説明

カテーテル用バルーンおよびバルーンカテーテル

【課題】本発明は、異なる層同士の密着性自体を向上したカテーテル用バルーンを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、カテーテルから供給される流体により拡張収縮可能な膜状本体を有するカテーテル用バルーンであって、
前記膜状本体は、ポリアミドを含有する硬質層の表面に、ショアD硬度が62以下のポリアミドエラストマーを含有する柔軟層を備え、かつ前記柔軟層におけるポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上であることを特徴とする、カテーテル用バルーンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル用バルーンおよびバルーンカテーテルに関する。特に、体腔などに挿入するバルーンおよびバルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管や体腔(胆管、食道、気管、尿道、その他の臓器などの生体管腔)の狭窄部にステントを留置して体腔空間を確保する生体器官拡張法に使用する場合だけでなく、虚血性心疾患の治療、または排尿が困難な患者に対する導尿として、バルーンの付いたカテーテル(バルーンカテーテル)を使用することにより、冠動脈の病変部(狭窄部)を押し広げる方法、または尿道口から膀胱に通して導尿する方法が、従来から一般的に採用されている。このようなバルーンカテーテルは、本体シャフトと、当該本体シャフトの先端部近傍に取り付けられた拡張収縮可能なバルーンと、本体シャフト基部に取り付けられたハブとから構成されている。
【0003】
特に、当該拡張収縮可能なバルーンカテーテルは、トラッカビリティ(蛇行した血管や体腔に対するバルーンの追随性)、血管などの狭窄部位への通過性、石灰化した血管などの狭窄部位の拡張性といった特性が求められる。そのため、カテーテル用バルーンには、柔軟性、薄膜化、および高強度が要求される。
【0004】
このような特性が必要とされるバルーンとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン類、ポリアミドなどの材料が従来から使用されている。しかし、ポリエチレンテレフタレートは高強度材料であることから、トラッカビリティを上げるため薄膜状のバルーンにする必要があるが、その場合例えば、結石や石灰化病変との接触により当該薄膜状のバルーンにピンホールが形成され、体腔や血管内においてバルーンが破壊される虞がある。一方、バルーンの膜厚を厚くすると、耐圧強度が確保されるが、バルーンの柔軟性やトラッカビリティが損なわれる。
【0005】
また、ポリオレフィン類は、シャフトに熱融着ができ柔軟性を示すため加工しやすいが、耐圧性が比較的弱く、またバルーンを拡張する圧力の変化に対し、バルーン径の変化が大きいという性質を持っている。それ故に、バルーンに高い圧力をかけると、バルーンが急激に肥大化することによって、体腔や血管の過拡張を引き起こしたり、または軸方向の伸びが正常な体腔や血管までも拡張させたりする虞もある。
【0006】
さらに、ナイロンまたはポリアミドは、ポリエチレンテレフタレートとポリオレフィンのほぼ中間的な性質を持っているが、肉厚を薄くすれば耐圧、ピンホールの面で不利になり、厚くすればバルーンが硬くなりトラッカビリティの面で満足なものではない。
【0007】
そこで、これら各材料の欠点を解決するために、例えば、特許文献1や特許文献2のように複数の材料を層状にして積層させてバルーンを形成する技術がある。
【0008】
前記特許文献1では、ポリエチレンテレフタレートを含む層と、ポリオレフィン類を含む層とを多層化したバルーンが記載されており、必要に応じて表面に親水性ポリマーをコートする技術が開示されている。これにより、潤滑性、破壊強度、限定された半径方向膨張、シャフトとの接合性、破裂特性を含む強化特性に優れているとしている。
【0009】
また、特許文献2では、高強度ポリマーからなる基材層と、該基材層の少なくとも一面に形成された前記高強度ポリマーより柔軟な柔軟性ポリマーからなる被覆層と、を有する多層構造化したバルーンが記載されており、当該柔軟性ポリマーは、前記高強度ポリマーと破壊点伸びが近く、かつ高強度ポリマーより柔軟である旨が開示されている。このように、高強度ポリマーと、高強度ポリマーと破壊点伸びが近くかつ柔軟な柔軟性ポリマーとを選択してこれらを多層バルーンとすることにより、柔軟性ポリマーがバルーン全体の強度向上に十分機能し、柔軟で高強度のバルーンが得られるとしている。さらに、高強度ポリマー単層のバルーンに対し比較的肉厚にできる為、ピンホールの発生も少ないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−205064号公報
【特許文献2】特開平9−164191号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これら特許文献1および2の発明は、いずれも異なる材料からなる層を積層させた多層構造のバルーンにすることで、カテーテル用バルーンに要求される柔軟性、薄膜化、および高強度といった課題の解決を図ろうとするものである。しかしながら、このような異なる材料からなる層を積層させたカテーテル用バルーンは、層同士の密着(または接合)性が問題となり、層同士の密着力が低いと界面剥離を引き起こし、場合によっては体腔や血管内においてバルーンが割れる虞がある。この点について、例えば特許文献2では、段落「0025」に高強度ポリマーの引張破断伸びと、柔軟性ポリマーの引張破断伸びとの比を1:0.7〜1:1.3とすることで、バルーンを加圧などにより拡張した場合に高強度ポリマーからなる層と、柔軟性ポリマーからなる層との伸びが近いため、一方の層が伸びすぎて他方の層が追従できず生じる両層間における剥離が生じないとしている。
【0012】
すなわち、特許文献2の発明は、バルーンの拡張収縮といった物性変化の劣化に対する対策として、両層の破断伸びの差を一定の範囲に抑えることで、両層の密着力に依存することなく一方の層が伸びすぎて他方の層が追従できず生じる両層間における剥離を抑制・防止するものである。
【0013】
しかし、異なる材料からなる層同士の界面剥離などの劣化の原因は、上記バルーンの拡張収縮といった動的な作用を受けた変化の劣化だけでなく、バルーンの滅菌や消毒、生体内の種々の環境因子による加水分解や酸化分解などが複雑に作用し合って進行する静的な劣化も影響するものである。そのため、動的な劣化だけでなく、このような静的な劣化にも対応するためには、層同士の密着性自体を分子レベルから改善する必要がある。そこで、本発明は、異なる層同士の密着性自体を向上したカテーテル用バルーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するために、本発明者らは、特定の物性を示すポリアミドエラストマーをバルーンの被覆層に含ませることによって、上記課題が解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、異なる材料の層間の密着性に優れたカテーテル用バルーンを提供することができる。本発明のカテーテル用バルーンは、ポリアミドエラストマーを含む層を有するため、柔軟で血管または体腔内の通過性に優れる。本発明のカテーテル用バルーンは、ポリアミドを含有する硬質層を備えるため十分な耐圧性を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明に係るカテーテル用バルーンの一例を示す模式図である。
【図1B】本発明に係るカテーテル用バルーンの一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るカテーテル用バルーンの成形金型の説明用の模式図である。
【図3】本発明に係るバルーンカテーテルの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一は、カテーテルから供給される流体により拡張収縮可能な膜状本体を有するカテーテル用バルーンであって、前記膜状本体は、ポリアミドを含有する硬質層の表面に、ショアD硬度が62以下のポリアミドエラストマーを含有する柔軟層を備え、かつ前記柔軟層におけるポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上であることを特徴とする、カテーテル用バルーンである。
【0018】
これにより、異なる材料の層間の密着性に優れたカテーテル用バルーンを提供することができる。
【0019】
本発明のカテーテル用バルーンは、特に制限されることはなく、公知の形状のものを使用することができる。当該バルーンの構造について以下図を用いて説明するが、図1Aおよび図1Bは、それぞれカテーテル用バルーンの一例であり本発明の範囲はこれに限定されることはない。図1Aは、本発明のカテーテル用バルーンが硬質層および柔軟層の2層構造の一例の断面図であり、図1Bは、本発明のカテーテル用バルーンが柔軟層−硬質層−柔軟層の3層構造の一例の断面図である。
【0020】
本発明に係るカテーテル用バルーン11は、カテーテルから供給される流体により拡張収縮可能な筒状の膜状本体2と、前記膜状本体の軸方向両端から延伸され、かつ前記カテーテルと接続する接続部7a,7bとから構成されていることが好ましい。また、前記両端の接続部7a,7bにはそれぞれカテーテルから挿通される開口部3a,3bが形成されている。一方の接続部の開口部3bは、他方の接続部の開口部3aより大径に形成されていることが好ましい。また、カテーテル用バルーン11は、血管、尿管、胆管などの体内管腔の狭窄部を拡張するためのほぼ均一外径を有する筒状の部分を有している。
【0021】
本発明に係るカテーテル用バルーンの大きさとしては、拡張したときの筒状の膜状本体の外径が、1.0〜35.0mm、好ましくは、1.5〜30.0mmであり、当該筒状の膜状本体の長軸方向の長さは、3.0〜80.0mm、好ましくは、10.0〜75.0mmであり、当該バルーンの全体の長さ(筒状の膜状本体と接続部との長軸方向の合計長さ)が、5.0〜120.0mm、好ましくは、15.0〜100.0mmである。
【0022】
本発明に係る筒状の膜状本体の軸直角の断面形状は、特に制限されることはなく、円、楕円、略楕円、多角柱状であってもよい。さらに、当該筒状の膜状本体の両端部の形状は、図1Aおよび図1Bに示すように、それぞれテーパー状(先細状)であってもよい。また、本発明に係るバルーンは、両端が先細状に形成されたテーパー部6a,6bを備えた筒状の膜状本体と、前記テーパー部6a,6bのそれぞれと連設して、かつ軸方向外方に伸延されたカテーテルとの接続部7a,7bと、を有していることが好ましい。さらに、前記両端の接続部にはそれぞれカテーテルから挿通される開口部3a,3bが形成されている。
【0023】
また、筒状の膜状本体の両端部の形状がテーパー状の場合、筒状の膜状本体の中央部は、バルーンの最大径部が続く部分であり、テーパー部6a,6bは、上記の筒状の膜状本体の中央部と連続し直径が連続的に端部に向かって縮小するように変化している部分である。
【0024】
さらに、カテーテルとの接続部7a,7bは、上記テーパー部6a,6bとそれぞれ連続し、内径がほぼ同一な小径部となっているもので、カテーテルへのバルーンの取り付け部分であり、それぞれ開口部3a,3bが形成されている。そして、テーパー部6a,6bおよびカテーテルとの接続部7a,7bは、バルーンの筒状の膜状本体の両側にそれぞれあり、それぞれのテーパー部およびそれぞれの接続部の形状は異なっていてもよい。
【0025】
本発明に係る膜状本体は、複数の層を積層した膜から形成されたものであり、より詳細にはポリアミドを含有する硬質層の表面にポリアミドエラストマーを含有する柔軟層が積層された少なくとも2層以上に積層された膜から形成されたものである。より好ましくは、前記硬質層と前記柔軟層とが、それぞれ2〜5層に積層された膜から形成されたものであり、特に好ましくは、前記硬質層と前記柔軟層とを合わせて3層に積層された膜から形成されたものである。ポリアミドを含有する硬質層と、ポリアミドエラストマーを含有する柔軟層とを積層する順序は、最表層にポリアミドエラストマーを含有する柔軟層が積層されていれば特に制限されることはなく、好ましくは、内側の最表層と外側の最表層とにポリアミドエラストマーを含有する柔軟層が形成されており、特に好ましくは、ポリアミドエラストマーを含有する柔軟層−ポリアミドを含有する硬質層−ポリアミドエラストマーを含有する柔軟層から構成される3層である。
【0026】
最表層にポリアミドエラストマーを含有する柔軟層を形成することにより、耐摩耗性の向上、外傷からの強度層保護、ピンホール防止が可能になる。
【0027】
また、必要により、生体と接触しうる最表層のポリアミドエラストマーを含有する柔軟層の表面に生体適合性材料や抗血栓材料をさらに被覆してもよい。当該生体適合性材料や抗血栓材料としては、公知の各種の高分子を単独または混合して使用することができるが、例えば、天然高分子(コラーゲン,ゼラチン,キチン,キトサン,セルロース、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、カゼインなど)、合成高分子(リン脂質ポリマー、リン酸基を側鎖に持つMPC(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ブロックポリマー、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレートとスチレンとの共重合体(例えば、HEMA−St−HEMAブロック共重合体)、ポリメタクリル酸メチル,ポリ乳酸,ポリグリコール酸,乳酸−グリコール酸共重合体、ポリエチレン,ポリプロピレンなど)が好適に使用できる。
【0028】
また、本発明に係るカテーテル用バルーンを血管内さらにはガイドカテーテル内への挿入を容易にするために、バルーンや膜状本体の外面に血液等と接触したときに、潤滑性を呈するようにするための処理を施すことが好ましい。このような処理としては、例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド−グリシジルメタアクリレートのランダムもしくはブロック共重合体等の親水性樹脂を表面コーティング、または表面に固定する方法などが挙げられる。
【0029】
また、上記ポリアミドを含有する硬質層の表面に密着してポリアミドエラストマーを含有する柔軟層が形成されていることが好ましく、前記硬質層の表面の全面にわたって前記柔軟層が密着して形成されていることが好ましい。
【0030】
これにより、異なる層同士の密着性自体を向上したカテーテル用バルーンを提供することができる。
【0031】
本発明に係る筒状の膜状本体の収縮時の平均厚みは、5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0032】
当該膜状本体の収縮時の平均厚みが10〜30μmの範囲であると、トラッカビリティや血管や体腔などの狭窄部位への通過性の観点で好ましい。
【0033】
また、当該膜状本体を構成するポリアミドエラストマーを含有する柔軟層の平均厚さは、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。
【0034】
さらに、当該膜状本体を構成するポリアミドを含有する硬質層の平均厚さは、0.5〜49.5μmが好ましく、5〜25μmがより好ましい。
【0035】
上述したように、本発明の筒状の膜状体は、複数の層を積層した膜から形成されたものであるため、当該膜状体の両端に形成されたカテーテルとの接続部は、膜状体と一体化されたもの(一体成形されたもの)であっても、別途筒状の膜状体より小径の略円筒状の膜体を接合したものであってもよい。そのため、本発明に係る接続部の常態の平均厚みは、5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0036】
本発明に係るカテーテル用バルーンは、カテーテルから供給される流体により拡張収縮可能な膜状本体を備えているため、折り畳み可能なものであり、収縮状態では、カテーテルの本体チューブの外周に折り畳まれた状態となることができるものが好ましい。そのため、当該バルーンの拡張収縮を可能とする膜状本体の材料は、エラストマーである。
【0037】
当該カテーテルから供給される流体としては、造影剤、ヘリウムガス、生理食塩水、CO2ガス、O2ガス、N2ガス、空気など公知のものが挙げられる。
【0038】
本発明に係る硬質層9は、ポリアミドを有し、必要により公知の添加剤やX線等の造影剤を含んでもよく、またはポリアミドのみから構成されてもよく、当該硬質層において、ポリアミドが60〜100重量%含んでいれば、カテーテル用バルーンに必要な耐圧強度が確保することができる。
【0039】
本発明において好適に使用できるポリアミドは、主鎖に酸アミド結合(−CO−NH−)を有するポリマーであれば、特に限定されることはなく、通常、環構造のラクタムまたはアミノ酸の重合、あるいは、ジカルボン酸およびジアミンの縮重合により製造される。従って、このポリアミドとしては、ホモポリアミドを用いることが好ましい。単独で重合可能な単量体としては、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、9−アミノノナン酸、ピペリドン等が挙げられる。
【0040】
また、ジカルボン酸及びジアミンを縮重合させる場合のジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、テレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0041】
また、前記ポリアミドしては、ナイロン4、6、7、8、11、12、6.6、6.9、6.10、6.11、6.12、6T、6/6.6、6/12、6/6T、6T/6I等が挙げられる。なお、本実施例にて用いたポリアミドはナイロン12である。
【0042】
なお、ポリアミドの末端は、カルボン酸、アミン等で封止されていてもよい。カルボン酸としては、アジピン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。また、アミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン等が挙げられる。前記ポリアミド樹脂は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明に係るポリアミドとしては、上記のうち特にナイロン12が好ましい。
【0043】
本発明に係るポリアミドの重量平均分子量は、2.0×104〜5.0×104であることが好ましく、3.0×104〜5.0×104であることがより好ましく、4.0×104〜5.0×104であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、本発明に係るポリマーの分子量は、MSスペクトル法、光散乱法、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)などで公知の方法で測定することができ、本明細書では、GPCにより測定した分子量である。
【0045】
また、本発明に係るX線等の造影剤は、放射線に対して不透過であれば特に制限されず、公知の放射線不透過性物質が使用できる。具体的には、ヨウ素、バリウム、ビスマス、ホウ素、臭素、カルシウム、金、白金、銀、鉄、マンガン、ニッケル、ガドリニウム、ジスプロシウム、タングステン、タンタル、ステンレス鋼、ニチノール、および硫酸バリウム等のこれらの化合物、ならびにこれらの溶液/分散液(例えば、生理食塩水);アミドトリゾ酸(amidotrizoic acid、3,5−diacetamino−2,4,6−triiodobenzoic acid)、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、アミドトリゾ酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオキサグル酸、イオキシラン、イオパミドール、イオプロミド、イオヘキソール、イオベルソール、イオメプロール;ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル(例えば、炭素原子がヨウ素化されているケシ種油であるLipiodolTM)などが挙げられる。これらの放射線不透過性物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。または、上記したような造影剤を基剤とする造影剤層をさらに膜状体に積層して設けてもよい。
【0046】
これにより、X線透視下でバルーンの拡張度合いを確認できるため、確実にかつ容易にバルーンの位置が確認可能となる。
【0047】
本発明に係る柔軟層8は、ポリアミドエラストマーを有し、必要により公知の添加剤やX線等の造影剤を含んでもよく、または少なくとも1種以上のポリアミドエラストマーのみから構成されてもよい。したがって、ポリアミドエラストマーは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。当該柔軟層において、ポリアミドエラストマーが60〜100重量%含んでいれば、カテーテル用バルーンに必要なトラッカビリティ、血管などの狭窄部位への通過性、および石灰化した血管などの狭窄部位の拡張性に必要な柔軟性を確保することができる。
【0048】
本発明に係るポリアミドエラストマーは、ショアD硬度が62以下であって、かつポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上である。
【0049】
ここでいう「ポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上である」とは、ポリアミドエラストマーの高分子鎖中において、アミドユニット(または、アミド結合由来の繰り返し単位とも称する。)の重量が、全ポリアミドエラストマーの重量に対して60重量%以上であることをいう。
【0050】
当該ポリアミドエラストマーのショアD硬度が62以下であって、かつポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上であると、トラッカビリティや血管や体腔などの狭窄部位への通過性、および耐圧性の観点で好ましい。
【0051】
また、本発明に係るポリアミドエラストマーは、ショアD硬度が50以上65以下であって、かつポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上90重量%以下であることが好ましく、ショアD硬度が54以上62以下であって、かつポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上85重量%以下であることがより好ましい。
【0052】
当該ポリアミドエラストマーのショアD硬度が54以上62以下であって、かつポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上85重量%以下であると、トラッカビリティや血管や体腔などの狭窄部位への通過性、および耐圧性の観点で特に好ましい。
【0053】
本発明におけるポリアミドエラストマーの硬度の測定方法には、ISO 868に従ってショアD硬度を用いる。
【0054】
本発明に係るポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量の算出方法は、1H−NMRおよび13C−NMRを用いて、ポリアミドエラストマーにおけるアミドユニット由来のピークを特定し、さらに1H−NMRの積分比から一本の高分子鎖における当該アミドユニットのユニット比を算出した後、当該ユニット比に前記アミドユニットの分子量を乗じた値をアミドユニットの重量%とした。
【0055】
また、柔軟層が2種以上のポリアミドエラストマーを含む場合は、上記と同様に、それぞれのアミドユニット由来のピークを特定し、1H−NMRの積分比からそれぞれのアミドユニット由来のユニット比を算出した後、2種以上のポリアミドエラストマーを含む場合のアミドユニットの重量%を求めた。
【0056】
本明細書における「ポリアミドエラストマーのアミドユニット」とは、ポリアミドエラストマー高分子鎖中におけるアミド結合由来の繰り返し単位をいい、本発明に係るポリアミドエラストマーにおけるアミドユニットは、以下の式(1)または式(2)で表される繰り返し単位の少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0057】
【化1】

【0058】
上記式(1)において、nは、5〜11の整数であることが好ましい。
【0059】
【化2】

【0060】
上記式(2)において、aは4〜12の整数、bは4〜10の整数であることが好ましく、aは11〜12の整数、bは4〜8の整数であることがより好ましい。
【0061】
したがって、本発明に係るポリアミドエラストマーは、上記式(1)または式(2)で表される繰り返し単位の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
【0062】
上記のようなアミドユニットを有するポリアミドエラストマーを含む柔軟層を、ポリアミドを含む硬質層上に形成すると、ポリアミドエラストマーのアミドユニットの部位と、ポリアミドの高分子鎖とが両者の相互作用により強固に接合することができる。また、アミドユニットを有するポリアミドエラストマーを含む柔軟層とポリアミドを含む硬質層とを熱圧着することで、ポリアミドエラストマーのアミドユニットの部位およびポリアミドの高分子鎖が流動的になるためより熱接着性が向上すると考えられる。
【0063】
また、本発明に係るポリアミドエラストマーは、ポリアミドブロックコポリマーであることが好ましく、2元のブロックコポリマーがより好ましい。当該ポリアミドブロックコポリマーは、ポリアミドエラストマーのアミドユニットである式(1)または式(2)のアミドユニットが、当該ポリアミドブロックコポリマーの高分子鎖1本の重量(100重量%)に対して60重量%以上であり、かつ当該ポリアミドブロックコポリマーのショアD硬度が62以下であることが好ましい。
【0064】
本発明に係るポリアミドブロックコポリマーは、以下の式(3)または、式(4):
【0065】
【化3】

【0066】
(上記式(3)中において、aは4〜12の整数、bは4〜10の整数、c,dは0〜100の整数、pは2〜4の整数、qは1〜100の整数であり、
Lnは、リンカー部位であり、−C(O)−R−C(O)−であり、
前記Rは、メチレン数が2〜12からなるアルキレン基であり、メチレン数が4〜10からなるアルキレン基が好ましい。)
【0067】
【化4】

【0068】
(上記式(4)中において、nは5〜11の整数、m,lは0〜100の整数、pは2〜4の整数、qは1〜100の整数であり、
Lnは、リンカー部位であり、−C(O)−R−C(O)−であり、
前記Rは、メチレン数が2〜12からなるアルキレン基であり、メチレン数が4〜10からなるアルキレン基が好ましい。)
からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0069】
また、上記式中、Rは、メチレン数が2〜12からなるアルキレン基としては、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよく特に制限されないが、具体的には、テトラメチレン基、2−メチルプロピレン基、1,1−ジメチルエチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、n−ノニレン基、1−メチルオクチレン基、6−メチルオクチレン基、1−エチルヘプチレン基、1−(n−ブチル)ペンチレン基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチレン基、1,5,5−トリメチルヘキシレン基、1,1,5−トリメチルヘキシレン基、n−デシレン基、1−メチルノニレン基、1−エチルオクチレン基、1−(n−ブチル)ヘキシレン基、1,1−ジメチルオクチレン基、3,7−ジメチルオクチレン基、n−ウンデシレン基、1−メチルデシレン基などが挙げられる。
【0070】
したがって、本発明に係る柔軟層には、上記の式(3)、(4)で表されるポリアミドブロックコポリマーを1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、柔軟層として上記の式(3)、(4)で表されるポリアミドブロックコポリマーを2種以上組み合わせる場合、柔軟層全体としてポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上となるように混合し、かつショアD硬度が62以下にするよう調整する。
【0071】
また、本発明に係るポリアミドエラストマーは、合成しても市販のものを購入してもよく、本発明に使用できるポリアミドエラストマーとしては、ELG5660(EMS社製、商品名;Grilflex、ポリアミドブロック比:67wt%、ショアD硬度56)、ELG6260(EMS社製、商品名;Grilflex、ポリアミドブロック比:85wt%、ショアD硬度62)などが挙げられる。
【0072】
本発明に係るポリアミドエラストマーの重量平均分子量は、1.0×104〜1.0×105であることが好ましく、2.0×104〜5.0×104であることがより好ましく、2.0×104〜4.0×104であることがさらに好ましい。なお、当該ポリアミドエラストマーの分子量の測定方法は、ポリアミドと同様の方法で測定している。
【0073】
また、ポリアミドブロックポリマーの末端は、カルボン酸、アミン等で封止されていてもよい。カルボン酸としては、アジピン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。また、アミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン等が挙げられる。
【0074】
柔軟層に含んでもよいX線等の造影剤については、硬質層と同一であるのでここでは省略する。
【0075】
本発明に係るカテーテル用バルーンの材料の特に好ましい実施形態は、ポリアミドを含む硬質層の両面にポリアミドエラストマーを含む柔軟層が密着して積層され、かつ当該ポリアミドが、ナイロン11、ナイロン12、およびナイロン6.12からなる群から選択される少なくとも1種であり、さらにポリアミドエラストマーが式(3)、式(4)からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0076】
上記ポリアミドを含む硬質層と、上記ポリアミドエラストマーを含む柔軟層との組み合わせであると、熱接着性が向上するため、層間の密着性に優れた柔軟性、薄膜化、および高強度に富むバルーンを形成することができる。
「カテーテル用バルーンの製造方法」
以下、本発明に係るカテーテル用バルーンの製造方法の好ましい実施形態について説明する。本発明のバルーンの製造方法は、上記のポリアミドを含む層と上記の所定の特性を示すポリアミドブロックポリマーを含む層とを熱圧着してなる二色(二層)または三色(三層)のポリマーチューブ(パリソン)を形成する工程(1)と、当該パリソンを両ポリマーの二次転移温度から一次転移温度までの範囲の温度下にて軸方向に延伸し、さらに延伸されたパリソンを半径方向に膨張させて二軸延伸する工程(2)と、膨張されたパリソンを両ポリマーの二次転移温度以下に冷却し、さらに冷却されたパリソンを収縮させて、内径がほぼ均一な筒状の膜状体、該膜状体の前後にそれぞれ設けられたテーパー部、および前記テーパー部の前後に設けられたカテーテルとの接続部を有する二軸延伸されたバルーンを形成する工程(3)と、必要により、二軸延伸されたバルーンのテーパー部を再延伸してテーパー部の肉厚を薄肉化し、当該再延伸されたバルーンを膨張させ、膨張状態を維持しながら、バルーンをポリマーの二次転移温度以上に加熱した後、バルーンをポリマーの二次転移温度以下の温度にまで冷却させる工程(4)と、を含むことが好ましい。
【0077】
以下各工程について説明する。
(工程1)
延伸可能なポリマーによりチューブ状パリソンを形成する工程1は、ポリアミドからなる膜と、ポリアミドエラストマーからなる膜とを熱圧着させることで、少なくとも2層、好ましくは、ポリアミドからなる膜の両面に、ポリアミドエラストマーからなる膜を熱圧着した3層の膜を形成した後、二種以上のポリマーからなるチューブ27を形成する。これは、二色(二層)または三色(三層)の押し出しによる電線被覆法により行うことが好ましい。また、あらかじめ、硬質層もしくは柔軟層を形成するポリマーによりチューブを形成し、このチューブの上に他方の層を形成するポリマーを被覆する方法によって行ってもよい。ポリマーとしては、上述のものが使用できる。
(工程2)
そして、このチューブ27を図2に示す金型20内に挿入し、チューブ27の一端を閉塞する。閉塞方法としては、加熱溶融、高周波によるシール、鉗子などを用いて閉塞することにより行う。図2は、バルーン成形金型20の断面図であり、この金型20は、加温手段であるヒーター22と冷却手段である冷却管23とを有している。そして、分離型25,26は、組み合わせた状態にて内面形状が、形成するバルーンの基本外面形状となっている。
【0078】
そして、図2に示すように、ヒーター22を作動させ、バルーン11を形成する部分のチューブ27をポリマーの二次転移温度から一次転移温度までの範囲の温度、具体的には、二次転移温度を少し越える温度まで加熱する。チューブ27を加熱された状態に維持し、チューブ27を矢印X,Y方向に延伸し、さらに、矢印Z方向よりチューブ27内に気体を加圧しながら送り、金型20内で加熱されている部分のチューブ27を分離型25,26の内壁面に密着させる。
(工程3)
そして、冷却管23内に冷却液を循環して、チューブ27を二次転移温度以下に冷却する。また、この冷却は、冷却液量を循環することなく、単に放置して自然冷却してもよい。その後チューブ27の内部を常圧にし、金型20内より、チューブ27を抜去する。そして、チューブ27の先端部および後端部にてチューブ27を切断することにより、図1Aおよび図1Bに示すようなバルーンの基本形状が形成される。また、上記延伸処理を2回以上行うことによって、目的とする肉厚のバルーンを形成してもよい。
(工程4)
そして、二軸延伸されたバルーンのテーパー部6a,6bを再延伸してテーパー部の肉厚を薄肉化してもよい。テーパー部6a,6bあるいはテーパー部6a,6bとカテーテルとの接続部7a,7bを再延伸するために再延伸用治具を用いてもよく、この再延伸用治具は、2つのバルーン固定用チャックを有しており、固定用チャックは、支持台に移動可能に取り付けられており、この固定用チャックは、ハンドルを回転させることにより、前後に移動するように構成されている。
【0079】
本発明の好ましい実施形態として、以下本発明に係るバルーンカテーテルについて説明するが、以下の実施形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
「バルーンカテーテル」
本発明のバルーンカテーテルについて図面を用いて説明する。図3は、血管拡張用のバルーンカテーテルの外観図である。
【0080】
本発明のバルーンカテーテル10は、図3に示すように、流体を移送可能な長尺状の外管12を備えたカテーテル本体1と、カテーテル本体1の先端に接続したバルーン11と、カテーテル本体1の基端に取り付けられたハブ13とを有する。また、バルーンカテーテル10は、外管12内に形成されたルーメン120を通る内管14と、内管14の先端に設けられた先端部材15と、を有する。先端とは使用の際に血管内に挿入される側に位置する端部(近位端)であり、基端とは使用の際にバルーンカテーテル10を操作する術者側に位置する端部(遠位端)である。
【0081】
また、図3では、カテーテルの基端部側は同軸の二重ルーメンになっており、先端と基端との間にガイドワイヤーが挿入できるワイヤーポートが備えたラピッドエクスチェンジ型を一例として示しているが、本発明に係るバルーンは、オーバーザワイヤー型カテーテルにも適用できる。
【0082】
このバルーンカテーテル10は、血管拡張用カテーテルに応用した一例であり、本発明のバルーンおよびバルーンカテーテルは尿道カテーテルなど他のカテーテルにも適用できる。
【0083】
本発明のバルーンカテーテル10の構造についてより詳細に説明すると、図3に示すように、当該バルーンカテーテル10は、先端が開口している第1のルーメン150(内側のアウタールーメン)を有する内管14と、当該内管14の先端より所定長基端側に後退した位置に当該内管14と同軸的に設けられ、かつ内管14の外面との間に第2のルーメン120を形成する外管12と、カテーテルとの接続部(バルーンの先端部側)7a,カテーテルとの接続部(バルーンの基端部側)7bを有し、接続部7bが外管12に取り付けられ、接続部7aが内管14に取り付けられ、基端部近傍にて第2のルーメン120と連通する折り畳み可能なバルーン1と、前記第2のルーメンと連通する開口部130を備えたハブ13と、を具備している。
【0084】
また、本発明のバルーンカテーテル10は、内管14および外管12を備えたカテーテル本体1と、ハブ13と、バルーン11とにより構成されている。内管14は、先端が開口した第1のルーメン150(内側のアウタールーメン)を有している。第1のルーメン150は、ガイドワイヤーを挿通するためのルーメンであり、ガイドワイヤーポートを形成する第1の開口部18であるワイヤーポート18と前記第1のルーメン150は連通しているため、ガイドワイヤー17を挿通することができる。また、当該ガイドワイヤーポートを形成する開口部18は、外管12の中間部に取り付けられている。さらに、第2のルーメン120と連通する開口部130は、当該第2のルーメン120を介してバルーン内112と連通しているため、開口部130から流体を注入−排出することでバルーンを拡張‐収縮の操作が可能となる。
【0085】
内管14としては、外径が0.30〜2.50mm、好ましくは0.40〜2.00mmであり、内径が0.20〜2.35mm、好ましくは0.25〜1.70mmである。内管14の形成材料としては、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等の熱可塑性樹脂が使用できる。
【0086】
外管12は、内部に内管14を挿通し、先端が内管の先端よりやや後退した位置に設けられており、この外管12の内面と内管14の外面により第2のルーメン120が形成されている。よって、十分な容積を有するルーメンとすることができる。そして、第2のルーメン120は、その先端において上述するバルーン11内とその後端部において連通し、第2のルーメン120の後端は、バルーンを膨張させるための流体(例えば、造影剤、ヘリウムガス、生理食塩水、CO2ガス、O2ガスなど)を注入するためのインジェクションポートを形成するハブ13の第2の開口部130と連通している。外管12としては、外径が0.50〜4.30mm、好ましくは0.60〜4.00mmであり、内径が0.40〜3.80mm、好ましくは0.50〜3.00mmである。
【0087】
また、必要によりバルーン拡張時にバルーン内に上記のX線等の造影剤を注入してもよい。
【0088】
外管12の形成材料としては、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等の熱可塑性樹脂が使用できる。
【0089】
また、図3において、本発明のバルーンカテーテル10の先端には、血管に追随するのを助ける役割を果たすとともに、血管壁に損傷を与えないようにするため、球面状の先端部材15を有することが好ましい。
【0090】
バルーン11は、折り畳み可能なものであり、拡張させない状態では、内管14の外周に折り畳まれた状態となることができるものである。そして、バルーン11は、血管や体腔の狭窄部を容易に拡張できるように少なくとも一部が円筒状となっているほぼ同径の筒状体を有する折り畳み可能なものである。そして、バルーン11は、その接続部7bが外管12の先端部に接着剤または熱融着などにより液密に固着されている。接続部7aも、内管14の先端部に同様に液密に固着されている。
【0091】
バルーン11は、図3に示すように、バルーン11の内面と内管14の外面との間に拡張された空間112を形成する。この拡張された空間112の基端側ではその全周において第2のルーメン120と連通している。このように、バルーン11の基端側に比較的大きい容積を有する第2のルーメンを連通させているため、第2のルーメンよりバルーン11内への流体を注入するのが容易である。バルーン11としては、上述したものが使用される。また図3においては、バルーン11は3層の膜から構成されているが、上記のように少なくとも硬質層と柔軟層との2層以上であれば特に制限されない。
【0092】
また、バルーン11の筒状の膜状本体の位置をX線造影により確認できるようにするために、内管14の外面に、X線マーカーを一つ以上設けることが好ましい。X線マーカーは、バルーン11の内管14との固着部より後端側近傍の位置およびバルーン11と外管12との固着部より先端側近傍の位置、つまり、バルーン11の筒状の膜状体2の両端に位置する部分に両端部を有し、バルーン11の筒状の膜状体2の長さと同等の長さを有するものとすることが好ましい。
【0093】
当該X線マーカーは、X線不透過材料(例えば、金、白金、タングステンあるいはそれらの合金、あるいは銀−パラジウム合金等)により形成されることが好ましい。さらに、マーカーの形態は、コイルスプリングからなることが好ましく、マーカーの両端からそれぞれ1〜4mm、好ましくは2〜3mmが密に巻かれていることがより好ましい。これは、X線透視下でバルーン11の位置を容易に確認可能とするためであり、さらに、スプリング状とすることにより、バルーン内に位置する内管の屈曲部位における折れ曲がり、つぶれを防止する補強体を形成し好ましい。
【0094】
特に、マーカーを、1本のスプリングコイルで形成し、これを内管14の外周に密着巻きにて巻装すれば、外力に対する耐力は、より強固なものとなる。また、このコイル状の線状体の断面形状を円、方形もしくは楕円のいずれかの形状をなすようにすれば、外力に対する耐力は、より強固なものとなる。
【0095】
本発明に係るハブ13は、第2のルーメン120と連通し、流体を注入排出する通路の入口であるインジェクションポートを形成する第2の開口部130を有し、かつ外管12に固着された外管ハブから構成されている。また、ハブ13は、第2のルーメン120に連通する第2の開口部130を有する。そのため、第2の開口部130は、流路としての役割も担い、例えばインデフレーター、シリンジ、ポンプ等の流体給排部(不図示)に連通される。これらによって流体が開口部130および第2のルーメン120を経てバルーン11に供給され、またはバルーン11から排出される。すなわち、開口部130およびルーメン120は、バルーン11を拡張収縮させる駆動流体の供給、排出経路として機能する。
【0096】
本発明に係るハブの形成材料としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート‐ブチレン‐スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂が好適に使用できる。
【0097】
外管ハブの形成材料としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート‐ブチレン‐スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂が好適に使用できる。
【0098】
図3では本発明に係るハブ13の一例として、分岐ハブを設けず、第1のルーメン、第2のルーメンそれぞれに、例えば後端に開口部を形成するポート部材を有するチューブを液密に取り付けたすラピッドエクスチエンジタイプを示しているが、ハブ13に分岐ハブを設けるオーバーザワイヤータイプのものであってもよい。
【実施例】
【0099】
好適な実施例に基づいて詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0100】
(実施例1)
厚みが30μmのポリアミド(PA)樹脂シート(EMS、商品名;L25)と、厚みが30μmのポリアミドエラストマー樹脂シート(EMS社製、商品名;Grilflex ELG5660、ショアD硬度56、ポリアミドブロック比:67wt%)とを、ヒートプレス機で温度170℃、加圧力2.5MPaで60秒間保持して加熱圧着し、2層シート(60μm厚)を得た。この得られた2層シートについて、貼合したシート同士の密着力を剥離接着強さ試験方法−第3部:T型剥離(JIS 6854−3)に準じて測定した結果、剥離強度5.0N/mmでも、剥離しなかった。
【0101】
(実施例2)
厚みが30μmのポリアミド(PA)樹脂シート(EMS社製、商品名;L25)と、厚みが30μmのポリアミドエラストマー樹脂シート(EMS社製、商品名;Grilflex ELG6260、ショアD硬度62、ポリアミドブロック比:85wt%)を用い、実施例1と同様に試験を行った結果、剥離強度5.0N/mmでも、剥離しなかった。
【0102】
(実施例3)
厚みが30μmのポリアミド(PA)樹脂シート(EMS、商品名;L25)と、厚みが30μmのポリアミドエラストマー樹脂シート(ELG5660/ELG6260との混合質量比(3/7)、ショアD硬度60、ポリアミドブロック比:81wt%)とを、ヒートプレス機で温度170℃、加圧力2.5MPaで60秒間保持して加熱圧着し、2層シート(60μm厚)を得た。この得られた2層シートについて、貼合したシート同士の密着力を剥離接着強さ試験方法−第3部:T型剥離(JIS 6854−3)に準じて測定した結果、剥離強度5.0N/mmでも、剥離しなかった。
【0103】
(実施例4)
厚みが30μmのポリアミド(PA)樹脂シート(EMS社製、商品名;L25)と、厚みが30μmのポリアミドエラストマー樹脂シート(ELG5660/ELG6260との混合質量比(5/5)、ショアD硬度58、ポリアミドブロック比:76wt%)を用い、実施例1と同様に試験を行った結果、剥離強度5.0N/mmでも、剥離しなかった。
【0104】
(実施例5)
厚みが30μmのポリアミド(PA)樹脂シート(EMS社製、商品名;L25)と、厚みが30μmのポリアミドエラストマー樹脂シート(ELG4960/ELG5660との混合質量比(3/7)、ショアD硬度60、ポリアミドブロック比:54wt%)を用い、実施例1と同様に試験を行った結果、剥離強度5.0N/mmでも、剥離しなかった。
【0105】
(比較例1)
厚みが30μmのポリアミド(PA)樹脂シート(EMS社製、商品名;L25)と、厚みが30μmのポリアミドエラストマー樹脂シート(アルケマ社製、商品名;PEBAX5533、ショアD硬度55、ポリアミドブロック比:59wt%)を用い、実施例1と同様に試験を行った結果、剥離強度の測定結果は、3.4N/mmであった。
【0106】
以上の実施例1,2、および比較例1の実験結果から、ポリアミド樹脂(L25)と接着させるポリアミドエラストマーに関して、当該ポリアミドエラストマーにおけるポリアミドブロック繰り返し単位の重量%のより大きいシートの方が、密着力が高くなることが判明した。
【0107】
次に、実際にポリアミド層とポリアミドエラストマー層からなる3層バルーンを作製した後、それぞれPA3層バルーンの耐圧性および硬度評価を行った。
【0108】
(実施例6)
常法の電線被覆法による共押出を行うことにより、外層、内層がELG5660(EMS社製、商品名;Grilflex、ポリアミドブロック比:67wt%、ショアD硬度56)であり、中間層がL25である3層チューブを作製した。内層の内径、および内層、中間層、外層チューブの外径はそれぞれ、0.35mm,0.47mm,0.82mm,0.90mmであった。前記3層チューブを、図2で示すような所定の形状の金型に入れてアニールした後、ブロー成形により所望のバルーンを作製した。当該バルーンのブロー成形条件は、90℃ 4.2MPaであった。その後得られたバルーンの耐圧試験(一定加圧下にて、バルーンを膨らませた状態で、突起物を押し当てて、破裂した時の荷重をオートグラフで測定)を実施した結果、バースト圧は32.1MPa、バースト圧/膜厚は1.77(MPa/μm)と得られた。硬度評価については、ISO868に準拠して実施した。
【0109】
(実施例7)
実施例3と同様の方法で、外層、内層がELG6260(EMS社製、商品名;Grilflex、ポリアミドブロック比:85wt%、ショアD硬度62であり、中間層がL25である3層チューブを作製した。当該作製した3層チューブの内層の内径、および内層、中間層、外層チューブの外径はそれぞれ、0.36mm,0.48mm,0.82mm,0.90mmであった。また、実施例3と同様の方法を実施してバルーンをブロー成形により作製した。なお、実施例4のバルーンのブロー成形条件は、100℃ 3.3MPaで行った。そして、当該得られたバルーンの耐圧試験(一定加圧下にて、バルーンを膨らませた状態で、突起物を押し当てて、破裂した時の荷重をオートグラフで測定)を実施した結果、バースト圧は35.1MPa、バースト圧/膜厚は1.83(MPa/μm)と得られた。硬度評価については、ISO868に準拠して実施した。
【0110】
(比較例2)
実施例3と同様の方法で、外層、内層がPEBAX5533(アルケマ社製、商品名;PEBAX、ポリアミドブロック比:59wt%、ショアD硬度55)、中間層がL25である3層チューブを作製した。当該作製した3層チューブの内層の内径、および内層、中間層、外層チューブの外径はそれぞれ、0.37mm,0.48mm,0.82mmであり、0.90mmであった。また、実施例3と同様の方法を実施してバルーンをブロー成形により作製した。当該バルーンのブロー条件は、100℃ 3.3MPaで行った。耐圧試験を実施した結果、バースト圧は22.8MPa、バースト圧/膜圧は1.11(MPa/μm)と算出された。
【0111】
以上のことから、実施例3,4、および比較例2より、ポリアミド層(L25)と接着するポリアミドエラストマーにおけるポリアミドブロックの繰り返し単位の重量%が多い方が耐圧性も向上することが明らかとなった。これは、ポリアミドブロックの繰り返し単位の重量%が多いポリアミドエラストマーの方が、ポリアミド層と強固に熱接着することにより、密着力が向上するためと考えられる。
【0112】
(実施例8)
上記実施例3で作製したバルーン(外径3mm、長さ15mm)を製品形状にし、ガイドワイヤー(テルモ社製、商品名;RUNTHROUGH NS)を用いてバルーンの病変部通過性を評価した。市販の屈曲モデル(PTCAトレーナー&テクニカルガイド;メジカルセンス出版)で擬似蛇行血管への深部到達性を評価したところ、R11まで到達し、押し込み性・屈曲性・追随性、耐キンク性が良好であった。
【0113】
(実施例9)
上記実施例4に記載したバルーン(外径3mm、長さ15mm)を製品形状にし、ガイドワイヤー(テルモ社製、商品名;RUNTHROUGH NS)を用いてバルーンの病変部通過性を評価した。市販の屈曲モデル(PTCAトレーナー&テクニカルガイド;メジカルセンス出版)で擬似蛇行血管への深部到達性を評価したところ、R13まで到達し、押し込み性・屈曲性・追随性、耐キンク性は良好であった。
【0114】
(比較例3)
上記比較例2と同様の方法で外層、内層がPEBAX6333(アルケマ社製、商品名;PEBAX、ポリアミドブロック比:79wt%、ショアD硬度:63)、中間層がL25である3層チューブ(内層の内径、および内層、中間層、外層チューブの外径はそれぞれ、0.37mm,0.48mm,0.82mm、0.90mm)を作製した後、ブロー条件:100℃ 3.3MPaでブロー成形により作製したバルーン(外径3mm、長さ15mm)を製品形状にし、ガイドワイヤー(テルモ社製、商品名;RUNTHROUGH NS)を用いてバルーンの病変部通過性を評価した。上記モデルを用いて、擬似蛇行血管への深部到達性を評価したところ、R16までしか到達せず、押し込み性・屈曲性・追随性、耐キンク性は実施例5,6ほど良好ではなかった。
【0115】
以上のことから、実施例5,6、および比較例3より、外層がより硬度の低いポリアミドエラストマーからなるバルーンを用いれば、通過性が良くなることが判明した。これは外層の硬度が高いと、バルーンと擬似蛇行血管との衝突(摩擦)力が高くなるためと考えられる。
【符号の説明】
【0116】
1 カテーテル本体
2 筒状の膜状体
3a,3b 開口部
7a,7b カテーテルとの接続部
8 ポリアミドエラストマーを含む柔軟層
9 ポリアミドを含む硬質層
10 カテーテル
11 カテーテル用バルーン
12 外管
13 ハブ
14 内管
18 第1の開口部(ガイドワイヤーポート)
130 第2の開口部(インジェクションポート)
120 第2のルーメン
150 第1のルーメン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルから供給される流体により拡張収縮可能な膜状本体を有するカテーテル用バルーンであって、
前記膜状本体は、ポリアミドを含有する硬質層の表面に、ショアD硬度が62以下のポリアミドエラストマーを含有する柔軟層を備え、かつ前記柔軟層におけるポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上であることを特徴とする、カテーテル用バルーン。
【請求項2】
カテーテルから供給される流体により拡張収縮可能な筒状の膜状本体と、
前記膜状本体の軸方向両端から延伸され、かつ前記カテーテルと接続する接続部と、を有するカテーテル用バルーンであって、
前記膜状本体は、ポリアミドエラストマーを含有する柔軟層がポリアミドを含有する硬質層の表面に密着するように積層して形成され、前記柔軟層におけるポリアミドエラストマーのショアD硬度が62以下であり、かつ前記柔軟層におけるポリアミドエラストマーのアミドユニットの重量が60重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のカテーテル用バルーン。
【請求項3】
前記柔軟層におけるポリアミドエラストマーのアミドユニットは、以下の式(1)または式(2):
【化1】

(上記式(1)において、nは、5〜11の整数である。)
【化2】

(上記式(2)において、aは4〜12の整数、bは4〜10の整数である。)
で表される繰り返し単位の少なくともいずれか一方の繰り返し単位である、請求項1または2に記載のカテーテル用バルーン。
【請求項4】
前記ポリアミドエラストマーは、ポリアミドブロックコポリマーであり、かつ以下の式(3)または式(4):
【化3】

(上記式(3)中において、aは4〜12の整数、bは4〜10の整数、c,dは0〜100の整数、pは2〜4の整数、qは1〜100の整数であり、
Lnは、リンカー部位であり、−C(O)−R−C(O)−であり、
前記Rは、メチレン数が2〜12からなるアルキレン基である。)
【化4】

(上記式(4)中において、nは5〜11の整数、m,lは0〜100の整数、pは2〜4の整数、qは1〜100の整数であり、
Lnは、リンカー部位であり、−C(O)−R−C(O)−であり、
前記Rは、メチレン数が2〜12からなるアルキレン基である。)
のいずれかである、請求項1〜3に記載のカテーテル用バルーン。
【請求項5】
前記硬質層の両面に前記柔軟層が密着して形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のカテーテル用バルーン。
【請求項6】
先端が開口している第1のルーメンを有する内管と、
前記内管と同軸状に設けられ、当該内管の先端より所定長基端側に後退した位置に先端を有し、かつ当該内管の外面との間に第2のルーメンを有する外管と、
前記第2のルーメンと連通する開口部を備えたハブと、
前記内管に先端側が固定され、前記外管に基端側が固定され、内部が前記第2のルーメンと連通するバルーンと、を備え
前記開口部から流体を注入排出することにより前記バルーンの拡張収縮を操作する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバルーンを有するバルーンカテーテル。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−70956(P2013−70956A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214484(P2011−214484)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】