カテコール分解酵素および排水中のカテコールの分解方法
【課題】コークス炉から排出される特殊な組成の安水中でもカテコールを分解可能なカテコール分解酵素を、安水活性汚泥から単離して利用できるようにし、更には、当該カテコール分解酵素を用いた排水処理方法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素。及び、前記の少なくともいずれかのカテコール分解酵素とカテコールを含む排水とを混合して前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする排水中のカテコールの分解方法。
【解決手段】特定の塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素。及び、前記の少なくともいずれかのカテコール分解酵素とカテコールを含む排水とを混合して前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする排水中のカテコールの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテコール分解酵素、および、本酵素を利用した排水中のカテコールの分解方法に関する。更には、本発明は、製鉄所のコークス炉から排出される安水中に含まれるカテコールを分解可能なカテコール分解酵素、および、本酵素を利用した安水中のカテコールの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所においてコークス炉から発生する安水にはフェノール類、チオシアン、チオ硫酸など環境上好ましくない成分や、高濃度のアンモニアが含まれている。現在の安水処理システムでは、化学的酸素要求量(COD)成分となるフェノール類などの有機物や、チオシアン、チオ硫酸などの硫黄化合物が活性汚泥法で除去されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
安水を処理する活性汚泥を構成する微生物には、フェノール類、チオシアン、チオ硫酸などを分解できる微生物が存在する(例えば、特許文献1,2参照)。これらのCOD成分を分解する微生物では、微生物が産生する酵素が直接分解に関わっている。しかし、どのような酵素が安水に含まれるフェノール類、チオシアン、チオ硫酸などの分解に関わるのかは解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−242578号公報
【特許文献2】特開2004−344138号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shaw,K.C.(1993)Biological treatment of full−strength coke plant wastewater at Genova Steel.,Iron and Steel Engineering ,29−32.
【非特許文献2】Smith,M.R.(1990)The biodegradation of aromatic hydrocarbons by bacteria., Biodegradation 1,191−206.
【非特許文献3】Eltis,L.D., and Bolin,J.T.(1996)Evolutionary relationships among extradiol dioxygenases., J.Bacteriol.178,5930−5937.
【非特許文献4】Mesarch,M.B.,et al.(2000)Development of catechol 2,3−dioxygenase−specific primers for monitoring bioremediation by competitive quantitative PCR., Appl.Environ.Microbiol.66,678−683.
【非特許文献5】Junca,H.,et al.(2004)Difference in kinetic behavior of catechol 2,3−dioxygenase variants from a polluted environment. Microbiol.150,4181−4187.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コークス炉から排出される安水の中で最も高濃度に含まれるCOD成分はフェノールである。このフェノールの分解は、主として好気性微生物による酸化分解によるものと考えられており、フェノールは、先ず、水酸化酵素によって初発酸素添加を受け、中間反応生成物質であるカテコールに変換されることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
また、カテコールの芳香環を開裂する反応は一般に進みにくい反応であると考えられ、フェノールの酸化分解反応においては、カテコールの芳香環の開裂反応が、反応律速になっていると考えられている。そして、カテコールを分解する酵素としては、例えば、3−メチルカテコール・ジオシキナーゼ(TodE)等が知られている。
【0008】
ところが、高濃度のアンモニアや硫黄化合物等を含む特殊な組成である安水の処理においては、安水処理を担う活性汚泥中の微生物が産生する、フェノールの分解に関わる酵素については、現在のところ全く判っておらず、安水中でこのカテコールの芳香環を開裂する反応を触媒するカテコール分解酵素についても、詳細が全くわかっていない。
【0009】
そこで、本発明においては、コークス炉から排出される特殊な組成の安水中でもカテコールを分解可能なカテコール分解酵素を、安水活性汚泥から単離して利用できるようにし、更には、当該カテコール分解酵素を用いた排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、安水を処理する活性汚泥のメタゲノム解析を行い、安水処理でのフェノールの分解反応における共通の中間反応生成物質であるカテコールの分解に関わる酵素及び当該酵素をコードするDNAの塩基配列について、鋭意検討した結果、安水活性汚泥中に安水の処理に使用可能な新規なカテコール分解酵素を複数発見し、これらを利用することに成功し、発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の特徴は以下の通りである。
(1)配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素。
(2)配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素のうちの1種又は2種以上とカテコールを含む排水とを混合して、前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする排水中のカテコールの分解方法。
(3)配列番号1から43の少なくともいずれかに示す塩基配列のDNAを細胞の中に含む微生物を培養して、前記微生物に前記1種又は2種以上のカテコール分解酵素を産生させ、前記培養されたカテコール分解酵素を有する微生物と前記カテコールを含む排水とを混合し、又は、前記微生物から前記産生されたカテコール分解酵素を抽出して当該抽出されたカテコール分解酵素とカテコールを含む排水とを混合して、前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする(2)の排水中のカテコールの分解方法。
(4)前記カテコールを含む排水がコークス炉から排出される安水であることを特徴とする(2)又は(3)の排水中のカテコールの分解方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、従来知られていなかった新規な酵素を用いて、排水中に含まれるカテコールを酵素反応により分解促進することが可能となる。
特に、コークス炉から排出される安水には、高濃度のフェノールが含まれるが、本発明のカテコール分解酵素および当該酵素を使用した排水中のカテコールの分解方法を用いることで、特殊な組成を有する安水中においても、カテコールの分解を効率的に促進することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号1)を示す。
【図2】図2は、サブファミリーI.2.Bに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号2)を示す。
【図3】図3は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号3)を示す。
【図4】図4は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号4)を示す。
【図5】図5は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号5)を示す。
【図6】図6は、サブファミリーI.3.Nに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号6)を示す。
【図7】図7は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号7)を示す。
【図8】図8は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号8)を示す。
【図9】図9は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号9)を示す。
【図10】図10は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号10)を示す。
【図11】図11は、カテコール分解酵素の塩基配列(配列番号11)を示す。
【図12】図12は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号12)を示す。
【図13】図13は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号13)を示す。
【図14】図14は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号14)を示す。
【図15】図15は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号15)を示す。
【図16】図16は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号16)を示す。
【図17】図17は、カテコール分解酵素の塩基配列(配列番号17)を示す。
【図18】図18は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号18)を示す。
【図19】図19は、サブファミリーI.1.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号19)を示す。
【図20】図20は、サブファミリーI.2.Bに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号20)を示す。
【図21】図21は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号21)を示す。
【図22】図22は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号22)を示す。
【図23】図23は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号23)を示す。
【図24】図24は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号24)を示す。
【図25】図25は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号25)を示す。
【図26】図26は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号26)を示す。
【図27】図27は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号27)を示す。
【図28】図28は、サブファミリーI.1.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号28)を示す。
【図29】図29は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号29)を示す。
【図30】図30は、サブファミリーI.2.Bに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号30)を示す。
【図31】図31は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号31)を示す。
【図32】図32は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号32)を示す。
【図33】図33は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号33)を示す。
【図34】図34は、サブファミリーI.3.Mに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号34)を示す。
【図35】図35は、サブファミリーI.3.Mに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号35)を示す。
【図36】図36は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号36)を示す。
【図37】図37は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号37)を示す。
【図38】図38は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号38)を示す。
【図39】図39は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号39)を示す。
【図40】図40は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号40)を示す。
【図41】図41は、カテコール分解酵素の塩基配列(配列番号41)を示す。
【図42】図42は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号42)を示す。
【図43】図43は、サブファミリーI.2.Bに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号43)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは安水処理活性汚泥から環境DNA(メタゲノム)を採取して、そこから新規なカテコール分解酵素をコードするDNAの塩基配列を解明することに成功した。さらに、この塩基配列のDNAを用いて、新規なカテコール分解酵素を宿主微生物に産生させて、排水中のカテコールの分解をおこなうことにも成功した。
【0015】
まず、本発明のカテコール分解酵素を入手する方法について説明する。本発明のカテコール分解酵素をコードする配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAは製鉄所の安水活性汚泥から当該DNAをクローニングすることにより入手可能である。
【0016】
例えば、大腸菌などの微生物を宿主として、配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAを組み込んだプラスミドや、フォスミドを組み込んだファージ等を用いて宿主微生物を形質転換することにより、本発明のカテコール分解酵素を宿主微生物に産生させて、本発明のカテコール分解酵素を入手することができる。
【0017】
本発明のカテコール分解酵素を産生する宿主微生物となりうるかどうかの判別、及び、形質転換した微生物がカテコール分解酵素を産生できているかどうかの確認は、以下のようにして行うことができる。
【0018】
先ず、形成転換し、培養した宿主微生物の細胞を破壊して得られる細胞抽出液に、基質となるカテコールを添加する。本発明のカテコール分解酵素を産生する宿主微生物の細胞抽出液では、カテコールの芳香環の開裂により、反応生成物として、2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒド(2−hydroxymuconate semialdehyde)を形成して黄色を呈するため、375nmの吸光度を測定することで、本発明のカテコール分解酵素を産生する宿主微生物かどうかを特定することが可能である。375nmの吸光度が増加すれば、カテコールが分解されて2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドが形成されることになるため、カテコールの分解酵素により、カテコールの分解が起こったことを判定できる。
【0019】
次に、以上のようにして得られる、配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列で特定されるカテコール分解酵素を用いて、排水中に含まれるカテコールを分解する方法について説明する。本発明のカテコール分解酵素の至適温度は、20℃以上40℃以下、至適pHは5以上9以下である。排水中のカテコールを分解しようとする場合には、この温度とpHの条件を満足する条件で本発明のカテコール分解酵素を使用することが望ましい。
【0020】
また、本発明のカテコール分解酵素を用いて、排水中のカテコールを分解しようとする際のカテコール濃度について特に上限はない。製鉄所の安水はフェノールを高濃度に含むが、フェノールが分解される際の中間反応性生物としてカテコールが蓄積する可能性がある。安水であればカテコールを生成するもととなるフェノールが最大で1000mg/L程度まで含まれることがあるが、これらフェノールが全て変換されてカテコール濃度が1000mg/Lとなっても、本発明のカテコール分解酵素による処理は適用可能である。
【0021】
排水中のカテコールを分解する際は、本発明のカテコール分解酵素を産生する宿主微生物をそのままカテコール分解に利用することはもちろん可能である。例えば、宿主微生物が産生したカテコール分解酵素が細胞表層の細胞膜やペリプラズムに存在したり、細胞外に分泌される場合などは、カテコール分解酵素が細胞外部の水と接することができるため、宿主微生物をそのまま利用できる。また、宿主微生物により産生されたカテコール分解酵素が、宿主微生物の細胞内に蓄積される場合には、カテコール分解酵素が細胞外部の水と接することができないため、宿主微生物の細胞を破壊して、本発明のカテコール分解酵素を含む細胞抽出液などを利用することも可能である。
【0022】
また、本発明のカテコール分解酵素を用いて、排水中のカテコールを分解処理する際は、配列番号1から43の少なくともいずれか1つに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素を用いれば良いが、複数の酵素を一緒に用いて分解処理してももちろん構わない。単一の種類のカテコール分解酵素のみを使用する場合、排水のpH変動や、温度変化、基質となるカテコールの濃度などによってカテコールの分解活性が影響を受ける可能性がある。したがって、異なる反応至適条件をもつ複数種類のカテコール分解酵素を使用することで、このような影響を受けにくくすることができると考えられ、より好ましい。尚、微生物に2種以上のカテコール分解酵素を産生させることも可能である。この場合、2種以上の配列番号1から43の塩基配列のDNAを結合させたプラスミド、フォスミドなどを用いて、宿主微生物を形質転換することにより可能となる。宿主微生物としては、プラスミドなどのベクターが利用できる大腸菌が最も利用しやすい。酵母など他の遺伝子組み換え可能な微生物も、宿主微生物として利用可能である。また、本発明のカテコール分解酵素は、酸素が存在する環境で生育する好気性微生物に由来するものであるから、宿主微生物を利用してカテコールを分解する際には、空気で曝気することが望ましい。
以下、本発明を実施例により説明する。
【実施例】
【0023】
実施例1 新規カテコール分解酵素によるカテコールの分解(1)
配列番号1から43(配列表及び図1〜43)の塩基配列をコードするDNA断片を精製して、平滑末端化した。次いで、クロラムフェニコール耐性遺伝子を有するpCC1FOSフォスミドにライゲーションした。フォスミドへのライゲーションにはT4DNA ligase(タカラバイオ)を使用した。このフォスミドへライゲーションしたものを、MaxPlanx Lambda Packaging Extractsを用いてin vitro packagingを行なった。宿主微生物として大腸菌E.coli EPI−300T1Rを使用した。そして、12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB(LB/Cm)寒天プレートで、ラムダファージにより形質転換した大腸菌をクロラムフェニコール耐性により選択した。
【0024】
大腸菌のコロニーをとり、12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含む2xYT培地(2xYT/Cm)1ミリリットル中で、37℃で18時間培養した。ついで、このコロニーを採取した大腸菌の培養液のうち、200マイクロリットルを、新しい800マイクロリットルの2xYT/Cm培地に移して混合し、250rpmで振とうしながら37℃で30分間培養した後、1マイクロリットルのCopy Control Induction Solution(Epicentre)を添加した。こうすることにより、大腸菌の中にあるフォスミドのコピー数を増加させた。さらに大腸菌を37℃で2時間、1200rpmで激しく振とうしながら培養し、4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌を沈殿させて回収した。回収した大腸菌を50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。そして、150マイクロリットルのBugBuster Plus Benzoate Nuclease(Novagen)を添加して、大腸菌の細胞を溶解させた。4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌の溶解された残りの菌体部分を沈殿させて、上清を細胞抽出液として得た。
【0025】
次に、この細胞抽出液がカテコール分解酵素を含むことを、以下のように確認した。基質となるカテコール(SIGMA製)を最終濃度が0.5mMとなるように、5マイクロリットルずつ、100マイクロリットルの細胞抽出液に添加して混合した。25℃で250rpmでゆるやかに振とうしながら反応させた。反応時間は1時間および16時間とした。カテコールの分解により、2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドの形成により黄色を呈するようになるため、375nmの吸光度を調べて、カテコール分解酵素の活性を調べた。
【0026】
結果を表1に示す。各配列番号のカテコール分解酵素は、そのアミノ酸配列の相同性からグループ分けされるサブファミリーについても表1に示した。カテコール分解酵素のサブファミリーは、非特許文献3,4,5の報告に基づいてグループ分けした。明確にグループ分けできないものについては、サブファミリーを記さなかった。また、各配列番号の各カテコール分解酵素について、アミノ酸配列の相同性が最も高い既知酵素名と、その相同性についても表1に記した。OD(optical density)が0.5以上のものを++、ODが0より大きく0.5以下のものを+、ODが0のものを−で示した。なお、対照実験として形質転換しない大腸菌E.coli EPI−300T1Rの細胞抽出液についてもカテコール分解活性を調べた。
【0027】
【表1A】
【0028】
【表1B】
【0029】
以上の結果から、配列番号1から43の塩基配列のDNAでコードされた酵素全てが、カテコールの分解活性を有するカテコール分解酵素であることを確認できた。
【0030】
実施例2 新規カテコール分解酵素によるカテコールの分解(2)
サブファミリーの異なるカテコール分解酵素として、配列番号19(I.1.Cサブファミリー)、配列番号12、13、14(I.2.Aサブファミリー)、配列番号2、43(I.2.Bサブファミリー)、配列番号31、38(I.2.Cサブファミリー)、配列番号1、3、8、32(I.2.Gサブファミリー)、配列番号34(I.3.Mサブファミリー)、配列番号6(I.3.Nサブファミリー)の各塩基配列をコードする遺伝子を含むフォスミドDNAを精製して、平滑末端化した。次いで、pUC118プラスミドにライゲーションし、大腸菌E.coli JM109を形質転換し、50μg/mLのアンピシリンを含むLB(LB/Ap)寒天プレートで、大腸菌を選択した。続いて、大腸菌のコロニーをとり、50μg/mLのアンピシリンと0.1mMのisopropyl β−D−thiogalactosidase(IPTG)を含むLB培地(2xLB/Ap/IPTG)1ミリリットル中で、37℃で18時間培養した。次に4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌を沈殿させて回収した。回収した大腸菌を50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。そして、150マイクロリットルのBugBuster Plus Benzoate Nuclease (Novagen)を添加して、大腸菌の細胞を溶解させた。4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌の溶解された残りの菌体部分を沈殿させて、上清を細胞抽出液として得た。
【0031】
次に、この細胞抽出液がカテコール分解酵素を含むことを、以下のように確認した。基質となるカテコールを最終濃度が0.5mMとなるように、5マイクロリットルずつ、100マイクロリットルの細胞抽出液に添加して混合した。25℃で250rpmでゆるやかに振とうしながら反応させた。反応時間は1時間とした。
【0032】
カテコールの分解により、2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドを形成して黄色を呈するようになるため、375nmの吸光度(吸収係数ε=33000M-1cm-1)が変化するので吸光度を測定した。吸光度変化と吸収係数からカテコール分解酵素の活性を算出した。カテコール分解活性の1単位は1分間で1マイクロモルのカテコール分解反応産物である2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドを生成するカテコール分解酵素の活性を意味する。1gの蛋白質あたりの上記反応単位でカテコール分解活性を表示した。結果を表2に示す。
【0033】
なお、対照実験として、上記各カテコール分解酵素とは異なるサブファミリーに属するカテコール分解酵素である、既知の3−メチルカテコール・ジオキシゲナーゼ(TodE)(I.3.Bサブファミリー)の遺伝子を、同様の方法で大腸菌に産生させた場合の細胞抽出液でもカテコール分解活性を測定した。
【0034】
【表2】
【0035】
以上、既知のカテコール分解酵素である3−メチルカテコール・ジオキシゲナーゼ(TodE)(I.3.Bサブファミリー)とは異なるサブファミリーに属する、本発明の配列番号19(I.1.Cサブファミリー)、配列番号12、13、14(I.2.Aサブファミリー)、配列番号2、43(I.2.Bサブファミリー)、配列番号31、38(I.2.Cサブファミリー)、配列番号1、3、8、32(I.2.Gサブファミリー)、配列番号34(I.3.Mサブファミリー)、配列番号6(I.3.Nサブファミリー)の各塩基配列のDNAにコードされている、各カテコール分解酵素について、カテコール分解酵素活性があることを確認した。
【0036】
実施例3 安水中のカテコールの分解
配列番号12(I.2.Aサブファミリー)、18(I.2.Gサブファミリー)、6(I.3.Nサブファミリー)の各塩基配列をコードする遺伝子を含むフォスミドのDNAを精製して、平滑末端化した。次いで、pUC118プラスミドにライゲーションし、大腸菌E.coli JM109を形質転換し、50μg/mLのアンピシリンを含むLB(LB/Ap)寒天プレートで、大腸菌を選択した。続いて、大腸菌のコロニーをとり、50μg/mLのアンピシリンと0.1mMのisopropyl β−D−thiogalactosidase(IPTG)を含むLB培地(2xLB/Ap/IPTG)1ミリリットル中で、37℃で18時間培養した。次に4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌を沈殿させて回収した。
【0037】
以上のようにカテコール分解酵素を産生する大腸菌を、カテコールを100mg/L含む人工安水(組成を表3に示す。)に、菌体濃度が5×105細胞/mLとなるように入れて混合し、空気曝気しながら25℃で24時間処理した。対照実験として、形質転換せずカテコール分解酵素を産生しない大腸菌を同じ菌体濃度で同一条件で処理する試験(対照1)、及び本発明のカテコール分解酵素とはサブファミリーが異なるカテコール分解酵素である3−メチルカテコール・ジオキシゲナーゼ(TodE)(I.3.Bサブファミリー)を産生する大腸菌についても同じ菌体濃度で同一条件で処理する試験(対照2)を行なった。
【0038】
実施例1と同様に、カテコールの分解を、カテコールの芳香環が開裂することにより形成される2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドを375nmの吸光度の増加で測定した。結果を表4に示した。表では、ODが0.5以上のものを++、ODが0より大きく0.5以下のものを+、ODが0のものを−で示した。
【0039】
表4より、配列番号12、18、6の各カテコール分解酵素を産生する大腸菌を入れた系では、安水中で良好にカテコールの分解がおこっている。対照1のカテコール分解酵素を産生しない大腸菌を入れた系では、カテコールの分解は進まなかった。また、対照2の既知のカテコール分解酵素であるTodEを産生する大腸菌を入れた系では、本発明の配列番号12、18、6のカテコール分解酵素を産生する大腸菌を入れた系と比較して、安水中でカテコール分解活性が低くなった。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
以上、安水のような特殊な組成の排水中のカテコールであっても、本発明のカテコール分解酵素は、カテコール分解反応を促進できることを確認した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテコール分解酵素、および、本酵素を利用した排水中のカテコールの分解方法に関する。更には、本発明は、製鉄所のコークス炉から排出される安水中に含まれるカテコールを分解可能なカテコール分解酵素、および、本酵素を利用した安水中のカテコールの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所においてコークス炉から発生する安水にはフェノール類、チオシアン、チオ硫酸など環境上好ましくない成分や、高濃度のアンモニアが含まれている。現在の安水処理システムでは、化学的酸素要求量(COD)成分となるフェノール類などの有機物や、チオシアン、チオ硫酸などの硫黄化合物が活性汚泥法で除去されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
安水を処理する活性汚泥を構成する微生物には、フェノール類、チオシアン、チオ硫酸などを分解できる微生物が存在する(例えば、特許文献1,2参照)。これらのCOD成分を分解する微生物では、微生物が産生する酵素が直接分解に関わっている。しかし、どのような酵素が安水に含まれるフェノール類、チオシアン、チオ硫酸などの分解に関わるのかは解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−242578号公報
【特許文献2】特開2004−344138号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shaw,K.C.(1993)Biological treatment of full−strength coke plant wastewater at Genova Steel.,Iron and Steel Engineering ,29−32.
【非特許文献2】Smith,M.R.(1990)The biodegradation of aromatic hydrocarbons by bacteria., Biodegradation 1,191−206.
【非特許文献3】Eltis,L.D., and Bolin,J.T.(1996)Evolutionary relationships among extradiol dioxygenases., J.Bacteriol.178,5930−5937.
【非特許文献4】Mesarch,M.B.,et al.(2000)Development of catechol 2,3−dioxygenase−specific primers for monitoring bioremediation by competitive quantitative PCR., Appl.Environ.Microbiol.66,678−683.
【非特許文献5】Junca,H.,et al.(2004)Difference in kinetic behavior of catechol 2,3−dioxygenase variants from a polluted environment. Microbiol.150,4181−4187.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コークス炉から排出される安水の中で最も高濃度に含まれるCOD成分はフェノールである。このフェノールの分解は、主として好気性微生物による酸化分解によるものと考えられており、フェノールは、先ず、水酸化酵素によって初発酸素添加を受け、中間反応生成物質であるカテコールに変換されることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
また、カテコールの芳香環を開裂する反応は一般に進みにくい反応であると考えられ、フェノールの酸化分解反応においては、カテコールの芳香環の開裂反応が、反応律速になっていると考えられている。そして、カテコールを分解する酵素としては、例えば、3−メチルカテコール・ジオシキナーゼ(TodE)等が知られている。
【0008】
ところが、高濃度のアンモニアや硫黄化合物等を含む特殊な組成である安水の処理においては、安水処理を担う活性汚泥中の微生物が産生する、フェノールの分解に関わる酵素については、現在のところ全く判っておらず、安水中でこのカテコールの芳香環を開裂する反応を触媒するカテコール分解酵素についても、詳細が全くわかっていない。
【0009】
そこで、本発明においては、コークス炉から排出される特殊な組成の安水中でもカテコールを分解可能なカテコール分解酵素を、安水活性汚泥から単離して利用できるようにし、更には、当該カテコール分解酵素を用いた排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、安水を処理する活性汚泥のメタゲノム解析を行い、安水処理でのフェノールの分解反応における共通の中間反応生成物質であるカテコールの分解に関わる酵素及び当該酵素をコードするDNAの塩基配列について、鋭意検討した結果、安水活性汚泥中に安水の処理に使用可能な新規なカテコール分解酵素を複数発見し、これらを利用することに成功し、発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の特徴は以下の通りである。
(1)配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素。
(2)配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素のうちの1種又は2種以上とカテコールを含む排水とを混合して、前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする排水中のカテコールの分解方法。
(3)配列番号1から43の少なくともいずれかに示す塩基配列のDNAを細胞の中に含む微生物を培養して、前記微生物に前記1種又は2種以上のカテコール分解酵素を産生させ、前記培養されたカテコール分解酵素を有する微生物と前記カテコールを含む排水とを混合し、又は、前記微生物から前記産生されたカテコール分解酵素を抽出して当該抽出されたカテコール分解酵素とカテコールを含む排水とを混合して、前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする(2)の排水中のカテコールの分解方法。
(4)前記カテコールを含む排水がコークス炉から排出される安水であることを特徴とする(2)又は(3)の排水中のカテコールの分解方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、従来知られていなかった新規な酵素を用いて、排水中に含まれるカテコールを酵素反応により分解促進することが可能となる。
特に、コークス炉から排出される安水には、高濃度のフェノールが含まれるが、本発明のカテコール分解酵素および当該酵素を使用した排水中のカテコールの分解方法を用いることで、特殊な組成を有する安水中においても、カテコールの分解を効率的に促進することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号1)を示す。
【図2】図2は、サブファミリーI.2.Bに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号2)を示す。
【図3】図3は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号3)を示す。
【図4】図4は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号4)を示す。
【図5】図5は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号5)を示す。
【図6】図6は、サブファミリーI.3.Nに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号6)を示す。
【図7】図7は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号7)を示す。
【図8】図8は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号8)を示す。
【図9】図9は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号9)を示す。
【図10】図10は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号10)を示す。
【図11】図11は、カテコール分解酵素の塩基配列(配列番号11)を示す。
【図12】図12は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号12)を示す。
【図13】図13は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号13)を示す。
【図14】図14は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号14)を示す。
【図15】図15は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号15)を示す。
【図16】図16は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号16)を示す。
【図17】図17は、カテコール分解酵素の塩基配列(配列番号17)を示す。
【図18】図18は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号18)を示す。
【図19】図19は、サブファミリーI.1.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号19)を示す。
【図20】図20は、サブファミリーI.2.Bに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号20)を示す。
【図21】図21は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号21)を示す。
【図22】図22は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号22)を示す。
【図23】図23は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号23)を示す。
【図24】図24は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号24)を示す。
【図25】図25は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号25)を示す。
【図26】図26は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号26)を示す。
【図27】図27は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号27)を示す。
【図28】図28は、サブファミリーI.1.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号28)を示す。
【図29】図29は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号29)を示す。
【図30】図30は、サブファミリーI.2.Bに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号30)を示す。
【図31】図31は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号31)を示す。
【図32】図32は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号32)を示す。
【図33】図33は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号33)を示す。
【図34】図34は、サブファミリーI.3.Mに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号34)を示す。
【図35】図35は、サブファミリーI.3.Mに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号35)を示す。
【図36】図36は、サブファミリーI.2.Aに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号36)を示す。
【図37】図37は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号37)を示す。
【図38】図38は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号38)を示す。
【図39】図39は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号39)を示す。
【図40】図40は、サブファミリーI.2.Gに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号40)を示す。
【図41】図41は、カテコール分解酵素の塩基配列(配列番号41)を示す。
【図42】図42は、サブファミリーI.2.Cに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号42)を示す。
【図43】図43は、サブファミリーI.2.Bに属するカテコール分解酵素の塩基配列(配列番号43)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは安水処理活性汚泥から環境DNA(メタゲノム)を採取して、そこから新規なカテコール分解酵素をコードするDNAの塩基配列を解明することに成功した。さらに、この塩基配列のDNAを用いて、新規なカテコール分解酵素を宿主微生物に産生させて、排水中のカテコールの分解をおこなうことにも成功した。
【0015】
まず、本発明のカテコール分解酵素を入手する方法について説明する。本発明のカテコール分解酵素をコードする配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAは製鉄所の安水活性汚泥から当該DNAをクローニングすることにより入手可能である。
【0016】
例えば、大腸菌などの微生物を宿主として、配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAを組み込んだプラスミドや、フォスミドを組み込んだファージ等を用いて宿主微生物を形質転換することにより、本発明のカテコール分解酵素を宿主微生物に産生させて、本発明のカテコール分解酵素を入手することができる。
【0017】
本発明のカテコール分解酵素を産生する宿主微生物となりうるかどうかの判別、及び、形質転換した微生物がカテコール分解酵素を産生できているかどうかの確認は、以下のようにして行うことができる。
【0018】
先ず、形成転換し、培養した宿主微生物の細胞を破壊して得られる細胞抽出液に、基質となるカテコールを添加する。本発明のカテコール分解酵素を産生する宿主微生物の細胞抽出液では、カテコールの芳香環の開裂により、反応生成物として、2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒド(2−hydroxymuconate semialdehyde)を形成して黄色を呈するため、375nmの吸光度を測定することで、本発明のカテコール分解酵素を産生する宿主微生物かどうかを特定することが可能である。375nmの吸光度が増加すれば、カテコールが分解されて2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドが形成されることになるため、カテコールの分解酵素により、カテコールの分解が起こったことを判定できる。
【0019】
次に、以上のようにして得られる、配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列で特定されるカテコール分解酵素を用いて、排水中に含まれるカテコールを分解する方法について説明する。本発明のカテコール分解酵素の至適温度は、20℃以上40℃以下、至適pHは5以上9以下である。排水中のカテコールを分解しようとする場合には、この温度とpHの条件を満足する条件で本発明のカテコール分解酵素を使用することが望ましい。
【0020】
また、本発明のカテコール分解酵素を用いて、排水中のカテコールを分解しようとする際のカテコール濃度について特に上限はない。製鉄所の安水はフェノールを高濃度に含むが、フェノールが分解される際の中間反応性生物としてカテコールが蓄積する可能性がある。安水であればカテコールを生成するもととなるフェノールが最大で1000mg/L程度まで含まれることがあるが、これらフェノールが全て変換されてカテコール濃度が1000mg/Lとなっても、本発明のカテコール分解酵素による処理は適用可能である。
【0021】
排水中のカテコールを分解する際は、本発明のカテコール分解酵素を産生する宿主微生物をそのままカテコール分解に利用することはもちろん可能である。例えば、宿主微生物が産生したカテコール分解酵素が細胞表層の細胞膜やペリプラズムに存在したり、細胞外に分泌される場合などは、カテコール分解酵素が細胞外部の水と接することができるため、宿主微生物をそのまま利用できる。また、宿主微生物により産生されたカテコール分解酵素が、宿主微生物の細胞内に蓄積される場合には、カテコール分解酵素が細胞外部の水と接することができないため、宿主微生物の細胞を破壊して、本発明のカテコール分解酵素を含む細胞抽出液などを利用することも可能である。
【0022】
また、本発明のカテコール分解酵素を用いて、排水中のカテコールを分解処理する際は、配列番号1から43の少なくともいずれか1つに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素を用いれば良いが、複数の酵素を一緒に用いて分解処理してももちろん構わない。単一の種類のカテコール分解酵素のみを使用する場合、排水のpH変動や、温度変化、基質となるカテコールの濃度などによってカテコールの分解活性が影響を受ける可能性がある。したがって、異なる反応至適条件をもつ複数種類のカテコール分解酵素を使用することで、このような影響を受けにくくすることができると考えられ、より好ましい。尚、微生物に2種以上のカテコール分解酵素を産生させることも可能である。この場合、2種以上の配列番号1から43の塩基配列のDNAを結合させたプラスミド、フォスミドなどを用いて、宿主微生物を形質転換することにより可能となる。宿主微生物としては、プラスミドなどのベクターが利用できる大腸菌が最も利用しやすい。酵母など他の遺伝子組み換え可能な微生物も、宿主微生物として利用可能である。また、本発明のカテコール分解酵素は、酸素が存在する環境で生育する好気性微生物に由来するものであるから、宿主微生物を利用してカテコールを分解する際には、空気で曝気することが望ましい。
以下、本発明を実施例により説明する。
【実施例】
【0023】
実施例1 新規カテコール分解酵素によるカテコールの分解(1)
配列番号1から43(配列表及び図1〜43)の塩基配列をコードするDNA断片を精製して、平滑末端化した。次いで、クロラムフェニコール耐性遺伝子を有するpCC1FOSフォスミドにライゲーションした。フォスミドへのライゲーションにはT4DNA ligase(タカラバイオ)を使用した。このフォスミドへライゲーションしたものを、MaxPlanx Lambda Packaging Extractsを用いてin vitro packagingを行なった。宿主微生物として大腸菌E.coli EPI−300T1Rを使用した。そして、12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB(LB/Cm)寒天プレートで、ラムダファージにより形質転換した大腸菌をクロラムフェニコール耐性により選択した。
【0024】
大腸菌のコロニーをとり、12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含む2xYT培地(2xYT/Cm)1ミリリットル中で、37℃で18時間培養した。ついで、このコロニーを採取した大腸菌の培養液のうち、200マイクロリットルを、新しい800マイクロリットルの2xYT/Cm培地に移して混合し、250rpmで振とうしながら37℃で30分間培養した後、1マイクロリットルのCopy Control Induction Solution(Epicentre)を添加した。こうすることにより、大腸菌の中にあるフォスミドのコピー数を増加させた。さらに大腸菌を37℃で2時間、1200rpmで激しく振とうしながら培養し、4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌を沈殿させて回収した。回収した大腸菌を50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。そして、150マイクロリットルのBugBuster Plus Benzoate Nuclease(Novagen)を添加して、大腸菌の細胞を溶解させた。4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌の溶解された残りの菌体部分を沈殿させて、上清を細胞抽出液として得た。
【0025】
次に、この細胞抽出液がカテコール分解酵素を含むことを、以下のように確認した。基質となるカテコール(SIGMA製)を最終濃度が0.5mMとなるように、5マイクロリットルずつ、100マイクロリットルの細胞抽出液に添加して混合した。25℃で250rpmでゆるやかに振とうしながら反応させた。反応時間は1時間および16時間とした。カテコールの分解により、2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドの形成により黄色を呈するようになるため、375nmの吸光度を調べて、カテコール分解酵素の活性を調べた。
【0026】
結果を表1に示す。各配列番号のカテコール分解酵素は、そのアミノ酸配列の相同性からグループ分けされるサブファミリーについても表1に示した。カテコール分解酵素のサブファミリーは、非特許文献3,4,5の報告に基づいてグループ分けした。明確にグループ分けできないものについては、サブファミリーを記さなかった。また、各配列番号の各カテコール分解酵素について、アミノ酸配列の相同性が最も高い既知酵素名と、その相同性についても表1に記した。OD(optical density)が0.5以上のものを++、ODが0より大きく0.5以下のものを+、ODが0のものを−で示した。なお、対照実験として形質転換しない大腸菌E.coli EPI−300T1Rの細胞抽出液についてもカテコール分解活性を調べた。
【0027】
【表1A】
【0028】
【表1B】
【0029】
以上の結果から、配列番号1から43の塩基配列のDNAでコードされた酵素全てが、カテコールの分解活性を有するカテコール分解酵素であることを確認できた。
【0030】
実施例2 新規カテコール分解酵素によるカテコールの分解(2)
サブファミリーの異なるカテコール分解酵素として、配列番号19(I.1.Cサブファミリー)、配列番号12、13、14(I.2.Aサブファミリー)、配列番号2、43(I.2.Bサブファミリー)、配列番号31、38(I.2.Cサブファミリー)、配列番号1、3、8、32(I.2.Gサブファミリー)、配列番号34(I.3.Mサブファミリー)、配列番号6(I.3.Nサブファミリー)の各塩基配列をコードする遺伝子を含むフォスミドDNAを精製して、平滑末端化した。次いで、pUC118プラスミドにライゲーションし、大腸菌E.coli JM109を形質転換し、50μg/mLのアンピシリンを含むLB(LB/Ap)寒天プレートで、大腸菌を選択した。続いて、大腸菌のコロニーをとり、50μg/mLのアンピシリンと0.1mMのisopropyl β−D−thiogalactosidase(IPTG)を含むLB培地(2xLB/Ap/IPTG)1ミリリットル中で、37℃で18時間培養した。次に4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌を沈殿させて回収した。回収した大腸菌を50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。そして、150マイクロリットルのBugBuster Plus Benzoate Nuclease (Novagen)を添加して、大腸菌の細胞を溶解させた。4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌の溶解された残りの菌体部分を沈殿させて、上清を細胞抽出液として得た。
【0031】
次に、この細胞抽出液がカテコール分解酵素を含むことを、以下のように確認した。基質となるカテコールを最終濃度が0.5mMとなるように、5マイクロリットルずつ、100マイクロリットルの細胞抽出液に添加して混合した。25℃で250rpmでゆるやかに振とうしながら反応させた。反応時間は1時間とした。
【0032】
カテコールの分解により、2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドを形成して黄色を呈するようになるため、375nmの吸光度(吸収係数ε=33000M-1cm-1)が変化するので吸光度を測定した。吸光度変化と吸収係数からカテコール分解酵素の活性を算出した。カテコール分解活性の1単位は1分間で1マイクロモルのカテコール分解反応産物である2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドを生成するカテコール分解酵素の活性を意味する。1gの蛋白質あたりの上記反応単位でカテコール分解活性を表示した。結果を表2に示す。
【0033】
なお、対照実験として、上記各カテコール分解酵素とは異なるサブファミリーに属するカテコール分解酵素である、既知の3−メチルカテコール・ジオキシゲナーゼ(TodE)(I.3.Bサブファミリー)の遺伝子を、同様の方法で大腸菌に産生させた場合の細胞抽出液でもカテコール分解活性を測定した。
【0034】
【表2】
【0035】
以上、既知のカテコール分解酵素である3−メチルカテコール・ジオキシゲナーゼ(TodE)(I.3.Bサブファミリー)とは異なるサブファミリーに属する、本発明の配列番号19(I.1.Cサブファミリー)、配列番号12、13、14(I.2.Aサブファミリー)、配列番号2、43(I.2.Bサブファミリー)、配列番号31、38(I.2.Cサブファミリー)、配列番号1、3、8、32(I.2.Gサブファミリー)、配列番号34(I.3.Mサブファミリー)、配列番号6(I.3.Nサブファミリー)の各塩基配列のDNAにコードされている、各カテコール分解酵素について、カテコール分解酵素活性があることを確認した。
【0036】
実施例3 安水中のカテコールの分解
配列番号12(I.2.Aサブファミリー)、18(I.2.Gサブファミリー)、6(I.3.Nサブファミリー)の各塩基配列をコードする遺伝子を含むフォスミドのDNAを精製して、平滑末端化した。次いで、pUC118プラスミドにライゲーションし、大腸菌E.coli JM109を形質転換し、50μg/mLのアンピシリンを含むLB(LB/Ap)寒天プレートで、大腸菌を選択した。続いて、大腸菌のコロニーをとり、50μg/mLのアンピシリンと0.1mMのisopropyl β−D−thiogalactosidase(IPTG)を含むLB培地(2xLB/Ap/IPTG)1ミリリットル中で、37℃で18時間培養した。次に4℃で3000rpmで15分間遠心分離することで、大腸菌を沈殿させて回収した。
【0037】
以上のようにカテコール分解酵素を産生する大腸菌を、カテコールを100mg/L含む人工安水(組成を表3に示す。)に、菌体濃度が5×105細胞/mLとなるように入れて混合し、空気曝気しながら25℃で24時間処理した。対照実験として、形質転換せずカテコール分解酵素を産生しない大腸菌を同じ菌体濃度で同一条件で処理する試験(対照1)、及び本発明のカテコール分解酵素とはサブファミリーが異なるカテコール分解酵素である3−メチルカテコール・ジオキシゲナーゼ(TodE)(I.3.Bサブファミリー)を産生する大腸菌についても同じ菌体濃度で同一条件で処理する試験(対照2)を行なった。
【0038】
実施例1と同様に、カテコールの分解を、カテコールの芳香環が開裂することにより形成される2−ヒドロキシムコネート・セミアルデヒドを375nmの吸光度の増加で測定した。結果を表4に示した。表では、ODが0.5以上のものを++、ODが0より大きく0.5以下のものを+、ODが0のものを−で示した。
【0039】
表4より、配列番号12、18、6の各カテコール分解酵素を産生する大腸菌を入れた系では、安水中で良好にカテコールの分解がおこっている。対照1のカテコール分解酵素を産生しない大腸菌を入れた系では、カテコールの分解は進まなかった。また、対照2の既知のカテコール分解酵素であるTodEを産生する大腸菌を入れた系では、本発明の配列番号12、18、6のカテコール分解酵素を産生する大腸菌を入れた系と比較して、安水中でカテコール分解活性が低くなった。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
以上、安水のような特殊な組成の排水中のカテコールであっても、本発明のカテコール分解酵素は、カテコール分解反応を促進できることを確認した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素。
【請求項2】
配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素のうちの1種又は2種以上とカテコールを含む排水とを混合して、前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする排水中のカテコールの分解方法。
【請求項3】
配列番号1から43の少なくともいずれかに示す塩基配列のDNAを細胞の中に含む微生物を培養して、前記微生物に前記1種又は2種以上のカテコール分解酵素を産生させ、
前記培養されたカテコール分解酵素を有する微生物と前記カテコールを含む排水とを混合し、又は、前記微生物から前記産生されたカテコール分解酵素を抽出して当該抽出されたカテコール分解酵素とカテコールを含む排水とを混合して、前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする、請求項2に記載の排水中のカテコールの分解方法。
【請求項4】
前記カテコールを含む排水がコークス炉から排出される安水であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の排水中のカテコールの分解方法。
【請求項1】
配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素。
【請求項2】
配列番号1から43のいずれかに示す塩基配列のDNAでコードされるカテコール分解酵素のうちの1種又は2種以上とカテコールを含む排水とを混合して、前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする排水中のカテコールの分解方法。
【請求項3】
配列番号1から43の少なくともいずれかに示す塩基配列のDNAを細胞の中に含む微生物を培養して、前記微生物に前記1種又は2種以上のカテコール分解酵素を産生させ、
前記培養されたカテコール分解酵素を有する微生物と前記カテコールを含む排水とを混合し、又は、前記微生物から前記産生されたカテコール分解酵素を抽出して当該抽出されたカテコール分解酵素とカテコールを含む排水とを混合して、前記排水中のカテコールを分解することを特徴とする、請求項2に記載の排水中のカテコールの分解方法。
【請求項4】
前記カテコールを含む排水がコークス炉から排出される安水であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の排水中のカテコールの分解方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【公開番号】特開2013−59330(P2013−59330A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−210055(P2012−210055)
【出願日】平成24年9月24日(2012.9.24)
【分割の表示】特願2007−149529(P2007−149529)の分割
【原出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月24日(2012.9.24)
【分割の表示】特願2007−149529(P2007−149529)の分割
【原出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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