説明

カドミウムの分離回収方法及び装置

【課題】 カドミウム含有廃棄物から金属カドミウムを確実に分離、回収する方法および装置を提供する。
【解決手段】 カドミウム含有廃棄物に所定の前処理を施し当該廃棄物を粉粒状にする前処理工程と、デンプン懸濁液またはナノバブル水を添加しながらまたはこれを添加した後に撹拌混合して微細な気泡が分散する組織を有する混練物を得る混合撹拌工程と、当該混練物を成形し、その外形形状を保持可能な程度の強度を有する成形体を得る成形工程と、真空雰囲気中で前記成形物を加熱してカドミウム単体を揮発させ、これを排気する真空加熱工程と、当該排気を冷却して金属カドミウムを析出させる分離回収工程とを含むことを特徴とするカドミウムの分離回収方法、及び当該方法を実施するための装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属、特にカドミウムを含有する廃棄物(以下、カドミウム含有廃棄物という。)から金属カドミウムを分離除去し回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固体状廃棄物や汚染土壌などに含有される重金属、特にカドミウムは、社会的に問題となっていることから、分離除去する必要がある。例えば、ホタテのウロなどの魚介類の加工残滓は、通常、処理施設に貯蔵されるが、貯蔵中におけるアンモニアガスの発生などに起因する悪臭の発生や周辺植物の立ち枯れ現象などの環境問題を引き起こしている。また、このような加工残滓はカドミウムを含有している場合が多く、それが徐々に溶出し、貯蔵施設周辺の土壌を汚染させ、さらには地下水脈や河川水の汚染に発展することが懸念されているところである。そして、他の産業廃棄物の中にもカドミウムを含有するものがあり、処理施設や貯蔵施設の周辺の土壌にカドミウムが流出する事態が生じており、当該他の産業廃棄物だけでなく、土壌についてもカドミウム汚染が発生している。
【0003】
このような状況にて、前記のホタテウロやその他の魚介類の加工残滓などの産業廃棄物をはじめ、水田や河川などの土壌などのカドミウム含有廃棄物からのカドミウムの分離除去法について種々の提案がなされている(例えば、特許文献1および2参照)。また、近年では、新たに他の物質にカドミウムを吸着させて除去する提案もなされ、実用化されている。しかし、これらの提案に係る技術はいずれもカドミウムを化合物として除去するものであり、カドミウムが吸着された物質はそのまま貯蔵などされているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−137825号公報
【特許文献2】特開平9−217131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記事情に鑑み、カドミウム含有廃棄物から金属カドミウムを確実に分離、回収する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的は、本発明の一局面によれば、カドミウム含有廃棄物に所定の前処理を施し当該廃棄物を粉粒状にする前処理工程と、デンプン懸濁液またはナノバブル水を添加しながらまたはこれを添加した後に撹拌混合して微細な気泡が分散する組織を有する混練物を得る混合撹拌工程と、当該混練物を成形し、その外形形状を保持可能な程度の強度を有する成形体を得る成形工程と、真空雰囲気中で前記成形物を加熱してカドミウム単体を揮発させ、これを排気する真空加熱工程と、当該排気を冷却して金属カドミウムを析出させる分離回収工程とを含むことを特徴とするカドミウムの分離回収方法によって達成される。
【0007】
また、前記目的は、本発明の別の局面によれば、カドミウム含有廃棄物に所定の前処理を施し当該廃棄物を粉粒状にする前処理装置と、デンプン懸濁液またはナノバブル水を添加しながらまたはこれを添加した後に撹拌混合して微細な気泡が分散する組織を有する混練物を得る混合撹拌装置と、当該混練物を成形し、その外形形状を保持可能な程度の強度を有する成形体を得る成形装置と、真空雰囲気中で前記成形物を加熱してカドミウム単体を揮発させ、これを排気する真空加熱装置と、当該排気を冷却して金属カドミウムを析出させる冷却装置とを含むことを特徴とするカドミウムの分離回収装置によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前処理によって粉粒状にしたカドミウム含有廃棄物に結合材及び水を添加し所定の気孔率を示しその外形形状を保持する程度の強度を示す成形体を得、これを真空雰囲気中で加熱し、カドミウム単体を揮発させるようにしたので、揮発したカドミウム単体蒸気を冷却することで、金属カドミウムをより確実に分離回収することができる。また、真空雰囲気中で加熱することから、大気圧下で加熱する場合よりも加熱温度を相対的に低く設定できるので、省エネルギーにも貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のカドミウム分離回収方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明における前処理装置の一例を示す図である。
【図3】本発明における真空加熱装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図1を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明におけるカドミウム含有廃棄物としては、例えば、カドミウムを主に含有するホタテウロやイカなどの魚介類の加工残滓、カドミウムなどの重金属で汚染された汚染土壌、カドミウムを含有する金属廃棄物、カドミウム化合物の付着したフィルターなどの捕集材などの産業廃棄物などが含まれる。なお、以下では、用語「カドミウム含有廃棄物」を単に「廃棄物」ということがある。
【0011】
[前処理]
本発明においては、まずカドミウム含有廃棄物に対し前処理を施す(S01)。この前処理には、次に示すような方法が採用される。
(1)粉砕、分級
カドミウム含有廃棄物中に塊があれば、粉砕によりこれを粉粒状にするとともに、廃棄物全体として粒度を小さくしてその表面積を大きくし、さらに分級により所定の粒度よりも微細な粉砕産物を抽出するものである。粉砕に使用される粉砕機は、従来公知のものの中からカドミウム含有廃棄物の有姿及び性状、粉砕能力、粉砕処理量などを考慮して適宜選択できる。また、分級には、従来公知の乾式分級機または湿式分級機を用いることができるが、少量の場合などでは、篩を用いることもできる。前記所定の粒度は、例えば篩の場合、12メッシュ篩アンダーか否かを目安にすることができる。
【0012】
(2)有機物の分解による減容化
カドミウム含有廃棄物が有機物を主成分とする場合には、これを好気性微生物の存在下に分解して炭酸ガスや水などとして除去して残滓を得ることで、そのボリュームを小さくするものである。この有機物の分解には、それに適した公知の装置を使用することができる。このような装置として、例えば特許第3545731号明細書に記載の生ゴミ処理装置などを好適に使用できる。図2は、この生ゴミ処理装置の外観及び構成を示しており、(a)は側面図、(b)は正面図である。この生ゴミ処理装置は、処理槽11に、回転棒に攪拌翼が取り付けられた所定形状のブレンダー21が2本(うち1本のみ図示し、残りの1本の図示は省略する)平行に互いに反対方向に回転可能に配した構成を備えている。また、処理槽11内には、空気供給口13を通して空気を供給できるとともに、槽内のガスを排気する排気口14が設けられており、槽内の内容物を加温可能なラバーヒータ17が設けられている。
【0013】
この処理槽11内に、カドミウム含有廃棄物とともに、好気性微生物着床用の補材と、好気性微生物担持体を各々所定量投入する。ここで、補材として、例えばチップなどを用いることができる。また、廃棄物と補材との投入量は、処理槽11の大きさによって決定でき、両者の投入割合(重量基準)は、前者1に対して後者1〜5の範囲で適宜設定できる。また、好気性微生物担持体の投入量は、例えば約100〜300g程度の少量で足りる。
【0014】
この装置による前処理では、好気性微生物存在下における有機物の分解反応により生じた水分により内容物の含水率は上昇し、発生する二酸化炭素及び窒素は排気口14を通して大気中に排出され、減容化が進行する。特に有機物のうち蛋白質については、アミノ基が空気(酸素)供給の下、以下に示す微生物による分解反応過程を経て分解され、それに伴い発生する水分は内容物の含水率を上昇させ、窒素は排気口14を通して排出されることになる。
(1)NH+3/2O→NO+2H+HO(アンモニア酸化細菌)
(2)NO+1/2O→NO(亜硝酸酸化細菌)
(3)2NO+10e+12H→N↑+6HO(脱窒菌)
この生ゴミ処理装置を用いた減容化により、カドミウム含有廃棄物の種類にもよるが、通常、カドミウム分などの重金属類、ミネラル分その他の微量物質が含まれる含水率約20%程度の粉末状の残滓が得られる。このように、生ゴミ処理装置を用いることで、カドミウム含有廃棄物中の有機物を分解して減容化が図られ、後工程でのハンドリング性が向上し、効率的かつ確実なカドミウムの分離回収が可能となる。
【0015】
前記2つの方法は、前記のようにカドミウム含有廃棄物中の有機物含有率の大小によってこれらのうちのいずれかを採用するかを決定できる。また、場合によっては、双方を組み合わせ、当該廃棄物中の有機物を分解した上で、さらに粉砕及び分級を行うようにしてもよい。
【0016】
なお、前記した前処理に当たっては、予めカドミウム含有廃棄物を水洗してもよい。特にカドミウム含有廃棄物が主に魚介類の加工残滓などからなる場合には水洗により表面の汚れを洗い落すと同時に海水の塩分を除去するのが好ましい。水洗は、従来公知の方法によって行うことができる。本発明においては、この水洗により、廃棄物中の含水率が高くなっても支障はない。
【0017】
[混合撹拌工程]
このようにして前処理を施した廃棄物若しくは補材及び残滓の混合物、又は両者の混合物にデンプン懸濁液又はナノバブル水を添加しながら(所定の時間間隔で複数回に分けて添加する場合も含む)、またはこれを添加した上で攪拌混合して微細な気泡が分散する組織を持つ混練物を得る(S02)。使用するデンプン懸濁液は、デンプンの濃度が1〜30重量%、好ましくは2〜25重量%、さらに好ましくは3〜20重量%の範囲となるように水にデンプンを溶解ないし懸濁させたものである。デンプン懸濁液の濃度が前記範囲を超えた場合には、当該水溶液の粘度が高くなり過ぎ、カドミウム含有残滓との均一な混合が困難になる一方、前記範囲未満の場合には、後述する混合攪拌機を用いたとしても、微細な気泡が均一に分布する組織を持った混練物が得られなくなる。なお、デンプンは、原料となる植物の種類によらず、市販品を使用できるが、デンプン以外にも、水に溶解または懸濁させて有機質結合材として機能する低分子量の素材も使用できる。
【0018】
また、ナノバブル水は、ナノメーターオーダー(200nm以下)の微細な気泡が安定して分散した水であり、例えば、特許第4144669号や特許第4080440号の特許発明によって製造されたものを好適に使用できる。このナノバブル水の添化量は、前記デンプン懸濁液のそれと略同様に設定できる。
【0019】
最終的な混練物の含水率は、デンプン懸濁液の添加量を調整することで、約20〜60重量%、好ましくは約30〜50重量%、さらに好ましくは約30〜40重量%の範囲に収まるようにするのがよい。この範囲を超えた場合には、水分過多により成形体の成形が困難になり、前記範囲未満では逆に水分不足により成形が困難になる。
【0020】
本発明において使用される混合撹拌機としては、この混練により微小な気泡が均一に分散した組織の混練物を得るのに適した装置を使用するのが好ましい。このような混合撹拌機の具体例としては、浅田鉄工社製のせん断型攪拌機(商品名:コーネルデスパ)やプラネタリーミキサー(攪拌混練機、商品名:プラネタリーデスパ)などが挙げられる。このように、デンプン水溶液をカドミウム含有廃棄物に添加し、前記した所定の攪拌機を用いて当該廃棄物を混合攪拌を行うことで、微細な気泡が均一に分布する組織を持った混練物を得ることができる。
【0021】
[成形工程]
続いて、得られた混練物を所定の金型に流し込んで、加圧成形する(S03)。この成形時には、プレス圧を加減し、成形体内部の微細な気泡を極力圧壊することなく、成形体がその外形形状を保持できる程度の強度を備える程度にするのが好ましい。プレス圧の目安は、通常、このように廃棄物などの粉粒物をデンプン懸濁液をバインダーとして緩く結合した状態で成形することで、その内部で揮発したカドミウム単体蒸気が外部に放散するルートが形成され易いという利点がある。
【0022】
この成形体内部の組織の状態を判定する目安として、気孔率(ポロシティー)を用いることができ、本発明においては、この気孔率測定値は約5〜30%程度、好ましくは約7〜25%、さらに好ましくは約8〜20%程度とすることができる。気孔率が前記範囲を超える場合には、成形体がその外形形状を維持しにくくなり、前記範囲未満の場合には成形体の組織が緻密になり前記カドミウム単体蒸気の放散ルートが形成されにくくなる。また、この成形体の表面には、直径約0.5〜3mm程度、好ましくは約1〜2mm程度の複数の気泡が分散しているのが観察されるのがよく、当該成形体を乾燥後に任意の切断面についても同様に観察されるのが好ましい。なお、前記複数の気泡は、成形体の表面または切断面に均一に分散する状態であることまでは必要ない。
【0023】
成形体の外形形状については特に制限されないが、この形状を複雑にすることにより金型製作費が高価となり、成形時に成形体自体が破損する可能性が高くなるなどの問題が生じるため、通常、円板状ないし四角形の板状にするのがよい。また、成形体のサイズは、後述する加熱工程における加熱炉内の収容容積などを考慮して適宜設定できる。通常は、その厚さを約30〜200mm程度の範囲に、また直径ないし1辺の長さを約50〜200mm程度の範囲に設定する。
【0024】
本発明においては、加圧成形に用いる成形機の種類や仕様については特に制限されないが、高いプレス圧は必要としないので、得ようとする成形体のサイズなどを考慮して公知の小型プレス成形機(例えば、エアシリンダーを備える小型のプレス機など)を用いることができる。
【0025】
なお、成形工程で得られた成形体は、ここで一旦、約120℃程度の温度で乾燥させ、成形体内の水分を蒸発させるようにしてもよい。このように成形体を乾燥させてその含水率を低減することにより当該成形体の強度向上が図れるため、ハンドリング性が向上し、ひいては作業性の向上が図られるという利点がある。
【0026】
[真空(減圧)加熱工程]
まず、得られた複数の成形体を真空加熱装置における真空室内に収容する(S04)。成形体の収容は、真空加熱装置の種類や機器構成などに応じた通常の方法によって行うことができる。次に、この真空加熱装置に付属する真空ポンプを起動して前記真空室内を減圧していき、JIS Z8126に規定されている低真空ないし高真空の区分内、好ましくは中真空ないし高真空の区分内の真空度(最大値は約10−2〜10−3Paのオーダー程度)となるようにする。この真空度は、レトルト内に収容した成形体について測定した気孔率の大小にかかわらず、例えば高真空または中真空の区分内の真空度に一律に設定してもよく、この測定結果の大小によって真空度の設定値を変更するようにしてもよい。つまり、後者の場合、気孔率の測定結果が前記範囲内で上限寄りの大きい値を示す場合には、低真空ないし中真空の区分内の真空度を設定し、前記範囲内で下限寄りの小さい値を示す場合には、中真空ないし高真空の区分内の真空度を設定することになる。
【0027】
その後、この真空雰囲気下で真空室内における成形体の加熱を開始する(S04)。ここで、成形体からの水分の蒸発、デンプンの焼失(水酸基として残留する水分の蒸発を含む)及びカドミウム単体の揮発は、それぞれ異なる温度範囲で生じるので、これらのそれぞれについて3段階に加熱温度を設定し、成形体の加熱温度を段階的に上げて異なる温度で加熱することができる。このとき、各段階における加熱温度は、一般的には、大気圧下でのそれよりも雰囲気の真空度に応じて低く設定できる。しかし、本発明においては、成形体中に含有される蒸発(揮発)物質の種類、含有量及び処理時間などを考慮して、前記3つの段階についての大気圧下における設定温度(表1参照)と雰囲気中の真空度に応じた設定温度(表1参照)との間で適宜調整できるようにすることが好ましい。
【0028】
【表1】

【0029】
各段階での加熱時には、水蒸気の発生などにより真空室内の真空度が微小ながら変化するので、これを監視しておき、安定したら次の設定温度に切り換えるようにする。第3段階の設定温度に達した後は、カドミウム単体の揮発に伴って真空度が微小に低下し、揮発量が小さくなることで真空度は元に戻るが、このような真空度の変化とは無関係に、前記設定温度での加熱状態を約1〜2時間程度維持するのが好ましい。この時間経過により、第3段階の加熱完了と判断する。なお、真空乾燥装置に収容する前に、成形体を乾燥している場合には、前記水分の蒸発についての加熱温度設定を省略し、残りの2段階の温度設定を行うようにすればよい。
【0030】
本発明における真空加熱装置は、前記の真空条件が得られ、最高約800℃程度まで加熱可能であれば、その種類や機器構成については特に限定されない。例えば、真空加熱装置は、成形体を収容するためのレトルトを備え、その内部を所定の真空条件にした後に、このレトルトごと加熱するようなタイプのものであってもよい。このような装置の場合、レトルトは、前記のような真空条件に耐えるものであることが必要であり、その材質は、例えばステンレス鋼、アルミ合金などであることが好ましい。
【0031】
レトルトを用いるタイプの真空加熱装置の場合、その中に直接、複数の成形体を収容してもよく、トレー上に一旦載置し、このトレーごと収容するようにしてもよい。いずれの場合であっても、隣り合う2つの成形体の間には適宜の間隔を設けるようにしてレトルト内に複数の成形体を配置し、それぞれの表面が極力真空雰囲気中に晒されるようにするのが好ましい。また、トレーを用いる場合にも、同様の理由から当該トレーは金属製の網などで形成されているのが好ましい。
【0032】
真空加熱装置に付属する真空ポンプとしては、前記真空条件を達成する能力を備えたものであれば、その種類に特に限定はなく、例えばダイヤフラム真空ポンプ、ドライポンプ、油回転真空ポンプ、エジェクターポンプ、メカニカルブースターポンプ、油拡散ポンプなどの従来公知のものを使用できる。
【0033】
[分離回収工程]
第3段階の加熱中に、成形体から揮発したカドミウム単体の蒸気は真空ポンプの吸引により真空室外に排気される。その排気経路途中に冷却装置を設置しておくことで、カドミウム単体蒸気は排気経路の壁面に金属カドミウムとして析出する。前記冷却装置は、その冷却方式について特に制限されず、水冷、空冷その他の公知の方式を仕様できる。第3段階の加熱完了後、真空加熱装置自体を冷却後、この壁面に析出した金属カドミウムを取り出すことで、カドミウム単体の分離回収を行うことができる(S05)。なお、取り出した金属カドミウムは、公知の方法により鋳造など行うことができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明する。本実施例では、ホタテウロに微量含まれるカドミウムを金属カドミウムとして分離回収している。
【0035】
本実施例に用いた装置は、以下の通りである。
A.生ゴミ処理装置
使用した生ゴミ処理装置は、図2に示すように、処理槽11に、回転棒に攪拌翼が取り付けられた所定形状のブレンダー21が2本(うち1本のみ図示し、残りの1本の図示は省略する)平行に互いに反対方向に回転可能に配した基本構成を備えたものである。また、処理槽11内には、空気供給口13を通して空気を供給できるとともに、処理槽11内の排気のための排気口14が設けられている。さらに、処理槽11内には、内容物を加温可能なラバーヒータ17が設けられている。
B.真空加熱装置
本実施例で使用する真空加熱装置は、図3に示すように、フランジ31を一端に備え、他端が閉塞されたステンレス製レトルト30と、フランジ31を除きその全面を覆い隠す位置とレトルト30から離れた位置との間を移動可能であり、電気加熱用ヒーター36を内蔵する電気炉34と、減圧ホース44と、レトルト30内を真空状態にするための真空ポンプ45とから構成されている。レトルト30には、そのフランジ31にフランジ38を介してカドミウム単体を分離回収するのに用いられる水冷方式の冷却筒37が接続され、この冷却筒37の他端に前記減圧ホース44を介して真空ポンプ45が接続されている。冷却筒37は、レトルト30と略同等の配管の外側に、流入口40及び流出口41を備え、冷却水を通水可能なジャケット39が設けられた二重構造を備えたものである。
【0036】
廃棄予定のホタテウロ約250kgを用意し、その全量を水洗して表面の汚れを取り除くと同時に海水の塩分を洗い流した後、約50kgずつ5つに分けた。次に、そのうちの約50kgと、これと略同量の補材(チップ)と、好気性微生物としてのBN菌(明治製菓製)100gとを図2に示した生ゴミ処理装置に投入し、攪拌混合を開始した。翌日からの4日間、毎日残りのホタテウロ約50kgずつを当該装置内に投入し、5日目に装置の攪拌混合を停止した。この5日間でホタテウロは分解され(分解中のホタテウロ内の温度は38±2℃であった。)、発生した二酸化炭素や窒素は外部に飛散し、また発生した水分一部が蒸発し、残りが混練物の含水率を上昇させた。5日目に生ゴミ処理装置から取り出した残滓は、含水率約20重量%の褐色粉末状を呈し、その重量は混合した補材の重量(約50kg)と略同等の重量を示した。このことから、生ゴミ処理装置内に投入したホタテウロのほぼ全量が分解されたことが判明した。
【0037】
前記残滓約50kgに対して粉末状のデンプン5kg/水10Lの割合で混合して調製したデンプン懸濁液を加えながら、均質な泥濘状の混練物が得られるまで混練した。この混練物を数回サンプリングし、目視にてその表面を観察した結果、約1〜2mm程度の直径の気泡が分散していることを確認した。
【0038】
次に、この混練物を円筒型の空間を内部に有する金型に流し込み、エアシリンダー式小型プレス成形機によりプレス圧を調整しながら加圧成形し、複数個の成形体5、5、5、・・・を得た。このときのプレス圧は、得られる成形体がその外形形状を保持可能な程度に成形すべく、0.5〜2kg/cmの範囲で調整した。各成形体5、5、5、・・・のサイズ及び形状は、直径約20mm程度、厚さ約50mm程度の円板状である。
【0039】
こうして得られた複数個の成形体25、25、25、・・・を、図3に示すように、ステンレス製の網で形成された断面半円形のボート状トレー27の上に、隣り合う2つの成形体25、25の間に間隔をあけて配置した。隣り合う成形体25同士の間に間隔を設けることにより、後述する真空加熱工程において各成形体25の全面からのカドミウム単体の揮発飛散ルートが確保され、カドミウム単体の揮発促進を図ることができる。
【0040】
そうして、このボート状トレー27をレトルト30の内部空間32に収容した。このレトルト30のフランジ31にフランジ38を不図示のボルト、ナットで固定し、冷却筒37をレトルト30に取り付け接続した。また、冷却筒37の他端と真空ポンプ45との間を減圧ホース44により密閉状態にて接続した。なお、レトルト30には、適宜の位置に内部の真空度を計測できるように真空計(不図示)が取り付けられている。
【0041】
これら一連の操作が終了した後、真空ポンプ45を起動してレトルト30内の空気の吸引を開始した。真空度の目標値は、真空計の計測結果にて10−2Paに設定した。
【0042】
所定の真空度に達したところで、電気炉34をレトルト30側に移動させ、当該レトルト30のフランジ31を除くほぼ全面が加熱室35内に隠れる位置にセットした。なお、電気炉34の移動は例えばレール上を走行させるなどの公知の方法によって行うことができる。
【0043】
電気炉34をセット後、スイッチを入れこれに通電して加熱を開始した。加熱温度は、段階的に切換えられるように設定し、まず約120℃にて水分を完全に蒸発除去した(第1段階)。水分除去が完全か否かは、真空計の指示が安定したか否かによって判断した。次に、設定温度を約220〜240℃に上げ、デンプン及び水酸基として残留する水分を完全に焼失させ除去した(第2段階)。デンプンなどが完全に除去されたか否かも、真空計の指示が安定したか否かによって判断した。
【0044】
その後、真空計の読みが10−2Paで安定したところで、温度設定を380±10℃の範囲となるように切り換え、カドミウム単体を揮発させるようにした(第3段階)。この温度設定でカドミウムの揮発飛散が開始されると、真空度は僅かながら低下し、カドミウムが完全に揮発されると、元の値に戻ることが確認された。さらに約1〜2時間程度この状態を維持した後、加熱完了と判断し、加熱用スイッチを切り、電気炉34をレトルト30から遠ざけ、レトルト30を自然放冷した。
【0045】
一方、第3段階の加熱中に、成形体から揮発しレトルト30から排気されたカドミウム単体は、冷却筒37にて冷却され、その配管壁面に析出した。この析出した金属カドミウムを取り出し、鋳造を行った。
【0046】
鋳造は、還元雰囲気中、サンドバス上で330〜350℃の温度で加熱することにより行った。溶解した金属カドミウムを所定の鋳型に流し込み、冷却することで、金属カドミウムのインゴットを得た。一方、レトルト30内の成形体25を取り出してカドミウムの含有率を測定したところ、検出不能との結果を得た。よって、ホタテウロ中から確実にカドミウムを分離回収できていることが確認できた。
【符号の説明】
【0047】
11 処理槽(生ゴミ処理装置)
13 空気供給口
14 排気口
21 ブレンダー
25 成形体
27 ボート型トレー
30 レトルト
31 フランジ
34 電気炉
35 加熱室
36 加熱用ヒーター
37 冷却筒
39 ジャケット
40 冷却水流入口
41 冷却水流出口
44 減圧ホース
45 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カドミウム含有廃棄物に所定の前処理を施し当該廃棄物を粉粒状にする前処理工程と、デンプン懸濁液またはナノバブル水を添加しながらまたはこれを添加した後に撹拌混合して微細な気泡が分散する組織を有する混練物を得る混合撹拌工程と、当該混練物を成形し、その外形形状を保持可能な程度の強度を有する成形体を得る成形工程と、真空雰囲気中で前記成形物を加熱してカドミウム単体を揮発させ、これを排気する真空加熱工程と、当該排気を冷却して金属カドミウムを析出させる分離回収工程とを含むことを特徴とするカドミウムの分離回収方法。
【請求項2】
前記前処理工程は、前記カドミウム含有廃棄物を粉砕し、分級により所定の粒度よりも微細な粉砕産物を抽出し、および/または前記カドミウム含有材廃棄物中の有機物を好気性微生物の存在下で分解し減容化するものである請求項1に記載のカドミウムの分離回収方法。
【請求項3】
前記デンプン水溶液の濃度は、1〜30重量%である請求項1または2に記載のカドミウムの分離回収方法。
【請求項4】
前記成形体は、その気孔率が約5〜30%程度である請求項1〜3のいずれか1項に記載のカドミウムの分離回収方法。
【請求項5】
前記真空加熱工程は、少なくともデンプンの焼失およびカドミウム単体の揮発をそれぞれ生じる異なる加熱温度範囲に設定値を段階的に切換えるように構成されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のカドミウムの分離回収方法。
【請求項6】
カドミウム含有廃棄物に所定の前処理を施し当該廃棄物を粉粒状にする前処理装置と、デンプン懸濁液またはナノバブル水を添加しながらまたはこれを添加した後に撹拌混合して微細な気泡が分散する組織を有する混練物を得る混合撹拌装置と、当該混練物を成形し、その外形形状を保持可能な程度の強度を有する成形体を得る成形装置と、真空雰囲気中で前記成形物を加熱してカドミウム単体を揮発させ、これを排気する真空加熱装置と、当該排気を冷却して金属カドミウムを析出させる冷却装置とを含むことを特徴とするカドミウムの分離回収装置。
【請求項7】
前記前処理装置は、前記カドミウム含有廃棄物を粉砕し、分級により所定の粒度よりも微細な粉砕産物を抽出する粉砕分級、若しくは前記カドミウム含有材廃棄物中の有機物を好気性微生物の存在下で分解し減容化する分解減容化を行い、又はこれら双方を行うものである請求項1に記載のカドミウムの分離回収方法。
【請求項8】
前記デンプン水溶液の濃度は、1〜30重量%である請求項1または2に記載のカドミウムの分離回収装置。
【請求項9】
前記成形体は、その気孔率が約5〜30%程度である請求項6〜8のいずれか1項に記載のカドミウムの分離回収装置。
【請求項10】
前記真空加熱装置は、少なくともデンプンの焼失およびカドミウム単体の揮発をそれぞれ生じる異なる加熱温度範囲に設定値を段階的に切換えるように構成されてなる請求項6〜9のいずれか1項に記載のカドミウムの分離回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219279(P2012−219279A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82806(P2011−82806)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(511085297)株式会社エコフィールズ (1)
【Fターム(参考)】