説明

カテニン結合プローブとその用途

【課題】抗ベータ-カテニン低分子抗体、及び該抗体を用いた測定法、並びに、該抗体を含有する医薬組成物もしくは試薬の提供を課題とする。
【解決手段】
還元条件下のin vitro翻訳系において、非免疫マウス脾臓由来scFv mRNAライブラリーをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成させた。次いで、形成させた複合体をヒトβカテニンと接触させることにより、還元的条件下においてもヒトβカテニンに対する結合活性を有する抗体断片を取得する方法を初めて見出し、複数種類の陽性scFvクローンを得た。これにより、今までにない細胞内の還元的条件下においてもヒトβカテニンに結合する抗体または抗体断片を用いたβカテニンを検出するための組成物が提供された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗βカテニン低分子抗体、及び該抗体を用いた測定法、並びに医薬組成物に関する。更に詳しくは、非免疫マウス脾臓mRNAから作製した単鎖抗体(scFv)cDNAライブラリーから、還元的条件下においてヒトβカテニン蛋白質に結合する新規なscFv配列を選択し、それら選択した抗βカテニンscFvを用いた免疫測定法ならびに医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に抗体は、マウス、ラット、ヒツジ、ヒトなど哺乳動物由来あるいはニワトリ由来のBリンパ球あるいはそれを基にしたハイブリドーマ細胞などが産生したものを使用する場合が多い。哺乳動物あるいはニワトリなどの個体あるいは培養細胞を使用した場合、それら動物体や生細胞に対して毒性を示すあるいは成長阻害など悪影響を与えることとなる各種抗体分子種を取得することは極めて困難となる。加えて、動物種差によるアミノ酸配列の相違がないエピトープ部位のモノクローナル抗体を取得することは、その種差が認められない動物間では原理的に不可能であった。すなわち、上記の抗体作製においては、取得できる抗体のレパートリーにおのずと制限があった。近年、VH鎖やVL鎖をリンカー配列で結合したsingle chain Fv (scFv)などのIgGに比較して低分子量の抗体断片を選別し、使用することが実用的にできるようになってきた。scFvなど低分子抗体は、IgGの分子量が約150 kDaであるのに対し、25 kDaと分子量が小さいことから、1)大腸菌、酵母を宿主とする製造法が適用可能、2)原体製造コスト低減可能、また、3)組織内浸透性の向上、4)細胞内浸透性の向上、5)血液脳関門の透過性の向上、6)製剤安定性の向上、などが期待できる。
【0003】
一般に蛋白質は血中に投与した際、細胞内には入らない。したがって現在存在するバイオ医薬品のターゲットは全て細胞外である。しかし、蛋白質にPTD(Protein Transduction Domain)と総称されるペプチドを結合させることで、蛋白質を細胞内に導入することができることが報告されている(非特許文献4)。細胞内には様々なシグナル伝達因子など細胞の生存や疾患に関わる多くの蛋白質がある。PTD化蛋白質が細胞内蛋白質を標的とし、その機能を中和・阻害できれば優れた効果をもつバイオ医薬品の開発が期待され、医薬品の幅を広げることができる。例えば、ヒトβカテニンは、変異等により細胞質から核内に移行して癌化を引き起こす報告がある(非特許文献1)。また、各種癌組織において発現が高くなっていることも知られている(非特許文献2)。そこで、癌細胞に取り込まれ、その細胞内における還元的条件下でもヒトβカテニンに対して結合活性が期待できる低分子抗体断片が得られれば治療効果が期待できる。
【0004】
低分子抗体の取得では、ファージディスプレイ法と呼ばれる方法が、現在主に用いられている。この方法では、大腸菌でscFvを提示したファージを産生させ、目的の抗原に結合活性を有するクローンを、in vitroで選択するものである。この方法は、個体を使用した問題点の多くを克服する優れた方法であるが、大腸菌でファージを産生させるため、抗原と低分子抗体との結合条件に与える各種条件、とりわけ還元的条件において、所望の抗原に結合可能な抗体のみを選択することは困難だった。
【0005】
上記の問題を改善するため、in vitro 翻訳系を利用したin vitro分子選択系として、リボソームディスプレイ(特許文献10〜17, 非特許文献5)やmRNAディスプレイ(非特許文献6、7)など、いくつかの方法が開発されている。そのうち、リボソームディスプレイは、翻訳反応中に形成されるmRNA-リボソーム-ポリペプチドから成る三者複合体の形でポリペプチド(蛋白質)を提示させる技術である。三者複合体の形成により、遺伝子産物と遺伝情報のリンクが実現される。リボソームディスプレイでは、in vitro翻訳系として、本発明者らが開発したPURE systemを利用することにより、従来法より、はるかに効率良く目的分子が選択できることが示されている(特許文献8、特許文献9)。
【0006】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-89354号公報
【特許文献2】特表2009-505080号公報
【特許文献3】特表2009-507470号公報
【特許文献4】再公表02-24738号公報
【特許文献5】特表2005-528115号公報
【特許文献6】特表2002-505255号公報
【特許文献7】特表2002-541760号公報
【特許文献8】特開2009-112286号公報
【特許文献9】特開2008-271903号公報
【特許文献10】米国特許第5658754号明細書
【特許文献11】米国特許第5643768号明細書
【特許文献12】特許第3127158号公報
【特許文献13】国際公開第01/75097号パンフレット
【特許文献14】米国特許第6348315号明細書
【特許文献15】特表2001-521395号公報
【特許文献16】米国特許第6620587号明細書
【特許文献17】特表2002-500514号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】PECAM-1 affects GSK-3beta-mediated beta-catenin phosphorylation and degradation., Biswas P, Canosa S, Schoenfeld D, Schoenfeld J, Li P, Cheas LC, Zhang J, Cordova A, Sumpio B, Madri JA., Am J Pathol. 2006 Jul;169(1):314-24
【非特許文献2】Immunohistochemical distinction between primary adenocarcinoma of the bladder and secondary colorectal adenocarcinoma, Wang HL, Lu DW, Yerian LM, Alsikafi N, Steinberg G, Hart J, Yang XJ., Am J Surg Pathol. 2001 Nov;25(11):1380-7
【非特許文献3】Frequent nuclear accumulation of beta-catenin in pituitary adenoma., Semba S, Han SY, Ikeda H, Horii A., Cancer. 2001 Jan 1;91(1):42-8
【非特許文献4】Mai, J. C., Shen, H., Watkins, S. C., Cheng, T., Robbins, P. D. Efficiency of protein transduction is cell type-dependent and is enhanced by dextran sulfate. J Biol Chem 2002; 277: 30208-18.
【非特許文献5】L.C. Mattheakis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) vol.91, p.9022-9026
【非特許文献6】R. W. Roberts et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1997) vol.94, p.12297-12302
【非特許文献7】N. Nemoto et al., FEBS Lett. (1997) vol.414, p.405-408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、抗βカテニン抗体、および該抗体を用いた測定法、並びに、該抗体を含有する医薬組成物もしくは試薬の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
非免疫マウスの脾臓から作成したscFv遺伝子ライブラリーから、全長ヒトβカテニンに対して、細胞内と同じ還元的条件下のPURE systemを使用したリボソームディスプレイ法(PRD)を用いて、選択反応を数回繰り返した。回収したscFv遺伝子プールからクローニングを行い、複数の陽性クローンを取得することができた。取得した陽性クローンを還元的条件下あるいは酸化的条件下において、ELISA法によりβカテニンに対する結合能を比較した。比較対照として用いた卵白リゾチームに対するscFvは、還元的条件下で測定すると、抗原に対する結合能が全く見られないのに対し、今回得られたβカテニンに対する複数のscFv陽性クローンでは、ELISA測定時の酸化還元状態に関わらず抗原に対する結合能が全てのクローンにおいて検出された。また、得られた結合活性を有するクローンのアミノ酸配列を確認したところ、複数種類のscFvが回収されていることが確認された。
【0011】
即ち本発明は、抗βカテニン抗体、および該抗体を用いた測定法、並びに、該抗体を含有する医薬組成物もしくは試薬に関し、より具体的には、
〔1〕 以下の(1)〜(14)のいずれかに記載の抗体または抗体断片;
(1)重鎖CDR1として配列番号:1に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:2に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:4に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:5に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(2)重鎖CDR1として配列番号:7に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:8に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:9に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:10に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:11に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(3)重鎖CDR1として配列番号:13に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:14に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:16に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:17に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(4)重鎖CDR1として配列番号:19に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:20に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:22に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:23に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(5)重鎖CDR1として配列番号:25に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:26に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:27に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:28に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:29に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:30に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(6)重鎖CDR1として配列番号:31に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:32に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:33に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:34に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:35に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(7)重鎖CDR1として配列番号:37に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:38に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:39に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:40に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:41に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:42に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(8)重鎖CDR1として配列番号:43に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:44に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:45に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:46に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:47に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:48に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(9)重鎖CDR1として配列番号:49に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:50に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:51に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:52に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:53に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:54に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(10)重鎖CDR1として配列番号:55に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:56に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:57に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:58に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:59に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:60に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(11)重鎖CDR1として配列番号:61に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:62に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:63に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:64に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:65に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:66に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(12)重鎖CDR1として配列番号:67に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:68に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:69に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:70に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:71に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:72に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(13)重鎖CDR1として配列番号:73に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:74に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:75に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:76に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:77に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:78に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(14)重鎖CDR1として配列番号:79に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:80に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:81に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:82に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:83に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:84に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
〔2〕 〔1〕に記載された重鎖CDR1〜3のそれぞれのアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列をそれぞれ重鎖CDR1〜3とし、かつ、請求項1に記載された軽鎖CDR1〜3のそれぞれのアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列をそれぞれ軽鎖CDR1〜3とする抗体または抗体断片、
〔3〕 以下の(1)〜(14)のいずれかに記載の抗体または抗体断片;
(1)配列番号:85に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(2)配列番号:86に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(3)配列番号:87に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(4)配列番号:88に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(5)配列番号:89に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(6)配列番号:90に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(7)配列番号:91に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(8)配列番号:92に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(9)配列番号:93に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(10)配列番号:94に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(11)配列番号:95に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(12)配列番号:96に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(13)配列番号:97に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(14)配列番号:98に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
〔4〕 抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の抗体または抗体断片、
〔5〕 〔1〕(1)〜(14)のいずれかに記載された重鎖CDR1〜3を有する重鎖可変ドメインと、軽鎖CDR1〜3を有する軽鎖可変ドメインとをリンカーで結合した構造からなる単鎖可変領域抗体断片(scFv)、
〔6〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、ヒトβカテニンに対する抗体または抗体断片を取得する方法;
(a)還元条件下のin vitro 翻訳系において、非免疫マウス脾臓由来scFv遺伝子ライブラリーをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成する工程、
(b)(a)で形成された複合体を、ヒトβカテニンと接触させる工程、および、
(c)ヒトβカテニンに結合した複合体を回収し、回収された複合体を構成するmRNAまたはそのcDNAを、ヒトβカテニンと結合する抗体または抗体断片をコードする核酸として単離する工程、
〔7〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗体または抗体断片を有効成分として含むβカテニン検出用試薬、
〔8〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗体または抗体断片を有効成分として含むβカテニン医薬組成物。
を、提供する。
【発明の効果】
【0012】
発明者らは、まず、還元条件下のin vitro 翻訳系において、非免疫マウス脾臓由来scFv mRNAライブラリーをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成させた。次いで、形成させた複合体をヒトβカテニンと接触させることにより、還元的条件下においてもヒトβカテニンに対する結合活性を有する抗体断片を取得する方法を初めて見出し、複数種類の陽性scFvクローンを得た。
【0013】
これにより、今までにない細胞内の還元的条件下においてもヒトβカテニンに結合する抗体または抗体断片用いたβカテニンを検出するための組成物の作製が可能となった。また、該組成物、及び方法を用いてβカテニンを検出する方法あるいは各種疾患を診断する方法、及び測定キットを供給できる事ができる。抗原抗体反応を用いた免疫測定法の感度の高さを保持しながらも、そのような免疫測定法の際に一般的に必要とされる洗浄工程や固定化工程を不要にした、迅速且つ簡便な測定を可能にする免疫測定法が提供できる。
【0014】
今回用いた方法はβカテニンにとどまらず、細胞内の蛋白質に対するscFvの取得にも使用できるものである。
【0015】
ヒトβカテニンは、変異等により細胞質から核内に移行して癌化を引き起こすことが報告されている。また、各種癌組織において発現が高くなっていることも知られている。そこで、癌細胞に取り込まれ、その細胞内における還元的条件下でもヒトβカテニンと結合活性が期待できる低分子抗体断片が得られれば治療効果が期待できる。すでに、発明者らはヒトβカテニンに対するマウスIgGに細胞膜透過性を与える短いPTD(Protein Transduction Domain)ペプチド配列を付加して、そのPTD付加抗ヒトβカテニン抗体を細胞内に導入することに成功している。しかし、IgGの細胞内移行は確認できたがβカテニンに結合することによる細胞増殖阻害といった生物学的活性は認められなかった(日本薬学会年会要旨集、128th、3号、104頁、,2008年3月:神谷由香里、増保安彦他)。通常、IgGは、酸化条件下で抗原に対する結合活性が高く、また、その分子量が150 kDaと巨大であり細胞内に取り込まれる効率も悪いと考えられる。そのため、細胞内蛋白質を抗原とする場合には、理想的には還元的条件下でβカテニンへの高い結合活性が期待できる抗体、さらには低分子化を目指した解決法としては抗体断片がより良いと考えるに至った。
【0016】
本発明のscFvを用いることにより、該scFvが認識するβカテニンを簡便、迅速に測定できる新規な測定キットを提供することが可能となる。また、低分子である特徴を利用して、従来の高分子である抗体を使用した場合に高分子であるが故に細胞内に導入することが難しかった点を克服した。本発明では低分子であるが故により導入しやすくなること、また、生細胞内が還元的状態であることから本発明の配列を有する各種低分子抗体は、細胞内で抗原ペプチドと結合可能となるので、医薬組成物の構成要素として有用である。
【0017】
即ち本発明は、例えば、以下の産業上の有用性を有する。
(1)本発明の抗体断片(scFv)、及び測定キットを用い、細胞内など還元下でのβカテニンを測定することが可能となり、各種研究用測定キット、各種検査キットを産業界に提供できる。
(2)本発明の抗体断片(scFv)から得られるヒト化抗体を医薬組成物に応用した製品を開発できるようになることから新たな低分子抗体市場開発に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】各セレクションラウンドにおけるポリクローナルscFvを用いたELISAの結果を示すグラフである。セレクション5ラウンドで、強いシグナルを確認した。このDNAプールをもとに、クローニングを行った。
【図2】モノクローナルscFv によるELISAの結果を示すグラフである。抗βカテニンおよび抗BSAは市販IgGを使用した。ELISA試験を行った16クローンのうち、14クローンに関して抗原特異的な強いシグナルを確認した。
【図3】異なる酸化還元条件下のPUREシステムで合成した各scFvクローンの結合能(ELISA)を示すグラフである。還元的条件は「1 mM DTT添加」であり、酸化的条件は「1 mM 酸化型グルタチオン、0.1 mM 還元型グルタチオン、1μM PDI添加」である。「HyHEL10」は卵白リゾチーム特異的scFv抗体であり、酸化的条件下で結合活性を有する。抗原(Ag)はβカテニンであり、但しHyHEL10に関しては卵白リゾチームを使用した。重複クローンは、本試験から除外した。取得した抗体は、酸化還元条件の違いによって大きな制限を受けず、結合活性を維持することが示唆された。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ヒトβカテニンのアミノ酸配列の全長に由来する抗原性エピトープに対し抗原結合特異性を有し、そして還元的条件下においてヒトβカテニンに対する結合活性を有する、ヒトβカテニンに対する抗体または抗体断片を提供する。本発明の抗体は、単離された抗体もしくは精製された抗体であることが好ましい。
【0020】
βカテニンとは、全長781アミノ酸からなる蛋白質で、多くの生物で保存されており、N末にリン酸化部位をもつ。ここに変異が入ることでリン酸化が起きなくなったβカテニンは、細胞内に蓄積しシグナルを活性化し続ける。また中央にアルマジロリピートドメイン(ショウジョウバエのもつアルマジロという遺伝子から初めて見つかった42〜45個のアミノ酸からなる繰り返し構造。βカテニンはアルマジロの脊椎動物ホモログである。APCやインポーチンなどもこのドメインをもつ)を12個もち、ここで様々な蛋白質と結合する。TCFとICAT、APCとE-cadherinの結合は競合的であることが知られている。
【0021】
さらに、βカテニンはがん細胞においては過剰に存在するが正常細胞での発現量は少ない。この特徴は生体内でβカテニンを阻害したときに副作用が起こりにくいことを示唆し、この点もがん治療の標的として適していると考えられる。
【0022】
本発明における「抗体」は、ヒトβカテニンと結合する抗体であればよく、その由来および形状については制限されない。好ましくは、還元的条件下においてヒトβカテニンと結合する抗体である。
【0023】
本発明における「抗体」には、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の両方が含まれる。また、本発明の抗体には、非ヒト動物抗体、ヒト化抗体、キメラ化抗体、ヒト抗体、後述の低分子化抗体、アミノ酸配列が改変された抗体、他の分子(例えば、ポリエチレングリコールなどの高分子等)が結合した修飾抗体、糖鎖が改変された抗体などが含まれる。
【0024】
モノクローナル抗体の作製は、基本的には公知技術を使用して作成が可能である。本発明において、感作抗原で免疫される動物は、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択され、一般的に、げっ歯類、ウサギ目、または霊長類等が使用される。げっ歯類には、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目には、例えばウサギが含まれる。霊長類には、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マントヒヒ、またはチンパンジー等が含まれる。
【0025】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内や皮下に注射することにより行われる。免疫細胞と融合を行う他方の親細胞として、公知の種々の細胞株を用いることができる。
【0026】
本発明の抗体として、例えば、重鎖可変ドメイン(VH)の配列中に存在する相補性決定領域(CDR)であるH-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3の各々のアミノ酸配列(例えば、表1のVHとして示される配列)を含み、軽鎖可変ドメイン(VL)の配列中に存在する相補性決定領域(CDR)であるL-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3の各々のアミノ酸配列(例えば、表1のVLとして示される配列)を含む抗体が挙げられる。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明の好ましい態様としては、以下の(1)〜(14)のいずれかに記載の抗体または抗体断片が挙げられる。
(1)重鎖CDR1として配列番号:1に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:2に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:4に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:5に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(2)重鎖CDR1として配列番号:7に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:8に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:9に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:10に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:11に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(3)重鎖CDR1として配列番号:13に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:14に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:16に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:17に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(4)重鎖CDR1として配列番号:19に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:20に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:22に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:23に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(5)重鎖CDR1として配列番号:25に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:26に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:27に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:28に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:29に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:30に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(6)重鎖CDR1として配列番号:31に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:32に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:33に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:34に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:35に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(7)重鎖CDR1として配列番号:37に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:38に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:39に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:40に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:41に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:42に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(8)重鎖CDR1として配列番号:43に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:44に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:45に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:46に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:47に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:48に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(9)重鎖CDR1として配列番号:49に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:50に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:51に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:52に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:53に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:54に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(10)重鎖CDR1として配列番号:55に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:56に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:57に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:58に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:59に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:60に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(11)重鎖CDR1として配列番号:61に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:62に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:63に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:64に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:65に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:66に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(12)重鎖CDR1として配列番号:67に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:68に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:69に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:70に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:71に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:72に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(13)重鎖CDR1として配列番号:73に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:74に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:75に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:76に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:77に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:78に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
(14)重鎖CDR1として配列番号:79に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:80に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:81に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:82に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:83に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:84に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片
【0029】
本発明の抗体にはβカテニンとの結合性に影響を与えない範囲で、上記CDRが適宜改変された抗体が含まれる。例えば、上記(1)〜(14)に記載された重鎖CDR1〜3のそれぞれのアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列をそれぞれ重鎖CDR1〜3とし、かつ、上記(1)〜(14)に記載された軽鎖CDR1〜3のそれぞれのアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列をそれぞれ軽鎖CDR1〜3とする抗体または抗体断片が挙げられる。これらの改変されたCDRを有する抗体は、上記(1)〜(14)に記載された抗体と同等の活性を有する限り、本発明の抗体に含まれる。
【0030】
ここで「同等の活性」とは、対象となる抗体が本発明の抗体と同様の生物学的あるいは生化学的活性を有することを指す。該「活性」とは具体的には、後述の還元的条件下においてβカテニンと結合する活性を指す。
【0031】
なお本発明において「同等」とは、必ずしも同程度の活性である必要はなく、活性が増強されていてもよいし、又、活性を有する限り活性が減少していてもよい。活性が減少している抗体としては、例えば、もとの抗体と比較して30%以上の活性、好ましくは50%以上の活性、より好ましくは80%以上の活性を有する抗体を挙げることができる。
【0032】
あるポリペプチドと同等の活性を有するポリペプチドを調製するための、当業者によく知られた方法としては、ポリペプチドに変異を導入する方法等が挙げられる。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法などを用いて、本発明の抗体(例えば、CDR領域)に適宜変異を導入することにより、該抗体と同等の活性を有する抗体を調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、本発明の抗体のアミノ酸配列において1もしくは2個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列を有し、該抗体と同等の活性を有する抗体もまた本発明の抗体に含まれる。
【0033】
例えば本発明の上記(1)〜(14)の各々のCDR(H-CDR1〜H-CDR3またはL-CDR1〜L-CDR3)とのアミノ酸配列に対して通常は80%以上(例えば、87.5%以上)、好ましくは90%以上(例えば、93.3%以上)、より好ましくは95%以上の相同性(同一性)がある抗体または抗体断片は、本発明の抗体に含まれる。
【0034】
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。
【0035】
上述の修飾に加え、本発明の抗体は、活性を保持している限り、他の物質にさらに連結されていてもよい。他の物質としては、例えばペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマー等が挙げられる。これらの修飾は、付加的な機能を付与するか、または抗体を安定化するために実施され得る。
【0036】
また本発明の抗体には、単鎖可変領域抗体断片(scFv)の全長配列(重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインの全長配列)に含まれるCDRによって特定される抗体を好適に示すことができる。
【0037】
例えば、以下の(1)〜(14)のいずれかに記載の抗体または抗体断片が挙げられる;
(1)配列番号:85に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(2)配列番号:86に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(3)配列番号:87に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(4)配列番号:88に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(5)配列番号:89に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(6)配列番号:90に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(7)配列番号:91に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(8)配列番号:92に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(9)配列番号:93に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(10)配列番号:94に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(11)配列番号:95に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(12)配列番号:96に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(13)配列番号:97に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(14)配列番号:98に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片。
【0038】
また本発明は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)の全長アミノ酸配列中に存在する、非ヒト免疫グロブリン(Ig)の重鎖および軽鎖の各々に含まれるそれぞれ3つのCDR(H-CDR1〜H-CDR3またはL-CDR1〜L-CDR3)を取り囲む4つのFR (H-FR1〜H-FR4またはL-FR1〜L-FR4)を含み、かつ、前記全長アミノ酸配列が配列番号:85〜98のいずれかのアミノ酸配列で示される抗体または抗体断片を提供する。
【0039】
また、本発明の抗体が結合するエピトープと結合する抗体は、当業者に公知の方法により取得することが可能である。公知の方法としては、例えば、本発明の抗体が結合するエピトープを通常の方法により決定し、該エピトープに含まれるアミノ酸配列を有するポリペプチドを免疫原として抗体を作製する方法等が挙げられる。
【0040】
本発明の抗体には、上述の低分子化抗体、ヒト化抗体やキメラ化抗体などのアミノ酸配列が改変された抗体、非ヒト動物抗体、ヒト抗体、他の分子(例えば、ポリエチレングリコールなどの高分子等)が結合した修飾抗体、糖鎖が改変された抗体等が含まれる。
【0041】
本発明における抗体の好ましい態様の一つとして、キメラ抗体又はヒト化抗体等の改変抗体を挙げることができる。より好ましい態様としては、可変領域がマウス由来の可変領域であり、かつ定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするキメラ抗体を挙げることができる。
【0042】
また、CDRがヒトβカテニンに特異的に結合する非ヒト動物由来のCDRであり、FRがヒト由来のFRであり、かつ定常領域がヒト由来の定常領域であることを特徴とするヒト化抗体等を挙げることができる。なおこれらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0043】
キメラ抗体やヒト化抗体はヒト体内における抗原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用である。
【0044】
キメラ抗体は、異なる動物由来の配列を組み合わせて作製される抗体であり、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体などである。キメラ抗体の作製は公知の方法を用いて行うことができる。例えば、調製された可変領域をコードする遺伝子を、定常領域またはフレームワーク領域をコードする遺伝子と連結する工程を含む方法によって実施することができる。定常領域またはフレームワーク領域をコードする遺伝子は、CDRをコードする遺伝子と同様に決定することができ、または既存の抗体の配列情報に基づき、それらを調製することも可能である。キメラ産物およびCDRグラフト産物をコードするDNA配列は、オリゴヌクレオチド合成技術を使用して、完全にまたは部分的に合成することも可能である。
【0045】
一般的に、キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域および定常領域とからなる。
【0046】
なお、キメラ抗体やヒト化抗体を作製した後に、可変領域(例えば、FR)や定常領域中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換、欠失、付加および/または挿入等してもよい。本発明のヒト化抗体には、そのようなアミノ酸置換等されたヒト化抗体も含まれる。
【0047】
キメラ抗体における可変領域、又はヒト化抗体におけるCDRの由来は特に限定されず、どのような動物由来であってもよい。
【0048】
また、キメラ抗体およびヒト化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖としては、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、Cεが、L鎖としてはCκ、Cλが使用できる。これらの配列は公知である。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾することができる。
【0049】
なお、本発明の抗体の抗原(βカテニン)への結合活性は、例えば吸光度測定法、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および/または免疫蛍光法等を用いて行うことができる。ELISAでは、抗原をプレート上に固定し、それに対する抗体を産生する細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含む試料を添加する。次に、一次抗体を認識しかつアルカリホスファターゼなどの酵素でタグ付加された二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションする。洗浄後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して、目的試料の抗原結合能力を評価する。評価はBIAcore(GE Healthcare)を用いて行うことができる。
【0050】
また本発明における抗体は、好ましくは低分子化抗体である。低分子化抗体は、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含む抗体であり、βカテニンへの結合活性を有する限り特に限定されない。本発明において低分子化抗体は、通常、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましくはVHとVLの両方を含む低分子化抗体である。また、本発明の低分子化抗体の他の好ましい例として、抗体のCDRを含む低分子化抗体を挙げることができる。低分子化抗体に含まれるCDRは抗体の6つのCDRが全て含まれる場合、あるいは一部のCDRのみが含まれる場合のいずれであってもよい。
【0051】
本発明における低分子化抗体は、全長抗体よりも分子量が小さくなることが好ましいが、例えば、ダイマー、トリマー、テトラマーなどの多量体を形成することもあり、全長抗体よりも分子量が大きくなることもある。
【0052】
抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなどを挙げることができる。また、低分子化抗体の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(単鎖可変領域抗体断片、single chain Fv)、Diabody、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)などを挙げることができる。これら抗体の多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)も、本発明の低分子化抗体に含まれる。
【0053】
抗体断片は、例えば、抗体を酵素で処理して抗体断片を生成させることによって得ることができる。抗体断片を生成する酵素として、例えばパパイン、ペプシン、あるいはプラスミンなどが公知である。あるいは、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることができる。
【0054】
消化酵素は、抗体断片の特定の位置を切断し、次のような特定の構造の抗体断片を与える。このような酵素的に得られた抗体断片に対して、遺伝子工学的手法を利用すると、抗体の任意の部分を欠失させることができる。
【0055】
上述の消化酵素を用いた場合に得られる抗体断片は以下のとおりである。
パパイン消化:F(ab)2またはFab
ペプシン消化:F(ab')2またはFab'
プラスミン消化:Facb
【0056】
本発明における低分子化抗体は、βカテニンとの結合活性を有する限り、任意の領域を欠失した抗体断片を含むことができる。
【0057】
scFv抗体は、重鎖可変領域([VH])及び軽鎖可変領域([VL])をリンカー等で結合して一本鎖ポリペプチドにした抗体である。本発明のscFvの好ましい態様として、例えば上記(1)〜(14)のいずれかに記載された重鎖CDR1〜3を有する重鎖可変ドメインと、軽鎖CDR1〜3を有する軽鎖可変ドメインとをリンカーで結合した構造からなるscFvを挙げることができる。
【0058】
V領域を連結するペプチドリンカーには、特に制限はないが、例えば1〜20残基程度からなる任意の一本鎖ペプチドを用いることができる。
【0059】
両鎖のV領域は、例えば上記のようなPCR法によって連結することができる。PCR法によるV領域の連結のために、まず次のDNAのうち、全部あるいは所望の部分アミノ酸配列をコードするDNAが鋳型として利用される。
抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA配列、および
抗体のL鎖またはL鎖V領域をコードするDNA配列
【0060】
増幅すべきDNAの両端の配列に対応する配列を有するプライマーの一対を用いたPCR法によって、H鎖とL鎖のV領域をコードするDNAがそれぞれ増幅される。次いで、ペプチドリンカー部分をコードするDNAを用意する。ペプチドリンカーをコードするDNAもPCRを利用して合成することができる。このとき利用するプライマーの5'側に、別に合成された各V領域の増幅産物と連結できる塩基配列を付加しておく。次いで、[H鎖V領域DNA]−[ペプチドリンカーDNA]−[L鎖V領域DNA]の各DNAと、アセンブリーPCR用のプライマーを利用してPCR反応を行う。
【0061】
アセンブリーPCR用のプライマーは、[H鎖V領域DNA]の5'側にアニールするプライマーと、[L鎖V領域DNA]の3'側にアニールするプライマーとの組み合わせからなる。すなわちアセンブリーPCR用プライマーとは、合成すべきscFvの全長配列をコードするDNAを増幅することができるプライマーセットである。一方[ペプチドリンカーDNA]には各V領域DNAと連結できる塩基配列が付加されている。その結果、これらのDNAが連結され、さらにアセンブリーPCR用のプライマーによって、最終的にscFvの全長が増幅産物として生成される。一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された組換え細胞が常法に従って取得できる。また、その結果得られる組換え細胞を培養して該scFvをコードするDNAを発現させることにより、該scFvが取得できる。
【0062】
結合される重鎖可変領域と軽鎖可変領域の順序は特に限定されず、どのような順序で並べられていてもよく、例えば、
[VH]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VH]
という配置を挙げることができる。
【0063】
sc(Fv)2は、2つのVH及び2つのVLをリンカー等で結合して一本鎖にした低分子化抗体である。sc(Fv)2は、例えば、scFvをリンカーで結ぶことによって作製できる。
また2つのVH及び2つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が好ましいが、2つのVHと2つのVLの順序は特に上記配置に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。
【0064】
低分子抗体中の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。さらに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を会合させた場合に、抗原結合活性(βカテニンとの結合活性)を有する限り、一部を欠損させてもよいし、他のポリペプチドを付加してもよい。また、可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。
【0065】
また本発明は、ヒトβカテニンに対する抗体または抗体断片を取得する方法を提供する。本発明の上記方法は、ヒトβカテニンのアミノ酸配列の全長に由来する抗原性エピトープに対し抗原結合特異性を有し、還元的条件下においてヒトβカテニンに対する結合活性を有する、ヒトβカテニンに対する抗体または抗体断片を取得する方法である。
【0066】
上記方法は、好ましくは、
1)還元剤が添加された完全再構築蛋白質合成系(PUREシステム)から解離因子を除外して反応系を用い、非免疫マウス脾臓由来のscFv遺伝子ライブラリーから蛋白質合成を行ない、リボソームとmRNAと合成されたポリペプチドからなる複合体を得るステップと、
2)合成されたポリペプチド依存的にヒトβカテニンに結合するmRNAを選択するステップを複数回繰り返し、所望の還元的条件下においてもヒトβカテニンに対する結合活性を有する、抗体断片を単離するステップを含む方法である。
【0067】
また、本発明の好ましい態様としては、以下の工程(a)〜(c)を含む方法である。
(a)還元条件下のin vitro 翻訳系において、非免疫マウス脾臓由来scFvをコードするmRNAを含むmRNAライブラリーをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成する工程、
(b)(a)で形成された複合体を、ヒトβカテニンと接触させる工程、および、
(c)ヒトβカテニンに結合した複合体を回収し、回収された複合体を構成するmRNAまたはそのcDNAを、ヒトβカテニンと結合する抗体または抗体断片をコードする核酸として単離する工程。
【0068】
上記工程は、PUREシステムを使用したリボソームディスプレイ(Ribosome display)(特開2008-271903)を利用した工程である。
【0069】
上記工程における「in vitro翻訳系」とは、細胞抽出液等の蛋白質合成に必要な因子を含む反応液を用いた蛋白質合成系のことで、無細胞蛋白質合成系ともいう。すなわち、in vitro翻訳系は、mRNAからポリペプチドへの翻訳に生細胞を必要としないことを特徴とする。本発明におけるin vitro翻訳系は、翻訳、または転写および翻訳を行なう翻訳系を含む。すなわち、本発明のin vitro翻訳系は、以下のいずれをも含む。
(1)mRNAからポリペプチドに翻訳するin vitro翻訳系
(2)DNAからmRNAに転写し、更にmRNAからポリペプチドに翻訳するin vitro翻訳系
【0070】
上記in vitro翻訳系は、独立に精製された因子から構成された再構成型のin vitro翻訳系が好ましい。例えば、本発明者らが発明したPURE(Protein synthesis Using Recombinant Elements)システムを挙げることができる。この再構成in vitro翻訳系は、細胞抽出液を使用するin vitro翻訳系よりもヌクレアーゼやプロテアーゼの混入を容易に防ぐことができる。このため、上記(a)工程でmRNAからポリペプチドへ翻訳する効率を高めることができる。したがって、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体の形成および安定的な維持や、(b)工程および(c)工程も高い効率で行うことができる。最終的に、目的とするポリペプチドをコードする核酸を効率よく単離することができる。
【0071】
本発明における「核酸」は、主としてデオキシリボヌクレオチド、およびリボヌクレオチドの重合体をいう。すなわち、デオキシリボ核酸(DNA)、または、リボ核酸(RNA)である。更に、本発明における核酸は、人工塩基を有するヌクレオチド誘導体を含むこともできる。また、ペプチド核酸(PNA)を含むこともできる。目的とする遺伝情報が保持される限り、核酸の構成単位は、これらの核酸のいずれか、あるいは混成であることができる。したがって、DNA-RNAのハイブリッドヌクレオチドは本発明における核酸に含まれる。あるいはDNAとRNAのような異なる核酸が1本鎖に連結されたキメラ核酸も本発明における核酸に含まれる。本発明における核酸の構造も、目的とする遺伝情報が維持できる限り限定されない。具体的には、一本鎖、二本鎖、あるいは三本鎖などの構造をとりうる。核酸の長さは、少なくとも3ヌクレオチド、あるいは6ヌクレオチドであり、好ましくは9ヌクレオチド以上である。核酸の長さは、通常10〜10000ヌクレオチド、あるいは100〜5000ヌクレオチドであり、例えば200〜3000ヌクレオチドである。
【0072】
本明細書において「因子」とは、独立して精製することができるin vitro翻訳系の構成単位を指す。因子は、単独の蛋白質や基質類を含む。更に、粗分画から単離できる各種の複合体や混合物も含む。例えば、複合体として精製される因子には、2量体の蛋白質、リボソームなどが含まれる。また、混合液としては、tRNA混合物等が含まれる。「独立に精製された因子」とは、他の因子から、それぞれ独立して精製された因子をいう。因子ごとに独立に精製された蛋白質合成に必要な因子類を、必要に応じて混合して再構成することによってin vitro翻訳系を構築することができる。細胞抽出液から単離されずに複数種類の因子が混合した画分中に存在する各因子は、独立に精製された因子とはいわない。一方、複数の成分からなる複合体であっても、単独の因子として精製された場合は、本発明における「独立に精製された因子」である。たとえば精製したリボソームは、いくつかの要素からなる複合体であるが、単独の因子として精製されるので「独立に精製された因子」である。
【0073】
独立に精製された因子は、種々の細胞の抽出液から精製することによって得ることができる。因子を精製するための細胞は、例えば原核細胞、または真核細胞を挙げることができる。原核細胞としては、大腸菌細胞、高度好熱菌細胞、または枯草菌細胞を挙げることができる。真核細胞としては、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞を挙げることができる。特に、独立に精製された因子が蛋白質のみからなる場合には、各因子を以下のような方法によって得ることができる。
(1)各因子(蛋白質)をコードする遺伝子を単離し、発現ベクターに導入後、適当な宿主細胞に形質転換して発現させ、回収する。
(2)各因子をコードする遺伝子を単離し、in vitro翻訳系で合成し、回収する。
【0074】
(1)では、はじめに発現制御領域を含む発現ベクターに、該領域の制御により目的とする因子が発現されるように各因子の遺伝子を組み込んだ発現プラスミドを作成する。ベクターを構成する発現制御領域とは、例えば、エンハンサー、プロモーター、およびターミネーターなどを指す。発現ベクターは、薬剤耐性マーカーなどを含むこともできる。次に、この発現プラスミドで宿主細胞を形質転換し、各因子を発現させる。
【0075】
宿主細胞として、例えばJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌を使用する場合には、lacZプロモーター(Ward et al., Nature (1989) vol.341, p.544-546, FASEB J. (1992) vol.6, p.2422-2427)、araBプロモーター(Better et al., Science (1988) vol.240, p.1041-1043)、及びT7プロモーターなどを例示できる。このようなプロモーターを持つ発現ベクターとしては、pGEX(GE Healthcare Biosciences製)、pQE(Qiagen製)、またはpET(Novagen製)を例示することができる。各因子をコードする遺伝子を導入した発現プラスミドは、例えば、塩化カルシウム法またはエレクトロポレーション法によって大腸菌に導入することができる。
【0076】
目的とする因子に相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルをすることで、発現(合成)した目的の因子を容易に精製することができる。例えばニッケルイオンなどを保持した金属アフィニティ樹脂カラムに付着するヒスチジンタグ、グルタチオン−セファロース樹脂カラムに付着するグルタチオンS-トランスフェラーゼ、または抗体等のアフィニティ樹脂カラムに付着するエピトープタグで因子をラベルする。ラベルの方法は、たとえば、これらのラベルをコードする塩基配列を含む発現ベクターに、目的とする因子をコードする遺伝子を組み込んで、両者の融合蛋白質を発現させることによって行なうことができる。両者の間にプロテアーゼの認識配列を介在させておくこともできる。融合蛋白質をラベルに結合する固相に補足し、更に当該認識配列を切断するプロテアーゼを作用させて、目的とする因子を回収することもできる。このようにして因子を精製する方法は公知である。
【0077】
本発明において「独立に精製されたリボソーム」とは、in vitro翻訳系を構成する因子のうち、リボソーム以外の因子とは別に精製されたリボソームをいう。リボソームは、リボソームRNAと種々のリボソーム蛋白質とで構成される巨大な複合体である。細胞内においては、リボソームが蛋白質合成の場となっている。基本的には大小2つのサブユニットからなり、原核生物と真核生物とでは、リボソームの成分の構成や大きさが相違している。リボソームやそれを構成するサブユニットは、ショ糖密度勾配などによって相互に分離することができ、その大きさは、沈降係数によって表される。
【0078】
「リボソームディスプレイ」とは、in vitro翻訳系においてmRNA-リボソーム-ポリペプチドからなる三者複合体を形成させ、特定の機能を持ったポリペプチド(蛋白質)をコードする核酸を選択する手法である。複合体と標的物質を結合させ、他の複合体から分離することにより、目的の結合特性を有する(ポリ)ペプチドをコードするmRNAを得ることができる。リボソームディスプレイでは、in vitro翻訳系を利用するため、生物を傷害する活性を持つポリペプチド、あるいは生物の増殖を阻害する可能性のあるポリペプチドをコードする核酸であっても選択することができる。
【0079】
標的物質であるヒトβカテニンと結合するポリペプチドをコードする核酸を単離する方法は、まずin vitro翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAと新生ポリペプチド、およびリボソームを含む複合体を形成する工程を含む。この工程では、鋳型となるmRNAをin vitro翻訳系の反応液に加え、一定時間翻訳反応させることで、mRNA、リボソームおよび新生ポリペプチドからなる複合体を形成させることができる。
【0080】
本発明に好適に用いられるin vitro翻訳系は独立に精製された因子からなる。本発明において、in vitro翻訳系は、例えば、以下のような因子を精製された状態で含むことができる。これらの因子は、大腸菌等の原核細胞由来のものに限らず、真核細胞由来のものも使用できる。精製された状態とは、因子が単一の蛋白質の場合、好ましくは、電気泳動によって各因子がほぼ単一のバンドとして確認できることを言う。また、リボソームなどの複合体についても、電気泳動によって構成因子のみがバンドとして確認できることを言う。
【0081】
本発明においては、ポリペプチドをコードする核酸として、核酸のライブラリーを用いることができる。本発明において、「ライブラリー」とは、複数のクローン化された核酸からなる多様性をもった集団をいう。リボソームディスプレイ等のin vitro選択系によって、ライブラリーから、所望の性質を有する蛋白質(ポリペプチド)をコードする核酸を得ることができる。
【0082】
本発明においては、例えば、非免疫マウス脾臓由来のscFv遺伝子ライブラリーを好適に用いることができる。
【0083】
なお、リボソームディスプレイ(Ribosome display)の詳細については、特許文献(特開2008-271903)を参照することができる。
【0084】
scFvをコードするライブラリーは、抗体産生細胞のmRNAからcDNAを合成し、可変領域をランダムに組み合わせて作成することができる。具体的には以下の工程で行うことができる。
(1)抗体産生細胞からmRNAを抽出してcDNAを合成する。
(2)cDNAを鋳型としてVH遺伝子領域およびVL遺伝子領域をそれぞれPCRにより増幅する。
(3)増幅したVH遺伝子領域とVL遺伝子領域をアセンブリーPCRにより連結させ、scFvをコードするDNAを調製する。
(4)調製したscFvをコードするDNAをベクターに組み込み、ライブラリーを構築する。
【0085】
本発明においては、最終的に得られたscFvをコードするcDNAをmRNAに転写し、更にin vitro翻訳系によってscFvに翻訳する。したがって、cDNAのベクターへの組み込みは必須ではない。たとえば、scFvをコードするcDNAの5'UTRにプロモーターやSD配列などの転写・翻訳に必要な構造を有していれば、そのままmRNAへ転写することもできる。たとえば、アセンブリーPCRの後に、PCR産物にプロモーターやSD配列を含む2本鎖DNAをライゲーションすることによって、転写に必要な構造を与えることができる。ライゲーションに先立ち、必要に応じて、PCR産物の末端を平滑化したり、あるいは制限酵素で消化したりすることもできる。あるいは、プロモーターやSD配列を含むプライマーを用いてPCRを行なうことにより、5'UTRを付加することも可能である。
【0086】
抗体ライブラリーの構築に当たり、遺伝子に変異を導入することもできる。抗体の可変領域遺伝子全体、あるいは可変領域を構成するCDR特異的に、ランダムに変異を導入するための手法が公知である。具体的には、エラープローンPCR(Error-Prone PCR)やCDRシャフリングなどの試みが報告されている。エラープローンPCRは、基質である4種類のデオキシヌクレオチドの濃度や、添加する二価カチオンの種類や濃度を調節することによってエラーが起こり易くなる現象を利用している。あるいはCDRシャフリングにおいては、異なる抗体分子に由来するCDRがランダムに組みかえられる。このようにして変異を導入された抗体ライブラリーは、合成抗体ライブラリーと呼ばれる。合成抗体ライブラリーにおいては、ライブラリーの多様性が、変異の導入によって人為的に高められる。
【0087】
本発明は、mRNAとポリペプチドを含む複合体を還元的条件下において形成させる工程を含む。「還元的条件下」とは、好ましくは0.1 mM以上、100 mM以下のジチオトレイトール(DTT)あるいは同等の作用を有する還元剤の存在下、更に好ましくは1 mM以上、10 mM以下のジチオトレイトール(DTT)あるいは同等の作用を有する還元剤の存在下である。
【0088】
上記方法においては、mRNA、リボソーム、および翻訳されたポリペプチドからなる複合体と標的物質(ヒトβカテニン)を接触させる。結合を可能にする条件は当業者にとって過度の負担なしに確立することができる。標的物質に結合した複合体を回収するには、標的物質と結合した複合体を、標的物質と結合していない複合体の中からスクリーニングする必要がある。これはパニングとよばれる既知の方法に従って行う。パニングの基本的なプロトコルは以下のとおりである。
(1)固相に固定化した標的物質に複合体を接触させる。もしくは、固相に捕捉される結合パートナーで標識されている標的物質に複合体を接触させ、その後に複合体と結合した標的物質を固相に固定化する。
(2)標的物質に結合しなかった複合体を除去する。例えば、洗浄により除去することができる。
(3)除去されなかった複合体を回収する。
(4)必要に応じ(1)から(3)の操作を複数回繰り返す。
【0089】
一連の工程を繰り返す場合には、(1)の工程の前に、回収された複合体を構成するmRNAを増幅することもできる。mRNAは、例えばRT-PCRによって増幅することができる。RT-PCRによって、mRNAを鋳型としてDNAが合成される。DNAを再びmRNAに転写し、複合体の形成のために利用することができる。mRNAの転写のためには、DNAをベクターに挿入することができる。あるいは、転写に必要な構造をDNAに連結することによって、mRNAに転写することもできる。
【0090】
また本発明は、ヒトβカテニンに結合した複合体を回収し、回収された複合体を構成するmRNAまたはそのcDNAを、ヒトβカテニンと結合する抗体または抗体断片をコードする核酸として単離する工程を含む。
【0091】
さらに本発明は、本発明の抗体または抗体断片を有効成分として含むβカテニン検出用試薬(検査薬)を提供する。
【0092】
上記試薬を構成成分として含む検査・測定キットもまた、本発明に含まれる。
【0093】
また、本発明の抗体もしくは抗体断片を含有するβカテニンを検出するための組成物を提供する。該組成物、または上記試薬を用いてβカテニンを検出する方法、および、各種疾患を診断する方法もまた、本発明に含まれる。例えば、本発明には、本発明の抗体もしくは抗体断片を有効成分として含むβカテニン医薬組成物が含まれる。
【0094】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0095】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0096】
〔実施例1〕 ヒトβカテニン発現プラスミドの構築
大腸菌を宿主としてヒトβカテニンを組換え蛋白質として発現することを目的とし、ヒトβカテニン(human-β-catenin、NM_001904.2 ; CTNNB1)の全長(1-781アミノ酸)に相当する塩基配列を、市販されているHisタグ付きの大腸菌発現ベクターpET-30a(+)(Novagen社製)に以下の方法で挿入して作製し、大腸菌用の発現プラスミドpET-β-cateninを得た。
氷上に置いた0.2 mlのプラスチックチューブ内に、MilliQ精製水を5.85μl、PCR反応用の5xBufferを2μl、10xdNTPを1μl、更に、情報に従い化学合成し10μMの濃度としたForwardプライマー(5’-CCAGCGGGATCCATGGCTACTCAAGCTGATTTG-3’(配列番号:99);下線部はBamHI認識部位)を0.3μlと、10μMの濃度としたReverseプライマー(5’-AGCTAGCGGCCGCTTTACAGGTCAGTATCAAAC-3’(配列番号:100);下線部はNotI認識部位)0.3μlを、更に、テンプレートとして市販されているHL60細胞由来cDNA溶液0.5μlと5 U/μlのDNAポリメラ―ゼ(PrimeSTAR HS DNA polymerase、TakaraBio社製)0.05μlを入れて、ボルテックスミキサーを用いて攪拌し混合し、以下の条件でPCR反応を行なった。PCR反応装置を使用して98℃で2分間の加熱処理後、98℃で10秒、60℃で5秒、72℃で2分20秒の3つの工程を36回繰り返した。PCR反応液を、1.5%アガロースゲルを用いて電気泳動により分画し、ヒトβカテニンの全長約2.3 kbp長の両端にリンカーが付与されたヒトβカテニンDNA断片を、RECOCHIP(TakaraBio社製)を用いて回収した。RECOCHIPは泳動中のゲルにチップを差し込んで泳動を続け、目的のバンドがチップ内に移動した後、遠心分離により回収するディスポーザブルタイプのチップである。回収したヒトβカテニンDNA断片を、フェノール/クロロホルム抽出、イソプロパノール沈殿を行うことで精製した。精製したDNA断片は、制限酵素BamHI(TakaraBio社製)及び制限酵素NotI(New England BioLabs社製)で処理し、その末端をBamHI末端とNotI末端とした。同様に、約50 ngのpET-30a(+)プラスミドDNAをBamHIとNotIを用いて酵素処理し、その末端がBamHI末端およびNotI末端である直鎖状DNAとした。BamHI末端とNotI末端としたヒトβカテニンDNA断片、および直鎖状にしたpET-30a(+)DNA断片を、T4DNAリガーゼ(Promega社製)を用いて、室温で20分間ライゲーション反応を行ない連結した。ライゲーション反応終了後、同反応液に対して大腸菌コンピテント細胞(DH5α)100μlを加えた。氷上で30分間静置し、次に42℃で45秒間保温することで熱ショックを与えた後、2分間氷上に静置した。1 mLのSOC培地(2% Bacto tryptone(Becton Dickinson社製)、0.5% Bacto yeast extract(Becton Dickinson社製)、1% NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM MgSO4、20 mM glucose)を加え、37℃で2時間保温した。2時間保温した菌液100μlを、終濃度50μg/mLのカナマイシン(和光純薬社製)を含むLB寒天培地(1% Bacto-trypton、0.5% Bacto-yeast extract、1% NaCl、1% Agar(Becton Dickinson社製))に、スプレッダーを使用して撒いた。37℃インキュベーター内で一晩培養後、生じた大腸菌コロニーを、カナマイシンを含むLB液体培地で培養し、市販のプラスミドDNA精製用キットを用いて発現プラスミドDNA pET-β-cateninを取得した。取得した発現プラスミドDNAに挿入されているDNA塩基配列は、定法によりDNAシークエンサーを用いて確認した。
【0097】
〔実施例2〕 ヒトβカテニン蛋白質の大腸菌での発現とその精製
Novagen社が提供する大腸菌のコンピテント細胞(BL21(DE3))に、実施例1で取得した発現プラスミドpET-β-cateninを、定法に従い導入した。すなわち、少量の発現プラスミドDNA(pET-β-catenin)に対して大腸菌コンピテント細胞(BL21(DE3))100μlを加え、氷上で30分間静置し、次に42℃で45秒間保温することで熱ショックを与えた。反応チューブを2分間氷上においた後、1 mlのSOC培地(2% Bacto tryptone(Becton Dickinson社製)、0.5% Bacto yeast extract(Becton Dickinson社製)、1% NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM MgSO4、20 mM glucose)を加え、37℃で2時間保温した。2時間保温した菌液100μlを、終濃度50μg/mLのカナマイシン(和光純薬社製)を含むLB寒天培地に、スプレッダーを使用して撒いた。37℃インキュベーター内で一晩培養後、生じた大腸菌コロニーを、終濃度50μg/mlのカナマイシンを含む1リットルの2xYT培地(1.6% Bacto-trypton、1% Bacto-yeast extract、0.5% NaCl)にて30℃で一晩培養した。得られた培養液の濁度を分光光度計で測定し、O.D.600=0.1になるように同上の培地1リットルに加え、希釈した培養液を30℃で2時間培養した。培養液に、終濃度が0.4 mMになるようにIPTG(Sigma社製)を添加し、さらに30℃で2時間培養することで目的とするHisタグ付きヒトβカテニン組換え蛋白質の発現誘導を行った。発現誘導処理して得た培養液を、3,000 x gで遠心分離して菌体を回収した。回収した菌体をNi-NTA resin精製用Binding Buffer(50 mM NaH2PO4 (pH 8.0)、500 mM NaCl、10 mM imidazole、1% Protease inhibitor cocktail(Sigma社製))50 mLを用いて懸濁した。懸濁液中の菌体をソニケーター (BRANSON SONIFIRE 250、株式会社セントラル科学貿易が供給)でDuty cycle 30%、Out put level 3、10バーストの条件で破砕操作を10回繰り返して菌体を破砕した。菌体を破砕後、その破砕液を4℃、8,000 x gで35分間遠心分離した。遠心分離後に上清を回収し、Sterile Millex Filter Unit 0.45μM(MILLIPORE社製)を用いてフィルターろ過して、Hisタグ付きヒトβカテニン組換え蛋白質を含む菌体破砕液の上清を得た。
【0098】
Ni-NTA resin精製用Wash Buffer (50 mM NaH2PO4 (pH8.0)、500 mM NaCl、10 mM imidazole)で平衡化した0.5 mlのNi-NTA Agarose(Invitrogen社製)を、上記で得た菌体破砕液の上清と混合し、4℃で一晩ゆっくり攪拌して目的とするHisタグ付きヒトβカテニン組換え蛋白質をNi-NTA Agaroseに結合させた。このHisタグ付きヒトβカテニン組換え蛋白質が結合したNi-NTA Agarose担体をカラムに詰め、Ni-NTA resin精製用Wash Buffer 20 mlで洗浄した後、Ni-NTA resin精製用Elution Buffer (50 mM NaH2PO4 (pH8.0)、500 mM NaCl、250 mM imidazole) を用いて溶出した。溶出液を50 mM NaH2PO4 (pH8.0)、500 mM NaClで透析し、Hisタグ付きヒトβカテニン組換え蛋白質溶液を得た。得られたHisタグ付きヒトβカテニン組換え蛋白質溶液については、Protein Quantification Kit-Rapid (DOJINDO社製)を用いて濃度を定量した後、-80℃で凍結保存した。
【0099】
〔実施例3〕 ビオチン化βカテニンの調製
EZ-Link Sulfo-NHS-Lc-Lc-biotion(Pierce社製、分子量 669.8)を、0.67 mg/mlになるようにPBSに溶かし、ビオチン化溶液を得た。Hisタグ付きヒトβカテニン組換え蛋白質溶液(1.65 mg/ml、50 mM NaH2PO4 (pH8.0)、500 mM NaCl)500μlに、上記ビオチン化溶液10μlを加え、穏やかに撹拌しながら室温で30分間反応させた。PBSに対して透析後、グリセロールを終濃度30%になるように添加して凍結保存した。
【0100】
〔実施例4〕 非免疫マウス脾臓由来のscFv cDNAライブラリー作製
本発明に用いた非免疫マウス脾臓由来scFv遺伝子ナイーブライブラリーについては、特許文献特開2009−112286に示されるものであり、その一次構造は当該特許文献の図2Aに示されている。ライブラリーの構造は、以下のとおりである。scFvは、重鎖可変部位(VH)と、軽鎖可変部位(VL)とを、この順番にグリシン(Gly)・セリン(Ser)の繰り返し配列((Gly4Ser)4)(配列番号:101)でつないだ構造とした。scFvの5'-UTRには、T7プロモーターおよびリボソーム結合部位(SD配列)を配置した。一方、scFvの下流には、線状ファージM13のgeneIIIの部分配列、および大腸菌SecMのC末端領域(終止コドンを含む)をコードする配列を配置した。構造M13のgeneIIIの部分配列は、翻訳されたscFvがリボソームの外側で正しく高次構造を形成するためのスペーサーとして機能する(Ohashi et al., (2007) BBRC, vol.352, p.270-276)。また、SecMのC末端領域の配列は、翻訳伸長反応を停止させ、mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体を安定に維持する機能がある(Nakatogawa et al., (2002) Cell, vol.108, p.629-636、Nakatogawa et al., (2006) Mol. Cell, vol.22, p.545-552)。また、クローニングの際に用いるため、scFvをコードする塩基配列の5’側と3’側に、それぞれSfiIとNotIの制限部位を導入した。
【0101】
〔実施例5〕 cDNAライブラリーの転写反応
1 pmolのcDNAライブラリーから、CUGA7 in vitro Transcription Kit(ニッポンジーン社製)を使用し、添付マニュアルにしたがって、転写反応を行なった。転写産物は、RNeasy MinElute Cleanup kit(Qiagen製)を用いて精製し、波長260 nmの吸光度により、濃度を決定した。この転写産物をリボソームディスプレイの鋳型RNAとした。
【0102】
〔実施例6〕 ヒトβカテニン蛋白質結合scFvをコードするmRNAの選択
蛋白質合成反応試薬
蛋白質合成反応試薬の基本組成は、Shimizu et al. (2005) Methods, vol.36, p.299-304に従った。すなわち、50 mM HEPES-KOH pH7.6、2 mM ATP、2 mM GTP、1 mM CTP、1 mM UTP、20 mM クレアチンリン酸(Creatine phosphate)、56 A260 units/ml 大腸菌tRNA混合液、0.01μg/μl 10-formyl-5,6,7,8-tetrahydrofolic acid(FD)、0.3 mM 各アミノ酸、13 mM 酢酸マグネシウム、100 mM グルタミン酸カリウム、2 mM スペルミジン(spermidine)、1 mM ジチオスレイトール(DTT),1.2μM大腸菌リボソーム,0.02μg/μl IF1,0.04μg/μl IF2,0.015μg/μl IF3,0.02μg/μl EF-G,0.04μg/μl EF-Tu,0.02μg/μl EF-Ts,0.01μg/μl RF1,0.01μg/μl RF2,0.01μg/μl RF3,0.01μg/μl RRF,0.6-6 units/μl各アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)及びメチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ(MTF),0.004μg/μl クレアチンキナーゼ(CK; creatine kinase),0.003μg/μlミオキナーゼ(MK; myokinase),0.001μg/μl ヌクレオシド二リン酸キナーゼ(NDK; nucleoside diphosphate kinase),0.0356 units/μl ピロフォスファターゼ(PPiase; Pyrophosphatase)及び0.01μg/μl T7 RNAポリメラーゼを基本組成とした。通常の蛋白質合成では、上記基本組成の蛋白質合成反応試薬に,鋳型DNAを最終濃度が0.02-0.1μMになるように添加して37℃で反応を行なった。なお、蛋白質合成の目的に応じて、上記基本組成に追加および、もしくは除去した反応試薬を使用した。上記組成のうち,リボソームは、Ohashi et al. (2007) BBRC, vol.352, p.270-276、及び蛋白質因子は、Shimizu et al. (2001) Nat. Biotechnol., vol.19, p.751-755に従って調製され,純度が測定されたものを,その他の成分は市販の精製試薬を使用した。
【0103】
βカテニン結合scFvをコードするmRNAの選択
非免疫マウス脾臓由来scFv遺伝子ナイーブライブラリーから、βカテニンに対する結合活性を有するscFvの遺伝子をリボソームディスプレイで選択した。上記基本組成から、RF1、RF2、RF3、RRF、T7 RNAポリメラーゼを除去し、リボソーム濃度を、0.33μMに変更した蛋白質合成反応試薬を使用した。この反応試薬に、上記、実施例5で得た0.33 pmolの非免疫マウス脾臓由来scFv遺伝子ナイーブライブラリーの転写産物を加えて10μlの反応液を調製し、37℃で20分間反応させてmRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体を形成させた。反応後、予め氷上で冷却したWBTHバッファー(50 mM Tris-OAc、pH 7.5、150 mM NaCl、50 mM Mg(OAc)2、0.5 % Tween 20(Sigma社製)、2.5 mg/mL ヘパリンナトリウム)を120μl添加して、14,000 g, 4℃で10分間の遠心分離を行い、不溶性画分を除去した。遠心の上清画分に、ブロッキングバッファー(50 mM Tris-OAc、pH 7.5、150 mM NaCl、50 mM Mg(OAc)2、0.5 % Tween 20、5 % BSA (Takara Bio社製)、4 % Block Ace (Dainippon Sumitomo Pharma社製))を50μl加えた後、ビオチン化βカテニン(実施例3)を0.1-10 pmol加え、室温で1時間反応させた。10-30μL のストレプトアビジン磁気ビーズ (M270 or M280 streptavidin、Invitrogen社製) を加え、さらに室温で穏やかに30 分間反応させた。磁気ビーズを、1 mlのWBTバッファー(50 mM Tris-OAc、pH 7.5、150 mM NaCl、50 mM Mg(OAc)2、0.5 % Tween 20)で10回以上洗浄した後、60μlの溶出バッファー(50 mM Tris-OAc、pH 7.5、150 mM NaCl、50 mM EDTA、10 mg/mL 酵母total RNA (Sigma社製))でmRNAを溶出した。回収したmRNAは、RNeasy MinElute Cleanup kit(Qiagen社製)を用い、添付のマニュアルに従って精製、濃縮した。
【0104】
回収したmRNAからのcDNA合成および転写反応
回収したmRNAの1/3量から、SuperScriptIII One-Step RT-PCR System(Invitrogen社製)を使用し、添付マニュアルに従ってRT-PCRを行なった。プライマーとして、T7pro2(T7pro2の配列:gaaattaatacgactcactatagggagaccacaacgg/配列番号:102)、およびSecMC8(SecMC8の配列:ggattagttattcattaggtgaggcgttgaggg/配列番号:103)を使用した。55℃で30分間逆転写反応を行ない、引き続き、94℃、2分間の加熱処理後、94℃で15秒、62℃で30秒、68℃で90秒の3つの工程を18〜28回繰り返した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により確認し、市販のPCR産物精製キットを用いて精製した。回収したPCR産物の濃度を、波長260 nmの吸光度により定量し、転写反応の鋳型DNAとした。実施例5と同様の転写反応を行ない、次のラウンドの鋳型となる転写産物を得た。
【0105】
〔実施例7〕 ポリクローナルscFv-FLAG鋳型DNAの調製
実施例6で調製した各選択ラウンド後のDNAを鋳型とし、KOD-plus-(Toyobo社製)を使用し、添付マニュアルに従ってPCRを行なった。プライマーとして、T7pro2(T7pro2の配列:gaaattaatacgactcactatagggagaccacaacgg/配列番号:102)、および FRAG-R(cttgtcatcgtcatccttgtagtctgcggccgcccgtttgattt/配列番号:104) を使用した。94℃、2分間の加熱処理後、94℃で15秒、62℃で30秒、68℃で90秒の3つの工程を25〜30回繰り返した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により確認し、市販のPCR産物精製キットを用いて精製した。回収したPCR産物の濃度を、波長260 nmの吸光度により定量し、ポリクローナルscFv-FLAGの鋳型DNAとした。
【0106】
〔実施例8〕 ヒトβカテニン蛋白質結合scFv遺伝子のクローニング
上記、実施例6の選択反応を5回繰り返した後、得られたcDNAライブラリーから以下のようにクローニングを行なった。はじめに、pET20b(Novagen製)のpelB leader領域に、QuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kits(Stratagene製)でSfiIの制限部位を導入した。その際、プライマーとしてpelB-SfiI-F(gctcctcgcggcccagccggccatggccatgg/配列番号:105)およびpelB-SfiI-R(ccatggccatggccggctgggccgcgaggagc/配列番号:106)を用いた。このSfiI部位の導入では、アミノ酸配列は変化しない。SfiI部位を導入したベクターをpET20b(SfiI)とした。実施例6で増幅したcDNAを制限酵素SfiIおよびNotIで切断し、アガロース電気泳動後、ゲルから抽出することによって精製した。同様に、上記発現用ベクターpET20b(SfiI)も、SfiIおよびNotIで切断し、精製した。上記DNA断片を上記ベクターに連結した後、大腸菌に導入し、独立したコロニーを得た。各コロニーを50μlの水で懸濁した懸濁液から、プライマーとして上記T7pro2、およびT7ter(gctagttattgctcagcgg/配列番号:107)を用いて、ExTaq(TakaraBio社製)でPCRを行なった。このPCR反応液の200倍希釈液から、プライマーとして上記T7pro2、および上記FRAG-Rを用いて、KOD-plus-(Toyobo社製)でPCRを行ない、in vitro合成用のscFv-FLAGの鋳型DNAを調製した。得られたscFvの塩基配列を、定法によりDNAシークエンサーを用いて確認し、コードするアミノ酸配列を得た。
【0107】
〔実施例9〕 ELISAプレートの調製
ELISA用96穴プレート(ストレプトアビジンプレート、nunc社製)に、実施例3で調製した10 μg/mLのビオチン化ヒトβカテニンを100μLずつ各ウェルに添加し、30℃, 1時間の固定化反応を行った。その後TBS-Tで3回洗浄し、ELISAプレートの調製を行った。
【0108】
〔実施例10〕 ポリクローナルscFv-FLAGの抗原結合活性評価
実施例7で調製したポリクローナルscFv-FLAGを、実施例6に記載の基本組成の10μlの蛋白質合成反応液を用いて、37℃で2時間合成した。合成後、190μlのTBS-Tを加えた後、ヒトβカテニンを固定したウェル、および固定していないウェルに100μlずつ加えた。4℃で一晩反応させた後、反応液を除去し、200μlのTBS-Tでウェルを洗浄した。TBS-Tで希釈したペルオキシダーゼ結合抗FLAG抗体(Sigma社製)を100μl加え、4℃で1時間反応させた。ウェルをTBS-Tで洗浄後、1-Step Turbo TMB-ELISA(Pierce社製)を用いて発色させた。1 M硫酸を加えて発色を停止させた後、各ウェルの450 nmの吸光度を測定し、バックグラウンドの吸光度を引いた値を算出した。その結果、4ラウンド後のポリクローナルscFv-FLAGで結合活性が確認でき、5ラウンド後でさらに、結合活性が上昇した(図1)。この結果は、DTT存在下、すなわち還元条件下において合成・選択したscFvライブラリーで、ヒトβカテニンに結合するscFvが濃縮できていることを示している。
【0109】
〔実施例11〕 クローン化scFv-FLAGの抗原結合活性評価
実施例8でクローン化したscFv-FLAGを、実施例6に記載の基本組成の10μlの蛋白質合成反応液を用いて、37℃で2時間合成した。合成後、190μlのTBS-Tを加えた後、ヒトβカテニンを固定したウェル、および固定していないウェルに100μlずつ加えた。4℃で3時間反応させた後、反応液を除去し、200μlのTBS-Tでウェルを洗浄した。TBS-Tで希釈したペルオキシダーゼ結合抗FLAG抗体(Sigma)を100μl加え、4℃で1時間反応させた。ウェルをTBS-Tで洗浄後、1-Step Turbo TMB-ELISA(Pierce)を用いて発色させた。1 M硫酸を加えて発色を停止させた後、各ウェルの450 nmの吸光度を測定し、バックグラウンドの吸光度を引いた値を算出した。その結果、ヒトβカテニンに結合活性を有するクローンが複数得られたことが確認できた(図2)。
【0110】
〔実施例12〕 酸化条件下および還元条件下での抗原結合活性評価
実施例11でヒトβカテニンに対し、結合活性を示したクローンを用い、酸化条件下および還元条件下での抗原結合活性評価を行なった。各クローンを還元条件下である実施例6に記載の基本組成、および、基本組成からDTTを除去し、1 mM 酸化型グルタチオン、0.1 mM 還元型グルタチオン、並びに1μM Protein disulfide isomerase(PDI、TakaraBio社製)を添加した酸化条件組成の蛋白質合成反応液 10μlを用いて、37℃で2時間合成した。合成後、190μlのTBS-Tを加えた後、ヒトβカテニンを固定したウェル、および固定していないウェルに100μlずつ加えた。4℃で一晩反応させた後、反応液を除去し、200μlのTBS-Tでウェルを洗浄した。TBS-Tで希釈したペルオキシダーゼ結合抗FLAG抗体(Sigma)を100μl加え、4℃で1時間反応させた。ウェルをTBS-Tで洗浄後、1-Step Turbo TMB-ELISA(Pierce)を用いて発色させた。1 M硫酸を加えて発色を停止させた後、各ウェルの450 nmの吸光度を測定し、バックグラウンドの吸光度を引いた値を算出した。その結果、還元条件下で得られたscFv-FLAGクローンは、酸化条件下で合成した場合も、ヒトβカテニンに結合活性を有していることが確認できた。一方、コントロールとして用いたリゾチームに対するscFv(クローンscFv-HyHEL10:Ohashi et al. (2007) BBRC, vol.352, p.270-276)は、還元的条件下で合成した場合、抗原に対する結合能が全く見られなかった。以上の結果から、今回の発明により、従来の抗体調製法を使用した場合では困難な、還元的な条件下に於いても、ヒトβカテニンに特異的な結合活性を有するscFvクローンの取得が可能であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(14)のいずれかに記載の抗体または抗体断片;
(1)重鎖CDR1として配列番号:1に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:2に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:4に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:5に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(2)重鎖CDR1として配列番号:7に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:8に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:9に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:10に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:11に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(3)重鎖CDR1として配列番号:13に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:14に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:16に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:17に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(4)重鎖CDR1として配列番号:19に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:20に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:22に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:23に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(5)重鎖CDR1として配列番号:25に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:26に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:27に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:28に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:29に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:30に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(6)重鎖CDR1として配列番号:31に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:32に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:33に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:34に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:35に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:36に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(7)重鎖CDR1として配列番号:37に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:38に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:39に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:40に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:41に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:42に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(8)重鎖CDR1として配列番号:43に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:44に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:45に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:46に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:47に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:48に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(9)重鎖CDR1として配列番号:49に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:50に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:51に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:52に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:53に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:54に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(10)重鎖CDR1として配列番号:55に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:56に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:57に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:58に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:59に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:60に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(11)重鎖CDR1として配列番号:61に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:62に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:63に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:64に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:65に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:66に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(12)重鎖CDR1として配列番号:67に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:68に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:69に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:70に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:71に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:72に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(13)重鎖CDR1として配列番号:73に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:74に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:75に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:76に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:77に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:78に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片、
(14)重鎖CDR1として配列番号:79に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR2として配列番号:80に記載のアミノ酸配列、重鎖CDR3として配列番号:81に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖CDR1として配列番号:82に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR2として配列番号:83に記載のアミノ酸配列、軽鎖CDR3として配列番号:84に記載のアミノ酸配列を有する抗体または抗体断片。
【請求項2】
請求項1に記載された重鎖CDR1〜3のそれぞれのアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列をそれぞれ重鎖CDR1〜3とし、かつ、請求項1に記載された軽鎖CDR1〜3のそれぞれのアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列をそれぞれ軽鎖CDR1〜3とする抗体または抗体断片。
【請求項3】
以下の(1)〜(14)のいずれかに記載の抗体または抗体断片;
(1)配列番号:85に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(2)配列番号:86に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(3)配列番号:87に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(4)配列番号:88に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(5)配列番号:89に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(6)配列番号:90に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(7)配列番号:91に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(8)配列番号:92に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(9)配列番号:93に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(10)配列番号:94に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(11)配列番号:95に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(12)配列番号:96に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(13)配列番号:97に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片、
(14)配列番号:98に記載された単鎖可変領域抗体断片(scFv)のアミノ酸配列における重鎖CDR1〜3、および、軽鎖CDR1〜3を有することを特徴とする抗体または抗体断片。
【請求項4】
抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の抗体または抗体断片。
【請求項5】
請求項1(1)〜(14)のいずれかに記載された重鎖CDR1〜3を有する重鎖可変ドメインと、軽鎖CDR1〜3を有する軽鎖可変ドメインとをリンカーで結合した構造からなる単鎖可変領域抗体断片(scFv)。
【請求項6】
以下の工程(a)〜(c)を含む、ヒトβカテニンに対する抗体または抗体断片を取得する方法;
(a)還元条件下のin vitro 翻訳系において、非免疫マウス脾臓由来scFv mRNAライブラリーをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成する工程、
(b)(a)で形成された複合体を、ヒトβカテニンと接触させる工程、および、
(c)ヒトβカテニンに結合した複合体を回収し、回収された複合体を構成するmRNAまたはそのcDNAを、ヒトβカテニンと結合する抗体または抗体断片をコードする核酸として単離する工程。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の抗体または抗体断片を有効成分として含むβカテニン検出用試薬。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の抗体または抗体断片を有効成分として含むβカテニン医薬組成物。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−178691(P2011−178691A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42727(P2010−42727)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(507371294)
【Fターム(参考)】