説明

カテーテル補助デバイス及びこのカテーテル補助デバイスを用いた透析用カテーテルセット

【課題】脱血不良を容易に解消できるようにしたカテーテル補助デバイス及びこのカテーテル補助デバイスを用いた透析用カテーテルセットを提供する。
【解決手段】デバイス50は、コネクター20と、コネクター20を介してカテーテル100の脱血用ルーメン110内に挿抜可能なシャフト13と、脱血用開口部111から突出可能な捕獲部11と、シャフト13と捕獲部11で少なくとも構成された本体部10と、コネクター20の内腔を密閉にしつつ、本体部10を挿通可能に支持するアダプター30と、を備え、陰圧発生器によってカテーテル100のルーメン内及びコネクター20の内腔を陰圧にした状態でシャフト13の脱血用ルーメン110内への挿抜動作を可能にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析中に発生する脱血不良を解消するようにしたカテーテル補助デバイス、及び、このカテーテル補助デバイスを用いた透析用カテーテルセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえば腎不全等の疾病により腎臓が充分に機能しなくなってしまったときに、人工透析を用いた治療法が行なわれている。人工透析のうちの血液透析は、透析用カテーテルを用いて、血液を体外(透析回路)に引き出し(脱血し)、透析回路で老廃物及び毒素を除去し、その血液を血管内に送り込む(送血する)ことで、患者の血液の一部を循環させることにより行なわれている。血液透析においては、安定的かつ十分な血流量を確保することが透析効果の向上に繋がる。
【0003】
血液透析に用いる透析用カテーテルとしては、内腔が脱血用及び送血用の2層のルーメンに分かれ、脱血用及び送血用の開口部がカテーテル本体の先端部側にそれぞれ設けられたダブルアクシャルタイプでエンドホールタイプのダブルルーメンカテーテルが多く使用されている。このようなダブルルーメンカテーテルは、たとえばカテーテルの剛性を高めるスタイレットやカテーテルを血管内に導くガイドワイヤーを用いて、カテーテルの先端部が血流と同じ方向を向くように大腿静脈や鎖骨下静脈等の血流の豊富な大径の血管内に留置されて利用される。そして、血液透析が実行されるようになっている。
【0004】
なお、ダブルアクシャルタイプでエンドホールタイプのダブルルーメンカテーテル以外のダブルルーメンカテーテルとしては、脱血用開口部が側孔としてカテーテル外周面に設けられるダブルアクシャルタイプのサイドホールタイプや、アウターカテーテルの内腔にインナーカテーテルを着脱可能にしたコアクシャルタイプ等が広く普及している。
【0005】
ところで、血液透析の代表的な合併症として脱血不良がある。脱血不良は、血栓やフィブリンシースによる脱血用開口部あるいはルーメンの閉塞、または、脱血用開口部の血管壁への吸着(へばりつき現象)等が原因で発生することがわかっている(たとえば、非特許文献1参照)。脱血不良が発生した場合、脱血用に使用されているルーメンと送血用に使用されているルーメンとを逆に使用して脱血不良に対処すること(いわゆる逆接続)があるが、バスキュラーアクセス再循環という現象を生じてしまう(たとえば、非特許文献2参照)。
【0006】
脱血不良が発生すると、安定的かつ十分な血流量が確保できず、透析効果の向上を図ることができない。通常、脱血不良が発生しても、原因はすぐにはわからない。術者は、脱血不良が発生した際に、シリンジを用いて脱血用ルーメンに吸引圧力をかけたり、生理食塩水を満たしたシリンジを接続して注入脱血を繰り返したり、することにより脱血不良を解消しようとする。これでも脱血不良が解消しない場合には、新しい透析用カテーテルに交換し、それを再度血管内に留置する必要がある。このように、血液透析中に脱血不良が発生すると術者及び患者の双方に多くの負担を強いることになる。また、新しい透析用カテーテルに交換しなければならない場合、経済的なロスも少なくない。
【0007】
エンドホールタイプを採用したものとして、「1本のカテーテル内を長手方向に仕切って設けた2つのルーメンを通じて血液を脱返血するダブルルーメンカテーテルにおいて、返血ルーメンはカテーテル先端まで貫通してエンドホール型の開口部を介して外部と通じており、脱血ルーメンは返血ルーメンの開口部より基部側に隔てた位置でエンドホール型の開口部を介して外部と通じるとともに、脱血ルーメンの開口部より先端部側においては狭径部を形成し、さらに、該狭径部において脱血ルーメンの開口部が位置する側の側壁に返血ルーメンから外部に通じる側孔を設けたバスキュラーアクセスカテーテル」が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0008】
また、血管内の血栓を取り除くためのものとして、「1つ以上の遠位要素が設けられたガイドワイヤを含む、体腔および血管から異物や血栓を除去するための装置であって、前記遠位要素が、互いに撚り合わされた少なくとも2本のコアワイヤからなり、その間には、該コアワイヤの伸びる方向に対して横向きにファイバーが配置され、前記ファイバーが、前記遠位要素から放射状に外向きに突出するように、前記コアワイヤと一緒に前記ファイバーが撚られている装置」が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−132256号公報
【特許文献2】特表2009−514630号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】大平整爾、久木田和丘、天野泉、内藤秀宗:「バスキュラーアクセス」、中外医学社、第6章
【非特許文献2】武藏健裕、焼廣益秀、二宮信治、清水希功:「ダブルルーメンカテーテルにおけるバスキュラーアクセス再循環増加因子の検討」、医療工学雑誌、第2号、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載されている技術は、カテーテルの先端部の構造を工夫することで脱血不良の発生原因のうちの「へばりつき現象」を防ぐようにしたものである。しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、血栓やフィブリンシースによる脱血用開口部あるいはルーメンの閉塞に関しては、充分に解決されていないという問題があった。また、特許文献2に記載されている技術は、血管内の血栓を除去するためのものであり、脱血不良を解消するために用いるには更なる改良が必要であることがわかる。
【0012】
すなわち、上記の特許文献に記載されている技術や周知の技術のいずれであっても、脱血不良の発生原因である血栓やフィブリンシースによる脱血用開口部あるいはルーメンの閉塞、及び、へばりつき現象の双方が充分に解決されていないというのが現状である。加えて、緊急性の高い患者に対しても容易に施術することができ、術者の経験に依存することなく安定的に施術することができる使い勝手のよい脱血不良解消用のデバイスが望まれている。
【0013】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、脱血不良を容易に解消できるようにしたカテーテル補助デバイス及びこのカテーテル補助デバイスを用いた透析用カテーテルセットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るカテーテル補助デバイスは、透析用カテーテルを使用した血液透析中に発生する脱血不良を解消するために用いるカテーテル補助デバイスであって、内腔を有し、透析用カテーテル及び陰圧発生器が接続されるコネクターと、コネクターを介して透析用カテーテルのルーメン内に挿抜可能なシャフトと、シャフトの先端側に設けられ、透析用カテーテルのルーメンの先端開口部から突出可能な捕獲部と、コネクターの内腔を密閉にしつつ、シャフトを挿通可能に支持するアダプターと、を備え、陰圧発生器によって透析用カテーテルのルーメン内及びコネクターの内腔を陰圧にした状態でシャフトのルーメン内への挿抜動作を可能にしているものである。
【0015】
本発明に係るカテーテル補助デバイスは、捕獲部が、透析用カテーテルのルーメンの内壁に当接するように透析用カテーテルのルーメン内を挿抜されることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るカテーテル補助デバイスは、捕獲部が、スポンジ状、ブラシ状、スネア状、バスケット状、あるいは、バルーン状に構成されているものである。
【0017】
本発明に係るカテーテル補助デバイスは、陰圧発生器が、シリンジあるいは陰圧発生源を備えた装置で構成されているものである。
【0018】
本発明に係るカテーテル補助デバイスは、陰圧発生器がシリンジであるものにおいて、シリンジが陰圧状態を維持する機能を有しているものである。
【0019】
本発明に係るカテーテル補助デバイスは、アダプターが、トイボーストアダプターからなるものである。
【0020】
本発明に係る透析用カテーテルセットは、内腔が少なくとも2層のルーメンに分かれ、先端開口部がそれぞれ先端部側に設けられたカテーテル本体と、カテーテル本体のルーメンの数に対応してルーメンを分岐する分岐部と、分岐部により分岐された各ルーメンに接続する枝管と、を有し、カテーテル本体に着脱自在に透析回路を接続することで血液透析を実行する透析用カテーテルと、血液透析中に脱血不良が発生した際に、シャフトがカテーテル本体のルーメンのいずれかに挿通される上記のカテーテル補助デバイスと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るカテーテル補助デバイスによれば、捕獲部を設けたシャフトのルーメン内への挿抜動作によって、複雑な構成にすることなく、脱血不良に容易かつ迅速に対応することができる。
【0022】
本発明に係るカテーテル補助デバイスによれば、捕獲部が透析用カテーテルのルーメンの内壁に当接するように透析用カテーテルのルーメン内を挿抜されるので、血栓やフィブリンシースを効率的に引き抜くことが可能になる。
【0023】
本発明に係るカテーテル補助デバイスによれば、捕獲部が球スポンジ状、ブラシ状、スネア状、バスケット状、あるいは、バルーン状に構成されているので、複雑な形状にすることなく捕獲部を構成することができる。
【0024】
本発明に係るカテーテル補助デバイスによれば、陰圧発生器がシリンジあるいは陰圧発生源を備えた装置で構成されているので、脱血送血機能を併せ持つとともに、複雑な操作を要することなく、脱血不良に対応することが可能になる。また、シリンジは、陰圧を発生できるということに加え、血液や生理食塩水を血管に注入したり、血液(血栓を含む)を採取したりできるという効果を有している。
【0025】
本発明に係るカテーテル補助デバイスによれば、陰圧発生器がシリンジであるものにおいて、シリンジが陰圧状態を維持する機能を有しているので、複雑な装置を用いなくても陰圧状態を維持することが可能になる。
【0026】
本発明に係るカテーテル補助デバイスによれば、アダプターがトイボーストアダプターからなるので、複雑な構成部品を要することがない。
【0027】
本発明に係る透析用カテーテルセットによれば、内腔が少なくとも2層のルーメンに分かれ、先端開口部がそれぞれ先端部側に設けられたカテーテル本体と、カテーテル本体のルーメンの数に対応してルーメンを分岐する分岐部と、分岐部により分岐された各ルーメンに接続する枝管と、を有し、カテーテル本体に着脱自在に透析回路を接続することで血液透析を実行する透析用カテーテルと、血液透析中に脱血不良が発生した際に、シャフトがカテーテル本体のルーメンのいずれかに挿通される上記のカテーテル補助デバイスと、を備えたので、複雑な構成にすることなく、脱血不良に容易かつ迅速に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るカテーテル補助デバイスを模式的に示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るカテーテル補助デバイスを用いた透析用カテーテルセットを模式的に示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る透析用カテーテルセットの先端部を拡大して示した拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るカテーテル補助デバイス(以下、単にデバイス50と称する)を模式的に示す模式図である。図2は、デバイス50を用いた透析用カテーテルセット(以下、単にカテーテル100と称する)を模式的に示す模式図である。図3は、カテーテル100の先端部を拡大して示した拡大模式図である。図1〜図3に基づいて、デバイス50の構成及び動作について説明する。このデバイス50は、血液透析中(特に、血液透析開始時)に発生する脱血不良を解消するために用いられるものである。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0030】
デバイス50は、カテーテル100に使用され、血液透析中に発生する脱血不良である脱血用開口部111又はルーメン(特に脱血用ルーメン110)の閉塞、及び、へばりつき現象の双方を、構成を複雑にすることなく、容易に解消するために用いられるものである。図2では、カテーテル100が、内腔が2層のルーメン(脱血用ルーメン110、送血用ルーメン150)に分かれ、先端開口部である脱血用開口部111及び送血用開口部151がカテーテル本体101の先端部側にそれぞれ設けられたエンドホールタイプのダブルルーメンカテーテルである場合を示している。
【0031】
また、カテーテル100は、カテーテル本体101の他に分岐部120、及び、脱血用枝管115、送血用枝管155を備えている。つまり、カテーテル100は、脱血用ルーメン110及び送血用ルーメン150が分岐部120、及び、脱血用枝管115、送血用枝管155のそれぞれを介して外部の透析回路に接続されるようになっている。分岐部120は、血管に留置するカテーテル本体101と、枝管(脱血用枝管115、送血用枝管155)のそれぞれと、を連通する流路を備えている。つまり、分岐部120は、複数の枝管のそれぞれを、カテーテル本体101のそれぞれのルーメンに連通する機能を有している。
【0032】
この分岐部120は、たとえば各枝管の各開口端からカテーテル本体101のルーメン内に棒状部材を挿入し、それを金型に装着し、金型に形成してある樹脂注入口から溶融した合成樹脂を注入し、合成樹脂の固化後、金型を取り外し、棒状部材を抜去することで形成することができる。そして、接続チューブである脱血用枝管115の基端側には、脱血側コネクター116が装着され、脱血側コネクター116及び脱血用枝管115を介して外部の透析回路が脱血用ルーメン110に接続されることになる。同様に、接続チューブである送血用枝管155の基端側には、送血側コネクター156が装着され、送血側コネクター156及び送血用枝管155を介して外部の透析回路が送血用ルーメン150に接続されることになる。
【0033】
また、脱血側コネクター116及び送血側コネクター156は、枝管と外部装置(デバイス50だけでなく、たとえば透析回路に接続されているチューブや、別のコネクター、シリンジ等)との接続を容易にできるような構成にするとよい。脱血側コネクター116及び送血側コネクター156の構成を特に限定するものではないが、たとえば雄ルアーコネクター(又は雌ルアーコネクター)が装着可能な雌ルアーコネクター(又は雄ルアーコネクター)として構成するとよい。また、外部装置との接続を確実にするために、図2に示すようなネジ式のロック機構を備えた脱血側コネクター116及び送血側コネクター156を採用してもよい。さらに、ロックリング等の締結部材を別途設け、外部装置と接続できるような構成としてもよい。
【0034】
なお、脱血用枝管115と送血用枝管155との機能が入れ替わってもよい。この場合には、脱血用ルーメン110と送血用ルーメン150との機能も入れ替わることになる。つまり、脱血用、送血用として説明しているが、便宜的に名称を付しているだけであり、使用状況によって機能が入れ替わることもあるのである。
【0035】
デバイス50の構成について説明する。図1に示すように、デバイス50は、本体部10と、コネクター20と、アダプター30と、を有している。このデバイス50は、本体部10を図2に示すカテーテル100の脱血用ルーメン110に挿抜可能に構成され、脱血不良を解消するために利用される。なお、図2では、アダプター30に陰圧発生器の一例であるシリンジ60が接続されている状態を例に示している。
【0036】
本体部10は、コネクター20を介してカテーテル100の脱血用ルーメン110内に挿抜可能に構成されている。したがって、本体部10(特にシャフト13)は、カテーテル100の形状に応じて変形できる程度の剛性を備えた材料(たとえば、合成樹脂や金属等)で構成するとよい。たとえば、カテーテル100を血管内に留置する際に使用するスタイレット等に本体部10を兼用させるようにしてもよい。本体部10は、先端(挿入側端)側に設けた捕獲部11と、基端(コネクター20側端)側に設けた操作部12と、捕獲部11と操作部12とを接続するシャフト13と、で構成されている。
【0037】
捕獲部11は、カテーテル100のルーメン(特に脱血用ルーメン110)の内壁に当接する程度の外径を有し、脱血用開口部111から突出可能に構成されている。つまり、捕獲部11は、脱血用開口部111から突出することで脱血用開口部111と血管壁との間に空間を形成して「へばりつき現象」を解消可能にすることが可能になっているとともに、脱血用開口部111の周辺やルーメン内に存在している血栓やフィブリンシースを捕獲、除去して脱血用開口部111及びルーメンを閉塞させないようにすることが可能になっている(図3参照)。
【0038】
捕獲部11は、シャフト13に対して、傾けたり、曲げたりするようにして構成してもよい。このようにすれば、より効果的に「へばりつき」を防止することが可能になる。この捕獲部11は、たとえば球形状や楕円球形状等の形状にするとよく、またスポンジ状、ブラシ状、バルーン状、弾性ワイヤーで構成されるスネア状、複数本の弾性ワイヤーで構成されるバスケット状等からなるもので構成するとよい。ただし、捕獲部11の形状をここに示す形状に限定するものではない。なお、スネア状とは、弾性ワイヤーをループ状にした形状のことである。また、バスケット状とは、複数本の弾性ワイヤーのそれぞれでループを形成し、そのループを立体的に配置した形状のことである。
【0039】
ここでは、捕獲部11をシャフト13の先端に設けた状態を例に示しているが、この位置に限定するものではなく、捕獲部11をシャフト13の先端から基端側に多少ずらした位置に設けるようにしてもよい。また、捕獲部11の構成材料を特に限定するものではないが、血管を傷つけにくい材料(たとえば、合成樹脂、ステンレス等)で構成するとよい。また、捕獲部11は、カテーテル100のルーメン内に挿入した際に内壁に当接する程度まで縮まるような外径を有するもので構成してもよい。
【0040】
操作部12は、術者に本体部10の挿抜動作を実行させるものである。したがって、操作部12は、術者が操作しやすいように、つまみやすい形状に構成しておくとよい。また、操作部12は、その本体にたとえばロックリング等を付加しておき、アダプター30に固定可能にしておくとよい。そうすれば、デバイス50の構成部品をまとめておくことが可能になる。なお、操作部12をアダプター30へ固定可能にした場合、その固定の仕方を特に限定するものではなく、締結や嵌合によって固定可能になっていればよい。
【0041】
シャフト13は、カテーテル100のルーメン内を挿抜される程度の径を有し、デバイス50が用いられるカテーテル100の形状に応じて変形できる程度の剛性を備えたものである。なお、シャフト13の長さは、アダプター30で調整することが可能であるため特に限定するものではない。また、シャフト13の先端側に設けた捕獲部11、及び、シャフト13の基端側に設けた操作部12を、シャフト13と一体形成された構成にしてもよく、シャフト13に着脱自在に取り付けるように構成してもよい。
【0042】
コネクター20は、内腔を有し、少なくとも3つの開口部(開口部21、開口部22、開口部23)を有するように構成されている。開口部21は、たとえば脱血側コネクター116を介してカテーテル100が接続されるようになっている。開口部22は、アダプター30が接続されるようになっている。開口部23は、陰圧発生器であるシリンジ60が接続されるようになっている。なお、各開口部に雌ネジ(又は雄ネジ)を備え、それぞれの接続対象物(たとえば、脱血側コネクター116、アダプター30、シリンジ60)に形成されている雄ネジ(又は雌ネジ)に対応させ、両者を接続するようにしてもよい。また、各開口部に雄ルアー(又は雌ルアー)構造を採用し、それぞれの接続対象物に形成されている雄ルアー(又は雌ルアー)に対応させ、両者の接続を容易にするようにしてもよい。
【0043】
つまり、本体部10は、コネクター20を介してカテーテル100のルーメン内に挿抜可能になっている。したがって、本体部10(特にシャフト13)は、コネクター20を貫通するようになっており、操作部12を介して操作され、コネクター20に対して可動になっているのである。なお、コネクター20と接続対象物(分岐部120や、アダプター30、陰圧発生器等)とは、たとえば締結や嵌合によって接続可能にしておくとよい。なお、コネクター20の形状や構成を図示しているものに限定するものではないが、たとえば図1及び図2に示すようなY型形状のコネクターをコネクター20として採用するとよい。
【0044】
アダプター30は、コネクター20が脱血側コネクター116と接続された状態(つまり、デバイス50がカテーテル100に使用される状態)において、コネクター20の内腔を密閉状態にしつつ、本体部10の挿抜動作を可能とするものである。つまり、アダプター30は、本体部10が挿通可能に支持する貫通孔を有しており、本体部10が挿通されている状態であってもコネクター20の内腔を密閉状態にすることが可能に構成されている。したがって、本体部10(特にシャフト13)は、コネクター20とともにアダプター30を貫通するようになっており、操作部12を介して操作され、コネクター20及びアダプター30に対して可動になっているのである。
【0045】
なお、アダプター30は、以上のような機能を備えていればよく、構成部材を特に限定するものではないが、たとえばトイボーストアダプターや逆止弁、逆流防止機構を備えた部材等の比較的簡易な構成備品で構成するとよい。また、ここでは、コネクター20とアダプター30を分けて説明したが、コネクター20とアダプター30とが一体となって構成されているものを採用してもよい。さらに、トイボーストアダプターや逆止弁、逆流防止機構を備えた部材等のアダプター30を構成する部品にも、コネクター20の開口部22の構造に対応させて、雌ネジ(又は雄ネジ)構造、及び、雄ルアー(又は雌ルアー)構造の少なくとも1つを備えるようにしてもよい。
【0046】
トイボーストアダプターについて説明する。トイボーストアダプターは、回転することで開閉可能な弁を備えたアダプターである。つまり、トイボーストアダプターは、ネジ回転式で開閉する弁を備え、ネジを閉めることで弁を閉塞し、内腔を密閉化することができる機能を有している。弁にシャフト13の挿通用の孔を設け、アダプター30としてトイボーストアダプターを適用すれば、弁の閉塞により内腔を密閉化できるとともに、シャフト13の動作を制限することもできる。つまり、ネジを強く閉めれば、シャフト13を貫通している孔も閉まることになり、シャフト13の動作を拘束することができる。反対に、弁を弱く閉めれば、内腔の密閉化を維持した状態でシャフト13を動作させることが可能になる。
【0047】
シリンジ60は、コネクター20の内腔及びカテーテル100のルーメン内を陰圧にするものである。シリンジ60は、開口部23を介してコネクター20に直接的に接続され、脱血用開口部111を介して吸引力を発生させるようになっている。なお、図2では、陰圧発生器としてシリンジ60を例に図示しているが、陰圧発生器をシリンジ60に限定するものではなく、コンプレッサー等の陰圧発生源を備えた装置であってもよい。また、陰圧発生器をたとえば柔軟なポリ塩化ビニル製のチューブ等を介して間接的にコネクター20に接続するようにしてもよい。
【0048】
図2により、シリンジ60を更に詳しく説明する。図2に示すシリンジ60は、陰圧状態を維持することができる機能を有しているものである。陰圧状態とは、注射筒62の内部圧力が、注射筒62の外部圧力よりも小さくなっている状態であり、密閉された状態でプランジャー63が引かれることにより実現することができる。図2に示すように、シリンジ60は、先端接続部61と、注射筒62と、プランジャー63と、を少なくとも有している。
【0049】
先端接続部61は、注射筒62の先端側に設けられ、コネクター20の開口部23の構造に応じてたとえば嵌合又は螺合することによりコネクター20に取り付けられるものである。先端接続部61は、内部に貫通穴が形成され、注射筒62内に作用する圧力をコネクター20に伝達する機能を有している。この先端接続部61は、注射筒62と一体的に形成されており、注射筒62と同様の材料たとえばプラスチック等の合成樹脂で構成するとよい。
【0050】
注射筒62は、筒体であって、先端接続部61の取付端部(先端部)が貫通穴を有した有底形状となっており、先端接続部61を介してアダプター30と連通するようになっている。注射筒62は、たとえば透明性の高い合成樹脂を用い、断面形状が円形状や多角形状(たとえば、六角形状や八角形状)となるように形成するとよい。また、注射筒62の基端には、プランジャー63の押し引き動作を行なう際に術者が指を引っかけることができるフランジ64が設けられている。さらに、注射筒62の外周には、術者の操作を更に容易にするために、術者の指が引っかけられる操作補助部65が設けられている。
【0051】
図2に示すシリンジ60には後述するバネ67が設けられているため、術者は操作補助部65に指を引っかけてプランジャー63の押し引き操作(特に引き操作)ができるようになっている。バネ67はプランジャー63を引っ張る方向に付勢されているので、プランジャー63を押し込む際に、術者には通常の力(バネが設けられていない場合に要求される力)以上の力が要求される。そこで、操作補助部65を設けることで、プランジャー63の押し引き操作を確実かつ容易に実行することができる。なお、フランジ64及び操作補助部65は、必須の構成ではない。
【0052】
プランジャー63は、注射筒2内に押し引きされることで注射筒2の内部圧力を変化させるものである。このプランジャー63は、たとえば合成樹脂を用いて形成するとよい。また、プランジャー63には、その外周を覆うようにバネ67が設けられている。このバネ67は、プランジャー63に対して、プランジャー63を引っ張る方向に常に力がかかるように機能している。バネ67を設けることで、術者が手を放した状態においても注射筒62内の陰圧状態を維持することが可能になる。これにより、術者が1人でも操作可能になり、より使い勝手の向上したものになる。
【0053】
なお、プランジャー63の先端には、外周面が注射筒62の内壁に当接することで、先端接続部61の貫通穴、その貫通穴に連通する注射筒62内部を気密状態にするガスケット68が取り付けられている。また、プランジャー63の基端には、術者の操作を補助するプランジャー操作部66が設けられている。術者は、プランジャー操作部66に指を入れたり、引っ掛けたりしてプランジャー63を操作することが可能になる。プランジャー操作部66の形状を図示してあるものに限定するものではないことは言うまでもない。
【0054】
以上のように構成されたデバイス50を用いることによって、カテーテル100のルーメン内、カテーテル100のルーメンと連通するコネクター20内、及び、カテーテル100のルーメンと連通するアダプター30内の一連の系(分岐部120や枝管も含む)を陰圧状態に保つことができ、その状態で本体部10の挿抜動作を実行することができる。このような機能を持つデバイス50をカテーテル100に適用することで、血液透析中に発生する脱血不良を容易かつ迅速に解消することが可能になっている。なお、脱血用開口部111が開放されている場合は陰圧状態から短時間で常圧状態に戻るが、血栓やフィブリンシース等で閉塞されている場合は陰圧状態が長時間保たれることになる。
【0055】
血液透析中におけるデバイス50の作用について説明する。
血液透析を行う場合、カテーテル100をたとえばセルジンガー法を用いて目的とする血管(たとえば、大腿静脈や鎖骨下静脈等の血流の豊富な大径の静脈等)に留置する。つまり、目的とする血管に挿入された図示省略のガイドワイヤーを、カテーテル100のカテーテル本体の送血用ルーメン150に挿通された図示省略スタイレットの先端開口部から挿入して、カテーテル100をスタイレットとともにガイドワイヤーに沿って押し進め、カテーテル100を血管に挿入する。スタイレットを使用することで、カテーテル100を円滑に血管内に挿入することが可能になる。
【0056】
そして、血流と同じ方向にカテーテル100の先端を向け、ガイドワイヤー及びスタイレットを抜去し、カテーテル100を血管内に留置する。それから、脱血用ルーメン110及び送血用ルーメン150を分岐部120、及び、脱血用枝管115、送血用枝管155を介して外部の透析回路に接続する。この状態で、血管を流れる血液を脱血用ルーメン110の脱血用開口部111を介して脱血し、浄化された血液を送血用ルーメン150の送血用開口部151を介して血管内に送血する。
【0057】
血液透析中、脱血用開口部111には吸引力が発生しているため、脱血用開口部111が血管壁に吸着してしまうことがある。また、血液透析中、脱血用開口部111には吸引力が発生しているため、血栓やフィブリンシースが脱血用開口部111又は脱血用ルーメン110を閉塞してしまうことがある。これらが発生すると、脱血不良となり、透析効率が悪化することになる。従来は、血液透析中に脱血不良が発生した場合、シリンジを用いて脱血用ルーメンに吸引圧力をかけたり、生理食塩水を満たしたシリンジを接続して注入脱血を繰り返したり、することにより血栓やフィブリンシースをシリンジ内に回収して除去するようにしていた。これで脱血不良が解消すればよいが、脱血不良の解消はそんなに簡単な問題ではない。
【0058】
通常、脱血不良となっていることが分かっても、その原因までは分からない。原因不明のままで同様の手技を繰り返しても、脱血不良の早期解決を図ることはできない。また、血液透析を迅速に実行しなければならないような緊急事態の場合にも備えておく必要がある。さらに、同様の手技を繰り返し実施すれば、その分だけで患者に与える負担が大きくなることにもなる。脱血不良の解消を術者の経験に依存することになれば、術者の負担も大きいものとなる。
【0059】
そこで、脱血不良が生じた場合、デバイス50を使用することで、脱血不良を容易に解消することができる。脱血不良が生じた場合、術者は、コネクター20の開口部21をカテーテル100の脱血側コネクター116に接続する。カテーテル100にデバイス50を接続したら、術者は、デバイス50の操作部12を操作して本体部10を脱血用ルーメン110内に挿入していく。なお、この時点においては、コネクター20の内腔及びカテーテル100のルーメン内は常圧状態である。
【0060】
術者は、まず脱血用開口部111に吸着している血管壁を突き破らない程度の長さで捕獲部11を脱血用開口部111から突出させる。それから、術者は、アダプター30を操作して(トイボーストアダプターである場合にはネジを閉めて)、コネクター20、及び、脱血用枝管115、分岐部120、送血用枝管155を密閉状態にした後、シリンジ60のプランジャー63を引いて注射筒62に陰圧をかける。この状態で注射筒62内にスムーズに血液が流れ陰圧状態から常圧状態に戻った場合には、脱血不良の原因が「へばりつき現象」であったことが判明するとともに、「へばりつき現象」を解消できたことを確認できる。
【0061】
つまり、脱血不良の原因が「へばりつき現象」であった場合、捕獲部11を脱血用開口部111から突出させることで、脱血用開口部111と血管壁との間に空間を形成し、血液流路となる空間を確保することができるようにしている。よって、この操作で、脱血不良が解消した場合には、デバイス50を使用した状態で血液透析を継続することができる。この場合、シリンジ60を取り外し、コネクター20の開口部22に透析回路を接続すればよい。なお、アダプター30を操作した(トイボーストアダプターの弁を閉めた)とき、本体部10はアダプター30の作用で動きが規制されている。
【0062】
捕獲部11を脱血用開口部111から突出させても脱血不良が解消しない、つまりシリンジ60の注射筒62内にスムーズに血液が流れず、陰圧状態が保たれている場合には、脱血用開口部111付近の血栓やフィブリンシースの存在によって、脱血不良が発生していると判断できる。そこで、デバイス50では、シリンジ60の吸引力によって、脱血用開口部111に血栓やフィブリンシースを集めることを可能にしている。つまり、陰圧をかけた状態で(トイボーストアダプターの場合にはネジを少し緩め、陰圧状態を維持しつつ本体部10を可動可能にした状態で)、本体部10を脱血用ルーメン110から引き抜けば、脱血用開口部111に集まっている血栓やフィブリンシースを捕獲部11に捕獲した状態で、除去することができる。
【0063】
そして、アダプター30又はコネクター20を取り外し、デバイス50を抜去することで、血栓やフィブリンシースをデバイス50ごとカテーテル100から除去することが可能になる。すなわち、デバイス50は、脱血不良の原因が、「へばりつき現象」ではなく、血栓やフィブリンシースの存在によるものであった場合にも対応可能となっており、複雑な操作を要することなく脱血不良を解消できるのである。
【0064】
以上のように、デバイス50を使用すれば、容易かつ迅速に脱血不良に対応することができる。また、デバイス50は、カテーテル100が長期留置型、短期留置型のいずれにも使用することができるものの、より緊急性を要する事態では極めて効果が高いものとなる。さらに、デバイス50は、複雑な操作を要することなく脱血不良を解消することができるので、術者の経験に依存することなく安定的な施術が可能になる。よって、デバイス50は、非常に使い勝手がよく、術者及び患者に与える負担を大幅に低減することが可能になる。加えて、デバイス50を用いたカテーテル100においても、同様の効果を有することになる。
【0065】
なお、ここでは、操作の更なる容易化を図るために陰圧発生器にシリンジ60を用いたが、術者の人数や患者の容態等、様々な状況に対応するために、デバイス50に接続する陰圧発生器を適宜変更すればよい。また、3つの開口部を備えたコネクター20を例に示したが、開口部の個数を特に限定するものではない。たとえば、4つの開口部を備えたコネクターを用いて、空いている開口部に透析回路を接続するようにしておいてもよい。さらに、デバイス50をスタイレットに兼用させれば、製造に要する手間及びコストを大幅に低減することも可能になる。
【符号の説明】
【0066】
10 本体部、11 捕獲部、12 操作部、13 シャフト、20 コネクター、21 開口部、22 開口部、23 開口部、30 アダプター、50 デバイス、60 シリンジ、61 先端接続部、62 注射筒、63 プランジャー、64 フランジ、65 操作補助部、66 プランジャー操作部、67 バネ、68 ガスケット、100 カテーテル、101 カテーテル本体、110 脱血用ルーメン、111 脱血用開口部、115 脱血用枝管、116 脱血側コネクター、120 分岐部、150 送血用ルーメン、151 送血用開口部、155 送血用枝管、156 送血側コネクター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析用カテーテルを使用した血液透析中に発生する脱血不良を解消するために用いるカテーテル補助デバイスであって、
内腔を有し、前記透析用カテーテル及び陰圧発生器が接続されるコネクターと、
前記コネクターを介して前記透析用カテーテルのルーメン内に挿抜可能なシャフトと、
前記シャフトの先端側に設けられ、前記透析用カテーテルのルーメンの先端開口部から突出可能な捕獲部と、
前記コネクターの内腔を密閉にしつつ、前記シャフトを挿通可能に支持するアダプターと、を備え、
前記陰圧発生器によって前記透析用カテーテルのルーメン内及び前記コネクターの内腔を陰圧にした状態で前記シャフトの前記ルーメン内への挿抜動作を可能にしている
ことを特徴とするカテーテル補助デバイス。
【請求項2】
前記捕獲部は、
前記透析用カテーテルのルーメンの内壁に当接するように前記透析用カテーテルのルーメン内を挿抜される
ことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル補助デバイス。
【請求項3】
前記捕獲部は、
スポンジ状、ブラシ状、スネア状、バスケット状、あるいは、バルーン状に構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のカテーテル補助デバイス。
【請求項4】
前記陰圧発生器は、
シリンジあるいは陰圧発生源を備えた装置で構成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のカテーテル補助デバイス。
【請求項5】
前記陰圧発生器がシリンジであるものにおいて、
前記シリンジが陰圧状態を維持する機能を有している
ことを特徴とする請求項4に記載のカテーテル補助デバイス。
【請求項6】
前記アダプターは、
トイボーストアダプターからなる
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のカテーテル補助デバイス。
【請求項7】
内腔が少なくとも2層のルーメンに分かれ、先端開口部がそれぞれ先端部側に設けられたカテーテル本体と、前記カテーテル本体のルーメンの数に対応してルーメンを分岐する分岐部と、前記分岐部により分岐された各ルーメンに接続する枝管と、を有し、前記カテーテル本体に着脱自在に透析回路を接続することで血液透析を実行する透析用カテーテルと、
血液透析中に脱血不良が発生した際に、前記シャフトが前記カテーテル本体のルーメンのいずれかに挿通される請求項1〜6のいずれか一項に記載のカテーテル補助デバイスと、
を備えた
ことを特徴とする透析用カテーテルセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−34721(P2012−34721A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174714(P2010−174714)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000228888)日本コヴィディエン株式会社 (170)
【Fターム(参考)】