説明

カプセル製造装置、医療用カプセル、及び、カプセル製造方法

【課題】 液膜状のシェル材をコアが貫通することによりカプセルを生成するカプセル製造装置において、シェル材を適切に補充しながらカプセルを生成する。
【解決手段】 コアを形成する第1の液体の液滴を噴射する第1液体噴射部と、シェルを形成する第2の液体を膜状に保持する液膜保持部であって、保持された前記第2の液体の液膜を前記コアが貫通する際に、前記第2の液体によって前記コアを被覆させることにより、前記コアを内包するシェルを形成させる液膜保持部と、前記第2の液体の液膜に前記第2の液体を噴射することで、前記液膜に前記第2の液体を補充する第2液体噴射部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル製造装置、医療用カプセル、及び、カプセル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芯物質(コア)を皮膜(シェル)で覆うことによって生成されるカプセルが知られている。このようなカプセルのうち、粒径がマイクロメートルオーダーの微小なカプセルはマイクロカプセル(マイクロスフィア、ゲルビーズ)と呼ばれ、近年開発が進んでいる。マイクロカプセルは、コアやシェルの形成材料を適当に選択することで様々な機能を持たせることができる。例えば、コアを外部環境から保護する機能や、外部環境へコアを放出する速度を調節する機能等を持たせることができ、現在では、機能性材料として食品、医薬品等の多岐の分野に渡って応用されている。
【0003】
このようなマイクロカプセルの生成方法として、カプセルのコアを形成するコア材及びシェルを形成するシェル材(ともに液体である)を用いて、シェル材によってコア材を被覆させることでカプセルを生成する方法がある。例えば、コア材によって形成される液面の上に、該コア材よりも比重の小さいシェル材を浮かべるようにしてシェル材を液膜状に形成して保持する。そして、コア材とシェル材との界面付近(コア材液面の下側)で気泡を発生・破裂させる。この気泡が破裂する際に生じる圧力によって、コア材をシェル材の液膜側に吐出させ、シェル材によってコア材を包み込むように被覆してマイクロカプセルを生成する方法が提案されている。(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−224647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法によれば、シェルの厚さが均一なマイクロカプセルを生成しやすくなる。
しかし、特許文献1では、一旦シェル材の液膜が形成された後は、カプセル生成動作中に該液膜の管理が十分に行なわれていない。例えば、液膜の表面積が大きい場合には、時間の経過と共に液膜を形成するシェル材が蒸発し、液膜の厚さが薄くなるおそれがある。しかし、このような液膜の厚さの変化については考慮されていない。
【0006】
カプセルを生成する際にシェル材の液膜の厚さが変化すると、コアを被覆するシェルの厚さも変化すると考えられ、シェルの厚さを均一に保つことが難しくなる。したがって、カプセル生成動作中において、減少した分のシェル材が適切に補充され、シェル材液膜の厚さが一定に保たれるように注意する必要がある。
【0007】
本発明では、液膜状のシェル材をコアが貫通することによりカプセルを生成するカプセル製造装置において、シェル材を適切に補充しながらカプセルを生成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための主たる発明は、コアを形成する第1の液体の液滴を噴射する第1液体噴射部と、シェルを形成する第2の液体を膜状に保持する液膜保持部であって、保持された前記第2の液体の液膜を前記コアが貫通する際に、前記第2の液体によって前記コアを被覆させることにより、前記コアを内包するシェルを形成させる液膜保持部と、前記第2の液体の液膜に前記第2の液体を噴射することで、前記液膜に前記第2の液体を補充する第2液体噴射部と、を備えるカプセル製造装置である。
【0009】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】カプセルの概念図である。
【図2】シェルが形成される際の動作について概略的に説明する図である。
【図3】第1実施形態におけるカプセル製造装置1の基本的な構成を説明する概略図である。
【図4】噴射ヘッド11の構造を説明する断面図である。
【図5】第1実施形態においてカプセル製造装置1を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図である
【図6】アルギン酸ナトリウムの説明図である。
【図7】アルギン酸ナトリウムからアルギン酸カルシウムゲルへ変化する中間の様子を示す説明図である。
【図8】アルギン酸カルシウムゲルの説明図である。
【図9】第1実施形態の変形例におけるカプセル製造装置1の基本的な構成を説明する概略図である。
【図10】第1実施形態の変形例で形成されるシェル材の液膜の一例について説明する図である。
【図11】第2実施形態におけるカプセル製造装置2の基本的な構成を説明する概略図である。
【図12】第2実施形態で形成されるシェル材の液膜の一例について説明する図である。
【図13】第2実施形態においてカプセル製造装置2を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図である。
【図14】コア形成工程(S201)においてコア材噴射可否を判断するためのフローを表す図である。
【図15】第3実施形態におけるカプセル製造装置3の基本的な構成を説明する概略図である。
【図16】第3実施形態で形成されるシェル材の液膜の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0012】
コアを形成する第1の液体の液滴を噴射する第1液体噴射部と、シェルを形成する第2の液体を膜状に保持する液膜保持部であって、保持された前記第2の液体の液膜を前記コアが貫通する際に、前記第2の液体によって前記コアを被覆させることにより、前記コアを内包するシェルを形成させる液膜保持部と、前記第2の液体の液膜に前記第2の液体を噴射することで、前記液膜に前記第2の液体を補充する第2液体噴射部と、を備えるカプセル製造装置。
このようなカプセル製造装置によれば、カプセルを生成する際にシェル材を適切に補充しながらカプセルを生成することができる。これにより、シェル材の液膜の厚さの変動を抑制しながらカプセルを生成することができるので、均一な厚さのシェルを形成しやすくなる。
【0013】
かかるカプセル製造装置であって、前記液膜は、前記第2の液体を補充する部分、及び、前記コアが貫通する部分、及び、前記第2の液体を補充する部分と前記コアが貫通する部分との間を接続する部分、から構成され、前記接続する部分の幅は、前記第2の液体を補充する部分、及び、前記コアが貫通する部分の幅と同じ、もしくは、狭いことが望ましい。
このようなカプセル製造装置によれば、液膜上で所定領域を確保する必要のある部分(コア材を貫通させる部分と膜厚を測定する部分)以外の部分では表面積を小さくすることができる。これにより、該液膜からシェル材を蒸発しにくく、かつ破壊されにくくすることができる。
【0014】
かかるカプセル製造装置であって、前記液膜保持部に保持された第2の液体の液膜の厚さを測定する測定部を備えることが望ましい。
このようなカプセル製造装置によれば、カプセル生成動作中にシェル材液膜の厚さを正確に測定することができるので、該液膜の厚さを一定に保ちやすくなる。液膜の厚さを一定に保つことによって、シェルの厚さが均一なカプセルを生成することができる。
【0015】
かかるカプセル製造装置であって、前記第1液体噴射部から前記第1の液体を噴射させ、前記第2液体噴射部から前記第2の液体を噴射させる制御部を備え、前記制御部は、前記液膜の厚さを測定した結果が所定の値よりも小さい場合には、前記液膜に前記第2の液体を補充させ、前記液膜の厚さを測定した結果が所定の値である場合には、前記第1の液体を噴射させることが望ましい。なお、所定の値とは、コア材液滴が持つ速度に応じた貫通可能液膜厚以内でかつ、所望のシェル厚が得られる液膜厚の値である。カプセルのシェル厚は、液膜厚に非常に大きく関係する。つまり、シェル厚の厚いカプセルを生成したいときには液膜厚を大きくし、シェル厚の薄いカプセルを生成したいときは液膜厚を小さくすることで、カプセルのシェル厚を任意寸法にすることができる。
このようなカプセル製造装置によれば、膜厚の測定結果に応じて該膜厚を調整しながらカプセルを生成することができる。すなわち、膜厚が所定の厚さよりも薄い場合には液膜にシェル材を補充することによって、該液膜の厚さを均一に保ちやすくなる。これにより、シェル材の無駄を省きつつ、シェルの厚さが均一なカプセルを生成することができる。
【0016】
かかるカプセル製造装置であって、前記第1液体噴射部は、前記第1の液体の液滴を噴射するノズルが複数並ぶノズル列を備え、前記ノズル列に沿って形成される前記第2の液体の液膜に向けて、前記ノズル列から複数の前記第1の液体の液滴を噴射することが望ましい。
このようなカプセル製造装置によれば、ノズル列から一度に複数のコア材を噴出させることができるため、一度に複数のカプセルが生産可能になる。つまり、カプセルを効率よく量産することができる。
【0017】
かかるカプセル製造装置であって、前記第2の液体によって形成されるシェルを第3の液体と接触させて化学反応を生じさせることにより、前記シェルを硬化させることが望ましい。なお、化学反応とは、高分子反応、重合反応、架橋反応等を含み、さらに、ここで言う硬化とは、液体の粘度が高くなることや、液体状のものが固体状に性状変化することなどを含み、特に固体特有の強度変化に限定されるものではない。
このようなカプセル製造装置によれば、適切に硬化されたシェルを有するカプセルを生成することができる。
【0018】
かかるカプセル製造装置であって、前記第2の液体は多糖類、蛋白質類を含む水溶液であり、前記第3の液体は多価金属塩を含む水溶液であり、前記第2の液体と前記第3の液体とを接触させて架橋反応を生じさせることにより、前記シェルを硬化させることが望ましい。
このようなカプセル製造装置によれば、人体に無害で医療分野等に対する応用性が高いカプセルを生成することができる。また、親水性のゲルによるシェルを形成することが可能であるため、保水性能が高く、また、外部環境とカプセルとの間でシェルを介しての浸透圧調整が容易なカプセルを生成することができる。
【0019】
また、かかるカプセル製造装置で製造された医療用カプセルが明らかなる。
このような医療用カプセルによれば、所望のサイズや硬さの微小カプセルが製造できるため、DDS(ドラックデリバリーシステム)のように、薬剤などのコアとそれを被覆するシェルなどを構成することにより、途中で吸収・分解されることなく患部に到達させ、患部で薬剤を放出することができる。
【0020】
また、膜状に保持された第2の液体の液膜に向けて第1の液体を噴射することにより、コアを形成することと、前記コアが前記第2の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって前記コアを被覆させることにより、前記コアを内包するシェルを形成することと、前記第2の液体の液膜に前記第2の液体を噴射することで、前記液膜に前記第2の液体を補充することと、を有するカプセル製造方法が明らかとなる。
【0021】
===概要===
<カプセルとは>
図1に、本実施形態で生成されるカプセルの概念図を示す。本実施形態におけるカプセルは、図のように「コア」(内包物)、及びそれを覆う「シェル」によって構成され、球状の外形を有する。「コア」を形成するコア材は、有効成分(例えば、ハイドロキノン、セラミド、牛血清アルブミン、γ−グロブリン、リピオドール、ビフィズス菌、ビタミン、ヒアルロン酸、IPS細胞等)を含んだ物質である。コア材には当該有効成分が溶解していているもの、有効成分が分散しているもの、また、有効成分が固体もしくは気体状で存在しているものが含まれる。このようなカプセルは、食料、医薬部外品、医薬品等、種々の分野で使用されており、カプセルの大きさ(内包物の容量)や、シェルの厚さはその用途に応じて様々である。
【0022】
<カプセルの生成方法>
上述のようなコアとシェルとを有するカプセルを生成する方法の概要について簡単に説明する。本実施形態では、複数種類の液体を原材料としてカプセルが生成される。コアを形成するコア材として第1の液体が用いられ、シェルを形成するシェル材として第2の液体が用いられるものとする。第1の液体及び第2の液体は、生成されるカプセルの機能や用途に応じてそれぞれ最適な液体材料が選択される。
【0023】
カプセルを生成する際には、薄膜状に形成されたシェル材(第2の液体による液膜)に対して、カプセルのコアとなるコア材(第1の液体)の液滴を突入させる。そして、コア材がシェル材の液膜を貫通する際にシェル材(第2の液体)がコア材全体を包み込むようにして被覆することによってシェルが形成される。
【0024】
図2は、シェルが形成される際の動作について概略的に説明する図である。図の(A)〜(D)はコア材が液膜を貫通する際の様子を時系列順に表したものである。図では、水平に保持された液膜(斜線部)に対して鉛直上方向から垂直にコア材が突入するものとする。
【0025】
(A)はじめに、コア材(第1の液体)の液滴によって形成されたコアが、シェル材(第2の液体)によって形成された液膜に所定の速度(液膜を貫通可能な速度)で突入する。(B)液膜と接触したコアはそのまま直進を続け、液膜を貫通しようとする。これに対して、液膜はコアを包むように変形する。なお、第1の液体と第2の液体とは、組成や比重、粘度、表面張力等の性質が異なり、互いに混合しにくい液体が選択される。例えば、水性の液体と油性の液体など界面が形成される液体の組合せの液体を選択することにより、両者が接触した場合でも直ちに混合されることがないようにする。(C)コアは液膜に包まれたまま直進を続ける。コアが当初の液膜の位置を通過した段階では、コアの大部分が液膜(第2の液体)によって覆われる。なお、コアが通過した部分では液膜に穴が開いたような状態となるが、その穴の周囲から第2の液体が移動することにより、液膜の穴をふさいで穴のない状態に戻そうとする。(D)コアが液膜を完全に貫通すると、コア全体が第2の液体に被覆された状態となり、コアを内包するようにシェルが形成される。また、コアが貫通することによって液膜に開いた穴は第2の液体により閉じられる。
【0026】
このような動作を経ることで、シェルによってコアが被覆された構造を有するカプセルが生成される。
【0027】
なお、図2の(D)の状態では、カプセルのシェルが液体(第2の液体)のままである。そのため、当該シェルは外部環境に対して非常に不安定な場合があり、生成されたカプセルに触れるだけでシェルが破壊されてしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、形成されたシェル(第2の液体)にシェル硬化材として第3の液体を接触させて化学反応を生じさせる。化学反応によりシェルを適切な硬さに硬化させることによって外部環境に対して強いカプセルを生成する。第2の液体と第3の液体との化学反応についての詳細は後で説明する。なお、硬化するとは、液体の粘度が高くなることや、液体状のものが固体状に性状変化することなどを含み、特に固体特有の強度変化に限定されるものではない。
【0028】
===第1実施形態===
発明を実施するためのカプセル製造装置の形態として、液体噴射装置を用いたカプセル製造装置1を例に挙げて説明する。
【0029】
カプセル製造装置1では、インクジェット方式を用いて液滴を噴射することにより、カプセルの大きさやシェルの厚さを自由に調整しながら、所望のサイズのカプセルを製造(生成)する。また、インクジェット方式により微少量の液滴を噴射することで、カプセル径がナノメートル(nm)オーダーやマイクロメートル(μm)オーダーとなるような、微小サイズのカプセルを生成することが可能である。例えば、0.1〜500pl(ピコリットル)程度の容量の、所謂マイクロカプセル(マイクロスフィア)を生成することができる。
【0030】
また、本実施形態では、図2で説明したように、噴射されたコア材の液滴をシェル材の液膜に貫通させることでカプセルを生成する。その際、シェル材の液膜に適宜シェル材を補充することにより、液膜の厚さ(膜厚)を一定に保つようにする。カプセル生成動作を通して該液膜の厚さが大きく変動しないように管理することにより、シェルの厚さが均一なカプセルを生成しやすくなる。膜厚管理の詳細については後で説明する。
【0031】
<カプセル製造装置1の構成>
図3は、第1実施形態におけるカプセル製造装置1の基本的な構成を説明する概略図である。カプセル製造装置1は、第1液体噴射部10と、第2液体噴射部20と、液膜保持部30と、液体接触部50とを備える。
【0032】
説明のため、図3に示されるように、X軸、Y軸、Z軸からなる座標軸を設定する。Z軸は鉛直方向(図3において下向きの方向)であり、X軸はZ軸に対して垂直な方向であり、Y軸はZ軸及びX軸に垂直な方向であるものとする。図3では、第1液体噴射部10と、液膜保持部30と、液体接触部50とがZ軸方向に沿って直線状に並んで配置されているが、これらの位置関係を変更することも可能である。
【0033】
(第1液体噴射部10)
第1液体噴射部10は、第1の液体(コア材)を噴射することによってマイクロカプセルのコアを形成するコア形成部である。第1液体噴射部10は噴射ヘッド11と、第1液体タンク12とを有する。
【0034】
噴射ヘッド11は第1の液体を液滴として噴射する。噴射ヘッド11による液体噴射動作については後で説明する。第1液体タンク12はコアの原料としての第1の液体を貯留しておくタンクであり、不図示の液体伝送路を介して噴射ヘッド11に第1の液体を供給する。噴射ヘッド11の動作は不図示の制御部HCによって制御される。制御部HCは、噴射ヘッド11を駆動させるための電圧波形信号である駆動信号を生成し、後述するピエゾ素子PZTに印加することによって、第1の液体を噴射させる。また、制御部HCは、第1の液体の噴射可否についての判断も行なう。詳細は後述する。
【0035】
図4は、噴射ヘッド11の構造を説明する断面図である。噴射ヘッド11は、ノズル111、ピエゾ素子PZT、液体供給路112、ノズル連通路114(容積室に相当する)、及び、弾性板116(ダイアフラムに相当する)を有する。
【0036】
第1液体タンク12に貯留された第1の液体は、液体供給路112を介してノズル連通路114に供給される。圧電素子であるピエゾ素子PZTには、制御部HCで生成された複数のパルスを有する電圧信号が駆動信号として印加される。駆動信号が印加されると、該駆動信号に従ってピエゾ素子PZTが伸縮し、弾性板116を振動させる。そして、ノズル連通路114の容積を変化させ、駆動信号の振幅に対応するようにノズル連通路114内に供給された第1の液体を移動させる。
【0037】
第1の液体の移動について具体的に説明する。本願実施形態のピエゾ素子PZTは、電圧を印加すると図4の上下方向に収縮する特性を有する。駆動信号としてある電圧からより大きい電圧を印加した場合、ピエゾ素子PZTは図4の上下方向に収縮してノズル連通路114の容積を拡大する方向に弾性板116を変形させる。このとき、ノズル111における液体表面はノズル111の内側(図4の上側)方向に移動する。逆に、ある電圧からより小さい電圧を印加した場合、ピエゾ素子PZTは図4の上下方向に伸長し、ノズル連通路114の容積を縮小する方向に弾性板116を変形させる。このとき、ノズル111の液体表面はノズル111の外側(図4の下側)方向に移動する。このように、ノズル連通路114の容積を変化させるとノズル連通路114における圧力が変動し、ノズル連通路114に充填された液体をノズル111から噴射することができる。噴射された第1の液体は、その表面張力により球形(液滴)となる。つまり、ピエゾ素子PZTに印加される駆動信号の振幅(電圧の大きさ)を変更することによって、噴射される液滴の大きさ(液体の量)を調整することができる。これにより、所望のサイズのカプセルコアを正確に形成することができるようになる。
【0038】
なお、第1の液体に酸素分子が溶け込んでいると、この圧力変動の際、ノズル連通路114において気泡が生じてしまう。よって、本実施形態において使用される第1の液体は予め中空糸などを用いて脱気されていることが望ましい。
【0039】
本実施形態において、ノズル111は、例えば直径20μmであり、噴射周波数10Hz以上で第1の液体を噴射することができる。また、駆動信号の周波数を変更することにより噴射周波数を変更し、カプセル(コア)の生成効率を変化させことができる。なお、ノズルの直径はこれに限らず、実際はノズルの直径はコアの直径に関係し、コアの直径はマイクロカプセルの直径に関係する。そのため、1〜1000μmのマイクロカプセルを生成する際は、それに応じたノズル径、つまり1〜1000μmのノズル径を使用することが望ましい。
【0040】
(第2液体噴射部20)
第2液体噴射部20は、液膜保持部30に保持されたシェル材(第2の液体)の液膜に向けてシェル材(第2の液体)を噴射することによって、液膜にシェル材を補充するシェル材補充部である。第2液体噴射部20の構成は、基本的に第1液体噴射部10と同様である。すなわち、噴射ヘッド21と第2液体タンク22とを有する。噴射ヘッド21は第2の液体を液滴として噴射する。噴射ヘッド21による液体噴射動作は、上述の第1液体噴射部10の噴射ヘッド11とほぼ同様の動作である。第2液体タンク22はシェルの原料としての第2の液体を貯留しておくタンクである。第2液体噴射部20の動作も不図示の制御部HCによって制御される。制御部HCは噴射ヘッド21を駆動させるための駆動信号を生成してピエゾ素子PZTに印加することにより、ノズルから第2の液体を噴射させる(図4参照)。
【0041】
(液膜保持部30)
液膜保持部30は、液膜保持部材31を有する。
液膜保持部材31は、シェルを形成する原材料である第2の液体(シェル材)を薄膜状に保持する板状の部材である。液膜保持部材31には図3に示されるような円形の穴が開けられ、この円形の穴に第2の液体が供給される。供給された第2の液体は当該円形の穴を外縁として薄い膜状に広がり、液面(界面)の面積がなるべく小さくなるように液膜を形成する。すなわち、液膜保持部材31に設けられた円形の領域の中で、表面張力によって第2の液体が膜状に保持される。表面張力によって保持されることにより、液膜の厚さ(膜厚)は非常に薄くすることも可能であり、第1液体噴射部10から噴射されたコア材を容易に貫通させやすくなる。これにより、カプセル生成の効率を高くすることが可能となる。
【0042】
なお、液膜保持部材31に設けられる穴の形状は円形には限られず、楕円形や矩形であってもよい。つまり、液膜の外縁部を構成するような閉じられた所定の領域が形成されていればよい。ただし、図3のように穴の形状を円形にすると、液膜を保持するために必要なエネルギーが小さくなることから、液膜を安定して保持しやすくなる。
【0043】
液膜保持部材31の材質は、液膜を保持できるものであれば自由であり、本実施形態では金属製(例えば、ステンレス、アルミニウム、銅、金、銀、真鍮、チタン、炭素鋼、洋白等)や樹脂製(例えば、アクリル、ポリウレタン、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン等)の液膜保持部材を用いることができる。なお、液膜保持部材31の厚さは、保持するべき液膜の厚さを考慮して決定される。本実施形態において、シェル材の液膜はコア材の液滴が貫通可能なように極めて薄く形成されるため、液膜保持部材31もそのような薄膜を保持することが可能なものが用いられる。
【0044】
また、液膜保持部材31は、板状の部材には限られず、液膜の外縁を形成することによって該液膜を保持する枠状の部材であってもよい。例えば、針金のような部材でリング形状の枠を作成し、該リング形状の枠によって第2の液体の液膜が保持されるのであってもよい。枠の形状は、楕円形や矩形等、所謂閉曲線(ここでは直線で構成される矩形も閉曲線に含むものとする)で構成されることによって液膜を保持することが可能な形状であればよい。
【0045】
なお、液膜保持部30は、液膜の原料となる第2の液体(シェル材)を液膜保持部材31に供給し、液膜を形成することができる液膜形成機構(不図示)を備えていてもよい。または、外部装置によって第2の液体の液膜が形成され、液膜保持部材31に保持されるのであってもよい。液膜を自由に形成することができるようにしておけば、カプセル生成動作中(詳細は後述)に液膜が損壊されたり破れたりした場合であってもすぐに液膜を再形成することができるため、時間を節約して効率よくカプセルを生成できる。
【0046】
(液体接触部50)
液体接触部50は、第3の液体(シェル硬化材)を液体の状態で貯留し、該液体接触部50において第3の液体(シェル硬化材)と第2の液体(シェル材)とを接触させることにより化学反応を生じさせ、シェルを硬化させる。
【0047】
液体接触部50は、液体貯留槽51を有する。液体貯留槽51は液体を貯留しておくことができる容器である。本実施形態においては図3の斜線部で表されるように第3の液体を液体の状態で貯留して液相を形成する。液体貯留槽51の上部は開口部となっていて、液膜保持部30を貫通することにより第2の液体(シェル材)によって被覆されたカプセルが第3の液体中に進入する。そして、第2の液体(シェル材)が第3の液体(シェル硬化材)と接触することによって、液体貯留槽51内において化学反応を生じて硬化する。
【0048】
液体貯留槽51は、第3の液体と接触した後のカプセルを回収するための回収機構(不図示)を備えていてもよい。回収機構としては、例えば、生成されたカプセルを第3の液体中から濾し取るためのろ過装置等が備えられる。この場合、液体接触部50はカプセル回収部としての機能も有する。
【0049】
<カプセル生成動作について>
続いて、カプセル製造装置1を用いてカプセルを生成する際の具体的動作について説明する。図5に、第1実施形態においてカプセル製造装置1を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図を示す。本実施形態では、コア形成工程(S101)、シェル形成工程(S102)、シェル硬化工程(S103)の3つの工程によりカプセルが生成される。
【0050】
図2で説明したように、本実施形態では、シェル材の液膜に対してコア材を貫通させ、コア材をシェル材で被覆させることによりカプセルを生成する。したがって、液膜保持部30に保持されているシェル材の液膜が蒸発等することによって適正な厚さを保てない場合(つまり、薄くなる場合)には、均一な厚さのシェルを形成できなくなるおそれがある。また、シェルそのものが形成できなくなる場合もある。そこで、シェル材の液膜に対して、減少した分のシェル材を適宜補充することによって液膜を適正な厚さに保ちながらカプセルを生成する。
【0051】
S101:コア形成工程
まず、第1液体噴射部10から噴射されるコア材(第1の液体)の液滴(ドット)によってカプセルのコアが形成される。コア材としては、有効成分(例えば、ハイドロキノン、セラミド、牛血清アルブミン、γ−グロブリン、リピオドール、ビフィズス菌、ビタミン、ヒアルロン酸、IPS細胞等)を含んだ物質(水溶液)が用いられる。以下の各実施形態についても同様とする。
【0052】
本実施形態では、第1液体噴射部10が液膜保持部30の鉛直上方に設けられており(図3参照)、第1の液体がZ軸方向に噴射される。すなわち、XY平面に平行に保持されたシェル材の液膜に向けて垂直な方向からコア材が噴射される。ただし、コア材は、必ずしもシェル材の液膜に対して垂直な方向に噴射される必要は無く、シェル材の液膜に対して斜めの方向に噴射されるのであってもよい。
【0053】
コア材を噴射する際の液体噴射量は、生成されるカプセルのコアの大きさ(容量)に応じて決定される。噴射された第1の液体による液滴がそのままコアになるためである。すなわち、コア材を噴射する量を制御することによって、生成されるカプセルのサイズ(コアの大きさ)を自由に設定することができる。第1液体噴射部10から噴射されるコア材(第1の液体)の量は、上述したように、駆動信号の電圧を変更することによって調整することができる。
【0054】
また、このことは、コア材(第1の液体)の歩留まりが非常に高いということを意味する。すなわち、噴射されたコア材は全てコアを形成するために用いられるため、コア材はほとんど無駄にならない。したがって、カプセルの原料コストを安く抑えることができる。特に、コア材として非常に高価な物質を使用しなければならない場合(例えば、医療用カプセルを生成する際に、医療用材料をコアとする場合)に非常に効果的である。また、無駄に廃棄される液体の量が最小限に抑えられるため、環境保護という観点でも有効である。
【0055】
コア材を噴射する際の液体噴射速度は、次工程のシェル形成工程(S102)においてシェル材(第2の液体)の液膜を貫通できるような速度に設定される。すなわち、噴射されたコア材の液滴が、該液膜を貫通するのに十分な大きさの運動量を有するように設定される。設定される速度は、貫通するべき液膜の厚さ、液膜材料(シェル材)の粘度や液膜の表面張力、コア(第1の液体)の噴射量や密度等によって条件が異なる。また、第1液体噴射部10と液体保持部30との位置関係(距離)によっても条件が異なる。したがって、実際にカプセルが生成される条件にてあらかじめ実験を行なって、シェル材の液膜を貫通することができる最小のコア材噴射速度を調べておき、当該速度を所定の速度として設定しておく。例えば生成されるコアのサイズや使用される液体材料毎に所定の速度が設定される。制御部HCは、設定された所定の速度を参照してピエゾ素子PZTを駆動させ、所定の速度以上となるように第1の液体を噴射させる。
【0056】
S102:シェル形成工程
S101で形成されたコアは、液膜保持部30に保持されたシェル材の液膜に突入する。そして、コアが液膜を貫通する際に、シェル材(第2の液体)によって当該コアが覆われることによって、シェルが形成される(図2参照)。
【0057】
本実施形態において、シェル材(第2の液体)としては多糖類、もしくは蛋白質類(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、エチルセルロース、メチルセルロース、ペクチン、ジェランガム、キトサン、コラーゲン、フィブリノーゲン等)を含んだ物質(水溶液)が用いられる。アルギン酸塩類は人体に対してほぼ無害であり、カプセルのシェル材として使用することによりカプセルの応用性の範囲が広くなる。以下の各実施形態についても同様とする。
【0058】
上述したように、シェル材(第2の液体)とコア材(第1の液体)とは、互いに混合しにくい液体が選択される。言い換えると、第1の液体と第2の液体とが、一定時間の間分離した状態を保つことができるような液体材料を選択すればよい。例えば、コア材が油性の液体であれば、シェル材は水性の液体であればよい。本実施形態のカプセル製造装置では、このように材料選択性が広いので、多くの種類の液体をシェル材(第2の液体)として用いることが可能である。
【0059】
液膜保持部30は水平に設置され、第1液体噴射部10から噴射されたコア材(第1の液体)の液滴が液膜上に着弾するように位置が調整される。液膜に対してコアを垂直に突入させることにより、厚みのムラが少ない均一なシェルを形成させやすくなる。ただし、液膜を保持できるのであれば、液膜保持部30を水平面に対して傾けて設置しても、コアを被覆するシェルを形成させることは可能である。
【0060】
また、シェル材(第2の液体)の液膜が保持される位置と第1液体噴射部10との間の距離(図3のZ軸方向の距離)は小さい方が望ましい。コア材(第1の液体)が噴射されてから空気中を長距離移動すると、移動する間にコア材が蒸発して形成されるコアの大きさが予定よりも小さくなってしまうおそれがあるからである。特に、上述のような微小サイズのカプセル(例えば、マイクロカプセル)を生成する場合には、移動中にコア材が蒸発しやすいため注意が必要となる。また、マイクロカプセルの直径が100μm未満である場合には、液膜を貫通させるための速度が空気抵抗によって減少してしまうことを防止するためにも、両者の距離は短い方が有利である。したがって、本実施形態では、コア材が噴射されてからシェル材の液膜に着弾するまでの距離が10〜10000μm程度となるように、液膜保持部30が配置される。特に、10〜5000μm付近の距離が速度減衰と液滴蒸発の観点から有利であるため、より望ましい。さらに、マイクロカプセルの直径が100μm以上1000μm以下である場合には、コア材が噴射されてからシェル材の液膜に着弾するまでの距離が1〜1000mm程度となるように、液膜保持部30が配置される。特に、1〜300mm付近の距離が速度減衰、液滴蒸発に大きく関係するため、望ましい。なお、液滴の蒸発は着弾精度の低下を防ぐために、無風環境下が望ましい。さらに蒸発を抑制するために、液滴飛行環境は多湿が望ましい。
【0061】
本実施形態においては、シェル材(第2の液体)を原料としてカプセルのシェルが形成される。したがって、カプセル生成動作を繰り返すうちにシェル材が消費され、液膜の厚さが薄くなることが考えられる。また、保持されている液膜の表面積が大きいと、該液膜を形成するシェル材が時間の経過と共に徐々に蒸発することから、液膜の厚さが薄くなるおそれがある。このような場合、形成されるシェルの厚さを均一に保つことができなくなったり、液膜自体が破れやすくなったりするおそれがある。
【0062】
そこで、カプセル生成動作中の所定のタイミングで、減少した分のシェル材を液膜に補充することで液膜の厚さが変動することを抑制する。具体的には、第2液体噴射部20から当該液膜に向けてシェル材(第2の液体)を噴射する。噴射されたシェル材は液滴を形成し、液膜保持部30に保持されたシェル材(第2の液体)液膜に着弾する。シェル材液滴の噴射速度は、液膜を貫通しない程度に調整されているため、着弾した液滴はそのまま液膜中に拡散して液膜を形成する。なお、液膜が水平に(XY平面上に)保持されていれば、液膜に着弾したシェル材液滴は液膜中を均等に拡散する。
【0063】
液膜の補充を行なう際に第2液体噴射部20から噴射されるシェル材の噴射量は、種々の条件を考慮して決定される。例えば、液体噴射部10によるコア材の合計噴射量や、カプセル生成動作の継続時間等を基準として決定することができる。カプセルが連続的に生成される場合、カプセルの大きさや駆動周波数に応じてシェル材の消費量も増えていくため、コア材の消費量(コア材の大きさや、それを駆動する周波数等に依存)とシェル材の消費量との間には相関関係があるはずである。そこで、その相関関係をあらかじめ求めておき、カプセルの大きさや生成量に応じてシェル材の補充量を決定することで、液膜を形成するシェル材の量を一定に保つことができる。ここで言うシェル材の消費量は、単位時間当たりに減少する量を示す。さらに実際には、単位時間に液膜から蒸発する分もあるため、単位時間当たりのシェル材の蒸発量についても考慮することで、より正確な量のシェル材を補充することが可能となる。
【0064】
なお、シェル材の噴射量が多い場合には、第2液体噴射部20から小さな液滴を複数回に分けて噴射することにより、シェル材液滴が液膜に着弾する際の衝撃をなるべく小さくして、液膜表面が波紋等によって変動することを抑制する。
【0065】
本実施形態では、インクジェット方式でシェル材を噴射することによって、シェル材を微小量ずつ補充することが可能である。すなわち、シェル形成に伴うシェル材の消費や蒸発によるわずかな膜厚の変化にも正確に対応し、膜厚を均一に保つことができる。
【0066】
S103:シェル硬化工程
S102でコアを被覆するシェルが形成された後、液体接触部50において当該シェルが硬化される。本実施形態では、液体接触部50の液体貯留槽51が第1液体噴射部10及び液膜保持部30の下側に設置されおり(図3参照)、Z軸方向(鉛直下方向)に噴射されたコア材(第1の液体)はシェル材(第2の液体)の液膜を貫通した後、そのまま液体貯留槽51内に進入する。そして、液体貯留槽51内に貯留されたシェル硬化材(第3の液体)とシェル材(第2の液体)とが接触することで化学反応を生じ、シェルが硬化する。硬化したカプセルはそのまま第3の液体の液相中に沈殿するため、完成後のカプセルを回収することが容易である。
【0067】
なお、液膜保持部30と液体貯留槽51との間の距離(Z軸方向距離)は、1〜15cm程度に保たれる。液体保持部30を貫通してから液体貯留槽51までのカプセルの移動距離が長すぎると、移動中にシェル材(第2の液体)が蒸発してしまうからである。
【0068】
本実施形態において、シェル硬化材(第3の液体)として、カルシウムイオンを含む塩化カルシウム水溶液や酢酸カルシウム水溶液が用いられる。以下の各実施形態についても同様とする。
【0069】
そして、アルギン酸ナトリウム水溶液(第2の液体)が塩化カルシウム水溶液(第3の液体)と接触して化学反応を生じることにより、アルギン酸ナトリウム水溶液(シェル)がゲル化して硬化する。なお、ここで言う「硬化」とは粘度が高くなる状態も含む。
【0070】
<化学反応について>
ここで、第2の液体(シェル材)としてアルギン酸ナトリウム水溶液を用い、第3の液体(シェル硬化材)として塩化カルシウム水溶液を用いた場合に生じる化学反応(ゲル化)について説明する。図6は、アルギン酸ナトリウムの説明図である。図7は、アルギン酸ナトリウムからアルギン酸カルシウムゲルへ変化する中間の様子を示す説明図である。図8は、アルギン酸カルシウムゲルの説明図である。
【0071】
図6に示されるように、アルギン酸ナトリウム(CNa)はアルギン酸に1価のナトリウムイオンが結合している。このアルギン酸ナトリウムが塩化カルシウム(CaCl)水溶液と接触すると、2価のカルシウムイオン(Ca2+)が、アルギン酸ナトリウムのナトリウムイオン(Na)と置換されることで、ゲル化が進行する(図7)。このとき、ナトリウムイオン(Na)は1価であり、カルシウムイオン(Ca2+)は2価であるので、2個のナトリウムイオン(Na)に対して、1個のカルシウムイオン(Ca2+)が置換される。つまり、2つのアルギン酸ナトリウム間において、2つのナトリウムイオン(Na)が脱離して、2価の金属イオンである1つのカルシウムイオン(Ca2+)に置換される(図8)。そして、2つのアルギン酸間を橋架けする架橋凝縮が生じ、ゲル化する。このような化学反応は架橋反応とも呼ばれる。なお、反応式は次のようであると考えられる。
2CNa+CaCl=(C−Ca−C)+2NaCl
【0072】
ところで、図8には、破線で囲われた領域が示されている。アルギン酸カルシウムゲルでは、この破線で囲われた領域を通じてゲルの内部から外部へ水分子が移動したり、外部から内部へと水分子が移動したりする。このように破線で囲われた領域に水分子が存在することにより、弾力性のあるゲルが実現されている。そして、ゲルにおける水分子の流入量と流出量は均衡している。本実施形態において、親水性を有するゲル状のシェルが形成されることによって、人体に摂取する場合に生体親和性が高いカプセルを生成することができる。また、親水性のシェルであることから、コアと外部環境との間で該シェルを介した浸透圧の調整が容易になるという利点もある。
【0073】
また、アルギン酸ナトリウムに対してグリセリンが添加されている場合には、水分子の流入量と流出量との均衡が崩れ、より水分子が外部に流出しやすくなる。図8の破線で囲われた領域にグリセリンも存在するのであるが、このグリセリンが外部に流出する際、この破線で囲われた領域の網目が収縮する。そうすると、アルギン酸カルシウムの密度が高まることから、ゲルが硬くなる。また、グリセリンはゲル化の反応速度を速くすることに貢献していると考えられ、このためゲルが硬くなるとも考えられる。
【0074】
尚、グリセリンは人体に与える影響が少ないため薬剤を含むゲルを製造する際の添加剤として有利である。また、グリセリンは密度が高く水の中では沈みやすいという性質をもつ。そのため、グリセリンを含むゲルを製造した場合には、沈降するのに要する時間が短くなり、生成後のカプセルを回収しやすくなる。また、短時間でゲルが沈降するので、連続してカプセルを生成しやすくなるため、生産性が向上する。
【0075】
本実施形態では、このような化学反応(上述の例では架橋反応)の性質を利用して、シェルの硬さを調整することが可能である。例えば、第2の液体(シェル材)と第3の液体(シェル硬化材)との接触時間を変更することによって硬さを調整する。まず、第2の液体の液膜を貫通することによりシェルが形成されたカプセルが、液体貯留槽51内に貯留された第3の液体に進入した後、すぐにカプセルを回収したとする。この場合、第2の液体と第3の液体との接触時間が短いため、化学反応はシェル(第2の液体)の表面では進行するが、シェルの内側では十分に進行しない。これにより、シェルが薄く、硬度の低いカプセルを生成することができる。逆に、第2の液体の液膜を貫通したカプセルが液体貯留槽51に進入した後、十分な時間が経過した後にカプセルを回収した場合、化学反応はシェル(第2の液体)の内側まで十分に進行し、シェルが厚く、硬度の高いカプセルを生成することができる。また、化学反応の進行速度は液体の濃度などによっても影響されるため、第2の液体及び第3の液体の濃度を調整することによっても、シェルの硬化速度を変えることができる。つまり、所望の時間で硬さを調整できることになる。
【0076】
このようにして、形成されるシェルの厚さや硬さを自由に調整することによって、様々な用途に対応したカプセルを生成することができる。例えば、カプセルを医療分野に応用する場合、シェルの強さ(硬さ)を調整することによって、人体に摂取されてからシェルが壊れて内部物質(コア)が露出するまでの時間を選択することができるようになる。具体的には、薬剤等によるコアとそれを被覆するシェル等によって構成されるカプセルを生成する。このようなカプセルによれば、人体に摂取された後、途中で吸収・分解されることなく患部まで薬剤(コア)を到達させ、患部に到達した段階で薬剤を放出させる等、DDS(ドラックデリバリーシステム)への応用が可能となる。
【0077】
シェルが硬化されたカプセルは、液体接触部50に備えられた回収機構によって回収される。
【0078】
<変形例>
液膜保持部30に保持されるシェル材の液膜が図3に示されるような大きな円形である場合、液膜の表面積が広いため、液膜からシェル材(第2の液体)が蒸発しやすい。つまり、液膜保持部30に保持される液膜の膜厚は時間の経過と共に薄くなっていく。この場合、蒸発する分のシェル材(第2の液体)を余計に補充する必要が生じるため、シェル材のコストが多くかかるようになり、問題がある。
【0079】
そこで、変形例として、液膜保持部材31の形状をシェル材が蒸発しにくい形状に変更した場合の例について説明する。図9に、変形例におけるカプセル製造装置1の基本的な構成を説明する概略図を示す。図10に、変形例において形成されるシェル材の液膜の一例について説明する図を示す。
【0080】
本変形例の液膜保持部材31は、図10に示されるように両端の円形部(穴)が連結流路によって接続された形状をしており、この閉じられた領域中に表面張力によって第2の液体(シェル材)が膜状に保持される。両端の円形部は液膜の中心について対称な形状である。一方の円形部は、第1液体噴射部10から噴射されたコア材を突入・貫通させることによって該コア材をシェル材で被覆させるための部分である(図10のA点)。他方の円形部は、第2液体噴射部20から噴射されたシェル材(第2の液体)によって液膜にシェル材を補充するための部分である(図10のB点)。そして、2つの円形部の間が連結流路によって接続されているため、液膜保持部材31が水平に(XY平面上に)設置されていれば、補充されたシェル材は液膜中を均等に拡散する。したがって、両円形部に保持される液膜はほぼ同じ状態(同じ厚さ)となる。
【0081】
液膜の形状を図10のようにしているのは、シェル材の蒸発防止や破壊防止のために液膜全体の表面積がなるべく小さくなるようにするためである。液膜両端の円形部の直径は、第1液体噴射部10から噴射されるコア材、または、第2液体噴射部20から噴射されるシェル材の着弾位置に多少のズレが生じた場合でも該円形部内(液膜の範囲内)に着弾できるように決定される。また、コア材が液膜を貫通する際にシェル材によってしっかりと被覆されるような大きさとなるように決定される。望ましくは、液滴径をd、液膜径をDとしたとき、D/dで定義される比αで、1<α<1000となるような液滴径、液膜径を設定することで、ほぼ確実に液膜に着弾し、シェル材によってしっかりと被覆されるようになるが、特にこのαの値に限定されることはない。
【0082】
一方、連結流路の幅はなるべく細くしつつ、補充されたシェル材の拡散(移動)を妨げないように決定される。望ましくは、液膜径をD、連結流路の幅をΔtとしたとき、D/Δtで定義される比βで、1<β<10となるような液膜径、連結流路幅を設定することで、シェル材の移動を妨げないようになるが、特にこのβの値に限定されることはない。
【0083】
このように、液膜の連結流路の幅を、液膜にシェル材を補充する部分及びコアが貫通する部分の幅よりも狭くする、または同じにすることで、液膜に対してシェル材(第2の液体)を適切に補充しつつ、シェル材の蒸発や破壊を抑制することができるようになる。これにより、シェル材のコストを小さくし、シェルの厚さが均一なカプセルを効率よく生成することができる。
【0084】
<第1実施形態のまとめ>
本実施形態のカプセル製造装置では、液膜保持部30によって保持された第2の液体(シェル材)の液膜に対して、適宜シェル材を補充することで膜厚を均一な状態に保ちながらカプセルを生成する。
【0085】
シェル材液膜の膜厚が均一に保たれた状態で、該液膜に向けて第1液体噴射部10から第1の液体(コア材)を噴射することによりコアを形成する。そして、コアが液膜を貫通する際に、第2の液体(シェル材)によってコアを被覆させることにより、コアを内包するシェルを形成させる。そして、液体接触部50に貯留された第3の液体(シェル硬化材)と接触させて化学反応を生じさせることによりシェルを硬化させて、カプセルを生成する。
【0086】
本実施形態のカプセル製造装置では、シェル材液膜に対してシェル材を適切に補充することができることから、該液膜の厚さを一定の状態に保ちやすい。これにより、形成されるカプセルのシェルの厚さが均一になるため、生成されるカプセル(シェル)の品質を確保しやすくなる。その際、第1の液体(コア材)の噴射量や第2の液体(シェル材)の液膜厚さを調整することにより、所望のサイズのカプセルを高精度に生成することができる。そして第1液体噴射部10(噴射ヘッド11)を駆動させる駆動信号の周波数を変化させることで第1の液体を噴射する際の噴射タイミングを変更することにより、カプセルの生成効率を自由に調整することができる。
【0087】
また、噴射された第1の液体がそのままコアを形成するため、コア材の歩留まりが非常に高い。そして、液膜保持部材31に保持される液膜を、コア材が突入する部分とシェル材を補充する部分と両部分を繋ぐ接続部とで構成し、液膜全体の表面積がなるべく小さくなるようにすることで、シェル材の蒸発や破壊を抑制することができる。これにより、カプセルを生成する際のコア材及びシェル材のコストを低く抑えることができる。
【0088】
また、第2の液体(シェル材)と第3の液体(シェル硬化材)との接触時間を調節することにより、カプセルの使用用途や要求される機能に応じてシェルの厚さや硬度を適切に調整しながらカプセルを生成することができる。そして、液相中でカプセルのシェルが硬化されるため、完成後のカプセルを液相中に沈降させて容易に回収することができる。
【0089】
===第2実施形態===
第2実施形態では、液膜保持部30に保持された第2の液体(シェル材)の液膜の厚さ(膜厚)を測定して膜厚の減少量を正確に検出する。そして、補充すべき分だけシェル材を液膜に補充することにより、カプセル生成動作中に該液膜の厚さをほぼ一定の状態に保つようにする。シェル材液膜の厚さをより正確に管理することができるため、シェルの厚さが均一なカプセルを生成しやすくなる。
【0090】
<カプセル製造装置2の構成>
第2実施形態ではカプセル製造装置2を用いてカプセルを生成する。図11に、第2実施形態におけるカプセル製造装置2の基本的な構成を説明する概略図を示す。カプセル製造装置2では、第1液体噴射部10と、第2液体噴射部20と、液膜保持部30と、液膜厚さ測定部40と、液体接触部50と、を備える。カプセル製造装置2では、液膜保持部30によって保持される液膜の形状、及び、液膜厚さ測定部40を備えることが第1実施形態のカプセル製造装置1とは異なる。それ以外の各構成は第1実施形態とほぼ同様である。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0091】
(液膜保持部30)
第2実施形態における液膜保持部30の液膜保持部材31は、コア材の液滴が突入する部分と、シェル材を液膜に補充するための部分と、液膜の厚さを測定するための部分と、を有する。
【0092】
図12に、第2実施形態で形成されるシェル材の液膜の一例について説明する図を示す。図12において、液膜保持部材31は、液膜の中心から3方向に分かれて配置される円形部分(穴)が連結流路によって中央で繋がれる形状をしており、この閉じられた領域中に表面張力によって第2の液体(シェル材)が膜状に保持される。3方向に分かれて配置される円形部分はそれぞれ対称な形状であり、液膜保持部材31が水平に(XY平面上に)設置されていれば、それぞれの円形部にて保持される液膜の条件はほぼ同等となる。
【0093】
本実施形態では、図12のAで表される部分に第1液体噴射部10から噴射されたコア材が突入し、貫通することによって該コア材がシェル材で被覆される。また、図12のBで表される部分に第2液体噴射部20から噴射されたシェル材の液滴を着弾させることにより、シェル材の液膜にシェル材を補充(供給)する。また、図12のDで表される部分に後述する液膜厚さ測定部40から照射されるレーザー光線を入射させることにより、当該部分におけるシェル材の液膜の厚さ(膜厚)を測定する。本実施形態において、A,B,Dはそれぞれ液膜の中心点Cからの距離が等しくなるように設定される。図12の例に示されるように中心(C点)に関して対称(回転対称)な形状の液膜である場合、A点、B点、D点のそれぞれの部分で形成される液膜は均一な厚さとなる。そのため、D点において液膜の厚さを測定することで、A点(コア材着弾ポイント)における膜厚のデータと同等のデータを得ることができる。
【0094】
なお、液膜は必ずしも対称な形状でなくてもよい。ただし、液膜を非対称な形状とする場合は、位置によって液膜の厚さ(膜厚)が不均一になる可能性があるため、膜厚測定を行なう際に補正が必要となる場合がある。
【0095】
また、図12で示される液膜の形状は、シェル材の蒸発を抑制するために液膜の表面積をなるべく小さくしたものであるが、液膜形状を前述の図3に示されるような大きな円形としたり、他の形状としたりすることも可能である。
【0096】
(液膜厚さ測定部40)
液膜厚さ測定部は、レーザー変位計41を有し、液膜保持部30に保持された第2の液体(シェル材)の液膜の厚さ(膜厚)を測定する。
【0097】
レーザー変位計41は、測定対象物(本実施形態においては液膜)の厚さを測定することができる膜厚測定器であり、発光素子、受光素子、及びコントローラー(不図示)が備えられる。発光素子から照射されたレーザー光線は、測定対象物の表面(液膜の界面)で一部が反射して受光素子で検出される。また、照射された光線のうちの一部は測定対象物(液膜)に入射して、測定対象物の裏面(レーザー光線が入射する面とは反対側の界面)で反射して受光素子で検出される。検出された各反射光はコントローラーで解析され、それぞれ反射が生じた位置(液膜の表面と裏面の位置)が検出される。これにより、測定対象物(液膜)の厚さを正確に測定することができる。
【0098】
本実施形態では、図11に示されるようにXY平面上で水平に保持されているシェル材液膜の鉛直上方にレーザー変位計41が設置され、Z軸方向にレーザー光線を照射する。そして、シェル材液膜からの反射光を解析することにより、液膜の厚さを測定する。
【0099】
なお、シェル材液膜の厚さを測定するための膜厚測定器は、上述のようなレーザー変位計41には限られない。例えば、X線を用いた膜厚測定器等、シェル材液膜に外的な影響を与えることなく膜厚を測定することが可能な非接触方式の測定器が望ましいが、電流や電磁場を用いた接触方式の測定器でも構わない。
【0100】
<カプセル生成動作について>
図13に、第2実施形態においてカプセル製造装置2を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図を示す。第2実施形態におけるカプセル生成動作の基本的な流れは、第1実施形態と同様である。すなわち、コア形成工程(S201)とシェル形成工程(S202)とシェル硬化工程(S203)とによってカプセルが生成される。
【0101】
本実施形態では、コア形成工程(S201)において、シェル材液膜の厚さ(膜厚)を測定することで得られるデータを参照して、コア材の噴射可否を判断する。そして、測定された膜厚が不適当な場合(膜厚が薄い場合)にはコア材を噴射せずにシェル材を補充することにより、カプセル生成動作を通して膜厚を均一に保つ。図14に、コア形成工程(S201)においてコア材噴射可否を判断するためのフローを示す。
【0102】
まず、液膜厚さ測定部40を用いて、液膜保持部30に保持されたシェル材(第2の液体)液膜の厚さ(膜厚)が測定される(S211)。
【0103】
測定された膜厚のデータは制御部HCに送信され、膜厚の判定が行なわれる(S212)。制御部HCにはあらかじめ膜厚の所定の値が設定されている。当該所定の値は、コア材噴射条件(コア材噴射速度や噴射量)毎に設定される膜厚の値であり、この値よりも膜厚が薄くなると液膜を維持できなくなったり、コアを被覆するシェルの厚さが薄くなったりする。したがって、膜厚の測定値が所定の値よりも小さい場合(S212がNo)にはコア材噴射が不可能と判断される。この場合、シェル材液膜の厚さを所定の値にするために、不足分のシェル材を液膜に補充する(S213)。シェル材補充時には、上述のように、第2液体噴射部20から当該液膜に向けてシェル材(第2の液体)が噴射される。そして、液膜に着弾したシェル材が液膜中に拡散することによって液膜が厚みを増す。図12の例に示されるような形状の液膜では、D点に着弾したシェル材はA点及びB点に均等に拡散するため、A点、B点、D点における膜厚は均一になる。
【0104】
シェル材の噴射量は膜厚の所定の値と膜厚の測定値との差に応じて調整される。すなわち、所定の値と測定値の差が小さければ、液膜に補充されるシェル材は少量ですむため、シェル材の噴射量を少なくする。逆に、所定の値と測定値の差が大きければ、シェル材の噴射量を多くする。上述のように、インクジェット方式でシェル材を噴射することによって、シェル材の蒸発や消費によるわずかな膜厚の変化にも正確に対応し、膜厚を均一に保つことができる。
【0105】
シェル材の補充により液膜の厚さを増加させた後(S213)、液膜の厚さが再度測定される(S211)。そして、液膜の厚さが所定の値となった場合(S212がYes)にはコア材噴射が可能と判断される。コア材が噴射可能な場合、第1液体噴射部10からコア材が噴射され、コアが形成される(S214)。
【0106】
コア形成後の動作(シェル形成工程(S202)、シェル硬化工程(S203))については第1実施形態とほぼ同様である。
【0107】
<第2実施形態のまとめ>
第2実施形態では、液膜保持部30に保持されたシェル材液膜の膜厚を測定したデータに基づいてコア材の噴射可否を判断し、膜厚が所定の値よりも薄い場合には適宜シェル材の補充を行なう。膜厚を測定したデータに基づいて、不足する分量のシェル材をインクジェット方式で微小量ずつ補充することによって、膜厚を正確に制御することができる。これにより、シェル材液膜の膜厚を均一に保ち、コアを被覆するシェルの厚さが均一なカプセルを生成することができる。
【0108】
===第3実施形態===
第3実施形態では、第1液体噴射部10の噴射ヘッド11が複数のノズル111を有するカプセル製造装置3を用いてカプセルの製造を行なう。複数ノズルによって複数のコア材を1度に噴射することで、より効率的にカプセルを生成することができるようになる。
【0109】
図15に、第3実施形態におけるカプセル製造装置3の基本的な構成を説明する概略図を示す。カプセル製造装置3は、第1液体噴射部10と、第2液体噴射部20と、液膜保持部30と、液体接触部50と、を備える。カプセル製造装置3の第2液体噴射部20及び液体接触部50はカプセル製造装置1と同様の構成であるが、第1液体噴射部10及び液膜保持部30の構成がカプセル製造装置1とは異なる。
【0110】
<第1液体噴射部10>
カプセル製造装置3では、第1液体噴射部10の噴射ヘッド11に4つのノズル111が設けられる。この4つのノズル111はX軸方向に直列に並ぶことによりノズル列を構成し、X軸方向に沿って同時に4つのコア材液滴を噴射することが可能である。なお、1つのノズル列に設けられるノズルの数は4つには限られず、5つ以上のノズルが設けられていてもよい。また、1つの噴射ヘッド11に複数のノズル列が設けられるようにすることもできる。1つの噴射ヘッド11に対してノズル111が複数設けられる場合には、ピエゾ素子PZTも各ノズルに対応して設けられるようにする。そして、ピエゾ素子PZTを駆動するための駆動信号も各ノズルについて生成されるようにする。これにより、ノズル毎に液滴噴射量や噴射速度を制御しやすくなる。各ノズルの構成及び液滴噴射時の動作については第1実施形態で説明したものと同様である(図4参照)。
【0111】
噴射ヘッド11のノズル列から噴射された複数のコア材液滴は液膜保持部30に保持されたシェル材(第2の液体)の液膜にそれぞれ突入し、シェル材によって被覆される。したがって、第1液体噴射部10から噴射される液滴(コア)を増やすことにより、複数のカプセルを同時に生成することができ、カプセル生成効率をより高くすることができる。
【0112】
<液膜保持部30>
液膜保持部30は、液膜保持部材31を備える。図16に第3実施形態で形成されるシェル材の液膜の一例について説明する図を示す。本実施形態において、液膜保持部材31は、噴射ヘッド11のノズル列に沿って形成される細長い液膜を、閉じられた所定の領域中に保持する。図16に示される液膜では、複数のコア材が着弾するポイントにそれぞれ円形部(穴)が形成され、その円形部が直線状の連結流路によって接続された形状をしている。そして、液膜の端部には(図16の例では右側端部)コア材着弾ポイントと同じ形状の円形部(穴)が形成され、当該円形部において第2液体噴射部20からシェル材が補充される。上述の図10の場合と同様に、液膜保持部材31が水平に(XY平面上に)設置されていれば、それぞれの円形部に保持される液膜の厚さ(膜厚)はほぼ同じ条件となる。したがって、液膜端部に設けられたシェル材補充ポイントにおいてシェル材を補充することにより、それぞれの円形部の膜厚を均一な状態(厚さ)にすることができる。
【0113】
また、本実施形態でもシェル材の蒸発防止や破壊防止のため、液膜全体の表面積がなるべく小さくなるようにする。すなわち、液膜の円形部の直径は、噴射されたコア材やシェル材の着弾位置に多少のズレが生じた場合でも該円形部内に着弾できるように、かつ、コア材が液膜を貫通する際にシェル材によってしっかりと被覆されるような大きさとなるように決定される。また、連結流路の幅はなるべく細くしつつ、シェル材の移動を妨げないように決定される。これにより、シェル材のコストを小さくし、シェルの厚さが均一なカプセルを効率よく生成することができる。
【0114】
ただし、液膜保持部材31に保持される液膜の形状は図16の例には限られず、例えばノズル列に沿った長円形等にしてもよい。いずれの形状であっても、閉じられた領域内で表面張力によって液膜が保持される必要があり、ノズル列に沿った形状でなるべく表面積を小さくすることが望ましい。
【0115】
また、第2実施形態において説明したように、液膜の厚さを測定する手段(例えば第2実施形態の液膜厚さ測定部40)を備えていてもよい。
【0116】
<カプセル生成動作>
カプセル生成動作については第1実施形態と略同様である。すなわち、シェル材液膜の膜厚を測定し、膜厚が適正な厚さであれば、第1液体噴射部10からコア材(第1の液体)の液滴を噴射してコアを形成する。コア材はシェル材(第2の液体)の液膜を貫通する際にシェル材に被覆される。その後、液体接触部50にてシェル硬化材(第3の液体)と接触して化学反応によってシェルが硬化されることで、シェルがコアを内包する構造のカプセルが生成される。
【0117】
<第3実施形態のまとめ>
第3実施形態では、複数のノズルが直列に並ぶノズル列を備えた液体噴射部を用いて、シェル材の液膜に対して複数のコア材を噴射させる。シェル材の液膜はコア材の着弾位置に沿った形状に保持され、さらにシェル材を補充するためのシェル材補充ポイントを有し、カプセル生成動作中でも減少分のシェル材を液膜に対して補充できるようになっている。これにより、シェルの厚さが均一なカプセルを同時に複数生成することができるようになり、高効率なカプセル製造を実現することができる。
【0118】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのカプセル製造装置を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0119】
<カプセル生成材料について>
前述の各実施形態では、第1の液体〜第3の液体についてそれぞれ具体例が例示されていたが、例示された以外のカプセル生成材料を用いてカプセルを生成することも可能である。
【0120】
<装置の配置について>
前述の各実施形態では、液体噴射部、液膜保持部、液体接触部が鉛直方向に沿って直線状に並ぶように配置されていたが、各機器の配置はこの限りではない。例えば、液体噴射部によってコア(第1の液体)が鉛直に対して斜めの方向に噴射されるような場合には、当該コアの移動方向(進路)に沿って各機器が配置されればよい。
【符号の説明】
【0121】
1,2,3 カプセル製造装置、
10 第1液体噴射部、11 噴射ヘッド、12 第1液体タンク、
20 第2液体噴射部、21 噴射ヘッド、22 第2液体タンク、
30 液膜保持部、31 液膜保持部材、
40 液膜厚さ測定部、41 レーザー変位計、
50 液体接触部、51 液体貯留槽、
111 ノズル、112 液体供給路、114 ノズル連通路、116 弾性板、
PZT ピエゾ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアを形成する第1の液体の液滴を噴射する第1液体噴射部と、
シェルを形成する第2の液体を膜状に保持する液膜保持部であって、保持された前記第2の液体の液膜を前記コアが貫通する際に、前記第2の液体によって前記コアを被覆させることにより、前記コアを内包するシェルを形成させる液膜保持部と、
前記第2の液体の液膜に前記第2の液体を噴射することで、前記液膜に前記第2の液体を補充する第2液体噴射部と、
を備えるカプセル製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のカプセル製造装置であって、
前記液膜は、前記第2の液体を補充する部分、及び、前記コアが貫通する部分、及び、前記第2の液体を補充する部分と前記コアが貫通する部分との間を接続する部分、から構成され、
前記接続する部分の幅は、前記第2の液体を補充する部分、及び、前記コアが貫通する部分の幅と同じ、もしくは、狭いことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のカプセル製造装置であって、
前記液膜保持部に保持された第2の液体の液膜の厚さを測定する測定部を備える、ことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載のカプセル製造装置であって、
前記第1液体噴射部から前記第1の液体を噴射させ、前記第2液体噴射部から前記第2の液体を噴射させる制御部を備え、
前記制御部は、
前記液膜の厚さを測定した結果が所定の値よりも小さい場合には、前記液膜に前記第2の液体を補充させ、
前記液膜の厚さを測定した結果が所定の値である場合には、前記第1の液体を噴射させる、ことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のカプセル製造装置であって、
前記第1液体噴射部は、前記第1の液体の液滴を噴射するノズルが複数並ぶノズル列を備え、
前記ノズル列に沿って形成される前記第2の液体の液膜に向けて、前記ノズル列から複数の前記第1の液体の液滴を噴射する、ことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のカプセル製造装置であって、
前記第2の液体によって形成されるシェルを第3の液体と接触させて化学反応を生じさせることにより、前記シェルを硬化させる、ことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載のカプセル製造装置であって、
前記第2の液体は多糖類、蛋白質類を含む水溶液であり、
前記第3の液体は多価金属塩を含む水溶液であり、
前記第2の液体と前記第3の液体とを接触させて架橋反応を生じさせることにより、前記シェルを硬化させる、ことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のカプセル製造装置で製造された医療用カプセル。
【請求項9】
膜状に保持された第2の液体の液膜に向けて第1の液体を噴射することにより、コアを形成することと、
前記コアが前記第2の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって前記コアを被覆させることにより、前記コアを内包するシェルを形成することと、
前記第2の液体の液膜に前記第2の液体を噴射することで、前記液膜に前記第2の液体を補充することと、
を有するカプセル製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図3】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−71082(P2013−71082A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213195(P2011−213195)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】