説明

カテコール−O−メチルトランスフェラーゼの活性測定方法

【課題】カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)の酵素活性を簡便、且つ高精度に測定する方法の提供。
【解決手段】基質としてクロロゲン酸又はカフェ酸を使用し、基質消費量及び代謝産物生成量を測定することによるCOMTの活性測定方法。なお、基質がクロロゲン酸である場合には、代謝産物がフェルロイルキナ酸及びイソフェルロイルキナ酸となる。また、基質がカフェ酸である場合には、代謝産物がフェルラ酸及びイソフェルラ酸となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(以下、COMTと略称する)の活性測定方法、COMT活性調節物質を探索することができるCOMT活性調節物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COMT (catechol-o-methyl transferase)は、S-アデノシルメチオニンのメチル基を、カテコール骨格のパラ位、メタ位の水酸基に転移させる酵素であり、外因性、内因性を問わず、様々なカテコール骨格を有する基質に作用する。よって、COMTは、カテコールエストロゲンや、神経伝達物質であるドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリンなどの代謝・分解に、またカテコール骨格を有する高血圧症、喘息、パーキンソン氏病の治療に使用される薬剤に重要な酵素である(非特許文献1、2)。
【0003】
したがって、COMTの酵素活性を正確に測定できれば、COMT活性調節物質の探索のみならず、上述した各種の疾患に対する治療剤候補物質や予防剤候補物質の探索、或いはこれら候補物質や既知の治療剤、予防剤による副作用の増減の予測が可能になると考えられる。さらに、統合失調症(非特許文献3〜5)、乳がん(非特許文献6、7)及び高血圧(非特許文献8、9)などの疾患には、COMT活性の異常が関与していること示唆されており、COMTの酵素活性測定は、病理診断の生理学的指標としての有用であると考えられる。
【0004】
今までに、COMT活性測定行うにあたって、放射標識化合物を用いた方法、high performance liqid chromatography(HPLC)(非特許文献10)・蛍光検出法(非特許文献11〜13)、HPLC・電気化学発光検出法(非特許文献14〜18)、HPLC・蛍光化学検出法(非特許文献19〜20)、HPLC・紫外吸光検出法(非特許文献21)等、様々な方法が取られてきた。しかしながら、上記の方法は、取扱に危険を伴うものであったり(非特許文献10)、COMTによる基質代謝物の蛍光標識をする為に操作が煩雑であったり(非特許文献11〜13)、測定装置が高価であったり(非特許文献14〜18)、血漿や肝臓などの生体試料には多くの狭雑物が存在する為に検出感度の低下が懸念される(非特許文献19〜21)。
【0005】
【非特許文献1】Guldberg HCらPharmacol Rev.( 1975)27:135-206
【非特許文献2】Mannisto PTらPharmacol Rev (1999) 51:593-628
【非特許文献3】Egan MFらProc Natl Acad Sci U S A. (2001) 98(12): 6917-6922.
【非特許文献4】Sawa AらMol Med. (2003) 9(1-2) 3-9.
【非特許文献5】Weinshilboum RMらAm J Hum Genet.(1977)29(2)125-135.
【非特許文献6】Millikan RらCarcinogenesis (1998)19: 1943-1947
【非特許文献7】Huang CSらCancer Res. (1999)59:4870-4875.
【非特許文献8】Masuda MらBiol Pharm Bull.(2006)29(2)202-5.
【非特許文献9】Tsunoda MらHypertens Res. (2003)26(11)923-7.
【非特許文献10】Levitt MらNeuropsychobiology(1982)8(5)276-9
【非特許文献11】Zaitsu Kら J Chromatogr(1981)211:129-134
【非特許文献12】Zurcher Gら Biomed Chromatogr(1996)10(1)32-6
【非特許文献13】Nohta Hら J Chromatogr(1984)308:93-100
【非特許文献14】Shoup REらAnal Chem(1980)52(3)483-7
【非特許文献15】Nissinen EらAnal Biochem(1984)137(1)69-73
【非特許文献16】Schultz Eら Biomed Chromatogr(1989)3(2)64-7
【非特許文献17】Tuomainen Pら J Pharm Biomed Anal(1996)14(5)515-23
【非特許文献18】Ellingson Tら J Chromatogr B(1999)729(1-2)347-53
【非特許文献19】Tsunoda Mら Anal Biochem(1999)269(2)386-92
【非特許文献20】Takezawa Kら Anal Chem(2000)72(17)4009-14
【非特許文献21】Yan XHらSe Pu(2001)19(3)230-2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述したような従来の手法における種々の問題を解決し、COMTの酵素活性を簡便、且つ高精度に測定することができるCOMTの活性測定方法、及びCOMTの酵素活性を簡便、且つ高精度に測定することで、COMT活性調節物質を探索するCOMT活性調節物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、COMTの基質としてクロロゲン酸(カフェイルキナ酸)又はカフェ酸を使用した場合には基質の代謝物を高精度に測定できるといった新規な知見を見いだし本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係るCOMTの活性測定方法はクロロゲン酸又はカフェ酸を基質とし、基質消費量及び代謝産物生成量を測定することを特徴とするものである。なお、基質がクロロゲン酸である場合には、代謝産物がフェルロイルキナ酸及びイソフェルロイルキナ酸となる。また、基質がカフェ酸である場合には、代謝産物がフェルラ酸及びイソフェルラ酸となる。
【0008】
さらに、本発明に係るカテコール-O-メチルトランスフェラーゼの活性調節物質のスクリーニング方法は、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼと、基質であるクロロゲン酸又はカフェ酸とを含む反応系における、候補物質の存在下での基質消費量及び代謝産物生成量を測定することでカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性を測定し、当該候補物質に起因するカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性の変化を評価するものである。特に、本発明に係るスクリーニング方法では、候補物質を含む反応系においてカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性が有意に高くなっていれば、当該候補物質をカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性促進物質として同定することができる。逆に、本発明に係るスクリーニング方法では、候補物質を含む反応系においてカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性が有意に低くなっていれば、当該候補物質をカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性抑制物質として同定することができる。
【0009】
また、本発明に係るスクリーニング方法において、上記評価は、所定単位量のカテコール-O-メチルトランスフェラーゼを含む反応系において上記候補物質の存在下で測定した上記カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性と、上記所定単位量のカテコール-O-メチルトランスフェラーゼの活性値とを比較することで行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るCOMTの活性測定方法によれば、COMTの酵素活性を簡便、且つ高精度に測定することができる。また、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法によれば、候補物質に起因するCOMTの酵素活性の変動を簡便、且つ高精度に測定することができるため、各種候補物質の中からCOMTの酵素活性に影響する物質を簡便、且つ高精度に探索することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
本発明に係るCOMT(すなわち、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(catechol-o-methyl transferase))の活性測定方法において、活性測定対象のCOMTとしては、特に限定されず、ヒト、サル、チンパンジー、ラット及びマウス等の動物、イネいもち病菌、アカパンカビ、分裂酵母等の真菌及び細菌等の微生物、並びにイネ等の植物に存在するCOMTを挙げることができる。例えば、測定対象のCOMTをコードする遺伝子としては、従来公知の遺伝子のいずれであっても良いが、例えば、Homo sapiens由来のCOMT(NM_000745、NM_007310)、Macaca mulatta由来(XM_001105808、XM_001105683.1)のCOMT、Pan troglodytes由来のCOMT(XM 514984、)、Rattus norvegicus由来のCOMT(NM_012531)、Mus musculus由来のCOMT(NM_007744)、Xenopus laevis由来のCOMT(BC082476)、Magnaporthe grisea由来(XM 369229)のCOMT、Neurospora crassa由来(XM 328624)のCOMT、Schizosaccharomyces pombe由来(NM_001021191)のCOMT、Oryza sativa由来(NM_001058698)のCOMT等を挙げることができる。
【0012】
本発明に係るCOMTの活性測定方法は、生体内におけるCOMTの活性を測定するものであっても良いし、試験管内における(すなわち、in vitroの系)培養細胞や培養組織等におけるCOMTの活性を測定するものであっても良い。生体内におけるCOMTの活性は、当該生体から採取した組織片に含まれるCOMT含有画分を使用することができる。より具体的な例としては、生体の肝臓組織の一部を粉砕処理した後に遠心分離により得られた上清画分をCOMT含有画分として使用することができる。このCOMT含有画分におけるCOMTの活性を、本発明に係るCOMTの活性測定方法によって測定することで生体におけるCOMTの活性を評価することができる。
【0013】
先ず、本発明に係るCOMTの活性測定方法では、活性測定対象のCOMTと基質としてクロロゲン酸又はカフェ酸とを反応させる。ここで、クロロゲン酸とは下記式に示す化学構造を有している。
【0014】
【化1】

【0015】
クロロゲン酸は、COMTによって下記式に示すフェルロイルキナ酸及びイソフェルロイルキナ酸に代謝される。
【0016】
【化2】

【0017】
また、カフェ酸とは下記式に示す化学構造を有している。
【化3】

【0018】
カフェ酸は、COMTによって下記式に示すフェルラ酸及びイソフェルラ酸に代謝される。
【化4】

【0019】
COMTと基質とを反応させる際には、活性測定対象のCOMTを含む試料に対して上記基質を添加して所定の条件下で反応を進行させる。このとき、反応液は、COMTによるメチル基転移反応にメチル基を供給するメチル基供与体を含んでいる。メチル基供与体としてはS-アデノシル-L-メチオニン(以下、SAMeと称する)が挙げられる。また、反応液は、COMTの活性化因子としてマグネシウムイオンを含んでいる。
【0020】
また、反応条件としては、特に限定されないが、酵素の由来種の生体温度、もしくは周囲環境温度に近いものが好ましい。例えば、動物においては反応温度として25℃〜50℃が好ましく、35℃〜42℃がより好ましい。さらに、反応時間としては、0〜3時間が好ましく、0〜1時間がより好ましく、0〜30分が最も好ましい。
【0021】
次に、本発明に係るCOMTの活性測定方法では、基質消費量及び代謝産物生成量を測定する。具体的には、反応終了後の反応液に含まれる基質及び代謝産物を定量し、測定された基質量及び代謝物量から基質消費量及び代謝産物生成量を算出する。上述したように、本発明に係るCOMTの活性測定方法では、基質としてクロロゲン酸及び/又はカフェ酸を使用するため、これら基質及び代謝産物を分離して検出することができる。これら基質及び代謝産物は、例えば、カラム液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニテイクロマトグラフィ 、向流クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィ等によって分離して検出することができる。すなわち、上述した手法によれば、カラム等の分離手段によって代謝物を分離するとともに、当該カラムに連結された検出手段によって分離された代謝物を検出することができる。ここで、検出手段としては、蛍光検出器及び紫外可視吸収検出器を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
特に、本発明に係るCOMTの活性測定方法によれば、クロロゲン酸又はカフェ酸を基質として使用しているため、検出対象の代謝物を高精度に分離して検出することができる。すなわち、クロロゲン酸及びカフェ酸の代謝物は、生体に存在する他の成分と分離することができるため、上記手法によって高精度に検出することができる。上述した手法の中でも、代謝物を高精度に定量する観点から高速液体クロマトグラフィーによってクロロゲン酸及び/又はカフェ酸の代謝物を検出することが望ましい。
【0023】
分離手段としてクロマトグラフィーを利用する場合、充填剤としては、特に限定されないが、例えば逆相クロマトグラフィーに使用される充填剤が用いられる。かかる逆相クロマトグラフ用の充填剤としては、例えば、オクチル基、オクタデシル基、シアノプロピル基等を化学結合したシリカゲルや、シリカゲル表面をシリコンポリマーの薄膜で被覆した上にオクチル基、オクタデシル基、シアノプロピル基等を化学結合したもの、更にビニルアルコール・コポリマーやスチレン・ジビニルベンゼン共重合体等の硬質ポリマーにオクチル基、オクタデシル基、シアノプロピル基等を化学結合したもの等を挙げることができる。中でも、本発明に係るCOMTの活性測定方法において、充填剤としては、望ましくは、 オクチル基、オクタデシル基を化学結合したシリカゲル、もしくは、シリカゲル表面をシリコンポリマーの薄膜で被覆した上にオクチル基、オクタデシル基を化学結合したもの、更にビニルアルコール・コポリマーやスチレン・ジビニルベンゼン共重合体等の硬質ポリマーにオクチル基、オクタデシル基を化学結合したものが好ましい。例えば、Inertsil C8(GLサイエンス社)や、Inertsil 300-C8(GLサイエンス社)、Inertsil ODS(GLサイエンス社)や、Inertsil ODS-2(GLサイエンス社)、Inertsil ODS-80A(GLサイエンス社)等が挙げられる。
【0024】
また、分離手段としてクロマトグラフィーを利用する場合、溶離液としては、特に限定されないが、例えば酸・塩を含有する二種以上の水/有機溶媒の混合溶液が挙げられる。ここで酸・塩の種類としては、具体的には無機イオン(リン酸、炭酸、ホウ酸系溶離液等)及びその塩、有機酸(酢酸、ギ酸、クエン酸ホウ酸系溶離液等)及びその塩等が挙げられる。また有機溶媒としてはメタノール、エタノール等の低級アルコール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が挙げられるが、低級アルコール、特にアセトリル、メタノール又はエタノールが好ましい。水:有機溶媒の混合比としては、100:0〜0:100のいずれでもよく、そのpHはガラス電極にて2〜7.5とすることが好ましく、5以下とすることがより好ましい。この混合比の異なる溶液を二種以上用いた溶離法、すなわちグラジェント溶離法は、水:有機溶媒=100:0〜0:100のいずれでもよい。
【0025】
また、反応液中の代謝産物量を定量する際には、上述した反応終了後の反応液に測定標準品を添加することが好ましい。クロロゲン酸を基質として使用する場合には、測定標準品としてはその代謝産物であるフェルロイルキナ酸及びイソフェルロイルキナ酸を使用する。カフェ酸を基質として使用する場合には、測定標準品としてはその代謝物であるフェルラ酸及びイソフェルラ酸を使用する。
【0026】
さらに、分離手段としてクロマトグラフィーを利用する場合、基質及びその代謝産物はクロマトグラム上のピークとして現れるが、これらピークの同定は、該ピークの示した保持時間と、市販の標準品や合成品等の示した保持時間との比較により行うことができる。なお、分析結果の再現性を良くするため、基準物質等を用いて保持情報をデータベース化しておくことが好ましい。すなわち、コンピュータを用いることによって、分析結果として得られたピークの保持時間をキーとして当該データベースを検索し、各ピークを同定することができる。
【0027】
本発明に係るCOMTの活性測定方法において基質として使用するクロロゲン酸及びカフェ酸は、生体内には、微量にしか存在せず、血漿や肝臓等の生体試料に含まれる狭雑物の影響を受けにくい。したがって、本発明に係るCOMTの活性測定方法は、上述した各種手段によって基質消費量及び代謝産物生成量を優れた感度で分析できる。これに対して、カテコールアミンを基質としてCOMTの活性を評価する系では、上述した夾雑物の影響によってカテコールアミン及びその代謝産物の検出感度が不十分であり、カテコールアミン及びその代謝産物を定量することが非常に困難である。
【0028】
特に、高速液体クロマトグラフィーによって基質消費量及び代謝産物生成量を分析する場合には、カラム等の分離手段を適宜選択し、蛍光標識といった前処理を行わず直接、当該分離手段に供することにより、より簡便にCOMTによる基質消費量及び代謝産物生成量を測定することができる。
【0029】
スクリーニング方法
上述したように、本発明に係るCOMTの活性測定方法によればCOMTの活性を簡便、且つ高精度に測定することができる。このため、本発明に係るCOMTの活性測定方法を利用することによって、COMT活性に対して影響する物質をスクリーニングする系を構築することができる。
【0030】
すなわち、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法は、COMTと上記基質とを含む反応系において、候補物質の有無によるCOMT活性の相違を検出することで、当該候補物質のCOMT活性に対する影響を評価できるといった知見に基づいている。ここで、候補物質とは、特に限定されず如何なる物質であってもよい。候補物質としては、単独の物質であってもよいし、複数の構成成分からなる混合物であってもよい。候補物質としては、例えば植物からの抽出物のように未同定の物質を含むような構成であってもよいし、既知の組成物を所定の組成比で含むような構成であってもよい。また、候補物質としては、タンパク質、核酸、脂質、多糖類、有機化合物及び無機化合物のいずれでもよい。
【0031】
本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法では、候補物質を含む反応系におけるCOMT活性が当該候補物質を含まない反応系におけるCOMT活性と比較して有意に高い値を示す場合、当該候補物質をCOMT活性促進物質としてスクリーニングすることができる。逆に、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法では、候補物質を含む反応系におけるCOMT活性が当該候補物質を含まない反応系におけるCOMT活性と比較して有意に低い値を示す場合、当該候補物質をCOMT活性抑制物質としてスクリーニングすることができる。
【0032】
また、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法では、上述した候補物質に起因するCOMT活性の変化を、所定単位量のCOMTと上記基質と上記候補物質とを含む反応系で測定したCOMT活性から検出することもできる。ここで、所定単位量のCOMTとは、活性値が予め既知であるCOMT量を意味する。すなわち、所定単位量のCOMTを含む反応系においては、上記候補物質を含まない場合に測定される活性値は規定値を示すこととなる。したがって、所定単位量のCOMTと上記基質と上記候補物質とを含む反応系で測定したCOMT活性の値と当該規定値とを比較することによって、候補物質に起因するCOMT活性の変化を検出することができる。
【0033】
以上のようにして、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法によれば、種々の候補物質のなかからCOMT活性調節物質、すなわちCOMT活性促進物質又はCOMT活性抑制物質を同定することができる。したがって、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法によれば、COMTの活性に関連する各種疾患の治療剤や予防剤としての候補物質を同定することができる。具体的には、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法によって同定されたCOMT活性促進物質は、例えば、高血圧といった疾患の治療薬や予防薬の候補となりうる。また、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法によって同定されたCOMT活性抑制物質は、例えば、パーキンソン氏病、統合失調症といった疾患の治療薬や予防薬の候補となりうる。
【0034】
また、COMT活性抑制物質を植物に用いることで、機能性食品の開発が可能であることが示唆されている(He, X. et al.: Improvement of forage quality by downregulation of maize O-methyltransferase. Crop Sci., 43,2240-2251(2003))。したがって、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法によれば、種々の候補物質のなかから、植物を利用した機能性食品の開発に有用な物質を同定することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本例では、基質としてクロロゲン酸を使用した場合のCOMTの活性測定方法を検討した。先ず、10〜14週齢雄性SDラットを日本SLC社より購入した。ラットをペントバルビタール(大日本住友製薬社製50mg / kg)麻酔下で脱血後、肝臓を摘出した。直ちに氷冷した組織破砕液(0.5mM dithiothreitol(シグマ社製:DTT)含有50mMリン酸緩衝液(pH7.5))に組織を移し、氷上でヒスコトロンホモジナイザー(マイクロテック、ニチオン社製)を用い組織を破砕した。破砕後、4℃下100000×gで30分間遠心し、上清をCOMT含有肝臓酵素分画とした。
【0036】
COMT含有肝臓酵素分画の蛋白質量はBCA protein assay(ピアス社製)を用い測定し、2mM MgCl2を含む50mMリン酸緩衝液中で、1mgのCOMT含有肝臓酵素分画と、クロロゲン酸(シグマ社製:50μM)とS−アデノシル−L−メチオニン(シグマ社製:0.5mM SAMe)を30分間反応させ、過塩素酸を用い反応を停止させた。反応停止後、20000×gで10分間遠心し、上清を限外ろ過(ウルトラフリー 10NMWLミリポア社)し、HPLC分析用サンプルとした。
【0037】
なお、クロロゲン酸及び代謝物の分析には、HPLC(HITACHI社製)を使用した。当該装置構成は次の通りである。
オーガナイザー
ディテクター:多波長型UV検出器(L-2400)
カラムオーブン(L-2300)
ポンプ(L-2100)
オートサンプラー (L-2200)
カラム:Inertsil ODS−2(GLサイエンス社製) 内径2.1mm×長さ250mm、細孔径 5μm
【0038】
分析条件は次の通りである。サンプル注入量を10μLとし、流量を0.2mL/minとし、溶離はグラジエントで行い、検出はUV検出器(クロロゲン酸及びカフェ酸(実施例3で使用)の吸収極大波長:325nm)を用いた。溶離液の組成と濃度勾配条件(表1)は以下の通りである。
溶離液A:50mM酢酸ナトリウム、 3%アセトニトリル溶液
溶離液B:50mM酢酸ナトリウム、97%アセトニトリル溶液
【0039】
【表1】

【0040】
以上の実験において、COMT含有肝臓酵素分画及びSAMeを含まず基質のみを含む反応液をHPLCで分析した結果を図1(A)に示し、SAMeを含まずCOMT含有肝臓酵素分画及び基質を含む反応液をHPLCで分析した結果を図1(B)に示し、COMT含有肝臓酵素分画、基質及びSAMeを含み、反応終了後の反応液をHPLCで分析した結果を図1(C)に示す。図1(A)〜(C)を比較すると、基質であるクロロゲン酸(図2中“CQA”)は、COMTにより代謝物 Peak 1及び代謝物Peak 2に代謝され、これら2種の代謝物は肝臓の酵素画分に影響を受けることなく、明確に分離されることが明らかとなった。
【0041】
〔実施例2〕
本例では、実施例1で得られた知見から、COMTによるクロロゲン酸の代謝物Peak 1及び代謝物Peak 2を同定した。
【0042】
本実施例では、実施例1と同様にしてCOMT含有肝臓酵素分画を調整した。また、本実施例では、COMT含有肝臓酵素分画の蛋白質量はBCA protein assay(ピアス社製)を用い測定し、2mM MgCl2を含む50mMリン酸緩衝液中で、10mgのCOMT含有肝臓酵素分画と、クロロゲン酸(シグマ社製:500μM)とS−アデノシル−L−メチオニン(シグマ社製:2.5mM SAMe)を30分間反応させ、過塩素酸を用い反応を停止させた。反応停止後、1630×gで10分間遠心し、上清を限外ろ過(セントリコン プラス-20(ミリポア社)を使用)し、HPLC分析用サンプルとした。
【0043】
本実施例においてクロロゲン酸の代謝物の分離・精製には、以下の機器を用いた。
分離・精製機器は分取HPLC(GLサイエンス社製)を使用し、装置構成は次の通りである。
インターフェース: PLC 561
ディテクター: UV 702
カラムオーブン: CO 705
ポンプ: PU 715
オートサンプラー : MIDAS
カラム: YMC-Pack ODS-A (YMC社製)
内径 10.0 mm×長さ 300 mm、細孔径 5.0 μm
分取条件は以下の通りである。
サンプル注入量:2.0 mL、
流量: 3.0 mL/min、UV検出器(波長: 325 nm)
溶離液: 0.1 % トリフルオロ酢酸含有15 % アセトニトリル溶液
【0044】
以上の実験系によってクロロゲン酸以外の2つのピーク(Peak 1及び2)を分取し、その後、定法に従って分離・精製した。
次に、本実施例では、分離・精製した代謝物を1H-NMR測定に供し、文献値と比較することで化合物として同定した。NMR測定に際しては、重メタノール及び重ピリジンにて10 mg /0.75 mlに調製したものを測定サンプルとした。測定装置としてはα-500(日本電子データム株式会社製)を用いた。代謝物Peak1及び代謝物Peak2の実測値及び最も近似する化合物に関する文献値を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2において、FQAとはフェルロイルキナ酸であり、文献値1)とはIwai K., Kishimoto N., Kakino Y., Mochida K., Fujita T., J. Agric. Food. Chem., 52, 4893-4898 (2004)に記載された数値である。又、表2において、iso-FQAとはイソフェルロイルキナ酸であり、文献値2)とはH. DE Pooter, J. DE Brucker, C. F. VAN Sumere, Bull. Soc. Chim. Belg., 84, 835-843 (1975)に記載された数値である。
また、表2に示した最右行は下記式に示すように、各原子に付与した番号に対応している。
【0047】
【化5】

【0048】
本実施例によって、COMTはクロロゲン酸を基質としてフェルロイルキナ酸及びイソフェルロイルキナ酸を生成することが明らかとなった。
【0049】
〔実施例3〕
本例では、基質としてカフェ酸を使用した場合のCOMTの活性測定方法を検討した。本実施例では、実施例1と同様にしてCOMT含有肝臓酵素分画を調整した。また、基質としてカフェ酸を用いた以外は、実施例1と同様にしてカフェ酸及びその代謝物をHPLCで分析した。
【0050】
以上の実験において、COMT含有肝臓酵素分画及びSAMeを含まず基質のみを含む反応液をHPLCで分析した結果を図2(A)に示し、SAMeを含まずCOMT含有肝臓酵素分画及び基質を含む反応液をHPLCで分析した結果を図2(B)に示し、COMT含有肝臓酵素分画、基質及びSAMeを含み、反応終了後の反応液をHPLCで分析した結果を図2(C)に示す。図2(A)〜(C)を比較すると、基質であるカフェ酸(図2中“CA”)は、COMTにより代謝物A及び代謝物Bに代謝され、これら2種の代謝物は肝臓の酵素画分に影響を受けることなく、明確に分離されることが明らかとなった。
【0051】
〔実施例4〕
本例では、実施例2で得られた知見から、COMTによるカフェ酸の代謝物A及び代謝物Bを同定した。すなわち、本実施例では、2mM MgCl2を含む50mMリン酸緩衝液中に、カフェ酸(シグマ社製)、フェルラ酸(シグマ社製)、イソフェルラ酸(ACROS社製)を溶解させHPLC分析用サンプルとした以外は、実施例3と同様にしてHPLCで分析した。
【0052】
その結果、図3(A)〜(C)に示すように、カフェ酸(シグマ社製)、フェルラ酸(シグマ社製)及びイソフェルラ酸(ACROS社製)に相当するピークがそれぞれ検出された。図3(A)〜(C)に示した各ピークは、それぞれ図2(A)〜(C)に示したピークと完全に一致していた。この結果から、COMTはカフェ酸を基質としてフェルラ酸及びイソフェルラ酸を生成することが明らかとなった。
【0053】
〔比較例1〕
本比較例1では、基質として3,4-dihydroxybenzyl acid(シグマ社製:50μM、以下DBA)を使用し、UV検出器においてDBAの吸収極大波長の254nmを測定した以外は実施例1と同様にして、HPLC分析を行った。
【0054】
以上の実験において、COMT含有肝臓酵素分画及びSAMeを含まずDBAのみを含む反応液をHPLCで分析した結果を図4(A)に示し、SAMeを含まずCOMT含有肝臓酵素分画及びDBAを含む反応液をHPLCで分析した結果を図4(B)に示し、COMT含有肝臓酵素分画、DBA及びSAMeを含み、反応終了後の反応液をHPLCで分析した結果を図4(C)に示す。なお、図4(C)中、VAとはバニリン酸を意味し、iso VAとはイソバニリン酸を意味している。なお、図4(C)中VAとしたピーク及びiso VAとしたピークが、それぞれバニリン酸及びイソバニリン酸であることは、バニリン酸(和光純薬工業社製)及びイソバニリン酸(シグマ社製)を標品として実施例4と同様にして確認している。
【0055】
図4(C)から判るように、COMTはDBAを基質としてバニリン酸及びイソバニリン酸を生成するが、これらバニリン酸及びイソバニリン酸の検出感度は、クロロゲン酸やカフェ酸を基質とした場合より低かった。したがって、COMTによろDBAの代謝能は、クロロゲン酸やカフェ酸と比較して大幅に低いことが明らかとなった。
【0056】
〔実施例5〕
本実施例では、基質としてクロロゲン酸又はカフェ酸を用いた系におけるCOMTの代謝能を、カテコールアミン化合物を基質とした場合の代謝能と比較検討した。本実施例では、クロロゲン酸及びカフェ酸を1mMとし、各種の濃度に希釈したCOMT含有肝臓酵素分画を使用した以外は実施例1と同様にしてHPLC分析を行った。また、本実施例では、比較としてカテコールアミン化合物の基質として、ドーパミン(DA;0.05mM)及びエピネフリン(E;0.05mM)を使用して同様にHPLC分析を行った。
【0057】
HPLC分析結果から、絶対検量線法により、各基質について代謝量を算出するとともに、下式を用いて最大代謝速度を求め、カテコールアミン化合物、クロロゲン酸及びカフェ酸の代謝速度を比較した。なお、カテコールアミン化合物、クロロゲン酸及びカフェ酸の分析法は、既報(Masuda M, et al. Ann Clin Biochem 2002; 39: 589-594.)を参考にした。分析機器はHPLC(SHIMAZU)を使用し、装置構成は次の通りである。
ディテクター:多波長型UV検出器(SPD-M10Avp )
カラムオーブン(CTO-10ACvp )
ポンプ( LC-10ADvp )2台
オートサンプラー ( SIL-10ADvp )
デガッサー(DGU-14A)
カラム:TSK-gel ODS-80Ts,長さ150mm×内径4.6mm、細孔径 5μm(TOSOH)
多電極型電気化学フローセル:Coulochem II(esa社製)
【0058】
また、基質及び代謝物の定量条件は次の通りである。
蛍光波長:Ex 430nm , Em 505nm
電気化学検出器:印加電圧E1=600mV、E2=600mV(ガードセル1000mV)
カラム温度:40℃
反応コイル:80℃、15m
注入量:10μL
液送:イソクラティックモード
移動相:以下の溶離液A液を流しながら蛍光反応液を分離カラム後方から加え、反応コイル内で、o-キノン体を蛍光物質に誘導する。
溶離液A:75mM酢酸カリウムバッファー(pH3.2)/50mMリン酸カリウムバッファー(pH3.2)/アセトニトリル(90.25:4.75:5 , v/v/v)/4mM 1−ヘキサンスルホネート
流速:0.5mL/min
蛍光反応液:アセトニトリル/エタノール/蒸留水 (80:10:10 , v/v/v)、105mM エチレンジアミン、175mM イミダゾールを含む
流速:0.32mL/min
【0059】
以上の条件に従ってドーパミン、エピネフリン、クロロゲン酸又はカフェ酸を基質としたときの代謝速度を算出した。代謝速度V(mM/mg/min)は以下の式に従って算出した。
V=A / B / C
A:試薬代謝量 (mM)
B:反応時に使用した酵素画分内蛋白質量 (mg)
C:試薬と酵素画分(S-COMT)の反応時間 (min)
【0060】
その結果、COMTによるドーパミン及びエピネフリンの代謝速度はそれぞれ2.89 x 10-10及び2.24 x 10-10であった。これに対して、COMTによるクロロゲン酸及びカフェ酸の代謝速度はそれぞれ5.57 x 10-6及び1.74 x 10-5であった。これらの結果を比較すると、COMTは、カテコールアミンよりもクロロゲン酸及びカフェ酸を代謝しやすいといった傾向が判る。この結果より、COMTの活性を測定する際には、カテコールアミンを基質として使用するよりもクロロゲン酸及び/又はカフェ酸を基質として使用した方がより高感度に測定できることが明らかとなった。
【0061】
〔実施例6〕
本実施例では、実施例1で調整したクロロゲン酸を含むHPLC分析用サンプル、実施例3で使用したカフェ酸を含むHPLC分析用サンプル及び比較例1で使用したDBAを含むHPLC分析用サンプルを使用して、各HPLC分析用サンプルに含まれる基質を検出した。なお、基質の検出に際しては、実施例1で使用したHPLC装置及び分析条件を適用した。測定した結果を表3に示す。なお、表3においてクロロゲン酸はCQAと表記し、カフェ酸はCAと表記した。
【0062】
【表3】

【0063】
表3から判るように、COMTの基質としては、DBAと比較してクロロゲン酸及びカフェ酸の検出感度が高いことが判明した。この結果から、COMTの活性を測定する際には、DBAを基質として使用するよりもクロロゲン酸及び/又はカフェ酸を基質として使用した方が、基質消費量をより高感度に測定できることが明らかとなった。
【0064】
また、本実施例では、実施例1で調整したクロロゲン酸を含むHPLC分析用サンプル、実施例3で使用したカフェ酸を含むHPLC分析用サンプル及び比較例1で使用したDBAを含むHPLC分析用サンプルを使用して、平均基質代謝速度(Vave)を算出し比較した。平均基質代謝速度(Vave;(mM/mg/min))は以下の式に従って算出した。
Vave=A/B/C
A=試薬代謝量 (mM)
B=反応時に使用した酵素画分内蛋白質量 (mg)
C=試薬と酵素画分(COMT)の反応時間 (30min)
【0065】
その結果、DBAを基質としたときのCOMTによる平均基質代謝速度(Vave)は1.14 x 10-6であった。これに対して、クロロゲン酸及びカフェ酸を基質として使用したときの平均基質代謝速度(Vave)は、それぞれ≧1.67x 10-6及び1.57 x 10-6であった。COMTは、DBAよりもクロロゲン酸及びカフェ酸を代謝しやすいといった傾向が判る。この結果より、COMTの活性を測定する際には、DBAを基質として使用するよりもクロロゲン酸及び/又はカフェ酸を基質として使用した方がより高感度に測定できることが明らかとなった。
【0066】
〔実施例7〕
本実施例では、各種濃度のCOMT含有肝臓酵素分画を調整し、0.1mMのクロロゲン酸を基質としたときの代謝物を定量し、クロロゲン酸を基質としたときのCOMTの活性測定方法の妥当性を検証した。
【0067】
本実施例では、タンパク質濃度が0.03mM、0.1mM、0.3mM、1.0mM及び3.0mMとなるように調整したCOMT含有肝臓酵素分画を準備した。これらCOMT含有肝臓酵素分画を使用し、クロロゲン酸濃度を0.1mMとした以外は実施例1と同様にして反応を行い、HPLC分析用サンプルを調整した。本実施例においてクロロゲン酸及びその代謝産物の分析にはHPLC(SHIMAZU)を使用し、装置構成は次の通りとした。
ディテクター:多波長型UV検出器(SPD-M10Avp )
カラムオーブン(CTO-10ACvp )
ポンプ( LC-10ADvp )2台
オートサンプラー ( SIL-10ADvp )
デガッサー(DGU-14A)
カラム:Inertsil ODS−2(GLサイエンス社製)内径4.6mm×長さ250mm、細孔径 5μm
【0068】
分析条件は流量を1.0mL/minとした以外は実施例1と同様に設定した。分析結果を図5に示す。図5に示すように、クロロゲン酸の代謝量はCOMT量に依存して変動していた。この結果から、クロロゲン酸の代謝量を測定することによって、反応液におけるCOMTの活性を測定できることが明らかとなった。したがって、本発明に係るCOMTの活性測定方法は、反応液に含まれるCOMTの活性を定量的に測定できる手法であることが判った。
【0069】
〔実施例8〕
本実施例では、本発明に係るCOMT活性調節物質のスクリーニング方法を、COMT阻害剤として知られるピロガロールの存在下でCOMT活性を測定することで検証した。
【0070】
先ず、本実施例では、反応液として2mM MgCl2を含む50mMリン酸緩衝液中で、実施例1と同様にして調整したCOMT含有肝臓酵素分画(0.1mg/mL)、クロロゲン酸(0.1mM)、SAMe(0.5mM)及びピロガロール(COMT阻害薬)を30分間反応させ、過塩素酸を用い反応を停止させた。反応停止後、20000×gで10分間遠心し、上清を限外ろ過し、HPLC分析用サンプルを調整した。
【0071】
COMT阻害活性の算出は下式を用いた。
COMT阻害活性(%)=100×(B-A)/B
【0072】
上記式においてAはピロガロールの存在下で測定したクロロゲン酸の代謝量であり、Bはピロガロールの非存在下で測定したクロロゲン酸の代謝量である。各種濃度でピロガロールを存在させた場合のCOMT阻害活性の変化を図6に示す。
【0073】
図6から判るように、ピロガロールの濃度に依存してCOMT阻害活性が変動していた。このことから、ピロガロールがCOMTの活性に対して阻害的に作用していることが、本発明に係るCOMTの活性測定方法によって検出できることが明らかになった。本実施例に示したように、COMTに対する作用が未知の物質を、基質としてクロロゲン酸又はカフェ酸を含むCOMT反応液に添加し、基質消費量及び代謝産物生成量を測定することによって当該物質のCOMT活性に対する影響を判別できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(A)はCOMT含有肝臓酵素分画及びSAMeを含まず基質のみを含む反応液をHPLCで分析した結果を示し、(B)はSAMeを含まずCOMT含有肝臓酵素分画及び基質を含む反応液をHPLCで分析した結果を示し、(C)はCOMT含有肝臓酵素分画、基質及びSAMeを含み、反応終了後の反応液をHPLCで分析した結果を示す特性図である。
【図2】(A)はCOMT含有肝臓酵素分画及びSAMeを含まず基質のみを含む反応液をHPLCで分析した結果を示し、(B)はSAMeを含まずCOMT含有肝臓酵素分画及び基質を含む反応液をHPLCで分析した結果を示し、(C)はCOMT含有肝臓酵素分画、基質及びSAMeを含み、反応終了後の反応液をHPLCで分析した結果を示す特性図である。
【図3】(A)はカフェ酸の標品を含む溶液をHPLCで分析した結果を示し、(B)はフェルラ酸の標品を含む溶液をHPLCで分析した結果を示し、(C)はイソフェルラ酸の標品を含む溶液をHPLCで分析した結果を示めす特性図である。
【図4】(A)はCOMT含有肝臓酵素分画及びSAMeを含まずDBAのみを含む反応液をHPLCで分析した結果を示し、(B)はSAMeを含まずCOMT含有肝臓酵素分画及びDBAを含む反応液をHPLCで分析した結果を示し、(C)はCOMT含有肝臓酵素分画、DBA及びSAMeを含み、反応終了後の反応液をHPLCで分析した結果を示す特性図である。
【図5】各種濃度のCOMT含有肝臓酵素分画を使用した場合におけるクロロゲン酸の代謝量を比較した結果を示す特性図である。
【図6】各種濃度のCOMT阻害剤を使用した場合における、COMT阻害剤の濃度とCOMT阻害活性との関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロゲン酸又はカフェ酸を基質とし、基質消費量及び代謝産物生成量を測定することを特徴とするカテコール-O-メチルトランスフェラーゼの活性測定方法。
【請求項2】
基質がクロロゲン酸であり、代謝産物がフェルロイルキナ酸及びイソフェルロイルキナ酸である請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
基質がカフェ酸であり、代謝産物がフェルラ酸及びイソフェルラ酸である請求項1記載の測定方法。
【請求項4】
上記基質の代謝産物生成量は、高速液体クロマトグラフィーによって測定することを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の測定方法。
【請求項5】
測定対象のカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ及び上記基質を含む反応液で酵素反応を進行させ、
反応終了後の反応液に含まれる基質量及び代謝産物量を測定し、測定値から上記基質消費量及び代謝産物生成量を算出することを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項記載の測定方法。
【請求項6】
カテコール-O-メチルトランスフェラーゼと、基質であるクロロゲン酸又はカフェ酸とを含む反応系における、候補物質の存在下での基質消費量及び代謝産物生成量を測定することでカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性を測定し、
当該候補物質に起因するカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性の変化を評価することを特徴とするカテコール-O-メチルトランスフェラーゼの活性調節物質のスクリーニング方法。
【請求項7】
基質がクロロゲン酸であり、代謝産物がフェルロイルキナ酸及びイソフェルロイルキナ酸である請求項6記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
基質がカフェ酸であり、代謝産物がフェルラ酸及びイソフェルラ酸である請求項6記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
上記基質の代謝産物生成量は、高速液体クロマトグラフィーによって測定することを特徴とする請求項6乃至8いずれか一項記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
上記評価は、所定単位量のカテコール-O-メチルトランスフェラーゼを含む反応系において上記候補物質の存在下で測定した上記カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性と、上記所定単位量のカテコール-O-メチルトランスフェラーゼの活性値とを比較することで行うことを特徴とする請求項6乃至9いずれか一項記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−278780(P2008−278780A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124760(P2007−124760)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】