説明

カブレ性を低減又は消失させたカシューナッツ殻液と、カシューナッツ殻液のカブレ性の低減又は消失方法。

【課題】 生理活性や抗菌性などを消失することなく、カシューナッツ殻液によるカブレ性を低減又は消失させる。
【解決手段】 カシューナッツ殻液に、腑形剤と多孔質の粉末とのうちの少なくとも一方を添加してカシューナッツ殻液を固形化する。カシューナッツ殻液は、アナカルド酸、カルダノール、カルドールおよび2−メチルカルドールの4種類の内、少なくとも1種類以上を含有して固形化し、人体の皮膚に接触してもカシュー成分の浸透が減少し、カブレ性を低減し、もしくは消失させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カブレ性を低減又は消失させることによって、安全に利用可能としたカシューナッツ殻液と、カシューナッツ殻液のカブレ性の低減又は消失方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カシュー殻液は多様な生理活性や抗菌性が見出されている物質であり、医療分野、化粧品分野や飼料分野での利用が期待されている。カシューナッツ殻液は、インド、ベトナム、ブラジル等の熱帯地域で収穫されるカシューナッツの副生物として得られるカシューナッツの殻から採取される。カシューナッツ殻液の成分は、アナカルド酸やカルダノール、カードル、2−メチルカルドールである。アナカルド酸は、多様な生理活性や抗菌性を持つため、医療分野を始め各種分野などで需要が高まりつつある。またカシューナッツ殻液を熱処理したものはカルダノールを多量に含み、自動車や鉄道車両のブレーキ用摩擦調整材、塗料などの原材料として使用されている。
【0003】
ところで、カシューナッツ殻液は、その液中に含まれる成分によって、液が人体の皮膚と接触するとカブレを引き起こすという問題がある。例えばカシューナッツ殻液を含む飼料を家畜に与えるときに、作業者がカブレの危険性にさらされることになる。このような理由からカシュー殻液を有効活用する上の大きな制約となっている。
【0004】
一方、カシューナッツ殻液の成分の中でも特にカブレ性の強いカルドール類を除去すればカブレ性を低減することができる。カルドール類は、溶剤抽出や、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂を用いて除去することができる。しかしこれらの方法では、カシューナッツ殻液の処理量に限界があり大量処理は困難であること、多量の溶剤を用いるため環境負荷が大きく、また溶剤の除去に大きなエネルギーが必要である。また、カシューナッツ殻液成分のフェノール性水酸基を誘導体化することによってカブレ性を低減することも可能であるが、その誘導体化処理にはコストがかかるという問題がある。
【0005】
ところで、カブレ性が問題となる漆に関しては、漆が日本の伝統産業である漆器・漆工芸品に用いられることから、漆カブレを防止する方法について研究されており、漆にタンパク質およびアミノ酸を含むタンパク質加水分解物からなるタンパク質関連物質の少なくとも1種以上を添加する方法などが提案されているが、カシューナッツ殻液のカブレ防止に関してはあまり注目されていないのが実情である。
【特許文献1】特開平11−116896
【特許文献2】特許第3208108号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はカシューナッツ殻液を利用する際に、問題となるカブレ性を低減又は消失する方法として、溶剤抽出や、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂を用いてカブレ性の強いカルドール類を除去する方法によるときには、大量処理が困難であり、環境負荷が大きく、処理に大きなエネルギーを必要とする点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カシューナッツ殻液に腑形剤および/または多孔質粉末を添加混合し固形化することで大量処理を可能とし、環境負荷がなく、処理に大きなエネルギーを必要とせずに皮膚へのカシュー成分の浸透を減少もしくは除去したことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カシューナッツ殻液に腑形剤および/または多孔質粉末を添加混合し固形化するだけであるため、カシューナッツ殻液が有する生理活性や抗菌性などを消失することがなく、カシューナッツ殻液を利用するさいにカブレの問題が低減され、例えばカシューナッツ殻液を含む飼料を家畜に与えるときにおいては、作業者が飼料に触れてもカブレることがないために、飼料分野で大いに活用できるだけでなく、作業者がカブレの危険性から開放されることから、飼料分野での利用に限らず、カシューナッツ殻液を医療分野、化粧品分野を始め、各種の技術分野で有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を述べるに先立って、カブレについてその機構を説明する。カシューナッツ殻液によるカブレは、アレルギー性の接触性皮膚炎である。アレルギーは免疫反応の作用機序からI型からIV型に分類され、カシューナッツ殻液によるカブレはIV型に分類される。IV型は細胞性免疫が関係するアレルギー反応で、表皮中のランゲルハンス細胞が異物を認識し、この物質と結合し自身がリンパ管に移動することにより免疫機構が始動する形態をとる。
【0010】
カシュー殻液成分によるカブレは、ランゲルハンス細胞がカシュー成分を異物(アレルゲン)と認識し、カシューナッツ殻液成分とランゲルハンス細胞が結合しリンパ内に移動することにより引き起こされる。したがって、カシューナッツ殻液成分の皮膚内への浸透を防ぎ、ランゲルハンス細胞との結合を阻害できれば、カブレを防ぐことが可能である。
【0011】
本発明は、カシューナッツ殻液を固形化し、表皮中に浸透しにくい形状にすることによりカブレの発生を回避するものである。カシューナッツ殻液は、粉体と混ぜ合わすことによって容易に固形化することができる。固形化するための好適な粉体として腑形剤、多孔質材がある。腑形剤としては、乳糖、セルロース類、小麦粉、コーンスターチ、ふすま、糠等が挙げられる。多孔質材としては、ゼオライト、シリカゲル、珪藻土、炭などが挙げられる。腑形剤、多孔質材は、それぞれ単独でカシューナッツ殻液に混ぜ合わせても、あるいは、両者を併用してもよい。本発明は、腑形剤または前記多孔質の粉末のうちの少なくとも1種類を任意に選定してこれをカシューナッツ殻液に選択的に添加混合して固形化するものである。
【0012】
腑形剤および/または多孔質材の配合量は、カシューナッツ殻液100重量部に対して30〜1000重量部であり、好ましくは50〜800重量部である。配合量が30重量部より少ないと液状のものが残存し、カシューナッツ殻液成分の皮膚内への浸透を防ぎきれずにカブレが発生する恐れがある。
【0013】
本発明に用いるカシューナッツ殻液について説明する。
カシューは、天然に存在する熱帯性植物であり、その実であるカシューナッツには、蛋白質と糖質などが含まれており、ミックスナッツなどのスナック用や料理用に食用としている。カシューは、再生可能な資源である。
【0014】
本発明に用いるカシューナッツ殻液は、食用として使用されているカシューナッツを採取する際、副生物として得られるカシューナッツの殻に含まれる油状の液体である。カシューナッツ殻液には、アナカルド酸、カルドール、2−メチルカルドール、カルダノールなどが含まれている。これらの成分は皮膚と接触するとカブレを生じる物質である。これらの成分の含有量はカシューナッツの産地により若干の差があるが、アナカルド酸約75重量%、カルドール約20重量%、2−メチルカルドールおよびカルダノールを約5重量%含有している。
【0015】
カシューナッツ殻液には、アナカルド酸を主成分とするカシューナッツ殻液と、熱処理を行なうことによりアナカルド酸が脱炭酸しカルダノールと変化したことによりカルダノールを主成分とするカシューナッツ殻液の2種類が存在する。
【0016】
アナカルド酸は、カシューナッツ殻液の成分のなかでも強い生理活性や抗菌性を持つことが知られている。ただしアナカルド酸は熱に対して不安定な物質であるため、アナカルド酸を主成分とした熱処理前のカシューナッツ殻液を用いるには、カシューナッツ殻液に1種類以上のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を添加して反応させ、アナカルド酸を安定したアナカルド酸金属塩に改質する。
【0017】
本発明に使用するカシューナッツ殻液としては、アナカルド酸を主成分としたカシューナッツ殻液、アナカルド酸をアナカルド酸金属塩として安定化させたカシューナッツ殻液や熱処理したカシューナッツ殻液が挙げられる。
【0018】
(1)実験の概要
以下に本発明の実験例を説明する。カシューナッツ殻液を実験例1,2の処理を行って粉末状の試料に加工し、以下に示す接触試験(以下パッチテストという)を行った。比較のため、比較例1,2の処理によって得られたカシューナッツ殻液を用いて同様にパッチテストを行った。
【0019】
(実験例1)磁性乳鉢にカシューナッツ殻液100gを仕込みラボミルにセットしたあと、ゼオライト粉末500gを5回に分けて添加した。その後、粉末状になるまで室温で約1時間攪拌を継続し生成物を得た。
【0020】
(実験例2)ベトナム産ローカシューナッツの実と殻とを分離し、殻を圧搾機で搾り、アナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を抽出した。磁性乳鉢にアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液100gを入れた後、水酸化カルシウム10gと蒸留水10gを仕込みラボミルにセットし、室温で約1時間攪拌混合して、アナカルド酸カルシウムを含有するカシューナッツ殻液を得た。その後、ゼオライト粉末300gを3回に分けて添加した。その後、粉末状になるまで室温で約1時間攪拌を継続し生成物を得た。
【0021】
(比較例1)ベトナム産ローカシューナッツの実と殻を分離し、殻を圧搾機で搾りアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を抽出した。
(比較例2)比較例1のアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を脱炭酸のため180℃で1時間処理し、アナカルド酸を含まないカシューナッツ殻液を得た。
【0022】
(2)パッチテストの要領
通常、カシューナッツ殻液によるカブレは、カシューナッツ殻液に接触した後、数時間から遅くとも24時間以内に人体に赤斑や水泡、潰瘍となって現われ、接触部位やその周辺だけでなく、場合によっては全身に発症することもある。これは、個人差・個体の体調の違いによっても発症の程度に差があって、全くカブレない者もいる。そこで、実際の試験では最長148時間(1週間)行なって治癒効果も確認したが、以下の実施例では24時間後の発症状態の結果のみを記載する。
【0023】
カシューナッツ殻液のパッチテストは、人体の上腕若しくは前腕の内側の皮膚に直接カシューナッツ殻液を直径5mm程度の大きさに3分間静置した後、布で拭き取り、エチルアルコールで更に拭き取ったのち、石ケン水で洗浄した。
【0024】
(3)カブレ発症状態の判定方法
カブレ発症状態の判定は24時間後に次の基準に従って目視で判定した。発症なしを0、赤斑の軽度を1、やや軽度を2、やや重症を3、重症を4、水泡の軽度を5、重症を6、潰瘍を7として判断し記録した。被験者はアルファベットで区別した。
【0025】
(4)パッチテストの結果
パッチテストの結果を表1に示す。
【表1】

【0026】
以上表1に明らかなように、実験例1によれば、試料1のように全員が赤斑の軽度1以下に抑えられた。また、実験例2では、被験者A、Dにやや軽度の発症が見られたが、被験者Bにはいずれの実験例のものでも全く発症は見られなかった。これに対して比較例では、全員が発症し、特に被験者Dは、比較例1に対して重症の反応を示し、比較例2に対してはやや重症の反応を示した。
【0027】
この実験例では、被験者Bがカシューナッツ殻液に対する耐性が最も高く、被験者Dが最も低いと判断されるが、いずれの被験者に対してもカシューナッツ殻液を固形化することでカブレ性を低減又は消失できることが明らかになった。以上、実験にはゼオライト粉末を用いたが、ゼオライト粉末に限らず、シリカゲル、珪藻土、炭などの多孔質材であっても、さらには乳糖、セルロース類、小麦粉、コーンスターチ、ふすま、糠等の腑形剤であっても同様の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
作業者がカブレの危険性から開放されることから、飼料分野での利用に限らず今後、医療分野、化粧品分野を始め、各種の技術分野で有効利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カシューナッツ殻液に、腑形剤と多孔質の粉末とのうちの少なくとも一方を添加してカシューナッツ殻液を固形化したことを特徴とするカブレ性を低減又は消失させたカシューナッツ殻液。
【請求項2】
前記カシューナッツ殻液は、アナカルド酸、カルダノール、カルドールおよび2−メチルカルドールの4種類の内、少なくとも1種類以上を含有して固形化されたものであることを特徴とする請求項1に記載のカブレ性を低減又は消失させたカシューナッツ殻液。
【請求項3】
前記カシューナッツ殻液は、アナカルド酸を含有し、1種類以上のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩と反応してアナカルド酸は、選択的にアナカルド酸金属塩に改質されていることを特徴とする請求項1に記載のカブレ性を低減又は消失させたカシューナッツ殻液。
【請求項4】
前記腑形剤は、乳糖、セルロース、コーンスターチ、小麦粉、ふすま、糠であり、前記多孔質の粉末は、炭、珪藻土、ゼオライトおよびシリカゲルであり、
前記腑形剤または前記多孔質の粉末のうちの少なくとも1種類を任意に選定してカシューナッツ殻液に選択的に添加されていることを特徴とする請求項1、2又は3のいずれかに記載のカブレ性を低減又は消失させたカシューナッツ殻液。
【請求項5】
前記カシューナッツ殻液に混合する前記腑形剤および/または多孔質材の配合量は、カシューナッツ殻液100重量部に対して30〜1000重量部、好ましくは50〜800重量部であることを特徴とする請求項1、2,3又は4のいずれかに記載のカブレ性を低減又は消失させたカシューナッツ殻液。
【請求項6】
カシューナッツ殻液に、腑形剤と多孔質の粉末とのうちの少なくとも一方を添加混合し固形化することを特徴とするカシューナッツ殻液のカブレ性の低減又は消失方法。

【公開番号】特開2010−59070(P2010−59070A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224633(P2008−224633)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000221959)東北化工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】