説明

カビ毒生産阻害剤

【課題】本発明は、小麦、大麦などの麦類やトウモロコシ等に発生する、Fusarium graminearum等のカビ類に由来する3−アセチルデオキシニバレノール(3ADON)やデオキシニバレノール(DON)といったトリコテセン系カビ毒の生産を阻害する新システムの開発を解決すべき課題とするものである。
【解決手段】カモミールジャーマンエッセンシャルオイルにトリコテセン系カビ毒の生産を阻害する作用があることを見出し、活性物質がプレコセン(クロメン化合物)であることを確認し、precocene−1、precocene−2、precocene−3の少なくともひとつを有効成分とするトリコテセン系カビ毒の生産阻害物質の発明を完成した。3ADONは、DONの生合成前駆体であることから、3ADON生産阻害剤はDON生産阻害剤と同義である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコセンを有効成分とするカビ毒、特にトリコテセン系カビ毒の生産を阻害するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリコテセンは、フザリウム(Fusarium)属菌及び他のカビによって産生される二次代謝物であり、農産物や飼料を通じて摂取されることにより、ヒトや家畜に嘔吐、皮膚炎、出血性敗血症などの深刻な食品汚染問題を引き起こすマイコトキシンの一種である。
【0003】
トリコテセンは、その生合成経路により、A型トリコテセンとB型トリコテセンに分けられる。A型トリコテセンには、例えば、T−2トキシンが、B型トリコテセンにはデオキシニバレノール(DON)、及びそのプレカーサーである3−アセチルデオキシニバレノール(3ADON)などが含まれる。
【0004】
また、フザリウム属菌の内、例えばフザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)といったフザリウム属に属する一部のカビは、麦類やとうもろこし類等の農産物の「赤カビ病」の病原菌として知られており、マイコトキシン、例えばニバレノール、デオキシニバレノールなどのトリコテセン系カビ毒を産生する。なお、本明細書において、トリコテセンをトリコテセン系カビ毒あるいは単にカビ毒という場合もある。
【0005】
トリコテセン系カビ毒が「赤カビ中毒症」とよばれる一連の中毒症状を惹起し、深刻な食品汚染問題を引き起こすことは既述のとおりである。そのため、トリコテセン系カビ毒の防除が希求されているが、有効な実用的防除システムの開発に成功した例は未だ報告されていない。
【0006】
一方、プレコセン(precocene)は、ムラサキカッコウアザミ(Ageratum houstianum)より単離されたクロメン誘導体であって、抗幼若ホルモン(抗JH:anti−JH)活性を有していることは知られているが、実用化には成功していないのが現状である。
【0007】
天然由来の抗JH様物質であるプレコセンには例えばプレコセン−1、プレコセン−2、プレコセン−3があることが知られてはいるが、プレコセンが3−アセチルデオキシニバレノール(3ADON)の生産阻害活性を有することは知られておらず、本発明が最先である。
【特許文献1】特開2000−32985号公報
【非特許文献1】江藤守総編「農薬の生有機化学と分子設計」昭和60年5月30日、(株)ソフトサイエンス社発行、第414〜415頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フザリウム属のカビが産生するカビ毒(トリコテセン系マイコトキシン)の汚染を防除するのに有効な実用的システムは、既述したように、未だ開発されていない。また、フザリウム属のカビを防除するのに有効な実用的システムも開発されていないのが現状である。
【0009】
この発明は、農産物がフザリウム属のカビが産生するカビ毒により汚染することを防ぎ、除くことを目的としており、これによりフザリウム属のカビが産生するカビ毒の汚染の心配のない農産物を供することも目的としている。また、このカビ毒を中和、防除することにより、病徴を軽減し、減農薬指向の植物病害制御システムを新たに構築することも、この発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、各方面から検討の結果、安全性の面から、天然物よりスクリーニングすることとした。そして莫大な数の天然物の内から、エッセンシャルオイル(精油)に着目し、各種エッセンシャルオイルについてスクリーニングを鋭意行った結果、カモミールジャーマンエッセンシャルオイルのみに3ADON生産阻害活性が見られることをはじめて見出した。
【0011】
そして、該精油中の有効成分の精製を行った結果、有効成分としてプレコセンを単離し、ひきつづいて研究した結果、プレコセン−1、プレコセン―2、プレコセン−3をそれぞれ単離し、その同定にも成功した。
【0012】
すなわち、本発明は、これらの有用新知見に基いてなされたものであって、プレコセンを有効成分とするトリコテセン生産阻害物質に関するものである。
【0013】
本発明の実施態様は、以下のとおりである。
【0014】
(1)プレコセン(precocene)を有効成分とすること、を特徴とするマイコトキシンの1種であるトリコテセン系カビ毒の生産阻害剤。トリコテセン系カビ毒は、フザリウム(Fusarium)属菌及び他のカビによって生産されるものであって、「赤カビ病」の病原菌として知られるフザリウム・グラミネアラム(F.graminearum)等フザリウム属に属する一部のカビが産生するものも包含するものである。
(2)更に、有効成分として農園芸用殺菌剤を併用すること、を特徴とする(1)に記載の剤。
【0015】
(3)農産物、その種子、農産物を栽培する圃場(土壌も包含する)、栽培している農産物(農園芸用作物)の少なくともひとつを、プレコセン(所望により、農園芸用殺菌剤を更に併用)を用いて処理することにより、トリコテセン系カビ毒の生産を阻害する方法。トリコテセン系カビ毒の生産のみを阻害する方法;トリコテセン系カビ毒を産生するフザリウム属菌(赤カビ病菌を含む)のみを阻害し、もってトリコテセン系カビ毒の生産を阻害する方法;及びフザリウム属菌を阻害するとともにトリコテセン系カビ毒の生産も阻害する方法;を包含する。
【0016】
(4)プレコセンが、プレコセン−1、プレコセン−2、プレコセン−3の少なくともひとつであること、を特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の剤又は方法。更に、プレコセンは、1、2、3の2又はそれ以上の混合物でもよいし、その含有物(例えば、カモミールジャーマンエッセンシャルオイル、又はその精製物)でもよい。
【0017】
(5)トリコテセンが、B型トリコテセンであって、例えばデオキシニバレノール(DON)、その生合成前駆体である3−アセチルデオキシニバレノール(3ADON)であること、を特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の剤又は方法。
【0018】
(6)農産物が、小麦、大麦、トウモロコシ、米、ピーナッツから選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の剤又は方法。
【0019】
(7)プレコセン−1、プレコセン−2、プレコセン−3の少なくともひとつを有効成分としてなること、を特徴とする3ADON又はDONの生産阻害剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明にしたがってプレコセンを用いて農産物を処理することにより、3ADONやDONといったトリコテセン系カビ毒の生産を阻害することがはじめて可能となった。すなわち、プレコセンを、農産物を植える圃場や土壌、播種する種、圃場に生育している植物体、又は植物体が生育している圃場などに散布したり、収穫後の農産物、或は貯蔵中の農産物に散布、混合したりすることにより、トリコテセン系カビ毒等フザリウム属のカビが産生するカビ毒を防除することが可能となった。
【0021】
本発明によれば、フザリウム属菌といったカビ毒生産菌自体を防除することができるほか、カビ毒の生産を阻害することができる点で非常に特異的である。これらのカビ毒は食品を製造する際の加工工程では分解、無毒化されにくい物質といわれており、カビ毒生産菌をいくら防除しても、根本的な解決策とならず、カビ毒の生産を阻害してカビ毒の残留を防止しなければ、所期の目的が達成されないが、本発明はこの点を可能とした点で極めて卓越しており、顕著な効果を奏するものである。
【0022】
また、一部のカビ毒生産菌にあっては、死滅する際に大量のカビ毒を生産、放出する場合もあるが、本発明は、このような場合にも有効に作用してカビ毒を防除するという著効を奏するものである。
【0023】
しかも、本発明の有効成分であるプレコセンは、精油から分離したのであって天然物由来であることから、安全性に格別の問題もなく、Ames試験もネガティブであり、植物に対する薬害も認められない。マウスに1日あたり500mg、30日間投与したが、急性毒性も認められなかった。
【0024】
したがって、本発明は、すぐれた農園芸用殺菌剤(殺カビ剤)、カビ毒防除剤として農薬の分野で有用であるのみでなく、飲食品や飼料、餌料用防カビ剤として飲食品や飼餌料の分野でも有用である。後者の場合、小麦やトウモロコシといった農産物とプレコセンを混合しておけば、たとえこれらの農産物がカビ毒生産菌で汚染されていたとしても、カビ毒で汚染されることはないため、中毒症の発症等の実害は発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、カビ毒生産阻害剤に関するものであって、プレコセンを有効成分とするものである。
【0026】
本発明者らは、カビ毒によって引き起こされる重大な衛生上の問題点を解決するため、カビ毒生産阻害物質を開発する必要性を痛感し、しかもその際、安全性を指向する消費者の立場に立ち、天然物由来物質からスクリーニングすることとした。
【0027】
そして、各方面から検討の結果、天然物の中からエッセンシャルオイルに着目した。カビ毒生産阻害物質のスクリーニングは次のようにして行った。
【0028】
被験物質とともに、赤カビ病病原菌であるフザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)H3株を液体培養し、培養上清をクロロホルムで抽出し、抽出液を濃縮した後、粗3ADON画分をMeOHに溶かし、TLC(薄層クロマトグラフィー)分析を行う。
【0029】
被験物質として120種の市販エッセンシャルオイルをスクリーニングしたところ、カモミールジャーマンエッセンシャルオイルのみに3ADON生産阻害活性が見られた。そこで、シリカゲル吸着クロマトグラフィーにより、カモミールジャーマンエッセンシャルオイル中の活性物質の精製を行った。その結果、活性物質として、クロメン誘導体であるプレコセン(precocene)−1、プレコセン−2とともに、プレコセン−3を単離、構造決定するに至った。
【0030】
プレコセン−1、プレコセン−2、プレコセン−3の化学構造式を、下記化1、化2、化3に示す。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
このようにして、本発明者らにより、はじめて、in vitroにおいて公知天然物質のprecoceneがFusarium graminearumの3−アセチルデオキシニバレノール(3ADON)生産を特異的に阻害することが、見出された。3ADONはデオキシニバレノール(DON)の生合成前駆体であり、3ADON(化4)の生産阻害はDON(化5)生産阻害と同じ意味を持つものである。
【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
このスクリーニングにおいて、Fusarium graminearumを固体培養した場合、DONが主に生産され、液体培養した場合は3ADONのみが生産される。DONはフザリウム・グラミネアラムの成育に影響を与えるために、スクリーニングでは液体培養を利用している。precoceneの作用機構および生合成経路の詳細は今後の研究にまたねばならないが、DONのプレカーサーである3ADONの生産を阻害することから、DONの生産も阻害することとなる。なお、本明細書において、阻害とは、DON又は3ADONの生産を100%完全に停止させる場合のほか、完全停止に至るまでの生産を抑制ないし低下させる場合も包含するものである。
【0038】
上記のようにプレコセンは、トリコテセン系カビ毒に対しては、その生産を阻害する一方、フザリウム・グラミネアラムに対しては、高濃度では抗菌活性を示すが、スクリーニングレベルの濃度では影響を与えない。このようにプレコセンは、カビ毒生産菌は殺菌することなく、当該菌によるカビ毒の生産は阻害する点できわめて特異的である。したがって、カビ毒生産菌が死滅する際に大量にカビ毒を生産し、菌糸体は死滅してもカビ毒が残留することもなく、きわめてすぐれている。
【0039】
本発明はプレコセンを有効成分とするものであり、プレコセン−1、プレコセン−2、プレコセン−3の1種又は2種以上を使用するものであるが、プレコセンは単離された精製品のほか、粗精製品、これらの含有物も適宜使用可能である。例えば、カモミールジャーマンエッセンシャルオイル自体、その濃縮物等も使用可能である。これらにはプレコセンの他にアフトラキシンの生産阻害活性を有する(E)−spiroetherも含まれているため、総合的なカビ毒阻害としても有用である。
【0040】
プレコセンは、上記のように天然物由来のエッセンシャルオイルやアザミ類から抽出できるほか、化学合成によっても得ることができる。その場合、例えば、Aust.J.Crem., 1971, 24, p.2347〜54に記載のように、対応するフェノール、3−クロロ−3−メチル−1−ブチン、炭酸カリウム、ヨウ化カリウムを乾燥アセトン中で20時間還流攪拌し、塩を濾去した後、アセトンで洗滌し、濾液と洗滌液を合わせ、次いでアセトンを留去する。残渣の油状物をエーテルに溶かし、3規定水酸化ナトリウム、水、ブラインで順次洗った後、乾燥し、エーテルを留去する。得られた残渣を蒸留、又は再結晶することにより、対応するエーテル化合物を得る。
【0041】
得られたエーテル化合物をジエチルアニリンに溶かし、これを8時間還流した後、冷却、エーテル希釈し、冷やした2規定硫酸、水、ブラインで順次洗った後、乾燥し、エーテルを留去する。得られた残渣から蒸留又は再結晶によって、目的とするクロメン化合物(プレコセン)を得る。
【0042】
本発明に係るトリコテセン生産阻害剤は、農薬製剤の製造方法の常法にしたがい、有効成分を、必要に応じて界面活性剤、その他の補助剤を加えて製剤化してもよい。具体的に製剤例としては、粒剤、粉剤、水和剤、懸濁製剤、乳剤、塗布剤、油剤等が例示される。
【0043】
製剤に使用する液体担体としては、例えば、キシレン、トルエン、ベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、クロロエチレン、塩化メチレン等の塩素化芳香族炭化水秦、シクロヘキサン、パラフィン等の脂肪族炭化水素;鉱油留分;エタノール、ブタノール、グリコール等のアルコール及びこれらのエーテル類ならびにエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、水等の極性溶剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用することができる。水が溶剤として用いられる場合、純水、または無機塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム等)、糖(グルコース、ショ糖等)若しくは糖アルコール(D−ソルビトール、D−マンニトール等)の水溶液を用いることができる。
【0044】
また、製剤に使用する固体担体としては、例えば、カオリン、粘土、タルク、チョーク、石英、アタパルジャイト、モンモリロナイト、珪藻土等の天然鉱物粉末、ケイ酸、アルミナ、ケイ酸塩等の合成鉱物粉末、高分子性天然物(結晶性セルロース、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等)が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
乳化剤、消泡剤、分散剤等として使用される表面活性剤としては、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−脂肪アルコールエーテル、アルキルアリールポリグリコールエーテル、アルキルスルホネート、アルキルサルフェート、アリールスルフォネート、アルブミン加水分解物、リグニン−亜硫酸廃液、メチルセルロース、アラビアゴム等が挙げられる。
【0046】
本発明の有効成分は、プレコセンを用いた場合、乳剤では0.01〜50重量%、水和剤では0.01〜50重量%、粒剤では0.01〜10重量%であるが、使用目的によってはこれらの濃度は適宜変更してもよい。乳剤、水和剤の場合には、使用に際して水で希釈して、製品重量の100〜5000倍希釈で使用することができ、好ましくは500〜1000倍希釈で使用することができる。
【0047】
その施用方法としては、噴霧法、ミスト法、ダスト法、散布法、注入法等が適宜利用され、直接植物に施用するほか、土壌に施用してもよい。施用量は、例えば、噴霧法の場合、10a当たり、有効成分量で1〜1000g噴霧するのが好ましく、他の施用方法の場合はこれに準じて施用量を定めればよい。
【0048】
本発明に係るトリコテセン系カビ毒生産阻害剤は、上記有効成分のほか更に、他の農園芸用農薬成分と併用してもよい。この農園芸用農薬成分は市販されているか、または農園芸用農薬として知られた成分であり、これらの成分は日本植物防疫協会発行の農薬ハンドブック(2002年)、日本植物防疫協会発行の農薬要覧(2005年)、全国農業協同組合連合会発行のクミアイ農薬総覧(2005年)及び同連合会発行のSHIBUYA INDEX(2005年)などで知られる。
【0049】
使用できる農園芸用農薬成分には、殺菌成分、殺虫成分、殺ダニ成分、殺線虫成分、除草成分、植物成長調整成分等をあげることができる。殺菌成分の具体例としては、例えばアシベンゾラルSメチル、アゾキシストロビン、アミスルブロム、イソチアニル、イソプロチオラン、イプコナゾール、イプロジオン、イプロバリカルプ、イプロベンホス、イミノクタジンアルベシル酸塩、イミノクタジン酢酸塩、イミベンコナゾール、エクロメゾール、エジフェンホス、エタボキサム、エディフェンホス、オキサジキシル、オキシテトラサイクリン、オキスポコナゾールフマル酸塩、オキソリニック酸、オリサストロビン、カスガマイシン、カプタホール、カルプロパミド、カルベンダゾール、キノキシフェン、キノメチオネート、キャプタン、キントゼン、グアザチン、クレソキシムメチル、クロロネブ、クロロタロニル、ジアゾファミド、ジエトフエンカルブ、ジクロシメット、ジクロメジン、ジチアノン、ジネブ、ジフェノコナゾール、シフルフェナミド、ジフルメトリム、シプロコナゾール、シプロジニル、シメコナゾール、ジメトモルフ、シモキサニル、ジモキシストロビン、ジラム、ストレプトマイシン、ゾキサミド、ダゾメット、チアジアジン、チアジニル、チアベンダゾール、チウラム、チオファネートメチル、チフルザミド、テクロフタラム、テトラコナゾール、テブコナゾール、トリアジメホン、トリシクラゾール、トリフルミゾール、トリフロキシストロビン、トリホリン、トルクロホスメチル、トルニファニド、バリダマイシン、ピコオキシストロビン、ビテルタノール、ヒドロキシイソキサゾール、ヒメキサゾール、ピリフェノックス、ピリブチカルブ、ピリベンカルブ、ピリメタニル、ピロキロン、ビロクロストロビン、ビンクロゾリン、ファモキサドン、フェナジンオキシド、フェナミドン、フェナリモル、フェノキサニル、フェリムゾン、フェンブコナゾール、フェンヘキサミド、フォルペット、フサライド、ブラストサイジンS、フラメトピル、フルアジナム、フルオキサストロビン、フルオピコリド、フルオルイミド、フルジオキソニル、フルスルファミド、フルトラニル、プロキナジド、プロクロラズ、プロシミドン、プロパモカルブ塩酸塩、プロピコナゾール、プロピネブ、プロベナゾール、ヘキサコナゾール、ベノミル、ペフラゾエート、ペンシクロン、ベンチアバリカルブイソプロピル、ベンチオピラド、ボスカリド、ホセチル、ポリオキシン、ポリカーバメート、ホルベット、マンジプロパミド、マンゼブ、マンネブ、ミクロブタニル、メタラキシル、メトミノストロビン、メトラフェノン、メパニピリム、メフェノキサム、メプロニル、銀またはその化合物、無機銅化合物、有機銅化合物、硫黄化合物、有機亜鉛、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、脂肪酸グリセリド、シイタケ菌糸体抽出物、微生物農薬のエルビニア属細菌、シュードモナス属細菌、バシルス属細菌、タラロマイセス属菌、トリコデルマ属菌、フザリウム属菌、アグロバクテリウム属細菌、ペニシリウム属菌、フォーマ属菌、アスペルギルス属菌より選ばれるものが使用できる。ここでいう銀またはその化合物としては、例えば金属銀、硝酸銀、塩化銀、弗化銀等をあげることができる。また、無機銅化合物としては、例えば塩基性硫酸銅、無水硫酸銅、水酸化第二銅、塩基性塩化銅等を、有機銅化合物としては、例えば有機銅、グルコン酸銅、テレフタル酸銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、DBEDC等をあげることができる。
【0050】
また、本発明に係る有効成分は、食品、飼餌料、農産物などに、例えば、浸漬、塗布、噴霧、混合等の方法で添加し得る。その結果、本有効成分は、トリコテセンで汚染された及び/又は汚染が予測される及び/又は汚染されやすい大麦や小麦等のムギ類、トウモロコシ、コメ、ピーナッツ等の農産物、あるいは豆粉、魚粉飼料等の飼料によるマィコトキシン汚染被害を防ぐことができる。例えば有効成分である本発明のプレコセン−2を用いる場合、0.00001〜1重量%、好ましくは0.0001〜0.5重量%とすることができる。
【0051】
また、フザリウム・グラミネアラムなどのフザリウム属に属するかびは、ムギ、特にコムギに感染して赤かび病を引き起こすことが知られている。この場合、赤かび病の発病には、それらの菌が産生するトリコテセン系マイコトキシンが深く関わっている。従って、この毒素を中和することにより、病徴を軽減することができ、減農薬指向の植物病害制御に有用である。以上のことから、本発明の有効成分は、赤かび病に感染しやすい農作物などの赤かび病菌抑制剤としても利用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
(1)スクリーニング方法
被験物質及び赤カビ病菌であるフザリウム・グラミネアラムH3株の胞子懸濁液(胞子濃度:1×106spores/mL)100μLをSYEP液体培地(シュークロース 5%、イーストエキストラクト 0.1%、ポリペプトン 0.1%)5mLに加え、26.5℃で7日間、振とう培養する。
【0054】
被験物質としては、各種エッセンシャルオイルを試験に供し、それぞれ終濃度300μg/mlになるようにメタノールで希釈したエッセンシャルオイルを添加した。
【0055】
被験エッセンシャルオイルは、次のとおりである:ブラックペッパー、ブッダウッドオーストラリア、カユブテ、カンファー、キャラウェイ、カルダモン、キャロットシード、シダーウッドアトラス、シダーウッド、カモミールジャーマン、カモミールローマン。
【0056】
培養上清をクロロホルムで抽出し、クロロホルム層を濃縮、乾固し、粗3ADON画分をMeOHに溶かし、TLC分析した。シリカゲルプレート(Silica gel 60F254 ,Merck)を用い、クロロホルム−メタノール(V/V=10/1.5)で展開した結果、カモミールジャーマンに3ADON生産阻害活性が認められた。
【0057】
(2)活性物質の精製
カモミールジャーマンエッセンシャルオイルについて、シリカゲル吸着クロマトグラフィーにより、活性物質の精製を行った。ヘキサン溶出区、ヘキサン−酢酸エチル(95:5、90:10、50:50)溶出区の内、ヘキサン−酢酸エチル(95:5)溶出区にすぐれた3ADON生産阻害活性が認められた。
【0058】
(3)活性物質の単離、構造決定
シリカゲル吸着クロマトグラフィーで、ヘキサン−酢酸エチル(95:5)溶出区を等量ずつ10に分画し、阻害活性の高い分画3と8について、有効成分化合物の単離、同定を行った。その結果、画分3からプレコセン−1が、画分8からプレコセン−2のほか(E)−スピロエーテルが活性物質として単離された。
【0059】
(4)3ADON生産阻害活性の確認
活性物質を0〜30μM添加し、3ADONの量をLC−MSで測定し(液体クロマトグラフィー:Waters 2695 HPLC装置、日本ウォーターズ:カラム;Capcell−Pak C18 2.0mm×150mm、資生堂(東京);10mM酢酸アンモニムを含有する水溶液にアセトニトリルの含有量を10から80%とするグラジエント条件で20分間溶出後、アセトニトリルを80%含有する10mM酢酸アンモニウム含有の水溶液のアイソクラティック条件で溶出する。;流速:0.2mL/min:3ADONの保持時間:9.4min;MS装置:Waters micromassZQ、日本ウォーターズ:イオン化法;ESI、positive、スプレー室のパラメーター:ソース温度120℃、脱溶媒温度350℃、コーン30V、脱溶媒ガス600L/hr、コーンガス50L/hr、キャピラリー電圧2800V。MSは、抽出したイオンm/z339(M+H)+を用いてSIMモードでモニターした。)、3ADONの生産阻害活性を確認した。その結果、プレコセン−2はIC50値が1.2μMとすぐれた3ADON生産阻害活性を示した(図1)。同様に、プレコセン−1、プレコセン−3もすぐれた3ADON生産阻害活性を示すことが確認された。そして、3ADONがDONのプレカーサーであることから、3ADON生産阻害はDON生産阻害と同じ技術的意義を有するものである。
【0060】
(5)米培地でのDON生産阻害活性
胞子懸濁液(1×106cfu/ml)100μlにプレコセン−2のメタノール溶液5μlを混合したものを、米培地(20ml容バイアルに三分つき米1gと蒸留水300μlを入れてオートクレーブしたもの)に添加し、よくかき混ぜた。添加したプレコセン−2の重量は、米培地(約1.3g)に対し0〜7.7ppmとなるようにした。バイアルにアルミホイルでふたをし、26.5℃で14日間静置培養した。
【0061】
培養後菌の成育がプレコセン−2の添加、無添加にかかわらず同じであることを確認し、各バイアルに50%アセトニトリル水溶液を10ml加えた。2時間静置後、バイアルの中身を乳鉢に移し、乳棒で菌体と米を破砕した。得られた破砕けん濁液を遠心分離し、上清を分離した。上清3mlをとり、含まれるアセトニトリルを減圧濃縮で留去した後、蒸留水を加えて10mlにフィルアップした溶液を、Sep−Pak C18カートリッジに吸着させた。カートリッジを水洗後、2mlの50%メタノールでDONを溶出した。
【0062】
得られた50%メタノール溶出粗DON画分を濃縮後、残渣を50μlメタノールに溶かした。その溶液10μlを10mM酢酸アンモニウム水溶液−アセトニトリル(9:1)溶液190μlに添加したものをLC−MS分析用サンプルとした。LC−MS分析は3ADONの場合と同じ条件で行った。
【0063】
結果を表1に示した。プレコセン−2は菌の成育に全く影響を与えなかったが、8ppm程度の添加によりDON生産量を無添加の場合の十分の一以下に抑制することが示された。
【0064】
表1 プレコセン−2のDON生産阻害活性
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
プレコセン−2濃度(ppm*1) DON生産量*2(ppm*1
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
0 54
0.8 31
2.3 7.1
7.7 4.5
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*1 米培地重量(約1.3g)に対する濃度
*2 n=2の平均値
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】プレコセン−2添加時の3ADON生産阻害活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレコセン(precocene)を有効成分として含有すること、を特徴とするトリコテセン系カビ毒生産阻害剤。
【請求項2】
有効成分として更に農園芸用殺菌剤を含有すること、を特徴とする請求項1に記載のトリコテセン系カビ毒生産阻害剤。
【請求項3】
農産物、その種子、農産物を栽培する圃場、栽培している農産物の少なくともひとつを、プレコセン及び所望により農園芸用殺菌剤を使用して、処理すること、を特徴とするトリコテセン系カビ毒の生産を阻害する方法。
【請求項4】
プレコセンがプレコセン−1、プレコセン−2、プレコセン−3の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤又は方法。
【請求項5】
トリコテセン系カビ毒が、3−アセチルデオキシニバレノール(3ADON)又はデオキシニバレノール(DON)であること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤又は方法。
【請求項6】
農産物が、小麦、大麦、トウモロコシ、米、ピーナッツから選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤又は方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−167138(P2009−167138A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8766(P2008−8766)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】