説明

カプセル化された細胞ベースの送達のためのプラットホーム細胞株としてのARPE−19

【課題】インビボでのカプセル化デバイスにおける細胞生存性を確実に長期化すること。
【解決手段】ARPE−19細胞を、カプセル化または非カプセル化された細胞ベースの送達技術に関するプラットホーム細胞株として評価した。ARPE−19細胞は、強いことが見出され(この細胞株は、中枢神経系または小室内環境のようなストリンジェントな条件下で生存可能である);選択したタンパク質を分泌するように遺伝子改変され得;長い寿命を有し;ヒト起源であり;良好なインビボデバイスの生存能力を有し;効果的な量の成長因子を送達し;宿主免疫反応を誘発しないかまたは低いレベルの宿主免疫反応を誘発し、そして非腫瘍形成性である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、一般に細胞治療およびカプセル化デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
成長因子は、神経変性障害についての優れた治療潜在性を有する。しかし、成長因子は、成長因子のような大きなタンパク質が血液−脳関門を通過しないという事実に起因して、臨床的処置へと首尾良く発展しなかった。成長因子を生成するように遺伝子操作された細胞の移植は、成長因子送達の問題に対する部分的な解決法を提供する。なぜなら、成長因子生成細胞の移植片は、血液−脳関門を迂回し得、かつ標的部位に直接治療因子を送達し得るからである。不運なことに、これらの移植物は、宿主の免疫拒絶を受けやすく、そして免疫抑制を必要とする。また、いくらかの遺伝子操作された細胞株の移植片は、致死的な腫瘍を形成し得る。
【0003】
半透性ポリマー膜にマクロカプセル化された細胞を移植することにより、これらの問題に対するよりよい解決法が提供される。成長因子を生成するように遺伝子操作された哺乳動物細胞は、半透性ポリマー膜にカプセル化されうる。この半透膜は、急性の宿主免疫拒絶からカプセル化された細胞を保護するが、宿主組織への治療剤の送達を可能にする。これらの小さな生体人工(bioartificial)デバイス(半透膜にマクロカプセル化された細胞)は、部位特異的に連続して長期間低レベルで所望の因子を送達するために標的部位に直接移植されうる。半透膜に細胞をカプセル化することはまた、腫瘍発生の危険性を減少する。さらに、ポリマーにカプセル化された細胞移植物は、感染の発生率を低下させる。なぜなら、この移植物は、連続的な成長因子の送達についての標的部位への透過のみを単に必要とするからである。
【0004】
所望の成長因子の送達に関して、前臨床研究により、ポリマーにカプセル化された細胞が齧歯類モデルにおいて治療効力を伴って、連続的に毛様体神経栄養因子(CNTF)を送達しうることを示した(Emerichら、16 J.Neurosci.5168−81(1996))。治験により、ポリマーによりカプセル化された細胞を用いた、ヒト中枢神経系(CNS)への慢性的CNTF送達の安全性が支持されている(Aebischerら、7 Hum.Gene Ther.851−60(1996)、Aebischerら、2 Nature Medicine 696−9(1996))。しかし、このような成功を齧歯類モデルからヒトへと転換する際の大きな挑戦は、インビボでのカプセル化デバイスにおける細胞生存性を確実に長期化することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
ARPE−19細胞株は、カプセル化された細胞がベースの送達技術についての優れたプラットホーム細胞株であり、そしてまたカプセル化されていない細胞がベースの送達技術についても有用である。ARPE−19細胞株は強い(すなわち、この細胞株は、中枢神経系または眼内環境における移植のような厳しい条件下で生存可能である)。ARPE−19細胞は、治療目的の物質を分泌するように遺伝的に改変されうる。ARPE−19細胞は、比較的長い寿命を有する。ARPE−19細胞は、ヒト起源である。さらに、カプセル化されたARPE−19細胞は、良好なインビボデバイス生存性を有する。ARPE−19細胞は、成長因子の効果的な量を送達しうる。ARPE−19細胞は、ごくわずかな宿主免疫拒絶を誘発する。さらに、ARPE−19細胞は、非腫瘍形成性である。
【0006】
ポリマーにカプセル化されたARPE−19細胞がベースの毛様体神経栄養因子(CNTF)の送達が変性疾患の処置に対して治療的に有用であることは、齧歯類およびイヌ両方の色素性網膜炎モデルで示された。ARPE−19細胞を、CNTFを分泌するように遺伝的に改変した。遺伝的に改変され、カプセル化されたARPE−19細胞を、例えば、7週間の移植間隔で、CNTFの一致した量を送達した。カプセル化デバイス内の細胞生存性は優れていた。眼におけるカプセル化された細胞デバイスの存在により、網膜炎に対する有意な有害な影響は引き起こされなかった。これらの結果は、カプセル化されたARPE−19細胞がベースの所望の神経栄養因子の送達の治療的潜在性についての原理の証拠を提供する。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)以下を含む、移植可能な細胞培養デバイス:
(a)半透膜を介した成長因子の拡散を可能にする、半透膜;および
(b)半透膜内に配置された少なくとも1つのARPE−19細胞。
(項目2)前記半透膜が免疫隔離である、項目1に記載のデバイス。
(項目3)前記半透膜が微小孔である、項目1に記載のデバイス。
(項目4)前記半透膜が目的の治療物質の拡散を可能にする、項目1に記載のデバイス。
(項目5)前記半透膜内に配置されたマトリックスをさらに含む、項目1に記載のデバイス。
(項目6)つなぎアンカーをさらに含む、項目1に記載のデバイス。
(項目7)前記ARPE−19細胞が遺伝子操作されている、項目1に記載のデバイス。
(項目8)前記ARPE−19細胞が遺伝子操作され、緑色蛍光タンパク質(GFP)を産生する、項目7に記載のデバイス。
(項目9)前記ARPE−19細胞が遺伝子操作され、所望の因子を分泌する、項目7に記載のデバイス。
(項目10)前記所望の因子が毛様体神経栄養因子(CNTF)である、項目9に記載のデバイス。
(項目11)前記所望の因子がグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)である、項目9に記載のデバイス。
(項目12)所望の因子をレシピエント宿主に送達する方法であって、以下の工程を包含する:
(a)ARPE−19細胞を半透膜内にカプセル化する工程であって、該膜は成長因子の拡散を可能にする、工程;および
(b)該カプセル化された細胞を該レシピエント宿主内の標的領域に移植する工程であって、その結果、該カプセル化されたARPE−19細胞が該標的領域に対して該所望の因子を分泌する、工程。
(項目13)前記標的領域が中枢神経系(CNS)である、項目12に記載の方法。
(項目14)前記標的領域が眼である、項目12に記載の方法。
(項目15)前記標的領域が皮下部位、腹腔内部位または別の移植部位である、項目13に記載の方法。
(項目16)項目12に記載の方法であって、前記所望の因子が、ニューロトロフィン、インターロイキン、サイトカイン、抗アポトーシス因子、脈管形成因子および抗脈管形成因子、ならびに抗原からなる群より選択される、方法。
(項目17)項目12に記載の方法であって、前記所望の因子が、BDNF、NT−4、CNTF、アキソカイン、bFGF、IGF I、IGF II、TGFb II、ミッドカイン、IL−1β、TNF、NGF、IL−2/3、ILF、IL−6、NTN、ノイブラスチン、VEGF、GDNF、PDGF、LEDGF、PEDFからなる群より選択される、方法。
(項目18)前記所望の因子が治療タンパク質である、項目12に記載の方法。
(項目19)前記所望の因子が毛様体神経栄養因子(CNTF)である、項目12に記載の方法。
(項目20)前記所望の因子がグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)である、項目12に記載の方法。
(項目21)前記所望の因子が抗原性因子または抗体である、項目12に記載の方法。
(項目22)前記所望の因子が遺伝子移入ベクターである、項目12に記載の方法。
(項目23)項目12に記載の方法であって、ここで、前記所望の因子が、癌および癌関連障害、心臓血管疾患、喘息、代謝病および他の関連する病理学を処置するための治療因子である、方法。
(項目24)前記レシピエント宿主が変性疾患を有する、項目12に記載の方法。
(項目25)項目24に記載の方法であって、ここで前記変性疾患が、パーキンソン病、ハンティングトン病、ALS、アルツハイマー病、脊髄損傷、未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、老齢関連の黄斑変性、緑内障、色素性網膜炎、白内障形成、網膜芽細胞腫、網膜虚血からなる群より選択される、方法。
(項目26)変性疾患を処置するための方法であって、レシピエント宿主の対応する組織に移植可能な細胞培養デバイスを移植する工程を包含し、該デバイスは、以下:
(a)半透膜を介した治療タンパク質の拡散を可能にする、半透膜;および
(b)該半透膜内に配置された少なくとも1つのARPE−19細胞であって、ここで、該ARPE−19細胞は、遺伝子操作されて治療タンパク質を分泌する、細胞;
を含み、ここで該デバイスが、治療有効量のタンパク質を該宿主レシピエントの該標的組織中に分泌する、方法。
(項目27)網膜分解を処置するための方法であって、色素性網膜炎を有するレシピエント宿主の眼に移植可能な細胞培養デバイスを移植する工程を包含し、該デバイスは、以下:
(a)半透膜を介した成長因子の拡散を可能にする、半透膜;および
(b)該半透膜内に配置された少なくとも1つのARPE−19細胞であって、ここで、該ARPE−19細胞は、遺伝子操作されて毛様体神経栄養因子(CNTF)を分泌する、細胞;
を含み、ここで該デバイスが、治療有効量のCNTFを該宿主レシピエントの該眼に分泌する、方法。
(項目28)前記CNTFの治療有効量が約100〜350ng/106細胞/24時間(ng/M/d)の間のレベルである、項目27に記載の方法。
(項目29)前記CNTFの治療有効量が約1.62±0.4ng/デバイス/24時間である、項目27に記載の方法。
(項目30)項目27に記載の方法であって、ここで、前記網膜分解が、未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、年齢関連黄斑変性、緑内障、色素性網膜炎、白内障形成、網膜芽細胞腫、網膜虚血からなる群より選択される障害によって引き起こされる、方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、ARPE−19/CNTF細胞によりロドプシン変異S334terを有するトランスジェニックラットにおける光レセプターの保護を示す写真である。(A)S334ter未処置ラット;(B)ARPE−19親細胞処置コントロールラット;および(C)ARPE−19/CNTF細胞処置ラット。
【図2】図2は、イヌ対ヒトの血清における抗ARPE−19特異的IgG力価を示す棒グラフである。ARPE−19、Hs27、およびSIRC細胞をイヌまたはヒトいずれかの血清希釈物とともにインキュベートした。この抗体力価を、フローサイトメトリークロスマッチ(flow cytometric crossmatch)(FCXM)により測定した。
【図3】図3は、イヌ対ヒトの血清における細胞傷害性ARPE−19特異的抗体力価を示す棒グラフである。ARPE−19、Hs27、およびSIRC細胞をイヌまたはヒトいずれかの血清希釈物とともにインキュベートした。この細胞傷害性抗体力価を、補体依存性細胞傷害性クロスマッチ(CDC)により測定した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
(A.カプセル化された細胞がベースの送達系のための、プラットホーム細胞株としてのARPE−19細胞株)
カプセル化された細胞がベースの送達系のためのプラットホーム細胞株であるために、この細胞株は、可能な限り以下の特徴のうちの多くを有するべきである:(1)この細胞は、厳しい条件下で強くであるべきである(カプセル化された細胞は、中枢神経系または眼、特に眼内環境におけるような無血管の組織腔において機能的であるべきである)。(2)この細胞は、遺伝的に改変され得るべきである(所望の治療因子は、細胞へ操作されることが必要である)。(3)この細胞は、比較的長期の寿命を有するべきである(細胞は、預けられ、特徴付けられ、操作され、安全性試験され、そして治療ロットで製造されるに十分な子孫を生成すべきである)。(4)この細胞は、好ましくは、ヒト起源である(カプセル化される細胞と宿主との間の適合性を増大させる)べきである。(5)この細胞は、(長期送達を確実にする)デバイスにおいて、インビボで1ヶ月を超える期間にわたり、80%を超える生存性を示すべきである。(6)このカプセル化された細胞は、有用な生物学的産物の有効な量(処置の有効性を確実にする)を送達すべきである。(7)この細胞は、(移植片の長生を確実にする)低レベルの宿主免疫反応を有するべきである。(8)この細胞は、非腫瘍形成性であるべきである(デバイス漏出の場合に、宿主に対する付加的な安全性を提供するために)。
本発明者らは、いくつかの細胞株をスクリーニングし、かつ特徴付け、最適なカプセル化された細胞デバイス形態を確認し、そして異なる動物モデルにおいてデバイス内の細胞生存性を評価した。本発明者らは、カプセル化された細胞がベースの送達系のための首尾良いプラットホーム細胞の特徴全てをARPE−19細胞株(Dunnら、62 Exp.Eye Res.155−69(1996)、Dunnら、39 Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.2744−9(1998)、Finnemannら、94 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 12932−7(1997)、Handaら、66 Exp.Eye.411−9(1998)、Holtkampら、112 Clin.Exp.Immunol.34−43(1998)、Maidjiら、70 J.Virol.8402−10(1996))が有することを見出した。ARPE−19細胞株は、本発明者らが試験した他の細胞株より優れていた。
【0009】
ARPE−19細胞株は、アメリカンタイプカルチャーコレクションから入手可能である(ATCC番号CRL−2302)。ARPE−19細胞は、正常網膜色素上皮(RPE)細胞であり、そして網膜色素上皮細胞特異的マーカーCRALBPおよびRPE−65を発現する。ARPE−19細胞は、安定な単層を形成し、形態学的かつ機能的極性を示す。
【0010】
ARPE−19細胞は、完全増殖培地(Complete Growth medium)(細胞寄託者により血清含有培地が推奨される)において培養される。完全増殖培地は、ダルベッコ改変イーグル培地およびHam’s F12培地の1:1混合物(3mM L−グルタミン、90%;ウシ胎仔血清、10%含有)またはダルベッコ改変イーグル培地およびHam’s F12培地の1:1混合物(10%ウシ胎仔血清、56mM最終濃度の炭酸水素ナトリウムおよび2mMのL−グルタミンを含有するHEPES緩衝液を含有する)のいずれかである、そして37℃で5% CO2中でインキュベートされる。この細胞を60,000/cm2でプレートした。細胞を、代表的には、Falcon組織培養処理した6ウェルプレートもしくは12ウェルプレート、またはT25フラスコもしくはT75フラスコにおいて増殖させた。
【0011】
継代培養するために、使用した培地を除去し、そしてARPE−19細胞を0.05%トリプシン、0.02%EDTA溶液でリンスし、そしてトリプシンを除去する。1〜2mlのさらなるトリプシン溶液を添加する。ARPE−19細胞が剥がれるまで室温で(または37℃で)培養物をインキュベートする。継代培養の比は、1:3〜1:5が推奨される。
【0012】
(1.ARPE−19細胞株は強い)
細胞株の強さを評価するために、3工程のスクリーニングを確立した。(a)細胞生存性スクリーニング(細胞を人工水性体液(aAH)培地または人工脳脊髄液(aCSF)培地を用いたストレスがかかった(stressed)条件下で評価した。(b)インビトロECMスクリーニング(細胞をインビトロ細胞外マトリクス(ECM)スクリーニングにおいて評価した)。(c)インビボデバイス生存性スクリーニング(カプセル化した細胞をインビボ膜スクリーニングにおいて評価した)。
【0013】
(a)インビトロ細胞生存性スクリーニング。aAHおよびaCSFの試験細胞(ARPE−19細胞を含む)に対する効果を試験した。人工水性体液(aAH)および人工脳脊髄液(aCSF)をGeigy Scientific Tableからのプロトコルに従って処方した。詳細な処方を表1に列挙する:
【0014】
【表1】



【0015】
細胞は最初に、培地を含む血清中にプレートし、細胞を付着させた。細胞は60,000/cm2でプレートし、そして5%CO2の37℃インキュベーターでインキュベートした。細胞を付着させた後(18〜24時間)、増殖培地を除去し、そして細胞を血清を除去するためにHank’sバランス化塩溶液(HBSS)を用いて2回洗浄した。培地をaAHまたはaCSF(予め37℃に温めた)のいずれかを用いて置換した。使用済みのaAHまたはaCSFは、1日おきに(月曜日、水曜日、金曜日のスケジュール)新鮮なaAHまたはaCSFを用いて置換した。試験細胞は、顕微鏡観察によって形態、生存率および%集密度に対して(コントロールと比較して)毎日評価した。全ての細胞は、1週間の期間に対して評価した。観察は、写真を用いて文書にした。
【0016】
完全増殖培地中での各細胞株のコントロールが、実験グループとの比較のためのスクリーニングを通して保持された。試験期間の終了時に、それらの結果を、形態学についての記載と共に、細胞数および%コンフルエンシーで記録した。また、フルオレセインジアセテート/ヨウ化プロピジウム(FDA−PI)のような生存度染色を使用して、培養物の生存度を評価した。インビトロスクリーニングにおける最初の細胞生存度を通過した細胞が、インビトロECMスクリーニングに進行した。
【0017】
(b)インビトロ細胞外マトリクス(ECM)スクリーニング。種々の細胞外マトリクス(ECM)を使用する細胞生存性を、aCSFおよび低酸素条件下で評価し、そして最良の生存性を提供したECMを選択した。各々の潜在的な「強い細胞(Hardy Cell)」の候補体について、細胞−基質相互作用を、以下の細胞外マトリクスについて評価した(表2):
【0018】
【表2】

【0019】
最適なECMを使用して足場をコートし、細胞は、最終的に、デバイスの内側でこの足場に接着する。「強い細胞」の候補体、ECMおよび足場の最適な組み合わせを、中程度の透過性を有する膜を使用してカプセル化し、ストリンジェントな組織培養条件(aAHまたはaCSF)下で試験した。生存性を、1、2および4週間隔で、代謝的方法および組織学的方法の両方を使用してモニターした。
【0020】
(c)インビボデバイス生存度スクリーニング:ECMスクリーニング由来の強い細胞を、異なる膜および足場を使用してさらに評価した。細胞/ECM/足場の最適な組み合わせを、異なる膜型(異なる拡散特性を有する膜)でカプセル化し、そしてデバイスを、ラットの室に移植した。デバイスの性能を、1ヶ月のインビトロ移植期間後に評価した。
【0021】
ARPE−19生存度(および他の所望の特性)が、試験した他の細胞株よりも優れていた。表3は、ヒト細胞株についての結果を要約する。
【0022】
【表3】

【0023】
表4は、異種細胞株についての結果を要約する。
【0024】
【表4】

【0025】
(2.ARPE−19細胞は、遺伝的に改変され得る)
ARPE−19細胞を遺伝的に改変して、所望の因子を生じ得る。本発明者らは、Fugene6(Boehringer Ingelheim製の脂質ベースのトランスフェクション試薬)を製造業者のプロトコルに従って使用して、ARPE−19細胞を適切なプラスミドでトランスフェクトした。ポリクローン性の安定な細胞株を、例えば、G418(Gibco−BRL,Gaithersburg,MD)を1.0mg/mlの濃度で使用して選択し、そして0.25mg/mlで維持した。安定なARPE−19/GDNF細胞株、ARPE−19/CNTF細胞株およびARPE−19/EGFP細胞株を樹立した。ELISAによって測定されるような、GDNFまたはCNTFの生成は、100〜200ng/100万細胞/24時間(ng/M/d)の間であった(これは、「治療的に有効な」量の一例である)。
【0026】
((a)CNTF) ARPE−19細胞を、種々のCNTFコードプラスミド(表5を参照のこと)でトランスフェクトした。P544(pNUT−IgSP−CNTF(ゲノム性))でトランスフェクトしたARPE−19細胞を、ARPE−P544(ATCC登録番号###)と命名した。
【0027】
【表5】

【0028】
((b)GDNF) ARPE−19細胞を、異なるプロモーターおよびシグナル配列下でhGDNFを発現する5つのプラスミド構築物(表6)でトランスフェクトした。細胞を、FuGene6によってトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を、薬剤G418(ゲネチシン(Geneticin))またはメトトレキサートに対する耐性によって選択した。
【0029】
【表6】

【0030】
これらのトランスフェクトされた細胞由来の馴化培地を収集し、そしてhGDNFの発現についてウエスタンブロットによって分析した。GDNFは、ヘパリン結合性の、ジスルフィド結合されたホモダイマーであり、これは、非相同的にグリコシル化され、そして33〜45kDaの見かけの分子量でSDS−PAGE上を移動する。グリコシル化されていないGDNFは、30kDaの見かけの分子量を有する(Linら、63(2)J.Neurochem.758−768(1994))。hGDNF発現のウエスタンブロット分析のために、馴化培地を、親ARPE−19およびトランスフェクトされたARPE−19から収集した。GDNFを、Cellufine(ヘパリンセファロースに類似の特性を有するセルロース親和性媒体(Amicon Matrex))によって、馴化培地から半精製した。非特異的に結合したタンパク質を、25mM Hepes/150mM NaCl、pH7.4で洗い流し、そして結合タンパク質を、25mM Hepes/2M NaCl、pH7.4中で溶出した。この溶出されたタンパク質を、Pall Filtron遠心分離濃縮器(MWCO 3kDa)で濃縮し、そして緩衝液を25mM Hepesと交換して、馴化培地(CM)の200倍濃縮を達成した。非還元型の半精製CMの1/20までを、変性10〜20%勾配Tricine SDS−PAGEゲル上にロードし、そしてImmobilon−P PVDF膜にエレクトロブロットした。ウエスタンブロットを、化学発光によって検出した。
【0031】
5つの抗体(3つのポリクローナル抗体および2つのモノクローナル抗体)のパネルを使用して、GDNF産生を検出した。ChemiconウサギpAB(AB1454);PromegaニワトリpAb(G2791);R&D SystemsヤギpAb(AF212NA);Promega mAb(GDNF Eにおいてのみ利用可能、ImmunoAssay Systems G3240/G3520キット);R&D Systems mAb(MAB212)。非特異的結合が最も小さく、そして最も高い感度を有する抗体は、PromegaおよびR&D Systems製のモノクローナル抗体であった。ARPE−19/p559(ATCC登録番号###)。
【0032】
((c)緑色蛍光タンパク質) ARPE−19細胞を、緑色蛍光タンパク質(GFP)コードプラスミドpEGFP−N1(Clontech,PaloAlto,CA)でトランスフェクトした。緑色蛍光タンパク質の発現は、蛍光顕微鏡を使用して可視的に容易にモニターされ得るので、この外来遺伝子の異種発現の安定性は、多くの世代を通してモニターされ得る。手短に言うと、ARPE−19細胞を遺伝的に改変し、緑色蛍光タンパク質を発現させる。クローン株を、限界希釈によってポリクローン性のARPE−19/GFPから誘導し、次いで、T−25フラスコに拡大した。これらの株のうちの1つ、P−393−1(ATCC登録番号###)を維持し、そして週毎に継代した。
【0033】
P393−1を、最初のT−25に拡大してから、少なくとも5回継代した。P393−1は、クローン化してから30回以上倍化させた。緑色蛍光タンパク質の発現は、株の寿命全体を通して強いままであった。
【0034】
(3.ARPE−19は、長い寿命を有する)
血清培養培地(DMEM/F12+10%FBS)中のARPE−19細胞の増殖速度は、約1倍化/48時間である。全継代数は、100を超えた。ARPE−19細胞は、正常な表現型を有し、そして安定した速度で増殖するようである。
【0035】
(4.ARPE−19は、ヒト起源である)
ARPE−19は、1986年に交通事故による頭部外傷で死亡した19歳の男性の正常な眼由来の、自発的に生じた網膜色素上皮(RPE)細胞株である(ATCC)。
【0036】
(5.ARPE−19は、許容可能なインビボデバイス生存度を示す)
カプセル化されたARPE−19細胞のデバイス生存度を、中枢神経系および眼の環境下において、インビボで評価した。ARPE−19細胞またはARPE−P544細胞(CNTFを発現する)をカプセル化し、そして得られたデバイスを、ラットの室(ICV)、ウサギの眼、イヌの眼、およびヒツジの鞘内領域に移植した。手短に言うと、これらの細胞を、CytoPES14(ポリエーテルスルホン)膜またはCytoPES1000膜でカプセル化した。CytoPES14膜については、マトリクス足場は、PETヤーン(yarn)、6ストランドであり;細胞外マトリクス(ECM)コーティングは、ラミニン/IV型コラーゲンであり;デバイスアンカーは、チタンループであり;デバイスの全長は、1.1cmであり;細胞負荷密度は、66K/μlであり、負荷容量は、6μlであり、保持培地(holding culture)は、Ultra Cultureであった。CytoPES 1000膜については、マトリクスは、2工程のコーティングプロセスでヒトIV型コラーゲンおよびラミニンを、それぞれ1mg/mlおよび0.1mg/mlでコートしたPETヤーンであった。ラットICVについて、これらのデバイスは、0.7cm長であった。イヌおよびウサギの眼について、これらのデバイスは、1.0cm長であった。ヒツジの鞘内領域について、これらのデバイスは、7.0cm長であった。全てのデバイスを、Titan Systems(Denver,CO)で、反り返らない(non−strutted)、E−Beam(電子ビーム)滅菌した。保持培地は、Ultraculture+1% L−GlutamineまたはACSF+0.83%FBS、0.26%L−Glutamineおよび15mM HEPESを含む緩衝液であった。
【0037】
外科移植後1ヶ月で、これらのデバイスを外植し、これらのデバイスにおける細胞生存度を、組織学的に評価した。細胞デバイス生存度は、試験した全ての移植部位において優れていた。この結果を、表7に示す。
【0038】
【表7】

【0039】
(6.ARPE−19は、有効量の成長因子を送達するために改変され得る:概念の証明(Proof of concept))
ARPE−P544細胞を分泌するCNTFの治療的効果(網膜保護)を、網膜変性についてのラットおよびイヌの両方の動物モデルにおいて評価した。
【0040】
((a)トランスジェニックラット試験−非カプセル化ARPE−544) 生後(PD)9日目に、2μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の約105のARPE−P544細胞を、32ゲージ針を使用して、S334ter−3ラットの左眼の硝子体に注射した。コントロールの眼(右眼)に、トランスフェクトしていないARPE−19細胞を注射した。CNTFボーラス注射のために、1μlのPBS中の1μgのCNTFを、PD9日目でその硝子体に注射した。これらの眼を、PD20日目に収集し、そして組織学的評価のために処理した。1μm厚のプラスチック包理切片を、光学顕微鏡によって試験した。
【0041】
処置していないS334terトランスジェニックラットにおいて、重篤な光受容体変性が、送達後(PD)20日目までに観察された。外核層(outer nuclei layer)(ONL)は、ただ1列の核を有するのみであった。ARPE−P544を注射した眼において、ONLは、5〜6列の核を有し、一方、ARPE−19細胞を注射したコントロールの眼においては、1〜2列の核が残存した。精製したヒト組換えCNTFのボーラス注射で処置したラットにおいて、ONLは、2〜3列の核を有した。結果を、図1に示す。
【0042】
CNTFでトランスフェクトしたカプセル化していないARPE−19細胞からのCNTFの持続的な放出は、精製されたCNTFタンパク質のボーラス注射よりも、より良好な光受容体の保護を達成した。
【0043】
((b)変異体イヌ試験−カプセル化したARPE−544) この研究は、杆状体サイクリックGMPホスホジエステラーゼβサブユニット遺伝子(PDE6B)変異を有する、杆状体−錐状体異常形成(rcd1)イヌにおいて行った。1セットの試験に、7週齢の6匹のイヌを使用した。2匹のイヌが罹患(網膜変性)しており、そして4匹のイヌは、遺伝子キャリア(正常)であった。この2匹の罹患したイヌについて、左眼に、ARPE−P544含有デバイスを与え、そして右眼は、処置しなかった(コントロール)。4匹の正常なイヌについて、両眼に、ARPE−P544含有デバイスを与えた。これらのデバイスは、チタン固定ループを備える、1.1cm長であった。各デバイスは、CytoPES14膜ならびにラミニンおよびIV型コラーゲンでコートしたPETヤーン足場からなった。本研究の期間は、7週間であった。1匹の正常なイヌにおける2つのデバイスを除く全てのデバイスを外植し、そしてELISA(R&D Systems)によってCNTFの生成について、そして組織学的分析によって細胞生存度について評価した。
【0044】
ARPE−P544のCNTF生成は、150〜200ng/106細胞/24時間(カプセル化されず、インビトロでの、完全増殖培地中で)と推測された。これらの細胞を、T−75フラスコ中で増殖させ、そして10%FBSを補充したDMEMベースの培地中、5%CO2、95%湿度、37℃のインキュベーター内で維持した。カプセル化の前に、細胞のCNTF生成を、酵素連結イムノソルベントアッセイ(ELISA)によってアッセイした。
【0045】
カプセル化の前に、これらのデバイスを、制御環境下で構築し、パッケージングし、次いで、e−ビーム滅菌した(他のカプセル化プロトコルの詳細については以下を参照のこと)。ARPE−19細胞を、カプセル化の日に収集し、そして66,000細胞/μlの密度でUltraculture無血清培地中に懸濁した。次いで、この滅菌デバイスに、Hamiltonシリンジを使用して各6μlの容量をロードした。細胞懸濁物の封入後、最終的な封鎖を行った。この細胞をロードしたデバイスを、1% L−グルタミンを補充したUltraculture中で保存した。7日後、全てのデバイスを、ELISAによってCNTF生成についてアッセイした。デバイスのインビトロコホートを、本研究過程中6ウェルプレート中で維持した。栄養供給を週に一度行った。
【0046】
手術には、動物をケタミンおよびキシラジンで鎮静させた。体重および体温を測定し、そして瞳孔を2滴の各マイドフリン(2.5%)およびシクロジル(1%)で拡大した。血液試料を引き抜き、そして静脈内(IV)ラインを確立した。麻酔をペントタールナトリウムで誘導した。次いで動物の気管内に挿管し、そしてイソフランの吸入が確立された手術室中に移動し、そして生命徴候を監視した。あるいは、イソフランの吸入を挿管の前に確立し、鎮痛剤およびペントタール導入の必要性を取り除いた。次いで動物を側位位置で手術テーブル上に置き、そして加熱パッドで覆った。
【0047】
眼の移植手順では、眼の瞼および眼窩周囲領域を希釈ヨードフォア溶液で予備的に洗い落とし、そして滅菌覆い布を取り付けた。眼瞼を瞼検鏡で引っ込め、そして、眼を、角膜輪部に配置された単一の接続縫合で位置決めし、そして滅菌覆い布にクランプ固定し、眼を内側に回転した。顕微鏡で観察して、6mmの切開を平滑なハサミを用いて角膜輪部から約3.5mmの結膜および腱の両方を通じて作成した。#75ブレードを用いて2.0−3.0mmの長軸方向切開を強膜を通じて作成し、角膜輪部の約4mm側方に毛様体輪を通じてデバイスを移植した。デバイスをその包装から取り出し、滅菌生理食塩水ですすぎ、そして肉眼で欠陥を検査した。jewlerの鉗子を用い、このデバイスをつなぎ縄(tether)のループにより掴み、そして硝子体中に切開を通じて挿入した。配置後、強膜を、断続した8−0ナイロン(登録商標)縫合糸で閉じ、この縫合糸は、このデバイスの外部末端にあるループを通過させた。同様に結膜を断続した8−0ナイロン(登録商標)縫合糸で閉じた。検鏡および覆い布を取り除き、そして動物を再配置し、そこで上記の手順を対側の眼に繰り返すことができた。
【0048】
手術の日に、イヌ(7週齢、体重約10ポンド)を、心拍、呼吸速度、直腸温度、血圧および全身状態について監視した。各動物を唯一の番号で識別し、それは動物に書いた。シクロスポリンA(Sandoz、100mg/ml、10mg/kg)を移植前1日から開始して1日に1度与えた(経口)。プレドニソン(5mg/kg)およびクラバモックス(15mg/kg)を移植の日に開始して1日に2度与えた(経口)。動物に、飼料および水を自由摂取させ、そして西部標準時間に一致する暗闇/光サイクルで屋内に収容した。温度は、18−29℃(65−84゜F)に維持した。湿度範囲は、30−70%で維持した。
【0049】
手術手順の後、すべての動物を手術に関係する合併症の徴候について監視した。動物を1週間を基礎に以下の存在について監視した:咳込み、体重損失の徴候、発熱、アフタ性口内炎、眼炎症もしくは眼分泌物、または肉眼による運動欠陥。体重測定および体温測定を、移植の3日以内、および移植後7日に行った。血圧もまた、移植前および屠殺の1週間前に行った。
【0050】
血液試料の収集には、30mlの血液を、免疫学的スクリーニングのために、(1)移植のとき、および(2)屠殺時に引き抜いた。10mlを、末梢血リンパ球用に、ヘパリン処理したレッドトップチューブ中に室温で置き;10mlを、血清用に、氷上抗凝固剤なしでレッドトップチューブ中に置き;そして10mlを、血液化学プロファイル用に提示した。
【0051】
この実験の結論では、動物を、ケタミンおよびペントタールを用いた初期鎮痛後、360mg/kg IVの過剰用量のペントバルビタールで安楽死させた。デバイスを外科的に外植し、CNTF放出についてアッセイし、次いで組織学的提出のために4%パラホルムアルデヒド中に置いた。眼球を摘出し、そして50ccのBouin溶液中、室温で8−12時間固定した。次いで眼を水中ですすぎ、そして70%EtOH中に貯蔵し、そして組織学的試験に供した。組織学的分析には、視神経、背側−外側を通じて切片化され、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した3スライドのパラフィン包埋眼を、各眼について等級付けた。デバイスは、4%パラホルムアルデヒド中、30分〜2時間固定し、そしてパラフィンまたはグリシジルメタクリレート(GMA)包埋処理し、切片にし、そして組織学的評価のために染色した。各デバイスを、細胞密度および細胞生存性を決定するために調べた。
【0052】
デバイスのCNTFアウトプットは、外植後評価した。簡単に述べれば、デバイスをUltraculture(0.5ml/ウェル)中24時間インキュベートし、次いでそれをCNTFアウトプットについてアッセイした。CNTFの平均デバイスアウトプットは、1.62±0.4ng/デバイス/24時間であった(これは、「治療有効」量の1つの例である)。個々のデバイスのアウトプットを表8に示す。
【0053】
【表8】

【0054】
カプセル化ARPE−P544細胞は、網膜分解について変異体イヌモデル中の光レセプターを保護した。保護は、光レセプター節約の程度により規定した。影響されなかったイヌは、10−12層のONLを有していたが、影響された未処理のイヌは、2−3層のONLを有していた。影響されたCNTF処理イヌは5−6層のONLを有していた。これらの結果を表9中に示す。
【0055】
【表9】

【0056】
a.影響されたrcd1イヌ
b.影響されなかったイヌ
c.良い網膜=7−8 10×視野長;18 40×視野
S1=視神経からの末梢2 10×視野(末梢4−40×視野)
S2=視神経と鋸状縁との間の中央点
S3=鋸状縁から中央2 10×視野(中央4−40×視野)
d.悪い網膜=5−6 10×視野長;10 40×視野
I1=視神経からの末梢1 10×視野(末梢3 4×視野)
I2=視神経と鋸状縁との間の中央点
I3=鋸状縁から中央1 10×視野(中央3−40×視野)
組織学的評価は、すべてのデバイスが健康な生存細胞を含むことを示した。細胞の壊死はどのデバイスでも観察されなかった。網膜に対する免疫反応、炎症または損傷は観察されなかった。
【0057】
(7.ARPE19は低レベルの宿主免疫反応の引きがねとなる)
【0058】
(a)HLAクラスIおよびクラスII−DR
細胞株Hs27およびARPE19に関するベースライン研究を、ヒトHLAクラスIおよびHLAクラスII−DR分子の休止発現レベルを決定するために実施した。主要組織適合性マーカーW6/32は、任意の有核細胞上で正常に発現される。対照的に、HLAクラスII−DRマーカーは、より特異的な細胞の集団上で発現される。通常、HLAクラスII−DR分子は、Bリンパ球、単球、活性化T細胞、活性化ナチュラルキラー(NK)細胞、およびヒト前駆細胞上に見出される。
【0059】
表10は、フローサイトメーターを用いる染色からの活性化されないレベルの発現を要約する。
【0060】
【表10】

【0061】
(b)同種異系 対 異種抗体応答
イヌ宿主またはヒト宿主のいずれかからの血清試料を、標的細胞としてARPE19、Hs27(ヒト由来)およびSIRC(ウサギ由来)を用いて評価した。特異的抗ARPE19 IgG力価を評価するために、ARPE19細胞を、フローサイトメトリー分析のための標的細胞として用いた。ARPE19細胞(100,000細胞/100μl)を、25μlの宿主血清とインキュベートし、4×106の力価まで系列希釈し、次いで二次抗体(ICN Pharmaceuticals、Costa Mess、CA、USA)で標識したフルオロセインイソチオシアネート(FITC)でタグを付けた。データ取得およびヒストグラム分析は、488nm励起および1つの空冷アルゴンレーザを備えたBecton Dickenson FACSortTM(Becton Dickenson Immunocytometry Systems、San Jose、CA、USA)を用いて実施した。データは、256チャネルプログラムおよび幾何学/チャネル選択を備えたCELLQuestTM(Becton Dickenson Immunocytometry Systems、San Jose、CA、USA)ソフトウェアを用いて解釈した。
【0062】
すべてのデータは、ネガティブコントロール試料に対する平均チャネルシフト蛍光(MCS)における増加として報告した。10チャネルを超えるシフトをポジティブと考えた。結果は、イヌ血清が、ヒト血清と比較してかなり高い力価で抗体を含んでいたことを示す(図2)。
【0063】
同種異系 対 異種補体依存性細胞傷害性(CDC)応答
ARPE19細胞に特異的な細胞傷害性抗体の力価を決定するために、ARPE19細胞を、補体依存性細胞傷害性アッセイにおける標的細胞として用いた。細胞傷害性抗体力価の補体固定を、イヌ血清またはヒト血清試料のいずれかを用いて評価した。ARPE19、Hs27およびSIRC細胞を標的として用いた。すべての血清試料を、3重複で2つの群に配置し、そして標準のNational Institute of Health(NIH)組織型決定技法(American Society for Histocompatibility and Immunogenetics(ASHI)Manual、1994)を採用してアッセイした。3重複の1つの群は、1μlの宿主血清およびARPE19細胞(1000細胞/1μl)で分析し;3重複の第2の群は、5μlの外因性の予備スクリーニングしたウサギ補体(Pel Freez Brown Deer、WI、USA)の添加とともに同様の方法でアッセイした。試料は、二色免疫蛍光微小細胞傷害性分析手順を用いて調製した。宿主血清とARPE19細胞の1時間の室温インキュベーションの後、さらなるウサギ補体とのまたはなしの第2の1時間室温インキュベーションを行った。同じマイクロタイターウェルにおいて、生存細胞(ネガティブ反応性)の百分率を二酢酸フルオレセインを用いて見えるようにし、その一方、死細胞(ポジティブ反応性)の百分率はヨウ化プロピディウムを用いて見えるようにした。すべての血清標品は、1:2系列希釈で最大1:100,000希釈まで設定した。すべてのデータは、488nmの波長励起でNikon DiaphotTM倒立蛍光顕微鏡を用いてスコアした。
【0064】
結果は、イヌ血清が、これら細胞の存在下で補体を活性化し得る抗体を含んでいたことを示す。対照的に、ヒト血清は、補体を固定しなかった(図3)。
【0065】
(8.ARPE19細胞株は腫瘍形成性である)
【0066】
ARPE19細胞の腫瘍形成性研究を米国Food and Drug Administration(FDA)、Points to consider in the characterization of cell lines used in the production of biologicals、58 Federal Register 42974(1993年8月12日)により要求される手順に従って実施した。簡単に述べれば、0.2mlの無血清培地(PBS+10mMグルコース)中の10百万細胞を、ヌードマウス(放射線照射Swissヌードマウス、照射後2−7日、n=10)に皮下注射した。動物を3週間の間毎日腫瘍形成の証拠について観察した。そのとき、動物の半分を屠殺し、解剖しそして細胞の存在を組織学的に調べた。残りの動物をさらに12週間観察した。ARPE19細胞は、15週間の研究期間の間ヌードマウスで腫瘍形成を示さなかった。
【0067】
(B.細胞カプセル化法およびデバイス)
【0068】
カプセル化細胞治療は、宿主内移植の前に半透過性の生体適合性材料で細胞を取り囲むことにより、レシピエント細胞の免疫系から細胞を隔離するコンセプトに基づく。本発明は、ARPE19細胞が、免疫隔離カプセルにカプセル化されているデバイスを含む。「免疫隔離カプセル」は、このカプセルが、レシピエント宿主中への移植に際し、デバイスのコアにあるARPE19細胞に対する宿主の免疫系の有害な影響を最小にすることを意味する。ARPE19細胞は、微小孔膜により形成された移植可能なポリマー性カプセル内にそれらを封入することにより宿主から免疫隔離されている。このアプローチは、宿主と移植された組織との間の細胞−細胞接触を防ぎ、直接提示による抗原認識を無くする。用いられる膜はまた仕立てられ、抗体および補体のような分子の拡散を、それらの分子量を基に制御し得る(Lysaghtら、56 J.Cell.Biochem.196(1996)、Colton、14 Trends Biotechnol.158(1996))。カプセル化技法を用いて、ARPE19細胞を、免疫抑制剤の使用とともにまたはなしのいずれかで、免疫拒絶を受けずに宿主中に移植し得る。有用な生体適合性ポリマーカプセルは、通常、液体培地中に懸濁されるかまたは固定化マトリックス内に固定化されるかいずれかの細胞を含むコア、および生体適合性であり、しかもコア中の細胞を有害な免疫学的攻撃から保護するに十分である隔離された細胞を含まない透過選択性であるマトリックスまたは膜(「ジャケット」)の周辺または周縁領域を含む。カプセル化は、免疫系のエレメントがカプセルに侵入することを妨げ、それによってカプセル化されたARPE19細胞を免疫破壊から保護する。カプセル膜の半透過性性質はまた、目的の生物学的に活性な分子が、カプセルから周辺宿主組織中に容易に拡散することを可能にする。
【0069】
このカプセルは、生体適合性材料から作成され得る。「生体適合性材料」は、宿主内への移植後、カプセルの拒絶を生じるか、または例えば分解によりそれを稼動不能にするに十分な有害な宿主応答を惹起しない材料である。この生体適合性材料は、宿主の免疫系成分のような、高分子に対しては比較的不透過性であるが、インスリン、成長因子および栄養分のような小分子に対しては、代謝老廃物の除去を可能にしながら透過性である。種々の生体適合性材料が、本発明の組成物による成長因子の送達に適切である。多くの生体適合性材料が公知であり、種々の外表面形態、ならびにその他の機械的および表面特徴を有する。好ましくは、本発明のカプセルは、本明細書に参考として援用される、PCT国際特許出願WO92/19195またはWO95/05452;または本明細書に参考として援用される米国特許第5,639,275号;第5,653,975号;第4,892,538号;第5,156,844号;第5,283,187号;または第5,550,050号に記載されるものと同様である。このようなカプセルは、宿主の免疫系の有害な影響を最小にしながら、代謝産物、栄養分および治療物質の通過を可能にする。生体適合性材料の成分は、周辺の半透過性膜および内部の細胞を支持する足場を備え得る。好ましくは、形質転換細胞は、この足場上に接種され、これは、透過選択性膜によりカプセル化される。繊維状の細胞を支持する足場は、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンポリアセトニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン(登録商標)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリブトエステル(polybutester)、絹、綿、キチン、カーボン、および生態適合性金属からなる群から選択される任意の生体適合性材料から作成され得る。細胞移植には、結合され繊維構造もまた用いられ得る(本明細書に参考として援用される米国特許第5,512,600号)。生分解性ポリマーは、ポリ(乳酸)PLA、ポリ(乳酸−コグリコール酸)PLGA、ならびにポリ(グリコール酸)PGAおよびそれらの等価物からなるポリマーを含む。フォーム(foam)足場を用いて、移植細胞が接着し得る表面が提供されている(本明細書に参考として援用されるPCT国際特許出願98/05304)。織物メッシュチューブが血管移植片として用いられている(本明細書に参考として援用されるPCT特許出願WO99/52573)。さらに、コアは、細胞の位置を安定化するヒドロゲルから形成される固定化マトリックスから構成され得る。ヒドロゲルは、実質的に水からなるゲルの形態にある架橋親水性ポリマーの三次元ネットワークである。
【0070】
種々のポリマーおよびポリマー混合物が、周囲半透膜を製造するために使用され得、そのようなポリマーおよびポリマー混合物としては、ポリアクリレート(アクリルコポリマーを含む)、ポリビニリデン、ポリ塩化ビニルコポリマー、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)、ポリフォスファーゼン、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル/co−塩化ビニル)ならびにそれらの誘導体、コポリマーおよび混合物が、挙げられる。好ましくは、この周囲半透膜は、生体適合性の半透性中空線維膜である。このような膜、およびこの膜を作製する方法は、米国特許第5,284,761号および同第5,158,881号(参考として援用される)に開示される。この周囲半透膜は、ポリエーテルスルホン中空線維(例えば、米国特許第4,976,859号または同4,968,733号(参考として援用される)により記載されるもの)から形成される。代替的周囲半透膜材料は、ポリ(アクリロニトリル/co−塩化ビニル)である。
【0071】
このカプセルは、生物学的活性を維持し、そして生成物または機能の送達のための接近を提供するために適切な、任意の形状であり得、例えば、その形状としては、円柱状、矩形、円板形状、パッチ形状(patch−shaped)、卵形、星状または球状が、挙げられる。さらに、このカプセルは、メッシュ様構造または入れ子構造へと、輪状にされ得るしまたは巻かれ得る。このカプセルが移植された後に回収されるべきである場合、移植部位からのこのカプセルの移動をもたらす傾向がある形状(例えば、レシピンエト宿主の血管において移動するに十分に小さい、球状カプセル)は、好ましくない。特定の形状(例えば、矩形、パッチ、円板、円柱、および平板)は、より強い構造的完全性を提供し、回収が所望される場合には好ましい。
【0072】
微小カプセルが使用される場合、各デバイスにて、好ましくは103個と108個との間のARPE−19細胞がカプセル化され、最も好ましくは105〜107個のARPE−19細胞が、カプセル化される。投薬量は、より少ない数のカプセルまたはより多い数のカプセル、好ましくは患者あたり1個の10個との間のカプセルを、移植することにより制御され得る。
【0073】
その足場は、細胞外基質(ECM)分子でコートされ得る。細胞外基質分子の適切な例としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、およびフィブロネクチンが、挙げられる。この足場の表面はまた、プラズマ照射で処理してARPE−19細胞の接着を増強するような電荷を付与することによって、改変され得る。
【0074】
このカプセルをシールする適切な任意の方法が使用され得、このような方法としては、ポリマー接着剤の使用、またはクリンピング(crimping)、ノッティング(knotting)および熱シールが、挙げられる。さらに、例えば、米国特許第5,653,687号(参考として援用される)に記載されるような、適切な任意の「乾燥」シール法もまた使用され得る。
【0075】
このカプセル化された細胞デバイスは、公知技術に従って移植される。多くの移植部位が、本発明のデバイスおよび方法のために意図される。これらの移植部位としては、中枢神経系(脳、脊髄を含む)(米国特許第5,106,627号、同第5,156,844号、および同第5,554,148号(参考として援用される)を参照のこと)、ならび眼の房水および硝子体液(PCT国際特許出願WO 97/34586(参考として援用される)を参照のこと)が、挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
(C.ARPE−19細胞の遺伝子操作) 上記のように、ARPE−19細胞は、遺伝子操作され得る。用語「遺伝的改変」および「遺伝子操作」とは、外因性DNAの意図的導入によるAPRE−19細胞の遺伝子型の安定な変更または一過性変更をいう。DNAは、合成であっても、天然由来であってもよく、そして遺伝子を含んでも、遺伝子の部分を含んでも、または他の有用なDNA配列を含んでもよい。用語「遺伝的改変」は、天然のウイルス活性、天然の遺伝子組換えなどを介して生じるような、天然に存在する改変を含むことは意図されない。
【0077】
APRE−19細胞の有用な任意の遺伝的改変が、本発明の範囲内である。例えば、APRE−19細胞は、神経伝達物質または成長因子などのような、生物学的に活性な物質を生成するようにかまたは生物学的に活性な物質の生成を増加するように、改変され得る。この遺伝的改変は、ウイルスベクター(レトロウイルスベクター、改変型ヘルペスウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなど)による感染か、または当該分野で公知の方法(リポフェクチン、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーションなど)(Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory、N.Y.、1982を参照のこと)を使用するトランスフェクションのいずれかによって、実施され得る。例えば、キメラ遺伝子構築物は、ウイルス(例えば、レトロウイルス)長末端反復(LTR)、シミアンウイルス40(SV40)、サイトメガロウイルス(CMV))プロモーター;または哺乳動物細胞特異的プロモーターを含み得る。さらに、このベクターは、薬物選択マーカー(例えば、E.coliアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ遺伝子(試験遺伝子と同時感染された場合、ジェネティシン(G418)(タンパク質合成インヒビター)に対する耐性を付与する)を含み得る。
【0078】
APRE−19細胞は、発現ベクターを用いるトランスフェクションを使用して、遺伝的に改変され得る。「発現ベクター」とは、ゲノム中に組み込まれるかまたは細胞質に存在するかのいずれかであり、かつポリペプチド、タンパク質またはウイルスベクターの発現を可能にし得る、核酸である。1つのプロトコルにおいて、遺伝子を含むベクターDNAが、0.1×TE(1mM Tris pH8.0、0.1mM EDTA)中に、濃度40μg/mlまで希釈される。22μlのDNAが、ディスポーザブルの滅菌5mlプラスチックチューブ中の250μlの2×HBS(280mM NaCl、10mM KCl、1.5mM Na2HPO4、12mMデキストロース、50mM HEPES)に添加する。31μlの2M CaCl2がゆっくり添加され、そしてその混合物が、室温で30分間インキュベートされる。この30分間のインキュベーションの間に、細胞が4℃にて800gで5分間遠心分離される。この細胞が20容量の冷PBSに再懸濁され、そして1×107細胞のアリコートへと分割され、これが再び遠心分離される。細胞の各アリコートが、1mlのDNA−CaCl2懸濁物中に再懸濁され、そして室温で20分間インキュベートされる。次いで、この細胞が増殖培地に希釈され、そして5%〜7% CO2中にて37℃で6〜24時間インキュベートされる。この細胞が再び遠心分離され、PBS中で洗浄され、そして10mlの増殖培地に48時間戻される。
【0079】
直接のDNA投与、プラスミドポリヌクレオチド投与、または組換えベクター投与に適切なビヒクルとしては、生理食塩水、またはスクロース、プロタミン、ポリブレン、ポリリジン、ポリカチオン、タンパク質、リン酸カルシウム、またはスペルミジンが挙げられるが、限定ではない。例えば、PCT国際特許出願WO 94/01139を参照のこと。
【0080】
APRE−19細胞はまた、リン酸カルシウムトランスフェクション技術を使用して、遺伝的に改変され得る。標準的リン酸カルシウムトランスフェクションのために、細胞は、単一の細胞懸濁物へと機械的に解離され、そして50%コンフルエンス(50,000〜75,000細胞/cm2)にて組織培養処理ディッシュ上にプレートされ、そして一晩付着させられる。1つのプロトコルにおいて、改変型リン酸カルシウムトランスフェクション手順が、以下のように実施される:滅菌TE緩衝液(10mM Tris、0.25mM EDTA、pH7.5)中のDNA(15〜25μg)がTEで440μλに希釈され、そして60μlの2M CaCl2(1M HEPES緩衝液によりpH5.8まで)が、このDNA/TE緩衝液に添加される。合計500μlの2×HeBS(HEPES緩衝化生理食塩水;275mM NaCl、10mM KCl、1.4mM Na2HPO4、12mMデキストロース、40mM HEPES緩衝液粉末、pH6.92)が、この混合物に滴下される。この混合物は、室温で20分間静置される。この細胞が、1×HeBSで短く洗浄され、そして1mlのリン酸カルシウム沈殿DNA溶液が、各プレートに添加され、そして細胞が37℃にて20分間インキュベートされる。このインキュベーションの後に、10mlの「完全培地」が細胞に添加され、そしてプレートが、インキュベーター(37℃、95% CO2)中にさらに3〜6時間配置される。DNAおよび培地が、このインキュベーション期間の最後に吸引により除去される。この細胞が洗浄され、新鮮な培地が添加され、次いで細胞がインキュベーターに戻される。
【0081】
あるいは、PCT国際特許出願WO 93/06222に記載されるような、リン酸カルシウム同時沈殿技術が使用され得る。
【0082】
さらに、ARPE−19細胞は、所望の分泌因子を生成するように遺伝子操作され得る。所望の分泌因子は、合成ポリヌクレオチドまたは組換えポリヌクレオチドのいずれかによりコードされ得る。用語「組換え(体)」とは、有用な生物学的産物を生成するようにポリヌクレオチドを組み合わせるための分子生物学技術、ならびにこの技術により生成されたポリヌクレオチドおよびペプチドをいう。このポリヌクレオチドは、調節エレメント(例えば、プロモーター、ターミネーションシグナルなど)をコードするポリヌクレオチドの作動的制御下において、所望の分泌因子をコードするポリヌクレオチドを含む組換え構築物(例えば、ベクターまたはプラスミド)であり得る。「作動的に連結された」とは、そのように記載される成分が、それらが意図される様式で機能するのを可能にする関係にある、並置をいう。コード配列に作動的に連結された制御配列は、そのコード配列の発現が制御配列と適合可能な条件下で達成されるように、連結されている。「制御配列」とは、コード配列および非コード配列が連結された場合にそれらの発現をもたらすのに必要な、ポリヌクレオチド配列をいう。制御配列には、一般的には、プロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列が挙げられる。さらに、「制御配列」とは、コード配列中にコードされるペプチドのプロセシングを制御する配列をいい;これらとしては、ペプチドの分泌、プロテアーゼ切断、およびグリコシル化を制御する配列が挙げられるが、これらに限定されない。用語「制御配列」は、その存在が発現に影響し得る成分を最低限含み、そしてまた、その存在が有利であるさらなる成分(例えば、リーダー配列および融合パートナー配列)も含み得ることが、意図される。「コード配列」とは、転写されそしてポリペプチドへと翻訳される、ポリヌクレオチド配列をいう。2つのコードポリヌクレオチドは、その連結が三つ組の読み取り枠の変化または妨害を伴わずに、連続的に翻訳可能な配列を生じる場合に、「作動可能に連結されている」。ポリヌクレオチドは、その連結が、所望の分泌因子の発現を生じるように遺伝子発現エレメントの適切な機能を生じる場合に、その遺伝子発現エレメントに「作動可能に連結されている」。「形質転換」とは、宿主細胞への外因性ポリヌクレオチド(すなわち、「導入遺伝子」)の挿入である。この外因性ポリヌクレオチドは、宿主ゲノム中に組み込まれる。ポリヌクレオチドは、それが転写および翻訳の調節情報を含むヌクレオチド配列を含み、かつこのような配列が所望の分泌因子をコードするポリヌクレオチドに「作動可能に連結されている」場合に、所望の分泌因子を「発現し得る」。次いで、ペプチドコード領域をコードするポリヌクレオチドは、例えば、標準的著作であるSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press 1989)に記載される従来の方法に従って、例えば、細菌ベクター中での調製によって、増幅され得る。発現ビヒクルとしては、プラスミドまたは他のベクターが挙げられる。
【0083】
所望の分泌因子をコードするポリヌクレオチドは、化学的合成法または組換え技術によって、調製され得る。ポリペプチドは、化学的合成技術(例えば、Merrifield、85 J.Amer.Chem.Soc.2149〜2154(1963)(Stemmerら、164 Gene 49(1995)を参照のこと)により記載される)によって、従来のように調製され得る。そのインビトロまたはインビボでの転写および翻訳が、所望の分泌因子タンパク質の生成を生じる、合成遺伝子が、当該分野で周知の技術により構築され得る(Brownら、68 Mehods in Enzymology 109〜151(1979)を参照のこと)。コードポリヌクレオチドは、Applied Biosystems Model 380Aまたは380B DNA合成機(Applied Biosystems,Inc.、850 Lincoln Center Drive、Foster City、CA、USAから市販)のような、従来のDNA合成装置を使用して、生成され得る。
【0084】
所望の分泌因子をコードするcDNAの発現に有用なポリヌクレオチド遺伝子発現エレメントとしては、(a)ウイルス転写プロモーターおよびそのエンハンサーエレメント(例えば、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスLTR、およびモロニーマウス白血病ウイルスLTR);(b)スプライス領域およびポリアデニル化部位(例えば、SV40後期領域由来のもの);ならびに(c)ポリアデニル化部位(例えば、SV40中)が、挙げられるがこれらに限定されない。次いで、所望の分泌因子を発現し得るレシピエント細胞が、トランスフェクトされる。このトランスフェクトされたレシピエント細胞が、所望の分泌因子の発現を可能にする条件下で培養され、この所望の分泌因子が培養から回収される。ARPE−19細胞が、ポックスウイルスベクター(例えば、ワクシニアまたはブタポックス)と組み合わせて使用され得る。合成遺伝子を宿主の細胞中へと運ぶように操作され得る適切な非病原性ウイルスとしては、ワクシニアのようなポックスウイルス、アデノウイルス、レトロウイルスなどが挙げられる。多数のこのような非病原性ウイルスが、ヒト遺伝子治療のため、そして他のワクチン薬剤のキャリアとして、一般的に使用されており、そして当業者により公知でありかつ選択可能である。他の適切な宿主細胞、ならびに形質転換、培養、増幅、スクリーニングおよび産物の生成および精製のための方法が、公知の技術(例えば、GethingおよびSambrook、293 Nature 620〜625(1981)を参照のこと)を照会することによって、当業者により実施され得る。別の好ましい系としては、バキュロウイルス発現系およびベクターが、挙げられる。
【0085】
所望の分泌因子をコードするポリヌクレオチドが、種々の様式で使用され得る。例えば、ポリヌクレオチドは、宿主細胞培養物中でインビトロで所望の分泌因子ペプチドを発現し得る。次いで、この発現される所望の分泌因子は、適切な精製の後、薬学的試薬またはワクチンへと組み込まれ得る(下記)。
【0086】
本明細書中に記載される所望の分泌因子をコードするポリヌクレオチドコード領域についての配列の決定は、市販のコンピュータープログラム(例えば、DNA StriderおよびWisconsin GCG)を使用して実施され得る。遺伝コードの天然の縮重が原因で、当業者は、特許請求されるペプチドをコードするかなり多いが規定数のDNA配列が、構築され得ることを認識する(Watsonら、Molecular Biology of the Gene、436〜437(the Benjamin/Cummings Publishing Co.1987)を参照のこと)。
【0087】
用語「生物学的因子」とは、神経細胞に対して効果を(そのような効果が有害、有益であっても、そうでなくとも)有し得る、任意の因子(例えば、ウイルス、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、炭水化物、核酸、ヌクレオチド、薬物、プロドラッグまたは他の物質)をいう。神経細胞に有益な生物学的因子は、「神経学的因子」であり、この用語は、CNSもしくは眼の細胞の増殖、分化もしくは機能、神経学的または眼科学的(opthalmological)な疾患または障害の処置に潜在的に有用であることを示し得る、生物学的または薬学的に活性な任意の物質を包含する。例えば、この用語は、特定の神経伝達物質、神経伝達物質レセプター、成長因子、成長因子レセプターなど、ならびにこれらの因子の合成にて使用される酵素を包含し得る。
【0088】
遺伝的改変が生物学的因子の生成のためである場合、その物質は、所定のCNSまたは眼の障害の処置に有用である物質であり得る。ARPE−19細胞は、生物学的に活性な因子(例えば、成長因子、成長因子レセプター、神経伝達物質、神経伝達物質合成遺伝子、神経ペプチド、およびクロム親和性顆粒アミントランスポーター)を発現するように遺伝的に改変され得る。例えば、細胞を、その細胞が増殖誘導性成長因子または分化誘導性成長因子を分泌するように遺伝的に改変することが所望され得る。
【0089】
生物学的因子は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子、上皮成長因子、トランスホーミング成長因子α、トランスホーミング成長因子β、神経成長因子、インスリン様成長因子、血小板由来成長因子、グリア由来神経栄養因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、ホルボール12−ミリステート13−アセテート、トリオホチン(tryophotin)、アクチビン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、インターロイキン、骨形成タンパク質、マクロファージ炎症タンパク質、ヘパラン硫酸、アンフィレグリン(amphiregulin)、レチノイン酸、腫瘍壊死因子α、線維芽細胞増殖因子レセプター、上皮成長因子レセプター、または潜在的標的組織に対して治療上有用な効果を有すると予期される他の因子であり得る。生物学的因子の例としては、栄養因子(例えば、グリア由来神経栄養因子(GDNF));成長因子活性に関係する細胞内経路の調節因子(例えば、スタウロスポリン、CGP−4 1251など);ホルモン;種々のタンパク質およびポリペプチド(例えば、インターロイキン);例えば、レセプターの転写物に対する、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンス鎖);ヘパリン様分子;ならびに放射状神経膠細胞もしくはCNS神経幹細胞に対して効果を有する他の種々の分子が、挙げられる。
【0090】
IL−2を分泌するARPE−19細胞は、プラスミドベクターpBCMG−hygro−hIL−2(Rouxら、159 J.Cell.Physiol.101〜113(1994))(ヒトIL−2 cDNA配列をサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの転写制御下に含み、ウサギβ−グロビンイントロン、続いてポリ(A)配列、および選択用のハイグロマイシン耐性遺伝子を含む、エピソーム発現ベクター)でのARPE−19のトランスフェクションにより生成され得る。このhIL−2タンパク質をコードする発現ベクターをARPE−19細胞株に導入するために、リン酸カルシウム沈殿技術が使用され得る。pPCHILプラスミド(pBCMG−hIL−2)は、hIL−2 cDNA配列、続いて選択用のハイグロマイシンB耐性遺伝子を含む。そのゲノムに外来DNAが安定に組み込まれた細胞は、培地中のハイグロマイシンBの存在下で選択される。
【0091】
IL−10を分泌するARPE−19細胞が生成され得る。インターロイキン−10(IL−10)(CD4細胞のサブセットである、Thにより生成される)は、CD4+ヘルパーTリンパ球のTh1サブセットによるサイトカイン生成を抑制する。IL−10はまた、単球による多数の炎症性サイトカインの生成を阻害する。IL−10発現が、ヒト悪性神経膠腫において、そして悪性腫瘍において、低悪性度(low grade)腫瘍に対してよりも高いレベルで、検出されている。これは、内因性IL−10が脳内の抗神経膠腫免疫を抑制するように機能するという仮説をもたらした。内因性IL−10の潜在的に免疫抑制性および抗炎症性の作用にも関わらず、操作された腫瘍細胞により高レベルで生成されるトランスジェニックIL−10が、抗腫瘍免疫を刺激することまたは腫瘍関連脈管形成を阻害することのいずれかによって、全身の腫瘍の成長を阻害し得るという証拠が、増加している。IL−10を生成するARPE−19細胞は、リポフェクタミン(lipofectamine)(GIBCO)の存在下で、Kunduら、88 J.Natl.Cancer Inst.536〜41(1996)の手順と類似する手順を使用して、プラスミドpBMGneo.IL−10でのトランスフェクションにより生成され得る。
【0092】
FGFを分泌するARPE−19細胞が作製され得る。線維芽細胞増殖因子(FGF)は、中枢神経系において他の細胞型に対して神経保護的であり得る内皮細胞マイトジェンである。ARPE−19細胞株は、遺伝的に改変されて、FGF−1に対してインフレームで融合されたFGF−4のhst/KS3シグナル配列からなるキメラヒトFGF−1遺伝子(sp−hst/KS3:FGF−1)を発現し得る。(Foroughら、268 J.Biol.Chem.2960−8(1993))。
【0093】
APRE−19細胞は、操作されて種々の神経伝達物質またはそれらのレセプター(例えば、セロトニン、L−ドパ、ドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリン、タキキニン、サブスタンスP、エンドルフィン、エンケファリン、ヒスタミン、N−メチルD−アスパルテート、グリシン、グルタメート、GABA、AChなど)を産生し得る。有用な神経伝達物質合成遺伝子としては、TH、DDC、DBH、PNMT、GAD、トリプトファンヒドロキシラーゼ、ChAT、およびヒスチジンデカルボキシラーゼが挙げられる。CNS障害の処置における有用性を証明し得る種々の神経ペプチドをコードする遺伝子としては、サブスタンス−P、神経ペプチド−Y、エンケファリン、バソプレシン、VIP、グルカゴン、ボンベシン、CCK、ソマトスタチン、カルシトニン遺伝子関連ペプチドなどが挙げられる。
【0094】
あるいは、ARPE−19細胞は、米国特許第5,614,404号(これは、欠損非自己増殖ウイルス粒子中にアセンブルし得る異種ポリペプチドを同時発現する、組換えウイルスベクターを記載する)の方法を使用して、レトロウイルス遺伝子移入ベクターを産生するように構築され得る。遺伝子移入ベクターとして有用なウイルスとしては、ヒトの臨床試験に最も一般に使用されるベクターであるレトロウイルスが挙げられる。遺伝子治療ベクターを作製するために、目的の遺伝子が複製欠損レトロウイルスプラスミド中にクローン化される。このプラスミドは、2つの長い末端反復(LTR)、プライマー結合部位、パッケージングシグナル、ならびに感染後のレトロウイルスの逆転写および組込み機能に必須であるポリプリントラクトを含む。ウイルスベクターを作製するために、プラスミド形態のウイルスは、粒子構築に必要とされるレトロウイルス構造タンパク質のGag、PolおよびEnvを産生するパッケージング細胞株にトランスフェクトされる。産生細胞株は、通常、選択マーカーを用いて作製され、しばしばG418耐性遺伝子がレトロウイルスベクターによって保有される。得られた細胞株は、PCT国際特許出願WO97/44065(これは、標的細胞の感染のためのウイルスベクターを分泌する生パッケージング細胞を含む生体適合性カプセル、およびその標的細胞の有利な感染性のための送達方法を記載する)に記載されるようにカプセル化され得る。
【0095】
レシピエント宿主中のCNSまたは眼の細胞に対する生物学的薬剤の効果は、中枢神経系細胞からのモデル細胞培養物(例えば、ラットクロム親和性細胞腫のPC12細胞、培養された初代中枢神経ニューロンなど)の間;または眼の細胞(例えば、IO/LD7/4細胞株、ARPE−4細胞、培養された網膜初代上皮細胞など)の間の、コントロール培養物に対する有意な差違に基づいてインビトロで同定され得る。この同定は、発現された表現形(ニューロン、グリア細胞または神経伝達物質または他のマーカー)の割合、細胞生存能力および遺伝子発現における変化のような判断基準に関する。細胞の物理的特徴は、細胞および軸索の、形態および増殖を顕微鏡で観察することによって分析され得る。新規または増加したレベルの、タンパク質(例えば、酵素、レセプター分子および他の細胞表面分子)、神経伝達物質、アミノ酸、神経ペプチドおよび生体アミンの発現誘導は、当該分野で公知の任意の技術を用いて分析され得、この技術はそのような分子の変化のレベルを同定し得る。これらの技術としては、そのような分子に対する抗体を用いた免疫組織化学、または生化学的分析が挙げられる。そのような生化学的分析としては、タンパク質アッセイ、酵素的アッセイ、レセプター結合アッセイ、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、電気泳動分析、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた分析、ウエスタンブロット、およびラジオイムノアッセイ(RIA)が挙げられる。ノーザンブロットおよびPCRのような核酸分析を使用して、これらの分子またはこれらの分子を合成する酵素をコードするmRNAのレベルを調べ得る。また、インビボにおける所望の分泌因子の転写物の細胞性検出が、免疫化学または他の免疫学的方法によって実施され得る。
【0096】
(D.成長因子のポリマーでカプセル化されたARPE−19細胞の送達に関する治療的有用性) 中枢神経系は、慢性変性に供される部位である。成長因子は、神経変性障害の処置に対する大きな治療的可能性を有することが公知である。例えば、成長因子を分泌するように遺伝子操作された、ポリマーでカプセル化された異種細胞は、ラット(Winnら、91 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2324−8(1994))、霊長類(Emerichら、349 J.Comp.Neurol.148−64(1994))、および老齢霊長類(Kordowerら、91 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 10898−902(1994))における中枢神経系の病変誘導の細胞損失に対して保護し得る。治療的効果は、ポリマーでカプセル化された細胞デバイスが、有害反応の形跡がない中枢神経系の標的部位の範囲に種々の成長因子を直接送達して、産生される(Emerichら、130 Exp.Neurol.141−50(1994)、Emerichら、736 Brain Res.99−110(1996)、Emerichら、349 J.Comp.Neurol.148−64(1994)、Hoffmanら、122 Exp.Neurol.100−6(1993)、Kordowerら、72 Neuroscience 63−77(1996)、Kordowerら、91 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 10898−902(1994)、Winnら、91 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2324−8(1994))。成長因子のポリマーでカプセル化された細胞送達の安全性は、最大1年まで脳に対して送達された成長因子を受けた動物において有害反応が見出されなかったという研究によって支持される(Lindnerら、5 Cell Transplant.205−23(1996)、Winnら、140 Exp.Neurol.126−38(1996))。これらの研究により、神経毒性に対して非常に感受性である学習行動の試験においてでさえ有害反応がないということが見出された。
【0097】
網膜は、慢性変性に供される別の部位である。網膜変性に対する処置の発達はまた、後眼房への薬物送達の問題によって複雑化されている。近年、毛様体神経栄養因子(CNTF)が眼の障害に対する治療剤であり得ることが、いくつかの研究によって示された。CNTFが、網膜を虚血性損傷から保護することが示された(UnokiおよびLa Vail,35 Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.907−15(1994))。LaVailら(89 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 11249−53(1992);および39 Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.592−602(1998))は、成長因子が光誘導の変性に対して曝露されたラットの眼において網膜光レセプターを保護する能力に関して、CNTFが8つの他の成長因子よりも、より治療的可能性を示すことを報告した。Cayouetteら(18 J.Neurosci.9282−93(1998)、CayouetteおよびGravel、8 Hum.Gene Ther.423−30(1997))は、慢性CNTF送達が、色素性網膜炎のマウスモデルにおいて耐久細胞(lasting cell)の節約を引き起こし、そして生存光レセプターの機能を向上することを示した。
【0098】
老齢関連黄斑変性(AMD)は、USAにおける不可逆視覚損失の主要な原因である。老齢関連黄斑変性は、失明を導く最も一般的な老人の眼の障害であり、眼の黄斑領域における神経上皮の変性によって特徴付けられる。アポリポタンパク質E(apoE)は、神経変性と関連しているようである。この疾患の乾燥形態は、濡れたものよりもより一般的であるが、この濡れた形態は最も重篤な視覚の損失を引き起こす。視覚の補助(例えば、眼鏡、虫眼鏡)以外、乾燥黄斑変性を有する患者に対して現在利用可能な処置または予防手段がなく、そしてフルオレセイン血管造影法を用いるレーザー光凝固術が、血管新生疾患に対する唯一の臨床的に証明された治療である(Starrら、103(5)Postgrad Med.153−6、161−4(1998)を参照のこと)。滲出性AMD中の脈絡膜血管新生膜(CNVM)のレーザー光凝固術のみが、以前に十分研究され、そして広く処置様式に受け入れられた。この処置は、十分に区分された「古典的」CNVMを示す少ない少数の患者に対してのみ有効である。
【0099】
色素性網膜炎(RP)は、遺伝的障害であり、網膜中の細胞の変性を引き起こす。重篤な場合、完全な失明を引き起こし得る。
【0100】
糖尿病性の眼の疾患は、糖尿病を有する人がこの疾患の合併症として発達し得る視覚脅迫性(sight−threatening)の眼の問題の群である、糖尿病を有する人は、疾患の合併症として発生し得る。これらとしては、網膜中の血管にダメージを与える糖尿病性網膜症、光を脳が視覚として解釈する電気的インパルスに変換する、眼の後の光感受性組織が挙げられる。糖尿病性網膜症は、糖尿病性網膜症の少なくとも初期の徴候を有する糖尿病を有する米国の1600万人と概算される人の約半分に影響を及ぼす。この群の約700,000人は、重篤な網膜疾患を有し、約65,000人のアメリカ人は、各年、増殖性網膜症、最も視覚脅迫性段階の疾患に進行する。年間、25,000人もの数の人がこの障害から失明し、労働年齢のアメリカ人の間の失明の主要な原因にしている。
【0101】
糖尿病性網膜症の費用は高く、年間の失明の費用は、社会保証給付金、所得税収入の損失および医療保健費用において、米国政府に年間1人あたり約13,607ドルの費用をかける。
【0102】
成長因子が神経変性または網膜変性の処置に有用であることが公知であり、そしてカプセル化されたARPE−19細胞が遺伝子操作されて成長因子を分泌し得るので、本発明は、神経変性または網膜変性を処置するための方法を提供する。
【0103】
(E.結論) ARPE−19細胞株は、因子のレシピエント宿主への、細胞ベースの送達に驚くべきほど有用である。例:
(a)ARPE−19細胞株は細胞性治療のためのプラットホーム細胞株である。
(b)ARPE−19細胞の移植は、神経変性疾患を処置するための所望の治療因子の投与に関して有用である。
(c)ARPE−19細胞株は、細胞性治療のためのプラットホーム細胞株である(ここで、ARPE−19細胞は、カプセル化されていない)。
(d)ARPE−19細胞株は、細胞性治療のためのプラットホーム細胞株である(ここで、ARPE−19細胞は、カプセル化されている)。
(e)ARPE−19細胞株は、細胞性治療のためのプラットホーム細胞株であり、ここで、ARPE−19細胞は、遺伝的に改変されて所望の治療因子を分泌する細胞である。
(f)ARPE−19細胞株は、細胞性治療のためのプラットホーム細胞であって、ここで、所望のタンパク質が、ニューロトロフィン、インターロイキン、サイトカイン、抗アポトーシス因子、脈管形成因子および抗脈管形成因子、ならびに抗原を含む(がこれらに限定されない)場合、ARPE−19細胞は、遺伝的に改変されて所望の治療タンパク質を分泌する。そのような因子としてはまた、脳由来の神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−4(NT−4)、CNTF、アキソカイン(Axokine)(第二の世代の毛様体神経栄養因子(CNTF);RegeneronPharmaceuticals Inc.)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インシュリン様増殖因子のIGF IおよびIGF II、TGFβ II、ヘパリン結合サイトカインミッドカイン(Midkine)(MK)、インターロイキン1(IL−1β)、腫瘍壊死因子(TNF)、神経成長因子(NGF)、IL−2/3、ILF、IL−6、ニューロチュリン(Neurturin)(NTN)、ノイブラスチン(Neublastin)、VEGF、グリア細胞株由来の神経栄養因子(GDNF)、血小板由来の成長因子(PDGF)、レンズ上皮由来の成長因子(LEDGF)、および色素上皮由来の因子(PEDF)が挙げられる。
(g)ARPE−19細胞株は細胞性治療のためのプラットホーム細胞株であって、ここで、ARPE−19細胞が、治療有効量の所望の因子を哺乳動物に投与するために、哺乳動物に移植される。
(h)ARPE−19細胞株は、細胞性治療のためのプラットホーム細胞株であって、ここで、ARPE−19細胞が中枢神経系、眼または任意の他の目的の組織に移植される。
(i)ARPE−19細胞株は、細胞性治療のためのプラットホーム細胞株であって、ここで、ARPE−19細胞が中枢神経系に移植され、ここで中枢神経系の部位が、心室領域および鞘内領域、線条ならびに脳または脊髄実質中の他の部位を含む。
(j)ARPE−19細胞株は、細胞性治療のためのプラットホーム細胞株であって、ここで、ARPE−19細胞が、眼に移植され、ここで、眼の部位が、網膜下の領域および硝子体内領域を含む。
(k)ARPE−19細胞の移植は、変性疾患を処置するための治療タンパク質を投与することに有用であって、ここで、変性疾患が、パーキンソン病、ハンティングトン病、ALS、アルツハイマー病、脊髄損傷、未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、老齢関連の黄斑変性、緑内障、色素性網膜炎、白内障形成、網膜芽細胞腫、網膜虚血を含む(これらに限定されない)。
(l)ARPE−19細胞の移植は、癌および癌関連障害、心臓血管疾患、喘息、代謝病および他の関連する病理学の処置のための治療タンパク質を投与するための方法である。
(m)ARPE−19細胞の移植は、所望の抗原性因子をワクチンとして投与するための方法である。
(n)ARPE−19細胞株は、ウイルス遺伝子移入ベクターを産生するためのパッケージング細胞株であり得る。
(o)ARPE−19細胞の移植は、所望の因子をレシピエント宿主に送達するための方法である。成長因子の拡散を可能にする半透膜内にカプセル化されたARPE−19細胞は、レシピエント宿主内の標的領域に移植され、その結果カプセル化されたARPE−19細胞が標的領域に対して所望の因子を分泌する。
【0104】
本培養物への調達を保証する条件下で寄託された上記の寄託された培養物は、37C.F.R.§1.14および35U.S.C.§122の下、その培養物を開示する特許出願の係属の間、それに対して権利を付与する特許庁および商標庁の長官によって決定される者に対して、利用可能である。寄託物は、本出願の対応またはその子孫が出願されている国の外国の特許法によって要求されるように利用可能である。しかし、寄託物の利用可能性は、政府のアクションによって付与される特許権の損傷において、本発明の実施に対してライセンスを与えない。
【0105】
さらに、本培養物の寄託物は、微生物の寄託に関するブタペスト条約の規定に従って、保存され、そして公に利用可能である。すなわち、これらは、寄託の日の後少なくとも30年間、または寄託からのサンプルに対する最後の要求の後、その培養物を開示することを公布し得る任意の特許の行使可能期間に加えて5年間、生存し汚染されないように維持する全ての必要な保護をして保存される。寄託者は、寄託物の条件に起因して保管者がサンプルの分譲が不可能であり要求された場合、寄託物を交換する義務を承認する。本培養物の寄託物の公への利用可能性に対する全ての制限は、それらを開示する特許の付与に対して、取消不能に排除される。
【0106】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細が、上記の説明を伴って示される。本明細書中に記載される任意の方法および材料に類似または等価な、方法および材料が、本発明の実施または試験に使用され得るが、好ましい方法および材料はたった今記載した。本発明の他の特徴、目的および利点が、説明および特許請求の範囲から明らかである。明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形は、文脈に明確に示されない限り複数形を含む。規定されない限り、本明細書中に使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって通常理解されるような意味と同じ意味を有する。本明細書中に引用される全ての特許および刊行物は、参考として援用される。
【0107】
前述の説明は、例示の目的のみに対して示され、そして、ここに添付される特許請求の範囲による以外は、開示される明確な形式に対して本発明を制限することが意図されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−74079(P2011−74079A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256357(P2010−256357)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【分割の表示】特願2000−609543(P2000−609543)の分割
【原出願日】平成12年4月6日(2000.4.6)
【出願人】(307045711)ニューロテック ユーエスエー, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】