説明

カフ電極

【課題】神経を圧迫することなく、小型であっても簡便に埋入が可能で、外れにくいカフ電極を提供すること。
【解決手段】 略円筒形であって、軸に対して斜めであって貫通するスリット111を表面に設け、神経を円筒体101内に埋入可能にしたことを特徴とするカフ電極100。スリット111を山なりにすることにより舌片113を形成し、ここから神経を埋入させる様にすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カフ電極に関し、特に、神経を容易に抱え込むことが可能で抜けにくいカフ電極に関する。
【背景技術】
【0002】
カフ電極は動物実験における末梢神経の活動記録や電気刺激のためのチューブ状の埋め込み電極である。詳細にはシリコンなどの非導電性のチューブの内面に白金線などの金属線を這わせ、神経を抱くように包み込み、この金属線を神経に接触させて記録ないし刺激をおこなう。
【0003】
カフ電極は、チューブの軸に沿って表面に縦に切れ込みが入れられ、ここから神経を埋入し、ひも状の神経を抱かせる。
【0004】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
従来のカフ電極は、神経の飛び出しを防ぐため、切れ込みの幅を狭くしている。しかしながら、カフ電極はその構造上、相対的に肉厚のシリコンチューブをベースとすることが多く、圧迫に極めて弱い神経組織を幅の狭い切れ込みを介して押し込むのは、神経を痛める場合があるという問題点があった。
【0005】
一方、切れ込みの幅を広くすると、長期間の観測や、体位を変化させる場合など、切れ込みから神経が飛び出すという問題点もあった。
【0006】
また、幅の広い切れ込みをいれて、神経を埋入後、切れ込みを糸で縫合する方式のものがあるが、マウスやラットなどの小型動物では神経も細く、顕微鏡下での作業となる場合もあり、必ずしも簡便な装着とならないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−521861
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】内野 善生ら「ネコの手術・実験法」日生誌 Vol.63, No.10 2001 pp271-316
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、神経を圧迫することなく小型であっても簡便に埋入が可能で、外れにくいカフ電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載のカフ電極は、略円筒形であって、軸に対して斜めに形成されたスリットを表面に設け、神経を円筒内に埋入可能にしたことを特徴とする。
【0011】
すなわち、請求項1にかかる発明は、神経が径方向(軸に対して外側)に移動しようとしても、事実上円筒内面が邪魔をする結果、スリット幅を相対的に広くでき、神経を圧迫することなく簡便に埋入が可能で、外れにくいカフ電極を提供することができる。
【0012】
なお、円筒形状は、対象となる神経の太さに応じて種々変更することが可能である。また、素材はたとえば円筒部分はシリコン、電極部分は白金とすることができるがこれに限定されない。また、スリット幅は、埋入作業の際、神経を圧迫しすぎない太さ、例えば神経程度の太さとすることができる。スリットを斜めにするのは一部であっても良く、一端から他端まで斜めとしても良い。なお、周面上に斜めに一直線のスリットである場合は、スリットは、螺旋を描くこととなる。
【0013】
請求項2に記載のカフ電極は、請求項1に記載のカフ電極において、スリットが、山なりの曲線を描き、少なくとも一つの舌片を形成したことを特徴とする。
【0014】
すなわち、請求項2にかかる発明は、神経の飛び出しを効果的に抑制可能となる。また、舌片により神経を引っかけるようにして簡便に埋入することも可能となる。なお、山なりの曲線とは、一山に限定されず、S字であっても、V字、W字であっても良い。従って、舌片の形状は半円形に限定されず、山形の他、台形であっても良い。
【0015】
請求項3に記載のカフ電極は、請求項2に記載のカフ電極において、一つの舌片が形成され、電極用導線が舌片の延伸方向の円筒周面から延設されていることを特徴とする。
【0016】
すなわち、請求項3にかかる発明は、導線部分をつまんでカフ電極を保持しやすくなり、舌片やスリット間隙を介して神経を簡便に円筒内に埋入可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、神経を圧迫することなく小型であっても簡便に埋入が可能で、外れにくいカフ電極を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のカフ電極の一実施の形態を示した概要図である。
【図2】カフ電極の円筒体の他の構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明のカフ電極の一実施の形態を示した概要図である。図示したように、カフ電極100は、略円筒形の円筒体101と、電極102とを有する。
【0020】
図示したように、円筒体101は、スリット111が設けられ、神経を円筒体101内部に導入できるようになっている。スリット111は、左右の端部112から筒長さの約1/3まで円筒軸に平行な切れ込みであり、そこから円筒軸に斜めに滑らかかつ対称にせり上がり山なりとなった切れ込みとしている。これにより円筒体101には、舌片113が形成されることとなる。
【0021】
円筒体101の素材は、特に限定されないが、シリコン素材であれば柔軟であり埋入作業も容易となり、長期間体内に埋め込む場合であっても、異物反応が出にくく好適である。
【0022】
円筒体101の大きさは、特に限定されないが、例えば、内径を0.5mm〜2mm、外形を0.8mm〜3.0mm、筒長さを、4mm〜15mmとすることができる。
【0023】
電極102は、円筒体101内周面に露出させる様に配置し(図示せず)、円筒体101外部に延伸し導線121と接合させる。なお、導線121を含み、円筒体101外部の金属部分は適宜被膜するものとする。また、導線121は、スリット111をはさんで舌片113と対向する円筒体101部分から外部に延伸させるようにする。すなわち、舌片113の延伸方向の円筒側周から延設させるようにする。これにより保持性が高まり、神経を簡便に挿入させることができる。なお、使用の態様により、舌片113から導線121を延伸させるようにしてもよい。
【0024】
電極102の素材は、白金、銀、金、銅、ニクロム線などを用いることができ、体液等との反応性が低いものが好ましく、白金が使用実績もあり好適である。なお、導線121は電極102と同素材としてもよい。なお、本実施の形態では、電極102および導線121は一対としているが、必要に応じて適宜数を調整することもできる。二本であれば記録と刺激が可能であり、4〜5本であれば、刺激と記録を同時におこなうことができる。
【0025】
神経組織を円筒体101に埋入し抱持させる場合には、まず、対象となる神経にカフ電極100を沿わせ、次に、導線121を持ち、場合によっては、ピンセット等を用い、カフ電極100の姿勢を制御しながらスリット111の端部から神経を掛けるようにして順次スリット111に沿って埋入を完了する。相対的に肉厚のシリコン素材である場合には舌片113をめくりあげることはできないが、柔軟な素材の場合には、舌片を持ち上げて神経を埋入することもできる。
【0026】
以上説明したように、舌片113を介し神経を容易にカフ電極100内部に抱え込ませることができる。反対に、舌片113が邪魔をするため、神経が外部に飛び出してしまう(カフ電極100が神経から外れてしまう)ことが防止される。
【0027】
なお、スリット111の形状は図1に示したものに限定されない。図2は、円筒体101の他の形態を示した概要図である。図2(a)は、S字スリット、図2(b)は、波形スリット、図2(c)は、V字スリット、図2(d)は、ジグザグスリット、図2(e)は、矩形スリットを示している。神経は直線状であるので円筒軸に斜めなスリットとすれば、容易な埋入を実現しつつ、外れにくいカフ電極の提供が可能となる。特に、図2(f)に示したように、舌片を延伸方向に広がる形状とすれば、さらに神経が外れにくくなる。また、図2(g)に示したように、スリットを直線状にして円筒面上で周回させる螺旋形状とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
カフ電極を用いることにより、電気刺激だけでなく、治療研究の基礎とすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
100 カフ電極
101 円筒体
102 電極
111 スリット
112 端部
113 舌片
121 導線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形であって、軸に対して斜めに形成されたスリットを表面に設け、神経を円筒内に埋入可能にしたことを特徴とするカフ電極。
【請求項2】
スリットは、山なりの曲線を描き、少なくとも一つの舌片を形成したことを特徴とする請求項1に記載のカフ電極。
【請求項3】
一つの舌片が形成され、電極用導線が舌片の延伸方向の円筒周面から延設されていることを特徴とする請求項2に記載のカフ電極。


【図1】
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【図2】
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