説明

カビの発生した穀物の簡易識別方法

【課題】作業者の経験に頼ることなく精度よいカビ検査が可能であり、また、カビ検査作業が簡易で、特別な微生物検査施設や機器・器材を必要としないカビの発生した穀物の識別方法を提供することを目的とする。
【解決手段】カビ検出用培地が収容された樹脂製本体と、前記樹脂製本体の開口部を封止した樹脂製蓋体と、を備えたカビ培養用容器を用意する工程と、前記樹脂製蓋体により封止された前記樹脂製本体の開口部を開口する工程と、前記開口された開口部から、前記カビ検出用培地に、穀物を載置する工程と、前記開口された開口部を前記樹脂製蓋体にて覆ってから、前記カビ培養用容器を室温にて保管する工程と、を含むことを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カビの発生した穀物の簡易識別方法に関するものであり、より詳しくは、穀物の品質管理のためのカビ状異物検査において、特別な培養施設や検査経験を有することなく、カビ状異物の発生した穀物を簡易迅速に識別する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
穀物の保管において、その品質保持及び安全性確保には、保管中の温度・湿度管理、穀物の水分含量等の制御および病虫害の発生予防が基本となる。特に、穀物は、その保管中に、貯蔵性カビ類が着生して被害を受けたり、カビ毒産生菌によりカビ毒が蓄積する等の問題が生ずる場合がある。カビ毒に侵された穀物を摂取すると、人体に多大な影響を与えることから、貯蔵庫などに保管されている穀物には、カビ検査が必要である。
【0003】
従来、作業者がカビの発生が疑われる試料を検査用円形盆(カルトン)にサンプリングし、サンプリングしたカルトン上の試料を目視により観察して、カビ発生の有無を確認する。そして、目視ではカビ発生の有無の判断が困難な場合には微生物検査施設などで、シャーレに収容したカビ・酵母培養用寒天培地に上記サンプリングした試料を載置してカビを培養し、5〜7日後に出現したコロニーを観察、計測してカビ発生の有無を確認する方法が採用されている。
【0004】
しかし、上記目視による確認方法では、カビ検査の精度は作業者の経験に頼らざるを得ないという問題がある。また、カビを培養するにも無菌的操作のできる施設で、カビの培養作業直前に寒天培地を作成してシャーレ本体に寒天培地を充填しなければならず、作業が煩雑である。さらに、寒天培地に検査試料を載置する際に、シャーレ本体とは別体の蓋体をシャーレから取り外したり、取り外した蓋体を再度シャーレ本体に被せたりする作業のハンドリング性の悪さから、作業者の経験が未熟な場合、培地のコンタミネーションが発生しやすく、またカビ検査の作業に多くの人員を要するという問題がある。
【0005】
そこで、例えばカビの発生が疑われる試料が玄米の場合、カビの発生した玄米にある香気成分を検知して、カビの発生した玄米を識別する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この識別方法は、香気成分を捕集・濃縮した上で、ガスクロマトグラフ質量分析器や導電性ポリマー型センサを用いて検知する必要があり、別途、高価な機器・器材が必要になるという問題、さらには、カビの検査対象は玄米に限られるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−94821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、作業者の経験に頼ることなく精度よいカビ検査が可能であり、また、カビ検査作業が簡易で、特別な微生物検査施設や機器・器材を必要としないカビの発生した穀物の識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、カビ検出用培地が収容された樹脂製本体と、前記樹脂製本体の開口部を封止した樹脂製蓋体と、を備えたカビ培養用容器を用意する工程と、前記樹脂製蓋体により封止された前記樹脂製本体の開口部を開口する工程と、前記開口された開口部から、前記カビ検出用培地に、穀物を載置する工程と、前記開口された開口部を前記樹脂製蓋体にて覆ってから、前記カビ培養用容器を室温にて保管する工程と、を含むことを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法である。
【0009】
カビ検出用培地は滅菌処理されてカビ培養用容器の樹脂製本体に収容されている。作業者はカビ培養用容器の樹脂製蓋体を開けて、カビ発生が疑われるロットから任意に選んだ複数の検査粒を、樹脂製本体に収容されているカビ検出用培地に、一粒ずつ所定間隔で置いていく。そして、再度、前記カビ培養用容器の前記樹脂製蓋体を閉じてから、前記カビ培養用容器を室温にて保管する。数日後、それぞれの検査粒について目視にてカビ発育の有無を確認する。そして、カビ検出用培地に置いた検査粒のうち、カビの発育が認められた検査粒を所定割合含んでいたロットについては、カビ発生試料と判断し、廃棄等、所定の処置を実施する。なお、「穀物」とは、農作物のうち、種子を食用とするため栽培されるものを意味し、例えば、米麦および雑穀類などの小粒種子を挙げることができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、前記樹脂製蓋体に代えて、前記樹脂製本体を内部に収容する樹脂製の収納用ケース本体と、前記収納用ケース本体の開口部を封止した収納用ケース蓋体とを備えたことを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法である。
【0011】
この態様では、カビ検出用培地が収容された樹脂製本体は、樹脂製の収納用ケースに無菌的に収納されており、作業者は、収納用ケース蓋体を開けて樹脂製本体を収納用ケース本体から取り出すか、または収納用ケース本体に収納したままで、カビ検査に使用する。
【0012】
本発明の第3の態様は、前記樹脂製蓋体が、フィルムまたはスライド移動自在の板状体であることを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法である。また、本発明の第4の態様は、前記収納用ケース蓋体が、フィルムまたはスライド移動自在の板状体であることを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法である。
【0013】
この態様では、樹脂製蓋体がフィルムの場合、フィルムの周縁が、樹脂製本体の開口部を形成する樹脂製本体の周縁頂上部に固着されて、樹脂製本体の開口部を封止する。開口部を覆ったフィルムを樹脂製本体の周縁頂上部から剥がすと、開口部が開くようになっている。開けた開口部は、例えば、フィルムと樹脂製本体の周縁頂上部とを粘着テープを用いて再度接着したり、フィルムの周縁と樹脂製本体の周縁頂上部との重ね合わせ部に嵌合可能な固定部材を用いることで、再度閉めることができる。
【0014】
また、樹脂製蓋体がスライド移動自在の板状体の場合、板状体は、樹脂製本体の内壁に設けられた凹溝でスライド式に案内されて樹脂製本体の開口部を覆って封止する。開口部を覆う板状体を樹脂製本体の底面と平行な方向にスライドさせたときに、開口部が開くようになっている。開けた開口部は、板状体を元の位置にスライドさせることで、再度閉めることができる。
【0015】
本発明の第5の態様は、前記カビ検出用培地が、寒天培地であって、前記寒天培地の寒天濃度が、1.15〜1.35%であることを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法である。通常の寒天培地の寒天濃度は1.5〜1.6%であるのに対し、上記態様では、寒天濃度を1.15〜1.35%と、やや軟らかくしている。
【0016】
本発明の第6の態様は、前記カビ検出用培地が収容された樹脂製本体の内底面上に、前記樹脂製本体の内部を平面視にて複数の区画に分割する仕切り部を備え、前記分割されたそれぞれの区画に一粒の穀物を載置することを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法である。すなわち、この態様では、樹脂製本体の内底面が仕切り部により複数の区画に分割され、各区画にカビ検出用培地が収容されている。
【0017】
本発明の第7の態様は、前記仕切り部の高さ方向の寸法が、前記カビ検出用培地の厚さ寸法よりも大きいことを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法である。すなわち、この態様では、各区画に収容されたカビ検出用培地は、隣接する区画に収容されたカビ検出用培地と接しておらず、各区画に収容されたカビ検出用培地は、他の区画に収容されたカビ検出用培地に対し、それぞれ独立している。
【0018】
本発明の第8の態様は、前記樹脂製本体が、平面視で矩形であることを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様によれば、本体と一体に備え付けられた蓋体で開口部の開閉操作をしてカビ培養用容器に検査粒をセットするので、検査粒のセット作業が迅速かつ簡易である。このように、検査粒のセット作業のハンドリング性に優れているので、セット作業中における培地のコンタミネーションを防止できる。従って、クリーンベンチ等、培地のコンタミネーションを防止するための特別な機器・器材が不要となり、貯蔵倉庫内または貯蔵倉庫外の比較的清浄な部屋等でもカビの発生した穀物の識別方法を実施できる。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、カビ検出用培地が収容された樹脂製本体は、樹脂製の収納用ケースに収納されているので、カビ培養用容器を保管する際における樹脂製本体の破損を防止できる。
【0021】
本発明の第3、第4の態様によれば、蓋体がフィルムまたはスライド移動自在の板状体なので、開口部の開閉作業を容易かつ迅速に行うことができる。
【0022】
本発明の第5の態様によれば、寒天培地の寒天濃度を1.15〜1.35%とすることにより、検査粒の一部分を培地中に埋めることのできる硬さとなるので、培地上における検査粒の位置を固定することができる。
【0023】
本発明の第6の態様によれば、カビ検出用培地が複数の区画に分割され、1つの区画ごとに1粒の検査粒を載せるので、培地上における検査粒の位置決めが容易であり、カビの検査作業を迅速化できる。また、各検査粒は区画ごとに分離して置かれるので、同じカビ培養用容器に別種の試料を並べても、試料の識別判断が容易である。
【0024】
本発明の第7の態様によれば、仕切り部の高さ方向の寸法が、カビ検出用培地の厚さ寸法よりも大きいので、カビ培養用容器の保管状態が水平を維持できなくても、特定の区画に載せた試料が他の区画に移動するのを防止できる。また、仕切り部がカビ検出用培地の面から突出しているので、所定の試料に発生したカビが、隣接した他区画に進出するのを抑えることができる。従って、カビの発生した検査粒の割合をより正確に把握でき、さらに、1つのカビ培養用容器で複数種類または複数ロットの試料検査に対応することもできる。
【0025】
本発明の第8の態様によれば、樹脂製本体が平面視で矩形なので、シャーレ等、曲部を有する樹脂製本体と比較して、本体全体の面積は略同じであっても均一な面積を有する区画を多数設けること、すなわち、検査粒のセット数量を増やすことができる。このように、1つのカビ培養用容器で検査対象を増やせるので、検査の精度が向上する。また、各区画の面積を均一化できるので、発育したカビが隣接試料へ拡大するのを抑えて、カビの発生が認められる試料を確実に識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)図は本発明の第1実施形態例に係る簡易識別方法に用いるカビ培養用容器の平面図、同(b)図は本発明の第1実施形態例に係る簡易識別方法に用いるカビ培養用容器の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態例に係る簡易識別方法の開口部の開口工程の説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態例に係る簡易識別方法の試料載置工程の説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態例に係る簡易識別方法の開口部を閉じる工程の説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態例に係る簡易識別方法の保管工程の説明図である。
【図6】本発明の実施例にてカビが発生した状態を示す図である。
【図7】(a)図は本発明の第2実施形態例に係る簡易識別方法に用いるカビ培養用容器の平面図、同(b)図は本発明の第2実施形態例に係る簡易識別方法に用いるカビ培養用容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態例に係るカビの発生した穀物の簡易識別方法を、図面を用いながら説明する。
【0028】
本発明の第1実施形態例は、カビ検出用培地が収容された樹脂製本体と、前記樹脂製本体の開口部を封止した樹脂製蓋体と、を備えたカビ培養用容器を用意する工程と、前記樹脂製蓋体により封止された前記樹脂製本体の開口部を開口する工程と、前記開口された開口部から、前記カビ検出用培地に、米粒を載置する工程と、前記開口された開口部を前記樹脂製蓋体で覆って前記開口部を再度閉じる工程と、前記カビ培養用容器を室温で保管してカビを培養する工程と、を含む。
【0029】
本発明の第1実施形態例で使用するカビ培養用容器1は、図1(a)(b)に示すように、樹脂製の本体2と、本体2の平面視の形状に対応した形状を有するフィルム状の樹脂製蓋体3とから構成されている。本体2内部には寒天培地であるカビ検出用培地4が充填されている。本体2の開口部5側の周縁には、本体2の底面と略平行な平面部6が本体2外側に向けて周設されている。開口部5に周設された平面部6は、略同じ幅を有している。また、本体2の長手方向に対し垂直方向にある2つの平面部6のうち一方の平面部6に、本体2の底面と略平行な矩形状の平板部9が、本体2の外側に向けて突設されている。さらに、平板部9の表面には、蓋体3側に突出した2つの突起が形成されている。
【0030】
フィルム状の蓋体3が平面部6に固着されることで、本体2の開口部5が封止されている。一方で、フィルム状の蓋体3は平板部9に固着されていない。従って、作業者は、平板部9に固着されていない蓋体3の部分を、前記突起を利用して掴んだ後、前記部分を本体2の長手方向に引っ張ることで、本体2から蓋体3を容易に剥離させることができる。
【0031】
また、蓋体3の表面には、平板部9に対応する位置に記入部位21が設けられている。記入部位21は、例えば、カビ培養用容器1のロットナンバーや検査粒20の試料名の記載等に使用する。ここでは、記入部位21は、白色塗料を蓋体3の表面に塗布したものである。なお、上記第1実施形態例に係る本体2の寸法は、平面部6と平板部9を含めて125mm×55mmであり、深さは10mmである。
【0032】
蓋体3で密閉されている本体2の内部及び本体2内部に収容されたカビ検出用培地4は、何れも滅菌状態となっている。従って、カビ培養用容器1は、蓋体3を平面部6から剥離させない限り、本体2内部及びカビ検出用培地4がコンタミネーションしない構造となっている。また、本体2の内底面には、本体2の長手方向に対して平行な方向に仕切り部7が4本と、本体2の長手方向に対し垂直方向に仕切り部8が4本、等間隔に立設されており、本体2内部は25区画に分割されている。前記仕切り部7、8の高さ方向の寸法は、本体2の深さ寸法以下であって、かつカビ検出用培地4の厚さ寸法よりも大きくなっている。
【0033】
カビ検出用培地4は、穀物からのカビ及び酵母の分離と菌数算定に用いることが可能な培地であれば特に限定されない。通常一般に使用されるものには、例えば、YM寒天培地がある。また、好ましいカビ検出用培地4には、食品変敗に関与する糸状菌や酵母の算定・分離用の選択培地として適し、拡大性カビの発育を抑制できる点でDRBC(Dichloran−Rose−bengal−Chloramphenicol)寒天培地、乾燥または半乾燥状態の食品から好乾性糸状菌を分離したり算定するのに適し、拡大性カビの発育を抑制できる点でDG18(Dichloran−Glycerol)寒天培地、カビ毒であるアフラトキシン産生性のアスペルギルス フラバス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス パラシティカス(Aspergillus parasiticus)を迅速に分離・菌数算定するのに適している点でAFPA(Aspergillus Flavus/Parasiticus Agar)培地などを挙げることができる。
【0034】
作業者は、貯蔵倉庫に保管されている米のうち、カビの発生が疑われるロットから米試料をカルトンにてサンプリングし、目視によりカビ発生の有無を観察する。しかし、カビ発生の有無の判断が困難な場合には、作業者は、サンプリングした米粒を倉庫付近の比較的清浄な部屋に持ち込む。そして、図2に示すように、そこにあらかじめ用意しておいたカビ培養用容器1を手にとり、その場で、蓋体3を平面部6から剥がしていって封止されていた開口部5を開口する。このとき、蓋体3を本体2から完全に分離させてもよいが、後述する開口部5を閉じる工程の作業性を容易化する点で、蓋体3を本体2から完全には分離させず、カビ検出培地4上に米粒を並べるのに支障がない程度に、蓋体3の一部分を本体2の平面部6に固着させておくのが好ましい。
【0035】
そして、図3に示すように、作業者は、カルトンでサンプリングした米粒をピンセットにて採取する。すなわち、このピンセットで採取した米粒が検査粒20となる。その後、作業者は、検査粒20を、カビ検出用培地4の表面に軽く押し付けるようにして、各区画に一粒ずつ並置していく。カビ検出用培地4の寒天濃度は、各検査粒20の下部をカビ検出用培地4に埋めて各検査粒20がカビ培養用容器1内を転がり動くのを防止する点から1.15〜1.35%であり、カビ検出用培地4の割れを確実に防止してカビ検出用培地4への載置作業を容易化する点から、好ましくは1.20〜1.30%である。
【0036】
図4に示すように、作業者は、25区画全てに検査粒20を載置した後、本体2から完全には分離させず一部分を本体2に固着させておいた蓋体3を、開口部5を開口する前の位置に戻し、再度開口部5を閉じる。蓋体3の周縁部と本体2の平面部6との固定手段は、特に限定されないが、例えば、粘着テープによる接着、蓋体3の周縁部と本体2の平面部6との重ね合せ部に嵌合可能な固定部材を取り付けることによる固定等が挙げられる。図4に示す実施形態例では、固定部材10を使用している。
【0037】
蓋体3を元の位置に戻して開口部5を閉じたら、図5に示すように、作業者は、カビ培養用容器1を前記比較的清浄な部屋に室温で48〜72時間保管し、カビの発生状況を観察記録する。また、必要に応じて、カメラ等で記録写真を撮っておく。
【0038】
48〜72時間の培養後、25粒の検査粒20のうち、例えば、1/5以上半数未満にカビの発育が認められた場合には、カビ発生試料の疑いありと判定し、必要に応じて再度試験を実施する。25粒の検査粒20のうち、例えば、半数以上にカビの発育が認められた場合には、カビ発生試料と判定し、対応するロットは、廃棄等、所定の処置を実施する。また、25粒の検査粒20のうち、カビの発育が認められたものが例えば1/5未満の場合には、カビ未発生試料と判定する。なお、使用後のカビ培養用容器1は、高温高圧下で滅菌処理せずに、例えば、市販の塩素系漂白剤で浸漬処理後、そのまま廃棄可能である。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態例について説明する。なお、上記第1実施形態例と同じ構成要素については同じ符号を付す。第1実施形態例では、カビ検出用培地4が充填された樹脂製の本体2とフィルム状の樹脂製蓋体3から構成されたカビ培養用容器1を用いたが、これに代えて、第2実施形態例では、図7に示すように、カビ検出用培地4が充填された樹脂製の本体2を内部に収容した樹脂製の収納用ケース本体12と、収納用ケース本体12の平面視の形状に対応した形状を有するフィルム状の樹脂製収納用ケース蓋体13とを備えたカビ培養用容器11を用いている。
【0040】
第2実施形態例では、収納用ケース本体12の開口部15側の周縁には、収納用ケース本体12の底面と略平行な平面部16が収納用ケース本体12外側に向けて周設されている。開口部15に周設された平面部16は、略同じ幅を有している。また、収納用ケース本体12の長手方向に対し垂直方向にある2つの平面部16のうち一方の平面部16に、収納用ケース本体12の底面と略平行な矩形状の平板部19が、収納用ケース本体12の外側に向けて突設されている。フィルム状の収納用ケース蓋体13が平面部16に固着されることで、収納用ケース本体12の開口部15が封止されている。従って、本体2の平面部6にはフィルム状の蓋体3は固着されていない。
【0041】
また、図7に示すように、収納用ケース蓋体13には、本体押え部22が2箇所設けられている。本体押え部22は、収納用ケース蓋体13の本体2側に設けられた矩形状の突起であり、平板部19から遠い方の本体2側壁の角部に対向する位置に設けられている。本体押え部22が収納用ケース本体12に収容された本体2側壁の角部を上方から押えることで、本体2が収納用ケース本体12内に支持される。これにより、本体2が収納用ケース本体12内で動くのを防止する。
【0042】
フィルム状の収納用ケース蓋体13は平板部19に固着されていない。従って、作業者は、平板部19に固着されていない収納用ケース蓋体13の部分を掴んだ後、前記部分を収納用ケース本体12の長手方向に引っ張ることで、収納用ケース本体12から容易に収納用ケース蓋体13を剥離させることができる。
【0043】
また、収納用ケース蓋体13には、平板部19に対応する位置に記入部位21が設けられている。記入部位21は、例えば、カビ培養用容器11のロットナンバーや検査粒20の試料名の記載等に使用する。ここでは、記入部位21は、白色塗料を収納用ケース蓋体13の表面に塗布したものである。
【0044】
収納用ケース蓋体13で密閉されている収納用ケース本体12の内部及び本体2内部に収容されたカビ検出用培地4は、何れも滅菌状態となっている。従って、カビ培養用容器11は、収納用ケース蓋体13を平面部16から剥離させない限り、収納用ケース本体12内部及びカビ検出用培地4がコンタミネーションしない構造となっている。また、上記第1実施形態例と同様に、本体2の内底面には、本体2の長手方向に対して平行な方向に仕切り部7が4本と、本体2の長手方向に対し垂直方向に仕切り部8が4本、等間隔に立設され、本体2内部は25区画に分割されている。前記仕切り部7、8の高さ方向の寸法は、収納用ケース本体12の深さ寸法以下であって、かつカビ検出用培地4の厚さ寸法よりも大きくなっている。
【0045】
以下、図示しないが、カビ培養用容器11を用いた第2実施形態例に係る各工程について説明する。まず、収納用ケース蓋体13を平面部16から剥がしていって封止されている開口部15を開口する。このとき、後述する開口部15を閉じる工程の作業性を容易化するために、収納用ケース蓋体13は、収納用ケース本体12から完全には分離させず、カビ検出培地4を収納した本体2をカビ培養用容器11から取り出すのに支障がない程度に、その一部分を収納用ケース本体12の平面部16に固着させておくのが好ましい。
【0046】
そして、作業者は、収納用ケース本体12に収容された本体2の平板部9と収納用ケース本体12との間に形成されている空隙に指を入れて、本体2の平板部9を掴み、本体2をカビ培養用容器11から取り出す。そして、取り出したカビ検出用培地4の表面に検査粒を並べていく。
【0047】
カビ検出用培地4の表面に検査粒を並べたら、本体2を収納用ケース本体12内の元の位置に戻し、その一部分を収納用ケース本体12に固着させておいた収納用ケース蓋体13を、元の位置に戻し、再度開口部15を閉じる。収納用ケース蓋体13の周縁部と収納用ケース本体12の平面部16との固定手段は、特に限定されないが、第1実施形態例と同様に、例えば、粘着テープによる接着、収納用ケース蓋体13の周縁部と収納用ケース本体12の平面部16との重ね合せ部に嵌合可能な固定部材を取り付けることによる固定等が挙げられる。その後のカビ培養用容器11の保管工程及びカビ発生の有無の判定方法については、第1実施形態例と同様である。
【0048】
次に、本発明の他の実施形態例について説明する。上記第1実施形態例及び第2実施形態例では、カビ培養用容器1、11の蓋体3、収納用ケース蓋体13にフィルム状のものを使用し、蓋体3、収納用ケース蓋体13は本体2、収納用ケース本体12の平面部6、16に固着されていたが、これに代えて、蓋体、収納用ケース蓋体をスライド移動自在の板状体とし、蓋体、収納用ケース蓋体をスライド移動させることで、開口部5、15の開閉操作を行なう形態としてもよい。
【0049】
上記第1実施形態例及び第2実施形態例では、検査対象は米であったが、穀物であれば特に米には限定されず、例えば、麦、豆にも使用可能である。
【0050】
上記第1実施形態例及び第2実施形態例では、本体2の25区画の培地全てに同種の検査対象を載せていたが、例えば、米と豆など異なる種類の検査対象を載せてもよい。また、本体2に設けた区画数は25に限定されず、仕切り部7、8の個数を変えることで、区画数は適宜変更可能である。さらに、上記第1実施形態例及び第2実施形態例では、各検査粒20の一部分をカビ検出用培地4に埋めたが、カビ検出用培地4に埋めずに、検査粒20をその表面に載せるだけでもよく、この場合、カビ検出用培地4の寒天濃度を上げてカビ検出用培地4の硬度を上記第1実施形態例及び第2実施形態例より高くしてもよい。
【0051】
また、上記第1実施形態例及び第2実施形態例では、記入部位21は、蓋体3、収納用ケース蓋体13の表面に白色塗料を塗布したものであったが、これに代えて、前記表面を凸凹に加工して、くもり様の外観を有したものとしてもよく、必要なければ設けなくてもよい。さらに、上記第1実施形態例及び第2実施形態例では、平板部9、19を設けたが、適宜省略してもよい。また、上記第2実施形態例では、本体2をカビ培養用容器11から取り出して検査粒を並べたが、これに代えて、本体2をカビ培養用容器11に収納したまま検査粒を並べてもよい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例によりさらに説明するが、もちろん、本発明はこれらの開示事項に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
使用したカビ培養用容器:図1に示すカビ培養用容器
つまり、カビ検出用培地が収容された本体と該本体の開口部を封止したフィルム状の蓋体とからなる容器を使用した。
【0054】
使用したカビ検出用培地:DRBC寒天培地
組成
ブドウ糖・・・・・・・・10.0g/L
ペプトン・・・・・・・・・5.0g/L
リン酸二水素カリウム・・・1.0g/L
硫酸マグネシウム・・・・・0.5g/L
ジクロラン・・・・・・0.002g/L
ローズベンガル・・・・0.025g/L
クロラムフェニコール・・0.100g/L
寒天・・・・・・・・・・13.0g/L
精製水・・・・・・・・・・1.0L
pH 5.6±0.2
調製法について
加温溶解後、121℃で15分間、高圧滅菌してDRBC寒天培地を調製した。
【0055】
滅菌後、50℃まで自然冷却してから、DRBC寒天培地をよく攪拌し、滅菌したカビ培養用容器の25個ある区画に分注した。このとき、各区画の分注量は、DRBC寒天培地の厚さ寸法が、25個の区画を形成する仕切り部の高さ方向の寸法よりも小さくなるようにした。分注後、所定の方法でフィルム状の蓋体にて開口部を封止し、上記カビ培養用容器を作成した。このカビ培養用容器は、あらかじめ用意しておき、必要に応じてすぐ使用できるよう、所定の保管場所に保管しておいた。
【0056】
貯蔵庫に保管された貯蔵精米のうち、カビの発生が疑われるロットについて、カルトンを用いてロットの一部をサンプリングした。カルトン上の精米粒を目視により観察して、カビ発生の有無を確認した。そして、目視ではカビ発生の有無の判断が困難な試料についてカビ培養用容器を用いてカビ発生の有無を判断するために、カルトン上の精米粒を貯蔵庫から比較的清浄な部屋に移した。そして、そこに保管しておいたカビ培養用容器の蓋体を本体から剥がして、封止されていたカビ培養用容器の開口部を開口した。開口後、カルトン上の精米粒から任意に25粒選び、上記カビ培養用容器の25区画に分割されたカビ検出用培地にそれぞれ並べた。その後、蓋体の周縁部と本体の平面部との重ね合せ部に嵌合可能な部材を取り付けることで、開口部を前記蓋体で再度閉じた。そして、カビ培養用容器を室温にて72時間保管し、カビを培養した。その結果を図6に示す。
【0057】
(実施例2)
カビ検出用培地に以下に示すYM培地を使用した以外は、実施例1と同様の試験条件及びロットにて、精米粒のカビの培養を実施した。
【0058】
使用したカビ検出用培地:YM培地
組成
ブドウ糖・・・・・・・・15.0g/L
ソイトン・・・・・・・・・6.0g/L
麦芽エキス・・・・・・・・5.0g/L
酵母エキス・・・・・・・・1.0g/L
寒天・・・・・・・・・・ 16.0g/L
ローズベンガル、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール 適宜添加
精製水・・・・・・・・・・・・・1L
調製法について
加温溶解後、121℃で15分間、高圧滅菌してYM培地を調製した。
【0059】
図示しないが、実施例2では、上記カビ培養用容器内の25区画のそれぞれに並べた合計25粒の精米粒のうち、8粒にカビの発生が観察できた。
【0060】
(比較例)DRBC寒天基礎培地中の寒天の添加量を従来の組成である15.0g/Lとした以外は、実施例1にて使用したのと同じDRBC寒天培地を作成した。このDRBC寒天培地を121℃で15分間、高圧滅菌した。滅菌後、DRBC寒天培地を50℃まで自然冷却してから、よく攪拌し、5枚の滅菌済みシャーレに分注した。比較例では、このDRBC寒天培地を充填した5枚のシャーレをカビ培養用容器として使用した。比較的清浄な部屋にて、5枚のシャーレそれぞれについて、シャーレの蓋体を外し、実施例と同じカルトン上の精米粒から任意に5粒ずつを選び、目視で略均等間隔となるよう培地上に精米粒を並べた。その後、シャーレ本体に蓋体を被せ、実施例と同様に、室温にて72時間保管した。
【0061】
なお、比較例で、1つのシャーレに並べる精米粒を5粒とした理由は、1)シャーレは平面視球形なので、精米粒間の距離を確保するには培地周縁部に多くの精米粒を並べることができないこと、2)シャーレの内底面は複数の仕切り部で分画されていないので、生育したカビが隣接する他の精米粒に達するのを抑えるには上記精米粒間の距離を十分にとる必要があること、による。1つのシャーレに6粒以上並べた状態で所定の精米粒にカビが発生すると、生育したカビが隣接する他の精米粒に達しやすくなって、カビの発生した精米粒の割合が判断不能となる。
【0062】
実施例1では、図6に示すように、25粒の精米粒のうち9粒に、実施例2では、25粒の精米粒のうち8粒に、それぞれカビの発生が観察できた。すなわち、実施例1、2では、1/5以上半数未満にカビの発育が認められたので、実施例1、2のいずれの場合にも、カルトンにてサンプリングしたロットは、カビの発生が疑われるものと判断できた。また、実施例1、2の何れも、カビ検出用培地にカビ発生の有無の判断に困難をきたすような培地のコンタミネーションは見られず、的確な判断が可能であった。これは、蓋体による開口部の開閉作業を迅速に行なえたためと考えられる。
【0063】
一方、図示しないが、比較例では、実施例と同一のロットでありながら、精米粒にカビの発生したシャーレ4枚とカビの発生しないシャーレ1枚が観察された。従って、比較例では、シャーレの枚数を増やさない限り、カビ発生の有無の検査精度を確保することはできず、1枚のシャーレでは、1枚の実施例に係るカビ培養用容器と比較して検査精度が劣ることが判明した。また、比較例では、培地のコンタミネーションが見られ、検査粒である精米粒のカビ発生の有無の判断が実施例と比較してやや困難であった。さらに、比較例では、培地のコンタミネーションが原因で、カビの発生した精米粒数の測定が困難であり、カビの発生が疑われると判定すべきロットか、それともカビ発生試料と判定すべきロットか、何れとも判断できなかった。これは、蓋体による開口部の開閉作業や精米粒を並べる作業を迅速に行なえなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、カビ発生の有無を、作業者の経験に頼ることなく、また特別の機器を用いずに、簡易かつ精度良く確認できるので、カビの発生した貯蔵穀物を識別する分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0065】
1 カビ培養用容器
2 本体
3 蓋体
4 カビ検出用培地
5 開口部
7 仕切り部
8 仕切り部
11 カビ培養用容器
12 収納用ケース本体
13 収納用ケース蓋体
15 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カビ検出用培地が収容された樹脂製本体と、前記樹脂製本体の開口部を封止した樹脂製蓋体と、を備えたカビ培養用容器を用意する工程と、
前記樹脂製蓋体により封止された前記樹脂製本体の開口部を開口する工程と、
前記開口された開口部から、前記カビ検出用培地に、穀物を載置する工程と、
前記開口された開口部を前記樹脂製蓋体にて覆ってから、前記カビ培養用容器を室温にて保管する工程と、を含むことを特徴とするカビの発生した穀物の簡易識別方法。
【請求項2】
前記樹脂製蓋体に代えて、前記樹脂製本体を内部に収容する樹脂製の収納用ケース本体と、前記収納用ケース本体の開口部を封止した収納用ケース蓋体とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のカビの発生した穀物の簡易識別方法。
【請求項3】
前記樹脂製蓋体が、フィルムまたはスライド移動自在の板状体であることを特徴とする請求項1に記載のカビの発生した穀物の簡易識別方法。
【請求項4】
前記収納用ケース蓋体が、フィルムまたはスライド移動自在の板状体であることを特徴とする請求項2に記載のカビの発生した穀物の簡易識別方法。
【請求項5】
前記カビ検出用培地が、寒天培地であって、前記寒天培地の寒天濃度が、1.15〜1.35%であることを特徴とする請求項1に記載のカビの発生した穀物の簡易識別方法。
【請求項6】
前記カビ検出用培地が収容された樹脂製本体の内底面上に、前記樹脂製本体の内部を平面視にて複数の区画に分割する仕切り部を備え、前記分割されたそれぞれの区画に一粒の穀物を載置することを特徴とする請求項1に記載のカビの発生した穀物の簡易識別方法。
【請求項7】
前記仕切り部の高さ方向の寸法が、前記カビ検出用培地の厚さ寸法よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載のカビの発生した穀物の簡易識別方法。
【請求項8】
前記樹脂製本体が、平面視で矩形であることを特徴とする請求項1に記載のカビの発生した穀物の簡易識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−92133(P2011−92133A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250836(P2009−250836)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(503027296)財団法人日本穀物検定協会 (7)
【出願人】(505187426)ビオテスト株式会社 (3)
【Fターム(参考)】