウティATCC29863(Eubacterium plautii ATCC29863)、ユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42,FERM P−21765)およびクロストリジウム・オルビシンデンスATCC49531(Clostridium orbiscindens ATCC49531)を挙げることができる。このうち、ユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42)株は、特許生物寄託センターに、受託番号FERM P−21765として寄託されているラットの糞中から分離された微生物である。
【0019】
上記MT42株の16SrRNA遺伝子の全塩基配列(1484bp)は、配列番号1の通りである。得られたMT42株の16SrRNA遺伝子の塩基配列を国際塩基配列データベース(DDBJ/GeneBank)の配列データと比較し相同性を調べた。その結果、MT42菌株の16SrRNA遺伝子の塩基配列はEubacterium plautii
CCUG28093Tと99.7%、Clostridium orbiscindens DSM67と99.5%の相同性を示した。以上の結果から本発明者らはMT42菌株がユウバクテリウム・プラウティ(Eubacterium plautii)であると同定した。
【0020】
なお、16SrRNA遺伝子の全塩基配列(1484bp)の解析は以下の通りに行った。
GAM寒天培地(日水製薬(株)社製)により37℃の嫌気条件下で2日間培養したMT42株PrepMan Ultra Reagent (Applied Biosystems社製)を用いてDNA抽出を行った。得られたDNA溶液をPCR反応用DNA templateとして用い、MicroSeq Full Gene 16SrDNABacterial IdentificationPCR Kit(Applied Biosystems社製)により、16SrRNA遺伝子領域1484pをPCR反応で増幅させた。得られたPCR反応産物はQuickStepTM2PCR
Purification Kit(EdgeBioSystems社製)を用いて精製した。精製したPCR反応産物をBig−Dye Termination反応用templateとして用い、MicroSeq Full Gene 16SrDNA Bacterial Identification Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)によりシークエンス反応(サイクルシークエンス)を行った。サーマサイクラーには、GeneAmp
PCR System 9700(Applied Biosystems社製)を使用した。得られた反応液はAutoSeqTMG-50(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて精製し、ABI PRISM(登録商標)3100Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)を用いて塩基配列の解読を行った。得られた本菌株の16SrRNA遺伝子(1484bp)の塩基配列は配列番号1のとおりである。
【0021】
また、本発明の生物学的変換方法では、式(IV)で示されるカテキン類を式(I)のカテキン誘導体に変換する微生物を併用することで、該カテキン類含有物から容易に上記に示した5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または5−フェニルγ−バレロラクトン含有物を得ることができる。本発明の方法では、エガーテラ(Eggerthella)属およびアドラークルーツィア(Adlercreutzia)属に属し、式(IV)で示されるカテキン類を式(I)のカテキン誘導体に変換する能力を有する微生物であれば、種および株の種類を問うことなく使用することができる。
【0022】
そのような微生物の好ましい例として、エガーテラ・レンタJCM9979(Eggerthella lenta JCM9979)およびアドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5(Adlercreutzia equolifaciens MT4s−5)を挙げることができる。このうち、アドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5(Adlercreutzia equolifaciens MT4s−5)株は、特許生物寄託センターに、受託番号FERM P−21738として寄託されているラットの糞中から分離された微生物である。
【0023】
上記MT4s−5株の16SrRNA遺伝子の全塩基配列(1460bp)は、配列番号2の通りである。得られたMT4s−5株の16SrRNA遺伝子の塩基配列を国際塩基配列データベース(DDBJ/GeneBank)の配列データと比較し相同性を調べた。その結果、MT4s―5菌株の16SrRNA遺伝子の塩基配列は、Adlercreutzia equolifaciens
FJC−B9Tと99.9%、Adlercreutzia equolifaciens FJC−D53およびAdlercreutzia equolifaciens
FJC−A10と99.8%、Adlercreutzia equolifaciens FJC−B20と99.5%の相同性を示した。以上の結果から、MT4s−5菌株はアドラークルーツィア・エクオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)またはアサッカロバクター・セラタス(Asaccharobacter celatus)であると同定した。
【0024】
なお、MT4s−5菌株の16SrRNA遺伝子の全塩基配列(1460bp)の解析は以下の通りに行った。GAM寒天培地(日水製薬(株)製)により37℃の嫌気条件下で2日間培養したMT4s−5株PrepMan
Ultra Reagent (Applied Biosystems社製)を用いてDNA抽出を行った。得られたDNA溶液をPCR反応用DNA
templateとして用い、MicroSeq Full Gene 16SrDNABacterial IdentificationPCR Kit(Applied Biosystems社製)により、16SrRNA遺伝子領域1460pをPCR反応で増幅させた。得られたPCR反応産物はQuickStepTM2PCR
Purification Kit(EdgeBioSystems社製)を用いて精製した。精製したPCR反応産物をBig−Dye Termination反応用templateとして用い、MicroSeq Full Gene 16SrDNA Bacterial Identification Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)によりシークエンス反応(サイクルシークエンス)を行った。サーマサイクラーには、GeneAmp
PCR System 9700(Applied Biosystems社製)を使用した。得られた反応液はAutoSeqTMG-50(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて精製し、ABI PRISM(登録商標)3100Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)を用いて塩基配列の解読を行った。得られたMT4s−5菌株の16SrRNA遺伝子(1460bp)の塩基配列は配列番号2のとおりである。
【0025】
本発明によれば、前記式(I)で示されるカテキン誘導体を前記式(II)で示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または前記式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンへ変換する能力を有する微生物の培養菌体の存在下または当該微生物が生育する培養液中に、出発原料(基質)である式(I)で示されるカテキン誘導体含有物を添加してインキュベーション処理することにより式(II)で示される5―フェニル―4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物を得ることができる。このインキュベーション処理は、前記微生物を培養後、培養菌体を集菌し、この菌体を緩衝液、生理食塩水、水などに懸濁させた後に基質を添加するか、前記微生物を培養する際あるいは培養開始後一定期間経過した培養液に基質を添加して行うことができる。培養開始後、基質を添加する時期は特に限定されないが、好ましくは培養2〜120時間の間に、より好ましくは4〜72時間、さらに好ましくは6〜48時間の間に添加すると効果的である。
【0026】
さらに、本発明では、式(IV)で示されるカテキン類を式(I)のカテキン誘導体に変換する微生物を、式(I)で示されるカテキン誘導体含有物を式(II)で示される5―フェニル―4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトンに変換する能力を有する微生物の培養菌体懸濁液または培養液に共存させ、式(IV)で示されるカテキン類含有物を基質として添加し、インキュベーション処理することにより、容易に上記に示した5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または5−フェニルγ−バレロラクトン含有物を得ることができる。このインキュベーション処理は、前記微生物を培養後、培養菌体を集菌し、この菌体を緩衝液、生理食塩水、水などに懸濁させた後に基質を添加するか、前記微生物を培養する際あるいは培養開始後一定期間経過した培養液に基質を添加して行うことができる。培養開始後、基質を添加する時期は特に限定されないが、好ましくは培養2〜120時間の間に、より好ましくは4〜72時間、さらに好ましくは6〜48時間の間に添加すると効果的である。
【0027】
また、式(IV)で示されるカテキン類を式(I)のカテキン誘導体に変換する微生物の培養菌体の存在下または当該微生物が生育する培養液中に、出発原料(基質)である式(IV)で示されるカテキン類含有物を添加してインキュベーション処理することにより、式(I)で示されるカテキン誘導体を生成させた後、式(I)で示されるカテキン誘導体含有物を式(II)で示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で示される5−フェニルγーバレロラクトンに変換する能力を有する微生物の培養菌体懸濁液または培養液を添加してインキュベーション処理することで目的とする式(II)および/または式(III)の化合物を得ることも可能である。さらに、式(IV)で示されるカテキン類含有物から微生物変換で得られる式(I)のカテキン誘導体を単離して、これを式(II)で示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトンに変換する能力を有する微生物の出発材料(基質)として用いることも可能である。
【0028】
上記の方法で生成した式(I)で示されるカテキン誘導体を単離するには、種々の既知精製手段を選択し、組み合わせて行うことができる。例えば、酢酸エチル、ブタノール、エーテルなどを用いた溶媒抽出、合成樹脂吸着剤の脱吸着を利用する方法、シリカゲルなどのカラムクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを単独あるいは適宜組み合わせて分離・精製することができる。
【0029】
前記に示した微生物を培養する場合には、該微生物が生育できる栄養源含有培地に接種し、嫌気的条件下で培養する。培養菌体を得るための微生物の培養および基質存在下での微生物の培養は、一般的な嫌気性微生物の培養方法を採用することができる。また、培養菌体を集菌した後、前記基質の存在下でインキュベーション処理する場合にも、嫌気条件下で行うことが望ましい。
【0030】
培養に用いられる培地としては、前記微生物が生育できる培地であれば特に限定されないが、例を挙げればGAMブイヨン(日水製薬(株)製)などが利用可能である。なお、式(IV)のうちRが水素であるカテキン類を式(I)のR1およびR2が水素であるカテキン誘導体に微生物変換するためには、培地中に水素及び蟻酸を添加することが望ましい。また、式(IV)のうちRが水酸基であるカテキン類を式(I)のR1が水酸基、R2が水素であるカテキン誘導体に微生物変換するためには、培地中に水素を添加する必要がある。さらに、水素や蟻酸を培地中に添加しない場合には、式(IV)および式(I)の化合物には作用しない水素および/または蟻酸生成微生物を共存させることも可能である。このような微生物の例として、大腸菌(Escherichia
coli)を挙げることができる。
【0031】
培養条件は、前記微生物が生育しうる範囲内で適宜選択することができる。通常、pH6.0〜7.5、35〜40℃であり、好ましくはpH6.5〜7.3、37〜39℃である。培養時間は通常24〜120時間、好ましくは48〜72時間である。上述した各種の培養条件は、使用する微生物の種類や特性、外部条件などに応じて適宜変更でき、最適条件を選択することができる。
【0032】
基質となる式(I)で示されるカテキン誘導体あるいは式(IV)で示されるカテキン類は、水、食塩水、緩衝液などのほか、水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどに溶解後、微生物の生育を阻害しない濃度範囲で培養液あるいは培養菌体の懸濁液に添加することができる。該基質の添加量は、微生物による変換が可能な濃度あるいは量の範囲内で適宜選択することができる。通常、培養液の場合には、培養液1リットル当たり0.3〜5gであり、好ましくは0.5〜2g、より好ましくは0.6〜1gである。また、培養後の菌体の懸濁液を用いる場合には、懸濁液1リットル当たり50〜500mg、好ましくは100〜250mgである。
【0033】
本発明の生物学的変換方法で生成した目的の式(II)で示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で示される5−フェニルγーバレロラクトン含有物から該目的化合物を単離するには、種々の既知精製手段を選択し、組合わせて行うことができる。例えば、酢酸エチル、ブタノールなどを用いた溶媒抽出、合成樹脂吸着剤の脱吸着を利用する方法、シリカゲルなどのカラムクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを単独あるいは適宜組み合わせて分離・精製することができる。
【0034】
本発明によれば、生物学的変換方法によって得られる式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸を式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトンに変換することも可能である。この変換は、式(II)の化合物や式(II)および式(III)の化合物の混合物のpHを酸性とすることにより達成できる。例を挙げれば、生物学的変換方法によって得られる式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物に酸(塩酸、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸など)を添加して、pH3以下、好ましくはpH2以下において、0〜50℃、好ましくは4〜40℃で1〜72時間、好ましくは2〜48時間インキュベーション処理することにより、式(II)に示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸を式(III)の5−フェニルγ−バレロラクトンに変換することが可能である。このような方法を用いることにより、式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物から、式(III)の化合物を式(II)および式(III)の化合物総量の少なくとも90%以上含有する組成物を得ることができる。
【0035】
また、本発明によれば、生物学的変換方法によって得られる(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトンを式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸に変換することも可能である。この場合には、式(III)の化合物や式(II)および式(III)の化合物の混合物のpHをアルカリ性とすることにより達成できる。例を挙げれば、生物学的変換方法によって得られる式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物にアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなど)を添加して、pH8以上、好ましくはpH9以上、さらに好ましくはpH10以上とし、0〜50℃、好ましくは4〜40℃で1〜72時間、好ましくは2〜48時間インキュベーション処理することにより、式(III)の5−フェニルγ−バレロラクトンを式(II)に示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸に変換することが可能である。このような方法を用いることにより、式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物から、式(II)の化合物を少なくとも式(II)および式(III)の化合物総量の90%以上含有する組成物を得ることができる。
【0036】
上記の、式(III)で示される化合物を式(II)の化合物に変換する方法としては、微生物学的変換方法も利用できる。例えば、ラットの糞あるいは盲腸内容物から嫌気培養によって得られる腸内細菌の培養菌体を式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物に作用させるか、あるいは上記の腸内細菌を式(III)で示される化合物の存在下で培養する。培養菌体との反応や培養条件は、前記の生物学的変換方法による(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトンを式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸の生成条件や式(IV)で示されるカテキン類を式(I)のカテキン誘導体に変換するための条件等を適用することができる。
【0037】
本発明の式(II)に示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸あるいは(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトンの少なくとも一つを必須成分として含有する組成物は、上記成分の粗製品でも精製品でもよく、また液状であっても乾燥品等であってもよい。また、組成物の必須成分の含量も特に限定されるものではないが、通常0.1以上、好ましくは1〜10%、より好ましくは15〜30%、さらに好ましくは40%以上含有する。
【0038】
本発明の前記組成物は、どのような形態であってもよく、例えば、粉末状であってもよいし液状であってもよい。また、本発明の組成物は、必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、甘味料などと併用して用いてもよい。抗酸化剤としては、例えば、クエン酸トコフェロール(三栄源・エイ・エフ・アイ社製)などが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン系非界面活性剤などが挙げられる。甘味料としては、砂糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、グリチルリチン、ステビア、アスパラテーム、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、その他のオリゴ糖としてシクロデキストリンが挙げられる。シクロデキストリンとしては、α−、β−、γ−シクロデキストリンおよび分岐α−、β−、γ−シクロデキストリンが使用できる。また、人工甘味料も使用できる。酸味料としては、天然成分から抽出した果汁類のほか、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、リン酸が挙げられる。
【0039】
本発明の飲食品は、式(II)に示される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸あるいは(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトンの少なくとも一つを必須成分として含有する組成物を配合することができるものであればどのような形態であってもよく、例えば、水溶液や混濁物や乳化物などの液状形態であっても、ゲル状やペースト状の半固形状形態であっても、粉末や顆粒やカプセルやタブレットなどの固形状形態であってもよい。
【0040】
本発明における飲食品としては、例えば、即席食品類(即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席味噌汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズドライ食品など)、炭酸飲料、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)の果汁や果汁飲料や果汁入り清涼飲料、柑橘類の果肉飲料や果粒入り果実飲料、トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガスなどの野菜を含む野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料やタバコなどの嗜好飲料・嗜好品類、マカロニ・スパゲッティ、麺類、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉、ギョーザの皮などの小麦粉製品、キャラメル・キャンディー、チューイングガム、チョコレート、クッキー・ビスケット、ケーキ・パイ、スナック・クラッカー、和菓子・米菓子・豆菓子、デザート菓子などの菓子類、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類、甘味料などの基礎調味料、風味調味料、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類などの複合調味料・食品類、バター、マーガリン類、マヨネーズ類、植物油などの油脂類、牛乳・加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリームなどの乳・乳製品、素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済み冷凍食品などの冷凍食品、水産缶詰め、果実缶詰め・ペースト類、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、水産乾物類、佃煮類などの水産加工品、畜産缶詰め・ペースト類、畜肉缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物・煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)などの農産加工品、ベビーフード、ふりかけ・お茶漬けのりなどの市販食品などが挙げられる。
【0041】
また、本発明の飲食品は口に含むことのできる医薬品、医薬部外品、化粧品なども含むことができる。医薬品としては日本薬局方に収められている医薬品で口に含むことができれば特に限定されるものではなく、その製剤形態としては、例えば、エアゾール剤、液剤、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、酒精剤、錠剤、シロップ剤、浸剤・煎剤、トローチ剤、芳香水剤、リモナーゼ剤などが挙げられる。医薬部外品としては厚生労働大臣が指定した医薬部外品で口に含むことができれば特に限定されるものではなく、例えば、内服液剤、健康飲料、消毒剤、消毒保護剤、ビタミン含有保健剤などが挙げられる。
【0042】
飲食品への本発明の組成物の配合方法は特に制限されるものではない。例えば、飲食品の形態が液状形態や半固形状形態である場合には、その調製段階において本発明の組成物をそのまま、あるいは水に溶解させた水溶液などとして添加し、均一化することにより行えばよい。また、本発明の組成物をアルコール水などの含水有機溶媒やエタノールなどの有機溶媒などに分散させた分散液として添加し、十分に攪拌してこれを分散させることも可能である。なお、このようにして得られた調製物を、噴霧乾燥機や凍結乾燥機などを用いて乾燥することで、粉末などの固形状形態としてもよい。また、飲食品の形態が固形状形態である場合には、その調製段階において本発明の組成物をそのまま、あるいは水に溶解させた水溶液などとして添加し、均一化することにより行えばよい。また、本発明の組成物をアルコール水などの含水有機溶媒やエタノールなどの有機溶媒などに分散あるいは溶解させた液として添加し、十分に混合させることも可能である。水難溶性の飲食品に本発明の組成物を配合する場合、必要に応じて飲食品にアルコール水などの含水有機溶媒やエタノールなどの有機溶媒などを添加してこれを溶解あるいは希釈し、ここに本発明の組成物を添加し、十分に攪拌して組成物を混合させるようにしてもよい。
【0043】
飲食品に対する本発明の組成物の配合量は、特に制限されないが、対象となる飲食品により配合量を適宜設定する。一般的には、最終製品中で0.01〜20重量%であることが好ましく、0.05〜10重量%であることがより好ましく、0.1〜5重量%であることがさらに好ましい。
【0044】
以下、本発明について具体的な例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
式(I)で示されるカテキン誘導体を式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で示される5−フェニルγ−バレロラクトンに変換する微生物のスクリーニング
細菌の分離源としてWistar系のラット(日本チャールスリバー(株))を使用した。ラットから新鮮な糞便約2gを採取し、GAMブイヨン(組成(1L中):ペプトン10g、ダイズペプトン3g、プロテオーゼペプトン10g、消化血清末13.5g、酵母エキス5g、肉エキス2.2g、肝臓エキス1.2g、ブドウ糖3g、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム3g、溶性デンプン5g、L−システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、pH7.1、日水製薬(株)社製)3mlに懸濁して糞溶液を調製した。糞溶液0.1mlをマイクロチューブに入れGAMブイヨン0.9mlを加えて混合し10倍に希釈した。この溶液を段階的に107倍まで希釈し、各希釈倍率の糞溶液10μlをそれぞれ式(I)で示されるカテキン誘導体(R1は水素(H)、R2は水酸基(OH)を示す)0.2mMを含むGAM寒天培地((組成(1L中):ペプトン10g、ダイズペプトン3g、プロテオーゼペプトン10g、消化血清末13.5g、酵母エキス5g、肉エキス2.2g、肝臓エキス1.2g、ブドウ糖3g、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム3g、溶性デンプン5g、L−システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、カンテン15g、pH7.1、日水製薬(株)社製)20ml中に混濁培養した。37℃で2日間嫌気培養(アネロパックケンキ(三菱ガス化学(株)社製)使用)を行った後、寒天培地中に出現したシングルコロニーをそれぞれ個別に5mlのGAMブイヨンに植菌した。この培地にフィルター滅菌(DISMIC−25cs 0.2μm アドバンテック東洋(株)社製)した(I)で示されるカテキン誘導体(R1は水酸基(OH)、R2は水素(H)を示す)水溶液(50mM)を50μl添加し、37℃で2日間嫌気培養を行った。培養液を遠心分離(15000×g、15分)し、上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、式(II)の5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸(R1は水素(H)、R2は水酸基(OH)を示す)を生成する菌株のスクリーニングを行った。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析は以下の条件で行った。
【0046】
使用カラム:CAPCELLPAK UG120(4.6mm×250mm、5μm、資生堂(株)社製)、カラム温度:40℃、流速:1ml/分、移動相:水/メタノール/アセトニトリル/リン酸=85 /10 /5 / 0.1(容量比(v/v/v/v))、検出器:UV270nm。
分析の結果、式(I)で示されるカテキン誘導体を式(II)の5―フェニル―4−ハイドロキシ吉草酸へ変換する能力を持つ微生物ユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42 FERM P−21765)株を単離した。
【実施例2】
【0047】
ユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42 FERM P−21765)株による式(I)で示されるカテキン誘導体(R1は水酸基(OH)、R2は水素(H)を示す)からの5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン含有物の生産
(緩衝液中での生産)
GAM寒天培地上に生育したMT42株を10mlのGAMブイヨンに植菌し、37℃で24時間嫌気培養した。この前培養液を新たに調整した同培地300mlに植菌し、37℃で24時間嫌気培養を行った。培養液を高速遠心分離(15000×g、20分)により集菌し、得られた菌体を滅菌水100mlで洗浄後、20mlのリン酸緩衝液(0.1M、pH7.1)に懸濁した。この懸濁液に基質となる式(I)のカテキン誘導体(R1は水酸基(OH)、R2は水素(H)を示す)を10mgになるように添加し、37℃の嫌気条件下で48時間インキュベーションした。反応液を高速遠心分離(15000×g、20分)し、菌体を除去した。上清に塩酸を適量添加しpHを3〜4に調整した後、20mlの酢酸エチルで3回抽出を行った。酢酸エチル相を合わせて減圧下で濃縮乾固し、乾固物を少量の純水に溶解後、凍結乾燥を行った。その結果、5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトンを含む含有物8.3mgが得られた。
【0048】
凍結乾燥後の乾燥粉末の分析はLC/MS分析によって行った。LC/MSの分析条件は以下の通りである。
使用カラム:CAPCELLPAK C18 MG(2.0×100.0mm,5μm 資生堂(株)社製)、カラム温度:40℃、流速:0.2ml/分、移動相A(水/アセトニトリル/酢酸=100/2.5/0.1 容量比(v/v/v)),B(水/アセトニトリル/メタノール/酢酸=50/2.5/50/0.1 容量比(v/v/v/v))、グラジエント:0−2分 アイソクラティック A100%、2−25分 リニアグラジエント A 100−0%、B0−100%、25.1−33分 アイソクラティック A100%、検出器:UV270nm、インターフェース:ESI、ポラリティ:ネガティブ。
【実施例3】
【0049】
ユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42 FERM P−21765)株による式(I)で示されるカテキン誘導体(R1は水素(H)、R2は水酸基(OH)を示す)からの5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトン含有物の生産
(培養液での生産)
GAM寒天培地上に生育したMT42株をGAMブイヨン10mlに植菌し37℃で24時間嫌気培養した。この前培養液を新たに調整した同培地100mlに植菌し、式(I)で示されるカテキン誘導体(R1は水素(H)、R2は水酸基(OH)を表す)を30mg添加した。この培地を37℃で48時間嫌気培養して変換反応を行った。反応液を高速遠心分離(15000×g、20分)し、菌体を除去した後、上清に酢酸を添加しpHを3.5に調整した。100mlの酢酸エチルで3回抽出を行った後、酢酸エチル溶液を合わせて減圧下で濃縮乾固した。乾固物に少量の純水を加えて溶解し、凍結乾燥を行った結果、5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン含有物56mgを得た。
【実施例4】
【0050】
ユウバクテリウム・プラウティATCC29863(Eubacterium plautii ATCC29863)株による式(I)で示されるカテキン誘導体(R1,R2は水素を表す)からの5−(3’−ハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’−ハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン含有物の生産
(培養液での生産)
GAM寒天培地上に生育したATCC29863株をGAMブイヨン10mlに植菌し、37℃で24時間嫌気培養した。この前培養液を新たに調整した同培地100mlに植菌し、式(I)で示されるカテキン誘導体(R1、R2は水素(H)を表す)を30mg添加した。37℃で48時間嫌気培養して変換反応を行った後、高速遠心分離15000×g、20分)で菌体を除去した。上清に酢酸を加えpH3.5に調整した。100mlの酢酸エチルで3回抽出を行った後、酢酸エチルを合わせて無水硫酸マグネシウムを適量添加して脱水を行った。ろ過により硫酸マグネシウムを除去し後、ろ液を減圧下で濃縮乾固した。乾固物に少量の純水を加えて溶解し、凍結乾燥を行った結果、5−(3’−ハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’−ハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン含有物42mgを得た。
【実施例5】
【0051】
クロストリジウム・オルビシンデンスATCC49531(Clostridium orbiscindens ATCC49531)株による式(I)で示されるカテキン誘導体(R1,R2は水酸基(OH)を表す)からの5−(3’、4’、5’−トリハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、4’、5’−トリハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン含有物の生産
(培養液での生産)
GAM寒天培地上に生育したATCC49531株をGAMブイヨン10mlに植菌し、37℃で24時間嫌気培養した。この前培養液を新たに調製した同培地100mlに植菌し、式(I)で示されるカテキン誘導体(R1、R2は水酸基(OH)を表す)を30mg添加した。37℃で48時間嫌気培養して変換反応を行った後、高速遠心分離機(15000×g、20分)に供し菌体を除去した。上清にリン酸を加えpH1.5に調整した後、80mlの酢酸エチル:ブタノール(1:1、溶量比(v/v))を加えてよく混合した。遠心分離(5000×g、5分)により2相に分けた後、有機溶媒相を回収した。この抽出を3回繰り返し行った。有機溶媒相を合わせて減圧下で濃縮乾固した。乾固物に5mlの純水を加えて溶解し、再度減圧下で濃縮乾固した。この操作を3回繰り返し行い、有機溶媒相に含まれていた酸を完全に除去した。乾固物に少量の純水5mlを加えて溶解し、凍結乾燥した。その結果、5−(3’、4’、5’−トリハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸、5−(3’、4’、5’−トリハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン含有物41mgを得た。
【実施例6】
【0052】
式(IV)のカテキン類を式(I)に示されるカテキン誘導体に変換する微生物のスクリーニング
細菌の分離源としてWistar系ラット(♂、日本チャールスリバー(株))を使用した。ラットから新鮮な糞便を採取し、採取直後に白金耳で糞を適量取り、GAM寒天培地上に画線した。37℃で48時間嫌気培養して菌を充分生育させた後、培地上に生育したコロニー群を数十箇所から掻き取り、式(IV)でされるエピガロカテキン(RはOH(水酸基)を示す)を0.5mM含むGAMブイヨン2mlにそれぞれ植菌した。この培養液を37℃で48時間嫌気培養した後、高速遠心分離(15000×g、15分)し、得られた上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、式(I)のカテキン誘導体(R1、R2は水酸基(OH)を示す)を生成している培養液を選択した。HPLC分析は実施例1の段落0044に示した条件と同じ条件で行った。目的のカテキン誘導体が生成されていた培養液から菌を取り、再度新たに調製したGAM寒天培地上に画線した。単菌になるまで上記と同様の操作を繰り返し行った。その結果、(I)のカテキン誘導体を生成する能力をもつアドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5(Adlercreutzia equolifaciens MT4s−5,FERM P−21738)株を単離した。
【実施例7】
【0053】
エガーテラ・レンタJCM9979(Eggerthella lenta JCM9979)株とユウバクテリウム・プラウティATCC29863(Eubacterium plautii ATCC29863)株および大腸菌K12(Escherichia
coli K12)株共存下での式(IV)で示される(Rは水素(H)を示す)エピカテキンからの5−(3’−ハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸ナトリウム塩の生産
(培養液)
JCM9979株を10mlのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。大腸菌K12株およびATCC29863株は5mlのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、前培養液とした。式(IV)で示されるエピカテキン(Rは水素(H)を示す)200mgを含む100mlのGAMブイヨンにJCM9979株、大腸菌K12株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。1mlをサンプリングし、高速遠心分離(15000×g、10分)して、菌体を除去し、上清をLC/MS分析に供した。式(I)で示されるカテキン誘導体(R1、R2は水素(H)を示す)が生成されているのを確認した後、さらにATCC29863株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養を行い、5−(3’−ハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’−ハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトンへの変換を行った。LC/MS分析は実施例2の段落0046記載の条件で行った。
【0054】
培養液を高速遠心分離(15000×g、10分、10℃)し、菌体を除去した。上清にリン酸を加えpH3.5に調整し、100mlの酢酸エチルを加え、目的化合物を抽出した。有機溶媒相を回収し、水相に再度酢酸エチル100mlを加えて抽出を行った。この抽出を3回繰り返し行った。回収した酢酸エチル相を合わせ、減圧下で濃縮乾固した。乾固物に30mlの純水を加えて溶解し、1Mの炭酸ナトリウム水溶液を適量加えてpH9.5に調整した。室温で20時間放置し、5−(3’−ハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトンを5−(3’−ハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸に変換した。2M塩酸を適量加えてpH7.0付近に調整した後、減圧下で濃縮を行った。5ml程度まで濃縮した後、塩酸で再度pHを2〜5に調整した。この濃縮液を高速遠心分離(15000×g、10分、4℃)後、上清を分取HPLCに供した。分取用HPLCの条件は以下の通りである。
【0055】
カラム:Capcellpak MG(20×150mm、5μm、(資生堂(株)社製)、流速9.5ml/分、温度40℃、溶媒A:アセトニトリル:メタノール:水(5:5:90 容量比(v/v/v))、溶媒B:アセトニトリル:メタノール:水(5:60:35 容量比(v/v/v))、グラジエント;0分:A70% B30%、5分:A70% B30%、15分:A20% B80%、18分:A20% B80%、19分:A70% B30%、24分:A70% B30%、検出器:UV230nmとした。
【0056】
得られた5−(3’−ハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸画分(約50ml)に1/2量の純水(25ml)を添加後、減圧下で濃縮し、溶液中の溶媒を除去して水溶液にした。この水溶液を純水で平衡化した陽イオン交換樹脂(ダイアイオンSK1B ナトリウム型、10×65mm)に通液し、さらに純水で溶出した。得られた溶液を減圧濃縮し凍結乾燥した結果、5−(3’−ハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸のナトリウム塩95mgが得られた。
【実施例8】
【0057】
アドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5(Adlercreutzia equolifaciens MT4s−5,FERM P−21738)株、ユウバクテリウム・プラウティ MT42(Eubacterium plautii MT42 FERM P−21765)株および大腸菌K12(Escherichia
coli K12)株の共存下での式(IV)で示された(Rは水酸基(OH)を示す)エピガロカテキンからの5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトン含有物の生産
(培地中)
MT4s−5株を30mlのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。大腸菌K12株およびMT42株は10mlのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、前培養液とした。式(IV)で示されたエピガロカテキン(Rは水酸基(OH)を示す)290mgを含む100mlのGAMブイヨンに上記3菌株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養して変換反応を行い、5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン含有物を得た。培養液を高速遠心分離(15000×g、10分、10℃)し、菌体を除去した。上清に塩酸を加えpH3.5に調整した後、120mlの酢酸エチルで3回抽出した。酢酸エチル相(約350ml)に40mM炭酸ナトリウム水溶液100mlを加えよく混合した。遠心分離(5000×g、5分)により2相に分離させ、水相を回収した。再度酢酸エチル相に40mM炭酸ナトリウム水溶液100mlを加え、同様に2相に分離した。回収した炭酸ナトリウム水溶液のpHを7.0付近に調整した後、約5mlになるまで減圧濃縮した。さらに塩酸を加えてpH2.0〜5.0に調製し、高速遠心分離(15000×g、20分、4℃)後、上清を分取用HPLCに供した。分取HPLCの条件は実施例7の段落0053に示した方法と同様である。ただし、グラジエントは0分:A80% B20%、5分:A80% B20%、15分:A20% B80%、18分:A20% B80%、19分:A80% B20%、24分:A80% B20%に設定した。得られた5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸の画分は実施例7の段落0054に示した方法で処理した。その結果、5−(3’、5’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸のナトリウム塩が103mg得られた。
【実施例9】
【0058】
エガーテラ・レンタJCM9979(Eggerthella lenta JCM9979)株およびユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42 FERM P−21765)株の共存下での式(IV)のエピカテキンからの5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトン含有物の生産
(緩衝液中)
GAMブイヨン30mlにJCM9979株を植菌し、37℃で48時間嫌気培養を行った。この前培養液を新たに調製した同培地500mlに植菌し、37℃で48時間嫌気培養を行った。同様にMT42株を10mlのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、この前培養液を同培地300mlに植菌し、37℃で24時間嫌気培養した。この2菌株の培養液を合わせて高速遠心分離(15000×g、15分、4℃)し、得られた菌体を滅菌水200mlで一度洗浄した。得られた菌体を予め高圧蒸気滅菌(115℃、15分)した50mlのリン酸緩衝液(0.1M、pH7.1)に懸濁し、式(IV)で示される(Rは水素(H)を示す)エピカテキン水溶液(30mg/3ml純水)をフィルター滅菌(DISMIC−25cs 0.2μm アドバンテック東洋(株)社製)処理をして加え、37℃で3日間嫌気培養を行った。LC/MS分析の結果、5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸(面積値55%、UV270nm)、5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトン(面積値14%、UV270nm)の生成が確認された。LC/MS分析は実施例2の段落0046に示した条件と同様の方法で行った。この溶液を高速遠心分離(15000×g、10分)し、上清に酢酸を添加してpH3.5に調整した。50mlの酢酸エチルで3回抽出した後、酢酸エチル相を減圧下で濃縮乾固した。乾固物に少量の純水を加えて凍結乾燥に供した結果、5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトン含有物27mgが得られた。
【実施例10】
【0059】
エガーテラ・レンタJCM9979(Eggerthella lenta JCM9979)株およびユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42 FERM P−21765)株の共存下での式(IV)で示される(Rは水素(H)を示す)エピカテキンからの5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン含有物の生産
(培養液中)
JCM9979株を30mlのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養した。またMT42株は10mlのGAMブイヨンで24時間嫌気培養した。式(IV)で示される(Rは水素(H)を示す)エピカテキン215mgを含む100mlのGAMブイヨンに上記2株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養して変換反応を行い、5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトンを生成させた。培養液を高速遠心分離(15000×g、10分、10℃)して、菌体を除去後、上清に塩酸を加えpH3.5に調整した。この上清液を120mlの酢酸エチルで3回抽出し、酢酸エチル相を減圧下で濃縮乾固した。沈殿を少量の純水に溶解し、凍結乾燥した結果、5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸、5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトン含有物506mgを得た。
【実施例11】
【0060】
実施例10で得られた含有物を純水30mlに溶解後、2M塩酸を添加してpH1.5に調整した。この水溶液を室温で24時間放置し、5−(3’、4’−ハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸を5−(3’、4’−ハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトンへ変換した。水溶液のpHを1M炭酸ナトリウムで4.0に調整後、5倍量の純水で平衡化した合成吸着剤ダイアイオンHP−20(110ml、三菱化学(株)社製)カラムに展開し、カラム容量の5倍量の純水で洗浄した後、吸着画分を5倍量の50%メタノール水溶液で溶出した。この50%メタノール溶出画分を減圧下で濃縮乾固し、凍結乾燥した結果、5−(3’、4’−ジハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトン273mgを得た。
【実施例12】
【0061】
エガーテラ・レンタJCM9979(Eggerthella lenta JCM9979)株とユウバクテリウム・プラウティMT42(Eubacterium plautii MT42 FERM P−21765)株の共存下での式(IV)で示される(Rは水酸基(OH)を示す)エピガロカテキンからの5−(3’、4’、5’−トリハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸および5−(3’、4’、5’−トリハイドロキシフェニル)γ―バレロラクトン含有物の生産
(培地中)
JCM9979株を30mlのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。大腸菌K12株およびMT42株は10mlのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、前培養液とした。式(IV)で示される(Rは水酸基(OH)を示す)エピガロカテキン221.4mgを含む10%メタノール水溶液10mlをフィルター滅菌(DISMIC−25cs 0.2μm アドバンテック東洋(株)社製)し、9.5mlをGAMブイヨン100mlに加えた。上記3菌株の前培養液を加え、37℃で3日間嫌気培養を行った。高速遠心分離(15000×g、10分、10℃)により菌体を除去した後、得られた上清にリン酸を添加してpH1.5に調整した。この溶液に100mlの酢酸エチル:ブタノール(1:1、v/v)を加えてよく混合した。遠心分離機(5000×g、5分)で2相に分けた後、有機溶媒相を回収した。この抽出操作を3回繰り返し行った。有機溶媒相(300ml)に1/2量(150ml)の0.1M炭酸ナトリウム水溶液(0.1%アスコルビン酸ナトリウムを含む)を加えよく混合した後、遠心分離機(5000×g、5分)で2相に分け、水相を回収した。再度有機溶媒相に0.1M炭酸ナトリウム水溶液を加え同様の操作を繰り返した。得られた水相(300ml)のpHを7.0に調整後、約30mlになるまで減圧下で濃縮した。この濃縮液に5倍量のエタノールを添加し、高速遠心分離(15000×g、15分、4℃)で不溶物を除去した。得られた上清をさらに減圧下で約1mlになるまで濃縮し、2MHClでpH2.0−3.0に調整した。この溶液を分取HPLCに供した。分取HPLCの条件は実施例7の段落0053に記した方法と同じ条件で行った。但し、グラジエントはA80% B20%のアイソクラティックとした。また得られた5−(3’、4’、5’−トリハイドロキシフェニル)γ−バレロラクトンの画分は実施例7の段落0054に示した同様の方法で処理をした。その結果、5−(3’、4’、5’−トリハイドロキシフェニル)−4−ハイドロキシ吉草酸ナトリウム塩65mgを得た。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上の通り、本発明の生物学的変換方法によって、抗炎症作用やガン抑制作用が期待できるカテキン類の代謝産物を簡便に製造することが出来る。
【受託番号】
【0063】
受託番号FERM P−21765
受託番号FERM P−21738

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素(H)を表す)
に示すカテキン誘導体を資化して
式(II)
【化2】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素(H)を表す)
に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または
式(III)
【化3】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水酸基(OH)または水素(H)を表す)
で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成する微生物を、式(I)に示すカテキン誘導体含有物に作用させることを特徴とする式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法。
【請求項2】
式(I)に示す化合物を資化して、式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成する微生物を、式(I)に示すカテキン誘導体含有物の存在下嫌気性条件で培養することを特徴とする式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法。
【請求項3】
式(I)に示す化合物を資化して、式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成する微生物が、ユウバクテリウム属あるいはクロストリジウム属細菌から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至2記載の製造方法。
【請求項4】
式(I)に示す化合物を資化して式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成する微生物が、ユウバクテリウム・プラウティATCC29863株、ユウバクテリウム・プラウティMT42株あるいはクロストリジウム・オルビシンデンスATCC49531株から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至3記載の製造方法。
【請求項5】
式(IV)
【化4】

(式中、Rは水酸基(OH)または水素(H)を表す)
に示すカテキン類を資化して、式(I)に示すカテキン誘導体を生成する能力を有するエガーテラ属および/またはアドラークルーツィア属の微生物を、式(IV)に示すカテキン類に作用させて、式(I)に示すカテキン誘導体を生成させることを特徴とする請求項1乃至4記載の式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法。
【請求項6】
式(IV)に示すカテキン類を資化して、式(I)に示すカテキン誘導体を生成する能力を有する微生物が、エガーテラ・レンタJCM9979株およびアドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5株である請求項1乃至5記載の式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6記載の製造方法によって得られる式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸含有物のpHを3以下に調整することによって、式(II)の化合物を式(III)に示す5−フェニルγ−バレロラクトンに変換することを特徴とする式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至6記載の製造方法によって得られる式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトン含有物のpHを8以上に調整することあるいは式(III)の化合物のラクトン環を開環する微生物によって、式(III)の化合物を式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸に変換することを特徴とする式(II)で表される5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸含有物の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8記載の製造方法で得られる式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸あるいは式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンの少なくとも一つを必須成分として含有することを特徴とする組成物。
【請求項10】
請求項9記載の組成物を含有してなる口腔適用対象物。
【請求項11】
式(I)に示すカテキン誘導体を資化して式(II)に示す5−フェニル−4−ハイドロキシ吉草酸および/または式(III)で表される5−フェニルγ−バレロラクトンを生成するユウバクテリウム・プラウティMT42株。

【公開番号】特開2011−87486(P2011−87486A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242087(P2009−242087)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【Fターム(参考)】