説明

カテプシンK阻害剤およびその機能が付与された食品

【課題】 医薬品としてのみならず、安全性に優れ、食品への応用が可能な、カテプシンK阻害剤、および骨喪失もしくは骨吸収の亢進により誘発されうる疾患または状態の治療または予防等に用いられる組成物または食品の提供。
【解決手段】 本発明は、は、イネ科植物に含まれるタンパク質を有効成分として含んでなる、カテプシンK阻害に関する。またイネ科植物に含まれるタンパク質を有効成分として含んでなる、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いられる組成物または食品に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、カテプシンK阻害活性を有する阻害剤およびその機能が付与された食品に関する。より詳しくは、前記阻害剤は、天然物に由来する成分を有効成分とするものである。また本発明は、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いられる組成物に関する。
【0002】
背景技術
高齢化社会の進行に伴い、「寝たきり老人」の増加は、社会的および経済的に大きな問題となっている。「寝たきり老人」となる主要な原因として挙げられるのが、脳卒中、老衰、および、骨粗鬆症に起因する骨折である。特に骨粗鬆症を予防することは、高齢者のQOL(生活の質)を維持し、その向上を図る上でも重要な課題である。
【0003】
体内における骨量は、間葉系の骨芽細胞による骨形成と、造血系の破骨細胞による骨吸収とのバランスによって維持されていることが知られている。このバランスが破綻して、骨吸収のレベルが骨形成を上回ることになると、骨量が減少し、最終的には骨粗鬆症に至ることがある。また、骨吸収の亢進は、骨粗鬆症のみならず、変形性関節症や慢性関節リウマチなどの疾患とも関わっていることが知られており、これらの疾患を予防または治療するための重要な標的とされているのが破骨細胞である。
【0004】
破骨細胞は、多核の巨大細胞で、骨表面に付着し、波状縁と骨表面の間に吸収窩を形成する。破骨細胞は、この吸収窩において、プロテアーゼによるI型コラーゲンなどのタンパク質の分解、および、放出する酸によるヒドロキシアパタイトの溶解を行う。破骨細胞が発現するプロテアーゼは、カテプシンB、カテプシンHやカテプシンLなど多岐にわたることが報告されているが、その中でも、カテプシンKが、各種病態との関連において注目を集めている。
【0005】
カテプシンKは、システインプロテアーゼの一種であり、そのmRNAが破骨細胞で選択的に高レベル発現していること[J. Biol. Chem. (1996) 271:12511](非特許文献1)、カテプシンKが破骨細胞に特異的に局在していることが報告されている[Bone (1997) 20:81](非特許文献2)。また、カテプシンKのアンチセンスオリゴヌクレオチドが、破骨細胞による骨吸収を阻害するという知見も報告されており[J. Biol. Chem. (1997) 272:8109; Mol. Carcinog. (2001) 32:84](それぞれ非特許文献3および4)、骨吸収におけるカテプシンKの重要性が指摘されている。さらに、カテプシンKは、破骨細胞腫[Biol. Chem. Hoppe-Seyler (1995) 376:379]、コレステリン腫における骨侵食[Mod. Pathol. (2001) 14:1226]、前立腺癌の転移[J. Bone Miner. Res. (2003) 18:222]、肥満[J. Cell Physiol. (2003) 195:309]、肺線維症[Am. J. Pathol. (2004) 164:2203]、および、骨巨細胞腫[Am. J. Pathol. (2004) 165:593]などのような病態生理にも重要な役割を果たしていることが推察されている。
【0006】
このため、カテプシンKは、疾病治療や予防の標的分子として注目を集めるようになり、カテプシンK阻害剤の研究開発も精力的に行われている。これまでに、カテプシンK阻害剤として、例えば、ジペプチジルケトン阻害剤[Bioorg. Med. Chem. (1999) 7:581]、ジアミノピリジノン阻害剤[Bioorg. Med. Chem. Lett. (1999) 9:1907]、ジアシルカルボヒドラジド阻害剤[Biochemistry (1999) 38:15893]、ピリドキサルプロピオネート誘導体[Biochem. Biophys. Res. Commun. (2000) 267:850]、環状ケトン誘導体[J. Med. Chem. (2001) 44:725]、アリルアミノエチルアミド誘導体[J. Med. Chem. (2002) 45:2352; Bioorg Med. Chem. Lett. (2003) 13:1997]、4−アミノ−アゼパン−3−オン阻害剤[特表2003−533432]、3−アリルアミノ−アゼチジン−2−オン阻害剤[Bioorg. Med. Chem. Lett. (2003) 13:139]やケトアミド誘導体[Bioorg. Med. Chem. Lett. (2004) 14:4897]などが報告されている。
【0007】
しかしながら、これら既知のカテプシンK阻害剤は全て合成化合物であり、医薬品以外の形態で摂取するには安全性の面などから不安があった。このため、食品などを介した日常摂取への応用を図るには困難な点もあったといえる。
【非特許文献1】J. Biol. Chem. (1996) 271:12511
【非特許文献2】Bone (1997) 20:81
【非特許文献3】J. Biol. Chem. (1997) 272:8109
【非特許文献4】Mol. Carcinog. (2001) 32:84
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは今般、イネ科植物、例えばイネ(Oryza sativa)に含まれるタンパク質が、カテプシンKを阻害する優れた活性を有していることを見出した。イネ科植物に含まれるタンパク質が、カテプシンKを阻害する活性を有することは従来全く知られていなかった。イネ科植物に含まれるタンパク質が、カテプシンKを阻害する活性を有することは、思いがけないことであったといえる。また本発明者らは、カテプシンKを阻害する活性を有するこれらタンパク質は、主として、オリザシスタチン−I、オリザシスタチン−II等のオリザシスタチン類であることも見出した。さらに本発明者らは、カテプシンKを阻害する活性を有する新規なタンパク質として、オリザシスタチン−IIIも見出した。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0009】
したがって、本発明は、医薬品としてのみならず、安全性に優れ、食品への応用が可能な、カテプシンK阻害剤、および骨喪失もしくは骨吸収の亢進により誘発されうる疾患または状態の治療または予防等に用いられる組成物または食品の提供をその目的とする。
【0010】
本発明によるカテプシンK阻害は、イネ科植物に含まれるタンパク質を有効成分として含んでなる。
本発明によれば、前記したイネ科植物に含まれるタンパク質を有効成分として含んでなる、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いられる、組成物が提供される。
【0011】
本発明の別の態様によれば、本発明による食品は、前記タンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いられる食品である。
本発明のさらに別の態様によれば、本発明による食品は、前記タンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンK阻害に用いられる食品である。
本発明の別の態様によれば、オリザシスタチン−IIIタンパク質およびその相同体が提供される。
【0012】
本発明において使用する有効成分は、イネ科植物に由来するものであり、イネ科植物は、例えばイネのように主食用の穀類として古来より摂取されていることが多く、食品として摂取経験が豊富であり、安全性の面で問題のほとんどないものといえる。このため、本発明によるカテプシンK阻害剤および組成物は、医薬品のみならず、医薬部外品、機能性食品をはじめとする食品類などの用途に使用することができる。したがって、本発明によるカテプシンK阻害剤、組成物および食品は、消費者が長期間にわたって服用または摂取しても副作用が少なく、比較的安価であり、安全性が高いものである。
【発明の具体的説明】
【0013】
有効成分およびその製造法
本発明によるカテプシンK阻害剤および食品の有効成分は、前記したように、イネ科植物に含まれるタンパク質である。ここで、イネ科植物とは、植物分類学上のイネ科に属する植物をいい、例えば、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエなどが挙げられる。好ましくは、イネ科植物はイネ(Oryza sativa)である。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、有効成分であるイネ科植物に含まれるタンパク質は、オリザシスタチン−I、オリザシスタチン−II、オリザシスタチン−III、またはそれらの部分ペプチドである。
【0015】
ここで、オリザシスタチン−Iは、下記のアミノ酸配列:
MSSDGGPVLGGVEPVGNENDLHLVDLARFAVTEHNKKANSLLEFEKLVSVKQQVVAGTLYYFTIEVKEGDAKKLYEAKVWEKPWMDFKELQEFKPVDASANA(配列番号1)
で定義される分子量11,000のイネタンパク質であり、パパインなどのプロテアーゼの活性を阻害するシステインプロテアーゼインヒビターであることが報告されている[Agric. Biol. Chem. (1987) 51:2763、J. Biol. Chem. (1987) 262: 16793]。
【0016】
また、オリザシスタチン−IIは、下記アミノ酸配列:
MAEEAQSHAREGGRHPRQPAGRENDLTTVELARFAVAEHNSKANAMLELERVVKVRQQVVGGFMHYLTVEVKEPGGANKLYEAKVWERAWENFKQLQDFKPLDDATA(配列番号2)
で定義される分子量12,000のイネタンパク質であり、オリザシスタチン−Iと同様に、パパインなどのプロテアーゼの活性を阻害するシステインプロテアーゼインヒビターであることが報告されている[J. Biol. Chem. (1990) 265: 15832]。
【0017】
なお、オリザシスタチン−IおよびIIのシステインプロテアーゼ阻害活性について、パパイン、フィシン、カテプシンHを阻害する一方で、システインプロテアーゼに属するカテプシンBやカテプシンLについては阻害しないことが報告されている[J. Biol. Chem. 265:15832-15837, 1990]。同様に、サトウキビのシスタチンは、パパイン、カテプシンL、カテプシンK等を阻害する一方で、システインプロテアーゼに属するフィシンやブロメラインについては阻害しないことが報告されている[Biochem. Biophys. Res. Commun. 320:1082-1086, 2004]。したがって、パパインのような他のシステインプロテアーゼ阻害活性を有することから、カテプシンK阻害剤の有無およびその程度は予測することは困難であり、オリザシスタチン−IおよびII等が、カテプシンK阻害を有することは、予想外のことであったといえる。
【0018】
さらに、オリザシスタチン−IIIは、アミノ酸配列:
MAEEAQQPRGVKVGGIHDAPAGRENDLTTVELARFAVAEHNSKANAMLELERVVKVRQQVVGGFMHYLTVEVKEPGGANKLYEAKVWERAWENFKQLQDFKPLDDATA(配列番号3)
で定義される分子量12,000のイネタンパク質であり、ここではじめてそのタンパク質が得られ、配列が同定されたものである。
【0019】
またここで、「部分ペプチド」とは、本発明の有効成分であるタンパク質の全アミノ酸配列の一部分からなるペプチドであって、タンパク質のカテプシンK阻害活性を示しうる活性部位の領域を少なくとも含んでなるものをいう。「部分ペプチド」は、有効成分であるタンパク質の製造過程において得られるか、または、得られたタンパク質を慣用のアミノ酸配列切断手段によって切断し、後述する活性試験により活性の有無を確認することによって、得ることができる。
【0020】
本明細書において、タンパク質というときには、タンパク質の誘導体も包含する意味で用いられる。ここでタンパク質の誘導体とは、前記したカテプシンK阻害活性を有するものであって、かつ、該タンパク質のアミノ酸配列のアミノ末端(N末端)のアミノ基または各アミノ酸の側鎖のアミノ基の一部もしくは全部、および/または該タンパク質のアミノ酸配列のカルボキシル末端(C末端)のカルボキシル基または各種アミノ酸の側鎖のカルボキシル基の一部もしくは全部、および/または、該タンパク質の各アミノ酸の側鎖のアミノ基およびカルボキシル基以外の官能基(例えば、水素基、チオール基、アミド基等)の一部もしくは全部が、適当な他の置換基(例えば、リン酸基)によって修飾を受けたものをいう。このような適当な他の置換基による修飾は、例えば、タンパク質中に存在する官能基の保護、安全性および組織移行性の向上、または活性の増強等を目的として行われることがある。
【0021】
または前記タンパク質の誘導体には、本発明によるタンパク質の薬学上許容されうる塩も包含される。このような塩の好ましい例としては、ナトリウム塩またはカルシウム塩のようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、フッ化水素酸塩、塩酸塩のようなハロゲン化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルキルスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩、フマル酸、コハク酸塩、酢酸塩のような有機酸塩、およびアミノ酸塩などが挙げられる。さらに本発明によるタンパク質は溶媒和物としてもよい。このような溶媒和物としては、水和物、アルコール和物(例えば、メタノール和物、エタノール和物)、およびエーテル和物が挙げられる。
【0022】
本明細書において、アミノ酸とは、光学異性体、すなわちD体およびL体のいずれをも包含する。また、ここでいうアミノ酸には、天然のタンパク質を構成する20種のα−アミノ酸のみならず、それら以外のα−アミノ酸、ならびにβ−、γ−、δ−アミノ酸および非天然のアミノ酸等が包含されてもよい。
【0023】
本発明の一つの好ましい態様によれば、有効成分であるタンパク質は、下記(a)〜(d)からなる群より選択されるものであることができる:
(a) 配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでなる、タンパク質、
(b) 前記(a)のアミノ酸配列の一部からなる部分ペプチドであって、カテプシンK阻害活性を有する、部分ペプチド、
(c) 前記(a)のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有する、タンパク質、および
(d) 前記(a)のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有する、タンパク質。
【0024】
さらに本発明の別の態様によれば、下記(a')〜(d')からなる群より選択されるタンパク質が提供される。
(a') 配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでなる、タンパク質、
(b') 前記(a')のアミノ酸配列の一部からなる部分ペプチドであって、カテプシンK阻害活性を有する、部分ペプチド、
(c') 前記(a')のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有する、タンパク質、および
(d') 前記(a')のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有する、タンパク質。
【0025】
前記(c)または(c')のタンパク質は、前記(a)または(a')のアミノ酸配列のタンパク質と、少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列からなり、このとき、前記相同性は、好ましくは、95%以上であり、より好ましくは98%以上である。
なお、本明細書において示した相同性の数値はいずれも、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であればよく、例えばFASTA、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、容易に算出することができる。
【0026】
ここで、「カテプシンK阻害活性」とは、生体内におけるカテプシンKの活性を阻害することができる性質のことをいう。「カテプシンK阻害活性」を有することは、例えば、後述する実施例の評価試験「カテプシンK阻害活性の測定」の項と同様の条件において測定した場合にカテプシンK阻害活性が認められたと評価される場合を意味する。
【0027】
前記(d)または(d')において、配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列に対して、欠失、置換、挿入もしくは付加されてもよいアミノ酸残基の数は、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、さらにより好ましくは1個である。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、前記(d)または(d')のタンパク質は、 前記(a)または(a')のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が保存的に置換されてなるアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有するものである。
【0029】
ここで「保存的置換」とは、該ペプチドの活性を実質的に改変しないように、1もしくは複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置き換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような保存的置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン等が挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システイン等が挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン等が挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。なお、本発明によるペプチドは通常、極性(中性)アミノ酸から構成されている。
【0030】
本発明において、有効成分であるタンパク質は、イネ科植物の葉、茎、皮、根、種子などからの抽出物から、慣用の方法にしたがって、タンパク質画分を分離して得ることができる。ここで、前記抽出物の製法は特に限定されないが、例えば、該抽出物は、イネ科植物の葉、茎、皮、根、種子などの植物体部分を、水またはリン酸緩衝液のような溶媒中で磨砕した後、ろ過または遠心分離により上清を集め、これを必要に応じて溶媒で希釈することにより得ることができる。また、抽出物からのタンパク質画分の分離精製は、その方法は特に限定されないが、例えば、前記抽出物に硫酸アンモニウムを加えて、析出したタンパク質を遠心分離により集め、さらにリン酸緩衝液などを用いて溶解させて、これを透析やゲルろ過などを適用して低分子画分等と取り除くことにより分離精製を行うことができる。また、有効成分には、前記したように所望のタンパク質を精製したものを用いてもよいが、有効成分であるタンパク質を有効量含むのであれば、植物体組織またはその乾燥品、粉砕品、抽出物をそのまま有効成分として使用しても良い。なお、乾燥品や粉砕品の調製方法も本発明による有効成分を含んで得ることが出来る限り、特に限定されない。
【0031】
さらに本発明における有効成分であるタンパク質は、そのアミノ酸配列が予めわかっている場合には、慣用のペプチド合成手法にしたがって、合成することができる。例えば、オリザシスタチンI〜IIIのアミノ酸配列は前記のとおりである。したがって、該タンパク質は、化学的の合成して得られたものであることができる。
【0032】
また、本発明によるタンパク質は、遺伝子工学的手法により製造されたものであってもよい。すなわち、本発明によるタンパク質は、それを示すアミノ酸配列をコードするDNAを入手、もしくは製造することができる場合には、そのDNAによって宿主細胞を形質転換させた形質転換細胞において、製造することができる。すなわち、本発明によるタンパク質は、それを示すアミノ酸配列をコードするDNA断片を、宿主細胞内で複製可能でかつ同遺伝子が発現可能な状態で含むDNA、特に組換えベクター、の形態とし、それを用いて宿主細胞の形質転換を行い、得られた形質転換体を培養することによって製造することができる。このとき、該タンパク質の製造に際し、所謂宿主−ベクター系を使用してもよい。なお、このような宿主−ベクター系を適用するにあたっては、この技術分野において慣用されている各種の発現ベクター(組換えベクター)作成法および形質転換法を使用することができる。
【0033】
用途
本発明による有効成分であるタンパク質は、カテプシンKを阻害する活性を有する(実施例の評価試験「カテプシンK阻害活性の測定」の項)。
【0034】
カテプシンKは、前記したように、(i) そのmRNAが破骨細胞で選択的に高レベル発現していること[J. Biol. Chem. (1996) 271:12511]、および (ii) カテプシンKが破骨細胞に特異的に局在していること[Bone (1997) 20:81]が報告されている。また、カテプシンKの阻害が、破骨細胞による骨吸収を阻害すること[J. Biol. Chem. (1997) 272:8109; Mol. Carcinog. (2001) 32:84]が報告されており、このことは、骨吸収に関連する疾患の予防または治療にカテプシンKを阻害することが有効であることを示唆しているといえる。また、カテプシンK阻害剤に関しては、カテプシンK阻害剤であるSB331750の作用をラットで検討した結果、SB331750が骨吸収を阻害することが報告されている[Bone (2002) 30:746-53]。この文献にも、骨吸収に関連する疾患の予防または治療にカテプシンKを阻害することが有効であることを示唆しているといえる。したがって、カテプシンKを阻害されると、骨喪失または骨吸収の亢進が阻害または抑制され、これら亢進によって誘発される可能性のある疾患、例えば、骨粗鬆症、変形性関節症、慢性関節リウマチ等を、治療、予防、改善、状態の緩和、またはその進行の遅延をすることが可能である。さらにカテプシンKは、破骨細胞腫、コレステリン腫における骨侵食、前立腺癌の転移、肥満、肺線維症、および、骨巨細胞腫などのような病態生理にも重要な役割を果たしていることが、前記従来技術の項で示した文献で報告されており、カテプシンKを阻害することが、腫瘍の転移や肥満の治療、予防、改善、状態の緩和などに有効であることが示唆されている。したがって、本発明による有効成分は、カテプシンKを阻害する活性を有する(実施例の評価試験「カテプシンK阻害活性の測定」の項)ので、カテプシンKを阻害する目的で使用することができ、さらに、本発明による有効成分は、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いることができる。
【0035】
なお、本明細書において、疾患または状態の「治療、予防または改善」は、疾患または状態の、調節、進行の遅延、緩和、発症予防、再発予防、抑制などを包含する意味で使用される。
【0036】
ここで、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態としては、骨喪失または骨吸収の亢進によって誘発されうる疾患または状態、腫瘍の転移、肥満などが包含される。さらに詳しくは、骨喪失または骨吸収の亢進によって誘発されうる疾患または状態としては、例えば、骨粗鬆症、変形性関節症、慢性関節リウマチ、またはこれに関連する状態が挙げられる。好ましくは、前記疾患または状態は、骨粗鬆症、変形性関節症、慢性関節リウマチ、またはこれに関連する状態である。
【0037】
本発明の別の態様によれば、本発明の有効成分であるタンパク質の有効量を、哺乳動物に投与することを含んでなる、カテプシンKの阻害方法が提供される。なおここで「有効量」とは、投与によって、体内における所望の領域において、カテプシンKを阻害活性を発揮しうるのに十分な量である。
【0038】
本発明の別の一つの態様によれば、本発明の有効成分であるタンパク質の治療上有効量を、哺乳動物に投与することを含んでなる、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療の治療、予防または改善する方法が提供される。なおここで「治療上有効量」とは、治療が望まれる疾患または状態に通常伴う1以上の症状を緩解するのに十分な量である。予防的な使用に関するときには、この用語は、疾患または状態の発症を防止または遅延させるのに十分な量を意味する。
【0039】
組成物および食品
本発明による組成物は、前記したように、前記したイネ科植物に含まれるタンパク質を有効成分として含んでなるものである。
ここで「有効成分として含んでなる」とは、所望する製品形態に応じた生理学的に許容されうる担体を含んでいてもよいことは当然として、併用可能な他の補助成分を含有する場合も包含する意味である。すなわち、本発明による組成物は、有効成分であるタンパク質を用いて、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合することにより製造できる。本発明による組成物は、経口または非経口的に投与または摂取することができる。経口用の形態としては、食品、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口用の形態としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学的に許容される担体(例えば、賦形剤、添加剤)とともに製剤化することができる。薬学的に許容される賦形剤や添加剤としては、担体、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等が挙げられる。
【0040】
製剤は、例えば下記のようにして製造できる。製剤化の例として経口剤を挙げる。
経口剤は、有効成分に、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース)または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール)を添加して圧縮成形し、さらに必要に応じて、味のマスキング、腸溶性または持続性の目的のために公知の方法を適用してコーティングすることにより、製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなど公知のものを用いることができる。
【0041】
製剤化にあたっては、本発明による有効成分以外の1種以上の医療上有効な有効成分をさらに添加し配合してもよい。また本発明による有効成分の投与にあたっては、本発明による有効成分以外の1種以上の医療上有効な有効成分を組み合わせて投与してもよい。
また製剤の形態は、目的とする疾患または状態に応じて適宜選択することができる。投与経路も、製剤の形態、疾患の種類、治療目的等に応じて適宜選択することができる。
【0042】
本発明による組成物および阻害剤は、医薬品への適用のみならず、食品への適用も意図されている。本発明の組成物および阻害剤の食品への適用にあたっては、後述する食品に関する記述を参照することができる。
【0043】
本発明による食品は、本発明による有効成分を有効量含んでなるものである。
ここで「有効成分を有効量含んでなる」とは、個々の飲食品を通常喫食される量摂取した結果に、後述するような範囲で有効成分が摂取されるような量で有効成分を含有することをいう。本発明による食品には、本発明による有効成分をそのまままたは上記のような組成物または阻害剤の形態で、食品に配合することができる。より具体的には、本発明による食品は、本発明による有効成分を、そのまま食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等をそれらにさらに配合して調製したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。
【0044】
本発明において、「食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物が摂取可能なものであれば特に制限はなく、その形態も液状、半液体状または固体状のいずれのものであってもよい。また「食品」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した食品、または、病者用食品のような分類のものも包含される。
【0045】
本発明による有効成分は、骨喪失または骨吸収の亢進によって誘発されうる疾患または状態、腫瘍の転移、肥満の予防、改善、または進行の抑制作用を有する。このため、日常生活で摂取する食品、健康食品、機能性食品、サプリメント(例えば、カルシウム、マグネシウム等のミネラル類、ビタミンK等のビタミン類を1種以上含有する食品)に本発明の有効成分を配合することにより、骨喪失または骨吸収の亢進によって誘発されうる疾患または状態、腫瘍の転移、肥満の予防および改善機能を併せ持つ食品を提供することができる。
【0046】
前記したように、本発明によれば、前記タンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いられる食品が提供される。本発明の別の一つの態様によれば、前記したように、前記タンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンK阻害に用いられる食品が提供される。
【0047】
本発明の別の態様によれば、前記タンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善する機能が表示された食品が提供される。本発明のさらに別の態様によれば、前記タンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンK阻害能が表示された食品が提供される。
ここでこれら食品に付される機能表示は、製品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかにされてなることができる。
【0048】
よって、本発明による食品は、例えば、骨喪失または骨吸収の亢進に関連する状態の改善または緩和機能を期待する消費者に適した食品、または、肥満の改善または緩和を期待する消費者に適した食品、すなわち所謂、特定保健用食品、として提供することができる。なお、ここでいう特定保健用食品とは、骨喪失または骨吸収の亢進によって誘発されうる疾患または状態、腫瘍の転移、肥満の予防、改善、状態の緩和等を目的として食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から、各国において法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。このような食品は、食品が疾病リスクを低減する可能性があること表示した食品、すなわち、疾病リスク低減表示を付した食品であることもできる。ここで、疾病リスク低減表示とは、疾病リスクを低減する可能性のある食品の表示であって、FAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)の定める規格に基づいて、またはその規格を参考にして、定められた表示または認められた表示であることができる。
【0049】
本発明による食品の具体例としては、飯類、麺類、パン類およびパスタ類等の炭水化物含有食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、米菓、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルトやプリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ジュース、清涼飲料水、乳飲料、茶飲料、機能性飲料、栄養補助飲料、ノンアルコールビール等の各種飲料;ビール、発泡酒等のアルコール飲料;調味料;卵、魚介類や畜肉などを用いた加工品などが挙げられる。
【0050】
本発明の有効成分の添加・配合の対象である食品としては、好ましくは、飲料、粉体飲料などが挙げられる。
【0051】
本発明の有効成分の添加・配合の対象であるサプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品の形態としては、例えば、ジュースや茶のような飲料、ゼリー、カプセル、顆粒剤、粒剤、ペーストが挙げられる。本発明の有効成分を、単独で、あるいは他の成分(例えば、植物素材)と組み合わせて、飲料、ゼリー、カプセル、顆粒剤、粒剤、ペーストなどの形態に加工することにより、カテプシンK阻害作用、またはこれら作用に関連する状態の改善または緩和機能を有するサプリメントなどの健康食品や機能性食品として提供することができる。特に、本発明による有効成分以外の成分であって、カテプシンK阻害作用があるとされる他の成分と組み合わせることによって、カテプシンK阻害により予防もしくは改善される状態を、予防、改善、または緩和する機能をより強化することができる。そのような他の成分は公知の成分、例えば、前記従来技術の項において示した化合物類から選択することができる。
【0052】
本発明の有効成分であるタンパク質は、人類が主食用穀類として長年摂取してきたイネ科植物由来の成分であることから、毒性も低く、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いることができる。
【0053】
本発明による組成物および食品を投与または摂取する場合、本発明による有効成分の投与量または接種量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。例えば、本発明による有効成分を医薬として経口投与する場合、該タンパク質量として、成人1人当たり(体重換算で)μg〜mgオーダーの量を一日1または数回の投与単位に分割して投与することができる。
【実施例】
【0054】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
例1: RNAの抽出
ジャポニカ米(品種:コシヒカリ)の種子を、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2mg/l;2,4−D)、スクロース(30g/l)とアガロース(8g/l)を含むDKN培地[Breed Sci. (2000) 50:197]を用いて、暗所25℃で培養することにより、カルスを誘導した。誘導したカルスは、2,4−D(1mg/l)とスクロース(30g/l)を含む液体DKN培地を用いて光照射下(300lx)で培養し[Jpn. J. Breed (1988) 38 (Suppl. 1):78]、実験に供した。
種子に由来する前記イネカルスから、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いてトータルRNAを調製した。
【0056】
例2a: オリザシスタチン−IをコードするcDNAの単離
イネのカルスから抽出したRNAを用いて、オリザシスタチン−IをコードするcDNAをPCRクローニングにより取得した。増幅反応にはTaKaRa One Step RNA PCR Kit(タカラバイオ株式会社製)を利用した。オリザシスタチン−I cDNAのクローニングに用いたプライマーは、5'-ATGTCGAGCGACGGAGGGCC-3'(配列番号4)と5'-GATGGGCCTTAGGCATTTGC-3'(配列番号5)であった。PCR増幅産物は、TA cloning Kit(インビトロジェン社製)によりpCR2.1にサブクローニングした。
なお、ヌクレオチド配列の決定にはDNAシークエンサー(モデル373A;アプライドバイオシステムズ社製)を使用した。
【0057】
例2b: オリザシスタチン−IIIをコードするcDNAの単離
クローニングに用いたプライマーを、前記配列番号4および5のものの代わりに、5'-ATGGCCGAGGAGGCGCAGAG-3'(配列番号6)と5'-CTATGTACGTTTAGGCGGTG-3'(配列番号7)を使用した以外は、前記例2aと同様にして、オリザシスタチン−IIIをコードするcDNAを単離した。
【0058】
例3: オリザシスタチン−Iならびにオリザシスタチン−IIIの発現プラスミドの構築
オリザシスタチン−Iならびにオリザシスタチン−IIIは、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)配列をN末に有し、GST配列とオリザシスタチン配列の間にFactor Xaによる切断部位を持つ融合タンパク質として発現させた。Factor Xa切断部位(Ile-Glu-Gly-Arg)(配列番号8)は、PCR反応を利用して、オリザシスタチン−Iならびにオリザシスタチン−IIIの翻訳シグナルの直上に付加した。そのために用いたプライマーは、オリザシスタチン−I用が5'-ATCGAAGGTCGTATGTCGAGCGACGGAGGGCC-3'(配列番号9)と5'- GATGGGCCTTAGGCATTTGC-3'(配列番号10)であり、オリザシスタチン−III用が5'- GGATCCATCGAAGGTCGTATGGCCGAGGAGGCGCAGCA-3'(配列番号11)と5'- TTAGGCGGTGGCGTCGTCGAGGGGCTTGAAATCC-3'(配列番号12)であった。PCR増幅産物は、TA cloning Kit(インビトロジェン社製)によりpCR2.1にサブクローニングした。制限酵素で切断後、Factor Xa認識部位を付加したオリザシスタチン−I配列はpGEX−4T−2(アマシャムバイオサイエンス製)、Factor Xa認識部位を付加したオリザシスタチン−III配列はpGEX−6P−2(アマシャムバイオサイエンス製)の、それぞれGSTコーディング領域の下流に挿入した。
【0059】
例4: オリザシスタチン−IIをコードする発現プラスミドの構築
Factor Xa認識部位をN末に付加したオリザシスタチン−II cDNAを、オリザシスタチン−III cDNAをテンプレートとするPCR反応により合成した。そのために用いたプライマーは、5'- GGATCCATCGAAGGTCGTATGGCCGAGGAGGCGCAGAGCCACGCGCGTGAAGGTGGGCGGCATCCACGACAGCCGGCCGGGCGCGAGA-3'(配列番号13)と5'- TTAGGCGGTGGCGTCGTCGAGGGGCTTGAAATCC-3'(配列番号14)であった。PCR増幅断片は、TA cloning Kit(インビトロジェン社製)によりpCR2.1にサブクローニングした。制限酵素で切断後、Factor Xa認識部位を付加したオリザシスタチン−II配列はpGEX−6P−2(アマシャムバイオサイエンス製)のGSTコーディング領域の下流に挿入した。
【0060】
例5: 組換えオリザシスタチン−I、オリザシスタチン−II、およびオリザシスタチン−IIIの調製
GST−オリザシスタチン(−I/−II/−III)発現プラスミドを導入した大腸菌BL21株(アマシャムバイオサイエンス社製)を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地を用いて、37℃下において培養した。培養開始から3時間後にIPTG(Isopropyl-1-thio-beta-D-galactoside)を1.0mMの濃度になるように添加し、さらに6時間培養を行った。培養終了後、集菌した菌体を1% Triton X-100を含むPBS(10mM NaHPO/1.8mM KHPO−140mM NaCl−2.7mM KCl)に懸濁し、超音波処理にて菌体を破壊した。次いで、その固形分を遠心分離によって除去した後、菌体破砕液から、GSTrap HPカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて、融合タンパク質をアフィニティー精製した。融合タンパク質を含む画分を回収したあと、50mM Tris−HCl(pH8.0)−100mM NaCl−5mM CaClを用いて透析し、さらに5U/mlの濃度になるようにFactor Xa(ノバジェン社製)を加えて、25℃で2〜3時間の切断反応を行った。反応液からHiTrap Benzamidine FFカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いてFactor Xaを吸着除去した後、GSTrap HPカラムクロマトグラフィーによって切断されたGSTを除去して、オリザシスタチン−I、オリザシスタチン−II、およびオリザシスタチン−IIIの精製標品を得た。
【0061】
評価試験: カテプシンK阻害活性の測定
測定用の緩衝液には0.1M 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸−1mM EDTA−4mMジチオスレイトール−0.05% Briji35を使用した。ここに、11.6nMの組換えヒトカテプシンK(カルビオケム社製)と所定濃度のオリザシスタチン−I、オリザシスタチン−II、またはオリザシスタチン−IIIを加えて、40℃で5分間のプレインキュベーションを行った。その後、酵素基質となるZ−Phe−Arg−MCA(株式会社ペプチド研究所製)を50μMの濃度になるように添加し、酵素反応を開始させた。蛍光分光光度計(Shimadzu RF-5300PC(株式会社島津製作所製)、測定条件:励起波長380nm、吸収波長440nm)を用いて、反応の進行に伴う蛍光強度の増加を、モニタリングし、酵素反応の強さは基質から遊離するAMC(7−アミノ−4−メチル−クマリン)量で評価した。酵素活性1Uは、1μmol/分のAMC遊離を阻害する阻害剤の量と定義した。
【0062】
結果は図1〜3に示される通りであった。なお、図1はオリザシスタチン−I、図2はオリザシスタチン−II、図3はオリザシスタチン−IIIに関するものである。
結果から、これらタンパク質は低濃度でカテプシンKの活性を強く阻害するものであった。酵素阻害の比活性は、オリザシスタチン−Iが7.40U/mg、オリザシスタチン−IIが8.57mU/mg、および、オリザシスタチン−IIIが1.98U/mgであった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】オリザシスタチン−IのカテプシンK阻害活性の測定結果を示すグラフである。
【図2】オリザシスタチン−IIのカテプシンK阻害活性の測定結果を示すグラフである。
【図3】オリザシスタチン−IIIのカテプシンK阻害活性の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物に含まれるタンパク質を有効成分として含んでなる、カテプシンK阻害剤。
【請求項2】
イネ科植物がイネ(Oryza sativa)である、請求項1に記載のカテプシンK阻害剤。
【請求項3】
タンパク質が、オリザシスタチン−I、オリザシスタチン−II、またはそれらの部分ペプチドである、請求項1または2に記載のカテプシンK阻害剤。
【請求項4】
タンパク質が、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質であるオリザシスタチン−III、またはその部分ペプチドである、請求項1または2に記載のカテプシンK阻害剤。
【請求項5】
タンパク質が、下記(a)〜(d)からなる群より選択されるものである、請求項1または2に記載のカテプシンK阻害剤:
(a) 配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでなる、タンパク質、
(b) 前記(a)のアミノ酸配列の一部からなる部分ペプチドであって、カテプシンK阻害活性を有する、部分ペプチド、
(c) 前記(a)のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有する、タンパク質、および
(d) 前記(a)のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有する、タンパク質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を有効成分として含んでなる、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いられる、組成物。
【請求項7】
疾患または状態が、骨喪失もしくは骨吸収の亢進により誘発されうる疾患または状態である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
疾患または状態が、骨粗鬆症、変形性関節症、慢性関節リウマチ、またはこれに関連する状態である、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
医薬の形態で提供される、請求項6〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
食品の形態で提供される、請求項6〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いられる、食品。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンK阻害に用いられる、食品。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンKの阻害により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善する機能が表示された、食品
【請求項14】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を有効量含んでなる食品であって、カテプシンK阻害能が表示された、食品。
【請求項15】
疾患または状態が、骨喪失もしくは骨吸収の亢進により誘発されうる疾患または状態である、請求項11または13に記載の食品。
【請求項16】
疾患または状態が、骨粗鬆症、変形性関節症、慢性関節リウマチ、またはこれに関連する状態である、請求項11または13に記載の食品。
【請求項17】
機能の表示が、本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかにされてなる、請求項13〜16のいずれか一項に記載の食品。
【請求項18】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品である、請求項11〜17のいずれか一項に記載の食品。
【請求項19】
下記(a')〜(d')からなる群より選択される、タンパク質:
(a') 配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでなる、タンパク質、
(b') 前記(a')のアミノ酸配列の一部からなる部分ペプチドであって、カテプシンK阻害活性を有する、部分ペプチド、
(c') 前記(a')のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有する、タンパク質、および
(d') 前記(a')のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含んでなり、かつカテプシンK阻害活性を有する、タンパク質。
【請求項20】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質の有効量を、哺乳動物に投与することを含んでなる、カテプシンKの阻害方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−151843(P2006−151843A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342322(P2004−342322)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000218982)島田化学工業株式会社 (4)
【出願人】(591096303)株式会社ブルボン (13)
【Fターム(参考)】