説明

カドミウムの電気化学的分析方法及び装置

【課題】試料溶液中のカドミウムを電気化学的手法によって簡便な操作で、高感度かつ高精度に検出・定量することができる分析方法及び装置を提供する。
【解決手段】対電極3とカーボン電極からなる作用電極2とを用いて、試料溶液S中のカドミウムを電気化学的に分析する方法で、前記試料溶液Sに第11族元素を添加する添加工程と、前記第11族元素が添加された前記試料溶液Sに前記作用電極と前記対電極とを接触させた状態で、前記作用電極と前記対電極との間に、前記作用電極にカドミウムと前記第11族元素との複合体を前記作用電極電着させる電着工程と、前記作用電極と前記対電極との間に、前記作用電極に電着した前記複合体が溶出する電圧を印加して、前記作用電極から前記複合体を溶出させる溶出工程と、前記複合体の溶出に起因して、前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料溶液中のカドミウムを電気化学的手法を利用して簡便な操作で、高感度かつ高精度に検出・定量することができる分析方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カドミウムは、比較的さびにくく美しい金属光沢を放つことより、古くは自動車等のめっき材料として用いられてきた。しかしながら、カドミウムは人体にとって有毒であり、カドミウムが体内に蓄積すると腎臓機能等が侵される。
【0003】
このようなカドミウムの人体への毒性が広く知られるようになってからは、その利用は避けられるようになってきており、例えば、2006年7月より施行されたEUのRoHS規制(欧州有害物質規制)では、電気電子機器における特定有害物質の含有が禁止されたが、カドミウムも規制対象となっている。
【0004】
また、米をはじめとする食物にも含有基準が設けられており、食品衛生法上では玄米において1ppm以下と規定され、基準値以上のカドミウムを含む場合は販売することができず、全て焼却処分される。また、食糧庁通達により、玄米中0.4ppm以上の検出がされた米については全て工業用にされる。
【0005】
従来、カドミウムを分析する方法としては、公定分析法である原子吸光分析法、ICP発光分析法、ICP質量分析法等が知られている。しかし、これらの分析を行う装置は大型で高価であり、その操作も複雑である。
【0006】
一方、電気化学的にカドミウムを分析する試みも行われているが(特許文献1)、試料溶液に含まれる銅の干渉が精度の高い分析を阻んでいる。すなわち、試料溶液中に銅が含まれていると、銅の干渉によりカドミウムに起因する電流ピークが減少し消滅してしまい、カドミウムの分析が阻害される。
【0007】
また、銅だけでなく、鉛、セレン、クロム、ホウ素についても同様の干渉が認められ、カドミウムの分析が阻害される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−49275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、銅や鉛等の干渉による影響を排除して、試料溶液中のカドミウムを電気化学的に高い精度で分析することができる分析方法及び装置を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、第11族元素の共存下で試料溶液中のカドミウムを電気化学的に分析すると、カドミウムと第11族元素との複合体に起因する電流ピークが検出され、このピーク電流値はカドミウム濃度と良好に相関することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
なお、このようにカドミウムと第11族元素との複合体に起因する電流ピークが検出されるのは、第11族元素(Me)のアンダーポテンシャル析出(UPD:Under potential deposition)効果により、カドミウムが、カドミウム表面上に析出する電位(カドミウム電着の標準酸化還元電位)よりも高い電位で、Me表面上にCd−Me複合体として析出し、カドミウム単独の酸化還元電位よりも高い電位で溶出するためであると考えられる。
【0012】
すなわち本発明に係る電気化学的分析方法は、対電極とカーボン電極からなる作用電極とを用いて、試料溶液中のカドミウムを電気化学的に分析する方法であって、前記試料溶液に第11族元素を添加する添加工程と、前記第11族元素が添加された前記試料溶液に前記作用電極と前記対電極とを接触させた状態で、前記作用電極と前記対電極との間に、前記作用電極にカドミウムと前記第11族元素との複合体が電着する電圧を印加し、前記作用電極に前記複合体を電着させる電着工程と、前記作用電極と前記対電極との間に、前記作用電極に電着した前記複合体が溶出する電圧を印加して、前記作用電極から前記複合体を溶出させる溶出工程と、前記複合体の溶出に起因して、前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出工程と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、カドミウムをCd−Me複合体(Me:第11族元素)として作用電極に電着させて、これを検出対象とすることができ、当該Cd−Me複合体のピーク電流値はカドミウム濃度と良好に相関するので、試料溶液中に銅や鉛等が混入していても、これらの干渉に影響されずに、カドミウムを電気化学的に高感度かつ高精度に検出・定量することが可能となる。
【0014】
本発明において作用電極として機能するカーボン電極としては、導電性ダイヤモンド電極が好適に用いられる。当該導電性ダイヤモンド電極としては、例えば、ホウ素、窒素、リン等がドープされているもの等が挙げられるが、なかでも高濃度でホウ素をドープしたボロンドープダイヤモンド電極が好ましい。ボロンドープダイヤモンド電極は、電位窓が広く(酸化電位及び還元電位が広い)、他の電極材料と比較してバックグラウンド電流が低く、酸化還元種に対して感度が高く、金や白金等に比べて電極表面に物理的吸着が生じにくいため酸素・水素発生以外のピークが出にくい、といった優れた性質を有している。また、ボロンドープダイヤモンド電極は、化学的耐久性、機械的耐久性、電気伝導度、耐腐食性等にも優れている。更に、ボロンドープダイヤモンド電極は、その硬度から、化学的・物理的な洗浄を行いやすく、電極表面を清浄な状態に維持しやすいという利点も有する。
【0015】
第11族元素としては、銅、銀、金、レントゲニウムが挙げられるが、なかでも、カドミウムとの複合体に起因する電流値のカドミウム濃度依存性に優れており、また、他の妨害物質共存下においても定量的な分析が可能であることから、銅が好適に用いられる。
【0016】
銅の前記試料溶液への添加量は、カドミウムとの複合体に起因する電流値のカドミウム濃度依存性の観点からは、0.3〜4mM程度であることが好ましい。
【0017】
本発明に係るカドミウムの電気化学的分析方法は、例えば以下のような構成を有する分析装置によって実施することができる。すなわち、試料溶液中のカドミウムを電気化学的に分析するための装置であって、対電極とカーボン電極からなる作用電極とを内蔵し、前記試料溶液を収容するためのセルと、前記試料溶液に第11族元素を添加する添加手段と、前記作用電極と前記対電極との間に、前記作用電極にカドミウムと前記第11族元素との複合体が電着する電圧を印加し、次いで、前記作用電極に電着した前記複合体が溶出する電圧を印加する印加手段と、前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出手段と、を備えていることを特徴とする。このような電気化学的分析装置もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上述の構成よりなるので、試料溶液中に銅や鉛等が混入していても、これらの干渉による影響を排除して、高感度かつ高精度にカドミウムの検出・定量を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気化学的分析装置の概要図である。
【図2】Cd、Cu、又は、Cd及びCuを含有する測定試料の電気化学的分析を行い得られたボルタモグラムである。
【図3】Au共存下における、Cd又はCuを含有する測定試料の電気化学的分析を行い得られたボルタモグラムである。
【図4】Cd−Au複合体に起因するピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行い得られた検量線である。
【図5】大過剰Cu共存下における、Cdを含有する測定試料の電気化学的分析を行い得られたボルタモグラムである。
【図6】Cd−Cu複合体に起因するピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行い得られた検量線である。
【図7】微量のCuが混在した測定試料の、Cd−Cu複合体に起因するピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行い得られた検量線である。
【図8】微量のPbが混在した測定試料の、Cd−Cu複合体に起因するピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行い得られた検量線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係る電気化学的分析装置1は、図1に模式的に示すように、電気化学的測定用のバッチセルを用いたものである。
【0022】
本実施形態に係る電気化学的分析装置1は、ボロンドープダイヤモンド電極2、対電極3及び参照電極4と、これら3本の電極が内蔵された測定セル5と、を備えており、ボロンドープダイヤモンド電極2、対電極3及び参照電極4は、情報処理装置8が設けられたポテンショガルバノスタット7に接続されている。また、測定セル5には、試料溶液Sを攪拌する攪拌子6と試料溶液Sに銅を供給する銅供給装置9とが設けられている。
【0023】
以下に各部を説明する。
ボロンドープダイヤモンド電極2は、絶縁体であるダイヤモンドにホウ素が混入されることにより導電性が付与されたものであり、電気化学的分析装置1において作用電極として機能するものである。
【0024】
ボロンドープダイヤモンド電極2としては適宜公知のものを使用することができ、その形状としては、棒状又は平面状のいずれであってもよい。
【0025】
対電極3としては、例えば、白金、炭素、ステンレス、金、ダイヤモンド、SnO等からなる電極を用いることができる。
【0026】
参照電極4としては公知のものを利用することができ、例えば、銀塩化銀電極、カロメル電極、標準水素電極、水素パラジウム電極等を用いることができる。
【0027】
測定セル5は、その内部に試料溶液Sを収容し、当該試料溶液Sがボロンドープダイヤモンド電極2、対電極3及び参照電極4と接触できるよう構成されているものである。測定セル5は、内部に試料溶液Sを収容することができるものであればその材質は特に限定されないが、例えば、できるだけ不純物の溶出を抑えられるポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂製であることが好ましい。
【0028】
撹拌子6は、測定セル5に収容された試料溶液Sを撹拌するものである。撹拌子6が試料溶液Sを攪拌することによって、ボロンドープダイヤモンド電極2にカドミウムを電着させる際の効率が向上する。撹拌子6の羽の形状や材質、羽の動作方法は特に限定されないが、試料溶液Sの充分な攪拌が可能であり、かつ不純物や微粉末等の発生や、電極表面からの気泡発生をできるだけ抑えることができるものが好ましく、例えば、十字型攪拌子が好適に用いられる。
【0029】
ポテンショガルバノスタット7は、ボロンドープダイヤモンド電極2の電位を参照電極4に対して一定にした状態で、ボロンドープダイヤモンド電極2と対電極3との間に発生した電流を検出し、その検出信号を情報処理装置8に伝達するものである。ポテンシオスタット7は、電位を一定に保つ機能のほか、電位を一定速度で走査したり、指定した電位に一定時間ごとにステップしたりする機能を有する。これらの機能は、1台に搭載する必要はなく、例えば電位保持機能と電位走査機能とが別体に設けてあってもよい。
【0030】
情報処理装置8は、CPUや、メモリ、入出力チャンネル、キーボード等の入力手段、ディスプレイ等の出力手段、A/D変換器、D/A変換器等を備えた汎用乃至専用のものであり、前記CPU及びその周辺機器が、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムにしたがって協働動作することにより、ポテンショガルバノスタット7で検出された信号が解析され、カドミウムの検出・定量が行われる。なお、情報処理装置8は、物理的に一体である必要はなく、有線又は無線により複数の機器に分割されていてもよい。
【0031】
銅供給装置9は、銅含有溶液を収容する供給容器91と、供給管92とを備えたものであり、当該供給管92上にはペリスタルティックポンプ93が設けられている。供給容器91に収容された銅含有溶液は供給管92内をペリスタルティックポンプ93により輸送されて、測定セル5内に供給される。
【0032】
次に電気化学的分析装置1を用いてストリッピング法によりカドミウムを分析する方法について説明する。なお、以下に説明する分析方法では第11族元素として銅を用いている。
【0033】
まず、分析対象のカドミウムを含有しないキャリア溶液のみを測定セル5に注入し、いわゆるバックグラウンド電流をできるだけ小さくし、かつ安定させる。次いで、試料溶液Sを測定セル5に注入し、試料溶液Sを攪拌しながら、銅イオンの濃度が0.3〜4mM程度になるようにCuCl等の銅化合物を添加する。
【0034】
その後、試料溶液Sを攪拌しながら、ポテンシオスタット7を用いてボロンドープダイヤモンド電極2の電位を負電位方向に変動させて、電位を−0.8Vにすることにより、カドミウムと銅との複合体をボロンドープダイヤモンド電極2の表面に電着させる。そして、電位を−0.8Vにした後は、しばらくの間ボロンドープダイヤモンド電極2の電位を−0.8Vに保持することによりカドミウムと銅との複合体を濃縮し充分に電着させることができる。
【0035】
なお、電着電位が−0.8Vより小さい場合(例えば、電着電位が−1.0Vや−0.9Vである場合)は、溶出工程時にカドミウムと銅との複合体に起因する電流ピークに加え、カドミウム単体に起因する電流ピークも観察されるが、分析を容易にするためにはカドミウムに起因する電流ピークは1種類のみが検出されるほうが好ましいので、本実施形態ではカドミウム単体に起因する電流ピークが出現しない電着電位である−0.8Vを採用した。
【0036】
ボロンドープダイヤモンド電極2の表面にカドミウムと銅との複合体が電着したら、撹拌子6を停止し、ポテンシオスタット7により、ボロンドープダイヤモンド電極2の電位を−0.8Vから正電位方向に0Vまで掃引して、カドミウムと銅との複合体を試料溶液S中に溶出させる。すると、カドミウムと銅との複合体の溶出に伴い電流が発生する。
【0037】
このような電気化学的反応によって発生した電流値(電気信号)はポテンシオスタット7に伝達され各電極における信号の制御・検出が行われる。ポテンシオスタット7で検出された信号は情報処理装置8に送信され、予め作成されたカドミウムの濃度と電流値との検量線と、得られた電流値とが対比されて、試料溶液中のカドミウム濃度が算出される。
【0038】
電位の掃引が終わった後、ボロンドープダイヤモンド電極2の電位を例えば1.0Vで保持することにより、電着したカドミウムや銅は溶出するので、ボロンドープダイヤモンド電極2を測定前の状態に戻して再生することができ、同じ電極を繰り返し使用することが可能となる。なお、ボロンドープダイヤモンド電極2の再生は、一定電位の保持のみだけでなく、広い電位で繰り返し掃引を行うことによっても可能である。
【0039】
したがって、このように構成された本実施形態によれば、試料溶液S中に大過剰の銅を共存させることにより、カドミウムが銅との複合体として電着する。そして、カドミウムと銅との複合体に起因するピーク電流値はカドミウムの濃度と良好に相関するので、試料溶液S中に銅や鉛等が混入していても、これらの干渉の影響を受けずに、カドミウムを高感度かつ高精度に検出・定量することができる。
【0040】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0041】
例えば、測定セル5はバッチ型に限定されず、ストップドフロー型のものであってもよい。
【0042】
また、前記実施形態に係る電気化学的分析装置1は、ボロンドープダイヤモンド電極2、対電極3及び参照電極4を備えた三電極法による測定を行うものであるが、本発明に係る分析方法を実施するための電気化学的分析装置1としては、ボロンドープダイヤモンド電極2及び対電極3のみを備えた二電極法によるものであってもよい。三電極法の方が、ボロンドープダイヤモンド電極2と対電極3との間に印加する電圧の絶対値を制御することができるので、感度及び精度の高い測定を行うことが可能であるが、二電極法によれば、用いる電極がボロンドープダイヤモンド電極2及び対電極3の2電極ですむので、測定セル5の構造を単純化、小型化することができるので、測定セル5をチップ化し使い捨てとすることも可能となり、より簡便な測定を行いうる。
【0043】
その他、電気化学的分析装置1は、上述のカドミウムの電気化学的分析が実施可能なものであれば、専用装置であっても汎用装置を組み合わせたものであってもよく、装置の形状や、セル容量、電極サイズ等は特に限定されない。
【0044】
更に、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
<試験1>Cuの干渉の確認
(1)測定試料の調製
Cd標準液及び0.4M HClOを用いて、0.4M HClOを1mL、Cd標準液を1ppmになるように加え、全量が4mLになるよう超純水で調整した。更に、Cu標準液を用い、同様にして、Cu1ppm、及び、Cd1ppm−Cu1ppmになるよう調整した。なお、各標準液は以下のとおりである。
・Cd標準液:Cd(NO in 0.1mol/L HNO
・Cu標準液:Cu(NO in 0.1mol/L HNO
【0047】
(2)測定条件
測定は、ボロンドープダイヤモンド電極を作用電極、参照電極にAg/AgCl、対電極にPtを使用し、以下の条件にて、ストリッピング法で行った。
【0048】
測定(リニアスイープボルタンメトリ(LSV))
・電着時間:60秒(55秒攪拌、5秒停止)
・電着電位:−1.4V
・走査速度:300mV/s
・走査範囲:−1.4〜1.0V
測定結果は図2に示す。
【0049】
図2に示すように、Cd単体に起因するピークはCuの干渉により減少(消失)することが確認された。また、0.1V(vs.Ag/AgCl)付近のピークがCuに起因することから、Cuに起因するピークはCdの干渉により増加することも確認された。
【0050】
<試験2>Au共存下でのCdの電気化学的分析
(1)測定試料の調製
0.4M HClOを1mL、Au標準液を100ppmになるように加え、更に、Cd標準液又はCu標準液を、Cd1ppm又はCu1ppmになるように加え、全量が4mLになるよう超純水で調整した。なお、Au標準液は以下のとおりである
・Au標準液:HAuCl in 1mol/L HCl
【0051】
測定は、ボロンドープダイヤモンド電極を作用電極、参照電極にAg/AgCl、対電極にPtを使用し、以下の条件にて、ストリッピング法で行った。
【0052】
測定(リニアスイープボルタンメトリ(LSV))
・電着電位:−0.4V
・電着時間:60秒(55秒攪拌、5秒停止)
・走査速度:300mV/s
・走査範囲:−0.4〜0.8V
【0053】
後電解(サイクリックボルタンメトリ(CV))
・電解溶液:0.1M HCl
・走査範囲:−0.4〜1.4V、5サイクル
測定結果は図3に示す。
【0054】
図3に示すように、Cd又はCuを含む試料について測定を行ったところ、−0.15〜0V(vs.Ag/AgCl)付近にCdに起因するピークが確認され、0.35V(vs.Ag/AgCl)付近にCuに起因するピークが確認された。
【0055】
なお、通常−0.4Vでは電着しないCdのピークが本試験で観察されたのは、AuによるUPD効果によるものと考えられ、CdはCd表面上に析出する電位よりも高い電位で、Au表面上にCd−Au複合体として析出し、Cd単独の酸化還元電位よりも高い電位で溶出するためであると思われる。このため、−0.15〜0V(vs.Ag/AgCl)付近のCdに起因するピークは、Cd−Au複合体に起因するピークに相当すると思われる。
【0056】
<試験3>Cd−Au複合体ピーク電流値のCd濃度依存性
Au100ppm共存下で、Cu濃度を1ppmに固定し、Cd濃度を変えて、−0.15〜0V(vs.Ag/AgCl)付近のピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行った。得られた結果(検量線)を図4に示す。
【0057】
図4に示すように、−0.15〜0V(vs.Ag/AgCl)付近のピーク電流値にはCd濃度との高い相関性が確認された。
【0058】
<試験4>大過剰Cu共存下でのCdの電気化学的分析
(1)測定試料の調製
塩化カドミウム(CdCl)、塩化銅(CuCl)及び0.4M HClOを用いて、0.4M HClOを1mLに対して、Cd0.01.0mM(約1ppm相当)、Cu0.05mM(約3ppm相当)になるように加え、全量が4mLになるよう超純水で調整した。
【0059】
(2)測定条件
測定は、ボロンドープダイヤモンド電極を作用電極、参照電極にAg/AgCl、対電極にPtを使用し、以下の条件にて、ストリッピング法で行った。
【0060】
測定(リニアスイープボルタンメトリ(LSV))
・電着電位:−1.0V、−0.9V、−0.8V
・電着時間:60秒(55秒攪拌、5秒停止)、
・走査速度:300mV/s、
・走査範囲:〜0V
【0061】
後電解(リニアスイープボルタンメトリ(LSV))
・電解溶液:0.1M HClO aq
・初期電位:−1.0V
・保持時間:1秒
・走査範囲:−1.0〜1.4V
・後処理:PS30秒
測定結果は図5に示す。
【0062】
図5に示すように、電着電位が−1.0V及び−0.9Vのときは、−0.6V(vs.Ag/AgCl)付近のCd単体に起因するピークに加えて、−0.45V(vs.Ag/AgCl)付近にCd−Cu複合体に起因するピークが観察された。また、電着電位が−0.8Vであると、Cd−Cu複合体に起因するピークのみが観察され、Cd単体に起因するピークは観察されなかった。これは、Au同様、CuのUPD効果によってCdがCd−Cu複合体となり、標準酸化還元電位よりも高い電位で電着することによるものと考えられる。更に、Cuに起因する過大電流が0Vで生じることも確認された。
【0063】
<試験5>Cd−Cu複合体ピーク電流値のCd濃度依存性
Cu1.0mM共存下で、Cd濃度を変えて、−0.45V(vs.Ag/AgCl)付近のCd−Cu複合体に起因するピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行った。得られた結果(検量線)を図6に示す。
【0064】
図6に示すように、Cu1.0mM共存下において、Cd−Cu複合体に起因するピーク電流値にはCd濃度との高い相関性が確認された。なお、Cu0.5mM、Cu1.5mM共存下においても同様なCd濃度依存性が確認された(データ省略)。
【0065】
<試験6>Cd−Cu複合体ピーク電流値のCd濃度依存性(微量Cu混在下)
水質汚濁防止法の排水基準が3ppmであることに鑑み、Cu1.0mM共存下に、更に±3ppmのCuを加えた状態で、Cd濃度を変えて、−0.45V(vs.Ag/AgCl)付近のCd−Cu複合体に起因するピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行った。得られた結果(検量線)を図7に示す。
【0066】
図7に示すように、実サンプルに近い3ppmのCuを含有する測定試料においても、Cd−Cu複合体に起因するピーク電流値にはCd濃度との高い相関性が確認された。
【0067】
<試験7>Cd−Cu複合体ピーク電流値のCd濃度依存性(微量Pb混在下)
他の妨害成分共存化におけるCd−Cu複合体に起因するピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行うために、Cu3.0mM共存下で、0.0025mM(500ppb相当)及び0.005mM(1ppm相当)の塩化鉛(PbCl)を添加して、Cd濃度を0.002mM(約200ppb)〜0.01.0mM(約1ppm)の間で変化させて、−0.45V(vs.Ag/AgCl)付近のCd−Cu複合体に起因するピーク電流値のCd濃度依存性の検討を行った。得られた結果(検量線)を図8に示す。
【0068】
図8に示すように、微量のPb混在下においても、Cuを3.0mM添加することにより、Cd−Cu複合体に起因するピーク電流値にはCd濃度との高い相関性が確認された。
【符号の説明】
【0069】
1・・・電気化学的分析装置
2・・・ボロンドープダイヤモンド電極
3・・・対電極
4・・・参照電極
5・・・測定セル
6・・・撹拌子
7・・・ポテンシオスタット
8・・・情報処理装置
9・・・銅供給装置
S・・・試料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対電極とカーボン電極からなる作用電極とを用いて、試料溶液中のカドミウムを電気化学的に分析する方法であって、
前記試料溶液に第11族元素を添加する添加工程と、
前記第11族元素が添加された前記試料溶液に前記作用電極と前記対電極とを接触させた状態で、前記作用電極と前記対電極との間に、前記作用電極にカドミウムと前記第11族元素との複合体が電着する電圧を印加し、前記作用電極に前記複合体を電着させる電着工程と、
前記作用電極と前記対電極との間に、前記作用電極に電着した前記複合体が溶出する電圧を印加して、前記作用電極から前記複合体を溶出させる溶出工程と、
前記複合体の溶出に起因して、前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出工程と、を備えていることを特徴とする電気化学的分析方法。
【請求項2】
前記カーボン電極が、導電性ダイヤモンド電極である請求項1記載の電気化学的分析方法。
【請求項3】
前記導電性ダイヤモンド電極が、ボロンドープダイヤモンド電極である請求項2記載の電気化学的分析方法。
【請求項4】
前記第11族元素が、銅である請求項1、2又は3記載の電気化学的分析方法。
【請求項5】
試料溶液中のカドミウムを電気化学的に分析するための装置であって、
対電極とカーボン電極からなる作用電極とを内蔵し、前記試料溶液を収容するためのセルと、
前記試料溶液に第11族元素を添加する添加手段と、
前記作用電極と前記対電極との間に、前記作用電極にカドミウムと前記第11族元素との複合体が電着する電圧を印加し、次いで、前記作用電極に電着した前記複合体が溶出する電圧を印加する印加手段と、
前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出手段と、を備えていることを特徴とする電気化学的分析装置。
【請求項6】
前記カーボン電極が、導電性ダイヤモンド電極である請求項5記載の電気化学的分析装置。
【請求項7】
前記導電性ダイヤモンド電極が、ボロンドープダイヤモンド電極である請求項6記載の電気化学的分析装置。
【請求項8】
前記第11族元素が、銅である請求項5、6又は7記載の電気化学的分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−24776(P2013−24776A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161082(P2011−161082)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)