説明

カフ部材及びカフ部材付きカテーテル

【課題】カフ部材が生体組織内に配置された状態において、該カフ部材の内部の空孔が潰れにくく、周囲の生体組織と十分に一体化することが可能なカフ部材及びこのカフ部材付きカテーテルを提供する。
【解決手段】カフ部材1は、中心孔2を有した略円筒状の、多孔質材よりなるものである。この多孔質材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、平均孔径が100〜650μmであり、乾燥状態における見掛け密度が0.01〜0.1g/cmである多孔性三次元網状構造を有している。カフ部材1の外周面には、その周方向に間隔をおいて複数個の凹部3が形成されている。凹部3同士は、カフ部材1の周方向に略等間隔にて配置されている。各凹部3は、カフ部材1の筒軸心線方向に延在した溝よりなる。各凹部3は、カフ部材1の筒軸心線方向と直交方向の断面における形状が、該カフ部材1の外周側ほど幅が大きくなる略V字形状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカフ部材に係り、詳しくは、例えば腹膜透析法において、腹腔内に差し込まれて透析液を注排液するために使用されるカテーテルに外嵌されるカフ部材に係り、特に多孔質材よりなる筒状のカフ部材に関する。また、本発明は、このカフ部材が外嵌されたカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
腹膜透析療法においては、透析液(透析灌流液)を腹腔内に注入し、一定時間経過後に透析液の排液を腹腔外に排出するといった手技がなされる。そして、このような透析液の注入と排液の排出は、腹腔内に留置されている腹腔内留置カテーテルと、このカテーテルに接続される透析液交換システムとにより行われる。
【0003】
カテーテルの生体内への留置が長期間に及ぶ場合、生体内への細菌の侵入や体液水分の揮発等を防止するために、カテーテルにカフ部材を装着し、このカフ部材によって擬似的にカテーテル刺入部を密閉することが行われている。
【0004】
特開平9−313602号(特許文献1)には、このカフ部材として、コラーゲンを主材料とした多孔質材よりなる、円筒状のものが記載されている。このカフ部材は、カテーテルに外嵌され、腹膜皮下に固定される。このコラーゲンを主材料とする多孔質材からなるカフ部材が腹膜皮下に固定されると、このカフ部材が生体組織に置換されると共に、カテーテルの経皮部付近の生体組織がカフ部材内に入り込み、コラーゲンが生成される。これにより、カテーテルの周辺の生体組織をカテーテルの周囲に密集させることができる。
【0005】
円筒状のカフ部材を外嵌させたカテーテルを腹膜を通して腹腔に差し込んだ場合において、腹腔外で且つ腹膜直近部位においてカテーテルを湾曲させることがある。その場合、このカフ部材の湾曲部における曲率半径方向の内周側においてカフ部材が強く圧縮されて該カフ部材の内部の空孔が押し潰されてしまい、生体組織がカフ部材内に入り込みにくくなり、カフ部材が周囲の生体組織と一体化しなくなるおそれがある。
【0006】
このような問題点を解決するために、特開2008−295479号(特許文献2)には、外周面から切り込まれた形状の溝が該外周面を周回するように形成されたカフ部材が記載されている。同号のカフ部材にあっては、カテーテルと共にこのカフ部材が湾曲した場合、このカフ部材は、蛇腹管の如く、溝が設けられて細くなった部分が屈曲するようにして湾曲する。その際、この湾曲部における曲率半径方向の内周側において溝が狭くなっても、カフ部材の該溝の両側部分同士が強く押し付けられることがない。これにより、カフ部材の湾曲に伴って該カフ部材の空孔が押し潰されることが防止され、カフ部材周囲の生体組織がカフ部材の空孔に入り込み易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−313602号
【特許文献2】特開2008−295479号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特開2008−295479号のカフ部材にあっては、このカフ部材の湾曲に伴って空孔が押し潰されることは防止されるが、このカフ部材が生体組織内に配置された状態にあっては、周囲の生体組織からの圧力により空孔が押し潰されるおそれがある。即ち、第4図(a)の通り、同号のカフ部材100は、その筒軸心線方向と直交方向の断面内において、カテーテル101の周囲の全周にわたって略均等な厚みとなっている。このカフ部材100付きカテーテル101が生体組織(図示略)内に配置されると、第4図(b)の通り、カフ部材100の周囲の生体組織が該カフ部材100を圧迫することにより、この生体組織とカテーテル101との間でカフ部材100が全周にわたって圧縮され、これにより該カフ部材100の内部の空孔が押し潰される。このようにカフ部材100の内部の空孔が押し潰されると、生体組織がカフ部材100の内部に入り込みにくくなり、カフ部材と周囲の生体組織とが十分に一体化し得ないおそれがある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決し、カフ部材が生体組織内に配置された状態において、該カフ部材の内部の空孔が潰れにくく、周囲の生体組織と十分に一体化することが可能なカフ部材と、かかるカフ部材を備えたカフ部材付きカテーテルとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)のカフ部材は、腹腔内に差し込まれるカテーテルに対し外嵌される、多孔質材よりなる筒状のカフ部材において、該カフ部材の外周面に、該外周面の周方向の少なくとも一部を部分的に凹嵌させた形状の凹部が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2のカフ部材は、請求項1において、前記凹部は、前記カフ部材の筒軸心線方向と略平行方向に延在した溝よりなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3のカフ部材は、請求項1又は2において、前記凹部は、前記カフ部材の周方向に間隔をおいて複数個設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4のカフ部材は、請求項3において、前記凹部同士は、前記カフ部材の周方向に略等間隔にて配置されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5のカフ部材は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記凹部は、前記カフ部材の筒軸心線方向と直交方向の断面における形状が、該カフ部材の外周側ほど幅が大きくなる略V字形状となっていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項6のカフ部材は、請求項1ないし5のいずれか1項において、さらに、該カフ部材の外周面に、該カフ部材の周方向に延在する周方向溝が設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項7のカフ部材は、請求項6において、前記周方向溝は、該カフ部材の外周面を周回するように延設されていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項8のカフ部材は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記多孔質材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、平均孔径が100〜650μmであり、乾燥状態における見掛け密度が0.01〜0.1g/cmである多孔性三次元網状構造を有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明(請求項9)のカフ部材付きカテーテルは、カテーテルと、該カテーテルに外嵌した請求項1ないし8のいずれか1項に記載のカフ部材とを備えてなるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明(請求項1)のカフ部材の外周面には、その周方向の少なくとも一部を部分的に凹嵌させた形状の凹部が設けられている。このカフ部材がカテーテルに装着されて生体組織内に配置された場合には、このカフ部材は、周囲の生体組織から圧迫されることにより、厚さが小さくなるように変形する。その際、このカフ部材は、凹部の両側の部分が該凹部内に張り出すようにして、周方向に伸長する如く変形する。即ち、このカフ部材にあっては、周囲の生体組織から圧迫されて厚さが小さくなっても、これを補うように周方向に伸長する如く変形することができるため、このカフ部材が周囲の生体組織から圧迫されても、このカフ部材の内部の空孔が押し潰されにくい。これにより、カフ部材の周囲の生体組織が十分にカフ部材の内部の空孔内に入り込むことが可能であり、カテーテルの周囲に生体組織を十分に密集させることが可能である。
【0020】
請求項2の通り、凹部は、カフ部材の筒軸心線方向と略平行方向に延在した溝よりなることが好ましい。このように構成することにより、カフ部材が周囲の生体組織から圧迫されたときに、カフ部材をその筒軸心線方向の一端側から他端側まで略均等に変形させることが可能となる。
【0021】
請求項3の通り、凹部は、カフ部材の周方向に間隔をおいて複数個設けられていることが好ましく、特に請求項4の通り、これらの凹部同士は、カフ部材の周方向に略等間隔にて配置されていることが好ましい。このように構成することにより、カフ部材が周囲の生体組織から圧迫されたときに、カフ部材をその周方向に略均等に変形させることが可能となる。
【0022】
カフ部材が周囲の生体組織から圧迫され、カフ部材が厚みが小さくなるように変形した場合、該カフ部材の外周側ほどその周方向の変形量(伸長量)が大きくなる。そのため、請求項5の通り、凹部は、カフ部材の筒軸心線方向と直交方向の断面における形状が、カフ部材の外周側ほど幅が大きくなる略V字形状となっていることが好ましい。
【0023】
請求項6,7の態様にあっては、カフ部材の外周面に、該カフ部材の周方向に延在する周方向溝が周設されているので、このカフ部材がカテーテルと共に湾曲した場合には、このカフ部材は、蛇腹管の如く、該周方向溝が設けられて細くなった部分が屈曲するようにして湾曲する。その際、この湾曲部における曲率半径方向の内周側において周方向溝が狭くなっても、カフ部材の該周方向溝の両側部分同士が強く押し付けられることがない。これにより、カフ部材の湾曲に伴って該カフ部材内の空孔が押し潰されることも防止される。これにより、カフ部材が湾曲した形状で生体組織内に配置された状態であっても、カフ部材の周囲の生体組織が十分にカフ部材の内部の空孔内に入り込むことが可能であり、カテーテルの周囲に生体組織を十分に密集させることが可能である。
【0024】
請求項8の通り、カフ部材を構成する多孔質材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、平均孔径が100〜650μmであり、乾燥状態における見掛け密度が0.01〜0.1g/cmである多孔性三次元網状構造を有することが好ましい。かかる多孔性三次元網状構造を有するカフ部材にあっては、該カフ部材の周囲の生体組織が十分に該カフ部材内部の空孔内に入り込むため、カテーテルの周囲に生体組織を十分に密集させることができる。
【0025】
本発明(請求項9)のカフ部材付きカテーテルは、かかる本発明のカフ部材をカテーテルに外嵌してなるものである。そのため、このカフ部材付きカテーテルを生体組織内に配置した状態にあっても、該カフ部材の周囲の生体組織からの圧力によって該カフ部材の内部の空孔が押し潰されにくいため、該カフ部材の周囲の生体組織が十分に該カフ部材内部の空孔内に入り込む。これにより、カテーテルの周囲に生体組織を十分に密集させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)図は第1の実施の形態に係るカフ部材付きカテーテルの斜視図であり、(b)図は(a)図のIB−IB線に沿う断面図である。
【図2】(a)図は図1のカフ部材付きカテーテルを生体組織内に配置した状態を示す斜視図であり、(b)図は(a)図のIIB−IIB線に沿う断面図である。
【図3】(a)図は第2の実施の形態に係るカフ部材付きカテーテルの斜視図であり、(b)図は(a)図のIIIB−IIIB線に沿う断面図である。
【図4】(a)図は従来例に係るカフ部材付きカテーテルの断面図であり、(b)図は(a)図のカフ部材付きカテーテルを生体組織内に配置した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0028】
[第1の実施の形態]
第1図(a)は第1の実施の形態に係るカフ部材付きカテーテルの斜視図であり、第1図(b)は第1図(a)のIB−IB線に沿う断面図である。第1図(a),(b)は、それぞれ、このカフ部材付きカテーテルが生体組織内に配置される前の状態を示している。第2図(a)は、このカフ部材付きカテーテルを生体組織内に配置した状態を示す斜視図であり、第2図(b)は第2図(a)のIIB−IIB線に沿う断面図である。なお、第2図(a),(b)においては、このカフ部材の周囲の生体組織の図示は省略されている。
【0029】
このカフ部材1は、中心孔2を有した略円筒状の、多孔質材よりなるものである。この多孔質材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、平均孔径が100〜650μmであり、乾燥状態における見掛け密度が0.01〜0.1g/cmである多孔性三次元網状構造を有していることが好ましい。なお、この多孔質材の詳細については後述する。カフ部材1の外周面には、その周方向に間隔をおいて複数個の凹部3が形成されている。第1図(a),(b)の通り、この実施の形態では、凹部3が4個設けられており、これらの凹部3同士は、カフ部材1の周方向に略等間隔にて(即ち略90°おきに)配置されている。第1図(a)の通り、各凹部3は、この実施の形態では、カフ部材1の筒軸心線方向と略平行方向に延在した溝よりなり、各凹部3の両端側は、カフ部材1の筒軸心線方向の両端面に連通している。第1図(b)の通り、各凹部3は、カフ部材1の筒軸心線方向と直交方向の断面における形状が、該カフ部材1の外周側ほど幅が大きくなる略V字形状となっている。なお、凹部3の形状、個数及び配置はこれに限定されない。
【0030】
このカフ部材1が生体組織内に配置されていない状態、即ちこのカフ部材1が周囲から圧迫されていない第1図(a),(b)の状態においては、カフ部材1の外周面の直径(カフ部材1の外周面のうち各凹部3を除いた部分の直径)Dは、5〜40mm特に10〜30mmであることが好ましい。中心孔2の内周面の直径は、このカフ部材1が装着されるカテーテル4の外径と略同等となっている。第1図(a),(b)の状態におけるカフ部材1の厚さ(各凹部3を除いたカフ部材1の外周面と中心孔2の内周面との間隔)Tは、0.5〜10mm特に1〜5mmであることが好ましい。第1図(a),(b)の状態における各凹部3の両側の壁面同士の交差角(即ち前記V字の角度)θは5〜60°特に10〜30°であることが好ましい。第1図(a),(b)の状態における各凹部3の入口側の幅(各凹部3の両側の壁面とカフ部材1の外周面との交差角縁同士の間隔)Pの合計(即ちこの実施の形態では4P)は、カフ部材1の外周長(πD)の10〜90%特に20〜50%であることが好ましい。第1図(a),(b)の状態における各凹部3の深さQは、カフ部材1の厚さTの10〜90%特に20〜50%であることが好ましい。
【0031】
このカフ部材1は、カテーテル4に外嵌される。即ち、第1図(b)の通り中心孔2にカテーテル4が挿通されてカフ部材付きカテーテルとされる。このカテーテル4の外周面とカフ部材1の中心孔2の内周面とは好ましくは接着剤等によって接着される。
【0032】
このカフ部材付きカテーテルは、カテーテル4を腹腔に差し込むようにして生体に装着される。カフ部材1のこの差し込み方向の先端側が腹膜(図示略)に対し縫着又は巾着によって固定される。
【0033】
このようにしてカフ部材1が生体組織内に配置された状態にあっては、第2図(a),(b)の通り、このカフ部材1は、周囲の生体組織から圧迫されることにより、厚さT(即ち外周面の直径D)が小さくなるように変形する。このカフ部材1の外周面には、その周方向に間隔をおいて、それぞれ該カフ部材1の筒軸心線方向に延在する複数条の溝状の凹部3が形成されている。そのため、第2図(b)の通り、このカフ部材1は、厚さTが小さくなるのに伴い、各凹部3の両側の部分が各凹部3内に張り出すようにして、周方向に伸長する如く変形する。即ち、このカフ部材1にあっては、周囲の生体組織から圧迫されて厚さTが小さくなっても、これを補うように周方向に伸長する如く変形することができるため、このカフ部材1が周囲の生体組織から圧迫されても、このカフ部材1の内部の空孔が押し潰されにくい。これにより、カフ部材1の周囲の生体組織が十分にカフ部材1の内部の空孔内に入り込むことが可能であり、カテーテル4の周囲に生体組織を十分に密集させることが可能である。
【0034】
この実施の形態では、各凹部3は、カフ部材1の筒軸心線方向と略平行方向に延在した溝よりなるため、カフ部材1が周囲の生体組織から圧迫されたときに、カフ部材1は、その筒軸心線方向の一端側から他端側まで略均等に変形することが可能である。
【0035】
この実施の形態では、カフ部材1の外周面に4個の凹部3が設けられており、且つこれらの凹部3同士は、該カフ部材1の周方向に略等間隔にて配置されている。これにより、カフ部材1が周囲の生体組織から圧迫されたときに、カフ部材1は、その周方向に略均等に変形することが可能である。
【0036】
カフ部材1が周囲の生体組織から圧迫され、カフ部材1が厚みが小さくなるように変形する場合、該カフ部材1は、その外周側ほど周方向の変形量(伸長量)が大きくなる。この実施の形態では、各凹部3は、カフ部材1の筒軸心線方向と直交方向の断面における形状が、カフ部材1の外周側ほど幅が大きくなる略V字形状となっているので、カフ部材1の外周側が十分に周方向へ変形(伸長)することが可能である。
【0037】
以上の通り、この実施の形態では、カフ部材1は、周囲の生体組織から圧迫されたときに、その全体が略均等に変形するため、このカフ部材1の空孔が部分的に押し潰されることも防止され、このカフ部材1の全体に万遍なく生体組織が入り込むことが可能である。
【0038】
[第2の実施の形態]
第3図(a)は第2の実施の形態に係るカフ部材付きカテーテルの斜視図であり、第3図(b)は第3図(a)のIIIB−IIIB線に沿う断面図である。
【0039】
この実施の形態のカフ部材1Aは、前述の第1の実施の形態のカフ部材1の外周面に、さらに周方向に延在する周方向溝5を設けた構成となっている。この実施の形態では、カフ部材1Aの筒軸心線方向に間隔をおいて2条の周方向溝5が設けられている。なお、周方向溝5は1条のみ設けられてもよく、3条以上設けられてもよい。各周方向溝5は、該カフ部材1Aの外周面を周回するように延設されている。
【0040】
第3図(b)の通り、この実施の形態では、周方向溝5は、カフ部材1Aの筒軸心線方向の断面の形状が、カフ部材1Aの外周側ほど幅が大きくなる略V字形状となっている。カフ部材1Aが周囲から圧迫されておらず、且つカフ部材1Aが湾曲していない第3図(a),(b)の状態においては、このV字の角度θは1〜60°特に5〜30°であることが好ましい。第3図(a),(b)の状態における各周方向溝5の入口側の幅(各周方向溝5の両側の壁面とカフ部材1Aの外周面との交差角縁同士の間隔)Pは、カフ部材1Aの筒軸心線方向の全長Lの5〜70%特に10〜50%であることが好ましい。第3図(a),(b)の状態における各周方向溝5の深さQは、カフ部材1Aの厚さ(各凹部3及び各周方向溝5を除いたカフ部材1Aの外周面と中心孔2の内周面との間隔)Tの5〜80%特に10〜50%であることが好ましい。周方向溝5を複数条設ける場合には、これらの周方向溝5同士の間隔は、カフ部材1Aの全長Lの1〜50%特に1〜30%であることが好ましい。
【0041】
このカフ部材1Aのその他の構成は、前述の第1,2図のカフ部材1と同様であり、第3図において第1,2図と同一符号は同一部分を示している。
【0042】
このカフ部材1Aにあっても、前述の第1の実施の形態のカフ部材1と同様の作用効果が奏される。即ち、このカフ部材1Aがカテーテル4に装着されて生体組織内に配置された場合には、このカフ部材1Aが周囲の生体組織から圧迫されても、このカフ部材1Aの内部の空孔が押し潰されにくい。また、このカフ部材1Aにあっては、外周面に周方向溝5が周設されているので、このカフ部材1Aがカテーテル4と共に湾曲した場合には、このカフ部材1Aは、蛇腹管の如く、該周方向溝5が周設されて細くなった部分が屈曲するようにして湾曲する。その際、この湾曲部における曲率半径方向の内周側において周方向溝5が狭くなっても、カフ部材1Aの該周方向溝5の両側部分同士が強く押し付けられることがない。これにより、カフ部材1Aの湾曲に伴って該カフ部材1A内の空孔が押し潰されることも防止される。これにより、カフ部材1Aが湾曲した形状で生体組織内に配置された状態であっても、カフ部材1Aの周囲の生体組織が十分にカフ部材1Aの内部の空孔内に入り込むことが可能であり、カテーテル4の周囲に生体組織を十分に密集させることが可能である。
【0043】
[カフ部材1,1Aを構成する多孔質材について]
カフ部材1,1Aを構成する多孔質材としては、コラーゲンを主材料としたものであってもよいが、連続気孔を有した多孔質合成樹脂が好適である。
【0044】
このカフ部材1,1Aを構成する多孔質材は、好ましくは、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性を有した、平均孔径が50〜1,000μm特に100〜650μm程度、乾燥状態における見掛け密度が0.01〜0.5g/cm特に0.01〜0.1g/cmの多孔性三次元網状構造を有する。
【0045】
この平均孔径及び見掛け密度の測定方法は次の通りである。
【0046】
[平均孔径の測定]
両刃カミソリで切断した試料の平面(切断面)を電子顕微鏡(トプコン社製、SM200)にて撮影した写真を使用し、同一平面上の個々の孔を三次元網状構造の骨格により包囲された図形として画像処理(画像処理装置はニレコ社のLUZEX APを使用し、画像取り込みCCDカメラはソニー株式会社のLE N50を使用。)し、個々の図形の面積を測定する。これを真円面積とし、対応する円の直径を求め孔径とする。ただし、多孔体形成時の相分離の効果によって多孔体の骨格部分に穿孔された微細孔を無視し、同一平面上の連通孔のみを測定する。
【0047】
[見掛け密度の測定]
多孔質構造体を約10mm×10mm×3mmの直方体に両刃カミソリで切断し、投影機(Nikon,V−12)にて測定して得た寸法より体積を求め、その重量を体積で除した値から見掛け密度を求める。
【0048】
このような多孔性三次元網状構造部を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにそれらの誘導体が例示される。これらは単独で用いられてもよく、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらのうち特にポリウレタン樹脂が好適であり、とりわけセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。
【0049】
セグメント化ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤の3成分から合成されたものであり、いわゆるハードセグメント部分とソフトセグメント部分を分子内に有するブロックポリマー構造によるエラストマー特性を有する。そのため、このセグメント化ポリウレタン樹脂を使用した場合に得られる弾性特性は、患者やカテーテル又はカニューレが動いた場合や、消毒作業時等に刺入部周辺の皮膚が動いた場合に皮下組織とカフ部材との界面に生じる応力を減衰させる効果が期待できる。
【0050】
以下に、カフ部材を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体の製造方法の一例を説明する。
【0051】
熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体を製造するには、まず、ポリウレタン樹脂と、孔形成剤としての後述の水溶性高分子化合物と、ポリウレタン樹脂の良溶媒である有機溶媒とを混合してポリマードープを製造する。具体的には、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、テトラヒドロフランなどがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解することができればこの限りではない。なお、有機溶媒を減量するか又は使用せずに熱の作用でポリウレタン樹脂を融解し、ここに孔形成剤を混合することも可能である。
【0052】
孔形成剤としての水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂と均質に分散してポリマードープを形成するものであればこの限りではない。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、水溶性高分子化合物でなく、フタル酸エステル、パラフィンなどの親油性化合物や塩化リチウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類を使用することも可能である。また、高分子用の結晶核剤などを利用して凝固時の二次粒子の生成、即ち、多孔体の骨格形成を助長することも可能である。
【0053】
次に、熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物などより製造されたポリマードープを、熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、該凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する。このようにして有機溶媒及び水溶性高分子化合物の一部又は全部を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。ここで用いる貧溶媒としては、水、低級アルコール、低炭素数のケトン類などが例示できる。ポリウレタン樹脂が凝固した後、多孔性三次元網状構造材料を水などで洗浄し、該多孔性三次元網状構造材料に残留している有機溶媒や孔形成剤を除去する。
【0054】
この多孔性三次元網状構造材料は、さらに、その網状構造を構築している骨格基材自体にも微細な孔が形成されていることが好ましい。特に、この多孔性三次元網状構造材料は、平均孔径が100〜650μmであり、且つ乾燥状態における見掛け密度が0.10g/cm以下の連通性の三次元網状構造を形成しており、なお且つ、その網状構造を構築している骨格基材自体が空隙率70%以上の多孔質体であり、且つ該骨格基材の表層は、微細孔が点在する緻密な層となっていることが好ましい。この微細孔は、骨格基材の表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とするため、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を高めることが可能である。ただし、この骨格基材自体の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造部の平均孔径の計算の概念には含まれない。
【0055】
このように、多孔性三次元網状構造材料の網状構造を構築する骨格基材自体が高空隙率の多孔質であり、且つ該骨格基材の表層は微細孔が点在する緻密な層となっており、この表層の微細孔を介して骨格基材内部の空孔が外部に連通していることにより、次のような効果が奏される。即ち、多孔性三次元網状構造材料の骨格基材が多孔質であるために、この骨格基材にコラーゲンなどの細胞外マトリックス、アルブミン、酸素、老廃物、水、電解質などが浸潤し、該骨格基材と生体組織との間でこれらの拡散・交換が行われる。これにより、この骨格基材を介して多孔性三次元網状構造材料全体に酸素や栄養分を補給することができる。なお、細胞の骨格基材内部への浸潤は、骨格基材表層の緻密層によってバリアされるため、骨格基材の内部には細胞成分は存在しない。これにより、骨格基材の内部が目詰まりすることが防止され、この骨格基材を介して多孔性三次元網状構造材料全体に酸素や栄養分を補給する機能が維持される。この結果、良好な組織の浸潤、生着、成熟、血管新生という生体埋入材料として有用な機能が発現される。
【0056】
ポリウレタン製多孔性三次元網状構造材料の骨格基材の空隙率を求めるには、まず、平均孔径の測定を前記の通り行う。即ち、多孔性三次元網状構造材料の切断面を撮影し、その写真において樹脂部分を白とし、空隙(空気部分)を黒として画像処理法により白部分の面積と黒部分の面積とを計算する。画像処理により得られた測定視野総面積と、空隙部分総面積と、JIS K7311によるポリウレタン樹脂の比重とより計算上の見掛け密度を求める。この見掛け密度は、一般に実測値よりも約10倍以上大きな値となる。この誤差は、多孔性三次元網状構造材料の骨格部分がポリウレタン樹脂からなる中実構造であると仮定したことにより生じる。そこで、計算上の見掛け密度Aと実測値の見掛け密度Bとを計算式(A−B)/A×100(%)に代入して計算することにより、多孔性三次元網状構造材料の骨格基材自体の空隙率を求めることが可能となる。計算上の見掛け密度が0.91g/cmであり、実測値の見掛け密度が0.077g/cmの場合、多孔性三次元網状構造材料の骨格基材は、空隙率91.5%の多孔質であると計算される。
【0057】
このポリウレタン製多孔性三次元網状構造材料では、骨格基材の表面に微細孔が存在しているが、これは細胞が浸潤し得るサイズではなく、あくまで細胞の生着の助けになる凹凸を形成する程度のものである。即ち、前述の通り、この微細孔により、骨格基材の表面が複雑な凹凸のある表面となるため、細胞の生着性が高いものとなる。ただし、この微細孔は、細胞が浸潤し得るサイズではないものの、栄養分や酸素、水などは浸潤しうるサイズであるため、この微細孔を介して骨格基材と生体組織との間で栄養分や酸素、水などの拡散・交換が行われる。即ち、この骨格基材を介して多孔性三次元網状構造材料全体に酸素や栄養分を補給することができる。
【0058】
上記の各実施の形態は、いずれも本発明の一例を示すものであり、本発明は上記の構成に限定されない。
【符号の説明】
【0059】
1,1A カフ部材
2 中心孔
3 凹部
4 カテーテル
5 周方向溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹腔内に差し込まれるカテーテルに対し外嵌される、多孔質材よりなる筒状のカフ部材において、
該カフ部材の外周面に、該外周面の周方向の少なくとも一部を部分的に凹嵌させた形状の凹部が設けられていることを特徴とするカフ部材。
【請求項2】
請求項1において、前記凹部は、前記カフ部材の筒軸心線方向と略平行方向に延在した溝よりなることを特徴とするカフ部材。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記凹部は、前記カフ部材の周方向に間隔をおいて複数個設けられていることを特徴とするカフ部材。
【請求項4】
請求項3において、前記凹部同士は、前記カフ部材の周方向に略等間隔にて配置されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記凹部は、前記カフ部材の筒軸心線方向と直交方向の断面における形状が、該カフ部材の外周側ほど幅が大きくなる略V字形状となっていることを特徴とするカフ部材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、さらに、該カフ部材の外周面に、該カフ部材の周方向に延在する周方向溝が設けられていることを特徴とするカフ部材。
【請求項7】
請求項6において、前記周方向溝は、該カフ部材の外周面を周回するように延設されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記多孔質材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、平均孔径が100〜650μmであり、乾燥状態における見掛け密度が0.01〜0.1g/cmである多孔性三次元網状構造を有することを特徴とするカフ部材。
【請求項9】
カテーテルと、該カテーテルに外嵌した請求項1ないし8のいずれか1項に記載のカフ部材とを備えてなるカフ部材付きカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−115271(P2011−115271A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273629(P2009−273629)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
【Fターム(参考)】