カプサイシン測定装置及びカプサイシン測定方法
【課題】果実に含まれるカプサイシン又はその前駆物質であるバニリルアミンの含有量及び含有位置を特定できるようにする。
【解決手段】果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンを測定するものであり、果実Wの切断面に紫外線波長域の励起光L1を照射する励起光照射部2と、励起光L1が照射された切断面から生じる蛍光L2の強度を検出する蛍光強度検出部3と、励起光L1が照射された切断面から生じる蛍光L2を受光して蛍光画像を撮像する蛍光画像撮像部4とを備えている。
【解決手段】果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンを測定するものであり、果実Wの切断面に紫外線波長域の励起光L1を照射する励起光照射部2と、励起光L1が照射された切断面から生じる蛍光L2の強度を検出する蛍光強度検出部3と、励起光L1が照射された切断面から生じる蛍光L2を受光して蛍光画像を撮像する蛍光画像撮像部4とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウガラシン等の果実に含まれる辛味成分であるカプサイシン又はこのカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トウガラシの辛味成分であるカプサイシンの含有量を測定する方法としては、特許文献1や2に示すように、例えばアセトン等の抽出溶媒を用いてトウガラシからカプサイシンを抽出した後、高速液体クロマトグラフを用いて定量することが行われている。
【0003】
しかしながら、トウガラシからカプサイシンを抽出する作業に時間がかかるだけでなく、その抽出作業が煩雑であるという問題がある。また、高速液体クロマトグラフを用いた定量では、その定量時間がかかる上に、抽出溶媒中にカプサイシンが数μg程度含有されていないと感度が悪く、正確な定量を行うことが難しいという問題もある。さらに溶媒抽出法を用いて得られたカプサイシンを高速液体クロマトグラフを用いて定量する方法では、トウガラシにおけるカプサイシン及びその前駆物質であるバニリルアミンの含まれる位置を特定することができないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−66227号公報
【特許文献2】特開2008−19191号公報
【0005】
【非特許文献1】岩井和夫・渡辺達夫編、「トウガラシ−辛味の科学」、改訂増補、株式会社幸書房、2008年10月10日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、溶媒抽出法を用いることなく非破壊的に且つ短時間で、果実に含まれるカプサイシン又はその前駆物質であるバニリルアミンの含有量及び含有位置を特定できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る果実成分測定装置は、果実に含まれるカプサイシン又はカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定するものであって、前記果実の切断面に紫外線波長域の励起光を照射する励起光照射部と、前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度を検出する蛍光強度検出部と、前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光を受光して蛍光画像を撮像する蛍光画像撮像部とを備えることを特徴とする。ここでカプサイシンとは、カプサイシン類を示しており、カプサイシン及びその同族体であって、カプサイシノイドと総称される一群の化合物である。カプサイシノイドとしては、主として、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシンが挙げられる。
【0008】
このようなものであれば、カプサイシン又はバニリルアミンに紫外線領域の励起光を照射することで蛍光を発することを利用して、その蛍光を蛍光強度検出部によって強度を検出することができる。これにより、果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量を正確に測定することができる。また、蛍光画像撮像部によって、果実の切断面における蛍光を発する部位を撮像することができるので、果実の切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有位置を特定することができる。以上から、果実の切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量及びその含有位置を非破壊的に且つ短時間で測定することができる。
【0009】
カプサイシン又はバニリルアミンからの蛍光を強く発するようにするとともに、その蛍光を感度良く検出するためには、前記励起光照射部が、240nm〜280nmの励起光を射出するものであり、前記蛍光強度検出部が、300nm〜400nmの蛍光の強度を検出するものであり、前記蛍光画像撮像部が、300nm〜400nmの蛍光を受光して蛍光画像を撮像するものであることが望ましい。
【0010】
前記励起光照射部がYAGレーザの高調波を用いて紫外線波長域の励起光を照射するものであることが望ましい。これならば、励起光照射部を安価に構成することができる。
【0011】
果実のカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を自動的且つ正確に算出するためには、前記蛍光強度検出部により得られた蛍光強度と、予め標準試料を用いて得られた標準蛍光強度とを比較して、前記果実のカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を算出する演算装置を備えることが望ましい。
【0012】
果実のカプサイシン又はバニリルアミンが酸化して時間変化することに着目して、果実に含まれるカプサイシン初期含有量又はバニリルアミン初期含有量を自動的に算出できるようにするためには、前記演算装置が、前記蛍光強度検出部により得られた蛍光強度の経時変化から、前記果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの初期含有量を算出することが望ましい。
【0013】
励起光照射部の具体的な実施の態様としては、前記励起光照射部が、240nm〜280nmの範囲で波長を変更可能な波長可変紫外光源を有するもの、又は、245nmより短波長の紫外光源と250nm〜280nmの紫外光源とを有するものであることが考えられる。この場合、以下により照射する励起光の波長の違いによって、カプサイシン又はバニリルアミンの含有位置及び含有量を好適に判定することができる。
【0014】
つまり、前記演算装置が、前記励起光照射部によって250nm〜280nmの励起光を照射した場合に、前記蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び前記蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から蛍光強度の大きな部位を選択し、前記励起光照射部の245nmより短波長の励起光を前記選択部位に限定して照射した場合に、前記蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び前記蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から得られる蛍光強度が、前記励起光照射部によって250nm〜280nmの励起光で照射した場合に得られる蛍光強度の1/4以下、又は波長範囲300nm〜400nmで極大値を有しない場合に、前記選択部位にカプサイシン又はバニリルアミンが多く含まれると判断してそれらの含有量を算出するものである。なお、蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から蛍光強度の大きな部位を選択する方法としては、得られた蛍光画像強度分布全体に対して相対的に大きな部位を選択する他、予め閾値を設定しておき、この閾値よりも大きな部位を選択することが考えられる。
【0015】
また本発明に係る果実成分測定方法は、果実に含まれるカプサイシン又はカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定する方法であって、前記果実の切断面に紫外線波長域の励起光を照射し、前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度を蛍光強度検出部により検出してカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を測定し、前記励起光が照射された切断面を蛍光画像撮像部により蛍光画像を撮像して、カプサイシン含有位置又はバニリルアミン含有位置を特定することを特徴とする。
【0016】
このようなものであれば、カプサイシン又はバニリルアミンに紫外線領域の励起光を照射することで蛍光を発することを利用して、カプサイシン又はバニリルアミンの含有量を測定することができる。また、蛍光画像撮像部によって、果実の切断面における蛍光を発する部位を撮像することができるので、果実の切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有位置を特定することができる。以上から、果実の切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量及びその含有位置を非破壊的に且つ短時間で測定することができる。
【0017】
果実を冷凍することで、果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量が変化しないことから、冷凍した果実の切断面に紫外線波長の励起光を照射することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、溶媒抽出法を用いることなく非破壊的に且つ短時間で、果実に含まれるカプサイシン又はその前駆物質であるバニリルアミンの含有量及び含有位置を特定できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態における果実成分測定装置の模式的全体構成図。
【図2】カプサイシンの蛍光スペクトルを示す図。
【図3】トウガラシに励起光を照射して得られた蛍光スペクトルの経時変化を示す図。
【図4】ピーマンに励起光を照射して得られた蛍光スペクトルの経時変化を示す図。
【図5】トウガラシ及びピーマンの蛍光強度の経時変化を示す図。
【図6】トウガラシ及びピーマンの蛍光強度(0分経過(測定開始時)に対する相対値)の経時変化を示す図。
【図7】トウガラシの切断面の通常の画像及び蛍光画像を示す図。
【図8】ピーマンの切断面の通常の画像及び蛍光画像を示す図。
【図9】波長可変レーザを用いた果実成分測定装置の模式的全体構成図。
【図10】励起光として213nm、245nm、250nmをトウガラシと緑ピーマンの胎座部分に照射した場合の蛍光スペクトル。
【図11】励起光として255nm、260nm、265nmをトウガラシと緑ピーマンの胎座部分に照射した場合の蛍光スペクトル。
【図12】励起光として270nm、275nm、280nmをトウガラシと緑ピーマンの胎座部分に照射した場合の蛍光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明に係る果実成分測定装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態にかかる果実成分測定装置100は、例えばトウガラシ等の果実Wの切断面に励起光である紫外光を照射することによって、トウガラシWに含まれるカプサイシン又はこのカプサイシンの前駆物質(前駆物質)であるバニリルアミンの含有量及び含有位置を測定するものである。
【0022】
具体的にこのものは、図1に示すように、トウガラシWの切断面に紫外線波長域の励起光L1を照射する励起光照射部2と、前記励起光L1が照射された切断面から生じる蛍光L2の強度を検出する蛍光強度検出部3と、前記励起光L1が照射された切断面から生じる蛍光L2を受光して蛍光画像を撮像する蛍光画像撮像部4とを備えている。
【0023】
励起光照射部2は、紫外線波長域の光を照射するレーザ光源部21と、このレーザ光源部21から出るレーザ光を所定の照射径を有する光に拡大するレーザビーム拡大光学系22とを有する。本実施形態のレーザ光源部21は、波長240nm〜280nmの励起光L1を射出するものである。具体的にレーザ光源部21は、YAGレーザ(1064nm)211と、このYAGレーザ211から出たレーザ光から第4高調波を発生させる第4高調波発生器212と、第4高調波発生器212から出た光のうち266nmの光を透過させる波長選択フィルタ213とを有している。レーザビーム拡大光学系22は、レーザビーム径をトウガラシWの切断面を含む範囲の照射径を有する光束に拡大するものあり、本実施形態では凹面レンズを用いて構成している。これにより、レーザ光を走査することなく、一度にトウガラシWの切断面全体に励起光L1を照射できるように構成している。
【0024】
蛍光強度検出部3は、波長240nm〜280nm(具体的には266nm)の励起光L1が照射されたトウガラシWの切断面から出る波長300nm〜400nmの蛍光L2の強度を検出するものである。具体的に蛍光強度検出部3は、励起光L1をカットする励起光カットフィルタ31と、この励起光カットフィルタ31を透過した蛍光L2を光ファイバ32を介して受光して分光するとともに、分光された各波長の光を検出するマルチチャンネル分光器33とを有する。
【0025】
蛍光画像撮像部4は、波長240nm〜280nm(具体的には266nm)の励起光L1が照射されたトウガラシWの切断面から出る波長300nm〜400nmの蛍光L2を受光して、トウガラシWの切断面の蛍光画像を撮像するものである。具体的に蛍光画像撮像部4は、波長300nm400nmの蛍光L2のみを透過する蛍光透過フィルタ41と、励起光L1をカットする励起光カットフィルタ42と、これら光学フィルタ41、42を介してトウガラシWの切断面を撮像する紫外用CCDカメラ43と、CCDカメラ43により得られた蛍光画像のコントラストを調整するCCD制御回路44と、CCD制御回路44によりコントラストが調整された蛍光画像を表示する表示装置45とを有する。
【0026】
演算装置5は、前記マルチチャンネル分光器33により得られた蛍光強度信号を受け付けて、蛍光スペクトルを算出すると共に、その蛍光スペクトルのピーク波長である330nmでの信号強度を算出する。そして、演算装置5は、その蛍光スペクトルにおける330nmの信号強度と、予め標準試料を用いて得られた標準蛍光強度(波長330nmでの蛍光強度)とを比較して、トウガラシWの切断面に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量を算出する。そして演算装置5は、その演算値(含有量)をディスプレイ上に表示する。
【0027】
また演算装置5は、前記紫外用CCDカメラ43により得られた蛍光画像データを表示装置45から取得して、マルチチャンネル分光器33により得られた蛍光強度信号(及びこれにより得られた演算値を含む。)と関連付けてメモリに格納する。なお、演算装置5のディスプレイ上に前記演算値(含有量)と蛍光画像を同一画面上に表示するもでき、これによりユーザに対してカプサイシンの含有量及び含有位置を同時に認識させることもできる。
【0028】
さらに演算装置5は、蛍光強度検出部3のマルチチャンネル分光器33により得られた波長330nmの蛍光強度の経時変化から、トウガラシWに含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの初期含有量を算出することもできる。トウガラシWに含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量は酸化により時々刻々と減少することから、単純に蛍光強度検出部3により得られた蛍光強度から所期含有量を算出することができないが、その蛍光強度の経時変化を見ることでトウガラシWを切断した時点の含有量である初期含有量を推定することができる。
【0029】
次にこのように構成した果実成分測定装置100を用いてトウガラシの切断面に含まれるカプサイシン及びピーマンの切断面に含まれるバニリルアミンを測定した場合の実験例について説明する。図2は、トウガラシの切断面に波長266nmの励起光L1を照射した場合に得られた蛍光強度の蛍光スペクトルを示す図である。この図2から分かるように、トウガラシに含有されるカプサイシンとバニリルアミンとは同一波長(波長330nm)においてピークを示しており、分離して認識することができない。
【0030】
また、図3は、トウガラシの切断面に波長266nmの励起光L1を照射した場合に得られた蛍光スペクトルの経時変化を示す図である。図4は、ピーマンの切断面に波長266nmの励起光L1を照射した場合に得られた蛍光スペクトルの経時変化を示す図である。図5は、トウガラシ及びピーマンの蛍光スペクトルにおけるピーク波長の蛍光強度の時間変化を示す図である。図6は、トウガラシ及びピーマンの蛍光スペクトルにおけるピーク波長の蛍光強度(相対値)の時間変化を示す図である。これらの図3〜図6に示されるように、トウガラシに含まれるカプサイシンは最初の2分で活性酵素が付加して著しく減少していくことが分かり、ピーマンに含まれるバニリルアミンは2分経過後において一度増えたのちに減少していることが分かる。このように2分経過毎の蛍光強度の変化量を見ることで、果実に抗酸化物質が含まれるか否かを判断することができる。
【0031】
さらに図7は、トウガラシの切断面における通常の画像と励起光L1(波長266nm)を照射した場合の蛍光画像とを示す図である。この図7から分かるように、トウガラシの胎座部が白く現れており、トウガラシのカプサイシンが胎座部に含まれることが示されている。また、図8は、ピーマン(緑、赤)の切断面における通常の画像と励起光L1(波長266nm)を照射した場合の蛍光画像とを示す図である。この図8から分かるように、ピーマンの胎座部が白く現れており、ピーマンのバニリルアミンが胎座部に含まれることが示されている。
【0032】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る果実成分測定装置100によれば、カプサイシン又はバニリルアミンに紫外線領域の励起光L1を照射することで蛍光L2を発することを利用して、その蛍光L2を蛍光強度検出部3によって強度を検出することができる。これにより、トウガラシWに含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量を正確に測定することができる。また、蛍光画像撮像部4によって、トウガラシの切断面における蛍光L2を発する部位を撮像することができるので、トウガラシの切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有位置を特定することができる。以上から、トウガラシの切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量及びその含有位置を非破壊的に且つ短時間で測定することができる。
【0033】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0034】
例えば、前記実施形態の励起光照射部は、レーザ光源部を用いたものであったが、その他水銀ランプを用いても良い。またレーザ光源部としてはYAGレーザの他のレーザ光源(波長可変レーザを含む。)を用いても良い。
【0035】
また、レーザ光源部として波長可変のコヒーレント光源を用いた場合、例えば図9に示すような構成が考えられる。つまり、図9に示すように、励起光照射部を光パラメトリック発振器のような波長可変のコヒーレント光源を用い、その第2高調波を発生させて波長可変の紫外光源を使用しても良い。
【0036】
この光パラメトリック発振器から490nmから560nmの波長の光線を10nm間隔で出力させ、第2高調波発生器を用いて245nmから280nmの紫外光を5nm間隔で発生させ、これを励起光としてトウガラシと緑ピーマンの胎座部のみに照射し、蛍光をマルチチャンネル分光器で計測した。図10〜図12はその結果で245nmから280nmまでの波長とNd:YAGレーザ(波長1064nm)の第5高調波213nmの波長の蛍光スペクトルを示した。
【0037】
励起光が250nmから280nmの範囲ではトウガラシ、緑ピーマンとも300nm〜400nmの範囲での蛍光スペクトルは極大値をもっている。しかし245nmでは強度が小さくなるものの緑ピーマンでは極大値がありトウガラシには極大値は認められない。さらに213nmになると400nmから500nmの範囲には極大値があるが、これらはカプサイシノイドとは関係のない蛍光とみられ、300nmから400nmの範囲ではトウガラシにも緑ピーマンもともに蛍光の強度が弱く極大値もみられない。
【0038】
これらの結果から、まず250nmから280nmのある波長で照射して300nmから400nmの蛍光強度と蛍光画像を測定したあと、照射波長を245nmに変えて同様に計測すれば、トウガラシと緑ピーマンを区別してカプサイシンの分布状況のデータを得ることができる。
【0039】
励起光としては光パラメトリック発振器のような高価な機器を用いなくても、最近実用化されてきた紫外光発光ダイオードを用いることが可能である。
【0040】
また、前記実施形態の蛍光強度検出部はマルチチャンネル分光器を用いたものであったが、その他、例えば波長266nmの励起光を照射したときに生じる例えば波長330nmの蛍光のみを検出する光検出器を用いて構成しても良い。
【0041】
さらに、トウガラシのカプサイシン又はバニリルアミン測定においては、トウガラシを冷凍した状態で測定することも考えられる。トウガラシを冷凍することで、トウガラシに含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量が変化しないことから、カプサイシン又はバニリルアミンの時間変化を考慮することなく、それらを測定することができる。
【0042】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0043】
100・・・果実成分測定装置
W ・・・果実(トウガラシ)
Wc ・・・切断面
2 ・・・励起光照射部
L1 ・・・励起光
21 ・・・YAGレーザ
L2 ・・・蛍光
3 ・・・蛍光強度検出部
4 ・・・蛍光画像撮像部
5 ・・・演算装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウガラシン等の果実に含まれる辛味成分であるカプサイシン又はこのカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トウガラシの辛味成分であるカプサイシンの含有量を測定する方法としては、特許文献1や2に示すように、例えばアセトン等の抽出溶媒を用いてトウガラシからカプサイシンを抽出した後、高速液体クロマトグラフを用いて定量することが行われている。
【0003】
しかしながら、トウガラシからカプサイシンを抽出する作業に時間がかかるだけでなく、その抽出作業が煩雑であるという問題がある。また、高速液体クロマトグラフを用いた定量では、その定量時間がかかる上に、抽出溶媒中にカプサイシンが数μg程度含有されていないと感度が悪く、正確な定量を行うことが難しいという問題もある。さらに溶媒抽出法を用いて得られたカプサイシンを高速液体クロマトグラフを用いて定量する方法では、トウガラシにおけるカプサイシン及びその前駆物質であるバニリルアミンの含まれる位置を特定することができないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−66227号公報
【特許文献2】特開2008−19191号公報
【0005】
【非特許文献1】岩井和夫・渡辺達夫編、「トウガラシ−辛味の科学」、改訂増補、株式会社幸書房、2008年10月10日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、溶媒抽出法を用いることなく非破壊的に且つ短時間で、果実に含まれるカプサイシン又はその前駆物質であるバニリルアミンの含有量及び含有位置を特定できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る果実成分測定装置は、果実に含まれるカプサイシン又はカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定するものであって、前記果実の切断面に紫外線波長域の励起光を照射する励起光照射部と、前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度を検出する蛍光強度検出部と、前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光を受光して蛍光画像を撮像する蛍光画像撮像部とを備えることを特徴とする。ここでカプサイシンとは、カプサイシン類を示しており、カプサイシン及びその同族体であって、カプサイシノイドと総称される一群の化合物である。カプサイシノイドとしては、主として、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシンが挙げられる。
【0008】
このようなものであれば、カプサイシン又はバニリルアミンに紫外線領域の励起光を照射することで蛍光を発することを利用して、その蛍光を蛍光強度検出部によって強度を検出することができる。これにより、果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量を正確に測定することができる。また、蛍光画像撮像部によって、果実の切断面における蛍光を発する部位を撮像することができるので、果実の切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有位置を特定することができる。以上から、果実の切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量及びその含有位置を非破壊的に且つ短時間で測定することができる。
【0009】
カプサイシン又はバニリルアミンからの蛍光を強く発するようにするとともに、その蛍光を感度良く検出するためには、前記励起光照射部が、240nm〜280nmの励起光を射出するものであり、前記蛍光強度検出部が、300nm〜400nmの蛍光の強度を検出するものであり、前記蛍光画像撮像部が、300nm〜400nmの蛍光を受光して蛍光画像を撮像するものであることが望ましい。
【0010】
前記励起光照射部がYAGレーザの高調波を用いて紫外線波長域の励起光を照射するものであることが望ましい。これならば、励起光照射部を安価に構成することができる。
【0011】
果実のカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を自動的且つ正確に算出するためには、前記蛍光強度検出部により得られた蛍光強度と、予め標準試料を用いて得られた標準蛍光強度とを比較して、前記果実のカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を算出する演算装置を備えることが望ましい。
【0012】
果実のカプサイシン又はバニリルアミンが酸化して時間変化することに着目して、果実に含まれるカプサイシン初期含有量又はバニリルアミン初期含有量を自動的に算出できるようにするためには、前記演算装置が、前記蛍光強度検出部により得られた蛍光強度の経時変化から、前記果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの初期含有量を算出することが望ましい。
【0013】
励起光照射部の具体的な実施の態様としては、前記励起光照射部が、240nm〜280nmの範囲で波長を変更可能な波長可変紫外光源を有するもの、又は、245nmより短波長の紫外光源と250nm〜280nmの紫外光源とを有するものであることが考えられる。この場合、以下により照射する励起光の波長の違いによって、カプサイシン又はバニリルアミンの含有位置及び含有量を好適に判定することができる。
【0014】
つまり、前記演算装置が、前記励起光照射部によって250nm〜280nmの励起光を照射した場合に、前記蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び前記蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から蛍光強度の大きな部位を選択し、前記励起光照射部の245nmより短波長の励起光を前記選択部位に限定して照射した場合に、前記蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び前記蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から得られる蛍光強度が、前記励起光照射部によって250nm〜280nmの励起光で照射した場合に得られる蛍光強度の1/4以下、又は波長範囲300nm〜400nmで極大値を有しない場合に、前記選択部位にカプサイシン又はバニリルアミンが多く含まれると判断してそれらの含有量を算出するものである。なお、蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から蛍光強度の大きな部位を選択する方法としては、得られた蛍光画像強度分布全体に対して相対的に大きな部位を選択する他、予め閾値を設定しておき、この閾値よりも大きな部位を選択することが考えられる。
【0015】
また本発明に係る果実成分測定方法は、果実に含まれるカプサイシン又はカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定する方法であって、前記果実の切断面に紫外線波長域の励起光を照射し、前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度を蛍光強度検出部により検出してカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を測定し、前記励起光が照射された切断面を蛍光画像撮像部により蛍光画像を撮像して、カプサイシン含有位置又はバニリルアミン含有位置を特定することを特徴とする。
【0016】
このようなものであれば、カプサイシン又はバニリルアミンに紫外線領域の励起光を照射することで蛍光を発することを利用して、カプサイシン又はバニリルアミンの含有量を測定することができる。また、蛍光画像撮像部によって、果実の切断面における蛍光を発する部位を撮像することができるので、果実の切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有位置を特定することができる。以上から、果実の切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量及びその含有位置を非破壊的に且つ短時間で測定することができる。
【0017】
果実を冷凍することで、果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量が変化しないことから、冷凍した果実の切断面に紫外線波長の励起光を照射することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、溶媒抽出法を用いることなく非破壊的に且つ短時間で、果実に含まれるカプサイシン又はその前駆物質であるバニリルアミンの含有量及び含有位置を特定できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態における果実成分測定装置の模式的全体構成図。
【図2】カプサイシンの蛍光スペクトルを示す図。
【図3】トウガラシに励起光を照射して得られた蛍光スペクトルの経時変化を示す図。
【図4】ピーマンに励起光を照射して得られた蛍光スペクトルの経時変化を示す図。
【図5】トウガラシ及びピーマンの蛍光強度の経時変化を示す図。
【図6】トウガラシ及びピーマンの蛍光強度(0分経過(測定開始時)に対する相対値)の経時変化を示す図。
【図7】トウガラシの切断面の通常の画像及び蛍光画像を示す図。
【図8】ピーマンの切断面の通常の画像及び蛍光画像を示す図。
【図9】波長可変レーザを用いた果実成分測定装置の模式的全体構成図。
【図10】励起光として213nm、245nm、250nmをトウガラシと緑ピーマンの胎座部分に照射した場合の蛍光スペクトル。
【図11】励起光として255nm、260nm、265nmをトウガラシと緑ピーマンの胎座部分に照射した場合の蛍光スペクトル。
【図12】励起光として270nm、275nm、280nmをトウガラシと緑ピーマンの胎座部分に照射した場合の蛍光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明に係る果実成分測定装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態にかかる果実成分測定装置100は、例えばトウガラシ等の果実Wの切断面に励起光である紫外光を照射することによって、トウガラシWに含まれるカプサイシン又はこのカプサイシンの前駆物質(前駆物質)であるバニリルアミンの含有量及び含有位置を測定するものである。
【0022】
具体的にこのものは、図1に示すように、トウガラシWの切断面に紫外線波長域の励起光L1を照射する励起光照射部2と、前記励起光L1が照射された切断面から生じる蛍光L2の強度を検出する蛍光強度検出部3と、前記励起光L1が照射された切断面から生じる蛍光L2を受光して蛍光画像を撮像する蛍光画像撮像部4とを備えている。
【0023】
励起光照射部2は、紫外線波長域の光を照射するレーザ光源部21と、このレーザ光源部21から出るレーザ光を所定の照射径を有する光に拡大するレーザビーム拡大光学系22とを有する。本実施形態のレーザ光源部21は、波長240nm〜280nmの励起光L1を射出するものである。具体的にレーザ光源部21は、YAGレーザ(1064nm)211と、このYAGレーザ211から出たレーザ光から第4高調波を発生させる第4高調波発生器212と、第4高調波発生器212から出た光のうち266nmの光を透過させる波長選択フィルタ213とを有している。レーザビーム拡大光学系22は、レーザビーム径をトウガラシWの切断面を含む範囲の照射径を有する光束に拡大するものあり、本実施形態では凹面レンズを用いて構成している。これにより、レーザ光を走査することなく、一度にトウガラシWの切断面全体に励起光L1を照射できるように構成している。
【0024】
蛍光強度検出部3は、波長240nm〜280nm(具体的には266nm)の励起光L1が照射されたトウガラシWの切断面から出る波長300nm〜400nmの蛍光L2の強度を検出するものである。具体的に蛍光強度検出部3は、励起光L1をカットする励起光カットフィルタ31と、この励起光カットフィルタ31を透過した蛍光L2を光ファイバ32を介して受光して分光するとともに、分光された各波長の光を検出するマルチチャンネル分光器33とを有する。
【0025】
蛍光画像撮像部4は、波長240nm〜280nm(具体的には266nm)の励起光L1が照射されたトウガラシWの切断面から出る波長300nm〜400nmの蛍光L2を受光して、トウガラシWの切断面の蛍光画像を撮像するものである。具体的に蛍光画像撮像部4は、波長300nm400nmの蛍光L2のみを透過する蛍光透過フィルタ41と、励起光L1をカットする励起光カットフィルタ42と、これら光学フィルタ41、42を介してトウガラシWの切断面を撮像する紫外用CCDカメラ43と、CCDカメラ43により得られた蛍光画像のコントラストを調整するCCD制御回路44と、CCD制御回路44によりコントラストが調整された蛍光画像を表示する表示装置45とを有する。
【0026】
演算装置5は、前記マルチチャンネル分光器33により得られた蛍光強度信号を受け付けて、蛍光スペクトルを算出すると共に、その蛍光スペクトルのピーク波長である330nmでの信号強度を算出する。そして、演算装置5は、その蛍光スペクトルにおける330nmの信号強度と、予め標準試料を用いて得られた標準蛍光強度(波長330nmでの蛍光強度)とを比較して、トウガラシWの切断面に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量を算出する。そして演算装置5は、その演算値(含有量)をディスプレイ上に表示する。
【0027】
また演算装置5は、前記紫外用CCDカメラ43により得られた蛍光画像データを表示装置45から取得して、マルチチャンネル分光器33により得られた蛍光強度信号(及びこれにより得られた演算値を含む。)と関連付けてメモリに格納する。なお、演算装置5のディスプレイ上に前記演算値(含有量)と蛍光画像を同一画面上に表示するもでき、これによりユーザに対してカプサイシンの含有量及び含有位置を同時に認識させることもできる。
【0028】
さらに演算装置5は、蛍光強度検出部3のマルチチャンネル分光器33により得られた波長330nmの蛍光強度の経時変化から、トウガラシWに含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの初期含有量を算出することもできる。トウガラシWに含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量は酸化により時々刻々と減少することから、単純に蛍光強度検出部3により得られた蛍光強度から所期含有量を算出することができないが、その蛍光強度の経時変化を見ることでトウガラシWを切断した時点の含有量である初期含有量を推定することができる。
【0029】
次にこのように構成した果実成分測定装置100を用いてトウガラシの切断面に含まれるカプサイシン及びピーマンの切断面に含まれるバニリルアミンを測定した場合の実験例について説明する。図2は、トウガラシの切断面に波長266nmの励起光L1を照射した場合に得られた蛍光強度の蛍光スペクトルを示す図である。この図2から分かるように、トウガラシに含有されるカプサイシンとバニリルアミンとは同一波長(波長330nm)においてピークを示しており、分離して認識することができない。
【0030】
また、図3は、トウガラシの切断面に波長266nmの励起光L1を照射した場合に得られた蛍光スペクトルの経時変化を示す図である。図4は、ピーマンの切断面に波長266nmの励起光L1を照射した場合に得られた蛍光スペクトルの経時変化を示す図である。図5は、トウガラシ及びピーマンの蛍光スペクトルにおけるピーク波長の蛍光強度の時間変化を示す図である。図6は、トウガラシ及びピーマンの蛍光スペクトルにおけるピーク波長の蛍光強度(相対値)の時間変化を示す図である。これらの図3〜図6に示されるように、トウガラシに含まれるカプサイシンは最初の2分で活性酵素が付加して著しく減少していくことが分かり、ピーマンに含まれるバニリルアミンは2分経過後において一度増えたのちに減少していることが分かる。このように2分経過毎の蛍光強度の変化量を見ることで、果実に抗酸化物質が含まれるか否かを判断することができる。
【0031】
さらに図7は、トウガラシの切断面における通常の画像と励起光L1(波長266nm)を照射した場合の蛍光画像とを示す図である。この図7から分かるように、トウガラシの胎座部が白く現れており、トウガラシのカプサイシンが胎座部に含まれることが示されている。また、図8は、ピーマン(緑、赤)の切断面における通常の画像と励起光L1(波長266nm)を照射した場合の蛍光画像とを示す図である。この図8から分かるように、ピーマンの胎座部が白く現れており、ピーマンのバニリルアミンが胎座部に含まれることが示されている。
【0032】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る果実成分測定装置100によれば、カプサイシン又はバニリルアミンに紫外線領域の励起光L1を照射することで蛍光L2を発することを利用して、その蛍光L2を蛍光強度検出部3によって強度を検出することができる。これにより、トウガラシWに含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量を正確に測定することができる。また、蛍光画像撮像部4によって、トウガラシの切断面における蛍光L2を発する部位を撮像することができるので、トウガラシの切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有位置を特定することができる。以上から、トウガラシの切断面におけるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量及びその含有位置を非破壊的に且つ短時間で測定することができる。
【0033】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0034】
例えば、前記実施形態の励起光照射部は、レーザ光源部を用いたものであったが、その他水銀ランプを用いても良い。またレーザ光源部としてはYAGレーザの他のレーザ光源(波長可変レーザを含む。)を用いても良い。
【0035】
また、レーザ光源部として波長可変のコヒーレント光源を用いた場合、例えば図9に示すような構成が考えられる。つまり、図9に示すように、励起光照射部を光パラメトリック発振器のような波長可変のコヒーレント光源を用い、その第2高調波を発生させて波長可変の紫外光源を使用しても良い。
【0036】
この光パラメトリック発振器から490nmから560nmの波長の光線を10nm間隔で出力させ、第2高調波発生器を用いて245nmから280nmの紫外光を5nm間隔で発生させ、これを励起光としてトウガラシと緑ピーマンの胎座部のみに照射し、蛍光をマルチチャンネル分光器で計測した。図10〜図12はその結果で245nmから280nmまでの波長とNd:YAGレーザ(波長1064nm)の第5高調波213nmの波長の蛍光スペクトルを示した。
【0037】
励起光が250nmから280nmの範囲ではトウガラシ、緑ピーマンとも300nm〜400nmの範囲での蛍光スペクトルは極大値をもっている。しかし245nmでは強度が小さくなるものの緑ピーマンでは極大値がありトウガラシには極大値は認められない。さらに213nmになると400nmから500nmの範囲には極大値があるが、これらはカプサイシノイドとは関係のない蛍光とみられ、300nmから400nmの範囲ではトウガラシにも緑ピーマンもともに蛍光の強度が弱く極大値もみられない。
【0038】
これらの結果から、まず250nmから280nmのある波長で照射して300nmから400nmの蛍光強度と蛍光画像を測定したあと、照射波長を245nmに変えて同様に計測すれば、トウガラシと緑ピーマンを区別してカプサイシンの分布状況のデータを得ることができる。
【0039】
励起光としては光パラメトリック発振器のような高価な機器を用いなくても、最近実用化されてきた紫外光発光ダイオードを用いることが可能である。
【0040】
また、前記実施形態の蛍光強度検出部はマルチチャンネル分光器を用いたものであったが、その他、例えば波長266nmの励起光を照射したときに生じる例えば波長330nmの蛍光のみを検出する光検出器を用いて構成しても良い。
【0041】
さらに、トウガラシのカプサイシン又はバニリルアミン測定においては、トウガラシを冷凍した状態で測定することも考えられる。トウガラシを冷凍することで、トウガラシに含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの含有量が変化しないことから、カプサイシン又はバニリルアミンの時間変化を考慮することなく、それらを測定することができる。
【0042】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0043】
100・・・果実成分測定装置
W ・・・果実(トウガラシ)
Wc ・・・切断面
2 ・・・励起光照射部
L1 ・・・励起光
21 ・・・YAGレーザ
L2 ・・・蛍光
3 ・・・蛍光強度検出部
4 ・・・蛍光画像撮像部
5 ・・・演算装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実に含まれるカプサイシン又はカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定するものであって、
前記果実の切断面に紫外線波長域の励起光を照射する励起光照射部と、
前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度を検出する蛍光強度検出部と、
前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光を受光して蛍光画像を撮像する蛍光画像撮像部とを備える果実成分測定装置。
【請求項2】
前記励起光照射部が、240nm〜280nmの励起光を射出するものであり、
前記蛍光強度検出部が、300nm〜400nmの蛍光の強度を検出するものであり、
前記蛍光画像撮像部が、300nm〜400nmの蛍光を受光して蛍光画像を撮像するものである請求項1記載の果実成分測定装置。
【請求項3】
前記励起光照射部がYAGレーザの高調波を用いて紫外線波長域の励起光を照射するものである請求項1又は2記載の果実成分測定装置。
【請求項4】
前記蛍光強度検出部により得られた蛍光強度と、予め標準試料を用いて得られた標準蛍光強度とを比較して、前記果実のカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を算出する演算装置を備える請求項1、2又は3記載の果実成分測定装置。
【請求項5】
前記演算装置が、前記蛍光強度検出部により得られた蛍光強度の経時変化から、前記果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの初期含有量を算出する請求項1、2、3又は4記載の果実成分測定装置。
【請求項6】
前記励起光照射部が、240nm〜280nmの範囲で波長を変更可能な波長可変紫外光源を有するもの、又は、245nmより短波長の紫外光源と250nm〜280nmの紫外光源とを有するものである請求項2記載の果実成分測定装置。
【請求項7】
前記演算装置が、前記励起光照射部によって250nm〜280nmの励起光を照射した場合に、前記蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び前記蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から蛍光強度の大きな部位を選択し、
前記励起光照射部の245nmより短波長の励起光を前記選択部位に限定して照射した場合に、前記蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び前記蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から得られる蛍光強度が、前記励起光照射部によって250nm〜280nmの励起光で照射した場合に得られる蛍光強度の1/4以下、又は波長範囲300nm〜400nmで極大値を有しない場合に、前記選択部位にカプサイシン又はバニリルアミンが多く含まれると判断してそれらの含有量を算出するものである請求項6記載の果実成分測定装置。
【請求項8】
果実に含まれるカプサイシン又はカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定する方法であって、
前記果実の切断面に紫外線波長域の励起光を照射し、
前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度を蛍光強度検出部により検出してカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を測定し、
前記励起光が照射された切断面を蛍光画像撮像部により蛍光画像を撮像して、カプサイシン含有位置又はバニリルアミン含有位置を特定する果実成分測定方法。
【請求項9】
前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度の経時変化から、前記果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの初期含有量を算出する請求項8記載の果実成分測定方法。
【請求項10】
冷凍した果実の切断面に紫外線波長の励起光を照射する請求項8又は9記載の果実成分測定方法。
【請求項1】
果実に含まれるカプサイシン又はカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定するものであって、
前記果実の切断面に紫外線波長域の励起光を照射する励起光照射部と、
前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度を検出する蛍光強度検出部と、
前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光を受光して蛍光画像を撮像する蛍光画像撮像部とを備える果実成分測定装置。
【請求項2】
前記励起光照射部が、240nm〜280nmの励起光を射出するものであり、
前記蛍光強度検出部が、300nm〜400nmの蛍光の強度を検出するものであり、
前記蛍光画像撮像部が、300nm〜400nmの蛍光を受光して蛍光画像を撮像するものである請求項1記載の果実成分測定装置。
【請求項3】
前記励起光照射部がYAGレーザの高調波を用いて紫外線波長域の励起光を照射するものである請求項1又は2記載の果実成分測定装置。
【請求項4】
前記蛍光強度検出部により得られた蛍光強度と、予め標準試料を用いて得られた標準蛍光強度とを比較して、前記果実のカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を算出する演算装置を備える請求項1、2又は3記載の果実成分測定装置。
【請求項5】
前記演算装置が、前記蛍光強度検出部により得られた蛍光強度の経時変化から、前記果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの初期含有量を算出する請求項1、2、3又は4記載の果実成分測定装置。
【請求項6】
前記励起光照射部が、240nm〜280nmの範囲で波長を変更可能な波長可変紫外光源を有するもの、又は、245nmより短波長の紫外光源と250nm〜280nmの紫外光源とを有するものである請求項2記載の果実成分測定装置。
【請求項7】
前記演算装置が、前記励起光照射部によって250nm〜280nmの励起光を照射した場合に、前記蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び前記蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から蛍光強度の大きな部位を選択し、
前記励起光照射部の245nmより短波長の励起光を前記選択部位に限定して照射した場合に、前記蛍光強度検出器により得られる蛍光強度及び前記蛍光画像撮像部により得られる蛍光画像強度分布から得られる蛍光強度が、前記励起光照射部によって250nm〜280nmの励起光で照射した場合に得られる蛍光強度の1/4以下、又は波長範囲300nm〜400nmで極大値を有しない場合に、前記選択部位にカプサイシン又はバニリルアミンが多く含まれると判断してそれらの含有量を算出するものである請求項6記載の果実成分測定装置。
【請求項8】
果実に含まれるカプサイシン又はカプサイシンの前駆物質であるバニリルアミンを測定する方法であって、
前記果実の切断面に紫外線波長域の励起光を照射し、
前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度を蛍光強度検出部により検出してカプサイシン含有量又はバニリルアミン含有量を測定し、
前記励起光が照射された切断面を蛍光画像撮像部により蛍光画像を撮像して、カプサイシン含有位置又はバニリルアミン含有位置を特定する果実成分測定方法。
【請求項9】
前記励起光が照射された切断面から生じる蛍光の強度の経時変化から、前記果実に含まれるカプサイシン又はバニリルアミンの初期含有量を算出する請求項8記載の果実成分測定方法。
【請求項10】
冷凍した果実の切断面に紫外線波長の励起光を照射する請求項8又は9記載の果実成分測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−83184(P2012−83184A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229294(P2010−229294)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】
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