説明

カプセル化肝細胞組成物

肝細胞刺激量のエリスロポエチンと物理的に接触した治療有効量の肝細胞の懸濁液をカプセル化しているカプセルシェルを含むマイクロカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞とエリスロポエチンとを含むマイクロカプセル、該マイクロカプセルの調製方法、および該マイクロカプセルを患者に投与するステップを含んでなる患者の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康な被験体の肝臓は、損傷したまたは病気の組織を修復または置換することによって自己を再生することができるが、残念なことに、一旦、一定量の肝細胞が疾患または損傷によって死滅しまたはひどく損なわれると、臓器全体が機能しなくなる可能性がある。このような障害は、急性障害であっても慢性障害であっても、疾患および死亡を引き起こし得る。肝臓疾患の治療は、薬の投与などの従来の方法を包含する。しかし、肝臓またはその一部を移植することも技術水準である。さらに、例えばWO 2004/009766 A2に記載されるように、肝細胞集団を患者に移植することが広く知られている。しかし、標的組織に移植された肝細胞の生存率、生着、増殖および分化の点で最適化される、急性肝疾患または慢性肝疾患を治癒させるための治療法の考案において、それを必要とする患者に肝細胞を送達することは依然として大きな課題である。
【0003】
Haqueら(Biotechnology Letters 27 (5) (2005), 317-322)は、肝不全の治療のための肝細胞移植の代替法として、アルギン酸塩-キトサンマイクロカプセルのin vitro研究について報告している。Chandrasekaraら(Tissue Engineering 12 (7), (2006))は、静電的に生成されたビーズに埋め込まれた肝前駆細胞について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2004/009766 A2
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Haqueら、Biotechnology Letters 27 (5) (2005), 317-322
【非特許文献2】Chandrasekaraら、Tissue Engineering 12 (7), (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
肝細胞を患者の標的組織に効率的に送達する治療体系を開発するための努力にも関わらず、肝臓疾患を治癒させるためのより信頼性の高い治療手段、特に標的身体内での肝細胞の高い生存率および生理学的活性を与える手段を提供するニーズが依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の教示は、肝細胞刺激量のエリスロポエチンと物理的に接触した治療有効量の肝細胞の懸濁液をカプセル化しているカプセルシェル、好ましくは生体適合性カプセルシェルを含むマイクロカプセルを提供することによって上記の課題を解決する。好ましい実施形態において、本発明は、カプセルシェルとコアを含むマイクロカプセルであって、該カプセルシェルがコア中に治療有効量の肝細胞の懸濁液と肝細胞刺激量のエリスロポエチンとをカプセル化し、特にエリスロポエチン(以下EPOと呼ぶ)の刺激作用を肝細胞に与えるようにEPOと肝細胞とが互いに物理的に接触している上記マイクロカプセルを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この図は、細胞のエネルギー状態の尺度としての、EPOと共にカプセル化された肝細胞、またはEPOと共にはカプセル化されていない肝細胞のATP/ADP比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
従って、好ましい実施形態において、本発明は、好ましくは生体適合性カプセルシェル材料で作製されるカプセルシェルと、該カプセルシェルに包まれたコアとを含むマイクロカプセルを提供することを予測する。本発明の1つの好ましい実施形態において、コアは、肝細胞刺激量のエリスロポエチンと物理的に接触した治療有効量の肝細胞の懸濁液を含有する。
【0010】
別の好ましい実施形態において、コアは、好ましくは生体適合性マトリクス材料で作製されるマトリクスを含有し、該マトリクス中には、治療有効量の肝細胞の懸濁液が肝細胞刺激量のエリスロポエチンと物理的に接触して埋め込まれている。好ましくは、マトリクスの材料は、カプセルシェル材料と同じである。別の実施形態において、生体適合性マトリクス材料は、カプセルシェル材料とは別の材料であってよい。
【0011】
従って、本発明は、エリスロポエチンが肝細胞に物理的に接触して、(特に肝細胞の刺激において)その生物学的機能の少なくとも1つを肝細胞に及ぼすように、エリスロポエチンと肝細胞の両方を生体適合性カプセルシェル中に共にカプセル化するための教示を提供する。
【0012】
本発明の1つの利点は、肝細胞がカプセルシェル中にカプセル化されることにより、マイクロカプセルが好ましくは移植された患者に有害反応(特にアレルギー反応または免疫学的反応)を全く引き起こさないことである。さらに、エリスロポエチンの、肝細胞への緊密な接触は、該肝細胞がその生物学的機能を発揮して患者に肝臓の生物学的機能を与えるよう刺激する。
【0013】
特に好ましい実施形態において、肝細胞は、互いに物理的に接触し、エリスロポエチンに刺激された場合にさらにより顕著な作用を与えるような濃度でマイクロカプセル中に含まれる。従って、本発明では、特に好ましい実施形態において、マイクロカプセル中に含まれる肝細胞が互いに物理的に接触し、またエリスロポエチンとも物理的に接触することが考えられる。
【0014】
本発明の文脈において、「肝細胞がエリスロポエチンに物理的に接触している」という表現は、エリスロポエチンが、その生物学的機能の少なくとも1つを肝細胞に及ぼすことが可能であり、特に肝細胞上に存在するエリスロポエチン受容体に到達し、この受容体に可逆的または不可逆的に結合され得ることを意味する。
【0015】
本発明の文脈において、「肝細胞が互いに物理的に接触している」という表現は、肝細胞が本発明のマイクロカプセル中に、細胞が互いに接触するように互いに近接して存在し、肝臓内の自然な生理的状況と酷似した安定した環境を提供することを意味する。
【0016】
本発明の文脈において、「肝細胞を刺激する」という用語は、エリスロポエチンが、一旦被験体に移植されると、好ましくはマイクロカプセルを移植した患者の肝細胞の生物学的機能性を高め、肝細胞の生存率を高め、これらの保存性を高めおよび/またはこれらが首尾よくその生物学的機能を果たす可能性を高めることを意味する。
【0017】
本発明の文脈において、「生体適合性」とは、材料、特にカプセルシェル材料および/またはマトリクス材料が、統合された肝細胞を生存可能に保つことができ、またエリスロポエチンと肝細胞間の相互作用を可能とすることを意味する。特に好ましい実施形態において、「生体適合性」という用語は、この材料が、好ましくは長期間、被験体に望ましくない局所作用または全身作用(特にアレルギー反応および免疫学的反応)を全く引き起こすことなく、埋め込まれた肝細胞の機能を依然として保ちながら患者に移植され得ることを意味する。特に好ましい実施形態において、「生体適合性」という用語は、材料が、好ましくは細胞および被験体に望ましくない作用を全く引き起こすことなく肝臓再生を最適化するため、肝細胞の活性(肝細胞とEPO間の、分子的且つ機構的に類似の系の応答など)を支持する物質としての役割を果し得ることを意味する。
【0018】
本発明の文脈において、「エリスロポエチン」という用語は、赤血球産生すなわち血球産生を制御する糖タンパク質ホルモン、好ましくは適切な用量で、赤芽球を経て赤血球まで、幹細胞の増殖、分化および成熟を制御する物質を指す。
【0019】
エリスロポエチンは、166アミノ酸、3つのグリコシル化部位および約34,000Daの分子量を有する糖タンパク質である。赤血球前駆細胞のEPO誘導性分化の間にグロビン合成が誘導され、ヘム複合体の合成が増大し、フェリチン受容体の数が増加する。その結果、細胞はより多くの鉄を取り込み、機能的ヘモグロビンを合成することができる。成熟赤血球中では、ヘモグロビンは酸素に結合する。このように、赤血球およびそれに含まれるヘモグロビンは、生物への酸素の供給において重要な役割を果たす。これらの過程は、EPOと、赤血球前駆細胞の細胞表面上の適切な受容体との相互作用を通じて開始する(GraberおよびKrantz, Ann. Rev. Med. 29 (1978), 51-56)。
【0020】
本発明の文脈において、「エリスロポエチン」という用語は、野生型エリスロポエチン(特にヒトエリスロポエチン)とその誘導体との両方を包含する。本発明の文脈において、エリスロポエチンの誘導体は、野生型EPOと比較して少なくとも1つのアミノ酸偏位(特に1つ以上のアミノ酸の欠失、付加または置換)によって特徴付けられる組換えエリスロポエチンタンパク質、および/または野生型エリスロポエチンと比較して異なるグリコシル化パターンを有するエリスロポエチンタンパク質である。特に好ましい実施形態において、エリスロポエチン誘導体は、野生型エリスロポエチンの融合タンパク質もしくは短縮タンパク質またはそれらの誘導体でもある。特に好ましい実施形態において、エリスロポエチンの誘導体は、野生型グリコシル化パターンと比較して異なるグリコシル化パターンを有する野生型エリスロポエチンでもある。
【0021】
本明細書で使用される「エリスロポエチン」という用語は、あらゆる起源のEPO(特にヒトEPOまたは動物EPO)を含む。従って、本明細書で使用される用語は、天然の、すなわち言い換えれば野生型のEPOだけでなく、野生型エリスロポエチンの生物学的作用を示す限り、改変体、突然変異タンパク質または突然変異体とも呼ばれるその誘導体も包含する。
【0022】
本発明に関して、「誘導体」という用語により、基本的なエリスロポエチン構造は保持しつつ、1つ以上の原子または分子群または残基の置換によって、特にエチレングリコールなどの糖鎖の置換によって得られるエリスロポエチンの誘導体、および/またはそのアミノ酸配列が、天然のヒトまたは動物エリスロポエチンタンパク質のアミノ酸配列とは少なくとも1つの位置において異なるが、アミノ酸レベルでの高度の相同性および同等の生物学的活性を本質的に有するエリスロポエチンの誘導体も理解されるだろう。例えば本発明において使用し得るエリスロポエチン誘導体は、WO 94/25055、EP 0148605 B1またはWO 95/05465から公知である。
【0023】
「相同性」とは、特に、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%および特に好ましくは少なくとも90%、95%、97%および99%超の配列同一性を意味する。「相同性」という用語は当業者に公知であり、従って、2つ以上のポリペプチド分子間の関連の度合いを指す。これは、配列間の一致によって決定される。このような一致は、アミノ酸の完全一致あるいは保存的交換のいずれかを意味し得る。
【0024】
本発明によれば、「誘導体」という用語は、別のタンパク質の機能的ドメインがN末端部分またはC末端部分上に存在する融合タンパク質も包含する。本発明の1つの実施形態において、この「他のタンパク質」は、例えば、内皮前駆細胞に対する刺激作用を有するGM-CSF、VEGF、PIGF、スタチンまたは別の因子である。本発明の他の実施形態において、「他のタンパク質」は、肝細胞に対する刺激作用を有する因子であってもよい。
【0025】
エリスロポエチン誘導体と、天然のまたは野生型エリスロポエチンとの間の相違は、例えば、エリスロポエチンのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の変異(例えば欠失、置換、挿入、付加、塩基交換および/または組換え)を通じて生じ得る。当然、このような相違は別の生物由来の配列もしくは天然に変異した配列、または化学剤および/または物理剤などの当技術分野で公知の一般的な方法を用いてエリスロポエチンをコードする核酸配列に選択的に導入された変異などの天然の配列変異であってもよい。従って、本発明に関して、「誘導体」という用語は、変異したエリスロポエチン分子、すなわち言い換えればエリスロポエチン突然変異タンパク質も包含する。
【0026】
本発明によれば、エリスロポエチンのペプチド類似体またはタンパク質類似体も使用することができる。本発明に関して、「類似体」という用語は、エリスロポエチンのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列は全く含まないが、エリスロポエチンの三次元構造と非常に類似した三次元構造を有することにより、同等の生物学的活性を有する化合物を包含する。エリスロポエチン類似体は、例えば、好適なコンホメーションにおいて、エリスロポエチンの受容体への結合に関与するアミノ酸残基を含み、このためエリスロポエチン結合領域の必須の表面特性を刺激することができる化合物であり得る。この種の化合物は、例えば、Wrightonら, Science, 273 (1996), 458に記載されている。
【0027】
本発明により使用されるEPOは、様々な方法で、例えば、ヒト尿または再生不良性貧血に罹患している患者の尿もしくは血漿(血清を含む)からの単離によって製造することができる(Miyakeら, J.B.C. 252 (1977), 5558)。例として、ヒトEPOは、ヒト腎癌細胞の組織培養物から(日本国公開公報(JA Unexamined Application)55790/1979)、ヒトEPOを産生する能力を有するヒトリンパ芽球細胞から(日本国公開公報(JA Unexamined Application)40411/1982)、およびヒト細胞株の細胞融合によって得られるハイブリドーマ培養物から得ることもできる。EPOは、例えば細菌中、酵母中、または植物、EPOの適切なアミノ酸配列をコードする好適なDNAまたはRNAを用いて動物もしくはヒトの細胞株中で遺伝子操作によって所望のタンパク質を産生する遺伝子工学法によって製造することもできる。このような方法は、例えば、EP 0148605 B2またはEP 0205564 B2およびEP 0411678 B1に記載されている。
【0028】
本発明の文脈では、エリスロポエチンの誘導体は、好ましい実施形態において、好ましくはエポエチン(Epoetin)(プロクリット(Procrit)、エポジェン(Epogen)、エプレックス(Eprex)またはネオレコルモン(NeoRecormon)とも呼ばれる)、エポエチンデルタ(Epoetin delta)(ディネポ(Dynepo)とも呼ばれる)、ダルベポエチン(Darbepoetin)(アラネスプ(Aranesp)とも呼ばれる)、PDpoetin、CERA(連続エリスロポエチン受容体アンタゴニスト)およびメトキシポリエチレングリコール-エポエチンベータ(ミルセラ(Mircera)とも呼ばれる)からなる群から選択される、機能的且つ臨床的に証明されたEPO誘導体である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、マイクロカプセルは、肝細胞刺激量のエリスロポエチンと物理的に接触した治療有効量の肝細胞を埋め込んで含む生体適合性カプセルシェル材料で作製される、好ましくは球状のビーズである。本発明の文脈において、マイクロカプセルは好ましくは球状で、好ましくは10μm〜10mm、好ましくは140μm〜10mm、好ましくは50μm〜1mm、好ましくは60μm〜800μm、好ましくは100〜700μmの直径を有する。本発明の好ましい実施形態において、本発明のマイクロカプセルは、肝細胞、エリスロポエチンおよび生体適合性カプセルシェル材料で構成される。好ましくは、上記の3つの成分に加えて、マイクロカプセルのコーティングおよび/またはマイクロカプセルのコア中の生体適合性マトリクスが考えられる。
【0030】
従って、特に好ましい実施形態において、本発明は、肝細胞刺激量のエリスロポエチンと物理的に接触して生体適合性マトリクス材料中にカプセル化されている治療有効量の肝細胞を含むマイクロカプセルに関する。
【0031】
特に好ましい実施形態において、肝細胞は、懸濁液、好ましくは細胞培養懸濁液の形態でカプセルシェルに埋め込まれる。肝細胞懸濁液は、好ましくは細胞培地または生理学的に許容可能な水溶液中に含まれる肝細胞の形態である。肝細胞懸濁液は、好ましくは細胞培地中の肝細胞の懸濁液である。
【0032】
特に好ましい実施形態において、肝細胞は、シェルに含まれるマトリクスに、懸濁液、好ましくは細胞培養懸濁液、好ましくは細胞培地または生理学的に許容可能な水溶液中に含まれる肝細胞の形態で埋め込まれる。
【0033】
特に好ましい実施形態において、本発明は、肝細胞が、肝前駆細胞、肝幹細胞、肝芽細胞および肝細胞からなる群から選択されるマイクロカプセルに関する。
【0034】
特に好ましい実施形態において、本発明は、肝細胞が、肝前駆細胞、肝幹細胞、肝芽細胞、肝細胞および内皮細胞からなる群から選択されるマイクロカプセルに関する。
【0035】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、肝細胞が、成体の肝臓、胚形成期の肝臓、胎児の肝臓、新生児の肝臓または肝細胞培養物から得られるマイクロカプセルに関する。好ましくは、肝細胞は生きている肝細胞である。好ましい実施形態において、肝細胞は、生きているドナーまたは死亡したドナー、特に最近亡くなったドナーから得ることができる。
【0036】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、肝細胞が、ヒト肝細胞、非ヒト霊長類肝細胞、ブタ肝細胞、イヌ肝細胞、ネコ肝細胞、ウサギ肝細胞、マウス肝細胞またはラット肝細胞であるマイクロカプセルに関する。
【0037】
特に好ましい実施形態において、本発明は、マイクロカプセルが、100〜700μm、好ましくは200、300、400、500、600または650〜700μmの平均直径を有するマイクロカプセルに関する。
【0038】
特に好ましい実施形態において、本発明は、治療有効量の肝細胞が、104〜108、好ましくは105〜107肝細胞/ml懸濁液であるマイクロカプセルに関する。
【0039】
特に好ましい実施形態において、本発明は、肝細胞が、8〜14μm、好ましくは9〜12μmの平均直径を有するマイクロカプセルに関する。
【0040】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、肝細胞刺激量のエリスロポエチンが、10-7〜10-2、好ましくは10-7〜10-3、好ましくは10-7〜10-5および好ましくは10-6〜10-5U/ml懸濁液であるマイクロカプセルに関する。
【0041】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、EPOが野生型エリスロポエチンまたは組換えエリスロポエチンであるマイクロカプセルに関する。
【0042】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、カプセルシェル材料が、アルギン酸塩、アルギン酸塩-キトサン(AC)、アルギン酸塩-ポリ-L-リジン(APA)、熱ゲル化ポリマーおよびPEGヒドロゲルからなる群から選択されるマイクロカプセルに関する。
【0043】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、マトリクス材料が、アルギン酸塩、アルギン酸塩-キトサン(AC)、アルギン酸塩-ポリ-L-リジン(APA)、熱ゲル化ポリマーおよびPEGヒドロゲルからなる群から選択されるマイクロカプセルに関する。
【0044】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、肝細胞に加えて、少なくとも1種のさらなる細胞種がマイクロカプセル中に存在するマイクロカプセルに関する。
【0045】
特に好ましい実施形態において、マイクロカプセル中に存在する少なくとも1種のさらなる細胞種は、肝星細胞、胆管細胞、造血細胞、単球、マクロファージ系統細胞、リンパ球および内皮細胞からなる群から選択される。
【0046】
本発明のさらに好ましい実施形態において、マイクロカプセルは、肝細胞とEPOに加えて、好ましくはHGH(ヒト成長因子)、VEGF(血管内皮成長因子)、CSF(コロニー刺激因子)、トロンボポエチン、SCF複合体(Skpcollien、F-ボックス含有複合体)、SDF(ストロマ細胞由来因子-1)、NGF(神経成長因子)、PIGF(ホスファチジルイノシトールグリカンアンカー生合成、クラスF)、HMGコレダクターゼ阻害剤、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤、AT-1-阻害剤およびNOドナーからなる群から選択される少なくとも1種のさらなる成長因子を含むことが考えられる。
【0047】
特に好ましい実施形態において、本発明は、マイクロカプセルがコーティングされているマイクロカプセルに関する。
【0048】
本発明の特に好ましい実施形態において、コーティングは、ポリマーコーティング、糖コーティング、糖アルコールコーティングおよび/または脂肪もしくはワックスコーティングである。
【0049】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、上記のマイクロカプセルを調製する方法であって、以下のステップ:
a) 治療有効量の肝細胞の懸濁液と肝細胞刺激量のエリスロポエチンを提供するステップ、
b) 肝細胞の懸濁液とエリスロポエチンを混合して互いに物理的に接触させるステップ、および
c) 肝細胞の懸濁液とエリスロポエチンをカプセルシェル材料にカプセル化してマイクロカプセルを形成するステップ
を含んでなる、上記方法に関する。
【0050】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、ステップc)で得られるマイクロカプセルが凍結保存される方法に関する。
【0051】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、それを必要とする被験体における肝臓疾患の予防的または治療的治療方法であって、本発明によるマイクロカプセルを、それを必要とする被験体に投与するステップを含んでなる、上記方法に関する。
【0052】
特に好ましい実施形態において、本発明は、肝臓疾患が、肝炎、肝硬変、先天性代謝異常、急性肝不全、急性肝臓感染、急性化学毒性、慢性肝不全、細胆管炎、胆汁性肝硬変、アラジール症候群、α-1-アンチトリプシン欠損症、自己免疫肝炎、胆道閉鎖症、肝臓癌、肝嚢胞症、脂肪肝、ガラクトース血症、胆石、ジルベール症候群、ヘモクロマトーシス、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎および他の肝炎ウイルス感染、ポルフィリン症、原発性硬化性胆管炎、ライ(Reye’s)症候群、サルコイドーシス、チロシン血症、1型糖原病またはウィルソン病である方法に関する。
【0053】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、投与が、肝臓被膜下、脾臓中、肝臓中、肝髄中または脾動脈もしくは脾門脈中へのマイクロカプセルの導入によって行われる方法に関する。
【0054】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、本発明によるマイクロカプセルを被験体に投与することを含んでなる、肝細胞を被験体に導入する方法に関する。
【0055】
本発明の特に好ましい実施形態において、投与はそれを必要とする被験体への導入によって行われ、この場合、投与は、局所投与、腸内投与または非経口投与である。好ましい実施形態において、局所投与は、皮膚上、吸入、膣内または鼻内投与である。好ましい実施形態において、腸内投与は、経口で、経胃栄養チューブにより、または経直腸的に行われる。好ましい実施形態において、非経口投与は注射または注入によって行われ、好ましくは静脈内、動脈内、筋肉内、心臓内、皮下、骨内、皮内、髄腔内、腹腔内または膀胱内投与である。さらに好ましい実施形態において、非経口投与は、経皮、経粘膜または吸入である。
【0056】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、本発明によるマイクロカプセルを好適な培地中で、且つ肝細胞の生存率を維持しまたは増加させるのに好適な条件下で培養するステップを含んでなる、培地中で、好ましくはin vitroで肝細胞を培養する方法に関する。
【0057】
特に好ましい実施形態において、本発明は、本発明によるマイクロカプセルを好適な培地中で、且つ肝細胞のエネルギー状態を維持しまたは増加させるのに好適な条件下で培養するステップを含んでなる、培地中で、好ましくはin vitroで肝細胞のエネルギー状態を維持しまたは増加させる方法に関する。
【0058】
本発明の他の好ましい実施形態は、下位請求項の主題である。
【実施例】
【0059】
実施例1
EPO(5 x 10-3単位/ml)の存在下で、平均直径100〜700μmを有するビーズに104〜108細胞/mlの濃度でアルギン酸塩と共にカプセル化された肝細胞は、EPOを含まない点を除いて同様にカプセル化された肝細胞よりも優れているであろう。ATP/ADP比は、細胞のエネルギー状態の尺度として用いられる。実験中に、ATP/ADP比が未処理の細胞よりも速い速度で増加するか、または未処理の細胞中のATP/ADP比より高いままであるならば、この証拠は仮説を裏付けるであろう。
【0060】
肝細胞のカプセル化
凍結保存したヒト肝細胞の単一ストックから、静電ビーズ作成装置を用いて肝細胞の細胞カプセル化を行った。肝細胞を常用の培地に懸濁し、2%アルギン酸ナトリウム溶液と1:1の比で混合した。結果として得られた、4000,000細胞/mlの濃度で肝細胞を含む1%アルギン酸塩溶液を、24ゲージの血管カテーテルが取り付けられた1ccシリンジに吸引した。この血管カテーテルは、23ゲージの針で中心に穴が開けられ、静電キャスティング過程で陽極としての役割を果たした。このシリンジを、シリンジポンプ(Braintree Scientific BS-8000, Braintree, MA)上に搭載し、血管カテーテルから放出される液滴が、250mlガラスビーカー中の125mM塩化カルシウム(CaCl2)溶液(5 x 10-3U/mlおよび5 x 10-6U/mlのEPOを含む、またはEPOを含まない、1%ヒトアルブミンを含む従来のバッファー4またはサイトネット(Cytonet)社のバッファー4)の表面上に直角に落ちるように配置した。血管カテーテルチップからCaCl2の表面までの距離は約2.5cmで固定した。ポンプ流量は0.75〜1.5ml/分の範囲内に設定した。接地電極をCaCl2受入バスに浸した。高圧DC源(Spellmanモデル RHR30PF30, Hauppauge, NY)を3.8〜6kVの範囲で用いて、血管カテーテルチップからCaCl2バスに静電位を発生させた。ビーズサイズ(500μm)は、印加電位を調整することによって制御した。高静電位の存在下でシリンジポンプのスイッチを入れると、搾り出されたアルギン酸ナトリウム溶液が小さな液滴として引き出され、この液滴はCaCl2溶液と接触すると直ぐに固体アルギン酸カルシウムへと重合した。
【0061】
カプセル化後、肝細胞アルギン酸塩ビーズを、10%血清、244単位/mlのペニシリン、0.244mg/ml、5.5mMのグルタミン、0.195単位/mlのインスリン、0.017ug/mlのグルカゴン、0.73ug/mlのプレドニソロン、0.54ug/mlのデキサメタゾンを添加したウィリアムスE(William's E)培地に保存して2時間培養した。
【0062】
脱カプセル化は、ビーズを100mMクエン酸塩中に置くことによって行った。アルギン酸塩が溶解したら、細胞をPBSで2回洗浄し、200 x Gで1分間遠心分離することによってペレット化した。代謝物は4%過塩素酸を細胞上にかけることによって抽出し、ハンドヘルドマイクロホモジナイザーで20秒間ホモジナイズした。次いで、サンプルを14,000 x Gで3分間遠心分離し、代謝物を含む上清を取り出した。過塩素酸をKOHで中和し、遠心分離によって不溶性の過塩素酸カリウムを除去した。その後、“Measurements of ATP in Mammalian cells”(Manfrediら Methods 2002 (4), 317-326)に記載されるATP、ADP分析について、サンプルをHPLC法で分析した。3つの水平プレートを使用して、ATP/ADPレベル決定を行った。
【0063】
結果
ATP/ADP比は細胞のエネルギーの尺度であり、全ての生化学経路が細胞の代謝状態に及ぼす影響を示す。EPOと共にカプセル化された肝細胞中で見られるATP/ADP比の維持(図参照)は、該細胞が、この細胞の全ての機能に必要とされるエネルギー生成経路を維持し得ることを明らかに示す。この実験では、ATP/ADPの比は、EPO処理群では維持されたが、未処理の対照では維持されなかった。EPO処理群はATP/ADP比を維持することができたが、対照のATP/ADP比は0.5を下回った。このことは、EPOが、非EPO受容体駆動経路を通じてシグナル伝達して細胞栄養刺激を与える可能性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞刺激量のエリスロポエチンと物理的に接触した治療有効量の肝細胞の懸濁液をカプセル化しているカプセルシェルを含むマイクロカプセル。
【請求項2】
肝細胞が、肝前駆細胞、肝幹細胞、肝芽細胞、内皮細胞および肝細胞からなる群から選択される、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
肝細胞が、成体の肝臓、胚形成期の肝臓、胎児の肝臓、新生児の肝臓または肝細胞培養物から得られる、請求項1または2に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
肝細胞が、ヒト肝細胞、非ヒト霊長類肝細胞、ブタ肝細胞、イヌ肝細胞、ネコ肝細胞、ウサギ肝細胞、マウス肝細胞またはラット肝細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
マイクロカプセルが100〜700μmの平均直径を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
肝細胞が8〜14μmの平均直径を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
治療有効量の肝細胞が104〜108肝細胞/ml懸濁液である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項8】
肝細胞刺激量のエリスロポエチンが、10-7〜10-2、好ましくは10-7〜10-3U/ml懸濁液である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項9】
エリスロポエチンが、野生型エリスロポエチンまたは組換えエリスロポエチンである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項10】
カプセルシェルが、アルギン酸塩、アルギン酸塩-キトサン(AC)、アルギン酸塩-ポリ-L-リジン(APA)、熱ゲル化ポリマーおよびPEGヒドロゲルからなる群から選択される生体適合性材料で作製されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項11】
肝細胞に加えて少なくとも1種のさらなる細胞種がマイクロカプセル中に存在する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項12】
マイクロカプセルがコーティングされている、請求項1〜11のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項13】
マイクロカプセルが、肝細胞とエリスロポエチンを埋め込んだ生体適合性マトリクスを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のマイクロカプセルを調製する方法であって、以下のステップ:
a) 治療有効量の肝細胞の懸濁液と肝細胞刺激量のエリスロポエチンを提供するステップ、
b) 肝細胞の懸濁液とエリスロポエチンを混合して互いに物理的に接触させるステップ、および
c) 肝細胞の懸濁液とエリスロポエチンを生体適合性カプセルシェル材料にカプセル化してマイクロカプセルを形成するステップ
を含んでなる、前記方法。
【請求項15】
ステップc)で得られるマイクロカプセルが凍結保存される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
それを必要とする被験体における肝臓疾患を予防または治療するための方法であって、請求項1〜13のいずれか1項に記載のマイクロカプセルをそれを必要とする被験体に投与するステップを含んでなる、前記方法。
【請求項17】
肝臓疾患が、肝炎、肝硬変、先天性代謝異常、急性肝不全、急性肝臓感染、急性化学毒性、慢性肝不全、細胆管炎、胆汁性肝硬変、アラジール症候群、α-1-アンチトリプシン欠損症、自己免疫肝炎、胆道閉鎖症、肝臓癌、肝嚢胞症、脂肪肝、ガラクトース血症、胆石、ジルベール症候群、ヘモクロマトーシス、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎および他の肝炎ウイルス感染、ポルフィリン症、原発性硬化性胆管炎、ライ(Reye's)症候群、サルコイドーシス、チロシン血症、1型糖原病またはウィルソン病である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
投与が、肝臓被膜下、脾臓中、肝臓中、肝髄中または脾動脈もしくは脾門脈中へのマイクロカプセルの導入によって行われる、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のマイクロカプセルを被験体に投与することを含んでなる、肝細胞を被験体に導入する方法。
【請求項20】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のマイクロカプセルを好適な培地中で培養するステップを含んでなる、培地中で肝細胞を培養する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−524739(P2012−524739A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506407(P2012−506407)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002563
【国際公開番号】WO2010/124837
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(502105052)シトネット ゲーエムベーハー ウント ツェーオー.カーゲー (2)
【Fターム(参考)】