説明

カバー材及び電子機器

【課題】実用上十分な機械的強度を有しており、且つ、タッチパネルの位置検出感度の低下を防止することが可能な、新規かつ改良されたカバー材及び電子機器を提供すること。
【解決手段】
カバー材150は、電子機器100の筺体110内部に収容されたタッチパネル130の表面の少なくとも一部を覆うように上記筺体110の一部に設けられ、金属酸化物の結晶を含む透明セラミックスで形成されている。上記金属酸化物は、酸化ジルコニウムまたは酸化アルミニウムであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー材及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やカーナビゲーション等の電子機器には、情報の入力や、グラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)の操作等に用いられる入力手段として、タッチパネルが採用されるようになってきている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
上記タッチパネルの表面には、タッチパネルを操作する指等の操作体がタッチパネルと直接接触することによる表面の損傷等を防ぐために、カバー材が設けられている。上記カバー材は、一般に、例えば、ポリメタクリル酸(PMMA)樹脂等のアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、またはガラス等の材質により形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−142577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、抵抗膜方式、光学方式、静電容量方式等のタッチパネルの動作方式のうち、静電容量方式を採用するタッチパネルでは、上記カバー材によってタッチパネルが覆われることにより、タッチパネルによる操作体の位置検出感度が低下するという問題があった。上記位置検出感度を低下させる要因としては、一般に、カバー材を形成する材料の比誘電率の低さやカバー材の厚みの増加が主に挙げられる。一般的には、カバー材は、ガラス等の比誘電率が低い材料で形成されており、このような比誘電率が低い材料で形成されたカバー材が操作体とタッチパネルとの間に存在することで、一種の導体である操作体の近接または接触によるタッチパネルの静電容量の変化量が小さくなり、上記位置検出感度が低下してしまっていた。
【0006】
これに対して、例えば、カバー材の厚みを小さくすることで上記検出感度を向上させることは可能である。しかし、この場合、カバー材の機械的強度が低くなり、カバー材が破損するおそれがあった。そのため、実用上十分な機械的強度を有し、且つ、タッチパネルの位置検出感度の低下を防止できるカバー材の提供が希求されていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、実用上十分な機械的強度を有し、且つ、タッチパネルの位置検出感度の低下を防止することが可能な、新規かつ改良されたカバー材及び電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、電子機器の筺体内部に収容されたタッチパネルの表面の少なくとも一部を覆うように前記筺体の一部に設けられ、金属酸化物の結晶を含む透明セラミックスで形成されている、カバー材が提供される。
【0009】
上記金属酸化物は、酸化ジルコニウムまたは酸化アルミニウムであってもよい。
【0010】
上記金属酸化物は、多結晶体であってもよい。
【0011】
上記カバー材は、上記カバー材の少なくとも一方の面に、上記透明セラミックスの屈折率よりも低い屈折率を有する材料からなる反射防止膜を有していてもよい。
【0012】
上記タッチパネルは、静電容量方式のタッチパネルであってもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、筺体と、当該筺体に収容されたタッチパネルと、上記タッチパネルの表面の少なくとも一部を覆うように上記筺体の一部に設けられ、金属酸化物の結晶を含む透明セラミックスで形成されているカバー材と、を備える、電子機器が提供される。
【0014】
上記筺体と上記カバー材とは、一体形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、実用上十分な機械的強度を有し、且つ、タッチパネルの位置検出感度の低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る電子機器の構成を概略的に示す説明図である。
【図2】本実施形態に係る電子機器の構成を示す分解斜視図である。
【図3】本実施形態に係る電子機器の構成を示す断面図である。
【図4】本実施形態の変形例に係る電子機器の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.本発明の実施形態に係る電子機器100の概要について
2.電子機器100の詳細な構成について
3.電子機器100の製造方法について
4.本実施形態の変形例に係る電子機器200の構成について
5.電子機器200の製造方法について
【0019】
[1.本発明の実施形態に係る電子機器100の概要について]
まず、図1を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係る電子機器100の概要について説明する。図1は、本実施形態に係る電子機器1000の構成を概略的に示す説明図である。
【0020】
図1に示した電子機器100は、筐体110内にタッチパネル(図示せず。)を有するデバイスであり、このタッチパネルを、情報を入力したり、GUIを操作したりするための入力デバイスとして用いている。電子機器100に設けられているタッチパネルとしては、例えば、静電容量方式のタッチパネルを使用することができる。この静電容量方式のタッチパネルは、当該タッチパネルへの操作体10(例えば、電子機器100のユーザの指)の近接または接触により生じる静電容量の変化を検出し、検出結果に基づいて表示画面100a上における操作体10の位置情報を生成して出力する。
【0021】
また、操作体10によりタッチパネルを操作する際に、タッチパネルと操作体10とが直接接触して、タッチパネルの表面が損傷等する場合がある。そのため、本実施形態に係る電子機器100においては、タッチパネルの表面を覆うように、カバー材150が設けられている。
【0022】
なお、電子機器100の具体例としては、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)などの携帯型通信装置、携帯型の映像/音楽再生装置、携帯型ゲーム機などの機器が挙げられる。また、電子機器100の他の例としては、PDA(Personal Digital Assistant)やノート型PCなどのコンピュータなどの機器も挙げられる。
【0023】
[2.電子機器100の詳細な構成について]
続いて、図2及び図3を参照しながら、本実施形態に係る電子機器100の構成についてより詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る電子機器100の構成を示す分解斜視図である。図3は、本実施形態に係る電子機器100の構成を示す断面図(図1で示した電子機器100のA−A断面図)である。
【0024】
なお、図2及び図3に示すX方向とは、表示装置120にタッチパネル130及びカバー材150が積層される厚み方向と垂直な方向を指す。また、図2及び図3に示すY方向とは、表示装置120にタッチパネル130及びカバー材150が積層される厚み方向と垂直な方向であり、上記X方向と直交する方向を指す。また、図2及び図3に示すZ方向とは、表示装置120にタッチパネル130及びカバー材150が積層される厚み方向であり、XY面に垂直な方向を指す。なお、後述する図4における、X方向、Y方向、及びZ方向も図2及び図3に示すX方向、Y方向、及びZ方向と同一であるため、以下では説明を省略する。
【0025】
図2に示すように、電子機器100は、筐体110と、表示装置120と、タッチパネル130と、カバー材150とを主に有する。
【0026】
(2−1.筐体110について)
筐体110は、後述する表示装置120及びタッチパネル130を内部に収容する外箱であり、筐体基板110Aと筐体カバー110Bとからなる。筐体110は、表示装置120及びタッチパネル130を収容可能であればどのような形態を有していてもよい。具体的には、例えば、図2に示すように、筐体基板110Aは、略矩形の平板形状を有し、一面側に表示装置120が設置される。また、筐体カバー110Bは、表示装置120及びタッチパネル130を上方から覆うように略直方体形状を有しており、一面(筐体基板110Aが取り付けられる側の面)が開放されている。また、筐体カバー110Bの筐体基板110Aが取り付けられる側の面と対向する面には、後述するカバー材150を取り付けるための開口部110aが設けられている。
【0027】
また、筐体110の材質については特に限定されないが、例えば、樹脂(プラスチック)や金属やセラミックス等の材質を用いることができる。上記樹脂としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリカーボネート等が挙げられる。また、上記金属としては、例えば、鉄、アルミニウム等が挙げられる。また、上記セラミックスとしては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)や酸化アルミニウム(Al)等が挙げられる。
【0028】
なお、筐体110がセラミックスで形成される場合には、筐体110と、後述する透明セラミックスで形成されるカバー材150とは、同じ材料で一体的に形成されていてもよい。これにより、電子機器100の機械的強度を向上させることができる。この場合、筐体110とカバー材150とは、異なる色で形成されていてもよい。これにより、電子機器100の意匠性を向上させることができる。
【0029】
(2−2.表示装置120について)
表示装置120は、タッチパネル130やその他の入力手段により生成された入力信号に基づいて、表示画面上に画像やGUI等を表示させる。例えば、表示装置120は、表示画面上に所望の機能に対応した選択ボタンのオブジェクトを表示し、操作体10が当該選択ボタンの位置に該当する場所のタッチパネル130に近接または接触することで、上記機能に基づく処理が実行される。なお、表示装置120は、タッチパネル130やカバー材150が形成される側に表示画面(図示せず)が位置するように配置される。
【0030】
また、表示装置120は、多様な表示方式を適用することが可能であるが、表示装置120としては、例えば、有機ELディスプレイや、液晶ディスプレイ、電界放出ディスプレイ(FED)等が挙げられる。
【0031】
(2−3.タッチパネル130について)
タッチパネル130は、情報を入力したり、GUIを操作したりするための入力デバイスとして機能する。より具体的には、タッチパネル130は、例えば、タッチパネル130への操作体10の近接または接触により操作体10の位置情報を取得する静電容量方式のタッチパネルとして機能する。
【0032】
このタッチパネル130は、静電容量方式である場合には、格子上のパターンを持つ電極(以下、電極パターン)を有している。上記電極パターンが、図2及び図3に示すX方向に複数配線されることで、X軸検出パターンが形成される。また、上記電極パターンが図2及び図3に示すY方向に複数配線されることで、Y軸検出パターンが形成される。
【0033】
このようなタッチパネル130のXY平面上の任意の位置に、一種の導体である指等の操作体10が接触または近接することにより、上記X軸検出パターン及び上記Y軸検出パターンは、操作体10の容量に起因した電圧変化を検出する。当該電圧変化はX軸検出パターン及びY軸検出パターンにより、夫々の位置に応じて検出されるため、タッチパネル130は、操作体10の位置を検出することができる。
【0034】
また、タッチパネル130は、略矩形の膜状又は平板状の形状を有しており、表示装置120の表示画面側を覆うように配置される。すなわち、本実施形態では、図3に示すように、タッチパネル130はZ軸正方向において表示装置120の直上に位置することとなる。
【0035】
なお、タッチパネル130と表示装置120との間には、空隙が存在していてもよいし、タッチパネル130等が発生させるノイズを遮蔽するノイズシールド材を設置してもよい。また、タッチパネル130とカバー材150とを接着させる透明な接着剤140の層が、タッチパネル130の表面のうち、カバー材150が配置される側に形成されていてもよい。
【0036】
(2−4.カバー材150について)
カバー材150は、略矩形の平板形状を有しており、タッチパネル130の表面を覆うように、筐体カバー110Bの開口部110aに設置される。すなわち、カバー材150は、Z軸正方向においてタッチパネル130の直上(接着剤140の層が存在する場合には、この接着剤140を挟んで)に設置される。このように、カバー材150を設置することにより、操作体10がタッチパネル130に直接接触することによるタッチパネル130の表面の損傷等を防ぐことができる。
【0037】
<2−4−1.カバー材150の材質について>
カバー材150は、表示画面の視認性を確保するために透明な材料で形成される。本実施形態では、このような透明な材料として、金属酸化物の結晶を含む透明セラミックスが用いられる。
【0038】
なお、本実施形態における透明の度合いとしては、例えば、波長600nmの光の直線透過率が50%以上であることが好ましい。カバー材150の直線透過率が高いほど、表示装置120の表示画面の視認性が向上する。
【0039】
また、カバー材150の材料として用いる金属酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、スピネル(AlMgO)、YAG(YAl12)等が挙げられる。上記金属酸化物のうち、酸化アルミニウムとしては、純物質ではなく、不純物を含むコランダム(例えば、不純物としてFeを含むサファイアや不純物としてCrを含むルビー等)であってもよい。
【0040】
このように、本実施形態において、カバー材150の材料として上記金属酸化物を用いるのは、カバー材150の材料として、比誘電率が高く、かつ、機械的強度の大きな物質を用いるためである。
【0041】
ここで、カバー材150の材料として誘電率が高く、かつ、機械的強度の大きな物質を用いる理由について、静電容量に基づいて詳細に説明する。まず、静電容量は、一般に以下の式で表される。
【0042】
【数1】

【0043】
C:静電容量(F)、ε:真空の誘電率(F/m)、ε:誘電体の比誘電率(F/m)、S:導体の面積(m)、d:導体間の距離(m)
【0044】
この式1を参照すれば、比誘電率の低い材料で形成されたカバー材がタッチパネル130の表面に設置される場合、上記式1におけるεが小さくなる。このことから操作体10の接触または近接により発生する静電容量Cは小さくなるため、タッチパネル130に設けられた電極の電圧変化は小さくなる。そのため、タッチパネル130による位置検出感度は低くなる。従って、本実施形態では、カバー材150として比誘電率が高いものを使用することとしている。
【0045】
また、厚みが大きなカバー材がタッチパネル130の表面に設置される場合、操作体と電極との距離が離れ、上記式1におけるdが大きくなる。このことから、操作体10の接触または近接により発生する静電容量Cは小さくなるため、タッチパネル130に設けられた電極の電圧変化は小さくなる。そのため、タッチパネル130の位置検出感度は低くなる。従って、本実施形態では、カバー材150として、カバー材150の厚みが大きくならないように機械的強度が大きなものを使用することとしている。
【0046】
このように、カバー材150の材料として、比誘電率の高い材料を用いれば、タッチパネル130の位置検出感度の低下を防止することができる。また、カバー材150の材料として、機械的強度の大きな材料を用いれば、タッチパネル130の位置検出感度を低下させないためにカバー材150の厚みを薄くしても、十分な機械的強度を確保できる。
【0047】
続いて、カバー材150の材料として用いる金属酸化物として、特に、酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを例に挙げて、一般的にカバー材の材料として使用されるガラス等と比較しつつ、本実施形態の優位性について説明する。なお、下記表1に、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ガラス、ポリカーボネート及びアクリルの比誘電率、ビッカース硬度及び曲げ強度を示した。
【0048】
【表1】

【0049】
<2−4−2.比誘電率について>
表1に示す比誘電率は、JIS C2141で規定されている誘電特性測定方法に則って測定されたものである。表1に示すように、物質毎の比誘電率については、酸化ジルコニウムが30であり、酸化アルミニウムが10であり、ガラスが4〜8であり、ポリカーボネートが3であり、アクリルが3〜4である。すなわち、酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムは、一般的にカバー材の材料として使用されているガラス、ポリカーボネート、及びアクリルと比べて比誘電率が高く、特に、酸化ジルコニウムの比誘電率が著しく高いことがわかる。
【0050】
カバー材150の比誘電率が高いほど、操作体10とタッチパネル130との間の電荷の移動はスムーズになり、カバー材150に覆われるタッチパネル130の位置検出感度の低下が抑制される。従って、カバー材150の材料としては、比誘電率の高い酸化ジルコニウムや酸化アルミニウムが好適であるといえる。また、タッチパネル130の位置検出感度の低下をできるだけ抑制することを重要視する場合には、カバー材150の材料として、比誘電率が特に高い酸化ジルコニウムを使用することが特に好ましい。
【0051】
<2−4−3.ビッカース硬度について>
表1に示すビッカース硬度は、JIS R1610で規定されているビッカース硬度試験の測定方法に則って測定されたものである。表1に示すように、物質毎のビッカース硬度については、酸化ジルコニウムが1200kgf/mmであり、酸化アルミニウムが1750kgf/mmであり、ガラスが600kgf/mmであり、ポリカーボネートが13kgf/mmであり、アクリルが20kgf/mmである。すなわち、酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムは、一般的にカバー材の材料として使用されているガラス、ポリカーボネート、及びアクリルと比べてビッカース硬度が高いことがわかる。
【0052】
カバー材150のビッカース硬度が高いほど、表面の擦れによる傷付きは抑制される。例えば、透明セラミックスであれば金属で擦っても傷は付き難い。従って、カバー材150の材料としては、ビッカース硬度の高い酸化ジルコニウムや酸化アルミニウムが好適であるといえる。
【0053】
<2−4−4.曲げ強度について>
表1に示す曲げ強度は、JIS R1601で規定されている曲げ強度の測定方法に則って測定されたものである。表1に示すように、材質毎の曲げ強度については、酸化ジルコニウムが200〜400MPaであり、酸化アルミニウムが約400MPaであり、ガラスが50〜100MPaであり、ポリカーボネートが95MPaであり、アクリルが120MPaである。すなわち、酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムの曲げ強度は、一般的にカバー材の材料として使用されているガラス、ポリカーボネート、及びアクリルと比べて曲げ強度よりも高いことがわかる。
【0054】
カバー材150の曲げ強度が高いほど、外力による変形は抑制される。これにより内部の液晶ディスプレイや基板などの外力の変改による損傷を抑制できる。従って、カバー材150の材料としては、曲げ強度の高い酸化ジルコニウムや酸化アルミニウムが好適であるといえる。
【0055】
また、上記金属酸化物は、単結晶体であっても多結晶体であってもよい。ただし、単結晶体に比べ多結晶体の場合は、セラミックスの一般的製造法である、プレス成形、鋳込み成形、射出成形、押出成形、テープ成形等の種々の成形方法を用いることができ、種々の形状を作ることが容易である。そのため、カバー材150は、例えばキュービックジルコニア等の単結晶体の金属酸化物よりも、多結晶体の金属酸化物で形成されることが好ましい。
【0056】
[3.電子機器100の製造方法について]
次に、本発明の実施形態に係るカバー材150を含む電子機器100の製造方法について説明する。
【0057】
まず、カバー材150を形成するための金属酸化物には、市販の金属酸化物粉末を使用することができる。市販の金属酸化物粉末としては、例えば、東ソー株式会社製ジルコニア粉末(TZ−8Y)等が挙げられる。カバー材150の成形方法としては、上記金属酸化物を板状に成形可能であれば特に限定されないが、例えば、プレス成形、鋳込み成形、射出成形、押出成形、又はテープ成形等で所望の形状に成形した後、焼結する方法が挙げられる。また、市販の単結晶体を機械的に所望の形状に加工する方法等も挙げられる。
【0058】
次いで、図2に示すように、筐体カバー110Bの開口部110aにカバー材150を嵌め込む。ここで、筐体カバー110Bを、カバー材150を形成する透明セラミックスと同種の材料で形成してもよく、この場合、筐体110とカバー材150とを一体成形してもよい。一体成形の方法としては、例えば、射出成形等の方法が挙げられる。また、このとき、筐体110とカバー材150とが、夫々異なる色となるように、筐体110とカバー材150とを成形(2色成形)することができる。このように、筐体110とカバー材150を一体成形することにより、筐体110の強度を確保できるとともに、電子機器100の製造効率を向上させることができる。
【0059】
次いで、筐体基板110Aと、表示装置120と、タッチパネル130と、カバー材150とが、この順に積層されるように配置され、最後に、筐体基板110Aと筐体カバー110Bとを接合する。その結果、図3に示すように、Z軸の正方向に対して、表示装置120、タッチパネル130及びカバー材150が順次積層された状態で、表示装置120とタッチパネル130が、カバー材150が取り付けられた筐体110に収容された電子機器100が製造される。
【0060】
[まとめ]
以上、本実施形態に係るカバー材150を含む電子機器1000について説明した。電子機器1000では、カバー材150が、酸化ジルコニウム等の比誘電率が高い金属酸化物で形成されているので、タッチパネル130の位置検出感度の低下を防止することができる。例えば、厚みが1.6mmであって、酸化ジルコニウムで形成されたカバー材150を含む電子機器1000は、厚みが0.7mmであって、ガラスで形成されたカバー材を含む電子機器よりも良好な位置検出感度を有する。
【0061】
また、電子機器1000では、カバー材150が酸化アルミニウム等の機械的強度(ビッカース硬度、曲げ強度)が高い金属酸化物で形成されているので、カバー材150の損傷や破損等を防止することができる。また、電子機器1000では、カバー材150が透明セラミックスで形成されているので、表示画面の視認性を良好なものとすることができる。更に、カバー材150が多結晶体の酸化ジルコニウムで形成されることで、加工性を良好なものとすることができる。更に、カバー材150が筐体110と一体成形されることで、製造効率は大幅に向上する。
【0062】
なお、本実施形態に係るカバー材150では、用途に応じて、比誘電率が非常に高い酸化ジルコニウムまたは機械的強度が非常に高い酸化アルミニウムを主たる材料として適宜選択して使用することができる。
【0063】
[4.本実施形態の変形例に係る電子機器200の構成について]
次に、図4を参照しながら、本発明の実施形態の変形例に係るカバー材150を含む電子機器200について説明する。図4は、同変形例に係るカバー材150を含む電子機器200の断面図である。
【0064】
図4に示すように、電子機器200は、筐体110と、表示装置120と、タッチパネル130と、反射防止膜160と、反射防止膜165とを主に有する。また、タッチパネル130とカバー材150との間には、接着剤140を有していてもよい。筐体110、表示装置120、タッチパネル130、及び接着剤140については、本発明の実施形態に係る筐体110、表示装置120、タッチパネル130、及び接着剤140と実質的に同一の構成である。従って、本変形例では、以下、電子機器200の構成のうち、反射防止膜160及び反射防止膜165について中心に説明し、上記本発明の実施形態と同様の構成についての説明は省略する。
【0065】
(反射防止膜160、165について)
反射防止膜160、165は、カバー材150の表面を被覆するように形成され、主に外光や表示装置120等からの光のカバー材150表面での反射を防止し、光の透過率を向上させる。反射防止膜160、165は、カバー材150の表面を被覆することが可能であればどのような形態を有していてもよい。具体的には、反射防止膜160、165は、例えば、略矩形膜状の形状を有する。また、反射防止膜160は、カバー材150の表裏両面に形成されてもよく、表面と裏面のいずれか一方のみに形成されてもよい。なお、図4では、カバー材150の表裏両面に、反射防止膜160、165が形成されている例を示している。
【0066】
反射防止膜160、165として単層膜、多層膜のどちらを使用してもよいが、より大きい防止効果を得るには多層膜とすることが好ましい。単層膜の場合、低屈折材料が用いられ、例えば、MgF(フッ化マグネシウム)やSiO(酸化ケイ素)等の無機物を主成分として含んでいてもよく、シリコーンポリマーやフッ素ポリマー等の有機物を主成分として含んでいてもよい。一方、多層膜の場合は低屈折材料と高屈折材料の膜が交互に積層される。低屈折材料としては主としてMgF、SiO等の無機物が、高屈折材料としてはCeO、TiO、Nb等の無機物が用いられる。積層数を増加させるほど、反射防止効果は増すが、3〜5層で90%以上反射ロスを低減することが可能である。
【0067】
ここで、反射防止膜160による光の反射防止方法について、2層膜を例として更に詳細に説明する。大気の屈折率がnであり、反射防止膜150の第1層の屈折率がnであり、第2層の屈折率がnであり、カバー材150の屈折率がn、且つn<n<n<nである場合、外光が照射されると、当該外光の一部は反射防止膜160の第1層表面、第1層、第2層の界面、さらに反射防止膜160の第2層とカバー材150との界面で反射される。これらの反射される光が干渉し合い、各層の膜厚がλ/4nmであると、n=nのとき互いに打ち消し合う。そのため、反射光は低減されることとなり、光の透過率は向上することとなる。
【0068】
このようにして、反射防止膜160がカバー材150の表面に蒸着されることで、外光の反射が低減されることとなる。更に、外光の一部のうち、カバー材150と接着剤140またはタッチパネル130との界面で反射されるものもあると考えられる。そのため、反射防止膜160がカバー材150上に蒸着されるのと同様の理由で、反射防止膜165が、カバー材150と接着剤140またはタッチパネル130との間に蒸着されることがより好ましい。上述した外光の反射を低減するのと同様の理由で、カバー材150表面での表示装置120からの光の反射を防止する観点からも、カバー材150の両面に反射防止膜150、155が蒸着されることが好ましい。
【0069】
なお、本発明者らが行った実験によれば、例えば、以下の表2に示すように、反射防止膜が形成されていない厚みが1.58mmのカバー材(表2では「未処理」と示す。)における光の直線透過率が72%であった。これに対し、反射防止膜が両面に蒸着された厚みが1.58mmのカバー材(表2では「両面ARコート」と示す。)では、光の直線透過率が93%と顕著に増加していた。
【0070】
【表2】

【0071】
[5.電子機器200の製造方法について]
次に、本変形例に係るカバー材150を含む電子機器200の製造方法について説明する。反射防止膜160、165は、カバー材150の表面に上述した反射防止膜用コーティング組成物がコーティングされることで形成される。コーティング手段としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法等の物理的方法やSiO、TiO等のゾル溶液のディップコーティング、スピンコーティング等の化学的方法等、いかなる方法であってもよい。なお、反射防止膜160、165がカバー材150表面に蒸着されてから、カバー材150が筐体110に嵌め込まれてもよいし、カバー材150と筐体110とが一体成形されてから、反射防止膜160、165がカバー材150表面に蒸着されてもよい。その他、筐体110、表示装置120、タッチパネル130、カバー材150を含む電子機器200の製造方法については、本実施形態に係る電子機器100の製造方法と同様の方法を用いることが可能である。
【0072】
[まとめ]
以上、本実施形態に係るカバー材150を含む電子機器200について説明した。電子機器200では、カバー材150の表面に反射防止膜150、155が形成されることで、高屈折率を有するカバー材150の表面で反射される光を低減するために、表示画面の視認性が向上する。
【0073】
特に、本変形例に係るカバー材150は、比誘電率が高いセラミックスで形成されるため、高屈折率を有することとなる。そのため、カバー材150の表面での光の反射率は大きくなるおそれがある。この点を鑑みると、本変形例に係るカバー材150において、反射防止膜150、155が蒸着されることにより光の反射を低減する効果は、非常に大きなものとなる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0075】
10 指
100、200 電子機器
110 筐体
110A 筐体基板
110B 筐体カバー
110a 開口部
120 表示装置
130 タッチパネル
140 接着剤
150 カバー材
160、165 反射防止膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の筺体内部に収容されたタッチパネルの表面の少なくとも一部を覆うように前記筺体の一部に設けられ、金属酸化物の結晶を含む透明セラミックスで形成されている、カバー材。
【請求項2】
前記金属酸化物は、酸化ジルコニウムまたは酸化アルミニウムである、請求項1に記載のカバー材。
【請求項3】
前記金属酸化物は、多結晶体である、請求項1または2に記載のカバー材。
【請求項4】
前記カバー材の少なくとも一方の面に、前記透明セラミックスの屈折率よりも低い屈折率を有する材料からなる反射防止膜を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカバー材。
【請求項5】
前記タッチパネルは、静電容量方式のタッチパネルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のカバー材。
【請求項6】
筺体と、
当該筺体に収容されたタッチパネルと、
前記タッチパネルの表面の少なくとも一部を覆うように前記筺体の一部に設けられ、金属酸化物の結晶を含む透明セラミックスで形成されているカバー材と、
を備える、電子機器。
【請求項7】
前記筺体と前記カバー材とは、一体形成されている、請求項6に記載の電子機器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−174053(P2012−174053A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36180(P2011−36180)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】