説明

カバー部材及びその製造方法

【課題】比較的少量の非デカブロ難燃剤の付与により、カバー部材を性能良く難燃化することにある。
【解決手段】天然繊維又は合成繊維からなる表材4と、発泡樹脂であるパッド材6と、裏基布8をこの順で積層してなるカバー部材2において、裏基布8が、レーヨン等の難燃性繊維を有する布帛8aに対して、リン及び窒素を有する難燃剤8bを付与してなる部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表材と、パッド材と、難燃性の裏基布を有するカバー部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のカバー部材として、特許文献1に開示のカバー部材が公知である。このカバー部材では、複数の部材(表材、パッド材、難燃性の裏基布)がラミネート加工等により積層されてなり、例えば車両用シートの表皮材として使用できる。
難燃性の裏基布は、織物、編物や不織布などの面状部材であり、典型的にレーヨン(セルロースを再配列した再生繊維)にて形成させることが多い。
【0003】
ところで車両用シートの表皮材(カバー部材)は車両内装材の一種であることから、各種の難燃規制をクリアする必要がある。
例えば一般的な難燃規制「米国自動車安全基準FMVSS302」では、一定条件下でカバー部材にバーナ炎をあてた場合の燃焼速度(単位時間当たりの燃焼距離)が100mm/min以下であることが求められる。
【0004】
しかしこの種のカバー部材(難燃性の裏基布)では、表材やパッド材の材質の影響により、十分な難燃性能が得られないことがあった。
このため難燃性の裏基布に代わる難燃化技術として、各種の難燃剤を裏基布や表材(いずれも非難燃性)に付与する手法が知られる。例えば代表的な難燃剤として、デカブロモジフェニルエーテル(通称デカブロ)が公知である。このデカブロを、非難燃性の裏基布や表材に比較的少量(13〜95g/m)付与することで、裏基布や表材に対して好適な難燃性を付与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57-133065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上述のデカブロは環境に対する負荷が大きい薬剤である。このため中国では、2012年以降の生産車両にデカブロの使用が禁止され、北米でも、2013年以降の生産車両にデカブロの使用が禁止される。またデカブロの多量使用により、カバー部材(特に表材)が硬くなるなどの不具合が生じることがあった。
もっともリン酸オキシド化合物や水酸化アルミニウム等の他の難燃剤を用いることもできる。しかしこれら他の難燃剤は難燃性にやや劣り、デカブロと同等の効果を得るために多量の付与が必要であった。そして難燃剤の大量付与は、カバー部材等の品質劣化(外観変化や風合い悪化)の原因になりやすい。
このことから従来、デカブロ付与に代わる難燃化技術(例えば比較的少量で効果を奏する非デカブロ難燃剤等)が切望されていた。而して本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、比較的少量の非デカブロ難燃剤の付与により、カバー部材を性能良く難燃化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、第1発明のカバー部材は、天然繊維又は合成繊維からなる表材と、発泡樹脂であるパッド材と、裏基布をこの順で積層してなる。
この種のカバー部材は、比較的少量の非デカブロ難燃剤の付与により、性能良く難燃化されることが望ましい。
そこで本発明では、上述の裏基布が、レーヨン等の難燃性繊維を有する布帛に対して、リン及び窒素を有する難燃剤(非デカブロ難燃剤)を付与してなる部材である。
本発明によると、上述の非デカブロ難燃剤と布帛の相互作用(好適な酸素遮断等による炭化皮膜の形成促進など)により、比較的少量の非デカブロ難燃剤の付与であってもカバー部材を性能良く難燃化できる。
【0008】
第2発明のカバー部材の製造方法は、第1発明のカバー部材の製造方法であって、水溶性の難燃剤を水系溶媒に溶解した状態で布帛に付与する。
本発明によれば、難燃剤を水系溶媒に溶解することで、難燃剤を布帛に比較的均一に付与することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る第1発明によれば、比較的少量の非デカブロ難燃剤の付与により、カバー部材を性能良く難燃化することができる。また第2発明によれば、より確実にカバー部材を性能良く難燃化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】カバー部材の断面図である。
【図2】裏基布の製造工程を示す図である。
【図3】燃焼性試験の手順を示すカバー部材の斜視図である。
【図4】燃焼性試験時のカバー部材の断面図である。
【図5】裏基布一部の拡大図である。
【図6】炭化皮膜が発生した状態のカバー部材を示す表である。
【図7】逆R試験及び燃焼性試験の結果を示す図である。
【図8】(a)は、カバー部材の斜視図であり、(b)は、逆R試験の方法を示す円盤とサンプルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図8を参照して説明する。各図には、適宜、各部材上方に符号UP、各部材下方に符号DWを付す。
本実施形態のカバー部材2は、表材4とパッド材6と裏基布8がこの順で積層されて構成される(各部材の詳細は後述、図1及び図2を参照)。この種のカバー部材2は、例えば車両用シートの表皮材に用いられることから、各種の難燃基準(例えば米国自動車安全基準FMVSS302)を満たすことが望まれる。
ここで代表的な難燃剤であるデカブロは環境に対する負荷が大きいため、デカブロ付与に代わる難燃化技術が望まれる。そこで本実施形態では、比較的少量の非デカブロ難燃剤の付与により、カバー部材2を性能良く難燃化することとした。
【0012】
[表材・パッド材]
表材4は、カバー部材2の意匠面を構成する部材であり、天然繊維又は合成繊維の布帛(織物,編物,不織布)にて構成できる。表材4の目付量は特に限定しないが、例えばPET製の表材4では、目付量が100g/m〜1000g/mである。表材4の表面には起毛処理を施すことができる。
またパッド材6は、クッション性を備える部材であり、各種の発泡樹脂(ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム又はポリエステルフォーム等)にて構成できる。パッド材6として、例えばスラブウレタンフォーム(密度:10Kg/m〜60Kg/m)を用いることができる。
なお表材4とパッド材6は、典型的に難燃処理(難燃剤の付与等)を施す必要がない。
【0013】
[裏基布]
裏基布8は、カバー部材2の裏面(意匠面とは異なる面)を構成する部材であり、布帛8aと、非デカブロ難燃剤8bを有する(図1及び図2を参照)。
そして本実施形態では、カバー部材2の燃焼時において、裏基布8が、炭として残存し層を形成する(炭化皮膜20を形成する)ことができる。
【0014】
(布帛)
布帛8aは、面状の部材(織物、編物又は不織布)であり、レーヨン等の難燃性繊維を有する(図1を参照)。
布帛8aの材質として、レーヨン単独又はレーヨンと他の繊維を組み合わせて使用できる。他の繊維の種類は限定しないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)及び綿を例示できる。
レーヨンと他の繊維の比率は特に限定しないが、好ましくは重量比で、レーヨン:他の繊維=90:10〜50:50である。
【0015】
布帛8aの目付量は典型的に20g/m〜100g/mであり、好ましくは30g/m〜60g/mである。
ここで布帛8aの目付量が20g/mより少ないと、他の構成(表材4及びパッド材6)に対する燃焼抑制作用を奏しにくくなる。なお布帛8aの目付量は100g/mより多くてもよいが、コスト高となるとともに、布帛8aの重量が必要以上に増加する。
【0016】
(非デカブロ難燃剤)
非デカブロ難燃剤8bは、リン(P)及び窒素(N)を有する。非デカブロ難燃剤8bがリン(P)及び窒素(N)を有することで、好適な酸素遮断や燃焼ガス抑制や酸素濃度の減少作用を有する。この効果によってカバー部材2の燃焼時において、炭化皮膜20(裏基布8の燃えかす)の形成を促進させることにより、カバー部材2の好適な難燃性能を確保できる。
布帛8aに対する非デカブロ難燃剤8bの付与量は、典型的に1.5g/m〜20g/mであり、2.5g/m以上であることが好ましい。ここで非デカブロ難燃剤8bの付与量が20g/mを超えると、裏基布8が硬化して伸びにくくなる(性能劣化が生じる)ため好ましくない。
【0017】
この種の非デカブロ難燃剤8bとして、リン酸アンモニウム、リン酸カルバメート、リン酸アニリド、リン酸エステルアミド、リン酸メラミン、リン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ジメラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニジン、エチレンジアミンリン酸塩、ポリリン酸アンモニウム、メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム及びメラミン樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムを例示できる。ここでリン成分は、リン酸塩の形で非デカブロ難燃剤8bに存在することが望ましい。
なお本実施形態では、上述の非デカブロ難燃剤8bと、他の非デカブロ難燃剤を併用することもできる。他の非デカブロ難燃剤として、メラミンシアヌレート、リン酸オキシド化合物を例示できる。
【0018】
(布帛の作成)
布帛8aとしての織物及び編物は、汎用の編織方法によって作成可能であり、布帛8aとしての不織布も汎用の方法によって作成可能である。
例えば布帛8aとしての不織布の製造方法は、積層工程と、交絡工程を有する。積層工程では、レーヨン単独のシート(ウェブ)またはレーヨンと他の繊維によりウェブを作成する。ウェブの作製には、例えばレーヨンと他の繊維(短繊維)を開綿機にかけてほぐしたのちシート状とする乾式法、またはレーヨンと他の繊維を液中に分散させたのち抄紙機を利用してシート状とする湿式法のいずれも用いることができる。
【0019】
交絡工程では、例えばベルトコンベア上にウェブを配置しつつ、繊維同士を三次元的に交絡して布帛8aとする。交絡手法として、ウォーターパンチなどの物理的交絡法やニードルパンチなどの機械的交絡法を例示できる。
交絡工程によって、布帛8aの短繊維同士が互いに密に絡み合い、接着剤や熱融着によらずとも繊維の絡み合いだけで安定した布帛8aとすることができる。特にウォーターパンチ(高圧の水の噴流)によってウェブの短繊維同士を三次元的に交絡することで、機械油などの不純物(燃焼を促進する不純物)の混入を極力排除することができる。
【0020】
(非デカブロ難燃剤の付与)
非デカブロ難燃剤8bを、適当な溶媒に溶解又は分散(エマルジョン化)して布帛8aに付与することで、難燃性の裏基布8を作成する。
このとき水溶性の非デカブロ難燃剤8bを水系溶媒に溶解した状態で布帛8aに付与することが好ましい。非デカブロ難燃剤8bを水系溶媒に溶解することで、布帛8aに難燃剤を均一に付与できる。水系溶媒に溶解可能な非デカブロ難燃剤8bとして、リン酸アンモニウム、リン酸カルバメートを例示できる。なお水系溶媒には、水のほかに有機溶媒等の他の溶媒を混入させることもできる。
【0021】
ここで非デカブロ難燃剤8bの付与方法は特に限定しないが、ディップ法、スプレー法、バッキング法及びキスロール法を例示できる。なかでもディップ法とスプレー法は、非デカブロ難燃剤を無駄なく使用できるため比較的低コストである。
例えばディップ法においては、非デカブロ難燃剤8bの溶解液等を入れた浴槽10と、複数のローラR1〜R4を用いる(図2を参照)。そして複数のローラ(R1〜R4)により布帛8aを移送しつつ、その搬送途中で浴槽10内に導く。つぎに非デカブロ難燃剤8bに布帛8aを浸漬したのち、加熱炉内に移送する。
このように非デカブロ難燃剤8bに布帛8aを浸漬することで、布帛8aの繊維全体に非デカブロ難燃剤8bを塗布できる。
【0022】
(カバー部材の作成)
図1を参照して、表材4とパッド材6と裏基布8をこの順で配置したのち、縫着、接着又は溶着(ラミネート加工)などの手法で接合する。
本実施形態のカバー部材2は、難燃性の裏基布8を備えることから、米国自動車安全基準をより確実にクリアすることができる。
また本実施例によると、上述の非デカブロ難燃剤8bと布帛8aの相互作用(好適な酸素遮断等による炭化皮膜20の形成促進など)により、比較的少量の非デカブロ難燃剤8bの付与であってもカバー部材2を性能良く難燃化できる。
そして本実施例では、各種の難燃剤を表材4に付与する必要がないため、表皮の仕上り性を害することなくカバー部材2を作成することができる。
【0023】
以下、本実施の形態を試験例に基づいて説明するが、本発明は試験例に限定されない。
(実施例)
実施例1の布帛として、クロスレイヤータイプの不織布(質量:50g/m)を使用した。そしてベルトコンベア上に、布帛の繊維材料(重量比でポリエステル:レーヨン=35:65)を逐次積層したのち、交絡して布帛としての不織布を作成した。
そして積層工程及び交絡工程ののち、布帛(不織布)に、リン及び窒素を有する各実施例の非デカブロ難燃剤をデッピングにより塗工することで、本試験の裏基布を作成した。
実施例1では、後述の燃焼性試験において、6重量%のリン酸アンモニウムの水溶液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
【0024】
そして実施例1のカバー部材を、表材とクッション材と裏基布をこの順で積層及び接合して作製した。
表材としてPET製ジャージ(目付量:320g/m)を用いた。またクッション材としてポリウレタンフォーム(密度:20Kg/m、板厚:1.3mm)を用いた。なお表材とクッション材は、いずれも難燃剤が混入されていないものを使用した。
【0025】
つぎに各実施例2〜4のカバー部材を、以下の条件の下、実施例1と同一の手順で作成した。
実施例2では、6重量%のリン酸カルバメートの水溶液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
実施例3では、6重量%のリン酸アニリドのエマルジョン液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
実施例4では、6重量%のリン酸エステルアミドのエマルジョン液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
【0026】
また実施例5のカバー部材を、以下の条件の下、実施例1と同一の手順で作成した。
実施例5では、布帛として、ニット(質量:68g/m)を使用した。布帛の材料構成は、重量比で、ポリエステル:レーヨン:綿=32:18:50とした。
そして実施例5では、6重量%のリン酸アンモニウムの水溶液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
【0027】
(比較例)
各比較例のカバー部材を、以下の条件の下、実施例1と同一の手順で作成した。
比較例1では、6重量%のリン酸オキシド化合物のエマルジョン液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
比較例2では、6重量%の水酸化アルミニウムのエマルジョン液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
比較例3では、6重量%の水酸化マグネシウムのエマルジョン液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
比較例4では、6重量%のメラミンシアヌレートのエマルジョン液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
比較例5では、6重量%のホウ酸化亜鉛のエマルジョン液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
【0028】
また比較例6のカバー部材を、以下の条件の下、実施例1と同一の手順で作成した。
比較例6では、布帛として、ニット(質量:16g/m)を使用した。布帛の材料構成はポリエステル100%とした。そして比較例6では、6重量%のリン酸アンモニウムの水溶液を布帛に付与した(難燃剤付与量:1.5g/m)。
【0029】
(燃焼性試験)
燃焼性試験では、各実施例のカバー部材と各比較例のカバー部材から、それぞれサンプル片(縦350mm×横100mm)を採取した。そしてサンプル片の最大燃焼速度を、米国自動車安全基準FMVSS302に準拠して測定した。
難燃効果の判定基準として、自己消火を「◎」判定とし、単位時間当たりの燃焼距離が50mm/min以下(法規の半分の値)の場合を「○」判定とした。
また単位時間当たりの燃焼距離が50mm/minより長く60mm/min以下の場合を「△」判定とし、60mm/minより長い場合を「×」判定とした。
【0030】
(炭化皮膜の形成)
燃焼性試験後の実施例1、実施例5及び比較例6の裏基布を観察した。
本試験では、炭化皮膜が形成された場合を「◎」判定とした。また炭化皮膜の形成箇所が非形成箇所よりも多い場合を「○」判定とし、炭化皮膜の形成箇所が非形成箇所よりも少ない場合を「×」判定とした。
【0031】
(逆R試験(仕上り性試験))
本試験では、リン酸アンモニウムの水溶液を、塗布量が異なるように布帛に付与したのち、実施例1と同一の手順で複数のカバー部材2を作成した(図7及び図8を参照)。そして各カバー部材2に対して、上述の燃焼性試験と逆R試験を行った。
そして逆R試験では、各カバー部材2から、ベルトコンベアの搬送方向(ロール方向)Fに長尺な「縦長サンプルSh1」(縦350mm×横100mm)を3枚採取した(図8(a)を参照)。また同方向Fに直交する向きに長尺な「横長サンプルSw1」(縦100mm×横350mm)を3枚採取した。
つぎに各種直径の円盤30(直径:10mm〜200mm)を用意した(図8(b)を参照)。そして直径200mmの円盤30外周に各サンプルを沿わせた。このとき表材4表面を内側にし、表材4表面と円盤30とを垂直に保ったままゆっくりと5秒間沿わせた。サンプルの周縁をすべて円盤30に沿わせた状態で、表材4表面の折れ線の有無を調べた。ここで折れ線が確認できない場合には、円盤30の直径を10mm刻みで小さくして同様の試験を続けた。そして折れ線が現れたときの直前の円盤30の直径を記録した。
図7の結果には、「縦長サンプルSh1」と「横長サンプルSw1」(各3枚)の最大値を記載した。
【0032】
[試験結果及び考察]
燃焼性試験の結果を下記の[表1]に示す。
【表1】

【0033】
(燃焼性試験)
表1を参照して、比較例1、3〜5のカバー部材では、単位時間当たりの燃焼距離が50mm/min以上であった。このことから比較例1、3〜5のカバー部材では、表材及びパッド材の材質等により、米国自動車安全基準をクリアできない可能性があることが示唆された。
また比較例2のカバー部材は自己消火したものの感触がよくなかった(硬くごわごわした感触を有していた)。このため比較例2のカバー部材は性能に劣り、例えば車両用シートの表皮材には適さないことがわかった。
【0034】
これに対して実施例1と実施例2のカバー部材は感触がよく(柔軟で滑らかな感触を有し)、ともに自己消火した。また実施例3と実施例4のカバー部材は感触がよく、ともに単位時間当たりの燃焼距離が50mm/min以下であった。
これは各実施例の裏基布が、リン及び窒素を含有する非デカブロ難燃剤の付与により、難燃性能が向上したためと考えられる。すなわちリン及び窒素を含有する非デカブロ難燃剤の難燃作用(両元素の共存による酸素遮断や燃焼ガス抑制や酸素濃度の減少作用)により、裏基布表面の炭化皮膜形成が促進したためと考えられる。
このことから実施例1〜4のカバー部材によれば、裏基布に非デカブロ難燃剤を付与することにより、米国自動車安全基準をクリアできることがわかった。よって実施例1〜4のカバー部材は、例えば車両用シートの表皮材に好適に使用できることが分かった。
【0035】
さらに実施例1及び実施例2では特に難燃効果が高かった。このことから上述の非デカブロ難燃剤を水系溶媒に溶解した状態で布帛に付与することにより、より好適な難燃効果が得られることがわかった。これは水溶液での付与によって、布帛に対して難燃剤成分をより均一に付着できたためと考えられる(図5(b)を参照)。そして難燃剤成分の凝集径が比較的小さく表面積が大きくなるため、比較的少量の非デカブロ難燃剤によっても、均一で一様な炭化皮膜形成が可能であることが容易に推測される。
一方、エマルジョン液での付与によると、難燃剤成分が凝集体となって裏基布に局所的に付着することがわかった(図5(a)を参照)。
【0036】
(炭化被膜の形成)
図6を参照して、実施例1及び実施例5では炭化被膜が形成された。特に実施例1(不織布)では、好適な炭化皮膜が形成された。
このことから上述の非デカブロ難燃剤と布帛の相互作用によりカバー部材を性能良く難燃化できることがわかった。特に実施例1(不織布タイプ)では略全面に炭化皮膜が形成したことから、難燃効果が特に優れていることがわかった。
これとは異なり比較例6では、炭化皮膜の形成箇所が非形成箇所よりもはるかに少なかった。このことから比較例6のカバー部材は、ドロップにより全面に炭化皮膜が形成されないため、酸素遮断効果などに劣ることがわかった。
【0037】
(逆R試験(仕上り性試験))
図7を参照して、リン及び窒素を含有する非デカブロ難燃剤の付与量を1.5g/m以上20g/m以下(比較的少量)に設定することで、良好な難燃性と、良好な仕上り性を有するカバー部材を得ることができた。またリン及び窒素を含有する非デカブロ難燃剤8bの付与量が20g/mを超えると、カバー部材の仕上り性がやや悪化することがわかった。
このことからリン及び窒素を含有する非デカブロ難燃剤が、カバー部材の柔軟性を好適に維持しつつ、不織布を難燃化できることがわかった。
【0038】
本実施形態のカバー部材及びその製造方法は、上述した実施例に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施例の交絡工程では、物理的又は機械的にウェブを交絡させる構成を説明したが、接着剤やバインダー繊維を使用しない趣旨ではない。
(2)また本実施形態では、表材4とパッド材6と裏基布8のみからなるカバー部材2を説明したが、これら各構成は主構成であり、この他に別の構成(樹脂板やコーティング層など)を有していてもよい。
(3)また本実施形態では、カバー部材2を、車両用シートの表皮材として使用した。カバー部材は、各種の車両内装材や、家庭用の座席の表皮材としても使用できる。
【符号の説明】
【0039】
2 カバー部材
4 表材
6 パッド材
8 裏基布
8a 布帛
8b 非デカブロ難燃剤
10 浴槽
20 炭化皮膜
30 円盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維又は合成繊維からなる表材と、発泡樹脂であるパッド材と、裏基布をこの順で積層してなるカバー部材において、
前記裏基布が、レーヨン等の難燃性繊維を有する布帛に対して、リン及び窒素を有する難燃剤を付与してなる部材であるカバー部材。
【請求項2】
水溶性の前記難燃剤を水系溶媒に溶解した状態で前記布帛に付与する請求項1に記載のカバー部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−179792(P2012−179792A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43819(P2011−43819)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(592184393)株式会社アサダユウ (2)
【出願人】(595031775)シンワ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】