説明

カフ付きチューブ

【課題】カフあるいはチューブが移動してしまうような力が作用することがあるとしても、カフの移動を可及的に防止できるカフ付きチューブを提供する。
【解決手段】作動流体の導入あるいは排出により膨張あるいは収縮するカフ4が可撓性のチューブ2の外周に具備されたカフ付きチューブ1であって、カフ4は、作動流体の導入により外方に膨張するカフ固定部分22と、チューブ2の外周面に取付けられる一方の取付け部分10および他方の取付け部分11とを備え、カフ固定部分22との連結部がくびれた姿勢でチューブ2の外周面に固定され、カフ固定部分22が膨張された状態において、カフ固定部分22に外力が加わった場合に、カフ4の一方の取付け部分10と他方の取付け部分11との間隔は一定で変化せず、さらにカフ固定部分22は所定の位置にあり、チューブ2に加えられた外力が解除された場合に、カフ固定部分22が元の姿勢に復帰する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カフ付きチューブに関するもので、詳しくは、分離肺換気装置のように変形自在なチューブの外周にカフが具備されたカフ付きチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、胸部外科手術などでは、特許文献1に開示されているように、患者の気管から気管支にかけて細い可撓性のチューブを挿入して先端部を適正な位置に配置し損傷した肺を分離し閉塞させ、かつ他の肺に空気を供給するため、変形自在な可撓性のカフ付きチューブを挿入する必要が生じている。
【0003】
このように、患者に対して外科的処置を行うために使用されるカフ付きチューブは、変形自在な可撓性のチューブに取付けられたカフを適宜な位置まで挿入した後、そのカフに空気などの作動流体を送り込んで膨張させ、カフの外面を気管の内壁などに圧接させることにより、カフ及びチューブの位置固定を図るとともに気密性を確保している。
【0004】
しかしながら、このようにして仮にカフおよびチューブの位置固定を行ったとしても、後に患者が術野確保のため体位を変化させた場合などには、外力により一旦固定したはずのカフが所定位置から動いてしまい、結果として、例えば分離肺換気装置の場合には気密性が確保出来なくなる場合もあり、チューブの先端開口のガス送出口から所望とする肺に空気などの所定のガスを供給することができなくなる虞がある。このような場合には、チューブの挿入操作を再度行い、カフの位置を調整し直さなければならない。
【0005】
特に、分離肺換気装置のように、気管分岐部より下方に位置する長さの短い気管支内でカフを膨張させ固定させるに場合に、カフの位置ずれが生じて気管分岐部までカフの位置がずれてしまった場合には気密性が保てなくなり再度の位置調整が必要となる。ところが、可撓性のチューブの位置を再調整する作業は、治療の中断や患者に対する負担増となり好ましくない。
【0006】
また、分離肺換気装置に限らず、医療処置として、血管、胆管、食道、気管、尿道その他の臓器などの生体管腔または体腔に生じた狭窄部などをカフによって拡張することも行われているが、このような場合にもカフの固定位置がずれて所望の治療を行うことができないことがあった。
【0007】
このように気管に限らず、他の部位に医療処理を行うカフ付きチューブの場合にも位置ずれが生じてしまった場合には、カフを一旦収縮させてカフの位置合わせを再度行い、カフを再び拡張させるという操作を行わなければならない。したがって、手間と時間を要し適正な治療の妨げになる。また、患者に対する負担増となることはいうまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−505925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑み、一旦、カフ付きチューブを患部に挿入し、カフを膨張させてカフおよびチューブの位置決めを図った後に、仮に患者の体位が変化した場合のように、カフおよびチューブが移動してしまうような外力が作用したとしても、カフの移
動を可及的に防止することができるカフ付きチューブを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係るカフ付きチューブは、
作動流体の導入あるいは排出により膨張あるいは収縮するカフが可撓性のチューブの外周に具備されたカフ付きチューブであって、
前記カフは、前記作動流体の導入により外方に膨張するカフ固定部分と、前記チューブの外周面に取付けられる一方の取付け部分および他方の取付け部分とを備え、前記一方の取付け部分と前記カフ固定部分との連結部がくびれた姿勢で前記チューブの外周面に固定されるとともに、前記他方の取付け部分と前記カフ固定部分との連結部がくびれた姿勢で前記チューブの外周面に固定され、
前記カフ固定部分に前記作動流体が導入され前記カフ固定部分が膨張された状態において、前記カフ固定部分に外力が加わった場合に、前記カフの前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分との間隔は一定で変化せず、さらに前記カフ固定部分は所定の位置にあり、前記チューブに加えられた外力が解除された場合に、前記カフ固定部分が元の姿勢に復帰することを特徴とする。
【0011】
ここで本発明では、前記カフは、前記カフ固定部分が軸芯を中心として両側に膨張した略樽形に形成され、この樽形のカフ固定部分の軸方向外方に前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分とがそれぞれ延出され、前記カフが前記チューブの外周面に固定されるに際し、前記一方の取付け部分が前記カフ固定部分に一部重なるように前記一方の取付け部分が前記他方の取付け部分側に押し込まれるとともに、前記他方の取付け部分が前記カフ固定部分に一部重なるように前記他方の取付け部分が前記一方の取付け部分側に押し込まれ、この姿勢で各取付け部分が前記可撓性チューブの外周面に固定されていても良い。
【0012】
また、本発明では、前記カフは、前記カフ固定部分が軸芯を中心として両側に膨張した略樽形に形成され、この樽形のカフ固定部分の軸方向外方に前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分とがそれぞれ延出され、かつ前記一方の取付け部分と前記カフ固定部分との連結部が予めくびれて形成され、さらに前記他方の取付け部分と前記カフ固定部分との連結部が予めくびれて形成され、
前記カフが前記チューブの外周面に固定されるに際し、前記各連結部がくびれた姿勢のまま前記可撓性チューブの外周面に固定されていても良い。
【0013】
また、本発明では、前記カフは、前記カフ固定部分が軸芯を中心として両側に膨張した略樽形に形成され、この樽形のカフ固定部分の軸方向外方に前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分とがそれぞれ延出され、
前記カフが前記チューブの外周面に固定されるに際し、前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分がそれぞれ裏返しにされ、これら裏返しにされた一方の取付け部分と他方の取付け部分とが、前記可撓性のチューブの外周面に固定されていても良い。
【0014】
このように形成されたカフ付きチューブであれば、予め固定されたカフに移動させようとする外力が作用したとしても、カフ自身の変形でその外力を吸収することができる。
【0015】
また、本発明では、前記カフは、前記カフ固定部分および前記一方の取付け部分および前記他方の取付け部分が略円筒状に形成され、
前記カフが前記チューブの外周面に固定されるに際し、前記カフ固定部分と前記一方の取付け部との連結部、および前記カフ固定部分と前記他方の取付け部分との連結部をそれぞれくびれた姿勢となるように内側に押し込んで、前記可撓性チューブの外周面に固定されても良い。
【0016】
このような構成からなるカフ付きチューブであっても、気管支内などで一旦固定されたカフに移動させようとする外力が作用したとしても、カフ自身の変形力でその力を吸収することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るカフ付きチューブによれば、カフが気管の内壁などの被当接部に一旦位置決めされた状態のカフに対して患者が体位を変えるなどにより外力が作用したとしても、その外力により動いてしまうのはチューブであり、カフ固定部分の主要部は被当接部に当接した元の位置から動くことはない。しかもカフによる気密性などは確保されているので治療の妨げになることもない。
【0018】
さらに、外力が解除された場合は、カフは元の姿勢となりカフ固定部分の位置は変化していない。これにより、本発明によれば、チューブを再度挿入し直すという作業は不要となる。したがって、患者に対する負担が増えることもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の一実施例によるカフ付きチューブの概略斜視図である。
【図2】図2は、図1に示したカフ付きチューブに採用されたカフの自然状態での姿勢を一部破断して示す正面図である。
【図3】図3は、気管に挿入された図1のカフ付きチューブのカフに作動流体を導入して膨張させ、気管の内壁に当接させたときの概略断面図である。
【図4】図4は、例えば図3に示したカフ付きチューブの変形可能領域を示す概略図である。
【図5】図5は、図1に示したカフ付きチューブのカフに作動流体を導入せずに気管内に挿入したときの概略図である。
【図6】図6は、図5に示したカフ付きチューブのカフに作動流体を導入して膨張させ、気管の内壁に固定した後、チューブがA方向に移動したときのカフの姿勢を示す概略拡大断面図である。
【図7】図7は、本発明の他の実施例によるカフ付きチューブのカフを示す要部概略断面図である。
【図8】図8は、本発明のさらに他の実施例によるカフ付きチューブのカフを示す要部概略断面図である。
【図9】図9(A)は、図8示した他の実施例によるカフ付きチューブに採用されたカフ素材の概略断面図、図9(B)は、図9(A)のカフ素材を折り返して形成したカフの概略断面図である。
【図10】図10は、本発明のさらに他の実施例によるカフ付きチューブを示したもので、カフは図7に示したカフが折り返されて使用されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るカフ付きチューブについて説明する。
【0021】
図1は本発明の一実施例に係るカフ付きチューブを示したものである。
【0022】
このカフ付きチューブ1では、可撓性のチューブ2に形成された貫通孔3の先端部開口8の近傍に、膨張と収縮が可能なカフ4が設置されている。また、このカフ4に空気などの作動流体を導入するための細管5がチューブ2の内壁に沿うように設置され、細管5の先端開口5aは、カフ4内に配置されている。なお、図1のカフ4は、作動流体が導入された状態で示されている。
【0023】
上記可撓性のチューブ2の材質は、特に限定されないが、例えば、ナイロン11、ナイ
ロン12、ナイロン610等のポリアミド樹脂またはポリアミドエラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー等のオレフィン系エラストマー、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタンおよびポリウレタンエラストマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂およびフッ素樹脂系エラストマー、ポリイミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、シリコーンゴム等の可撓性を有する高分子材料が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合せて用いることができる。
【0024】
このような材質から形成されることにより可撓性のチューブ2は、適宜な柔軟性と自立保持性を有している。
【0025】
一方、カフ4は、各種の高分子材料(特に、熱可塑性樹脂)により筒状の膜部材で構成されている。カフ4は、全体として可撓性を有するが、比較的伸展性が低い(伸び率が小さい)材料で構成されることが好ましい。これにより、カフ4を膨張させたときに、カフ4が気管などの内壁から反力を受けることにより押し返されることが防止される。
【0026】
カフ4の構成材料としては、例えば、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610等のポリアミド樹脂またはポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、天然ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリイミド、ポリイミドエラストマー、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、またはこれらのうち少なくとも一種を含むポリマーブレンド、ポリマーアロイ等の材料が挙げられる。
【0027】
また、カフ4には、弁機構を備えたパイロットバルーン6などが具備され、このパイロットバルーン6などから細管5を介してカフ4内に、空気などの所定の作動流体が導入されることにより、図1に示したように、カフ4が外方に向かって膨張する。また、同じ細管5を介してパイロットバルーン6などから作動流体が排出されることにより、カフ4は萎んだ状態に戻される。
【0028】
チューブ2の頭部にはアダプタ7が接続され、このアダプタ7が図示しない機器に接続されることによりチューブ2内に空気などの所定の流体が供給される。
【0029】
このように形成されたカフ付きチューブ1は、カフ内部の例えば空気などの作動流体が脱気され若干曲げられた姿勢にされてから、例えば気管内にチューブ2が挿入される。そして、カフ4が所定位置に到達したことが確認された後、カフ4内にパイロットバルーン6、細管5などを介して適宜な作動流体が導入されることによりカフ4が膨張し、これにより、カフ4の外面が例えば図3に示した被当接部としての気管14の内壁15に当接させる。また、カフ付きチューブ1におけるカフ4の確実な固定がなされ、かつ患者の気管14が閉塞される。その後、アダプタ7から空気などの所定のガスをチューブ2内に供給することにより、そのガスをチューブ2の先端部開口8から送出して気管支内に供給する。
【0030】
なお、図1に示したパイロットバルーン6はカフ4の膨らみ具合を予想するバルーンであり、必ずしも必要ではない。
【0031】
以下に、図1に示した本実施例で採用されたカフ4について、図2を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0032】
図2はブロー成形などにより製造されたカフ4の略自然状態での姿勢を示したものであ
る。
【0033】
本実施例によるカフ4は、その両側が閉塞された状態で作動流体が導入された場合に、外方に膨張する筒状のカフ固定部分22を略中央部に有し、このカフ固定部分22の一方の端部に一方の取付け部分10が、他方の端部に他方の取付け部分11が具備されている。そして、カフ固定部分22は、略樽形に形成されている。
【0034】
また、上記カフ固定部分22は、両端部にテーパ状の側壁12,13を有している。
【0035】
なお、本発明において、カフ固定部分22の主要部9は、カフ4が膨張されたときに気管14の内壁15などに当接するが、テーパ状の側壁12,13には、主要部9の膨張の大きさ、あるいは内壁15の曲がり具合などにより内壁15に当接する部分と当接しない部分とがある。
【0036】
図2に示したように、一方の取付け部分10および他方の取付け部分11がカフ固定部分22の軸方向外方に突出して形成されたカフ4は、図2の姿勢ではなく図1および図3に示した姿勢で、チューブ2の外周面に固定される。
【0037】
すなわち、先ず、一方の取付け部分10と他方の取付け部分11とが、図2の姿勢から中央側に向かって互いに押し込まれる。これにより、一方の取付け部分10とテーパ状の側壁12とカフ固定部分22とが一部重なるように配置され、この位置に図3に示したように、カフが当接した状態では略Z字が形成される。これと同様に他方の取付け部分11とテーパ状の側壁13とカフ固定部分22とが一部重なるように配置され、カフが当接した状態ではこの位置に略Z字が形成される。
【0038】
このように、互いの一部が重なるように押し込まれてから、一方の取付け部分10と他方の取付け部分11との間隔を変えずにチューブ2の外周面に固定する。なお、これら取付け部分10、11のチューブ2に対する固定は、接着剤あるいは熱融着などにより行なわれるが、特に限定されるものではない。
【0039】
また、図3に示したカフ付きチューブ1では、図面に示したように、カフ4がチューブ2に取付けられた状態における傾斜角度α、βは、それぞれ鋭角となる。すなわち、両端部を中央側に向かって押し込んだため、一方の取付け部分10とカフ固定部分22との重なりあう領域が形成され、その長さはtとする。また、他方の取付け部分11とカフ固定部分22との重なりあう領域が形成され、その長さはtとする。
【0040】
片側取付け部のこれら重なりあう領域のチューブ外周上の平均長さtは3mm以上必要で、カフ4の可動長さを5〜15mmとした場合、その片側取付け部分の平均長さtは、5mm〜10mmの範囲が好ましい。
【0041】
分離肺換気装置において、重なりあう領域の平均長さtが、予め上記の範囲に設定されていれば、図4に示したように、チューブ2が気管14に対して相対的に略2tの距離だけ図4の右方に動いたときに、実線で示されるテーパ状の側壁12、13は、それぞれ二点鎖線の位置に移動する。しかしながら、中央のカフ固定部分22の主要部9は、最初の位置に固定されたままである。したがって、チューブ2に対する外力が解除されれば、図4において二点鎖線で示されるテーパ状の側壁12、13は、実線で示した元の位置に復帰する。また、この復帰の際に、カフ固定部分22の主要部9の移動は行われないので、カフ4の固定位置は、内壁15などの被当接部に対して動いてしまうことはない。
以下に、カフ付きチューブ1の使用例について説明する。
【0042】
今、図5に示したように、気管14などに挿入する場合は、挿入の前にカフ4を略萎んだ状態とする。そして、このカフ4が略萎んだ状態であることを確認してから、カフ付きチューブ1を気管14の内部に挿入する。そして、先端部のカフ4が所定位置に到達したことを確認した後、カフ4に、図1に示したパイロットバルーン6および細管5などを介して外部から作動流体を導入して、カフ4を外側に膨張させる。このようにしてカフ4が膨張すると、図3に示したように、カフ4のカフ固定部分22の主要部9が気管14の内壁15に当接する。
【0043】
これにより、カフ付きチューブ1の気管14内での位置決めと固定がなされる。この状態になれば、患者が体位を変化させたりチューブ2に外力が作用したりしない限り、カフ4はその位置に留まることになる。また、カフ外周部での気密性あるいは液密性などが確保される。また、図1に示したアダプタ7などを介して空気などの所定のガスを下流の気管支内に供給することができる。さらに、この状態であれば、膨張したカフ固定部分22を境にして気管支側(図3における左方)から口元側(図3における右方)に向かって、あるいはカフ固定部分22を境にして口元側から気管支側に向かって、それぞれ体液などが流れることもない。
【0044】
以下に、図3に示したようにカフ4が所定位置に位置決めされた状態から、患者の体位が変化したりチューブ2に直接外力が作用したりした場合について説明する。
【0045】
なお、本明細書において患者の体位変化やチューブ2に外力が作用する場合とは、ある範囲内でのことを想定したものであり、カフ固定部分22と被当接部(本実施例の場合は気管14の内壁15)との摩擦力を超える程の大きな力が作用することや、カフの可動域を超えるチューブの移動を起こす力は想定していない。
【0046】
今、例えば患者の体位が変化したりすると、気管14および気管支の形状が三次元的に変形することにより、チューブ2に相対的な外力が加えられ、これにより、患者の口元側(図3における右方、図6では矢印A方向)に可撓性のチューブ2が移動したとする。このとき、カフ固定部分と被当接部との摩擦力を超えない範囲で、またチューブ2の移動量がカフ4の可動域より小さければ、移動するのはチューブ2のみであり、カフ4の固定位置は移動しない。
【0047】
すなわち、図3あるいは図6に示したように、カフ4におけるカフ固定部分22の主要部9が気管14の内壁15に当接して位置固定を図っているので、体位変化などによりチューブ2に相対的に矢印A方向に移動させる力が作用したとしても、姿勢の変化が生じるのはテーパ状の側壁12、13のみであり、主要部9の姿勢は変化しない。そして、一方のテーパ状の側壁12は、図6に示したように例えば大きく屈曲され、かつ他方のテーパ状の側壁13は伸び切った姿勢となる。
【0048】
このとき膨張したカフ固定部分22の主要部9は、所定の圧力で内壁15に当接されたままであるので、カフ4は被当接部すなわち気管14の内壁15に対して移動することはない。また、カフ4は、カフ固定部分22の主要部9が膨張した状態で固定されたままであるので気密性も確保されている。
【0049】
なお、図6の姿勢からチューブ2に対する外力が解除されれば、チューブ2が矢印A方向と反対の方向に移動し、テーパ状の一方の側壁12および他方のテーパ状の側壁13が、図3に示した元の姿勢に復帰する。
【0050】
また本実施例において、いずれかの側壁12,13が、図6に示したように内側に大きく入り込むように姿勢が屈曲されれば、そのくびれた部分を液溜まりとして利用すること
ができる。したがって、体液などがこのカフ4を超えて反対側に流れようとしても、その体液の流れをくびれた部分で捕捉することができる。
【0051】
このように、本実施例によれば、カフ4を固定した後に仮に患者の体位が変化したりしてカフ4に外力が作用したとしても、カフ4の患者に対する固定位置がずれてしまうことはない。したがって、位置調整などを再度行う必要がない。これにより、患者に対する負担増となる作業を行う必要がない。
【0052】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されるものでない。
【0053】
例えば、上記実施例では、患者の体位が変化するなどしてチューブ2が図6の矢印A方向に動いてしまう場合について説明したが、チューブ2が矢印A方向と反対の方向に動いたとしても、カフ4の固定位置は変わることはない。また、チューブ2を直線方向ではなく周方向に回転させる外力が作用したとしても、その外力が解除されれば、カフ4を元の姿勢に戻すことができる。
【0054】
さらに、カフ4を最初の位置に固定されたままにする為のチューブ2の可動域の範囲の設定は、図3や図4に示した長さtを適宜に調整する事で行うことができる。また、被当接部との摩擦力を向上させるために、図3に示したカフ固定部分22の軸方向の長さXに対して、半径方向の長さYを長くすることにより摩擦力を高めることができ、カフの可動性を調整することもできる。
【0055】
また、図1〜図6に示した実施例では、カフ固定部分22の両側に形成された一方の取付け部分10と他方の取付け部分11とを中央側に押し込んで固定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。
【0056】
例えば、図7に示した他の実施例のカフ付きチューブ18のように、カフ36の製造時において、一方の取付け部分10とテーパ状の側壁12との連結部16をくびれた姿勢にし,同様に他方の取付け部分11とテーパ状の側壁13との連結部16をくびれた姿勢にすることもできる。
【0057】
すなわち、この実施例では、カフ36における一方の取付け部分10とテーパ状の側壁12とカフ固定部分22とにより予め略Z字が形成され、これと同様に、他方の取付け部分11とテーパ状の側壁13とカフ固定部分22とにより予め略Z字が形成されている。
【0058】
この図7に示した他の実施例のカフ付きチューブ18では、カフ36が製造時の図7の姿勢のまま、チューブ2の外周に取付けられている。
【0059】
このカフ付きチューブ18で採用されたカフ36のように、予め連結部16がくびれて形成されていても、そのカフ36内に作動流体を導入してカフ固定部分22を膨らませ被当接部に当接させれば、図3に示したカフ付きチューブ1の場合と同様の作用効果を奏することができる。また、チューブ2に外力が作用したとしても、一方の取付け部分10と他方の取付け部分11との間隔が変化することはない。
【0060】
図8は、本発明のさらに他の実施例に係るカフ付きチューブ30を示したもので、図9(A)、(B)は図8に示したカフ32を形成する前のカフ素材38を示したものである。
【0061】
図9(A)に示したように、カフ素材38は、略円筒状に形成されている。そして、こ
の略円筒状のカフ素材38は、図9(B)に示したように、両端部を中央側に押し込むことにより、チューブ2に固定するための一方の取付け部分10と他方の取付け部分11とを形成する。この状態にしてから、この一方の取付け部分10と他方の取付け部分11との距離を変化させずに、チューブ2の外周面に固定すれば、図8のカフ付きチューブ30を形成することができる。
【0062】
このようにカフ32が略円筒状のカフ素材38から形成されたカフ付きチューブ30であっても、カフ32内に作動流体を導入すれば、図3に示した実施例のカフ付きチューブ1の場合と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、外力がカフ32に作用したとしても一方の取付け部分10と他方の取付け部分11との距離が変化することはない。なお、本実施例における「略円筒状」とは、カフ素材38の中央部を若干、外方に膨らませて「樽形」にした場合も「略円筒状」としている。
【0063】
図10は本発明のさらに他の実施例によるカフ付きチューブ40を示したものである。この実施例のカフ42は、図7に示したカフ36と略同様の形状に形成されているが、異なる点としては、一方の取付け部分10と他方の取付部分11が、裏返した姿勢でチューブ2に取付けられている。
【0064】
図10のカフ42のように、一方の取付け部分10および他方の取付け部分11が裏返しの状態でチューブ2に固定されたカフ付きチューブ4であっても、作動流体をカフ42内に導入して膨張させれば、図3に示した実施例のカフ付きチューブ1などと同様の作用効果を奏することができる。
【0065】
また、上記各実施例では、1本のチューブ2に1つのカフ4が具備されたカフ付きチューブについて説明したが、これに代え、1本のチューブ2に2つ以上のカフが設置されたカフ付きチューブにも本発明は適用可能である。また、チューブ2内に2つ以上の貫通孔3が形成されたカフ付きチューブにも適用可能である。本発明は、要は、膨張と収縮が可能なカフを用いて外科的処置が行なわれる全てのカフ付きチューブに適用可能である。
【0066】
すなわち、本発明は気管、気管支に限らず、血管、胆管、食道、気道、尿道その他の臓器などの生体管腔または体腔の治療に使用されるカフ付きチューブ全てに適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 カフ付きチューブ
2 可撓性のチューブ
3 貫通孔
4 カフ
5 細管
5a 先端開口
6 パイロットバルーン
7 アダプタ
8 先端開口
9 カフ固定部分の主要部
10 一方の取付け部分
11 他方の取付け部分
12 テーパ状の側壁
13 テーパ状の側壁
14 気管
15 気管の内壁(被当接部)
16 連結部
22 カフ固定部分
30 カフ付きチューブ
32 カフ
36 カフ
38 カフ素材
40 カフ付きチューブ
42 カフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体の導入あるいは排出により膨張あるいは収縮するカフが可撓性のチューブの外周に具備されたカフ付きチューブであって、
前記カフは、前記作動流体の導入により外方に膨張するカフ固定部分と、前記チューブの外周面に取付けられる一方の取付け部分および他方の取付け部分とを備え、前記一方の取付け部分と前記カフ固定部分との連結部がくびれた姿勢で前記チューブの外周面に固定されるとともに、前記他方の取付け部分と前記カフ固定部分との連結部がくびれた姿勢で前記チューブの外周面に固定され、
前記カフ固定部分に前記作動流体が導入され前記カフ固定部分が膨張された状態において、前記カフ固定部分に外力が加わった場合に、前記カフの前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分との間隔は一定で変化せず、さらに前記カフ固定部分は所定の位置にあり、前記チューブに加えられた外力が解除された場合に、前記カフ固定部分が元の姿勢に復帰することを特徴とするカフ付きチューブ。
【請求項2】
前記カフは、前記カフ固定部分が軸芯を中心として両側に膨張した略樽形に形成され、この樽形のカフ固定部分の軸方向外方に前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分とがそれぞれ延出され、前記カフが前記チューブの外周面に固定されるに際し、前記一方の取付け部分が前記カフ固定部分に一部重なるように前記一方の取付け部分が前記他方の取付け部分側に押し込まれるとともに、前記他方の取付け部分が前記カフ固定部分に一部重なるように前記他方の取付け部分が前記一方の取付け部分側に押し込まれ、この姿勢で各取付け部分が前記可撓性チューブの外周面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のカフ付きチューブ。
【請求項3】
前記カフは、前記カフ固定部分が軸芯を中心として両側に膨張した略樽形に形成され、この樽形のカフ固定部分の軸方向外方に前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分とがそれぞれ延出され、かつ前記一方の取付け部分と前記カフ固定部分との連結部が予めくびれて形成され、さらに前記他方の取付け部分と前記カフ固定部分との連結部が予めくびれて形成され、
前記カフが前記チューブの外周面に固定されるに際し、前記各連結部がくびれた姿勢のまま前記可撓性チューブの外周面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のカフ付きチューブ。
【請求項4】
前記カフは、前記カフ固定部分が軸芯を中心として両側に膨張した略樽形に形成され、この樽形のカフ固定部分の軸方向外方に前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分とがそれぞれ延出され、
前記カフが前記チューブの外周面に固定されるに際し、前記一方の取付け部分と前記他方の取付け部分がそれぞれ裏返しにされ、これら裏返しにされた一方の取付け部分と他方の取付け部分とが、前記可撓性のチューブの外周面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のカフ付きチューブ。
【請求項5】
前記カフは、前記カフ固定部分および前記一方の取付け部分および前記他方の取付け部分が略円筒状に形成され、
前記カフが前記チューブの外周面に固定されるに際し、前記カフ固定部分と前記一方の取付け部との連結部、および前記カフ固定部分と前記他方の取付け部分との連結部をそれぞれくびれた姿勢となるように内側に押し込んで、前記可撓性チューブの外周面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のカフ付きチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−67596(P2011−67596A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89605(P2010−89605)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(505418582)
【出願人】(000205007)大研医器株式会社 (28)
【Fターム(参考)】