説明

カプセル

【課題】配合禁忌の関係にある2以上の有効性成分を包含するカプセル剤を提供する。
【解決手段】ゼラチン製のカプセルに、可食性のデンプンフィルム(オブラート)のようなシート状の隔膜を挿入することにより、配合禁忌の関係にある2以上の有効成分を安定性を維持したまま包含するカプセル剤であり、一実施例として、ロキソプロフェンナトリウムを含有する粉体とアスコルビン酸又はその塩を含有する粉体をカプセルの別々の隔室に充填したカプセル剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,医薬品の投与形態として一般的なカプセル剤の基剤であるカプセルに関し、具体的には、カプセル内に設けた隔壁(仕切り)によって、2以上の内部空間を有するカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
カプセル剤は経口投与製剤の中では錠剤とともに、もっとも汎用されている剤形である。その製剤特性については、薬物動態学的あるいは製剤学的な面において、他の剤形に変え難い多数の特長を有しており、今後の医薬品市場においても欠くことのできない重要な剤形であると考えられる。
【0003】
一方、錠剤をはじめとする固形製剤の開発に目を向けると、製剤設計の過程では処方設計から製品化検討を経て申請に至るまでに多くのステップがあり、中でも複数の有効成分を含有する配合剤の製剤化では、成分の配合性を確認し、安定性が懸念される場合には安定性を確保するための処置が必要となる。そして、有効成分の安定性が確保されるまで製剤化検討と安定性評価を繰り返すことになるが、これには、多大な時間と労力を要する。また、固形製剤は、液剤と異なり不均一系であるため、元来製造スケールの影響を受け易いという特徴があり、製造条件検討において、複数の製造工程における製造適性を確保することは容易なことではない。これを確保するために再び製剤化検討とその評価を繰り返すこととなり、工程数や評価項目が多いほどその検討には多くの時間と労力を要する。このように,固形製剤の開発において製造適性と安定性確保に要する多大な時間と労力は、製品の上市を遅らせ、開発コストを押し上げる要因ともなっている。
【0004】
ところで、カプセル剤は錠剤のような強度の圧縮成形プロセスを経ないため、有効成分の粉体特性が製剤の品質に影響する度合いが小さく、圧縮成形し難い有効成分を固形製剤として提供する場合には有利であり、錠剤の製剤設計では必須の硬度、摩損度、キャッピング性などのいわゆる成形性に関連する因子を検討する必要がないといった特長も有する。よって、カプセル剤の開発は、製剤設計における検討項目が少なく、一般的には製造プロセスも短く、製剤化検討に要する時間や費用も少なくて済むというメリットがある。従って、開発スピードの向上が期待でき、特に、これまであまり固形製剤中に配合されたことがなく、故に情報の少ない新規有効成分の固形製剤としての開発において、大きなメリットがある。加えて、カプセル剤であれば、有効成分の苦味や刺激、臭い、外観変化を簡易にマスキングすることも可能である。
【0005】
ここで、2以上の配合禁忌の関係にある有効成分を安定に固形製剤中に配合する技術としては、配合禁忌の関係にある有効成分の接触を可及的に避けるべく別々の顆粒に配合し、それらを混合し、時にはコーティングを施して粒剤(顆粒剤、散剤など)としたり、カプセルに充填してカプセル剤としたり、多層錠や二重錠とすることが知られている。
【0006】
そして、配合禁忌の関係にある有効成分を別々の粉体に配合し、カプセル剤として提供する方法の1つとして、隔膜(仕切り)を有し、配合禁忌の関係にある有効成分同士の接触を完全に遮断しうる複合カプセルが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭60−187731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、隔膜(仕切り)を有するカプセルの実用化について種々検討したところ、その実用化には、隔膜(仕切り)の材質が重要であるとの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、カプセルの材質と隔膜(仕切り)の材質について鋭意検討したところ、汎用されているゼラチン製のカプセルに隔膜(仕切り)を設ける場合には、デンプンフィルム(オブラート)のようなシート状の可食性フィルムが適しているとの知見を得た。
【0010】
また、有効成分としてロキソプロンナトリウムとアスコルビン酸を配合する場合、両者は配合禁忌の関係にあり、隔膜で仕切られた2以上の隔室を有するカプセルに別々に配合すると、経時的に安定であるとの知見を得た。
【0011】
かかる知見に基づく本発明の態様は、次のとおりである。
(1)可食性フィルムシートの隔膜により仕切られた2以上の隔室を有するカプセル。
(2)ロキソプロフェンナトリウムを含有する粉体とアスコルビン酸又はその塩を含有する粉体を(1)に記載したカプセルの別々の隔室に充填したことを特徴とするカプセル剤。
【発明の効果】
【0012】
ゼラチン製のカプセルに可食性フィルムシートの隔膜を挿入し、カプセル内部に2以上の隔室を設けることにより、配合禁忌の関係にある2以上の有効成分を配合しながら、それら成分の安定性が高いレベルで維持された、カプセル剤を提供することが可能となった。
【0013】
特に、有効成分として、ロキソプロフェンナトリウムとアスコルビン酸を配合した場合には、その経時的安定性は格別のものであった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「カプセル」自体の材質は、医薬品や食品の分野で使用可能な基剤であれば特に限定されるものではないが、もっとも汎用されているゼラチン製のものがコスト等の点でも好ましい。
【0015】
カプセルのサイズについては、日本薬局方に適合する何れのサイズのものも使用可能ではあるが、実際に本発明の実施にあたるカプセル剤を製造する際には、まず、カプセルに粉体を充填し、その後で、隔膜を挿入し、次いで、別の粉体を充填するという工程を経る関係上、大きなサイズのカプセル(0号から2号くらいまで)の方が好ましく、小さなサイズのカプセル(3号以下)を使用する方が技術的には難しい。
【0016】
カプセル内部に複数の空間(隔室)を設けるための「隔膜」の材質は、医薬品や食品の分野で使用可能な高分子の可食性フィルムシートであり、デンプン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース、以下「HPMC」と略記する。)が挙げられるが、デンプン、HPMCが好ましい。
【0017】
隔膜としてHPMCを用いた場合には、その厚みは5〜50μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。5μm未満であるとカプセルに隔膜を挿入する際に破れることがあり、これではカプセル充填機を使った大量生産には適さず、また、50μmを超えると隔膜の柔軟性が失われ、カプセルに挿入し難く、隔膜によってカプセルが破損する虞もあるため好ましくない。
【0018】
隔膜の径は、カプセルの径と同じかそれよりも大きいものでないと、粉体充填後に粉体が隙間を通じて接触することになるので好ましくない。
【0019】
「隔室」の数は、配合禁忌の関係にある有効成分の数に応じて設けられるべきであり、大きめのカプセルを使って、手製のカプセル剤を作る場合であれば、2〜4くらいの隔室を設けることも可能であるが、カプセル充填機を使った大量生産の場面では2が妥当であり、せいぜい3である。
【0020】
本発明のカプセルには、配合禁忌の関係にある2以上の成分を配合したカプセル剤を提供する場合に意義があり、医薬品や食品の分野にはこうした関係にあるものが多数知られている。例えば、アンブロキソール塩酸塩とアスコルビン酸、アンブロキソール塩酸塩とチアミン硝酸塩が配合禁忌の関係にあることが知られているが、今般、我々は、ロキソプロフェンナトリウムとアスコルビン酸が配合禁忌の関係にあることを見出し、これに本発明に係るカプセルを適用したところ、ロキソプロフェンナトリウムとアスコルビン酸の経時的安定性は、申し分のないレベルで維持された。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0022】
なお、本発明における評価基準等については、次のとおりである。
【0023】
「安定化」とは、経時的に外観性状が変化せず、また含量が低下しないことを意味する。
【0024】
「経時変化」の評価は、ガラス瓶に密封した状態で50℃環境下に2日間保存して行う。
【0025】
また、輸送時の振動などによって衝撃が加わることを想定し、経時変化させる前にサンプルに過酷な振動を与えておく。振動を与える試験は、錠剤摩損度試験器(EF−2;エレクトロラボ社)で5分間回転させて行う。
【0026】
「外観」は、目視検査によって判定することとし、
変化なし:0
わずかに変化が認められる:1
変化が認められるが許容範囲内にある:2
明らかな変化が認められる:3
著しい変化が認められる:4
の5段階の基準で判定し、パネラー5人の平均で2.0以下と評価された場合には安定化されていると判断する。
【0027】
「含量」は、HPLC分析により定量評価することとし、5℃保存したものと経時変化させたものを比較して、5℃保存品に対して残存率が95%以上であるときに安定化されていると判断する。
【0028】
実施例1
1号サイズのゼラチン製カプセルにアスコルビン酸160mgを充填し、仕切り用の隔膜として12mm×12mmのデンプンフィルムを挿入した。次に、ロキソプロフェンナトリウム160mg充填し、カプセルでキャップをして、隔膜で仕切られた2つの隔室に2種類の有効成分を配合したカプセル剤を得た。
【0029】
実施例2
1号サイズのゼラチン製カプセルにアスコルビン酸160mgを充填し、仕切り用の隔膜として12mm×12mmのHPMCフィルムを挿入した。次に、ロキソプロフェンナトリウム160mg充填し、カプセルでキャップをして、隔膜で仕切られた隔室に2種類の有効成分を配合したカプセル剤を得た。
【0030】
比較例1
1号サイズのゼラチン製カプセルにアスコルビン酸160mgを充填し、次にロキソプロフェンナトリウム160mg充填した。カプセルでキャップをして、2種類の有効成分を接触させた状態で層状に充填したカプセル剤を得た。
【0031】
試験例1
実施例1及び比較例1で得られたカプセル剤10サンプルについて、錠剤摩損度試験器で5分間回転させることにより振動を負荷し、その後50℃の温度環境下に2日間保管した。このサンプルについて、外観変化の程度を目視検査によって評価した。評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上表1より、隔膜を挿入せず成分を接触させた状態で充填した比較例1では、外観目視評価の官能試験スコアが平均値で2.0を上回り、外観変化が許容できないレベルにあると判定した。一方、隔膜を挿入した実施例1及び2では、外観変化が抑制され、評価スコアも低くなり、外観安定性が高いレベルで維持されていることがわかった。
【0034】
実施例3
1号サイズのゼラチン製カプセルにアスコルビン酸160mgを充填し、仕切り用の隔膜として12mm×12mmのデンプンフィルムを挿入した。次にアンブロキソール塩酸塩80mg充填し、カプセルでキャップをして、隔膜で仕切られた2つの隔室に2種類の有効成分を配合したカプセル剤を得た。
【0035】
比較例2
1号サイズのゼラチン製カプセルにアスコルビン酸160mgを充填し、次にアンブロキソール塩酸塩80mgを充填した。カプセルでキャップをして、2種類の有効成分を接触させた状態で層状に充填したカプセル剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、一般的に製剤化検討がシンプルで、開発検討に要する時間や費用を節約できるカプセル剤という剤型で、配合禁忌の関係にある2種以上の成分を配合した医薬品や食品を提供することが可能となった。このことは、成分安定性が保持された製品を安価に効率的に提供するという形で、医薬品産業や食品産業の発展に寄与するものと期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性フィルムシートの隔膜により仕切られた2以上の隔室を有するカプセル。
【請求項2】
ロキソプロフェンナトリウムを含有する粉体とアスコルビン酸又はその塩を含有する粉体を請求項1に記載したカプセルの別々の隔室に充填したことを特徴とするカプセル剤。

【公開番号】特開2012−235966(P2012−235966A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108235(P2011−108235)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】