説明

カプセル製造装置、医療用カプセル、及び、カプセル製造方法

【課題】 コアに複数の液膜を貫通させることによってカプセルを生成する。
【解決手段】 第1の液体の液滴を噴射する液体噴射部と、第2の液体を膜状に保持する第2液体保持部と、第3の液体を膜状に保持する第3液体保持部と、を備え、前記液体噴射部から噴射された前記液滴が、前記第2液体保持部に保持される前記第2の液体の液膜を貫通する際に、前記液滴が前記第2の液体によって被覆され、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が、前記第3液体保持部に保持される前記第3の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が前記第3の液体によって被覆される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル製造装置、医療用カプセル、及び、カプセル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芯物質(コア)を皮膜(シェル)で覆うことによって生成されるカプセルが知られている。このようなカプセルのうち、粒径がマイクロメートルオーダーの微小なカプセルはマイクロカプセル(マイクロスフィアやゲルビーズ)と呼ばれ、近年開発が進んでいる。マイクロカプセルは、コアやシェルの形成材料を適当に選択することで様々な機能を持たせることができる。例えば、コアを外部環境から保護する機能や、外部環境へコアを放出する速度を調節する機能等を持たせることができ、現在では、機能性材料として食品、医薬品等の多岐の分野に渡って応用されている。
【0003】
このようなマイクロカプセルの生成方法として、カプセルのコアを形成するコア材及びシェルを形成するシェル材(ともに液体である)を用いて、シェル材によってコア材を被覆させることでカプセルを生成する方法がある。例えば、コア材によって形成される液面の上に、該コア材よりも比重の小さいシェル材を浮かべるようにしてシェル材を液膜状に形成して保持する。そして、コア材とシェル材との界面付近(コア材液面の下側)で気泡を発生・破裂させる。この気泡が破裂する際に生じる圧力によって、コア材をシェル材の液膜側に吐出させ、シェル材によってコア材を包み込むように被覆してマイクロカプセルを生成する方法が提案されている。(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−224647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法によれば、シェルの厚さが均一なマイクロカプセルを生成しやすくなる。
一方、近年において、1つのコアに対して複数のシェルが重ねて形成されるような所謂多重カプセルの需要が高まっている。多重カプセルを形成する方法として、コア材を複数回シェルで被覆する方法がある。具体的には、コア材によってシェル材の液膜を複数回貫通させることによって多重カプセルを生成することが可能と考えられる。しかし、特許文献1では、コア材を吐出させる工程と、シェル材の液膜によってコア材を被覆させる工程とが同時に行われている。すなわち、コアの形成とシェルの形成とが同一のタイミングで行なわれている。したがって、1つのコアが複数の液膜を貫通するような動作を行うことは非常に難しい。
【0006】
本発明では、コアに複数の液膜を貫通させることによってカプセルを生成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、第1の液体の液滴を噴射する液体噴射部と、第2の液体を膜状に保持する第2液体保持部と、第3の液体を膜状に保持する第3液体保持部と、を備え、前記液体噴射部から噴射された前記液滴が、前記第2液体保持部に保持される前記第2の液体の液膜を貫通する際に、前記液滴が前記第2の液体によって被覆され、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が、前記第3液体保持部に保持される前記第3の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が前記第3の液体によって被覆されること、を特徴とするカプセル製造装置である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1Aは、カプセルの概念図である。図1Bは、多重カプセル(シェルが2重に形成されるカプセル)の概念図である。
【図2】2重のシェルが形成される際の動作について概略的に説明する図である。
【図3】第1実施形態におけるカプセル製造装置1の基本的な構成を説明する概略図である。
【図4】噴射ヘッド11の構造を説明する断面図である。
【図5】第1実施形態においてカプセル製造装置1を用いて多重液滴を生成する工程のフローを表す図である。
【図6】第1実施形態の変形例においてカプセル製造装置1を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図である。
【図7】アルギン酸ナトリウムの説明図である。
【図8】アルギン酸ナトリウムからアルギン酸カルシウムゲルへ変化する中間の様子を示す説明図である。
【図9】アルギン酸カルシウムゲルの説明図である。
【図10】第2実施形態におけるカプセル製造装置2の基本的な構成を説明する概略図である。
【図11】第2実施形態においてカプセル製造装置2を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図である。
【図12】第3実施形態におけるカプセル製造装置3の基本的な構成を説明する概略図である。
【図13】第3実施形態においてカプセル製造装置3を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図である。
【図14】シェルを3重に有するカプセルの例を示す図である。
【図15】第4実施形態におけるカプセル製造装置4の基本的な構成を説明する概略図である。
【図16】第4実施形態においてカプセル製造装置4を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0011】
第1の液体の液滴を噴射する液体噴射部と、第2の液体を膜状に保持する第2液体保持部と、第3の液体を膜状に保持する第3液体保持部と、を備え、前記液体噴射部から噴射された前記液滴が、前記第2液体保持部に保持される前記第2の液体の液膜を貫通する際に、前記液滴が前記第2の液体によって被覆され、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が、前記第3液体保持部に保持される前記第3の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が前記第3の液体によって被覆されること、を特徴とするカプセル製造装置。
このようなカプセル製造装置によれば、コアに複数の液膜を貫通させることによってカプセルを生成することができる。
【0012】
かかるカプセル製造装置であって、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が、前記第3の液体によって被覆されることにより形成されるシェルに、第4の液体を接触させる液体接触部を備え、前記シェルと前記第4の液体とを接触させて化学反応を生じさせることが望ましい。なお、ここで言う化学反応とは、重合反応、高分子反応、架橋反応を含む。
このようなカプセル製造装置によれば、第2のシェルが硬化された状態の多重カプセルを生成することができる。さらに、第2のシェルと第4の液体とが接触する時間を変更することにより、シェルの厚さや硬さを調整することが可能である。なお、硬化するとは、液体の粘度が高くなることや、液体状のものが固体状に性状変化することなどを含み、特に固体特有の強度変化に限定されるものではない。
【0013】
かかるカプセル製造装置であって、前記第3の液体は多糖類または蛋白質類を含む水溶液であり、前記第4の液体は多価金属塩を含む水溶液であり、前記第3の液体と前記第4の液体とを接触させて架橋反応を生じさせることが望ましい。
このようなカプセル製造装置によれば、人体に無害で医療分野等に対する応用性が高いカプセルを生成することができる。また、親水性のゲルによるシェルを形成することが可能であるため、保水性能が高く、また、外部環境とカプセルとの間で皮膜を介しての浸透圧調整が容易なカプセルを生成することができる。
【0014】
かかるカプセル製造装置であって、前記第1の液体の液滴によってコアが形成され、前記コアを被覆する前記第2の液体によって第1のシェルが形成され、前記第1のシェルが前記第3の液体と接触して化学反応を生じることによって、前記第1のシェルが硬化されることが望ましい。
このようなカプセル製造装置によれば、適切な硬さを持つ硬化されたシェルを有するカプセルを生成することができる。さらに、第3の液体の液膜を変更することにより、シェルの厚さや硬さを調整することが可能である。
【0015】
かかるカプセル製造装置であって、第4の液体を膜状に保持する第4液体保持部と、第5の液体を膜状に保持する第5液体保持部と、を備え、前記第3の液体によって前記第1のシェルが硬化された前記コアが、前記第4液体保持部に保持される前記第4の液体の液膜を貫通する際に、前記第4の液体によって被覆されることにより第2のシェルが形成され、前記第2のシェルが形成された前記コアが、前記第5液体保持部に保持される前記第5の液体の液膜を貫通する際に、前記第5の液体と接触して化学反応を生じることによって、前記第2のシェルが硬化されることが望ましい。
このようなカプセル製造装置によれば、複数のシェルのそれぞれが硬化された多重カプセルを生成することができる。複数のシェルのそれぞれに異なる機能を持たせることによって、用途に応じて様々な機能を有するカプセルを生成することができる。また、気相中でカプセルのシェルが硬化されるため、完成後のカプセル回収に要する手間を少なくすることができる。
【0016】
かかるカプセル製造装置であって、前記第2の液体は多糖類または蛋白質類を含む水溶液であり、前記第3の液体は多価金属塩を含む水溶液であり、前記第2の液体と前記第3の液体とを接触させて架橋反応を生じさせることが望ましい。
このようなカプセル製造装置によれば、人体に無害で医療分野等に対する応用性が高いカプセルを生成することができる。また、親水性のゲルによるシェルを形成することが可能であるため、保水性能が高く、また、外部環境とカプセルとの間で皮膜を介しての浸透圧調整が容易なカプセルを生成することができる。
【0017】
また、かかるカプセル製造装置で製造された医療用カプセルが明らかなる。
このような医療用カプセルによれば、所望のサイズや硬さの微小カプセルが製造できるため、DDS(ドラックデリバリーシステム)のように、薬剤などのコアとそれを被覆するシェルなどを構成することにより、途中で吸収・分解されることなく患部に到達させ、患部で薬剤を放出することができる。
【0018】
また、第1の液体の液滴を噴射することと、噴射された前記液滴が膜状に保持された第2の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって前記液滴を被覆させることと、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が膜状に保持された第3の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって被覆された前記液滴を前記第3の液体によって被覆させることと、を有するカプセル製造方法が明らかとなる。
【0019】
===概要===
<カプセルとは>
図1Aに、本実施形態で生成されるカプセルの概念図を示す。本実施形態におけるカプセルは、図1Aのように「コア」、及びそれを内包する「シェル」によって構成され、球状の外形を有する。「コア」を形成するコア材は、有効成分(例えば、ハイドロキノン、セラミド、牛血清アルブミン、γ−グロブリン、リピオドール、ビフィズス菌、ビタミン、ヒアルロン酸、IPS細胞等)を含んだ物質である。コア材には当該有効成分が溶解していているもの、有効成分が分散しているもの、また、有効成分が固体もしくは気体状で存在しているものが含まれる。このようなカプセルは、食料、医薬部外品、医薬品等、種々の分野で使用されており、カプセルの大きさ(内包物の容量)や、シェルの厚さはその用途に応じて様々である。
本明細書中で、1つの「コア」に対して1以上の「シェル」を有するカプセルを「多重カプセル」とも呼ぶ。
【0020】
本実施形態では、1つのコアに対してシェルを複数有する多重カプセルを生成することができる。図1Bに、本実施形態で生成される多重カプセルの概念図を示す。図1Bに示される多重カプセルでは、コアと、コアを内包する第1のシェルと、第1のシェルを内包する第2のシェルとを有する。すなわち、シェルが2重になっている多重カプセルであり、カプセルの最外郭部を構成する第2のシェルによって、コア及び第1のシェルが守られている(保護されている)構造となる。したがって、コア及び第1のシェルにそれぞれ異なる機能を持たせることによって、1つで複数の機能を有するカプセルを生成することができる。例えば、コアと第1のシェルとがそれぞれ異なる効能の薬剤であり、それらが第2のシェルによって保護されるようなカプセルを生成すること等が可能になる。なお、図1Bではシェルが2重のカプセルについて説明しているが、シェルを3重以上有する多重カプセルとすることもできる。
【0021】
<カプセルの生成方法>
上述のようなコアとシェルとを有するカプセルを生成する方法の概要について簡単に説明する。本実施形態では、複数種類の液体を原材料としてカプセルが生成される。コアを形成するコア形成材(コア材)として第1の液体が用いられ、第1のシェルを形成する第1シェル形成材(第1シェル材)として第2の液体が、第2のシェルを形成する第2シェル形成材(第2シェル材)として第3の液体が用いられるものとする。第1の液体、及び、第2・第3の液体は、生成されるカプセルの機能や用途に応じてそれぞれ最適な液体材料が選択される。
【0022】
カプセルを生成する際には、薄膜状に形成された第1シェル材(第2の液体の液膜)及び薄膜状に形成された第2シェル材(第3の液体の液膜)に対して、カプセルのコアとなるコア材(第1の液体)の液滴を突入させる。そして、コア材が第2の液体の液膜を貫通する際に、第1シェル材(第2の液体)がコア材全体を包み込むようにして被覆することによって第1のシェルが形成される。続いて、第3の液体の液膜を貫通する際に、第1シェル材に被覆されたコア材を第2シェル材(第3の液体)が包み込むようにして被覆することによって第2のシェルが形成される。
【0023】
図2は、2重のシェルが形成される際の動作について概略的に説明する図である。図の(A)〜(F)は第1の液体の液滴(コア材)が2つの液膜を貫通する際の様子を時系列順に表したものである。図では、水平に保持された第2の液体の液膜(斜線部)及び第3の液体の液膜(着色部)に対して鉛直上方向から垂直にコア材が突入するものとする。
【0024】
(A)はじめに、第1の液体(コア材)の液滴によって形成されたコアが、第2の液体(第1シェル材)によって形成された第2の液体の液膜に所定の速度(液膜を貫通可能な速度)で突入する。(B)第2の液体の液膜と接触したコアはそのまま直進を続け、第2の液体の液膜を貫通しようとする。これに対して、第2の液体の液膜はコアを包むように変形する。なお、第1の液体と第2の液体とは、組成や比重、粘度、表面張力等の性質が異なる液体であり(例えば、水性の液体と油性の液体など界面が強く形成される液体の組合せ)、両者が接触した場合でも直ちに混合されることはない。(C)コアは第2の液体の液膜に包まれたまま直進を続ける。コアが当初の液膜の位置を通過した段階では、コアの大部分が第2の液体(第1シェル材)によって覆われる。なお、コアが通過した部分では、第2の液体の液膜に穴が開いたような状態となるが、その穴の周囲から第2の液体が移動することにより、第2の液体の液膜の穴をふさいで穴のない状態に戻そうとする。(D)コアが第2の液体の液膜を完全に貫通すると、コア全体が第2の液体(第1シェル材)に被覆された状態となり、コアを内包するように第1のシェルが形成される。なお、コアが貫通した後の第2の液体の液膜に開いた穴は第2の液体によって閉じられる。第1のシェルによって被覆されたコアは、そのまま第3の液体(第2シェル材)の液膜に突入する。(E)突入したコア(第1のシェルに被覆されたコア)は、第3の液体の液膜において第3の液体(第2シェル材)によって覆われる。(F)そして、第3の液体の液膜を完全に貫通すると、第1のシェルに被覆されたコア全体が第3の液体(第2シェル材)に被覆された状態となり、コア及び第1のシェルを内包する第2のシェルが形成される。
【0025】
このような動作を経ることで、第1のシェルによって被覆されたコアを、第2のシェルがさらに被覆する構造を有する多重カプセルが生成される。
【0026】
なお、本明細書中で「カプセル」とは、「コア」または「シェル(複数のシェル)」のうち少なくとも一つが硬化した(硬くなった)状態を言う。例えば、「2重カプセル」とは、コア材の液滴、もしくは、第1のシェルのいずれかが硬化した状態のことを言う。
逆に、「コア」または「シェル(複数のシェル)」の全てが硬化していない(硬くなっていない)状態を「多重液滴」と言う。例えば、「2重液滴」とは、コア材の液滴、及び、第1のシェルのいずれも硬化していない状態のことを言う。
また、「硬化」とは、後述するように、液体の粘度が高くなることや、液体状のものが固体状に性状変化することなどを含み、特に固体特有の強度変化に限定されるものではない。
【0027】
===第1実施形態===
発明を実施するためのカプセル製造装置の形態として、液体噴射装置を用いたカプセル製造装置1を例に挙げて説明する。
【0028】
カプセル製造装置1では、インクジェット方式を用いて液滴を噴射することにより、カプセルの大きさやシェル厚さを自由に調整しながら、所望のサイズのカプセルを製造(生成)する。また、インクジェット方式により微少量の液滴を噴射することで、カプセル径がナノメートル(nm)オーダーやマイクロメートル(μm)オーダーとなるような、微小サイズのカプセルを生成することが可能である。例えば、0.1〜500pl(ピコリットル)程度の容量の、所謂マイクロカプセル(マイクロスフィア)を生成することができる。また、カプセル製造装置1では、シェルを2層以上有する多重カプセルを生成することができる。
【0029】
<カプセル製造装置1の構成>
図3は、第1実施形態におけるカプセル製造装置1の基本的な構成を説明する概略図である。カプセル製造装置1は、液体噴射部10と、第2液体保持部30と、第3液体保持部40とを備える。
【0030】
また、説明のため、図3に示されるように、X軸、Y軸、Z軸からなる座標軸を設定する。Z軸は鉛直方向(図3において下向きの方向)であり、X軸はZ軸に対して垂直な方向であり、Y軸はZ軸及びX軸に垂直な方向であるものとする。図3では、液体噴射部10と、第2液体保持部30と、第3液体保持部40とがZ軸方向に沿って直線状に並んで配置されている。
【0031】
(液体噴射部10)
液体噴射部10は、第1の液体(コア材)を噴射することによってマイクロカプセルのコアを形成するコア形成部である。液体噴射部10は噴射ヘッド11と第1液体タンク12とヘッド制御部HC(不図示)とを有する。
【0032】
噴射ヘッド11は第1の液体を液滴として噴射する。噴射ヘッド11による液体噴射動作については後で説明する。第1液体タンク12は第1の液体を貯留しておくタンクであり、不図示の液体伝送路を介して噴射ヘッド11に第1の液体を供給する。ヘッド制御部HCは、噴射ヘッド11を駆動させるための電圧波形信号である駆動信号を生成し、後述するピエゾ素子PZTに印加することによって、噴射ヘッド11の駆動を制御し、第1の液体を噴射させる。
【0033】
図4は、噴射ヘッド11の構造を説明する断面図である。噴射ヘッド11は、ノズル111、ピエゾ素子PZT、液体供給路112、ノズル連通路114(容積室に相当する)、及び、弾性板116(ダイアフラムに相当する)を有する。
【0034】
第1液体タンク12に貯留された第1の液体は、液体供給路112を介してノズル連通路114に供給される。圧電素子であるピエゾ素子PZTには、ヘッド制御部HCで生成された複数のパルスを有する電圧信号が、駆動信号として印加される。駆動信号が印加されると、該駆動信号に従ってピエゾ素子PZTが伸縮し、弾性板116を振動させる。そして、ノズル連通路114の容積を変化させ、駆動信号の振幅に対応するようにノズル連通路114内に供給された第1の液体を移動させる。
【0035】
第1の液体の移動について具体的に説明する。本願実施形態のピエゾ素子PZTは、電圧を印加すると図4の上下方向に収縮する特性を有する。駆動信号としてある電圧からより大きい電圧を印加した場合、ピエゾ素子PZTは図4の上下方向に収縮してノズル連通路114の容積を拡大する方向に弾性板116を変形させる。このとき、ノズル111における液体表面はノズル111の内側(図4の上側)方向に移動する。逆に、ある電圧からより小さい電圧を印加した場合、ピエゾ素子PZTは図4の上下方向に伸長し、ノズル連通路114の容積を縮小する方向に弾性板116を変形させる。このとき、ノズル111の液体表面はノズル111の外側(図4の下側)方向に移動する。このように、ノズル連通路114の容積を変化させるとノズル連通路114における圧力が変動し、ノズル連通路114に充填された液体をノズル111から噴射することができる。噴射された第1の液体は、その表面張力により球形(液滴)となる。つまり、ピエゾ素子PZTに印加される駆動信号の振幅(電圧の大きさ)を変更することによって、噴射される液滴の大きさ(液体の量)を調整することができる。これにより、所望のサイズのカプセルコアを正確に形成することができるようになる。
【0036】
なお、第1の液体に酸素分子が溶け込んでいると、この圧力変動の際、ノズル連通路114において気泡が生じてしまう。よって、本実施形態において使用される第1の液体は予め中空糸などを用いて脱気されていることが望ましい。
【0037】
本実施形態において、ノズル111は、例えば直径20μmであり、噴射周波数10Hz以上で第1の液体を噴射することができる。また、駆動信号の周波数を変更することにより噴射周波数を変更し、カプセル(コア)の生成効率を変化させことができる。
【0038】
図3の例では、液体噴射部10に噴射ヘッド11が一つだけ設けられているが、液体噴射部10に複数の液体噴射ヘッド11が設けられる構成としてもよい。また、液体噴射ヘッド11に複数のノズル111が設けられる構成としてもよい。なお、1つの噴射ヘッド11に対してノズル111が複数設けられる場合には、ピエゾ素子PZTも各ノズルに対応して設けられる。
【0039】
このような構成であれば、複数の液滴(コア)を同時に噴射することができるため、複数のカプセルが同時に生成され、カプセルの生成効率をより高くすることができる。
【0040】
(第2液体保持部30)
第2液体保持部30は、液膜保持枠31と液膜形成機構(不図示)とを有する。
【0041】
液膜保持枠31は、第1のシェルを形成する原材料である第2の液体(第1シェル材)を薄膜状に保持する枠である。第2の液体は周囲を液膜保持枠31に取り囲まれることによって、該液膜保持枠31を外縁とする第2の液体の液膜を形成する。液膜保持枠31は、液膜を保持できるものであれば材質は自由であり、本実施形態では金属製(例えば、ステンレス、アルミニウム、銅、金、銀、真鍮、チタン、炭素鋼、洋白等)や樹脂製(例えば、アクリル、ポリウレタン、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン等)の液膜保持枠を用いることができる。また、液膜を保持できるものであれば形状も自由であり、図3のような四角形以外の形状であってもよい。なお、液膜保持枠31の厚さは、保持するべき第2の液体の液膜の厚さを考慮して決定される。
【0042】
液膜形成機構は、第2の液体(第1シェル材)を液膜保持枠31に供給し、第2の液体の液膜を形成するものである。液膜形成機構は、例えば、第2の液体を貯留する第2液体タンクと、液膜保持枠31の一辺の幅以上の幅(長さ)を有する刷毛状の塗布部とを有する。そして、第2液体タンクに貯留されている第2の液体を、該塗布部を用いて液膜保持枠31に塗布することによって液膜を形成するような機構とすることができる。このような液膜形成機構によれば、カプセル生成動作(詳細は後述)中に液膜が損壊された(破れた)場合であっても、すぐに液膜を再形成することができる。
【0043】
ただし、カプセル製造装置1にとって液膜形成機構は必須の構成ではなく、カプセルを生成する際に、第2液体保持部30によって第2の液体の液膜が保持されていればよい。例えば、外部装置によって第2の液体の液膜が形成され、液膜保持枠31に保持されるのであってもよい。
【0044】
(第3液体保持部40)
第3液体保持部40は、第2液体保持部30と略同様の構成であり、液膜保持枠41及び必要に応じて液膜形成機構(不図示)を有する。
【0045】
液膜保持枠41は、第2のシェルを形成する原材料である第3の液体(第2シェル材)を薄膜状に保持する枠である。第3の液体は周囲を液膜保持枠41に取り囲まれることによって、液膜保持枠41を外縁とする第3の液体の液膜を形成する。
【0046】
<多重液滴の生成動作について>
続いて、カプセル製造装置1を用いて多重液滴を生成する際の具体的動作について説明する。図5に、第1実施形態においてカプセル製造装置1を用いて多重液滴を生成する工程のフローを表す図を示す。本実施形態では、コア形成工程(S101)、第1のシェル形成工程(S102)、第2のシェル形成工程(S103)の3つの工程により多重液滴が生成される。
【0047】
S101:コア形成工程
まず、液体噴射部10から噴射されるコア材(第1の液体)の液滴(ドット)によってコアが形成される。コア材としては、有効成分(例えば、ハイドロキノン、セラミド、牛血清アルブミン、γ−グロブリン、リピオドール、ビフィズス菌、ビタミン、ヒアルロン酸、IPS細胞等)を含んだ物質(水溶液)が用いられる。
【0048】
図3に表されるように、コア材を噴射する際は、第2液体保持部30によって保持される第2の液体の液膜(第1シェル材の液膜)に向かって液滴が噴射される。本実施形態では、液体噴射部10が第2液体保持部30の鉛直上方に設けられており、第1の液体がZ軸方向に噴射される。すなわち、XY平面に平行に保持された第2の液体の液膜に向けて垂直な方向からコア材が噴射される。ただし、コア材は、必ずしも第2の液体の液膜に対して垂直な方向に噴射される必要は無く、第2の液体の液膜に対して斜めの方向に噴射されるのであってもよい。
【0049】
コア材を噴射する際の液体噴射量は、生成される多重液滴のコアの大きさ(容量)に応じて決定される。本実施形態においては、噴射された第1の液体による液滴がそのままコアになるためである。すなわち、コア材を噴射する量を制御することによって、生成される多重液滴のサイズ(コアの大きさ)を自由に設定することができる。上述したように、液体噴射部10から噴射される第1の液体(コア材)の量は、駆動信号の電圧を変更することによって調整することができる。
【0050】
また、このことは、コア材の歩留まりが非常に高いということを意味する。すなわち、噴射されたコア材は効率よくコアを形成するため、コア材はほとんど無駄にならない。したがって、カプセルの原料コストを安く抑えることができる。特に、コア材として非常に高価な物質を使用しなければならない場合(例えば、医療用カプセルを生成する際に、医療用材料をコアとする場合)に非常に効果的である。また、使用される液体の量が最適化できるため、廃棄される液体の量が少なく環境保護という観点でも有効である。また、医療用カプセルに限らず、化粧用カプセルや食品用カプセルにおいても、上述したとおり、使用される液体の量が最適化できる。
【0051】
コア材を噴射する際の液体噴射速度は、以下の第1のシェル形成工程(S102)及び第2のシェル形成工程(S103)において、2つの液膜をそれぞれ貫通できるような速度に設定される。すなわち、噴射されたコア材の液滴が、第2の液体の液膜を貫通し、さらに第3の液体の液膜を貫通するのに十分な大きさの運動量を有するように設定される。設定するべき速度は、貫通するべき液膜の厚さ、液膜材料(第1シェル材、第2シェル材)の粘度や液膜の表面張力、コア(第1の液体)の密度や噴射量等によって条件が異なる。また、液体噴射部10と液体保持部30及び液体保持部40との位置関係(距離)によっても条件が異なる。したがって、実際にカプセルが生成される条件にてあらかじめ実験を行なって、第2の液体の液膜及び第3の液体の液膜を貫通できる最小のコア材噴射速度を調べておき、当該速度を閾値として設定しておく。例えば生成されるコアのサイズや使用される液体材料毎に閾値が設定される。ヘッド制御部HCは、設定された閾値を参照してピエゾ素子PZTを駆動させ、所定の速度以上となるように第1の液体を噴射させる。
【0052】
S102:第1のシェル形成工程
S101で形成されたコアは、第2液体保持部30に保持された第2の液体の液膜に突入する。そして、コアが第2の液体の液膜を貫通する際に、第2の液体(第1シェル材)によって当該コアが覆われることによって、第1のシェルが形成される(図2の(A)〜(D)参照)。
【0053】
本実施形態において、第2の液体(第1シェル材)としては多糖類、もしくは蛋白質類(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、エチルセルロース、メチルセルロース、ペクチン、ジェランガム、キトサン、コラーゲン、フィブリノーゲン等)を含んだ物質(水溶液)が用いられる。アルギン酸塩類は人体に対してほぼ無害であり、カプセルのシェル材として使用することによりカプセルの応用性の範囲が広くなる。
【0054】
また、第2の液体(第1シェル材)は第1の液体(コア材)と混合しにくい物質が望ましい。例えば、上述のようにコア材として水性の薬剤溶液を用いる場合には、第2の液体は油性の物質を用いる。これにより、コア(第1の液体)が第2の液体の液膜を貫通する際に両者が混ざることはなく、コアを被覆するシェルが形成され、コアとシェルとの間における滲み等も生じにくくなる。つまり、第1の液体(コア材)と第2の液体(第1シェル材)とが、一定時間の間分離した状態を保つことができるように、各液体材料が選択される。
【0055】
同じ理由により、第2の液体(第1シェル材)は第3の液体(第2シェル材)とも混合しにくい物質とする。
【0056】
第2液体保持部30は水平に設置され、液体噴射部10から噴射されたコア材の液滴が第2の液体の液膜上に着弾するように位置が調整される。液膜に対してコアを垂直に突入させることにより、厚みのムラ等が少ない均一なシェルを形成させやすくなる。ただし、シェルを保持できるのであれば、第2液体保持部30を水平面に対して傾けて設置しても、コアを被覆するシェルを形成させることは可能である。
【0057】
また、第2の液体の液膜が保持される位置と液体噴射部10との間の距離(図3のZ軸方向距離)は小さい方が望ましい。コア材が噴射されてから空気中を長距離移動すると、移動する間にコア材が蒸発して形成されるコアの大きさが予定よりも小さくなってしまうおそれがあるからである。特に、上述のような微小サイズのカプセル(例えば、マイクロカプセル)を生成する場合には、移動中にコア材が蒸発しやすいため、注意が必要となる。また、マイクロカプセルの直径が数μm〜数十μmオーダーである場合には、液膜を貫通させるための噴射速度を減少させないためにも、両者の距離は短い方が有利である。したがって、本実施形態では、コア材が噴射されてから第2の液体の液膜に着弾するまでの距離が10〜10000μm程度となるように、第2液体保持部30が配置される。
【0058】
本実施形態においては、第2の液体(第1シェル材)を原料として第1のシェルが形成される。したがって、カプセル生成動作を繰り返すうちに第2の液体が消費され、第2の液体の液膜の厚さが薄くなることが考えられる。この場合、第1のシェルの厚さを均一に保つことができなくなったり、第2の液体の液膜自体が破れやすくなったりするおそれがある。また、カプセル生成動作を繰り返すうちに、液膜に不純物(例えば、気泡やコア材の残留物、サテライト)が混入するおそれがある。
【0059】
そこで、カプセル生成動作中の所定のタイミングで、液膜を形成しなおしたり、液膜保持枠31ごと液膜を交換したりすることにより、第2の液体の液膜の状態が変動することを抑制する。これにより、生成される第1のシェルを高品質に保つことができる。なお、液膜を交換等するタイミングは、例えば、カプセル生成動作の継続時間や、液体噴射部10によるコア材の合計噴射量等を基準として判断される。第3液体保持部40についても同様である。
【0060】
S103:第2のシェル形成工程
第1シェル材によって被覆されたコアは、第3液体保持部40に保持された第3の液体の液膜に突入する。そして、第3の液体の液膜を貫通する際に、第3の液体(第2シェル材)によって覆われることによって、第2のシェルが形成される(図2の(D)〜(E)参照)。
【0061】
上述の理由により、第2シェル材(第3の液体)は第1シェル材(第2の液体)と混合しにくい物質が用いられる。例えば、上述のように第1シェル材として油性の物質を用いる場合、第2シェル材は水性の物質が用いられる。これにより、第1のシェル(第1シェル材)に被覆されたコアが第3の液体の液膜(第2シェル材)を貫通する際に、第1シェル材と第2シェル材とが混ざることはなく、第1のシェルを被覆する第2のシェルが形成される。
【0062】
なお、図3では、第2液体保持部30と第3液体保持部40とがZ軸方向に離れて配置されているが、両者が重なるように配置されるのであってもよい。すなわち、第2の液体の液膜と第3の液体の液膜とをZ軸方向(鉛直方向)に層状に重ねて形成することにより、1枚の液膜を形成する構成としてもよい。第2の液体の液膜と第3の液体の液膜との間の空間が無くなることにより、該空間を移動する際の空気抵抗がなくなり、また、形成された第1のシェルが第2の液体の液膜から第3の液体の液膜へ移動する間に蒸発することも抑制できる。
【0063】
<変形例>
第1実施形態の変形例として、カプセル製造装置1を用いて硬化されたシェルを有するカプセルを生成する方法について説明する。
【0064】
上述の実施形態において、コアが液膜を貫通することによって形成される多重液滴では、コアを被覆するシェルが液体のままである。そのため、シェルは外部環境に対して非常に不安定な場合があり、生成された多重液滴に触れるだけでシェルが破壊されてしまうおそれがある。そこで、本変形例では、第2の液体がコアを被覆することによって形成される第1のシェルに、第3の液体を接触させて化学反応を生じさせる。化学反応により第1のシェルを適切な硬さに硬化させることによって外部環境に対して強いカプセルを生成する。なお、硬化するとは、液体の粘度が高くなることや、液体状のものが固体状に性状変化することなどを含み、特に固体特有の強度変化に限定されるものではない。
【0065】
本変形例では第2のシェルを形成するシェル材として第3の液体を用いるのではなく、第1のシェルを硬化させるために第3の液体を用いる。言い換えると、第3の液体によって形成される第2のシェルを、第1のシェルを硬化させるためのシェル硬化材として用いることで、コアと第1のシェルから構成されるカプセルを生成する。
【0066】
カプセル生成に用いられる液体材料の例としては次の物質を用いることができる。例えば、コアを形成する第1の液体(コア材)として、上述の有効成分を含んだ物質(水溶液)が用いられる。第1のシェルを形成する第2の液体(第1シェル材)として、上述の多糖類等を含む水溶液、例えばアルギン酸塩(アルギン酸ナトリウム等)を含む水溶液が用いられる。
【0067】
そして、シェル硬化材である第3の液体として、ゲル化誘発因子を持つような多価金属塩(例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム塩を含むものや、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、硫酸マンガン等のマンガン塩、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄等の鉄塩等)を含む物質(水溶液)が用いられる。
【0068】
本変形例では、第1の液体と第2の液体とは混合しにくく、第2の液体と第3の液体とは混合しやすい組み合わせとする。
【0069】
図6に、第1実施形態の変形例においてカプセル製造装置1を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図を示す。本変形例では、コア形成工程(S111)、第1のシェル形成工程(S112)、及び、第1のシェル硬化工程(S113)の3つの工程によりカプセルが生成される。(S111)及び(S112)は第1実施形態の(S101)及び(S102)と同様であり、(S113)が第1実施形態の(S103)と異なる。
【0070】
また、本変形例において、カプセル製造装置の基本的な構成は図3に示されるカプセル製造装置1と同様である。
【0071】
変形例では、まず、S111においてコアが形成される。続いて、S112においてコアが第2の液体の液膜を貫通することによってコアを被覆する第1のシェルが形成される。その後、第3の液体の液膜を貫通することによって、第1のシェルが第3の液体によって被覆される。このとき、第3の液体と第2の液体(第1のシェル)とが接触することで化学反応を生じ、第1のシェル(第2の液体)が硬化される(S113)。例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液(第2の液体)が塩化カルシウム水溶液(第3の液体)と接触して架橋反応を生じることにより、アルギン酸ナトリウム水溶液(第2の液体)がゲル化して硬化する。
【0072】
<化学反応について>
本変形例で生じる化学反応について説明する。図7は、アルギン酸ナトリウムの説明図である。図8は、アルギン酸ナトリウムからアルギン酸カルシウムゲルへ変化する中間の様子を示す説明図である。図9は、アルギン酸カルシウムゲルの説明図である。
【0073】
図7に示されるように、アルギン酸ナトリウム(CNa)はアルギン酸に1価のナトリウムイオンが結合している。このアルギン酸ナトリウムが塩化カルシウム(CaCl)水溶液にと接触すると、2価のカルシウムイオン(Ca2+)が、アルギン酸ナトリウムのナトリウムイオン(Na)と置換されることで、ゲル化が進行する(図8)。このとき、ナトリウムイオン(Na)は1価であり、カルシウムイオン(Ca2+)は2価であるので、2個のナトリウムイオン(Na)に対して、1個のカルシウムイオン(Ca2+)が置換される。このとき、アルギン酸ナトリウムは、2つのアルギン酸ナトリウム間において、2つのナトリウムイオン(Na)が脱離して、2価の金属イオンである1つのカルシウムイオン(Ca2+)に置換される(図9)。そして、2つのアルギン酸間を橋架けする架橋凝縮が生じ、ゲル化(硬化)する。このような化学反応は架橋反応とも呼ばれる。なお、反応式は次のようであると考えられる。
2CNa+CaCl=(C−Ca−C)+2NaCl
【0074】
ところで、図9には、破線で囲われた領域が示されている。アルギン酸カルシウムゲルでは、この破線で囲われた領域を通じてゲルの内部から外部へ水分子が移動したり、外部から内部へと水分子が移動したりする。このように破線で囲われた領域に水分子が存在することにより、弾力性のあるゲルが実現されている。そして、ゲルにおける水分子の流入量と流出量は均衡している。本実施形態において、親水性を有するゲル状のシェルが形成されることによって、人体に摂取する場合に生体親和性が高いカプセルを生成することができる。また、親水性のシェルであることから、保水性能が高く、コアと外部環境との間で該シェルを介した浸透圧の調整が容易になるという利点もある。
【0075】
なお、第2の液体(シェル材)にはグリセリンが添加されてもよい。グリセリンが添加されている場合には、水分子の流入量と流出量との均衡が崩れ、より水分子が外部に流出しやすくなる。図9の破線で囲われた領域にグリセリンも存在するのであるが、このグリセリンが外部に流出する際、この破線で囲われた領域の網目が収縮する。そうすると、アルギン酸カルシウムの密度が高まることから、ゲルが硬くなる。また、グリセリンはゲル化の反応速度を速くすることに貢献していると考えられ、このためゲルが硬くなるとも考えられる。尚、グリセリンは人体に与える影響が少ないため薬剤を含むゲルを製造する際の添加剤として有利である。
【0076】
本変形例では、このような化学反応(上述の例では架橋反応)の性質を利用して第1のシェルを硬化させることで、外部環境に対して安定したカプセルを生成することができる。
【0077】
また、コアが第3の液体の液膜を貫通する際の条件を調整することで、形成される第1のシェルの厚さや硬さを変更することができる。例えば、第3液体保持部40に保持される第3の液体の液膜の厚さを変更することにより、第3の液体の液膜を貫通する際に第1のシェルを被覆する第3の液体の量を変化させる。第3の液体の液膜を薄くすれば第1のシェルを被覆する第3の液体の量が減少し、架橋反応に用いられるカルシウムイオンの数も減少する。したがって、第1のシェル(第2の液体)で生じる架橋反応はシェル表面では進行するが、シェルの内側では進行しない。これにより、第1のシェルにおいて硬化される部分が薄くなる。逆に、第3の液体の液膜を厚くすれば第1のシェルを被覆する第3の液体の量が増加するので、架橋反応が進行しやすくなる。これにより、第1のシェルにおいて硬化される部分が厚くなる。
【0078】
このようにしてシェルの硬さやシェル厚さを調整することができるため、様々な用途に対応したカプセルを生成することができる。例えば、カプセルを医療分野に応用する場合、シェルの強さ(硬さ)を調整することによって人体に摂取されてからシェルが壊れて内部物質(コア)が露出するまでの時間を選択することができるようになる。具体的には、薬剤等によるコアとそれを被覆するシェル等によって構成されるカプセルを生成する。このようなカプセルによれば、人体に摂取された後、途中で吸収・分解されることなく患部まで薬剤(コア)を到達させ、患部に到達した段階で薬剤を放出させる等、DDS(ドラックデリバリーシステム)への応用が可能となる。
【0079】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態では、液体噴射部10から噴射された第1の液体の液滴が第2液体保持部30に保持された第2の液体の液膜を貫通する際に、当該液滴が第2の液体によって被覆されることにより、第1のシェルが形成される。そして、第2の液体によって被覆された液滴が第3液体保持部40に保持された第3の液体の液膜を貫通する際に、第3の液体によって被覆される。
【0080】
本実施形態のカプセル製造装置によれば、第1の液体(コア材)によって複数の液膜(例えば第2の液体及び第3の液体の液膜)を貫通させることにより、1つのコアに対してシェルを複数有する多重液滴を生成することが可能である。また、第2の液体をシェル形成材とし、第3の液体をシェル硬化材とすることで、形成されるシェルの厚さを調整しつつ、該シェルが適切な硬さに硬化された多重カプセルを生成することが可能である。
【0081】
そして、第1の液体の噴射量、及び第2の液体や第3の液体の液膜厚さを調整することにより、所望のサイズのカプセルを高精度に生成することができる。また、噴射された第1の液体がそのままコアを形成するため、コア材の歩留まりが非常に高く、コスト面でも有利である。
【0082】
また、カプセル原料としての液体材料は、様々な液体を組み合わせることが可能である。例えば、シェル形成材としての第2の液体は、第2液体保持部30に液膜として保持可能であり、第1の液体と混合しにくい液体であれば、様々な種類の液体を使用することができる。これにより、材料選択性が広くなり、多様なカプセルを生成することができる。
【0083】
===第2実施形態===
第2実施形態では、噴射されたコア材が、進行方向に対して最下流側の液膜(第1実施形態における第3の液体の液膜に相当)を貫通した後で、最外郭に形成されたシェル(第1実施形態における第2のシェルに相当)を硬化させる。具体的には、シェル硬化材である第4の液体を第2のシェル(第3の液体)と接触させることによって化学反応を生じさせ、第2のシェルを硬化させる。これにより、シェルを適切に硬化させた多重カプセルを生成することができるようになる。
第2実施形態では、カプセル製造装置2を用いてカプセルを生成する。
【0084】
<カプセル製造装置2の構成>
図10は、第2実施形態におけるカプセル製造装置2の基本的な構成を説明する概略図である。カプセル製造装置2は、液体噴射部10と、第2液体保持部30と、第3液体保持部40と、液体接触部50とを備える。また、図10のように、第1実施形態と同様の座標軸を設定する。
【0085】
カプセル製造装置2で液体接触部50以外の構成は、基本的に第1実施形態のカプセル製造装置1と同様である(図3参照)。以下、液体接触部50を中心に説明する。
【0086】
(液体接触部50)
液体接触部50は、第4の液体を液体状に貯留し、該液体接触部50において第4の液体と第3の液体とを接触させることにより化学反応を生じさせる。
【0087】
液体接触部50は、液体貯留槽51を有する。液体貯留槽51は液体を貯留しておくことができる容器である。本実施形態においては図10の斜線部で表されるように第4の液体を液体の状態で貯留して液相を形成する。液体貯留槽51の上部は開口部となっていて、当該開口部から液体貯留槽51内の液相に被接触物質を進入させ、該液体貯留槽51に貯留された第4の液体と接触させる。本実施形態においては、第3液体保持部40を貫通することにより第2のシェル(第3の液体)によって被覆された多重液滴が、第4の液体中に進入する。そして、第2のシェル(第3の液体)が第4の液体と接触することによって、液体貯留槽51内において化学反応を生じて硬化する。
【0088】
また、液体貯留槽51は、第4の液体と接触した後のカプセルを回収するための回収機構(不図示)を備えている。回収機構としては、例えば、生成されたカプセルを第4の液体中から濾し取るためのろ過装置等が備えられる。したがって、液体接触部50はカプセル回収部としての機能も有する。
【0089】
<カプセル生成動作>
図11に、第2実施形態においてカプセル製造装置2を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図を示す。本実施形態では、コア形成工程(S201)、第1のシェル形成工程(S202)、第2のシェル形成工程(S203)、シェル硬化工程(S204)の4つの工程によりカプセルが生成される。
【0090】
カプセル生成に用いられる液体材料として、例えば、第1の液体(コア材)として薬剤溶液(水性)が用いられる。第1のシェルを形成する第2の液体(第1シェル材)としては、第1の液体及び第3の液体と混合しにくい油性の物質が用いられる。第2のシェルを形成する第3の液体(第2シェル材)としては、ゲル性水性高分子(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリイソプロピルアクリルアミド、トリパルチミン、ペクチン、ジェランガム、ヘキサン、キトサン、コラーゲン、ポリウレアウレタン、フィブリノーゲン等)を含む水溶液が用いられる。そして、シェル硬化材である第4の液体として、ゲル化誘発因子を持つような多価金属塩(例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム塩といった硬化剤)を含む水溶液が用いられる。
【0091】
本実施形態のカプセル生成動作で(S201)〜(S203)の工程は、第1実施形態の(S101)〜(S103)の工程とほぼ同様である。すなわち、第1の液体(コア材)の液滴によってコアが形成される(S201)。続いて、第2の液体(第1シェル材)によってコアが被覆されることにより、第1のシェルが形成される(S202)。そして、第3の液体(第2シェル材)によって第1のシェルが被覆されることにより、第2のシェルが形成され(S203)、2重のシェルを有する多重液滴が生成される。この状態において、当該多重液滴の最外郭のシェル(第2のシェル)は液体である。
【0092】
S204:シェル硬化工程
S203でコア及び第1のシェルを被覆する第2のシェルが形成された後、液体接触部50において当該第2のシェルが硬化される。本実施形態では、液体接触部50の液体貯留槽51が液体噴射部10、第2液体保持部30、及び、第3液体保持部40の鉛直下側に設置されおり(図10参照)、Z軸方向(鉛直下方向)に噴射されたコア材(第1の液体)は、第2の液体の液膜及び第3の液体の液膜を貫通した後、そのまま液体貯留槽51内に進入する。そして、液体貯留槽51内に貯留された第4の液体と第2のシェル(第3の液体)とが接触することで化学反応を生じ、第2のシェル(第3の液体)が硬化する。
【0093】
第3の液体と第4の液体とが接触することによって生じる化学反応は、上述の架橋反応であり、第2のシェル(第3の液体)でゲル化が進行することによって、カプセルのシェルが硬化される。
【0094】
第2のシェルが硬化されて完成したカプセルは、液体接触部50に備えられた回収機構によって回収される。
【0095】
<第2実施形態の効果>
本実施形態では、所定のシェル(第2のシェル)が硬化された状態の多重カプセルを生成することができる。さらに、形成されるシェルの厚さや硬さを調整することが可能である。例えば、第3の液体と第4の液体との接触時間を変更する。第3の液体の液膜を貫通することにより第2のシェルが形成された多重液滴が、液体貯留槽51内に貯留された第4の液体に進入した後、すぐにカプセルを回収したとする。この場合、第3の液体と第4の液体との接触時間が短いため、化学反応は第2のシェルの表面では進行するが、シェルの内側では十分に進行しない。これにより、シェルが薄く、硬さの低いカプセルを生成することができる。逆に、第3の液体の液膜を貫通した多重液滴が液体貯留槽51に進入した後、十分な時間が経過した後にカプセルを回収した場合、化学反応は第2のシェル(第3の液体)の内側まで十分に進行し、シェルが厚く、硬さの高いカプセルを生成することができる。また、化学反応の進行速度は液体の濃度などによっても影響されるため、第3の液体及び第4の液体の濃度を調整することによっても、シェルの硬さを変えることができる。
【0096】
また、液相中でカプセルのシェルが硬化することにより、完成後のカプセルを液相中に沈降させて回収することができる。
【0097】
===第3実施形態===
第3実施形態では、複数のシェルのそれぞれを硬化させて多重カプセルを生成する。
第2実施形態では最外郭部分のシェルのみが硬化されたカプセルが生成されていた。これに対して、第3実施形態では最外郭以外のシェルも硬化させることにより、カプセルにより多くの機能をもたせることができる。第3実施形態では、カプセル製造装置3を用いてカプセルを生成する。
【0098】
<カプセル製造装置3の構成>
図12は、第3実施形態におけるカプセル製造装置3の基本的な構成を説明する概略図である。カプセル製造装置3は、液体噴射部10と、第2液体保持部30と、第3液体保持部40と、第4液体保持部60と、第5液体保持部70とを備える。また、図12のように、第1実施形態と同様の座標軸を設定する。
【0099】
カプセル製造装置3で、液体噴射部10の構成はカプセル製造装置1の液体噴射部10と同様である(図3参照)。
【0100】
また、カプセル製造装置3には第1〜第5の4つの液体保持部がZ軸方向に沿って順番に設けられる。各液体保持部の構成は、第1実施形態における第2液体保持部30と基本的に同様である(図3参照)。
【0101】
第2液体保持部30は、液膜保持枠31によって第2の液体を薄膜状に形成し、第2の液体の液膜として保持する。本実施形態において、第2の液体は第1のシェルを形成するための第1シェル材である。つまり、第2液体保持部30において、第1のシェルを形成することができる。第1シェル材としては、例えば、上述のゲル性水性高分子(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリイソプロピルアクリルアミド、トリパルチミン、ペクチン、ジェランガム、ヘキサン、キトサン、コラーゲン、ポリウレアウレタン、フィブリノーゲン等)を含む水溶液が用いられる。
【0102】
第3液体保持部40は、液膜保持枠41によって第3の液体を薄膜状に形成し、第3の液体の液膜として保持する。本実施形態において、第3の液体は第1のシェルを硬化させるための第1シェル硬化材である。つまり、第3液体保持部40において、第1のシェルを硬化させることができる。第1シェル硬化材としては、例えば、上述のゲル化誘発因子を持つような多価金属塩(例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム塩といった硬化剤)を含む水溶液が用いられる。
【0103】
第4液体保持部60は、液膜保持枠61によって第4の液体を薄膜状に形成し、第4の液体の液膜として保持する。本実施形態において、第4の液体は第2のシェルを形成するための第2シェル材である。つまり、第4液体保持部60において、第2のシェルを形成することができる。
【0104】
第5液体保持部70は、液膜保持枠71によって第5の液体を薄膜状に形成し、第5の液体の液膜として保持する。本実施形態において、第5の液体は第2のシェルを硬化させるための第2シェル硬化材である。つまり、第5液体保持部70は、第2のシェルを硬化させることができる。
【0105】
<カプセル生成動作>
図13に、第3実施形態においてカプセル製造装置3を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図を示す。本実施形態では、コア形成工程(S301)、第1のシェル形成工程(S302)、第1のシェル硬化工程(S303)、第2のシェル形成工程(S304)、第2のシェル硬化工程(S205)の5つの工程によりカプセルが生成される。
【0106】
はじめに、第1の液体(コア材)の液滴をZ軸方向に噴射することによりコアが形成される(S301)。形成されたコアは、そのまま第2液体保持部30に保持された第2の液体の液膜に突入する。コアが第2の液体の液膜を貫通する際に、第2の液体(第1シェル材)によって被覆されることで第1のシェルが形成される(S302)。
【0107】
第1のシェルによって被覆されたコアは、第3液体保持部40に保持された第3の液体の液膜に突入する。そして、第3の液体の液膜を貫通する際に、第3の液体(第1シェル硬化材)によって被覆される。このとき、第1のシェルを形成する第2の液体(第1シェル材)と、第1のシェルを被覆する第3の液体(第1シェル硬化材)とが接触して化学反応を生じることにより、第1のシェルが硬化される(S303)。
【0108】
第1のシェルが硬化された状態のカプセルは、続いて第4液体保持部60に保持された第4の液体の液膜に突入する。そして、第4の液体の液膜を貫通する際に、第4の液体(第2シェル材)によって被覆されることで、第1のシェルに重ねて第2のシェルが形成される(S304)。このとき、第1のシェルは(S303)の工程によって既に硬化されているため、第1のシェルと第2のシェルとの間でにじみが生じるおそれはない。したがって、第2の液体(第1シェル材)及び第4の液体(第2シェル材)として用いる液体材料の選択性をより広くすることができる。例えば、上述の各実施形態では、第1シェル材として油性の材料、第2シェル材として水性の材料を選択する等、シェルを重ねて形成させるために使用できる液体材料に制限があった。しかし、本実施形態では、そのような制限がなくなるため、より多くの液体材料が使用可能となる。
【0109】
そして、第5の液体の液膜を貫通する際に、第5の液体(第2シェル硬化材)によって被覆される、第2のシェルを形成する第4の液体(第2シェル材)と、第2のシェルを被覆する第5の液体(第2シェル硬化材)とが接触して化学反応を生じることにより、第2のシェルが硬化される(S305)。
【0110】
このような動作によって、複数のシェルがそれぞれ硬化された状態の多重カプセルを生成することができる。
【0111】
なお、3重以上のシェルを有する多重カプセルを生成する場合には、シェル形成材及びシェル硬化材の液膜の数を増やして、シェル形成工程とシェル硬化工程(例えばS302とS303)とを繰り返して実行する。複数のシェルのそれぞれに異なる機能を持たせることによって、用途に応じて様々な機能を有するカプセルを生成することができる。
【0112】
図14にシェルを3重に有するカプセルの例を示す。例えば、図14において、小腸に効く薬剤(薬剤A)でコアが形成される。次に、胃酸に溶解しない物質で第1のシェルが形成される。次に、胃に効く薬剤(薬剤B)で第2のシェルが形成される。最後に、胃酸によって溶解する物質で第3のシェルが形成されるものとする。
【0113】
ユーザーがこのカプセルを体内に摂取すると、まず、胃の中で第3のシェルが胃酸によって溶解し、第2のシェル(薬剤B)が放出される。一方、第1のシェルは胃酸では溶解しないため、コアは胃の中では放出されない。続いて、カプセルが小腸内まで到達するタイミングで、外部から超音波を当てる等の方法で第1のシェルを破壊する。これにより、小腸内でコア(薬剤A)が放出される。つまり、図14のカプセルでは、コアと第2のシェルとが薬剤としての機能を有し、第1のシェルと第3のシェルとが薬剤を保護する外壁としての機能を有する。
【0114】
このように、コア及びシェルに異なる機能を持たせることで、1つのカプセルで複数の用途に対応可能なカプセルを生成することができる。
【0115】
また、多重カプセルのコアにビフィズス菌やガセリ菌等の所謂善玉菌や乳酸菌を生きたまま封入し、胃酸に溶解しにくい物質で当該コアを被覆するシェルを形成する。このようなカプセルをヨーグルト等の食品等に混入しておくことにより、善玉菌を生きたまま腸に到達させることが容易になる。さらに、カプセルの生成材料やカプセルのサイズを適切に選ぶことにより、様々な機能を組み合わせることが可能であり、機能性食品として広い応用性を有する。
【0116】
<変形例>
図12で説明した例では、第2の液体及び第4の液体をシェル形成材とし、第3の液体及び第5の液体をシェル硬化材としてカプセルを生成しているが、カプセル製造装置3の各液膜に保持される液体の種類を変更することで、様々な種類のカプセルを生成することができる。例えば、第2〜第4の液体をシェル形成材として、第5の液体をシェル硬化材とすれば、最外郭のシェルのみが硬化された多重カプセルを生成することができる。
他にも、各液膜に保持される液体の種類や性質を適当に選択することによって、所望の機能を有する多重カプセルを生成しやすくなる。
【0117】
<第3実施形態の効果>
本実施形態では、多重カプセルを構成する複数のシェルのうち、それぞれのシェルを硬化させることにより、各シェル間で混合が生じにくくなり、カプセルを生成する液体材料の選択性を広くすることができる。そして、各シェルについて異なる機能を持たせることで、より多くの機能を有するカプセルを生成することができる。
【0118】
また、本実施形態では、気相中でシェルが硬化されそのままカプセルとして回収されるため、液体中からカプセルを回収するのと比較して、回収作業に要する手間を省略することができる。例えば、ろ過装置のような回収機構を備えることなくカプセルを回収することが可能になる。また、気相中でカプセルが完成するため、完成後のカプセルの個数を管理するのが容易になる。
【0119】
===第4実施形態===
第4実施形態では、紫外線を照射してシェルを硬化させることによって、多重カプセルを生成する。
【0120】
図15は、第4実施形態におけるカプセル製造装置4の基本的な構成を説明する概略図である。カプセル製造装置4は、液体噴射部10と、第2液体保持部30と、光照射部80と、を備える。
【0121】
液体噴射部10、及び、第2液体保持部30の構成は第1実施形態と同様である。
光照射部80は、UV照射装置81を備える。UV照射装置81は、UV(紫外線)を照射可能な照射器であり、UV光源として、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を備える。UV照射装置81は第2液体保持部30の下方に設けられ、液体噴射部10から噴射されて第2の液体の液膜を貫通した後の2重液滴(第1のシェルに被覆された状態のコア材液滴)に対して、UVを照射することができる。図15ではUV照射装置81が2つ設置されているが、UV照射装置81の設置個数や設置位置は、必要なUV照射量に応じて調整される。ただし、第2液体保持部30に保持された第2の液体の液膜にUVが照射されないように留意する。
なお、光照射部80が、UV以外の電磁波を照射可能な照射器(不図示)を備える構成としてもよい。
【0122】
<カプセル生成動作>
図16に、第4実施形態においてカプセル製造装置4を用いてカプセルを生成する工程のフローを表す図を示す。本実施形態では、コア形成工程(S401)、第1のシェル形成工程(S402)、第1のシェル硬化工程(S403)によってカプセルが生成される。
【0123】
コア形成工程(S401)は上述の第1実施形態(S101)と同様であるため説明を省略する。
第1のシェル形成工程(S402)も第1実施形態(S102)とほぼ同様である。ただし、本実施形態では、シェル形成材料である第2の液体(第1シェル材)として、UV(紫外線)等の光の照射を受けることによって硬化する液体(以下、UV硬化材とも呼ぶ)が用いられる。
【0124】
UV硬化材には、重合性化合物、及び光重合開始剤等が含まれる。重合性化合物は、光の照射を受けることにより重合反応が可能な化合物である。重合性化合物の具体例としては、各種の(メタ)アクリレートモノマー、各種の(メタ)アクリレートオリゴマー、各種のビニルモノマー、各種のビニルエーテルモノマーなどがあげられる。光重合開始剤は、光の照射を受けて重合性化合物の重合を効率よく開始させる機能を有する触媒である。UV硬化材にUVが照射されると、光重合開始剤が活性化されて反応開始点ができる。そして、反応開始点がオリゴマー等の二重結合を活性化させて当該オリゴマー同士が結合し、最終的には、網目状に重合することによってUV硬化材が液体から固体へ変化する。
続いて、UV硬化材からなる第1のシェルが硬化される(S403)。
【0125】
第2の液体(第1のシェル)によって被覆された第1の液体の液滴(コア)は、Z軸方向に移動する間に、光照射部80からUVの照射を受ける。UVの照射を受けると、シェル(第2の液体)の表面において光重合反応が進行し、シェルが硬化されてカプセルが生成される。
このとき、UVの照射量を変更することで、シェルの硬さを調整することができる。例えば、シェルを硬く形成したい場合には、UV照射装置81の照射エネルギーを大きくしたりUV照射装置81の設置個数を増やしたりする。これにより、カプセルの照射されるUVの総量を大きくして、シェルの表面から内部まで十分に光重合反応を進行させ、シェルを硬くすることができる。
【0126】
図15では、シェルが1層のカプセルを生成する場合の例について説明したが、上述の実施形態で説明したように、液膜(液体保持部)を増やすことで2層以上のシェルを有する多重カプセルを生成することもできる。また、光照射部80の配置を変更することで、複数のシェルのうち任意のシェルを硬化させることができる。
【0127】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのカプセル製造装置を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0128】
<カプセル生成材料について>
上述の各実施形態では、第1の液体〜第5の液体についてそれぞれ具体例が例示されていたが、例示された以外のカプセル生成材料を用いてカプセルを生成することも可能である。
【0129】
<装置の配置について>
上述の各実施形態では、液体噴射部、複数の液膜保持部、液体接触部等が鉛直方向に沿って直線状に並ぶように配置されていたが、各機器の配置はこの限りではない。例えば、液体噴射部によってコア(第1の液体)が鉛直に対して斜めの方向に噴射されるような場合には、当該コアの移動方向(進路)に沿って各機器が配置されればよい。
【0130】
<EPDへの応用について>
上述の各実施形態で生成されるマイクロカプセル(多重カプセル)をEPDに応用することが可能である。EPD(Electrophoretic Display)とは、電気泳動ディスプレイの略で、電子インクによる表示方法の1つである。
【0131】
EPDでは、複数のマイクロカプセルが、フィルム上に敷き詰めるようにしてマトリクス状に配列される。各マイクロカプセルは液体で満たされており、液体中には黒と白の微粒子がそれぞれ多数浮遊している。そして、フィルム上に配列されたマイクロカプセルに電界をかけることにより、マイクロカプセル中で黒と白の微粒子を移動させる。例えば、白の微粒子が正に荷電され、黒の微粒子が負に荷電されている場合、マイクロカプセルの上側から負の電界をかけると、白の微粒子がカプセルの上側に移動して表面が白く見えるようになる。これにより、フィルム表面に白と黒の模様を表現することができる。
【0132】
上述の各実施形態において、白の微粒子と黒の微粒子とを分散させた第1の液体(コア材)の液滴を噴射してコアを形成する。その後、シェル材の液膜を貫通させて、コアを被覆するシェルを形成することにより、コアの内部に白と黒の微粒子が浮遊するEPD用の多重カプセルを容易に生成することができる。また、シェル部分に色を着けることで色味の異なるカプセルを生成する等、EPDに対する広い応用性を有する。
【0133】
EPD用の多重カプセルを生成するための材料液体について、以下に例示する。
微粒子を分散させる第1の液体(コア材)として、キシレン、トルエン、流動パラフィン、シリコンオイル、塩化有機物、各種炭化水素、及び、各種芳香族炭化水素等を用いることができる。また、白の微粒子として、酸化チタン、アルミナ粒子、酸化亜鉛等を用いることができ、黒の微粒子として、カーボンブラック等を用いることができる。
第2の液体(シェル材)としては、上述の各実施形態で説明された材料液体を用いることができる。第3の液体以降についても、上述各実施形態で説明された材料液体を用いることができる。
【符号の説明】
【0134】
1、2、3、4 カプセル製造装置、
10 液体噴射部、11 噴射ヘッド、12 第1液体タンク、
30 第2液体保持部、31 液膜保持枠、
40 第3液体保持部、41 液膜保持枠、
50 液体接触部、51 液体貯留槽、
60 第4液体保持部、61 液膜保持枠、
70 第5液体保持部、71 液膜保持枠、
80 光照射部、81 UV照射装置、
111 ノズル、112 液体供給路、114 ノズル連通路、116 弾性板、
PZT ピエゾ素子、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の液体の液滴を噴射する液体噴射部と、
第2の液体を膜状に保持する第2液体保持部と、
第3の液体を膜状に保持する第3液体保持部と、
を備え、
前記液体噴射部から噴射された前記液滴が、前記第2液体保持部に保持される前記第2の液体の液膜を貫通する際に、前記液滴が前記第2の液体によって被覆され、
前記第2の液体によって被覆された前記液滴が、前記第3液体保持部に保持される前記第3の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって被覆された前記液滴が前記第3の液体によって被覆されること、を特徴とするカプセル製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のカプセル製造装置であって、
前記第2の液体によって被覆された前記液滴が、前記第3の液体によって被覆されることにより形成されるシェルに、第4の液体を接触させる液体接触部を備え、
前記シェルと前記第4の液体とを接触させて化学反応を生じさせる、ことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載のカプセル製造装置であって、
前記第3の液体は多糖類または蛋白質類を含む水溶液であり、
前記第4の液体は多価金属塩を含む水溶液であり、
前記第3の液体と前記第4の液体とを接触させて架橋反応を生じさせる、ことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項4】
請求項1に記載のカプセル製造装置であって、
前記第1の液体の液滴によってコアが形成され、
前記コアを被覆する前記第2の液体によって第1のシェルが形成され、
前記第1のシェルが前記第3の液体と接触して化学反応を生じることによって、前記第1のシェルが硬化されること、を特徴とするカプセル製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のカプセル製造装置であって、
第4の液体を膜状に保持する第4液体保持部と、
第5の液体を膜状に保持する第5液体保持部と、
を備え、
前記第3の液体によって前記第1のシェルが硬化された前記コアが、前記第4液体保持部に保持される前記第4の液体の液膜を貫通する際に、前記第4の液体によって被覆されることにより第2のシェルが形成され、
前記第2のシェルが形成された前記コアが、前記第5液体保持部に保持される前記第5の液体の液膜を貫通する際に、前記第5の液体と接触して化学反応を生じることによって、前記第2のシェルが硬化されること、を特徴とするカプセル製造装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のカプセル製造装置であって、
前記第2の液体は多糖類または蛋白質類を含む水溶液であり、
前記第3の液体は多価金属塩を含む水溶液であり、
前記第2の液体と前記第3の液体とを接触させて架橋反応を生じさせる、ことを特徴とするカプセル製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のカプセル製造装置で製造された医療用カプセル。
【請求項8】
第1の液体の液滴を噴射することと、
噴射された前記液滴が膜状に保持された第2の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって前記液滴を被覆させることと、
前記第2の液体によって被覆された前記液滴が膜状に保持された第3の液体の液膜を貫通する際に、前記第2の液体によって被覆された前記液滴を前記第3の液体によって被覆させることと、
を有するカプセル製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−81929(P2013−81929A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−117887(P2012−117887)
【出願日】平成24年5月23日(2012.5.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】