説明

カプセル化物及びその製造方法、並びにインク組成物

【課題】本発明は、芯物質が限定されない等の優れた性質を持つカプセル化物を提供することを目的とする。
【解決手段】芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物であって、当該ポリマーが、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、少なくとも(1)当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(2)当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Cから誘導された繰り返し構造単位と、(3)疎水性モノマーおよびウレタン(メタ)アクリレートから誘導され、かつ上記(1)及び(2)の間に存在する繰り返し構造単位とからなることを特徴とするカプセル化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル化物及びその製造方法、並びにインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多くの産業・技術分野で各種物質のカプセル化が行われている。印刷、塗料、インク業界では、顔料や色素等のカプセル化が数多く実用化されている。また、医薬、農薬分野において、効力増強や毒性軽減、安定性付与、効果の遅延等を目的として薬物のカプセル化が数多く試みられている。カプセル化方法としては、一般に相分離法(コアセルベーション法)、液中乾燥法(界面沈澱法)、スプレードライイング法、パンコーティング法、液中硬化被覆法、界面重合法、界面無機反応法、In-situ重合法等が知られている。しかしながら、これらの方法では、芯物質が限定される、シェル層(芯物質の被覆層)の厚みを自由に設計しにくい、芯物質一個をカプセル化することが難しい、カプセル表面の官能基を自由に設計することが難しい、均一な表面状態を有する粒子を製造することが容易でない、ナノオーダーでのカプセル化が容易でない、比較的不安定な化合物へ適用しにくい、製剤製造時に使用する溶媒が製品へ混入しやすい、あるいは得られるカプセルの性状が満足できない等の問題があり、また得られるカプセル化物自体にも用途によっては課題があった。
【0003】
また、微細なノズルヘッドからインク液滴を吐出して、文字や図形を紙などの記録媒体の表面に記録するインクジェット記録方法において、最近では、耐水性や耐光性に優れるという理由から顔料を水中に分散させた水系顔料インクが使用されてきている。このような水系顔料インクには、一般的には界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いて顔料を水性分散媒中に分散させたものが使用されることが多い。しかし、このように顔料粒子の分散のために分散剤を用いると、インクとして好ましい特性を確保するためにはインク組成において調節すべき点が多く、例えば、高い印字濃度や定着性、耐擦性を得ようとすると、粘度が高くなる傾向があるなどの課題があった。
【0004】
さらに、これらの水系顔料インクにおいては、分散剤が顔料粒子表面に単に吸着しているだけであり、強い剪断力が顔料粒子に加わるようなインクジェット記録方法では、顔料粒子表面に吸着していた分散剤が離脱してしまうことがある。これによって、顔料インクの分散性が低下し、吐出安定性(記録ヘッドから一定方向に安定して吐出される特性)が悪化することがある。また、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤で分散した顔料を用いた顔料インクにおいては、これらの分散剤の脱吸着が起こりやすく、長期間保存した場合にも分散が不安定となりやすい。
【0005】
一方、顔料系インクジェットインクに含まれる顔料の記録媒体に対する定着性を向上させる目的で、着色剤粒子がポリマーで被覆されたカプセル化顔料を使用する技術が知られている。
顔料粒子をカプセル化したもの(例えば、特許文献1、2、3参照)や、顔料粒子の表面にポリマーをグラフト重合したもの(例えば、特許文献4〜7参照)が提案されている。また、両親媒性グラフトポリマーを用いて疎水性粉体をカプセル化する方法が提案されている(例えば、特許文献8)が、カプセル化にあたり、予め重合したポリマーを用いるとカプセル化後の粒子径が大きくなりすぎるという問題があった。
【0006】
前記の提案のほかに、転相乳化法によって室温で皮膜形成性可能な樹脂を被覆した顔料を用いたインク(例えば、特許文献9〜17参照)や、酸析法によってアニオン性基含有有機高分子化合物で被覆した顔料を用いたインク(例えば、特許文献18〜27参照)が提案されている。
【0007】
さらに、転相乳化法によってポリマー微粒子と色材を含浸させてなるポリマーエマルションを用いたインクが提案されている。(例えば、特許文献28〜33参照)。しかしながら、転相乳化法や酸析法によって得られた着色剤においても、インクに用いられる浸透剤等の有機溶媒の種類によっては、顔料粒子に吸着されたポリマーの脱離が起きてインク中に溶解することもあり、インクの分散安定性や吐出安定性、画像品質等が十分でない場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−94634号公報
【特許文献2】特開平8−59715号公報
【特許文献3】特開2003−306661公報
【特許文献4】特開平5−339516号公報
【特許文献5】特開平8−302227号公報
【特許文献6】特開平8−302228号公報
【特許文献7】特開平8−81647号公報
【特許文献8】特開平5−320276号公報
【特許文献9】特開平8−218015号公報
【特許文献10】特開平8−295837号公報
【特許文献11】特開平9−3376号公報
【特許文献12】特開平8−183920号公報
【特許文献13】特開平10−46075号公報
【特許文献14】特開平10−292143号公報
【特許文献15】特開平11−80633号公報
【特許文献16】特開平11−349870号公報
【特許文献17】特開平2000−7961号公報
【特許文献18】特開平9−31360号公報
【特許文献19】特開平9−217019号公報
【特許文献20】特開平9−316353号公報
【特許文献21】特開平9−104834号公報
【特許文献22】特開平9−151342号公報
【特許文献23】特開平10−140065号公報
【特許文献24】特開平11−152424号公報
【特許文献25】特開平11−166145号公報
【特許文献26】特開平11−199783号公報
【特許文献27】特開平11−209672号公報
【特許文献28】特開平9−286939号公報
【特許文献29】特開2000−44852号公報
【特許文献30】特開2000−53897号公報
【特許文献31】特開2000−53898号公報
【特許文献32】特開2000−53899号公報
【特許文献33】特開2000−53900号公報
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のカプセル化色材およびその製造方法の概略を示す図である。
【図2】芯物質の表面に吸着した負電荷を持つアニオン性界面活性剤と、正電荷を持つカチオン性重合性界面活性剤(図示しないが上記カチオン性重合性界面活性剤の換わりに、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)と、負電荷を持つアニオン性重合性界面活性剤と疎水性モノマーとが共存している状態を示す模式図である。
【図3】芯物質の表面に吸着した負電荷を持つアニオン性界面活性剤と、正電荷を持つカチオン性界面活性剤と、負電荷を持つアニオン性界面活性剤と疎水性モノマーとが共存している状態を示す模式図である。
【図4】芯物質の表面に吸着した負電荷を持つアニオン性重合性界面活性剤と、正電荷を持つカチオン性重合性界面活性剤(図示しないが上記カチオン性重合性界面活性剤の換わりに、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)と、負電荷を持つアニオン性重合性界面活性剤と疎水性モノマーとが共存している状態を示す模式図である。
【図5】芯物質の表面に吸着した負電荷を持つアニオン性重合性界面活性剤と、正電荷を持つカチオン性重合性界面活性剤(図示しないが上記カチオン性重合性界面活性剤の換わりに、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)と、負電荷を持つアニオン性重合性界面活性剤と非イオン性重合性界面活性剤と、疎水性モノマーとが共存している状態を示す模式図である。
【図6】負電荷を持つアニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性重合性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤及び/又は非イオン性重合性界面活性剤とが芯物質の表面に吸着し、正電荷を持つカチオン性重合性界面活性剤(図示しないが上記カチオン性重合性界面活性剤の換わりに、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)と、負電荷を持つアニオン性重合性界面活性剤と、疎水性モノマーとが共存している状態を示す模式図である。
【図7】図2に示す状態がカプセル化された状態を示す模式図である。
【図8】図3に示す状態がカプセル化された状態を示す模式図である。
【図9】図4に示す状態がカプセル化された状態を示す模式図である。
【図10】図5に示す状態がカプセル化された状態を示す模式図である。
【図11】図6に示す状態がカプセル化された状態を示す模式図である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、その目的とするところは、様々な産業・技術分野において、様々な機能を高く発揮することができるカプセル化物及びその製造方法を提供することにある。
より具体的には、本発明は、(1)芯物質が限定されない、(2)シェル層(芯物質の被覆層)の厚みを自由に設計できる、(3)芯物質一個をカプセル化できる、(4)芯物質とシェル物質とでその機能を分離することができる、(5)均一な表面状態を有する粒子を製造することができる、(6)ナノオーダーでのカプセル化が容易である、(7)均一な粒子径を有する粒子を製造することができる、(8)環境に対して優しい、(9)毒性などのある芯物質のカプセル化によって低毒化または無害化が可能である、(10)カプセル化物のポリマーが柔軟性と強度との双方を兼ね備えることができる、の前記(1)〜(10)の全てを満足するカプセル化物を提供することを目的とするものである。
【0011】
また、本発明は、
(i)インク用の色材として用いた場合、水性分散液中における分散安定性に優れる、
(ii)インクとしたとき、画像の堅牢性に優れた記録物を得ることができる、
(iii)インクとしたとき、画像の耐擦性に優れた記録物を得ることができる、
(iv)インクとしたとき、布帛に印捺した印捺物の風合いを良好にすることができる、
(v)インクジェット記録用インクとしたとき、記録ヘッドからの吐出安定性に優れる、
(vi)インクジェット記録用インクとしたとき画像品質に優れる、
の前記(i)〜(vi)の全てを満足するカプセル化物を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記(1)〜(10)並びに前記(i)〜(vi)の全てを満足するばかりでなく、その他の様々な機能を高く発揮することができるカプセル化物及びカプセル化物の製造方法を提供することを目的とするものである。
さらに、上記カプセル化物からなる水性分散液、インク及びインクジェット記録用インクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の技術的構成を見出し、本発明を完成したものである。
(1)芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物であって、当該ポリマーが、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、少なくとも(1)当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(2)当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Cから誘導された繰り返し構造単位と、(3)疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートから誘導され、かつ上記(1)及び(2)の間に存在する繰り返し構造単位とからなることを特徴とするカプセル化物。
(2)芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物であって、当該ポリマーが、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートからなる繰り返し構造単位からなり、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性界面活性剤b及び当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性界面活性剤cとの間に存在することを特徴とするカプセル化物。
(3)前記ポリマーが、前記イオン性重合性界面活性剤Cから誘導された繰り返し構造単位とともに、当該イオン性重合性界面活性剤Cと同種の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有することを特徴とする、請求項1に記載のカプセル化物。
(4)前記イオン性界面活性剤aが、重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤Aであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のカプセル化物。
(5)前記ポリマーが、さらに非イオン性基と疎水性基と重合性基とを有する非イオン性重合性界面活性剤Dから誘導された繰り返し構造を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のカプセル化物。
(6)前記ポリマーが、前記イオン性界面活性剤aとともに、非イオン性基と疎水性基を有する非イオン性界面活性剤eを介して芯物質と接してなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のカプセル化物。
(7)前記非イオン性界面活性剤eが、さらに重合性基を有する非イオン性重合性界面活性剤Eであることを特徴とする、請求項6に記載のカプセル化物。
(8)前記イオン性界面活性剤a及び/又は前記イオン性重合性界面活性剤Aの「イオン性基」が、前記イオン性界面活性剤b及び/又は前記イオン性重合性界面活性剤Bの「イオン性基」と向かい合い、当該イオン性界面活性剤b及び/又は当該イオン性重合性界面活性剤Bの「疎水性」基が、前記イオン性界面活性剤c及び/又は前記イオン性重合性界面活性剤Cの「疎水性基」と向かい合い、当該イオン性界面活性剤c及び/又はイオン性重合性界面活性剤Cの「イオン性基」がカプセル化物の最外層に存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のカプセル化物。
(9)さらに前記非イオン性重合性界面活性剤Dの非イオン性基がカプセル化物の最外層に存在することを特徴とする請求項5に記載のカプセル化物。
(10)(イ)芯物質の表面に、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤a及び/又はイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Aを吸着させる工程、(ロ)当該イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーを混合し吸着させる工程、(ハ)疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを加えて混合する工程、(ニ)当該イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aと同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cを加えて混合する工程、および(ホ)これに重合開始剤を加えて重合する工程を少なくとも有するカプセル化物の製造方法。
(11)(イ)芯物質の表面に、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを吸着させる工程、(ロ)当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性界面活性剤bを混合し吸着させる工程、(ハ)疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを加えて混合する工程、(ニ)当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性界面活性剤cを加えて混合する工程、および(ホ)これに重合開始剤を加えて疎水性モノマーを重合する工程を少なくとも有するカプセル化物の製造方法。
(12)前記(ロ)工程において、混合後に超音波を照射して処理する工程を含むことを特徴とする、請求項10または11に記載のカプセル化物の製造方法。
(13)請求項1〜9のいずれかに記載のカプセル化物または請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法により得られるカプセル化物を含んでなるインク組成物。
(14)1,2−アルキルジオールを含んでなる(13)に記載のインク組成物。
(15)アセチレングリコール系及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤を含んでなる(13)または(14)に記載のインク組成物。
(16)多価アルコールのアルキルエーテルを含んでなる(13)〜(15)のいずれかに記載のインク組成物。
(17)下記一般式(1)に示す化合物を含んでなることを特徴とする(13)〜(16)のいずれかに記載のインク組成物。
【0013】
【化1】

【0014】
化1で示す一般式(1)において、R1、R2はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基を表し、m,nはそれぞれ繰り返し単位数であって、m+nが平均で0〜10である。
【0015】
本発明のカプセル化物は、その芯物質として無機物、有機物の何れも使用できる。具体的には無機物粒子、有機物粒子、ポリマー粒子等が使用可能で、芯物質は限定されない。また、毒性などのある芯物質をカプセル化することによって、低毒化または無害化も可能である。
【0016】
本発明のカプセル化物は、シェル層(芯物質の被覆(ポリマー)層)の厚みを自由に設計することができるとともに、芯物質とシェル物質とでその機能を分離することができる。しかも、均一な表面状態を有する粒子を製造することができる。
【0017】
また、本発明のカプセル化物は、一個の芯物質をカプセル化することができ、ナノオーダーでのカプセル化も容易である。
また、本発明のカプセル化物は、均一な粒子径を有する粒子(粉体)を製造することができる。
また、本発明のカプセル化物は、溶剤を使用しない水系の反応によって製造することができるため、環境への悪影響を及ぼすことが無い。
また、本発明のカプセル化物は、ポリマーの柔軟性と強度との双方に優れる。
【0018】
さらにまた、本発明の製造法を用いて製造したカプセル化物をインク用の色材として用いた場合においては、水性分散液中における分散安定性に優れたインクを得ることができる。そして、このインクは、堅牢性にも耐擦性にも優れた記録物を得ることができる。さらに、本発明の製造法を用いて製造したカプセル化物をインクジェット記録用インクとして用いた場合には、記録ヘッドからの吐出安定性に優れ、且つ画像品質も優れた記録物を得ることができる。
【0019】
本発明のカプセル化物の製造方法によれば、芯物質の被覆層のポリマーを目的の機能に応じて自由に設計できるとともに、最外殻の官能基を選択することによって、容易に目的とする特性を持ったカプセル化物を得ることができる。特に、柔軟性と強度との双方に優れたカプセル化物を得ることができるとともに、布帛に印捺した際は風合いに優れた印捺物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施形態)
以下、本実施形態のカプセル化物及びその製造方法について詳細に説明する。
本実施形態に係るカプセル化物は、少なくともイオン性界面活性剤の吸着した芯物質が、ポリマーを主成分とする被覆層によって被覆されたカプセル化物であって、芯物質に吸着したイオン性界面活性剤を介して、少なくとも(1)当該イオン性界面活性剤に対して反対電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(2)当該イオン性界面活性剤と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤から誘導された繰り返し構造単位と、(3)疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートから誘導され、かつ上記(1)及び(2)の間に存在する繰り返し構造単位とからなることを特徴としている。
【0021】
このようなカプセル化物は、少なくともイオン性界面活性剤を吸着させた芯物質の水性分散液に、このイオン性界面活性剤に対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを加えて混合し、その後芯物質に吸着したイオン性界面活性剤と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤を加えて混合し乳化した後に、重合開始剤を加えて水中にて重合することでポリマー被覆層が形成され、好適に製造できる。
【0022】
本発明者は、芯物質の表面に、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを吸着させる工程、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーを混合し吸着させる工程、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを加えて混合する工程、当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cを加えて混合する工程、および、これに重合開始剤を加えて重合する工程を含む製造方法によって、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cから誘導された繰り返し構造単位と、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートから誘導され、かつ上記2つの繰り返し構造単位の間に存在する繰り返し構造単位とを少なくとも有するポリマーが、当該イオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、芯物質を被覆することができるとの知見を得た。
【0023】
また、本発明者は、芯物質の表面に、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを吸着させる工程、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーを混合し吸着させる工程、当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cを加えて混合する工程、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを加えて混合する工程、および、これに重合開始剤を加えて重合する工程を含む製造方法によって、当該イオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cから誘導された繰り返し構造単位と、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有するポリマーが、当該イオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、芯物質を被覆することができるとの知見を得た。
【0024】
また、本発明者は、芯物質の表面に、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを吸着させる工程、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性界面活性剤bを混合し吸着させる工程、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを加えて混合する工程、当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性界面活性剤c加えて混合する工程、および、これに重合開始剤を加えて疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを重合する工程を含む製造方法、又は、芯物質の表面に、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを吸着させる工程、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性界面活性剤bを混合し吸着させる工程、当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性界面活性剤c加えて混合する工程、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを加えて混合する工程、および、これに重合開始剤を加えて疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを重合する工程を含む製造方法によって、当該イオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性界面活性剤bと、当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性界面活性剤cとの間に存在するポリマーにより芯物質が被覆されるとの知見を得た。
【0025】
さらに、本発明者は、芯物質に顔料等の色材粒子を用いて得たカプセル化色材が、水性媒体中で優れた分散安定性を示し、記録ヘッドからの吐出安定性に優れること、また、該カプセル化色材を含むインク組成物で普通紙やインクジェット専用メディア等の記録媒体上に、高発色で光沢性と写像性に優れ、且つ耐擦性や堅牢性にも優れた画像を形成できることを見出した。本発明者はこれらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0026】
上記の重合法を用いることによって、芯物質に吸着したイオン性界面活性剤のイオン性基と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーがイオン的に結合し、イオン的に結合したイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーの疎水性基と芯物質に吸着したイオン性界面活性剤と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤の疎水性基が向き合い、このイオン性重合性界面活性剤のイオン性基が水相側に向いて配向した構造が形成され、この形成された状態のまま重合反応によって芯物質上にポリマー層が形成される。
すなわち、重合反応前に、芯物質の周囲に存在するイオン性界面活性剤、イオン性重合性界面活性剤、イオン性モノマー等の配置形態が極めて高度に制御され、最外殻では水相に向かってイオン性基が配向した状態が形成される。そして、重合反応によって、この高度に制御された形態のまま、イオン性重合性界面活性剤、イオン性モノマー等がポリマーに転化して芯物質上にポリマー層が形成される。これによって、本実施形態のカプセル化物は極めて高精度に構造が制御されたものとなる。
【0027】
上述した本実施形態に係るカプセル化物のカプセル化前の状態と、カプセル化後の状態を、以下に図面を用いて説明する。
【0028】
図1は、本実施形態のカプセル化色材およびその製造方法の概略を示す図である。
図2は、芯(コア)物質1の表面に吸着した負電荷を持つアニオン性基21と疎水性基22とを有するアニオン性界面活性剤2’(イオン性界面活性剤a)と、正電荷を持つカチオン性基31と疎水性基32と重合性基33を有するカチオン性重合性界面活性剤3(イオン性重合性界面活性剤B)(図示しないが上記Bの換わりに、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)と、負電荷を持つアニオン性基41と疎水性基42と重合性基43とを有するアニオン性重合性界面活性剤4(イオン性重合性界面活性剤C)と疎水性モノマー5とが共存している状態を表す図である。
カチオン性重合性界面活性剤3は、そのカチオン性基31が芯物質1に吸着しているアニオン性界面活性剤2’のアニオン性基21に向くよう配置され、イオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性重合性界面活性剤3の疎水性基32及び重合性基33に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42と重合性基43が向き合い、アニオン性重合性界面活性剤4のアニオン性基41は水性溶媒の存在する方向、すなわち芯物質1からは最も離れた方向に存在している。疎水性モノマー5はカチオン性重合性界面活性剤3の疎水性基32及び重合性基33とアニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42と重合性基43とが向き合って形成される疎水相に存在している。
【0029】
図3は、芯物質1の表面に吸着した負電荷を持つアニオン性基21と疎水性基22を有するアニオン性界面活性剤2’(イオン性界面活性剤a)と、正電荷を持つカチオン性基31と疎水性基32とを有するカチオン性界面活性剤3’(イオン性界面活性剤b)と、負電荷を持つアニオン性基41と疎水性基42とを有するアニオン性界面活性剤4’(イオン性界面活性剤c)と疎水性モノマー5とが共存している状態を表す図である。カチオン性界面活性剤3’は、そのカチオン性基31が芯物質1に吸着しているアニオン性界面活性剤2’のアニオン性基21に向くよう配置され、イオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性界面活性剤3’の疎水性基32に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性界面活性剤4’の疎水性基42が向き合い、アニオン性界面活性剤4’のアニオン性基41は水性溶媒の存在する方向、すなわち芯物質1からは最も離れた方向に存在している。疎水性モノマー5はカチオン性界面活性剤3’の疎水性基32とアニオン性重合性界面活性剤4’の疎水性基42とが向き合って形成される疎水相に存在している。
【0030】
図4は、芯物質1の表面に吸着した負電荷を持つアニオン性基21と疎水性基22と重合性基23を有するアニオン性重合性界面活性剤2(イオン性重合性界面活性剤A)と、正電荷を持つカチオン性基31と疎水性基32と重合性基33とを有するカチオン性重合性界面活性剤(イオン性重合性界面活性剤B)(図示しないが上記Bの換わりに、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)と、負電荷を持つアニオン性基41と疎水性基42と重合性基43とを有するアニオン性重合性界面活性剤4(イオン性重合性界面活性剤C)と疎水性モノマー5とが共存している状態を表す図である。
カチオン性重合性界面活性剤3は、そのカチオン性基31が芯物質1に吸着しているアニオン性重合性界面活性剤2のアニオン性基21に向くよう配置され、イオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性重合性界面活性剤3の重合性基33に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42と重合性基43が向き合い、アニオン性重合性界面活性剤4のアニオン性基41は水性溶媒の存在する方向、すなわち芯物質1からは最も離れた方向に存在している。疎水性モノマー5はカチオン性重合性界面活性剤3の疎水性基32及び重合性基33とアニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42と重合性基43とが向き合って形成される疎水相に存在している。
【0031】
図5は、芯物質1の表面に吸着した負電荷を持つアニオン性基21と疎水性基22と重合性基23を有するアニオン性重合性界面活性剤2(イオン性重合性界面活性剤A)と、正電荷を持つカチオン性基31と疎水性基32と重合性基33とを有するカチオン性重合性界面活性剤3(イオン性重合性界面活性剤B)(図示しないが上記Bの換わりに、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)と、負電荷を持つアニオン性基41と疎水性基42と重合性基43とを有するアニオン性重合性界面活性剤4(イオン性重合性界面活性剤C)と、非イオン性基81と疎水性基82と重合性基83とを有する非イオン性重合性界面活性剤8(非イオン性重合性界面活性剤D)と、疎水性モノマー5とが共存している状態を表す図である。
カチオン性重合性界面活性剤3は、そのカチオン性基31が芯物質1に吸着しているアニオン性重合性界面活性剤2のアニオン性基21に向くよう配置され、イオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性重合性界面活性剤3の疎水性基32及び重合性基33に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42及び重合性基43と非イオン性重合性界面活性剤8の疎水性基82及び重合性基83とが向き合い、アニオン性重合性界面活性剤4のアニオン性基41と非イオン性重合性界面活性剤8の非イオン性基81が水性溶媒の存在する方向、すなわち芯物質1からは最も離れた方向に存在している。疎水性モノマー5はカチオン性重合性界面活性剤3の疎水性基32及び重合性基33と、アニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42及び重合性基43並びに非イオン性重合性界面活性剤8の疎水性基82及び重合性基83とが向き合って形成される疎水相に存在している。
【0032】
図6は、負電荷を持つアニオン性基21と疎水性基22とを有するアニオン性界面活性剤2’(イオン性界面活性剤a)及び/又は負電荷を持つアニオン性基21と疎水性基22と重合性基23を有するアニオン性重合性界面活性剤2(イオン性重合性界面活性剤A)と、非イオン性基91と疎水性基92を有する非イオン性界面活性剤9’(非イオン性重合性界面活性剤e)及び/又は非イオン性基91と疎水性基92と重合性基93とを有する非イオン性重合性界面活性剤9(非イオン性重合性界面活性剤E)と、が双方芯物質表面に吸着し(接し)、正電荷を持つカチオン性基31と疎水性基32と重合性基33とを有するカチオン性重合性界面活性剤3(イオン性重合性界面活性剤B)(図示しないが上記Bの換わりに、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)と、負電荷を持つアニオン性基41と疎水性基42と重合性基43とを有するアニオン性重合性界面活性剤4(イオン性重合性界面活性剤C)と、疎水性モノマー5とが共存している状態を表す図である。
カチオン性重合性界面活性剤3は、そのカチオン性基31が芯物質1に吸着しているアニオン性界面活性剤2'のアニオン性基21及び/又はアニオン性重合性界面活性剤2のアニオン性基21に向くよう配置され、イオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性重合性界面活性剤3の疎水性基32及び重合性基33に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42及び重合性基43とが向き合い、アニオン性重合性界面活性剤4のアニオン性基41が水性溶媒の存在する方向、すなわち芯物質1からは最も離れた方向に存在している。疎水性モノマー5はカチオン性重合性界面活性剤3の疎水性基32及び重合性基33と、アニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42及び重合性基43とが向き合って形成される疎水相に存在している。
【0033】
図7に示すように、図2の混合液に重合開始剤を添加して、カチオン性重合性界面活性剤3(図示しないが、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)とアニオン性重合性界面活性剤4及び疎水性モノマーを重合させることによって、芯物質1はポリマー層60で被覆され、カプセル化物100が生成される。ここで、ポリマー層60の表面はアニオン性基41が水相側に向かって規則正しく密に存在するので、カプセル化物100は、水性溶媒に非常に良好に分散する。
【0034】
同様に、図8は図3の混合液に重合開始剤を添加して重合させた場合であり、図9は図4の混合液に重合開始剤を添加して重合させた場合であり、図10は図5の混合液に重合開始剤を添加して重合させた場合であり、図11は図6の混合液に重合開始剤を添加して重合させた場合である。
【0035】
本実施形態のカプセル化物のアスペクト比(長短度)は1.0〜1.3であり、かつ、Zingg指数は、1.0〜1.3(より好ましくは1.0〜1.2)であることが好ましい。
ある粒子の短径をb、長径をl、厚みをt(l≧b≧t>0)とした場合、アスペクト比(長短度)はl/b(≧1)、扁平度はb/t(≧1)であり、Zingg指数=長短度/扁平度=(l・t)/b2である。すなわち、真球は、アスペクト比が1であり、かつ、Zingg指数が1となる。
Zingg指数が1.3より大きくなると、カプセル化物がより扁平形状となって等方性が低くなる。アスペクト比ならびにZingg指数を上記範囲内とする方法としては特に限定されないが、イオン性基を表面に有する芯物質が前記した製造方法によってポリマーで被覆されたカプセル化物は、この条件を容易に満たし得る。
なお、酸析法や転相乳化法等の乳化重合法以外の方法によって作製されたカプセル化物では、アスペクト比ならびにZingg指数が上記範囲内になり難い。
芯物質が顔料である本実施形態のカプセル化顔料はアスペクト比ならびにZingg指数が上記の範囲となり、真球状となるが、これによって、インクの流動特性がニュートニアンとなりやすく、吐出安定性に優れたものとなる。また、真球状であることから、紙等の記録媒体に着弾した場合にカプセル化顔料が記録媒体上に高密度で配置され、印刷濃度や発色を高効率で発現することができる。また、真球状であることから、分散性や分散安定性にも優れる。
【0036】
次に、本実施形態に係るカプセル化物の構成成分について詳細に説明する。
【0037】
〔芯物質〕
本実施形態のカプセル化物の芯物質としては、特に限定されないが、具体的には、色材、無機物、有機物、無機有機複合粒子、無機コロイド、ポリマー粒子、金属酸化物(シリカ、チタニア等)が挙げられる。
有機物として、例えば、危険な薬品等を意図した場合、本実施形態のカプセル化物は、そのような危険な薬品等の取り扱い性を良くする等の効果を奏する。
無機有機複合粒子は、樹脂成型体等の充填材として用いることにより、その成型体の特性を向上させることができるものである。
無機コロイドは、透明性の高いハードコート層に使用できるものである。
芯物質として色材粒子を用いる場合、所望の色を発色し得る無機顔料や有機顔料等の顔料、分散染料や油溶性染料等の水に不溶もしくは難溶の染料を挙げることができる。
また、本実施形態の方法によって色材をカプセル化する場合は、塗料や顔料インク、トナー等の着色剤として使用することができる。
本実施形態に係るカプセル化物においては、前記の芯物質を1種又は2種以上組合せて使用することもできる。
【0038】
[イオン性界面活性剤]
本実施形態に用いられるイオン性界面活性剤は、イオン性基と疎水性基とを有するものであれば特に限定されない。イオン性基としては、アニオン性基、カチオン性基のいずれでもよく、カプセル化物の用途に応じて適宜選択される。
本実施形態で用いるイオン性界面活性剤において、アニオン性基を有するものをアニオン性界面活性剤、カチオン性基を有するものをカチオン性界面活性剤とする。
【0039】
アニオン性基としては、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸エステル基、スルフィン酸エステル基、リン酸エステル基、および、これらの塩の群から選択されたものを好適に例示できる。塩としては、Na塩、K塩 、Ca塩、有機アミン塩などを挙げることができる。
【0040】
カチオン性基としては、一級アンモニウムカチオン、二級アンモニウムカチオン、三級アンモニウムカチオン、及び第四級アンモニウムカチオンなる群から選択されたカチオン性基が好ましい。一級アンモニウムカチオンとしてはモノアルキルアンモニウムカチオン(RNH3+)等を、二級アンモニウムカチオンとしてはジアルキルアンモニウムカチオン(R2NH2+)等を、三級アンモニウムカチオンとしてはトリアルキルアンモニウムカチオン(R3NH+)等を、第四級アンモニウムカチオンとしては(R4N+)等を挙げることができる。ここで、Rは、疎水性基であり、以下に示すものを挙げることができる。また、上記カチオン性基の対アニオンとしては、Cl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C2H5OSO3-などを挙げることができる。
【0041】
疎水性基としては、炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
【0042】
[イオン性重合性界面活性剤]
本実施形態に用いられるイオン性重合性界面活性剤は、前記のイオン性基と前記の疎水性基とさらに重合性基を有するイオン性界面活性剤である。重合性基としては、ラジカル重合が可能な不飽和炭化水素基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基からなる群から選択された基であることが好ましい。このなかでも特にアリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基が好ましい。
【0043】
疎水性基としては、炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
イオン性基としては、アニオン性基、カチオン性基のいずれでもよく、カプセル化物の用途に応じて適宜選択される。
イオン性重合性界面活性剤は、イオン性基として、アニオン性基、カチオン性基のいずれを有するかによって、それぞれアニオン性重合性界面活性剤、カチオン性重合性界面活性剤と称される。
【0044】
[アニオン性重合性界面活性剤]
本実施形態に用いられるアニオン性重合性界面活性剤は、アニオン性基と疎水性基とさらに重合性基を有するアニオン性界面活性剤である。
アニオン性基としては、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸エステル基、スルフィン酸エステル基、リン酸エステル基、および、これらの塩の群から選択されたものを好適に例示できる。塩としては、Na塩、K塩 、Ca塩、有機アミン塩などを挙げることができる。
【0045】
疎水性基としては、炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
重合性基としては、ラジカル重合が可能な不飽和炭化水素基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基からなる群から選択された基であることが好ましい。このなかでも特にアリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基が好ましい。
アニオン性重合性界面活性剤の具体例としては、特公昭49−46291号公報、特公平1−24142号公報、又は特開昭62−104802号公報に記載されているようなアニオン性のアリル誘導体、特開昭62−221431号公報に記載されているようなアニオン性のプロペニル誘導体、特開昭62−34947号公報又は特開昭55−11525号公報に記載されているようなアニオン性のアクリル酸誘導体、特公昭46−34898号公報又は特開昭51−30284号公報に記載されているようなアニオン性のイタコン酸誘導体などを挙げることができる。
【0046】
本実施形態において使用するアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(31)で表される化合物が好ましい。
【0047】
【化2】

【0048】
化2で示す一般式(31)において、R21及びR31は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基であり、Z1は、炭素−炭素単結合又は式:−CH2−O−CH2−で表される基であり、mは2〜20の整数であり、Xは式−SO3M1で表される基であり、M1はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンである。
又は、例えば、下記一般式(32)で表される化合物が好ましい。
【0049】
【化3】

【0050】
化2で示す一般式(32)において、R22及びR32は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基であり、Dは、炭素−炭素単結合又は式:−CH2−O−CH2−で表される基であり、nは2〜20の整数であり、Yは式−SO3M2で表される基であり、M2はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンである。
【0051】
一般式(31)で表されるアニオン性重合性界面活性剤としては、特開平5−320276号公報、又は特開平10−316909号公報に記載されている化合物を挙げることができる。一般式(31)におけるmの値を適宜調整することによって、色材粒子をカプセル化して得られるカプセル化色材粒子表面の親水性を調整することが可能である。一般式(31)で表される好ましい重合性界面活性剤としては、下記の一般式(310)で表される化合物を挙げることができ、さらに具体的には、下記の一般式(31a)〜(31d)で表される化合物を挙げることができる。
【0052】
【化4】

【0053】
化4で示す一般式(310)において、R31、m、及びM1は一般式(31)で表される化合物と同様である。
【0054】
【化5】

【0055】
【化6】

【0056】
【化7】

【0057】
【化8】

【0058】
【化9】

【0059】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−10Nは、一般式(310)で表される化合物において、M1がNH4、R31がC9H19、m=10とされる化合物である。旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−20Nは、一般式(310)で表される化合物において、M1がNH4、R31がC9H19、m=20とされる化合物である。
また、本実施形態において用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式(33)で表される化合物が好ましい。
【0060】
【化10】

【0061】
化9で示す一般式(33)において、pは9又は11であり、qは2〜20の整数であり、Aは−SO3M3で表わされる基であり、M3はアルカリ金属、アンモニウム塩又はアルカノールアミンである。
一般式(33)で表される好ましいアニオン性重合性界面活性剤としては、以下の化合物を挙げることができる。
【0062】
【化11】

【0063】
化10で示す式において、rは9又は11、sは5又は10である。
上記アニオン性重合性界面活性剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンKHシリーズ(アクアロンKH−5、及びアクアロンKH−10)(以上、商品名)などを挙げることができる。アクアロンKH−5は、上記化10で示す式で示される化合物において、rが9及びsが5である化合物と、rが11及びsが5である化合物との混合物である。アクアロンKH−10は、上記化10で示す式で示される化合物において、rが9及びsが10である化合物と、rが11及びsが10である化合物との混合物である。
また、本実施形態に用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、下記の一般式(34)で表される化合物が好ましい。
【0064】
【化12】

【0065】
化11で示す一般式(34)において、Rは炭素数8〜15のアルキル基であり、nは2〜20の整数であり、Xは−SO3Bで表わされる基であり、Bはアルカリ金属、アンモニウム塩又はアルカノールアミンである。
【0066】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープSRシリーズ(アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−1025)(以上、商品名)などを挙げることができる。アデカリアソープSRシリーズは、上記一般式(34)において、BがNH4で表される化合物であって、SR−10はn=10、SR−20はn=20である化合物である。
また、本実施形態に用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、下記の一般式(A)で表される化合物も使用できる。
【0067】
【化13】

【0068】
化12で示す一般式(A)において、R4は水素原子又は炭素数1から12の炭化水素基を表し、lは2〜20の数を表し、M4はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンを表す。
【0069】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンHSシリーズ(アクアロンHS−10、HS−20、及びHS−1025)(以上、商品名)が挙げられる。
また、本実施形態において用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式(35)で表されるアルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩を挙げることができる。
【0070】
【化14】

【0071】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール JS−2を挙げることができ、上記一般式(35)において、m=12で表される化合物である。
また、本実施形態において用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式(36)で表されるメタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム塩を挙げることができる。下記一般式(36)で、nは1〜20である。
【0072】
【化15】

【0073】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール RS−30を挙げることができ、上記一般式(36)において、n=9で表される化合物である。
また、本実施形態において用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式(37)で表される化合物を用いることができる。
【0074】
【化16】

【0075】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもでき、日本乳化剤株式会社のAntox MS−60がこれに当たる。
以上に例示したアニオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0076】
[カチオン性重合性界面活性剤]
本実施形態に用いられるカチオン性重合性界面活性剤は、カチオン性基と疎水性基とさらに重合性基を有するカチオン性界面活性剤である。
カチオン性基としては、一級アンモニウムカチオン、二級アンモニウムカチオン、三級アンモニウムカチオン、及び第四級アンモニウムカチオンなる群から選択されたカチオン性基が好ましい。一級アンモニウムカチオンとしてはモノアルキルアンモニウムカチオン(RNH3+)等を、二級アンモニウムカチオンとしてはジアルキルアンモニウムカチオン(R2NH2+)等を、三級アンモニウムカチオンとしてはトリアルキルアンモニウムカチオン(R3NH+)等を、第四級アンモニウムカチオンとしては(R4N+)等を挙げることができる。ここで、Rは、疎水性基であり、以下に示すものを挙げることができる。
【0077】
疎水性基としては、炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
また、上記カチオン性基の対アニオンとしては、Cl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C2H5OSO3-などを挙げることができる。
【0078】
重合性基としては、ラジカル重合が可能な不飽和炭化水素基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基からなる群から選択された基であることが好ましい。このなかでも特にアリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基が好ましい。
【0079】
カチオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式R[4-(l+m+n)]1l2m3n+・X-で表される化合物を挙げることができる(前記一般式中、Rは重合性基であり、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基であり、X-はCl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C2H5OSO3-であり、l、m及びnはそれぞれ1又は0である)。ここで、重合性基としては、前述したものを挙げることができる。
カチオン性重合性界面活性剤の具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルオクチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルセチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルテトラデシルクロライド塩、等を挙げることができる。以上例示したカチオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0080】
[非イオン性重合性界面活性剤]
本実施形態に用いられる非イオン性重合性界面活性剤は、非イオン性基と疎水性基と重合性基を有するものである。
非イオン性基としては水酸基、ポリオキシエチレン基、ポリグリセリン基、等が挙げられる。
疎水性基としては、炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
重合性基としては、ラジカル重合が可能な不飽和炭化水素基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基からなる群から選択された基であることが好ましい。このなかでも特にアリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基が好ましい。疎水性基および重合性基としては、前述したものと同様のものを挙げることができる。
【0081】
本実施形態に用いる非イオン性重合性界面活性剤としては、下記の一般式(100)で表される化合物を使用できる。
【0082】
【化17】

【0083】
化16で示す一般式(100)において、R50は水素原子又は炭素数1から12の炭化水素基を表し、nは5〜50の数を表す。]
上記非イオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンRNシリーズ(アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、及びRN−2025)(以上、商品名)が挙げられる。下記一般式(101)はアクアロンRN−20を示す。
【0084】
【化18】

【0085】
本実施形態に用いる非イオン性重合性界面活性剤としては、下記の一般式(103)で表される化合物を使用できる。
【0086】
【化19】

【0087】
化18で示す一般式(103)において、R51は水素原子又は炭素数1から12の炭化水素基を表し、nは5〜50の数を表す。
上記非イオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のノイゲンシリーズ(ノイゲンN−10、N−20、N−30、N−50)(以上、商品名)が挙げられる。下記一般式(104)はノイゲンN−20を示す。
【0088】
【化20】

【0089】
本実施形態に用いる非イオン性重合性界面活性剤としては、下記の一般式(105)で表される化合物を使用できる。
【0090】
【化21】

【0091】
化20で示す一般式(105)において、R52は炭素数8〜15のアルキル基であり、nは5〜50の整数である。
【0092】
上記非イオン性重合性界面活性剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープERシリーズ(アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40)(以上、商品名)などを挙げることができる。ER−10はn=10、ER−20はn=20、ER−30はn=30、ER−40はn=40である化合物である。
本実施形態に用いる非イオン性重合性界面活性剤としては、下記の一般式(106)で表される化合物を使用できる。
【0093】
【化22】

【0094】
化20で示す一般式(106)において、R53は水素原子又は炭素数1から12の炭化水素基を表し、nは5〜50の数を表す。
【0095】
上記非イオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープNEシリーズ(アデカリアソープNE−5、NE−10、NE−20、NE−30、NE−40)(以上、商品名)などを挙げることができる。NE−5はn=5、NE−10はn=10、NE−20はn=20、NE−30はn=30、NE−40はn=40である化合物である。
下記一般式(107)はアデカリアソープNE−10を示す。
【0096】
【化23】

【0097】
本実施形態に用いる非イオン性重合性界面活性剤としては、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(商品名:ブレンマー50PEP−300、<日本油脂株式会社製>、式(108))、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマー70PEP−350B、<日本油脂株式会社製>、式(109))、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート(商品名:ブレンマーAEPシリーズ、<日本油脂株式会社製>)、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート(商品名:ブレンマーAETシリーズ、<日本油脂株式会社製>)、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート(商品名:ブレンマーAPTシリーズ、<日本油脂株式会社製>)、ラウロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPLE−200、<日本油脂株式会社製>、式(110))、ラウロキシポリエチレングリコールモノアクリレート(商品名:ブレンマーALE−200、ALE−800、<日本油脂株式会社製>、式(111))、ステアロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPSE−200、PSE−400、PSE−1300、<日本油脂株式会社製>、式(112))、ステアロキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート(商品名:ブレンマーASEPシリーズ、<日本油脂株式会社製>、式(113))、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート(商品名:ブレンマーANE−300、ANE−1300<日本油脂株式会社製>、式(114))、ノニルフェノキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPNEPシリーズ<日本油脂株式会社製>、式(115))、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPNPEシリーズ<日本油脂株式会社製>、式(116))、ノニルフェノキシポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノアクリレート(商品名:ブレンマー43ANEP−500、70ANEP−550、75ANEP−600、<日本油脂株式会社製>)が挙げられる。
【0098】
【化24】

【0099】
【化25】

【0100】
【化26】

【0101】
【化27】

【0102】
【化28】

【0103】
【化29】

【0104】
【化30】

【0105】
【化31】

【0106】
【化32】

【0107】
[イオン性モノマー]
本実施形態で用いるイオン性モノマーは、イオン性基および重合性基を有する化合物で、水溶性である。
イオン性基としては、アニオン性基、カチオン性基のいずれでもよく、カプセル化物の用途に応じて適宜選択される。
【0108】
アニオン性基としては、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸エステル基、スルフィン酸エステル基、リン酸エステル基、および、これらの塩の群から選択されたものを好適に例示できる。塩としては、Na塩、K塩、Ca塩、有機アミン塩などを挙げることができる。
【0109】
カチオン性基としては、一級アンモニウムカチオン、二級アンモニウムカチオン、三級アンモニウムカチオン、及び第四級アンモニウムカチオンなる群から選択されたカチオン性基が好ましい。一級アンモニウムカチオンとしてはモノアルキルアンモニウムカチオン(RNH3+)等を、二級アンモニウムカチオンとしてはジアルキルアンモニウムカチオン(R2NH2+)等を、三級アンモニウムカチオンとしてはトリアルキルアンモニウムカチオン(R3NH+)等を、第四級アンモニウムカチオンとしては(R4N+)等を挙げることができる。ここで、Rは、疎水性基であり、以下に示すものを挙げることができる。また、上記カチオン性基の対アニオンとしては、Cl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C2H5OSO3-などを挙げることができる。
イオン性基として、アニオン性基、カチオン性基のいずれを有するかによって、それぞれアニオン性水溶性モノマー、カチオン性水溶性モノマーと称される。
【0110】
本実施形態で使用できるカチオン性水溶性モノマーの好ましい具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド塩、及び2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド塩、等が挙げられる。上記のカチオン性水溶性モノマーとしては市販品を用いることもでき、例えば、アクリエステルDMC(三菱レイヨン(株))、アクリエステルDML60(三菱レイヨン(株))、及びC−1615(第一工業製薬(株))などを挙げることができる。以上例示したカチオン性水溶性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0111】
本実施形態において使用できるアニオン性水溶性モノマーの好ましい具体例としては、カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、4−スチレンスルホン酸及びその塩、ビニルスルホン酸及びその塩、スルホエチルアクリレート及びその塩、スルホエチルメタクリレート及びその塩、スルホアルキルアクリレート及びその塩、スルホアルキルメタクリレート及びその塩、スルホプロピルアクリレート及びその塩、スルホプロピルメタクリレート及びその塩、スルホアリールアクリレート及びその塩、スルホアリールメタクリレート及びその塩、ブチルアクリルアミドスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。また、ホスホン基を有するモノマーとしては、ホスホエチルメタクリレート等のリン酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。以上例示したアニオン性水溶性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0112】
[イオン性界面活性剤a]
本実施形態に用いるイオン性界面活性剤aは、芯物質に吸着させる目的で使用するものであって、イオン性基はアニオン性、カチオン性の何れでも構わない。
本実施形態で用いるイオン性界面活性剤aは、前述のイオン性界面活性剤の項目で記載したものと同じである。
【0113】
[イオン性重合性界面活性剤A]
本実施形態に用いるイオン性重合性界面活性剤Aは、芯物質に吸着させる目的で使用するものであって、イオン性基はアニオン性、カチオン性の何れでも構わない。
本実施形態で用いるイオン性重合性界面活性剤Aは、前述のイオン性重合性界面活性剤の項目およびアニオン性重合性界面活性剤の項目並びにカチオン性重合性界面活性剤の項目で記載したものと同じである。
【0114】
[イオン性重合性界面活性剤B]
本実施形態に用いるイオン性重合性界面活性剤Bは、イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aのイオン性基に対して、反対電荷を有するものである。
本実施形態で用いるイオン重合性界面活性剤Bとして用いられるアニオン性重合性界面活性剤およびカチオン性重合性界面活性剤は、前述のイオン性重合性界面活性剤の項目およびアニオン性重合性界面活性剤の項目並びにカチオン性重合性界面活性剤の項目で記載したものと同じである。
【0115】
[イオン性重合性界面活性剤C]
本実施形態に用いるイオン性重合性界面活性剤Cは、イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aのイオン性基に対して、同種又は反対電荷を有するものである。
本実施形態で用いるイオン重合性界面活性剤Cとして用いられるアニオン性重合性界面活性剤およびカチオン性重合性界面活性剤は、前述のイオン性重合性界面活性剤の項目およびアニオン性重合性界面活性剤の項目並びにカチオン性重合性界面活性剤の項目で記載したものと同じである。
【0116】
[非イオン性重合性界面活性剤D]
本実施形態に用いる非イオン性重合性界面活性剤Dは、前述の非イオン性重合性界面活性剤の項目で記載したものと同じである。本実施形態のカプセル化物においては、非イオン性重合性界面活性剤Dの非イオン性基がカプセル化物の最外層に存在する。
【0117】
[非イオン性界面活性剤e]
本実施形態においては、芯物質の表面に前記イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aを吸着させる際に、非イオン性界面活性剤eを併用し、イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aとともに芯物質表面に吸着させてもよい。この非イオン性界面活性剤eは、非イオン性基と疎水性基を有するものであり、非イオン性基としては水酸基、ポリオキシエチレン基、ポリグリセリン基、等が挙げられる。
【0118】
ここで、疎水性基としては、炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。このような非イオン性界面活性剤eの具体例としては、ポリエチレングリコールラウリルエーテル、ポリエチレングリコールトリデシルエーテル、ポリエチレングリコールセチルエーテル、ポリエチレングリコールステアリルエーテル、ポリエチレングリコールオレイルエーテル等のポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノミリステート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート、ポリエチレングリコールソルビタンオノステアレート、ポリエチレングリコールソルビタンモノオレエート、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセロールモノステアレート、ポリグリセリンオレイン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオイレルアミン、等が挙げられる。ソルスパーズ27000(アイ・シー・アイ・ジャパン(株)製)などの市販品も使用することができる。
【0119】
[非イオン性重合性界面活性剤E]
本実施形態においては、芯物質の表面に前記イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aを吸着させる際に、非イオン性界面活性剤Eを併用し、イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aとともに芯物質表面に吸着させてもよい。本実施形態に用いる非イオン性重合性界面活性剤Eは、前述の非イオン性重合性界面活性剤の項目で記載したものと同じである。
【0120】
〔疎水性モノマー〕
本実施形態でいう疎水性モノマーとは、その構造中に少なくとも疎水性基及び重合性基を有する重合性モノマーをいい、疎水性基が脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基の群から選択されたものを例示できる。
上記の脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、及びプロピル基等を、脂環式炭化水素基としてはシクロヘキシル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンタニル基、及びイソボルニル基等を、芳香族炭化水素基としてはベンジル基、フェニル基、及びナフチル基等を挙げることができる。
上記疎水性モノマーの重合性基は、前述のイオン性重合性界面活性剤の項目で記載のものと同じものを用いることができる。
【0121】
疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、t−ブチルスチレン、ブロムスチレン、p−クロルメチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、イソプロピルアクリレート、アクリル酸n−ブチル、ブトキシエチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、及びイソボルニルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアクリレート等の単官能アクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、イソプロピルメタクリレート、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソデシル、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、及びイソボルニルメタクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート、等の単官能メタクリル酸エステル類;アリルベンゼン、アリル−3−シクロヘキサンプロピオネート、1−アリル−3,4−ジメトキシベンゼン、アリルフェノキシアセテート、アリルフェニルアセテート、アリルシクロヘキサン、及び多価カルボン酸アリル等のアリル化合物;フマル酸、マレイン酸、及びイタコン酸等の不飽和エステル類;N−置換マレイミド、環状オレフィンなどのラジカル重合性基を有するモノマーなどが挙げられる。
【0122】
〔ウレタン(メタ)アクリレート〕
本実施形態でいうウレタン(メタ)アクリレートとは、その構造にウレタン結合と(メタ)アクリロイル基を有する反応性オリゴマーである。ウレタンアクリレートはジイソシアネートとポリオールとの付加反応によってウレタン結合を有するウレタン化合物を形成し、残存するイソシアネート基にさらに水酸基等の活性水素基を有する(メタ)アクリレートを付加することで合成される。
【0123】
ジイソシアネート化合物は、例えば、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、402,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸が有するカルボキシル基をイソシアネート基に置き換えたダイマージイソシアネートなどの鎖状脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4´−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの環状脂肪族ジイソシアネート;4,4´−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネートなどのジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルテトラメチルメタンジイソシアネートなどのテトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4´−ジベンジルイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;リジンジイソシアネートなどのアミノ酸ジイソシアネートなどが挙げられる。これらのジイソシアネート化合物をはじめとする前記ポリイソシアネート化合物は、単独でまたは2種以上を混合して用いられる。これらのジイソシアネート化合物の中では、鎖状脂肪族ジイソシアネートおよび環状脂肪族ジイソシアネートを用いることにより耐候性を向上させることができる。
【0124】
また、ポリオールは、例えば、ピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ポリカプロラクトンポリオール等のポリエステルポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートグリコール等のポリカーボネートポリオール;エチレングリコール、プロパンジオール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3,3−ジメチロールヘプタン、炭素数が7〜22のアルカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、炭素数が17〜20のアルカン−1,2−ジオール、水素化ビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、2,6−ジメチル−1−オクテン−3,8−ジオール、ビスフェノールA、グリセリン、2−メチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルペンタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−ブタノール、その他の炭素数が8〜24の脂肪族トリオール、テトラメチロールメタン、D−ソルビトール、キシリトール、D−マンニトール、D−マンニット等である。ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0125】
さらに、水酸基等の活性水素基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ウレタンアクリレートは、他のモノマーとの反応性並びにポリマーの柔軟性および強度の観点から、2官能以上であることが好ましく、特に、柔軟性と強度のバランスが良いことから2官能が好ましい。また、分子量は100〜5,000であることが好ましく、400〜2,000であることがより好ましい。
ウレタンアクリレートは、市販品としては、EBECRYL8402(粘度:12,500mPa・s、2官能、分子量:1,000)、同9270(粘度:7,500mPa・s、2官能、分子量:1,000)、同4858(粘度:7,000mPa・s、2官能、分子量:450)(以上、ダイセル・サイテック株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0126】
本実施形態のカプセル化物の成膜性、被覆膜の強度、柔軟性、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性の他、物理特性や化学特性は疎水性モノマーやウレタンアクリレートの構造、および疎水性モノマーやウレタンアクリレートからなる共重合体の構造等により決定される。したがって、カプセル化物に要求される性能に応じて、疎水性モノマーやウレタンアクリレートを選択することが可能である。例えば、芯物質に色材を用いた本実施形態のカプセル化物を記録材として用いた場合に求められる記録物の定着性や耐擦性は、色材粒子を被覆している共重合体(コポリマー)のガラス転移点(Tg)を制御することによって可能である。一般に、高分子固体、特に無定形高分子固体において、温度を低温から高温へ上げていくと、わずかな変形に非常に大きな力の要る状態(ガラス状態)から小さな力で大きな変形が起こる状態へと急変する現象が起こるが、この現象の起こる温度をガラス転移点(またはガラス転移温度)という。一般には、熱走査型熱量計(Differential scanning calorimeter)による昇温測定によって得られた示差熱曲線において、吸熱ピークの底部から吸熱の開始点に向かって接線を引いたときのベースラインとの交点の温度がガラス転移点とされる。また、ガラス転移点では弾性率、比熱、屈折率などの他の物性も急激に変化することが知られており、これらの物性を測定することによってもガラス転移点が決定されることが知られている。さらに共重合体を合成する際に使用したモノマーの重量分率と当該モノマーを単独重合して得られるホモポリマーのガラス転移点とからFoxの式によりガラス転移点を計算することができる。
【0127】
【数1】

【0128】
数1で示す式において、Tg[p]は得られるポリマーのガラス転移温度、iは種類の異なるモノマーごとに付した番号、Tg[hp]iは重合に用いるモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度、xiは重合するモノマーの重量総計に対するモノマーiの重量分率を表す。
すなわち、本実施形態のカプセル化物のおかれた温度環境が本実施形態のカプセル化物の芯物質を被覆している共重合体のガラス転移点よりも高い場合には、この共重合体は小さな力で大きな変形が起こる状態となり、さらに融点に達すると溶融する。このとき、近傍に他のカプセル化物が存在するとカプセル化物同士が融着して成膜する。また、融点まで環境温度が達しない場合であっても、カプセル化物同士が強い力によって接触するような場合で各カプセル化物を被覆している共重合体分子同士が絡み合うことが可能となるような条件が整えば、共重合体(コポリマー)同士が融着することもある。
【0129】
芯物質に色材を用いた本実施形態のカプセル化物をインクジェット用インクとして用いた場合に、このインクで普通紙やインクジェット記録用専用記録媒体等の記録媒体に印字すると、本実施形態のカプセル化物粒子の周囲にある水および/または水溶性有機溶媒からなる水性媒体が普通紙やインクジェット記録用専用記録媒体中に浸透していくことによってカプセル化物粒子の近傍から消失し、カプセル化物粒子同士が近接するようになる。その際に、カプセル化物粒子の芯物質である色材粒子を被覆している共重合体のガラス転移点(Tg)が室温以下である場合には、カプセル化物粒子間の間隙に生じる毛細管圧によって、色材粒子を被覆している共重合体(コポリマー)が融着して色材を内部に包み込んだ(包含した)状態で成膜する。これによって、色材の記録媒体への定着性と耐擦性を得ることができる。この場合、本実施形態のカプセル化物の色材粒子を被覆している共重合体のガラス転移点を0℃〜25℃とすることが好ましい。好ましくは25℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下であると、カプセル化物は室温でより好ましく成膜する。また、ガラス転移点を0℃より低くした場合は、印刷表面に粘着性(タック)が生じる傾向があるため好ましくない。また、このインクで布帛等の繊維系記録媒体に印字すると、上述した効果と併せて印捺物の風合いが優れる。疎水性モノマーやウレタン(メタ)アクリレートは、上記に記載したそれぞれの要求特性を満足させるものが適宜、選択され、その添加量は任意に決定される。
【0130】
また、芯物質に色材を用いた本実施形態のカプセル化物をトナーとして用いた場合に、カプセル化物粒子の芯物質である色材粒子を被覆している共重合体のガラス転移点(Tg)を定着温度以下に設定することによって、色材粒子を被覆している共重合体(コポリマー)が融着して色材を内部に包み込んだ(包含した)状態で記録媒体である普通紙上で成膜し、着色剤の記録媒体上での定着性と耐擦性を得ることができる。この場合、本実施形態のカプセル化物の色材粒子を被覆している共重合体のガラス転移点は、定着プロセス以外の電子写真プロセス、特に現像プロセスや転写プロセス等への影響のない温度以上とすることが好ましい。疎水性モノマーは、トナー物性として必要とされる、成膜性、被覆膜の強度、電気特性、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性等のそれぞれの要求特性を満足させるものが適宜、選択され、その添加量は任意に決定される。
【0131】
本実施形態のカプセル壁材の主成分であるポリマーを合成するために用いるモノマーとして、本実施形態の効果を損なわない範囲で、さらに下記一般式(2)で表されるモノマーを用いることができる。
【0132】
【化33】

【0133】
ただし、一般式(32)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。R2はt−ブチル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はヘテロ環基を表す。mは0〜3、nは0又は1の整数を表す。
【0134】
一般式(2)において、R2が示す脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、及びアダマンタン基等が挙げられ、ヘテロ環基としてはテトラヒドロフラン基等が挙げられる。
一般式(2)で表されるモノマーの具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0135】
【化34】

【0136】
【化35】

【0137】
カプセル壁材のポリマー中に一般式(2)で表されるモノマー由来の"嵩高い"基である前記R2基を入れることによって、ポリマーの分子のたわみやすさを低下させ、すなわち、分子の運動性を低下させて、ポリマーの機械的強度や耐熱性を高めることができる。このため、芯物質に色材粒子を用いた本実施形態のカプセル化色材を含むインク組成物は、優れた耐擦性と耐久性を有する印刷物を得ることができる。また、カプセル壁材を構成するポリマー中に、"嵩高い"基である前記R2基が存在させることによって、ポリマー内部へのインク組成物中の有機溶媒の浸透を抑制できることから、カプセル化色材の耐溶剤性を優れたものにすることができる。これによって、水溶性有機溶媒を共存するインクジェット記録用インク組成物において、色材粒子の分散性や、インク組成物の保存安定性、さらにインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出性をも高めることができる。
【0138】
一方、前述した疎水性モノマーのうち、長鎖アルキル基を有するモノマーから誘導された繰り返し構造単位を有するポリマーは柔軟性を有する。したがって、後述の架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位及び/又は一般式(2)で表されるモノマーから誘導された繰り返し構造単位と長鎖アルキル基を有するモノマーから誘導された繰り返し構造単位との比率を適宜調整することによって、好ましい可塑性とあわせて、優れた機械的強度及び優れた耐溶剤性を有するカプセル壁材ポリマーを合成することができる。このようなポリマーで被覆されたカプセル化色材粒子を含むインク組成物は、それが水溶性有機溶媒を含む場合であっても、分散安定性や長期保存性に優れ、インクジェットヘッドからの吐出性安定性にも優れている。さらに、このカプセル化色材粒子を含むインク組成物を用いて印刷した印刷物の画像は、紙やインクジェット専用メディア等の記録媒体への定着性が良好である。さらにまた、このインク組成物は耐擦性、耐久性、及び耐溶剤性に優れた画像を得ることができる。
【0139】
本実施形態のカプセル化物は、ポリマーを主成分とする材料で芯物質を被覆したものであり、原料として、上記各種界面性活性剤、重合性界面活性剤、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートのほかに、本実施形態の効果を損ねない範囲でその他の重合性モノマー成分を用いることができる。本実施形態に用いるその他の重合性モノマーとしては、例えば架橋性モノマーを挙げることができる。架橋性モノマーを重合成分に加えて、疎水性モノマーと共重合させることにより、ポリマーの機械的強度や耐熱性を高めることができ、カプセル壁材の形態維持性が向上する。また、有機溶剤によるポリマーの膨潤や有機溶剤のポリマー内部への浸透を抑制することができ、カプセル壁材の耐溶剤性を高めることができる。これによって、例えば、水溶性有機溶剤を共存するインクジェット記録用インク組成物においては、色材粒子の分散性や、インク組成物の保存安定性、さらにインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出性をも高めることができる。
【0140】
本実施形態において用いる架橋性モノマーとしては、ビニル基,アリル基,アクリロイル基,メタクリロイル基,プロペニル基,ビニリデン基,及びビニレン基から選ばれる1種以上の不飽和炭化水素基を2個以上有する化合物を有するものが挙げられる。
架橋性モノマーの具体例としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、アリルアクリレート、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラブロモビスフェノールAジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン、テトラブロモビスフェノールAジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリグリセーロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、及びジエチレングリコールビスアリルカーボネート等が挙げられる。
【0141】
上記の架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有するポリマーや、一般式(2)で表されるモノマーから誘導された繰り返し構造単位を有するポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が高く、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性に優れるという利点を有する。
しかし、このような架橋性モノマー及び/又は上記一般式(2)で表されるモノマーを共重合成分として多く含むポリマーで被覆されたカプセル化色材粒子をインクジェット記録用インク組成物に用いた場合は、カプセル壁材ポリマーの可塑性が低いことに起因して、紙やインクジェット専用メディア等の記録媒体に密着しにくくなる場合がある。その結果、カプセル化色材の記録媒体への定着性や得られた画像の耐擦性が低下するといった問題が生じることもある。したがって、架橋性モノマー及び/又は上記一般式(2)で表されるモノマーの使用量は適宜調整することが好ましい。
さらに本実施形態においては、上述した各種重合性モノマーに加えて、他の公知の重合性モノマーを本実施形態の効果を損ねない範囲で用いることができる。
【0142】
〔重合開始剤〕
本実施形態のカプセル化物のカプセル壁材を構成するポリマーは、上述したように、イオン性重合性界面活性剤、イオン性モノマー、疎水性モノマーを重合して得られる。この重合反応は公知の重合開始剤を用いて行うことができ、特にラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。本実施形態においては、重合開始剤として公知のものを用いることができ、水溶性重合開始剤でも良く、水に不溶又は難溶の油溶性重合開始剤でも良い。本実施形態に用いられる水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、2,2−アゾビス−(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)等の水溶性アゾ化合物系開始剤、などが挙げられる。また、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、チオ尿素等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることもできる。また、本実施形態に用いられる油溶性重合開始剤としては、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、等の油溶性のアゾ化合物系開始剤、ジラウロイルパーオキサイド、ジサクシニックアシドパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチル(パーオキシ−2−エチルヘキサノエート)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エタヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン等の過酸化物等が挙げられる。
【0143】
[その他の成分]
本実施形態のカプセル化物に係る壁材を構成するポリマーには、上述した各種成分以外のその他の成分として、本実施形態の効果を損ねない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、ワックス等のその他の成分をポリマー中に含有させることができる。
【0144】
〔カプセル物の重合法〕
本実施形態のカプセル化物の製造法を以下に説明する。
カプセル化物のカプセル壁材は重合反応によって合成するが、この重合反応は、超音波発生器、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度調節器を備えた反応容器を使用して行うことが好ましい。
本実施形態の実施形態に係るカプセル化物は、具体的には、以下の手順によって好適に製造される。
【0145】
(I)初めに、芯物質の表面にイオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを吸着させる。具体的には、芯物質が固体である場合、前記イオン性界面活性剤aを溶解したイオン交換水に芯物質を入れ、混合した後、この混合液をボールミル、ロールミル、アイガーミル、又はジェットミル等の一般的な分散機に入れて分散処理を行い、前記イオン性界面活性剤aを芯物質に十分に吸着させることが好ましい。なお、前述したように、芯物質に吸着させる物質は、少なくともイオン性基を有するものであればよく、イオン性界面活性剤として、重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤を用いても良い。また、芯物質の分散媒への分散性の改善等を考慮して、非イオン性界面活性剤を併用してもよく、この非イオン性界面活性剤は重合性基を有していても良い。
さらに、限外濾過等によって、芯物質に未吸着のイオン性界面活性剤aを除去することが好ましい。未吸着のイオン性界面活性剤が多量に残存していると副生成物であるポリマー粒子の生成量が増加して芯物質のカプセル化が不十分となる。しかしながら、除去し過ぎると芯物質の分散が不安定となる場合があることから、限外濾過等の程度は分散安定性とカプセル化の状況とを鑑み、適宜決定することが好ましい。
【0146】
(II)次に、このイオン性界面活性剤aを吸着したコア物質の分散液に、前記イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーを加えて混合する。このとき、イオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーのイオン性基がイオン性界面活性剤aのイオン性基にイオン的に結合しやすくなるように超音波を混合物に照射することが好ましい。
上記イオン性界面活性剤aを吸着した芯物質の分散液へのイオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーの添加量は、イオン性界面活性剤aのイオン性基の総モル数(すなわち、用いた芯物質1gの表面に存在するイオン性基量[mol/g])に対して、0.5倍モル〜2倍モルの範囲であることが好ましく、0.8倍モル〜1.2倍モルの範囲であることがさらに好ましい。芯物質表面に吸着したイオン性界面活性剤aのイオン性基の総モル量に対して、これらに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーを0.5倍モル以上添加することによって、その後の重合反応によって良好な分散性を有するカプセル化物を得ることができる。これは芯物質をイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーで充分覆うことができるためと考えられる。一方、イオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーの添加量を2倍モル以下にすることによって、芯物質を持たないポリマー粒子(ポリマーのみからなる粒子)の発生を抑制することができる。
【0147】
(III)さらに、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを添加する。疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートの添加する時期は、(IV)の後であっても構わない。なお、ウレタンアクリレートは、疎水性モノマーに溶解した状態で添加する。
【0148】
(IV)次いで、イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cを添加して混合する。ここで、イオン性重合性界面活性剤Cの添加量は、イオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーに対して、0.1倍モル〜1.5倍モルの範囲であることが好ましく、0.4倍モル〜1.0倍モルの範囲であることがさらに好ましい。イオン性重合性界面活性剤Cの添加量が0.1倍モル未満では凝集しやすくなり、水性媒体中への分散性が劣るおそれがある。逆に、1.5倍モルを超えるとカプセル化効率が低下して、芯物質を含まないポリマー粒子の生成が増す。0.4倍モル〜1.0倍モルの範囲は特に好適な状態が得られ、高収率でカプセル化物を得ることができる。
【0149】
以上の工程により、イオン性界面活性剤aが吸着した芯物質表面に、そのイオン性界面活性剤aに対して反対電荷を持つイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーが静電的に付着し、その外側に、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートが局在し、さらにその外側にイオン性界面活性剤aのイオン性基の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cがそのイオン性基を水相側に向けて配向してアドミセル(admicell)を形成すると推定される。
【0150】
さらに、必要に応じて、イオン性重合性界面活性剤Cと共に、非イオン性重合性界面活性剤Dを併用することもできる。この際、非イオン性重合性界面活性剤の添加量は、イオン性重合性界面活性剤Cの添加量との総和がイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーに対して、0.1倍モル〜1.5倍モルの範囲、より好ましくは0.4倍モル〜1.0倍モルの範囲となるように調整する。非イオン性重合性界面活性剤Dとイオン性重合性界面活性剤Cとの比率は、得られるカプセル化物に求められる特性によって適宜決定される。特に、芯物質に顔料等の色材を用いたカプセル化物をインクジェット記録用インクの着色剤として用いた場合には、普通紙上で高い発色性と印刷濃度が得られるとともに、インクジェット用専用メディア上においては、高い光沢性と写像性が得られる。
なお、上記の工程において超音波の照射を行わなくても、アドミセルの形成が得られる場合においては、超音波照射は必ずしも必要ではない。
【0151】
(V)次に上記のようにして調製された混合液に重合開始剤を添加して重合反応を行う。重合開始剤の添加は、重合開始剤が活性化される温度で、一括若しくは分割して添加しても、又は連続的に添加してもよい。また、重合開始剤を添加した後に、重合開始剤が活性化される温度まで上記混合液を加熱してもよい。本実施形態において、水溶性重合開始剤を使用する場合は、水溶性重合開始剤をイオン交換水に溶解して得た水溶液を反応容器内の水性分散液に所定の滴下速度で滴下することにより好適に実施することができる。また、油溶性重合開始剤を使用する場合は、そのまま添加するか、疎水性モノマーに溶解して添加することによって好適に実施することができる。重合開始剤の活性化は、重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生する温度まで昇温することにより好適に実施できる。添加した重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生し、これがイオン性重合性界面活性剤の重合性基や、イオン性モノマー及び疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートの重合性基を攻撃することによって重合反応が起こる。重合温度及び重合反応時間は、用いる重合開始剤の種類及び上記の重合性化合物の種類によって異なるが、適宜好ましい重合条件を設定することは容易である。一般に重合温度は、40℃〜90℃の範囲とするのが好ましく、重合時間は3時間〜12時間とするのが好ましい。
【0152】
上記重合反応においては、上記イオン性界面活性剤a、イオン性重合性界面活性剤BおよびC、さらに疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートの他に、架橋性モノマー、上記一般式(2)で表される化合物、及びその他の公知の重合性モノマーをそれぞれ1種又は2種以上を用いることができる。また、上記の重合反応は、イオン性重合性界面活性剤を用いて行っているため、混合液の乳化状態は乳化剤を用いなくても良好な場合が多い。したがって、必ずしも乳化剤を用いる必要はないが、必要に応じて公知のアニオン系、ノニオン系、及びカチオン系乳化剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることもできる。
【0153】
重合終了後は、得られた本実施形態のカプセル化物の水性分散液のpHを7.0〜9.0の範囲に調整し、さらに濾過を行なうことが好ましい。濾過は限外濾過が好ましい。
【0154】
上述した重合法によれば、まず、芯物質の表面にイオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aが吸着される。次いで、イオン性界面活性剤aに反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性モノマーが吸着されると考えられる。
次いで、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを含む重合性モノマーを加え(前述したように、疎水性モノマーを含む重合性モノマーは、イオン性重合性界面活性剤Cを加えて後に添加しても良い。)、さらにイオン性界面活性剤aのイオン性基の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cを加えて混合する。この処理によって、芯物質の周囲に存在するイオン性重合性界面活性剤や重合性モノマー分子の配置形態が極めて高度に制御され、最外層ではイオン性基(アニオン性基又はカチオン性基)が水相側に向かって配向状態を形成すると考えられる。そして、この状態で重合することによって、イオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位と、イオン性重合性界面活性剤Cから誘導された繰り返し構造単位と、さらに疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートからなる繰り返し構造単位とを有するポリマーが芯物質のまわりに形成される。また、本実施形態の重合法は、副生成物である水溶性のオリゴマーやポリマーの生成が抑制される。
【0155】
本実施形態の重合法を用いて得られたカプセル化物の水性分散液は、低粘度で分散性と分散安定性に優れたものとなる。これは、上述したようにカプセル化物の最外層でイオン性基(アニオン性基又はカチオン性基)が水相側に向かって高度な配向状態を形成しているためと考えられる。
特に、芯物質に色材粒子を用いて本実施形態の重合法によって得られたカプセル化物を用いたインクジェット用インク組成物は、分散安定性に優れ、記録ヘッドからの吐出安定性に優れ、普通紙に対しても滲みにくく、高発色で高濃度の印刷画像を得ることができる。
【0156】
また、本実施形態の重合法を用いて得られたカプセル化物は、最外層にイオン性基や非イオン性基といった官能基を高度に配向した状態で導入できることから、これらの官能基を利用してさらに特異な機能を有する官能基を容易に導入することも可能である。これによって、幾つかの特異な機能を併せ持つ複合機能性微粒子を得ることができる。
前記のイオン性重合性界面活性剤B及びイオン性重合性界面活性剤Cに代えて、イオン性界面活性剤b及びイオン性界面活性剤cを用いて本実施形態のカプセル化物を製造することも可能である。重合開始剤を添加して重合することによって、イオン性界面活性剤aを介して芯物質上にポリマーを主成分とする壁材が形成される。イオン性界面活性剤b及びイオン性界面活性剤cを用いた場合の適切な添加量は、前記イオン性重合性界面活性剤B及びイオン性重合性界面活性剤Cの適切な添加量と同様である。
【0157】
以上のようにして得られる本実施形態のカプセル化物は水性溶媒に対して高い分散安定性を有するが、これは芯物質がポリマー層で完全に被覆されている(被覆されていない部分がない)とともに、カプセル壁材のポリマー層の親水性基が水性溶媒に向かって規則正しく配向しているためであると考えられる。
【0158】
本実施形態のカプセル化物の製造法において、芯物質として色材粒子である顔料を用いた場合について、具体例として一例を挙げて再度説明する。
【0159】
初めに、アニオン性重合性界面活性剤を溶解したイオン交換水に顔料を入れ、混合した後、この混合液をボールミル、ロールミル、アイガーミル、又はジェットミル等の一般的な分散機に入れて分散処理を行い、顔料粒子表面にアニオン性重合性界面活性剤を吸着させる。この後、限外濾過によって、顔料粒子に未吸着のアニオン性重合性界面活性剤を除去する。この際、除去し過ぎると芯物質の分散が不安定となる場合があることから、限外濾過等の程度は分散安定性とカプセル化の状況とを鑑み、適宜決定する。
【0160】
次に、このアニオン性重合性界面活性剤を吸着した顔料からなる分散液に、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性水溶性モノマーを加えて混合する。このとき、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性水溶性モノマーのカチオン性基がアニオン性重合性界面活性剤のアニオン性基にイオン的に結合しやすくなるように超音波を混合物に照射することが好ましい。
【0161】
上記の顔料分散液へのカチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性水溶性モノマーの添加量は、顔料に吸着したアニオン性重合性界面活性剤のイオン性基の総モル数(すなわち、顔料粒子1gの顔料表面に存在するイオン性基量[mol/g])に対して、0.5倍モル〜2倍モルの範囲であることが好ましく、0.8倍モル〜1.2倍モルの範囲であることがさらに好ましい。顔料粒子表面に吸着したアニオン性重合性界面活性剤のアニオン性基の総モル量に対して、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性水溶性モノマーを0.5倍モル以上添加することによって、その後の重合反応によって良好な分散性を有するカプセル化顔料を得ることができる。一方、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性水溶性モノマーの添加量を2倍モル以下にすることによって、ポリマー粒子(ポリマーのみからなる粒子)の発生を抑制することができる。
【0162】
次に、疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートを添加して混合する。このとき重合性モノマーとしては疎水性モノマーおよびウレタンアクリレートのほか、発明の効果を損ねない範囲で、架橋性モノマー、上記一般式(2)で表される化合物、及びその他の公知の重合性モノマーからなる群から選ばれるモノマーを併用することができる。なお、これら疎水性モノマー等の添加する時期は、後記のアニオン性重合性界面活性剤の添加後であっても構わない。
【0163】
さらに、アニオン性重合性界面活性剤を添加して混合する。ここで、アニオン性重合性界面活性剤の添加量は、上記カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性水溶性モノマーに対して、0.1倍モル〜1.5倍モルの範囲であることが好ましく、0.4倍モル〜1.0倍モルの範囲であることがさらに好ましい。イオン性重合性界面活性剤Cの添加量が0.1倍モル未満では凝集しやすくなり、水性媒体中への分散性が劣るおそれがある。逆に、1.5倍モルを超えるとカプセル化効率が低下して、芯物質を含まないポリマー粒子の生成が増す。0.4倍モル〜1.0倍モルの範囲は特に好適な状態が得られ、高収率でカプセル化物を得ることができる。
【0164】
次に、上記のようにして調製された混合液に重合開始剤を添加して重合反応を行う。重合開始剤の添加は、重合開始剤が活性化される温度に加熱した上記混合液に重合開始剤を一括若しくは分割して添加しても、又は連続的に添加してもよい。また、重合開始剤を添加した後に、重合開始剤が活性化される温度に上記混合液を加熱してもよい。重合開始剤は水溶性重合開始剤でも油溶性重合開始剤の何れも使用できるが、水溶性重合開始剤を用いる場合は、純水に溶解して反応容器内の混合液に滴下して加えることが好ましい。また、油溶性重合開始剤を使用する場合は、そのまま添加するか、疎水性モノマーに溶解して添加することによって好適に実施することができる。重合温度及び重合反応時間は、用いる重合開始剤の種類及び重合性モノマーの種類によって変わるが、当業者であれば適宜好ましい重合条件を設定することは容易にできる。一般に重合温度は40℃〜90℃の範囲とするのが好ましく、重合時間は3時間〜12時間とするのが好ましい。
【0165】
重合終了後は、得られた本実施形態のカプセル化顔料の水性分散液のpHを7.0〜9.0の範囲に調整し、さらに濾過を行なうことが好ましい。濾過は限外濾過が好ましい。
【0166】
上述した本実施形態のカプセル化法によれば、まず、顔料粒子の周囲にイオン性重合性界面活性剤や重合性モノマー分子が極めて高度な配置形態をとり、最外層はアニオン性基が水相に向かって密に配向した状態にある。そして、重合されることによって、顔料粒子のまわりに高度に制御された形態のポリマーで被覆されたカプセル化顔料が得られる。
【0167】
さらに、本実施形態のカプセル化法では、副生成物である水溶性のオリゴマーやポリマーの生成が抑制される。
【0168】
これらによって、低粘度のカプセル化顔料分散液が得られるとともに、限外濾過等の精製工程が容易となる。
【0169】
さらに、得られた顔料分散液を用いたインク組成物は、インクジェット記録ヘッドからの吐出安定性が優れ、紙繊維への吸着性が向上するとともに、印刷濃度及び発色性に優れたものとなる。
【0170】
本実施形態で得られるカプセル化顔料は、顔料粒子をカプセル壁材であるポリマーが被覆した形態を有するが、所望により、重合前又は重合反応中に、混合液中に酸化防止剤や可塑剤などを添加することによって、ポリマー中にそれらの添加剤を含有させることもできる。このような酸化防止剤や可塑剤などは公知の材料を用いることができる。
【0171】
本実施形態のカプセル化顔料をインク、特にインクジェット記録用インク組成物に用いる場合、本実施形態の製造方法で得られたカプセル化顔料分散液中に含まれる未反応物(イオン性重合性界面活性剤や疎水性モノマーなどの用いた重合性化合物など)を予め除去して精製して用いることが好ましい。この場合、このカプセル化顔料分散液の液中に含まれる未反応物の量は、50,000ppm以下であることが好ましく、10,000ppm以下であることがより好ましい。未反応物を除去する方法として、遠心分離法や限外濾過法等を用いることができる。また、上記未反応物の量は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーを用いて容易に測定することができる。カプセル化顔料分散液中の未反応モノマーの濃度を低減することによって、普通紙上に印刷された画像が、さらに、優れた彩度と、高い印字濃度(印刷濃度)を有するものとなり、画像の滲みの発生も抑制されるという効果も得られる。また、インクジェット記録用専用メディア、特にインクジェット用光沢メディア上に印刷された画像は、より良好な光沢を有するものとなる。
【0172】
本実施形態のカプセル化顔料をインク、特にインクジェット記録用インク組成物に用いる場合、カプセル化顔料の粒子径は、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがさらに好ましく、20nm〜200nmであることが特に好ましい。カプセル化顔料の粒子径は、市販の動的光散乱法粒度分布測定機、レーザードップラー方式粒度分布計等を使用して測定することができる。
【0173】
本実施形態のカプセル化顔料をインク、特にインクジェット記録用インク組成物に用いる場合には、さらに、本実施形態のカプセル化顔料のカプセル壁材の主成分であるポリマーのガラス転移温度(Tg)を、0℃〜25℃とすることが好ましい。使用するモノマーの選択と使用するモノマーの比率を選択することによって、所望のガラス転移温度にすることができる。ポリマーのガラス転移温度の予測は、前述したようにFoxの式を用いることによって行うことができる。カプセル壁材の主成分であるポリマーのガラス転移温度を0℃〜25℃とすることにより、光沢性に優れ、彩度が高く、優れた鮮映性を有する画像が得られる。さらに、ウレタン(メタ)アクリレートを構成成分として使用したことによって、カプセル化顔料の記録媒体への密着性がさらに高めることができる。
上記の製造方法によって得られたカプセル化顔料を用いたインク組成物は、低粘度で分散性と分散安定性に優れ、特にインクジェット記録用インク組成物として用いた場合には記録ヘッドからの吐出安定性に優れ、普通紙上で高発色かつ高濃度の印刷画像が得られるとともに、インクジェット記録用専用メディア上では高い光沢と写像性を有する印刷画像を得ることができる。加えて、このインクで布帛等の繊維系記録媒体に印字すると、上述した効果と併せて印捺物の風合いが優れる。
【0174】
〔インク組成物〕
本実施形態において、芯物質として色材を用いた場合に得られるカプセル化色材はインク組成物に用いることができ、特にインクジェット記録用インクに用いる色材として好ましい。特に、色材粒子が顔料である場合が好ましい。以下、本実施形態により得られたカプセル化色材において色材粒子として顔料を用いたカプセル化顔料を用いたインクジェット記録用インク組成物について説明する。
【0175】
[インクジェット記録用インク]
本実施形態のインクジェット記録用インク組成物は、水性インク組成物であり、水性媒体中に上記カプセル化顔料が分散されて含まれるものである。インク組成物中のカプセル化顔料の含有量は、インク組成物の全重量に対して1重量%〜20重量%であることが好ましく、3重量%〜15重量%であることがさらに好ましい。特に高い印刷濃度と高発色性を得るためには、前記含有量が5重量%〜15重量%であることが好ましい。
【0176】
また、本実施形態のインク組成物に用いる溶媒は、水及び水溶性有機溶媒を含むことが好ましく、さらに所望により他の成分を含むことができる。
また、インクジェット記録用インク組成物に保水性と湿潤性を付与するために、本実施形態のインク組成物には、高沸点水溶性有機溶媒からなる湿潤剤を添加することが好ましい。このような高沸点水溶性有機溶媒としては、沸点が180℃以上の水溶性有機溶媒が好ましい。
【0177】
本実施形態に用いることができる、沸点が180℃以上の水溶性有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、分子量2,000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、メソエリスリトール、及びペンタエリスリトールを挙げることができる。本実施形態に用いる高沸点水溶性有機溶媒は、沸点が200℃以上であることがさらに好ましい。これらの1種又は2種以上を本実施形態のインク組成物に用いることができる。インク組成物に高沸点水溶性有機溶媒を添加することにより、開放状態(室温でインク組成物が空気に触れている状態)で放置しても、流動性と再分散性とを長時間維持できるインクジェット記録用インクを得ることができる。さらに、このようなインク組成物は、インクジェットプリンタを用いての印字中もしくは印字中断後の再起動時に、インクジェットノズルの目詰まりが生じ難くなるため、インクジェットノズルからの高い吐出安定性を有するインク組成物が得られる。
これらの高沸点水溶性有機溶媒を含めた水溶性有機溶媒の合計の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは10重量%〜50重量%程度であり、より好ましくは10重量%〜30重量%である。
【0178】
本実施形態のインク組成物には、さらに2−ピロリドン,N−メチルピロリドン,ε−カプロラクタム,ジメチルスルホキシド,スルホラン,モルホリン,N−エチルモルホリン,及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等からなる群から選ばれる一種以上の極性溶媒を添加することができる。極性溶媒を添加することにより、インク組成物中におけるカプセル化顔料粒子の分散性が向上するという効果が得られ、インクの吐出安定性を良好にすることができる。
これらの極性溶媒の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは0.1重量%〜20重量%であり、より好ましくは1重量%〜10重量%である。
【0179】
本実施形態のインク組成物は、水性溶媒が記録媒体に浸透することを促進する目的で、浸透剤をさらに含有することが好ましい。水性溶媒が記録媒体に素早く浸透することによって、画像の滲みが少ない記録物を得ることができる。
このような浸透剤としては、多価アルコールのアルキルエーテル(グリコールエーテル類ともいう)及び/又は1,2−アルキルジオールが好ましく用いられる。多価アルコールのアルキルエーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等が挙げられる。1,2−アルキルジオールとしては、例えば1,2−ペンタンジオール、及び1,2−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの他に、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、及び1,8−オクタンジオール等の直鎖炭化水素のジオール類を挙げることができ、これらから適宜選択して本実施形態のインク組成物に用いることができる。
【0180】
特に、本実施形態の実施形態においては、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ペンタンジオール、及び1,2−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種を浸透剤として用いることが好ましい。これらの浸透剤の含有量は、インク組成物の全重量に対して、総量で、好ましくは1重量%〜20重量%、さらに好ましくは1重量%〜10重量%である。浸透剤の含有量を1重量%以上にすることによって、インク組成物の記録媒体への浸透性を向上する効果が得られ、さらに20重量%以下にすることにより、このインク組成物を用いて印刷した画像に滲みが発生することを防止でき、またインク組成物の粘度があまり高くならないようにすることができる。また、特に、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等の1,2−アルキルジオールをインク組成物に用いた場合、印刷後のインク組成物の乾燥性が良好になり、かつ、画像の滲みを少なくすることができる。
【0181】
また、本実施形態のインク組成物にグリセリンを含有させることにより、そのインク組成物をインクジェット記録に用いた場合のインクジェットノズルの目詰まりが発生しにくくなり、さらにインク組成物自身の保存安定性を高めることもできる。
【0182】
また、本実施形態のインク組成物にグリコールエーテル類を用いる場合には、グリコールエーテル類とあわせて、後述するアセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0183】
また、本実施形態のインク組成物は、界面活性剤、特にアニオン性界面活性剤及び/又はノニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタリンスルホン酸、アシルメチルタウリン酸、ジアルキルスルホ琥珀酸、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、及びアルキルザルコシン塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩などが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、シュガーアルキルエステル、多価アルコールアルキルエーテル、アルカノールアミン脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0184】
より具体的には、アニオン性界面活性剤としてはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩などが挙げられ、ノニオン性界面活性剤の具体例としてはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系化合物、並びにポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、及びポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系化合物等を挙げることができる。
【0185】
特に、本実施形態の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤を含むことが望ましい。これにより、インク組成物に含まれる水性溶媒が記録媒体へ浸透しやすくなるため、種々の記録媒体に対して滲みの少ない画像を印刷できる。
本実施形態において用いられるアセチレングリコール系界面活性剤の好ましい具体例としては、下記の一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0186】
【化36】

【0187】
上記一般式(6)において、m及びnは、それぞれ0≦m+n≦50を満たす数である。また、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立してアルキル基(好ましくは炭素数6以下のアルキル基)である。
上記一般式(6)で表される特に好ましい化合物としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。上記一般式(6)で表される化合物として、アセチレングリコール系界面活性剤として市販されている市販品を利用することも可能であり、具体例としては、サーフィノール104、82、465、485、104PG50及びTG(いずれも商品名、Air Products and Chemicals. Inc.より入手可能)、並びにオルフィンSTG及びオルフィンE1010(以上商品名、日信化学社製)が挙げられる。また、アセチレンアルコール系界面活性剤としては、サーフィノール61(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.より入手可能)等が挙げられる。
これらのアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは0.01重量%〜10重量%の範囲、さらに好ましくは0.1重量%〜5重量%の範囲になるように用いることが好ましい。
【0188】
〔その他のインク組成物用添加剤等〕
また、本実施形態のインク組成物はpH調整剤を含有することができる。顔料粒子やポリマー粒子表面がアニオン性基を有する場合には、インク組成物のpHを7〜11、より好ましくは8〜9に調整することが好ましく、pH調整剤としては塩基性化合物を用いることが好ましい。また、顔料粒子やポリマー粒子表面がカチオン性基を有する場合には、インク組成物のpHを5〜7、より好ましくは6〜7に調整することが好ましく、pH調整剤としては酸性化合物を用いることが好ましい。
pH調整剤として好ましい塩基性化合物は、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、フタル酸水素カリウム、及び酒石酸水素カリウムなどのアルカリ金属塩類;アンモニア;並びに、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロペノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン、及びプロパノールアミンなどのアミン類などが挙げられる。
これらの中でも、水酸化アルカリ化合物又はアミンアルコールをインク組成物に添加すると、アニオン性基を有する顔料粒子のインク中での分散安定性を向上させることができる。
【0189】
また、防カビ、防腐、又は防錆の目的で、安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ベンチアゾリン−3−オン〔製品名:プロキセルXL(アビシア社製)〕、及び3,4−イソチアゾリン−3−オン、4,4−ジメチルオキサゾリジン等から選ばれる一種以上の化合物を本実施形態のインク組成物に添加することができる。
また、インクジェット記録ヘッドのノズルが乾燥することを防止する目的で、尿素、チオ尿素、及びエチレン尿素等なる群から選ばれる少なくとも一種を本実施形態のインク組成物に添加することもできる。
【0190】
特に好ましい本実施形態のインク組成物の実施態様の一例は、
(1)上記カプセル化顔料、
(2)ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、および炭素数4〜10の1,2−アルキルジオールからなる群から選択される1種以上の化合物(浸透剤)、
(4)グリセリン、及び
(5)水、
を少なくとも含むインク組成物である。
【0191】
特に好ましい本実施形態のインク組成物の実施態様の別の一例は、
(1)上記カプセル化顔料、
(2)ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、および炭素数4〜10の1,2−アルキルジオールからなる群から選択される1種以上の化合物(浸透剤)、
(3)アセチレングリコール系界面活性剤及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤、
(4)グリセリン、及び
(5)水、
を少なくとも含むインク組成物である。
【0192】
上記各実施態様例において、浸透剤として上記(2)のジエチレングリコールモノブチルエーテル及び/又はトリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いる場合の添加量はインク組成物の全重量に対して、10重量%以下であることが好ましく、0.5重量%〜5重量%であることがさらに好ましい。ジエチレングリコールモノブチルエーテル及び/又はトリエチレングリコールモノブチルエーテルをインク組成物に添加することにより、インク組成物の記録媒体への浸透性を向上することができ、印字品質の向上に役立つ。また、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及び/又はトリエチレングリコールモノブチルエーテルは、アセチレングリコール系の界面活性剤の溶解性を向上させるという効果もある。
【0193】
上記各実施態様例において、浸透剤として上記(2)の炭素数4〜10の1,2−アルキルジオールを用いる場合の添加量は、インク組成物の全重量に対して、15重量%以下であることが好ましい。炭素数が3以下の1,2−アルキルジオールを用いた場合、記録媒体に対するインク組成物の充分な浸透性が得られず、炭素数が15を超える1,2−アルキルジオールは水に溶解しにくくなるので好ましくない。インク組成物の1,2−アルキルジオールの量が15重量%を超えると、インク組成物の粘度が増加する傾向があるため好ましくない。1,2−アルキルジオールとしては、具体的には1,2−ペンタンジオール又は1,2−ヘキサンジオールを用いるのが好ましく、いずれか一方を単独で用いることも、両者を併用することもできる。1,2−ペンタンジオールは、インク組成物の全重量に対して3重量%〜15重量%の範囲で添加するのが好ましい。インク組成物に1,2−ペンタンジオールを3重量%以上添加することにより、良好な浸透性を有するインク組成物が得られる。1,2−ヘキサンジオールは、インク組成物の全重量に対して0.5重量%〜10重量%の範囲で添加するのが好ましく、前記範囲において良好な浸透性を有するインク組成物が得られる。
【0194】
また、上記各実施態様例のインク組成物をインクジェット記録方法に用いる場合、インクジェットノズルの目詰まりが発生しにくくなるように(目詰まり信頼性の向上)、固体湿潤剤をインク組成物の全重量に対して3重量%〜20重量%で含有させることが好ましい。固体保湿剤の添加は、上記各実施態様例に限らず、本実施形態のカプセル化顔料を用いたインク組成物に添加することができる。
【0195】
上記実施態様例に示したインク組成物は、特に、顔料の分散安定性、及びインクジェット記録方法に用いた場合にインクジェットヘッドノズルからの吐出安定性に優れ、更に、長期にわたって、ノズルの目詰まりもなく、安定した印字が可能である。また、このインク組成物は、普通紙及び再生紙並びにコート紙等の記録媒体に印字したときに、印字後のインクの乾燥性が良好であり、このインク組成物を用いることによって滲みがなく、高い印刷濃度を有し、発色性に優れた高品位の画像を得ることができる。
【0196】
また、本実施形態のマイクロカプセル化顔料を用いて調製したインク組成物は、さらに、下記一般式(1)に示す化合物を含んでなることが好ましい。
【0197】
【化37】

【0198】
化36で示す一般式において、R1、R2はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基を表し、m,nはそれぞれ繰り返し単位数であって、m+nが平均で0〜10である。
【0199】
上記一般式(1)の化合物において、R1、R2はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基であり、m,nはそれぞれ繰り返し単位数であって、m+nが平均で0〜10であるが、普通紙上ではよりにじみが少なく高発色であり、専用紙上では十分な発色に加えて定着性を有するインクを作成可能であり、インクジェット記録にあってはさらに吐出安定性が優れ、印字における十分な線幅が確保できる水性インク組成物を得るためには、R1+R2の炭素数は好ましくは5以上15以下であり、m+nは好ましくは0〜7の範囲である。
また、上記一般式(1)の化合物を含んでなるインク組成物における該化合物の含有量は、インク組成物の全重量に対して、0.1重量%〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.3重量%〜10重量%である。特に良好な光沢度、写像性を得るには、0.5重量%〜10重量%が好ましい。
【実施例】
【0200】
以下に実施例に基づいて本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は実施例に限定されない。なお、以下の実施例中、「部」は質量部を表す。
また、本実施例で用いたアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬製)は、以下の一般式で表される化合物である。
【0201】
「カプセル化顔料"MCP1"の製造」
アニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬製)50gをイオン交換水850gに溶解し、これに体積平均粒子径が60nmのC.I.Pigment Blue 15:4を100g加えて混合した。この混合液を、分散機アイガーモーターミルM250型(アイガージャパン社製)を使用して、ビーズ充填率70%及び回転数5,000rpmの条件下で5時間分散処理した。分散処理後、限外濾過装置を使用してクロスフロー法による限外濾過を行い、透過液の泡立ちが無くなる程度となるまで処理し、固形分濃度は14.3重量%であった。得られた顔料分散液の熱重量測定を行い減量値からアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10の吸着量を求めたところ、KH−10/顔料が16.3/100であった。
【0202】
得られた顔料分散液105gに、イオン交換水10mlに溶解したカチオン性モノマーのメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩0.67gを添加し、攪拌混合して、さらに、超音波を30分間照射した。次いで、得られた混合液に、4.7gのベンジルメタクリレート、16.3gのジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(FANCRYL FA512A:日立化成製)、1.5gのオクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ブレンマー50POEP−800B:日油製)、0.9gのエトキシ化ポリプロピレングリコール#700ジメタクリレート(NKエステル1206PE:新中村化学製)、ウレタンアクリレートEBECRYL8402(ダイセル・サイテック製)2.4gを添加して混合した後に、さらにイオン交換水50mlに溶解した1.31gのアニオン性重合性界面活性剤アデカリアソープSR−10(アデカ製)を添加し、さらにイオン交換水400mlを加えて混合した。この混合液を1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpH9.0に調製した。
【0203】
この混合液を、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調整器、窒素導入管を備えた反応容器に投入し、反応容器の内温を80℃に昇温した後、重合開始剤である過硫酸カリウム0.71gをイオン交換水100gに溶解した水溶液を滴下し、反応容器内に窒素を導入しながら、80℃で5時間重合反応を行った。重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調製した後、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、限外濾過装置を使用して、クロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮して固形分濃度を15重量%として本実施形態のカプセル化顔料"MCP1"の分散液を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布計マイクロトラックUPA150(商品名)で、体積平均粒子径を測定したところ、100nmであった。また、カプセル化顔料粒子の被覆ポリマーのガラス転移温度を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、29℃であった。また、得られたカプセル化顔料粒子の熱重量分析を行い、ポリマー転化率を求めたところ、91%であった。
【0204】
「カプセル化顔料"MCP2"の製造」
アニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬製)50gをイオン交換水850gに溶解し、これに体積平均粒子径が60nmのC.I.Pigment Blue 15:4を100g加えて混合した。この混合液を、分散機アイガーモーターミルM250型(アイガージャパン社製)を使用して、ビーズ充填率70%及び回転数5,000rpmの条件下で5時間分散処理した。分散処理後、限外濾過装置を使用してクロスフロー法による限外濾過を行い、透過液の泡立ちが無くなる程度となるまで処理し、固形分濃度は14.3重量%であった。得られた顔料分散液の熱重量測定を行い減量値からアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10の吸着量を求めたところ、KH−10/顔料が16.3/100であった。
【0205】
得られた顔料分散液70gに、イオン交換水10mlに溶解したカチオン性水溶性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.45g添加して混合した後、超音波を30分間照射した。次いで、得られた混合液に、2.7gのベンジルメタクリレート、2.7gのフェノキシエチルアクリレート、6.7gのジシクロペンテニルアクリレート(FANCRYL FA513A:日立化成製)、6.7gのジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(FANCRYL FA512M:日立化成製)、2.7gのラウリルメタクリレート、1.7gのオクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ブレンマー50POEP−800B:日油製)、1.0gのエトキシ化ポリプロピレングリコール#700ジメタクリレート(NKエステル1206PE:新中村化学製)、ウレタンアクリレートEBECRYL8402(ダイセル・サイテック製)2.7gを添加して混合した後に、さらにイオン交換水50mlに溶解した0.73gのアニオン性重合性界面活性剤アデカリアソープSR−10(アデカ製)を添加し、さらにイオン交換水400mlを加えて混合した。この混合液を1mol/l水酸化カリウム水溶液でpH9.0に調製した。
【0206】
この混合液を、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調整器、窒素導入管を備えた反応容器に投入し、反応容器の内温を80℃に昇温した後、重合開始剤である過硫酸カリウム0.75gをイオン交換水100gに溶解した水溶液を滴下し、反応容器内に窒素を導入しながら、80℃で5時間重合反応を行った。重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調製した後、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、限外濾過装置を使用して、クロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮して固形分濃度を15重量%として本実施形態のカプセル化顔料"MCP18"の分散液を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布計マイクロトラックUPA150(商品名)で、体積平均粒子径を測定したところ、125nmであった。また、カプセル化顔料粒子の被覆ポリマーのガラス転移温度を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、29℃であった。また、得られたカプセル化顔料粒子の熱重量分析を行い、ポリマー転化率を求めたところ、90%であった。
【0207】
「カプセル化顔料"MCP3"の製造」
アニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬製)50gをイオン交換水850gに溶解し、これに体積平均粒子径が60nmのC.I.Pigment Blue 15:4を100g加えて混合した。この混合液を、分散機アイガーモーターミルM250型(アイガージャパン社製)を使用して、ビーズ充填率70%及び回転数5,000rpmの条件下で5時間分散処理した。分散処理後、限外濾過装置を使用してクロスフロー法による限外濾過を行い、透過液の泡立ちが無くなる程度となるまで処理し、固形分濃度を10重量%に調整した。得られた顔料分散液の熱重量測定を行い減量値からアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10の吸着量を求めたところ、KH−10/顔料が13.6/100であった。
【0208】
得られた顔料分散液70gに、カチオン性水溶性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.45g添加して混合した後、超音波を30分間照射した。次いで、得られた混合液に、4.9gのベンジルメタクリレート、2.0gのイソボルニルメタクリレート、2.9gのラウリルメタクリレート、ウレタンアクリレートEBECRYL4858(ダイセル・サイテック製)0.2gを添加して混合した後に、さらにイオン交換水50mlに溶解した0.45gのアニオン性重合性界面活性剤アデカリアソープSR−10(アデカ製)と0.71gの非イオン性重合性界面活性剤アデカリアソープER−10(アデカ製)を添加し、さらにイオン交換水350mlを加えて混合した。この混合液を1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpH9.0に調製した。
この混合液を、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調整器、窒素導入管を備えた反応容器に投入し、反応容器の内温を80℃に昇温した後、重合開始剤である過硫酸カリウム0.23gをイオン交換水100gに溶解した水溶液を滴下し、反応容器内に窒素を導入しながら、80℃で5時間重合反応を行った。重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調製した後、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、限外濾過装置を使用して、クロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮して固形分濃度を15重量%として本実施形態のカプセル化顔料"MCP19"の分散液を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布計マイクロトラックUPA150(商品名)で、体積平均粒子径を測定したところ、110nmであった。また、カプセル化顔料粒子の被覆ポリマーのガラス転移温度を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、18℃であった。また、得られたカプセル化顔料粒子の熱重量分析を行い、ポリマー転化率を求めたところ、91%であった。
【0209】
(比較例)
「転相乳化法によるマイクロカプセル化顔料“MCP10”の製造」
フラスコにメチルエチルケトン250gを仕込み、窒素シール下に、撹拌しながら、75℃まで昇温させ、n−ブチルメタクリレート170g、n−ブチルアクリレート58g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート35g、アクリル酸35g及び重合開始剤パーブチルO 20gから成る混合液を2時間かけて滴下し、更に15時間反応させて、ビニル系ポリマーの溶液を得た。
上記のポリマー溶液15gをステンレス製ビーカーに、ジメチルエタノールアミン0.8gとマゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)15gとともに加え、さらにイオン交換水を加えて総量が75gとなるようにし、平均粒子径が0.5nmのジルコニアビーズ250gを加えて、サンドミルを用いて、4時間混練を行った。混練終了後に、ジルコニアビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有するポリマーと顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。これを、常温で撹拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで添加した。この時のpHは3〜5であった。ポリマーの固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過し、水洗して、含水ケーキを得た。この含水ケーキを分散機で撹拌しながら、分散体のpHが8.5〜9.5となるまで10%NaOH水溶液を加え、1時間撹拌を続けた後に、イオン交換水を加えて、固形分濃度が20%となるように調整して、C.I.ピグメントレッド122のカプセル化顔料MCP10を得た。
【0210】
(比較例)
「カプセル化顔料"MCP11"の製造」
アニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬製)50gをイオン交換水850gに溶解し、これに体積平均粒子径が60nmのC.I.Pigment Blue 15:4を100g加えて混合した。この混合液を、分散機アイガーモーターミルM250型(アイガージャパン社製)を使用して、ビーズ充填率70%及び回転数5,000rpmの条件下で5時間分散処理した。分散処理後、限外濾過装置を使用してクロスフロー法による限外濾過を行い、透過液の泡立ちが無くなる程度となるまで処理し、固形分濃度は14.3重量%であった。得られた顔料分散液の熱重量測定を行い減量値からアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10の吸着量を求めたところ、KH−10/顔料が16.3/100であった。
得られた顔料分散液105gに、イオン交換水10mlに溶解したカチオン性モノマーのメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩0.67gを添加し、攪拌混合して、さらに、超音波を30分間照射した。次いで、得られた混合液に、4.7gのベンジルメタクリレート、16.3gのジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1.5gのオクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ブレンマー50POEP−800B:日油製)、0.9gのエトキシ化ポリプロピレングリコール#700ジメタクリレート(NKエステル1206PE:新中村化学製)を添加して混合した後に、さらにイオン交換水50mlに溶解した1.31gのアニオン性重合性界面活性剤アデカリアソープSR−10(アデカ製)を添加し、さらにイオン交換水400mlを加えて混合した。この混合液を1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpH9.0に調製した。
この混合液を、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調整器、窒素導入管を備えた反応容器に投入し、反応容器の内温を80℃に昇温した後、重合開始剤である過硫酸カリウム0.71gをイオン交換水100gに溶解した水溶液を滴下し、反応容器内に窒素を導入しながら、80℃で5時間重合反応を行った。重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調製した後、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、限外濾過装置を使用して、クロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮して固形分濃度を15重量%として本実施形態のカプセル化顔料"MCP1"の分散液を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布計マイクロトラックUPA150(商品名)で、体積平均粒子径を測定したところ、100nmであった。また、カプセル化顔料粒子の被覆ポリマーのガラス転移温度を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、29℃であった。また、得られたカプセル化顔料粒子の熱重量分析を行い、ポリマー転化率を求めたところ、91%であった。
【0211】
(比較例)
「顔料分散液Aの製造」
ソルスパーズ27000(クラリアント製)50gをイオン交換水850gに溶解し、これにイソインドリノン顔料(C.I.ピグメントレッド122)100gを加えて混合した。この混合液を、アイガーモーターミルM250型(商品名、アイガージャパン社製)を使用して、ビーズ充填率70%及び回転数5,000rpmの条件下で5時間分散処理した。固形分濃度を15重量%に調整した。
【0212】
「インク組成物(インク1〜3(実施例)、4〜6(比較例))の調製」
【0213】
(インク1)
グリセリン15g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5g、1,2−ヘキサンジオール2g、2−ピロリドン1g、オルフィンE1010が1g、プロキセルXL−2が0.05g、及びイオン交換水57.85gを混合し、さらに濃度10重量%の水酸化カリウム1gを加えて混合し、液状混合物を得た。MCP1の分散液18gに前記液状混合物を添加し、攪拌装置を用いて顔料を分散させて目的のインク1を得た。
【0214】
(インク2〜6)
下記表1〜2に示す組成に基づき、上記インク1を調製した方法に準じてインク2〜6を調製した。いずれのインクも顔料濃度は5重量%とした。
表1は実施例のインク1〜3の組成を示している。表2は比較例のインク4〜6の組成を示している。
【0215】
【表1】

【0216】
【表2】

【0217】
1)表1及び表2中に示した数字はインク組成物中の各成分の含有量(重量%)を示す。
2)但し、カプセル化顔料はカプセル化顔料分散液の含有量として示した値である。
【0218】
〔インク組成物の評価〕
インク1〜3、および比較用インク4〜6の発色性、耐擦性、洗濯堅牢性、風合い、吐出安定性の評価を下記の評価方法によって行った。
【0219】
(評価1:発色性)
上記のように調製したインク1〜3と比較用インク4〜6をそれぞれインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタPX−600C(商品名、セイコーエプソン株式会社製)に装填して、写真用紙 光沢(商品名、セイコーエプソン株式会社製)とXerox P紙(商品名、ゼロックス社製)のそれぞれにベタ印刷を行ない、ベタ印刷部分のC*値を測定した。C*値の測定は分光光度計(グレタグマクベス社製、GRETAG SPM−50)を使用して行った。下記の評価基準A〜Dを用いて各インク組成物の発色性を評価した。
【0220】
〔評価基準〕
A:C*が80以上。
B:C*が70以上80未満。
C:C*が50以上70未満。
D:C*が50未満。
【0221】
(評価2:耐擦性)
上記のように調製したインク1〜3と比較用インク4〜6をそれぞれインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタPX−600C(製品名、セイコーエプソン株式会社製)に装填して、スーパーファイン専用光沢フィルム(商品名、セイコーエプソン株式会社製)上の10mm×10mmの領域に100%dutyでベタ印刷し、25℃の温度で1時間放置した。その後、イエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(商標)(商品名、ゼブラ社製)を用い、このペン先に500g荷重をかけて速度10mm/秒で上記の印刷領域を擦り、印刷領域に汚れが発生するかどうかを観察した。得られた結果を以下の評価基準を用いて評価した。
【0222】
〔評価基準〕
A:2回擦っても印刷領域に全く汚れが生じない。
B:1回の擦りでは印刷領域に汚れが生じないが、2回目の擦りで汚れが発生する。
C:1回の擦りで印刷領域に汚れが発生する。
【0223】
(評価3:洗濯堅牢性)
上記のように調製したインク1〜3と比較用インク4〜6をそれぞれインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタPX−600C(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて種々の各布帛に印捺した。更に各布帛を160℃下で5分間熱処理し定着した。この印捺物を、全自動洗濯機NEC製NW-A50ZC型標準モードで洗濯した。洗濯前後の濃度変化を目視で観察した。
【0224】
〔評価基準〕
A:目視で殆ど変化がない。
B:著しく濃度が落ちる。
【0225】
(評価4:風合い)
上記のように調製したインク1〜3と比較用インク4〜6をそれぞれインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタPX−600C(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて種々の各布帛に印捺した。この印捺した布帛を手で触り、風合いを判断した。
【0226】
〔評価基準〕
A:布帛の表面にざらつき感が全くなく、しなやかである。
B:布帛の表面にざらつき感があり、皺が取れにくく、しなやかでない。
【0227】
(評価5:吐出安定性)
上記のように調製したインク1〜3と比較用インク4〜6をそれぞれインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタPX−600C(セイコーエプソン株式会社製)に装填して、セイコーエプソン(株)製スーパーファイン専用紙に、1mmの罫線を印刷して、ドット抜けやインク着弾位置ずれ等の印字の状態を目視で観察し、以下の評価基準を用いて評価した。
【0228】
〔評価基準〕
A:印字枚数が10000枚以上印字してもドット抜けやインク着弾位置ずれがない。
B:印字枚数が1000枚以上10000枚未満でドット抜けやインク着弾ずれが発生する。
C:印字枚数が100枚以上1000枚未満でドット抜けやインク着弾ずれが発生する。
D:印字枚数が100枚未満でドット抜けやインク着弾ずれが発生する。
インク1〜3と比較用インク4〜6の上記評価項目についての評価結果を表3に示した。
【0229】
【表3】

【0230】
表3に、本実施形態のカプセル化物(カプセル化顔料)をインクジェット記録用インク用として用いた場合の結果を示した。インク1,2,3は何れも吐出安定性に優れ、これらのインクで印捺した布帛は、その表面に顔料捺染に特有のざらつき感やごわごわ感がなく、染料捺染の布帛のようなしなやかさを有したもので、洗濯堅牢性にも優れたものであった。特に、インク1およびインク2は、耐擦性にも優れたものであった。本実施形態のインク組成物は、従来の顔料捺染に特有のざらつき感やごわごわ感のない、染料捺染布帛のようなしなやかさを持つ、染料捺染布帛に匹敵する顔料捺染布帛が得られるインクジェット捺染用顔料インクであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0231】
印刷、塗料、インク、医薬、農薬等、広く利用可能である。特に、柔軟な塗膜や、柔軟な基材への印刷面を得る用途には好適である。顔料の耐光性を活かした顔料捺染に風合いを持たせるのには特に好適である。
【符号の説明】
【0232】
1…芯物質、2’…アニオン性界面活性剤a、3’…カチオン性界面活性剤、4’…アニオン性界面活性剤c、2…アニオン性重合性界面活性剤A、3…カチオン性重合性界面活性剤B(若しくは、正電荷を持つカチオン性基と重合性基とを少なくとも有するカチオン性モノマーであってもよい。)、4…アニオン性重合性界面活性剤C、5…疎水性モノマー、8…非イオン性重合性界面活性剤D、9’…非イオン性界面活性剤e、9…非イオン性重合性界面活性剤E、21,41…アニオン性基、31…カチオン性基、22,32,42,82,92…疎水性基、23,33,43,83,93…重合性基、81,91…非イオン性基、60,60’,60'',60''',60''''…ポリマー層、100,100’,100'',100''',100''''…カプセル化物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物であって、当該ポリマーが、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、少なくとも(1)当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(2)当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Cから誘導された繰り返し構造単位と、(3)疎水性モノマーおよびウレタン(メタ)アクリレートから誘導され、かつ上記(1)及び(2)の間に存在する繰り返し構造単位とからなることを特徴とするカプセル化物。
【請求項2】
芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物であって、当該ポリマーが、疎水性モノマーおよびウレタン(メタ)アクリレートからなる繰り返し構造単位からなり、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを介して芯物質と接し、当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性界面活性剤b及び当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性界面活性剤cとの間に存在することを特徴とするカプセル化物。
【請求項3】
前記ポリマーが、前記イオン性重合性界面活性剤Cから誘導された繰り返し構造単位とともに、当該イオン性重合性界面活性剤Cと同種の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有することを特徴とする、請求項1に記載のカプセル化物。
【請求項4】
前記イオン性界面活性剤aが、重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤Aであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のカプセル化物。
【請求項5】
前記ポリマーが、さらに非イオン性基と疎水性基と重合性基とを有する非イオン性重合性界面活性剤Dから誘導された繰り返し構造を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のカプセル化物。
【請求項6】
前記ポリマーが、前記イオン性界面活性剤aとともに、非イオン性基と疎水性基を有する非イオン性界面活性剤eを介して芯物質と接してなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のカプセル化物。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤eが、さらに重合性基を有する非イオン性重合性界面活性剤Eであることを特徴とする、請求項6に記載のカプセル化物。
【請求項8】
前記イオン性界面活性剤a及び/又は前記イオン性重合性界面活性剤Aの「イオン性基」が、前記イオン性界面活性剤b及び/又は前記イオン性重合性界面活性剤Bの「イオン性基」と向かい合い、当該イオン性界面活性剤b及び/又は当該イオン性重合性界面活性剤Bの「疎水性」基が、前記イオン性界面活性剤c及び/又は前記イオン性重合性界面活性剤Cの「疎水性基」と向かい合い、当該イオン性界面活性剤c及び/又はイオン性重合性界面活性剤Cの「イオン性基」がカプセル化物の最外層に存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のカプセル化物。
【請求項9】
さらに前記非イオン性重合性界面活性剤Dの非イオン性基がカプセル化物の最外層に存在することを特徴とする請求項5に記載のカプセル化物。
【請求項10】
(イ)芯物質の表面に、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤a及び/又はイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Aを吸着させる工程、(ロ)当該イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aに対して反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び/又はイオン性モノマーを混合し吸着させる工程、(ハ)疎水性モノマーおよびウレタン(メタ)アクリレートを加えて混合する工程、(ニ)当該イオン性界面活性剤a及び/又はイオン性重合性界面活性剤Aと同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Cを加えて混合する工程、および(ホ)これに重合開始剤を加えて重合する工程を少なくとも有するカプセル化物の製造方法。
【請求項11】
(イ)芯物質の表面に、イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤aを吸着させる工程、(ロ)当該イオン性界面活性剤aに対して反対電荷を有するイオン性界面活性剤bを混合し吸着させる工程、(ハ)疎水性モノマーおよびウレタン(メタ)アクリレートを加えて混合する工程、(ニ)当該イオン性界面活性剤aと同種又は反対の電荷を有するイオン性界面活性剤cを加えて混合する工程、および(ホ)これに重合開始剤を加えて疎水性モノマーを重合する工程を少なくとも有するカプセル化物の製造方法。
【請求項12】
前記(ロ)工程において、混合後に超音波を照射して処理する工程を含むことを特徴とする、請求項10または11に記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載のカプセル化物または請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法により得られるカプセル化物を含んでなるインク組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−227732(P2010−227732A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74873(P2009−74873)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】