カテキン結合ペプチド
【課題】カテキンに結合することのできるペプチド、または抗酸化性を有するペプチドを提供する。
【解決手段】 67kDaラミニン・レセプター(67LR)においてEGCGと結合に関与する部分を特定した。カテキン類、特にガロイルカテキン類に対して結合活性を有するペプチド及びその改変体ペプチドを提供する。また、67LRタンパク質に由来する、抗酸化活性を有するペプチドを提供する。該ペプチドは、カテキン類の検出、固定化等に有用である。また、カテキン類の矯味のために用いることができる。さらに上記のペプチド又はガロイルカテキン類を含む、プリオン病の治療のための医薬組成物を提供する。また、ガロイルカテキン類模倣化合物候補のスクリーニング方法も提供する。
【解決手段】 67kDaラミニン・レセプター(67LR)においてEGCGと結合に関与する部分を特定した。カテキン類、特にガロイルカテキン類に対して結合活性を有するペプチド及びその改変体ペプチドを提供する。また、67LRタンパク質に由来する、抗酸化活性を有するペプチドを提供する。該ペプチドは、カテキン類の検出、固定化等に有用である。また、カテキン類の矯味のために用いることができる。さらに上記のペプチド又はガロイルカテキン類を含む、プリオン病の治療のための医薬組成物を提供する。また、ガロイルカテキン類模倣化合物候補のスクリーニング方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテキン類に結合することのできるペプチド、又は抗酸化活性を有するペプチドに関する。本発明のペプチドは、67kDaラミニン・レセプタータンパク質の、カテキン類への結合活性を有する部分に由来する。本発明によって提供されるペプチドは、食品(飲料を含む。)又は医薬品の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
カテキン類のうち、エピガロカテキンガレート(EGCG)は、茶のカテキンの約50%を占める主用成分である。茶には、他にエピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン(以下それぞれ、EGC、ECG、EC)等が含まれる。
【0003】
茶は古来より薬として用いられて来た古い歴史があり、近代よりその効能と成分の関係が解析されてきた。そのうちEGCGは1947年、A. Bradfieldらによって発見された成分である。EGCGを含めて茶のカテキン類の生理作用としては、抗酸化、抗癌、血漿コレステロール上昇抑制、血圧上昇抑制、血小板凝集抑制、血糖上昇抑制、痴呆予防、抗潰瘍、抗炎症、抗アレルギー、抗菌・抗虫歯、抗ウイルス、解毒、腸内フローラ改善、消臭等が報告されている。
【0004】
このうち、抗癌作用は非常に多く報告されており、抗変異作用、抗発癌プロモーション作用、抗腫瘍増殖抑制作用、抗浸潤・転移阻害作用、抗血管新生阻害作用がある。最近の報告では、EGCGは白血病細胞のDNA合成を阻害しアポトーシスを誘導することが、またEGCGが乳癌細胞株の増殖を抑制することが報告されている。さらには、EGCGが正常細胞と比べて癌細胞の増殖を強く抑制するなどの報告がなされている。浸潤・転移に関しては、カテキン類がマトリゲルを用いた浸潤試験で高転移性細胞の浸潤を抑制することが、また、癌細胞のフィブロネクチンやラミニンへの接着をEGCGが阻害することが報告されている。
【0005】
これらカテキン作用の分子レベルの解析が最近報告されてきている。たとえば、EGCGは癌との関連が示唆されているHer-2抗原高発現細胞の増殖を濃度依存的に抑制する。その作用機序はHer-2のリン酸化抑制によるその下流シグナル伝達の阻害だと報告されている。また、腫瘍増殖と密接な関連がある血管新生をEGCG等カテキンが阻害することが報告されている。そのメカニズムはカテキンが血管内皮細胞の増殖因子であるVEGFのレセプターVEGFR-1のリン酸化を抑制することにあると示されている。これはカテキンの抗酸化・抗ラジカル活性には依存しないと報告されている。同様に、他の増殖因子であるPDGF-BBによる血管平滑筋細胞でのPDGF-Rベータのリン酸化をカテキン類が抑制することで、血管の肥厚を抑制することが報告されている。さらに、EGF-2によるインビボでの血管新生並びに内皮細胞の増殖をEGCGが抑制することが報告されている。
【0006】
カテキンには抗腫瘍効果以外にも、種々の生理作用が分子レベルで明らかになってきている。EGCGは肝細胞でのグルコース産生を抑制し、かつインスリンレセプターとIRS-1のチロシンリン酸化を促進することで抗糖尿病的作用が報告されている。また、パーキンソンモデルマウスにおいてEGCGは強く神経保護作用を示す報告から、多くの神経障害を抑制することが期待されている。アレルギーの要因である好塩基球でのFcイプシロンRIの発現をEGCGやそのメチル化体が抑制することを、さらには軟骨においてIL-1ベータによって誘導されるCOX-2やNO合成酵素2の発現をEGCGが抑制することが報告されている。
【0007】
EGCGと結合する物質としてこれまでに、バクテリアII型脂肪酸合成酵素 (非特許文献1)、Bcl-2 (非特許文献2)、DNAメチル転移酵素 (非特許文献3)、67kDaラミニン・レセプター (非特許文献4)といったタンパク質が報告されている。しかしながら、これらタンパク質はそれぞれが他の物質とも結合することが知られており、いずれもEGCGとのみ特異的に結合する物質ではない。EGCGにのみ特異的に結合する物質の報告は今まで一切知られていない。
【0008】
一方、上述した67kDaラミニン・レセプター(以下、67LR)は、295個のアミノ酸をコードするmRNAから翻訳された37kDa前駆体タンパク質が、細胞内で脂肪酸等によるアシル化重合反応を受けてホモ二量体又はヘテロ二量体化により67kDaとなったタンパク質であり、それがインテグリン類とともに細胞膜表面へ移行してはじめてラミニン・レセプターとして機能する(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。このラミニン・レセプターの多くの癌細胞での高発現というデータにより、汎腫瘍特異的移植抗原としてのT細胞の免疫原として、腫瘍胎児抗原であると見なされている。ラミニン・レセプターは既に67LR以外に10数種類報告されているが、その中でも67LRの癌との関連が強く示唆されている。67LRのリガンドであるラミニンの発現は予後には影響ないが、67LRの発現は予後に負の結果をもたらすことが示されている。
【0009】
これらの知見をもとに、67LRの発現を抑制することで抗腫瘍効果を示すことを期待して行われた実験が幾つか報告されている。67LRのアンチセンスRNAを癌細胞株に導入して作製した67LR低発現細胞株は、元の親株細胞よりもマウスのインビボにおいて有為に腫瘍増殖能の低下並びに転移能の低下が起り、その結果マウス個体の生存率が改善することが報告されている。さらには、当低67LR発現細胞株は親株よりも腫瘍血管新生の低下並びに血管新生促進因子であるVEGFの産生そのものも低下していることが報告されている。同様に、抗67LRに対する抗体を用いた腫瘍転移実験においても、アンチセンス実験と同様な効果が認められている。
【0010】
非腫瘍関連においても、67LRの機能について幾つか報告がなされている。虚血動物モデルにおいて誘導される新生血管の増生が67LRと結合するラミニン由来ペプタイド(システイン-アスパラギン酸-プロリン-グリシン-チロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン)や、EGF由来ペプタイド(システイン-バリン-イソロイシン-グリシン-チロシン-セリン-グリシン-アスパラギン酸-アルギニン-システイン)によって抑制されることが報告されている。血管内皮細胞に対する剪断力によって誘導される動脈硬化との関与が指摘されているeNOS発現とNO産生が、67LRと結合するラミニン由来ペンタペプタイド(チロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン)によって抑制されることが報告されている。
【0011】
最近では、67LRがクロイツフェルトヤコブ病の病因と考えられているプリオンタンパク質のレセプターとして働き、プリオンが結合してインタナリゼーションされることが、その結合とインタナリゼーションが膜ドメインを欠いたミュータント67LRの分泌によって阻害されることが報告されている。また、プリオンタンパク質が67LRレセプターに結合するときの結合部位は、アミノ酸番号161-179の部分であると報告されている(非特許文献8)。
【0012】
67LRはまた、T細胞のサブセットであるCD45RO+/CD45RA-のメモリー細胞のCD4+CD8-又はCD4-CD8+のサブセット群で発現していることが報告され、67LRの免疫系への作用が示唆されている。
【0013】
67LRのmRNA発現に関する報告も幾つか存在する。癌抑制因子であるp53や抗癌因子であるTNF-α、IFN-γによってその発現が抑制されることが報告されている。
【先行技術文献】
【0014】
【非特許文献1】Y. Zhang et al.: J. Biol. Chem., 2004, 279: 30994-31001
【非特許文献2】M. Leone et al.: Cancer Res., 2003, 63: 8118-8121
【非特許文献3】M. Fang et al.: Cancer Res., 2003, 63: 7563-7570
【非特許文献4】H. Tachibana et al.: Nat. Struc. Mol. Biol., 2004, 11: 380-381
【非特許文献5】Yow, H. K. et al.: Proc. Nat. Acad. Sci. 1988, 85: 6394-6398
【非特許文献6】T. H. Landowski et al.: Biochemistry, 1995, 34: 11276-11287
【非特許文献7】S. Buto et al.: J. Cell. Biochem, 1998, 69: 244-251
【非特許文献8】C. Hundt et al.: EMBO J., 2001, 20: 5876-5886
【発明の開示】
【0015】
本発明者は、食品成分の生体調節機能に関する研究を行ってきた。そして67LRタンパク質においてEGCGと結合に関与する場所を特定し、EGCGとの結合活性を有するペプチド(配列番号:15)を見いだした。さらに、そのようなペプチド自体又はその改変体が抗酸化活性を有することも見いだし、本発明を完成した。
【0016】
I.カテキン結合ペプチド:
本発明は、下記の(a)、(b)又は(c)であるカテキン結合ペプチドを提供する:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド;又は
(c)67kDaラミニン・レセプター(67LR)のアミノ酸配列の一部において、
少なくともアミノ酸番号161〜170に由来する部分:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170
(配列中:
A161は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはイソロイシンであり;
A162は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはプロリンであり;
A163は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはシステインであり;
A164は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A165は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A166は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはリシンであり;
A167は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはグリシンであり;
A168は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアラニンであり;
A169は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはヒスチジンであり;
A170は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはセリンである)
を含み、さらにそれに隣接する1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていてもよい部分を含んでいてもよいアミノ酸配列からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド。但し、本発明の範囲からは、公知のペプチド、例えば非特許文献8に記載された67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチドは除かれる。
【0017】
本明細書において、ペプチドに関して「1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列からなるペプチドが所望の機能を有する限り特に限定されないが、例えば1〜9個、又は1〜4個程度である。性質(電荷及び/又は極性)の似たアミノ酸への置換等であれば、多数のアミノ酸が置換されていても、所望の機能を消失しないであろう。
【0018】
アミノ酸の置換等は、カテキン類との結合性に静電的な変化をもたらさないような置換等、例えば、電荷及び/又は極性の似たアミノ酸への置換であってもよい。このような置換には、例えば、生理的pH(7.0)付近で側鎖(R基と表現されることもある。)が非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリン等)どうしの置換、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸(セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミン等)どうしの置換、生理的pH付近で側鎖が正電荷を有するアミノ酸(リシン、アルギニン、及びヒスチジン等)どうしの置換、極性アミノ酸どうしの置換、非極性アミノ酸どうしの置換がある。
【0019】
本発明者の検討では、67kDaラミニン・レセプターのアミノ酸番号161〜170の部分の配列を有するペプチド又はその一部(配列番号:15及び18〜30)のうち、配列番号:23のペプチドを除くすべてについて、MS分析においてEGCGとの結合を示すピークが観察された。このような結果から、アミノ酸番号166のKが結合に重要であると考えられる。また、アミノ酸番号161〜170の部分の配列を有するペプチドにおいて、166番目のKを、同じ塩基性アミノ酸であるR又はHに置換したペプチド(配列番号:31及び32)については、同様に、EGCGとの結合ピークが観察された。さらに、タンパク質を構成する主要な20種のアミノ酸それぞれに対してEGCGとの結合性を検討すると、やはり塩基性アミノ酸であるK, H, Rにのみ結合ピークが観察された。一方で、MS分析で結合ピークが観察されることは、必ずしも高い結合活性を有することを意味するものではない。したがって、EGCGにペプチドが結合するためには、ペプチド中の塩基性アミノ酸の存在がまず重要であり、またそれ以外のアミノ酸の存在は、ペプチドに高い結合活性又は特異性等をもたらすために重要であると考えられる。
【0020】
さらに、本発明者の検討では、67LRのアミノ酸番号161〜170の部分の配列を有するペプチド(配列番号:15)についてはEGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和能が観られたが、そのC末端のアミノ酸1つを欠如させたペプチド(配列番号:18)、及びそのN末端のアミノ酸1つを欠如させたペプチド(配列番号:19)については、いずれにもEGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和能が観られなくなった(実施例1)。さらに、上述のアミノ酸番号161〜170の部分の配列を有するペプチドにおいてKをR又はHに置換したペプチド(配列番号:31及び32)には、置換前のものと同様の中和能が観られたにもかかわらず、K及びHをSに置換したペプチド(配列番号:33)からは中和能は消失した(実施例5)。
【0021】
このような観点から、上述のカテキン結合ペプチドを基にさらなる改変体を設計することができ、さらなる改変体ペプチドもまた、均等物として本発明の範囲に含まれうる。
本明細書において、「カテキン」を広義の意味で用いるとき、又は「カテキン類」というときは、特別な場合を除き、3-オキシフラバンのポリオキシ誘導体をいう。これには、カテキン、ガロカテキン、及びそれらの3-ガロイル体が含まれ、またそれらの異性体及びラセミ体、並びにそれらのメチル化体が含まれる。具体的には、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート(gallocatechin-3-O-gallate;GCG);主要な緑茶カテキンであるエピカテキン(epicatechin;EC)、エピガロカテキン(epigallocatechin;EGC)、エピカテキンガレート(epicatechin-3-O-gallate;ECG)及びエピガロカテキンガレート(epigallocatechin-3-O-gallate;EGCG); EGCGのメチル化体であるエピガロカテキンメチルガレート(epigallocatechin-3-O-gallate;EGCGMe)、具体的には、epigallocatechin-3-O-(3-O-methyl) gallate;EGCG3”Me、epigallocatechin-3-O-(4-O-methyl) gallate;EGCG4”Meが含まれる。本明細書では、カテキン類のうち、3-ガロイル体であるものを特に「ガロイルカテキン類」という。
【0022】
本発明者のMS分析においては、配列番号:7又は配列番号:15のペプチドは、EGCGに結合し(実施例2)、またECG、GCG、EGCG3”Me及びEGCG4”Meにも結合した。他方、EC及びEGCには結合しなかった。また、非特許文献4では、67LR-transfected細胞とEC、EGCとの相互作用は観られなかった。したがって本発明のカテキン結合ペプチドは、特にガロイルカテキン類(特定するとCG、ECG、GCG、EGCG、EGCG3”Me、EGCG4”Me、より特定するとECG、GCG、EGCG、EGCG3”Me、EGCG4”Me、さらに特定するとEGCG)に結合可能である。なお、本明細書では、本発明のペプチドのカテキン類への結合活性を、特にEGCGへの結合活性を挙げて説明することがあるが、特別な場合を除き、その説明は、他のガロイルカテキン類にも当てはまる。
【0023】
あるペプチドがカテキン類との結合活性を有するか否かは、例えば、本明細書の実施例2の記載にしたがって、カテキン類と候補ペプチドとの複合体の存在を確認することにより、判断することができる。また、あるペプチドのカテキン類との結合活性の有無及びその結合活性の高さは、例えば、本明細書の実施例1の記載にしたがって、対象ペプチドについて、カテキン類の活性の中和(阻止)能を評価することによっても判断することができる。
【0024】
本発明のカテキン結合ペプチドは、67LRタンパク質と比較して、極めて短いペプチド鎖から構成される。67LRタンパク質の調製は、量的にも質的にも非常に困難であるのに対し、本発明のカテキン結合ペプチドは、化学合成でき、大量にかつ純度の高いものが容易に調製できるとの利点を有する。
【0025】
本発明のカテキン結合ペプチドの好ましい例は、本明細書の実施例2に記載された方法等により求めた同濃度におけるEGCGの活性の中和の程度の比較、EGCGの活性を完全に中和する濃度の比較、又は非特許文献4に記載された表面共鳴プラズモンを用いた方法等により求めたKd値の比較により、EGCGへの結合活性が67LRより高いもの、及び/又はEGCGの活性の中和能が67LRよりも高いものである。
【0026】
本発明のカテキン結合ペプチドの好ましい例は、配列番号:15、配列番号:31又は配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチドである。
本発明のカテキン結合ペプチドは、当業者であれば、従来法を用いて、容易に製造することができる。
【0027】
II.抗酸化ペプチド:
本発明はまた、下記の(a)、(b)又は(c)である抗酸化ペプチドを提供する:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗酸化活性を有するペプチド;又は
(c)67LRのアミノ酸番号161〜170に由来するアミノ酸配列:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170
(配列中:
A161は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはイソロイシンであり;
A162は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはプロリンであり;
A163は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはシステインであり;
A164は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A165は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A166は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはリシンであり;
A167は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはグリシンであり;
A168は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアラニンであり;
A169は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはヒスチジンであり;
A170は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはセリンである)の全部、又は一部であって少なくともA164又はA167を含む連続した3以上の配列(好ましくは、4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上)からなり、かつ抗酸化活性を有するペプチド。但し、本発明の範囲からは、公知のペプチド、例えば非特許文献8に記載された67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチドは除かれる。
【0028】
本明細書において、「抗酸化活性」(「抗酸化能」ということもある。)というときは、酸化を抑制する活性又は能力をいい、これにはTBARS消去活性(本明細書の実施例3参照)とDPPHラジカル消去活性(本明細書の実施例4参照)とが含まれる。本発明のペプチドの「抗酸化活性」は、TBARS消去活性及びDPPHラジカル消去活性のいずれか一方又は両方により評価することができる。いずれか一方を有していれば、「抗酸化活性」を有しているといえる。
【0029】
本発明の抗酸化ペプチドの好ましい例は、配列番号:15、配列番号:18、配列番号:19、配列番号:20、配列番号:21、配列番号:22、配列番号:23、配列番号:24、配列番号:25、配列番号:26、配列番号:27、配列番号:28、配列番号:29、配列番号:30、配列番号:31若しくは配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチド、又はアミノ酸配列:A164-A165-A166(配列中、A164は、アスパラギンであり;A165は、アスパラギンであり;A166は、リシンである)。
【0030】
本発明の抗酸化ペプチドは、当業者であれば、従来法を用いて、容易に製造することができる。
【0031】
III.用途:
本発明は、67LRタンパク質に由来する下記の(a)、(b)又は(c)のペプチドの有用な用途を提供する:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド;又は
(c)67kDaラミニン・レセプター(67LR)の部分アミノ酸配列において、少なくともアミノ酸番号161〜170に由来する部分:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170(配列中、A161〜A170は、上に定義したとおりである)を含み、さらにそれに隣接する1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていてもよい部分を含んでいてもよいアミノ酸配列からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド)。
【0032】
上で定義したペプチドは、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)との結合活性を有する。したがって、抗体のように、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の検出のために、必要に応じて標識化し、及び/又は固定化して、用いることができる。具体的には、ペプチドを、試料中の、例えば、天然物、加工品(食品、医薬品、医薬部外品、加工品原料、加工中間品等)、体液(血液、尿等)中の、ガロイルカテキン類の特異的な検出及び/又は定量のために用いることができ(実施例7)、そのための試薬、キット、試験紙、センサー等の形態の要素とすることができる。
【0033】
ペプチドの標識化、固定化には、従来法を適用することができる。例えば、ペプチドのN末端にFITC (fluorescein iso-thiocyanate)やビオチンを結合させることにより標識化でき、また、ビオチン化したペプチドは、アビジン結合担体に固定化することができる(実施例6)。本発明のペプチドは、共有結合により担体に固定化することもできる。共有結合による固定化は、固定化担体(例えばHPLC用カラム)への試料のアプライ条件や溶出条件に制限が少ないとの観点から、好ましい。
【0034】
本発明はまた、上で定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を濃縮及び/又は精製する工程を含む、ガロイルカテキン類の製造方法も提供する。この方法において、ペプチドは担体に固定化して、親和性カラムクロマトグラフィーのリガンドとして用いることができる。
【0035】
本発明はまた、上で定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の固定化方法も提供する。具体的には、ペプチドを、カテキン類を利用した抗菌フィルター、ホルムアルデヒド消去剤等においてカテキン類を固定化するために用いることができる。ペプチドとガロイルカテキン類の結合体を含む種々の態様が、本発明の範囲に含まれる。
【0036】
本発明はまた、上で定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の矯味方法、該ペプチドを含む、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の矯味剤、並びに該ペプチド及びガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を含有する、食品(飲料を含む。)又は医薬組成物を提供する。カテキン類、とくにガロイルカテキン類は、特有の苦味を呈するため、食品等に添加する際の量に制限がある。しがしながら、本発明のカテキン類と結合可能なペプチドを添加することにより、カテキン類の苦味をマスキングすることができる。
【0037】
ガロイルカテキン類とペプチドとを含む本発明の食品は、具体的には、栄養機能食品、特定保健用食品、健康食品、栄養補助食品、ドリンク剤、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、スポーツドリンク等の形態とすることができる。
【0038】
ガロイルカテキン類とペプチドとを含む本発明の医薬組成物は、カテキン類が有する、抗酸化、抗癌、血漿コレステロール上昇抑制、血圧上昇抑制、血小板凝集抑制、血糖上昇抑制、痴呆予防、抗潰瘍、抗炎症、抗アレルギー、抗菌・抗虫歯、抗ウイルス、解毒、腸内フローラ改善、消臭等(茶の機能、村松敬一郎ら編、学会出版センター、2002)の各作用に関連する疾患又は状態の処置に用いることができる。特に、EGCGの有する抗癌作用、詳細には抗変異作用、抗発癌プロモーション作用、抗腫瘍増殖抑制作用、抗浸潤・転移阻害作用、抗血管新生阻害作用;より詳細には、DNA合成を阻害することによる白血病細胞のアポトーシス誘導作用(Int. J. Mol. Med., 2001, 7: 645-652, D. M. Smithら);乳癌細胞の増殖抑制作用(J. Cell. Biochem., 2001, 82: 387-398, K. T. Kavanaghら);癌細胞の選択的増殖抑制作用(Arch. Biochem. Biophys, 2000, 376: 338-346, N. Ahmadら);癌の浸潤・転移に関する、高転移性細胞の浸潤抑制作用、フィブロネクチンやラミニンへの癌細胞の接着を阻害する作用(Cancer Lett., 1995, 98: 27-31, M. Suzukaら、Cell Biol. Int., 1993, 17: 559-564, M. Isemuraら、Cancer Lett., 2001, 173: 15-20, Y. Suzukiら);Her-2のリン酸化の抑制によるその下流シグナル伝達の阻害による、Her-2抗原高発現細胞の増殖抑制作用(Cancer Res., 2002, 62: 652-655, S. Pianettiら);VEGFのレセプターであるVEGF R-1のリン酸化を抑制することによる、血管新生阻害作用(Cancer Res, 2002, 62: 381-385, S. Lamyら);PDGF-BBによる血管平滑筋細胞でのPDGF-Rベータのリン酸化の抑制による血管肥厚抑制作用(FASEB J, 2002, 16: 893-895, A. Sachinidisら);EGF-2による血管新生及び内皮細胞の増殖の抑制作用(Nature, 1999, 389: 381, Y. Caoら)に関連する疾患又は状態の処置に用いうる。また、肝細胞でのグルコース産生を抑制し、かつインスリンレセプターとIRS-1のチロシンリン酸化を促進することによる、抗糖尿病作用(J. Biol. Chem., 2002, 277: 34933-34940, M. E. Waltner-Lawら);神経障害の抑制作用、より詳細には神経疾患(例えば、パーキンソン病)における神経保護作用(J. Biol. Chem., 2002, 277: 30574-30580, Y. Levitesら);アレルギーの要因である好塩基球でのFcイプシロンRIの発現の抑制作用(J. Agric. Food Chem, 2002, 50: 5729-5734, Y. Fujimuraら);軟骨におけるIL-1ベータによって誘導されるCOX-2やNO合成酵素2の発現の抑制作用(Free Radical Biology & Medicin, 2002, 33: 1097-2002, S. Ahmedら)に関連する疾患又は状態に用いうる。さらに、67LRの機能、具体的には、癌の予後に負の結果をもたらす機能(Breast Cancer Research and Treatment, 1998, 52: 137-145, S. Menardら);腫瘍増殖能及び転移能(British Journal of Cancer, 1999, 80: 1115-1122, K. Satohら);腫瘍血管新生調節機能、及びVEGF産生調節機能(Cancer Letters, 2000, 153: 161-168, M. Tanakaら);腫瘍転移調節機能(Jpn. J. Cancer Res., 1999, 90: 425-431, K. Narumiら);虚血性疾患において誘導される新生血管の増生調節機能(Am. J. Pathol, 2002, 160: 307-313, D. Gebarowskaら);血管内皮細胞に対する剪断力によって誘導される動脈硬化との関与が指摘されているeNOS発現とNO産生調節機能抑制(J. Biol. Chem., 1999, 274: 15996-16002, T. Gloeら);プリオンタンパク質のレセプターとして働き、プリオンとの結合とインタナリゼーションを調節する機能(EMBO J, 2001, 20: 5863-5875, S. Gauczynskiら);免疫調節機能(J. Immunol, 1999, 163: 3430-3440, S. M. Canfieldら);癌抑制因子であるp53や抗癌因子であるTNF-α、IFN-γによって67LRのmRNAの発現が抑制されること(Biochem. Biophys. Res. Commun., 1998, 251: 564-569, N. Clausseら)に基づく癌関連機能に関連した疾患又は状態の処置にも用いうる。なお、本明細書において疾患又は状態について「処置」というときは、特別な場合を除き、その疾患又は状態について、治療すること、予防すること、進行を停止することが含まれ、治療には、症状を抑える対処的治療と、根本的な治療とが含まれる。
【0039】
ガロイルカテキン類とペプチドとを含む本発明の医薬組成物は、医薬部外品としても有用であり、化粧水、石けん、シャンプー、ウェットティッシュ等の形態として用いることもできる。
【0040】
上で定義したペプチドは、カテキン類の抗酸化作用を促進する作用も有するから(実施例8)、本発明はさらに、上で定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の抗酸化活性の促進方法、該ペプチドを含む、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の抗酸化活性の促進剤も提供する。
【0041】
本発明はさらに、上で定義したペプチドを含む、抗酸化剤も提供する。本発明の抗酸化剤は、食品又は医薬品の形態とすることができる。医薬品とする場合、抗酸化作用に関連した疾患又は状態の処置に用いることができる。
【0042】
カテキンは抗酸化物質であるとともに酸化物質としての性質も有しており、緑茶飲料などカテキンを含む飲料中には、カテキン由来の過酸化水素が多く含まれる。このような場合に本発明のガロイルカテキン類と結合する本発明のペプチドを共存させることでEGCGの酸化作用を抑制しつつ、抗酸化作用を保持させることが可能となる。なお、本発明のペプチドの有するこのようなガロイルカテキン類の抗酸化活性の促進機能は、塩基性アミノ酸にも観られる(実施例9)。
【0043】
カテキンを細胞や臓器の保護剤として使用している例がある。この場合のカテキンの保護作用は、抗酸化作用によるものである。本発明のペプチドは、このような作用を高めるためにも有効に用いることができる。。
【0044】
上で定義したペプチドは、病原性プリオンが67LRに結合するときの結合部位であるアミノ酸番号161〜179の部分の配列(非特許文献8)と重複する。したがって、上で定義したペプチドを、抗プリオン物質として用いることができ、また67LRとの結合を阻害することにより病原性プリオンの感染が防げるから、上で定義したペプチド又はガロイルカテキン体を、プリオン阻害物質として用いることができる。したがって、本発明はまた、上に定義したペプチドを含有する、抗67LRリガンド剤(より特定すると抗プリオン剤)、並びにガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を含む、プリオン病(例えば、ウシ海面状脳症(BSE)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、若年発症の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD))を処置するための医薬組成物を提供する。
【0045】
67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「Peptide 161-179」ということもある。)よりも短い本発明のペプチドは、プロテアーゼによる分解作用をより受けにくく、より安定であろう。また、Peptide 161-179中に含まれる67LRのアミノ酸番号173〜178(LMWWML)の部分は、ラミニン 1との結合部位であり(J. Biol. Chem. 266, 20440-20446 (1991))、Peptide 161-179を投与した場合や標的物質の検出に用いた場合に、生体内のラミニン 1と結合してしまったり、標的物質とラミニン 1を区別できないという不都合が生じうる。このような観点からは、Peptide 161-179より短く、さらに好ましくは67LRのアミノ酸番号173〜178の部分を含まないような本発明のペプチドが、抗プリオン物質として特に有用である。
【0046】
本発明のペプチドを含む抗プリオン剤は、具体的には、血液等の試料中のプリオンの検出のため、プリオン病の予防及び/又は治療のために用いることができる。
プリオン病の予防及び/又は治療のために、上で定義したペプチドを含む本発明の抗プリオン剤を用いる場合、すなわち、本発明の抗プリオン剤を医薬組成物として用いる場合、その投与経路、剤形、用量は、当業者であれば適宜設計することができる。
【0047】
ガロイルカテキン類を含む本発明の医薬組成物の投与経路及び剤形もまた、当業者であれば適宜設計することができる。この医薬組成物は、経口投与が可能であり、かつ有効であると考えられる点でも非常に優れている。現在、プリオン病の治療のために有望視されているのは、抗プリオン抗体であるが、抗体の場合は血液脳関門があって通過できないため、経口投与では効果が期待できず、直接脳に投与しないと効果がない。これに対し、カテキンは経口投与でも脳内へ到達することができる。また、抗プリオン抗体は正常な脳に対して重篤な影響(細胞死の誘導)を与えるとの報告がある(Science, 303, 1514-1516 (2004))が、カテキンについては、これまでに脳に対する悪影響は報告されていない。
【0048】
ガロイルカテキン類を含む本発明の医薬組成物は、固形剤、液剤いずれとしても製剤化しうるが、安定性を期待して、ガロイルカテキン類を上で定義したペプチドとの結合体の形で含ませるのもよい。ウシ等の家畜のためには、ガロイルカテキン類自体、ガロイルカテキン類を多く含む緑茶葉又は茶葉抽出物を飼料に混合してもよい。このような飼料もまた、本発明の医薬組成物に含まれる。カテキン類含量は、一番茶よりも二番茶、三番茶、秋冬番茶のほうが高いので、本発明の医薬組成物の原料として、二番茶、三番茶、秋冬番茶を利用することができる。
【0049】
ガロイルカテキン類を含む本発明の医薬組成物の投与量もまた、当業者であれば適宜設計することができる。EGCGについては、500〜1000mgの経口摂取時の血中到達濃度である1μMで、細胞表面の67LRに結合できることが実証されている(非特許文献4参照)ことから、こうした用量で効果が期待できる。他方、500〜1000mgのEGCGは、市販の飲料でも用いられており、継続して摂取した場合における安全性が充分に確認されているといえる。
【0050】
上で定義したペプチド及びガロイルカテキン類のプリオン病に対する薬効は、以下の点から明らかである:
(1) 上で定義したペプチドは、プリオンに結合しうるものであり、抗プリオン抗体的に用いうるものである。またガロイルカテキン類は、プリオンの結合を阻害しうるものである。Leuchtらの報告(EMBO Rep., 4, 290-295 (2003))によれば、病原性プリオンの感染した細胞に抗67LR抗体を作用させると、病原性プリオンの増大を防ぐとともに完全に消失させることができることが実証され、また抗67LR抗体がプリオン病の治療に役立つことが主張されている。
【0051】
(2) プリオンと67LRの結合を、上で定義したペプチド又はガロイルカテキン類が阻害することは、種々の方法で確認することができる。例えば、67LRを発現しているNT2細胞(非特許文献8参照)及びプリオンを含む系に、上で定義したペプチド又はガロイルカテキン類を作用させ、抗67LR抗体又は抗プリオン抗体を用いて免疫沈降の成否を確認すればよい。あるいは、非特許文献8に記載された実験系を利用し、組み換えプリオンと67LRとの結合を上で定義したペプチド又はガロイルカテキン類が阻害することを確認する。より具体的な手法は、本明細書の実施例11に示されている。
【0052】
本発明の食品又は医薬組成物には、その具体的な用途(適応疾患、改善されうる症状等)、及び/又はその具体的な用い方(例えば、投与経路、量、回数、期間、等)を、添付の説明書、容器表面、パッケージ表面等に表示することができる。
【0053】
本発明は、以下の工程を含む、ガロイルカテキン類模倣化合物候補のスクリーニング方法を提供する:
(1)試験化合物を準備し;
(2)試験化合物について、上で定義したペプチドへの結合性を評価し;そして
(3)試験化合物がペプチドへの結合性を有する場合に、その化合物を選択する。
【0054】
本明細書ででいう「ガロイルカテキン類模倣化合物」とは、先に述べたカテキン類又はEGCGの抗癌作用等の生理活性を模倣する化合物をいう。
工程(1)は、スクリーニングに供する化合物を準備する工程である。化合物は、当業者であれば従来の方法で種々の化合物を合成することができ、また市販の化合物ライブラリーを利用してもよく、化合物は天然物由来であってもよい。化合物は、単体としてスクリーニングに供してもよく、又は複数の混合物として供してもよい。工程(2)における試験化合物のペプチドへの結合性の評価は、例えば、試験化合物がカラムに固定化されたペプチドに特定の条件で結合するかどうかを調べることによる。工程(3)は、例えば、工程(2)においてペプチド固定化カラムを用いた場合は、カラムを素通りした化合物を除去し、カラムに捕獲された化合物を適当な条件で溶離させることにより行う。
【0055】
選択された化合物(群)は、ガロイルカテキン類模倣化合物候補(群)として、更なる評価・検討に供することができる。例えば、第一の、スクリーニングのためのアフィニティーカラムにより選択された化合物群を、続いて第二のカラムに供して各単一成分に分割し、各成分について同定又は構造決定することができる。HPLCをベースとしたこのようなシステムの第一のカラムとしての適用は、本発明のスクリーニング方法の好ましい態様の一つである。
【0056】
本発明のスクリーニング方法は、上で定義したペプチドが67LRタンパク質よりも小分子であり、標的に対する結合活性が高く、ガロイルカテキン類模倣化合物候補を網羅的かつ迅速にスクリーニング方法に適している。本発明のスクリーニング方法においては、ペプチドとして、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:15、配列番号:31又は配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチドを用いることが好ましい。本発明のスクリーニング方法は、特にEGCG模倣化合物候補の選抜に適している。
【0057】
本発明はまた、上で定義したペプチドを用いて、ガロイルカテキン類模倣化合物候補を濃縮及び/又は精製する方法も提供する。
本発明はまた、67LRのアミノ酸番号161〜170のアミノ酸配列からなる部分をコードする塩基配列における変異を検出することを特徴とする、ガロイルカテキン類で処置可能な疾患素質の検出方法を提供する。この方法により、ガロイルカテキン類への感受性及び/又はガロイルカテキン類で処置可能な疾患への罹りやすさ等を診断することができる。67LRのアミノ酸番号161〜170のアミノ酸配列からなるペプチド(配列番号:15)において塩基性アミノ酸部分をセリンに置換したペプチド(配列番号:33)では、本来の中和能が完全に消失した(実施例5)。すなわち、配列中の塩基性アミノ酸に実質的な変異をもたらす67LR遺伝子変異を有する場合は、ガロイルカテキン類に対する感受性が低いといえる。ガロイルカテキン類を用いた食品又は医薬組成物のオーダーメード化において、カテキン結合部位の配列情報は、対象者のカテキン感受性の判断基準に有用である。67LRのアミノ酸番号161〜170の部分における変異の有無は、対象者由来のDNAもしくはmRNAの当該部分の遺伝子配列を直接解析すること、又は67LRのアミノ酸番号161〜170中の塩基性アミノ酸部分の遺伝子多型を解析することにより、実施できる。
【0058】
なお、本明細書において「ガロイルカテキン類」について説明したことは、同様にガロイル基を有する他の化合物、例えばストリクチニンにも当てはまる。ストリクチニンは、IL-4誘導性εGT発現及びIgE産生を抑制する(Biochemical and Biophysical Research Communication 280, 53-60 (2001))。すなわち、本発明は、ガロイル基を有するストリクチニン等の化合物にも適用することができる。本発明は、そのような改変も提供する。
【実施例1】
【0059】
<67LR部分ペプチド及び組み換え67LRタンパク質によるEGCGの細胞増殖抑制活性の抑制効果の検討>
1) 材料及び方法:
1.1) 緑茶カテキン:
epigallocatechin-3-O-gallate (EGCG、sigma)、epicatechin-3-O-gallate (ECG、sigma)、epigallocatechin (EGC、sigma)、epicatechin (EC、sigma) は 5 mM となるようにリン酸バッファー (PBS) に溶解し -20℃で凍結保存し、適宜希釈して用いた。PBS は、超純水 1 L に対し、NaCl (Nacalai tesque, Inc.) 8.0 g、KCl (Nacalai tesque, Inc.) 0.2 g、Na2HPO4(Nacalai tesque, Inc.) 1.15 g、KH2PO4 (Nacalai tesque, Inc.) 0.2 g を溶解し調製した。
【0060】
1.2) 細胞及び細胞培養:
ヒト肝ガン細胞株 HepG2 は 10% FBS (Bio Source International, Camarillo, CA) 添加DMEM 培地 (COSMO BIO CO., LTD.) で 37℃、水蒸気飽和した 5% CO2 条件下で継代、維持した。DMEM 培地中には、100 U/mL ペニシリン (Meiji pharmaceutical Company, Tokyo, Japan)、100 mg/mL ストレプトマイシン (Meiji pharmaceutical Company)、23.1 mM NaHCO3 (和光純薬)、そして 25 mM HEPES (和光純薬) を添加した。細胞は対数増殖期で培養維持した。
【0061】
1.3) 67kDaラミニンレセプター (67LR) の定常発現系の構築:
ヒト67LR遺伝子は、次の二つのプライマーにより、ヒト肝細胞cDNAライブラリーを鋳型としてPCR法を用いてクローニングした。
h67LR-S: C ggTACC ATg TCC ggA gCC CTT gAT gTC CTg CAA ATg(配列番号:1)
h67LR-A: g gCggCCgC TTA AgA CCA gTC AgT ggT TgC TCC TAC CCA(配列番号:2)
得られたPCR増幅断片をpcDNA3.1(+)(invitrogen)ベクターにライゲーションし、ヒト67LR 遺伝子発現ベクター (pcDNA3.1-hLamininR)とした。
【0062】
pcDNA3.1-hLamininRをエレクトロポーレーション法により HepG2細胞に導入した。詳細は以下に述べるとおりである。5 x 106 cells の細胞を 15 mL 遠心管 (Nunc, Roskild, Denmark) に回収し、リン酸バッファー (PBS) で一度洗浄後、300 x g で5分間遠心して上清を取り除いた。沈殿した細胞を300μL のリン酸バッファー (PBS) に再懸濁し、10μgのpcDNA3.1-hLamininR を加え穏やかに混ぜ、 4mm Gap ディスポーザブルキュベットに移した後、氷上で 10 分間放置した。キュベットを Erctro Cell Manipurator ECM395 (A Division of Genetronics, Inc., USA) にセットして 250 V の電圧をかけた後、キュベットを氷上で 10 分間放置した。内容物を培地で洗浄した後、10% FBS 含有培地に懸濁し、96 穴 プレート (Nunc, Roskild, Denmark) に 100μL/well となるように播き込み、3日間培養した。その後、ネオマイシン (Invitrogen Corporation) を添加した 10% FBS 含有培地を 100μL/well 添加した。目的遺伝子が導入されていない細胞が死ぬ程度まで約2週間、ネオマイシン含有培地でセレクションし、ネオマイシン耐性クローンを取得した。
【0063】
1.4) 67LR部分ペプチドの合成及び調整:
67LRの細胞膜より外側 (アミノ酸番号:102-295)の部分ペプチドを合成した。それぞれの部分ペプチドの名前と 67LR タンパク質中におけるアミノ酸番号及びアミノ酸配列は下表に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
ペプチドをそれぞれ 1mg 測りとり、Peptide 121-140、Peptide 181-200、Peptide 281-295、Peptide 156-165、Peptide 171-180 は 50% ジメチルスルホキシド (Nacalai tesque, Inc. Kyoto, Japan) に、その他のペプチドは蒸留水に 1 mM となるように溶解して -80℃で凍結保存し、適宜希釈して用いた。
【0066】
1.5) 組み換え67LRタンパク質の調製:
ヒト67LR 遺伝子発現ベクター (pcDNA3.1-hLamininR)より制限酵素KpnI及びNotI切断により67LR遺伝子を切り出し、pET30aベクターのKpnI/NotIサイトに挿入した(pET30a-67LR)。構築した大腸菌用発現ベクターpET30a-67LRを大腸菌BL21(DE3) 株に形質転換した。詳細は以下に述べるとおりである。
【0067】
コンピテント状態にある大腸菌 BL21(DE3) 株に 1 ng の pET30a- hLamininR を加え、氷上で 30 分間放置した。42℃で 30 秒間熱ショックを与えた後、氷中に戻し冷却した。その後 0.9 mL の SOC 培地を加え、 37℃で 1 時間回復培養し、1000 x g で 5 分間遠心した。上清 0.9 mL を除き、残りの溶液で大腸菌を懸濁し、耐性薬剤であるカナマイシンを含むプレートに播種し 24 時間培養した後に、カナマイシン耐性コロニーを取得し、pET30a-67LR導入大腸菌を得た。このpET30a- hLamininR 導入 大腸菌 をカナマイシン含有 LB 培地に接種し、37℃で 24 時間培養した。この大腸菌培養液を、カナマイシン含有 LB 培地に加え更に培養し、0.5 mM IPTG を添加して遺伝子の発現を増強した。この大腸菌培養液を遠心して菌体を沈殿として回収した。冷却しておいたリン酸バッファーを加え、ハンディーソニック (TOMY SEIKO Company, Tokyo, Japan) を用いて 30 秒間超音波破砕した。続いて、15,000 r.p.m. で 15 分間遠心し、その上清を回収した。この上清中に含まれる組み換え67LR タンパク質は、Hi Trap カラム (Amersham Biosciences, USA) を用いて、カラムに添付してあるマニュアルにしたがって精製した。
【0068】
1.6) 評価方法:
pcDNA3.1-hLamininR 導入HepG2細胞を1x104cells/mLとなるように2%FBS及び 5mg/mL BSA含有DMEM培地に懸濁し、24穴プレート(Nunc, Roskild, Denmark) に播種し、24時間放置して細胞を接着させた。その後、EGCG及び67LR部分ペプチド又は組み換え67LRタンパク質を、各々終濃度1μMとなるように2%FBS及び5mg/mL BSA含DMEM培地中で混合し、室温で15分間放置したものを細胞培養上清と置換した。5日間、37℃、5% CO2条件下で培養後、細胞数をセルカウンター(Sysmex)により計測した。細胞増殖抑制活性の抑制能(中和能)は、EGCG及び67LR部分ペプチド(又は組み換え67LRタンパク質)を添加した系の相対細胞数(EGCG、67LR部分ペプチドとも添加しない系の細胞数を100(%)とする)の平均値(n=3)で表した。実験結果の統計処理には、Studentのt検定を用いた。
【0069】
2) 結果:
結果を図1〜4に示した。まず、67LRのアミノ酸番号102からほぼ一定の長さ(約20アミノ酸)ずつとなるように設計されたペプチド群においては、Peptide 161-180にEGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和能が認められた(図1)。また、Peptide 161-180とともに、Peptide 161-180とは少なくとも一部が重複する長さ10アミノ酸であるペプチド群、及びPeptide 151-170について検討したところ、Peptide 161-170及びPeptide 151-170にPeptide 161-180とほぼ同程度の活性が認められた(図2)。さらに、Peptide 161-170、そのC末端のアミノ酸1つを欠如させたPeptide 161-169、及びそのN末端のアミノ酸1つを欠如させたPeptide 162-170の効果について検討したところ、末端1アミノ酸を削ると、いずれの場合も、EGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和能が消失した(図3)。また、Peptide 161-170の中和能は、組み換え67LRタンパク質を上回った(図4)。
【実施例2】
【0070】
<67LR部分ペプチドのEGCG結合活性の確認>
EGCGと67LR部分ペプチド(Peptide 161-180(配列番号:7)又はPeptide 161-170(配列番号:15))とを終濃度5μMとなるように1.5mLエッペンドルフチューブ中で混合して、室温で15分間放置した。このとき、溶媒は1%酢酸含有50%エタノール溶液を用いた。その後、MSスペクトロメーター (LCQ Advantage, Thermo Finnigan, Australia)にシリンジを用いてインジェクトし、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法によりMSスペクトルを得た。この時の条件は、pH3.5、キャピラリー温度270℃、印加電圧4.5kVであった。
【0071】
結果を図5及び6に示した。Peptide 161-180又はPeptide 161-170とEGCGとの複合体のピークが認められ、これらの67LR部分ペプチドが、いずれもEGCGに結合することが確認された。
【実施例3】
【0072】
<ペプチドの抗酸化活性(TBARS消去活性)の測定>
67LR部分ペプチド溶液を終濃度1μMとなるように2mLのdH2Oに混合し、そこに1,1,3,3-テトラエトキシプロパン(Sigma)を終濃度10.5μM となるように加えた。TBA 試薬500μL を添加後攪拌し、試験管の上にガラス玉を置いて、95℃で1時間インキュベートした。TBA試薬は、超純水9.4mLに酢酸(Nacalai tesque, Inc. Kyoto, Japan)10.6mL、2-チオバルビツール酸(Sigma)67mg を混合溶解して調製した。反応後、流水で5分間冷却し、n-ブタノール(Nacalai tesque, Japan)2.5mLを添加後、20秒間攪拌した。3000rpmで10分間遠心した後、上層のブタノール層の蛍光強度を分光蛍光光度計RF-1500(SHIMAZDU)を用いて測定した。測定条件は、励起波長515nm、蛍光波長 553nmとした。抗酸化活性は、TBARS減少量を、下式により計算し、means±SD(n=3)で表した。なお、式中、標準液は、1,1,3,3-テトラエトキシプロパン(Sigma)の10.5μM溶液を指す。
【0073】
【数1】
【0074】
試験に供したペプチドのアミノ酸配列、及び試験結果を下表に示した。
【0075】
【表2】
【実施例4】
【0076】
<ペプチドの抗酸化活性 (DPPHラジカル消去活性) の測定>
67LR 部分ペプチド溶液を終濃度1μM となるように30μL の dH2O に混合し、そこにDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)溶液を90μL添加した。DPPH溶液は乳鉢で微粉状態にしたDPPH (和光純薬)1.97mgをエタノール (Nacalai tesque, Inc. Kyoto, Japan) 12.5 mL に溶解し調製した。添加後20分間反応させた後に、520 nmにおける吸光度を測定した。このとき、還元力を持つコントロールとして Trolox (CALBIOCHEM, US)を用いて検量線を作成した。抗酸化活性は、DPPH消去活性のTrolox当量(μmol)を平均値±標準誤差(n=3)で表した。
【0077】
結果を下表に示した。
【0078】
【表3】
【実施例5】
【0079】
<K置換ペプチド等についての検討>
Peptide 161-170においてリシンを置換した下表の配列のペプチド(K置換ペプチド)を合成した。
【0080】
【表4】
【0081】
また、Peptide 161-170においてリシン及びヒスチジンをセリンに置換したPeptide 161-170KS, HS(IPCNNSGASS、配列番号:33)を合成した。
これらについて下記の評価を行った。
【0082】
1) EGCGの細胞増殖抑制活性の抑制効果の評価:
実施例2に記載した方法に従って、EGCGの細胞増殖抑制活性の抑制効果を評価した。
2) ペプチドの抗酸化活性(TBARS消去活性及びDPPH ラジカル消去活性)の評価:
実施例4及び5に記載した方法に従って、K置換ペプチドについて、TBARS消去活性及びDPPH ラジカル消去活性を評価した。
【0083】
3) 結果:
EGCGの細胞増殖抑制活性の中和活性を図7に示した。KをR又はHに置換したペプチドにも細胞増殖抑制作用に対する中和活性が認められたが(A)、K及びHをそれぞれSに置換したペプチドでは中和活性が消失した(B)。
【0084】
抗酸化活性について、下表に示した。
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【実施例6】
【0087】
<EGCG Binding Peptide 160-170を用いたアフィニティーカラムの作製>
以下の材料を用いた。
・ストレプトアビジン担体カラム 1 mL(Hi Trap Streptavidin HP, Amersham)
・結合バッファー:20 mM sodium phosphate, 0.15 M NaCl, pH7.5
・ビオチン化Peptide 160-170(Biot-p160-170):Peptide 160-170のN末端にビオチンを結合させたもの。結合バッファーに溶解し、2 mM に調製
・Epicatechin: EC(Sigma):100% Methanol に溶解し、0.5 mM に調製
・Epigallocatechin-3-O-gallate: EGCG(Sigma):100% Methanol に溶解し、0.5 mM に調製。
【0088】
ビオチン化ペプチドのストレプトアビジン担体カラムへの固定化は、次のようにして行った。ストレプトアビジン担体カラム(Hi Trap Streptavidin HP, Amersham)を結合バッファーで平衡化し、Biot-p160-170を 2μmol(2mMx1mL)アプライした。本ペプチドをアプライした後、結合バッファーを0.5 mL/minで流し、カラムからの溶出画分を1mLずつ回収した。Biot-p160-170の吸収極大である220nmでの吸光度を測定し、本ペプチドがカラムに結合し、固定化されたことを確認した(図8)。
【0089】
次に、Biot-p160-170を結合させたストレプトアビジン担体カラム及びBiot-p160-170を結合させていないカラムを100% Methanolで平衡化し、100% Methanol に溶解したEC又はEGCGを両カラムへアプライ(流速は0.5mL/min)した。サンプルをアプライ後、カラムからの溶出画分を1 mLずつ回収し、EC、EGCGそれぞれの吸収極大である 276nm、273nm での吸光度を測定し、両カテキンの溶出をモニターした。結果、Biot-p160-170を結合させていないストレプトアビジン担体カラムにおいては、いずれのカテキンもカラムには全く結合せず、素通り画分として回収された(図9)。
【実施例7】
【0090】
<蛍光標識ペプチドを用いたEGCGの定量>
Peptide 160-170のN末端をFITC (fluorescein iso-thiocyanate)標識したものFITC-p160-170を、終濃度1μM となるように 1mL の dH2O に調製した。この溶液にEGCGを終濃度0.01、0.1、1 及び 10μMとなるように混合して室温で15分間放置した。その後、分光蛍光光度計RF-1500 (SHIMAZDU) を用いて、励起波長 365nm 、蛍光波長368nmにおける蛍光強度を測定した。EGCGの結合により、FITC-p160-170の蛍光強度が減少することから、このFITC-p160-170の変化度を、相対蛍光強度として下記の式により求めた。
【0091】
【数2】
【0092】
この相対蛍光強度に対して、EGCG濃度/FITC-p160-170濃度の値をプロットすることで図10を得た。
また、図10のプロットから、次の式が得られた。
【0093】
【数3】
【0094】
EGCG含有サンプルと既知濃度のFITC-p160-170を混合することで得られるFITC-p160-170の相対蛍光強度をXとして、上記式からY、つまり、EGCG濃度/FITC-p160-170濃度の値を得る。このY値にFITC-p160-170濃度を乗することで、EGCG含有サンプル中のEGCG量を求めることができる。
【実施例8】
【0095】
<カテキン結合ペプチドによるEGCGの抗酸化性活性の増強>
Peptide 161-170溶液及びEGCGをそれぞれ終濃度1μMとなるように30μLのdH2Oに混合し、15分間室温でインキュベートした。そこに1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl溶液(和光純薬)を90μL添加した。添加後20分間反応させた後に、520nmにおける吸光度を測定した。このとき、還元力を持つコントロールとしてTrolox(CALBIOCHEM, US)を用いて検量線を作成した。EGCGのDPPHラジカル消去活性を1とした場合の、ペプチド及びEGCGプラスペプチドの結果を下表に示した。
【0096】
【表7】
【実施例9】
【0097】
<塩基性アミノ酸によるEGCGの抗酸化性活性の増強>
アミノ酸溶液及び EGCGをそれぞれ終濃度1μMとなるように30μLのdH2Oに混合し、15分間室温でインキュベートした。そこに1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl溶液(和光純薬)を90μL添加した。添加後20分間反応させた後に、520nmにおける吸光度を測定した。このとき、還元力を持つコントロールとしてTrolox(CALBIOCHEM, US)を用いて検量線を作成した。EGCGのDPPHラジカル消去活性を1とした場合の、ペプチド、ペプチド存在下におけるEGCGの活性の相対値を下表に示した。
【0098】
【表8】
【実施例10】
【0099】
<EGCGの細胞結合性に及ぼすペプチドの影響>
ペプチドによりEGCGの細胞増殖抑制活性が中和されたのは、EGCGの細胞への結合性がペプチドによる阻害であることを直接確かめるために、HepG2に対するEGCGの結合性に対する67LR由来ペプチドの影響を表面プラズモン共鳴センサにより測定した。
【0100】
1) 方法:
タンパク質等の標準的な(アミノ基を要する)固定化法を用いてヒト細胞株HepG2を金膜(Nippon Laser and Electronic Lab.)に固定した。10μMの4,4-Dithio dibutyric acid; DDA(東京化成工業, Tokyo, Japan)エタノール溶液(10mLの99%エタノール中に2.38mgのDDAを溶解し、エタノールでさらに1/100に希釈した)に金膜を浸して(金の面を上に)穏やかに室温で30分間攪拌した。次に、エタノールで2回、金表面に水圧をかけないように洗浄し自己組織化膜(SA膜)を導入した。25mg水溶性カルボジイミド; EDC(和光純薬)を1mL超純水に、15mg N-hydroxysuccinimide; NHS(和光純薬)を9mL 1,4-Dioxane(Nacalai tesque, Inc.)にそれぞれ溶解した。それぞれの溶液を混合し、SA膜処理済の金膜を浸して、穏やかに室温で10分間攪拌した。これに10mLの超純水を加え、さらに室温で5分間攪拌した。超純水で2回、金表面に水圧をかけないように洗浄し、乾燥(風乾)させてカートリッジにマウントした。細胞を3 x 105 cells/mL(フローバッファーであるPBS)に調整して金膜上に20μL滴下し、30分間室温において細胞を固定化した。その後、PBSに溶解したEGCGを10μM、若しくはEGCGとペプチドをそれぞれ10μMを混合し15分間反応させた溶液を注入し、表面プラズモン共鳴角度(Angle)の変化を測定することでEGCGの細胞への結合性を検討した。サンプルの流速は30μL/minにて行った。
【0101】
2) 結果:
結果を、図11及び12に示した。
EGCGの細胞増殖抑制活性を中和するPeptide 151-170、Peptide 161-180、Peptide 161-170はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害した。これに対し、EGCGの細胞増殖抑制活性を中和できないPeptide 156-165、Peptide 166-175、Peptide 162-170、Peptide 161-169はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害しなかった(図11)。
【0102】
また、EGCGの細胞増殖抑制活性を中和するPeptide 161-170R及びPeptide 161-170Hのアミノ酸置換体はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害したのに対し、細胞増殖抑制活性を中和できないPeptide 161-170KS, HSはEGCGの細胞結合性を阻害しなかった(図12)。
【実施例11】
【0103】
<抗67LRリガンド剤、プリオン阻害剤としての効果の確認試験>
1) 材料及び方法:
1.1) 緑茶カテキン:
epigallocatechin-3-O-gallate(EGCG、sigma)は5mM となるようにリン酸バッファー(PBS)に溶解し、-20℃で凍結保存し、適宜希釈して用いる。PBSは、超純水1Lに対し、NaCl(Nacalai tesque, Inc.)8.0g、KCl(Nacalai tesque, Inc.)0.2g、Na2HPO4(Nacalai tesque, Inc.)1.15g、KH2PO4(Nacalai tesque, Inc.)0.2gを溶解して調整する。
【0104】
1.2) ペプチド:
67LR由来プリオン結合Peptide 161-179:IPCNNKGAHSVGLMWWLA
1.3) 細胞及び細胞培養:
ヒトテラトカルシノーマ細胞株NT2は、10%FBS(Bio Source International, Camarillo, CA)添加DMEM 培地(COSMO BIO CO., LTD.)で37℃、水蒸気飽和した5%CO2条件下で継代、維持する。DMEM 培地中には、100U/mLペニシリン(Meiji pharmaceutical Company, Tokyo, Japan)、100mg/mLストレプトマイシン(Meiji pharmaceutical Company)、23.1mM NaHCO3(和光純薬)、そして25mM HEPES(和光純薬)を添加する。細胞は対数増殖期で培養維持する。なお、分譲後の早い段階に-80℃で大量凍結し、長期にわたっての継代を避け、凍結保存した細胞を適宜解凍して用いるとよい。凍結培地はジメチルスルホキシド(Nacalai tesque, Inc. Kyoto, Japan)10%、FBS20%、DMEM培地70% の割合でそれぞれ混合したものを調整して用いる。
【0105】
2) 評価:
2.1) プリオン結合Peptide 161-179とプリオンとの結合に対するEGCG(又はカテキン結合ペプチド)の阻害作用の検討:
5μMのプリオン結合Peptide 161-179に、サンプルバッファー(0.057M Tris-HCl, pH6.8, 1.8%(w/v)sodium dodecyl sulfate(SDS), 0.65Mβ-merchaptomethanol, 9.1% glycerol, 0.02% bromophenol blue)を等量加えて、100℃で5分間、熱変性を行う。これを10% polyacrylamideゲルにアプライして、150VでSDS-polyacrylamide gel electrophoresis(PAGE)を行う。SDS-PAGE後、ゲルは氷冷しながら、150Vで90分間エレクトロブロッティングを行い、ペプチドをニトロセルロース膜に転写する。この膜を5%Bovine serum albumin(BSA)-TTBS(0.1% Tween 20含有 Tris buffered saline; 20mM Tris-HCl, pH7.6)を加えて室温で、1時間ブロッキングする。
【0106】
プリオンを発現しているNT2細胞に、細胞溶解バッファー(50mM Tris-HCl, pH7.5, 150mM NaCl, 1%(v/v)Triton-X 100, 1mM EDTA, 50mM NaF, 30mM Na4P2O7, 1mM Na3PO4, 1mM Phenylmethysulfonic fluoride, 2μg/mL Aprotinin)を細胞1 x 107cells当たり1mL加え、4℃で30分間振とうして細胞を溶解する。その後、16000 x gで遠心して上清を回収する。
【0107】
ペプチドを転写したニトロセルロース膜と、プリオンを含んだ上清又は5μM EGCGを添加した上清(若しくは5μMの本発明のカテキン結合ペプチドを添加した上清)を、37℃で1時間反応させる。TTBSで膜を3回洗浄後、BSA-TTBSで1000倍に希釈した抗プリオン抗体(MAB1562, CHEMICON International, Inc., USA)と膜を37℃で1時間反応させる。この膜をTTBSで3回洗浄後、BSA-TTBSで10000倍希釈した2次抗体(Mouse IgG-HRP, Santa Cruz Biotechnology)と、室温で1時間反応させる。TTBSで3回洗浄後、ECLキット(Enhanced Chemiluminesence; Amersham)を用いて発光反応を行い、イメージアナライザーChemImager 5500(Alpha Innotech, San Leandro CA.)を用いてプリオンタンパク質と膜上のペプチドとの結合を検出する。
【0108】
2.2) 67LRとプリオンとの結合に対するEGCGの阻害作用の検討(免疫沈降法):
NT2細胞を1 x 105 cells/mLとなるように10%FBS-DMEM培地に懸濁し、10mLディッシュ(Nunc, Roskild, Denmark)に播種し、24時間前培養を行い、細胞を接着させる。その後5μM EGCGを添加した培地(若しくは5μMの本発明のカテキン結合ペプチドを添加した培地)に置換し、30分間インキュベートする。細胞を回収し、PBSで洗浄後、遠心し、上清を除去した後、細胞を溶解バッファー(200μL)に懸濁し、4℃で30分間ローテーターを用いて撹拌して溶解する。細胞溶解バッファーはTris-HCl(5mM)、NaCl(150mM)、Triton-X100(1%(v/v))、EDTA(1mM)、NaF(50mM)、Na4P2O7(30mM)、pervanadate(1 mM)、PMSF(1mM)、aprotinin(2μg/mL)を用いてpH7.5に調整し、pervanadate、PMSF、aprotininは使用直前に添加する。細胞溶解液は、15,000 x g で30分間遠心して、不溶性物質を沈殿させ、上清をサンプルとする。
【0109】
上記の操作と並行して、protein A sepharose(Pharmacia Biotech Inc.)ビーズを十分懸濁し、20μLを0.6mLマイクロチューブに50%スラリーとなるように分注し、10,000 x g で遠心後に上清を除去し、200μLの細胞溶解バッファーで3回洗浄する。このprotein A sepharoseビーズと、抗プリオン抗体(MAB1562, CHEMICON International, Inc., USA)を添加した細胞溶解バッファーを、4℃で2〜4時間振とうして、抗体をprotein A sepharoseビーズに吸着させる。また上記と同様に分注、洗浄したprotein G sepharose(Pharmacia Biotech Inc.)ビーズに抗67LR抗体(F18, Santa Cruz Biotechnology)を添加した細胞溶解バッファーを添加して、4℃で2〜4時間振とうして、抗体をprotein G sepharoseビーズに吸着させる。
【0110】
上記で得たサンプル溶液を、細胞溶解バッファーで3回洗浄した、抗体が吸着しているビーズに加えて懸濁し、4℃で2〜4時間振とうして免疫沈降を行う。その後、加えたサンプル溶液の上清を除去し、 500μLの細胞溶解バッファー及びPBSで各3回ずつ洗浄を行う。SDS Sample buffer(0.057M Tris-HCl, pH6.8, 1.8%(w/v)sodium dodecyl sulfate(SDS), 0.65 M β-merchaptomethanol, 9.1% glycerol, 0.02% bromophenol blue)を20μL加え、ボルテックスにて10分間振とうし、免疫沈降物を溶離した後、100℃で5分間熱変性を行い、10% polyacrylamideゲルにアプライして、150VでSDS-polyacrylamide gel electrophoresis(PAGE)を行う。
【0111】
SDS-PAGE後、ゲルは氷冷しながら、150Vで90分間エレクトロブロッティングを行い、タンパク質をニトロセルロース膜に転写する。この膜を5%Bovine serum albumin(BSA)-TTBS(0.1% Tween 20含有 Tris buffered saline; 20mM Tris-HCl, pH7.6)を加えて室温で1時間ブロッキングを行う。ブロッキング後に、抗67LR抗体(F-18, Santa Cruz Biotechnology)又は抗プリオン抗体(MAB1562, CHEMICON International, Inc., USA)を5% BSA-TTBSで1000倍希釈し、4℃で一晩反応させる。TTBSで3回洗浄後、5% BSA-TTBSで抗67LR抗体の2次抗体(Goat IgG-HRP G2804, Santa Cruz Biotechnology)又は抗プリオン抗体の2次抗体(Mouse IgG-HRP, Santa Cruz Biotechnology)を1万倍希釈して、室温で1時間反応させる。TTBSで3回洗浄後、ECL キット(Enhanced Chemiluminesence ; Amersham)を用いて発色反応を行い、イメージアナライザー ChemImager 5500(Alpha Innotech, San Leandro CA.)を用いて検出を行う。
【0112】
2.3) 細胞表面67LRと組み換えプリオンタンパク質との結合に対するEGCG(又はカテキン結合ペプチド)の阻害作用の検討(ELISA法)
NT2細胞を1 x 105 cells/mLとなるように10%FBS-DMEM培地に懸濁し、96wellイムノプレート(Nunc, Roskild, Denmark)に100μL/welで添加し、37℃で24時間インキュベートする。TTBSで3回洗浄した後、3.7% ホルムアルデヒドを100μL/wellで添加し、室温で30分間放置して細胞を固定する。TTBSで3回洗浄した後、BSA-TTBSを300μL/well添加し、37℃で1時間インキュベートしてブロッキングする。
【0113】
TTBSで3回洗浄した後、10μg/mLとなるようにPBSで希釈したグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)で標識された組み換えプリオンタンパク質(PrP-GST(Molecular Biotechnology))、又は5μM EGCGを添加したPrP-GST溶液(若しくは5μMの本発明のカテキン結合ペプチドを添加したPrP-GST溶液)を100μL/wellで添加し、37℃で1時間インキュベートする。TTBSで3回洗浄した後、10μg/mLとなるようにPBSで希釈したグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)標識プリオン(PrP-GST(Molecular Biotechnology))を100μL/wellで添加し、37℃で1時間インキュベートする。TTBSで3回洗浄した後、PBSで1000倍希釈した抗GST抗体(G7781, Sigma)を100μL/wellで添加し、37℃で1時間インキュベートする。TTBSで3回洗浄した後、2次抗体(Rabbit IgG-HRP, Santa Cruz Biotechnology)を100μL/wellで添加し、37℃で1時間インキュベートする。
【0114】
TTBSで3回洗浄した後、基質溶液を100μL/wellで添加し、37℃で10分間インキュベートして発色させる。基質溶液は、水4.5 mL、0.1M Citrate buffer 6mL、6mg/mL ABTS 0.5 mLを混合して調製する。発光が完了したら1.5% Oxialic acidを100μL/wellで添加し、酵素反応を停止させる。発色はマイクロプレートリーダーを用いて415nmの吸光度を測定する。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対する67LR細胞外部分ペプチドの効果を示したグラフである。グラフ中、白色バーはEGCGを添加しない系、黒色バーはEGCGを1μM添加した系を示す(means±SD(n=3)、p<.0.05*、p<0.01**、p<0.001***;図2〜4、10において同じ。)。Peptide 161-180にEGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和活性が認められた。
【図2】図2は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対する67LR細胞外部分ペプチドの効果を示したグラフである。Peptide 161-180及びPeptide 151-170にPeptide 161-170とほぼ同程度の活性が認められた。
【図3】図3は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対するPeptide 161-170、及びその末端アミノ酸欠如ペプチドの効果を示したグラフである。N、C末端それぞれから1アミノ酸を削ると、EGCGの細胞増殖抑制作用に対するPeptide 161-170の中和活性は消失した。
【図4】図4は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対するPeptide 161-170及び組み換え67LRタンパク質の中和活性の比較を示したグラフである。EGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和活性は、Peptide 161-170が組み換え67LRタンパク質を上回った。
【図5】図5は、67LR細胞外部分ペプチドがEGCGへの結合活性を有すること示したMSスペクトルである。EGCGと67LR部分ペプチドとの混合液をMSスペクトロメータにインジェクトしたところ、Peptide 161-180とEGCGとの複合体のピークが認められた。
【図6】図6は、67LR細胞外部分ペプチドがEGCGへの結合活性を有すること示したMSスペクトルである。EGCGと67LR部分ペプチドとの混合液をMSスペクトロメータにインジェクトしたところ、Peptide 161-170とEGCGとの複合体のピークが認められた。
【図7】図7は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対する塩基性アミノ酸置換の効果を示したグラフである。KをR又はHに置換したペプチドにも細胞増殖抑制作用に対する中和活性が認められたが(A)、K及びHをそれぞれSに置換したペプチドでは中和活性が消失した(B)。
【図8】図8は、Biot-p160-170がストレプトアビジン担体カラムに固定化されたことを示すグラフである。ストレプトアビジン担体カラムへBiot-p160-170をアプライした後、結合バッファーを流し、Biot-p160-170の吸収極大である220nmでの吸光度を測定した。
【図9】図9は、Biot-p160-170を結合させていないストレプトアビジン担体では、カテキン類が結合せず、素通り画分として回収されることを示すグラフである。EC又はEGCGをカラムへアプライした後、カラムからの溶出画分を1mLずつ回収して、EC、EGCGそれぞれの吸収極大である 276nm、273nmでの吸光度を測定した。
【図10】図10は、相対蛍光強度に対して、EGCG濃度/FITC-p160-170濃度の値をプロットしたグラフである。FITC-p160-170(Peptide 160-170のN末端をFITCで標識したもの)の所定の濃度の溶液に、EGCGを混合し、充分な時間、放置した後、励起波長365nm 、蛍光波長368nmにおける蛍光強度を測定した。EGCGの結合により、FITC-p160-170の蛍光強度が減少することから、このFITC-p160-170の変化度を、相対蛍光強度(式:相対蛍光強度=FITC-p160-170+EGCGの蛍光強度/FITC-p160-170の蛍光強度)として求めた。図10のプロットから、式:Y=49.436e?9.6182Xが得られ(Xは相対蛍光強度、YはEGCG濃度/FITC-p160-170濃度)、EGCG含有サンプル中のEGCG量を求めることができる。
【図11】図11は、HepG2のEGCG結合性に対する67LR由来ペプチドの影響を、表面プラズモン共鳴センサにより測定した結果である。EGCGの細胞増殖抑制活性を中和するPeptide 151-170、Peptide 161-180、Peptide 161-170はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害した。これに対し、EGCGの細胞増殖抑制活性を中和できないPeptide 156-165、Peptide 166-175、Peptide 162-170、Peptide 161-169はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害しなかった。
【図12】図12は、HepG2のEGCG結合性に対する67LR由来ペプチドの影響を、表面プラズモン共鳴センサにより測定した結果である。EGCGの細胞増殖抑制活性を中和するPeptide 161-170R及びPeptide 161-170Hのアミノ酸置換体はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害したのに対し、細胞増殖抑制活性を中和できないPeptide 161-170KS, HSはEGCGの細胞結合性を阻害しなかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテキン類に結合することのできるペプチド、又は抗酸化活性を有するペプチドに関する。本発明のペプチドは、67kDaラミニン・レセプタータンパク質の、カテキン類への結合活性を有する部分に由来する。本発明によって提供されるペプチドは、食品(飲料を含む。)又は医薬品の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
カテキン類のうち、エピガロカテキンガレート(EGCG)は、茶のカテキンの約50%を占める主用成分である。茶には、他にエピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン(以下それぞれ、EGC、ECG、EC)等が含まれる。
【0003】
茶は古来より薬として用いられて来た古い歴史があり、近代よりその効能と成分の関係が解析されてきた。そのうちEGCGは1947年、A. Bradfieldらによって発見された成分である。EGCGを含めて茶のカテキン類の生理作用としては、抗酸化、抗癌、血漿コレステロール上昇抑制、血圧上昇抑制、血小板凝集抑制、血糖上昇抑制、痴呆予防、抗潰瘍、抗炎症、抗アレルギー、抗菌・抗虫歯、抗ウイルス、解毒、腸内フローラ改善、消臭等が報告されている。
【0004】
このうち、抗癌作用は非常に多く報告されており、抗変異作用、抗発癌プロモーション作用、抗腫瘍増殖抑制作用、抗浸潤・転移阻害作用、抗血管新生阻害作用がある。最近の報告では、EGCGは白血病細胞のDNA合成を阻害しアポトーシスを誘導することが、またEGCGが乳癌細胞株の増殖を抑制することが報告されている。さらには、EGCGが正常細胞と比べて癌細胞の増殖を強く抑制するなどの報告がなされている。浸潤・転移に関しては、カテキン類がマトリゲルを用いた浸潤試験で高転移性細胞の浸潤を抑制することが、また、癌細胞のフィブロネクチンやラミニンへの接着をEGCGが阻害することが報告されている。
【0005】
これらカテキン作用の分子レベルの解析が最近報告されてきている。たとえば、EGCGは癌との関連が示唆されているHer-2抗原高発現細胞の増殖を濃度依存的に抑制する。その作用機序はHer-2のリン酸化抑制によるその下流シグナル伝達の阻害だと報告されている。また、腫瘍増殖と密接な関連がある血管新生をEGCG等カテキンが阻害することが報告されている。そのメカニズムはカテキンが血管内皮細胞の増殖因子であるVEGFのレセプターVEGFR-1のリン酸化を抑制することにあると示されている。これはカテキンの抗酸化・抗ラジカル活性には依存しないと報告されている。同様に、他の増殖因子であるPDGF-BBによる血管平滑筋細胞でのPDGF-Rベータのリン酸化をカテキン類が抑制することで、血管の肥厚を抑制することが報告されている。さらに、EGF-2によるインビボでの血管新生並びに内皮細胞の増殖をEGCGが抑制することが報告されている。
【0006】
カテキンには抗腫瘍効果以外にも、種々の生理作用が分子レベルで明らかになってきている。EGCGは肝細胞でのグルコース産生を抑制し、かつインスリンレセプターとIRS-1のチロシンリン酸化を促進することで抗糖尿病的作用が報告されている。また、パーキンソンモデルマウスにおいてEGCGは強く神経保護作用を示す報告から、多くの神経障害を抑制することが期待されている。アレルギーの要因である好塩基球でのFcイプシロンRIの発現をEGCGやそのメチル化体が抑制することを、さらには軟骨においてIL-1ベータによって誘導されるCOX-2やNO合成酵素2の発現をEGCGが抑制することが報告されている。
【0007】
EGCGと結合する物質としてこれまでに、バクテリアII型脂肪酸合成酵素 (非特許文献1)、Bcl-2 (非特許文献2)、DNAメチル転移酵素 (非特許文献3)、67kDaラミニン・レセプター (非特許文献4)といったタンパク質が報告されている。しかしながら、これらタンパク質はそれぞれが他の物質とも結合することが知られており、いずれもEGCGとのみ特異的に結合する物質ではない。EGCGにのみ特異的に結合する物質の報告は今まで一切知られていない。
【0008】
一方、上述した67kDaラミニン・レセプター(以下、67LR)は、295個のアミノ酸をコードするmRNAから翻訳された37kDa前駆体タンパク質が、細胞内で脂肪酸等によるアシル化重合反応を受けてホモ二量体又はヘテロ二量体化により67kDaとなったタンパク質であり、それがインテグリン類とともに細胞膜表面へ移行してはじめてラミニン・レセプターとして機能する(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。このラミニン・レセプターの多くの癌細胞での高発現というデータにより、汎腫瘍特異的移植抗原としてのT細胞の免疫原として、腫瘍胎児抗原であると見なされている。ラミニン・レセプターは既に67LR以外に10数種類報告されているが、その中でも67LRの癌との関連が強く示唆されている。67LRのリガンドであるラミニンの発現は予後には影響ないが、67LRの発現は予後に負の結果をもたらすことが示されている。
【0009】
これらの知見をもとに、67LRの発現を抑制することで抗腫瘍効果を示すことを期待して行われた実験が幾つか報告されている。67LRのアンチセンスRNAを癌細胞株に導入して作製した67LR低発現細胞株は、元の親株細胞よりもマウスのインビボにおいて有為に腫瘍増殖能の低下並びに転移能の低下が起り、その結果マウス個体の生存率が改善することが報告されている。さらには、当低67LR発現細胞株は親株よりも腫瘍血管新生の低下並びに血管新生促進因子であるVEGFの産生そのものも低下していることが報告されている。同様に、抗67LRに対する抗体を用いた腫瘍転移実験においても、アンチセンス実験と同様な効果が認められている。
【0010】
非腫瘍関連においても、67LRの機能について幾つか報告がなされている。虚血動物モデルにおいて誘導される新生血管の増生が67LRと結合するラミニン由来ペプタイド(システイン-アスパラギン酸-プロリン-グリシン-チロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン)や、EGF由来ペプタイド(システイン-バリン-イソロイシン-グリシン-チロシン-セリン-グリシン-アスパラギン酸-アルギニン-システイン)によって抑制されることが報告されている。血管内皮細胞に対する剪断力によって誘導される動脈硬化との関与が指摘されているeNOS発現とNO産生が、67LRと結合するラミニン由来ペンタペプタイド(チロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン)によって抑制されることが報告されている。
【0011】
最近では、67LRがクロイツフェルトヤコブ病の病因と考えられているプリオンタンパク質のレセプターとして働き、プリオンが結合してインタナリゼーションされることが、その結合とインタナリゼーションが膜ドメインを欠いたミュータント67LRの分泌によって阻害されることが報告されている。また、プリオンタンパク質が67LRレセプターに結合するときの結合部位は、アミノ酸番号161-179の部分であると報告されている(非特許文献8)。
【0012】
67LRはまた、T細胞のサブセットであるCD45RO+/CD45RA-のメモリー細胞のCD4+CD8-又はCD4-CD8+のサブセット群で発現していることが報告され、67LRの免疫系への作用が示唆されている。
【0013】
67LRのmRNA発現に関する報告も幾つか存在する。癌抑制因子であるp53や抗癌因子であるTNF-α、IFN-γによってその発現が抑制されることが報告されている。
【先行技術文献】
【0014】
【非特許文献1】Y. Zhang et al.: J. Biol. Chem., 2004, 279: 30994-31001
【非特許文献2】M. Leone et al.: Cancer Res., 2003, 63: 8118-8121
【非特許文献3】M. Fang et al.: Cancer Res., 2003, 63: 7563-7570
【非特許文献4】H. Tachibana et al.: Nat. Struc. Mol. Biol., 2004, 11: 380-381
【非特許文献5】Yow, H. K. et al.: Proc. Nat. Acad. Sci. 1988, 85: 6394-6398
【非特許文献6】T. H. Landowski et al.: Biochemistry, 1995, 34: 11276-11287
【非特許文献7】S. Buto et al.: J. Cell. Biochem, 1998, 69: 244-251
【非特許文献8】C. Hundt et al.: EMBO J., 2001, 20: 5876-5886
【発明の開示】
【0015】
本発明者は、食品成分の生体調節機能に関する研究を行ってきた。そして67LRタンパク質においてEGCGと結合に関与する場所を特定し、EGCGとの結合活性を有するペプチド(配列番号:15)を見いだした。さらに、そのようなペプチド自体又はその改変体が抗酸化活性を有することも見いだし、本発明を完成した。
【0016】
I.カテキン結合ペプチド:
本発明は、下記の(a)、(b)又は(c)であるカテキン結合ペプチドを提供する:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド;又は
(c)67kDaラミニン・レセプター(67LR)のアミノ酸配列の一部において、
少なくともアミノ酸番号161〜170に由来する部分:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170
(配列中:
A161は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはイソロイシンであり;
A162は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはプロリンであり;
A163は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはシステインであり;
A164は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A165は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A166は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはリシンであり;
A167は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはグリシンであり;
A168は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアラニンであり;
A169は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはヒスチジンであり;
A170は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはセリンである)
を含み、さらにそれに隣接する1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていてもよい部分を含んでいてもよいアミノ酸配列からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド。但し、本発明の範囲からは、公知のペプチド、例えば非特許文献8に記載された67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチドは除かれる。
【0017】
本明細書において、ペプチドに関して「1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列からなるペプチドが所望の機能を有する限り特に限定されないが、例えば1〜9個、又は1〜4個程度である。性質(電荷及び/又は極性)の似たアミノ酸への置換等であれば、多数のアミノ酸が置換されていても、所望の機能を消失しないであろう。
【0018】
アミノ酸の置換等は、カテキン類との結合性に静電的な変化をもたらさないような置換等、例えば、電荷及び/又は極性の似たアミノ酸への置換であってもよい。このような置換には、例えば、生理的pH(7.0)付近で側鎖(R基と表現されることもある。)が非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリン等)どうしの置換、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸(セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミン等)どうしの置換、生理的pH付近で側鎖が正電荷を有するアミノ酸(リシン、アルギニン、及びヒスチジン等)どうしの置換、極性アミノ酸どうしの置換、非極性アミノ酸どうしの置換がある。
【0019】
本発明者の検討では、67kDaラミニン・レセプターのアミノ酸番号161〜170の部分の配列を有するペプチド又はその一部(配列番号:15及び18〜30)のうち、配列番号:23のペプチドを除くすべてについて、MS分析においてEGCGとの結合を示すピークが観察された。このような結果から、アミノ酸番号166のKが結合に重要であると考えられる。また、アミノ酸番号161〜170の部分の配列を有するペプチドにおいて、166番目のKを、同じ塩基性アミノ酸であるR又はHに置換したペプチド(配列番号:31及び32)については、同様に、EGCGとの結合ピークが観察された。さらに、タンパク質を構成する主要な20種のアミノ酸それぞれに対してEGCGとの結合性を検討すると、やはり塩基性アミノ酸であるK, H, Rにのみ結合ピークが観察された。一方で、MS分析で結合ピークが観察されることは、必ずしも高い結合活性を有することを意味するものではない。したがって、EGCGにペプチドが結合するためには、ペプチド中の塩基性アミノ酸の存在がまず重要であり、またそれ以外のアミノ酸の存在は、ペプチドに高い結合活性又は特異性等をもたらすために重要であると考えられる。
【0020】
さらに、本発明者の検討では、67LRのアミノ酸番号161〜170の部分の配列を有するペプチド(配列番号:15)についてはEGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和能が観られたが、そのC末端のアミノ酸1つを欠如させたペプチド(配列番号:18)、及びそのN末端のアミノ酸1つを欠如させたペプチド(配列番号:19)については、いずれにもEGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和能が観られなくなった(実施例1)。さらに、上述のアミノ酸番号161〜170の部分の配列を有するペプチドにおいてKをR又はHに置換したペプチド(配列番号:31及び32)には、置換前のものと同様の中和能が観られたにもかかわらず、K及びHをSに置換したペプチド(配列番号:33)からは中和能は消失した(実施例5)。
【0021】
このような観点から、上述のカテキン結合ペプチドを基にさらなる改変体を設計することができ、さらなる改変体ペプチドもまた、均等物として本発明の範囲に含まれうる。
本明細書において、「カテキン」を広義の意味で用いるとき、又は「カテキン類」というときは、特別な場合を除き、3-オキシフラバンのポリオキシ誘導体をいう。これには、カテキン、ガロカテキン、及びそれらの3-ガロイル体が含まれ、またそれらの異性体及びラセミ体、並びにそれらのメチル化体が含まれる。具体的には、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート(gallocatechin-3-O-gallate;GCG);主要な緑茶カテキンであるエピカテキン(epicatechin;EC)、エピガロカテキン(epigallocatechin;EGC)、エピカテキンガレート(epicatechin-3-O-gallate;ECG)及びエピガロカテキンガレート(epigallocatechin-3-O-gallate;EGCG); EGCGのメチル化体であるエピガロカテキンメチルガレート(epigallocatechin-3-O-gallate;EGCGMe)、具体的には、epigallocatechin-3-O-(3-O-methyl) gallate;EGCG3”Me、epigallocatechin-3-O-(4-O-methyl) gallate;EGCG4”Meが含まれる。本明細書では、カテキン類のうち、3-ガロイル体であるものを特に「ガロイルカテキン類」という。
【0022】
本発明者のMS分析においては、配列番号:7又は配列番号:15のペプチドは、EGCGに結合し(実施例2)、またECG、GCG、EGCG3”Me及びEGCG4”Meにも結合した。他方、EC及びEGCには結合しなかった。また、非特許文献4では、67LR-transfected細胞とEC、EGCとの相互作用は観られなかった。したがって本発明のカテキン結合ペプチドは、特にガロイルカテキン類(特定するとCG、ECG、GCG、EGCG、EGCG3”Me、EGCG4”Me、より特定するとECG、GCG、EGCG、EGCG3”Me、EGCG4”Me、さらに特定するとEGCG)に結合可能である。なお、本明細書では、本発明のペプチドのカテキン類への結合活性を、特にEGCGへの結合活性を挙げて説明することがあるが、特別な場合を除き、その説明は、他のガロイルカテキン類にも当てはまる。
【0023】
あるペプチドがカテキン類との結合活性を有するか否かは、例えば、本明細書の実施例2の記載にしたがって、カテキン類と候補ペプチドとの複合体の存在を確認することにより、判断することができる。また、あるペプチドのカテキン類との結合活性の有無及びその結合活性の高さは、例えば、本明細書の実施例1の記載にしたがって、対象ペプチドについて、カテキン類の活性の中和(阻止)能を評価することによっても判断することができる。
【0024】
本発明のカテキン結合ペプチドは、67LRタンパク質と比較して、極めて短いペプチド鎖から構成される。67LRタンパク質の調製は、量的にも質的にも非常に困難であるのに対し、本発明のカテキン結合ペプチドは、化学合成でき、大量にかつ純度の高いものが容易に調製できるとの利点を有する。
【0025】
本発明のカテキン結合ペプチドの好ましい例は、本明細書の実施例2に記載された方法等により求めた同濃度におけるEGCGの活性の中和の程度の比較、EGCGの活性を完全に中和する濃度の比較、又は非特許文献4に記載された表面共鳴プラズモンを用いた方法等により求めたKd値の比較により、EGCGへの結合活性が67LRより高いもの、及び/又はEGCGの活性の中和能が67LRよりも高いものである。
【0026】
本発明のカテキン結合ペプチドの好ましい例は、配列番号:15、配列番号:31又は配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチドである。
本発明のカテキン結合ペプチドは、当業者であれば、従来法を用いて、容易に製造することができる。
【0027】
II.抗酸化ペプチド:
本発明はまた、下記の(a)、(b)又は(c)である抗酸化ペプチドを提供する:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗酸化活性を有するペプチド;又は
(c)67LRのアミノ酸番号161〜170に由来するアミノ酸配列:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170
(配列中:
A161は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはイソロイシンであり;
A162は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはプロリンであり;
A163は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはシステインであり;
A164は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A165は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A166は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはリシンであり;
A167は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはグリシンであり;
A168は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアラニンであり;
A169は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはヒスチジンであり;
A170は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはセリンである)の全部、又は一部であって少なくともA164又はA167を含む連続した3以上の配列(好ましくは、4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上)からなり、かつ抗酸化活性を有するペプチド。但し、本発明の範囲からは、公知のペプチド、例えば非特許文献8に記載された67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチドは除かれる。
【0028】
本明細書において、「抗酸化活性」(「抗酸化能」ということもある。)というときは、酸化を抑制する活性又は能力をいい、これにはTBARS消去活性(本明細書の実施例3参照)とDPPHラジカル消去活性(本明細書の実施例4参照)とが含まれる。本発明のペプチドの「抗酸化活性」は、TBARS消去活性及びDPPHラジカル消去活性のいずれか一方又は両方により評価することができる。いずれか一方を有していれば、「抗酸化活性」を有しているといえる。
【0029】
本発明の抗酸化ペプチドの好ましい例は、配列番号:15、配列番号:18、配列番号:19、配列番号:20、配列番号:21、配列番号:22、配列番号:23、配列番号:24、配列番号:25、配列番号:26、配列番号:27、配列番号:28、配列番号:29、配列番号:30、配列番号:31若しくは配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチド、又はアミノ酸配列:A164-A165-A166(配列中、A164は、アスパラギンであり;A165は、アスパラギンであり;A166は、リシンである)。
【0030】
本発明の抗酸化ペプチドは、当業者であれば、従来法を用いて、容易に製造することができる。
【0031】
III.用途:
本発明は、67LRタンパク質に由来する下記の(a)、(b)又は(c)のペプチドの有用な用途を提供する:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド;又は
(c)67kDaラミニン・レセプター(67LR)の部分アミノ酸配列において、少なくともアミノ酸番号161〜170に由来する部分:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170(配列中、A161〜A170は、上に定義したとおりである)を含み、さらにそれに隣接する1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていてもよい部分を含んでいてもよいアミノ酸配列からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド)。
【0032】
上で定義したペプチドは、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)との結合活性を有する。したがって、抗体のように、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の検出のために、必要に応じて標識化し、及び/又は固定化して、用いることができる。具体的には、ペプチドを、試料中の、例えば、天然物、加工品(食品、医薬品、医薬部外品、加工品原料、加工中間品等)、体液(血液、尿等)中の、ガロイルカテキン類の特異的な検出及び/又は定量のために用いることができ(実施例7)、そのための試薬、キット、試験紙、センサー等の形態の要素とすることができる。
【0033】
ペプチドの標識化、固定化には、従来法を適用することができる。例えば、ペプチドのN末端にFITC (fluorescein iso-thiocyanate)やビオチンを結合させることにより標識化でき、また、ビオチン化したペプチドは、アビジン結合担体に固定化することができる(実施例6)。本発明のペプチドは、共有結合により担体に固定化することもできる。共有結合による固定化は、固定化担体(例えばHPLC用カラム)への試料のアプライ条件や溶出条件に制限が少ないとの観点から、好ましい。
【0034】
本発明はまた、上で定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を濃縮及び/又は精製する工程を含む、ガロイルカテキン類の製造方法も提供する。この方法において、ペプチドは担体に固定化して、親和性カラムクロマトグラフィーのリガンドとして用いることができる。
【0035】
本発明はまた、上で定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の固定化方法も提供する。具体的には、ペプチドを、カテキン類を利用した抗菌フィルター、ホルムアルデヒド消去剤等においてカテキン類を固定化するために用いることができる。ペプチドとガロイルカテキン類の結合体を含む種々の態様が、本発明の範囲に含まれる。
【0036】
本発明はまた、上で定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の矯味方法、該ペプチドを含む、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の矯味剤、並びに該ペプチド及びガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を含有する、食品(飲料を含む。)又は医薬組成物を提供する。カテキン類、とくにガロイルカテキン類は、特有の苦味を呈するため、食品等に添加する際の量に制限がある。しがしながら、本発明のカテキン類と結合可能なペプチドを添加することにより、カテキン類の苦味をマスキングすることができる。
【0037】
ガロイルカテキン類とペプチドとを含む本発明の食品は、具体的には、栄養機能食品、特定保健用食品、健康食品、栄養補助食品、ドリンク剤、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、スポーツドリンク等の形態とすることができる。
【0038】
ガロイルカテキン類とペプチドとを含む本発明の医薬組成物は、カテキン類が有する、抗酸化、抗癌、血漿コレステロール上昇抑制、血圧上昇抑制、血小板凝集抑制、血糖上昇抑制、痴呆予防、抗潰瘍、抗炎症、抗アレルギー、抗菌・抗虫歯、抗ウイルス、解毒、腸内フローラ改善、消臭等(茶の機能、村松敬一郎ら編、学会出版センター、2002)の各作用に関連する疾患又は状態の処置に用いることができる。特に、EGCGの有する抗癌作用、詳細には抗変異作用、抗発癌プロモーション作用、抗腫瘍増殖抑制作用、抗浸潤・転移阻害作用、抗血管新生阻害作用;より詳細には、DNA合成を阻害することによる白血病細胞のアポトーシス誘導作用(Int. J. Mol. Med., 2001, 7: 645-652, D. M. Smithら);乳癌細胞の増殖抑制作用(J. Cell. Biochem., 2001, 82: 387-398, K. T. Kavanaghら);癌細胞の選択的増殖抑制作用(Arch. Biochem. Biophys, 2000, 376: 338-346, N. Ahmadら);癌の浸潤・転移に関する、高転移性細胞の浸潤抑制作用、フィブロネクチンやラミニンへの癌細胞の接着を阻害する作用(Cancer Lett., 1995, 98: 27-31, M. Suzukaら、Cell Biol. Int., 1993, 17: 559-564, M. Isemuraら、Cancer Lett., 2001, 173: 15-20, Y. Suzukiら);Her-2のリン酸化の抑制によるその下流シグナル伝達の阻害による、Her-2抗原高発現細胞の増殖抑制作用(Cancer Res., 2002, 62: 652-655, S. Pianettiら);VEGFのレセプターであるVEGF R-1のリン酸化を抑制することによる、血管新生阻害作用(Cancer Res, 2002, 62: 381-385, S. Lamyら);PDGF-BBによる血管平滑筋細胞でのPDGF-Rベータのリン酸化の抑制による血管肥厚抑制作用(FASEB J, 2002, 16: 893-895, A. Sachinidisら);EGF-2による血管新生及び内皮細胞の増殖の抑制作用(Nature, 1999, 389: 381, Y. Caoら)に関連する疾患又は状態の処置に用いうる。また、肝細胞でのグルコース産生を抑制し、かつインスリンレセプターとIRS-1のチロシンリン酸化を促進することによる、抗糖尿病作用(J. Biol. Chem., 2002, 277: 34933-34940, M. E. Waltner-Lawら);神経障害の抑制作用、より詳細には神経疾患(例えば、パーキンソン病)における神経保護作用(J. Biol. Chem., 2002, 277: 30574-30580, Y. Levitesら);アレルギーの要因である好塩基球でのFcイプシロンRIの発現の抑制作用(J. Agric. Food Chem, 2002, 50: 5729-5734, Y. Fujimuraら);軟骨におけるIL-1ベータによって誘導されるCOX-2やNO合成酵素2の発現の抑制作用(Free Radical Biology & Medicin, 2002, 33: 1097-2002, S. Ahmedら)に関連する疾患又は状態に用いうる。さらに、67LRの機能、具体的には、癌の予後に負の結果をもたらす機能(Breast Cancer Research and Treatment, 1998, 52: 137-145, S. Menardら);腫瘍増殖能及び転移能(British Journal of Cancer, 1999, 80: 1115-1122, K. Satohら);腫瘍血管新生調節機能、及びVEGF産生調節機能(Cancer Letters, 2000, 153: 161-168, M. Tanakaら);腫瘍転移調節機能(Jpn. J. Cancer Res., 1999, 90: 425-431, K. Narumiら);虚血性疾患において誘導される新生血管の増生調節機能(Am. J. Pathol, 2002, 160: 307-313, D. Gebarowskaら);血管内皮細胞に対する剪断力によって誘導される動脈硬化との関与が指摘されているeNOS発現とNO産生調節機能抑制(J. Biol. Chem., 1999, 274: 15996-16002, T. Gloeら);プリオンタンパク質のレセプターとして働き、プリオンとの結合とインタナリゼーションを調節する機能(EMBO J, 2001, 20: 5863-5875, S. Gauczynskiら);免疫調節機能(J. Immunol, 1999, 163: 3430-3440, S. M. Canfieldら);癌抑制因子であるp53や抗癌因子であるTNF-α、IFN-γによって67LRのmRNAの発現が抑制されること(Biochem. Biophys. Res. Commun., 1998, 251: 564-569, N. Clausseら)に基づく癌関連機能に関連した疾患又は状態の処置にも用いうる。なお、本明細書において疾患又は状態について「処置」というときは、特別な場合を除き、その疾患又は状態について、治療すること、予防すること、進行を停止することが含まれ、治療には、症状を抑える対処的治療と、根本的な治療とが含まれる。
【0039】
ガロイルカテキン類とペプチドとを含む本発明の医薬組成物は、医薬部外品としても有用であり、化粧水、石けん、シャンプー、ウェットティッシュ等の形態として用いることもできる。
【0040】
上で定義したペプチドは、カテキン類の抗酸化作用を促進する作用も有するから(実施例8)、本発明はさらに、上で定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の抗酸化活性の促進方法、該ペプチドを含む、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の抗酸化活性の促進剤も提供する。
【0041】
本発明はさらに、上で定義したペプチドを含む、抗酸化剤も提供する。本発明の抗酸化剤は、食品又は医薬品の形態とすることができる。医薬品とする場合、抗酸化作用に関連した疾患又は状態の処置に用いることができる。
【0042】
カテキンは抗酸化物質であるとともに酸化物質としての性質も有しており、緑茶飲料などカテキンを含む飲料中には、カテキン由来の過酸化水素が多く含まれる。このような場合に本発明のガロイルカテキン類と結合する本発明のペプチドを共存させることでEGCGの酸化作用を抑制しつつ、抗酸化作用を保持させることが可能となる。なお、本発明のペプチドの有するこのようなガロイルカテキン類の抗酸化活性の促進機能は、塩基性アミノ酸にも観られる(実施例9)。
【0043】
カテキンを細胞や臓器の保護剤として使用している例がある。この場合のカテキンの保護作用は、抗酸化作用によるものである。本発明のペプチドは、このような作用を高めるためにも有効に用いることができる。。
【0044】
上で定義したペプチドは、病原性プリオンが67LRに結合するときの結合部位であるアミノ酸番号161〜179の部分の配列(非特許文献8)と重複する。したがって、上で定義したペプチドを、抗プリオン物質として用いることができ、また67LRとの結合を阻害することにより病原性プリオンの感染が防げるから、上で定義したペプチド又はガロイルカテキン体を、プリオン阻害物質として用いることができる。したがって、本発明はまた、上に定義したペプチドを含有する、抗67LRリガンド剤(より特定すると抗プリオン剤)、並びにガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を含む、プリオン病(例えば、ウシ海面状脳症(BSE)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、若年発症の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD))を処置するための医薬組成物を提供する。
【0045】
67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「Peptide 161-179」ということもある。)よりも短い本発明のペプチドは、プロテアーゼによる分解作用をより受けにくく、より安定であろう。また、Peptide 161-179中に含まれる67LRのアミノ酸番号173〜178(LMWWML)の部分は、ラミニン 1との結合部位であり(J. Biol. Chem. 266, 20440-20446 (1991))、Peptide 161-179を投与した場合や標的物質の検出に用いた場合に、生体内のラミニン 1と結合してしまったり、標的物質とラミニン 1を区別できないという不都合が生じうる。このような観点からは、Peptide 161-179より短く、さらに好ましくは67LRのアミノ酸番号173〜178の部分を含まないような本発明のペプチドが、抗プリオン物質として特に有用である。
【0046】
本発明のペプチドを含む抗プリオン剤は、具体的には、血液等の試料中のプリオンの検出のため、プリオン病の予防及び/又は治療のために用いることができる。
プリオン病の予防及び/又は治療のために、上で定義したペプチドを含む本発明の抗プリオン剤を用いる場合、すなわち、本発明の抗プリオン剤を医薬組成物として用いる場合、その投与経路、剤形、用量は、当業者であれば適宜設計することができる。
【0047】
ガロイルカテキン類を含む本発明の医薬組成物の投与経路及び剤形もまた、当業者であれば適宜設計することができる。この医薬組成物は、経口投与が可能であり、かつ有効であると考えられる点でも非常に優れている。現在、プリオン病の治療のために有望視されているのは、抗プリオン抗体であるが、抗体の場合は血液脳関門があって通過できないため、経口投与では効果が期待できず、直接脳に投与しないと効果がない。これに対し、カテキンは経口投与でも脳内へ到達することができる。また、抗プリオン抗体は正常な脳に対して重篤な影響(細胞死の誘導)を与えるとの報告がある(Science, 303, 1514-1516 (2004))が、カテキンについては、これまでに脳に対する悪影響は報告されていない。
【0048】
ガロイルカテキン類を含む本発明の医薬組成物は、固形剤、液剤いずれとしても製剤化しうるが、安定性を期待して、ガロイルカテキン類を上で定義したペプチドとの結合体の形で含ませるのもよい。ウシ等の家畜のためには、ガロイルカテキン類自体、ガロイルカテキン類を多く含む緑茶葉又は茶葉抽出物を飼料に混合してもよい。このような飼料もまた、本発明の医薬組成物に含まれる。カテキン類含量は、一番茶よりも二番茶、三番茶、秋冬番茶のほうが高いので、本発明の医薬組成物の原料として、二番茶、三番茶、秋冬番茶を利用することができる。
【0049】
ガロイルカテキン類を含む本発明の医薬組成物の投与量もまた、当業者であれば適宜設計することができる。EGCGについては、500〜1000mgの経口摂取時の血中到達濃度である1μMで、細胞表面の67LRに結合できることが実証されている(非特許文献4参照)ことから、こうした用量で効果が期待できる。他方、500〜1000mgのEGCGは、市販の飲料でも用いられており、継続して摂取した場合における安全性が充分に確認されているといえる。
【0050】
上で定義したペプチド及びガロイルカテキン類のプリオン病に対する薬効は、以下の点から明らかである:
(1) 上で定義したペプチドは、プリオンに結合しうるものであり、抗プリオン抗体的に用いうるものである。またガロイルカテキン類は、プリオンの結合を阻害しうるものである。Leuchtらの報告(EMBO Rep., 4, 290-295 (2003))によれば、病原性プリオンの感染した細胞に抗67LR抗体を作用させると、病原性プリオンの増大を防ぐとともに完全に消失させることができることが実証され、また抗67LR抗体がプリオン病の治療に役立つことが主張されている。
【0051】
(2) プリオンと67LRの結合を、上で定義したペプチド又はガロイルカテキン類が阻害することは、種々の方法で確認することができる。例えば、67LRを発現しているNT2細胞(非特許文献8参照)及びプリオンを含む系に、上で定義したペプチド又はガロイルカテキン類を作用させ、抗67LR抗体又は抗プリオン抗体を用いて免疫沈降の成否を確認すればよい。あるいは、非特許文献8に記載された実験系を利用し、組み換えプリオンと67LRとの結合を上で定義したペプチド又はガロイルカテキン類が阻害することを確認する。より具体的な手法は、本明細書の実施例11に示されている。
【0052】
本発明の食品又は医薬組成物には、その具体的な用途(適応疾患、改善されうる症状等)、及び/又はその具体的な用い方(例えば、投与経路、量、回数、期間、等)を、添付の説明書、容器表面、パッケージ表面等に表示することができる。
【0053】
本発明は、以下の工程を含む、ガロイルカテキン類模倣化合物候補のスクリーニング方法を提供する:
(1)試験化合物を準備し;
(2)試験化合物について、上で定義したペプチドへの結合性を評価し;そして
(3)試験化合物がペプチドへの結合性を有する場合に、その化合物を選択する。
【0054】
本明細書ででいう「ガロイルカテキン類模倣化合物」とは、先に述べたカテキン類又はEGCGの抗癌作用等の生理活性を模倣する化合物をいう。
工程(1)は、スクリーニングに供する化合物を準備する工程である。化合物は、当業者であれば従来の方法で種々の化合物を合成することができ、また市販の化合物ライブラリーを利用してもよく、化合物は天然物由来であってもよい。化合物は、単体としてスクリーニングに供してもよく、又は複数の混合物として供してもよい。工程(2)における試験化合物のペプチドへの結合性の評価は、例えば、試験化合物がカラムに固定化されたペプチドに特定の条件で結合するかどうかを調べることによる。工程(3)は、例えば、工程(2)においてペプチド固定化カラムを用いた場合は、カラムを素通りした化合物を除去し、カラムに捕獲された化合物を適当な条件で溶離させることにより行う。
【0055】
選択された化合物(群)は、ガロイルカテキン類模倣化合物候補(群)として、更なる評価・検討に供することができる。例えば、第一の、スクリーニングのためのアフィニティーカラムにより選択された化合物群を、続いて第二のカラムに供して各単一成分に分割し、各成分について同定又は構造決定することができる。HPLCをベースとしたこのようなシステムの第一のカラムとしての適用は、本発明のスクリーニング方法の好ましい態様の一つである。
【0056】
本発明のスクリーニング方法は、上で定義したペプチドが67LRタンパク質よりも小分子であり、標的に対する結合活性が高く、ガロイルカテキン類模倣化合物候補を網羅的かつ迅速にスクリーニング方法に適している。本発明のスクリーニング方法においては、ペプチドとして、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:15、配列番号:31又は配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチドを用いることが好ましい。本発明のスクリーニング方法は、特にEGCG模倣化合物候補の選抜に適している。
【0057】
本発明はまた、上で定義したペプチドを用いて、ガロイルカテキン類模倣化合物候補を濃縮及び/又は精製する方法も提供する。
本発明はまた、67LRのアミノ酸番号161〜170のアミノ酸配列からなる部分をコードする塩基配列における変異を検出することを特徴とする、ガロイルカテキン類で処置可能な疾患素質の検出方法を提供する。この方法により、ガロイルカテキン類への感受性及び/又はガロイルカテキン類で処置可能な疾患への罹りやすさ等を診断することができる。67LRのアミノ酸番号161〜170のアミノ酸配列からなるペプチド(配列番号:15)において塩基性アミノ酸部分をセリンに置換したペプチド(配列番号:33)では、本来の中和能が完全に消失した(実施例5)。すなわち、配列中の塩基性アミノ酸に実質的な変異をもたらす67LR遺伝子変異を有する場合は、ガロイルカテキン類に対する感受性が低いといえる。ガロイルカテキン類を用いた食品又は医薬組成物のオーダーメード化において、カテキン結合部位の配列情報は、対象者のカテキン感受性の判断基準に有用である。67LRのアミノ酸番号161〜170の部分における変異の有無は、対象者由来のDNAもしくはmRNAの当該部分の遺伝子配列を直接解析すること、又は67LRのアミノ酸番号161〜170中の塩基性アミノ酸部分の遺伝子多型を解析することにより、実施できる。
【0058】
なお、本明細書において「ガロイルカテキン類」について説明したことは、同様にガロイル基を有する他の化合物、例えばストリクチニンにも当てはまる。ストリクチニンは、IL-4誘導性εGT発現及びIgE産生を抑制する(Biochemical and Biophysical Research Communication 280, 53-60 (2001))。すなわち、本発明は、ガロイル基を有するストリクチニン等の化合物にも適用することができる。本発明は、そのような改変も提供する。
【実施例1】
【0059】
<67LR部分ペプチド及び組み換え67LRタンパク質によるEGCGの細胞増殖抑制活性の抑制効果の検討>
1) 材料及び方法:
1.1) 緑茶カテキン:
epigallocatechin-3-O-gallate (EGCG、sigma)、epicatechin-3-O-gallate (ECG、sigma)、epigallocatechin (EGC、sigma)、epicatechin (EC、sigma) は 5 mM となるようにリン酸バッファー (PBS) に溶解し -20℃で凍結保存し、適宜希釈して用いた。PBS は、超純水 1 L に対し、NaCl (Nacalai tesque, Inc.) 8.0 g、KCl (Nacalai tesque, Inc.) 0.2 g、Na2HPO4(Nacalai tesque, Inc.) 1.15 g、KH2PO4 (Nacalai tesque, Inc.) 0.2 g を溶解し調製した。
【0060】
1.2) 細胞及び細胞培養:
ヒト肝ガン細胞株 HepG2 は 10% FBS (Bio Source International, Camarillo, CA) 添加DMEM 培地 (COSMO BIO CO., LTD.) で 37℃、水蒸気飽和した 5% CO2 条件下で継代、維持した。DMEM 培地中には、100 U/mL ペニシリン (Meiji pharmaceutical Company, Tokyo, Japan)、100 mg/mL ストレプトマイシン (Meiji pharmaceutical Company)、23.1 mM NaHCO3 (和光純薬)、そして 25 mM HEPES (和光純薬) を添加した。細胞は対数増殖期で培養維持した。
【0061】
1.3) 67kDaラミニンレセプター (67LR) の定常発現系の構築:
ヒト67LR遺伝子は、次の二つのプライマーにより、ヒト肝細胞cDNAライブラリーを鋳型としてPCR法を用いてクローニングした。
h67LR-S: C ggTACC ATg TCC ggA gCC CTT gAT gTC CTg CAA ATg(配列番号:1)
h67LR-A: g gCggCCgC TTA AgA CCA gTC AgT ggT TgC TCC TAC CCA(配列番号:2)
得られたPCR増幅断片をpcDNA3.1(+)(invitrogen)ベクターにライゲーションし、ヒト67LR 遺伝子発現ベクター (pcDNA3.1-hLamininR)とした。
【0062】
pcDNA3.1-hLamininRをエレクトロポーレーション法により HepG2細胞に導入した。詳細は以下に述べるとおりである。5 x 106 cells の細胞を 15 mL 遠心管 (Nunc, Roskild, Denmark) に回収し、リン酸バッファー (PBS) で一度洗浄後、300 x g で5分間遠心して上清を取り除いた。沈殿した細胞を300μL のリン酸バッファー (PBS) に再懸濁し、10μgのpcDNA3.1-hLamininR を加え穏やかに混ぜ、 4mm Gap ディスポーザブルキュベットに移した後、氷上で 10 分間放置した。キュベットを Erctro Cell Manipurator ECM395 (A Division of Genetronics, Inc., USA) にセットして 250 V の電圧をかけた後、キュベットを氷上で 10 分間放置した。内容物を培地で洗浄した後、10% FBS 含有培地に懸濁し、96 穴 プレート (Nunc, Roskild, Denmark) に 100μL/well となるように播き込み、3日間培養した。その後、ネオマイシン (Invitrogen Corporation) を添加した 10% FBS 含有培地を 100μL/well 添加した。目的遺伝子が導入されていない細胞が死ぬ程度まで約2週間、ネオマイシン含有培地でセレクションし、ネオマイシン耐性クローンを取得した。
【0063】
1.4) 67LR部分ペプチドの合成及び調整:
67LRの細胞膜より外側 (アミノ酸番号:102-295)の部分ペプチドを合成した。それぞれの部分ペプチドの名前と 67LR タンパク質中におけるアミノ酸番号及びアミノ酸配列は下表に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
ペプチドをそれぞれ 1mg 測りとり、Peptide 121-140、Peptide 181-200、Peptide 281-295、Peptide 156-165、Peptide 171-180 は 50% ジメチルスルホキシド (Nacalai tesque, Inc. Kyoto, Japan) に、その他のペプチドは蒸留水に 1 mM となるように溶解して -80℃で凍結保存し、適宜希釈して用いた。
【0066】
1.5) 組み換え67LRタンパク質の調製:
ヒト67LR 遺伝子発現ベクター (pcDNA3.1-hLamininR)より制限酵素KpnI及びNotI切断により67LR遺伝子を切り出し、pET30aベクターのKpnI/NotIサイトに挿入した(pET30a-67LR)。構築した大腸菌用発現ベクターpET30a-67LRを大腸菌BL21(DE3) 株に形質転換した。詳細は以下に述べるとおりである。
【0067】
コンピテント状態にある大腸菌 BL21(DE3) 株に 1 ng の pET30a- hLamininR を加え、氷上で 30 分間放置した。42℃で 30 秒間熱ショックを与えた後、氷中に戻し冷却した。その後 0.9 mL の SOC 培地を加え、 37℃で 1 時間回復培養し、1000 x g で 5 分間遠心した。上清 0.9 mL を除き、残りの溶液で大腸菌を懸濁し、耐性薬剤であるカナマイシンを含むプレートに播種し 24 時間培養した後に、カナマイシン耐性コロニーを取得し、pET30a-67LR導入大腸菌を得た。このpET30a- hLamininR 導入 大腸菌 をカナマイシン含有 LB 培地に接種し、37℃で 24 時間培養した。この大腸菌培養液を、カナマイシン含有 LB 培地に加え更に培養し、0.5 mM IPTG を添加して遺伝子の発現を増強した。この大腸菌培養液を遠心して菌体を沈殿として回収した。冷却しておいたリン酸バッファーを加え、ハンディーソニック (TOMY SEIKO Company, Tokyo, Japan) を用いて 30 秒間超音波破砕した。続いて、15,000 r.p.m. で 15 分間遠心し、その上清を回収した。この上清中に含まれる組み換え67LR タンパク質は、Hi Trap カラム (Amersham Biosciences, USA) を用いて、カラムに添付してあるマニュアルにしたがって精製した。
【0068】
1.6) 評価方法:
pcDNA3.1-hLamininR 導入HepG2細胞を1x104cells/mLとなるように2%FBS及び 5mg/mL BSA含有DMEM培地に懸濁し、24穴プレート(Nunc, Roskild, Denmark) に播種し、24時間放置して細胞を接着させた。その後、EGCG及び67LR部分ペプチド又は組み換え67LRタンパク質を、各々終濃度1μMとなるように2%FBS及び5mg/mL BSA含DMEM培地中で混合し、室温で15分間放置したものを細胞培養上清と置換した。5日間、37℃、5% CO2条件下で培養後、細胞数をセルカウンター(Sysmex)により計測した。細胞増殖抑制活性の抑制能(中和能)は、EGCG及び67LR部分ペプチド(又は組み換え67LRタンパク質)を添加した系の相対細胞数(EGCG、67LR部分ペプチドとも添加しない系の細胞数を100(%)とする)の平均値(n=3)で表した。実験結果の統計処理には、Studentのt検定を用いた。
【0069】
2) 結果:
結果を図1〜4に示した。まず、67LRのアミノ酸番号102からほぼ一定の長さ(約20アミノ酸)ずつとなるように設計されたペプチド群においては、Peptide 161-180にEGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和能が認められた(図1)。また、Peptide 161-180とともに、Peptide 161-180とは少なくとも一部が重複する長さ10アミノ酸であるペプチド群、及びPeptide 151-170について検討したところ、Peptide 161-170及びPeptide 151-170にPeptide 161-180とほぼ同程度の活性が認められた(図2)。さらに、Peptide 161-170、そのC末端のアミノ酸1つを欠如させたPeptide 161-169、及びそのN末端のアミノ酸1つを欠如させたPeptide 162-170の効果について検討したところ、末端1アミノ酸を削ると、いずれの場合も、EGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和能が消失した(図3)。また、Peptide 161-170の中和能は、組み換え67LRタンパク質を上回った(図4)。
【実施例2】
【0070】
<67LR部分ペプチドのEGCG結合活性の確認>
EGCGと67LR部分ペプチド(Peptide 161-180(配列番号:7)又はPeptide 161-170(配列番号:15))とを終濃度5μMとなるように1.5mLエッペンドルフチューブ中で混合して、室温で15分間放置した。このとき、溶媒は1%酢酸含有50%エタノール溶液を用いた。その後、MSスペクトロメーター (LCQ Advantage, Thermo Finnigan, Australia)にシリンジを用いてインジェクトし、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法によりMSスペクトルを得た。この時の条件は、pH3.5、キャピラリー温度270℃、印加電圧4.5kVであった。
【0071】
結果を図5及び6に示した。Peptide 161-180又はPeptide 161-170とEGCGとの複合体のピークが認められ、これらの67LR部分ペプチドが、いずれもEGCGに結合することが確認された。
【実施例3】
【0072】
<ペプチドの抗酸化活性(TBARS消去活性)の測定>
67LR部分ペプチド溶液を終濃度1μMとなるように2mLのdH2Oに混合し、そこに1,1,3,3-テトラエトキシプロパン(Sigma)を終濃度10.5μM となるように加えた。TBA 試薬500μL を添加後攪拌し、試験管の上にガラス玉を置いて、95℃で1時間インキュベートした。TBA試薬は、超純水9.4mLに酢酸(Nacalai tesque, Inc. Kyoto, Japan)10.6mL、2-チオバルビツール酸(Sigma)67mg を混合溶解して調製した。反応後、流水で5分間冷却し、n-ブタノール(Nacalai tesque, Japan)2.5mLを添加後、20秒間攪拌した。3000rpmで10分間遠心した後、上層のブタノール層の蛍光強度を分光蛍光光度計RF-1500(SHIMAZDU)を用いて測定した。測定条件は、励起波長515nm、蛍光波長 553nmとした。抗酸化活性は、TBARS減少量を、下式により計算し、means±SD(n=3)で表した。なお、式中、標準液は、1,1,3,3-テトラエトキシプロパン(Sigma)の10.5μM溶液を指す。
【0073】
【数1】
【0074】
試験に供したペプチドのアミノ酸配列、及び試験結果を下表に示した。
【0075】
【表2】
【実施例4】
【0076】
<ペプチドの抗酸化活性 (DPPHラジカル消去活性) の測定>
67LR 部分ペプチド溶液を終濃度1μM となるように30μL の dH2O に混合し、そこにDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)溶液を90μL添加した。DPPH溶液は乳鉢で微粉状態にしたDPPH (和光純薬)1.97mgをエタノール (Nacalai tesque, Inc. Kyoto, Japan) 12.5 mL に溶解し調製した。添加後20分間反応させた後に、520 nmにおける吸光度を測定した。このとき、還元力を持つコントロールとして Trolox (CALBIOCHEM, US)を用いて検量線を作成した。抗酸化活性は、DPPH消去活性のTrolox当量(μmol)を平均値±標準誤差(n=3)で表した。
【0077】
結果を下表に示した。
【0078】
【表3】
【実施例5】
【0079】
<K置換ペプチド等についての検討>
Peptide 161-170においてリシンを置換した下表の配列のペプチド(K置換ペプチド)を合成した。
【0080】
【表4】
【0081】
また、Peptide 161-170においてリシン及びヒスチジンをセリンに置換したPeptide 161-170KS, HS(IPCNNSGASS、配列番号:33)を合成した。
これらについて下記の評価を行った。
【0082】
1) EGCGの細胞増殖抑制活性の抑制効果の評価:
実施例2に記載した方法に従って、EGCGの細胞増殖抑制活性の抑制効果を評価した。
2) ペプチドの抗酸化活性(TBARS消去活性及びDPPH ラジカル消去活性)の評価:
実施例4及び5に記載した方法に従って、K置換ペプチドについて、TBARS消去活性及びDPPH ラジカル消去活性を評価した。
【0083】
3) 結果:
EGCGの細胞増殖抑制活性の中和活性を図7に示した。KをR又はHに置換したペプチドにも細胞増殖抑制作用に対する中和活性が認められたが(A)、K及びHをそれぞれSに置換したペプチドでは中和活性が消失した(B)。
【0084】
抗酸化活性について、下表に示した。
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【実施例6】
【0087】
<EGCG Binding Peptide 160-170を用いたアフィニティーカラムの作製>
以下の材料を用いた。
・ストレプトアビジン担体カラム 1 mL(Hi Trap Streptavidin HP, Amersham)
・結合バッファー:20 mM sodium phosphate, 0.15 M NaCl, pH7.5
・ビオチン化Peptide 160-170(Biot-p160-170):Peptide 160-170のN末端にビオチンを結合させたもの。結合バッファーに溶解し、2 mM に調製
・Epicatechin: EC(Sigma):100% Methanol に溶解し、0.5 mM に調製
・Epigallocatechin-3-O-gallate: EGCG(Sigma):100% Methanol に溶解し、0.5 mM に調製。
【0088】
ビオチン化ペプチドのストレプトアビジン担体カラムへの固定化は、次のようにして行った。ストレプトアビジン担体カラム(Hi Trap Streptavidin HP, Amersham)を結合バッファーで平衡化し、Biot-p160-170を 2μmol(2mMx1mL)アプライした。本ペプチドをアプライした後、結合バッファーを0.5 mL/minで流し、カラムからの溶出画分を1mLずつ回収した。Biot-p160-170の吸収極大である220nmでの吸光度を測定し、本ペプチドがカラムに結合し、固定化されたことを確認した(図8)。
【0089】
次に、Biot-p160-170を結合させたストレプトアビジン担体カラム及びBiot-p160-170を結合させていないカラムを100% Methanolで平衡化し、100% Methanol に溶解したEC又はEGCGを両カラムへアプライ(流速は0.5mL/min)した。サンプルをアプライ後、カラムからの溶出画分を1 mLずつ回収し、EC、EGCGそれぞれの吸収極大である 276nm、273nm での吸光度を測定し、両カテキンの溶出をモニターした。結果、Biot-p160-170を結合させていないストレプトアビジン担体カラムにおいては、いずれのカテキンもカラムには全く結合せず、素通り画分として回収された(図9)。
【実施例7】
【0090】
<蛍光標識ペプチドを用いたEGCGの定量>
Peptide 160-170のN末端をFITC (fluorescein iso-thiocyanate)標識したものFITC-p160-170を、終濃度1μM となるように 1mL の dH2O に調製した。この溶液にEGCGを終濃度0.01、0.1、1 及び 10μMとなるように混合して室温で15分間放置した。その後、分光蛍光光度計RF-1500 (SHIMAZDU) を用いて、励起波長 365nm 、蛍光波長368nmにおける蛍光強度を測定した。EGCGの結合により、FITC-p160-170の蛍光強度が減少することから、このFITC-p160-170の変化度を、相対蛍光強度として下記の式により求めた。
【0091】
【数2】
【0092】
この相対蛍光強度に対して、EGCG濃度/FITC-p160-170濃度の値をプロットすることで図10を得た。
また、図10のプロットから、次の式が得られた。
【0093】
【数3】
【0094】
EGCG含有サンプルと既知濃度のFITC-p160-170を混合することで得られるFITC-p160-170の相対蛍光強度をXとして、上記式からY、つまり、EGCG濃度/FITC-p160-170濃度の値を得る。このY値にFITC-p160-170濃度を乗することで、EGCG含有サンプル中のEGCG量を求めることができる。
【実施例8】
【0095】
<カテキン結合ペプチドによるEGCGの抗酸化性活性の増強>
Peptide 161-170溶液及びEGCGをそれぞれ終濃度1μMとなるように30μLのdH2Oに混合し、15分間室温でインキュベートした。そこに1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl溶液(和光純薬)を90μL添加した。添加後20分間反応させた後に、520nmにおける吸光度を測定した。このとき、還元力を持つコントロールとしてTrolox(CALBIOCHEM, US)を用いて検量線を作成した。EGCGのDPPHラジカル消去活性を1とした場合の、ペプチド及びEGCGプラスペプチドの結果を下表に示した。
【0096】
【表7】
【実施例9】
【0097】
<塩基性アミノ酸によるEGCGの抗酸化性活性の増強>
アミノ酸溶液及び EGCGをそれぞれ終濃度1μMとなるように30μLのdH2Oに混合し、15分間室温でインキュベートした。そこに1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl溶液(和光純薬)を90μL添加した。添加後20分間反応させた後に、520nmにおける吸光度を測定した。このとき、還元力を持つコントロールとしてTrolox(CALBIOCHEM, US)を用いて検量線を作成した。EGCGのDPPHラジカル消去活性を1とした場合の、ペプチド、ペプチド存在下におけるEGCGの活性の相対値を下表に示した。
【0098】
【表8】
【実施例10】
【0099】
<EGCGの細胞結合性に及ぼすペプチドの影響>
ペプチドによりEGCGの細胞増殖抑制活性が中和されたのは、EGCGの細胞への結合性がペプチドによる阻害であることを直接確かめるために、HepG2に対するEGCGの結合性に対する67LR由来ペプチドの影響を表面プラズモン共鳴センサにより測定した。
【0100】
1) 方法:
タンパク質等の標準的な(アミノ基を要する)固定化法を用いてヒト細胞株HepG2を金膜(Nippon Laser and Electronic Lab.)に固定した。10μMの4,4-Dithio dibutyric acid; DDA(東京化成工業, Tokyo, Japan)エタノール溶液(10mLの99%エタノール中に2.38mgのDDAを溶解し、エタノールでさらに1/100に希釈した)に金膜を浸して(金の面を上に)穏やかに室温で30分間攪拌した。次に、エタノールで2回、金表面に水圧をかけないように洗浄し自己組織化膜(SA膜)を導入した。25mg水溶性カルボジイミド; EDC(和光純薬)を1mL超純水に、15mg N-hydroxysuccinimide; NHS(和光純薬)を9mL 1,4-Dioxane(Nacalai tesque, Inc.)にそれぞれ溶解した。それぞれの溶液を混合し、SA膜処理済の金膜を浸して、穏やかに室温で10分間攪拌した。これに10mLの超純水を加え、さらに室温で5分間攪拌した。超純水で2回、金表面に水圧をかけないように洗浄し、乾燥(風乾)させてカートリッジにマウントした。細胞を3 x 105 cells/mL(フローバッファーであるPBS)に調整して金膜上に20μL滴下し、30分間室温において細胞を固定化した。その後、PBSに溶解したEGCGを10μM、若しくはEGCGとペプチドをそれぞれ10μMを混合し15分間反応させた溶液を注入し、表面プラズモン共鳴角度(Angle)の変化を測定することでEGCGの細胞への結合性を検討した。サンプルの流速は30μL/minにて行った。
【0101】
2) 結果:
結果を、図11及び12に示した。
EGCGの細胞増殖抑制活性を中和するPeptide 151-170、Peptide 161-180、Peptide 161-170はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害した。これに対し、EGCGの細胞増殖抑制活性を中和できないPeptide 156-165、Peptide 166-175、Peptide 162-170、Peptide 161-169はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害しなかった(図11)。
【0102】
また、EGCGの細胞増殖抑制活性を中和するPeptide 161-170R及びPeptide 161-170Hのアミノ酸置換体はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害したのに対し、細胞増殖抑制活性を中和できないPeptide 161-170KS, HSはEGCGの細胞結合性を阻害しなかった(図12)。
【実施例11】
【0103】
<抗67LRリガンド剤、プリオン阻害剤としての効果の確認試験>
1) 材料及び方法:
1.1) 緑茶カテキン:
epigallocatechin-3-O-gallate(EGCG、sigma)は5mM となるようにリン酸バッファー(PBS)に溶解し、-20℃で凍結保存し、適宜希釈して用いる。PBSは、超純水1Lに対し、NaCl(Nacalai tesque, Inc.)8.0g、KCl(Nacalai tesque, Inc.)0.2g、Na2HPO4(Nacalai tesque, Inc.)1.15g、KH2PO4(Nacalai tesque, Inc.)0.2gを溶解して調整する。
【0104】
1.2) ペプチド:
67LR由来プリオン結合Peptide 161-179:IPCNNKGAHSVGLMWWLA
1.3) 細胞及び細胞培養:
ヒトテラトカルシノーマ細胞株NT2は、10%FBS(Bio Source International, Camarillo, CA)添加DMEM 培地(COSMO BIO CO., LTD.)で37℃、水蒸気飽和した5%CO2条件下で継代、維持する。DMEM 培地中には、100U/mLペニシリン(Meiji pharmaceutical Company, Tokyo, Japan)、100mg/mLストレプトマイシン(Meiji pharmaceutical Company)、23.1mM NaHCO3(和光純薬)、そして25mM HEPES(和光純薬)を添加する。細胞は対数増殖期で培養維持する。なお、分譲後の早い段階に-80℃で大量凍結し、長期にわたっての継代を避け、凍結保存した細胞を適宜解凍して用いるとよい。凍結培地はジメチルスルホキシド(Nacalai tesque, Inc. Kyoto, Japan)10%、FBS20%、DMEM培地70% の割合でそれぞれ混合したものを調整して用いる。
【0105】
2) 評価:
2.1) プリオン結合Peptide 161-179とプリオンとの結合に対するEGCG(又はカテキン結合ペプチド)の阻害作用の検討:
5μMのプリオン結合Peptide 161-179に、サンプルバッファー(0.057M Tris-HCl, pH6.8, 1.8%(w/v)sodium dodecyl sulfate(SDS), 0.65Mβ-merchaptomethanol, 9.1% glycerol, 0.02% bromophenol blue)を等量加えて、100℃で5分間、熱変性を行う。これを10% polyacrylamideゲルにアプライして、150VでSDS-polyacrylamide gel electrophoresis(PAGE)を行う。SDS-PAGE後、ゲルは氷冷しながら、150Vで90分間エレクトロブロッティングを行い、ペプチドをニトロセルロース膜に転写する。この膜を5%Bovine serum albumin(BSA)-TTBS(0.1% Tween 20含有 Tris buffered saline; 20mM Tris-HCl, pH7.6)を加えて室温で、1時間ブロッキングする。
【0106】
プリオンを発現しているNT2細胞に、細胞溶解バッファー(50mM Tris-HCl, pH7.5, 150mM NaCl, 1%(v/v)Triton-X 100, 1mM EDTA, 50mM NaF, 30mM Na4P2O7, 1mM Na3PO4, 1mM Phenylmethysulfonic fluoride, 2μg/mL Aprotinin)を細胞1 x 107cells当たり1mL加え、4℃で30分間振とうして細胞を溶解する。その後、16000 x gで遠心して上清を回収する。
【0107】
ペプチドを転写したニトロセルロース膜と、プリオンを含んだ上清又は5μM EGCGを添加した上清(若しくは5μMの本発明のカテキン結合ペプチドを添加した上清)を、37℃で1時間反応させる。TTBSで膜を3回洗浄後、BSA-TTBSで1000倍に希釈した抗プリオン抗体(MAB1562, CHEMICON International, Inc., USA)と膜を37℃で1時間反応させる。この膜をTTBSで3回洗浄後、BSA-TTBSで10000倍希釈した2次抗体(Mouse IgG-HRP, Santa Cruz Biotechnology)と、室温で1時間反応させる。TTBSで3回洗浄後、ECLキット(Enhanced Chemiluminesence; Amersham)を用いて発光反応を行い、イメージアナライザーChemImager 5500(Alpha Innotech, San Leandro CA.)を用いてプリオンタンパク質と膜上のペプチドとの結合を検出する。
【0108】
2.2) 67LRとプリオンとの結合に対するEGCGの阻害作用の検討(免疫沈降法):
NT2細胞を1 x 105 cells/mLとなるように10%FBS-DMEM培地に懸濁し、10mLディッシュ(Nunc, Roskild, Denmark)に播種し、24時間前培養を行い、細胞を接着させる。その後5μM EGCGを添加した培地(若しくは5μMの本発明のカテキン結合ペプチドを添加した培地)に置換し、30分間インキュベートする。細胞を回収し、PBSで洗浄後、遠心し、上清を除去した後、細胞を溶解バッファー(200μL)に懸濁し、4℃で30分間ローテーターを用いて撹拌して溶解する。細胞溶解バッファーはTris-HCl(5mM)、NaCl(150mM)、Triton-X100(1%(v/v))、EDTA(1mM)、NaF(50mM)、Na4P2O7(30mM)、pervanadate(1 mM)、PMSF(1mM)、aprotinin(2μg/mL)を用いてpH7.5に調整し、pervanadate、PMSF、aprotininは使用直前に添加する。細胞溶解液は、15,000 x g で30分間遠心して、不溶性物質を沈殿させ、上清をサンプルとする。
【0109】
上記の操作と並行して、protein A sepharose(Pharmacia Biotech Inc.)ビーズを十分懸濁し、20μLを0.6mLマイクロチューブに50%スラリーとなるように分注し、10,000 x g で遠心後に上清を除去し、200μLの細胞溶解バッファーで3回洗浄する。このprotein A sepharoseビーズと、抗プリオン抗体(MAB1562, CHEMICON International, Inc., USA)を添加した細胞溶解バッファーを、4℃で2〜4時間振とうして、抗体をprotein A sepharoseビーズに吸着させる。また上記と同様に分注、洗浄したprotein G sepharose(Pharmacia Biotech Inc.)ビーズに抗67LR抗体(F18, Santa Cruz Biotechnology)を添加した細胞溶解バッファーを添加して、4℃で2〜4時間振とうして、抗体をprotein G sepharoseビーズに吸着させる。
【0110】
上記で得たサンプル溶液を、細胞溶解バッファーで3回洗浄した、抗体が吸着しているビーズに加えて懸濁し、4℃で2〜4時間振とうして免疫沈降を行う。その後、加えたサンプル溶液の上清を除去し、 500μLの細胞溶解バッファー及びPBSで各3回ずつ洗浄を行う。SDS Sample buffer(0.057M Tris-HCl, pH6.8, 1.8%(w/v)sodium dodecyl sulfate(SDS), 0.65 M β-merchaptomethanol, 9.1% glycerol, 0.02% bromophenol blue)を20μL加え、ボルテックスにて10分間振とうし、免疫沈降物を溶離した後、100℃で5分間熱変性を行い、10% polyacrylamideゲルにアプライして、150VでSDS-polyacrylamide gel electrophoresis(PAGE)を行う。
【0111】
SDS-PAGE後、ゲルは氷冷しながら、150Vで90分間エレクトロブロッティングを行い、タンパク質をニトロセルロース膜に転写する。この膜を5%Bovine serum albumin(BSA)-TTBS(0.1% Tween 20含有 Tris buffered saline; 20mM Tris-HCl, pH7.6)を加えて室温で1時間ブロッキングを行う。ブロッキング後に、抗67LR抗体(F-18, Santa Cruz Biotechnology)又は抗プリオン抗体(MAB1562, CHEMICON International, Inc., USA)を5% BSA-TTBSで1000倍希釈し、4℃で一晩反応させる。TTBSで3回洗浄後、5% BSA-TTBSで抗67LR抗体の2次抗体(Goat IgG-HRP G2804, Santa Cruz Biotechnology)又は抗プリオン抗体の2次抗体(Mouse IgG-HRP, Santa Cruz Biotechnology)を1万倍希釈して、室温で1時間反応させる。TTBSで3回洗浄後、ECL キット(Enhanced Chemiluminesence ; Amersham)を用いて発色反応を行い、イメージアナライザー ChemImager 5500(Alpha Innotech, San Leandro CA.)を用いて検出を行う。
【0112】
2.3) 細胞表面67LRと組み換えプリオンタンパク質との結合に対するEGCG(又はカテキン結合ペプチド)の阻害作用の検討(ELISA法)
NT2細胞を1 x 105 cells/mLとなるように10%FBS-DMEM培地に懸濁し、96wellイムノプレート(Nunc, Roskild, Denmark)に100μL/welで添加し、37℃で24時間インキュベートする。TTBSで3回洗浄した後、3.7% ホルムアルデヒドを100μL/wellで添加し、室温で30分間放置して細胞を固定する。TTBSで3回洗浄した後、BSA-TTBSを300μL/well添加し、37℃で1時間インキュベートしてブロッキングする。
【0113】
TTBSで3回洗浄した後、10μg/mLとなるようにPBSで希釈したグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)で標識された組み換えプリオンタンパク質(PrP-GST(Molecular Biotechnology))、又は5μM EGCGを添加したPrP-GST溶液(若しくは5μMの本発明のカテキン結合ペプチドを添加したPrP-GST溶液)を100μL/wellで添加し、37℃で1時間インキュベートする。TTBSで3回洗浄した後、10μg/mLとなるようにPBSで希釈したグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)標識プリオン(PrP-GST(Molecular Biotechnology))を100μL/wellで添加し、37℃で1時間インキュベートする。TTBSで3回洗浄した後、PBSで1000倍希釈した抗GST抗体(G7781, Sigma)を100μL/wellで添加し、37℃で1時間インキュベートする。TTBSで3回洗浄した後、2次抗体(Rabbit IgG-HRP, Santa Cruz Biotechnology)を100μL/wellで添加し、37℃で1時間インキュベートする。
【0114】
TTBSで3回洗浄した後、基質溶液を100μL/wellで添加し、37℃で10分間インキュベートして発色させる。基質溶液は、水4.5 mL、0.1M Citrate buffer 6mL、6mg/mL ABTS 0.5 mLを混合して調製する。発光が完了したら1.5% Oxialic acidを100μL/wellで添加し、酵素反応を停止させる。発色はマイクロプレートリーダーを用いて415nmの吸光度を測定する。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対する67LR細胞外部分ペプチドの効果を示したグラフである。グラフ中、白色バーはEGCGを添加しない系、黒色バーはEGCGを1μM添加した系を示す(means±SD(n=3)、p<.0.05*、p<0.01**、p<0.001***;図2〜4、10において同じ。)。Peptide 161-180にEGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和活性が認められた。
【図2】図2は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対する67LR細胞外部分ペプチドの効果を示したグラフである。Peptide 161-180及びPeptide 151-170にPeptide 161-170とほぼ同程度の活性が認められた。
【図3】図3は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対するPeptide 161-170、及びその末端アミノ酸欠如ペプチドの効果を示したグラフである。N、C末端それぞれから1アミノ酸を削ると、EGCGの細胞増殖抑制作用に対するPeptide 161-170の中和活性は消失した。
【図4】図4は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対するPeptide 161-170及び組み換え67LRタンパク質の中和活性の比較を示したグラフである。EGCGの細胞増殖抑制作用に対する中和活性は、Peptide 161-170が組み換え67LRタンパク質を上回った。
【図5】図5は、67LR細胞外部分ペプチドがEGCGへの結合活性を有すること示したMSスペクトルである。EGCGと67LR部分ペプチドとの混合液をMSスペクトロメータにインジェクトしたところ、Peptide 161-180とEGCGとの複合体のピークが認められた。
【図6】図6は、67LR細胞外部分ペプチドがEGCGへの結合活性を有すること示したMSスペクトルである。EGCGと67LR部分ペプチドとの混合液をMSスペクトロメータにインジェクトしたところ、Peptide 161-170とEGCGとの複合体のピークが認められた。
【図7】図7は、EGCGの細胞増殖抑制作用に対する塩基性アミノ酸置換の効果を示したグラフである。KをR又はHに置換したペプチドにも細胞増殖抑制作用に対する中和活性が認められたが(A)、K及びHをそれぞれSに置換したペプチドでは中和活性が消失した(B)。
【図8】図8は、Biot-p160-170がストレプトアビジン担体カラムに固定化されたことを示すグラフである。ストレプトアビジン担体カラムへBiot-p160-170をアプライした後、結合バッファーを流し、Biot-p160-170の吸収極大である220nmでの吸光度を測定した。
【図9】図9は、Biot-p160-170を結合させていないストレプトアビジン担体では、カテキン類が結合せず、素通り画分として回収されることを示すグラフである。EC又はEGCGをカラムへアプライした後、カラムからの溶出画分を1mLずつ回収して、EC、EGCGそれぞれの吸収極大である 276nm、273nmでの吸光度を測定した。
【図10】図10は、相対蛍光強度に対して、EGCG濃度/FITC-p160-170濃度の値をプロットしたグラフである。FITC-p160-170(Peptide 160-170のN末端をFITCで標識したもの)の所定の濃度の溶液に、EGCGを混合し、充分な時間、放置した後、励起波長365nm 、蛍光波長368nmにおける蛍光強度を測定した。EGCGの結合により、FITC-p160-170の蛍光強度が減少することから、このFITC-p160-170の変化度を、相対蛍光強度(式:相対蛍光強度=FITC-p160-170+EGCGの蛍光強度/FITC-p160-170の蛍光強度)として求めた。図10のプロットから、式:Y=49.436e?9.6182Xが得られ(Xは相対蛍光強度、YはEGCG濃度/FITC-p160-170濃度)、EGCG含有サンプル中のEGCG量を求めることができる。
【図11】図11は、HepG2のEGCG結合性に対する67LR由来ペプチドの影響を、表面プラズモン共鳴センサにより測定した結果である。EGCGの細胞増殖抑制活性を中和するPeptide 151-170、Peptide 161-180、Peptide 161-170はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害した。これに対し、EGCGの細胞増殖抑制活性を中和できないPeptide 156-165、Peptide 166-175、Peptide 162-170、Peptide 161-169はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害しなかった。
【図12】図12は、HepG2のEGCG結合性に対する67LR由来ペプチドの影響を、表面プラズモン共鳴センサにより測定した結果である。EGCGの細胞増殖抑制活性を中和するPeptide 161-170R及びPeptide 161-170Hのアミノ酸置換体はいずれもEGCGの細胞結合性を阻害したのに対し、細胞増殖抑制活性を中和できないPeptide 161-170KS, HSはEGCGの細胞結合性を阻害しなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)、(b)又は(c)のペプチド:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド;又は
(c)67kDaラミニン・レセプター(67LR)のアミノ酸配列の一部において、
少なくともアミノ酸番号161〜170に由来する部分:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170
(配列中:
A161は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはイソロイシンであり;
A162は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはプロリンであり;
A163は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはシステインであり;
A164は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A165は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A166は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはリシンであり;
A167は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはグリシンであり;
A168は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアラニンであり;
A169は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはヒスチジンであり;
A170は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはセリンである)
を含み、さらにそれに隣接する1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていてもよい部分を含んでいてもよいアミノ酸配列からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド(但し、67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチドを除く)。
【請求項2】
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;又は
(c)配列番号:6、配列番号:7、又は67LRのアミノ酸番号161〜170に由来するアミノ酸配列:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170(配列中、A161〜A170は、請求項1に定義したとおりである)からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチドである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号:6、配列番号:7、配列番号:15、配列番号:31又は配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
標識化及び/又は固定化されている、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項5】
下記の(a)、(b)又は(c)の抗酸化ペプチド:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗酸化活性を有するペプチド;又は
(c)67LRのアミノ酸番号161〜170に由来するアミノ酸配列:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170(配列中、A161〜A170は、請求項1に定義したとおりである)の全部、又は一部であって少なくともA164又はA167を含む連続した3以上(好ましくは、4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上)の配列からなり、かつ抗酸化活性を有するペプチド(但し、67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチドを除く)。
【請求項6】
配列番号:15、配列番号:18、配列番号:19、配列番号:20、配列番号:21、配列番号:22、配列番号:23、配列番号:24、配列番号:25、配列番号:26、配列番号:27、配列番号:28、配列番号:29、配列番号:30、配列番号:31若しくは配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチド、又はアミノ酸配列:A164-A165-A166(配列中、A164は、アスパラギンであり;A165は、アスパラギンであり;A166は、リシンである)を有するペプチドである、請求項5に記載の抗酸化ペプチド。
【請求項7】
下記の(a)、(b)又は(c)のペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の検出方法:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド;又は
(c)67kDaラミニン・レセプター(67LR)の部分アミノ酸配列において、少なくともアミノ酸番号161〜170に由来する部分:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170(配列中、A161〜A170は、請求項1に定義したとおりである)を含み、さらにそれに隣接する1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていてもよい部分を含んでいてもよいアミノ酸配列からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド。
【請求項8】
請求項7に定義したペプチドを用いて、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を濃縮及び/又は精製する工程を含む、ガロイルカテキン類の製造方法。
【請求項9】
請求項7に定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の固定化方法。
【請求項10】
請求項7に定義したペプチドとガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の結合体。
【請求項11】
請求項7に定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の矯味方法。
【請求項12】
請求項7に定義したペプチドを含有する、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の矯味剤。
【請求項13】
ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)、及び請求項7に定義したペプチドを含有する、食品又は医薬組成物。
【請求項14】
請求項7に定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の抗酸化活性の促進方法。
【請求項15】
請求項7に定義したペプチドを含む、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の抗酸化活性の促進剤。
【請求項16】
請求項7に定義したペプチドを、67LRリガンド(好ましくはガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)、又はプリオン)と特異的に結合する活性をもつものとして用いる方法。
【請求項17】
請求項7に定義したペプチドを含む、抗酸化剤。
【請求項18】
請求項7に定義したペプチドを含有する、抗プリオン剤。
【請求項19】
ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を含む、プリオン病を処置するための医薬組成物。
【請求項20】
ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を用いる、非ヒト動物におけるプリオン病の処置方法。
【請求項21】
(1)試験化合物を準備し;
(2)試験化合物について、請求項7に定義したペプチドへの結合性を評価し;そして
(3)試験化合物がペプチドへの結合性を有する場合に、その化合物を選択する
工程を含む、ガロイルカテキン類模倣化合物候補のスクリーニング方法。
【請求項22】
請求項7に定義したペプチドを用いて、ガロイルカテキン類模倣化合物候補を濃縮及び/又は精製する方法。
【請求項23】
67LRのアミノ酸番号161〜170のアミノ酸配列からなる部分をコードする塩基配列における変異を検出することを特徴とする、ガロイルカテキン類で処置可能な疾患素質の検出方法。
【請求項1】
下記の(a)、(b)又は(c)のペプチド:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド;又は
(c)67kDaラミニン・レセプター(67LR)のアミノ酸配列の一部において、
少なくともアミノ酸番号161〜170に由来する部分:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170
(配列中:
A161は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはイソロイシンであり;
A162は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはプロリンであり;
A163は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはシステインであり;
A164は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A165は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアスパラギンであり;
A166は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはリシンであり;
A167は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはグリシンであり;
A168は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはアラニンであり;
A169は、正電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはリシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはヒスチジンであり;
A170は、極性の非電荷型側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、より好ましくはセリンである)
を含み、さらにそれに隣接する1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていてもよい部分を含んでいてもよいアミノ酸配列からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド(但し、67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチドを除く)。
【請求項2】
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;又は
(c)配列番号:6、配列番号:7、又は67LRのアミノ酸番号161〜170に由来するアミノ酸配列:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170(配列中、A161〜A170は、請求項1に定義したとおりである)からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチドである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号:6、配列番号:7、配列番号:15、配列番号:31又は配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
標識化及び/又は固定化されている、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項5】
下記の(a)、(b)又は(c)の抗酸化ペプチド:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗酸化活性を有するペプチド;又は
(c)67LRのアミノ酸番号161〜170に由来するアミノ酸配列:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170(配列中、A161〜A170は、請求項1に定義したとおりである)の全部、又は一部であって少なくともA164又はA167を含む連続した3以上(好ましくは、4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上)の配列からなり、かつ抗酸化活性を有するペプチド(但し、67LRのアミノ酸番号161〜179のアミノ酸配列からなるペプチドを除く)。
【請求項6】
配列番号:15、配列番号:18、配列番号:19、配列番号:20、配列番号:21、配列番号:22、配列番号:23、配列番号:24、配列番号:25、配列番号:26、配列番号:27、配列番号:28、配列番号:29、配列番号:30、配列番号:31若しくは配列番号:32のアミノ酸配列からなるペプチド、又はアミノ酸配列:A164-A165-A166(配列中、A164は、アスパラギンであり;A165は、アスパラギンであり;A166は、リシンである)を有するペプチドである、請求項5に記載の抗酸化ペプチド。
【請求項7】
下記の(a)、(b)又は(c)のペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の検出方法:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド;又は
(c)67kDaラミニン・レセプター(67LR)の部分アミノ酸配列において、少なくともアミノ酸番号161〜170に由来する部分:A161-A162-A163-A164-A165-A166-A167-A168-A169-A170(配列中、A161〜A170は、請求項1に定義したとおりである)を含み、さらにそれに隣接する1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていてもよい部分を含んでいてもよいアミノ酸配列からなり;かつECG、EGCG又はEGCGMe(好ましくはEGCG)への結合活性を有するペプチド。
【請求項8】
請求項7に定義したペプチドを用いて、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を濃縮及び/又は精製する工程を含む、ガロイルカテキン類の製造方法。
【請求項9】
請求項7に定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の固定化方法。
【請求項10】
請求項7に定義したペプチドとガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の結合体。
【請求項11】
請求項7に定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の矯味方法。
【請求項12】
請求項7に定義したペプチドを含有する、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の矯味剤。
【請求項13】
ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)、及び請求項7に定義したペプチドを含有する、食品又は医薬組成物。
【請求項14】
請求項7に定義したペプチドを用いることを特徴とする、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の抗酸化活性の促進方法。
【請求項15】
請求項7に定義したペプチドを含む、ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)の抗酸化活性の促進剤。
【請求項16】
請求項7に定義したペプチドを、67LRリガンド(好ましくはガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)、又はプリオン)と特異的に結合する活性をもつものとして用いる方法。
【請求項17】
請求項7に定義したペプチドを含む、抗酸化剤。
【請求項18】
請求項7に定義したペプチドを含有する、抗プリオン剤。
【請求項19】
ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を含む、プリオン病を処置するための医薬組成物。
【請求項20】
ガロイルカテキン類(好ましくは、ECG、EGCG又はEGCGMe、より好ましくはEGCG)を用いる、非ヒト動物におけるプリオン病の処置方法。
【請求項21】
(1)試験化合物を準備し;
(2)試験化合物について、請求項7に定義したペプチドへの結合性を評価し;そして
(3)試験化合物がペプチドへの結合性を有する場合に、その化合物を選択する
工程を含む、ガロイルカテキン類模倣化合物候補のスクリーニング方法。
【請求項22】
請求項7に定義したペプチドを用いて、ガロイルカテキン類模倣化合物候補を濃縮及び/又は精製する方法。
【請求項23】
67LRのアミノ酸番号161〜170のアミノ酸配列からなる部分をコードする塩基配列における変異を検出することを特徴とする、ガロイルカテキン類で処置可能な疾患素質の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−63234(P2007−63234A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254847(P2005−254847)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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