説明

カフェイン含有固形製剤とその製造方法

【課題】カフェインウィスカーの発生が抑制された固形製剤、このような固形製剤の製造方法、並びにカフェインウィスカーの発生を防止する方法を提供する。
【解決手段】カフェインウィスカー抑制固形製剤は、近赤外化学イメージングによる解析において無水カフェインとカフェイン水和物とを前者/後者=100/0〜30/70の割合で含んでいる。前記カフェイン含有固形製剤は、少なくともカフェインを含む活性成分と、担体とを含む製剤成分(又は造粒成分)をERH75%以下(例えば、70%以下)の条件で湿式造粒することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カフェインウィスカーの発生が抑制されたカフェイン含有固形製剤(カフェインウィスカー抑制固形製剤)、カフェインウィスカーの発生を有効に防止できる固形製剤の製造方法、及び固形製剤でのカフェインウィスカーの発生を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カフェインは、中枢興奮作用、平滑筋弛緩作用、利尿作用、心筋興奮作用、骨格筋興奮作用などの生理活性又は薬理活性を示す。そのため、カフェインは、水和物又は無水物の形態で、散剤、顆粒剤、錠剤などの固形製剤において広く使用されている。
【0003】
一方、カフェインを含む固形製剤では、カフェインのウィスカー(ヒゲ結晶)が発生し、粒子を集合化させ、流動性を低下させるとともに、外観品質を低下させることも知られている。例えば、薬剤学41(3)155-160(1981)(非特許文献1)には、無水カフェイン単一成分の打錠圧と無水カフェインのウィスカーの発生との関係が報告され、ウィスカーが錠剤表面の粗面部、特に隙間及びその周辺に発生することが記載されている。薬剤学41(3)161-171(1981)(非特許文献2)には、無水カフェイン単一成分の錠剤での相対湿度とウィスカーの成長との関係について、無水カフェインウィスカーは低湿度下で析出量が大きく(相対湿度0%で最も多く、高湿度になるにつれて少なくなり)、至適相対湿度を持つことも記載されている。
【0004】
薬剤学41(4)237-244(1981)(非特許文献3)には、エテンザミドと無水カフェインとの二成分系試料を打錠した錠剤では、二種類のウィスカーが発生することが報告されている。薬学雑誌96(10)1223-1228(1978)(非特許文献4)には、ショ糖、コーンスターチ、グリチルリチン酸、プルロニックF68及びHPC−Lを含む顆粒剤について、処方成分の組合せ(グリチルリチン酸、プルロニックF68及びHPC−Lの3成分の共存)によりカフェインウィスカーの発生が促進され、ウィスカーの成長には温度と湿度の影響が大きく、温度40℃では至適相対湿度40%付近でウィスカーが成長することが報告されている。
【0005】
しかし、これらの文献には、カフェインウィスカーの発生を防止するための手段について教示されていない。
【0006】
特許第3008297号公報(特許文献1)には、カフェインを含まない顆粒状薬物に粉末状カフェインを混合したカフェインウィスカー抑制錠が開示されている。しかし、この抑制剤では、カフェインウィスカーの発生を確実に防止することが困難である。また、粉末状カフェインを薬物が共存した造粒系に導入できず、製剤工程が制約される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3008297号公報(特許請求の範囲、段落[0004])
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】薬剤学41(3)155-160(1981)
【非特許文献2】薬剤学41(3)161-171(1981)
【非特許文献3】薬剤学41(4)237-244(1981)
【非特許文献4】薬学雑誌96(10)1223-1228(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、カフェインウィスカーの発生が抑制されたカフェイン含有固形製剤(カフェインウィスカー抑制固形製剤)、カフェインウィスカーの発生を有効に防止できる固形製剤の製造方法、並びに固形製剤でのカフェインウィスカーの発生を防止する方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、カフェインを粒剤化しても、カフェインウィスカーの発生を長期間に亘り有効に防止できるカフェインウィスカー抑制固形製剤とその固形製剤の製造方法、並びに固形製剤でのカフェインウィスカーの発生を防止する方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、湿式造粒などの工業的に有利な方法でカフェインウィスカーの発生を有効に防止できるカフェインウィスカー抑制固形製剤とその固形製剤の製造方法、並びに固形製剤でのカフェインウィスカーの発生を防止する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ウィスカーの発生には製剤内の無水カフェインとカフェイン水和物との割合が大きく関係すること、カフェインを含む固形製剤の造粒などの製造工程において、固形製剤の平衡相対湿度(ERH, Equilibrium Relative Humidity)を75%以下に水分制御し製造した固形製剤からカフェインウィスカーが発生しないこと、このようにして得られた固形製剤が無水カフェインとカフェイン水和物とを100/0〜30/70 の割合で含んでいることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の固形製剤の製造方法では、カフェインを含む製剤成分をERH75%以下(例えば、70%以下)の条件で製造する。この方法において、カフェインを含む製剤成分をERH75%以下(例えば、70%以下)で造粒し、カフェイン含有固形製剤を製造してもよい。また、少なくともカフェインを含む活性成分と、担体とを含む製剤成分(又は造粒成分)を湿式造粒し、カフェイン含有固形製剤を製造してもよい。カフェイン含有量は、固形製剤全体に対して0.1〜90重量%程度であってもよい。
【0014】
本発明は、さらに、カフェイン含有固形製剤でのカフェインウィスカーの発生を防止する方法も包含する。この方法では、カフェイン含有固形製剤をERH75%以下の条件で調製し、カフェインウィスカーの発生を防止する。
【0015】
さらに、本発明の固形製剤は、カフェインを含み、かつカフェインウィスカーの発生が抑制されている。この固形製剤は、無水カフェインとカフェイン水和物とを前者/後者=100/0〜30/70の割合で含んでいる。
【0016】
なお、本明細書中、特に言及しない限り、無水カフェインとカフェイン水和物とを単に「カフェイン」と総称する。また、「カフェイン」と他の活性成分とを単に「活性成分」と総称する場合がある。また、無水カフェインとカフェイン水和物との割合は、近赤外化学イメージング(NIR化学イメージング,Near-Infrared Chemical Imaging)等を用いて両者の分布を解析して測定することができる 。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、所定のERHの条件で製剤成分を製剤化することにより、カフェインを含有する固形製剤であっても、カフェインウィスカーの発生を有効に抑制できる。また、カフェインを粒剤化しても、カフェインウィスカーの発生を長期間に亘り有効に防止できる。さらに、湿式造粒などの工業的に有利な方法で製造した製剤からのカフェインウィスカーの発生を有効に防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のカフェインウィスカー抑制固形製剤は、無水カフェインとカフェイン水和物とを前者/後者=100/0〜30/70の割合で含んでいる。固形製剤における前記無水カフェインとカフェイン水和物との割合は、例えば、95/5〜35/65(90/10〜40/60)、好ましくは85/15〜45/55(例えば、80/20〜50/50)程度である。このような固形製剤では、カフェインを含有する固形製剤であっても、カフェインの総量に対するカフェイン水和物の含有量が少ないため、カフェインウィスカーの発生が抑制されている。
【0019】
このような比率は、例えば、NIR化学イメージングを用いて、無水カフェインとカフェイン水和物との結晶構造が相違し、吸収スペクトル強度が異なることを利用して無水カフェインとカフェイン水和物との割合を測定できる。すなわち、1200〜2400nmでの無水カフェインによる吸収強度の積分値と、カフェイン水和物による吸収強度の積分値との割合を算出し、前記割合を求めることができる。
【0020】
本発明では、カフェインを含む製剤成分を所定の平衡相対湿度(ERH)の条件で製剤化し、カフェイン含有固形製剤を製造する。カフェインは、無水物又は水和物のいずれであってもよく、無水物と水和物との混合物であってもよい。なお、日本薬局方において、乾燥減量は、無水カフェインが0.5%以下、カフェイン水和物が0.5〜8.5%と規定されている。カフェイン水和物は乾燥空気中で結晶水を容易に失い無水物となる。そのため、固形製剤の製造工程の管理においては、無水カフェインを用いるのが有利である。
【0021】
本発明において、固形製剤の活性成分は少なくともカフェインを含んでいればよく、活性成分はカフェイン単独で形成してもよく、カフェインと他の活性成分と併用してもよい。活性成分(カフェインを含む)は生理活性成分であってもよく薬理活性成分であってもよい。
【0022】
活性成分は、所望する生理活性又は薬理活性に応じて選択でき、例えば、睡眠鎮静薬、鎮暈薬、解熱薬、鎮痛薬、解熱鎮痛薬又は解熱鎮痛抗炎症薬(サリチル酸、フェナム酸、アスピリン、イブプロフェン、ケトプロフェン、アセトアミノフェン、インドメタシンなど)、抗炎症薬(トラネキサム酸、塩化リゾチーム、グリチルリチン酸、セラペプターゼなど)、鎮咳薬(リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、ジメモルファンリン酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、ベンプロペリンリン酸塩など)、去痰薬(カルボシステイン、塩酸L−メチルシステイン、塩酸ブロムヘキシンなど)、鎮咳去痰薬、抗喘息薬又は気管支拡張薬(塩酸プソイドエフェドリン、dl−メチルエフェドリン、サルブタモール、ツロブテロール、プロカテロール、テオフィリンなど)、抗アレルギー薬(クロモグリク酸、トラニラスト、アンレキサノクス、ペミロラストカリウムなどのメディエーター遊離抑制薬;塩酸ジフェンヒドラミン、テオクル酸ジフェニルピラリン、フマル酸クレマスチン、マレイン酸クロルフェニラミン、酒石酸アリメマジン、塩酸プロメタジンなどの抗ヒスタミン剤;フマル酸ケトチフェン、塩酸アゼラスチン、塩酸エピナスチンなどのヒスタミンH拮抗剤;プランルカストなどのロイコトリエン拮抗薬など)、交感神経興奮薬又はα受容体刺激薬、消炎酵素薬、中枢神経興奮薬、便秘治療薬、下痢治療薬、高脂血症薬(ピタバスタチン、シンバスタチンなどのHMG−CoA還元酵素阻害剤、フィブラート系化合物など)、抗狭心症薬(塩酸エタフェノン、ジピリダモール、塩酸トリメタジジンなど)、降圧剤又は高血圧治療薬(塩酸クロニジン、メチルドパ、塩酸プラゾシン、塩酸ブナゾシン、塩酸テラゾシン、メシル酸ドキサゾシンなどの交感神経抑制剤、塩酸ヒドララジン、ブドララジン、塩酸トドララジン、カドララジンなどの血管拡張剤、マレイン酸エナラプリル、塩酸デラプリルなどのACE阻害剤、カンデサルタン シレキセチル、バルサルタンなどのアンジオテンシンII受容体拮抗剤など)、低血圧治療薬、抗動脈硬化薬、抗肥満薬、心不全治療薬、心筋梗塞薬、抗不整脈薬(塩酸アプリンジン、塩酸ピルジカイニド、塩酸プロパフェノン、塩酸アミオダロン、塩酸プロプラノロール、塩酸ソタロール、塩酸ベプリジルなど)、糖尿病治療薬(トルブタミド、塩酸ブホルミン、塩酸ピオグリタゾン、ボグリボースなど)、消化性潰瘍治療薬(ランソプラゾール、オメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤、シメチジン、ファモチジンなどのH受容体拮抗剤など)、肝疾患治療薬、甲状腺疾患治療薬、高尿酸血症治療薬、リウマチ治療薬、抗生物質、抗うつ薬(バルプロ酸ナトリウム、メチルフェニデート塩酸塩など)、抗結核薬、前立腺肥大症治療薬、骨粗鬆症治療薬、アルツハイマー病治療薬、健胃薬、消化薬、制酸薬又は粘膜保護薬、制吐薬、生薬、ビタミン類、ミネラル類、ヒアルロン酸又はそのナトリウム塩、コンドロイチン硫酸又はそのナトリウム塩、グルクロン酸類(グルクロン酸塩、グルクロン酸アミド、鎖状エステルおよびグルクロノラクトンなど)有機酸又はその塩[例えば、クエン酸、りんご酸、酒石酸、シュウ酸、フマル酸又はこれらの塩(ナトリウム、カルシウム塩)など]、アミノ酸又はその塩[例えば、グリシン、L−リジン、L−バリン、L−アラニン、L−アルギニン、L−シスチン、L−メチオニン、L−グルタミン酸、L−アスパラギン酸、又はこれらの塩(ナトリウム塩など)]、ペプチド又はその塩[例えば、L−リジングルタメート、コラーゲンなどのペプチド類、コエンザイムQ10、L−カルニチン又はその塩(フマル酸塩、酒石酸塩など)など]、グルコサミン類(キチン、キトサンなど)などであってもよい。
【0023】
ビタミン類としては、ビタミンB類[例えば、塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、塩酸フルスルチアミン、塩酸ジセチアミン、オクトチアミン、ビスイブチアミン、ベンフォチアミン、プロスルチアミンなど]、ビタミンB類(フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビンなど)、ビタミンB類、ビタミンB12類、ビタミンC類、ビタミンA類、ビタミンD類、ビタミンE類、ニコチン酸類(ニコチン酸、ニコチン酸アミドなど)、ビタミンK、ビタミンP(ヘスペリジン)、パントテン酸類(パンテノール、パントテン酸カルシウムなど)、ビオチン、葉酸、γ−オリザノール、オロチン酸、ヨクイニンなどが例示できる。
【0024】
これらの活性成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。例えば、総合感冒剤を調製する場合、カフェインは、解熱鎮痛薬又は解熱鎮痛抗炎症薬(イブプロフェン、アセトアミノフェンなど)、抗炎症薬(トラネキサム酸、塩化リゾチームなど)、鎮咳薬(リン酸ジヒドロコデイン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩など)、抗喘息薬又は気管支拡張薬(塩酸プソイドエフェドリン、dl−メチルエフェドリン、サルブタモールなど)、抗アレルギー薬(トラニラスト、アンレキサノクスなどのメディエーター遊離抑制薬;塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤;フマル酸ケトチフェンなどのヒスタミンH拮抗剤;プランルカストなどのロイコトリエン拮抗薬など)、ビタミン類(ビタミンC類、ヘスペリジンなど)などから選択された少なくとも一種の活性成分と、組み合わせて使用してもよく、これらの活性成分はさらに去痰薬(カルボシステイン、塩酸L−メチルシステイン、塩酸ブロムヘキシンなど)などと組み合わせてもよい。各活性成分の含有量は、投与量に応じて選択できる。
【0025】
カフェインと他の活性成分との重量割合は、組み合わせる活性成分の種類、カフェインの所望する活性又は作用などに応じて選択でき、例えば、前者/後者=0.1/99.9〜99.9/0.1程度の広い範囲から選択でき、通常、1/99〜99/1(例えば、3/97〜80/20)、好ましくは5/95〜70/30(例えば、7.5/92.5〜60/40)、さらに好ましくは10/90〜50/50(例えば、15/85〜40/60)程度であってもよい。
【0026】
このようなカフェインを含む製剤成分は、所定の平衡相対湿度(ERH)の条件で製剤化される。製剤化においては、活性成分は、通常、担体又は添加剤と組み合わせて製剤成分を形成し、固形製剤の形態に製剤化される。担体または添加剤としては、通常、賦形剤、結合剤、崩壊剤などが使用される。賦形剤としては、例えば、D−マンニトール、D−ソルビトール、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコール、乳糖、ブドウ糖、果糖、白糖、粉末還元麦芽糖水アメなどの糖類、結晶セルロース、粉末セルロース、デンプン類(バレイショデンプン、トウモロコシデンプンなど)、デキストリン、βーシクロデキストリン、カルメロースナトリウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、沈降性炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、乳酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、タルク、カオリンなどが例示できる。賦形剤としては、糖類、結晶セルロース、デンプン類、軽質無水ケイ酸、無水リン酸水素カルシウムなどを用いる場合が多い。
【0027】
結合剤としては、例えば、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、結晶セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ビニルピロリドン共重合体(コポリビドン)、アクリル酸系高分子、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、アルファー化デンプン、カンテン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、白糖などが例示できる。結合剤としては、セルロース誘導体(MC、HPC、HPMCなど)、ポビドンなどを用いる場合が多い。
【0028】
崩壊剤としては、例えば、カルメロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム(カルメロースカルシウム)、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)、クロスポビドン、デンプン類(トウモロコシデンプンなど)、ヒドロキシプロピルスターチ、部分アルファー化デンプン、アルギン酸、ベントナイトなどが例示できる。崩壊剤としては、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)、クロスポビドン、デンプン類などを用いる場合が多い。
【0029】
他の担体又は添加剤としては、滑沢剤(ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油、ポリエチレングリコール、ジメチルポリシロキサン、ミツロウ、サラシミツロウなど);抗酸化剤(ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、トコフェロール、クエン酸など);保存剤(パラオキシ安息香酸エステル類など);着色剤(ウコン抽出液、リボフラビン、カロチン液、タール色素、カラメル、酸化チタン、ベンガラなど);矯味剤(アスパルテームなどの甘味料、アスコルビン酸、ステビア、メントール、カンゾウ粗エキス、単シロップなど);界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル(モノステアリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタンなど)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリソルベート類、ラウリル硫酸ナトリウム、マクロゴール類、ショ糖脂肪酸エステルなど);流動化剤(軽質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素など);可塑剤(クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、トリアセチン、セタノールなど);甘味剤又は矯味剤(ショ糖、マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、アスパルテームなどの天然又は合成甘味剤);着香剤又は香料(メントールなど);色素、清涼化剤、防腐剤又は保存剤、吸着剤、湿潤剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0030】
これらの担体又は添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、本発明の固形製剤は、前記非特許文献4に記載の担体成分(グリチルリチン酸又はその塩、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニックなど))を含んでいてもよいが、製剤化において、これらの成分は必ずしも必要ではない。
【0031】
固形製剤全体に対してカフェインの含有量は、製剤の種類などに応じて、例えば、0.1〜90重量%程度の範囲から選択でき、通常、1〜70重量%(例えば、2.5〜50重量%)、好ましくは5〜30重量%(例えば、7〜25重量%)、さらに好ましくは10〜20重量%(例えば、10〜20重量%)程度であってもよい。
【0032】
固形製剤全体(後述する群分け製剤では、カフェインを含有する第1の製剤群全体、又はカフェインを含有する第1の製剤群と第2の製剤群とを合わせた製剤全体)に対してカフェインの含有量は、製剤の種類などに応じて、例えば、0.1〜90重量%程度の範囲から選択でき、通常、0.5〜70重量%、好ましくは1〜50重量%(例えば、1.5〜25重量%)、さらに好ましくは2〜20重量%程度であってもよい。
【0033】
本発明では、カフェインを含まない顆粒剤を調製し、この顆粒剤に粉末状カフェインを混合する必要はなく、所定のERHの条件で製剤化することにより、カフェインを顆粒剤に含有させてもカフェインウィスカーの発生を効果的に抑制できる。前記製剤成分は、系(製剤系)中、所定のERHの条件で製剤化する限り特に制限されない。すなわち、無水カフェインを用いても、製剤成分によっては水分が無水カフェインに移行して、カフェイン水和物を生成し、カフェインウィスカーを発生させる場合がある。これに対して、所定のERHの系(製剤系)中で製剤化すると、固形製剤においてカフェイン全体に対する無水カフェインの割合を大きくでき、カフェインウィスカーの発生を有効に抑制できる。
【0034】
前記製剤成分は、慣用の方法、例えば、前記ERHの条件下、前記活性成分と担体とを混合して粉剤を調製してもよく、通常、前記ERHの条件下、活性成分と担体とを造粒し、必要により造粒物を整粒して粒剤(細粒剤又は顆粒剤)を調製してもよく、前記ERHの条件下、前記造粒物(又は前記粒剤)を含む混合物(特に、造粒物と担体との混合物)を打錠することにより裸錠を調製してもよい。カプセル剤は、前記ERHの条件下、前記粒剤をカプセルに充填することにより調製できる。これらの製剤化工程において、最終工程を所定のERHで行ってもよい。なお、近年、活性成分と担体とを単に混合した粉剤の形態での固形製剤の利用が低減している。また、錠剤の製造において、造粒物(又は前記粒剤)と担体との混合工程、この混合工程で得られた混合物の打錠工程、カプセルへの充填工程は、通常、調湿(相対湿度30〜60%程度の湿度に調湿)された雰囲気内で行われる場合が多い。一方、造粒工程では、通常、水又は結合剤の水溶液などを用いて造粒されるため、造粒系の水分含有量が大きく変動し、造粒工程での水分がカフェインウィスカーの発生に大きく関与する。そのため、少なくとも前記造粒工程(必要であれば整粒工程も)を所定のERHの条件下で行うのが好ましい。
【0035】
代表的な方法は、カフェインを含む製剤成分(又は造粒成分)を所定のERHの条件で造粒し、製剤化される。造粒は、通常、少なくともカフェインを含む活性成分と、担体(例えば、賦形剤、崩壊剤及び結合剤から選択された少なくとも一種)とを含む製剤成分(造粒成分)を造粒する場合が多い。造粒は、乾式で造粒してもよいが、通常、溶媒(特に水)を用いて湿式で造粒される。湿式造粒では、撹拌又は転動造粒法、流動層造粒法、押出造粒法などが利用できるが、前記製剤成分(造粒成分)を、水を含む溶液(水を含む結合剤溶液)を噴霧して造粒する方法(撹拌又は転動造粒法、流動層造粒法)、特に流動層造粒法が利用できる。この方法では、少なくともカフェインを含む活性成分と、賦形剤及び崩壊剤から選択された少なくとも一種とを含む製剤成分(造粒成分)の流動層に、水又は水を含む結合剤溶液(例えば、結合剤の水溶液)を噴霧することにより行うことができ、粉粒状製剤成分(造粒成分)の合体・造粒と造粒物の乾燥とを併行して行うことができる。
【0036】
製剤化の系中(例えば、造粒系中)のERHは、75%以下(例えば、0〜75%)、好ましくは70%以下(例えば、10〜65%)、さらに好ましくは60%以下(例えば、20〜55%)程度であり、実用的には30〜70%(例えば、40〜60%)程度であってもよい。なお、製剤化の工程でERHの値が変動する場合があるが、ERHの最高値又は最終段階でのERHが上記の条件を満たせばよい。製剤化の温度は、製剤化の工程に応じて、10〜100℃程度の範囲から選択でき、造粒は、通常、40〜90℃(例えば、50〜80℃)程度で行うことができる。
【0037】
なお、製剤化の系中(例えば、造粒系中)のERHは、製剤成分(原料)中の水分量にも影響されるが、製剤成分(原料)中の水分は乾燥などにより低減することにより、製剤成分(原料)中の水分量が多くてもERHを調整できる。そのため、少なくとも外部からの水分(製剤化に伴って外部から製剤系に与えられる水分)によるERHを調整するのが好ましい。このような水分によるERHを調整するには流動層造粒が有利である。すなわち、流動層造粒では、給気により製剤成分を流動させて乾燥できるとともに、給気温度、給気量及び注液速度[噴霧液(水又は結合剤の水溶液)の噴霧速度]により、造粒系内のERHを容易にコントロールできる。このような造粒系では、給気温度が高くなるほど、給気量が多くなるほど、また噴霧液の噴霧速度が小さくなるほど、ERHを小さくできる。
【0038】
造粒が完了すると、造粒工程の終期では、通常、造粒物は乾燥され、必要により所定のサイズに整粒される。乾燥は、例えば、30〜100℃(好ましくは40〜80℃)程度の温度で行うことができる。
【0039】
なお、造粒物(又は前記粒剤)と担体とを混合し、混合物を打錠して錠剤を調製する場合、造粒物と混合する担体(特に、水分含量の大きな担体、水分含量が少なくても使用量が多い担体、例えば、賦形剤及び/又は崩壊剤など)は、予め乾燥して水分を除去し、造粒物と混合するのが好ましい。前記担体を乾燥することにより、担体からカフェインへの水分の移行を抑制でき、カフェインウィスカーの発生を防止できる。なお、担体の乾燥の程度は、担体の種類及び使用量などに応じて選択できる。
【0040】
本発明の固形製剤は、医薬または食品(健康補助食品など)の分野で用いられる錠剤、丸剤、粒剤(細粒又は顆粒剤)、散剤、カプセル剤、チュアブル錠などであってもよく、固形製剤はフィルムコーティング錠(糖衣錠)などのフィルムコーティング剤であってもよい。さらに、固形製剤は、経口または非経口投与製剤であってもよい。コーティング製剤は、コーティング基剤を含有するコーティング剤を未コーティング製剤(素顆粒、素錠など)に噴霧することにより得ることができる。カフェインウィスカーの発生を防止できるため、本発明は、コーティング(特にフィルムコーティング)が施されていない未コーティング固形製剤(例えば、素錠、粒剤(細粒又は顆粒剤)、散剤など)に適用するのに有利である。
【0041】
なお、固形製剤において、安定性などの観点から互いに配合忌避な複数の成分を群分けして、所定の活性成分を含む複数の製剤(造粒物又は粒剤など)を調製し、前記複数の製剤を混合して製剤化したり、前記複数の製剤の混合物又は必要に応じてさらに担体との混合物を打錠して製剤化する場合がある。このような群分け製剤では、カフェインを含有する製剤(造粒物又は粒剤、第1の製剤群)が前記ERHでの製剤化の条件を満たせばよく、カフェインを含まない1又は複数の製剤(造粒物又は粒剤、第2の製剤群)の調製では、上記ERHの条件を満たす必要はない。なお、群分け製剤では、第2の製剤群から第1の製剤群のカフェインに水分が移行する場合がある。このような場合であっても、第2の製剤群は、第1の製剤のカフェインに水分が移行してもウィスカーの発生を防止できる限り、使用量などに応じて、種々の水分含量を有していてもよい。また、第2の製剤群は、乾燥された低水分含量の製剤であってもよい。好ましい態様では、第1の製剤群と第2の製剤群が同程度のERHの条件で調製される。
【0042】
前記カフェイン含有固形製剤は、医薬製剤の一般的な使用環境に置かれてもカフェインウィスカーの発生を著しく抑制する。特に、長期間に亘り、カフェインウィスカーの発生を著しく抑制できる。そのため、カフェイン含有固形製剤は、種々の環境下で保存でき、例えば、40℃で6ヶ月程度に亘り保存してもカフェインウィスカーが発生しない。カフェイン含有固形製剤は、必要であれば、前記所定のERH(前記75%以下など)で保存してもよい。
【0043】
本発明では、カフェイン含有固形製剤でのカフェインウィスカーの発生を有効に防止できる。そのため、本発明は、前記カフェイン含有固形製剤を前記所定のERHの条件で調製(又は保存)し、カフェインウィスカーの発生を防止する方法も包含する。
【0044】
なお、本発明の固形製剤は、通常、所定の形態、例えば、容器又は袋への収容形態、PTP包装などの包装形態で製品化される。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0046】
実施例1
クロルフェニラミンマレイン酸塩9.333g、デキストロメトルファン臭化水素酸塩128g、無水カフェイン200g、トラネキサム酸1120g、ヘスペリジン60.8g、コーンスターチ463.5g、軽質無水ケイ酸20.53gを流動層造粒機(パウレック社製、FD−3SN型)に仕込み、給気量0.6〜1.0m/min、給気温度65℃、スプレーエア量85N/hrの条件下、結合剤として8重量%HPC−L水溶液774gを注液速度8g/分で噴霧して造粒した。造粒後、排気温度44℃になるまで乾燥した。造粒末を取り出し、パワーミル1.5mmφ(スクリーンサイズ1.5mmφ)で粉砕して整粒末を得た。前記造粒工程での平衡相対湿度ERHは51%であった。
【0047】
実施例2
給気量0.6〜0.9m/minの条件下、8重量%HPC−L水溶液774gを注液速度10g/分で噴霧して造粒する以外、実施例1と同様にして整粒末を得た。前記造粒工程での平衡相対湿度ERHは68%であった。
【0048】
比較例1
8重量%HPC−L水溶液774gを注液速度20g/分で噴霧して造粒する以外、実施例1と同様にして整粒末を得た。前記造粒工程での平衡相対湿度ERHは89%であった。
【0049】
試験例1
(1)NIR化学イメージング
乾燥後の整粒末について、NIR化学イメージング(スペクトリス社Spectral Dimensions SyNIRgi Chemical Imaging System)を用いて無水カフェインとカフェイン水和物の分布を解析し、カフェイン全体を100として無水カフェインとカフェイン水和物との割合を測定した。測定条件は以下の通りである:
Fields of view(測定範囲): 3.2 ×2.6 mm (10μm/pixel)
Spectral range(波長域): 1200 - 2400 nm
Spectral increment(スペクトル分解能): 10 nm
Total spectra/image: 81,920
Time/measurement(測定時間):〜1 minute。
【0050】
(2)カフェインウィスカーの発生(加速試験)
実施例1〜2及び比較例1で得られた整粒末それぞれ5gを密栓可能な瓶(3K白色瓶)に入れて密栓し、40℃で保存した。そして、1ヶ月、3ヶ月及び6ヶ月後にウィスカーの発生状況を肉眼で観察して、以下の評価基準で評価した。
【0051】
(−):ウィスカー発生なし
(±):短いひげ状のウィスカーあり
(+):長いひげ状のウィスカーあり
結果を表に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、比較例に比べ、低いERHの条件で造粒した実施例1及び2では、無水カフェイン/カフェイン水和物の比率が大きく、ウィスカーの発生を長期間に亘り防止できた。
【0054】
実施例3
アセトアミノフェン1650g、dl−メチルエフェドリン塩酸塩110g、ヘスペリジン68.2g、コーンスターチ465.9gを流動層造粒機(パウレック社製、FD−3SN型)に仕込み、給気量0.6〜1.0m/min、給気温度65℃、スプレーエア量85N/hrの条件下、結合剤として8重量%HPC−L水溶液886.85gを注液速度16g/分で噴霧して造粒した。造粒後、排気温度44℃になるまで乾燥した。造粒末を取り出し、パワーミル1.5mmφ(スクリーンサイズ1.5mmφ)で粉砕してA群整粒末を得た。
【0055】
A群整粒末931.7g、実施例1で得られた整粒末(B群整粒末)559g、結晶セルロース(PH−F20)207.1gをタンブラー混合機(昭和化学機械、TM−15型)に入れ5分混合した。次にステアリン酸マグネシウム5.2をクロスカルメロースナトリウム52gと混合したのち、標準篩30Mを通してタンブラー混合機に入れ、さらに1分混合した。得られた混合物を、打錠機(コレクト19K、(株)菊水製作所)を用い、30rpm、圧縮圧10KNで打錠し、錠剤(270mg、直径8.5mmφ)を得た。
【0056】
得られた錠剤を、実施例1と同様の条件で保存しても、ウィスカーの発生は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、カフェインウィスカーの発生を有効に抑制できるため、カフェインを含有する固形製剤に適用し、外観品質の低下などを防止するのに有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフェインを含む製剤成分をERH75%以下の条件で製剤化することを特徴とするカフェインウィスカーの発生が防止されたカフェイン含有固形製剤の製造方法。
【請求項2】
カフェインを含む製剤成分をERH75%以下で造粒し、カフェイン含有固形製剤を製造する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
少なくともカフェインを含む活性成分と、担体とを含む製剤成分を湿式造粒する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
カフェイン含有量が、固形製剤全体に対して0.1〜90重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ERH70%以下の条件で製剤化する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
カフェイン含有固形製剤でのカフェインウィスカーの発生を防止する方法であって、カフェイン含有固形製剤をERH75%以下の条件で調製し、カフェインウィスカーの発生を防止する方法。
【請求項7】
カフェインを含み、かつカフェインウィスカーの発生が抑制された固形製剤であって、無水カフェインとカフェイン水和物とを前者/後者=100/0〜30/70の割合で含んでなる製剤 。
【請求項8】
コーティングが施されていない固形製剤である請求項7記載の製剤。

【公開番号】特開2011−207877(P2011−207877A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53961(P2011−53961)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】